(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】ロゴスキーコイル及びそれを用いた電流測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20220615BHJP
【FI】
G01R15/18 A
(21)【出願番号】P 2020503179
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2018007623
(87)【国際公開番号】W WO2019167189
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000181
【氏名又は名称】岩崎通信機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】出川 栄
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 高仁
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許第1073908(EP,B1)
【文献】特開2005-109398(JP,A)
【文献】特表2017-504022(JP,A)
【文献】特開2014-089079(JP,A)
【文献】国際公開第2003/073118(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/18
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソレノイド状に導線が巻回されたコイルと、
前記コイルの一方の端部である先端部から前記コイルの他方の端部である出力端部まで前記コイルの内部を貫通する戻り線と、
前記コイルの前記先端部と前記戻り線の間に接続され、前記コイルの特性インピーダンスと整合されたインピーダンスを有するインピーダンス整合回路と、
を有
し、
前記コイルと前記戻り線とが、前記コイルの前記先端部において前記インピーダンス整合回路を介して電気的に接続されている、ロゴスキーコイル。
【請求項2】
前記インピーダンス整合回路は抵抗素子である、
請求項1に記載のロゴスキーコイル。
【請求項3】
前記コイル
及び前記戻り線と前記インピーダンス整合回路との間の接続部の周囲を
少なくとも覆う
静電シールド効果を持つシールドを更に有し、
前記インピーダンス整合回路のインピーダンスは、前記シールドを付加したことによる
結合容量を含んだ前記コイルの特性インピーダンスに整合される、
請求項1又は2に記載のロゴスキーコイル。
【請求項4】
前記インピーダンス整合回路は、前記コイルと共に前記シールドにより覆われる、
請求項3に記載のロゴスキーコイル。
【請求項5】
前記インピーダンス整合回路は、前記コイルの前記先端部の端面に配置される、
請求項1から4のいずれか一項に記載のロゴスキーコイル。
【請求項6】
前記インピーダンス整合回路は、前記コイルの内部に配置される、
請求項1から4のいずれか一項に記載のロゴスキーコイル。
【請求項7】
被測定電流が流れる導体の周囲にループを形成するように前記コイルが配置された、請求項1から6のいずれか一項に記載のロゴスキーコイルと、
前記被測定電流が時間変化することにより誘起される前記コイルの前記出力端部と前記戻り線の間の電位差を時間的に積分し、前記被測定電流の測定値として出力する積分器と、
を備える電流測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロゴスキーコイル及びそれを用いた電流測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定電流の作る磁場が時間変化することにより誘起される誘導電圧を利用して電流を測定する非接触型の電流測定装置として、ロゴスキーコイル(Rogowski Coil)を用いた電流測定装置が知られている。ロゴスキーコイルは磁性体コアを用いないため、コイルを貫通する磁束が飽和せず、大電流を測定することができるという利点を有している。このため、ロゴスキーコイルは、パワーエレクトロニクス分野において、パワーデバイスに流れる大電流を測定する用途に適している。
【0003】
ロゴスキーコイルは様々な分野の電流測定で使用されているが、主要な用途の一つにパワーエレクトロニクス分野における高速・大電流のスイッチング波形の測定がある。近年のスイッチングデバイスの発達にともなってデバイスのスイッチング速度が高速化し、被測定電流も高速化して電流センサに対しても広帯域化の要求が強くなってきている。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、ロゴスキーコイルの後段に接続される積分器を、高周波特性に優れた第1の積分器と低周波特性に優れた第2の積分器を組み合わせて構成することにより、測定可能な電流の周波数帯域を広帯域化する技術が記載されている。また、特許文献1には、ロゴスキーコイルと積分器の間に、ロゴスキーコイルの特性インピーダンスと整合されたダンピング抵抗を設けることで、高周波領域における積分器の発振を抑制して、測定可能な電流の周波数帯域をより広帯域化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年のパワーエレクトロニクス分野における技術の発達により、パワーデバイスのスイッチング速度が高速化している。しかし、特許文献1に記載された技術では、測定可能な電流の周波数帯域が不十分であり、またコイルの設置条件により周波数帯域が変化して電流の測定結果が安定しないという問題がある。このため、より高周波の大電流を安定して測定可能なロゴスキーコイルが求められている。
【0007】
そこで本発明は、測定可能な電流の周波数帯域をより広帯域化し、電流をコイルの設置条件によらず安定して測定することができるロゴスキーコイル及びそれを用いた電流測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、ソレノイド状に導線が巻回されたコイルと、コイルの一方の端部である先端部からコイルの他方の端部である出力端部までコイルの内部を貫通する戻り線と、コイルの先端部と戻り線の間に接続され、コイルの特性インピーダンスと整合されたインピーダンスを有するインピーダンス整合回路と、を有するロゴスキーコイルが提供される。
【0009】
また、本発明の別観点によれば、被測定電流が流れる導体の周囲にループを形成するようにコイルが配置された、上述のロゴスキーコイルと、被測定電流が時間変化することにより誘起されるコイルの出力端部と戻り線の間の電位差を時間的に積分し、前記被測定電流の測定値として出力する積分器と、を備える電流測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測定可能な電流の周波数帯域をより広帯域化し、電流をコイルの設置条件によらず安定して測定することができるロゴスキーコイル及びそれを用いた電流測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るロゴスキーコイルの構成を模式的に示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る電流測定装置の構成を概略的に示す等価回路図である。
【
図3】比較例となる、ロゴスキーコイルに誘起された誘導電圧の伝搬遅延を示す図である。
【
図4】比較例となる、ロゴスキーコイルと被測定電流の相対位置を変化させたときの、ロゴスキーコイルの出力電圧の変化を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係るロゴスキーコイルと被測定電流の相対位置を変化させたときの、ロゴスキーコイルの出力電圧の変化を示す第1の図である。
【
図6】第1実施形態に係るロゴスキーコイルと被測定電流の相対位置を変化させたときの、ロゴスキーコイルの出力電圧の変化を示す第2の図である。
【
図7】第1実施形態に係るロゴスキーコイルと被測定電流の相対位置を変化させたときの、ロゴスキーコイルの出力電圧の変化を示す第3の図である。
【
図8】第2実施形態に係るロゴスキーコイルの構成を模式的に示す図である。
【
図9】第3実施形態に係るロゴスキーコイルの構成を模式的に示す図である。
【
図10】第3実施形態に係るロゴスキーコイルの別の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、各図において同一、又は相当する機能を有するものは、同一符号を付し、その説明を省略又は簡潔にすることもある。
【0013】
ロゴスキーコイルを用いた電流測定装置の広帯域化を制限する要因は、大きく二つ挙げられる。第1の要因は、ロゴスキーコイルの後段に接続される積分器の性能に起因するものである。上述の特許文献1に記載の発明は、この第1の要因を解決することを目的としたものである。
【0014】
第2の要因は、ロゴスキーコイル自体の構造に起因するものである。ロゴスキーコイル自体の構造に起因して広帯域動作を制限する要因を検討してみると、コイルを伝送路として見たときの伝搬遅延時間が大きな要素である事が判る。コイルに誘起された誘導電圧がコイルの先端部において反射し、伝搬遅延による時間差を有してもとの誘導電圧の波形に重ね合わされると、ロゴスキーコイルの出力電圧の波形が広がってしまうことを、本発明の発明者は発見した。
【0015】
ロゴスキーコイルの出力電圧の波形の広がりは、ロゴスキーコイルの応答周波数帯域を制限するため、この波形の広がりが被測定電流の周期、もしくは過渡的な変化時間と同程度になると、電流の測定系としての周波数帯域が不足となり、ロゴスキーコイルの測定精度が低下してしまうという第1の課題がある。
【0016】
また、誘導電圧の伝搬遅延により生じるロゴスキーコイルの出力電圧の波形の広がりは、ロゴスキーコイルと被測定電流との相対位置に応じて変化する。このため、コイルの物理的な位置等の設置条件によって高周波領域における電流の測定結果がばらついて安定しないという第2の課題がある。この第2の課題によっても、ロゴスキーコイルで測定可能な電流の周波数帯域は、実際上制限されてしまう。
【0017】
そこで、本発明のロゴスキーコイルは、コイルの先端部と戻り線の間に接続されたインピーダンス整合回路を有している。そして、このインピーダンス整合回路は、コイルの特性インピーダンスと整合されたインピーダンスを有している。このようなロゴスキーコイルの構成によれば、コイルの先端部において信号が反射されることが抑制される。この結果、ロゴスキーコイルの出力電圧の波形が、信号の反射の影響によって広がることが抑制されるため、ロゴスキーコイルで測定可能な電流の周波数帯域が広帯域化され、コイルの設置条件によらずロゴスキーコイルで電流を安定して測定することができる。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係るロゴスキーコイル10の構成を模式的に示す図である。本実施形態のロゴスキーコイル10は、コイル101、戻り線102、及びインピーダンス整合回路103を有する。
【0019】
コイル101は、
図1に示されるように、ソレノイド状に導線が巻回された構造を有し、被測定電流Isが流れる導体2の周囲にループを形成するように配置される。ロゴスキーコイル10は、磁性体コアを有さない空芯コイルで構成されるため、コイル101の内部は空洞となっている。なお、コイル101は、導線を巻回するための非磁性の不図示の巻芯部を、コイル101の内部に有してもよい。
【0020】
戻り線102は、コイル101の一方の端部である先端部xから他方の端部である出力端部yまで、コイル101の内部を貫通している。戻り線102の一端は、インピーダンス整合回路103を介して、コイル101の先端部xに接続されている。また、戻り線102の他端は、接地端子を介して接地されている。
【0021】
インピーダンス整合回路103は、コイル101の先端部xと戻り線102の間に接続されている。そして、このインピーダンス整合回路103は、コイル101の特性インピーダンスと整合されたインピーダンスを有している。換言すれば、インピーダンス整合回路103は、コイル101の特性インピーダンスと実質的に同一のインピーダンスを有している。ここで、実質的に同一とは、本実施形態においては、コイル101の先端部xと戻り線102の境界部において信号が反射されることが抑制されるために十分な程度に同一であればよい。
【0022】
インピーダンス整合回路103としては、例えば抵抗素子が用いられる。インピーダンス整合回路103は抵抗素子だけでなく、インダクタンス又はキャパシタンス等の回路素子を含んでいてもよい。このようなロゴスキーコイル10の構成によれば、コイル101の先端部xと戻り線102の境界部において信号が反射されることが抑制される。この結果、ロゴスキーコイル10の出力電圧の波形が、信号の反射の影響によって広がることが抑制されるため、ロゴスキーコイル10で測定可能な電流の周波数帯域が広帯域化され、コイル101の設置条件によらずロゴスキーコイル10で電流を安定して測定することができる。
【0023】
コイル101の先端部xと出力端部yとの間には、被測定電流Isの作る磁場Bの時間変化に比例した誘導電圧に基づく電位差が生じる。被測定電流Isの周波数が小さく、コイル101に誘起される誘導電圧の伝搬遅延の影響が無視できる場合には、コイル101の出力端部yと接続された出力端子には、下式(1)で表わされる出力電圧Voutが出力される。ここで、定数αはコイル101の巻数及び断面積等から決定される。
【0024】
【0025】
上式(1)より、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutは、被測定電流Isの微分に比例する。従って、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutを時間的に積分することで、下式(2)のように被測定電流Isが求められる。
【0026】
【0027】
図2は、第1実施形態に係る電流測定装置1の構成を概略的に示す等価回路図である。本実施形態の電流測定装置1は、ロゴスキーコイル10及び積分器11を備える。ロゴスキーコイル10は、空芯コイルで構成されるため、
図2の等価回路には、自己インダクタンスとして図示されている。また、
図2の等価回路には、被測定電流Isが時間変化することによりロゴスキーコイル10に誘起される誘導電圧が、パルス発生器12として図示されている。
【0028】
ロゴスキーコイル10の後段に接続された積分器11は、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutを時間的に積分して、被測定電流Isを求める。積分器11としては、例えば、能動素子のオペアンプ111(演算増幅器)を用いたアナログ積分回路が用いられる。
図2に示された積分器11の出力電圧Vsは、コンデンサ112の静電容量値C、及び抵抗113の抵抗値Rを用いて、下式(3)で表わされる。
【数3】
【0029】
上式(3)より、積分器11の出力電圧Vsは、被測定電流Isに比例する。従って、比例定数をα/(RC)を予め求めておくことにより、被測定電流Isが求められる。
【0030】
なお、ロゴスキーコイル10で測定可能な電流の周波数帯域をより広帯域化するために、
図2に示されたアナログ積分回路の代わりに、例えば、特開2014-89079号公報の、
図3又は
図6に示されたアナログ積分回路を用いてもよい。或いは、積分器11としてアナログ積分回路を用いる代わりに、デジタル積分回路を用いてもよい。この場合、ロゴスキーコイル10とデジタル積分回路の間にはAD変換器(アナログ/デジタル変換器)が接続される。これにより、アナログ積分回路による周波数帯域の制限やノイズの影響を回避することができる。
【0031】
また、
図2に示された電流測定装置1の等価回路は、ロゴスキーコイル10の直ぐ後段に積分器11が接続された構成としたが、実際の電流測定装置1においては、ロゴスキーコイル10と積分器11とは、同軸ケーブル等を用いて相互に接続されることが好ましい。
【0032】
ここで、本実施形態のロゴスキーコイル10の有効性を示すため、まず、インピーダンス整合回路103を有しないロゴスキーコイル20において、コイル101に誘起された誘導電圧の伝搬遅延が、電流の測定精度に与える影響について説明する。
【0033】
図3は、比較例となる、ロゴスキーコイル20に誘起された誘導電圧の伝搬遅延を示す図である。
図3に示されたロゴスキーコイル20は、インピーダンス整合回路103を有しておらず、コイル101と戻り線102は、コイル101の先端部xにおいて短絡されている。説明を平易にするために、以下では、ロゴスキーコイル20のコイル101を複数の微小区間に分け、そのうちの一つの微小区間Sに誘起される誘導電圧に注目して、誘導電圧の伝搬遅延について考察する。
【0034】
また、同様に説明を平易にするために、以下では、導体2に流される被測定電流Isの波形がステップ波形であることを仮定する。この結果として、被測定電流Isが時間変化して微小区間Sに誘起される誘導電圧の波形はパルス波形となる。但し、本実施形態のロゴスキーコイル10は、時間変化する波形であれば、どのような被測定電流Isの波形であっても測定することが可能であり、被測定電流Isの波形はステップ波形には限定されない。
【0035】
図3に示されたコイル101の微小区間Sに交差する磁場Bが時間変化すると、コイル101の微小区間Sには誘導電圧が誘起される。
図3に示された先行波Vf及び遅延波Vrは、戻り線102を基準として見た場合の、コイル101の微小区間Sに誘起された誘導電圧の微小区間Sのそれぞれの端の電圧の波形である。先行波Vf及び遅延波Vrのパルス波形の振幅の正負の極性(以下、単に「極性」という)は互いに逆となる。また、先行波Vf及び遅延波Vrは互いに反対方向へ伝搬する。
【0036】
コイル101の出力端部yに向かって伝搬する先行波Vfは、距離Lfを伝搬したあと、出力端部yに接続されたロゴスキーコイル20の出力端子に出力される。先行波Vfが発生してからロゴスキーコイル20の出力端子に出力されるまでの時間Tfは、先行波Vfがコイル101を伝搬する速度cを用いて、Tf=Lf/cとなる。
【0037】
一方、コイル101の先端部xに向かって伝搬する遅延波Vrは、距離Lrを伝搬したあと、コイル101の先端部xと戻り線102の境界部において反射する。その後、遅延波Vrは、コイル101の出力端部yに向かって更に距離Lr+Lfを伝搬したあと、出力端部yに接続されたロゴスキーコイル20の出力端子に出力される。遅延波Vrが発生してからロゴスキーコイル20の出力端子に出力されるまでの時間Trは、遅延波Vrがコイル101を伝搬する速度cを用いて、(2Lr+Lf)/cとなる。
【0038】
ここで、コイル101の先端部xと戻り線102は、その境界部において短絡されているので、反射は全反射となり、遅延波Vrの極性は、反射時において反転する。従って、反射後の遅延波Vrの極性は、
図3に示されるように、反射前の遅延波Vrの極性から反転して、先行波Vfの極性と同じになる。
【0039】
この結果、先行波Vfと遅延波Vrは、コイル101の出力端部yにおいて伝搬遅延による時間差Tr-Tf=2Lr/cを有して同じ極性で重ね合わされ、ロゴスキーコイル20から出力電圧Voutとして出力される。ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形の時間幅2Lr/cが被測定電流Isの周期、もしくは過渡的な変化時間と同程度になると、電流の測定系としての周波数帯域が不足となる。この結果、ロゴスキーコイル20で測定可能な電流の周波数帯域が制限されてしまうという第1の課題がある。
【0040】
また、誘導電圧の伝搬遅延により生じるロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形の広がりは、ロゴスキーコイル20と被測定電流Isとの相対位置に応じて変化する。このため、コイル101の物理的な位置等の設置条件によって高周波領域における電流の測定結果がばらついて安定しないという第2の課題がある。この第2の課題によっても、ロゴスキーコイル20で測定可能な電流の周波数帯域は、実際上制限されてしまう。以下、この第2の課題について説明する。
【0041】
図4は、比較例となる、ロゴスキーコイル20と被測定電流Isの相対位置を変化させたときの、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの変化を示す図である。
図4には、三通りの、ロゴスキーコイル20と導体2との相対位置401~403のそれぞれにおいて、ステップ波形の被測定電流Isを導体2に流したときの、ロゴスキーコイル20の出力電圧Vout及び積分器11の出力電圧Vsが示されている。
図4の縦軸は、ロゴスキーコイル20の出力電圧Vout及び積分器11の出力電圧Vsの大きさを表している。また、
図4の横軸は時間を表している。
【0042】
まず、相対位置401に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2がコイル101のループの中心付近に配置されている場合を考える。この場合、コイル101の先端部xから出力端部yまでの全ての微小区間に、ほぼ同振幅で同位相の誘導電圧が誘起される。従って、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutは、各微小区間において発生する先行波Vf及び遅延波Vrを、コイル101のループの全区間で加算したものとなる。
【0043】
波形411は、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置401に配置された場合の、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの時間変化を表す。また、波形412は、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置401に配置された場合の、積分器11の出力電圧Vsの時間変化を表す。
【0044】
波形411に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置401に配置された場合の、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutのパルス波形の時間幅2Tdは、先行波Vfと遅延波Vrの伝搬遅延の時間差の最大値となる。ここで、先行波Vfと遅延波Vrの伝搬遅延の時間差の最大値は、コイル101のループ長Ldを用いて、2Ld/cである。この結果、波形412に示されるように、積分器11の出力電圧Vsのステップ波形は、被測定電流Isの波形と比較して、変化期間が2Tdと長いステップ波形となってしまう。これにより、ロゴスキーコイル20で測定可能な電流の周波数帯域は制限されてしまう。
【0045】
次に、相対位置402に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2がコイル101のループの先端部x付近に配置されている場合を考える。この場合にコイル101に誘起される誘導電圧は、コイル101の先端部xに集中する。従って、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutは、概ねコイル101の先端部xの微小区間において発生した先行波Vfと遅延波Vrとが、同じ極性で重ね合わされたものとなる。
【0046】
波形421は、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置402に配置された場合の、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの時間変化を表す。また、波形422は、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置402に配置された場合の、積分器11の出力電圧Vsの時間変化を表す。
【0047】
被測定電流Isの流れる導体2が相対位置402に配置された場合の、先行波Vfと遅延波Vrの伝搬遅延の時間差は殆どゼロである。このため、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutは、コイル101の先端部xの微小区間において発生した先行波Vfのパルス波形と遅延波Vrのパルス波形を、伝搬遅延による時間差なしで、同じ極性で重ね合わせたものとなる。
【0048】
このため、波形421に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置402に配置された場合の、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutのパルス波形の時間幅は、誘導電圧の伝搬遅延には殆ど影響されない。この結果、波形422に示されるように、積分器11の出力電圧Vsの波形は、被測定電流Isの波形を概ね再現したものとなる。この場合、ロゴスキーコイル20で測定可能な電流の周波数帯域は、誘導電圧の伝搬遅延によっては殆ど制限されない。
【0049】
次に、相対位置403に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2がコイル101のループの出力端部y付近に配置されている場合を考える。この場合にコイル101に誘起される誘導電圧は、コイル101の出力端部yに集中する。従って、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutは、概ねコイル101の出力端部yの微小区間において発生した先行波Vfと遅延波Vrとが、伝搬遅延による時間差を有して同じ極性で重ね合わされたものとなる。
【0050】
波形431は、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置403に配置された場合の、ロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの時間変化を表す。また、波形432は、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置403に配置された場合の、積分器11の出力電圧Vsの時間変化を表す。
【0051】
波形431に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2が相対位置403に配置された場合のロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形は、同じ極性で重ね合わされた先行波Vfと遅延波Vrの二つのパルス波形を有している。波形431の時間幅2Tdは、先行波Vfと遅延波Vrの伝搬遅延の時間差2Ld/cである。この結果、波形432に示されるように、積分器11の出力電圧Vsの波形は、二つの変化期間を有する階段状の波形となる。これにより、ロゴスキーコイル20で測定可能な電流の周波数帯域は制限されてしまう。
【0052】
このように、ロゴスキーコイル20と被測定電流Isの相対位置が変化した場合、インピーダンス整合回路103を有しないロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形411、421、431は、被測定電流Isの波形に対して大きく変化する。このため、インピーダンス整合回路103を有しないロゴスキーコイル20は、高周波領域における電流の測定結果が安定せず、ロゴスキーコイル20で測定可能な電流の周波数帯域は、実際上制限されてしまう。
【0053】
図5~
図7は、第1実施形態に係るロゴスキーコイル10と被測定電流Isの相対位置を変化させたときの、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの変化を示す図である。本実施形態のロゴスキーコイル10は、インピーダンス整合回路103を有している。
図5~
図7には、被測定電流Isが流れる導体2の位置を、
図4に示された三通りの相対位置401~403としたときの、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutと、出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsのシミュレーション結果がそれぞれ示されている。ここで、導体2に流される被測定電流Isの波形は、立ち上がり時間が5(ns)のステップ波形とした。
【0054】
シミュレーションにおいては、ロゴスキーコイル10の伝送路を、20素子のLC回路が直列に繋げられた分布定数線路としてモデリングし、SPICE系シミュレータによる過渡解析を行った。ロゴスキーコイル10のインダクタンスLは10(μH)とし、コイル101と戻り線102との間の静電容量Cは10(pF)とした。この場合、伝送路としてのコイル101の特性インピーダンスは、√(L/C)=1000(Ω)となり、伝搬遅延時間は、√(LC)=10(ns)となる。
【0055】
図5には、相対位置401に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2がコイル101のループの中心付近に配置された場合の、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの波形501、及び出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形502が示されている。また、
図5には、インピーダンス整合しない場合のロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形411、及び出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形412が比較用に示されている。
【0056】
ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの波形501は、インピーダンス整合しない場合のロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形411と比較して、パルス幅が約半分のTdに短くなっている。また同様に、出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形502は、インピーダンス整合しない場合の出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形412と比較して、信号の変化期間が約半分のTdに短くなっている。これは、インピーダンス整合回路103を有することにより、コイル101の先端部xと戻り線102の境界部において信号の反射が抑制されたためである。
【0057】
図6には、相対位置402に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2がコイル101のループの先端部x付近に配置された場合の、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの波形601、及び出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形602が示されている。また、
図6には、インピーダンス整合しない場合のロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形421、及び出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形422が比較用に示されている。
【0058】
ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの波形601は、インピーダンス整合しない場合のロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形421と、ほぼ同じ波形となっている。また同様に、出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形602は、インピーダンス整合しない場合の出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形422と、ほぼ同じ波形となっている。これは、コイル101の先端部xにおいては、先行波Vfと遅延波Vrの伝搬遅延の時間差が殆どゼロであり、誘導電圧の伝搬遅延による影響がそもそも小さいためである。
【0059】
図7には、相対位置403に示されるように、被測定電流Isの流れる導体2がコイル101のループの出力端部y付近に配置された場合の、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの波形701、及び出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形702が示されている。また、
図7には、インピーダンス整合しない場合のロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形431、及び出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形432が比較用に示されている。
【0060】
ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの波形701は、インピーダンス整合しない場合のロゴスキーコイル20の出力電圧Voutの波形431とは異なり、反射波のパルス波形が除去されて、ただ一つのパルス波形を有している。また同様に、出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形702は、インピーダンス整合しない場合の出力電圧Voutを積分計算した電圧Vsの波形432とは異なり、二つの変化期間を有する階段状の波形ではなく、ただ一つの変化期間を有する波形となっている。これは、インピーダンス整合回路103を有することにより、コイル101の先端部xと戻り線102の境界部において信号の反射が抑制されたためである。
【0061】
また、
図7に示された出力電圧Voutの波形701及び電圧Vsの波形702は、
図6に示された出力電圧Voutの波形601及び電圧Vsの波形602と、それぞれ、ほぼ同じ波形となっている。これは、
図7に示されたインピーダンス整合しない場合の波形431及び波形432が、
図6に示された波形421及び波形422と、それぞれ大きく異なっているのと対照的である。
【0062】
このように、インピーダンス整合回路103を有する本実施形態のロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの波形の広がりは、ロゴスキーコイル10と被測定電流Isとの相対位置によらず、誘導電圧の伝搬遅延による影響が抑制されることがわかる。この結果、ロゴスキーコイル10の出力電圧Voutの波形の時間幅は、インピーダンス整合しない場合のロゴスキーコイル20の出力電圧Vout時間幅の約半分となり、ロゴスキーコイル10で測定可能な電流の周波数帯域は、約2倍に広帯域化される。
【0063】
以上のように、本実施形態のロゴスキーコイルは、ソレノイド状に導線が巻回されたコイルと、コイルの一方の端部である先端部からコイルの他方の端部である出力端部までコイルの内部を貫通する戻り線を有する。そして、本実施形態のロゴスキーコイルは、コイルの先端部と戻り線の間に接続され、コイルの特性インピーダンスと整合されたインピーダンスを有している。
【0064】
このようなロゴスキーコイルの構成によれば、コイルの先端部と戻り線の境界部において信号が反射されることが抑制される。この結果、ロゴスキーコイルの出力電圧の波形が、信号の反射の影響によって広がることが抑制されるため、ロゴスキーコイルで測定可能な電流の周波数帯域がより広帯域化されるため、ロゴスキーコイルで測定可能な電流の周波数帯域の広帯域化が制限されてしまうという上述の第1の課題が解決される。
【0065】
また、本実施形態のロゴスキーコイルの構成によれば、誘導電圧の伝搬遅延により生じるロゴスキーコイルの出力電圧の波形は、ロゴスキーコイルと被測定電流との相対位置によって大きく変化することは無い。このため、コイルの物理的な位置等の設置条件によって高周波領域における電流の測定結果がばらついて安定しないという上述の第2の課題も解決される。
【0066】
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態に係るロゴスキーコイル10の構成を模式的に示す図である。本実施形態のロゴスキーコイル10は、
図8に示されるように、コイル101を覆うように配置されたシールド104を有する。コイル101とシールド104の間には結合容量が生じるため、コイル101の伝送路としてのインピーダンスは変化する。このため、本実施形態のインピーダンス整合回路103のインピーダンスは、シールド104を配置したことによる静電容量の変化を考慮したコイル101の特性インピーダンスに整合される。ここで、シールド104は、例えば、静電シールド効果を持つ導体層を有するシールドケースとすることができる。その他については第1実施形態と同じであるため、以下では第1実施形態と異なる点について説明する。
【0067】
図8に示されたコイル101は、ループを形成するように円形状に曲げられて、基板105上に実装されたインピーダンス整合回路103と共に、シールド104内に収められている。コイル101の出力端部yは、同軸ケーブル13を介して不図示の積分器に接続される。ここで、コイル101及び戻り線102とインピーダンス整合回路103との間の接続部、並びに、同軸ケーブル13とコイル101の間の接続部は、周囲の磁場ノイズの影響を受けないように短くすることが好ましい。また、これらの配線が形成するループの面積は、磁場が貫通しないように小さくすることが好ましい。
【0068】
ロゴスキーコイル10は、被測定電流Isの作る磁場Bが時間変化することにより誘起される誘導電圧を利用するものであるから、周辺の電界の変化が誘導電圧に重畳されると、電流の測定精度が低下してしまう。電界ノイズの発生源とコイル101との容量結合は、ノイズ信号が高周波であるほど強くなる。従って、ロゴスキーコイル10の広帯域特性を生かすためには、コイル101及び戻り線102とインピーダンス整合回路103との間の接続部、並びに、同軸ケーブル13とコイル101の間の接続部は、電界を遮蔽するシールド104により覆われていることが好ましい。また、同軸ケーブル13は、二重シールド品を用いて、各シールド層を互いに分離することが好ましい。
【0069】
伝送路としてのコイル101の特性インピーダンス及び伝搬遅延時間は、コイル101のインダクタンス、及び、コイル101と戻り線102の間の静電容量に加え、コイル101とシールド104の間の静電容量によっても決定される。従って、シールド104として例えばシールドケースを用いる場合に、シールドケースを小型化すると、シールドケースの導体層とコイル101の間の静電容量が大きくなって、ロゴスキーコイル10の特性インピーダンス及び伝搬遅延時間が変化してしまう。このため、コイル101及びシールド104の構造は、ロゴスキーコイル10の特性インピーダンス及び伝搬遅延時間が測定する電流の大きさと周波数によって最適化されるように設計されることが好ましい。
【0070】
また、シールド104は、コイル101との間の静電容量がコイル101のループに沿って均一となるように配置されることが好ましい。例えばシールド104が、コイル101のループの一部においてコイル101と近接していると、その近接した箇所でコイル101の特性インピーダンスが変化してインピーダンス整合が困難となる。
【0071】
図8に示されたシールド104は、周囲の電界ノイズを遮蔽する効果がある一方で、インピーダンス整合回路103に浮遊容量を発生させるおそれがある。そこで、インピーダンス整合回路103を抵抗素子のみで構成するのではなく、インダクタンス又はキャパシタンス等の回路素子を含むインピーダンス整合回路103を構成することで、浮遊容量の影響を抑制することができる。そのためには、シールド104との間の結合容量を含んだインピーダンス整合回路103が、シールド104との間の結合容量を含んだコイル101の特性インピーダンスと整合するよう、回路素子を組み合わせてインピーダンス整合回路103を構成すればよい。
【0072】
このように、本実施形態のロゴスキーコイル10は、シールド104を有することにより、周囲の電界ノイズを遮蔽して、測定可能な電流の周波数帯域をより広帯域化することができる。従来、50MHzを超えるような高周波領域における電流の測定には、カレントトランスを用いることが一般的であった。しかし、カレントトランスは大電流で磁束が飽和してしまい、磁束の飽和を避けようとすると装置が大型化してしまうという課題があった。本実施形態のロゴスキーコイル10は、このようなカレントトランスを代替して、高周波の被測定電流Isを測定することが可能である。
【0073】
以上のように、本実施形態のロゴスキーコイルはコイルを覆うシールドを更に有し、インピーダンス整合回路のインピーダンスは、シールドを付加したことによる静電容量を考慮したコイルの特性インピーダンスに整合される。このようなロゴスキーコイルの構成によれば、周囲の電界ノイズが遮蔽されるので、ロゴスキーコイルで測定可能な電流の周波数帯域がより広帯域化される。
【0074】
[第3実施形態]
図9及び
図10は、第3実施形態に係るロゴスキーコイル10の構成を模式的に示す図である。
図9及び
図10には、コイル101の先端部xと戻り線102の間にインピーダンス整合回路103を接続するための、インピーダンス整合回路103の配置例が示されている。
【0075】
図9に示されたインピーダンス整合回路103aは、コイル101の先端部xの端面に配置されている。また、
図10に示されたインピーダンス整合回路103bは、コイル101の内部に配置されている。その他については第1実施形態と同じであるため、以下では第1実施形態と異なる点について説明する。
【0076】
ロゴスキーコイル10は磁性体コアを有さないため、空芯コイルに柔軟性を持たせてコイル101を曲げ伸ばし可能な構造とすることで、コイル101の形状を、
図1に示されたように円形状にしたり、或いは、直線状にしたりすることが可能である。更に、コイル101のループの両端の先端部xと出力端部yのうち、例えば一端を保護するカバーを凸形状とし、他端を保護するカバーを凹形状として互いに係合可能な構造とする。これにより、先端部xを保護するカバーと出力端部yを保護するカバーとを繋げてロゴスキーコイル10を閉ループにしたり、先端部xを保護するカバーと出力端部yを保護するカバーとを離してロゴスキーコイル10を開ループにしたりすることが可能である。
【0077】
このようなロゴスキーコイル10では、ロゴスキーコイル10を一時的に開ループとして、コイル101の先端部xと出力端部yとの隙間から、被測定電流Isが流れる導体2を、ロゴスキーコイル10のループ内に出し入れできる。このため、ロゴスキーコイル10は、コイルを開ループにすることができないカレントトランス等と比較して、被測定電流Isが流れる導体2の経路を切断することなく、導体2をコイル101のループ内に配置できるという利点を有している。
【0078】
しかし、コイル101の先端部xに設けられるインピーダンス整合回路103のサイズが大きいと、ロゴスキーコイル10を閉ループとしたときのコイル101の先端部xと出力端部yの間の距離が大きくなってしまう。この結果、ロゴスキーコイル10による電流の測定精度が低下してしまう。従って、コイル101の先端部xに設けられるインピーダンス整合回路103のサイズは小さいことが好ましい。
【0079】
そこで、
図9に示されたロゴスキーコイル10では、薄型の抵抗素子が、インピーダンス整合回路103aとしてコイル101の先端部xの端面に配置されている。また、
図10に示されたロゴスキーコイル10では、円柱形の抵抗素子が、インピーダンス整合回路103bとしてコイル101の内部に配置されている。このようなロゴスキーコイル10の構成によれば、コイル101の先端部xが大型化することを避けられるので、ロゴスキーコイル10を開ループにできる構造とした上で、ロゴスキーコイル10で測定可能な電流の周波数帯域をより広帯域化することができる。
【0080】
このようなロゴスキーコイル10は、例えば、電車のインバータのような大型の導体2(バスバー)に流れる被測定電流Isを測定するために用いられる。しかし、導体2の断面積が大きくなると、コイル101のループ長が長くなるため、コイル101に誘起される誘導電圧のコイル101内での伝搬遅延が大きくなって、ロゴスキーコイル10で測定可能な周波数帯域が制限されてしまう。本実施形態のロゴスキーコイル10によれば、このような用途においても、コイル101の先端部xと戻り線102の境界部における信号の反射を抑制して、誘導電圧の伝搬遅延による影響を抑制することができる。
【0081】
以上のように、本実施形態のインピーダンス整合回路は、コイルの先端部の端面又はコイルの内部に配置される。このようなロゴスキーコイルの構成によれば、ロゴスキーコイルを開ループにできる構造とした上で、ロゴスキーコイルで測定可能な電流の周波数帯域をより広帯域化することができる。
【0082】
[その他の実施形態]
上述の実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0083】
上述の実施形態は、互いに組み合わせて適用することも可能である。例えば、
図8に示された第2実施形態のシールド104を、
図9及び
図10に示された第3実施形態のロゴスキーコイル10の構成に適用してもよい。この場合、シールド104をシールドケースとする代わりに、シールド104をコイル101と共に曲げ伸ばし可能な構造とすることができる。但し、前述のように、シールド104によってロゴスキーコイル10の特性インピーダンス及び伝搬遅延時間が変化するので、シールド104とコイル101の間に大きな静電容量が生じないような構造が好ましい。
【0084】
また、ロゴスキーコイル10を基板上に実装してもよい。例えば、多層プリント基板上のラインとスルーホールを用いて、ソレノイド状のコイル101を、プリント基板上にループ状に実装することが可能である。この場合に、コイル101が実装された基板上に、インピーダンス整合回路103を実装することは容易である。
【符号の説明】
【0085】
1 電流測定装置
2 導体
10 ロゴスキーコイル
11 積分器
12 パルス発生器
13 同軸ケーブル
101 コイル
102 戻り線
103 インピーダンス整合回路
104 シールド
105 基板