(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】レーザー溶着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20220615BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20220615BHJP
C08K 5/3465 20060101ALI20220615BHJP
C08K 5/08 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
B29C65/16
C08L77/00
C08K5/3465
C08K5/08
(21)【出願番号】P 2018233354
(22)【出願日】2018-12-13
(62)【分割の表示】P 2018535065の分割
【原出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2017127750
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017200325
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103895
【氏名又は名称】オリヱント化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】特許業務法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 哲二
(72)【発明者】
【氏名】山本 聡
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-112127(JP,A)
【文献】特許第3757081(JP,B2)
【文献】特開2007-231088(JP,A)
【文献】特開2005-290372(JP,A)
【文献】国際公開第2004/072175(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00- 65/82
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニグロシン硫酸塩に対し硫酸イオン濃度
が0.3~5.0質量%
である前記ニグロシン硫酸塩
を第1樹脂部材に対し0.01~0.2質量%及びポリアミド樹脂を含有する
前記第1樹脂部材と、
第2樹脂部材に対し前記ニグロシン硫酸塩の0.3~3.0質量%及び前記ポリアミド樹脂と同種又は異種のポリアミド樹脂を含有する
前記第2樹脂部材とを、重ね合わせ及び/又は突き合わせて対向部位を形成し、前記第1樹脂部材側からレーザー光を照射して前記対向部位で前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材との少なくとも一部を溶融させて、それらを溶着することを特徴とするレーザー溶着体の製造方法。
【請求項2】
前記第1樹脂部材が、前記レーザー光の透過率を16.1~68.6%としていることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶着体の製造方法。
【請求項3】
前記対向部位に、0.01~0.5mmの隙間が形成されていることを特徴とする請求
項1又は2に記載のレーザー溶着体の製造方法。
【請求項4】
前記第1樹脂部材のメルトフローレートが、12~20g/10分であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のレーザー溶着体の製造方法。
【請求項5】
前記ニグロシン硫酸塩の体積抵抗率が5.0×10
9Ω・cm~7.0×10
11Ω・cmであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のレーザー溶着体の製造方法。
【請求項6】
前記第1樹脂部材のレーザー光入射面に、ガラス板及び/又は反射防止膜を配置することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のレーザー溶着体の製造方法。
【請求項7】
前記第1樹脂部材に、前記レーザー光を照射しながら空気及び/又は不活性ガスを吹き付けることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のレーザー溶着体の製造方法。
【請求項8】
前記第1樹脂部材及び前記第2樹脂部材の厚さが、200~5000μmであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のレーザー溶着体の製造方法。
【請求項9】
前記第1樹脂部材が、アントラキノン青色染料を含む着色剤を含有していることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のレーザー溶着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材同士をレーザー溶着により一体化させるレーザー溶着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道のような交通分野における車両に用いられる部品、及び電子・電気機器分野の構造部品に、金属に代えて、軽量な熱可塑性樹脂製品が使われることがある。このような熱可塑性樹脂部材同士を接合する方法として、レーザー溶着が知られている。
【0003】
従来のレーザー溶着は、
図7に示すように行われる。一方の部材にレーザー光透過性を有するレーザー光透過性樹脂部材11を、他方の部材にレーザー光吸収性を有するレーザー光吸収性樹脂部材12を用い、両者を重ね合わせて当接させて当接部位Nを形成する。そこに、レーザー光透過性樹脂部材11の側からレーザー光吸収性樹脂部材12へ向けレーザー光Lを照射すると、レーザー光透過性樹脂部材11を透過したレーザー光Lが、レーザー光吸収性樹脂部材12に吸収されて、発熱を引き起こす。この熱により、レーザー光を吸収した部分を中心としてレーザー光吸収性樹脂部材12が溶融し、その熱によりレーザー光透過性樹脂部材11が溶融して、双方が融合する。これが冷却されると、レーザー光透過性樹脂部材11とレーザー光吸収性樹脂部材12とが当接部位Nで溶着した従来のレーザー溶着体13が製造される。
【0004】
レーザー溶着の特長として、接合すべき箇所へレーザー光を局所的に照射するだけで樹脂部材を溶着させることが可能であること、局所的な発熱であるため溶着箇所以外の周辺部への熱影響がごく僅かであること、機械的振動を生じないこと、微細な部分や立体的で複雑な構造を有する樹脂部材同士の溶着が可能であること、再現性が高いこと、高い気密性を維持できること、接合強度が高いこと、溶着部分の境目が目立たないこと、及び粉塵が発生しないこと等が挙げられる。
【0005】
レーザー溶着によれば、樹脂部材を確実に溶着してそれらを確りと接合できる。更に、締結用部品(ボルト、ビス、及びクリップ等)による締結や、接着剤、振動溶着、及び超音波溶着等の方法による接合と同等以上の接合強度が得られる。しかもレーザー溶着は、振動を生じず熱の影響を最小限に抑えることができるので、省力化、生産性の改良、及び製造コストの低減等を実現することができる。そのためレーザー溶着は、例えば自動車産業や電気・電子産業等において、振動や熱の影響を回避すべき機能部品や電子部品等の接合に適するとともに、複雑な形状の樹脂部品の接合に対応可能である。
【0006】
レーザー溶着に関する技術として、特許文献1に、レーザー光透過性樹脂部材とレーザー光を吸収するカーボンブラックが添加されたレーザー光吸収性樹脂部材とを、重ね合わせた後、レーザー光透過性樹脂部材側からレーザー光を照射することにより両樹脂部材を溶着することによって接合する方法が記載されている。この場合、レーザー光透過性樹脂部材を必須としている。レーザー光透過性樹脂部材は、レーザー光の入射によって発熱・溶融しないので、これとレーザー光吸収性樹脂部材との溶着は、専らレーザー光吸収性樹脂部材の発熱・溶融に依存する。そのため、照射したレーザー光のエネルギーに対する発熱量が小さく、熱効率が低い上、レーザー光透過性樹脂部材内の溶融範囲が狭く、樹脂部材同士を高い溶着強度(引張強度)で溶着することができない。しかも、高い強度で溶着させるのに、高出力のレーザー光を照射すると、レーザー光吸収性樹脂部材が過度に発熱して溶着部位に焦げやボイドを生じる。そのため、却って溶着強度の低下を招いてしまう。
【0007】
特許文献2に、レーザー光を透過する樹脂部材と、レーザー光を吸収する樹脂部材との夫々に溶着しろとして予め形成された接合フランジ部同士を突き合わせ、レーザー光を透過する樹脂部材の接合フランジ部側からレーザー光を照射して両樹脂部材同士を仮溶着した後、接合フランジ部に再度レーザー光を照射する本溶着を施して両樹脂部材を一体化させるレーザー溶着方法が記載されている。この方法においても、特許文献1に開示されたレーザー溶着方法と同様に、レーザー光透過性樹脂部材が必須である。
【0008】
特許文献3に、熱可塑性樹脂部材A及びBと、赤外線透過部を有する放熱材Cとを、C/A/Bの位置関係となるように接触させ、赤外線を放熱材C側から照射するレーザー溶着方法が記載されている。この方法によれば、熱可塑性樹脂部材A及びBは同種の熱可塑性樹脂で成形されたものであってもよい。しかしながらこのレーザー溶着方法は、レーザー溶着時の発熱を調整するのに、特殊な放熱材Cを必須としている。部品を形成する部材でないこの放熱材Cをレーザー溶着のためだけに製造することは、レーザー溶着の工程を煩雑化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公昭62-049850号公報
【文献】特開2004-351730号公報
【文献】国際公開2003/039843号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の発明者は、特開2007-112127号において、レーザー光吸収剤としてニグロシンを含有させ、吸光度を特定範囲に調整したレーザー光弱吸収性樹脂部材と、レーザー光吸収剤として、例えば、ニグロシン又はニグロシン及びカーボンブラックを含有するレーザー光吸収性樹脂部材とをレーザー溶着することにより、高い強度で溶着されたレーザー溶着体を得ることを提案している。
【0011】
上記の発明によれば、従来のレーザー溶着に比較して、溶融広がり(溶融プール)が大きくできるので、より高い引張強度を有するレーザー溶着体が得られる。また、上記の発明は、低エネルギー量かつ低速のレーザー光走査速度のレーザー光照射条件で溶融プールの広がりが大きくなり、レーザー溶着体の溶着強度が増すという特徴を有している。しかしながら、高エネルギー量で高い走査速度のレーザー光を照射して、高い強度で樹脂部材同士が溶着したレーザー溶着体を、単位時間当たりにより多く製造することは困難である。
【0012】
例えば自動車や家電品の工場の生産ラインにおいて、高い生産速度によって生産効率を向上させることが重要な課題の一つである。このため、高走査速度でレーザー光を照射しても高い溶着強度を有するレーザー溶着体を製造でき、かつ生産ラインに低コストで導入できるような高い実用性を有するレーザー溶着体の製造方法が、産業界から望まれている。
【0013】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、複雑な工程を経ることなく製造することができ、樹脂部材に含まれる樹脂の特性を維持したレーザー溶着体の製造方法を提供することを目的とする。本発明は、上記に加えて、更に、レーザー光を高い速度で走査させても、高い溶着強度を発現し、高い生産効率で製造できるレーザー溶着体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者は、レーザー光の一部を吸収しながら別な一部を透過するように特定の吸光度に調整しつつ高い熱伝導性を付与した単一又は複数の樹脂部材を用いることにより、それにレーザー光を照射して引き起こされる樹脂部材の溶融現象が大きくかつ深く、しかも溶融箇所が短時間で広範囲に広がる結果、従来のレーザー溶着方法よりも、より早くかつ一層強固に樹脂部材同士を接合させるレーザー溶着体の製造方法を見出した。
【0015】
前記の目的を達成するためになされた本発明のレーザー溶着体の製造方法は、ニグロシン硫酸塩に対し硫酸イオン濃度が0.3~5.0質量%である前記ニグロシン硫酸塩を第1樹脂部材に対し0.01~0.2質量%及びポリアミド樹脂を含有する前記第1樹脂部材と、第2樹脂部材に対し前記ニグロシン硫酸塩の0.3~3.0質量%及び前記ポリアミド樹脂と同種又は異種のポリアミド樹脂を含有する前記第2樹脂部材とを、重ね合わせ及び/又は突き合わせて対向部位を形成し、前記第1樹脂部材側からレーザー光を照射して前記対向部位で前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材との少なくとも一部を溶融させて、それらを溶着するというものである。
レーザー溶着体の製造方法は、例えば、前記第1樹脂部材が、前記レーザー光の透過率を16.1~68.6%としているものが挙げられる。
レーザー溶着体の製造方法は、前記対向部位に、0.01~0.5mmの隙間が形成されているものであってもよい。
レーザー溶着体の製造方法は、例えば、前記第1樹脂部材のメルトフローレートが、12~20g/10分であるものが挙げられる。
レーザー溶着体の製造方法は、前記ニグロシン硫酸塩の体積抵抗率が5.0×109Ω・cm~7.0×1011Ω・cmであることが好ましい。
レーザー溶着体の製造方法は、前記第1樹脂部材のレーザー光入射面に、ガラス板及び/又は反射防止膜を配置するものであってもよい。
レーザー溶着体の製造方法は、例えば、前記第1樹脂部材に、前記レーザー光を照射しながら空気及び/又は不活性ガスを吹き付けるものが挙げられる。
レーザー溶着体の製造方法は、前記第1樹脂部材及び前記第2樹脂部材の厚さが、200~5000μmであるものであってもよい。
レーザー溶着体の製造方法は、例えば、前記第1樹脂部材が、アントラキノン青色染料を含む着色剤を含有しているものが挙げられる。
【0016】
レーザー溶着体は、熱可塑性樹脂及びニグロシン硫酸塩を含有し1mm厚当たりの吸光度a1を0.1~0.5としているレーザー光被照射樹脂部材でありレーザー光を透過する第1樹脂部材と、前記熱可塑性樹脂と同種又は異種の熱可塑性樹脂及びレーザー光吸収剤を含み1mm厚当たりの吸光度a2を3.0~15としている第2樹脂部材とが重ね合わされ及び/又は突き合わされている部位でレーザー溶着されており、前記ニグロシン硫酸塩の硫酸イオン濃度が0.3~5.0質量%であり、前記第1樹脂部材及び前記第2樹脂部材の厚さが200~5000μmであるものであってもよい。
レーザー溶着体は、前記吸光度a1と前記吸光度a2との吸光度比a2/a1が5~70であるものであってもよい。
【0017】
レーザー溶着体は、例えば、前記レーザー光吸収剤が、ニグロシン硫酸塩及び/又はカーボンブラックであるものが挙げられる。
【0018】
レーザー溶着体は、前記ニグロシン硫酸塩の硫酸イオン濃度が、0.3~5.0質量%であることが好ましい。
【0019】
レーザー溶着体は、前記カーボンブラックが、一次粒子径を12~40nmとし、窒素吸着比表面積を150~380m2/gとしているものであってもよい。
【0020】
レーザー溶着体は、例えば、前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及びポリプロピレン樹脂から選ばれる少なくとも一つであるものが挙げられる。
【0021】
レーザー溶着体は、前記第1樹脂部材及び/又は前記第2樹脂部材が、アントラキノンを含む着色剤を含有しているものであってもよい。
【0022】
レーザー溶着体は、前記アントラキノンが、アントラキノン造塩染料であることが好ましい。
【0023】
レーザー溶着体は、例えば、前記アントラキノン造塩染料が、A-B+(A-はアントラキノン由来のアニオンであり、B+は有機アンモニウム由来のカチオンである)又はAB(Aはアントラキノンの残基であり、Bは有機アンモニウムの残基である)で表されるものが挙げられる。
【0024】
レーザー溶着体の製造方法は、熱可塑性樹脂、及び硫酸イオン濃度を0.3~5.0質量%としているニグロシン硫酸塩を含有し1mm厚当たりの吸光度a1を0.1~0.5としていてレーザー光を透過する第1樹脂部材と、前記熱可塑性樹脂と同種又は異種の熱可塑性樹脂とレーザー光吸収剤とを含有し1mm厚当たりの吸光度a2を3.0~15としている第2樹脂部材とが、200~5000μmの厚さを有しており、前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材とを重ね合わせ及び/又は突き合わせて対向部位を形成し、前記第1樹脂部材側からレーザー光を照射して前記対向部位で前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材との少なくとも一部を溶融させて、それらを溶着するというものであってもよい。このレーザー溶着体の製造方法において、第1樹脂部材と第2樹脂部材とが、平面同士、曲面同士、又は平面と曲面との組合せによる面接触又は線接触をしていてもよい。通常の熱伝導によって溶着し難い形状を有する部材同士の溶着に適用可能であることが、本発明の特徴の一つである。
【0025】
レーザー溶着体の製造方法は、前記レーザー光を100~300mm/秒の走査速度で照射するものであってもよい。このレーザー溶着体の製造方法によれば、高速走査のレーザー溶着に対応できるので、高い作業効率を有する製造方法を提供できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のレーザー溶着体の製造方法により得られるレーザー溶着体は、レーザー光透過性とレーザー光吸収性とを併せ持つレーザー光弱吸収性樹脂部材とレーザー光吸収性樹脂部材とをレーザー溶着したものであり、レーザー光透過性樹脂部材を要しないので、重ね合わされたり突き合わされたりしているレーザー光弱吸収性樹脂部材とレーザー光吸収性樹脂部材とがともにレーザー光の入射により発熱し、それら同士が高い強度で溶着されているものである。
【0027】
本発明のレーザー溶着体の製造方法において、レーザー光弱吸収性樹脂部材がレーザー光吸収剤としてニグロシン硫酸塩を含有しているので、ニグロシン塩酸塩を含有する樹脂部材に比較して、より高い流動性と結晶温度の低下とを示し、高い溶融性を有している。このためレーザー溶着体の製造方法は、レーザー光吸収剤としてニグロシンの塩酸塩を含有している樹脂部材を用いたものに比較して、高走査速度によるレーザー光照射によって高い生産効率でレーザー溶着体を製造できる。
【0028】
レーザー溶着体の製造方法により得られるレーザー溶着体が有するレーザー光弱吸収性樹脂部材は、レーザー光照射を受けて、速やかに発熱・熱溶融するため、重ね合わせ及び/又は突き合わせされたレーザー光弱吸収性樹脂部材同士の界面に間隙が形成されていたとしても、レーザー光弱吸収性樹脂部材の溶融物が流動性に富んでおり、広い溶融プール(溶融物の総立体形状)が形成されてこの空隙が塞がれるので、レーザー溶着体は高い溶着強度を発現する。
【0029】
レーザー溶着体の製造方法により得られるレーザー溶着体は、少なくともレーザー光弱吸収性樹脂部材がニグロシン硫酸塩を含有しているため、この樹脂部材に含まれる熱可塑性樹脂本来の特性を損なわない上、レーザー光照射時に生じる溶融プールが大きく成長するので、高い溶着強度を発現することに加えて、溶着強度や外観のバラツキが小さいものである。しかもこのレーザー溶着体は、従来のようなレーザー光透過性樹脂部材とレーザー光吸収性樹脂部材とのレーザー溶着の際、過剰エネルギーに起因して生じる溶融部分の焦げやボイドが発生していないものである。
【0030】
本発明のレーザー溶着体の製造方法によれば、レーザー光被照射樹脂部材である第1樹脂部材が0.09~0.9の吸光度a1を有していると、レーザー光の一部を吸収し他の一部を透過するというレーザー光弱吸収性を示すので、レーザー光の照射によって、より高い吸光度a2を有する第2樹脂部材だけでなく、第1樹脂部材も発熱して溶融するので両樹脂部材が強固に溶着されたレーザー溶着体を、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明を適用するレーザー溶着体を製造している途中の一例を示す斜視図及びそれのA-A矢視模式部分断面図である。
【
図2】本発明を適用する別なレーザー溶着体を製造している途中を示す模式断面図である。
【
図3】本発明を適用する別なレーザー溶着体を製造している途中を示す模式断面図である。
【
図4】本発明を適用する別なレーザー溶着体を製造している途中を示す斜視図である。
【
図5】本発明を適用した実施例2-1及び2-2のレーザー溶着体の溶着された当接部位の断面拡大写真である。
【
図6】本発明を適用した実施例4-1及び4-2のレーザー溶着体を製造している途中を示す斜視図、及びそれの拡大部分断面図である。
【
図7】本発明を適用外である従来のレーザー溶着体を製造している途中を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0033】
本発明のレーザー溶着体の製造方法において、少なくとも第1樹脂部材は、ニグロシン硫酸塩を含有し、レーザー光透過性とレーザー光吸収性とを併せ持つレーザー光弱吸収性樹脂部材である。第2樹脂部材はレーザー光吸収剤を含み、レーザー光吸収性を有するレーザー光吸収性樹脂部材である。レーザー溶着体におけるレーザー光弱吸収性樹脂部材とレーザー光吸収性樹脂部材とは、入射したレーザー光の少なくとも一部を吸収して発熱し、さらに溶融して固化することにより高い強度で溶着されている。レーザー光弱吸収性樹脂部材とレーザー光吸収性樹脂部材とは、平坦な板状、又は単一のフィルム状の部材でもよく、湾曲や屈曲させたりしたロール状、円筒状、角柱状、箱状の単一又は複数の部材であってもよい。両樹脂部材において、溶着すべき箇所は、それら樹脂部材同士が互いに接触していても隙間を有していてもよい。両樹脂部材が接触している場合、接触した溶着箇所は面接触が好ましく、平面同士、曲面同士、又は平面と曲面との組み合わせであってもよい。
【0034】
本発明のレーザー溶着体の製造方法を示す斜視図を
図1(a)に、それのA-A矢視部分模式断面図を同図(b)に夫々示す。レーザー溶着体10は、複数の樹脂部材同士のレーザー溶着による接合によってそれら樹脂部材を一体化させたものである。レーザー溶着体10は、レーザー光被照射樹脂部材であり上側に配置された第1樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1と下側に配置された第2樹脂部材であるレーザー光吸収性樹脂部材2とがそれら同士で段差を形成するようにずれて重ね合わされて接触し、その重合せ界面の一部でレーザー溶着しているものである。この重合せ界面は、両樹脂部材1,2の面同士の当接により形成された対向部位である当接部位Nである。このレーザー溶着体10は、当接部位Nでレーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2にわたって広がった融着部位Mを有している。融着部位Mは、レーザー光Lの入射によって溶融した両樹脂部材1,2の一部が冷却して固化したものである。
【0035】
両樹脂部材1,2は均一な厚さを有する平坦な矩形の板状をなしている。レーザー光弱吸収性樹脂部材1は熱可塑性樹脂及びレーザー光吸収剤としてニグロシン硫酸塩を含んでいる。それによりレーザー光弱吸収性樹脂部材1は、レーザー光Lの一部を吸収し、別な一部を透過する。またレーザー光吸収性樹脂部材2は、熱可塑性樹脂及びレーザー光吸収剤として好ましくはニグロシン硫酸塩を含んでおり、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を透過したレーザー光Lを吸収する。レーザー光被照射樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1がレーザー光Lの照射側に配置されている。レーザー光Lは、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の照射面に対して略垂直に照射される。レーザー光LはX方向へ向かって、一直線に走査する。それによりレーザー溶着体10において、両樹脂部材1,2は当接部位Nで直線状に溶着され一体化している。
【0036】
レーザー光弱吸収性樹脂部材1の吸光度a1は、半導体レーザーから出射される940nmの波長域を有するレーザー光に対し、0.09~0.9であることが好ましく、0.1~0.7であることがより好ましく、0.1~0.5であることが一層好ましい。また、レーザー光吸収性樹脂部材2の吸光度a2は、上記と同様のレーザー光に対し、3.0~15であることが好ましく、3.0~13であることがより好ましく、5.0~12であることが一層好ましい。両樹脂部材1,2が重ね合わされている場合、レーザー光Lの照射によって両者の重合せ界面である当接部位Nで、両樹脂部材1,2に熱溶融を生じさせるのに要する十分なエネルギー量を付与する必要がある。特にレーザー溶着体10を高効率で製造する場合、レーザー光Lの走査速度は、例えば、100~300mm/秒という高速に設定される。このような高速の走査速度条件下、両樹脂部材1,2を高強度で溶着するため、レーザー光Lの照射に起因する両樹脂部材1,2の発熱量が過剰になったり過少になったりすることを抑止することが好ましい。それによれば、当接部位Nで両樹脂部材1,2に傷や焦げやボイドが発生することを防止できる。更に、当接部位Nにおける溶融箇所の垂直方向への成長による熱伝導及び熱輻射を促進でき、より強固に両樹脂部材1,2を溶着して接合することができる。そのため、吸光度a1,a2がこの範囲の値であることにより、レーザー光Lの走査速度を高速としても、両樹脂部材1,2を高い強度で接合することができる。なお、両樹脂部材1,2が重ね合わされている場合、それらすべての透過率及び吸光度が重視される。
【0037】
また吸光度a1,a2が上記の範囲の値を有していることにより、両樹脂部材1,2は、両者の溶着に必要な発熱特性と、入射したレーザー光Lのエネルギー集中による過剰発熱の抑止とを両立させている。またレーザー光被照射樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1と、レーザー光Lの直接の照射を受けないレーザー光吸収性樹脂部材2との双方に十分な発熱量を生じさせてそれらを溶融させることができる。更に両樹脂部材1,2が互いに異なる厚さを有していても、確りとそれらが溶着されるので、複雑な形状を有するレーザー溶着体10を作製できる。このレーザー溶着体の製造方法において、レーザー光弱吸収性樹脂部材1(第1樹脂部材)とレーザー光吸収性樹脂部材2(第2樹脂部材)とが、平面同士、曲面同士、又は平面と曲面との組合せによる面接触をしていてもよく、これら面の組合せにおいて面同士が0.01~0.5mmの隙間を有していてもよい。
【0038】
吸光度a1に対する吸光度a2の比、すなわち両者の吸光度比a2/a1は、5~70であることが好ましく、7~67であることがより好ましく、10~67であることが一層好ましい。吸光度比a2/a1がこの範囲の値であることにより、レーザー光を過度に吸収するレーザー光吸収性樹脂部材とレーザー光を透過するためレーザー光照射によって十分に発熱しないレーザー光透過性樹脂部材とを用いた従来のレーザー溶着体のように両樹脂部材間の発熱量に大きな差を生じないので、低エネルギーのレーザー光Lを用いた場合であっても、本発明のレーザー溶着体10は、従来のレーザー溶着体に比較して遥かに高い溶着強度を有している。
【0039】
両樹脂部材1,2のうち、少なくともレーザー光弱吸収性樹脂部材1はニグロシン硫酸塩を含有しているので、これを非含有である樹脂部材と比較して、低い結晶化温度を有している。そのためレーザー光Lの入射を受けて熱溶融したレーザー光弱吸収性樹脂部材1は、流動性に富むので、例え当接部位Nに両樹脂部材1,2の表面粗さに起因する空隙が形成されていたとしても、この空隙に熱溶融したレーザー光弱吸収性樹脂部材1が流れ込んでそれを確りと塞ぐ結果、両樹脂部材1,2が強固に溶着される。レーザー光弱吸収性樹脂部材1のメルトフローレート(JIS K7210:2014に準拠)は、10~50g/10分であることが好ましく、11~30g/10分であることがより好ましく、12~20g/10分であることが一層好ましく、13~18g/10分であることがより一層好ましい。
【0040】
両樹脂部材1,2の色調は濃色であることが好ましく、特に黒色色調とすることが好ましい。例えば、両樹脂部材1,2の原料である熱可塑性樹脂組成物にアントラキノンを含む着色剤を、適宜添加量を調整して含有させることが好ましい。
【0041】
本発明のレーザー溶着体の製造方法は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光吸収性樹脂部材2とを重ね合わせてレーザー光弱吸収性樹脂部材1側から、それの表面に向かってレーザー光を照射して両樹脂部材1,2の少なくとも一部を溶融させることによって、それらを溶着させるというものである。本発明のレーザー溶着体の製造方法によれば、レーザー光吸収剤としてニグロシン硫酸塩を含んでいるレーザー光弱吸収性樹脂部材1、及びレーザー光吸収剤としてニグロシン硫酸塩を含んでいることが好ましいレーザー光吸収性樹脂部材2は、低い結晶化温度を有しているので、50~300mm/秒、好ましくは100~300mm/秒という高速度の走査速度でレーザー光を走査させて高効率で高強度のレーザー溶着体を得ることができる。このようなレーザー溶着体10の製造工程は、例えば下記の工程A~Dを有している。
【0042】
工程A:熱可塑性樹脂及びレーザー光吸収剤であるニグロシン硫酸塩を含み、必要に応じて、着色剤や添加剤を含んでいてもよいレーザー光弱吸収性樹脂部材1を成形するためのレーザー光弱吸収性樹脂組成物を調製する。ニグロシン硫酸塩の含有量は、この熱可塑性樹脂が元来有する吸光度に基づいて、吸光度a1が上記の0.09~0.9の範囲に収まるように調整される。次いで成形機を用い、例えば矩形の板状の第1レーザー光弱吸収性樹脂部材1を成形する。なお、熱可塑性樹脂及びレーザー光吸収剤を含み、必要に応じて、着色剤や添加剤を含有する複数種のレーザー光弱吸収性樹脂組成物を粉体混合したり、このレーザー光弱吸収性樹脂組成物を押出成形等することによってマスターバッチを調製したりして、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を夫々成形してもよい。レーザー光弱吸収性樹脂部材1はレーザー光吸収剤であるニグロシン硫酸塩を含有する。これに加え所望の範囲で、下記のレーザー光吸収剤も含有することができる。
【0043】
ニグロシンとして、C.I.Solvent Black 5及びC.I.Solvent Black 7としてカラーインデックスに記載されているような黒色アジン系縮合混合物が挙げられる。このようなニグロシンは、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩及びニトロベンゼンを、塩化鉄の存在下、反応温度160~180℃で酸化及び脱水縮合することにより合成し得る。熱可塑性樹脂の流動性向上の観点から、C.I.Solvent Black 5が一層好ましい。
【0044】
触媒として塩化鉄を用いたニグロシンの生成反応系によれば、塩化鉄や過剰の塩酸存在下での反応が行われるため、ニグロシン塩酸塩が生成する。ニグロシン塩酸塩からニグロシン硫酸塩を得るのに、ニグロシン中で塩を構成する塩化物イオンの全て又は相当部分が、硫酸イオンに置換される処理であれば特に制限されず、公知の反応方法を用い得る。なお、ニグロシン硫酸塩は、C.I.Solvent Black 5に属する油溶性黒色染料であり、C.I.Acid Black 2に属する水溶性黒色染料でない。
【0045】
ニグロシン硫酸塩を製造するのに、具体的に、例えば、ニグロシンを希硫酸に分散させ、適度に加熱(例えば、50~90℃)する方法が挙げられる。また例えば、ニグロシンを製造して得られた縮合反応液を希硫酸に分散させ、適度に加熱(例えば、50~90℃)することにより製造される。更に例えば、スルホン化が起きないように、反応液温度を低温に調節しながらニグロシンを濃硫酸に溶解させたものを、大量の氷水に加えて結晶を析出させることによってもニグロシン硫酸塩を製造できる。
【0046】
ニグロシン硫酸塩において、硫酸イオン濃度が、0.3~5.0質量%、好ましくは0.5~3.5質量%であることにより、熱可塑性樹脂の結晶温度の低下効果が大きくなるので、簡便に安定してレーザー溶着を行うことができる。なお、ニグロシン硫酸塩の硫酸イオン濃度はニグロシンの試料から硫酸イオンを抽出して、イオンクロマトグラフの機器分析で測定できる。ニグロシン硫酸塩の製造工程において、ニグロシン硫酸塩中の不純物・無機塩等が取り除かれるため、ニグロシン硫酸塩の絶縁性が向上する。このため、このようなニグロシン硫酸塩は、カーボンブラックを含有する樹脂材料に比較して、電子部品や電気部品等の絶縁性が重要な物品の材料として好適に用いることができる。
【0047】
ニグロシン硫酸塩の体積抵抗率は、1.0×109Ω・cm以上であることが好ましく、5.0×109Ω・cm~7.0×1011Ω・cmであることがより好ましく、8.0×109Ω・cm~1.0×1011Ω・cmであることが一層好ましい。高い体積抵抗率を示すニグロシンを含有する材料は、電気・電子機器の部品や精密機器の部品のように高い絶縁性が要求される部品に好適に使用できるので、産業界において幅広く適用することができる。なお、ニグロシン硫酸塩の体積抵抗率は次のように求められる。ニグロシン硫酸塩の一定量をはかった試料に200kgfの荷重をかけて固め、この試料の体積を求める。次いでその試料をデジタル超高抵抗/微少電流計(株式会社エーディーシー製、商品名:8340A)で測定する。
【0048】
ニグロシン硫酸塩の含有量は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1中、0.01~0.3質量%であり、好ましくは0.01~0.2質量%である。この含有量が0.01質量%未満であると、吸光度a1が上記の下限値に満たない。そのためレーザー光のエネルギーの一部を吸収したレーザー光弱吸収性樹脂部材1の発熱量が過少であるため、それらが十分に昇温せず、突合せ部位Bや当接部位Nにおける溶着が不足して両樹脂部材1,2の接合強度が不足する。また、含有量が0.3質量%を超えると、吸光度a1が上記の上限値を超えてしまう。そのためレーザー光被照射樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1のレーザー光透過率が過度に低下し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1のみが、エネルギー吸収を過剰に生じて発熱して溶融するので、両樹脂部材1,2を確りと溶着させることができず、高い接合強度が得られない。更にレーザー光の入射側に配置されたレーザー光被照射樹脂部材は、レーザー光のエネルギーを過剰に吸収すると、それの原料である熱可塑性樹脂が有する物理的・化学的特性のような樹脂特性が失われ易い。
【0049】
工程B:熱可塑性樹脂、及びレーザー光吸収剤として、ニグロシン硫酸塩及び/又は下記のレーザー光吸収剤とを含み、必要に応じて、着色剤や添加剤を含んでいてもよいレーザー光吸収性樹脂部材2を成形するためのレーザー光吸収性樹脂組成物を調製する。ニグロシンやカーボンブラックのようなレーザー光吸収剤の含有量は、この熱可塑性樹脂が元来有する吸光度に基づいて、吸光度a2が上記の3.0~15の範囲に収まるように調整される。次いで成形機を用い、例えば矩形の板状のレーザー光吸収性樹脂部材2を成形する。なお、熱可塑性樹脂及びレーザー光吸収剤を含み、必要に応じて、着色剤や添加剤を含有する複数のレーザー光吸収性樹脂組成物を粉体混合したり、このレーザー光吸収性樹脂組成物を押出成形等することによってマスターバッチを調製したりして、レーザー光吸収性樹脂部材2を夫々成形してもよい。レーザー光吸収剤の含有量は、レーザー光吸収性樹脂部材2中、0.1~5.0質量%であり、好ましくは0.3~3.0質量%である。
【0050】
レーザー光吸収性樹脂部材2に含まれるレーザー光吸収剤として、ニグロシン及びこれの塩、(好ましくは、ニグロシンの硫酸塩)の他、アニリンブラック、ニグロシンとカーボンブラックの混合物、カーボンブラック、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ポルフィリン、シアニン系化合物、ペリレン、クオテリレン、アゾ金属錯体、オキソカーボン誘導体(例えば、スクアリリウム誘導体、及びクロコニウム誘導体等)、オキシム金属錯体、ジチオレン金属錯体、ジチオール金属錯体、アミノチオフェノレート金属錯体、ナフトキノン化合物、ジインモニウム染料、ベンゾジフラノン化合物、及びカーボンブラック等が挙げられる。
【0051】
また、無機系のレーザー光吸収剤として、公知の銅、ビスマス、アルミニウム、亜鉛、銀、チタン、アンチモン、マンガン、鉄、ニッケル、クロム、バリウム、ガリウム、ゲルマニウム、セシウム、及びタングステン等から選ばれる金属の1種または2種以上のこれら金属の組合せの酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩、及びリン酸塩等を例示できる。無機系吸収剤の好ましいものとしては、ビスマス顔料(例えば、Bi2O3、BiOCl、BiONO3、Bi(NO3)3、Bi2O2CO3、BiOOH、及びBiOF等)、モリブデン酸誘導体(例えば、モリブデン酸タングステン、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム等)、タングステン酸誘導体(例えば、タングステン酸亜鉛、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸鉄、タングステン酸セシウム等)、タングステン酸化物(例えば、Rb0.33WO3、Cs0.20WO3、Cs0.33WO3、Tl0.33WO3、K0.33WO3、及びBa0.33WO3等)、窒化化合物(例えば、窒化チタン、及び窒化ジルコニウム等)、リン酸水酸化銅又はリン酸銅が挙げられる。
【0052】
カーボンブラックは、その製造方法、及び原料種等に制限がなく、従来公知の任意のもの、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等のいずれをも使用することができる。これらの中でも、着色性とコストの点から、ファーネスブラックが好ましい。カーボンブラックの一次粒子径は適宜選択でき、中でも12~60nmであることが好ましく、12~40nmであることがより好ましく、12~22nmであることが一層好ましい。カーボンブラックの一次粒子径を12nm以上とすることで、流動性が向上する傾向にあり、60nm以下とすることで成形体の漆黒性が向上する。
【0053】
またカーボンブラックは、通常、窒素吸着比表面積を500m2/g未満としているものを用いることができる。中でも窒素吸着比表面積は、50~400m2/gであることが好ましく、120~380m2/gであることがより好ましく、150~350m2/gであることが一層好ましい。窒素吸着比表面積を500m2/g未満とすることで、レーザー光吸収性樹脂部材2の成形用樹脂組成物の流動性や成形品であるレーザー光吸収性樹脂部材2の外観が向上する傾向にあり好ましい。なお、窒素吸着比表面積は、JIS K6217、具体的にJIS K6217-2(2001)に準拠して測定することができる。更にカーボンブラックのDBP吸収量は、300cm3/100g未満であることが好ましく、中でも30~200cm3/100gであることが好ましい。DBP吸収量を300cm3/100g未満にすることで、樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。なお、DBP吸収量はJIS K6217、具体的にJIS K6217-4(2017)に準拠して測定することができる。カーボンブラックの含有量は、レーザー光吸収性樹脂部材2中、0.1~1.5質量%であり、好ましくは0.2~1.0質量%である。好ましいレーザー光吸収剤として、ニグロシン及びこれの塩(好ましくは、ニグロシンの硫酸塩)、及び/又はカーボンブラック(好ましくは、一次粒子径が12~40nmであり、窒素吸着比表面積が150~380m2/gであり、更に好ましくは一次粒子径が12~22nmであり、窒素吸着比表面積が150~330m2/gであるカーボンブラック)を例示できる。
【0054】
工程C:両樹脂部材1,2を重ね合わせて接触させ、当接部位Nを形成する。このとき、両樹脂部材1,2を治具で挟んで加圧して固定してもよい。更にレーザー光被照射樹脂部材である第1レーザー光弱吸収性樹脂部材1のレーザー光Lの入射面に、ガラス板や反射防止膜のような反射防止機能を有する部材や、レーザー光を遮蔽したり減衰させたりしないガラス板のような透過性部材を、配置してもよい。
【0055】
工程D:所定の条件に調整されたレーザー光Lを、レーザー光弱吸収性樹脂部材1側から当接部位Nを経てレーザー光吸収性樹脂部材2に至るように、X方向に走査させながら照射する。レーザー光Lは、まずレーザー光弱吸収性樹脂部材1に入射する。レーザー光Lの一部はレーザー光弱吸収性樹脂部材1を透過する。また別な一部はレーザー光弱吸収性樹脂部材1に吸収され、それを発熱させる。レーザー光弱吸収性樹脂部材1は、レーザー光Lを吸収した箇所で発熱する。レーザー光弱吸収性樹脂部材1を透過したレーザー光Lは、当接部位Nからレーザー光吸収性樹脂部材2に入射して吸収される。レーザー光吸収性樹脂部材2は、まず当接部位Nで溶融し、その溶融がレーザー光吸収性樹脂部材2内のレーザー光Lの非入射面に向かって成長する。それにより両樹脂部材1,2内の一部であたかも溶融状態の液状の樹脂が溜まっているかのような溶融プールが形成される。
【0056】
両樹脂部材1,2が、ニグロシン硫酸塩を含有している場合、このことに起因して低い結晶化温度と高い流動性とを有しているので、レーザー光Lの入射によって速やかに熱溶融して溶融プールが形成される。そのためレーザー光Lの走査速度を、上記のように、従来のレーザー溶着法に比較して遥かに高速にすることができる。その結果レーザー溶着体10を、極めて高い効率で製造することができる。
【0057】
溶融プールの熱は、レーザー光Lの入射方向と垂直な方向へわずかに輻射及び伝導する。それにより溶融プールが成長する。溶融プールは、当接部位Nの一部を介して両樹脂部材1,2に広がる。この溶融プールが冷却され、両樹脂部材1,2の溶融箇所は固化する。それにより当接部位Nで、両樹脂部材1,2にわたるように広がった融着部位Mが形成される。その結果両樹脂部材1,2は、溶着した当接部位Nで強固に接合され、レーザー溶着体10が完成する。
【0058】
なお工程Dにおいて、レーザー光Lの入射側の面に、空気や不活性ガスを吹き付けるという冷却処理を施してもよい。また、レーザー溶着の際、両樹脂部材1,2がガスを生じる場合、ガス処理装置を用いてこれを処理してもよい。
【0059】
図2及び3を参照しつつ、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2を用いたレーザー溶着体10の別な形態を説明する。レーザー光弱吸収性樹脂部材1の吸光度a
1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の吸光度a
2は、上記と同一の範囲の値を有している。
【0060】
図2(a)に別なレーザー溶着体10を製造している途中の模式断面図を示す。各樹脂部材1,2の夫々の吸光度a
1,a
2は、上記と同一の範囲の値を有している。レーザー溶着体10は、レーザー光被照射樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1と、レーザー光吸収性樹脂部材2との端部同士が突き合わされて接触した対向部位である突合せ部位Bを有している。この突合せ部位Bに向かって、レーザー光弱吸収性樹脂部材1側からこれの上面に対して斜めの角度で、レーザー光Lが照射されている。レーザー光Lの一部は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に吸収されて、他の一部はこれを透過し、レーザー光吸収性樹脂部材2の突き合わされた端部に到達し、これに吸収されている。それにより、両樹脂部材1,2は突合せ部位Bで発熱・溶融する。その結果両樹脂部材1,2は、突合せ部位Bで溶着されて一体化し、レーザー溶着体10を形成している。
【0061】
図2(b)に別なレーザー溶着体10を製造している途中の模式断面図を示す。レーザー光被照射樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1は、第1レーザー光弱吸収性樹脂部材片1aと第2レーザー光弱吸収性樹脂部材片1bとに分割されている。両樹脂部材1,2が重ね合わされていることにより、当接部位Nとして、第1レーザー光弱吸収性樹脂部材片1aとレーザー光吸収性樹脂部材2との当接部位N
1a-2と、第1レーザー光弱吸収性樹脂部材片1bとレーザー光吸収性樹脂部材2との当接部位N
1b-2とが、形成されている。各レーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bの端部同士が突き合わされて接触している。それによりレーザー溶着体10に、当接部位N
1a-2,N
1b-2に対して垂直な突合せ部位Bが形成されている。両レーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1b及びレーザー光吸収性樹脂部材2は、同じ外寸の外形を有している。そのためレーザー光弱吸収性樹脂部材1は、レーザー光吸収性樹脂部材2の両端で突き出ている。第1レーザー光弱吸収性樹脂部材片1aの吸光度a
1-1、及び第2レーザー光弱吸収性樹脂部材片1bの吸光度a
1-2は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の吸光度a
1である0.09~0.9の範囲であれば、互いに同一であっても、異なっていてもよい。またレーザー光吸収性樹脂部材2は、上記と同様に、吸光度a
2を3.0~15としている。レーザー光Lが、突合せ部位Bの直上からそれへ向かって照射されている。それにより両レーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bが突合せ部位Bで溶着され、更にレーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光吸収性樹脂部材2とが当接部位N
1a-2,N
1b-2で溶着されている。その結果、突合せ部位Bと当接部位N
1a-2,N
1b-2とで溶着したレーザー溶着体10が形成されている。
【0062】
図2(c)に別なレーザー溶着体10を製造している途中の模式断面図を示す。レーザー光被照射樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1が上側に、レーザー光吸収性樹脂部材2が下側に、夫々配置されている。レーザー光吸収性樹脂部材2は、第1レーザー光吸収性樹脂部材片2aと第2レーザー光吸収性樹脂部材片2bとに分割されている。両樹脂部材1,2が重ね合わされて、レーザー光弱吸収性樹脂部材1と第1レーザー光吸収性樹脂部材片2aとの当接部位N
1-2aと、レーザー光弱吸収性樹脂部材1と第2レーザー光吸収性樹脂部材片2bとの当接部位N
1-2bとが、形成されている。両レーザー光吸収性樹脂部材片2a,2bの端部同士が突き合わされて接触している。それによりレーザー溶着体10に、当接部位N
1-2a,N
1-2bに対して垂直な突合せ部位Bが形成されている。レーザー光弱吸収性樹脂部材1及び両レーザー光吸収性樹脂部材片2a,2bは、同じ外寸の外形を有している。そのためレーザー光吸収性樹脂部材2は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の両端で突き出ている。レーザー光弱吸収性樹脂部材1は、上記と同様に、吸光度a
1を0.09~0.9としている。第1レーザー光吸収性樹脂部材片2aの吸光度a
2-1、及び第2レーザー光吸収性樹脂部材片2bの吸光度a
2-2は、レーザー光吸収性樹脂部材2の吸光度a
2である3.0~15の範囲であれば、互いに同一であっても、異なっていてもよい。レーザー光Lが、レーザー光弱吸収性樹脂部材1側から突合せ部位Bに向かって照射されている。レーザー光弱吸収性樹脂部材1がレーザー光Lの入射箇所で溶融し、次いでレーザー光吸収性樹脂部材2が突合せ部位Bで溶融する結果、レーザー光弱吸収性樹脂部材1と両レーザー光吸収性樹脂部材片2a,2bとが当接部位N
1-2a,N
1-2bで、両レーザー光吸収性樹脂部材片2a,2bが突合せ部位Bで、夫々溶着されている。レーザー溶着体10の融着部位Mは、当接部位N
1-2a,N
1-2bと突合せ部位Bとにわたって形成されている。このように、突合せ部位Bと当接部位Nとで溶着したレーザー溶着体10が形成されている。
【0063】
図2(d)に別なレーザー溶着体10を製造している途中を示す模式断面図を示す。矩形をなしているレーザー光弱吸収性樹脂部材1はそれの一辺で第1継しろ部1cを、矩形をなしているレーザー光吸収性樹脂部材2はそれの一辺で第2継しろ部2cを、夫々有している。両継しろ部1c,2cは、同一の高さの段差形をなしている。両継しろ部1c,2cの段差形が対向しかつ互い違いに組み合わされていることにより、両樹脂部材1,2が重なった当接部位N、並びにそれらの端部同士が突き合わされた上側突合せ部位B
1及び下側突合せ部位B
2が形成されている。当接部位Nにおいて、第1継しろ部1cがレーザー光Lの入射側に配置されている。レーザー光Lが第1継しろ部1c側から照射されており、それによってレーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光吸収性樹脂部材2とは、当接部位Nで溶着されて一体化している。なお同図(d)中二点鎖線で示すように、レーザー光Lを、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の第1継しろ1cの面上でX方向(
図1(a)参照・
図2(d)中、奥行方向)に沿いつつ、かつこれに直交するY方向(
図2(d)中、左右方向)に走査させてもよい。それにより、両樹脂部材1,2を当接部位Nの広範囲で溶着するとともに、両突合せ部位B
1,B
2でも溶着し、融着部位Mをより広範囲に形成して両樹脂部材1,2の溶着強度をより一層高めることができる。
【0064】
レーザー溶着体10の突合せ部位Bは、レーザー光弱吸収性樹脂部材1のレーザー光被照射面に対して斜めに形成されていてもよい。
図3に示すレーザー溶着体10のレーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の端部は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1のレーザー光被照射面に対して互いに同角度の傾斜面を有している。両樹脂部材1,2の傾斜面に形成された端部同士は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1のレーザー光被照射面(同図中、上側面)に傾斜した端部の鋭角側が位置するように互い違いに突き合わされている。それにより、傾斜した突合せ部位Bが形成されている。レーザー光Lが傾斜した突合せ部位Bに対して略垂直に照射されている。傾斜した突合せ部位Bの広範囲にわたって融着部位Mが形成されていることにより、レーザー溶着体10の両樹脂部材1,2は、強固に接合されている。なお、レーザー光Lはレーザー光弱吸収性樹脂部材1のレーザー光被照射面に対して略垂直に、かつ傾斜した突合せ部位Bに対して斜めに照射されていてもよい。
【0065】
図4に別なレーザー溶着体10を製造している途中を示す斜視図を示す。レーザー溶着体10は、円筒形をなしていてもよい。レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2は、ともに開口した両端を有する円筒形をなしている。レーザー光弱吸収性樹脂部材1の内径は、レーザー光吸収性樹脂部材2の外径よりも幾分大きい。それにより、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の内空にレーザー光吸収性樹脂部材2が、挿脱可能な程度の遊びを有しつつ挿入されており、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の内周面とレーザー光吸収性樹脂部材2の外周面とが、一部にわずかの間隙を有して接触した当接部位Nを形成している。レーザー光弱吸収性樹脂部材1の長さは、レーザー光吸収性樹脂部材2のそれよりも短い。そのためレーザー光吸収性樹脂部材2は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の開口した一端で突き出ている。レーザー光Lは、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に向かって、これの外周面を一周りするように照射される。その結果、両樹脂部材1,2が当接部位Nで溶着したレーザー溶着体10が形成されている。
【0066】
レーザー光Lとして、可視光より長波長域の800~1600nmの赤外光線、好ましくは800~1100nmに発振波長を有するレーザー光を用いることができる。例えば、固体レーザー(Nd:YAG励起、及び/又は半導体レーザー励起)、半導体レーザー、チューナブルダイオードレーザー、チタンサファイアレーザー(Nd:YAG励起)を好適に用いることができる。また、その他に700nm以上の波長の赤外線を発生するハロゲンランプやキセノンランプを用いてもよい。またレーザー光Lの照射角度は、レーザー光被照射樹脂部材の面に対して、垂直方向からでも斜め方向からでもよく、一方向又は複数方向から照射してもよい。レーザー光Lの出力は、走査速度と、各樹脂部材1,2の吸光度a1,a2とに応じて調整され、好ましくは10~500Wであり、より好ましくは30~300Wである。
【0067】
700nm以上の波長の赤外線を発生するハロゲンランプを用いる場合、例えばランプ形状として、帯状にランプを配したものを挙げることができる。照射態様としては、例えば、ランプ照射部が移動することにより広範囲にわたってレーザー光を照射可能な走査タイプ、同様に、溶着すべき部材が移動するマスキングタイプ、及び溶着すべき樹脂部材に対して多方面からランプを同時照射させるタイプが挙げられる。また照射は、適宜、赤外線の照射幅、照射時間、及び照射エネルギーのような諸条件を調整して行なうことができる。ハロゲンランプは近赤外域を中心としたエネルギー分布を持っているため、そのエネルギー分布の短波長側、すなわち可視領域においてエネルギーが存在することがある。このような場合、入射した部材の表面に溶着痕を生じることがあるため、例えばカットフィルターを用いて可視領域のエネルギーを遮断してもよい。
【0068】
ニグロシン硫酸塩のようなレーザー光吸収剤の吸収係数εd(ml/g・cm)は、1000~8000(ml/g・cm)であり、好ましくは1000~6000(ml/g・cm)、より好ましくは3000~6000(ml/g・cm)である。吸収係数(吸光係数)εdの測定方法は、レーザー光吸収剤0.05gを精秤し、50mlメスフラスコを用いて、例えば、溶媒N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解後、その1mlを、50mlメスフラスコを用いてDMFで希釈して測定サンプルとし、分光光度計(株式会社島津製作所製、商品名:UV1600PC)を用いて、吸光度測定を行なうというものである。
【0069】
各樹脂部材1,2の厚さは、200~5000μmであることが好ましい。厚さが200μm未満であるとレーザー光エネルギーのコントロールが難しく、レーザー溶着の際に、熱溶融の過不足が生じ、過熱により破断したり熱不足によって十分な接合強度が得られなかったりする。一方、厚さが5000μmを超えると、溶着すべき部位までの距離が長いため、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に入射したレーザー光が、それの内部にまで透過せずに減衰してしまい、十分な接合強度が得られない。
【0070】
各樹脂部材1,2に含まれる熱可塑性樹脂は、レーザー光吸収剤を含有させることができる公知の樹脂であれば、特に限定されない。
【0071】
この熱可塑性樹脂として、具体的に例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアミド樹脂(ナイロン(登録商標)、PA)、ポリエチレン樹脂(PE)やポリプロピレン樹脂(PP)のようなポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリメチルペンテン樹脂、メタクリル樹脂、アクリルポリアミド樹脂、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂やポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂のようなポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、芳香族ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアリルサルホン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、アクリルポリアミド樹脂及びポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)のようなアクリル樹脂、フッ素樹脂、並びに液晶ポリマーが挙げられる。
【0072】
熱可塑性樹脂は、これを形成する単量体の複数種が結合した共重合体樹脂であってもよい。例えば、AS(アクリロニトリル-スチレン)共重合体樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)共重合体樹脂、AES(アクリロニトリル-EPDM-スチレン)共重合体樹脂、PA-PBT共重合体樹脂、PET-PBT共重合体樹脂、PC-PBT共重合体樹脂、PS-PBT共重合体樹脂、及びPC-PA共重合体樹脂が挙げられる。またポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、及びポリエステル系熱可塑性エラストマーのような熱可塑性エラストマー;これらの樹脂類を主成分とする合成ワックス及び天然ワックスが挙げられる。なお、これらの熱可塑性樹脂の分子量は、特に限定されない。また、これらの熱可塑性樹脂を単独で又は複数種を混合して用いてもよい。
【0073】
この熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂のようなポリエステル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂であることが好ましい。中でもニグロシンのようなレーザー光吸収剤と良好な相溶性を示す観点から、ポリアミド樹脂、及びポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0074】
本発明におけるポリアミド樹脂とは、その分子中に酸アミド基(-CONH-)を有し、加熱溶融できるポリアミド重合体である。好ましくは、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とからなる塩及び芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とからなる塩より選ばれる少なくとも1種を構成単位(a)として含むポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂全構成単位中の前記構成単位(a)の割合は、好ましくは30モル%以上であり、より好ましくは40モル%以上である。更に具体的には、ラクタムの重縮合物、ジアミンとジカルボン酸との重縮合物、ω-アミノカルボン酸の重縮合物等の各種ポリアミド樹脂、又はそれ等の共重合ポリアミド樹脂やブレンド物等である。ポリアミド樹脂の重縮合の原料であるラクタムとして、例えば、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン、及びω-ラウロラクタム等が挙げられる。
【0075】
ジアミンとして、例えば、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、(2,2,4-又は2,4,4-)トリメチルヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、及び5-メチルノナンメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、及びアミノエチルピペラジンのような脂環族ジアミン;メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、及びビス(アミノメチル)ナフタレンのような芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0076】
ジカルボン酸として、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、グルタル酸、ピメリン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、ヘキサデセンジオン酸、エイコサンジオン酸、ジグリコール酸、2,2,4-トリメチルアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、及びキシリレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0077】
ω-アミノカルボン酸として、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸、2-クロロ-パラアミノメチル安息香酸、及び2-メチル-パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。
【0078】
更にポリアミド樹脂として、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド6I、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド56、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド96、ポリアミド9T、非晶質性ポリアミド、高融点ポリアミド、ポリアミドRIM、ポリアミドMXD6、ポリアミドMP6、ポリアミドMP10、及びそれらの2種類以上の芳香族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、並びにそれらの共重合体等が挙げられる。この共重合体として、具体的に、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド66/6I共重合体、ポリアミド6I/6T共重合体、ポリアミド6/66/610共重合体、ポリアミド6/66/11/12共重合体、及び結晶性ポリアミド/非結晶性ポリアミド共重合体が挙げられる。またポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂と他の合成樹脂との混合重合体であってもよい。そのような混合重合体の例として、ポリアミド/ポリエステル混合重合体、ポリアミド/ポリフェニレンオキシド混合重合体、ポリアミド/ポリカーボネート混合重合体、ポリアミド/ポリオレフィン混合重合体、ポリアミド/スチレン/アクリロニトリル混合重合体、ポリアミド/アクリル酸エステル混合重合体、及びポリアミド/シリコーン混合重合体が挙げられる。これらのポリアミド樹脂を、単独で又は複数種を混合して用いてもよい。
【0079】
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂は、(-φ-S-)[φは置換又は非置換のフェニレン基]で表わされるチオフェニレン基からなる繰り返し単位を主とする重合体である。PPS樹脂は、パラジクロルベンゼンと硫化アルカリとを高温、高圧下で反応させて合成したモノマーを、重合させたものである。PPS樹脂は、重合助剤を用いた重合工程だけで目的の重合度にさせた直鎖型のものと、低分子の重合体を酸素存在下で熱架橋させた架橋型のものとの二タイプに大まかに分類される。特に、直鎖型のPPS樹脂は、レーザー光透過率が優れている点で好ましい。また、PPS樹脂の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、通常5~2000Pa・sの範囲であることが好ましく、100~600Pa・sの範囲であることがより好ましい。
【0080】
また、PPS樹脂はポリマーアロイであってもよい。例えば、PPS/ポリオレフィン系アロイ、PPS/ポリアミド系アロイ、PPS/ポリエステル系アロイ、PPS/ポリカーボネート系アロイ、PPS/ポリフェニレンエーテル系アロイ、PPS/液晶ポリマー系アロイ、PPS/ポリイミド系アロイ、及びPPS/ポリサルホン系アロイが挙げられる。PPS樹脂は、耐薬品性・耐熱性と高い強度とを有するので、例えば電子部品や自動車部品の用途に適している。
【0081】
ポリエステル樹脂として、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合反応によって得られるポリエチレンテレフタレート樹脂、及びテレフタル酸とブチレングリコールとの重縮合反応によって得られるポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。その他のポリエステル樹脂の例として、テレフタル酸成分中、15モル%以下(例えば0.5~15モル%)、好ましくは5モル%以下(例えば0.5~5モル%)、及び/又はエチレングリコール及びブチレングリコールのようなグリコール成分中、15モル%以下(例えば0.5~15モル%)、好ましくは5モル%以下(例えば0.5~5モル%)のように、テレフタル酸成分やグリコール成分中の一部を、例えば炭素数1~4のアルキル基のような置換基で置換した共重合体が挙げられる。またポリエステル樹脂は、単独で又は複数種を混合して用いてもよい。
【0082】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物として具体的に、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、アントラセン-2,5-ジカルボン酸、アントラセン-2,6-ジカルボン酸、p-ターフェニレン-4,4’-ジカルボン酸、及びピリジン-2,5-ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸を好ましく使用できる。これらの芳香族ジカルボン酸は、2種以上を混合して使用してもよい。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等をエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、及びセバシン酸等のような脂肪族ジカルボン酸や、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のような脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して、使用することができる。
【0083】
ポリエステル樹脂を構成するジヒドロキシ化合物として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、及びトリエチレングリコール等のような脂肪族ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等の脂環式ジオール等、及びそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400~6000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のような芳香族ジオールを用いてもよい。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、及びトリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため、脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することができる。
【0084】
ポリエステル樹脂として、主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合を含むもの、即ち樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物を含むものが用いられる。ジカルボン酸として芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとして脂肪族ジオールが好ましい。酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートがより好ましい。その例として、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートが挙げられる。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分及び1,4-ブタンジオール又はエチレングリコール成分であることが好ましい。ポリエステル樹脂として、主成分がポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。ポリブチレンテレフタレートは、イソフタル酸、ダイマー酸、及びポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のようなポリアルキレングリコール等の共重合物であってもよい。
【0085】
ポリオレフィン系樹脂として、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、3-メチルブテン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1のようなα-オレフィンの単独重合体及びこれらの共重合体、並びにこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体(共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体を挙げることができる。)が挙げられる。より具体例には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-アクリル酸エチル共重合体のようなポリエチレン系樹脂;プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体又はランダム共重合体、及びプロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体のようなポリプロピレン系樹脂;ポリブテン-1、及びポリ4-メチルペンテン-1が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独で又は複数種を混合して用いてもよい。これらの中でも、ポリエチレン樹脂及び/又はポリプロピレン樹脂が好ましい。より好ましくは、ポリプロピレン系樹脂である。このポリプロピレン系樹脂の分子量は特に制限されず、広範囲の分子量のものを使用できる。
【0086】
なお、ポリオレフィン系樹脂として、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性された酸変性ポリオレフィンや発泡ポリプロピレンのように樹脂自体に発泡剤を含有したものを用いてもよい。また、エチレン-α-オレフィン系共重合体ゴム、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン系化合物共重合体(例えばEPDM)、エチレン-芳香族モノビニル化合物-共役ジエン系化合物共重合ゴム、及びこれらの水添物のゴム類を、ポリオレフィン系樹脂が含有していてもよい。
【0087】
ポリカーボネート樹脂は、主鎖に炭酸エステル結合を持つ熱可塑性樹脂であり、優れた機械的性質、耐熱性、耐寒性、電気的性質、及び透明性を備えているエンジニアプラスチックである。ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族ポリカーボネート樹脂の何れも使用でき、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐していてもよく、共重合体であってもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造できる。また、溶融法によって得られる芳香族ポリカーボネート樹脂を用いる場合、末端基のOH基量を調整してもよい。
【0088】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料である芳香族ジヒドロキシ化合物として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、及び4,4-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAである。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用してもよい。分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るのに、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、分岐剤、例えば、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-3、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、及び1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタン等のようなポリヒドロキシ化合物や、3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール(即ち、イサチンビスフェノール)、5-クロロイサチン、5,7-ジクロロイサチン、及び5-ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01~10モル%であり、好ましくは0.1~2モル%である。
【0089】
芳香族ポリカーボネート樹脂として、上記したものの中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂を主体とし、これとシロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体であってもよい。更に、上記した芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0090】
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2は、レーザー光吸収剤として黒色着色剤であるニグロシンやカーボンブラックを用いた場合、それの含有量に応じて灰色から黒色の色調を呈している。中でもレーザー光吸収性樹脂部材2は、吸光度a2を比較的高い3.0~15とするのに、レーザー光弱吸収性樹脂部材1よりもレーザー光吸収剤を多く含有しているので、黒色を呈していることが多い。一方、レーザー光弱吸収性樹脂部材1は、0.09~0.9の吸光度a1を示すように、レーザー光吸収剤の含有量が決定されるので、それの色濃度が十分でなく、例えば灰色のように淡色を呈している場合がある。このような場合、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に所望の色濃度を付与するのに、これを成形するためのレーザー光弱吸収性樹脂部材用組成物に着色剤を添加してもよい。それにより、例えば、両樹脂部材1,2に同一色を付与して、両者の界面や溶着跡を目立たなくすることができる。
【0091】
熱可塑性樹脂の着色は、装飾効果、色分け効果、成形品の耐光性向上、内容物の保護や隠蔽の目的で行われる。産業界において最も重要なのは、黒色着色である。
【0092】
着色剤は、両樹脂部材1,2を形成するのに用いられる樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂の色相及び色濃度に応じ、更に用途及び使用条件を考慮して適宜選択される。例えば、濃色の黒色を両樹脂部材1,2に付与する場合、青色着色剤と赤色着色剤と黄色着色剤との組合せ、紫色着色剤と黄色着色剤との組合せ、緑色着色剤と赤色着色剤との組合せのように、複数種の着色剤を組み合わせて黒色着色剤を調製することができる。また樹脂への分散性や樹脂との相溶性が良好であることから、油溶性染料による着色が適している。中でも、黒色着色剤としてもレーザー光吸収剤としても用いることができ、より高い接合強度を得ることができるニグロシンを好適に用いることができる。
【0093】
着色剤の構造や色相は特に限定されず、より具体的には、アゾ系、アゾメチン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリドン系、イソインドリノン系、インダンスロン系、ペリノン系、ペリレン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、キノリン系、及びトリフェニルメタン系の染顔料のような各種有機染顔料を含む着色剤が挙げられる。
【0094】
このような着色剤は、可視域を吸収し、熱可塑性樹脂との相溶性に富み、かつレーザー光に対して低い散乱特性を有する複数種の染料の組合せであるものが好ましい。更に着色剤は、各樹脂部材1,2の成形時やレーザー光の照射による溶融時の高温に晒されても退色し難く、優れた耐熱性を有し、更にレーザー光の近赤外域の波長に吸収性を有さず、透過性を有するものであることがより好ましい。レーザー光の波長に対して透過性を有する着色剤としてアントラキノン系染料を含む着色剤が挙げられる。
【0095】
このようなアントラキノン染料は、アントラキノン系油溶性染料であることが好ましく、具体的に例えば、C.I.Solvent Blue 11、12、13、14、26、35、36、44、45、48、49、58、59、63、68、69、70、78、79、83、87、90、94、97、98、101、102、104、105、122、129、及び132;C.I.Disperse Blue 14、35、102、及び197;C.I.Solvent Green 3、19、20、23、24、25、26、28、33、及び65;C.I.Solvent Violet 13、14、15、26、30、31、33、34、36、37、38、40、41、42、45、47、48、51、59、及び60のカラーインデックスで市販されている染料が挙げられる。
【0096】
アントラキノン系染料として、590~635nmの範囲に最大吸収波長を有するものが挙げられる。このようなアントラキノン染料は、青色を呈することが多く、例えば、アントラキノン緑色染料に比較して高い視認性を有している。黒色混合染料を組み合わせる場合、減法混色によって、アントラキノン系青色染料に、赤色染料や黄色染料を組み合わせることにより、高い着色力を有する濃黒色の着色剤を得ることができる。
【0097】
また、アントラキノン系染料の940nmレーザー光透過率が60~95%であることが好適である。市販されているこのようなアントラキノン染料として、例えば、「NUBIAN(登録商標) BLUE シリーズ」及び「OPLAS(登録商標) BLUE シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0098】
アントラキノン系染料の電気伝導度は、50~500μS/cmであることが好ましい。それによれば、各樹脂部材1,2の絶縁性を向上させることができるので、電気・電子機器部品や精密機器部品のような高い絶縁性を要する樹脂部品に、レーザー溶着体10を好適に用いることができる。
【0099】
この電気伝導度は、以下のようにして測定される。試料であるアントラキノン系染料5gを500mLのイオン交換水に分散して、その重量を記録する。これを10分間煮沸してイオン成分を抽出し、その後濾過する。濾液の重量を先に測定した重量と同じになるまでイオン交換水を加え、この溶液の電気伝導度を電気伝導率計(東亜ディーケーケー株式会社製、製品名:AOL-10)で測定する。
【0100】
染料の組合せとして、例えば、アントラキノン系青色染料とその他の青色染料、赤色染料、及び黄色染料との組合せ、並びにアントラキノン系青色染料と緑色染料、赤色染料、及び黄色染料との組合せが挙げられる。この赤色染料又は黄色染料として、アゾ染料、キナクリドン染料、ジオキサジン染料、キノフタロン染料、ペリレン染料、ペリノン染料、イソインドリノン染料、アゾメチン染料、トリフェニルメタン染料、赤色又は黄色のアントラキノン染料が挙げられる。これらは、一種又は複数種を組合せて用いてもよい。レーザー光透過吸収性樹脂組成物に良好な発色性を付与する染料として、ペリノン赤色染料、アントラキノン赤色染料、又はアントラキノン黄色染料が挙げられる。
【0101】
好ましくは、590~635nmの範囲に最大吸収波長を有する上記のようなアントラキノン青色染料と赤色染料との組合せを用いる。好適な例として、良好な耐熱性を有し赤色を示すことが多い上記のようなペリノン染料が挙げられる。このような赤色染料の市販品として、例えば、「NUBIAN(登録商標) RED シリーズ」及び「OPLAS(登録商標) RED シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0102】
ペリノン染料として、具体的に例えば、C.I.Solvent Orange 60;C.I.Solvent Red 135、162、178、及び179が挙げられる。
【0103】
アントラキノン赤色染料(アントラピリドン染料を含む)として、例えば、C.I.Solvent Red 52、111、149、150、151、168、191、207、及び227;C.I.Disperse Red 60が挙げられる。このようなペリノン染料及びアントラキノン赤色染料は、上記のカラーインデックスで市販されている。
【0104】
このようなアントラキノン赤色染料と組合せて用いる染料として、アントラキノン黄色染料が好適である。着色剤において、(i)アントラキノン黄色染料の質量/(ii)青色、緑色、及び/又は紫色のアントラキノン染料の質量比(i)/(ii)の範囲が、0.15~1.0であることが好ましい。アントラキノン黄色染料の市販品として、例えば、「NUBIAN(登録商標) YELLOW シリーズ」及び「OPLAS(登録商標) YELLOW シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0105】
黄色染料として、具体的に例えば、C.I.Solvent Yellow 14、16、32、33、43、44、93、94、98、104、114、116、133、145、157、163、164、167、181、182、183、184、185、及び187;C.I.Vat Yellow 1、2、及び3のカラーインデックスで市販されている染料が挙げられる。
【0106】
レーザー溶着体10に、耐候性、耐熱性、及び耐ブリード性のような堅牢性が求められる場合、上記に挙げた油溶性染料として、酸性染料と有機アミンとを組合せた造塩染料を好適に用いることができる。このような造塩染料は、[酸性染料のアニオン・有機アンモニウム塩]のように表すことができる。着色剤中、アントラキノン染料を造塩染料に代え、[アントラキノン酸性染料のアニオン・有機アンモニウム塩]のように表わされるアントラキノン系造塩染料を用いることにより、着色剤の堅牢性を向上させることができる。
【0107】
造塩染料に用いられるアントラキノン酸性染料として、具体的に例えば、C.I.Acid Blue 25、27、40、41、43、45、47、51、53、55、56、62、78、111、124、129、215、230、及び277;C.I.Acid Green 37;C.I.Acid Violet 36、41、43、51、及び63のカラーインデックスで市販され、一分子中に一つのスルホン酸基を有するアントラキノン染料が挙げられる。
【0108】
アントラキノン酸性染料として、上記の他、具体的に例えば、C.I.Acid Blue 23、35、49、68、69、80、96、129:1、138、145、175、221、及び344;C.I.Acid Green 25、27、36、38、41、42、及び44;C.I.Acid Violet 34及び42のカラーインデックスで市販され、アントラキノンの一分子中に二つのスルホン酸基を有するアントラキノン染料が挙げられる。
【0109】
中でもC.I.Acid Blue 49、80、96、129:1、138、145、及び221、上記のC.I.Acid Green 25、27、36、38、41、42、及び44、並びにC.I.Acid Violet 34のように、アントラキノン骨格中に、少なくとも一つの置換基として、アニリノ基にスルホン酸基を有する置換基が結合した構造を有するものが好ましい。
【0110】
好適なアントラキノン造塩染料として、アニリノ基誘導体を置換基として有するアントラキノン造塩染料が挙げられる。このようなアントラキノン造塩染料は、A-B+(A-はアントラキノン由来のアニオン、B+は有機アンモニウム由来のカチオン)又はAB(Aはアントラキノン骨格の脱水素残基又はアントラキノンに結合した置換基の脱水素残基、Bは有機アンモニウムの脱水素残基)で表され、芳香族熱可塑性樹脂に対して高い相溶性を示し、高い耐熱性を付与することができる。
【0111】
このような好ましいアントラキノン造塩染料は、下記化学式(1)
【化1】
(化学式(1)中、X及びYは互いに独立して水素原子、水酸基、ハロゲン原子、又はアミノ基であり、R
1~R
5は互いに独立して水素原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1~18で直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基、炭素数1~18で直鎖若しくは分枝鎖のアルコキシ基、ハロゲン原子、フェニルオキシ基、カルボキシ基であり、(P)
b+は有機アンモニウムイオン、a及びbは1~2の正数、m及びnは1~2の正数であり、Aは水素原子、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子、又は下記化学式(2)
【化2】
(化学式(2)中、R
6~R
10は互いに独立して水素原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1~18で直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基、炭素数1~18で直鎖若しくは分枝鎖のアルコキシ基、又はハロゲン原子である)である)で表わされる。
【0112】
化学式(1)及び(2)中、炭素数1~18で直鎖又は分枝鎖のアルキル基として、具体的に例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、及びオクチル基が挙げられる。また炭素数1~18で直鎖又は分枝鎖の炭素数1~18のアルコキシ基として、具体的に例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec-ペンチルオキシ基、3-ペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、及びヘキシルオキシ基が挙げられる。更にハロゲン原子として、具体的に例えば、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
【0113】
化学式(1)で表わされる造塩染料は、一分子中に二つのフェニルアミノ誘導体を置換基として有するアントラキノン造塩染料が好ましい。それによれば、各樹脂部材1,2の成形時やレーザー溶着時において、熱溶融によるそれらの熱劣化を抑えることができる。造塩染料に好適に用いられるような一分子中に二つのフェニルアミノ誘導体を置換基として有するアントラキノン酸性染料として、具体的に例えば、C.I.Acid Green 25、27、36、38、41、42、及び44;C.I.Acid Blue 80及び221;C.I.Acid Violet 34が挙げられる。
【0114】
化学式(1)で表わされる造塩染料に好適に用いられるアミン類として、具体的に例えば、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジ-(2-エチルヘキシル)アミン、及びドデシルアミンのような脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、及びジハイドロアジエチルアミンのような脂環族アミン;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、m-キシレンジアミン、及びp-キシレンジアミンのような脂肪族、脂環族、芳香族ジアミン;3-プロポキシプロピルアミン、ジ-(3-エトキシプロピル)アミン、3-ブトキシプロピルアミン、オクトオキシプロピルアミン、及び3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンのようなアルコキシアルキルアミン;α-ナフチルアミン、β-ナフチルアミン、1,2-ナフチレンジアミン、1,5-ナフチレンジアミン、及び1,8-ナフチレンジアミンのような芳香族アミン;1-ナフチルメチルアミンのような芳香族アルキルアミン;N-シクロヘキシルエタノールアミン、N-ドデシルエタノールアミン、及びN-ドデシルイミノ-ジエタノールのようなアルカノール基含有アミン;1,3-ジフェニルグアニジン、1-o-トリルグアニジン、及びジ-o-トリルグアニジンのようなグアニジン誘導体が挙げられる。
【0115】
アミン類として、市販の四級アンモニウムを用いてもよい。このような四級アンモニウムとして、具体的に例えば、コータミン24P、コータミン86Pコンク、コータミン60W、コータミン86W、コータミンD86P(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド)、サニゾールC、及びサニゾールB-50(以上、花王株式会社製、コータミン及びサニゾールは登録商標);アーカード210-80E、2C-75、2HT-75(ジアルキル(アルキルはC14~C18)ジメチルアンモニウムクロライド)、2HTフレーク、2O-75I、2HP-75、及び2HPフレーク(以上、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、アーカードは商品名);プライミン(PRIMENE)MDアミン(メタンジアミン)、プライミン81-R(高分枝鎖tert-アルキル(C12~C14)一級アミン異性体混合物)、プライミンTOAアミン(tert-オクチルアミン)、プライミンRB-3(tert-アルキル一級アミン混合物)、及びプライミンJM-Tアミン(高分枝鎖tert-アルキル(C16~C22)一級アミン異性体混合物)(以上、ダウ・ケミカル社製、PRIMENEは登録商標)が挙げられる。
【0116】
着色剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01~5質量部であり、好ましくは0.05~3質量部、より好ましくは0.1~2質量部である。着色剤の含有量をこのような範囲に調整することにより、高発色性の各樹脂部材1,2を成形するのに用いられる樹脂組成物を得ることができる。
【0117】
これらの樹脂組成物を調製する際、着色剤を含有させたマスターバッチを調製し、このマスターバッチを熱可塑性樹脂組成物に添加することが好ましい。それによれば、着色剤が均一に分散するので、これらの樹脂組成物に色ムラを生じさせない。マスターバッチ中の着色剤の含有量は、5~90質量%であることが好ましく、20~60質量%であることがより好ましい。
【0118】
これらの樹脂組成物に、必要に応じ、着色剤の他、熱可塑性樹脂原料に種々の添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、補強材、充填材、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、抗菌・防かび剤、難燃剤、離型剤、結晶化核剤、可塑剤、耐衝撃改良剤、助色剤、分散剤、安定剤、改質剤、帯電防止剤、潤滑剤、及び結晶促進剤が挙げられる。更に酸化チタン、硫酸亜鉛、亜鉛白(酸化亜鉛)、炭酸カルシウム、及びアルミナ白のような白色顔料や有機白色顔料が挙げられる。それによれば、無彩色の熱可塑性樹脂原料を、有機染顔料と組合せて、有彩色に調整できる。
【0119】
補強材は、合成樹脂の補強に用い得るものであればよく、特に限定されない。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、セピオライト、ウォラストナイト、及びロックウールのような無機繊維、並びにアラミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド、ポリエステル、及び液晶ポリマーのような有機繊維が挙げられる。例えば、樹脂部材に透明性を付与する場合、それの補強にガラス繊維を好適に用いることができる。このようなガラス繊維の繊維長は2~15mmでありその繊維径は1~20μmである。ガラス繊維の形態については特に制限はなく、例えばロービングや、ミルドファイバーが挙げられる。これらのガラス繊維は、一種を単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。その含有量は、例えば各樹脂部材1,2の100質量部に対し、5~120質量部とすることが好ましい。5質量部未満であると、十分なガラス繊維補強効果を得られず、120質量部を超えると成形性が低下する。好ましくは10~60質量部、特に好ましくは20~50質量部である。
【0120】
充填材として粒子状充填材が挙げられ、例えば、タルク、カオリン、クレー、ウォラストナイト、ベントナイト、アスベスト、及びアルミナシリケートのような珪酸塩;アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンのような金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及びドロマイトのような炭酸塩;硫酸カルシウム及び硫酸バリウムのような硫酸塩;ガラスビーズ、セラミックビ-ズ、窒化ホウ素、及び炭化珪素のようなセラミックが挙げられる。また充填剤は、マイカ、セリサイト、及びガラスフレークのような板状充填材であってもよい。
【0121】
紫外線吸収剤及び光安定剤として、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾエート系化合物、オギザアリド系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びニッケル錯塩が挙げられる。
【0122】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、並びにイオウ系酸化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。
【0123】
フェノール系酸化防止剤は、フェノール性ヒドロキシル基を有する酸化防止剤である。中でも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、フェノール性ヒドロキシル基が結合した芳香環の炭素原子に隣接する1個又は2個の炭素原子が、炭素数4以上の置換基により置換されている酸化防止剤である。炭素数4以上の置換基は、芳香環の炭素原子と炭素-炭素結合により結合していてもよく、炭素以外の原子を介して結合していてもよい。
【0124】
リン系酸化防止剤は、リン原子を有する酸化防止剤である。リン系酸化防止剤は、亜リン酸ナトリウム、及び次亜リン酸ナトリウム等の無機リン酸塩化合物又はP(OR)3構造を有する有機酸化防止剤であることが好ましい。ここで、Rは、アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基等であり、3個のRは同一であっても異なっていてもよく、任意の2個のRが互いに結合して環構造を形成していてもよい。リン系酸化防止剤として、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0125】
イオウ系酸化防止剤は、イオウ原子を有する酸化防止剤である。例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン)、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、及びトリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系酸化防止剤は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に使用することができる。
【0126】
抗菌・防かび剤として、2-(4'-チアゾリル)ベンズイミダゾール、10,10'-オキシビスフェノキシアルシン、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、及びビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛が挙げられる。
【0127】
難燃剤は特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、ケイ素含有化合物、リン化合物、窒素化合物等の有機難燃剤及び無機難燃剤が挙げられる。
【0128】
有機ハロゲン化合物として、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体、ヘキサブロモジフェニルエーテル、及びテトラブロモ無水フタル酸等が挙げられる。アンチモン化合物として、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム及びリン酸アンチモン等が挙げられる。また、シリコーンオイル、有機シラン、及びケイ酸アルミニウムのようなケイ素含有化合物が挙げられる。リン化合物として、例えば、トリフェニルホスフェート、トリフェニルホスファイト、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リンや、リン原子と窒素原子の結合を主鎖に有するフェノキシホスファゼン、及びアミノホスファゼン等のホスファゼン化合物等が挙げられる。窒素化合物として、例えば、メラミン、シアヌル酸、シアヌル酸メラミン、尿素、及びグアニジン等が挙げられる。無機難燃剤として、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、及びホウ素化合物等が挙げられる。
【0129】
離型剤は特に限定されず、例えば、モンタン酸ワックス類、またはステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸、エチレンビスステアリルアミド等の高級脂肪酸アミド、及びエチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物等が挙げられる。
【0130】
結晶化核剤は特に限定されず、例えば、ロジン等の有機核剤や、無機核剤(例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化鉄、及び酸化亜鉛等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸バリウム等の金属炭酸塩;ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、及びタルク等の板状無機物又は珪酸塩;炭化ケイ素等の金属炭化物;窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化タンタル等の金属窒化物等)を使用する場合が多い。これらの結晶化核剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0131】
可塑剤は特に限定されず、例えば、フタル酸エステル(例えばフタル酸ジメチル、フタル酸ブチルベンジル、及びフタル酸ジイソデシル等)、リン酸エステル(例えばリン酸トリクレジル、及びリン酸2-エチルヘキシルジフェニル)、スルホンアミド系可塑剤(例えば、n-ブチルベンゼンスルホンアミド、及びp-トルエンスルホンアミド等)が挙げられる。更に、ポリエステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ビスフェノール系可塑剤、アミド系可塑剤、エステル系可塑剤、アミドエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤(例えば、エポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリド)等を用いることができる。
【0132】
このようなポリエステル系可塑剤の具体例として、好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~6のジカルボン酸と、好ましくは炭素数2~12、より好ましくは炭素数2~6のジアルコール又はその(ポリ)オキシアルキレン付加物とによるポリエステル等を挙げることができる。ジカルボン酸として、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸等が挙げられ、ジアルコールとして、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及びトリエチレングリコール等が挙げられる。また、ポリエステル末端の水酸基やカルボキシ基をモノカルボン酸やモノアルコールでエステル化して、封鎖していてもよい。
【0133】
多価アルコールエステル系可塑剤の具体例として、多価アルコール又はその(ポリ)オキシアルキレン付加物と、好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~6、更に好ましくは炭素数1~4のモノカルボン酸とのモノ、ジ又はトリエステル等が挙げられる。多価アルコールとして、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、及び上記ジアルコール等が挙げられる。モノカルボン酸として、酢酸、及びプロピオン酸等が挙げられる。
【0134】
多価カルボン酸エステル系可塑剤としては、多価カルボン酸と、好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~6、更に好ましくは炭素数1~4のモノアルコール又はその(ポリ)オキシアルキレン付加物とのモノ、ジ又はトリエステル等を挙げることができる。多価カルボン酸としては、トリメリット酸、上記ジカルボン酸等を挙げることができる。モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、及び2-エチルヘキサノール等を挙げることができる。
【0135】
ビスフェノール系可塑剤として、ビスフェノールと、好ましくは炭素数1~18、より好ましくは炭素数2~14、更に好ましくは炭素数4~10のモノアルキルハライド又はその(ポリ)オキシアルキレン付加物とのモノ又はジエーテル等が挙げられる。ビスフェノールとして、ビスフェノールA、及びビスフェノールS等が挙げられる。モノアルキルハライドとして、1-オクチルブロマイド、1-ドデシルブロマイド、及び2-エチルヘキシルブロマイドが挙げられる。
【0136】
アミド系可塑剤として、カルボン酸アミド系可塑剤やスルホンアミド系可塑剤が挙げられる。カルボン酸アミド系可塑剤として、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物からなる群から選ばれる1種以上の酸と、アルキル基の炭素数が2~8のジアルキルアミンとのアミドが挙げられる。またアルキル基の炭素数が2~8のジアルキルアミンとして、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジ2-エチルヘキシルアミン、及びジオクチルアミン等が挙げられる。カルボン酸アミド可塑剤の分子量は、好ましくは250以上2000以下、より好ましくは300以上1500以下、更に好ましくは350以上1000以下である。
【0137】
エステル系可塑剤として、モノエステル系可塑剤、ジエステル系可塑剤、トリエステル系可塑剤、及びポリエステル系可塑剤が挙げられる。モノエステル系可塑剤として、例えば、安息香酸エステル系可塑剤、及びステアリン酸エステル系可塑剤が挙げられる。安息香酸エステル系可塑剤として、安息香酸と炭素数6~20の脂肪族アルコール又は該脂肪族アルコールの炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加物(アルキレンオキシド付加モル数10モル以下)からなる安息香酸エステルが挙げられ、具体的には、2-エチルヘキシルp-オキシベンゾエート、及び2-ヘキシルデシルp-オキシベンゾエートが挙げられる。ステアリン酸エステル系可塑剤として、ステアリン酸と炭素数1~18の脂肪族アルコール又は該脂肪族アルコールの炭素数2~4のアルキレンオキサイド付加物(アルキレンオキシド付加モル数10モル以下)とからなるステアリン酸エステルが挙げられ、具体的には、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル、及びステアリン酸ヘキシルが挙げられる。
【0138】
耐衝撃改良剤として、樹脂の耐衝撃性改良効果を奏するものであれば、特に制限されない。例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー、及びアクリル系のコア/シェル型エラストマー等、公知のものが挙げられる。中でも、ポリエステル系エラストマー、及びスチレン系エラストマーが好ましい。
【0139】
ポリエステル系エラストマーは、常温でゴム特性をもつ熱可塑性ポリエステルである。好ましくは、ポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした熱可塑性エラストマーであり、ハードセグメントとして高融点・高結晶性の芳香族ポリエステル、及びソフトセグメントとして非晶性ポリエステルや非晶性ポリエーテルを有するブロック共重合体であるものが好ましい。ポリエステル系エラストマーのソフトセグメントの含有量は、少なくとも全セグメント中の20~95モル%である。例えば、ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールとのブロック共重合体(PBT-PTMG共重合体)のソフトセグメント含有量は50~95モル%である。好ましいソフトセグメントの含有量は50~90モル%、特に60~85モル%である。中でも、ポリエステルエーテルブロック共重合体、特にPTMG-PBT共重合体における透過率の低下が少なくなることから好ましい。
【0140】
また、スチレン系エラストマーとして、スチレン成分とエラストマー成分とからなり、スチレン成分を5~80質量%、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~30質量%の割合で含有するものが挙げられる。この際のエラストマー成分として、例えば、ブタジエン、イソプレン、及び1,3-ペンタジエン等の共役ジエン系炭化水素が挙げられる。より具体的には、スチレンとブタジエンとの共重合体(SBS)エラストマー、スチレンとイソプレンとの共重合体(SIS)エラストマー等が挙げられる。
【0141】
各樹脂部材1,2を、所望の着色熱可塑性樹脂組成物のマスターバッチを用いて製造してもよい。上述した各樹脂部材1,2の主成分となる樹脂と、マスターバッチのベース樹脂とは、同一であっても異なっていてもよい。このようなマスターバッチは、任意の方法により得られる。例えば、マスターバッチのベースとなる樹脂の粉末及び/又はペレットと、着色剤とをタンブラーやスーパーミキサーのような混合機で混合した後、押出機、バッチ式混練機又はロール式混練機により加熱溶融してペレット化又は粗粒子化することにより得ることができる。
【0142】
各樹脂部材1,2の成形は、通常行われる種々の手順により行い得る。例えば、着色ペレットを用いて、押出機、射出成形機、及びロールミルのような加工機により成形できる。また、透明な熱可塑性樹脂のペレット及び/又は粉末、粉砕された着色剤、並びに必要に応じ各種の添加物を、適当なミキサー中で混合し、それにより得られた樹脂組成物を、加工機を用いて成形してもよい。また例えば、適当な重合触媒を含有するモノマーに着色剤を加え、この混合物を重合により所望の樹脂を合成し、これを適当な方法で成形してもよい。成形方法として、例えば射出成形、押出成形、圧縮成形、発泡成形、ブロー成形、真空成形、インジェクションブロー成形、回転成形、カレンダー成形、及び溶液流延のような成形方法を採用することができる。このような成形により、様々な形状の各樹脂部材1,2を得ることができる。
【実施例】
【0143】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0144】
(レーザー光透過性の黒色着色剤の調製)
[着色剤A]アントラキノン青色油溶性染料(C.I.Solvent Blue 97):ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=5:3:2(質量比)で粉体混合して、着色剤Aを得た。
[着色剤B]アントラキノン青色油溶性染料(C.I.Solvent Blue 104):ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=4:3:3(質量比)で粉体混合して、着色剤Bを得た。
[着色剤C]アントラキノン青色酸性染料(C.I.Acid Blue 80)とヘキサメチレンジアミンとの造塩染料:ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=7:2:1(質量比)で粉体混合して、着色剤Cを得た。
[着色剤D]アントラキノン青色酸性染料(C.I.Acid Blue 80)と2-エチルヘキシルアミンとの造塩染料:ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=7:2:1(質量比)で粉体混合して、着色剤Dを得た。
[着色剤E]アントラキノン青色酸性染料(C.I.Acid Blue 236)と2-エチルヘキシルアミンとの造塩染料:ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=6:3:1(質量比)で粉体混合して、着色剤Eを得た。
[着色剤F]アントラキノン青色酸性染料(C.I.Acid Blue 236)とヘキサメチレンジアミンとの造塩染料:ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=5:3:2(質量比)で粉体混合して、着色剤Fを得た。
【0145】
(実施例1-1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材(第1樹脂部材)の作製
ガラス繊維強化ポリアミド(PA)66樹脂(旭化成株式会社製、商品名:レオナ(登録商標)14G33)の499.85gと、ニグロシンA(特許3757081号公報の記載に従い硫酸濃度を変更して合成したニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 1.96質量%;体積抵抗率2.0×1010Ω・cm;C.I.Solvent Black 5)の0.15gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si-50)に投入して、シリンダー温度295℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦100mm×横80mm×厚さ2mmで矩形板状のレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
【0146】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材(第2樹脂部材)の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を492.0gとしたこと、及びニグロシンAの量を8.0gとしたこと以外は、レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。
【0147】
(透過率及び吸光度)
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2に用いる成形板の透過率及び反射率を、分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:V-570)を用いて測定した。試料を溶解して測定される一般的な吸光度(Absorbance)は、透過率の対数をとって正数としたものである。本発明のように、成形された樹脂部材の吸光度を測定する場合、レーザー光が成形板表面で反射されるため、真の透過率を求める必要がある。真の透過率TはT=I
T/(I
0-I
R)で表される。940nmの吸光度を示すLambert-Beerの法則は、下記数式(1)
【数1】
(数式(1)中、Tは真の透過率であり、(I
O)は入射光強度であり、(I
T)は透過光強度であり、(I
R)は反射光強度である)で表される。ここで、入射光強度I
Oを100%とし、更に透過光強度I
T及び反射光強度I
Rに、測定値の百分率である透過率、反射率を夫々代入することにより、吸光度を算出した。
【0148】
なお、本発明のレーザー溶着体を構成するレーザー光吸収性樹脂部材2は、レーザー光吸収剤を多量に含んでいることがあるので、吸光度及び吸光係数を測定によって求めることが困難な場合がある。またLambert-Beerの法則によれば、吸光度aはレーザー光吸収剤含有率C(質量%)と樹脂部材の厚さL(mm)との関係式である下記数式(2)
【数2】
(数式(2)中、εは吸光係数(1/mm)であり、Cはレーザー光吸収剤含有率(質量%)であり、Lは樹脂部材の厚さ(mm)である)で表される。そこで、レーザー光吸収剤としてニグロシンAを含有するガラス繊維強化PA66樹脂部材(厚さ2mm)の透過率及び反射率を測定して表1に示す結果を得た。この結果に基づいて1mm厚換算吸光度の検量線を作成した。
【0149】
【0150】
得られた吸光度aを縦軸、そのレーザー光吸収剤(ニグロシンA)含有率C(質量%)を横軸としてグラフを作成し、吸光度a=6.055C+0.087で表される検量線を得た。この検量線の式を用いて、レーザー光吸収剤含有率(質量%)から算出した吸光度を、樹脂部材の厚さで除して、レーザー光吸収剤を含有するレーザー光吸収性樹脂部材2の1mm厚当たり吸光度a及び吸光係数を求めた。このようにしてレーザー光吸収性樹脂部材2の吸光度a2を求めた。結果を表2に示した。
【0151】
(3)レーザー溶着体の作製
図1に示すように、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光吸収性樹脂部材2とを重ね合わせて当接部位Nを形成し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の上方からこれの面に対して略垂直に、出力320Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](浜松ホトニクス株式会社製)からレーザー光Lを、それらの長辺の一方から一直線に横断するように、走査速度200mm/秒、及び走査距離80mmで走査させながら照射した。それにより当接部位Nで溶着し、両樹脂部材1,2が一体化した実施例1-1のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、以下の評価を行った。
【0152】
(引張試験)
JIS K7161:2014プラスチック‐引張特性の試験方法に準じ、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名:AG-50kNE)を用いて、レーザー溶着体10の両樹脂部材1,2を、長手方向でそれらが離反する方向に水平に、試験速度10mm/分で引っ張り、溶着強度としての引張強度を測定した。結果を表2に示した。
【0153】
(溶着状態の評価)
以下のように、レーザー光Lの照射部位の外観を目視で観察し、溶着状態を評価した。結果を表2に示した。
○:レーザー溶着体の照射部位に焦げ・ボイドが発生せず、かつレーザー溶着体の引張試験の結果が500N以上であった。
△:レーザー溶着体の照射部位に焦げ・ボイドが発生した、又はレーザー溶着体の引張試験の結果が500N未満であった。
×:レーザー溶着することができず、レーザー溶着体が得られなかった。
【0154】
(実施例1-2)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の496.85gと、ニグロシンB(ニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 1.52質量%;体積抵抗率2.7×1010Ω・cm)の0.15gと、着色剤Cの3.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を、射出成形機に投入して、シリンダー温度295℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦100mm×横80mm×厚さ2mmで矩形板状のレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
【0155】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を490.0gとしたこと、及びニグロシンAに代えてニグロシンBの10.0gを用いたこと以外は、実施例1-1と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。
【0156】
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。
【0157】
(3)レーザー溶着体の作製
ダイオード・レーザーの出力を280Wとしたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して実施例1-2のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0158】
(実施例1-3)
実施例1-1と同様に操作して、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2を作製し、これらの樹脂部材1,2について透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。次いで、ダイオード・レーザーの出力を270Wとしたこと、及び走査速度を150mm/秒としたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して実施例1-3のレーザー溶着体10を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0159】
(実施例1-4)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の496.85gと、ニグロシンAの0.15gと、着色剤Fの3.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を用い、実施例1-1と同様に操作して成形し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
【0160】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を490.0gとしたこと、及びニグロシンAの量を10gとしたこと以外は、実施例1-1と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。
【0161】
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。
【0162】
(3)レーザー溶着体の作製
ダイオード・レーザーの出力を160Wとしたこと、及び走査速度を100mm/秒としたこと以外は実施例1-1と同様に操作して実施例1-4のレーザー溶着体10を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0163】
(比較例1-1)
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の499.85gと、ニグロシン塩酸塩(オリヱント化学工業株式会社製、商品名:NUBIAN(登録商標) BLACK NH-805、C.I.Solvent Black 5)の0.15gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を用い、実施例1-1と同様に操作して成形し、レーザー光弱吸収性樹脂部材を1枚作製した。また実施例1-1と同様にレーザー光吸収性樹脂部材を1枚作製した。これらの樹脂部材について透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。次いで、ダイオード・レーザーの出力を270Wとしたこと、及び走査速度を150mm/秒としたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して比較例1-1のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0164】
(実施例1-5)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を499.8gとしたこと、及びニグロシンAの量を0.2gとしたこと以外は、実施例1-1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
【0165】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を492.0gとしたこと、及びニグロシンAの量を8.0gとしたこと以外は、レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。
【0166】
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。
【0167】
(3)レーザー溶着体の作製
ダイオード・レーザーの出力を330Wとしたこと、及び走査速度を150mm/秒としたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して実施例1-5のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0168】
(実施例1-6)
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を499.8gとしたこと、及びニグロシンAの量を0.2gとしたこと以外は、実施例1-1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。また、ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を492.0gとしたこと、及びニグロシン塩酸塩(NUBIAN BLACK NH-805)の量を8.0gとしたこと以外は、実施例1-1と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。これらの樹脂部材1,2について透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。次いで、ダイオード・レーザーの出力を330Wとしたこと、及び走査速度を150mm/秒としたこと以外は実施例1-1と同様に操作して実施例1-6のレーザー溶着体10を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0169】
(比較例1-2)
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を499.8gとしたこと、及びニグロシン塩酸塩(オリヱント化学工業株式会社製、商品名:NUBIAN(登録商標) BLACK NH-805、C.I.Solvent Black 5)の量を0.2gとしたこと以外は、比較例1-1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材を1枚作製した。また、ニグロシン硫酸塩に代えてニグロシン塩酸塩(NH-805)を8.0gとしたこと以外は、比較例1-1と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材を1枚作製した。これらの樹脂部材について透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。次いで、ダイオード・レーザーの出力を330Wとしたこと、及び走査速度を150mm/秒としたこと以外は実施例1-1と同様に操作して比較例1-2のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0170】
(実施例1-7)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を499.9gとしたこと、及びニグロシンAに代えてニグロシンB(ニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 1.52質量%;体積抵抗率2.7×1010Ω・cm)の0.1gを用いたこと以外は、実施例1-1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
【0171】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を490.0gとしたこと、及びニグロシンAに代えてニグロシンBの10.0gを用いたこと以外は、実施例1-1と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。
【0172】
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。
【0173】
(3)レーザー溶着体の作製
ダイオード・レーザーの出力を100Wとしたこと、及び走査速度を100mm/秒としたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して実施例1-7のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0174】
(実施例1-8)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の496.9gと、ニグロシンC(ニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 0.70質量%;体積抵抗率0.9×1010Ω・cm)の0.1gと、着色剤Aの3.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を用い、実施例1-1と同様に操作して成形し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
【0175】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
ニグロシンBに代えてニグロシンAを用いたこと以外は、実施例1-7と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。
【0176】
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。
【0177】
(3)レーザー溶着体の作製
ダイオード・レーザーの出力を140Wとしたこと、及び走査速度を100mm/秒としたこと以外は実施例1-1と同様に操作して実施例1-8のレーザー溶着体10を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0178】
(比較例1-3)
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の496.9gと、ニグロシンベース(オリヱント化学工業株式会社製、商品名:NUBIAN(登録商標) BLACK PA-9801、C.I.Solvent Black 7)の0.1gと、着色剤Aの3.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を用い、実施例1-1と同様に操作して成形し、レーザー光弱吸収性樹脂部材を1枚作製した。また、ガラス繊維強化PA66樹脂の量を490.0gとしたこと、及びニグロシンAに代えてニグロシンベース(NUBIAN(登録商標) BLACK PA-9803)の10gを用いたこと以外は、比較例1-1と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材を1枚作製した。これらの樹脂部材について透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。結果を表2に示した。次いで、ダイオード・レーザーの出力を140Wとしたこと、及び走査速度を100mm/秒としたこと以外は実施例1-1と同様に操作して比較例1-3のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表2に示した。
【0179】
(実施例1-9)
実施例1-1と同様に操作して、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を488.0gとしたこと、及びニグロシンAの量を12.0gとしたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。次いで、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。更に、ダイオード・レーザーの出力を160Wとしたこと、及び走査速度を100mm/秒としたこと以外は実施例1-1と同様に操作して実施例1-9のレーザー溶着体10を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。測定結果及び評価結果を表2に示した。
【0180】
【0181】
表2に示すように、実施例及び比較例のレーザー溶着体は、漆黒で優れた光沢と良好な外観とを有していることにより、外観上の実用性を備えていた。一方、実施例のレーザー溶着体の引張強度は、比較例のそれよりも高い値を示した。
【0182】
(実施例2-1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ポリアミド(PA)66樹脂(旭化成株式会社製、商品名:レオナ(登録商標)1300S)の499.8gと、ニグロシンA(特許3757081号公報の記載に従い硫酸濃度を変更して合成したニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 1.96質量%;体積抵抗率2.0×1010Ω・cm;C.I.Solvent Black 5)の0.2gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si-50)に投入して、シリンダー温度290℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmで矩形板状のレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
【0183】
(メルトフローレート)
レーザー光弱吸収性樹脂部材1を所定の寸法に切断し、80℃で15時間乾燥して、測定試料を作製した。JIS K7210:2014(プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方)に準じ、メルトインデクサー F-F01型(東洋精機製作所社製、商品名)を用い、試験温度280℃、試験荷重2.16kgfの条件で、測定した。測定を3回行い、それらの値の平均を算出してメルトフローレートを求めた。第1樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1のメルトフローレートは、14.8g/10分であった。
【0184】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
PA66樹脂(レオナ1300S)の量を496.0gとしたこと、及びニグロシンAの量を4.0gとしたこと以外は、レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。
【0185】
レーザー光吸収剤としてニグロシンAを含有するPA66樹脂部材の透過率及び反射率を測定して表3に示す結果を得た。この結果に基づいて、実施例1-1と同様にして検量線を作成した。
【0186】
【0187】
得られた吸光度aを縦軸、そのレーザー光吸収剤(ニグロシンA)含有率C(質量%)を横軸としてグラフを作成し、吸光度a=4.538C+0.058で表される検量線を得た。この検量線の式を用いて、レーザー光吸収剤含有率(質量%)から算出した吸光度を、樹脂部材の厚さで除して、レーザー光吸収剤を含有する樹脂部材の1mm厚当たり吸光度a及び吸光係数を求めた。このようにして実施例2-1におけるレーザー光弱吸収性樹脂部材の吸光度a1及びレーザー光吸収性樹脂部材の吸光度a2を夫々求めた。その結果、このレーザー光弱吸収性樹脂部材1の透過率は52.6%であり、吸光度a1(1mm厚換算)は0.24であった。またレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率は0%であり、吸光度a2(1mm厚換算)は3.7であった。吸光度比a2/a1は、15.4であった。
【0188】
(3)レーザー溶着体の作製
図1に示すように、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光吸収性樹脂部材2とを重ね合わせて当接部位Nを形成し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の上方からこれの面に対して略垂直に、出力30Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](ファインデバイス株式会社製、商品名:FD-200)からレーザー光Lを、それらの長辺の一方から一直線に横断するように、走査速度40mm/秒、及び走査距離30mmで走査させながら照射した。それにより当接部位Nで溶着し、両樹脂部材1,2が一体化した実施例2-1のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。その結果、引張強度は1503N、溶着状態は○であった。
【0189】
(実施例2-2)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
PA66樹脂(レオナ1300S)の量を499.7gとしたこと、及びニグロシンAの量を0.3gとしたこと以外は、実施例2-1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。このレーザー光弱吸収性樹脂部材1の透過率、吸光度、及びメルトフローレートを、実施例2-1と同様に操作して測定したところ、透過率は39.2%であり、吸光度a1(1mm厚換算)は0.36であり、メルトフローレートは14.5g/10分であった。
【0190】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材(第2樹脂部材)の作製
PA66樹脂(レオナ1300S)の量を496.0gとしたこと、及びニグロシンAの量を4.0gとしたこと以外は、レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。このレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例2-1と同様に操作して測定したところ、透過率は0%であり、吸光度a2(1mm厚換算)は3.7であった。吸光度比a2/a1は、10.3であった。
【0191】
(3)レーザー溶着体の作製
実施例2-1と同様に操作して実施例2-2のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。その結果、引張強度は1543N、溶着状態は○であった。
【0192】
実施例2-1で作製したレーザー溶着体10の融着部位の断面拡大写真を
図5(a)に、実施例2-2のそれを同図(b)に、夫々示す。なお同図中、白抜き矢印は、レーザー光の照射方向を示している。レーザー光の照射によって、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光吸収性樹脂部材2とは、ボイドや焦げ痕なしに両者の重ね合わせ界面である当接部位で溶着して一体化している。レーザー光の照射によって形成された溶融部位が、当接部位を挟んでレーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光吸収性樹脂部材2との夫々に、放射状に広がっている。溶融部位の大きさは、レーザー光弱吸収性樹脂部材1側よりもレーザー光吸収性樹脂部材2側が大きい。レーザー光被照射側に配置されたレーザー光弱吸収性樹脂部材1の表面に、焦げや変色のような外観不良は観察されなかった。
【0193】
(実施例3)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ポリアミド(PA)66樹脂(旭化成株式会社製、商品名:レオナ(登録商標)1300S)の499.85gと、ニグロシンAの0.15gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を射出成形機に投入して、シリンダー温度290℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmで矩形板状の第1レーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,及び第2レーザー光弱吸収性樹脂部材片1bを夫々1枚作製した。このレーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bの透過率、吸光度、及びメルトフローレートを、実施例2-1と同様に操作して測定したところ、透過率は61.8%であり、吸光度a1-1,a1-2(1mm厚換算)は0.18であり、メルトフローレートは14.2g/10分であった。
【0194】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
PA66樹脂(レオナ1300S)の492.0gを用いたこと、及びニグロシンAの8.0gを用いたこと以外は、レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。このレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、実施例2-1と同様に操作して測定したところ、透過率は0%であり、吸光度a2(1mm厚換算)は7.3であった。吸光度比a2/a1は、40.5であった。
【0195】
(3)レーザー溶着体の作製
図2(b)に示すように、レーザー光弱吸収性樹脂部材1であるレーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bの端部同士を突き合わせて突合せ部Bを形成した。この突合せ部Bと重なるように両レーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bにレーザー光吸収性樹脂部材2を重ね、第1レーザー光弱吸収性樹脂部材片1aとレーザー光吸収性樹脂部材2との接触面である当接部位N
1a-2、及び第2レーザー光弱吸収性樹脂部材片1bとレーザー光吸収性樹脂部材2との接触面である当接部位N
1b-2を形成した。レーザー光弱吸収性樹脂部材1の上方から突合せ部Bへ略垂直に、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](ファインデバイス株式会社製、商品名:FD-200)からレーザー光Lを、突合せ部位Bに沿って一直線に、走査速度40mm/秒、及び走査距離30mmで走査させながら照射した。それにより突合せ部B及び当接部位N
1a-2,N
1b-2で溶着し、両樹脂部材1,2が一体化した実施例3のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、第1レーザー光弱吸収性樹脂部材片1aと第2レーザー光弱吸収性樹脂部材片1bとが離反する方向に水平に引っ張ったこと以外は実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定を行った。また実施例1-1と同様にして溶着状態の評価を行った。その結果、引張強度は978N、溶着状態は○であった。
【0196】
(実施例4-1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ポリアミド(PA)66樹脂(旭化成株式会社製、商品名:レオナ(登録商標)1300S)の495.8gと、ニグロシンAの0.2gと、着色剤Aの4.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を、射出成形機に投入して、シリンダー温度290℃、金型温度80℃で通常の方法により、斜視図である
図6(a)に示すような、円板形をなしている頭部3aとこれと同軸の円筒形をなしている袖部3bとを有するレーザー光弱吸収性樹脂部材である蓋体3を作製した。頭部3aの外寸は、外径50mm×厚さ2mmである。袖部3bの外寸は、外径42mm×高さ4mmである。蓋体3は、頭部3aと袖部3bとの外径差によって、4mm幅の段差部3cを、それの外周面に有している。
【0197】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
PA66樹脂(レオナ1300S)の490.0gと、ニグロシンAの10.0gと、着色剤Cの5.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光吸収性樹脂部材用樹脂組成物を、射出成形機に投入して、シリンダー温度290℃、金型温度80℃で通常の方法により、
図6(a)に示すような、円形の底部と、この底部の周縁で上方に向かって延びた周壁部と、この周壁部の上端で開口した開口縁4aを有する円筒形容器4を作製した。円筒形容器4の外寸は外径50mm×高さ35mmであり、それの内寸は内径43mm×高さ32mmである。円筒形容器4は3mmの肉厚を有している。
【0198】
(3)レーザー溶着体の作製
蓋体3の袖部3bを円筒形容器4の内空に開口縁4aから挿入し、蓋体3と円筒形容器4とを手で嵌め合わせた。それにより、蓋体3と円筒形容器4との一部拡大縦断面図である
図6(b)に示すように、段差部3cと開口縁4aとが重なって接触した当接部位Nと、袖部3bと円筒形容器4の内壁面とが突き合わされた突合せ部位Bを形成した。突合せ部位Bは、袖部3bの外径と円筒形容器4の内径との寸法差、及び嵌め合わされた蓋体3と円筒形容器4との中心軸のずれによって、袖部3bと円筒形容器4の内壁面とが接触している箇所とわずかな遊び(間隙)を生じている箇所とを有している。
【0199】
レーザー光弱吸収性樹脂部材である蓋体3の上方からこれの面に対して略垂直に突合せ部位Bに向かって、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的]からレーザー光Lを、突合せ部位Bに沿って円を描くように、走査速度10mm/秒で走査させながら照射した。それにより突合せ部位Bで溶着し、蓋体3と円筒形容器4とが一体化した実施例4-1のレーザー溶着体10を得た。
【0200】
(実施例4-2)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
PA66樹脂(レオナ1300S)の499.7gと、ニグロシンCの0.3gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。このレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物用い、実施例4-1と同様に操作して蓋体3を作製した。
【0201】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
PA66樹脂(レオナ1300S)の490.0gと、ニグロシンCの10.0gと、着色剤Cの5.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。このレーザー光吸収性樹脂部材用樹脂組成物用い、実施例4-1と同様に操作して円筒形容器4を作製した。
【0202】
(3)レーザー溶着体の作製
実施例4-1と同様に操作して、蓋体3と円筒形容器4とを嵌め合わせ、段差部3cと開口縁4aとが重なった当接部位Nと、袖部3bと円筒形容器4の内壁面とが突き合わされた突合せ部位Bを形成した。次いで、実施例4-1と同様に操作して実施例4-2のレーザー溶着体10を作製した。
【0203】
実施例4-1及び4-2のレーザー溶着体は、レーザー光弱吸収性樹脂部材である蓋体3と、レーザー光吸収性樹脂部材である円筒形容器4とが、高い強度でかつ気密に溶着されているものであった。
【0204】
(実施例5-1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化ポリアミド(PA)66樹脂(デュポン株式会社製、商品名:ザイテル(登録商標)70G33L)の499.9gと、ニグロシンAの0.1gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si-50)に投入して、シリンダー温度290℃、金型温度90℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ2mmで矩形板状のレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。実施例1-1と同様に操作して吸光度a1を求めた。その結果を表4に示した。
【0205】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
ガラス繊維強化PA66樹脂(ザイテル70G33L)の量を498.35gとしたこと、及びニグロシンAに代えてカーボンブラックA(1次粒子径16nm、窒素吸着比表面積260m2/g、DBP吸収量66ml/100gの塩基性カーボンブラック)の1.65gを用いたこと以外は、レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。
【0206】
(透過率及び吸光度)
レーザー光吸収剤としてカーボンブラックを含有する上記のレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び反射率を求めるため、カーボンブラックの量を変化させた縦80mm×横50mm×厚さ1mmの成形板を複数種作製し、この成形板の透過率及び反射率を、実施例1-1と同様にして測定した。得られた吸光度aを縦軸、そのレーザー光吸収剤(カーボンブラックA)含有率C(質量%)を横軸としてグラフを作成し、カーボンブラックの吸光度の検量線を得た。得られた検量線は、吸光度a=29.4C+0.263であった。この検量線に基づいて求めたレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度a2(1mm厚換算)を、表4に示した。
【0207】
(3)レーザー溶着体の作製
ダイオード・レーザーの出力を60Wとしたこと、及び走査速度を100mm/秒としたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して実施例5-1のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。結果を表4に示した。
【0208】
(比較例5-1)
ニグロシンAに代えてニグロシン塩酸塩(オリヱント化学工業株式会社製、商品名:NUBIAN(登録商標) BLACK NH-805、C.I.Solvent Black 5)を用いたこと以外は、実施例5-1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。また、実施例5-1と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。さらに、これらの樹脂部材1,2の透過率及び吸光度を、実施例5-1と同様に操作して測定した。
【0209】
実施例5-1と同様に操作して比較例5-1のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。測定結果及び評価結果を表4に示した。
【0210】
(実施例5-2及び5-3並びに比較例5-2)
樹脂量、レーザー光吸収剤の種類及びその量、着色剤種及びその量、ダイオード・レーザーの出力、並びに走査速度を、表4に示すように変更したこと以外は、実施例5-1と同様に操作して実施例5-2及び5-3並びに比較例5-2のレーザー溶着体を作製した。なお着色剤B及びCは、表2に示すものと同一である。
【0211】
(実施例5-4)
ガラス繊維強化PA66樹脂(ザイテル70G33L)の量を499.85gとしたこと、及びニグロシンAに代えてニグロシンC(ニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 0.70質量%;体積抵抗率0.9×1010Ω・cm)の0.15gを用いたこと以外は、実施例5-1と同様に操作して、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。また、ガラス繊維強化PA66樹脂(ザイテル70G33L)の量を497.95gとしたこと、及びカーボンブラックAに代えてカーボンブラックB(1次粒子径18nm、窒素吸着比表面積180m2/g、DBP吸収量46ml/100gの塩基性カーボンブラック)の2.05gとしたこと以外は、実施例5-1と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。さらに、これらの樹脂部材1,2の透過率及び吸光度を、実施例5-1と同様に操作して測定した。次いで、実施例5-1と同様に操作して実施例5-4のレーザー溶着体を作製し、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。測定結果及び評価結果を表4に示した。
【0212】
(実施例5-5)
ガラス繊維強化PA66樹脂(ザイテル70G33L)の量を497.85gとしたこと、ニグロシンAに代えてニグロシンBの0.15gを用いたこと、及び着色剤Cの2.0gを用いたこと以外は、実施例5-1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。また、ガラス繊維強化PA66樹脂(ザイテル70G33L)の量を497.95gとしたこと、及びカーボンブラックAに代えてカーボンブラックC(1次粒子径24nm、窒素吸着比表面積120m2/g、DBP吸収量46ml/100gの塩基性カーボンブラック)2.05gを用いたこと以外は、実施例5-1と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。さらに、これらの樹脂部材1,2の透過率及び吸光度を、実施例5-1と同様に操作して測定した。次いで、ダイオード・レーザーの出力を50Wとしたこと以外は実施例5-1と同様に操作して実施例5-5のレーザー溶着体を作製し、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。測定結果及び評価結果を表4に示した。
【0213】
【0214】
表4に示すように、実施例のレーザー溶着体は、良好な外観を有していた。比較例5-2のレーザー溶着体は、照射部位に焦げを生じた。ニグロシン硫酸塩を含有するレーザー光弱吸収性樹脂部材1を用いたレーザー溶着体は、漆黒で、より優れた光沢と美観とを有していた。一方、実施例のレーザー溶着体の引張強度は、比較例のそれよりも高い値を示した。また、カーボンブラックA及びBは、カーボンブラックCに比較して、高い黒度を有しており、レーザー光吸収性樹脂部材2内に良好に分散していた。
【0215】
(実施例6)
実施例1-1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。また、ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を495.0gとしたこと、ニグロシンAの量を4.0gとしたこと、及びカーボンブラックAの1.0gを用いたこと以外は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。これらの樹脂部材1,2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。レーザー光弱吸収性樹脂部材1の透過率は24.4%であり、吸光度a1(1mm厚換算)は0.29であった。レーザー光吸収性樹脂部材2の透過率は0%であり、吸光度a2(1mm厚換算)は11.1であった。吸光度比a2/a1は、61.7であった。
【0216】
ダイオード・レーザーの出力を140Wとしたこと、及び走査速度を100mm/秒としたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して実施例6のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して溶着状態の評価を行った。その結果、引張強度は1378N、溶着状態は○であった。
【0217】
(比較例6)
ガラス繊維強化PA66樹脂(レオナ14G33)の量を499.75gとしたこと、ニグロシンAに代えてニグロシン塩酸塩(NUBIAN BLACK NH-805)の0.25gを用いたこと以外は、実施例6と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。また、実施例6と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。これらの樹脂部材1,2の透過率及び吸光度を、実施例1-1と同様に操作して測定した。レーザー光弱吸収性樹脂部材1の透過率は45.6%であり、吸光度a1(1mm厚換算)は0.30であった。レーザー光吸収性樹脂部材2の透過率は0%であり、吸光度a2(1mm厚換算)は11.1であった。吸光度比a2/a1は、37.0であった。次いで実施例6と同様に操作して比較例6のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して溶着状態の評価を行った。その結果、引張強度は988N、溶着状態は○であった。
【0218】
(実施例7)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
繊維非強化ポリアミド樹脂9T(株式会社クラレ製、商品名:ジェネスタ(登録商標)N1000A)の499.9gと、ニグロシンAの0.1gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合し、レーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を得た。得られたレーザー光弱吸収性樹脂部材用樹脂組成物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si-50)に投入して、シリンダー温度320℃、金型温度135℃で通常の方法により成形して、縦100mm×横80mm×厚さ2mmで矩形板状のレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。実施例1-1と同様に操作して、吸光度aを求めるための検量線を作成した。これに基づいて求めたレーザー光弱吸収性樹脂部材1の透過率は55.2%であり、吸光度a1(1mm厚換算)は0.23であった。
【0219】
(2)レーザー光吸収性樹脂部材の作製
繊維非強化ポリアミド樹脂9T(ジェネスタN1000A)の量を494.0gとしたこと、及びニグロシンAの量を6.0gとしたこと以外は、レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製と同様に操作して、レーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。このレーザー光吸収性樹脂部材2の透過率及び吸光度を、レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製で作成した検量線に基づいて求めた。その結果、透過率は0%であり、吸光度a2(1mm厚換算)は9.8であった。吸光度比a2/a1は42.6であった。
【0220】
(3)レーザー溶着体の作製
ダイオード・レーザーの出力を120Wとしたこと、及び走査速度を100mm/秒としたこと以外は、実施例1-1と同様に操作して実施例7のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して引張強度の測定及び溶着状態の評価を行った。その結果、引張強度は1010N、溶着状態は○であった。
【0221】
(比較例7)
ニグロシンAに代えてニグロシン塩酸塩(NUBIAN BLACK NH-805)の0.1gを用いたこと以外は、実施例7と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。また、ニグロシンAに代えてニグロシン塩酸塩(NUBIAN BLACK NH-805)の6.0gを用いたこと以外は、実施例7と同様に操作してレーザー光吸収性樹脂部材2を1枚作製した。これらの樹脂部材1,2の透過率及び吸光度を、実施例7と同様に操作して求めた。レーザー光弱吸収性樹脂部材1の透過率は50.7%であり、吸光度a1(1mm厚換算)は0.28であった。レーザー光吸収性樹脂部材2の透過率は0%であり、吸光度a2(1mm厚換算)は10.3であった。吸光度比a2/a1は、36.8であった。次いで、実施例7と同様に操作して比較例7のレーザー溶着体を作製した。このレーザー溶着体10について、実施例1-1と同様に操作して溶着状態の評価を行った。その結果、引張強度は803N、溶着状態は○であった。
【産業上の利用可能性】
【0222】
本発明のレーザー溶着体は、例えば、内装のインストルメントパネル、エンジンルーム内におけるレゾネター(消音器)、エンジンカバー、駆動装置、ブレーキ装置、車両用の燈体、電装品のような輸送用機器(特に自動車)用の部品、電気電子機器部品、産業機械用部品、輸液や栄養剤を点滴する際に使用される医療用チューブ、流動食や飲料組成物を封入したスパウトパウチのような食品包材、ペットボトルのラベル、及びハウジングのような家電製品部品等に好適に広く適用できるので、産業上の利用性は非常に高い。
【符号の説明】
【0223】
1はレーザー光弱吸収性樹脂部材、1aは第1レーザー光弱吸収性樹脂部材片、1bは第2レーザー光弱吸収性樹脂部材片、1cは継しろ、2はレーザー光吸収性樹脂部材、2aは第1レーザー光吸収性樹脂部材片、2bは第2レーザー光吸収性樹脂部材片、2cは継しろ、3は蓋体、3aは頭部、3bは袖部、3cは段差部、4は円筒形容器、4aは開口縁、11はレーザー光透過性樹脂部材、12はレーザー光吸収性樹脂部材、13は従来のレーザー溶着体、Bは突合せ部位、B1は上側突合せ部位、B2は下側突合せ部位、Lはレーザー光、Mは溶着部位、N,N1-2a,N1-2b,N1a-2,N1b-2は当接部位、X,Yは方向である。