(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】充電式電気化学セルおよび酸化還元フロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/60 20060101AFI20220615BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220615BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220615BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20220615BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20220615BHJP
H01M 10/0567 20100101ALN20220615BHJP
H01G 11/64 20130101ALN20220615BHJP
【FI】
H01M4/60
H01M10/0569
H01M10/052
H01G11/30
H01G11/60
H01M10/0567
H01G11/64
(21)【出願番号】P 2019527435
(86)(22)【出願日】2017-11-21
(86)【国際出願番号】 US2017062698
(87)【国際公開番号】W WO2018098116
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-16
(32)【優先日】2016-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508007514
【氏名又は名称】ボード オブ トラスティーズ オブ ミシガン ステイト ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF TRUSTEES OF MICHIGAN STATE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】グアー、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヘントン、ダニエル アール
(72)【発明者】
【氏名】プリンス、アンバー
(72)【発明者】
【氏名】ドゥミトラシュ、アディナ
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-015156(JP,A)
【文献】特表2009-527096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/05-10/0587
H01M12/00-12/08
H01M 8/18
H01G11/00-11/86
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電された電位を有する正電極と、
負電極と、
電荷運搬電解質と、
活物質と、
を備える充電式電気化学セルであって、
前記活物質は、
【化1】
の構造を有し、
R
1およびR
2は、独立して
、ニトリル基
、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基
、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基
、アリールカルボキシル基
、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基
、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基
、ホスフェート基、
または、ホスホネート
基であり;
R
3は
、アルキルアリール基
、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基であり;および、
R
4およびR
5は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基
、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である、
充電式電気化学セル。
【請求項2】
R
1およびR
2は、独立して
、ニトリル基
、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基
、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基
、アリールカルボキシル基
、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基
、ハロアリール基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基
、ホスフェート基、
または、ホスホネート
基である、
請求項1に記載の充電式電気化学セル。
【請求項3】
R
1およびR
2は、独立して
、トリフルオロメチル基
、シアノ基、
または、アルコキシ基である、
請求項1に記載の充電式電気化学セル。
【請求項4】
R
3は
、1~12個の炭素原子を有するトリアルキルアンモニウムアルキル基である、
請求項
1に記載の充電式電気化学セル。
【請求項5】
R
4およびR
5は、独立して、1~12の炭素原子を有するアルキル基、1~12の炭素原子を有する1~12のハロアルキル基、1~12の炭素原子を有するペルハロアルキル基、アシル基、ハロアシル基、または、ペルハロアシル基である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項6】
R
4およびR
5は、独立して、C
2~C
4アルキル基である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項7】
R
4およびR
5は、独立して、C
2~C
5アルキル基である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項8】
R
1およびR
2は、独立して、
アルコキシ基であり
、R
4およびR
5の少なくとも1つは、アルキル基、ハロアルキル基、アルキルエーテル基、アシル基、または、ハロアシル基である、
請求項1に記載の充電式電気化学セル。
【請求項9】
R
4およびR
5は、独立して、アルキル基、アルキルエーテル基、アセチル基、および、トリフルオロメチル基である、
請求項1に記載の充電式電気化学セル。
【請求項10】
前記活物質は、前記電荷運搬電解質に溶解される、
請求項1~
9のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項11】
前記電荷運搬電解質は、共溶媒を含む、
請求項1~
10のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項12】
前記活物質は、Li/Li
+と比較して3.5から5Vの酸化電位を有する、
請求項1~
11のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項13】
前記活物質は
、酸化還元シャトルを酸化するために十分な充電電圧で、および、充放電サイクルそれぞれの間にセル容量の100%に等しい過充電流で、少なくとも10回の充放電サイクル後に
、充電リチウムイオンセルに過充電保護を提供する、
請求項1~
12のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項14】
前記活物質は、前記電荷運搬電解質の総重量に基づいて、1から10重量%の量で存在する、
請求項1~
13のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項15】
電気化学セルは、リチウムイオンセルであり、前記活物質は酸化還元シャトルである、
請求項1~
14のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項16】
電気化学セルは、酸化還元フロー電池であり、前記活物質はカソード液材料である、
請求項1~
14のいずれか1項に記載の充電式電気化学セル。
【請求項17】
充電された電位を有する正電極と、
負電極と、
電荷運搬電解質と、
活物質と、
を備える充電式電気化学セルであって、
前記活物質は、
【化2】
の構造を有し、
R
1
およびR
2
は、独立して、アルキル基、ニトリル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基であり;
R
3
は、アルキルアリール基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基であり;および、
R
4
およびR
5
は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基であり、
R
4
およびR
5
の一方が水素原子であるとき、R
4
およびR
5
の他方は水素原子ではない、
充電式電気化学セル。
【請求項18】
電気化学セルは、酸化還元フロー電池であり、前記活物質はカソード液材料である、
請求項17に記載の充電式電気化学セル。
【請求項19】
正電極と、
負電極と、
電荷運搬電解質と、
カソード液材料と、
を備える酸化還元フロー電池であって、
前記カソード液材料は、
【化3】
の構造を有し、
R
1
およびR
2
は、独立して、アルコキシ基であり;
R
3
は、アルキルアリール基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基であり;および、
R
4
およびR
5
は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である、
酸化還元フロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、充電式電気化学セル(rechargeable electrochemical cells)に関する。特定の実施形態において、本開示は、特定の酸化還元シャトル(particular redox shuttle)を含む充電式リチウムイオンセル(lithium-ion cell)に関する。他の実施形態において、本開示は、特定の酸化還元活物質(redox active material)を含む酸化還元フロー電池(redox flow battery)に関する。
【背景技術】
【0002】
充電式電気化学セル、具体的には充電式リチウムイオンセルは、優れた充放電サイクル寿命(charge-dischage cycle life)、ほとんどまたは全くないメモリ効果、および、高い比エネルギーおよび体積エネルギー(specific and volumetric energy)を示し得る。しかしながら、リチウムイオンセルは、典型的には、サイクル寿命を低下させることなしに、製造者が推奨する充電終了電位(end of charge potential)を超える電位への充電に耐えられないことを示す。製造者が推奨する充電終了電位を超える電位まで再充電することは、通常、過充電と記載される(described)。過充電は、一般的に、電流がセルを強制的に通過させられ、供給された電荷がセルの電荷蓄積能力を超えるときに発生する。リチウムイオンセルの過充電は、セルの構成要素の化学的および電気化学的劣化、急速な温度上昇を招き得、また、セルのなかの自己加速反応を引き起こし得る。
【0003】
これらの問題に対処するために、酸化還元シャトルが使用されてきた。酸化還元シャトルは、過充電保護のためにリチウムイオンセルに組み込まれる化学物質である。一般に、酸化還元シャトルは、リチウムイオンセルの正電極の動作電位よりわずかに高い電位で、可逆的に電気化学的に酸化され得る。酸化還元シャトルの使用は、通常、酸化還元スシャトルの酸化還元電位よりも低い電圧範囲で、リチウムイオンセルが動作できるようにする。リチウムイオンセルが、これらの通常のセル容量を超えるレベルに充電された(つまり、「過充電された」)場合、電圧は、まず、酸化還元シャトルの酸化還元電位まで上昇し、そして、酸化還元機構を活性化し、これは、唯一の活性成分として損傷を最小限に抑えつつリチウムイオンセルを通して過剰な電荷を移動させることを開始させる。このような機構を用いることは、過充電を抑止する。
【0004】
研究開発は、酸化還元シャトルとして様々な選択肢を特定してきた。しかしながら、適切に高い酸化還元電位と十分な耐用年数との両方を有するシャトルの候補を特定することは、困難であると判明している。多くの酸化還元スシャトルは、経時的に化学的に劣化するか、通常のセル動作を妨げる傾向があり、それにより使い物にならなくなる。したがって、改善の機会が残る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、充電電位を有する正電極、負電極、電荷運搬電解質(charge-carrying electrolyte)、および、以下の構造を有する活物質を含む充電池(rechargeable battery)を提供する。
【化1】
【0006】
この構造において、R1およびR2は、独立して、アルキル基、ニトリル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基(、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である。R3は、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基である。R4およびR5は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示は、電気エネルギーを蓄積する装置を提供する。特定の実施形態において、装置は充電リチウムイオンセル(rechargable lythium-ion cell;以下、「セル」と記載される)であってよい。セルは、代替的に、電池、つまり、充電式リチウムイオン電池(rechargable lythium-ion battery)として記載され得る。セルは、当該技術分野において、セルが、定格電圧で供給できる電荷量として知られるセル容量を有する。このセルの容量は、具体的には限定されず、当業者により選択されてよい。他の実施形態において、装置は、酸化還元フロー電池であってよい。さらに他の実施形態において、装置は、スーパーキャパシタまたはウルトラキャパシタとして記載されてよい電気化学二重層キャパシタであってよい。
【0008】
充電式リチウムイオンセル
セルは、例えば、コイン型セル、細長い円筒形のAAA,AA,CまたはDのセルケーシングといった嵌め合わされた円筒形金属シェル、または、交換可能な電池パックといった適切なケースのなかに密封されてよい。あるいは、セルは、18650フォーマット(18650 format)、パウチセルなどといったリチウムイオンフォーマットのなかに密封されてよい。セルは、携帯用コンピュータ、タブレット型ディスプレイ、携帯情報端末、携帯電話、電動装置(例えば、個人用または家庭用電化製品および車両)、器具、照明装置(例えば、懐中電灯)、および、暖房装置を含む様々な装置において使用されてよい。セルは、これまでアルカリセルのような非充電可能(non-chargeable)電池により電力を供給されてきた懐中電灯、ラジオ、コンパクトディスク(CD)プレーヤなどの低コストのマス・マーケット(mass market)の電気および電子装置において、特に有用性があるかもしれない。
【0009】
正電極:
セルは、充電された電位を有する正電極を含む。セルは、単一の正電極または複数の正電極を有してよい。用語「正電極」は、典型的な状況の下で、セルが完全に充電されたときに、通常の動作下で電極が達成できる最も高い電位を有するであろう1つまたは1対の電極を表してよい。この用語はまた、典型的には、全てのセル動作条件の下において、電極が、一時的に(例えば、セル過放電により)駆動され、または、他の(例えば、負)電極の電位よりも低い電位を示す場合であっても、物理的に同じ電極を表す。
【0010】
正電極は、具体的には限定されず、当該技術分野において知られた任意のものあってよい。正電極の非限定的な例は、FeS 2、LiCoPO4、LiFePO4、Li2FeS2、Li2FeSiO4、LiMn2O4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiV308、LiV6O13、LiVOPO4、Li3V2(PO4)3、MnO2、MoS3、硫黄、TiS2、TiS3、V2O5、V6O13、LiCoO2、LiNiMnCoO2、LiNiCoAlO2および/またはこれらの組合せを含んでよい。正電極は、添加剤、例えば、カーボンブラック、フレークグラファイトなどを含んでよい。正電極は、箔、プレート、ロッド、ペーストを含む任意の便利な形態であってよく、または、導電性電流コレクタまたは他の適切な支持体の上に正電極材料のコーティングを形成することにより製造される複合材料のようなものであってよい。
【0011】
用語「充電電位」は、典型的には、酸化還元シャトルを含まず、正電極、負電極および電荷運搬電解質を含むセルを構成し、充放電サイクル試験(charge/discharge cycling test)を行い、充電された利用可能なセル容量の少なくとも90%に対応するリチウムレベルへの最初の充電サイクルの間に、正電極が脱リチウム化される電位を観察することにより、Li/Li+に対して測定される値Eqを表す。いくつかの正電極(例えば、LiFePO4)では、このリチウムレベルは、(例えば、Li0FePO4への)ほぼ完全な脱リチウム化に対応してよい。他の正電極(例えば、層状リチウム含有構造を有するいくつかの電極)では、このリチウムレベルは部分的な脱リチウム化に対応してよい。
【0012】
負電極:
セルは、負電極を含む。セルは、単一の負電極または複数の負電極を含んでよい。用語「負電極」は、典型的な状況の下で、セルが完全に充電されたときに、最も低い電位を有する1つまたは1対の電極を表してよい。この用語はまた、典型的には、全てのセル動作条件の下において、このような電極が、一時的に(例えば、セル過放電により)駆動され、または、他の(例えば、正)電極の電位よりも高い電位を示す場合であっても、物理的に同じ電極を表す。
【0013】
負電極は、具体的には限定されず、当該技術分野において知られた任意のものあってよい。様々な非限定的な実施形態において、負電極は、グラファイトカーボン、リチウム金属、リチウム合金、または、これらの組み合わせを含む。負電極は、添加物、例えば、カーボンブラックを含んでよい。負電極は、箔、プレート、ロッド、ペーストを含む任意の便利な形態であってよく、または、導電性電流コレクタまたは他の適切な支持体の上に負電極材料のコーティングを形成することにより製造される複合材料のようなものであってよい。
【0014】
電荷運搬電解質:
上記に加え、充電式リチウムイオンセルはまた、電荷運搬電解質を含む。電荷運搬電解質は、電荷運搬媒体とリチウム塩とを含む。電荷運搬電解質は、具体的には限定されず、当該技術分野において知られた任意のものあってよい。典型的には、電荷運搬電解質は、正電極と負電極との間に電荷運搬経路を提供し、最初に、少なくとも電荷運搬媒体とリチウム塩とを含む。電荷運搬電解質は、当該技術分野において典型的に利用される他の添加剤を含んでよい。電荷運搬電解質は、液体およびゲルを含む任意の便利な形態であってよい。
【0015】
電荷運搬電解質は、その中に溶解されてもされなくてもよい(以下に詳細に記載されるように)酸化還元シャトルのような活物質を含んでよい。例えば、電荷運搬電解質は、酸化還元シャトルなしで処方され、セルに組み込まれてよく、当該セルの正電極または負電極が、セル組立の後または最初の充放電サイクルの間に電荷運搬電解質のなかに溶解し得る溶解可能な酸化還元シャトルを含むことで、セルが使用されるようになった時点で電荷運搬電解質が酸化還元シャトルを含むようになる。
【0016】
電荷運搬媒体:
電荷運搬電解質は、具体的には限定されず、当技術分野において公知の任意のものであってよい。適切な電荷運搬媒体の非限定的な例は、適切な量の電荷が正電極から負電極に輸送され得るように、十分な量のリチウム塩および酸化還元スシャトルを可溶化できる液体およびゲルを含む。電荷運搬媒体は、典型的には、凍結または沸騰することなく、例えば約-30℃~約70℃の広い温度範囲にわたって使用され得、典型的には、その中で電極が作動する電気化学的窓(electrochemical window)において安定である。電荷運搬媒体の非限定的な例には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジフルオロ酢酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、ジメトキシエタン、ジグリム(ビス(2-メトキシエチル)エーテル)(diglyme(bis(2-methoxyethyl)ether))およびこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。様々な実施形態において、電荷運搬媒体は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、および/または、これらの組み合わせを含む。
【0017】
電荷運搬媒体は、典型的には、それぞれ電荷運搬電解質の総重量に基づいて、60重量%~99重量%,65重量%~95重量%または70重量%~90重量%の量で存在する。あるいは、上記の値における全ての値および値の範囲は、様々な非限定的な実施形態において、これにより明示的に企図される。
【0018】
リチウム塩:
リチウム塩もまた具体的には限定されず、当技術分野で公知の任意のものを含んでよい。適切なリチウム塩の非限定的な例は、選択された電荷運搬媒体において安定で可溶性(soluble)であり、選択されたリチウムイオンセルにおいて良好に機能し、LiPF6,LiBF4,L iClO4,リチウムビス(オキサレート)ボレート(「LiBOB」),LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiAsF6,LiC(CF3SO2)3、および/または、これらの組み合わせであってよく、または、これらを含み得る。
【0019】
リチウム塩は、典型的には、電荷運搬電解質の100重量部あたり(per by 100 pers by weight of the charge-carrying electrolyte)、1~40重量部,5~35重量部または10~30重量部の量で存在する。あるいは、上記の値における全ての値および値の範囲は、様々な非限定的な実施形態において、これにより明示的に企図されている。
【0020】
酸化還元シャトル:
セルは、酸化還元シャトルを含む。様々な実施形態において、用語「酸化還元シャトル」は、正電極で酸化され、負電極へ移動し、負電極で還元されて、酸化されていない(または酸化の少ない)シャトル種(shuttle species)を再形成し、正電極へ戻って移動し得る電気化学的に可逆な部分または化合物を表す。あるいは、酸化還元シャトルは、複素環であってよい電気活性化合物として記載されてよく、ここで、用語「電気活性(electroactive)」は、当業者により理解されるとおりである。あるいは、下記の置換フェノチアジン5,5-ジオキシド(substituted phenotheiazine 5,5-dioxides)のうちの任意の1つ以上は、酸化還元シャトルおよび/または過充電に対して保護する化合物として記載され得る。
【0021】
酸化還元シャトルは、正電極の充電電位を上回る酸化電位を有してよく、セル過充電保護を提供する循環可能(cyclable)な酸化還元シャトルとして働いてよい。用語「酸化電位」は、典型的には、選択された電荷運搬電解質のなかに酸化還元シャトルを溶解し、循環ボルタンメトリー(cyclic voltammetry)および白金またはグラッシーカーボン作用電極(glassy carbon working electrode)と、対電極(counter electrode)と、以前にLi/Li+と表された適切な参照電極とを用いて、印加電圧に対する電流を測定し、Li/Li+に対する電位Epa(つまり、ピークアノード電流(peak anodeic current)が観測される電位)および電位Epc(つまりピークカソード電流(peak kathodeic current)が観測される電位)を決めることにより測定され得る値E1/2を表す。E1/2は、典型的には、EpaとEpcの平均として与えられる。シャトル酸化電位は、シャトルを含むセルを構築し、充放電サイクル試験を実施し、充電シーケンスの間に、シャトル酸化および還元が起きていることを示す電圧プラトー(voltage plateu)が起きる電位を観測することにより、見積もられ得る(値「E0bs」を提供する)。観測結果は、Li/Li+に対するE0bs値を提供するために、Li/Li+に対する負電極電位の量により補正されてよい。シャトル酸化電位は、Gaussian Inc.のGAUSSIAN 03といったモデリングソフトウェアを用いて、モデルイオン化(model ionization)電位を、測定される化合物の酸化電位およびリチウムイオンセルの挙動と相関させることにより、酸化電位(例えば、D1/2が知られていない化合物の場合)を予測するために近似値されてよい(値「Ecalc」を提供する)。
【0022】
酸化還元シャトルは、例えば、Li/Li+と比較して、正電極の充電電位より高い、3.5Vから5Vまで、3.6Vから5Vまで、3.7Vから5Vまで、3.8Vから5Vまで、3.9Vから4.9Vまで、4Vから4.8Vまで、4.1Vから4.7Vまで、4.2Vから4.6Vまで、4.3Vから4.5Vまで、または、4.4Vから4.5Vまでの酸化電位を有してよい。例えば、酸化還元シャトルの一実施形態は、Li/Li+と比較して、3.5Vから5Vの酸化電位を有する。他の実施形態において、酸化還元シャトルは、Li/Li+と比較して4V~5Vの酸化電位を有する。さらに他の実施形態において、酸化還元シャトルは、Li/Li+と比較して3.5V~4Vの酸化電位を有する。さらなる実施形態において、酸化還元シャトルは、例えば、LiFePO4セル用に、Li/Li+と比較して3.7V~3.9Vの酸化電位を有する。あるいは、上記の値における全ての値および値の範囲は、様々な非限定的な実施形態において、これにより明示的に企図される。
【0023】
酸化還元シャトルは、電荷運搬電解質のなか、および/または、セルのなかの別の場所に配置されてよい。セルをこの酸化電位を超えて充電する試みがなされるとき、酸化された酸化還元シャトルは、印加された充電電流に対応する電荷量を負電極に運び、セルの過充電を防止し、または、少なくとも最小にする。様々な実施形態において、酸化還元シャトルは、酸化還元シャトルの酸化に十分な充電電圧およびサイクルそれぞれの間にセル容量の100%に等しい過充電電流で、少なくとも10サイクル、少なくとも30サイクル、少なくとも100サイクル、または、少なくとも500サイクルの過充電保護を提供するように循環可能である。代替の実施形態において、前述のサイクル数は、500~1,000であり、1,000を超え、1,000~10,000、または、さらに10,000を超える。あるいは、上記の値における全ての値および値の範囲は、様々な非限定的な実施形態において、これにより明示的に企図される。酸化還元シャトルは、正電極とは異なり、典型的には、正電極の充電電位とは異なる酸化電圧、および/または、さらに高い(例えば、さらに正側の)酸化電位を有する。酸化還元シャトルの電位は、正電極の充電電位よりわずかに大きく、不可逆的なセルの損傷が起こり得る電位よりも低く、過度のセル加熱またはガス放出が起こり得る電位よりも低くてよい。
【0024】
様々な実施形態において、置換フェノチアジン5,5-ジオキシドは、酸化還元シャトルとして単独で、または、他の酸化還元シャトルと組み合わせて利用される。代替の酸化還元シャトルは、置換カルバゾール、置換フェノチアジン、置換5,10-ジヒドロフェナジン、および/または、これらの組み合わせを含む。
【0025】
置換フェノチアジン5,5-ジオキシド:
置換フェノチアジン-5,5-ジオキシドは、典型的には、以下の構造を有する。
【化2】
【0026】
様々な実施形態において、R1およびR2は、独立して、アルキル基、ニトリル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である。R3は、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基である。R4およびR5は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、またはアルキルホスホネート基である。R4およびR5の少なくとも一方が水素原子ではない実施形態において、酸化電位におけるより正側の値への偏移、および、2015年7月17日出願の国際特許出願第PCT/US2015/040970号に記載されるような向上した安定性があり、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
他の実施形態において、R1およびR2は、独立して、アルキル基、ニトリル基、ハロアルキル基(例えば、モノ-、ジ-、またはトリ-ハロ)、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルカリール(alkaryl)基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である。R3は、1~6個の炭素原子または1~12個の炭素原子を有するアルキル基、または、1~12個の炭素原子を有するハロアルキル基(例えば、モノ-、ジ-またはトリ-ハロ)である。ある実施形態において、R4およびR5の両方は水素である。他の実施形態において、R4およびR5の一方は水素原子であり、一方、R4およびR5の他方は水素原子ではない。他の実施形態において、R3は、1,2,3,4,5または6個の炭素原子、または、1~12個の炭素原子を有するアルキル基、1~6個または1~12個の炭素原子を有する(例えば、モノ-、ジ-またはトリ-ハロ)ハロアロキル基、1~6個または1~12個の炭素原子を有するペルハロアルキル基、1~6個または1~12個の炭素原子を有するアルキルエーテル基、または、1~6個または1~12個の炭素原子を有するトリアルキルアンモニウムアルキル基である。あるいは、上記の値における全ての値および値の範囲は、様々な非限定的な実施形態において、これにより明示的に企図される。
【0028】
さらなる実施形態において、R1およびR2は、独立して、1,2,3,4,5または6個の炭素原子または1~12個の炭素原子を有するアルキル基、1~12個の炭素原子を有するトリフルオロメチル基、ハロ基、シアノ基、アルキルエーテル基、1~12個の炭素原子を有するアルキルエーテル基、または、1~12個の炭素原子を有するトリアルキルアンモニウムアルキル基である。他の実施形態において、R4およびR5は、独立して、1,2,3,4,5または6個の炭素原子または1~12個の炭素原子を有するアルキル基、1~6個の炭素原子または1~12個の炭素原子を有するハロアルキル基(例えば、モノ-、ジ-またはトリ-ハロ)、1~6個または1~12個の炭素原子を有するペルハロアルキル基、アシル基、ハロアシル基、または、ペルハロアシル基である。適切なアルキル基の非限定的な例は、当業者により理解されるように、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ペンチル、ヘキシル、オクチルなどである。あるいは、上記の値における全ての値および値の範囲は、様々な非限定的な実施形態において、これにより明示的に企図される。
【0029】
さらに他の実施形態において、R4およびR5の一方は立体的に大きい(sterically bulky)。他の実施形態において、R4およびR5それぞれは立体的に大きい。用語「立体的に大きい」は、当業者より理解される。例えば、R4およびR5の一方またはそれぞれは、C2-C4アルキル基、例えば、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル基であってよい。これらの種類の基(these types of groups)は、化合物の安定性を犠牲にすることなく(または少なくともそれに対する影響を最小限にすることなく)、電位を、より正側の値に偏移(shift)し得る。ある場合には、これらの種類の基は、実際に化合物の安定性を高め得る。あるいは、R4およびR5の一方またはそれぞれは、C2-C5アルキル基であってよく、上記のこれらの基およびネオペンチル基を含んでよい。さらに他の実施形態において、R4およびR5それぞれは、メチル基、および/または、CF3基であってよい。
【0030】
様々な実施形態において、R1およびR2は、独立して、アルキル基、ハロアルキル基(ペルハロアルキルを含む)、または、アルキルエーテル基であり、R3、R4およびR5の少なくとも1つはアルキル基、ハロアルキル基(ペルハロアルキルを含む)、アルキルエーテル基、アシル基、または、ハロアシル基である。他の実施形態において、R1、R2、R3、R4およびR5それぞれは、アルキル基、アルキルエーテル基、アセチル基およびCF3基から選択される。理論に具体的に縛られることを意図せず、これらの位置のいくつか(例えば、R3、R4および/またはR5など)での置換は、立体効果(steric effect)により、驚くほど酸化電位を高めることが信じられる。
【0031】
1つの具体的な実施形態において、R1およびR2は、独立して、アルキル基またはニトリル基である。R3は、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基である。R4およびR5は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である。
【0032】
さらに他の実施形態において、R3は-CH2CH3,-CH2CH2OCH2CH2OCH3,-CH2CH2OCH3および-フェニル-N(CH3)3+から選択される。言い換えると、R3はこれらの部分のいずれか1つであり得る。さらに、これらのR3部分のうちの1つを有する化合物は、4.26V~4.40Vの酸化電位を有し得ると考えられる。さらに、このような化合物は、少なくとも高リチウム含有炭酸塩電解質のなかで増加した溶解度を有してよい。
【0033】
酸化還元シャトル、例えば、置換フェノチアジン-5,5-ジオキシドは、当業者により決定されるように、任意の量でセルに含まれてよい。様々な実施形態において、置換フェノチアジン-5,5-ジオキシドは、電荷運搬電解質の100重量部あたり、0.05~20重量部,0.05~10重量部,1~10重量部,2~9重量部,3~8重量部,4~7重量部または5~6重量部の量で存在する。あるいは、上記の値における全ての値および値の範囲は、様々な非限定的な実施形態において、それにより明示的に企図されている。置換フェノチアジン-5,5-ジオキシドの量は、溶解度、拡散係数、過充電保護の必要性などに基づいて選択されてよい。
【0034】
Li/Li+に対して異なる電気化学ポテンシャルを有する2つ以上の酸化還元シャトル(フェノチアジン-5,5-ジオキシドおよび1つ以上の置換フェノチアジン、置換カルバゾール、置換ジヒドロフェナジン、または他の酸化還元シャトルを含む)の混合物もまた採用されてよい。例えば、3.7Vで作動する第1の酸化還元シャトルと、3.9Vで作動する第2の酸化還元シャトルとの両方が、単一セルのなかで採用されてよい。多くの充放電サイクルの後、第1の酸化還元シャトルが劣化して有効性を失うと、典型的には、第1の酸化還元シャトルが作動している間は酸化されなかった)第2の酸化還元シャトルが引き継ぎ、過充電損傷に対する安全性のさらなる(にもかかわらず、より高いEy2)余裕を提供する。酸化還元シャトルは、単一セル、または、直列接続されたセルの電池にもまた過放電保護を提供し得る。酸化還元シャトルはまた、過充電保護と同様に、または、その代わりに、セルバランスをとる(cell ballancing)目的に用いられ得る。例えば、セルバランスに関連する電子機器のコストを削減するために、酸化還元シャトルが使用され得る。
【0035】
酸化還元シャトルは、意図された充電速度において過充電保護を提供するために十分な量で、電荷運搬電解質中に溶解され得、または、溶解可能である。単一イオン化シャトル(singly ionized shuttle)のための最大シャトル電流は、下式により与えられ、ここで、Fはファラデー数であり、Aは電極面積であり、Dは酸化還元シャトル種(redox shuttle species)の有効拡散係数であり(酸化および還元された酸化還元シャトルの両方を考慮する)、Cは酸化還元シャトル種の総濃度であり、dは正電極と負電極との間の距離である。
Imax = FADC/d.
【0036】
大きな酸化還元シャトル電流を得るために、電荷運搬電解質は、酸化還元シャトルへの大きな拡散係数Dを促進し、および/または、高い酸化還元シャトル濃度Cを支持する。従って、電荷運搬電解質は、最初に、または、最終的に、溶解した量の置換フェノチアジン5,5-ジオキシド、および/または、他の酸化還元シャトルを含む。酸化還元シャトル拡散係数Dは、典型的には、電荷運搬電解質の粘度が減少するにつれて増加する。電荷運搬電解質中の置換フェノチアジン5,5-ジオキシドおよび/または他の酸化還元シャトルの非限定的な濃度は、約0.02Mから最大溶解度まで、約0.05Mから最大溶解度まで、0.1Mより高く最大溶解度まで、約0.2Mから溶解度限度まで、または、約0.3Mから溶解度限度までである。置換フェノチアジン5,5-ジオキシドおよび/または他の酸化還元シャトルの濃度は、電荷運搬電解質に適切な共溶媒(co-solvent)を組み込むことにより増やされてよい。非限定的な共溶媒は、アセトニトリル、ベンゼン、エーテル、エステル、ラクトン、ピリジン、テトラヒドロフラン、トルエン、および/または、これらの組み合わせを含む。他の実施形態において、共溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジフルオロ酢酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、ジメトキシエタン、ジグリム(ビス(2-メトキシエチル)エーテル)、および、これらの組み合わせから選択される。さらに他の実施形態において、共溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、および/またはこれらの組み合わせから選択される。
【0037】
様々な実施形態において、酸化還元シャトルは、3,7-ビス(tert-ブチル)-10-メチルフェノチアジン-5,5-ジオキシド;3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリル)-フェノチアジン-5,5-ジオキシド;3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(9-トリフルオロメチルフェニル)-フェノチアジン-5,5-ジオキシド;または、前述の化合物に類似の他のフェノチアジン-5,5-ジオキシド;および/または、C1~C20アルキル、アルキルエーテルまたはオリゴエーテル、トリアルキルアンモニウムアルキル、または、他の可溶化基といった任意の位置に置換基を有する任意の類似体であってよい。他の実施形態において、可溶化基は、当技術分野で公知の任意のものであってよい。例えば、可溶化基は、米国特許第6,445,486号明細書に記載されている通りであってよく、これは、様々な非限定的な実施形態において、参照により本明細書に明確に組み込まれる。さらに、以下の実施例に記載の任意の化合物が、本明細書に記載の任意の実施形態において様々な非限定的な実施形態で利用されてよいこともまた考えられる。
【0038】
セル自体に戻って参照すると、セルはまた、正電極と負電極との間に配置され、電荷運搬種(酸化または還元置換フェノチアジン-5,5-ジオキシドを含む)が通過できる多孔質セルセパレータを含んでよい。
【0039】
様々な実施形態において、酸化還元シャトルは、酸化還元シャトルの酸化に十分な充電電圧および充放電サイクルそれぞれの間のセル容量の100%に等しい過充電流量での少なくとも30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、5,000、5,500、6,000、6,500、7,000、7,500、8,000、8,500、9,000、9,500、10,000回またはさらに多くの充放電サイクルの後に、過充電保護をセルに提供する。あるいは、上記の値における全ての値および値の範囲は、様々な非限定的な実施形態において、それにより明示的に企図される。
【0040】
本開示はまた、セルおよびセルのアレイを含む物品(article)を提供する。物品は、例えば、ハンドヘルド機器、懐中電灯、電動工具または上記のいずれかといった、セル(または電池)を利用する当該分野で公知の任意のものであってよい。セルのアレイもまた、当技術分野において公知の任意のものであってよい。
【0041】
酸化還元フロー電池
ある実施形態において、酸化還元シャトルは、酸化還元フロー電池の活性カソード液材料として使用されてよい。酸化還元フロー電池は、少なくとも2つの電極と、少なくとも2つの電気活性材料とを含む電気化学セルを含む。電気活性材料のうちの少なくとも1つは、電気活性材料、適切な溶媒、および、イオン伝導性を改善する追加的な電解質塩を任意に含む電解質溶液またはスラリーの形態である。電解液は、ポンプ、重力、圧力または他の適切な手段を用いて、別のタンクからセルまで移動されてよい。電気化学セルは、異なる電気活性材料の混合を最小限に抑えるために役立つイオン交換膜または微孔性膜(しばしば「クロスオーバー(crossover)」と記載される)により、アノード室とカソード室と(anode and cathode chamber)に分けられてよい。代替の実施形態において、電気化学セルは、層流による活性種(active species)の分離を維持できる膜不要システム(membrance-free system)であり得る。電解質塩アニオン(anion)および/またはカチオン(cation)の膜を横切った輸送が起こり得、これは、(電極が外部電気回路により接続されている場合に)電気活性材料の間の電気化学反応を促進する。ある実施形態において、所望のレベルの電流および/または電圧を生成するセルスタックを形成するために、複数の電気化学セルが、直列または並列に接続され得る。
【0042】
酸化還元フロー電池は、典型的には、アノード室とカソード室と(anode and cathodic compartments)の両方で液相の材料(それぞれ、しばしば「アノード液(anolyte)」と「カソード液(catholyte)」と記載される)を利用する。あるいは、酸化還元フロー電池は、アノードまたはカソードとして、グラファイトといった挿入型電極(intercalation-type electrode)を利用してよい。
【0043】
酸化還元フロー電池用の電気活性材料は、典型的には、電気化学セルの外側のタンクまたは他の適切な容器に格納されるので、電力およびエネルギーは効果的に分離され、エネルギー蓄積量(energy storage)は、容易で安価に拡大縮小され得る。酸化還元フロー電池のエネルギー密度は、一般にモバイル用途には低すぎるが、潜在的な低コストおよび拡張性は、酸化還元フロー電池を、グリッドまたはエネルギー蓄積用途によく適するようにする。
【0044】
酸化還元シャトルは、低製造コスト、高溶解性、高溶解性、迅速な電気化学的応答、高い酸化電位および優れた耐久性の1つ以上を有するので、少なくとも部分的に、上に詳述された酸化還元シャトルの実施形態は、酸化還元フロー電池用の酸化還元活性材料またはカソード液材料として使用され得る。ある実施形態において、カソード液材料は、電荷運搬電解質の100重量部あたり約2~80重量部の量で存在する。1つの例において、3,7-ビス(tert-ブチル)-10-メチルフェノチアジン-5,5-ジオキシドは、カソード液材料として使用され得、安価な材料から容易に調製され得、1.4Mを超えてプロピレンカーボネートに可溶であり、Li/Li+と比較して4.28Vで望ましい電気化学的酸化を示し、中性形態および酸化形態の両方において安定である。
【0045】
電気化学二重層キャパシタ
他の実施形態において、酸化還元シャトルは、しばしばスーパーキャパシタまたはウルトラキャパシタとして記載される電気化学二重層(EDL;electrochemical double layer)キャパシタのなかの活性カソード液材料として使用されてよい。(電池におけるように)電気化学反応でエネルギーを蓄積するのではなく、挿入電極(insert electorodes)の表面の上に電荷を形成する物理的プロセスにより電気エネルギーが蓄積されることにおいて、EDLキャパシタは電池と異なる。電極の表面に電荷を形成する働きをする電流は、容量性または非ファラデー(nonfaradic)電流として記載され得る。化学反応を実行するために役立つ電流は、ファラデー電流、または、EDLキャパシタのなかの電気化学反応を伴う擬似キャパシタンス(pseudocapacitance)として記載されうる。
【0046】
ハイブリッドスーパーキャパシタは、電池およびEDLキャパシタの特性を組み合わせたデバイスであり、ファラデープロセスおよび非ファラデープロセスの両方で電気エネルギーを蓄積できる。一般的な種類のハイブリッドスーパーキャパシタは、酸化還元活性材料を電解質に組み込むことにより高められた電荷蓄積容量を有するEDLキャパシタである。酸化還元シャトルが、1つ以上の低製造コスト、高溶解性、急速溶解性、電気化学的応答、高い酸化電位および優れた耐久性の1つ以上を有するので、少なくとも部分的に、上に詳述された酸化還元シャトルの実施形態はまた、EDLキャパシタ、具体的にはハイブリッドスーパーキャパシタのための酸化還元活性材料として使用され得る。
【0047】
追加的な実施形態:
追加的なある実施形態において、本開示は、以下の構造を有するリチウムイオンセル用の酸化還元シャトルを提供し;
【化3】
ここで、
R
1およびR
2は、独立して、アルキル基、ニトリル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基であり;R
3は、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基であり;および、R
4およびR
5は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である。
【0048】
さらなる実施形態において、本開示は、以下の構造を有する酸化還元フロー電池用のカソード液材料を提供し;
【化4】
ここで、
R
1およびR
2は、独立して、アルキル基、ニトリル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基であり;R
3は、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基であり;および、R
4およびR
5は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である。
【0049】
さらに他の実施形態では、本開示は以下の構造を有するフェノチアジン-5,5-ジオキシドを提供し;
【化5】
ここで、
R
1およびR
2は、独立して、アルキル基またはニトリル基であり;R
3は、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、トリアルキルアニリニウム基であり;および、R
4およびR
5は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である。
【0050】
実施例
様々な置換フェノチアジン-5,5-ジオキシドが合成され、酸化電位を決定するために評価される。実際に合成されていない化合物についてもまた、酸化電位の追加的な理論計算が行われる。酸化電位の計算は、Wang,R.L.; Buhrmester,C; Dahn,J.R.J.R. Electrochem. Soc 2006,153,A445~A449に記載されているように、Wang.R.L. et alの業績に基づき、これは、参照により、ここにおける様々な非限定的な実施形態において、ここに明確に組み込まれる。
【0051】
リチウムイオンセルに対する酸化還元シャトルの候補の酸化電位E0は、シャトルSとそのラジカルカチオンS+との間のB3LYPエネルギーG0(電子ボルト)の間の標準的な自由エネルギーの差を比較することにより決定され得る;
E0(S) = -[G0(S)-G0(S*)]/e - 1.46V
【0052】
全ての電気化学的測定は、0.2Mテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(tetraethylammonium tetrafluoroborate)を支持電解質として含むプロピレンカーボネート中で行われる。酸化電位は、サイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry;100mV/s)または差動パルスボルタンメトリーにより得られたアノードおよびカソードピーク電位を平均することにより決定された。フェロセン(Ferrocene)が、Li/Li+に対してEox=3.25Vを有する内部標準として使用された。
【0053】
様々な置換フェノチアジン-5,5-ジオキシドの理論的および実際的な計算が、以下の表に示される。
【表1】
【0054】
フェノチアジン-5,5-ジオキシドは、一般に、R1基およびR2基を含み、任意にR4およびR5基を含むフェノチアジンを調製し、次いでR3基を結合し、次いで酸化してジオキシドを形成することにより調製される。典型的には、R4基およびR5基は早い段階で、例えば、環を形成するときに結合される。あるいは、R4基およびR5基は、例えば、酸化の前で、R3基を結合した遅い段階で結合される。フェノチアジン-5,5-ジオキシドを形成するための前駆体の具体例、および、フェノチアジン-5,5-ジオキシドの具体例を以下に記載する。
【0055】
3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジンの合成
前駆体3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジンは、以下の合成に従って調製される。丸底フラスコに、フェノチアジン約10g(50.25mmol,1当量)、および、塩化アルミニウム約9g(67.5mmol,1.3当量)が入れられる。約120mLのジクロロメタンを添加し、反応混合物(または反応物)が水/氷浴に入れられる。tert-ブチルクロリド約27.3mL(251.16mmol,5当量)が滴下される。添加が完了した後、反応混合物は、0~5℃で約30分間、撹拌されたままとされ、次いで、反応混合物は、約1Lの水に溶解された酢酸ナトリウム約27g(329.15mmol,6.6当量)で急冷される。次いで、この混合物は、濃いピンク色から緑色への色の変化が生じるまで、激しく撹拌される。次いで、有機層が分離され200mLのヘプタンが添加される。容量は、固体が粉砕するまでロータリーエバポレーターにより減らされ、一晩、激しく撹拌され、そして重力濾過により濾過されて、約15.54g(99.5%収率)の3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジンを生成する。
【0056】
ある例において、以下の10-置換3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジンを調製するために、前駆体3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジンが用いられ得る:3,7-ビス(tert-ブチル)-10-メチルフェノチアジン;3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリル)フェノチアジン;3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリフルオロメチルフェニル)フェノチアジン;3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-ニトロフェニル)フェノチアジン;および、3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(3-ブロモプロピル)フェノチアジン。
【0057】
追加的な前駆体:
フェノチアジン-5,5-ジオキシドを形成するために使用され得る他の前駆体の合成は以下に記載される。
【0058】
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-メチルフェノチアジンの合成
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-メチルフェノチアジンは、以下の合成に従って製造される。3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジン約10g(32.15mmol,1当量)、亜ジチオン酸ナトリウム(sodium dithionite)約1.96g(11.25mmol,0.35当量)、炭酸ナトリウム約6.33g(59.77mmol,1.9当量)、塩化メチルトリブチルアンモニウム(methyltributylammonium chloride)約2.88g(12.21mmol,0.38当量)が、丸底フラスコに加えられる。アセトニトリル約200mL、および、約4.4mL(70.7mmol,2.2当量)が加えられる。反応混合物(すなわち反応物)が加熱還流され、一晩放置される。その後、反応物は室温に冷却され、約200mLの水が加えられ、それにより生成物が粉砕される。反応物は、重力濾過により濾過され、約9.21g(収率88%)の3,7-ビス(tert-ブチル)-10-メチルフェノチアジンを生成する。
【0059】
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリル)フェノチアジンの合成
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリル)フェノチアジンは、以下の合成に従って調製される。4-ヨードベンゼン(0.79g,3.62mmol,1.2当量)が、丸底フラスコのなかで溶融される。約1.3g(9.4mmol,3当量)の炭酸カリウム、および、約1g(3.21mmol,1当量)の3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジン、および、いくらかの銅粉末が加えられる。約6時間の還流の後、反応混合物が冷却され、ロータリーエバポレーターにより乾燥される。残りは、エタノールに溶解され、濾過される。溶液は、一晩、放置されて結晶化され、過剰のエタノールは、結晶から濾別される。この合成は、約0.61g(収率48%)の3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリル)フェノチアジンを生成する。
【0060】
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリフルオロメチルフェニル)フェノチアジンの合成
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリフルオロメチルフェニル)フェノチアジンは、以下の合成に従って調製される。3,7-ビス-t-ブチルフェノチアジン(5g,0.016mol)は、窒素雰囲気の下、グローブボックスのなかで、約50mLのN-メチルピロリジノン(N-methylpyrrolidinone;NMP)に、撹拌されながら溶解される。鉱油中60重量%懸濁液としてのNaH(1.0g,0.024mol,1.5当量)は、一度に加えられ、反応混合物は約60分間、撹拌され、オレンジ色の懸濁液を生成し、1-フルオロ-4-トリフルオロメチルベンゼン(5mL、0.040mol,2.5当量)が、反応混合物に滴加され、フラスコは、フードのなかで油浴に移され、約80℃で予熱される。薄層クロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン/酢酸エチル:8/2)で分析した少量の試料が反応の完了を示すまで、反応は、約5時間、上記温度で継続される。次いで、フラスコは、水-氷浴に移され、0~5℃に冷却され、激しい攪拌の下、約100mLの脱イオン水で希釈される。形成されたオレンジ色のエマルジョンは、約3×100mLのジクロロメタンで抽出され、混ぜ合わされた(combined)有機相は、約3×100mLの水、および、約1×50mLの塩水(brine)で洗浄される。ジクロロメタン溶液をMgSO4(5g)上で乾燥した後、溶媒が減圧下で蒸発させられ、オレンジ色の結晶は、約25mLの冷メタノール、および、約25mLの冷ヘキサンで洗浄される。生成物を、真空オーブンのなかで、室温で12時間、乾燥することにより、微量の溶媒が除去された後、6.3g(収率:86.3%)の淡黄色結晶(3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(p-トリフルオロメチルフェニル)フェノチアジン)が得られる。
【0061】
3,7-ビス(tert-ブチル)-N-ニトロフェニルフェノチアジンの合成
3,7-ビス(tert-ブチル)-N-ニトロフェニルフェノチアジンは、以下の合成に従って調製される。3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジン(2g,6.43mmol,1当量)が、約30mLの乾燥テトラヒドロフラン、および、約0.77gのNaH、鉱油中60%分散液(19.25mmol,3当量)に溶解する。約2.82gのp-ニトロフルオロベンゼン(19.98mmol,3当量)が加えられる。反応混合物がN2の下に置かれ、一晩撹拌され、次いで水で洗浄され、テトラヒドロフランがロータリーエバポレーターにより除去される。この合成は、約2.55g(収率92%)の3,7-ビス(tert-ブチル)-N-ニトロフェニルフェノチアジンを生成した。
【0062】
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(3-ブロモプロピル)フェノチアジンの合成
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(3-ブロモプロピル)フェノチアジンは、以下の合成に従って生成される。100mlフラスコが、約4.7gのフェノチアジン、約0.78gの亜ジチオン酸ナトリウム、約2.6gの炭酸ナトリウム、約0.52gの塩化メチルトリブチルアンモニウム、および、約30mLのアセトニトリルで満たされる。混合物は撹拌され得、約17mLの1,3-ジブロモプロパンが加えられる。反応混合物は加熱還流され、約44時間撹拌され得る。次いで、反応混合物は水で急冷され、所望の生成物が、約600mLのジクロロメタンで抽出される(100mL洗浄)。有機洗浄液は、MgSO4で乾燥され、ジクロロメタンがロータリーエバポレーターにより除去されると、琥珀色-褐色の液体が結果として得られる。
【0063】
反応混合物は、反応混合物を分液漏斗のなかの約50mLのアセトニトリル、および、約50mLのヘキサンに添加することにより、さらに精製される。ヘキサン層は、約3×50mLのアセトニトリルで洗浄され、ロータリーエバポレーターによりヘキサンが除去されて、わずかに黄褐色の透明油状物を与える。油は、真空オーブンのなかで乾燥され、約2.14gの実質的に純粋な3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(3-ブロモプロピル)フェノチアジンを産出する。
【0064】
3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジン-5,5-ジオキシドの一般的な合成
3,7-ビス-tert-ブチルフェノチアジン-5,5-ジオキシドは、一般に、以下の合成に従って調製される。1当量の3,7-ビス(tert-ブチル)-10-置換フェノチアジンが、2:1のジクロロメタン:酢酸に溶解され、約2.5当量のH2O2が加えられる。反応混合物は、一晩加熱還流され、次いで、水で急冷され、MgSO4で乾燥され、さらにロータリーエバポレーターで乾燥される。次いで、反応混合物が水中で粉砕される。この合成は、典型的には、約50%の所望の3,7-ビス-tert-ブチル-10-置換フェノチアジン-5,5-ジオキシドを生成した。
【0065】
以下に、前述のフェノチアジン-5,5-ジオキシドのいくつかの具体的な合成が記載される。
【0066】
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(3-ブロモプロピル)フェノチアジン-5,5-ジオキシド)の合成
3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(3-ブロモプロピル)フェノチアジン-5,5-ジオキシドの合成は、以下の合成に従って調製される。250mlのフラスコが、約2.2gの3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(3-ブロモプロピル)フェノチアジン、および、約90mLのジクロロメタンで満たされる。この混合物に、約13mLの酢酸、および、約8mLの30%H2O2が加えられる。反応混合物は、約4時間還流され、反応混合物は水で急冷される。生成物は、約3×50mLのジクロロメタンで抽出され、MgSO4で乾燥される。MgSO4は濾別され、溶媒はロータリーエバポレーターにより除去され、濃厚な白色固体を与える。固体は、真空オーブンのなかで少なくとも3時間乾燥され、(収率)約1.9g,約80%の3,7-ビス(tert-ブチル)-10-(3-ブロモプロピル)フェノチアジン-5,5-ジオキシドを生成した。
【0067】
3,7-ビス-t-ブチル-10-(p-トリフルオロメチルフェニル)フェノチアジン-5,5-ジオキシドの合成
3,7-ビス-t-ブチル-10-(p-トリフルオロメチルフェニル)フェノチアジン-5,5-ジオキシドは、以下の合成に従って調製される。3,7-ビス-t-ブチル-10-(p-トリフルオロメチルフェニル)フェノチアジン(2.5g,5.4mmol)は、酢酸(12.5mL)と無水酢酸(25mL)の混合物に加えられ、ピンク色の懸濁液を形成する。ピンク色の懸濁液は、室温で約5分間激しく撹拌される。30%H2O2水溶液(2.7g,32.92mmol,6当量)が一度に加えられ、フラスコは、65℃に予熱した油浴に移される。約5分以内に、紫色の溶液が形成され、さらに5分後に、溶液の色は淡黄色に変わる。次の30分の間に、白色の固体が分離し、フラスコは水浴に移され、室温に冷却される。白色結晶は濾過され、約3×50mLの脱イオン水で洗浄され、室温で減圧乾燥される。回収された白色結晶の量は、約1.4gである。ミルク様の懸濁液が得られたら、滴下漏斗を用いて、500mLの脱イオン水のなかにろ液を滴下する。黄褐色の固体が分離したら、懸濁液は、濃縮されたNaOH溶液を用いてpH=7に中和される。スラリーが濾過され、水で洗浄され、次いで乾燥される。合成は、(収率)約1g,89.69%の3,7-ビス-t-ブチル-10-(p-トリフルオロメチルフェニル)フェノチアジン-5,5-ジオキシドを生成する。
【0068】
上記の実施例は、合成それぞれに3,7-ビス-t-ブチル置換基を用いるが、他の3,7-置換基も可能であることが理解されよう。
【0069】
追加的な実施形態:
以下に記載されるように、追加の化合物もまた合成される。より具体的には、3つの中間体(intermediate)の合成、続いてフェノチアジン-5,5-ジオキシドの様々な実施形態の合成が記載される。下表に示されるように、これらの化合物は、上記されたのと同じ方法で評価される。
【表2】
【0070】
中間体:
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N-2-(2-メトキシエトキシ)エチル)フェノチアジン
グローブボックスのなかで、隔壁を備えた250mL丸底2首フラスコのなかの3,7-ジ-t-ブチルフェノチアジン(5g,16.05mmol)が、50mLのNMP中に攪拌下で溶解された。鉱油中60重量%懸濁液としてのNaH(1.3g,32.1mmol,2当量)が一度に加えられ、反応混合物は30分間撹拌された。2-メトキシエトキシエチルトシレート(5.5g,20.06mmol,1.25当量)が10mLのNMPのなかに溶解され、反応混合物に加えられ、さらに10分間、攪拌が続けられた。次に、フラスコは、フード内で60℃に予熱した油浴に移された。このフラスコに、窒素流が、他方の隔壁のなかのブリードポイントとして短い針もまた挿入された一方の隔壁を通じる注射針を介して加えられた。混合物は、60℃で5時間撹拌され、次いで、室温に冷却された。次に、フラスコは、水-氷浴に移され、反応混合物は0~5℃に冷却され、激しい撹拌の下、200mLの脱イオン水で希釈された。形成された黄色エマルジョンが、3×100mLで抽出され、混ぜ合わされたヘキサン溶液は、3×150mLの水および1×150mLの塩水で洗浄された。ヘキサン溶液は、MgSO4の上で乾燥された後、溶媒が減圧下で蒸発させられて、16.69gの粗生成物(crude product)を、黄色油状物として与えた。ヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(80/20,v/v)を溶離剤として使用するカラムクロマトグラフィーにより、粗製物質(crude materia)が精製された。カラム後に回収された生成物の量:15gの無色の粘性油(収率:100%)。
【0071】
フェノチアジン-5.5-ジオキシドの実施形態:
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N-2-(2-メトキシエトキシ)エチル)フェノチアジン-5,5-ジオキシド
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N-2-(2-メトキシエトキシ)エチル)フェノチアジン(6g,14.5mmol)が、酢酸(30mL)と無水酢酸(60mL)の混合物に加えられ、生成されたピンク色の懸濁液が、室温で5~10分間激しく撹拌された。30重量%水溶液(6当量)としての過酸化水素が、一度に加えられ、フラスコが70℃に予熱された油浴に移された。30分以内に黄色の溶液が形成され、フラスコは直ちに氷水浴に移され、室温に冷却された。反応混合物が、滴下漏斗を用いて500mLの脱イオン水に滴下され、生成されたエマルジョンが、3×100mLの酢酸エチルで抽出された。混ぜ合わされた酢酸エチル溶液が、2×150mLの水、2×100mLの10重量%Na2CO3、そして最後に2×150mLの水で洗浄され、5gのMgSO4で乾燥され、溶媒が減圧下でロータリーエバポレーターにより除去され、5.1gの淡黄色の粗生成物を与えた。カラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサンと酢酸エチルの混合物80/20,v/v)による精製の後、白色の結晶生成物が生成された(3g,収率:46%)。示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry;DSC)による融点(M.P.)=84.5℃。
【0072】
中間体:
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N-2-メトキシエチル)フェノチアジン
グローブボックスのなかで、隔壁を備えた500mLの丸底3首フラスコ中の3,7-ジ-t-ブチルフェノチアジン(10g,32.1mmol)が、攪拌下で、100mLのNMPに溶解させられた。鉱油のなかの60重量%の懸濁液としてのNaH(2g,48.2mmol,1.5当量)が、一度に加えられ、反応混合物が60分間撹拌された。2-ブロモエチルメチルエーテル(6.7g,48.2mmol,1.5当量)が、10mLのNMPに溶解され、反応混合物に滴下して加えられ、撹拌が、さらに10分間続けられた。次に、フラスコが、フードのなかで、60℃に予熱した油浴に移された。このフラスコに、窒素流が、他方の隔壁のなかのブリードポイントとして短い針もまた挿入された一方の隔壁を通じる注射針を介して加えられた。混合物は、60℃で1時間撹拌され、次に、室温に冷却され、一晩撹拌された。次いで、粗反応混合物は、500mlの脱イオン水のなかの激しい撹拌下で急冷された。形成された乳状エマルジョンは、3×150mLのヘキサンで抽出され、混ぜ合わされたヘキサン溶液は、4×150mLの水および1×150mLの塩水で洗浄された。ヘキサン溶液を10gのMgSO4で乾燥した後、溶媒は減圧下で蒸発させられて、11.81gの粗生成物を、黄色油状物として与えた。約10mLのイソプロパノールでの粉砕および乾燥の後、無色の油状物として、11.5g(収率:97%)の純粋な生成物が生成された。
【0073】
フェノチアジン-5.5-ジオキシドの実施形態:
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N-2-メトキシエチル)フェノチアジン-5,5-ジオキシド
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N - 2-メトキシエチル)フェノチアジン(5.5g,14.5mmol)が、酢酸(30mL)および無水酢酸(60mL)の混合物に加えられ、形成されたピンク色の懸濁液が、室温で5~10分間激しく撹拌された。30重量%水溶液(6当量)としての過酸化水素が一度に加えられ、反応混合物は、30分以内に60℃まで徐々に温められ始め、褐色の溶液が形成されたとき、フラスコは氷水浴に移され、室温に冷却された。反応混合物が、500mLの脱イオン(DI)水のなかに滴下漏斗を用いて滴下され、生成されたエマルジョンが、3×100mLの酢酸エチルで抽出された。混ぜ合わされた酢酸エチル溶液が、2×150mLの水、2×100mLの10重量%Na 2CO3、そして最後に2×150mLの水で洗浄され、5gのMgSO4で乾燥され、溶媒が、減圧下でロータリーエバポレーターにより除去され、淡黄色の固体生成物5.1gを与えた。カラムクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサンと酢酸エチルの混合物80/20,v/v)による精製の後、白色結晶生成物が生成された(2.8g,収率:46.8%)。DSCによるM.P.=51.7°。
【0074】
中間体:
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N-エチル)フェノチアジン
グローブボックスのなかで、隔壁を備えた250mL丸底2首フラスコのなかの3,7-ジ-t-ブチルフェノチアジン(14g,45mmol)が、100mLのNMPに、撹拌下で溶解された。鉱油中60%懸濁液としてのNaH(2.7g,67.5mmol,1.5当量)が、一度に加えられ、反応混合物が室温で60分間撹拌された。ヨウ化エチル(14g,90mmol,2当量)が、10mLのNMPに溶解され、反応混合物に滴下された。反応混合物を室温で約5時間撹拌され、次いで、激しい撹拌の下、500mLの脱イオン水で急冷された。形成された淡黄色エマルジョンが、3×200mLのヘキサンで抽出され、混ぜ合わされたヘキサン溶液が、3×150mLの水および1×150mLの塩水で洗浄された。ヘキサン溶液のMgSO4で乾燥の後、溶媒は、減圧下で蒸発させられて16.5gの粗生成物を与えた。イソ-プロパノールからの再結晶、濾過および減圧下での微量な溶媒の除去の後、15g(収率98.3%)の純粋な生成物が生成され、DSCによるM.P.=92.91°。
【0075】
フェノチアジン-5,5-ジオキシドの実施形態:
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N-エチル)フェノチアジン-5,5-ジオキシド
3,7-ジ(tert-ブチル)-10-(N-エチル)フェノチアジン(10g,29.45mmol)が、酢酸(75mL)と無水酢酸(100mL)の混合物に加えられ、形成されたピンク色の懸濁液が室温で5~10分間激しく撹拌された。30重量%水溶液(6当量)としての過酸化水素が一度に加えられ、反応混合物が、2時間以内に60℃まで徐々に温められ始め、褐色の溶液が形成されたとき、フラスコが氷-水浴に移され、室温に冷却された。粗反応混合物が1LのDI水のなかで急冷され、わずかにオレンジ色の沈殿物が濾過され、2×250mLのDI水、1×150mLの10重量%Na2CO3、および、最後の2×250mLの水で、中性pHになるまで徹底的に洗浄された。固体は、真空オーブンのなかで、室温で48時間乾燥され、10.6gの粗生成物を与え、これは、25mLのヘキサンで粉砕され、メタノールからの2回の連続した再結晶により精製された。白色結晶:9.2g,収率85%,DSCによるM.P.=176℃。
【0076】
添付の特許請求の範囲は、詳細な説明に記載された具体的な化合物、組成物、または方法に限定されず、添付の特許請求の範囲内にある具体的な実施形態の間で異なり得ることを理解されたい。様々な実施形態の具体的な特徴または態様を説明するために本明細書に依拠しているいかなるマーカッシュグループに関しても、他のすべてのマーカッシュとは無関係に、それぞれのマーカッシュグループの各メンバーから異なる、特別な、および/または予期せぬ結果が得られることを理解されたい。マーカッシュグループのメンバーそれぞれは、別個におよび/または組み合わせて信頼され得て、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に対して適切なサポートを提供する。
【0077】
本開示の様々な実施形態を、独立して、集合的に、添付の特許請求の範囲内に記載することに依拠する任意の範囲および部分範囲は、そのような値が本明細書に明示的に記載されていなくても、全体および/またはその中の小数値を含むすべての範囲を記載および考慮することが理解される。当業者は、列挙された範囲および部分範囲が本開示の様々な実施形態を十分に説明および可能にすることを容易に認識し、そのような範囲および部分範囲はさらに、適切な半分、3分の1、4分の1、5分の4などに説明され得る。ほんの一例として、「0.1から0.9まで」の範囲は、さらに下3分の1、すなわち0.1から0.3、中3分の1、すなわち0.4から0.6、および上3分の1、すなわち0.7に画定されてよく、これらは、別個におよび集合的に添付の特許請求の範囲内にあり、個別におよび/または集合的に依拠することができ、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に対する適切なサポートを提供する。
【0078】
さらに、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」、「以下」などの範囲を定義または修正する言語に関しては、そのような言語は、部分的な範囲および/または上限または下限を含むことが理解されるべきである。他の例として、「少なくとも10」の範囲は、本質的に、少なくとも10~35の部分範囲、少なくとも10~25の部分範囲、25~35の部分範囲などを含み、そして各部分範囲は、別個におよび/または集合的に依拠し、添付の特許請求の範囲のなかの特定の実施形態に対する適切なサポートを提供し得る。最後に、開示された範囲のなかの番号それぞれは、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に依拠してよく、適切な裏付けを提供する。例えば、「1~9の範囲」は、3などの様々な個々の整数、ならびに4.1などの小数点(または端数)を含む個々の数を含み、これは特定のものに依拠し得(may be relied upon)、添付の特許請求の範囲内の実施形態に適切なサポートを提供する。
【0079】
本開示は例示的な方法で記載されてきたが、使用されてきた用語は限定ではなく説明の用語の性質のものであることが意図されていることを理解されたい。上記の教示に照らして、本開示の多くの修正形態および変形形態が可能であり、本開示は、具体的に記載されたものとは異なる方法で実施され得る。
【0080】
(付記)
(付記1)
充電された電位を有する正電極と、
負電極と、
電荷運搬電解質と、
活物質と、
を備える充電式電気化学セルであって、
前記活物質は、
【化6】
の構造を有し、
R
1およびR
2は、独立して、アルキル基、ニトリル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基であり;
R
3は、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、アルキルホスホネート基、または、トリアルキルアニリニウム基であり;および、
R
4およびR
5は、独立して、水素、アルキル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルキルアリール基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、アリールハロアルキル基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、ハロアルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である、
充電式電気化学セル。
【0081】
(付記2)
R1およびR2は、独立して、アルキル基、ニトリル基、ハロアルキル基、ペルハロアルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アセチル基、ハロアセチル基、アルカリール(alkaryl)基、アルコキシ基、アセトアミド基、アミド基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボキシル基、アリールカルボキシル基、アルキルスルホニル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、カルボキシ基、シアノ基、ホルミル基、ハロ基、ハロアセトアミド基、ハロアシル基、ハロアルキルスルホニル基、ハロアリール基、メチルスルホニルオキシル基、ニトロ基、オキソ基、アルキルエーテル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、ホスフェート基、ホスホネート基、または、アルキルホスホネート基である、
付記1に記載の充電式電気化学セル。
【0082】
(付記3)
R1およびR2は、独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、トリフルオロメチル基、ハロ基、シアノ基、1~12個の炭素原子を有するアルキルエーテル基、1~12個の炭素原子を有するアルキルエーテル基、または、1~12個の炭素原子を有するトリアルキルアンモニウムアルキル基である、
付記1に記載の充電式電気化学セル。
【0083】
(付記4)
R1およびR2は、独立して、アルキル基、ハロアルキル基、または、アルキルエーテル基である、
付記1に記載の充電式電気化学セル。
【0084】
(付記5)
R3は、1~12個の炭素原子を有するアルキル基、1~12個の炭素原子を有するハロアルキル基、1~12個の炭素原子を有するペルハロアルキル基、1~12個の炭素原子を有するアルキルエーテル基、1~12個の炭素原子を有するトリアルキルアンモニウムアルキル基である、
付記1~4のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0085】
(付記6)
R3は、1~12個の炭素原子を有するアルキル基である、
付記1~4のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0086】
(付記7)
R3は、1~12個の炭素原子を有するハロアルキル基である、
付記1~4のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0087】
(付記8)
R4およびR5の一方は水素原子であり、R4およびR5の他方は水素原子ではない、
付記1~7のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0088】
(付記9)
R4およびR5は、独立して、1~12の炭素原子を有するアルキル基、1~12の炭素原子を有する1~12のハロアルキル基、1~12の炭素原子を有するペルハロアルキル基、アシル基、ハロアシル基、または、ペルハロアシル基である、
付記1~7のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0089】
(付記10)
R4およびR5は、独立して、C2~C4アルキル基である、
付記1~7のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0090】
(付記11)
R4およびR5は、独立して、C2~C5アルキル基である、
付記1~7のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0091】
(付記12)
R1およびR2は、独立して、アルキル基、ハロアルキル基、または、アルキルエーテル基であり、R3、R4およびR5の少なくとも1つは、アルキル基、ハロアルキル基、アルキルエーテル基、アシル基、または、ハロアシル基である、
付記1に記載の充電式電気化学セル。
【0092】
(付記13)
R1、R2、R3、R4およびR5は、独立して、アルキル基、アルキルエーテル基、アセチル基、および、トリフルオロメチル基である、
付記1に記載の充電式電気化学セル。
【0093】
(付記14)
前記活物質は、前記電荷運搬電解質に溶解される、
付記1~13のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0094】
(付記15)
前記電荷運搬電解質は、共溶媒を含む、
付記1~14のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0095】
(付記16)
前記活物質は、Li/Li+と比較して3.5から5Vの酸化電位を有する、
付記1~15のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0096】
(付記17)
前記活物質は、前記酸化還元シャトルを酸化するために十分な充電電圧で、および、充放電サイクルそれぞれの間にセル容量の100%に等しい過充電流で、少なくとも10回の充放電サイクル後に、前記充電リチウムイオンセルに過充電保護を提供する、
付記1~16のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0097】
(付記18)
前記活物質は、前記電荷運搬電解質の総重量に基づいて、1から10重量%の量で存在する、
付記1~17のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0098】
(付記19)
電気化学セルは、リチウムイオンセルであり、前記活物質は酸化還元シャトルである、
付記1~18のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。
【0099】
(付記20)
電気化学セルは、酸化還元フロー電池であり、前記活物質はカソード液材料である、
付記1~18のいずれか1つに記載の充電式電気化学セル。