IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイコム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-信号処理装置および無線機 図1
  • 特許-信号処理装置および無線機 図2
  • 特許-信号処理装置および無線機 図3
  • 特許-信号処理装置および無線機 図4
  • 特許-信号処理装置および無線機 図5
  • 特許-信号処理装置および無線機 図6
  • 特許-信号処理装置および無線機 図7
  • 特許-信号処理装置および無線機 図8
  • 特許-信号処理装置および無線機 図9
  • 特許-信号処理装置および無線機 図10
  • 特許-信号処理装置および無線機 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】信号処理装置および無線機
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/16 20060101AFI20220615BHJP
   H03G 3/20 20060101ALI20220615BHJP
   H03M 1/12 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
H04B1/16 R
H03G3/20 A
H03M1/12 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018225149
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020088789
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100174573
【弁理士】
【氏名又は名称】大坂 知美
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(72)【発明者】
【氏名】美麗 忠宗
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-142832(JP,A)
【文献】特開2008-227735(JP,A)
【文献】特開2012-165376(JP,A)
【文献】特表2004-523147(JP,A)
【文献】特開2004-134917(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092581(WO,A1)
【文献】特開平09-162739(JP,A)
【文献】特開2013-157824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/06
H04B 1/16
H03M 1/00-1/88
H03G 1/00-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されるアナログ信号を、振幅が決められた範囲を超える部分がクリップされたデジタル信号に変換して出力するA-Dコンバータと、
前記A-Dコンバータが出力したデジタル信号に対し、定められた期間サンプル数ごとにクリップされた切取サンプル数を算出するカウント部、
前記A-Dコンバータが出力したデジタル信号の周波数変換を行う周波数変換部、
前記周波数変換部が周波数変換したデジタル信号の不要な信号成分を除去するフィルタ部、
前記A-Dコンバータのサンプリングレートを前記期間サンプル数で除算した値の整数倍のサンプリングレートに変換するレート変換部、
前記レート変換部がサンプリングレートを変換したデジタル信号を増幅して出力する増幅部、
および、
前記期間サンプル数に対する前記切取サンプル数の割合に基づく増幅率調整係数をあらかじめ設定された前記増幅部の増幅率に乗算して、前記増幅部の増幅率を調整する増幅率調整部、
を有するコントローラと、
を備える信号処理装置。
【請求項2】
前記増幅率調整部は、
前記期間サンプル数をクリップされなかった正規サンプル数で除算した値を、前記増幅
率調整係数とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記増幅率調整部は、
前記期間サンプル数をクリップされなかった正規サンプル数で除算した値が閾値よりも小さい場合には、前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値を前記増幅率調整係数とし、
前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値が前記閾値以上である場合には
、前記閾値を前記増幅率調整係数とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記増幅率調整部は、
前記期間サンプル数をクリップされなかった正規サンプル数で除算した値が閾値よりも小さい場合には、前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値を前記増幅率調整係数とし、
前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値が前記閾値以上である場合には、前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値の増加に伴って前記閾値から緩やかに増加する値を前記増幅率調整係数とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の信号処理装置と、
アナログ信号を受信し、前記信号処理装置に入力するアンテナと、
前記信号処理装置が出力したデジタル信号をアナログ信号に変換するD-Aコンバータと、
前記D-Aコンバータが変換したアナログ信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器が増幅したアナログ信号を出力する出力装置と、
を備える無線機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置および無線機に関する。
【背景技術】
【0002】
無線機のA-Dコンバータに目的波と目的波より強い妨害波が同時に入力され、目的波と妨害波との合成波の振幅がA-Dコンバータで決められた範囲を超える場合、振幅が決められた範囲を超える信号はクリップされる。入力信号がクリップされると、目的波のレベルが低下する。AM(amplitude modulation)やSSB(single sideband)などの振幅変調方式の通信では、電波の振幅を変化させることで情報を伝達するので、目的波のレベルが低下することにより通信に影響が出る。このような理由から、クリップされた後の信号の目的波のレベル低下の補償が求められている。
【0003】
特許文献1には、A-Dコンバータに入力される波形の決められた範囲を超える部分に対して負のオフセット電圧を加算することでクリップされることを抑制するデジタルオーディオ録音再生装置が開示されている。特許文献2には、入力された一連の音声信号のクリップされた部分を抽出して平滑化し、生成した平滑化信号の逆位相を音声信号に加算することでクリップされることを抑制するクリップ抑制装置が開示されている。特許文献3には、録音された波形のクリップされた部分を補間して修復する波形修正方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-45000号公報
【文献】特開2008-236268号公報
【文献】特開2003-099064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の技術は、クリップされる前の信号を処理することでクリップされることを抑制するものであり、クリップされた後の信号を補償するものではない。特許文献3の技術は、クリップされた後の信号を補償するものであるが、クリップされなかった部分からクリップされた部分を予測して復元するので、強い妨害波と合成された目的波のような弱いレベルの周波数成分の信号はほぼ復元されない。したがって、特許文献3の技術を無線機に適用したとしても、クリップされた後の信号の目的波のレベル低下は補償されない。
【0006】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、A-Dコンバータによってクリップされた後の信号に含まれる目的波のレベル低下を補償することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る信号処理装置は、
入力されるアナログ信号を、振幅が決められた範囲を超える部分がクリップされたデジタル信号に変換して出力するA-Dコンバータと、
前記A-Dコンバータが出力したデジタル信号に対し、定められた期間サンプル数ごとにクリップされた切取サンプル数を算出するカウント部、
前記A-Dコンバータが出力したデジタル信号の周波数変換を行う周波数変換部、
前記周波数変換部が周波数変換したデジタル信号の不要な信号成分を除去するフィルタ部、
前記A-Dコンバータのサンプリングレートを前記期間サンプル数で除算した値の整数倍のサンプリングレートに変換するレート変換部、
前記レート変換部がサンプリングレートを変換したデジタル信号を増幅して出力する増幅部、
および、
前記期間サンプル数に対する前記切取サンプル数の割合に基づく増幅率調整係数をあらかじめ設定された前記増幅部の増幅率に乗算して、前記増幅部の増幅率を調整する増幅率調整部、
を有するコントローラと、
を備える。
【0008】
好ましくは、前記増幅率調整部は、
前記期間サンプル数をクリップされなかった正規サンプル数で除算した値を、前記増幅率調整係数とする。
【0009】
好ましくは、前記増幅率調整部は、
前記期間サンプル数をクリップされなかった正規サンプル数で除算した値が閾値よりも小さい場合には、前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値を前記増幅率調整係数とし、
前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値が前記閾値以上である場合には、前記閾値を前記増幅率調整係数とする。
【0010】
好ましくは、前記増幅率調整部は、
前記期間サンプル数をクリップされなかった正規サンプル数で除算した値が閾値よりも小さい場合には、前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値を前記増幅率調整係数とし、
前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値が前記閾値以上である場合には、前記期間サンプル数を前記正規サンプル数で除算した値の増加に伴って前記閾値から緩やかに増加する値を前記増幅率調整係数とする。
【0011】
本発明の第2の観点に係る無線機は、
いずれかの前記信号処理装置と、
アナログ信号を受信し、前記信号処理装置に入力するアンテナと、
前記信号処理装置が出力したデジタル信号をアナログ信号に変換するD-Aコンバータと、
前記D-Aコンバータが変換したアナログ信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器が増幅したアナログ信号を出力する出力装置と、
を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、A-Dコンバータによって変換されたデジタル信号のクリップされた切取サンプル数の割合に基づいて、デジタル信号の増幅率を調整することで、クリップされた後の信号に含まれる目的波のレベル低下を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る無線機の構成例を示すブロック図
図2】実施の形態に係る信号処理装置の機能構成例を示すブロック図
図3】目的波の例を示す図
図4】妨害波の例を示す図
図5】クリップされる前の目的波と妨害波との合成波の例を示す図
図6】クリップされた後の目的波と妨害波との合成波の例を示す図
図7図5に示すクリップされる前の目的波と妨害波との合成波の周波数スペクトルの例を示す図
図8図6に示すクリップされた後の目的波と妨害波との合成波の周波数スペクトルの例を示す図
図9】増幅率調整係数テーブルの例を示す図
図10図5および図6に示すクリップされる前後の目的波と妨害波との合成波の期間サンプル数のデジタル信号を示す図
図11】増幅率調整係数と、切取サンプル数との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る無線機の構成例を示すブロック図である。無線機100は、アンテナ2、アンテナ2が受信した信号を処理する信号処理装置1、信号処理装置1が処理した信号をD-A(Digital-to-Analog)変換するD-Aコンバータ3、D-Aコンバータ3がD-A変換した信号を増幅する増幅器4、増幅器4が増幅した信号を出力するスピーカ5を備える。スピーカ5は、出力装置の一例である。信号処理装置1は、アンテナ2が受信したアナログ信号をA-D(Analog-to-Digital)変換するA-Dコンバータ10と、A-Dコンバータ10がA-D変換したデジタル信号を処理するコントローラ20を備える。
【0016】
A-Dコンバータ10は、アンテナ2が受信したアナログ信号をA-D変換する。このとき、アナログ信号の振幅が決められた範囲を超えていると、振幅が決められた範囲を超える部分がクリップされたデジタル信号がA-Dコンバータ10から出力される。A-Dコンバータ10は、変換したデジタル信号をコントローラ20に出力する。コントローラ20は、入力されるデジタル信号に対し、クリップされたことによる目的波のレベル低下を補償する処理を行う。コントローラ20は、処理したデジタル信号をD-Aコンバータ3に出力する。コントローラ20は、一部又は全てをDSP(Digital Signal Processor)、一部又は全てをFPGA(Field Programmable Gate Array)で構成することが可能である。または、コントローラ20は、CPUを含むSoC(System on Chip)で構成してもよい。図1の例では、無線機100の受信機能についてのみ示しているが、無線機100は送信機能を有してもよい。信号処理装置1が行う処理について図2を用いて詳しく説明する。
【0017】
図2は、実施の形態に係る信号処理装置の機能構成例を示すブロック図である。信号処理装置1のA-Dコンバータ10は、入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換してコントローラ20に出力する。A-Dコンバータ10の取り扱うことができる信号の振幅の範囲は決められている。しかし、アンテナ2が目的波と共に妨害波を受信することにより、アンテナ2が受信したアナログ信号の振幅が決められた範囲を超えることがある。このため、アンテナ2からA-Dコンバータ10に入力されるアナログ信号の振幅が決められた範囲を超えていると、信号はクリップされる。アナログ信号のクリップについて図3図8を用いて説明する。
【0018】
図3は、目的波の例を示す図である。図4は、妨害波の例を示す図である。図3および図4の例では、A-Dコンバータ10が取り扱うことができる信号の振幅の範囲が、-1から1までの範囲であるとする。図3に示す目的波の振幅は、-1から1までの範囲内であるが、図4に示す妨害波の振幅は、-1から1までの範囲外である。
【0019】
図5は、クリップされる前の目的波と妨害波との合成波の例を示す図である。アンテナ2が図3に示す目的波と共に図4に示す妨害波を受信した場合、A-Dコンバータ10に入力されるアナログ信号は図5に示すような合成波になる。A-Dコンバータ10が取り扱うことができる信号の振幅の範囲が-1から1までの範囲であるので、A-Dコンバータ10は、このような合成波のアナログ信号が入力されると、振幅が-1から1までの範囲を超える部分がクリップされた波形がデジタル信号として出力される。
【0020】
図6は、クリップされた後の目的波と妨害波との合成波の例を示す図である。図6に示すように、A-Dコンバータ10は、図5に示す目的波と妨害波との合成波のアナログ信号の振幅の-1以下の部分及び1以上の部分がクリップされている信号を出力する。クリップされることで、目的波と妨害波との合成波の周波数スペクトルがどのように変化するかについて図7および図8を用いて説明する。
【0021】
図7は、図5に示すクリップされる前の目的波と妨害波との合成波の周波数スペクトルの例を示す図である。図7の右図は、左図の一点鎖線の範囲を拡大した図である。図8は、図6に示すクリップされた後の目的波と妨害波との合成波の周波数スペクトルの例を示す図である。図8の右図は、左図の一点鎖線の範囲を拡大した図である。図7に示すように、クリップされる前の目的波と妨害波との合成波を周波数スペクトルに変換すると、目的波のピークと、妨害波のピークとが存在する。図8に示すように、クリップされた後の目的波と妨害波との合成波を周波数スペクトルに変換すると、多数のスペクトルが発生し、かつ、目的波のレベルが低下しているのが分かる。コントローラ20は、A-Dコンバータ10から入力されるデジタル信号に対し、目的波のレベル低下を補償するための処理を行う。
【0022】
図2に戻り、信号処理装置1のコントローラ20は、機能構成として、周波数変換部21、LPF部22、レート変換部23、増幅部24、カウント部25、および、増幅率調整部26を備える。周波数変換部21は、A-Dコンバータ10から入力されるデジタル信号に対し、目的波が0Hz付近になるように周波数変換する。例えば、目的波が10kHzであるならば、周波数変換部21は、A-Dコンバータ10から入力されるデジタル信号に10kHzの正弦波信号を乗算する。これにより、目的波の周波数は0Hz付近になり、0Hz付近の不要な信号の周波数は10kHz付近に上がる。LPF部22は、周波数変換部21が周波数変換したデジタル信号の不要な高周波成分を除去する。これにより、周波数変換された不要な成分と共にクリップによって発生した周波数成分が除去される。LPF部22は、フィルタ部の一例である。フィルタ部は、ローパスフィルタに限らず、不要な信号成分を除去できるフィルタであればよい。レート変換部23は、LPF部22で不要な高周波成分を除去したデジタル信号のN個のサンプルごとに値を出力し、A-Dコンバータ10のサンプリングレートを1/N倍に変換する。増幅部24は、レート変換部23がサンプリングレートを1/N倍に変換したデジタル信号を増幅して、D-Aコンバータ3に出力する。
【0023】
カウント部25は、A-Dコンバータ10から入力されるデジタル信号に対し、定められた期間サンプル数Pごとに、クリップされた切取サンプル数Cを算出する。具体的には、カウント部25は、A-Dコンバータ10の上限値および下限値を記憶しており、上限値に達した回数および下限値に達した回数をカウントし、クリップされた切取サンプル数Cとして算出する。増幅率調整部26は、切取サンプル数Cに対応する増幅率調整係数を示す、増幅率調整係数テーブルを有している。
【0024】
図9は、増幅率調整係数テーブルの例を示す図である。図9の例では、期間サンプル数=50である。図9に示すように、増幅率調整係数は、期間サンプル数Pをクリップされなかった正規サンプル数Rで除算した値である。正規サンプル数Rは、期間サンプル数Pからクリップされた切取サンプル数Cを減算した値である。増幅率調整部26は、カウント部25が切取サンプル数Cを算出する度に、増幅率調整係数テーブルを参照し、あらかじめ設定された増幅部24の増幅率αに増幅率調整係数を乗算して、増幅部24の増幅率を調整する。つまり、増幅部24は、α×増幅率調整係数の増幅率でデジタル信号を増幅する。アナログ信号が全くクリップされなかった場合は増幅率調整係数=1となるので、増幅部24は、あらかじめ設定された増幅率αでデジタル信号を増幅する。なお、増幅率調整部26は、カウント部25が切取サンプル数Cを算出する度に、期間サンプル数Pを正規サンプル数Rで除算する演算によって増幅率調整係数を算出してもよい。コントローラ20が行う処理について図10を用いて詳しく説明する。
【0025】
図10は、図5および図6に示すクリップされる前後の目的波と妨害波との合成波の期間サンプル数のデジタル信号を示す図である。図10では、クリップされる前の目的波と妨害波との合成波のデジタル信号を+、クリップされた後の目的波と妨害波との合成波のデジタル信号を×で記載している。便宜上、クリップされる前のデジタル信号を併せて記載しているが、実際にカウント部25に入力されるデジタル信号は、クリップされた後のデジタル信号である。図10に示すように、期間サンプル数Pは50個、切取サンプル数Cは33個である。この場合、図9の増幅率調整係数テーブルを参照すると、増幅率調整係数は、50/17である。増幅率調整部26は、あらかじめ設定された増幅部24の増幅率αに50/17を乗算して、増幅部24の増幅率を調整する。×50/17をdB(デジベル)に変換すると、20log10(50/17)=9.7dBとなる。これは、図7および図8で示した目的波のレベル低下分とほぼ同じである。このようにして、コントローラ20は、目的波のレベル低下を補償する。
【0026】
増幅部24は、増幅率調整部26が調整したα×50/17の増幅率でデジタル信号を増幅して、D-Aコンバータ3に出力する。期間サンプル数Pは、Nの整数倍であることとする。例えば、期間サンプル数PがNの2倍であったとすると、レート変換部23がサンプリングレートを1/N倍に変換する処理を2回行うごとに、増幅率調整部26は、増幅部24の増幅率を調整する。期間サンプル数PがNの1倍、つまり、レート変換部23がサンプリングレートを1/P倍に変換すると、処理が簡単になり、かつ、目的波のレベル低下を補償する精度が上がる。
【0027】
図11は、期間サンプル数を正規サンプル数で除算した値と、切取サンプル数との関係を示すグラフである。図11に示すように、切取サンプル数Cが多くなると、期間サンプル数Pを正規サンプル数Rで除算した値kは急激に大きくなる。そこで、値kが閾値よりも小さい場合には、値kを増幅率調整係数とし、値kが閾値以上である場合には、閾値を増幅率調整係数としてもよい。この場合、例えば、図9の増幅率調整係数テーブルの、期間サンプル数Pを正規サンプル数Rで除算した値が閾値以上になる切取サンプル数Cに対応する増幅率調整係数には、閾値を記録しておく。あるいは、値kが閾値以上である場合には、値kの増加に伴って閾値から緩やかに増加する値を、増幅率調整係数としてもよい。この場合、例えば、図9の増幅率調整係数テーブルの、期間サンプル数Pを正規サンプル数Rで除算した値が閾値以上になる切取サンプル数Cに対応する増幅率調整係数には、閾値から緩やかに増加する値を記録しておく。
【0028】
以上説明したとおり、本実施の形態に係る信号処理装置1よれば、A-Dコンバータ10によってクリップされた信号の切取サンプル数Cの割合に基づいて、増幅部24の増幅率を調整することで、クリップされた後の信号に含まれる目的波のレベル低下を補償することができる。
【0029】
本発明の実施の形態は上述の実施の形態に限られない。信号処理装置1は、無線機に限らず、入力されたアナログ信号を、振幅が決められた範囲を超える部分がクリップされたデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号に対して、周波数変換とサンプリングレート変換とを行い、増幅する装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 信号処理装置
2 アンテナ
3 D-Aコンバータ
4 増幅器
5 スピーカ
10 A-Dコンバータ
20 コントローラ
21 周波数変換部
22 LPF部
23 レート変換部
24 増幅部
25 カウント部
26 増幅率調整部
100 無線機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11