(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】シルク繊維積層中綿シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20220615BHJP
D04H 1/498 20120101ALI20220615BHJP
D04H 1/4266 20120101ALI20220615BHJP
【FI】
B32B5/26
D04H1/498
D04H1/4266
(21)【出願番号】P 2022073112
(22)【出願日】2022-04-27
【審査請求日】2022-04-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515106583
【氏名又は名称】株式会社コゼット
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】孔 令璽
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/009835(WO,A1)
【文献】特開平8-209517(JP,A)
【文献】特開2003-105661(JP,A)
【文献】特開2004-142261(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105113121(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102328467(CN,A)
【文献】中国実用新案第213534069(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/04
A47G 9/00-9/10
A41B 1/00-17/00
A41C 1/00-5/00
A41D 1/00-31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一中綿と、
前記第一中綿の上に配置された第一樹脂繊維層と、
前記第一樹脂繊維層の上に配置されたシルク繊維層と、
前記シルク繊維層の上に配置された第二樹脂繊維層と、
前記第二樹脂繊維層の上に配置された第二中綿とを含み、
前記第一樹脂繊維層と前記シルク繊維層とが少なくとも部分的に互いに交絡し、かつ、前記シルク繊維層と第二樹脂繊維層とが少なくとも部分的に互いに交絡している、シルク繊維積層中綿シート。
【請求項2】
前記第一中綿及び前記第二中綿はいずれも、化学繊維綿をシート状に形成した中綿で構成される、請求項1に記載のシルク繊維積層中綿シート。
【請求項3】
前記第一樹脂繊維層及び前記第二樹脂繊維層はいずれも、ポリエステル複合繊維から構成される、請求項1に記載のシルク繊維積層中綿シート。
【請求項4】
前記シルク繊維積層中綿シートの厚みが、4.0~100mmである、請求項1に記載のシルク繊維積層中綿シート。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のシルク繊維積層中綿シートを含む衣類。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のシルク繊維積層中綿シートを含む寝具。
【請求項7】
シルク繊維積層中綿シートの製造方法であって、
(1)基台上に配置された第一中綿の上に、第一樹脂繊維を配置し、第一樹脂繊維層を形成する工程と、
(2)第一樹脂繊維層の上にシルク繊維を配置し、シルク繊維層を形成する工程と、
(3)前記シルク繊維層に上に第二樹脂繊維を配置し、第二樹脂繊維層を形成する工程と、
(4)第二樹脂繊維層の上に、第二中綿を配置し、加熱前積層体を得る工程と、
(5)前記加熱前積層体を加熱する工程と
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯しても弾力やボリューム感を維持でき、かつ皮膚細胞を活性化し、皮膚老化を防止する効果を有するシルク繊維積層中綿シートに関する。
【背景技術】
【0002】
保温性が求められる衣料品や寝装具には、木綿、羊毛、羽毛類、合成繊維中綿が広く使われている。また、従来から真綿布団と呼ばれ、わた状に加工した繭を職人がシート状にしたものを中綿にした高級布団が存在しており、衣料品や寝装具の中綿として使用するシルク含有材料が開発されてきた。例えば、特許文献1は、「複数のシート状単位ウェッブが積層されて構成され;各シート状単位ウェッブは、複数の絹フィラメントがそれぞれ平板状に拡散した状態で形成された複数の部分ウェッブが、各部分ウェッブを形成する絹フィラメントの少なくとも1部分が平面方向あるいはそれと直交する方向で相隣る部分ウェッブの絹フィラメントの少なくとも1部分と交絡して形成され;前記積層を構成する絹フィラメントは接着能を有する物質によって相互に接合されていることを特徴とする積層シルク・ウェッブ。」が開示されている。
【0003】
特許文献2には、繭から引き出された糸を4~20本撚り合わせて得た一定の太さを有する生糸を特定の架橋剤で熱処理したウォッシャブル生糸(セリシン定着シルクフィラメント)を用いたパイル地と、該パイル地を含んだ繊維製品の製法が開示されている。
【0004】
また、近年、生活の質の向上と環境・安全・健康問題への関心の高まりに伴って、形状記憶繊維、難燃・防炎繊維、紫外線遮蔽繊維、防虫・防ダニ繊維、抗菌繊維、消臭繊維、高質感・高風合繊維、皮膚障害予防繊維等の機能性繊維が次々と開発されており、繊維業界の注目を集めている。その様な中で、動・植物蛋白質、例えば、セリシン、絹フィブロイン、コラーゲン、ケラチン、大豆蛋白等の蛋白質を繊維材料に付与して、肌に優しい加工、即ち、風合いの良い肌ざわり感、吸・放湿性、消臭性、静電気防止性、抗酸化性、紫外線遮蔽性、抗菌性、皮膚障害予防性等の機能を付与する加工が研究されており、一部は実用化されている。特許文献3には、中空孔を有するポリエステル系合成繊維の中空孔に水不溶化されたセリシンを付与する事によって、繊維に物理的にセリシンを付与して、吸放湿性が改善された合成繊維が公開されている。非特許文献1にはセリシンの機能、セリシン定着繊維、及びセリシン定着繊維の機能が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特昭58-208456号公報
【文献】特開2011-236537号公報
【文献】特平6-17372号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】繊維と工業 Vol.57 No.10(2001)p.279
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シルク繊維は動物蛋白質で、人体必要な18種類アミノ酸が含まれる。シルクはセリシンとフィブロインの2種類のたんぱく質からなり、セリシンのアミノ酸組成は皮膚のアミノ酸組成と類似しており、そのため、皮膚細胞を活性化し、皮膚老化を防止する効果がある。したがって、シルク繊維を衣類や寝具の表面の生地として使用すると上記の効果が発揮され、好ましい。しかし、シルク由来のセリシンが残留しているシルクは硬く、生地としてはごわごわしてしまう。また、シルク単体を生地として使用すると、シルクは皮膚や外部との摩擦耐久性が低いため、長期に使用できない。また、インナーウエアや、寝装・寝具、タオル、ソックス等に用いられる場合洗濯する機会が大幅に増加し、洗濯を繰返す事によってスレ・形態破壊による風合、光沢、嵩高性、弾力性の劣化、特に水にぬれた時に生じやすいスレやフィブリル化が原因で繊維が硬くなり、風合や光沢、嵩高性、弾力性が失われていくという大きな問題がある。積層体シート内部に、1層の天然シルク繊維をいれると、着用時に内部のアミノ酸が徐々に出ることによる美肌効果を奏する。しかし、シルク繊維を生地に挟み込むと、使用が長くなると、シルク繊維が中から出てきていしまうというも問題もある。
【0008】
特許文献1に開示の発明は、シルク・ウェッブの大量生産を目的とした平板繭を中綿用の素材としての条件を満足するように製造した積層シルク・ウェッブであり、残留セリシンにより接着されており、十分に接着能力がない。また、特許文献1のような積層体を洗濯すると、セリシンが硬化し、弾力を失う上、ボリューム感も失ってしまい、風合いを保ちつつ清潔な状態で長期に使用することが難しい。
【0009】
特許文献2に開示の発明は、繭から引き出された糸を4~20本撚り合わせて得た一定の太さを有する生糸を特定の架橋剤で熱処理したウォッシャブル生糸(セリシン定着シルクフィラメント)を用いたパイル地と、該パイル地を含んだ繊維製品であり、製法が煩雑で、経済性に課題が残る。
【0010】
特許文献3に開示の発明は、中空孔を有するポリエステル系合成繊維の中空孔に水不溶化されたセリシンを付与する事によって、繊維に物理的にセリシンを付与して、吸放湿性が改善された合成繊維であり、物理的にセリシンを付与しているので洗濯耐久性が良好とはいえない。
【0011】
そこで、本願発明者は、鋭意研究の結果、2つの中綿の間にシルク繊維及びポリエステル複合繊維を挟みこみ、熱溶着させることで、互いに交絡した安定した網目状態が形成されることにより、洗濯によるセリシンの硬化が抑制され、洗濯しても弾力やボリューム感を維持でき、かつ、皮膚細胞を活性化し、皮膚老化を防止する効果を有することを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明者は上記課題を下記の手段により解決した。
[1]第一中綿と、前記第一中綿の上に配置された第一樹脂繊維層と、
前記第一樹脂繊維層の上に配置されたシルク繊維層と、
前記シルク繊維層の上に配置された第樹脂繊維層と、
前記第二ポリエステル複合繊維層の上に配置された第二中綿と
を含む積層体を加熱により一体化されたシルク繊維積層中綿シート。
[2]前記第一中綿及び前記第二中綿はいずれも、化学繊維綿をシート状に形成した中綿で構成される、[1]に記載のシルク繊維積層中綿シート。
[3]前記第一樹脂繊維層及び前記第二樹脂繊維層はいずれも、ポリエステル複合繊維から構成される、[1]に記載のシルク繊維積層中綿シート。
[4]前記シルク繊維積層中綿シートの厚みが、4.0~100mmである、[1]に記載のシルク繊維積層中綿シート。
[5][1]乃至[4]のいずれかに記載のシルク繊維積層中綿シートを含む衣類。
[6][1]乃至[4]のいずれかに記載のシルク繊維積層中綿シートを含む寝具。
[7] シルク繊維積層中綿シートの製造方法であって、
(1)基台上に配置された第一中綿の上に、第一樹脂繊維を配置し、第一樹脂繊維層を形成する工程と、
(2)第一樹脂繊維層の上にシルク繊維を配置し、シルク繊維層を形成する工程と、
(3)前記シルク繊維層に上に第二樹脂繊維を配置し、第二樹脂繊維層を形成する工程と、
(4)第二樹脂繊維層の上に、第二中綿を配置し、加熱前積層体を得る工程と、
(5)前記加熱前積層体を加熱する工程と
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、下記の効果が発揮される。
本発明のシルク繊維積層中綿シートは、2つの中綿の間にシルク繊維及びポリエステル複合繊維を挟みこみ熱溶着させることで、互いに交絡した安定した網目状態を形成することにより、洗濯によるセリシンの硬化が抑制され、洗濯しても弾力及びボリューム感を維持できるため、シルクの機能性を維持しつつ洗濯耐久性を付与することが出来、多様化しつつあるシルク繊維の需要にフレキシブルに対応することが出来る。
【0014】
シルクは吸放湿性、保温性が高く、軽量で、静電気が起きにくいためほこりが着きにくい等の機能、及び特有の柔らかい風合いやボリューム感、光沢を有している。
【0015】
また、シルク繊維は動物性蛋白質であり、人体必要な18種類アミノ酸が含まれる。シルクはセリシンとフィブロインの2種類のたんぱく質からなり、セリシンのアミノ酸組成は皮膚のアミノ酸組成と類似しており、そのため、皮膚細胞を活性化し、皮膚老化を防止する効果がある。
【0016】
本発明のシルク繊維積層中綿シートでは、シルク短繊維を使用するため、生糸を使用するよりも材料費も安価であるため、コストを削減することができる。
【0017】
本発明のシルク繊維積層中綿シートは、熱溶着され、全体の厚さが4~100mm程度で構成されるので、あたかも一層の中綿のように扱え、衣料品や寝装具の中綿として使いやすく、そのまま裁断、縫製でき、製造作業もしやすい。
【0018】
樹脂繊維層がポリエステル複合繊維で構成されていることで、洗濯をしても弾力及びボリューム感を維持しやすくなる。さらには、材料費も安価であるため、コストを削減することができる。
【0019】
本発明のシルク繊維積層中綿シートは、熱溶着したことで、上下方向にも左右方向にも弾力性を備え、衣料品に使用した場合には高い保温性だけでなく、着やすさ動きやすさも備え、寝具類や衣類の中綿だけでなく、寝具類の生地や衣類の生地として利用してもごわごわすることなく利用することができる。
【0020】
さらに本発明にかかるシルク繊維積層中綿シートは、シルク繊維層が化学繊維綿の中綿で覆われた構造となっていているので湿気や水気に強く、衣料品や寝装具の充填素材に好適である。
【0021】
そして、第一中綿と第二中綿をポリエステルの綿とした場合は、第一中綿、樹脂繊維層に含まれるポリエステル、第二中綿の三層のポリエステルが加熱により溶け、互いに接着するので、別途接着剤の塗布の必要がなく、作業工程が少なく製造しやすい。
【0022】
さらに、本発明のシルク繊維積層中綿シートの製造は、
シルク繊維積層中綿シートの製造方法であって、
(1)基台上に配置された第一中綿の上に、第一樹脂繊維を配置し、第一樹脂繊維層を形成する工程と、
(2)第一樹脂繊維層の上にシルク繊維を配置し、シルク繊維層を形成する工程と、
(3)前記シルク繊維層に上に第二樹脂繊維を配置し、第二樹脂繊維層を形成する工程と、
(4)第二樹脂繊維層の上に、第二中綿を配置し、加熱前積層体を得る工程と、
(5)前記加熱前積層体を加熱する工程と
を含む。
なお、本明細書では高温室とは積層体が熱溶着できる温度に積層体を保持する装置を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明のシルク繊維積層中綿シートの、各層を積層後、加熱前積層体の説明用断面図を示す。
【
図2】
図2は、本発明のシルク繊維積層中綿シートの製造方法の概要説明図(第1工程~第5工程)を示す。
【
図3】
図3は、本発明のシルク繊維積層中綿シートの完成品の説明用断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明にかかるシルク繊維積層中綿シート及び該シルク繊維積層中綿シートの製造方法を実施するための形態を、実施例の図に基づいて説明する。
【0025】
図1は本発明のシルク繊維積層中綿シート7の加熱前積層体6の説明用断面図であり、
図2は本発明のシルク繊維積層中綿シート7の製造方法の概要説明図であり、
図1、2において、1は第一中綿、2は第一ポリエステル複合繊維層、3はシルク繊維層、4は第二ポリエステル複合繊維層、5は第二中綿である。
【0026】
図3は、本発明のシルク繊維積層中綿シート7の完成品の説明用断面図を示し、第一ポリエステル複合繊維層2とシルク繊維層3、及びシルク繊維層3と第二ポリエステル複合繊維層4が熱溶着させることで、互いに交絡した安定した網目状態を形成する。
本明細書において、「交絡」とは繊維と繊維が互いに絡まりあった状態を意味する。
【0027】
本実施例において、第一中綿1及び第二中綿5は、化学繊維綿をシート状に形成した中綿で構成される。化学繊維綿は、化学繊維から製造される綿(わた)であり、化学繊維綿の化学繊維としては、再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機質繊維などが挙げられる。特にポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの合成繊維が好適であり、複数の素材の繊維を複合したものであってもよい。本実施例では、ポリエステルの綿をシート状に形成して中綿としたものを使用している。
【0028】
また、本実施例において、第一中綿1及び第二中綿5は、特に限定されるものではない。使用用途によってシルク繊維積層中綿シート7全体をより薄く軽量にする場合には、薄い中綿を使って第一中綿1及び第二中綿5とする。逆にシルク繊維積層中綿シート7全体を厚く重量感を持たせて保温性をより高めるには、高い目付にして厚さを持たせて、第一中綿1及び第二中綿5をそれぞれ構成する。
なお、第一中綿1及び第二中綿5はそれぞれ、同じ素材、例えばポリエステルの中綿であってもよく、異なった素材からなる中綿であってもよい。また、目付も第一中綿1及び第二中綿5は同じであっても、一方を軽く他方を重くしてもよい。
【0029】
本実施例において、第一ポリエステル複合繊維層2及び第二ポリエステル複合繊維層4は、ポリエステル複合繊維で構成される。第一ポリエステル複合繊維層2及び第二ポリエステル複合繊維層4を構成するポリエステル複合繊維は、性質の異なる二種類以上のポリマーを口金で複合した繊維であり、本実施例ではPET(ポリエチレンテレフタレート)とPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)の2種類のポリマー成分を複合したポリエステル系の複合繊維を使用している。なお、アセテート系やアクリル系の複合繊維を代用することも可能であるが、PETの特性の軽量、速乾性、耐熱性、耐久性と、PTTの特性の高い伸縮性や形状安定性、そして柔らかい感触とを複合したポリエステル複合繊維が好適である。さらにポリエステル複合繊維は熱可塑性であるため、加熱により少なくとも一部が粘着物になり、シルク繊維層3と熱溶着させることで、互いに交絡した安定した網目状態を形成し、かつ第一中綿1と第二中綿5とをしっかり接着させることに寄与する。
また、第一ポリエステル複合繊維層2及び第二ポリエステル複合繊維層4を構成する樹脂は同じであっても、異なってもよい。
【0030】
第一ポリエステル複合繊維層2及び第二ポリエステル複合繊維層4を構成する、性質の異なる二種類以上のポリマーを複合した複合繊維は、ポリエステル100%の場合のように過剰な弾力性が生じることがなく、また、複数のポリマーの収縮率がそれぞれ異なることから、原糸に捲縮が発現し伸縮性が生じるので、本発明のシルク繊維積層中綿シート7に、高い伸縮性を備える効果を発揮する場合がある。
【0031】
本発明のシルク繊維積層中綿シート7の第一ポリエステル複合繊維層2及び第二ポリエステル複合繊維層4の少なくとも一つは、必要によりキュプラ繊維を含むことができる。
キュプラ繊維は、天然綿の短い繊維であるコットンリンターを薬品に溶かして繊維に加工した再生繊維でセルロースを主成分とする繊維である。
キュプラ繊維は、水に濡らした時の強度である湿潤強度が高く、ポリエステル複合繊維層キュプラ繊維を混合することで、吸水性、吸湿性に優れる特性をシルク繊維積層中綿シート7に与える。
【0032】
ポリエステル複合繊維層は、シルク繊維積層中綿シート7の使用用途にあわせて、適宜混合する繊維の量を調整し、含有量を調整して混合することで、より用途に適したシルク繊維積層中綿シート7を提供できるものとなっている。
【0033】
本実施例において、シルク繊維層3は、シルク繊維で構成される。シルク繊維としては、長繊維、及び短繊維が挙げられる。シルク長繊維とは繭から糸を繰り何本かを撚って1本の糸にした生糸で、光沢があり高級衣料に使用される。生糸を製造する際に出る副蚕糸や良質でない繭から取り出したフィラメント(長繊維)をカットしたものを紡いで製造される紡糸は、シルク短繊維に分類され、生糸撚糸に比べて嵩高でふんわりとした触感を有する。
シルク繊維層を構成するシルク繊維は、コスト削減の点からシルク短繊維を使用することが好ましい。
本実施例では、セリシンの皮膚に対する効果を生かすため、シルクの光沢や肌触りを発揮させるためのセリシン除去処理がされていないシルク繊維(セリシン含有シルク繊維)を使用することが好ましい。
なお、短繊維の長さは、おおよそ、20mm~150mm、好ましくは25m~100mmである。
【0034】
そして、本発明のシルク繊維積層中綿シート7は、その全体の厚さを4.0~100.0mmとし、あたかも一層の中綿のように構成する。これは、薄すぎると保温性を確保できず、また厚くなりすぎと、嵩張る上に、軽量感がなくなり、裁断、縫製等の製造作業がしにくくなるためである。
したがって、シルク繊維積層中綿シート7の厚さが4.0~100.0mm程度になるよう第一中綿、第二中綿の目付及び混合繊維層の各繊維の混合比率を調整すると、軽量で嵩張らず、あたかも一層の中綿のように扱え、衣料品や寝装具の中綿として使いやすく、裁断、縫製等の製造作業がしやすくなり好適である。
【0035】
そして、本発明のシルク繊維積層中綿シート7は、上記のようにあたかも一層の中綿のように構成されて保温用の素材として取り扱うことができるので、ジャケットやズボン、スカート、シャツ、防寒用インナーや帽子などの衣料品、掛け布団や敷ぶとんなどの寝装具など、任意の保温用の製品を製造するために用いることができる。具体的には、羽毛などの代わりに、衣料品や寝装具の中に入れることができる。
また、各種衣料品や寝装具の一部に本発明にかかるシルク繊維積層中綿シート7を用いることもできる。例えば、ジャケットの前身頃と後身頃だけシルク繊維積層中綿シート7を用いつつ、袖部を既存の薄手の生地を用いるなど組み合わせると、デザイン性の高い衣料品を製造することもできる。
同様に、寝装品についても側生地内の一部に本発明のシルク繊維積層中綿シート7を用いることもできる。
【0036】
本発明のシルク繊維積層中綿シート7は、保温用の素材として完成したシート体なので、衣料品、寝装品いずれに用いる場合においても、側生地の種類を問わずに充填、介装ができる。側生地は、例えば、綿、ウール、麻等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル系繊維等の合成繊維、天然あるいは合成の皮革等、任意の素材の生地を使用できる。
さらに、ほどよい弾力性も備え、かつ湿潤強度も高いので、バッグなどのクッション材として使用することも可能である。
【0037】
次に、本発明のシルク繊維積層中綿シート7の製造方法を
図2、
図3に基づいて説明する。
本発明のシルク繊維積層中綿シート7の製造方法の一例としては、
(1)基台上に中綿を配置し、第一中綿1を形成し、第一中綿1上に3Dプリンターで第一ポリエステル複合繊維を配置し、第一ポリエステル複合繊維層2を形成する工程と、
(2)第一ポリエステル複合繊維層2の上に3Dプリンターでシルク繊維を配置し、シルク繊維層3を形成する工程と、
(3)シルク繊維層3に上に3Dプリンターで第二ポリエステル複合繊維を配置し、第二ポリエステル複合繊維層4を形成する工程と、
(4)第二ポリエステル複合繊維層4の上に、中綿を配置し、第二中綿5を形成する工程と、
(5)各層を積層後、高温室に移動し加熱する工程と
を含む。
【0038】
基台上(図示せず)に、第一ポリエステル複合繊維層2を積層する側が上面になるように第一中綿1を配置し、第一中綿1の上面に、3Dプリンター(図示せず)で第一ポリエステル複合繊維を配置して、第一ポリエステル複合繊維層2を形成する(第1工程、
図2(a))。3Dプリンターを使用して、配置することにより、第一中綿1の上に均一に配置することができる。ポリエステル複合繊維層は、バランスよく配置できる観点から網状であることが好ましい。なお、第一ポリエステル複合繊維層2の目付は、特に限定されるものではなく、用途によって適宜変更できる。ここで、基台とは、生地や各層を積層する際に安定した載置することができる台である。耐熱性を有する基台であれば、加熱前積層体8とともに、高温室に入れ、加熱工程を実施することができる。
【0039】
そして、第一ポリエステル複合繊維層2の上に、3Dプリンターでシルク繊維を配置し、シルク繊維層3を形成する(第2工程、
図2(b))。なお、シルク繊維層3の目付は、特に限定されるものではなく、用途によって適宜変更できる。
【0040】
シルク繊維層3の上に、3Dプリンターで第二ポリエステル複合繊維を配置して、第二ポリエステル複合繊維層4を形成する(第3工程、
図2(c))。なお、第二ポリエステル複合繊維層4の目付は、○~○g/m
2であり、用途によって適宜変更できる。
【0041】
次に、第二ポリエステル複合繊維層4の上に、中綿を配置し、第二中綿5を形成する(第4工程、
図2(d))。
【0042】
第二中綿5を形成して得られる加熱前積層体6を高温室に移動し、熱溶着により一体化し、シルク繊維積層中綿シート7を形成する(第5工程、
図2(e))。
本実施例のシルク繊維積層中綿シート7は、第一中綿1及び第二中綿5にポリエステル綿を使用し、シルク繊維層3は第一ポリエステル複合繊維層2及び第二ポリエステル複合繊維層4に挟まれて、これらが加熱により少なくとも一部が粘着物となり、シルク繊維が第一中綿2及び第二中綿8にしっかり密封され、使用しても、シルク繊維積層中綿シート7から出てきてしまう心配がない。加熱により溶けたポリエステル樹脂は、全体が熱溶着し一体化し、シルク繊維積層中綿シート7をあたかも1層のごとく構成する。
高温室の温度は、熱溶着できる温度であれば限定されるものではないが、例えば、150~250℃に設定する。
図2の矢印中の200度は、200℃で加熱していることを示す。この加熱により、加熱前積層体6は、一体化し、シルク繊維積層中綿シート7を形成することができる。なお、加熱の際は、積極的に加圧することもできるが、全体の厚さを1.0~20.0mmにするように圧力をかける必要があり、好ましくは外部から圧力をかけずに加熱することが好ましい。
なお、第一中綿1や第二中綿5に熱可塑性の化学繊維を使用しない場合であっても、十分強固に接着することができるが、さらに接着力を高める場合には、例えば、各中綿と各ポリエステル複合繊維層の間に、接着剤等を塗布して確実に熱溶着する構成としてもよい。
【0043】
本発明のシルク繊維積層中綿シート7の製造は、上記の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明にかかるシルク繊維積層中綿シートは、薄くて軽量で嵩張らず、吸湿性、発熱性を備え、かつ、皮膚細胞を活性化し、皮膚老化を防止する効果を有する保温用の素材として、羽毛布団やダウンジャケットなどはもちろん、シャツやズボン、スカート、インナーや帽子、手袋、ブーツのアッパー部やバッグ、布団、毛布、シーツ、こたつ掛けなど、保温性が求められる布製品一般に使用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 第一中綿
2 第一ポリエステル複合繊維層
3 シルク繊維層
4 第二ポリエステル複合繊維層
5 第二中綿
6 加熱前積層体
7 シルク繊維積層中綿シート
【要約】
【課題】 洗濯しても弾力やボリューム感を維持でき、かつ皮膚細胞を活性化し、皮膚老化を防止する効果を有するシルク繊維積層中綿シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 第一中綿と、第一樹脂繊維層と、シルク繊維層と、第二樹脂繊維層と、第二中綿とが、この順で配置されて一体化してなるシルク繊維積層中綿シートであって、第一樹脂繊維層と第二樹脂繊維層ポリエステル複合繊維の少なくとも一部が溶融し、樹脂繊維とシルク繊維がそれぞれ混ざり合って熱溶着することにより、シルク繊維と樹脂繊維が互いに交絡した安定した網目状態を形成しているシルク繊維積層中綿シート。
【選択図】
図3