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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】ダム堆積物下流還元方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/20 20060101AFI20220615BHJP
   E02B 8/00 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
E02B7/20 106
E02B8/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018046249
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019157516
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000172961
【氏名又は名称】あおみ建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149594
【氏名又は名称】株式会社大本組
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000155034
【氏名又は名称】株式会社本間組
(73)【特許権者】
【識別番号】599027312
【氏名又は名称】株式会社 吉田組
(73)【特許権者】
【識別番号】503275129
【氏名又は名称】りんかい日産建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000182030
【氏名又は名称】若築建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591102006
【氏名又は名称】一般財団法人水源地環境センター
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】武井 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】榊 晋介
(72)【発明者】
【氏名】工藤 和重
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 正和
(72)【発明者】
【氏名】浅田 英幸
(72)【発明者】
【氏名】峯松 麻成
(72)【発明者】
【氏名】岩田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 隆詞
(72)【発明者】
【氏名】新谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】金子 貴一
(72)【発明者】
【氏名】北村 匡
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-316275(JP,A)
【文献】特開2001-020318(JP,A)
【文献】特開2005-042392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20
E02B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの貯水池の堆積物をダムの下流に供給するダム堆積物下流還元方法であって、
平常時に貯水池から浚渫された堆積物を所定粒径以下のシルト粘土分と前記所定粒径を超えた砂とに分級し、
前記分級されたシルト粘土分を排泥貯留部に送り、
前記排泥貯留部で前記シルト粘土分を貯留し沈殿させ、
洪水時に前記貯水池から前記排泥貯留部に給水し、前記沈殿したシルト粘土分を攪拌して泥水とし、ダムの放流量(m/秒)に基づいて前記泥水を前記ダムの下流に供給し、
前記泥水の供給量(m /秒)は、前記放流量と、前記泥水の濁度と、前記ダムの下流における許容濁度とに基づいて決定されるダム堆積物下流還元方法。
【請求項2】
前記分級された砂をダム下流置土とする請求項1に記載のダム堆積物下流還元方法。
【請求項3】
前記排泥貯留部における上澄みの余水を排出し濁水処理した後に前記貯水池に戻す請求項1または2に記載のダム堆積物下流還元方法。
【請求項4】
前記泥水の供給を前記放流量が予め設定した所定値以上となった時に開始する請求項1乃至3のいずれかに記載のダム堆積物下流還元方法。
【請求項5】
前記泥水の供給量(m/秒)を前記放流量の増加に応じて増やし、前記泥水の供給を前記放流量の収束に合わせて停止する請求項1乃至4のいずれかに記載のダム堆積物下流還元方法。
【請求項6】
ダムの貯水池の堆積物をダムの下流に供給するダム堆積物下流還元システムであって、
貯水池から浚渫された堆積物を所定粒径以下のシルト粘土分と前記所定粒径を超えた砂とに分級する分級装置と、
前記分級されたシルト粘土分を貯留し沈殿させる排泥貯留部と、
前記排泥貯留部に沈殿したシルト粘土分を攪拌する攪拌装置と、
前記貯水池から前記排泥貯留部に給水するポンプと、
前記排泥貯留部における泥水の濁度を測定する第1の濁度計と、を備え、
洪水時に前記排泥貯留部において前記ポンプにより給水されるとともに前記シルト粘土分が前記攪拌装置により攪拌されて泥水とされ、ダムの放流量(m/秒)に基づいて前記泥水を前記ダムの下流に供給するように構成され
前記泥水の供給量(m /秒)は、前記放流量と、前記第1の濁度計により測定された濁度と、前記ダムの下流における許容濁度とに基づいて制御されるダム堆積物下流還元システム。
【請求項7】
前記貯水池からの給水量を制御する給水制御バルブと、
前記排泥貯留部で攪拌された泥水を排出する際の排水量を制御する排水制御バルブと、
前記排出される泥水の流量を測定する流量計と、をさらに備え、
前記泥水の供給量の増減を前記給水制御バルブにより行い、
前記泥水の供給量の微調整を前記流量計による測定結果に基づいて前記排水制御バルブにより行う請求項に記載のダム堆積物下流還元システム。
【請求項8】
前記排泥貯留部における上澄みの余水を濁水処理する濁水処理装置をさらに備える請求項6または7に記載のダム堆積物下流還元システム。
【請求項9】
前記攪拌装置は、鉛直方向に延びる支持軸に支持された攪拌部と、回転部と、を備え、前記回転部の回転により前記排泥貯留部と前記攪拌部とを相対的に回転させることで前記攪拌部が前記排泥貯留部のシルト粘土分を攪拌する請求項乃至のいずれかに記載のダム堆積物下流還元システム。
【請求項10】
前記攪拌装置は、前記排泥貯留部内を水平移動可能な移動部と、前記移動部から延びたアームと、前記アームの先端に設けられ略水平方向に延びる回転軸を中心に回転する攪拌部と、を備え、前記移動部の移動により前記攪拌部が回転しながら前記排泥貯留部のシルト粘土分を攪拌する請求項乃至のいずれかに記載のダム堆積物下流還元システム。
【請求項11】
前記排泥貯留部から排出された泥水の濁度を測定する第2の濁度計をさらに備え、
前記泥水の濁度の増減を前記第2の濁度計による測定結果に基づいて前記攪拌装置の前記回転部の制御により行う請求項に記載のダム堆積物下流還元システム。
【請求項12】
前記排泥貯留部から排出された泥水の濁度を測定する第2の濁度計をさらに備え、
前記泥水の濁度の増減を前記第2の濁度計による測定結果に基づいて前記攪拌装置の前記移動部の制御により行う請求項10に記載のダム堆積物下流還元システム
【請求項13】
前記洪水の発生の判断に基づいて前記ポンプと前記攪拌装置とが自動的に作動し前記泥水の供給量が自動的に制御される請求項乃至12のいずれかに記載のダム堆積物下流還元システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダムの貯水池の堆積物をダムの下流に供給するダム堆積物下流還元方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダムの貯水池は、上流から流入した土砂が堆積することで、供用開始からの時間経過に伴い、貯水容量が減少してゆく。また、ダム上流域の河床が上昇し、洪水リスクの増大や下流域においては河床低下や海岸線の後退など、いろいろな悪影響が発生している。この対策として、近年、流砂系の「総合土砂管理」の考え方に基づき、ダムの土砂等の堆積物を除去することやダム下流に排出(以下、「供給」ともいう。)することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-294677号公報
【文献】特開2001-164543号公報
【文献】特開平10-118697号公報
【文献】特開2001-20318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記総合土砂管理において、現在最も一般的な方法は、貯水池を浚渫し、浚渫土をダム下流までダンプトラックで運搬し仮置しておき、洪水時にダム下流へ供給する方法である。しかし、この置土工法の場合、シルトや粘土が過大に含まれた浚渫土をそのまま供給すると河川の長期濁水化の原因となり、河川環境上望ましくないため、シルト粘土分が10%以下の清浄な材料しか置土材として利用できない。
【0005】
また、洪水時のダム放流量が少ない状態で浚渫土についてフラッシング(流水で押し流すこと)を行った場合、河川内にシルト粘土分が残留し、魚類等に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
ダムに排砂ゲートが設置されているダム(宇奈月ダム・出し平ダム)の設置条件は、排砂のために水位が低下した場合、ダムの貯水位回復に時間を要すると発電や利水に大きな影響を与えるため、貯水容量に対して河川流量が充分に多いことが求められる。
【0007】
特許文献1,2は、静水圧を利用した水中堆積物の流送・排出方法を提案する。しかし、これらの吸引方法や排砂バイパスはバイパストンネルやダムの改造など大規模な工事が必要となる。また、特許文献3は、ダムの長期濁水化を防止するためにスラリー状混合物をシルト粘土分と有機物とに分離し、シルト粘土分をダム水底に戻し有機物を分解処理することを提案するが、この方法は脱水処理と分解処理のコストがかさむ。
【0008】
特許文献4は、貯水池から浚渫した底泥による泥水を砂礫とシルト粘土分とに分級し、砂礫を下流の河川に戻し、シルト粘土分は、脱水処理等されてから、脱水汚泥として再処理される方法を提案する。しかし、シルト粘土分の処理は下流供給を目指したものではない。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、ダムの貯水池の堆積物に含まれるシルト粘土分をダムの下流に供給しても下流の河川へ悪影響を及ぼさないダム堆積物下流還元方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためのダム堆積物下流還元方法は、ダムの貯水池の堆積物をダムの下流に供給するダム堆積物下流還元方法であって、平常時に貯水池から浚渫された堆積物を所定粒径以下のシルト粘土分と前記所定粒径を超えた砂とに分級し、前記分級されたシルト粘土分を排泥貯留部に送り、前記排泥貯留部で前記シルト粘土分を貯留し沈殿させ、洪水時に前記貯水池から前記排泥貯留部に給水し、前記沈殿したシルト粘土分を攪拌して泥水とし、ダムの放流量(m/秒)に基づいて前記泥水を前記ダムの下流に供給し、前記泥水の供給量(m /秒)は、前記放流量と、前記泥水の濁度と、前記ダムの下流における許容濁度とに基づいて決定されるものである。
【0011】
このダム堆積物下流還元方法によれば、平常時にダムの貯水池を浚渫し、浚渫された堆積物をシルト粘土分と砂とに分級し、分級されたシルト粘土分を排泥貯留部で貯留し沈殿させておき、洪水の発生時に、排泥貯留部に給水しかつ沈殿したシルト粘土分を攪拌して泥水としてから、その泥水をダムの放流量(m3/秒)に基づいてダムの下流に供給するので、下流の河川内にシルト粘土分が残留しないような充分な放流量のときに泥水をダムの下流に供給することができる。このため、貯水池の堆積物のうちのシルト粘土分をダムの下流に供給しても河川への悪影響がない。
【0012】
上記ダム堆積物下流還元方法において、前記分級された砂をダム下流置土とすることが好ましい。これにより、堆積物の分級により生じた砂を下流に供給し還元でき、また、シルト粘土分を含まないので河川の濁水化のおそれがない。なお、かかる砂は、骨材として有効利用することもできる。
【0013】
また、前記排泥貯留部における上澄みの余水を排出し濁水処理した後に前記貯水池に戻すことが好ましい。
【0014】
また、前記泥水の供給を前記放流量が予め設定した所定値以上となった時に開始することが好ましい。
【0015】
また、前記泥水の供給量(m3/秒)を前記放流量の増加に応じて増やし、前記泥水の供給を前記放流量の収束に合わせて停止することが好ましい。
【0016】
また、前記泥水の供給量(m/秒)は、前記放流量と、前記泥水の濁度と、前記ダムの下流における許容濁度とに基づいて決定されることにより、シルト粘土分を含む泥水を下流に供給しても、下流の河川が許容濁度を超えることがない。
【0017】
上記目的を達成するためのダム堆積物下流還元システムは、ダムの貯水池の堆積物をダムの下流に供給するダム堆積物下流還元システムであって、貯水池から浚渫された堆積物を所定粒径以下のシルト粘土分と前記所定粒径を超えた砂とに分級する分級装置と、前記分級されたシルト粘土分を貯留し沈殿させる排泥貯留部と、前記排泥貯留部に沈殿したシルト粘土分を攪拌する攪拌装置と、前記貯水池から前記排泥貯留部に給水するポンプと、前記排泥貯留部における泥水の濁度を測定する第1の濁度計と、を備え、洪水時に前記排泥貯留部において前記ポンプにより給水されるとともに前記シルト粘土分が前記攪拌装置により攪拌されて泥水とされ、ダムの放流量(m/秒)に基づいて前記泥水を前記ダムの下流に供給するように構成され、前記泥水の供給量(m /秒)は、前記放流量と、前記第1の濁度計により測定された濁度と、前記ダムの下流における許容濁度とに基づいて制御される
【0018】
このダム堆積物下流還元システムによれば、平常時にダムの貯水池から浚渫された堆積物を分級装置でシルト粘土分と砂とに分級し、分級されたシルト粘土分を排泥貯留部で貯留し沈殿させておき、洪水の発生時に、貯水池からポンプで排泥貯留部に給水しかつ沈殿したシルト粘土分を攪拌装置で攪拌して泥水としてから、その泥水をダムの放流量(m3/秒)に基づいてダムの下流に供給するので、ダムの下流の河川内にシルト粘土分が残留しないような充分な放流量のときに泥水をダムの下流に供給することができる。このため、貯水池の堆積物のうちのシルト粘土分をダムの下流に供給しても河川への悪影響がない。
【0019】
上記ダム堆積物下流還元システムにおいて前記泥水の供給量(m/秒)は、前記放流量と、前記第1の濁度計により測定された濁度と、前記ダムの下流における許容濁度とに基づいて制御されることにより、シルト粘土分を含む泥水を下流に供給しても、下流の河川で許容濁度を超えることがない。
【0020】
また、前記貯水池からの給水量を制御する給水制御バルブと、前記排泥貯留部で攪拌された泥水を排出する際の排水量を制御する排水制御バルブと、前記排出される泥水の流量を測定する流量計と、をさらに備え、前記泥水の供給量の増減を前記給水制御バルブにより行い、前記泥水の供給量の微調整を前記流量計による測定結果に基づいて前記排水制御バルブにより行うことが好ましい。
【0021】
また、前記排泥貯留部における上澄みの余水を濁水処理する濁水処理装置をさらに備えることが好ましい。
【0022】
前記攪拌装置は、鉛直方向に延びる支持軸に支持された攪拌部と、回転部と、を備え、前記回転部の回転により前記排泥貯留部と前記攪拌部とを相対的に回転させることで前記攪拌部が前記排泥貯留部のシルト粘土分を攪拌するように構成されることが好ましい。なお、排泥貯留部と攪拌部との相対的な回転に伴って、支持軸が攪拌部とともに下方に移動するように構成することが好ましい。
【0023】
また、前記攪拌装置は、前記排泥貯留部内を水平移動可能な移動部と、前記移動部から延びたアームと、前記アームの先端に設けられ略水平方向に延びる回転軸を中心に回転する攪拌部と、を備え、前記移動部の移動により前記攪拌部が回転しながら前記排泥貯留部のシルト粘土分を攪拌するように構成してもよい。
【0024】
また、前記排出される泥水の濁度を測定する濁度計をさらに備え、前記泥水の濁度の増減を前記濁度計による測定結果に基づいて前記攪拌装置の前記回転部または前記移動部の制御により行うことが好ましい。
【0025】
また、前記洪水の発生の判断に基づいて前記ポンプと前記攪拌装置とが自動的に作動し前記泥水の供給量が自動的に制御されるように構成することが好ましい。これにより、ダム堆積物下流還元システムを自動的に作動させ制御することができ、無人化自動運転が可能になる。なお、洪水発生の判断は、ダム上流地域の降水量データやダムの水位などに基づいてダム管理者によりなされるが、降水量データやダムの水位などの各種情報に基づいて自動的にポンプと攪拌装置とが作動するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のダム堆積物下流還元方法およびシステムによれば、ダムの貯水池の堆積物に含まれるシルト粘土分をダムの下流に供給しても下流の河川へ悪影響を及ぼすことがない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は本実施形態によるダム堆積物下流還元システムおよびその周辺のダム等を概略的に示す図である。
図2】本実施形態によるダム堆積物下流還元方法の平常時における工程を説明するためのフローチャートである。
図3】本実施形態によるダム堆積物下流還元方法の洪水時における主要な工程を説明するためのフローチャートである。
図4】本実施形態において泥水をダムの下流に供給し停止するタイミングを説明するために放流量と時間との関係を概略的に示すグラフである。
図5図1の排泥タンク、攪拌装置およびその周囲の構成を概略的に示す斜視図である。
図6図5の排泥タンク内の攪拌部を示す平面図である。
図7図6のVII-VII線方向に切断して見た図である。
図8】本実施形態によるダム堆積物下流還元システムの制御システムを概略的に示すブロック図である。
図9図1図5の排泥タンク内におけるダム下流供給前の泥水の濁度測定およびダム下流への泥水の供給量決定の各工程を説明するためのフローチャートである。
図10】泥水のダム下流供給後の供給量調整および濁度調整の各工程を説明するためのフローチャートである。
図11】本実施形態による別の攪拌装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態によるダム堆積物下流還元システムおよびその周辺のダム等を概略的に示す図である。
【0029】
図1のように、本実施形態によるダム堆積物下流還元システム10は、ダム1の貯水池2近くに設置され、上流4から貯水池2に流入し堆積した土砂等の堆積物3を浚渫してから、その浚渫された堆積物を粒径0.075mm以下のシルト粘土分と粒径0.075mmを超えた砂とに分級する分級装置11と、分級装置11からパイプライン圧送で送られたシルト粘土分を貯留し沈殿させ、洪水時に沈殿したシルト粘土分を攪拌する攪拌装置を有する排泥タンク12と、排泥タンク12の上澄みの余水を濁水処理し貯水池2に戻す濁水処理装置13と、洪水時に排泥タンク12に給水する水中ポンプ14と、を備える。洪水時に排泥タンク12では沈殿したシルト粘土分を攪拌し給水された水で泥水とし、この泥水をダム1の下流5に排出し供給する。
【0030】
分級装置11は、公知の各種の分級機・分級装置を使用でき、たとえば、スパイラル分級機、ドラグ分級機、ロータリー分級機、水力分級機、サイザー、湿式サイクロン等を用いることができる。
【0031】
また、濁水処理装置13は、公知の各種の濁水処理装置・濁水処理プラントを使用でき、たとえば、懸濁物の沈殿分離、中和、排泥などの各処理機能を有し濁度の低い処理水を排出する濁水処理装置等を用いることができる。
【0032】
次に、図1のダム堆積物下流還元システム10によるダム堆積物下流還元方法について図1図4を参照して説明する。図2は本実施形態によるダム堆積物下流還元方法の平常時における工程を説明するためのフローチャートである。図3は本実施形態によるダム堆積物下流還元方法の洪水時における主要な工程を説明するためのフローチャートである。図4は本実施形態において泥水をダムの下流に供給し停止するタイミングを説明するためにダム放流量と時間との関係を概略的に示すグラフである。
【0033】
まず、平常時に、図1図2のように、貯水池2に堆積した土砂等の堆積物3を浚渫船等により浚渫し(S01)、その浚渫された堆積物を分級装置11で分級し(S02)、分級された粒径0.075mmを超えた砂(S03)と粒径0.075mm以下のシルト粘土分(S04)とは、それぞれ次のように処理される。
【0034】
すなわち、粒径0.075mmを超えた砂は、仮置場18に暫定的に置かれてから(S05)、適時にダンプカー等で運搬されてダム下流置土19とされ(S06)、また、骨材として有効利用される(S07)。
【0035】
また、粒径0.075mm以下のシルト粘土分は、分級装置11からパイプライン圧送により排泥タンク12に送られる(S08)。排泥タンク12内でシルト粘土分は貯留されて沈殿し(S09)、また、その上澄みの余水が生じる(S10)。排泥タンク12内の余水は濁水処理装置13に送られて濁水処理され(S11)、濁度の低い処理水が貯水池2に戻される(S12)。
【0036】
以上の工程S01~S12がダム堆積物下流還元システム10において平常時に実行される。
【0037】
次に、洪水時に、図1図3のように、洪水が発生したと判断されると(S21)、貯水池2から水中ポンプ14により排泥タンク12に給水を開始し(S22)、排泥タンク12に沈殿したシルト粘土分を攪拌装置により攪拌し(S23)、泥水を作製する(S24)。なお、給水工程S22では、ダム湖表層水(濁度約50PPM以下)を取水して排泥タンク12へ給水することが好ましい。
【0038】
なお、洪水発生の判断工程S21は、通常、ダムの上流地域の降水量やダムの貯水池の水位などの各種の洪水情報に基づいてダム管理者によってなされるが、ダム管理者により発せられる洪水発生信号を制御システムの制御装置41(図8)が受信することで判断するようにしてもよい。また、これらの洪水情報に基づいて制御装置41(図8)が自動的に判断するように構成してもよい。
【0039】
また、図3では、泥水作製のための給水工程S22と攪拌工程S23とを洪水発生判断工程S21の後に開始するが、通常、洪水発生判断時からダム放流開始時までにはある程度の時間があるので、その間に泥水を作製することができる。また、図4のようにダム放流開始時から泥水のダム下流供給時(T1)まである程度の時間があるので、ダム放流開始の確認後に給水工程S22と攪拌工程S23とを開始するようにしてもよい。
【0040】
洪水発生判断の後にダム1の常用洪水吐から放流が開始され(S25)、ダム下流5の水位が上昇すると、砂からなるダム下流置土19がダム下流5へと供給される(S26)。なお、ダム1からの放流が終了し、ダム下流5の水位が低下し元通りになると、ダム下流置土19のダム下流5への供給が終了する。
【0041】
また、図4のように、ダム1からの単位時間当たりの放流量Q(m3/秒)が時間とともに増加し、時間T1で予め設定した第1の所定量Q1以上となると(S27)、排泥タンク12から泥水を排出しダム下流5へ供給する(S28)。第1の所定量Q1は、ダムの下流の河川内にシルト粘土分が残留しないような充分な放流量に設定される。
【0042】
洪水時にダム1からの単位時間当たりの放流量Q(m3/秒)は、図4のように、時間とともに増加し、やがてピーク放流量に達し(S29)、その後、時間とともに減少し、時間T2で予め設定した第2の所定量Q2以下となると(S30)、泥水のダム下流5への供給を停止する(S31)。
【0043】
本実施形態のダム堆積物下流還元方法によれば、平常時にダムの貯水池から浚渫された堆積物を分級装置11でシルト粘土分と砂とに分級し、分級されたシルト粘土分を排泥タンク12で貯留し沈殿させておき、洪水の発生時に、貯水池2から水中ポンプ14で排泥タンク12に給水し、沈殿したシルト粘土分を攪拌して泥水としてから、その泥水をダム1の放流量(m3/秒)がダムの下流の河川内にシルト粘土分が残留しないような充分な放流量(図4の第1の所定量Q1)に達したときに、ダムの下流に供給する。このため、泥水をダム下流へ適切な供給時期に供給でき、シルト粘土分を含む泥水をダムの下流に供給しても河川へ悪影響を及ぼさない。
【0044】
従来の一般的な置土工法ではダム下流の河道に土砂を直接置くため、洪水が小規模の場合には置土材料が流れきらず、河道内にシルト粘土分が残留することになり、河川環境に悪影響を及ぼす可能性があった。これに対し、本実施形態によれば、一定規模以上の洪水が発生した場合に、すなわち、ダム1の単位時間当たりの放流量Q(m3/秒)が第1の所定量Q1以上となった時に、シルト粘土分を含む泥水をダム下流に供給することで、ダム下流の河道内にシルト粘土分が残留しない。
【0045】
また、図4の放流量Qが第1の所定量Q1以上となった時に泥水の下流供給を開始し、ダムの放流量の増加に合わせて泥水の供給量を増やし、ピーク放流量に達した後の洪水の収束に合わせて泥水の供給を第2の所定量Q2以下で停止することで、効率的で河川環境に悪影響を及ぼさない泥水のダム下流供給が可能となる。
【0046】
また、図4のように、時間T1、ダムの放流量Q1で泥水の下流供給を開始し、時間T2、ダムの放流量Q2で泥水の下流供給を停止するが、Q1<Q2と設定し、泥水の供給停止時のダムの放流量Q2を高めに設定することで、泥水の供給停止後に泥水が流れきり、ダム下流5の河道内にシルト粘土分が残留せず、河川内を充分に清浄な状態に戻すことができる。
【0047】
また、シルト粘土分が多く、河川還元には元来適していない堆積物であっても、浚渫後の堆積物を分級処理することで、河川還元に適した材料に改良することができる。これにより、河床低下対策となり、望ましい魚類の生息環境を実現できる。
【0048】
また、最も実績が多くイニシャルコストが安価な置土工法をベースにし、排泥タンクからシルト粘土分を泥水にして供給することで、洪水時の河川環境を考慮したダム堆積物下流還元方法・システムを提供できる。特許文献1,2の吸引工法や排砂バイパストンネルのような大規模な工事が不要であるため、イニシャルコストが安価である。
【0049】
また、一般的な浚渫工法と置土工法とによる工法と比較して、土捨場が不要であり、砂のみの運搬でよく運搬コストが低減するためランニングコストが安価である。
【0050】
次に、図1のダム堆積物下流還元システムの排泥タンク、攪拌装置およびその周囲の構成について、図5図7を参照して説明する。図5は、図1の排泥タンク、攪拌装置およびその周囲の構成を概略的に示す斜視図である。図6は、図5の排泥タンク内の攪拌部を示す平面図である。図7は、図6のVII-VII線方向に切断して見た図である。
【0051】
図5のように、排泥タンク12は、円筒状に構成され、内部にシルト粘土分が沈殿し貯留可能に構成され、沈殿したシルト粘土分を攪拌するための攪拌装置20を有する。なお、排泥タンク12は、回転可能なように地盤に設置されるが、その設置構造は図5では図示を省略している。また、攪拌装置20を有する排泥タンク12は、複数基設置してもよい。
【0052】
攪拌装置20は、排泥タンク12内で水平方向に延びる攪拌部21と、排泥タンク12の中心に位置し鉛直方向に延びて攪拌部21を支持する支持軸22と、支持軸22を攪拌部21とともに鉛直方向上下に移動させる鉛直移動装置23と、排泥タンク12内のシルト粘土分6を攪拌するために排泥タンク12を攪拌部21および支持軸22に対し回転させる水平回転装置24と、を備える。
【0053】
攪拌部21は、図5図7のように、中心の支持軸22から排泥タンク12の半径方向に放射状に延びる複数の攪拌棒21a~21hを有する。複数の攪拌棒21a~21hは、円周方向に等間隔に配置され、各攪拌棒21a~21hの下端から下方に傾斜して排泥タンク12内のシルト粘土分6を削ることで攪拌するための排土板26a~26hと、各排土板26a~26hに沿ってシルト粘土分6に向けて給水管27aから噴流水JWを噴出するジェットノズル27と、を有する。
【0054】
排土板26a~26hは、図6のように、各攪拌棒21a~21hの水平方向長さよりも水平方向長さが短く、各々の半径方向位置が隣接の排土板に対し相違するとともに、排土板26a~26h全体として支持軸22から半径方向外周まで満遍なく位置するように構成される。排泥タンク12が回転方向Rに回転すると、図6図7のように、各排土板26a~26hがジェットノズル27から噴流水JWをシルト粘土分6に噴出しながらシルト粘土分6を表面から少しずつ削り取り攪拌することができる。また、ジェットノズル27からの噴流水JWの噴出により固結したシルト粘土分でも充分に解泥できる。
【0055】
鉛直移動装置23は、図5のように、排泥タンク12の上方の水平部25に配置され、公知の電動スピンドル構造からなり、支持軸22のねじ部22aと螺合することで回転運動を支持軸22の直線移動に変換する。これにより、攪拌部21をシルト粘土分の攪拌の進行に合わせて支持軸22とともに図7の下方に移動させることができ、排泥タンク12内のシルト粘土分6を上部から下部まで攪拌できる。なお、水平部25は、支持体25a~25dにより支持されている。
【0056】
水平回転装置24は、図5のように、排泥タンク12の外周に一周配置された外周歯車24aと、外周歯車24aと螺合する回転歯車24bと、回転歯車24bを回転させる電動モータ29と、を有する。電動モータ29の回転により回転歯車24bが回転すると、外周歯車24aとともに排泥タンク12が回転する。
【0057】
排泥タンク12の回転に伴う攪拌部21によるシルト粘土分6の攪拌量は、電動モータ29の回転速度と、攪拌部21の鉛直移動装置23による下方移動速度とによって調整することができる。
【0058】
図5のように、ダム堆積物下流還元システム10は、図1の分級装置11から排泥タンク12に延びる配管31を有し、配管31を通して分級装置11で分級されたシルト粘土分が圧送により排泥タンク12に送られる。
【0059】
また、図5の排泥タンク12の上部から図1の濁水処理装置13へと延びる配管32と、ポンプ33とを有し、排泥タンク12内の上澄みの余水がポンプ33の作動により配管32を通して濁水処理装置13に送られる。
【0060】
また、図1の貯水池2の水中ポンプ14から排泥タンク12に延びる配管34を有し、水中ポンプ14の作動により貯水池2から配管34を通して排泥タンク12に給水される。かかる給水は、配管34の途中に設けられた給水制御バルブ35により制御される。
【0061】
また、図5の排泥タンク12の上部から図1のダム下流5へと延びる泥水供給管36と、泥水ポンプ37とを有し、排泥タンク12内でシルト粘土分から作製された泥水が泥水ポンプ37の作動により泥水供給管36を通してダム下流5に供給される。かかる泥水のダム下流5への供給は、泥水供給管36の途中に設けられた泥水制御バルブ38により制御される。
【0062】
なお、給水制御バルブ35と泥水制御バルブ38は、公知の制御バルブ、制御弁、調節弁等を使用でき、水の流量を制御する制御機構と、この制御機構を駆動する駆動部とを有し、制御信号により駆動部を制御し制御機構で水の流量を制御する。
【0063】
また、図5のように、排泥タンク12内には排泥タンク12内の泥水の濁度を測定する第1の濁度計28が配置されている。また、図5の泥水供給管36には、泥水制御バルブ38の上流側にダム下流へ供給される泥水の濁度を測定する第2の濁度計39が配置され、また、泥水制御バルブ38の下流側に泥水の流量を測定する流量計40が配置されている。
【0064】
次に、図1図5図7のダム堆積物下流還元システム10を自動制御するための制御システムについて図8を参照して説明する。図8は、本実施形態によるダム堆積物下流還元システム10の制御システムを概略的に示すブロック図である。
【0065】
図8のように、制御システムは、各種の情報や測定情報が入力し、各部に対し制御信号を送る制御装置41を備える。制御装置41は、たとえば、パーソナルコンピュータ(PC)から構成され、各種制御を実行するCPU(中央演算処理装置)と、制御の際のプログラムや各種情報を一時的に保持するRAM等からなるメモリと、ハードディスク等からなる記憶装置と、を備え、本実施形態によるダム堆積物下流還元方法の各工程を実行するためのプログラムが記憶装置にインストールされており、かかるプログラムおよび各種の入力情報に基づいてダム堆積物下流還元方法の各工程が自動的に実行される。
【0066】
制御装置41には、図8のように、第1の濁度計28により測定された図5の排泥タンク12内の泥水の測定濁度情報、第2の濁度計39により測定された図5の泥水供給管36を流れる泥水の測定濁度情報、および、流量計40により測定された図5の泥水供給管36を流れる泥水の測定流量情報が入力される。また、ダム下流の河川における許容濁度情報、洪水情報およびダム放流量情報が入力される。
【0067】
また、制御装置41は、図1の貯水池2内に配置された水中ポンプ14,図5の攪拌装置20の電動モータ29,鉛直移動装置23,給水制御バルブ35、泥水ポンプ37および泥水制御バルブ38を各入力情報に基づいて制御する。
【0068】
次に、図1図5図8のダム堆積物下流還元システム10による下流還元の各工程について図9図10を参照して説明する。図9は、図1図5の排泥タンク内におけるダム下流供給前の泥水の濁度測定およびダム下流への泥水の供給量決定の各工程を説明するためのフローチャートである。図10は、泥水のダム下流供給後の供給量調整および濁度調整の各工程を説明するためのフローチャートである。
【0069】
図9の工程S21~S24は、図3と同様の工程であるが、図9の洪水発生判断工程S21では、ダムの上流地域の降水量やダムの貯水池の水位などの各種洪水情報が図8の制御装置41に入力し、これらの洪水情報に基づいて図8の制御装置41が洪水発生を自動的に判断する。
【0070】
次に、洪水発生と判断すると、制御装置41は、水中ポンプ14を作動させ、給水制御バルブ35を開き、貯水池2から配管34を通して排泥タンク12内に給水する(S22)。
【0071】
また、制御装置41は、攪拌装置20の電動モータ29を作動させ、排泥タンク12を攪拌部21に対し回転させることで、攪拌棒21a~21hの各排土板26a~26hが図7のようにして排泥タンク12内のシルト粘土分6を削りとることで攪拌する(S23)。このときジェットノズル27から噴流水JWが噴出することで攪拌効率が向上する。また、攪拌部21による攪拌に合わせて鉛直移動装置23を作動させ攪拌部21を下方へと移動させる。
【0072】
上述の給水工程S22と攪拌工程S23とにより排泥タンク12内で泥水を作製し(S24)、この泥水の濁度を排泥タンク12内の第1の濁度計28により測定する(S35)。
【0073】
上記濁度測定結果に基づいて排泥タンク12内の泥水の濁度を調整する場合(S36)、攪拌装置20の電動モータ29による排泥タンク12の回転速度と鉛直移動装置23による攪拌部21の下方への移動速度とを制御装置41により制御することで、泥水の濁度を調整できる。
【0074】
次に、制御装置41は、入力された、第1の濁度計28による排泥タンク12内の泥水の測定濁度情報と、ダム下流の河川における許容濁度情報と、ダムの放流量(m3/秒)情報とに基づいてダム下流への泥水の供給量(m3/秒)を決定する(S37)。なお、許容濁度は、生息する魚類や植物への影響を考慮し、河川毎に決定される。
【0075】
以上のようにして、ダム下流への泥水の単位時間当たりの供給量を各入力情報に基づいて制御装置41により自動的に決定できる。これにより、シルト粘土分を適切な濃度で含む泥水を作製でき、ダム下流に供給しても、下流の河川で許容濁度を超えることがなく、河川への悪影響が生じない。
【0076】
次に、泥水のダム下流への供給後における泥水の供給量調整および濁度調整について図10を参照して説明する。
【0077】
ダム放流量Qが所定範囲内であるか否かを判断し(S40)、所定範囲内であれば(Q1<Q、または、Q>Q2(図4参照))、上述のようにして決定された供給量で排泥タンク12から泥水を泥水ポンプ37を作動させ泥水供給管36を通してダム下流5へ供給する(S28(図3))。このとき、制御装置41は、泥水制御バルブ38を制御することで、ダム下流への泥水の供給量が決定された供給量となるように泥水の流量を調整する。
【0078】
上記判断工程S40および上記泥水供給工程S28は、図3の工程S27~S30に対応し、ダム放流量Qが所定量Q2以下となると(S30)、泥水のダム下流5への供給を停止する(S31)。
【0079】
泥水は図5の泥水供給管36を流れてダム下流に供給されるが、この泥水の濁度を図5の第2の濁度計39により測定する(S41)。
【0080】
上記測定された測定濁度情報およびその時点でのダムの放流量情報により、制御装置41は、図9の工程S37と同様にして泥水の供給量を再度決定し、その結果、泥水の供給量を増減すると判断した場合(S42)、給水制御バルブ35を制御し、排泥タンク12への給水量を調整する(S43)。
【0081】
次に、図5の流量計40により泥水供給管36を流れる泥水の流量を測定する(S44)。かかる測定流量情報に基づいて制御装置41は、泥水の供給量を微調整すると判断した場合(S45)、泥水制御バルブ38を制御し、ダム下流への泥水の供給量を調整する(S46)。
【0082】
一方、泥水の濁度測定工程S41からの測定濁度情報に基づいて制御装置41は、泥水の濁度を増減すると判断した場合(S47)、図5図7の攪拌装置20の電動モータ29と鉛直移動装置23とを制御し、シルト粘土分の攪拌量を増減することで泥水の濁度を調整する(S48)。この濁度の調整された泥水がダム下流へ供給される。
【0083】
以上のように、本実施形態によれば、排泥タンク内の泥水の濁度とダム放流量との関係から、泥水のダム下流への供給量を自動で制御できるダム堆積物下流還元システムを実現できる。また、分級後のシルト粘土分の下流供給による河川への悪影響が生じないように、泥水の供給時期と供給量とを制御することができる。
【0084】
すなわち、図3図4のように泥水のダム下流への供給時期を制御することで、泥水を適切な供給時期にダム下流へ供給できる。また、泥水のダム下流への供給中における泥水の供給量調整および濁度調整がダム下流へ供給される泥水の濁度測定と流量測定とに基づいて行われることで、図4のようなダムの放流量(m3/秒)の増加・減少に合わせて泥水の供給量を増加・減少させても、図9の工程S37と同様にして泥水の供給量(m3/秒)を決定することで、シルト粘土分を含む泥水を適切な濃度にでき、ダム下流に供給しても、下流の河川で許容濁度を超えることがなく、河川への悪影響が生じない。
【0085】
なお、泥水供給量の増減判断工程(S42)と泥水濁度の増減判断工程(S47)とは、泥水供給量の決定工程(図9の工程S37)と同様にして下流の河川で許容濁度を超えることがないように行われる。
【0086】
本実施形態のダム堆積物下流還元システムによれば、洪水発生を判断し、排泥タンク12内で泥水を作製し、ダム放流量が所定値Q1に達すると、泥水をダム下流へ供給し、所定値Q2以下になると、泥水の供給を停止し、その泥水の供給の間、泥水により下流の河川で許容濁度を超えることがないように泥水の供給量がダムの放流量に合わせて決定され、これらの各工程が自動制御でき、遠隔操作も可能である。
【0087】
次に、本実施形態の攪拌装置の別の構成例について図11を参照して説明する。図11は、本実施形態による別の攪拌装置を示す斜視図である。
【0088】
図11のように、攪拌装置50は、無人化バックホウタイプにより構成され、排泥タンク内を水平移動可能な移動部51と、移動部51から延びたアーム52と、アーム52の先端に設けられ略水平方向に延びる回転軸を中心に電動モータ等の回転駆動手段により回転する攪拌部53と、を備え、排泥タンク内に設けられたレール50a~50c上を移動部51が走行しながら攪拌部53が回転することで排泥タンク内のシルト粘土分6を表面から削りとって攪拌する。
【0089】
攪拌装置50は、図8と同様の制御システムにより制御され、移動部51の走行速度と攪拌部53の回転速度とを制御することでシルト粘土分6の攪拌量を調整し、泥水の濁度を調整できる。
【0090】
なお、図11の場合、排泥タンクの周囲の構成は、図5と同様であるが、排泥タンクは自転しないので、配管31,32,34,泥水供給管36は排泥タンクに直接接続するように構成してもよい。また、攪拌装置50は複数台設置するように構成できる。
【0091】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、図3では、洪水時に、排泥タンク12に給水を開始してから(S22)、シルト粘土分を攪拌した(S23)が、本発明はこれに限定されず、給水と攪拌とをほぼ同時に開始してもよく、また、攪拌を開始してから、給水を行うようにしてもよい。
【0092】
また、図1の分級装置11では、浚渫された堆積物を粒径0.075mm以下のシルト粘土分と粒径0.075mm径を超えた砂とに分級したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、粒径0.075mm以下のシルト粘土分と粒径0.075mm径を超えた砂礫とに分級するようにしてもよい。この場合、砂礫は、ダムによって相違するが、砂(粒径0.075~2mm)と細礫(粒径2~19mm)とであってよく、さらに祖礫(粒径19mm越)を含んでもよい。
【0093】
また、図5図6の排泥タンク12と攪拌部21との相対回転の構成は、排泥タンク12を自転させるようにしたが、これに限定されず、排泥タンク12に対し攪拌部21を支持軸22とともに回転させるように構成してもよい。
【0094】
また、図6図7の攪拌装置20の排土板とジェットノズルとは、いずれか一方でシルト粘土分を充分に攪拌できる場合には他方を省略してもよい。
【0095】
また、図5の泥水供給管36の泥水制御バルブ38の直前に泥水の濁度の安定化を図るために泥水の貯留槽を設置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のダム堆積物下流還元方法およびシステムによれば、ダムの貯水容量の維持のため貯水池を浚渫し、その堆積物に含まれるシルト粘土分をダムの下流に供給しても下流の河川へ悪影響を及ぼすことがないので、河川の濁水化や河川環境悪化等の問題を未然に防止できる。
【符号の説明】
【0097】
1 ダム
2 貯水池
3 堆積物
4 上流
5 ダム下流
6 シルト粘土分
10 ダム堆積物下流還元システム
11 分級装置
12 排泥タンク
13 濁水処理装置
14 水中ポンプ
19 ダム下流置土
20 攪拌装置
21 攪拌部
21a~21h 攪拌棒
26a~26h 排土板
22 支持軸
23 鉛直移動装置
24 水平回転装置
27 ジェットノズル
28 第1の濁度計
29 電動モータ
35 給水制御バルブ
36 泥水供給管
38 泥水制御バルブ
39 第2の濁度計
40 流量計
41 制御装置
50 攪拌装置
51 移動部
52 アーム
53 攪拌部
JW 噴流水
Q ダム放流量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11