(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】吸湿発熱性生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 14/22 20060101AFI20220614BHJP
D06M 13/207 20060101ALI20220614BHJP
D06M 11/76 20060101ALI20220614BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
D06M14/22
D06M13/207
D06M11/76
D06M101:06
(21)【出願番号】P 2020024577
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2020-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】山形 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】勝圓 進
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖弘
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133963(JP,A)
【文献】国際公開第2010/018792(WO,A1)
【文献】特開2003-183978(JP,A)
【文献】特開2012-149360(JP,A)
【文献】特開2015-008648(JP,A)
【文献】特開2016-084564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 11/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿発熱加工したセルロース系繊維を含む生地の製造方法であって、
前記吸湿発熱加工は、セルロース系繊維にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物をグラフト結合し、繊維表面にカルボン酸基又はそのNa塩を存在さ
せ、
さらに、pH5以下で酸処理し、水洗し、pH7.5以上で
キレート剤と炭酸水素ナトリウム(重曹)を加えた水溶液に生地を浸漬してアルカリ処理し、水洗し、乾燥
して吸湿発熱性を付与することを特徴とする吸湿発熱性生地の製造方法。
【請求項2】
前記酸処理は、クエン酸を加えた水溶液に生地を浸漬する処理である請求項1に記載の吸湿発熱性生地の製造方法。
【請求項3】
前記酸処理及び前記アルカリ処理は、いずれも温度:30~50℃、時間:10~30分である請求項1
又は2に記載の吸湿発熱性生地の製造方法。
【請求項4】
前記吸湿発
熱加工方法の前に、吸湿発熱加工したセルロース系繊維を含む生地を精練・漂白処理し、必要に応じて染色処理する請求項1~
3のいずれかに記載の吸湿発熱性生地の製造方法。
【請求項5】
前記吸湿発熱加工したセルロース系繊維を含む生地は、吸湿発熱加工したセルロース系繊維と、その他の繊維を含み、前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したセルロース系繊維は5~40質量%である請求項1~
4のいずれかに記載の吸湿発熱性生地の製造方法。
【請求項6】
前記その他の繊維は、吸湿発熱加工していないセルロース系繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びアクリル繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である請求項
5に記載の吸湿発熱性生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コットン等のセルロース系繊維を主要繊維糸とする吸湿発熱性生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸湿発熱性は、乾燥した繊維が湿気(水分)を吸収する際に発熱する性質であり、例えば昼間天日に当てた布団を室内に取り込んで、数時間経過し室温と同じ温度になっていても、人体の皮膚を当てると暖かく感ずる現象として知られている。
【0003】
従来、吸湿発熱性繊維の製造方法として、下記特許文献1には、アクリル系繊維のヒドラジン架橋処理、加水分解処理及びカルボキシル基の塩型への転換からなる高吸放湿性繊維が提案されている。しかし、これらの提案はアクリル系繊維そのものの改質であり、他の繊維に応用することは困難であった。また、芯成分に獣毛繊維を使用し、鞘成分にセルロース繊維などを配置した複合紡績糸を本出願人は提案している(下記特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-089971号公報
【文献】特許第3889652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、下着などのインナー衣料としてコットンなどのセルロース繊維が見直されており、セルロース繊維自体を吸湿発熱することの要求が市場からあるが、セルロース繊維を吸湿発熱加工しても、染色以降の後加工が適正でないと吸湿発熱機能が安定しないという問題がある。従来技術ではこのような要求に応ずることはできなかった。
本発明は、前記従来の問題を解決するため、吸湿発熱加工したセルロース系繊維を含む生地の吸湿発熱性機能を安定して発現させる処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の吸湿発熱性生地の製造方法は、吸湿発熱加工したセルロース系繊維を含む生地の製造方法であって、前記吸湿発熱加工は、セルロース系繊維にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物をグラフト結合し、繊維表面にカルボン酸基又はそのNa塩を存在させ、さらに、pH5以下で酸処理し、水洗し、pH7.5以上でキレート剤と炭酸水素ナトリウム(重曹)を加えた水溶液に生地を浸漬してアルカリ処理し、水洗し、乾燥して吸湿発熱性を付与することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸湿発熱性生地製造方法は、吸湿発熱加工したセルロース系繊維を含む生地を、pH5以下で酸処理し、水洗し、pH7.5以上でアルカリ処理し、水洗し、乾燥することにより、吸湿発熱性機能を安定して発現させることができる。本発明の吸湿発熱加工は、セルロース系繊維にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物(吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物)をグラフト結合し、繊維表面にカルボン酸基(-COOH)又はそのNa塩の形で存在させて吸湿発熱性を付与するが、前記カルボン酸基(-COOH)又はそのNa塩が、Ca,Mgなどでブロックされると吸湿発熱性は消失してしまう。これを防止するため、前記処理をし、Ca,Mgなどを除去し、湿発熱性機能を安定して発現させることができる。これにより、本発明の生地が、例えばカルシウム濃度25~60mg/L、特に30~50mg/L程度の硬水に接触した後であっても、吸湿発熱性機能を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1Aは本発明の一実施形態における生地の全体処理工程図、
図1Bは吸湿発熱性生地の製造工程の処理工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の吸湿発熱性加工は、コットンなどのセルロース系繊維に、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物(吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物)がグラフト結合されているセルロース系繊維である。エチレン性不飽和二重結合を含む化合物は、例えば、1つのエチレン性不飽和二重結合と、1または2つのカルボン酸基とを含む化合物が挙げられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸から選ばれる少なくとも一つのカルボン酸、又はこれらのエステル若しくは塩であることが好ましい。これらの化合物をコットン表面に化学結合させると、耐洗濯性のある吸湿発熱機能を付与できる。前記グラフト結合は、電子線を照射することにより、セルロース系繊維表面にラジカルを発生させる反応、発生したラジカルに官能基(-OH、-NH2等)を含むエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を接触させることでセルロース系繊維の表面にグラフト結合する反応、前記活性基がカルボン酸基(-COOH)と反応して共有結合する反応等、様々な反応が関与して形成される。これにより、繊維表面にカルボン酸基(-COOH)又はそのNa塩の形で存在させて吸湿発熱性を付与する。エチレン性不飽和二重結合を含む化合物はセルロース系繊維に対して1~30質量%の範囲付与されているのが好ましく、さらに好ましくは5~20質量%付与されている。前記の範囲であれば、未処理コットンと混紡しても吸湿発熱機能を発揮できる。
【0010】
本発明の吸湿発熱性生地製造方法は、染色工程後の処理として、pH5以下で酸処理し、水洗し、pH7.5以上でアルカリ処理し、水洗し、乾燥する。前記酸処理は、クエン酸やリンゴ酸等を加えた水溶液に生地を浸漬する処理が好ましい。クエン酸は1~10g/L程度、好ましくは2~8g/L程度加える。前記水溶液のpHが5以上の場合は、5以下になるまでクエン酸を加えるのが好ましい。酸処理条件は、温度:30~50℃、時間:10~30分が好ましい。酸処理後の水洗は、常温(25℃)で5分間程度が好ましい。酸処理により、Ca,Mgなどを除去できる。
【0011】
酸処理し、水洗の後、アルカリ処理する。アルカリ処理は、キレート剤(金属封鎖剤)と炭酸水素ナトリウム(重曹,NaHCO3)を加えた水溶液に生地を浸漬する処理である。キレート剤(金属封鎖剤)は1.0g/L程度、特に0.3~1.5g/L程度加えるのが好ましく、炭酸水素ナトリウム(重曹)は4g/L程度加えるのが好ましい。なお、炭酸水素ナトリウム(重曹,NaHCO3)の代わりにソーダ灰(Na2CO3)も使用可能である。前記水溶液のpHが7.5以下の場合は、7.5以上になるまで重曹を加えるのが好ましい。アルカリ処理条件は、温度:30~50℃、時間:10~30分が好ましい。アルカリ処理後の水洗は、常温(25℃)で5分間程度、2回水洗するのが好ましい。キレート剤(金属封鎖剤)は、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、L-グルタミン酸二酢酸・四ナトリウム、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン、ビピリジン、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテルが使用できる。アルカリ処理により、繊維表面のグラフト結合物のいずれかの部分をカルボン酸基(-COOH)又はそのNa塩の形で存在させることができ、吸湿発熱性を維持できる。
【0012】
前記吸湿発熱性維を維持する処理工程の前に、湿熱発熱加工したセルロース系繊維を含む生地を精練・漂白処理し、必要に応じて染色処理するのが好ましい。精練・漂白処理することにより、セルロース系繊維は白色となる。とくにコットンは、精練・漂白処理しないと、吸水性が低下し、さらに、くすんだ色調であり、白色でも染色しても製品的価値は落ちてしまう。精練・漂白処理は、常法を使用することができ、例えば過酸化水素(H2O2)と水酸化ナトリウム(NaOH)を加えた水溶液で浸漬処理するのが好ましい。染色処理は、白物はしなくてよい場合がある。白物であっても蛍光白色する場合は、蛍光白色染料で染色する。色物は染色する。吸湿発熱加工したセルロース系繊維と吸湿発熱加工していないセルロース系繊維との生地の場合は、反応染料により染色するのが好ましく、吸湿発熱加工したセルロース系繊維とポリエステル繊維との生地の場合は、反応染料及び分散染料から選ばれる少なくとも一つの染料(併用も可能)が好ましい。染色後は、常法を使用することができ、中和し、ソーピングし、水洗する。
【0013】
前記吸湿発熱性維持加工方法の後に、吸水性柔軟剤を含む水溶液で仕上げ加工するのが好ましい。吸水性柔軟剤を使用すると、吸湿発熱性を低下させることなく柔軟性を付与できる。撥水性柔軟剤は、吸水性が低下し、吸湿発熱性が低下してしまい好ましくない。
【0014】
前記吸湿発熱加工したセルロース系繊維を含む生地は、吸湿発熱加工したセルロース系繊維と、その他の繊維を含み、前記生地を100質量%としたとき、前記吸湿発熱加工したセルロース系繊維は5~40質量%が好ましい。前記の範囲であれば吸湿発熱性を発揮できる。
【0015】
前記その他の繊維は、吸湿発熱加工していないセルロース系繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ウール繊維、ポリウレタン繊維などの繊維が好ましい。これらの繊維は通常の衣料用に使用されており、様々な機能を付与できる。例えば吸湿発熱加工していないセルロース系繊維と組み合わせると肌に優しい生地となる。ポリエステル繊維と組み合わせると耐久性が高く、乾きやすい生地となる。ナイロン繊維と組み合わせるとインナー用途に好ましい。アクリル繊維と組み合わせると温かい生地なる。
【0016】
吸湿発熱性生地を用いた例えばインナーとして好ましい編み物の場合、繰り返し単位である3本の糸を使用するうち1本を吸湿発熱加工繊維30質量%、通常の未処理コットン70質量%の混紡紡績糸とし、2本を未処理コットン紡績糸とすると、生地を100質量%としたとき、吸湿発熱加工したセルロース系繊維は9質量%含む生地が得られる。なお、ポリウレタン繊維のような弾性繊維を含めるのがより好ましい。
【0017】
前記生地は編み物又は織物が好ましい。編み物及び織物はインナー衣料にするのに好適である。とくに編み物は伸縮性があり、柔軟でインナー衣料に好適である。生地を構成する糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸であり、残りの糸は吸湿発熱加工していないコットン紡績糸であるのが好ましい。編み物は、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織、及びこれらを組み合わせた織物等いずれの織組織でもよい。編地を作製するには種々の交編方法が用いられる。交編編地は、経編みでも緯編みでもよく、例えば、トリコット、ラッセル、丸編み等が挙げられる。また編組織は、ハーフ編み、逆ハーフ編み、ダブルアトラス編み、ダブルデンビー編み、及びこれらを組み合わせた編み物等いずれの編組織でもよい。織物組織としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織、またはこれらを組み合わせた組織がある。この中でも丸編みを含む緯編み生地、又は経編み生地が好ましい。
【0018】
前記生地の単位面積当たりの質量は80~300g/m2が好ましく、より好ましくは90~250g/m2であり、さらに好ましくは100~200g/m2である。前記の範囲であればインナー衣料として好適である。
【0019】
次に本発明の吸湿発熱性繊維の製造方法について、セルロース系繊維としてコットン(天然セルロース繊維)を使った場合を例示して説明する。紡績用コットンスライバーに対して、連続法の場合は窒素雰囲気下で電子線を照射し、コットン繊維表面にラジカルを発生させ、直後に連続的にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させる。電子線照射直後にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させるのは、電子線照射により発生したラジカルを減衰させないためである。ラジカルは時間とともに減衰する傾向が高いので、電子線照射直後にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させるのが好ましい。また、電子線照射後、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させることを連続的に行うのは、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に発生したラジカルに効果的に接触できるため、好ましい。さらに、連続的に行うことは、長尺物の紡績用スライバーを処理するのに好都合である。さらに、窒素雰囲気下で電子線を照射すると、発生したラジカルが失活しにくいので好ましい。なお、電子線照射法については、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させると同時に照射する、いわゆる同時照射法も可能である。また、セルロース繊維の形状は、連続加工の場合は、スライバーやラップのような連続したシート状のセルロース繊維が良いが、バッチ加工の場合は、そのような連続状には限らない。
【0020】
エチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させる方法は、浸漬法又はスプレ-法などいかなる方法でも良い。例えば、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物を水溶液に調製して、スライバーを浸漬させるかまたは、スライバーにスプレーして、付与するのが好ましい。
【0021】
本発明においては、前記処理後の紡績用スライバーとそれ以外の未処理スライバーを混紡し精紡することにより、吸湿発熱機能を有する紡績糸が得られる。混紡は通常はダブリング工程の入る練条工程が好ましい。しかし、梳綿工程(カード)、粗紡工程、精紡工程でも可能であり、ウエブ、スライバー、フリース、粗紡糸を複数本引き揃え、所定倍率引き伸ばすことにより混紡できる。粗紡工程や精紡工程では、撚り掛けする際に構成繊維のマイグレーションにより混紡できる。さらには、前記処理後の紡績用スライバーを混打綿工程まで戻して所望の混紡割合にすることも可能である。
【0022】
前記吸湿発熱加工したコットンと吸湿発熱加工していないコットンを混紡した後は、常法にしたがい混紡紡績糸とする。また、吸湿発熱加工していないコットンの紡績糸も常法にしたがい紡績糸とする。この生地は常法にしたがい晒、染色、柔軟仕上げなどの後加工することは任意である。
【0023】
図1Aは本発明の一実施形態における全体処理工程図、
図1Bは吸湿発熱性維持加工工程の処理工程図である。全体処理工程は、精練・漂白・染色工程と吸湿発熱性維持加工工程と仕上工程を含む。染色工程は省略することもできる。吸湿発熱性維持加工工程は、酸処理工程と水洗工程とアルカリ処理工程と水洗・乾燥工程を含む。
【実施例】
【0024】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<吸湿発熱性>
(1)試料生地(編み物生地)を20cm×20cmに採取し、乾燥機において4時間処理し、シリカゲル入りのデシケーター内で一晩放置する。
(2)処理後の試料を二つ折りにし、その中心に熱電対温度センサーを取り付け、さらに二つ折りにし、試験体とする。
(3)恒温恒湿機を用いて試験体を20℃、40%RHの環境下で2時間処理した後、恒温恒湿機の設定を20℃、90%RHに変化させたときの温度変化を1分毎に15分間測定する。
(4)未処理コットンスライバーを使用した綿番手50番の糸からなる編み物生地(比較例1)を基準生地とし、測定15分間における基準生地の最高温度と、同じく実施例生地の最高温度との差を、最大温度差(℃)として算出する。
【0025】
(実施例1)
<スライバーの処理>
コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))に対し、エレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を使用して電子線を40kGyで照射した。電子線照射したスライバーを直後に0.4重量%の浸透剤を含有するアクリル酸(ナカライテスク株式会社製)の32質量%水溶液に浸漬し、マングルでスライバー重量に対して約100質量%のピックアップ率となるように絞った。次に、連続して100℃のスチームで10分間前記スライバーを加熱処理した。次に連続して未反応のアクリル酸を除去するため前記スライバーを水洗し、ついで80℃で乾燥して容器にコイリングして収納した。このようにして得られたスライバーを“処理コットン”と呼ぶ。この処理コットンにはアクリル酸が8質量%グラフト結合していた。
<紡績糸>
(1)処理コットンを含む混紡糸
前記処理コットンと未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手50番の糸を紡績した。混紡糸中の処理コットンの割合は30重量%となるようにした。
(2)未処理コットン紡績糸
未処理コットンスライバーを使用して綿番手50番の糸を紡績した。
<編み物の編成>
前記処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸と、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。生地の処理コットンの割合は10質量%とした。この編み物の単位当たりの質量(目付)は145g/m2であり、吸湿発熱性の最大温度差(℃)は0.6℃であった。
<精練・漂白、染色>
得られた編み物を常法にしたがい精練・漂白処理および染色処理を行った。精練・漂白、染色は軟水と硬水(カルシウム濃度40mg/L)を使用した。軟水を使用した場合の吸湿発熱性の最大温度差(℃)は0.6℃で変わらなかったが、硬水を使用した場合は、吸湿発熱性の最大温度差(℃)は0.1℃となった。そこで下記の吸湿発熱性維持加工を行った。
<吸湿発熱性維持加工>
(1)酸処理
クエン酸2g/Lの水溶液とし、pH5以下とした。この水溶液の中に浴比1:15で前記生地を浸漬し、40℃で20分間処理した。その後、常温(25℃)で5分水洗した。
(2)アルカリ処理
次に、重曹4g/Lとキレート剤(ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA))1g/L、pH7.5以上となるように調整した。この水溶液の中に浴比1:15で前記生地を浸漬し、40℃で20分間処理した。その後、常温(25℃)で5分の水洗を2回繰り返した。これにより、生地の吸湿発熱性の最大温度差(℃)は0.6℃に回復した。
【0026】
(比較例1)
処理コットンを使用しない以外は実施例1と同様に実施した。
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0027】
【0028】
表1から明らかなとおり、実施例1は吸湿発熱性が回復できた。またこの生地を使用してインナーシャツを縫製し、着用試験をしたところ、温かく、着心地の良さと共に、肌にやさしいシャツであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の吸湿発熱性生地は、シャツ、パンツ、靴下などのインナー衣料に好適である。また、肌にやさしいことからTシャツなどにも好適である。