(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】切断方法及び切断装置
(51)【国際特許分類】
B24B 27/06 20060101AFI20220615BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20220615BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
B24B27/06 D
B24B27/06 E
B28D5/04 C
H01L21/304 611W
(21)【出願番号】P 2020563119
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049487
(87)【国際公開番号】W WO2020137713
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2018243799
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591108178
【氏名又は名称】秋田県
(74)【代理人】
【識別番号】100142734
【氏名又は名称】安 裕 希
(72)【発明者】
【氏名】久住 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】赤上 陽一
(72)【発明者】
【氏名】越後谷 正見
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-113677(JP,A)
【文献】特開2015-009346(JP,A)
【文献】国際公開第2009/048099(WO,A1)
【文献】特開2000-158328(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108466156(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103056730(CN,A)
【文献】特開2016-198847(JP,A)
【文献】特開2008-137124(JP,A)
【文献】特開平09-216128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00-3/60
B24B21/00-39/06
B28D1/00-7/04
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ工具を用いてワークを切断する切断方法であって、
電気的誘電性を有する砥粒を含むスラリーを、前記ワイヤ工具が前記ワークに切り込む領域に供給する工程(a)と、
前記ワイヤ工具と前記ワークとの間の領域に交流電界を発生させる工程(b)と、
前記ワークに対して前記ワイヤ工具を当接させつつ、前記ワイヤ工具が延伸する方向に沿って前記ワイヤ工具を走行させる工程(c)と、
を含み、
前記スラリーは
、絶縁性の液体と、該液体に分散された
前記砥粒である粒子であって、絶縁物と、半導体と、金属又は合金とのうちの少なくともいずれかからなる粒子と、を含む切断方法。
【請求項2】
ワイヤ工具を用いてワークを切断する切断方法であって、
前記ワイヤ工具は、金属又は合金からなるワイヤと、該ワイヤの表面に形成された絶縁層と、を含
み、
電気的誘電性を有する砥粒を含むスラリーを、前記ワイヤ工具が前記ワークに切り込む領域に供給する工程(a)と、
前記ワイヤ工具と前記ワークとの間の領域に交流電界を発生させる工程(b)と、
前記ワークに対して前記ワイヤ工具を当接させつつ、前記ワイヤ工具が延伸する方向に沿って前記ワイヤ工具を走行させる工程(c)と、
を含む切断方法。
【請求項3】
前記ワイヤ工具は、金属又は合金からなるワイヤと、該ワイヤの表面に形成された絶縁層とを含む、請求項1に記載の切断方法。
【請求項4】
前記ワイヤ工具は、前記ワイヤ又は前記絶縁層に固定された第2の砥粒をさらに含む、請求項
2又は3に記載の切断方法。
【請求項5】
前記交流電界の周波数は、0.1Hz以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項6】
工程(b)は、前記ワイヤ工具と前記ワークとの間に交流電圧を印加することを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の切断方法。
【請求項7】
ワイヤ工具を用いてワークを切断する切断装置であって、
所定の張力となるように前記ワイヤ工具を保持するように構成されたワイヤ保持部と、
前記ワイヤ工具が前記ワークに切り込む領域に、砥粒を含むスラリーを供給するように構成されたスラリー供給部と、
前記ワイヤ工具と前記ワークとの間の領域に交流電界を発生させるように構成された電界発生手段と、
前記ワイヤ工具が延伸する方向に沿って該ワイヤ工具を走行させるように構成されたワイヤ走行手段と、
切断工程の間、前記ワークに対して前記ワイヤ工具が当接しているように、前記ワイヤ工具と前記ワークとの少なくとも一方を他方に対して相対的に移動させるように構成された送り手段と、
を備え、
前記スラリーは
、絶縁性の液体と、該液体に分散された
前記砥粒である粒子であって、絶縁物と、半導体と、金属又は合金とのうちの少なくともいずれかからなる粒子と、を含む切断装置。
【請求項8】
ワイヤ工具を用いてワークを切断する切断装置であって、
前記ワイヤ工具は、金属又は合金からなるワイヤと、該ワイヤの表面に形成された絶縁層と、を含み、
所定の張力となるように前記ワイヤ工具を保持するように構成されたワイヤ保持部と、
前記ワイヤ工具が前記ワークに切り込む領域に、砥粒を含むスラリーを供給するように構成されたスラリー供給部と、
前記ワイヤ工具と前記ワークとの間の領域に交流電界を発生させるように構成された電界発生手段と、
前記ワイヤ工具が延伸する方向に沿って該ワイヤ工具を走行させるように構成されたワイヤ走行手段と、
切断工程の間、前記ワークに対して前記ワイヤ工具が当接しているように、前記ワイヤ工具と前記ワークとの少なくとも一方を他方に対して相対的に移動させるように構成された送り手段と、
を備える切断装置。
【請求項9】
前記電界発生手段は、前記ワイヤ工具と前記ワークとの間に交流電圧を印加するように構成された電圧発生装置である、請求項
7又は8に記載の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体インゴット等の硬脆材料を切断する切断方法及び切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気エネルギーの利用効率向上のため、パワーデバイス半導体の性能向上が求められている。そのため、パワーデバイス半導体として多用されているシリコン(Si)に対し、よりバンドギャップが広い半導体(ワイドギャップ半導体)材料として、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド等が注目されている。
【0003】
ところで、半導体インゴットをウェーハ加工する工程には、主に、切断(スライシング)工程、研削工程、ラッピング工程、ポリッシング工程が含まれる。このうち、切断工程については、従来、ワイヤ工具及び砥粒を用いる切断技術が知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、所定間隔をおいて配置したローラ間に、ワイヤを巻回させて複数本のワイヤ列を形成し、結晶性インゴットに押し当てた状態で上記ワイヤ列を移動させ、結晶性インゴットを複数枚の半導体ウェーハにスライスする半導体ウェーハの製造方法が開示されている。この特許文献1においては、表面に砥粒が固定されたワイヤを用い、このワイヤに所定の潤滑剤を供給しながらスライスすることとしている。なお、このような切断方式は、固定砥粒方式とも呼ばれる。
【0005】
また、特許文献2には、多数本のワイヤ溝が長さ方向へ離間して形成された少なくとも2本のグルーブローラと、上記多数本のワイヤ溝を介して、グルーブローラ間にワイヤを架け渡すことでワイヤ列を現出し、該ワイヤ列を維持しながらグルーブローラ間で一方向へのみ走行するワイヤとを備える一方向走行式ワイヤソーが開示されている。この特許文献2においては、インゴットが押し付けられるワイヤ列の押し付け位置より上流側の部分に、遊離砥粒を含むスラリーを供給してインゴットを切断することとしている。なお、このような切断方式は、遊離砥粒方式とも呼ばれる。
【0006】
また、特許文献3には、ワイヤ芯線の外周面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを走行させて、遊離砥粒を含むスラリーを該固定砥粒ワイヤに供給しながらワークを切断するワイヤソー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-74056号公報
【文献】特開2012-143847号公報
【文献】特開2013-52463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体インゴットをウェーハ加工する工程の総加工時間は、一般に、60時間以上にも及び、このうち、切断工程は総加工時間の6~7割を占める。特に、炭化ケイ素等のワイドギャップ半導体材料は、機械的・化学的に安定した難加工材料であり、シリコンと比較しても硬度が高いため、切断工程における加工時間も長くなる。そのため、加工品位を低下させることなく、加工時間を短縮することができる切断技術が望まれている。
【0009】
しかしながら、例えば特許文献2に記載されているような遊離砥粒方式の切断方法は、ワークへのダメージが少なく、加工コストが低いという利点はあるものの、切断効率が低い。そのため、炭化ケイ素のような硬度の高いワークの切断にはあまり向いているとは言えない。
【0010】
他方、例えば特許文献1に記載されているような固定砥粒方式の切断方法においては、切断は比較的高速に行えるものの、加工により切断面が変質してしまうため、ワークのダメージが大きい。そのため、後の研磨工程における負荷が大きくなり、トータルではかえって多くの加工時間が必要になってしまう。また、砥粒が固定されたワイヤ工具の価格が高い、ワイヤ工具への砥粒の固定品質がワークの加工品位に影響を及ぼすといった問題もある。
【0011】
さらに、例えば特許文献3に記載されているような、砥粒を含むスラリーを供給しつつ、表面に砥粒が固定されたワイヤ工具を用いて切断を行う方式においては、通常の遊離砥粒方式よりは加工効率を向上できる可能性はあるものの、加工品位については、遊離砥粒方式と比較して低下するおそれがある。
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、ワイヤ工具を用いた切断方法において、従来よりも効率良く、且つ、加工品位を低下させることなくワークを切断することができる切断方法及び切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である切断方法は、ワイヤ工具を用いてワークを切断する切断方法であって、電気的誘電性を有する砥粒を含むスラリーを、前記ワイヤ工具が前記ワークに切り込む領域に供給する工程(a)と、前記ワイヤ工具と前記ワークとの間の領域に交流電界を発生させる工程(b)と、前記ワークに対して前記ワイヤ工具を当接させつつ、前記ワイヤ工具が延伸する方向に沿って前記ワイヤ工具を走行させる工程(c)と、を含むものである。
【0014】
上記切断方法において、前記スラリーは、所定範囲の粘性を有する絶縁性の液体と、該液体に分散された粒子であって、絶縁物と半導体と金属又は合金とのうちの少なくともいずれかからなる粒子と、を含んでも良い。
上記切断方法において、前記ワイヤ工具は、金属又は合金からなるワイヤと、該ワイヤの表面に形成された絶縁層と、を含んでも良い。
【0015】
上記切断方法において、前記ワイヤ工具は、前記ワイヤ又は前記絶縁層に固定された第2の砥粒をさらに含んでも良い。
上記切断方法において、前記交流電界の周波数は、0.1Hz以上であっても良い。
上記切断方法において、工程(b)は、前記ワイヤ工具と前記ワークとの間に交流電圧を印加することを含んでも良い。
【0016】
本発明の別の態様である切断装置は、ワイヤ工具を用いてワークを切断する切断装置であって、所定の張力となるように前記ワイヤ工具を保持するように構成されたワイヤ保持部と、前記ワイヤ工具が前記ワークに切り込む領域に、砥粒を含むスラリーを供給するように構成されたスラリー供給部と、前記ワイヤ工具と前記ワークとの間の領域に交流電界を発生させるように構成された電界発生手段と、前記ワイヤ工具が延伸する方向に沿って該ワイヤ工具を走行させるように構成されたワイヤ走行手段と、切断工程の間、前記ワークに対して前記ワイヤ工具が当接しているように、前記ワイヤ工具と前記ワークとの少なくとも一方を他方に対して相対的に移動させるように構成された送り手段と、を備えるものである。
【0017】
上記切断装置において、前記電界発生手段は、前記ワイヤ工具と前記ワークとの間に交流電圧を印加するように構成された電圧発生装置であっても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ワイヤ工具とワークとの間の領域に交流電界を発生させるので、供給されたスラリーに含まれる砥粒が、ワイヤ工具とワークとの間の領域に集まり、且つ、該領域において、砥粒は偏って凝集することなく、ほぼ均一に配置される。そのため、ワイヤ工具近傍に十分に砥粒が配置された状態を維持しながら、ワイヤ工具をスムースに走行させることができる。従って、ワイヤ工具を用いた切断方法において、従来よりも効率良く、且つ、加工品位を低下させることなくワークを切断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る切断方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態に係る切断装置の概略構成を例示する模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る切断方法の原理を説明するための模式図である。
【
図4】ワイヤ工具近傍の砥粒の挙動(電界を発生させない状態)を示す画像である。
【
図5】ワイヤ工具近傍の砥粒の挙動(電界を発生させた状態)を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る切断方法及び切断装置について、図面を参照しながら説明する。なお、これらの実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0021】
以下の説明において参照する図面は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示しているに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る切断方法を示すフローチャートである。
図2は、本発明の実施形態に係る切断装置の概略構成を例示する模式図である。
図3は、本発明の実施形態に係る切断方法の原理を説明するための模式図である。
【0023】
本実施形態に係る切断方法は、ワイヤ工具及び砥粒を含むスラリーを用いてワークを切断する方法であって、ワイヤ工具とワークとの間の領域に交流電界を発生させた状態で切断を行うものである。本実施形態において切断可能なワークは、ワイヤ工具及びスラリーを用いた一般的な切断方法で切断できるワークであれば、特に限定されない。具体例として、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド等の半導体に加え、ガラス、サファイア、セラミックスといった硬脆材料、磁性材料、金属や合金等が挙げられる。
図1に示す各工程の詳細については後述する。
【0024】
図2に示す切断装置1は、ワーク10を保持するワーク保持部11と、該ワーク保持部11が固定された昇降ステージ12と、昇降ステージ12を昇降させるステージ昇降機13と、所定の張力となるようにワイヤ工具20を保持するワイヤ保持部21と、ワイヤ保持部21を振動させる振動発生装置25と、砥粒を含むスラリー30をワイヤ工具20がワーク10に切り込む領域に供給するスラリー供給部33と、ワイヤ工具20とワーク10との間に電圧を印加する電圧発生装置40と、を備える。また、切断装置1は、これらの各部の動作を制御する制御装置50をさらに備えても良い。以下においては、ワイヤ工具20が延伸する方向をx方向、切断工程においてワーク10を送る方向(鉛直方向)をz方向(上向きを正)とする。
【0025】
ワーク保持部11は例えば金属又は合金製の板材であり、昇降ステージ12にボルト等により締結されている。本実施形態において、ワーク10は、導電性の接着剤によりワーク保持部11に固定されている。もっとも、ワーク保持部11の構成及びワーク10の固定方法はこれに限定されない。一例として、ワーク10の外周面を四方から囲むことによりワーク10を機械的に保持しても良い。また、ワーク保持部11に切削動力計を設け、この切削動力計の出力値に基づいて、ワーク10の送り速度(即ち、昇降ステージ12のz方向における移動速度)を調節しても良い。
【0026】
昇降ステージ12には、該昇降ステージ12をz方向に沿って昇降させる電動式のステージ昇降機13が接続されている。昇降ステージ12及びステージ昇降機13は、切断工程の間、ワーク10に対してワイヤ工具20が当接しているように、ワーク10をz方向に移動させる送り手段である。本実施形態において、ステージ昇降機13は、制御装置50の制御の下で昇降ステージ12を所定の速度で上昇させる。また、昇降ステージ12に、xy平面における位置合わせを行う位置決め機構を設けても良い。
【0027】
ワイヤ工具20は、スチール等の金属又は合金製のワイヤ(ピアノ線)の表面を絶縁層で被覆したワイヤソーである。ここで、表面が絶縁層で被覆されたワイヤを用いるのは、ワーク及びスラリーとワイヤとを絶縁するためである。絶縁層は、例えば、ワイヤの芯線を樹脂等の絶縁性材料でコーティングしたり、芯線の表面に酸化被膜などの不導体被膜を形成したりすることにより設けることができる。また、ワイヤ工具20として、ワイヤ表面又は絶縁層に砥粒が固定された、所謂固定砥粒ワイヤを用いることも可能である。
【0028】
ワイヤ保持部21は、一例として、所定の間隔で互いに対向して配置され、ワイヤ工具20を保持する2つの支柱22と、これらの支柱22を連結する支柱連結部23とを含む。また、ワイヤ工具20の一端側には、ワイヤ工具20の張力を調整するワイヤ張力調整部24が設けられている。
【0029】
ワイヤ保持部21には、ワイヤ工具20及びこれを保持するワイヤ保持部21全体をx方向に沿って振動させる振動発生装置25が接続されている。振動発生装置25は、ワイヤ工具20が延伸する方向に該ワイヤ工具20を走行させるワイヤ走行手段である。本実施形態においては、振動発生装置25によって、ワイヤ工具20をx方向において小刻みに往復させることにより、ワーク10を切断する。
【0030】
スラリー供給部33は、例えば先端に開口が設けられた管であり、スラリータンクから供給されるスラリー30を、ワイヤ工具20がワーク10に切り込む領域に吐出する。
【0031】
電圧発生装置40は、ワイヤ工具20とワーク10との間の領域に交流電界を発生させる電界発生手段である。
図2においては、一方(図の左側)の支柱22及びワーク保持部11を介して、ワイヤ工具20(厳密には、絶縁層の内側の芯線)とワーク10との間に電圧を印加することとしているが、ワーク10が導電性を有する場合には、ワイヤ工具20及びワーク10に直接電圧を印加しても良い。
【0032】
制御装置50は、例えば汎用のコンピュータにより構成され、ワイヤ張力調整部24、振動発生装置25、ステージ昇降機13、及び電圧発生装置40の動作をモニタ及び制御する。制御装置50は、各部の動作のモニタ結果(例えば、ワイヤ工具20の張力)を表示する表示部や、各種命令や設定値を入力するための操作入力手段を備えても良い。
【0033】
もっとも、本実施形態に係る切断方法を適用可能な切断装置の構成は、
図2に示す構成に限定されない。例えば、ワイヤ保持部として、所定間隔を置いて配置したローラ間にワイヤ工具を巻回させて複数本のワイヤ列を形成する機構(例えば、特開2010-74056号公報、特開2012-143847号公報、特開2013-52463号公報等参照)を採用してもよい。この場合、複数枚のスライスを同時に取得することができる。
【0034】
また、ワイヤ走行手段として、ローラ間にワイヤ工具を巻回させて複数本のワイヤ列を形成する機構において、ローラを一方向に回転させることにより、ワイヤ工具を一方向に走行させる機構を採用しても良い。或いは、一方向にローラを回転させた後、ローラを逆回転させることにより、ワイヤ工具を往復走行させても良い。
【0035】
また、ワーク保持部11及び昇降ステージ12の配置についても、
図2に示す配置に限定されない。例えば、ワーク保持部をワイヤ工具の上側(
図2の+z側)に配置して、ワークを上方から保持することとし、ワーク保持部を下方(
図2の-z方向)に向けて送ることにより、ワークを切断しても良い。
【0036】
さらに、
図2に示す構成においては、ワイヤ工具20の位置を固定し、ワーク10側をワイヤ工具20に向けて送ることとしたが、ワーク10の位置を固定し、ワイヤ工具20側をワークに向けて送っても良い。或いは、ワーク10及びワイヤ工具20の双方を互いに反対方向に移動させても良い。
【0037】
次に、本実施形態において用いられるスラリー30について説明する。
図3に示すように、スラリー30は、所定範囲の粘度を有する分散媒31に砥粒32を分散させたものである。分散媒31としては、水(純水)やシリコンオイル(例えば、20℃において粘度1~1000cSt)等の絶縁性の液体が用いられる。
【0038】
砥粒32としては、ワーク10の硬度以上の硬度を有する粒子、或いは、ワークとの間でメカノケミカル作用を生じる粒子であって、電気的誘電性を有する絶縁物と、半導体と、金属又は合金とのうちの少なくともいずれかからなる粒子が用いられる。砥粒32の誘電率は、上記分散媒31の誘電率よりも高いことが好ましい。また、砥粒32の径は、ワイヤ工具20の径や加工幅等に応じて、適宜設定すれば良い。
【0039】
砥粒32の材料として、具体的には、ワーク10の材料との関係から、ダイヤモンド、コランダム、エメリー、ザクロ石、珪石、焼成ドロマイト、溶融アルミナ、人造エメリー、炭化珪素、酸化ジルコニウム、立方晶系窒化ホウ素cBN、酸化クロム、酸化珪素、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭化マグネシウム、炭酸バリウム等より適宜選択することができる。或いは、複数種類の材料からなる砥粒を用いても良い。例えば、砥粒の中心部分(コア部分)を、該コア部分の材料とは異なる材料で被覆した複合材の砥粒を用いることができる。この場合、被覆する側(シェル部分)の材料としては、ワーク10に対する切断レートがコア部分の材料よりも高い材料が用いられる。具体的には、コア部分の材料として、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)等のチタン金属複合酸化物が挙げられる。また、シェル部分の材料としては、例えば、金属酸化物、炭化物、窒化物、硼化物、ダイヤモンドが用いられる。具体的には、酸化鉄、酸化マンガン、二酸化ケイ素(シリカ、SiO2)、酸化セリウム(セリア)、ダイヤモンド(C)、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)、酸化チタン(チタニア、TiO2)、酸化ジルコニウム(ジルコニア、ZrO2)、炭化ホウ素(B4C)、立方晶窒化ホウ素(cBN)、炭化ケイ素(SiC)等が挙げられる。
【0040】
スラリー30を調製する際には、分散媒31に砥粒32を混合し、超音波分散機等を用いて、砥粒32が凝集しないように均一に分散させる。
【0041】
次に、本実施形態に係る切断方法を説明する。
まず、工程S10において、加工対象であるワーク10を切断装置1にセットする。即ち、導電性接着剤を用いるなどしてワーク10をワーク保持部11に固定し、さらに、ワーク保持部11を昇降ステージ12に締結する。そして、昇降ステージ12の位置及び高さを調整し、ワーク10の切断箇所をワイヤ工具20近傍に配置する。
【0042】
続く工程S11において、ワーク10の切断箇所に向けて、砥粒32を含むスラリー30の供給を開始する。また、工程S12において、ワーク10とワイヤ工具20との間に交流電圧を印加することにより、ワーク10とワイヤ工具20との間の領域に交流電界を発生させる。印加する交流電圧の振幅、周波数、波形等の条件は、ワーク10及びワイヤ工具20の材料、並びに、スラリー30の材料及び砥粒の径といった各種条件に応じて適宜設定される。
【0043】
続く工程S13において、ワイヤ工具20を走行させ、ワーク10の切断を開始する。ワーク10の送り速度(昇降ステージ12の移動速度)については、ワーク10及びワイヤ工具20の材料、ワイヤ工具20の走行速度(振動発生装置25により振動させる場合には周期)、加工幅等の各種条件に応じて適宜設定される。
【0044】
その後、設定された範囲の切断が終了すると、ワイヤ工具20の走行を停止させ(工程S14)、さらに、スラリー30の供給を停止する(工程S15)。それにより、一連のワーク10の切断工程が終了する。
【0045】
このように、ワイヤ工具20がワーク10に切り込む領域にスラリー30を供給しつつ交流電界を発生させると、スラリー30内の砥粒32が誘電泳動により、ワイヤ工具20とワーク10との間の領域に集まる(
図3参照)。この際、スラリー30には交流電界が印加されているので、砥粒32は、該領域において偏って凝集することなく、概ね均一に配置される。そのため、ワイヤ工具20の周囲に十分な砥粒32が存在する状態を維持しながら、ワイヤ工具20をスムースに走行させることができ、良好な加工効率で切断を進めることができる。
【0046】
このとき、砥粒32は、ワイヤ工具20の周囲に集まりつつも、流動しているので、一般的な固定砥粒方式の切断方法のように、ワーク10の切断面にダメージを与えることはない。つまり、少なくとも一般的な遊離砥粒方式の切断方法と同程度又はそれ以上の加工品位で切断を行うことができる。
【0047】
なお、印加する電圧の周波数が0.1Hz未満の場合、スラリー30の流体としての流動性が低下したり、砥粒32が凝集したりする可能性がある。また、印加する電圧を直流とする場合、砥粒32がワイヤ工具20とワーク10とのいずれかの側に凝集してしまうおそれがあると共に、砥粒の転動性の低下を招くおそれもある。
【0048】
(原理実験)
砥粒を含むスラリーにワイヤ工具を浸した状態でワイヤ工具に交流電圧を印加することにより、ワイヤ工具近傍に交流電界を発生させ、砥粒の挙動を観察する実験を行った。実験条件は以下のとおりである。
スラリー
分散媒 :10cStのジメチルシリコーンオイル
砥粒 :粒径20~30μmのダイヤモンド砥粒
ワイヤ工具 :直径150μmの樹脂コートスチールワイヤ
ワーク :スライドガラス
ワーク側電極:アルミプレート
印加電圧 :±2kV、6Hzの矩形波
【0049】
実験方法は次のとおりである。即ち、水平に設置したアルミプレート上にスライドガラスを載置し、このスライドガラス上にワイヤ工具を水平に配置した。スライドガラスの主面にスラリーを滴下しながら、アルミプレートとワイヤ工具との間に交流電圧を印加することにより交流電界を形成した。この状態で、スライドガラスの上方に設置した顕微鏡及びカメラにより、ワイヤ工具の表面近傍を拡大して撮像を行うことにより画像を取得した。
図4及び
図5は、ワイヤ工具近傍の砥粒の挙動を示す画像である。このうち、
図4は、電界を発生させない状態を示し、
図5は、電界を発生させた状態を示す。
【0050】
図4に示すように、電界を発生させない状態では、ダイヤ砥粒がスラリー全体にわたって分散している。これに対し、
図5に示すように、電界を発生させた状態では、ダイヤ砥粒がワイヤ近傍に集まっており、集まった領域においては、ダイヤ砥粒が偏って凝集することなく、ほぼ均一に配置されている。
【0051】
(切断実験)
本実施形態に係る切断方法によりワークを切断する実験1~4を行い、加工効率及び加工品位を評価した。各実験における実験条件は、以下のとおりである。
【0052】
実験1
スラリー
分散媒 :10cStのジメチルシリコーンオイル
砥粒 :粒径2~4μmのダイヤモンド砥粒
砥粒濃度:1wt%
滴下速度:50μL/min
ワイヤ工具:直径160μmの樹脂コートスチールワイヤ
印加電圧
振幅 :±0.5kV
周波数 :0V(電圧印加なし)、3Hz、6Hz、15Hz、
30Hz
波形 :矩形波
【0053】
実験2
スラリー
分散媒 :10cStのジメチルシリコーンオイル
砥粒 :粒径5~10μmのダイヤモンド砥粒
砥粒濃度:1wt%
滴下速度:50μL/min
ワイヤ工具:直径160μmの樹脂コートスチールワイヤ
印加電圧
振幅 :±0.5kV
周波数 :0V(電圧印加なし)、3Hz、6Hz、15Hz、
30Hz
波形 :矩形波
【0054】
実験3
スラリー
分散媒 :10cStのジメチルシリコーンオイル
砥粒 :粒径5~10μmのダイヤモンド砥粒
砥粒濃度:1wt%
滴下速度:50μL/min
ワイヤ工具:直径160μmの樹脂コートスチールワイヤ
印加電圧
振幅 :±1.0kV
周波数 :0V(電圧印加なし)、3Hz、6Hz、15Hz、
30Hz
波形 :矩形波
【0055】
実験4
スラリー
分散媒 :10cStのジメチルシリコーンオイル
砥粒 :粒径2~4μmのダイヤモンド砥粒
砥粒濃度:1wt%
滴下速度:30μL/min
ワイヤ工具:直径120μmの芯線に樹脂コートした直径150μmのワイヤに粒径12~25μmのダイヤモンド砥粒を固定した固定砥粒ワイヤ
印加電圧
振幅 :±0.5kV
周波数 :0V(電圧印加なし)、3Hz、6Hz、30Hz
波形 :矩形波
【0056】
また、実験1~4において共通の実験条件は、以下のとおりである。
ワイヤ工具の張力:8N
ワイヤ工具の線速:2.52m/min
ワーク :直径10mmの円柱状のシリコンインゴット
ワークの送り速度:23μm/min
加工時間 :10分間
【0057】
実験1~4において、加工効率の評価は、10分間加工を行ったときのワークへの切断深さ(ワークに形成された溝の深さ)を測定することにより行った。また、加工品位の評価は、切断部(溝の内面)の粗さRaを測定することにより行った。ここで、溝の内面の粗さは、切断面の品位を直接的に表すものとはいえないが、ワークに対するワイヤ工具の動きのスムースさを表す指標となり得る。例えば、溝の内面が粗い場合、切断時のよれ等に起因するソーマークが発生し、切断面の品位が低下するものと考えられる。
【0058】
図6は実験1の結果を示すグラフであり、
図7は実験2の結果を示すグラフであり、
図8は実験3の結果を示すグラフであり、
図9は実験4の結果を示すグラフである。実験1~4において、棒グラフはワークへの切断深さ(Slicing depth,μm))を示し、プロットされた点は切断部の粗さ(Rougness(Ra,μm))を示す。
【0059】
図6~
図9に示すように、いずれの実験においても、ほとんどの場合、電界を発生させることにより切断深さが増加している。例えば、周波数を6Hzとした場合、電界を発生させない場合(周波数0Hz)と比較して、実験1においては約86%(
図6参照)、実験2においては約110%(
図7参照)、実験3においては約79%(
図8参照)、実験4においては約42%(
図9参照)、切断深さが増加している。これより、電界を発生させることにより、加工効率が向上することが確認された。
【0060】
加工効率の周波数依存性について考察すると、ほとんどの場合、周波数が3Hz以上になると、切断深さが有意に増加することがわかる。上記実験条件の下では、いずれにおいても、特に、6Hz近傍において、切断深さが最も大きい。他方、周波数が30Hzを超えると、切断深さが減少している。これより、実験1~4の条件の下で加工効率を向上させるためには、交流電界の周波数を、好ましくは3Hz以上30Hz以下、より好ましくは3Hzよりも大きく、15Hz未満にすると良く、さらに好ましくは6Hz近傍にすると良いことがわかる。
【0061】
スラリーに分散させる砥粒の粒径について考察すると、実験1(粒径2~4μm、
図6参照)においては周波数が6Hzのときに切断深さが86%増加したのに対し、実験2(粒径5~10μ、
図7参照)においては、周波数が6Hzのときに切断深さが110%増加している。これより、実験1、2の条件の下では、砥粒の粒径が大きい場合に、一層の加工効率の向上効果を得ることができると言える。
【0062】
加工効率の電圧依存性について考察すると、実験2(電圧±0.5kV、
図7参照)においては周波数が6Hzのときに切断深さが110%増加したのに対し、実験3(電圧±1.0kV、
図8参照)においては、周波数が6Hzのときに切断深さが79%増加している。これより、加工効率の向上のために、高電圧が必ずしも有利というわけではないことがわかった。
【0063】
加工品位については、遊離砥粒のみを用いた実験1~3(
図6~
図8参照)では、電界を発生させた場合、電界を発生させない場合と比較して切断部の粗さRaの有意な変動は見られなかった。これより、遊離砥粒を用いて切断を行う場合、加工品位の低下を招くことはなく、加工効率を向上させることができることが確認された。他方、遊離砥粒及び固定砥粒を用いた実験4(
図9参照)では、電界を発生させた場合、切断部の粗さRaは電界を発生させない場合と比較して減少しており、粗さが向上していることがわかる。つまり、固定砥粒ワイヤを用いる場合には、電界を発生させることにより、加工効率を向上させるだけでなく、加工品位を向上させることもできることが確認された。
【0064】
(切断効率の粒径依存性)
本実施形態に係る切断方法において、スラリーに含まれる砥粒の径を変化させてワークを切断する実験5を行い、切断効率の粒径依存性を評価した。実験条件は以下のとおりである。
【0065】
実験5
スラリー
分散媒 :10cStのジメチルシリコーンオイル
砥粒 :ダイヤモンド砥粒
粒径 :2~3μm、5~10μm、20~30μmの3種類
砥粒濃度:1wt%
滴下速度:50μL/min
ワイヤ工具:直径120μmの樹脂コートスチールワイヤ
張力 :8N
線速 :2.52m/min
ワーク :直径10mmの円柱状のシリコンインゴット
送り速度:23μm/min
加工時間 :10分間
印加電圧
振幅 :±0.5kV
周波数 :0V(電圧印加なし)~30Hz
波形 :矩形波
【0066】
図10は、実験5の結果を示すグラフである。
図11は、実験5の結果を、粒径ごとに、電圧を印加しないときの切断深さを基準に正規化したグラフである。
図10及び
図11に示すように、ほとんどの場合、粒径によらず、電界を発生させることにより切断深さが増加していることがわかる。特に、小粒径(2~3μm)及び中粒径(5~10μm)の場合には、電界の周波数によらず、切断深さは、電界を発生させない場合と比較して1.5倍以上増加している。また、電界の周波数が小さい(例えば6Hz以下)場合には、粒径が小さいほど、切断効率の向上効果が顕著になる傾向があると言える。
【0067】
(切断効率の分散媒粘度依存性)
本実施形態に係る切断方法において、スラリーに含まれる分散媒の粘度を変化させてワークを切断する実験6を行い、切断効率の分散媒粘度依存性を評価した。実験条件は以下のとおりである。
【0068】
実験6
スラリー
分散媒 :ジメチルシリコーンオイル
粘度 :10cSt、50cSt、100cStの3種類
砥粒 :粒径5~10μmのダイヤモンド砥粒
砥粒濃度:1wt%
滴下速度:50μL/min
ワイヤ工具:直径120μmの樹脂コートスチールワイヤ
張力 :8N
線速 :2.52m/min
ワーク :直径10mmの円柱状のシリコンインゴット
送り速度:23μm/min
加工時間 :10分間
印加電圧
振幅 :±1.0kV
周波数 :0V(電圧印加なし)、6Hz
波形 :矩形波
【0069】
図12は、実験6の結果を示すグラフである。
図12に示すように、分散媒の粘度が10~100cStの範囲では、粘度によって程度の差はあるものの、いずれの場合においても、電界を発生させることにより切断深さが増加しており、切断効率の向上効果が得られることがわかった。
【0070】
(切断効率の電界周波数依存性)
本実施形態に係る切断方法において、電界の周波数を変化させてワークを切断する実験7を行い、切断効率の電界周波数依存性を評価した。実験条件は以下のとおりである。
【0071】
実験7
スラリー
分散媒 :10cStのジメチルシリコーンオイル
砥粒 :粒径5~10μmのダイヤモンド砥粒
砥粒濃度:1wt%
滴下速度:50μL/min
ワイヤ工具:直径120μmの樹脂コートスチールワイヤ
張力 :8N
線速 :2.52m/min
ワーク :直径10mmの円柱状のシリコンインゴット
送り速度:23μm/min
加工時間 :10分間
印加電圧 :0V(電圧印加なし)、直流、交流
振幅 :±0.5kV
周波数 :0.1~300Hz
波形 :矩形波
【0072】
図13は、実験7の結果を示すグラフであり、直流及び交流の各周波数における切断深さを、電圧0Vにおける切断深さを基準に正規化したものである。
図13に示すように、直流電界を発生させた場合、切断効率は電界を発生させない場合と比較して若干向上している。しかしながら、交流電界を発生させた場合には、切断効率はさらに向上している。例えば周波数が0.1Hzの場合、切断効率は電界を発生させない場合に対して30%程度改善されている。また、周波数が0.5Hz以上になると、切断効率は電界を発生させない場合に対して40%以上改善されている。中でも、周波数が1.5Hz以上の場合、若干のばらつきはあるものの、切断効率が顕著に改善されていることがわかる。また、上記実験条件の下では、特に、周波数1.5Hz近傍において、良好な切断効率が得られている。
【0073】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、従来よりも効率良く、且つ、加工品位を低下させることなく、ワークを切断することができる。従って、例えば炭化ケイ素のように硬度が高いワイドギャップ半導体材料を加工する場合であっても、良好な品位のスライスを効率良く作製することが可能となる。
【0074】
以上説明した本発明は、上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、上記実施形態及び変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成することができる。例えば、上記実施形態及び変形例に示した全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成しても良いし、上記実施形態及び変形例に示した構成要素を適宜組み合わせて形成しても良い。
【符号の説明】
【0075】
1…切断装置,10…ワーク,11…ワーク保持部,12…昇降ステージ,13…ステージ昇降機,20…ワイヤ工具,21…ワイヤ保持部,22…支柱,23…支柱連結部,24…ワイヤ張力調整部,25…振動発生装置,30…スラリー,31…分散媒,32…砥粒,33…スラリー供給部,40…電圧発生装置,50…制御装置