IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京特殊電線株式会社の特許一覧

特許7088999融着性絶縁電線の製造方法、及び自己融着コイルの製造方法
<>
  • 特許-融着性絶縁電線の製造方法、及び自己融着コイルの製造方法 図1
  • 特許-融着性絶縁電線の製造方法、及び自己融着コイルの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】融着性絶縁電線の製造方法、及び自己融着コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20220614BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H01B7/02 B
H01F5/06 H
H01F5/06 Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020168353
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060717
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2021-07-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003414
【氏名又は名称】東京特殊電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】羽生 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】駒村 昇平
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-176246(JP,A)
【文献】特開平10-134643(JP,A)
【文献】特開2002-237218(JP,A)
【文献】特開昭60-223866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に形成された絶縁層の外周に融着層が形成されており、前記融着層は共重合ポリエステル樹脂を主成分としてポリエステル系ホットメルト接着剤およびフィラーが添加された熱可塑性樹脂を押出して形成された構成の融着性絶縁電線の製造方法であり、前記共重合ポリエステル樹脂とポリエステル系ホットメルト接着剤との相溶性を高めることで前記融着層の融点を低くする方向に調整することによって、前記融着層の融点を61.7℃以上かつ91.2℃以下にすることを特徴とする融着性絶縁電線の製造方法
【請求項2】
前記共重合ポリエステル樹脂はポリエチレンテレフタレートであり、前記フィラーは炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の融着性絶縁電線の製造方法
【請求項3】
導体の外周に形成された絶縁層の外周に融着層が形成されており、前記融着層は共重合ポリエステル樹脂を主成分としてポリエステル系ホットメルト接着剤およびフィラーが添加された熱可塑性樹脂を押出して形成されている融着性絶縁電線が螺旋状に巻回されており、前記融着性絶縁電線における隣接した前記融着層は互いに融着された構成の自己融着コイルの製造方法であり、前記共重合ポリエステル樹脂とポリエステル系ホットメルト接着剤との相溶性を高めることで前記融着層の融点を低くする方向に調整することによって、前記融着層の融点を61.7℃以上かつ91.2℃以下にすることを特徴とする自己融着コイルの製造方法
【請求項4】
前記共重合ポリエステル樹脂はポリエチレンテレフタレートであり、前記フィラーは炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項3記載の自己融着コイルの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融着性絶縁電線の製造方法、及び自己融着コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂を主成分として変性エーテル型ポリエステル樹脂を添加して構成された融着層を有し、温度100~150℃の低温域での接着性を向上させた融着性絶縁電線が知られている(特許文献1:特許第2890280公報)。また、共重合ポリアミド樹脂を主成分として構成された融着皮膜を有し、融点を110~130℃とした融着性絶縁電線が提案されている(特許文献2:特開平3-089414号公報)。そして、変性ポリオレフィン樹脂を主成分としてポリアミド樹脂を含有してナイロン系ホットメルト樹脂と炭酸カルシウムが添加された熱可塑性樹脂を温度が200℃で押出して形成した融着層を有する融着性絶縁電線が知られている(特許文献3:特開2020-113491号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2890280公報
【文献】特開平3-089414号公報
【文献】特開2020-113491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な民生機器用変圧器に求められる耐熱グレードはJIS規格(JIS C4003:2010)に定めるB種(許容温度が130℃)またはF種(許容温度が155℃)である。そのため、融着性絶縁電線をコイルにする際の加熱処理によって変圧器の絶縁材料が劣化するという問題や融着性絶縁電線の性能が劣化するという問題がある。しかしながら、エポキシ樹脂を主成分とした融着層は温度をさらに低くすることが困難であり、また、ポリアミド樹脂を含有した融着層は吸湿によってピンホールやクレージング等が発生し易く絶縁性能が劣り、従来技術では耐熱グレードの低い民生機器用変圧器のコイルや民生機器用の自己融着コイルへの適用が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、絶縁性能に優れた構成としつつ、民生機器用変圧器のコイルや民生機器用の自己融着コイルへの適用が可能な構成の融着性絶縁電線を提供することを目的とする。
【0006】
一実施形態として、以下に開示する解決策により、前記課題を解決する。
【0007】
本発明に係る融着性絶縁電線の製造方法は、導体の外周に形成された絶縁層の外周に融着層が形成されており、前記融着層は共重合ポリエステル樹脂を主成分としてポリエステル系ホットメルト接着剤およびフィラーが添加された熱可塑性樹脂を押出して形成された構成の融着性絶縁電線の製造方法であり、前記共重合ポリエステル樹脂とポリエステル系ホットメルト接着剤との相溶性を高めることで前記融着層の融点を低くする方向に調整することによって、前記融着層の融点を61.7℃以上かつ91.2℃以下にすることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、絶縁層の外周に形成された共重合ポリエステル樹脂を主成分としフィラーが添加された熱可塑性樹脂を押出して形成された融着層によって絶縁性能に優れた構成となる。尚且つ、共重合ポリエステル樹脂を主成分としてポリエステル系ホットメルト接着剤が添加された熱可塑性樹脂からなる融着層の融点は、民生機器用変圧器のコイルや民生機器用の自己融着コイルへの適用が可能な構成にできる。つまり、融着層は良好な接着性を維持しつつ輸送時の温度や保管時の温度によって自己融着することが防止できる。また、融着層は良好な接着性を維持しつつ融着性絶縁電線が適用される変圧器の絶縁材料が劣化することが防止できる。
【0009】
前記融着層の融点は60℃超かつ92℃未満が好ましい。前記融着層の融点は68℃超かつ91℃未満がより好ましい。一例として、前記絶縁層は絶縁テープをラップ巻きして形成している。これにより、絶縁性を高めつつ外径を小型にすることが容易にできる。前記絶縁層は3層になっていることがより好ましい。一例として、前記共重合ポリエステル樹脂はポリエチレンテレフタレートであり、絶縁性がより高められる。一例として、前記フィラーは炭酸カルシウムであり、絶縁層と融着層との密着性がより高められる。一例として、前記融着層の径方向の片側の厚みは20~40μmであり、小型の民生機器用変圧器のコイルや小型の民生機器用の自己融着コイルに好適な外径にすることが容易にできる。
【0010】
本発明に係る自己融着コイルの製造方法は、導体の外周に形成された絶縁層の外周に融着層が形成されており、前記融着層は共重合ポリエステル樹脂を主成分としてポリエステル系ホットメルト接着剤およびフィラーが添加された熱可塑性樹脂を押出して形成されている融着性絶縁電線が螺旋状に巻回されており、前記融着性絶縁電線における隣接した前記融着層は互いに融着された構成の自己融着コイルの製造方法であり、前記共重合ポリエステル樹脂とポリエステル系ホットメルト接着剤との相溶性を高めることで前記融着層の融点を低くする方向に調整することによって、前記融着層の融点を61.7℃以上かつ91.2℃以下にすることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、融着性絶縁電線における融着層は良好な接着性を維持しつつ絶縁層の劣化が防止できて絶縁性能に優れた融着性絶縁電線からなる自己融着コイルにできる。自己融着コイルを構成する融着性絶縁電線における融着層は良好な接着性を維持しつつ輸送時の温度や保管時の温度によって自己融着コイルがほどけることが防止できる。
【0012】
前記融着層の融点は60℃超かつ92℃未満が好ましい。前記融着層の融点は68℃超かつ91℃未満がより好ましい。一例として、前記共重合ポリエステル樹脂はポリエチレンテレフタレートであり、前記フィラーは炭酸カルシウムである。一例として、前記融着性絶縁電線における前記融着層の径方向の片側の厚みは20~40μmである。これにより、高性能かつ小型の自己融着コイルが実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、絶縁性能に優れた構成としつつ、民生機器用変圧器のコイルや自己融着コイルへの適用が可能な構成の融着性絶縁電線が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の実施形態に係る融着性絶縁電線の構造を模式的に示す構造図である。
図2図2図1に示す融着性絶縁電線を適用した自己融着コイルの例を示す概略の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。本実施形態の融着性絶縁電線1は、例えば、民生機器用変圧器のコイルに適用される。また例えば、自己融着コイルに適用される。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0016】
(融着性絶縁電線)
先ず、本実施形態に係る融着性絶縁電線1とその製造方法について、図1に基づいて以下に説明する。
【0017】
図1に示す融着性絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周に形成された第1絶縁層3aと、第1絶縁層3aの外周に形成された第2絶縁層3bと、第2絶縁層3bの外周に形成された第3絶縁層3cと、第3絶縁層3cの外周に形成された融着層4を有する構成である。つまり、導体2の外周に絶縁層3が三層で形成されてその外周に融着層4が形成されている構成である。
【0018】
導体2は、導電材料であればよいが、はんだ付け可能な導電性の導体であることが好ましい。例えば、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、銅クラッドアルミニウム等の複合材料、或いは、これらの材料にはんだ付け性に優れた金属がめっきされたものであってもよい。導体自体のはんだ付けが容易でない場合には、はんだ付け性に優れた金属をめっき等によって設けることが好ましい。はんだ付け性に優れた金属としては、錫、はんだ、ニッケル、金、銀、銅、パラジウム、またはこれらの材料の合金が挙げられる。
【0019】
導体2は、単線または撚線を用いることができる。撚線の場合には、それぞれの導体素線の表面には、滑剤や酸化防止剤が塗布されていてもよい。滑剤は、導体素線の滑り性をよくするので、撚線を一層容易にするとともに、最終的に得られた絶縁電線でコイル巻線する際に個々の導体素線の滑りがよくなって巻線性をより容易にすることができる。酸化防止剤は、導体素線の酸化を防止する作用を有し、撚線時やテープ巻時の起こりうる酸化を防ぐことができる。また、導体2を構成する単線又は撚線は、予め絶縁皮膜が設けられていてもよい。絶縁皮膜は、例えばエナメル皮膜や酸化皮膜が挙げられる。絶縁皮膜としては、はんだ付けに支障がないウレタン系やポリエステル系等のエナメル皮膜が好ましい。特に表皮効果による高周波損失を低減したい場合は、予め絶縁皮膜が配された導体素線を用いることが好ましい。
【0020】
一例として、直径4.5mmの銅線を直径0.5mmに伸線加工して、断面が円形や楕円形などの丸形状の導体2にする。上記以外の構成として、素線を複数撚った撚線であって、断面が円形や楕円形などの丸形状に近似した撚線を導体2として用いることができる。導体2が撚線のときは、7本の素線から構成されることで断面が円形や楕円形などの丸形状により近似した形状にできるので好ましい。なお、5本以上の素線から構成される撚線を導体2にする場合もある。
【0021】
絶縁層3は1層以上の絶縁層を有する。絶縁層3は2層以上の絶縁層から構成されることが好ましい。絶縁層3の材質としては例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、フッ素化樹脂共重合体(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂:PFA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を挙げることができる。絶縁層3の材質は用途に応じて適宜設定される。
【0022】
絶縁層3は一例として絶縁テープによるテープ巻絶縁によって構成される。この場合の絶縁テープの厚さは例えば4μm以上かつ25μm以下であることが好ましい。また、この場合の絶縁テープの幅は例えば2mm以上かつ20mm以下であることが好ましい。絶縁テープの厚さや幅は用途に応じて適宜設定されるものであり、二層以上でテープ巻絶縁する場合のそれぞれの絶縁テープの厚さおよび幅を同じにするときがあり、それぞれの絶縁テープの厚さおよび幅を異ならせるときがある。
【0023】
絶縁層3は一例として絶縁テープによって二層以上でテープ巻絶縁されることが好ましい。テープ巻絶縁される複数の絶縁テープのうち少なくともそれら絶縁テープの重なり部分は接着層となっており、両者は接着されている。接着層は、複数の絶縁テープのうち少なくとも1つの絶縁テープに設けられている。接着層の構成材料としては、熱又は電離放射線等で固化する接着材料を挙げることができる。熱で接着固化する接着材料は、熱融着性材料であり、例えばポリエステル系、アクリル系、エポキシ系等の熱融着接着材料を挙げることができる。例えば紫外線などの電離放射線で接着固化する接着材料としては、アクリル系、エポキシ系等の電離放射線接着材料を挙げることができる。それぞれの絶縁テープは互いに逆方向に螺旋状に巻き付けられていることが好ましい。それぞれの絶縁テープの巻き付け形態は用途に応じて適宜設定される。
【0024】
特に、絶縁層3を絶縁テープによって三層以上でテープ巻絶縁される構成にした場合、高い絶縁性を実現できる。この構成は、例えばIEC60950等の安全規格を満たす絶縁電線として認証されており、絶縁トランスやIHヒータ等のコイル用線材として用いることができる。絶縁層3を絶縁テープによって三層以上でテープ巻絶縁した構成の融着性絶縁電線1をトランス用のコイルに用いた場合には、一次側と二次側をより確実に絶縁することができる。一例として、図1のように、第1絶縁層3a、第2絶縁層3b及び第3絶縁層3cを有する場合、導体2の外周に絶縁テープをラップ巻きして第1絶縁層3aを形成し、第1絶縁層3aの外周に接着剤層を介して絶縁テープをラップ巻きして第2絶縁層3bを形成し、第2絶縁層3bの外周に接着剤層を介して絶縁テープをラップ巻きして第3絶縁層3cを形成する。絶縁層3の径方向の片側の厚みは一例として10~300μmである。
【0025】
上記以外の構成として、例えば押出加工によって絶縁層3を形成する場合には、導体2の外周に熱可塑性樹脂を押出して第1絶縁層3aを形成し、第1絶縁層3aの外周に熱可塑性樹脂を押出して第2絶縁層3bを形成し、第2絶縁層3bの外周に熱可塑性樹脂を押出して第3絶縁層3cを形成することができる。
【0026】
融着層4は、第3絶縁層3cの外周に形成されており、加熱によって自己融着する。融着層4は共重合ポリエステル樹脂を主成分としてポリエステル系ホットメルト接着剤およびフィラーが添加された熱可塑性樹脂を押出して形成されている構成である。押出機における加熱部の温度は、一例として170~250℃に設定される。本実施形態は、融着層4の融点は60℃超かつ92℃未満である。融着層4の径方向の片側の厚みは、一例として10~50μmである。一例として、前記共重合ポリエステル樹脂はポリエチレンテレフタレートであり、かつ、前記フィラーは炭酸カルシウム(CaCO3)である。
【0027】
(自己融着コイル)
続いて、本実施形態に係る自己融着コイル10とその製造方法について、図2に基づいて以下に説明する。
【0028】
図2に示す自己融着コイル10は、上述した実施形態の融着性絶縁電線1から構成される。一例として、導体2の直径に対して5~20倍の直径のマンドレル棒(巻き付け治具)に、融着層4と融着層4とを密接させながら巻き付けた後、マンドレル棒を外して、融着層4の融点よりも温度が10~30℃高温に設定された恒温槽に3~10分静置して加熱し、ヘリカル型で空芯の自己融着コイル10にする。恒温槽の温度は、一例として、110~130℃である。上記以外の構成として、加熱手段はトンネル炉、バッチ炉、熱風機、その他既知の加熱手段が適用できる。
【0029】
図2に示す例は、自己融着コイル10は、融着性絶縁電線1の先端部10aと先端部10bがはんだ槽に浸漬されて導体2がはんだめっきされている。融着性絶縁電線1は、はんだ槽若しくは半田ごてにより加熱されることで絶縁層3および融着層4が溶けて導体2にはんだめっきすることが容易にできる。なお、図2に示したような丸型形状の自己融着コイル10に限定されず、渦巻きコイルとしてレコード巻き型コイルやパンケーキ型コイル、角型コイル、円錐型コイル等の様々な形状のコイルに適用することが可能である。
【0030】
続いて、本実施形態に係る自己融着コイル10の各実施例について、以下に説明する。
【0031】
融着性絶縁電線1の製造方法は上述のとおりである。導体2は直径0.5mmの銅線であり、第1絶縁層3aの径方向の片側の厚みは40μmであり、第2絶縁層3bの径方向の片側の厚みは30μmであり、第3絶縁層3cの径方向の片側の厚みは20μmであり、融着層4の径方向の片側の厚みは30μmである。融着層4を形成するに際して、共重合ポリエステル樹脂とポリエステル系ホットメルト接着剤との相溶性を高めることによって融着層4の融点を低くする方向に調整した。そして、上述の自己融着コイル10の製造方法にしたがって、実施例1~10の自己融着コイル10を作製した。試料数は各20個である。実施例1は融着層の融点が52.3℃であり、実施例2は融着層の融点が57.4℃であり、実施例3は融着層の融点が61.7℃であり、実施例4は融着層の融点が68.0℃であり、実施例5は融着層の融点が70.1℃であり、実施例6は融着層の融点が74.0℃であり、実施例7は融着層の融点が81.0℃であり、実施例8は融着層の融点が83.8℃であり、実施例9は融着層の融点が91.2℃であり、実施例10は融着層の融点が95.0℃である。ここで、共重合ポリエステル樹脂からなる熱可塑性接着剤のみとした場合の融点はおよそ100℃(99~105℃)となることを確認した。これら融点は、JIS K 6863-1994 ホットメルト接着剤の軟化点試験方法に準じて測定されたものである。
【0032】
各試料の接着強度の評価条件は次のとおりである。融着層の接着強度は、引張り試験機を用いて、常温にて各試料における導体の伸線方向に先端部と先端部とが互いに逆向きになる方向に引っ張って、互いに隣接した融着層が剥離するまでに要した剥離強度を測定した。接着強度の評価基準は、剥離強度の平均値が3N以上をAランクとし、剥離強度の平均値が2N以上かつ3N未満をBランクとし、剥離強度の平均値が1N以上かつ2N未満をCランクとした。
【0033】
各試料の保管安定性の評価条件は次のとおりである。保管安定性は、恒温槽を用いて、所定の保管温度にて各試料を240時間静置した後、取り出して、融着層にタック(べたつき)があるか否かを指先で接触確認した。保管安定性の評価基準は、保管温度60℃でタックなしをAランクとし、保管温度50℃でタックなしをBランクとし、保管温度40℃でタックなしをCランクとした。ここで、温度60℃は郵送時に必要な耐熱温度を想定しており、温度40℃は保管時に必要な耐熱温度を想定している。
【0034】
各試料の接着強度と保管安定性の評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、実施例1~2は、接着強度がAランクであり、かつ、保管安定性がCランクであった。実施例2~9は、接着強度がAランク若しくはBランク以上であり、かつ、保管安定性がAランク若しくはBランク以上であった。また、実施例10は、接着強度がCランクであり、かつ、保管安定性がAランクであった。また、融着層の融点がおよそ100℃である従来技術(比較例)では、接着強度が1N未満となり、自己融着コイルとしては不十分な接着力であった。実施例1~10は、従来技術と比較して、接着強度と保管安定性のいずれかないしは両方において、優れた特性であることが判明した。
【0037】
上述した実施形態の融着性絶縁電線は、自己融着性コイルのみならず、民生機器用変圧器のコイルや電子機器用の既知のコイル若しくはインダクタに適用できる。
【0038】
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 融着性絶縁電線
2 導体
3 絶縁層、3a 第1絶縁層、3b 第2絶縁層、3c 第3絶縁層
4 融着層
10 コイル、10a 第1端部、10b 第2端部
図1
図2