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特許7089278クレアチン含有水分散性粉末状組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】クレアチン含有水分散性粉末状組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220615BHJP
   A23L 2/39 20060101ALI20220615BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220615BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220615BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220615BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220615BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20220615BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220615BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L2/00 Q
A23L2/52
A23L5/00 K
A61K9/10
A61K9/14
A61K31/27
A61K47/14
A61P21/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018192372
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020058297
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】592007612
【氏名又は名称】横浜油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 諒平
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-039408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0151593(US,A1)
【文献】特開2003-325114(JP,A)
【文献】国際公開第2019/079651(WO,A1)
【文献】特開2003-300885(JP,A)
【文献】特開2008-184385(JP,A)
【文献】特開2007-131609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレアチン100質量部に対し、乳化剤0.1~10重量部を含み、
クレアチンの表面の一部又は全部を前記乳化剤で被覆してなるクレアチン含有水分散性粉末状組成物であって、
前記水分散性粉末状組成物の平均粒子径が5.3μm以上20μm以下であるクレアチン含有水分散性粉末状組成物。
【請求項2】
前記水分散性粉末状組成物は、経口摂取用である請求項1に記載の水分散性粉末状組成物。
【請求項3】
前記乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びレシチン類からなる群より選択されるものであ1又は2以上である請求項1に記載の水分散性粉末状組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の水分散性粉末状組成物を含むことを特徴とする飲食品、医薬品又は医薬部外品。
【請求項5】
剤形が飲料又は粉末飲料である請求項4に記載の飲食品、医薬品又は医薬部外品。
【請求項6】
クレアチン100質量部に対し、乳化剤0.1~10質量部、及び水500~2000質量部を加えて混合し、80~100℃の範囲に加熱して溶解させ、水溶液を調製する第1工程と、
前記水溶液を噴霧乾燥することによって微粉末を得る第2工程と、を含み、
水分散性粉末状組成物の平均粒子径が5.3μm以上20μm以下であるクレアチン含有水分散性粉末状組成物の製造方法。
【請求項7】
前記クレアチンは噴霧法により製造されたものである請求項6に記載のクレアチン含有水分散性粉末状組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレアチンの水分散性を改善し、摂取効率を高めた、クレアチン含有水分散性粉末状組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレアチンは生体内においてATPの再合成に関わる物質であり、摂取によって運動パフォーマンスの増加をもたらしたとされる報告が多数上がっている。また筋肉を増強する効果についても示唆されており、実際に多くのアスリートが摂取しているなど、知名度も高い。
【0003】
クレアチンは生体内でも合成される物質であり、また肉や魚に比較的多く含まれる(5g/1kg)。ただし、前述のような効果を発揮するには多量の摂取(20g/日)が必要とされ、これを食事のみで摂取しようとすると栄養バランスの乱れに繋がる。よって、クレアチンをサプリメントとして経口摂取する方法が注目されている。しかし、クレアチンを結晶体としてそのまま直接摂取すると、砂的なザラザラした食感があるため、経口摂取しやすいとはいえない。
【0004】
そこで、クレアチンをそのまま摂取するのではなく、飲料に溶解して摂取することが考えられる。しかし、クレアチンは水、油に難溶性の物質であり(溶解度は約10g/L、10℃水)、飲料へ添加しても十分な量が溶解せず、また、クレアチンを添加した飲料(酸性のものが多い)の保存中にクレアチンが析出する可能性もある。
【0005】
さらに、酸性下では特に、クレアチンはクレアチニンへの構造変化を起こしやすく、その結果、運動パフォーマンスの向上効果をもたらさない物質となってしまう。そのため、前もって、クレアチン含有の酸性飲料を調製しておくと、時間の経過により、クレアチンがクレアチニンに変化してしまい、クレアチンの効果を享受することができなくなる恐れがある。すなわち、クレアチン含有の酸性飲料は、クレアチンの効果という点でいえば、長期間の保存には適していない。
【0006】
そこで、粉末飲料として、飲用する直前にクレアチンを水に加えて、クレアチンの水溶液を調製し、これを飲用することで、クレアチンを摂取する方法が考えられる。この方法であると、クレアチンを水に加えてから摂取するまでの時間経過が少ないため、クレアチンからクレアチニンへの変化を心配する必要はない。
【0007】
しかし、前述の通り、クレアチンは水に難溶性であることから、水に加えてもほぼ全量が沈殿し、ざらつきや溶け残りによる不快感を受けやすい。さらに、生体内への吸収効率が悪いことが予想される。そのため、クレアチン摂取の利便性やクレアチン吸収効率の改善の観点から、水分散性が良好なクレアチン含有組成物の開発が期待されている。
【0008】
こうした状況を受け、クレアチンを摂取しやすくするために、クレアチンに関して種々の製剤が提案されている。例えば、特許文献1においては、クレアチンは溶解性が低いため、砂的なザラザラした食感を有し、また、クレアチンを微粉砕化して顆粒又は錠剤にすると、噛んだ際に歯に詰まる現象が生じることから、粒子径 5μm~200μmのクレアチンを含有させることにより、高用量でもざらつきがなく、歯付きの少ない、顆粒及び圧縮成型した錠剤形態の食品又は医薬品を製造する方法が報告されている。
【0009】
また、特許文献2においては、生体への吸収性にすぐれ、かつ、水溶解性の大きいクレアチンを提供するため、クレアチンを非水系溶媒に分散させた後、ビーズサイズ1mm以下のビーズミルにかけて粉砕して得た、平均粒子径2μm以下の微粉化クレアチンが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第3892610号公報
【文献】特開2007-39408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に示されたクレアチンの製剤においては、その剤形が顆粒及び錠剤であり、水溶解性や分散性、生体への吸収性については言及されていない。
【0012】
また、特許文献2に示されたクレアチンの微粉末においては、その溶解度は21g/L(10℃水)であり、クレアチンの前記効果が得られると考えられているクレアチンの前記必要量を、前記微粉末を溶解させた飲料で摂取するには、多量の飲料摂取が必要である。また、前記微粉末の製造においては、多量のエタノール等の溶媒を使用する点から、実製造を考えると現実的でない。
【0013】
このように、クレアチン製剤に関する従来技術では、クレアチンの水分散性が十分ではなく、特に粉末飲料として使用する際の利便性という点では、十分に満足できるものではなかった。クレアチン製剤の剤形に関して言えば、水等を加えた上で飲用する粉末飲料の形態は、特にスポーツシーンで、筋肉の増強や筋肉分解の抑制のためにクレアチンを効率良く素早く補充する剤形として特に有用であるため、粉末飲料の剤形でのクレアチン製剤の提供が期待されている。
【0014】
そこで、本発明は、クレアチンの水分散性が良好であり、また従来技術では提供することが困難であった剤形、すなわち、飲料及び粉末飲料の形態で提供することができるため、サプリメントとして利用する際の利便性が高い、クレアチン含有水分散性粉末状組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、クレアチンを乳化剤と共に高温の水に溶解させた後、噴霧乾燥することによって、水分散性が高められた粉末を得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、以下の[1]~[6]に関するものである。
[1] クレアチン100質量部に対し、乳化剤0.1~10重量部を含み、クレアチンの表面の一部又は全部を前記乳化剤で被覆してなることを特徴とするクレアチン含有水分散性粉末状組成物。
[2] 前記乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びレシチン類からなる群より選択される1又は2以上である前記[1]に記載の水分散性粉末状組成物。
[3] 前記水分散性粉末状組成物の平均粒子径が40μm以下である前記[1]又は[2]に記載の水分散性粉末状組成物。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の水分散性粉末状組成物を含むことを特徴とする飲食品、医薬品又は医薬部外品。
[5] 剤形が飲料又は粉末飲料である前記[4]に記載の飲食品、医薬品又は医薬部外品。
[6] クレアチン100質量部に対し、乳化剤0.1~10質量部、及び水500~2000質量部を加えて混合し、80~100℃の範囲に加熱して溶解させ、水溶液を調製する第1工程と、
前記水溶液を噴霧乾燥することによって微粉末を得る第2工程とを含むことを特徴とするクレアチン含有水分散性粉末状組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、クレアチンの水分散性が十分に改善されているため、水や水系溶媒、飲料に分散させるとクレアチン粒子が安定して分散し、沈殿や凝集等を生じることが少なく、そのため、クレアチンが摂取しやすくなり、生体内への吸収性が向上する。また、クレアチンを効率良く素早く補充できる剤形である飲料及び粉末飲料の形態で提供できるため、サプリメントとして利用する際の利便性を大きく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1~9、比較例1、2で得られた粉末を水に加え十分に振とうして分散させてから1分後の状態(上段左から実施例1~5、下段左から実施例6~9、比較例1、2)を示す説明図である。
図2】実施例1~9で得られた微粉末について、水に分散させてからの時間経過による沈殿量の変化を示す図である。
図3】実施例1~9で得られた微粉末を水に分散させてから120分経過時の状態(上段左から実施例1~5、下段左から実施例6~9)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の組成物について説明する。本発明の組成物は、前述したとおり、クレアチン100質量部に対し、乳化剤0.1~10重量部を含み、クレアチンの表面の一部又は全部を前記乳化剤で被覆してなることを特徴とするクレアチン含有水分散性粉末状組成物である。
【0020】
本発明において、クレアチン(1-メチルグアニジノ酢酸)とは、厳密にはクレアチン一水和物を指すが、無水物、クレアチンリン酸塩等のクレアチン塩が含まれる。一般的に市販されているものを使用して差し支えなく、その種類や性状は特に限定されない。また、クレアチン又はクレアチン塩を単品で用いてもよいし、クレアチン及びクレアチン塩を組み合わせて用いてもよい。種々の方法で得られる2種以上のクレアチン及び/又はその塩の組み合わせであってもよいし、クレアチンの2種以上の塩を組み合わせたものであってもよい。生体内において、クレアチンは、アルギニン、グリシン、メチオニンから合成される物質であり、通常の食生活において不足することはない。しかし、高強度の運動を行うアスリートや、病気や怪我によって十分な栄養が取れない状態でリハビリを行う患者などでは、クレアチンが不足する傾向がみられる。
【0021】
本発明の組成物の特徴の1つは、クレアチン100質量部に対して、乳化剤を0.1~10質量部含むことである。乳化剤を加えることで、クレアチンの水分散性をより高めることができる。10質量部より多いと、経時で沈殿したクレアチンが固結し、再分散させることが困難になり、また、噴霧乾燥による製造の場合は、噴霧乾燥機への送液中に配管内でクレアチンが再結晶化・固結する傾向が強くなるため実製造する上で支障が生じる恐れがある。また、0.1質量部未満では少なすぎて良好な水分散性が得られない。乳化剤の割合が増えていくと、水への分散時に沈殿相が再分散しにくくなるが、沈殿を生じる速度が低下し、熱が加わった際の溶解及び再結晶化が抑制される傾向がみられる。このことから、最終的な用途に合わせて上記範囲内で配合率を決定するとよい。また、これを考慮すると、乳化剤量は0.1~9質量部であることが望ましい。さらに、クレアチン100質量部に対して、乳化剤量が3~9質量部、より好ましくは5~9質量部であると水分散性に加えて、水分散安定性も向上するためより望ましい。なお、水分散性とは、粒子が水に浮遊・懸濁する程度、水分散安定性とは、水中において分散状態が時間の経過とともに変化しない程度を表す。
【0022】
前記乳化剤の種類は、本発明の効果を妨げない限り制限されない。また単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。前記乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン類、アラビアガム、加工デンプン等が挙げられる。これらの中でも、特にショ糖脂肪酸エステルが好ましく使用される。
【0023】
また、クレアチン、前記乳化剤とは別に賦形剤を用いてもよい。例えば、乳化作用をもたないデキストリン、マルトデキストリン、デンプン、乳糖なども使用できる。
【0024】
本発明の組成物は、クレアチンを核として、その表面の一部又は全部を前記乳化剤で被覆してなるものである。クレアチンに前記乳化剤を被覆するには、本発明の効果が得られる限りにおいてどのような方法を使用してもよいが、後述するように、クレアチニン及び前記乳化剤を完全に溶解させた水溶液を噴霧乾燥して被覆する方法が、簡便かつ確実に目的物が得られるという点で好ましい。
【0025】
本発明の組成物の平均粒子径は、40μm以下であることが望ましく、20μm以下であることがより望ましい。微細化した粒子は小さければ小さいほど、水分散性が増すが、40μmよりも大きいと水分散性が良好であるとはいえなくなる。なお、前記平均粒子径は、前記組成物をエタノールに分散させて、レーザー回折散乱法を利用して測定することができる。
【0026】
本発明の組成物はそのままの形態で最終製品として用いてもよいし、クレアチンを有効成分として上記以外の成分を有していても構わない。すなわち、本組成物は飲食品用、医薬用、医薬部外品用の添加剤として用いることができる。
【0027】
その際に使用される基剤や他の添加剤は、本発明の目的を損なわない限り特に限定されることはなく、最終製品の剤形や用途に応じて選択すればよい。
【0028】
本発明の組成物は、そのまま組成物粉末として摂取することもできるが、水等の水系溶媒に加えた上で飲用する粉末飲料又は飲料の剤形への利用に供することもできる。本発明の組成物を粉末飲料として利用する場合、本発明の組成物を水等の水系溶媒に加えると素早く均一に分散するため摂取が容易であり、また、経時変化なく長期間保管することができる。また、本発明の組成物を飲料として利用する場合は、水系溶媒に本発明の組成物を分散させた後の加熱時において該組成物は再結晶しにくい、すなわち、殺菌工程を経ても沈殿が生じにくいという特徴がある。これらの剤形は、特にスポーツシーンで、運動パフォーマンスの増加や筋肉の増強のためにクレアチンを効率良く素早く補充する剤形として特に有用である。その他、所望の形状等に成型し、各種の剤形にて提供することができる。
【0029】
本発明の組成物は粒子の微細化により、生体内への吸収性が高められている。そのため、従来必要とされてきた摂取量未満の摂取においても、従来と同等の効果を発揮する可能性がある。
【0030】
本発明の組成物では、特に水分散性の改善が顕著にみられる。よって、例えば、粉末飲料への配合によって、水に容易に分散し、経時で均一な分散状態を維持し、不快感を生じることなく飲用でき、吸収性の高められた商品を提案することができる。
【0031】
次に、本発明の製造方法について述べる。前述した本発明の組成物は、本発明の効果が得られる限りにおいてどのような方法を使用して製造してもよいが、本発明の製造方法、すなわち、クレアチン100質量部に対し、乳化剤0.1~10質量部、及び水500~2000質量部を加えて混合し、80~100℃の範囲に加熱して溶解させ、水溶液を調製する第1工程と、前記水溶液を噴霧乾燥することによって、平均粒子径が40μm以下である微粉末を得る第2工程とを含む製造方法により製造することが、他の製造方法(例えば、粉砕処理)に比べて、平均粒子径が小さくて、水分散性及び水分散安定性が高い目的物を簡便かつ確実に得られるという点で好ましい。
【0032】
第1工程においては、クレアチン及び前記乳化剤の所定量に対し、水500~2000質量部、好ましくは600~1000質量部を加えて混合する。500質量部未満では、クレアチンを十分に溶かすことが困難となり、また、後述する噴霧乾燥機への送液中にクレアチンが再結晶化してしまう恐れがあり、一方、2000質量部を超えると、クレアチンを前記乳化剤で十分に被覆させることが困難となる。
【0033】
また、第1工程においては、クレアチン、前記乳化剤、及び水を混合する際、80~100℃、好ましくは85~95℃の範囲に加熱して、クレアチンを溶かして水溶液を調製する。この水溶液は第2工程で噴霧乾燥する対象である噴霧液となる。この噴霧液は、クレアチン及び前記乳化剤が完全に溶解されている必要があるため、前述したように、80~100℃でクレアチン、前記乳化剤、及び水を混合する。この場合、80℃未満ではクレアチンを十分に溶かすことが困難となり、一方、100℃を超えると、クレアチンは熱に弱いため、熱によりクレアチンが破壊される恐れがある。なお、クレアチン、乳化剤については前述の通りである。また、前記温度範囲において加熱する時間は、60分以下、好ましくは30分以下である。60分よりも加熱する時間が長くなると、クレアチンの活性が低下する恐れがある。
【0034】
第2工程においては、第1工程で調製した水溶液(噴霧液)を噴霧乾燥することによって微粉末、すなわち、本発明の組成物を得る。この組成物は、クレアチンを核としてその表面に前記乳化剤が固着したものである。噴霧乾燥は粉末化したい物質を溶媒に溶かし、それを高温下で噴霧することで溶媒を除去して瞬間的に乾燥させ、粉末を得る手法である。本発明において噴霧乾燥を行う装置は、一般に知られている噴霧乾燥機を使用すればよい。特別な付加設備も必要なく、装置側の噴霧時の条件は、各々の装置に応じて調整して差し支えない。
【0035】
前記水溶液は、その調製後、速やかに噴霧乾燥処理を行うことが望ましい。また噴霧処理時も保温し、可能な限り液温が低下しないようにする。具体的には、液温を80~100℃、好ましくは85~95℃に維持しながら噴霧乾燥処理を行うのが好ましい。液温が80℃未満に低下すると、噴霧乾燥機への送液中にクレアチンが再結晶化してしまう恐れがあり、一方、100℃を超えると、熱によりクレアチンが破壊される恐れがある。
【0036】
本発明の製造方法は、前述した噴霧乾燥処理を行うことを特徴としている。噴霧乾燥処理ではなく、ピンミルやハンマーミル等の粉砕機を用いる方法では、本発明の性能上必要な平均粒子径以下までクレアチン結晶を微細化できず、また、クレアチンを核としてその表面に乳化剤を適切に付着させることができないため、本発明の効果である水分散性が十分に得られない場合がありうる。もしくは微細化に時間が掛かり、実製造に向かない。
【0037】
微細化した粒子は小さければ小さいほど、水分散性が増すが、十分な水分散性を得るためには、噴霧乾燥で得られた微粉末の平均粒子径は、40μm以下であることが望ましく、20μm以下であることがより望ましい。
【0038】
本発明の製造方法は、前記第1工程、第2工程に加えて、必要に応じてさらに他の工程を含んでもよい。例えば、前記水溶液に食品原料及び/又は食品添加物を加えて混合させる工程を追加することができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1~5、参考例1~4、比較例1、2]
1.微細化方法による水分散性の違い
クレアチン(フィトファーマ株式会社製)と、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社製)を表1に記載の割合で配合し、水700質量部に加え、密封状態・90℃で30分間加熱して完全に溶解させた。その後速やかに噴霧乾燥処理し、微粉末(実施例1~5)を得た。また、クレアチン(フィトファーマ株式会社製)と前記乳化剤(三菱ケミカルフーズ株式会社製)を表1に記載の割合で配合し、自由粉砕機で粉砕処理して粉末(参考例1~4)を得た。
一方、比較対象として、粉砕処理を行っていない無処理のクレアチン(フィトファーマ株式会社製)を比較例1とした。また、クレアチン(フィトファーマ株式会社製)と前記乳化剤(三菱ケミカルフーズ株式会社製)を表1に記載の割合で配合し、よく混合して粉末(比較例2)を得た。
実施例1~5、参考例1~4と比較例1、2において得られた粉末をエタノールに分散させ、レーザー回折散乱法にて平均粒子径を測定した(表1を参照)。
実施例1~5、参考例1~4と比較例1、2で得られた粉末の水分散性を比較するため、実施例1~5、参考例1~4と比較例1、2で得られた各粉末5gを水50gに加え、十分に振とうして分散させてから1分後の状態を目視で観察し、図1に示した(上段左から実施例1~5、下段左から参考例1~4、比較例1、2)。
【0041】
【表1】
【0042】
(結果)
図1からわかるように、実施例1~5、参考例1~4では、均一で良好な水分散性が観察されたのに対し、比較例1、2では、短時間で沈殿が認められ、均一で良好な水分散性は観察されなかった。また、噴霧乾燥処理を行った実施例1~5は、自由粉砕機で粉砕処理を行った参考例1~4に比べて平均粒子径が小さく、より高い水分散性の向上を実現できることが示された。実施例4と参考例2、3では平均粒子径のサイズに大きな差はないが、水分散性は異なっていた。すなわち、単純に粒子径を小さくするだけではなく、噴霧乾燥処理を行うことで、より高い水分散性の向上を実現できることが立証された。
【0043】
2.水分散安定性の違い
さらに、実施例1~5、参考例1~4で得られた微粉末について、水分散安定性を評価するため、水に分散させてからの時間経過による沈殿量の変化を図2に示した。「クレアチン分散相の高さ/液面の高さ」の値を百分率で表し、これを図2の縦軸に示し、経過時間を横軸に示した。上記の値が小さいほど沈殿が進んでおり、分散安定性が低いことを表す。なお、実施例1~5、参考例1~4で得られた微粉末を水に分散させてから120分経過時の状態を示す写真(上段左から実施例1~5、下段左から参考例1~4)を図3に示した。
【0044】
(結果)
図2に示した結果からわかるように、特に実施例1~5で得られた微粉末は120分経過後においても前記値が47~100%の範囲を示し、高い水分散安定性を呈することが確認された。他方、粉砕処理で調製した参考例1~4は、噴霧乾燥処理で調製した実施例1~5よりも低い水分散安定性であった。また、実施例1~5の中で見ると、実施例5は最も高い水分散安定性、次に実施例4が高い水分散安定性を呈し、実施例1は最も低い水分散安定性を呈した。実施例4、5で得られた微粉末は実施例2で得られたものより平均粒子径が大きく、実施例3で得られた微粉末は実施例2で得られたものと平均粒子径が同じであることから、単純に粒子径を小さくするだけではなく、乳化剤の配合量が水分散安定性に大きく影響することがわかった。
図1
図2
図3