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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】パーフッ素化熱可塑性エラストマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20220614BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220614BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20220614BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220614BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20220614BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20220614BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20220614BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20220614BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20220614BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20220614BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C08F293/00
B33Y70/00
B33Y40/00
B33Y10/00
B33Y50/00
B29C64/106
B29C64/314
B29C64/386
B29C64/153
B29C64/165
C08F214/26
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019543320
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2018053338
(87)【国際公開番号】W WO2018149757
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】17156540.1
(32)【優先日】2017-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ドッシ, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】アヴァンタネオ, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】コライアンナ, パスクア
(72)【発明者】
【氏名】マンゾーニ, クラウディア
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-151826(JP,A)
【文献】特開2001-151971(JP,A)
【文献】国際公開第2015/193819(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/209994(WO,A1)
【文献】特表2018-520248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F251/00-283/00,
283/02-289/00,
291/00-297/08
B33Y10/00-99/00
B29C64/00-64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフッ素化熱可塑性エラストマー[ポリマー(pF-TPE)]であって、
- テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位とTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位との配列と、場合により、式R=CR-T-CR=R
(式中、R、R、R、R、R、及びRは、互いに等しく又は異なり、H、F、Cl、C~Cアルキル基及びC~C(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択され、Tは、1つ以上のエーテル性酸素原子又は(パー)フルオロポリオキシアルキレン基を任意選択的に含む、直鎖又は分岐C~C18アルキレン又はシクロアルキレン基である)の少なくとも1つのビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]から誘導された少量の繰り返し単位とからなる少なくとも1つのエラストマーブロック(A)であって、
前記ブロック(A)のTFEから誘導された繰り返し単位のモルパーセントは、前記ブロック(A)の繰り返し単位の総モルに対して、40~82%モルに含まれ、
前記ブロック(A)は、ASTM D3418に従って決定される、25℃未満のガラス転移温度を有する、少なくとも1つのエラストマーブロック(A)と、
- テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位とTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位との配列からなる少なくとも1つの熱可塑性ブロック(B)であって、
前記ブロック(B)のTFEから誘導された繰り返し単位のモルパーセントは、85~99.5%モルに含まれ、
前記ブロック(B)の結晶化度及び前記ポリマー(pF-TPE)におけるその重量分率は、ASTM D3418に従って決定される場合、少なくとも2.5J/gの前記ポリマー(pF-TPE)の融解熱を提供するものである、少なくとも1つの熱可塑性ブロック(B)と
を含み、
ブロック(A)及びブロック(B)において、TFE以外の前記パーフッ素化モノマーが同じであり
ポリマー(pF-TPE)は、95:5~65:35のブロック(A)とブロック(B)との間の重量比であることを特徴とする、パーフッ素化熱可塑性エラストマー[ポリマー(pF-TPE)]。
【請求項2】
TFE以外の前記パーフッ素化モノマーは、
(a) ~Cパーフルオロオレフィンと、
(b)式CF=CFORf1(式中、Rf1、C ~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)と、
(c)式CF=CFOX(式中、Xは、1つ以上のエーテル性酸素原子を含むC~C12パーフルオロオキシアルキル基であり、式CF=CFOCFORf2のパーフルオロメトキシアルキルビニルエーテルを含み、Rf2、C ~Cパーフルオロ(オキシ)アルキル基である)のパーフルオロオキシアルキルビニルエーテルと、
(d)式:
(式中、Rf3、Rf4、Rf5、及びRf6はそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、フッ素原子、1つ以上の酸素原子を任意選択的に含むC~Cパーフルオロ(オキシ)アルキル基である)の(パー)フルオロジオキソールと
からなる群から選択される、請求項1に記載のパーフッ素化熱可塑性エラストマー。
【請求項3】
前記ビス-オレフィン(OF)は、式(OF-1)、(OF-2)及び(OF-3):
(式中、jは、2~10に含まれる整数であり、R1、R2、R3及びR4は、互いに等しく又は異なり、H、F、C~Cアルキル基及びC~C(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択される)、
(式中、Aはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、出現するごとに、H、F及びClからなる群から独立して選択され、Bはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、出現するごとに、H、F、Cl及びOR(式中、Rは、部分的に、実質的に、又は完全にフッ素化又は塩素化され得る分枝又は直鎖アルキル基である)からなる群から独立して選択され、Eは、エーテル結合が挿入され得る、任意選択的にフッ素化された、
2~10の炭素原子を有する二価基である)、

(式中、E、A及びBは、上記で定義されたのと同じ意味を有し、R5、R6及びR7は、互いに等しく又は異なり、H、F、C~Cアルキル基及びC~C(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択される)のいずれかのものからなる群から選択される、請求項1又は2に記載のパーフッ素化熱可塑性エラストマー。
【請求項4】
前記エラストマーブロック(A)は、ブロック(A)の繰り返し単位の総モルに対して、
- 40~82モル%の量のテトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位と、
18~55モル%の量のTFE以外の前記少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位と、
- 場合により、0~5モル%の量の前記ビス-オレフィン(OF)から誘導された繰り返し単位と
の配列からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のパーフッ素化熱可塑性エラストマー。
【請求項5】
前記エラストマーブロック(A)は、ブロック(A)の繰り返し単位の総モルに対して、
- 40~82モル%の量のテトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位と、
- 18~55モ%の量の、式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)から誘導された繰り返し単位と、
- 場合により、0~5モル%の量の前記ビス-オレフィン(OF)から誘導された繰り返し単位と
の配列からなる、請求項4に記載のパーフッ素化熱可塑性エラストマー。
【請求項6】
前記熱可塑性ブロック(B)は、ブロック(B)の繰り返し単位の総モルに対して、
- 85~99.5モル%の量のテトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位と、
0.5~15モル%の量のTFE以外の前記少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位と
の配列からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載のパーフッ素化熱可塑性エラストマー。
【請求項7】
前記熱可塑性ブロック(B)は、ブロック(B)の繰り返し単位の総モルに対して、
- 85~98モル%の量のテトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位と、
- 2~15モ%の量の、式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)から誘導された繰り返し単位と
の配列からなる、請求項6に記載のパーフッ素化熱可塑性エラストマー。
【請求項8】
前記ポリマー(pF-TPE)は、90:10~70:30のブロック(A)とブロック(B)との間の重量比であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のパーフッ素化熱可塑性エラストマー。
【請求項9】
ーフッ素化熱可塑性エラストマーを製造する方法であって、前記方法が、以下の順次的な工程:
(a)ラジカル開始剤及びヨウ素化連鎖移動剤の存在下で、TFEと、TFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーと、場合により少なくとも1つのビス-オレフィン(OF)とを重合させ、これにより、1つ以上のヨウ素化末端基を含む少なくとも1つのブロック(A)からなるプレポリマーを提供する工程と、
(b)ラジカル開始剤、及び工程(a)で提供された前記プレポリマーの存在下で、TFEと、TFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーとを重合させ、これにより、前記ブロック(A)の前記ヨウ素化末端基の反応によって、前記プレポリマーにグラフトされた少なくとも1つのブロック(B)を提供する工程と
を含み、
前記パーフッ素化熱可塑性エラストマー[ポリマー(pF-TPE)]が、
- テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位とTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位との配列と、場合により、式R =CR -T-CR =R
(式中、R 、R 、R 、R 、R 、及びR は、互いに等しく又は異なり、H、F、Cl、C ~C アルキル基及びC ~C (パー)フルオロアルキル基からなる群から選択され、Tは、1つ以上のエーテル性酸素原子又は(パー)フルオロポリオキシアルキレン基を任意選択的に含む、直鎖又は分岐C ~C 18 アルキレン又はシクロアルキレン基である)の少なくとも1つのビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]から誘導された少量の繰り返し単位とからなる少なくとも1つのエラストマーブロック(A)であって、
前記ブロック(A)のTFEから誘導された繰り返し単位のモルパーセントは、前記ブロック(A)の繰り返し単位の総モルに対して、40~82%モルに含まれ、
前記ブロック(A)は、ASTM D3418に従って決定される、25℃未満のガラス転移温度を有する、少なくとも1つのエラストマーブロック(A)と、
- テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位とTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位との配列からなる少なくとも1つの熱可塑性ブロック(B)であって、
前記ブロック(B)のTFEから誘導された繰り返し単位のモルパーセントは、85~99.5%モルに含まれ、
前記ブロック(B)の結晶化度及び前記ポリマー(pF-TPE)におけるその重量分率は、ASTM D3418に従って決定される場合、少なくとも2.5J/gの前記ポリマー(pF-TPE)の融解熱を提供するものである、少なくとも1つの熱可塑性ブロック(B)と
を含み、
ブロック(A)及びブロック(B)において、TFE以外の前記パーフッ素化モノマーが同じであり、
ポリマー(pF-TPE)は、95:5~65:35のブロック(A)とブロック(B)との間の重量比であることを特徴とする、方法。
【請求項10】
付加製造システムを使用して三次元物体[物体(3D)]を製造する方法であって、
- 前記三次元物体のデジタル表現を生成し、これを複数の水平層にスライスして、前記水平層のそれぞれに対する印刷指示を与える工程と、
- 請求項1~8のいずれか一項に記載のパーフッ素化熱可塑性エラストマーを含む部品材料から前記物体(3D)の層を印刷する工程と
を含む、方法。
【請求項11】
前記層を印刷する技術は、押出系技術、噴射、選択的レーザー焼結、粉末/バインダー噴射、電子ビーム溶融及び光造形法からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
支持材料から支持構造の層を印刷する工程と、前記支持構造の前記層を前記印刷する工程と協調して前記部品材料から前記三次元物体の層を印刷する工程とを更に含み、前記支持構造の前記印刷された層の少なくとも一部は、前記三次元物体の前記印刷された層を支持し、次いで前記物体(3D)を得るために前記支持構造の少なくとも一部を除去する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、
(i)流動状態のポリマー(pF-TPE)を含む前記部品材料の供給を、機械的に移動可能な分配ヘッドにおける排出ノズルの流路に導入する工程であって、前記ノズルはその一端に前記流路と流体連通している分配出口を有する工程と、
(ii)前記ノズルに近接して配置されたベース部材に対して凝固する温度より高い所定の温度で、連続した流動可能な流体流として、前記分配出口から前記部材料を分配する工程と、
(iii)前記ベース部材に対する前記部品材料の分配と同時に、前記ベース部材に前記材料の第1の層を形成するために所定のパターンで、互いに対して、前記ベース部材と前記分配ヘッドとの相対運動を機械的に発生させる工程と、
(iv)前記分配ヘッドを前記第1の層から所定の層の厚さの距離で動かす工程と、
(v)前記ノズルに隣接する前記第1の層の部分が冷却して固化した後、互いに対して、前記ベース部材及び前記分配ヘッドを同時に移動させながら、前記分配出口から前記第1の層に対して流動状態の前記部品材料の第2の層を分配する工程であって、これにより、前記第2の層は冷却時に固化し、前記第1の層に接着して三次元物品を形成する工程と、
(vi)工程(i)から(v)の反復された順序によって、事前に生成された層の上部に複数パスで積み重ねられた前記部品材料の複層を形成する工程と
を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月16日に出願の欧州特許出願第17156540.1号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
特にフィラメント製造技術を含み、多くの場合に3D印刷技術とも称される付加製造技術は、特にプロトタイピングの分野において過去数年の間に急速に発展し、柔軟性、他の方法では物理的に簡易に作製できないデザインの利用しやすさ、特注品の大量生産、ツール不要の手法、及び持続可能プロファイルに関するこれらの周知の利点のために大成功を収めてきた。
【0003】
一般的には、付加製造システムは、1つ以上の付加製造技術を使用して3D部品のデジタル表現から3D部品を印刷又は構築するために使用される。商業的に利用可能な付加製造技術の例には、押出ベース技術、噴射、選択的レーザー焼結、粉末/結合剤噴射、電子ビーム溶融、及び光造形法プロセス(stereolithography process)が含まれる。これらの技術のそれぞれにおいて、3D部品のデジタル表示は最初に複数の水平層に切り分けられる。それぞれのスライス層について、次いでツールパスが生成され、これは、所与の層を印刷するように特定の付加製造システムに命令を与える。
【0004】
例えば、押出ベース付加製造システムでは、3D部品は、流動性部品材料を押し出すことによって層ごとに3D部品のデジタル表現から印刷され得る。部品材料は、システムの印刷ヘッドにより運ばれる押出チップを通して押し出され、x-y面の印字版上に一連の道として堆積される。押し出された部品材料は、前に堆積された部品材料に融合し、温度の降下後に固化する。そのとき、基材に対する印刷ヘッドの位置は、z軸(x-y面に垂直の)に沿って増加しており、次いで、このプロセスは、デジタル表示に類似する3D部品を形成するように繰り返される。
【0005】
熱可塑性物質又は熱硬化性物質などの様々な材料が提案されており、特に溶融フィラメント付加製造装置で使用するためのフィラメントの形態でなどの、3D印刷装置で使用するためにすでに様々な形態で現在供給されている。
【0006】
この分野では、3D印刷プロセスに使用されるための要件に対処することができるそれらの性能のプロファイルのために、フッ素系材料(fluoromaterial)がますます注目を集めている。
【0007】
実際、フッ素化及び完全フッ素化プラストマー材料は、3D印刷に通常使用される非フッ素化プラスチックと比較した場合、高い耐熱性及び耐薬品性を示す。
【0008】
現在、パーフルオロポリマーは、200℃~450℃の間で変動する高温で印刷されなければならない。これらの条件下で、HF及び他の酸及び副生成物は、可能性のある以下の欠点のいずれかを伴うフッ素化ポリマーの熱分解によって発生する場合がある:
- 有害化学物質の大気中への放出
- 3Dプリンターの金属部品の腐食
- ポリマーの変色
- 他のポリマー及び材料(シリカなど)に対する薬品による侵食。
【0009】
従って、フッ素化ポリマー、特に、フッ素化プラスチックの耐薬品性及び耐熱性を示すが、結果としてより低い温度で溶融加工され3Dプリンターに使用され得る改善された加工性能を有する完全フッ素化ポリマーが必要とされる。
【0010】
他方では、セグメント化されたフッ素化ブロックコポリマーが当技術分野において一般的に知られている。例えば、特に、米国特許第5605971号明細書(AUSIMONT SPA)1997年2月25日公開、米国特許第5612419号明細書(AUSIMONT SPA)1997年3月18日公開、米国特許第6207758号明細書(AUSIMONT SPA)2001年3月27日公開は、プラストマーセグメント及びエラストマーセグメントを含むフッ素化熱可塑性エラストマーを開示しており、一方、エラストマーセグメントは、例えば、フッ化ビニリデン(VDF)繰り返し単位を含むセグメント、及び/又はテトラフルオロエチレン(TFE)繰り返し単位を含むセグメントを含む異なる種類のものであり得、一方、プラストマーセグメントは、他の単位と組み合わせて、TFE単位を含むセグメント、VDF単位を含むセグメント、エチレン、プロピレン又はイソブチレン単位を含むセグメントなどの異なる種類で等しくあり得る。
【0011】
更に、欧州特許出願公開第1209875A号明細書(DAIKIN INDUSTRIES)2002年5月29日公開は、エラストマー性フッ素含有ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性フッ素含有ポリマー鎖セグメントを有するフッ素含有マルチセグメントポリマーに関し、この場合に、エラストマー性フッ素含有ポリマー鎖セグメントは、ポリマー全体に柔軟性を与え、95モル%以上の量の繰り返し単位としてパーハロオレフィン単位を有する。以下のブロックの組み合わせについて具体的に記載する。
【0012】
【0013】
同様に、欧州特許出願公開第1209176A号明細書(DAIKIN INDUSTRIES)2002年5月29日公開は、(a)エラストマー性フッ素含有ポリマー鎖セグメントA及び非エラストマー性フッ素含有ポリマー鎖セグメントBを有するフッ素含有マルチセグメントポリマーを含む可撓性フッ素含有材料に関し、この場合に、エラストマー性フッ素含有ポリマー鎖セグメントAは、90モル%以上のパーハロオレフィン単位、及び(b)150℃以上の結晶融点又はガラス転移温度を有するフッ素含有樹脂を含み、この場合に、重量比(a)/(b)は1/99~99/1である。以下のブロックの組み合わせが具体的に開示される。
【0014】
【発明の概要】
【0015】
本出願人は、ここで驚くべきことに、特定のパーフッ素化熱可塑性エラストマーは、以下に詳述するように、対応するパーフッ素化熱可塑性物質よりも、良好な加工(特に、加工温度でより顕著な剪断減粘)を有するという驚くべき能力のために、付加製造技術による加工における上記の困難な要求に対処し取り扱うものであり、この特定のパーフッ素化熱可塑性エラストマーは、同様の製品プロファイルそれゆえ性能を有し、従って処理能力及び部品設計の正確な制御、劣化の抑制、煙(fume)の低減において利点をもたらし、更に、優れた耐薬品性を備えた部品を提供することを見出した。
【0016】
従って、本発明は、
- テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位とTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位との配列と、場合により、式R=CR-T-CR=R
(式中、R、R、R、R、R、及びRは、互いに等しく又は異なり、H、F、Cl、C~Cアルキル基及びC~C(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択され、
Tは、1つ以上のエーテル性酸素原子、好ましくは少なくとも部分フッ素化又は(パー)フルオロポリオキシアルキレン基を任意選択的に含む、直鎖又は分岐C~C18アルキレン又はシクロアルキレン基である)の少なくとも1つのビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]から誘導された少量の繰り返し単位とからなる少なくとも1つのエラストマーブロック(A)であって、
前述のブロック(A)のTFEから誘導された繰り返し単位のモルパーセントは、前述のブロック(A)の繰り返し単位の総モルに対して、40~82%モルに含まれ、
前述のブロック(A)は、ASTM D3418に従って決定される、25℃未満のガラス転移温度を有する、少なくとも1つのエラストマーブロック(A)と、
- テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位とTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位との配列からなる少なくとも1つの熱可塑性ブロック(B)であって、
前述のブロック(B)のTFEから誘導された繰り返し単位のモルパーセントは、85~98%モルに含まれ、
前述のブロック(B)の結晶化度及びポリマー(pF-TPE)におけるその重量分率は、ASTM D3418に従って決定される場合、少なくとも2.5J/gのポリマー(pF-TPE)の融解熱を提供するものであり、
ブロック(A)とブロック(B)において、TFE以外の前述のパーフッ素化モノマーが同じである、少なくとも1つの熱可塑性ブロック(B)と
を含む、パーフッ素化熱可塑性エラストマー[ポリマー(pF-TPE)]に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の目的のために、「エラストマー」という用語は、「ブロック(A)」と関連して使用される場合、単独で見た場合、実質的に非晶質である、即ち、ASTM D3418に従って測定される、2.0J/g未満、好ましくは1.5J/g未満、より好ましくは1.0J/g未満の融解熱を有する、ポリマー鎖セグメントを意味することが本明細書で意図される。
【0018】
本発明の目的のために、「熱可塑性」という用語は、「ブロック(B)」と関連して使用される場合、単独で見た場合、半結晶性であり、ASTM D3418に従って測定される、10.0J/gを超える関連した融解熱を伴う、検出可能な融点を有する、ポリマー鎖セグメントを意味することが本明細書で意図される。
【0019】
本発明のパーフッ素化熱可塑性エラストマー[ポリマー(pF-TPE)]は、ブロックコポリマーと称されることができ、前述のブロックコポリマーは、典型的には、少なくとも1つのブロック(A)と少なくとも1つのブロック(B)を交互に含む構造を有する、即ち、前述のポリマー(pF-TPE)は、典型的には、タイプ(B)-(A)-(B)の1つ以上の繰り返し構造を含む、好ましくはこれからなる。一般的には、ポリマー(pF-TPE)は、タイプ(B)-(A)-(B)の構造を有し、即ち、両端がサイドブロック(B)に結合された2つの末端を有する中央ブロック(A)を含む。
【0020】
前述のように、ブロック(A)及びブロック(B)は両方とも、TFEから誘導された繰り返し単位とTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位との配列からなり、この場合に、TFE以外の前述のパーフッ素化モノマーは、ブロック(A)及びブロック(B)において同じである。ブロック(A)及びブロック(B)のそれぞれには、TFE以外の1つ以上のパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位が存在することができる。TFE以外の前述のパーフッ素化モノマーは、ブロック(A)及びブロック(B)の繰り返し単位において同じであり、これは、ブロックの結晶性を制御するために特に有利である。
【0021】
ブロック(A)及びブロック(B)で使用されるTFE以外のモノマーを特徴付けるために本明細書で使用される「パーフッ素化」という表現は、その通常の意味に従って本明細書で使用され、前述のモノマーにおいて水素原子を含まず、原子価を飽和させるためにフッ素原子を含むことを意味する。
【0022】
TFE以外の前述のパーフッ素化モノマーは、
(a)好ましくはヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びパーフルオロイソブチレン(PFIB)からなる群から選択される、C~Cパーフルオロオレフィンと、
(b)式CF=CFORf1(式中、Rf1は、CF(PMVE)、C又はCなどの、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)と、
(c)式CF=CFOX(式中、Xは、1つ以上のエーテル性酸素原子を含むC~C12パーフルオロオキシアルキル基であり、特に式CF=CFOCFORf2のパーフルオロメトキシアルキルビニルエーテルを含み、Rf2
は、CFCF、-CFCF-O-CF及び-CFなどの、C~Cパーフルオロ(オキシ)アルキル基である)のパーフルオロオキシアルキルビニルエーテルと、
(d)式:
(式中、Rf3、Rf4、Rf5、及びRf6はそれぞれ、互いに等しく又は異なり、独立して、フッ素原子、-CF、-C、-C、-OCF又は-OCFCFOCFなどの、1つ以上の酸素原子を任意選択的に含むC~Cパーフルオロ(オキシ)アルキル基である)
の(パー)フルオロジオキソールと
からなる群から有利に選択される。
【0023】
ブロック(A)が、上記で詳述したように、TFEから誘導された繰り返し単位と1つ以上のPAVEから誘導された繰り返し単位の配列と、場合により少なくとも1つのビス-オレフィン(OF)から誘導された少量の繰り返し単位とからなり、
且つ/又は、ブロック(B)が、TFEから誘導された繰り返し単位と1つ以上のPAVEから誘導された繰り返し単位の配列からなる実施形態について良好な結果が得られた。
【0024】
ブロック(A)におけるビス-オレフィンから誘導された繰り返し単位の量を示すために以下で使用される場合、「少量」という表現は、これら後者の単位による典型的な熱安定性及び耐薬品性の性能に著しい影響を及ぼさないように、他のモノマー、即ちTFE及びTFE以外のパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位の量よりも一桁少ない(例えば、少なくとも50倍少ない)量を示すことを意図する。
【0025】
エラストマーブロック(A)が少なくとも1つのビス-オレフィン(OF)から誘導された繰り返し単位を更に含むならば、典型的には、前述のブロック(A)は、前述のエラストマーブロック(A)を構成する繰り返し単位の総モル数に基づいて、0.01%~1.0%モル、好ましくは0.03%~0.5モル%、より好ましくは0.05%~0.2モル%に含まれる量で少なくとも1つのビス-オレフィン(OF)から誘導された繰り返し単位を更に含む。
【0026】
ビス-オレフィン(OF)は、好ましくは、式(OF-1)、(OF-2)及び(OF-3):
(式中、jは、2~10、好ましくは4~8に含まれる整数であり、R1、R2、R3及びR4は、互いに等しく又は異なり、H、F、C~Cアルキル基及びC~C(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択される)、
(式中、Aはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、出現するごとに、H、F及びClからなる群から独立して選択され、Bはそれぞれ、互いに等しく又は異なり、出現するごとに、H、F、Cl及びOR(式中、Rは、部分的に、実質的に、又は完全にフッ素化又は塩素化され得る分枝又は直鎖アルキル基である)からなる群から独立して選択され、Eは、エーテル結合が挿入され得る、任意選択的にフッ素化された、2~10の炭素原子を有する二価基であり、好ましくは、Eは、-(CF-基(式中、mは、3~5に含まれる整数である)であり、(OF-2)タイプの好ましいビス-オレフィンは、FC=CF-O-(CF-O-CF=CFである)、
(式中、E、A及びBは、上記で定義されたのと同じ意味を有し、R5、R6及びR7は、互いに等しく又は異なり、H、F、C~Cアルキル基及びC~C(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択される)
のいずれかのものからなる群から選択される。
【0027】
エラストマーブロック(A)は、好ましくは、ブロック(A)の繰り返し単位の総モルに対して、
- 40~82モル%、好ましくは50~75モル%、最も好ましくは54~70モル%の量のテトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位と、
- 上記で詳述したように、18~55モル%、好ましくは25~48モル%、最も好ましくは30~45モル%の量のTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位と、
- 場合により、上記で詳述したように、0~5モル%、好ましくは0~2モル%、より好ましくは0~1モル%の量のビス-オレフィン(OF)から誘導された繰り返し単位と
の配列からなる。
【0028】
エラストマーブロック(A)は、より好ましくは、ブロック(A)の繰り返し単位の総モルに対して、
- 40~82モル%、好ましくは50~75モル%、最も好ましくは54~70モル%の量のテトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位と、
- 18~55%モル、好ましくは25~48%モル、最も好ましくは30~45モル%の量の、式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cパーフルオロアルキル基、好ましくはCF(PMVE)である)のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)から誘導された繰り返し単位と、
- 場合により、上記に詳述したように、0~5モル%、好ましくは0~2モル%、より好ましくは0~1モル%の量のビス-オレフィン(OF)から誘導された繰り返し単位と
の配列からなる。
【0029】
エラストマーブロック(A)は、ASTM D3418に従って決定される、25℃未満、好ましくは20℃未満、より好ましくは15℃未満のガラス転移温度を有する。
【0030】
熱可塑性ブロック(B)は、好ましくは、ブロック(B)の繰り返し単位の総モルに対して、
- 85~99.5モル%、好ましくは88~97モル%、最も好ましくは90~96モル%の量のテトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位と、
- 上記で詳述したように、0.5~15モル%、好ましくは3~12モル%、最も好ましくは4~10モル%の量のTFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位と
の配列からなる。
【0031】
熱可塑性ブロック(B)は、最も好ましくは、ブロック(B)の繰り返し単位の総モルに対して、
- 85~98モル%、好ましくは88~97モル%、最も好ましくは90~96モル%の量のテトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された繰り返し単位と、
- 2~15%モル、好ましくは3~12%モル、最も好ましくは4~10モル%の量の、式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cパーフルオロアルキル基、好ましくはCF(PMVE)である)のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)から誘導された繰り返し単位と
の配列からなる。
【0032】
ブロック(A)及びブロック(B)がTFE以外の同一のパーフッ素化モノマー、より具体的にはパーフルオロメチルビニルエーテルを含むのに対し、著しい剪断減粘を含むこれらの特異的なレオロジー挙動を提供するように、他の疑似のモノマーからの「汚染」の危険性なしに、ポリマー(pF-TPE)の選択は、ブロックコポリマーの結晶化度及び分子構造を最適化することを可能にすることにおいて特に有利である。
【0033】
本発明のポリマー(pF-TPE)におけるブロック(A)とブロック(B)の間の重量比は、典型的には95:5~10:90に含まれる。
【0034】
特定の好ましい実施形態によれば、ポリマー(pF-TPE)は、多量のブロック(A)を含み、これらの実施形態によれば、ポリマー(pF-TPE)は、95:5~65:35、好ましくは90:10、又は更には80:20~70:30のブロック(A)とブロック(B)との間の重量比であることを特徴とする。
【0035】
前述のブロック(B)の結晶化度及びポリマー(pF-TPE)におけるその重量分率は、ASTM D3418に従って測定される場合、少なくとも2.5J/g、好ましくは少なくとも3.0J/g、より好ましくは少なくとも3.5J/gのポリマー(pF-TPE)の融解熱を提供するものである。
【0036】
少なくとも2.5J/gのポリマー(pF-TPE)におけるブロック(B)に起因する結晶性分率が存在することは、更なる可能な硬化工程がなくとも、意図された使用分野を考慮して許容可能な機械的性能を提供するために、ポリマー(pF-TPE)から作製された成形品に十分な物理的架橋をもたらすために必須であることが見出された。
【0037】
本発明の別の目的は、上記に詳述したように、パーフッ素化熱可塑性エラストマーを製造する方法である。
【0038】
一般的には、本発明の方法は、以下の順次的な工程:
(a)ラジカル開始剤、及びヨウ素化連鎖移動剤の存在下で、TFE、TFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマー、場合により少なくとも1つのビス-オレフィン(OF)を重合させ、これにより、1つ以上のヨウ素化末端基を含む少なくとも1つのブロック(A)からなるプレポリマーを提供する工程、及び
(b)ラジカル開始剤、及び工程(a)で提供されたプレポリマーの存在下で、TFEと、TFE以外の少なくとも1つのパーフッ素化モノマーとを重合させ、これにより、ブロック(A)の前述のヨウ素化末端基の反応によって、前述のプレポリマーにグラフトされた少なくとも1つのブロック(B)を提供する工程
を含む。
【0039】
また、本発明のパーフッ素化熱可塑性エラストマーのブロック(A)に関して開示された全ての特性は、工程(a)のブロック(A)の特性を特徴付けるものである。
【0040】
同様にまた、本発明のパーフッ素化熱可塑性エラストマーのブロック(B)に関して開示された全ての特性は、工程(b)のブロック(B)の特性を特徴付けるものである。
【0041】
本発明の方法は、適切なラジカル開始剤の存在下で、当技術分野で周知の方法による水性乳化重合で実施されるのが好ましい。
【0042】
ラジカル開始剤は、典型的には、
- 無機過酸化物、例えば、任意選択的に、鉄、銅、又は銀塩、又は他の容易に酸化可能な金属と組み合わせて、アルカリ金属又はアンモニウム過硫酸塩、過リン酸塩、過ホウ酸塩又は過炭酸塩など、
- 有機過酸化物、例えば、ジスクシニルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、及びジ-tert-ブチルペルオキシドなど、並びに、
- アゾ化合物(例えば、米国特許第2515628号明細書(E.I.DUPONT DE NEMOURS AND CO.)1950年7月18日公開及び米国特許第2520338号明細書(E.I.DU PONT DE NEMOURS CO)1950年8月29日公開を参照)からなる群から選択される。
【0043】
有機又は無機レドックス系、例えば、過硫酸アンモニウム/亜硫酸ナトリウム、過酸化水素/アミノイミノメタンスルフィン酸を使用することも可能である。
【0044】
本発明の方法の工程(a)では、1つ以上のヨウ化連鎖移動剤が、典型的には、式R(式中、Rは、C~C16、好ましくはC~Cの(パー)フルオロアルキル基又は(パー)フルオロクロロアルキル基であり、nは、1又は2である)の反応媒体に添加される。米国特許第5173553号明細書(AUSIMONT S.P.A.)1992年12月22日公開に記載された通り、アルカリ又はアルカリ土類金属ヨウ化物を連鎖移動剤として使用することも可能である。添加される連鎖移動剤の量は、得られることが意図される分子量及び連鎖移動剤それ自体の有効性に依存して確立される。
【0045】
本発明の方法の工程(a)と工程(b)のいずれかで、1つ以上の界面活性剤を使用することができ、好ましくは、式:
-X
(式中、Rは、C~C16(パー)フルオロアルキル又は(パー)フルオロポリオキシアルキル基であり、Xは、-COO又はSO であり、Mは、H、NH 、及びアルカリ金属イオンからなる群から選択される)のフッ素化界面活性剤を使用することができる。
【0046】
最も普通に使用される界面活性剤の中で、1つ以上のカルボキシル基で末端化された(パー)フルオロポリオキシアルキレンを挙げることができる。
【0047】
工程(a)が終了される場合、反応は、例えば、冷却することによって中止され、残留モノマーは、例えば、撹拌下でエマルジョンを加熱することによって除去される。
【0048】
次いで、第2の重合工程(b)が、新たなモノマー混合物を供給し、新鮮なラジカル開始剤を添加して行われる。
【0049】
必要に応じて、ポリマー(pF-TPE)の製造プロセスの工程(b)で、1つ以上の更なる連鎖移動剤が添加されることができ、これは、上記で定義された通りの同じヨウ素化連鎖移動剤、又はフルオロポリマーの製造での使用のための当技術分野で公知の連鎖移動剤、例えば、3~10の炭素原子を有するケトン、エステル又は脂肪族アルコール、例えば、アセトン、酢酸エチル、マロン酸ジエチル、ジエチルエーテル及びイソプロピルアルコール、炭化水素、例えば、メタン、エタン及びブタン、水素原子を任意選択的に有するクロロ(フルオロ)カーボン、例えば、クロロホルム及びトリクロロフルオロメタン、アルキル基が1~5の炭素原子を有するビス(アルキル)カーボネート、例えば、ビス(エチル)カーボネート及びビス(イソブチル)カーボネートなどから選択され得る。
【0050】
工程(b)が完了すると、ポリマー(pF-TPE)は、一般的に、電解質の添加による又は冷却による凝固などの従来の方法に従ってエマルジョンから単離される。
【0051】
代わりに、重合反応は、公知の技術によって、適切なラジカル開始剤が存在する有機液体中、塊又は懸濁液で行うことができる。重合温度及び圧力は、使用されるモノマーのタイプに依存して、及び他の反応条件に基づいて、広い範囲内で変動し得る。
【0052】
ポリマー(pF-TPE)の製造プロセスの工程(a)及び/又は工程(b)は、典型的には-20℃~150℃の温度で、及び/又は典型的には10MPaまでの圧力下で行われる。
【0053】
好ましくは、本発明の方法は、米国特許第4864006号明細書(AUSIMONT S.P.A.)1989年9月5日公開に記載される通り、パーフルオロポリオキシアルキレンのマイクロエマルジョンの存在下、又は、欧州特許出願公開第0625526A号明細書(AUSIMONT S.P.A.)1994年11月23日公開に記載される通り、水素化末端基及び/又は水素化繰り返し単位を有するフルオロポリオキシアルキレンのマイクロエマルジョンの存在下、水性乳化重合において行われる。
【0054】
更に、本発明の別の目的は、付加製造システムを使用して三次元物体[物体(3D)]を製造する方法であり、この方法は、
- 三次元物体のデジタル表現を生成し、これを複数の水平層にスライスして、前述の水平層のそれぞれに対する印刷指示を与える工程と、
- 本発明のポリマー(pF-TPE)を含む部品材料から物体(3D)の層を印刷する工程と
を含む。
【0055】
前述の層を印刷するための技術は特に限定されず、特に押出系技術、噴射、選択的レーザー焼結、粉末/バインダー噴射、電子ビーム溶融及び光造形法から選択されることができる。
【0056】
使用される印刷技術に応じて、部品材料は、付加製造システムにおいて印刷層に使用される異なる形態で提供されることができる。例えば、部品材料は、遊離粒子の形態で提供されることができ、これは、流動状態の熱的に固化可能な材料又はその溶融可能な前駆体の形態で提供されることができ、或いは熱硬化性液体溶液の形態で提供されることができる。
【0057】
この方法は、支持材料から支持構造の層を印刷すること、及び支持構造の層の印刷と協調して前述の部品材料から三次元物体の層を印刷することを含み得、この場合に、支持構造の印刷された層の少なくとも一部は、三次元物体の印刷された層を支持し、次いで物体(3D)を得るために支持構造の少なくとも一部を除去する。
【0058】
部品材料は、他の材料/成分と組み合わせて本発明のポリマー(pF-TPE)を含むことができ、又は本質的に前述のポリマー(pF-TPE)からなり得、ポリマー(pF-TPE)以外の少量(例えば、合計の部品材料で1重量%未満)の成分が、ポリマー(pF-TPE)の性能及び特性に実質的に影響を与えるこれらの成分がなく、存在することができる。
【0059】
特定の好ましい実施形態によれば、印刷技術は、押出系技術である。これらの実施形態によれば、本発明の方法は、
(i)流動状態のポリマー(pF-TPE)を含む(好ましくは本質的にこれからなる、より好ましくはこれからなる)部品材料の供給を、機械的に移動可能な分配ヘッドにおける排出ノズルの流路に導入する工程であって、前述のノズルはその一端に前述の流路と流体連通している分配出口を有する工程と、
(ii)前述のノズルに近接して配置されたベース部材に対して凝固する温度より高い所定の温度で、連続した流動可能な流体流として、前述の分配出口から前述の部分材料を分配する工程と、
(iii)前述のベース部材に対する前述の部品材料の分配と同時に、前述のベース部材に前述の材料の第1の層を形成するために所定のパターンで、互いに対して、前述のベース部材と前述の分配ヘッドとの相対運動を機械的に発生させる工程と、
(iv)前述の分配ヘッドを前述の第1の層から所定の層の厚さの距離で動かす工程と、
(v)前述のノズルに隣接する前述の第1の層の部分が冷却して固化した後、互いに対して、前述のベース部材及び前述の分配ヘッドを同時に移動させながら、前述の分配出口から前述の第1の層に対して流動状態の前述の部品材料の第2の層を分配する工程であって、これにより、前述の第2の層は冷却時に固化し、前述の第1の層に接着して三次元物品を形成する工程と、
(vi)上記で詳述したように、工程(i)から(v)の反復された順序によって、事前に生成された層の上部に複数パスで積み重ねられた前述の部品材料の複層を形成する工程と
を含む。
【0060】
本発明は、以下の実施例を参照してこれからより詳細に説明されるが、実施例の目的は、例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
実施例1
400rpmで動作する機械撹拌機を備えた22リットルの反応器に、13.9リットルの脱塩水、及び式:CFClO(CF-CF(CF)O)(CFO)CFCOOH(式中、n/m=10であり、600の平均分子量を有する)の酸性末端基を有する29.2mlのパーフルオロポリオキシアルキレンと、9.5mlの30体積/体積%のNHOH水溶液と、81.8mlの脱塩水と、n/m=20の、450の平均分子量を有する、式:
CFO(CFCF(CF)O)(CFO)CFの18.5mlのGALDEN(登録商標)D02パーフルオロポリエーテルとを混合することによって予め得られた、139mlのマイクロエマルジョンを導入した。
次いで、連鎖移動剤として、6.1gの1,4-ジヨードパーフルオロブタン(C)を導入し、反応器を加熱し、80℃の設定値温度に維持し、次いで、テトラフルオロエチレン(TFE)(38モル%)とパーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)(62モル%)の混合物を添加して、最終圧力21バール(2.1MPa)に達した。次いで、開始剤として1.39gの過硫酸アンモニウム(APS)を導入した。TFE(60%モル)とMVE(40%モル)の気体混合物を合計3000gまで連続的に供給することによって圧力を21バールの設定点に維持した。3000gのモノマー混合物を反応器に供給したら、撹拌を50rpmに下げ、反応器を室温で冷却することによって反応を停止させた。次いで、撹拌機を停止し、残留圧力を解放し、温度を75℃にした。次いで、テトラフルオロエチレン(TFE)(81%モル)とパーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)(19%モル)の混合物を添加して、21バール(2.1MPa)の最終圧力に達した。機械撹拌機を400rpmで運転するとすぐに、更なる開始剤を必要とせずに反応が開始し、TFE(94%モル)とMVE(6モル%)の気体混合物を合計750gまで連続供給することによって圧力を21バールの設定点に維持した。次いで、反応器を冷却し、排気しラテックスを回収した。ラテックスを硝酸で処理し、ポリマーを水相から分離し、脱塩水で洗浄し、対流式オーブン中130℃で16時間乾燥し、最後に二軸押出機中で造粒してペレットを得た。前述のペレットの材料特性データを表1に報告する。
【0062】
比較例3C
72rpmで動作する機械撹拌機を備えた7.5リットルの反応器に、4.5リットルの脱塩水、及び式:CFClO(CF-CF(CF)O)(CFO)CFCOOH(式中、n/m=10であり、600の平均分子量を有する)の酸性末端基を有する4.8mlのパーフルオロポリオキシアルキレンと、3.1mlの30体積/体積%のNHOH水溶液と、11.0mlの脱塩水と、n/m=20の、450の平均分子量を有する式:CFO(CFCF(CF)O)(CFO)CFの3.0mlのGALDEN(登録商標)D02パーフルオロポリエーテルとを混合することによって予め得られた、22mlのマイクロエマルジョンを導入した。
反応器を加熱し、85℃の設定点温度に維持し、次いで、フッ化ビニリデン(VDF)(78.5モル%)とヘキサフルオロプロペン(HFP)(21.5モル%)との混合物を添加して20バールの最終圧力に達した。次いで、連鎖移動剤としての8gの1,4-ジヨードパーフルオロブタン(C)を導入し、開始剤としての1.25gの過硫酸アンモニウム(APS)を導入した。圧力を、合計2000gまでフッ化ビニリデン(VDF)(78.5モル%)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)(21.5モル%)とのガス状混合物の連続供給によって20バールの設定点に維持した。更に、転化率の5%増加毎に、20回の同等部分で供給される、0.86gのCH=CH-(CF-CH=CHを導入した。
2000gのモノマー混合物を反応器に供給すると、反応器を室温に冷却することによって反応が中止した。次いで、残存圧力を解放させ、温度を80℃にした。次いで、VDFを20バールの圧力までオートクレーブ中に供給し、開始剤として0.14gの過硫酸アンモニウム(APS)を導入した。圧力を、合計222gまでのVDFの連続供給によって20バールの設定点に維持した。次いで、反応器を冷却し、排出し、ラテックスを回収した。ラテックスを硫酸アルミニウムで処理し、水相から分離し、脱塩水で洗浄し、対流オーブン中90℃で16時間乾燥し、最後に二軸押出機で造粒してペレットを得た。前述のペレットの材料特性データを表1に報告する。
【0063】
実施例で作製された材料の特性評価
熱的特性の決定
熱的特性は、ASTM D3418規格に従って示差走査熱量によって決定された。
【0064】
所与の温度Txでの重量損失は、30mL/分の乾燥空気流下で10℃/分の加熱速度で熱重量分析計(Perkin Elmer TGA7)にて試料を加熱することによって測定した。
【0065】
レオロジー特性の決定
レオロジー試験を、平行板形状(直径25mm、1~2mmの間隙)を有するAnton Paar MCR502レオゴニオメーターを使用して、ASTM D4440規格に従って行った。最大ひずみ振幅は、予備的な自動ひずみ掃引によって試験にかけられた試験片の線形粘弾性範囲内に設定された。試験に供した試験片の融点をわずかに超える温度T*(T+10℃<T*<T+15℃)で、0.05~100ラジアン/秒の範囲の等温周波数掃引を実施し、複素粘度の値を記録した。
【0066】
【0067】
(#)市販のHYFLON(登録商標)MFA 940(TFE:約93%モル、MVE:約7%モル)、及びペレットの形態での、Tm=255℃、(*)ペレットの形態での、MFI=2.5g/10分(230℃/10kg)及びTm=170℃を有する市販のSOLEF(登録商標)1013 PVDFホモポリマー。
【0068】
実施例1及び実施例2Cのポリマーのレオロジー特性を、以下の表にまとめ、図1に図示する。
【0069】
流動学的データを、それぞれ実施例1及び実施例2Cのポリマーの融解温度をわずかに超える温度で得た。
【0070】
【0071】
実施例1及び実施例2Cの材料の熱安定性を、300℃の温度で重量損失を決定するTGAによって測定し、両方の材料において、300℃での重量損失は、0.1重量%未満であることが見出され、従ってこれらの材料が本明細書で関連する使用分野において対象となる温度範囲において実質的に同様の熱抵抗を有することを確認した。
【0072】
上記の表に含まれるデータは、類似のモノマー組成の対応する熱可塑性物質とは対照的に、本パーフッ素化熱可塑性エラストマーが増大した剪断減粘を有することを明らかに示している。言い換えれば、対応する熱可塑性物質と同様に約100ラジアン/秒の剪断速度(これは、例えば溶融フィラメント形成装置のダイ内で遭遇するものである)を有するが、例えば、成長する3D部品へのメルトフローの堆積で遭遇するものなどの、より低い剪断速度で著しく高い粘度を有する。
【0073】
この挙動は、両方のブロックにおける同じパーフッ素化モノマーから誘導された繰り返し単位を含み、所与の結晶特性を有する、本発明のパーフッ素化熱可塑性エラストマーに特有であり、フッ化ビニリデン含有対応物のレオロジー挙動を比較すると、熱可塑性物質及び対応する熱可塑性エラストマーの両方が、顕著な剪断減粘を与えられていることを認めなければならないが、この非ニュートン挙動は、対応する熱可塑性エラストマーにおいてよりも、それ自体熱可塑性物質材料において更に顕著である。
それにもかかわらず、これらの材料は、優れた耐熱性及び耐薬品性を有していないので、非常に要求の厳しい使用条件に対して考えられた部品の試作品には使用できない。
【0074】