(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】組電池及び電池パック
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20220614BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20220614BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20220614BHJP
H01M 10/6554 20140101ALI20220614BHJP
H01M 50/213 20210101ALI20220614BHJP
【FI】
H01M50/204 401F
H01M10/613
H01M10/653
H01M10/6554
H01M50/204 401H
H01M50/213
(21)【出願番号】P 2021014632
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2022-03-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹下 恵介
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/187313(WO,A1)
【文献】特開2020-072005(JP,A)
【文献】特開2019-083150(JP,A)
【文献】特開2019-053816(JP,A)
【文献】特開2018-206605(JP,A)
【文献】特開2009-176464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/204
H01M 10/613
H01M 10/653
H01M 10/6554
H01M 50/213
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する電極面と、前記電極面に直交する外周面と、を有し、前記外周面同士が対向するように配置された複数の電池セルが、直列又は並列に接続される組電池であって、
前記電池セルと、
前記電池セルの外周面を被覆
し、有機繊維及び無機繊維の少なくとも一方を含有する防炎材と、
前記防炎材により被覆された前記電池セルの外周面を被覆
し、金属、カーボン及びセラミックスから選択された少なくとも1種を材料とする放熱部材と、を有する、組電池。
【請求項2】
前記放熱部材は、両端部が開口した筒状体である、請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記放熱部材は、シート状の放熱材料を、前記防炎材により被覆された前記電池セルの外周面に巻回したものである、請求項1に記載の組電池。
【請求項4】
前記防炎材と前記放熱部材との間に、前記防炎材により被覆された前記電池セルの外周面の少なくとも一部を被覆し、前記電池セルを押圧する弾性部材を有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項5】
前記防炎材及び前記放熱部材により被覆された前記電池セルの外周面の少なくとも一部に、前記外周面を周方向に被覆し、前記電池セルを押圧する弾性部材を有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項6】
前記弾性部材は、ゴム又はエラストマーにより形成されている、請求項
4又は
5に記載の組電池。
【請求項7】
前記弾性部材は、両端部が開口した筒状体である、請求項
4~
6のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項8】
前記弾性部材は、前記筒状体の内表面において、前記筒状体の一端部から他端部に延びる複数の溝を有する、請求項
7に記載の組電池。
【請求項9】
前記弾性部材は、前記筒状体の一端部から他端部に貫通する複数の貫通孔を有する、請求項
7又は
8に記載の組電池。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の組電池を電池ケースに収容した電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電動工具などに収容され、電動モータ等の電源として用いられる組電池及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電動工具には、いわゆる商用電源に接続して使用されるものと、その内部に、駆動用電動モータの電源となるための組電池が収容されたものがあり、内部に組電池が収容された電動工具は、操作性が優れている等の観点から多用されている。
組電池は、複数の電池セルが直列又は並列に接続されたものであり、例えば、ポリカーボネート等からなる電池ケースに各電池セルを格納して一体化され、電動工具の内部に収容される。
【0003】
電動工具内に収容される電池セルとしては、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。しかし、電池の内部短絡や過充電などが原因で、1つの電池セルに熱暴走が生じた場合(すなわち「異常時」の場合)、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走の発生に対する対策として、例えば、特許文献1には、ある電池セルに過電流が流れ込むなどの理由により異常発熱が発生した場合に、隣接する電池セルへの類焼を防止・抑制することができる組電池が提案されている。上記特許文献1に記載の組電池は、複数の電池セルと、それを保持する金属材料からなるブロックで構成されており、このブロックは複数の小ブロックで構成されるものである。また、ブロックと電池セルとの隙間の大小を調整している。
【0005】
このように構成された特許文献1に係る組電池によれば、電池セルを保持するブロックが金属材料からなるため、熱をすばやく拡散することができるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、蓄電デバイスの発火リスクを低減できる発火防止材が開示されている。上記発火防止材は、例えば、炭素系材料からなる多孔質素材の細孔内及び表面に、不燃性ガスあるいは水系溶媒または不燃性溶媒を吸着させたものである。
【0007】
上記特許文献2には、異常時に、二次電池から電解液や電解液分解ガスなどのガス成分が発生した場合に、ガス成分が蒸気発火防止材を通過することにより、ガス成分の温度を下げる効果を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-96271号公報
【文献】特開2013-187089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の組電池によると、金属材料からなるブロックが上下2段に分かれており、両者の間に断熱体が配置されているため、1つの電池から発生した熱を効率的に放出することが困難である。
また、上記特許文献1に記載の組電池は、複数のブロックが必要であり、ブロックと電池セルとの隙間を変化させるため、組電池が搭載される電子機器や電動工具等に応じて、ブロックの設計が必要となる。したがって、ブロックの設計及び組電池の組立が煩雑になるという問題点がある。
【0010】
さらに、特許文献2においては、異常時に二次電池からガス成分が発生した場合に有効であるが、組電池化した電池セルに対し充放電サイクルを行う場合(すなわち「通常使用時」)及び異常時に電池そのものの温度を下げることはできない。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、通常使用時及び異常時に、各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、効率的に電池セルを冷却して、熱暴走の発生を抑制することができ、設計及び組立が容易である組電池及び電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、組電池に係る下記[1]の構成により達成される。
【0013】
[1] 電極を有する電極面と、前記電極面に直交する外周面と、を有し、前記外周面同士が対向するように配置された複数の電池セルが、直列又は並列に接続される組電池であって、
前記電池セルと、
前記電池セルの外周面を被覆する防炎材と、
前記防炎材により被覆された前記電池セルの外周面を被覆する放熱部材と、を有する、組電池。
【0014】
また、組電池に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[11]に関する。
【0015】
[2] 前記放熱部材は、両端部が開口した筒状体である、[1]に記載の組電池。
【0016】
[3] 前記放熱部材は、シート状の放熱材料を、前記防炎材により被覆された前記電池セルの外周面に巻回したものである、[1]に記載の組電池。
【0017】
[4] 前記放熱部材は、金属、カーボン及びセラミックスから選択された少なくとも1種を材料として形成されている、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組電池。
【0018】
[5] 前記防炎材は、有機繊維及び無機繊維の少なくとも一方を含有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の組電池。
【0019】
[6] 前記防炎材と前記放熱部材との間に、前記防炎材により被覆された前記電池セルの外周面の少なくとも一部を被覆し、前記電池セルを押圧する弾性部材を有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組電池。
【0020】
[7] 前記防炎材及び前記放熱部材により被覆された前記電池セルの外周面の少なくとも一部に、前記外周面を周方向に被覆し、前記電池セルを押圧する弾性部材を有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組電池。
【0021】
[8] 前記弾性部材は、ゴム又はエラストマーにより形成されている、[6]又は[7]に記載の組電池。
【0022】
[9] 前記弾性部材は、両端部が開口した筒状体である、[6]~[8]のいずれか1つに記載の組電池。
【0023】
[10] 前記弾性部材は、前記筒状体の内表面において、前記筒状体の一端部から他端部に延びる複数の溝を有する、[9]に記載の組電池。
【0024】
[11] 前記弾性部材は、前記筒状体の一端部から他端部に貫通する複数の貫通孔を有する、[9]又は[10]に記載の組電池。
【0025】
また、本発明の上記目的は、電池パックに係る下記[12]の構成により達成される。
【0026】
[12] [1]~[11]のいずれか1つに記載の組電池を電池ケースに収容した電池パック。
【発明の効果】
【0027】
本発明の組電池は、電池セルの外周面を被覆する防炎材を有するため、通常使用時及び異常時において、電池セル間の熱の伝播を抑制することができる。また、本発明の組電池は、防炎材の外周面を被覆する放熱部材を有するため、電池セルから発生する熱を、効率的に外部に放出することができる。さらに、本発明の組電池は、各電池セルの外周面に防炎材及び放熱部材を取り付けるのみであるため、電池セルの種類に応じて、電池ケースの設計を変更する必要がなく、組立時に煩雑な作業が不要となる。
【0028】
本発明の電池パックは、上記組電池を収容したものであるため、電池セル間の熱の伝播を抑制することができ、熱暴走の連鎖を阻止することができるとともに、容易に組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第3の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る組電池に適用される弾性部材の形状例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る組電池に適用される弾性部材の他の形状例を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る組電池に適用される弾性部材のさらに他の形状例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者は、通常使用時及び異常時における各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、効率的に電池セルを冷却して、熱暴走の発生を抑制することができる組電池を提供するため、鋭意検討を行った。
その結果、本発明者は、各電池セルの外周面を防炎材により被覆し、その外周面を放熱部材で被覆することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0032】
[電池パック]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。電池パック1は、樹脂等により形成された電池ケース7に、以下に詳細に説明する第1の実施形態に係る組電池10が収容されたものである。
【0033】
<組電池>
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る組電池について、詳細に説明する。
各電池セル2は、電極3を有する電極面2aと、電極面2aに直交する面である外周面2bとを有し、各電池セル2は、その外周面2b同士が対向するように配置され、電極3及び不図示のコネクタ等を介して直列又は並列に接続されている。
電池セル2の外周面2bは防炎材4により被覆され、さらに防炎材4の外周面は放熱部材8により被覆されており、これにより、組電池10が構成されている。なお、放熱部材8は、例えば、両端部が開口した筒状体であり、電池セル2及び防炎材4の外周面を被覆している。なお、本実施形態において放熱部材8(筒状体)の両端部とは、放熱部材8の長手方向(
図1において上下方向)における一方の端部及び他方の端部の両方、すなわち、筒状体の開口端部を意味する。
【0034】
このように構成された組電池10においては、電池セル2の外周面2bが防炎材4により被覆されているため、通常使用時において、電池セル2から発生する熱を周囲に伝播することを抑制することができる。また、異常時において、一方の電池セルに熱暴走が発生した場合においても、周囲への熱の伝播が抑制されるため、一方の電池セルに隣接した他方の電池セルが熱を受けることを抑制でき、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【0035】
また、電池セル2及び防炎材4のさらに外周面を被覆する放熱部材8は、後述のとおり、伝熱性が優れた材料からなるものである。したがって、防炎材4によっても伝播の抑制が困難であった一部の熱が放熱部材8に到達した場合に、到達した熱は放熱部材8の面方向に広がり、放熱部材8の両端部側に放出されるため、効率的に電池セル2を冷却することができる。
【0036】
ところで、異常時に、電池セルに熱暴走が生じると、この電池の内部でガスが発生し、内圧が上昇することにより電池セルの変形を引き起こし、この変形が大きい場合には、ケースが破壊されることがある。
【0037】
上記第1の実施形態に係る組電池10においては、放熱部材8は、上記のとおり筒状体であり、例えば金属又はカーボンを材料として形成され、伸縮性をほとんど有さないものである。したがって、放熱部材8と電池セル2及び防炎材4との隙間が小さいと、異常時に電池セル2が変形した場合に、放熱部材8により、電池セル2の変形を抑制する効果も得ることができ、電池ケース7の破壊を抑制することができる。
仮に、電池セル2がさらに高温になり、内圧の上昇により破裂した場合であっても、電池セル2は放熱部材8により被覆されているため、例えば、電池セル2の破片や電池セル2に存在していた有機電解液などが、他の電池セル2に到達して悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0038】
本実施形態において、電池セル2は角形であっても丸型であってもよい。
また、防炎材4は電池セル2の外周面の全面を被覆していることが好ましいが、上記したような熱暴走の連鎖を抑制することができるものであれば、必要に応じて、一部の領域が被覆されていなくてもよい。
さらに、放熱部材8についても、防炎材4により被覆された電池セル2の外周面の全面を被覆していることが好ましいが、上記したような放熱効果が得られるものであれば、必要に応じて、一部の領域が被覆されていなくてもよい。
【0039】
なお、上述の第1の実施形態に係る組電池10における放熱部材8は、両端部が開口した筒状体としたが、放熱部材8は筒状体に限定されない。例えば、シート状の放熱材料を使用して、これを防炎材4により被覆された電池セル2の外表面に巻回したものとしてもよい。
【0040】
このように構成された放熱部材を使用した場合には、上述の筒状体である放熱部材8を使用した場合と比較して、電池セル2の変形を抑制する効果は減少する。しかし、電池セルの変形は、通常使用時においてもわずかに発生しているため、シート状の放熱材料を防炎材4の外周面に巻回することにより構成された放熱部材は、通常使用時の変形に柔軟に対応することができる。
【0041】
なお、シート状の放熱材料を使用した場合であっても、シートを防炎材4の外表面に巻回した後、巻き終わりの端部をシートの一部に係止することにより、容易に筒状体の放熱部材8を作成することができる。
【0042】
〔第2の実施形態〕
図2は、本発明の第2の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。なお、以下の第2及び第3の実施形態を示す
図2及び
図3において、上記第1の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略又は簡略化する。
【0043】
第2の実施形態において、組電池20は、電池セル2の外周面2bにおける防炎材4と放熱部材8との間に、弾性部材5を有する。弾性部材5は、放熱部材8と同様に、例えば、両端部が開口した筒状体であって、電池セル2及び防炎材4の外周面を周方向に被覆しており、電池セルを押圧している。
【0044】
このように構成された第2の実施形態において、電池セル2を押圧する弾性部材5は、電池セル2の変形を抑制する効果と、電池セル2の変形を吸収する効果とを有する。すなわち、異常時に電池セル2が変形した場合に、放熱部材8は電池セル2の変形を抑制しつつ、電池セル2の変形に対して柔軟に変形するため、シート状の放熱材料からなる放熱部材を使用した場合であっても、電池セル2の変形を吸収し、電池ケース7の破壊を抑制することができる。
また、弾性部材5が防炎材4と放熱部材8との間に配置されていることにより、通常使用時においても、通常使用時における電池セル2の若干の変形を吸収することができ、隣接する他の電池セル2に対して不要な圧力が印加されることを防止することができる。
【0045】
〔第3の実施形態〕
図3は、本発明の第3の実施形態に係る組電池が収容された電池パックを模式的に示す断面図である。
第3の実施形態において、組電池30は、電池セル2の外周面2bにおける防炎材4及び放熱部材8のさらに外側に、弾性部材5を有する。弾性部材5は、上記第2の実施形態と同様に、例えば、両端部が開口した筒状体であって、防炎材4及び放熱部材8により被覆された電池セル2の外周面を周方向に被覆しており、電池セルを押圧している。
【0046】
このように構成された第3の実施形態は、例えば、シート状の放熱材料からなる放熱部材を使用した場合に、特に効果を発揮する。上述のとおり、防炎材4により被覆された電池セル2の外周面に、シート状の放熱材料からなる放熱部材を使用すると、電池セル2の変形を抑制する効果は減少する。これに対して、本実施形態では、放熱部材の外周面に更に弾性部材5を設けることにより、通常使用時及び異常時に、電池セル2の変形を抑制しつつ、変形を吸収し、電池ケース7の破壊を抑制することができる。
【0047】
なお、弾性部材5を構成する材料については後述するが、弾性部材5も防炎材4と同様に断熱性を有する材料で形成することができるため、放熱部材の外周面に弾性部材5を設けることにより、より一層断熱効果を得ることができる。
【0048】
また、弾性部材5を有する第2及び第3の実施形態において、弾性部材5は防炎材4又は放熱部材8の外周面全面を被覆する必要はなく、上記したような弾性部材5が奏する効果が期待できるものであればよい。例えば、外周面を周方向に被覆し、電池セル2を押圧するように構成されていれば、外周面の一部のみを被覆するものでもよい。
【0049】
次に、本実施形態に係る組電池を構成する防炎材4、放熱部材8及び弾性部材5について、詳細に説明する。
【0050】
(防炎材)
本実施形態に係る組電池10,20,30に用いられる防炎材4としては、有機繊維及び無機繊維の少なくとも一方を含有することが好ましく、必要に応じて無機粒子を含有することがより好ましい。本実施形態においては、これらの材料を、例えばシート状に加工したものを使用することができる。防炎材4を構成する材料としては、断熱性を有することが重要であるため、断熱性能が高い材料から選択される。
【0051】
無機繊維としては、例えば、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維およびチタン酸カリウムウィスカ繊維などが挙げられる。これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。無機繊維は、単独で使用してもよいし2種以上組み合わせて使用してもよい。無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0052】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、平断面、中空断面、多角断面、芯断面などが挙げられる。中でも、中空断面、平断面または多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0053】
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、防炎材4の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの、無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0054】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は15μmであり、より好ましい上限は10μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であるが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が15μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、防炎材の成形性および強度が悪化するおそれがある。
【0055】
有機繊維としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂からなる繊維が選択可能であり、例えば、変性されたポリエチレンテレフタラート(PET;PolyEthylene Terephthalate)、ポリエチレン(PE;PolyEthylene)、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリブチレンテレフタラート等からなる合成繊維を使用することができる。
【0056】
本実施形態において使用することができる合成繊維の種類及び構造等について、より詳細に以下に説明する。
ビニロン(vinylon):ビニルアルコール単位を質量比で65%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ビニラール(vinylal):アセタール化の水準の異なるポリビニルアルコールの長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride,chlorofiber):塩化ビニル単位を主成分として形成された長鎖状合成高分子から成る繊維。
ビニリデン(polyvinylidene chloride,chlorofiber):塩化ビニリデン単位(-CH2-CCl2-)を主成分として形成された長鎖状合成高分子から成る繊維。
アクリル(acrylic):アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
アクリル系(modacrylic):アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で35%以上、85%未満含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ナイロン(nylon,polyamide):繰り返しているアミド結合の85%以上が脂肪族又は環状脂肪族単位と結合している長鎖状合成高分子から成る繊維。
アラミド(aramid):2個のベンゼン環に直接結合しているアミド又はイミド結合が質量比で85%以上であり、イミド結合がある場合は、その数がアミド結合の数を超えない長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリエステル(polyester):テレフタル酸と2価アルコールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリエチレンテレフタラート(PET;polyethylene terephthalate):テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリトリメチレンテレフタラート(PTT;polytrimethylene terephthalate):テレフタル酸と1,3-プロパンジオールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリブチレンテレフタラート(PBT;polybutylene terephthalate):テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリエチレン(PE;polyethylene):置換基のない飽和脂肪族炭化水素で構成する高分子で、長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリプロピレン(PP;polypropylene):2個当たり1個の炭素原子にメチル基の側鎖がある飽和脂肪族炭化水素で構成する高分子で、立体規則性があり、他に置換基のない長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリウレタン(elastane,polyurethane):ポリウレタンセグメントを質量比で85%以上含み、張力をかけないときの長さの3倍に伸長したとき、張力を除くとすぐ元の長さに戻る長鎖状合成高分子から成る繊維。
ポリ乳酸(polylactide):乳酸エステル単位を質量比で50%以上含む長鎖状合成高分子から成る繊維。
有機繊維の平均繊維長及び平均繊維径の好ましい範囲は、無機繊維と同様である。
【0057】
無機粒子としては、耐熱性を有する化合物からなるものであることが好ましく、例えば、金属酸化物を使用することができる。
金属酸化物として、より具体的には、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、ムライト(Al6O13Si2)、ジルコニア(ZrO2)、マグネシア(MgO)、及びチタニア(TiO2)が挙げられるが、これらに限定されない。無機粒子としては、上記金属酸化物の他、窒化ホウ素(BN)及び炭化ホウ素(B4C)等が好適に挙げられる。
【0058】
(放熱部材)
本実施形態に係る組電池10,20,30に用いられる放熱部材の材料としては、電池セル2から発生し、放熱部材8にまで到達した熱を、放熱部材8の面方向に拡散し、放熱部材8の両端部側に放出するような伝熱性を有するものを選択することができる。
このような材料としては、例えば、熱伝導率が10(W/m・K)以上であることが好ましく、具体的には、金属、カーボン及びセラミックスから選択された少なくとも1種を選択することが好ましい。
なお、金属としては、ステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金等が挙げられる。
また、セラミックスとしては、SiC、AlN等が挙げられる。
【0059】
(弾性部材)
本実施形態に係る組電池10,20,30に用いられる弾性部材5としては、電池セル2の変形に対して柔軟に変形する弾性と、防炎材4又は放熱部材8の外周面に弾性部材5を装着した際に、電池セル2を押圧する伸縮性とを有するものであって、好ましくは断熱性を有する材料を使用することができる。このような弾性部材5としては、例えば、ゴム又はエラストマーを用いることができる。
なお、
図2及び
図3に示す弾性部材5は、両端部が開口した筒状体であり、外表面及び内表面は平滑に形成されたものであるが、弾性部材5の形状は上記
図2及び
図3に示す形状に限定されない。
【0060】
図4は、本発明の実施形態に係る組電池に適用される弾性部材の形状例を示す斜視図である。なお、以下に示す弾性部材の形状は、全て、
図2に示す組電池20又は
図3に示す組電池30の弾性部材5に代えて使用することができる。したがって、以下に示す種々の形状の弾性部材を組電池20,30に適用したものとして、その効果等を説明する。
図4に示すように、筒状体である弾性部材15の内表面には、弾性部材15の一端部15aから他端部15bに延びる複数の溝16が形成されている。なお、本実施形態において弾性部材5(筒状体)の一端部15a及び他端部15bとは、それぞれ弾性部材5の長手方向(
図2において上下方向)における一方の端部及び他方の端部を意味し、すなわち、筒状体の開口端部を示す。
【0061】
このように構成された弾性部材15を
図2に示す組電池20、又は
図3に示す組電池30に用いた場合は、それぞれ、第2の実施形態又は第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、弾性部材15は、その内表面に溝16を有するため、弾性部材15と防炎材4との間、又は弾性部材15と放熱部材8との間に空隙部が形成される。したがって、弾性部材15にまで熱が到達した場合に、空隙部における気体が熱せられ、高温の気体が、空隙部を介して弾性部材15の一端部15a及び他端部15b側に排出される。その結果、新たな気体が空隙部に導入されるため、電池セル2を効果的に冷却することができる。
【0063】
なお、弾性部材15に形成される溝16の数、深さ及び周方向の幅等は特に制限されない。溝16の数、深さ及び周方向の幅を変化させることにより、弾性部材15の弾性及び伸縮性等を変化させることができるため、要求される特性及び電池ケース7における電池セル2を収容する領域のサイズに応じて、種々に設計することができる。
また、溝16は、必ずしも弾性部材15の長手方向に平行な方向に形成される必要はないが、電池セル2の熱を隣接する電池セル2に伝播させないようにするために、熱せられた気体は、電池セル2の電極面2a側及び電極面2aに対向する面側に排出されることが好ましい。したがって、溝16を形成する場合は、弾性部材15の一端部15aから他端部15bに延びるように形成すればよい。
溝16が弾性部材15の長手方向に平行な方向ではなく、平行な方向に対して所定の角度を有するように形成された場合に、電池セル2の表面におけるより広い領域を冷却することができる。なお、溝16は螺旋状となるように形成されていてもよいし、曲線状に形成されていてもよい。
上記所定の角度とは、上記平行な方向に対して0°超であることが好ましい。一方、上記所定の角度が45°以下であると、熱せられた高温気体を効率よく排出することができる理由から好ましく、30°以下であることがより好ましい。
【0064】
図5は、本発明の実施形態に係る組電池に適用される弾性部材の他の形状例を示す斜視図である。
図5に示すように、弾性部材25は両端部が開口した筒状体であり、内表面及び外表面は平滑に形成されているが、その内部に、一端部25aから他端部25bに貫通する複数の貫通孔27が形成されている。
【0065】
このように構成された弾性部材25を用いた組電池においても、上記弾性部材5及び弾性部材15を使用した場合と同様の効果を得ることができる。また、弾性部材25は、厚み方向の内部に貫通孔27を有するため、貫通孔27の内部が空隙部となっている。したがって、電池セル2から発生した熱が弾性部材25まで到達した場合に、貫通孔27の内部の気体が熱せられた後、高熱の気体が、貫通孔27を介して弾性部材25の一端部15a及び他端部15b側に排出される。その結果、新たな気体が貫通孔27内に導入されるため、電池セル2を効果的に冷却することができる。
【0066】
なお、弾性部材25に形成される貫通孔27の数及び大きさ等は特に制限されない。
図4に示す弾性部材15と同様に、要求される弾性部材25の特性及び電池ケース7における電池セル2を収容する領域のサイズに応じて、種々に設計することができる。
また、貫通孔27は、必ずしも弾性部材25の長手方向に平行な方向に形成される必要はなく、貫通孔27を形成する場合は、弾性部材25の一端部25aから他端部25bに延びるように形成すればよい。
貫通孔27が弾性部材25の長手方向に平行な方向ではなく、平行な方向に対して上記所定の角度を有するように形成された場合に、電池セル2の表面におけるより広い領域を冷却することができる。なお、貫通孔27は螺旋状となるように形成されていてもよいし、曲線状に形成されていてもよい。
【0067】
図6は、本発明の実施形態に係る組電池に適用される弾性部材のさらに他の形状例を示す斜視図である。
図6に示すように、弾性部材35は、複数のチューブが、その長手方向に並列に配置されて、隣接した面同士が互いに接着された形状となっている。したがって、
図4に示す弾性部材15と同様に、内表面に複数の溝36が形成されているとともに、
図5に示す弾性部材25と同様に、厚み方向の内部に、一端部35aから他端部35bに貫通する複数の貫通孔37が形成されている。
【0068】
このように構成された弾性部材35を用いた組電池においても、上記弾性部材5,15,25を使用した場合と同様の効果を得ることができる。また、弾性部材35は、溝36を有し、弾性部材35と防炎材4との間、又は弾性部材35と放熱部材8との間に空隙部が形成されるとともに、貫通孔37も有している。したがって、空隙部と貫通孔37との双方の存在により、熱せられた気体が、弾性部材35の一端部35a及び他端部35b側に排出される効果が高くなり、より一層効果的に電池セル2を冷却することができる。
【0069】
なお、弾性部材35に形成される貫通孔37の数及び大きさ、並びに溝36の深さ等は、適宜設計することができる。
また、上記弾性部材15及び弾性部材25の場合と同様に、溝36及び貫通孔37が弾性部材35の長手方向に平行な方向ではなく、平行な方向に対して上記所定の角度を有するように形成された場合に、電池セル2の表面におけるより広い領域を冷却することができる。溝36及び貫通孔37は螺旋状となるように形成されていてもよいし、曲線状に形成されていてもよい。
【0070】
<電池ケース>
本実施形態に係る組電池10,20,30を収容する電池ケース7の材質及び形状は特に限定されない。電池ケース7の材質としては、ポリカーボネートの他、PP、PET、ポリアミド(PA;polyamide)、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS;Steel Use Stainless)等を使用することができる。また、電池ケース7の形状は、適用される電動工具等の機器に応じて、自由に選択することができる。
なお、本実施形態に係る組電池10,20,30は、各電池セル2が独自に断熱性を有しているとともに、隣接する電池セル2への熱の伝播をさらに抑制する放熱部材8を有しており、熱連鎖の発生を抑制することができるため、電池ケース7に収容されていなくてもよい。例えば、防炎材4及び放熱部材8により被覆された複数の電池セル2をまとめて、バンド等により固定して組電池とすることにより、そのままの形態で電動工具等の機器の内部に格納することもできる。
【0071】
[組電池の組立方法]
本実施形態に係る組電池10は、電池セル2を防炎材4で被覆し、これに、例えば筒状体である放熱部材8を装着するのみで、上記効果を有する組電池を容易に組み立てることができる。また、各電池セル2のそれぞれに、防炎材4及び放熱部材8を取り付けるため、電池ケース7の煩雑な設計が不要である。なお、弾性部材5,15,25,35を装着する場合であっても同様に、容易に組電池20,30を組み立てることができ、電池ケース7の煩雑な設計が不要である。
さらに、本実施形態においては、防炎材4がシート状のものであると、電池セル2の形状及び大きさにかかわらず、容易に電池セル2の外周面を覆う大きさに加工することができる。また、弾性部材を装着する場合に、弾性部材は伸縮性を有するため、電池セル2の形状及び大きさに影響されず、種々の電池セル2に容易に取り付けることができる。
【0072】
なお、本実施形態に係る組電池及び電池パックは、電動工具の他、電動アシスト自転車、電動バイク、電動車両等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 電池パック
2 電池セル
2a 電極面
3 電極
4 防炎材
5,15,25,35 弾性部材
7 電池ケース
8 放熱部材
10,20,30 組電池
16,36 溝
27,37 貫通孔
【要約】
【課題】通常時及び異常時に、各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、効率的に電池セルを冷却して、熱暴走の発生を抑制することができ、設計及び組立が容易である組電池及び電池パックを提供する。
【解決手段】各電池セル2は、電極3を有する電極面2aと、電極面2aに直交する面である外周面2bとを有し、各電池セル2は、その外周面2b同士が対向するように配置され、電極3及び不図示のコネクタ等を介して直列又は並列に接続されている。電池セル2の外周面は防炎材4により被覆され、さらに防炎材4の外周面は放熱部材8により被覆されており、これにより、組電池10が構成されている。放熱部材8は、例えば両端部が開口した筒状体であり、電池セル2及び防炎材4の外周面を被覆している。
【選択図】
図1