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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】骨代謝調整剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20220615BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220615BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20220615BHJP
【FI】
A61K36/82
A61P19/08
A61K127:00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017214705
(22)【出願日】2017-11-07
(65)【公開番号】P2018080166
(43)【公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2016216935
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】西本 壮吾
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-105970(JP,A)
【文献】特開2004-161669(JP,A)
【文献】特開2009-143921(JP,A)
【文献】Pharmacol Res., 2011, Vol.64 No.2, p.155-166
【文献】Am J Clin Nutr., 2013, Vol.98, p.1694S-9S
【文献】Chem Pharm Bull., 1995, Vol.43 No.11, p.2033-2035
【文献】JAACT2016Kobe, 2016.11.9, p.165(P-95)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61P 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバキ科ツバキ属に属するツバキ(Camellia japonica)植物の葉から熱水で抽出した熱水抽出物を含む血中のカルシウムの値を調整するための骨代謝調整剤の製造方法であって、
ALP(アルカリフォスファターゼ)活性を有し、且つTRAP(酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ)酵素活性を抑制する作用を有し、
骨芽細胞の分化を誘導し、破骨細胞の分化を抑制する作用を有する骨代謝調整剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収からなる骨代謝のバランス調整に寄与する骨代謝調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨の代謝は、骨吸収と骨形成のバランスにより血中のカルシウムの値を調整し、骨の強度を保つ働きがある。
骨吸収では、破骨細胞が骨を融解してカルシウムが血中に行き、血中のカルシウム濃度が上がる。
一方、骨形成では、骨芽細胞が骨表面を覆って新しい骨のもととなる骨基質蛋白を産生し、カルシウムを石灰化して沈着させる機能を有する。
したがって、骨代謝のバランスが崩れると、骨粗鬆症等の原因になる。
そこで本発明者は、人体に優しい天然物由来の骨代謝調整剤を検討した結果、本発明に至った。
【0003】
特許文献1には、ツバキ花粉のエタノール抽出物を含有する抗骨粗鬆症剤を開示する。
しかし、ツバキの葉を用いた場合にエタノール抽出物では、マウス骨芽細胞前駆細胞株の継続培養実験にて、骨芽細胞の分化において誘導されるタンパク質ALP(アルカリフォスファターゼ)を例にその発現量を調査した結果、ツバキ葉の熱水抽出物よりも少ないことが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-180153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然物由来の骨代謝調整剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る骨代謝調整剤は、ツバキ科ツバキ属に属する植物の葉から熱水で抽出した熱水抽出物からなる。
ここで、熱水抽出物を濃縮及び/又は凍結乾燥してもよい。
【0007】
本発明に係る骨代謝調整剤は、ALP(アルカリフォスファターゼ)活性を有し、且つTRAP(酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ)酵素活性を抑制する作用を有する。
また、骨芽細胞の分化を誘導し、破骨細胞の分化を抑制する。
本発明に係るツバキ科ツバキ属に属する植物としては、ツバキ(Camellia japonica)が代表的であり、ヤブツバキ,ユキツバキ,ユキバタツバキ等が例として挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る骨代謝調整剤は、骨芽細胞の分化を誘導し、破骨細胞の分化を抑制する作用があり、骨代謝のバランスの調整に有用で、例えば抗骨粗鬆症剤等の医薬組成物に適用できる。
医薬組成物の形態に制限はなく、錠剤,顆粒剤,カプセル剤,ドリンク剤等が例として挙げられる。
他のお茶飲料等の各種飲料に添加した飲料、あるいは種々の食品に添加してもよい。
このようなツバキ葉熱水抽出物添加飲料又は食品は、骨代謝の改善,骨代謝異常に伴う疾病の予防に用いることができる。
また、サプリメントとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ツバキ葉の、熱水抽出物とエタノール抽出物とのALP染色結果を示す。
図2】骨芽細胞の分化に関連する遺伝子の発現量の比較結果を示す。
図3】TRAP活性の測定結果を示す。
図4】破骨細胞の分化に関連する遺伝子の発現量の測定結果を示す。
図5】破骨細胞の分化に関連する遺伝子の発現量の測定結果を示す。
図6】骨代謝のメカニズムを模式的に示す。
図7】破骨細胞形成アッセイによる評価結果を示す。
図8】フローサイトメトリーによるCD11bの発現比較を示す。
図9】フローサイトメトリーによるCD44の発現比較を示す。
図10】フローサイトメトリーによるCD61の発現比較を示す。
図11】CHE投与によるマウスの体重、子宮重量の変化量を示す。
図12】血清中成分の測定結果を示す。
図13】マウスの大腿骨の断面写真を示す。
図14図13に示した大腿骨の骨重量と海綿骨領域長さの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
骨代謝のメカニズムを図6に模式的に示す。
骨芽細胞の分化及び破骨細胞の分化誘導の各段階で発現する因子に着目して、実験を行った。
ツバキの葉を細断し、15分間熱水(沸騰)にて抽出を行った。
熱水抽出の条件は80℃以上の温水でもよいが、本実験ではツバキ葉を沸騰水に10~15分間浸けた。
後述するALP染色においては、濾液をフィルター減菌し、タンパク質濃度をDCプロテインアッセイ(BIU RAD社)を使用して定量し、実験に使用した。
また、骨芽細胞関連及び破骨細胞関連の評価には、エバポレーターで濃縮し、さらに凍結乾燥して得られた粉末を用いた。
以下、必要に応じてツバキ葉熱水抽出物をCHEと表現する。
【0011】
図6に示したように骨芽細胞分化前・中期には、ALPの発現量が増加することから、ALP活性の有無を調査した。
なお、熱水抽出とエタノール抽出とを比較した。
<<ALP染色の実験手順>>
1.10%FBS添加条件下で、マウス骨芽細胞前駆細胞株,MC3T3-E1細胞を2.5×10cells/mlの濃度で播種し、24時間の前培養を実施した。
2.前培養後、ツバキ葉熱水抽出物(CHE)を0.12~3.91μg/ml(タンパク質濃度)、骨芽細胞分化誘導因子であるβ-グリセロリン酸(10mM)とL-アスコルビン酸(50μg/ml)、10%FBSを添加し、10日間の継続培養を実施した。
3.継続培養後、ALP陽性細胞数を評価するためにTRAP/ALP染色キット(和光純薬株式会社)を使用して、ALP染色を行った。
ここで、各略語は次のとおりである。
ALP:Alkaline Phosphatase(アルカリフォスファターゼ)
TRAP:Tartarate-resistant acid phosphatase (酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ)
その結果を図1のグラフに示す。
ツバキ葉抽出物を添加しないコントロールに対しては、熱水抽出物,エタノール抽出物のいずれの添加も染色面積が増大したが、熱水抽出物の方がエタノール抽出物よりも染色面積が大きく、優れたALP活性を有していた。
【0012】
次に、骨芽細胞の分化マーカーとして知られているOPN,OCN,OSNの発現の有無を調査した。
<<骨芽細胞遺伝子発現評価の実験手順>>
1.10%FBS添加条件下でMC3T3-E1細胞を2.5×10cells/mlの濃度で播種し、24時間の前培養を実施した。
2.前培養後、ツバキ葉熱水抽出物(CHE)を0.01~1μg/ml、β-グリセロリン酸(10mM)、L-アスコルビン酸(50μg/ml)、10%FBSを添加し、10日間の継続培養を実施した。
3.継続培養後、ISOGEN2(ニッポン・ジーン社)でtotal RNAを回収した。
さらにTotal RNAからReverTra Ace(TOYOBO社)を使用してcDNAを合成した。
その後、Takara Taq(タカラバイオ社)でPCR反応を行い、骨芽細胞分化マーカーであるOPN,OCN,OSNの遺伝子発現を評価した。
なお、比較対象としてBMP-2(PeproTech)についても評価した。
ここで、各略語は次の通りである。
OPN:Osteopontin(オステオポンチン)
OCN:Osteocalcin(オステオカルシン)
OSN:Osteonectin(オステオネクチン)
MBP-2:Bone morphogenetic protein-2(骨形成タンパク質2)
その結果を、図2のグラフに示す。
図2のグラフ中「CHE」は、ツバキ葉熱水抽出物をいい、このCHEを添加することでコントロールを1とした相対量で、OPN:約3倍,OCN:約6倍の発現量の増加を確認できた。
【0013】
次に破骨細胞に関連する評価を実施した。
まずは、破骨細胞の分化に特異的に発現するマーカー酵素であるTRAPについて調査した。
<<TRAP活性の実験手順>>
1.ddY系統メスマウス大腿骨から骨髄細胞を回収後2×10cells/ml細胞密度で播種し、10%FBS、20ng/ml M-CSF(和光純薬株式会社)添加条件下で3日間培養した。
2.培養後、ツバキ葉熱水抽出物(CHE)を0.01~10μg/ml、さらに10%FBS、20ng/ml M-CSF、20ng/ml RANKL(peprotech社)添加条件下で4日間の継続培養を実施した。
なお、CHEを添加していないRANKL(-)とRANKL(+)を設けた。
3.継続培養後、培地を除去し、以下のように調製したSA buffer添加し、37℃で10分間インキュベートし415nmにおける吸光度を測定した。
600mM SA buffer(Sodium acetate buffer)
・17.6mg/ml L-ascorbic acid
・9.2mg/ml sodium tartrate dehydrate
・3.6mg/ml 4-nitrophenylphosphate-sodium
・0.3% Triton-X100
・6mM EDTA
・600mM NaCl
・600mM CHCOONa
ここで、各略語は次のとおりである。
M-CSF:Macrophage colony-stimulating factor(マクロファージコロニー刺激因子)
RANKL:Receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand(NF-B活性化受容体リガンド)
その結果を図3のグラフに示す。
グラフ中、NC:M-CSF(+),RANKL(+)及びPC:M-CSF(+),RANKL(-)条件とした。
なお、RANKLは破骨細胞の分化に必須のサイトカインである。
この結果、CHEは、TRAP酵素活性を抑制することが明らかになった。
【0014】
次に、他の分化マーカーの発現についても評価した。
<<破骨細胞関連遺伝子発現評価の実験手順>>
1.マウスから骨髄細胞を回収後2×10cells/mlで播種し、10%FBS、20ng/ml M-CSF添加条件下で3日間培養した。
2.培養後、ツバキ葉熱水抽出物を1~10μg/ml、さらに10%FBS、20ng/ml M-CSF、20ng/ml RANKL添加条件下で4日間の継続培養を実施した。
なお、比較対象としてCHEを添加していないRANKL(-)とRANKL(+)を設けた。
3.継続培養後、ISOGEN2でtotal RNAを回収した。
さらにTotal RNAからReverTra Aceを使用してcDNAを合成した。
その後、Takara TaqでPCR反応を行い、破骨細胞分化マーカーである、TRAP、MMP-9、NFATc1、RANKの遺伝子発現を評価した。
ここで、各略語は次のとおりである。
TRAP:Tartarate-resistant acid phosphatase(酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ)
MMP9:Matrix metalloproteinase 9(マトリックスメタロプロテアーゼ9)
NFATcl:Nuclear factor of activated T cell c1
RANK:Receptor activator of nuclear factor kappa-B(NF-κB活性化受容体)
その結果を図4図5のグラフに示す。
CHEの添加により、破骨細胞の細胞内シグナル伝達因子における遺伝子の発現が抑制されているのが分かる。
【0015】
図7に破骨細胞形成アッセイを用いて実験評価した結果を示す。
実施方法は、Dentin slice上でddYマウス骨髄細胞由来マクロファージを培養し破骨細胞へと分化させた。
同時にCHEを添加した。
12日後、Dentin sliceを取り出しマイクロチューブに回収した。
細胞を剥離させるため、1 M アンモニア水にDentin sliceを浸透させ、超音波処理を行った。
超音波処理後のDentin sliceを蒸留水で洗浄し、水分を除いた後、固定処理を行い、ギムザ液に浸透させ染色した。
染色後は蒸留水で洗浄し、Dentin sliceを乾燥させた。
骨吸収窩のレベルを比較すると、破骨細胞の分化に必須のRANKLを添加したものに対して、CHEを0.1,1,5μg/ml添加すると、骨溶解能が抑制されていた。
【0016】
図8~10に、フローサイトメトリーにより各因子の発現を比較した結果を示す。
具体的には、ddYマウスから骨髄細胞を調製し、破骨細胞分化誘導と同時にCHEを添加し、12日間培養した。
培養後、細胞を回収し、FITC標識CD11b抗体、FITC標識CD44抗体、FITC標識CD61抗体を用いて染色し、フローサイトメトリー解析を行った。
図8は、骨髄系細胞に強く発現するCD11bをRANKL(+)とCHE10μg/mlにて比較した結果を示し、CHEの添加によりCD11bの発現が上昇していた。
図9は、破骨細胞の分化過程にて増大することが知られているCD44の発現を比較した結果を示し、CHE10μg/ml添加することで、CD44の発現を抑制することが確認できた。
図10は、細胞接着因子CD61の発現を比較した結果を示し、CEE10μg/mgの添加により、このCD61の発現が抑えられていた。
【0017】
次にマウスを用いて、CHEの投与試験を行った。
7週齢のddYマウスを1週間の予備飼育後、卵巣摘出コントロール群をOVX群、OVXマウスにツバキ葉熱水抽出物を100mg/kg/day経口投与するCHE100群、OVXマウスにツバキ葉熱水抽出物を250mg/kg/day経口投与するCHE250群、OVXマウスにツバキ葉熱水抽出物を500mg/kg/day経口投与するCHE500群、疑似手術を行ったsham群の計5群(各群5匹)に分別した。
図11は、28日間CHEを経口投与行った後、マウスの体重測定を行った結果及びマウスの子宮重量を測定した結果を示す。
CHE投与により体重は大きく変化しなかったが、子宮重量が大きく増大した。
全てのマウスから血液を回収し、血清を調製し、図12は血清中のカルシウム、リン、マグネシウム濃度の測定結果を示し、濃度の測定にはそれぞれカルシウムE-テストワコー、ホスファC-テストワコー、マグネシウムB-テストワコー(いずれも和光純薬)を使用した。
その結果、CHE投与により血清中のCa,P,Mgが減少していた。
図14左に、マウスから摘出した大腿骨を50℃の乾燥機で3日間乾燥させた後に、大腿骨から筋肉片を取り除き、重量を測定した結果を示す。
図13に乾燥させた大腿骨の研磨標本を作製し、顕微鏡で観察を行った結果を示し、図14右にデジタルノギス(ミツトヨ社)を使用して海綿骨領域の長さを測定した結果を示す。
これらから、CHE経口投与により骨重量が増加し、海綿骨領域の範囲が増加することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14