(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】クライストロン
(51)【国際特許分類】
H01J 23/20 20060101AFI20220615BHJP
H01J 25/02 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
H01J23/20 A
H01J25/02
(21)【出願番号】P 2017254112
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿武 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】大久保 良久
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭64-055549(JP,U)
【文献】特開2007-149617(JP,A)
【文献】実開昭58-088764(JP,U)
【文献】特開2007-123184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/20
H01J 23/34
H01J 23/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する電子銃と、前記電子銃からの前記電子ビームの進行方向に沿って順に位置する入力空胴、複数の中間空胴および出力空胴を含む複数の共振空胴と、前記共振空胴を通過する前記電子ビームを捕捉するコレクタと、隣り合う前記共振空胴の間、前記電子銃と前記入力空胴との間および前記出力空胴と前記コレクタとの間に設けられるドリフト管とを備えたクライストロン本体と、
前記電子ビームを集束する集束磁場装置と
を備えるクライストロンであって、
前記中間空胴のうちの前記出力空胴に最も近い最下流の前記中間空胴と前記出力空胴との間の前記ドリフト管の少なくとも前記出力空胴に近い側の径は、前記入力空胴から最下流の前記中間空胴までの間の前記ドリフト管の径よりも小さく、
前記クライストロン本体の前記電子銃と前記コレクタとの間を複数の区間に区切る複数の磁性体を備え、
前記集束磁場装置は、前記中間空胴のうちの前記出力空胴より前記電子銃側に少なくとも2つ手前の前記中間空胴と前記出力空胴との間の区間に、電子ビームを集束して小径にするマッチング磁場区間を設け、前記磁性体で区切られた区間毎に磁場を発生させ、前記出力空胴部の区間の磁場強度を前記出力空胴より前記電子銃側の区間の磁場強度よりも高く
し、
前記中間空胴は3個以上の高調波空胴を有し、前記入力空胴に最も近い前記高調波空胴を含む複数の前記高調波空胴が連続して配置される
ことを特徴とするクライストロン。
【請求項2】
前記出力空胴と前記コレクタとの間の前記ドリフト管の少なくとも前記出力空胴に近い側の径は、前記入力空胴から最下流の前記中間空胴までの前記ドリフト管の径よりも小さい
ことを特徴とする請求項1記載のクライストロン。
【請求項3】
最下流の前記中間空胴と前記出力空胴との間の前記ドリフト管の少なくとも前記出力空胴に近い側の径は、最下流の前記中間空胴の前記電子銃側に隣接する前記ドリフト管の径の90%以下である
ことを特徴とする請求項1または2記載のクライストロン
。
【請求項4】
前記共振空胴は9個以上であり、前記出力空胴を1番目とし、前記出力空胴から数えて前記電子銃側に4番目、6番目、7番目の前記中間空胴が高調波空胴である
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載のクライストロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電子ビームのエネルギーを高周波に効率良く変換するクライストロンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クライストロンは、電子ビームを発生する電子銃、高周波電力を入力する入力部、電子ビームと電界との相互作用により高周波電力を増幅する相互作用部、相互作用部から高周波電力を出力する出力部、および用済みの電子ビームを捕捉するコレクタを有するクライストロン本体と、このクライストロン本体に装着されて電子ビームを集束する集束磁場装置とを備えている。
【0003】
クライストロン本体の相互作用部は、電子銃で発生した電子ビームが通過するドリフト管、およびドリフト管の途中に電子ビームの進行方向に沿って設けられた入力空胴、中間空胴および出力空胴などの共振空胴を備え、入力空胴に入力部が接続され、出力空胴に出力部が接続されている。
【0004】
また、電子ビームのビーム電圧に対するビーム電流の割合であるパービアンスが小さい方が、クライストロンの出力変換効率が高くなることが、当該分野では一般的に知られている。クライストロンを高効率動作させるためには、電子ビームを少ない速度分散で径・軸方向の位置を揃えて集群を高め、この電子ビームを出力空胴の電界で均等に減速することが必要である。パービアンスが低いと、高いエネルギーかつ低い電流密度により電子ビーム自体の空間電荷による反発の影響が電子のエネルギーに対して小さく、電子ビームとこの電子ビームを加減速する集束磁場装置からの電界との結合も強くなり、クライストロンの高効率動作が可能となる。
【0005】
通常のクライストロンにおいて低いパービアンスとするには高いビーム電圧での動作が必要となるが、電子ビームの数を1本から数本~数十数本とし、それぞれの電子ビームのパービアンスを低く設定し、電子銃に印加するビーム電圧を抑えてなおかつ総合的に高い出力変換効率が得られるマルチビームクライストロンなどが高効率化の1つの手段として知られている。
【0006】
電子ビームを集束するための入力空胴から出力空胴の磁場強度は、出力空胴の手前までと出力空胴との2段階とし、出力空胴の磁場強度を上流側の各空胴の磁場強度よりも大きな値としている。この出力空胴の磁場強度を大きくするのは、集群されて大きな電流密度を持つ電子ビームが径方向に広がるのを抑えるためである。各空胴間を結合するドリフト管の径は、入力空胴から出力空胴の方向に一定もしくは徐々に拡大する構造となっている。
【0007】
このようなクライストロンは、出力空胴の手前までに電子ビームの集群が高め、出力空胴の電界によって電子ビームを減速するが、出力空胴での電界の径・軸方向のばらつきの影響により、電子ビームと電界との結合係数のばらつきが大きくなり、電子ビームの減速にばらつきが生じる。これは、クライストロンの出力変換効率が低下する原因となる。そのため、クライストロンを高効率動作させるためには、出力空胴の電界が径・軸方向とも均一な分布となることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、出力変換効率を向上させたクライストロンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態のクライストロンは、クライストロン本体および集束磁場装置を備える。クライストロン本体は、電子ビームを発生する電子銃と、電子銃からの電子ビームの進行方向に沿って順に位置する入力空胴、複数の中間空胴および出力空胴を含む複数の共振空胴と、共振空胴を通過する電子ビームを捕捉するコレクタと、隣り合う共振空胴の間、電子銃と入力空胴との間および出力空胴とコレクタとの間に設けられるドリフト管とを備える。集束磁場装置は、電子ビームを集束する。中間空胴のうちの出力空胴に最も近い最下流の中間空胴と出力空胴との間のドリフト管の少なくとも出力空胴に近い側の径は、入力空胴から最下流の中間空胴までの間のドリフト管の径よりも小さい。クライストロン本体の電子銃とコレクタとの間を複数の区間に区切る複数の磁性体を備える。集束磁場装置は、中間空胴のうちの出力空胴より電子銃側に少なくとも2つ手前の中間空胴と出力空胴との間の区間に、電子ビームを集束して小径にするマッチング磁場区間を設ける。集束磁場装置は、磁性体で区切られた区間毎に磁場を発生させ、出力空胴部の区間の磁場強度を出力空胴より電子銃側の区間の磁場強度よりも高くする。中間空胴は3個以上の高調波空胴を有し、入力空胴に最も近い高調波空胴を含む複数の高調波空胴が連続して配置される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態を示すクライストロンの断面図である。
【
図2】同上クライストロンの一部(
図1のA部)を拡大した断面図である。
【
図3】同上クライストロンの軸上磁場強度分布を示す分布図である。
【
図4】同上クライストロンの
図3の軸上磁場強度分布でかつ高周波増幅を行わない状態での電子ビームの軌道を示す図である。
【
図5】比較例1のクライストロンの軸上磁場強度分布を示す分布図である。
【
図6】比較例1のクライストロンの
図5の軸上磁場強度分布でかつ高周波増幅を行わない状態での電子ビームの軌道を示す図である。
【
図7】第1の実施形態と比較例についての出力空胴での軸上電界強度分布を示す分布図である。
【
図8】TE11モードの動作周波数でのカットオフ径に対する出力空胴の前後両側のドリフト管の径の比率と動作効率とのシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図9】第2の実施形態のクライストロンの断面図である。
【
図10】同上クライストロンの一部(
図9のB部)を拡大した断面図である。
【
図11】(a)は第2の実施形態のクライストロンにおいて集群する電子の位相を示す図、(b)は第1の実施形態のクライストロンにおいて集群する電子の位相を示す図である。
【
図12】第3の実施形態のクライストロンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、第1の実施形態を、
図1ないし
図8を参照して説明する。
【0013】
図1に、クライストロン10の断面図を示す。クライストロン10としては、マルチビームクライストロンの例を示す。
【0014】
クライストロン10は、クライストロン本体11、およびこのクライストロン本体11の周囲に配設される集束磁場装置12を備えている。
【0015】
そして、クライストロン本体11は、複数(例えば6本)の電子ビームを発生する電子銃15、電子ビームと磁場との相互作用により高周波電力を増幅する相互作用部16、および相互作用部16を通過した電子ビームを捕捉するコレクタ17などを備えている。
【0016】
電子銃15は、クライストロン本体11の管軸zを中心とする円周上に配置されてそれぞれ電子ビームを発生する複数(例えば6個)のカソード18、およびこれらカソード18に対向して配設されるアノード19を備えている。
【0017】
相互作用部16は、電子銃15が発生する複数の電子ビームがそれぞれ通過する複数の共振空胴20および複数のドリフト管21a~21gを備えている。
【0018】
共振空胴20には、電子銃15からの電子ビームの進行方向に沿って順に配置される入力空胴22、複数の中間空胴23a~23dおよび出力空胴24が含まれる。そして、入力空胴22には、高周波電力を入力する入力部25が接続されている。また、中間空胴23a,23c,23dは基本波空胴であり、中間空胴23bは高調波空胴である。高調波空胴の位置は、任意であるが、第1の実施形態では、出力空胴24を1番目とし、出力空胴24から数えて電子銃15側に4番目に位置する。また、出力空胴24には、高周波電力を出力する出力部である出力導波管26が接続されている。なお、第1の実施形態においては、中間空胴23a~23dのうちの出力空胴24に最も近い最下流の中間空胴23dを、ペナルティメイト空胴27と呼ぶ。
【0019】
ドリフト管21a~21gのうち、ドリフト管21aは電子銃15と入力空胴22との間に設けられ、ドリフト管21b~21fはそれぞれ隣り合う共振空胴20の間に設けられ、ドリフト管21gは出力空胴24とコレクタ17との間に設けられている。
【0020】
図2に、
図1のA部を拡大した断面図を示す。入力空胴22からペナルティメイト空胴27の手側までのドリフト管21b~21eは、同一の径D0に設けられている。ペナルティメイト空胴27と出力空胴24との間のドリフト管21fの径D1、および出力空胴24とコレクタ17との間のドリフト管21gの径D2は、ドリフト管21b~21eの径D0よりも小さく設けられている。ドリフト管21fの径D1とドリフト管21gの径D2とは例えば同一となっている。
【0021】
出力空胴24の前後両側のドリフト管21f,21gの径は、TE11モードの動作周波数でのカットオフ径の15%の径より小さく、ペナルティメイト空胴27の電子銃15側に隣接するドリフト管21eの径の90%以下となっている。
【0022】
ドリフト管21fは軸方向の全域が同一の径D1に設けられている。なお、ドリフト管21fの軸方向の少なくとも出力空胴24に近い側の径D1がドリフト管21b~21eの径D0よりも小さければよく、ドリフト管21fの軸方向の電子銃15に近い側の径はドリフト管21b~21eの径D0と同一でもよい。
【0023】
ドリフト管21gは、コレクタ17側のノーズ部である。ドリフト管21gの少なくとも出力空胴24に近い側の径D2がドリフト管21b~21eの径D0よりも小さければよい。ドリフト管21gの出力空胴24に近い側に管軸zと平行なストレート部が設けられており、このストレート部が径D2に設けられる。
【0024】
また、クライストロン本体11には、電子銃15とコレクタ17との間の相互作用部16を、異なる磁場とするために複数の区間28a~28fに区切る複数の磁性体29a~29gが設けられている。磁性体29a~29gのうち、磁性体29aは電子銃側ポールピース、磁性体29b,29cはボディ側ポールピース、磁性体29d,29e,29fは相互作用部側ポールピース、磁性体29gはコレクタポールピースである。磁性体29a,29b,29cは、電子銃15のアノード19と入力空胴22との間を2つの区間28a,28bに区切る。磁性体29c,29dは入力空胴22からペナルティメイト空胴27の手側の中間空胴23dまでの間を1つの区間28cに区切る。磁性体29d,29e,29f,29gは、ペナルティメイト空胴27の電子銃15側のドリフト管21eとコレクタ17との間を3つの区間28d,28e,28fに区切る。磁性体29a~29gは、円板状で、ドリフト管21a~21gが貫通し、複数の電子ビームが通過する複数の孔が形成されている。磁性体29a~29gの孔の径は、ドリフト管21a~21gの内径にそれぞれ対応している。
【0025】
また、集束磁場装置12は、クライストロン本体11の周囲に配設され、電子ビームを集束するための磁場を発生する例えば電磁石である。集束磁場装置12は、複数のコイル30a~30f、およびこれらコイル30a~30fが配設された磁性体である筐体31を備えている。
【0026】
筐体31の内側には、クライストロン本体11に配置される複数の磁性体29a~29gとともに複数の区間28a~28fに区切る複数の磁路32a~32gが設けられ、これら各区間28a~28fに独立したコイル30a~30fが配置されている。すなわち、区間28a,28bにマッチングコイルであるコイル30a,30bが配置され、区間28cに主コイルであるコイル30cが配置され、区間28d,28eにマッチングコイルであるコイル30d,30eが配置され、区間28fにコイル30fが配置されている。そして、集束磁場装置12は、各コイル30a~30fへの通電により、各区間28a~28fにおいて異なる磁場強度でかつ管軸zに平行な磁場を発生する。
【0027】
電子銃15のアノード19から入力空胴22までの間に区切られた2つの磁場の区間28a,28bは、カソード18からの電子ビームを集束し、入力空胴22以降で電子ビームを平行にするための第1のマッチング磁場区間33である。
【0028】
中間空胴23a~23dのうちの出力空胴24より電子銃15側に少なくとも2つ手前の中間空胴23cと出力空胴24との間に区切られた2つの磁場の区間28d,28eは、ペナルティメイト空胴27の電子銃15側のドリフト管21eから出力空胴24にかけて電子ビームを集束し、出力空胴24でその手前よりも小径な電子ビームとする第2のマッチング磁場区間34である。
【0029】
最もコレクタ17側の出力空胴24の区間28fの磁場強度は、出力空胴24より電子銃15側の区間28a~28eの磁場強度よりも高い値とする。
【0030】
そして、このように構成されたクライストロン10では、電子銃15が発生する電子ビームが入力空胴22、複数の中間空胴23b~23dおよび出力空胴24を通り、空胴22~23の電界との相互作用により集群される。集群された電子ビームが出力空胴24において減速されることで、目的とする高周波電力に増幅された高周波電力が出力導波管26から出力される。
【0031】
図3にはクライストロン10の軸上磁場強度分布を示し、
図4にはクライストロン10の
図3の軸上磁場強度分布でかつ高周波増幅を行わない状態での電子ビームの軌道を示す。
図4のz1は電子ビームの中心位置(ドリフト管21a~21gの中心軸)である。第1の実施形態では、ペナルティメイト空胴27と出力空胴24との間のドリフト管21fの径D1、および出力空胴24とコレクタ17との間のドリフト管21gの径D2が、ドリフト管21b~21eの径D0よりも小さく設けられているため、出力空胴24の位置での電子ビームの径が入力空胴22および手前の中間空胴23a~23dの位置での電子ビームの径よりも小さくなり、出力空胴24での磁場強度も入力空胴22および手前の中間空胴23a~23dの位置での磁場強度よりも高くなる。
【0032】
図5および
図6に、ペナルティメイト空胴27と出力空胴24との間のドリフト管21fの径D1、および出力空胴24とコレクタ17との間のドリフト管21gの径D2が、ドリフト管21b~21eの径D0よりも大きい場合の比較例1を示す。
図5には比較例1のクライストロン10の軸上磁場強度分布を示し、
図6には比較例1のクライストロン10の
図5の軸上磁場強度分布でかつ高周波増幅を行わない状態での電子ビームの軌道を示す。
【0033】
そして、第1の実施形態は、比較例1と比較して、出力空胴24での磁場強度を高くすることにより、出力空胴24の位置での電子ビームの径を小さくできた。
【0034】
また、
図7に、第1の実施形態と比較例1についての出力空胴24での軸上電界強度分布を示す。
図7には、ドリフト管21f,21gの径が小さい第1の実施形態における電子ビームの中心位置をA1、最外径位置をA2で示し、ドリフト管21f,21gの径が大きい比較例1における電子ビームの中心位置をB1、最外径位置をB2で示す。
図7の軸上位置のcは出力空胴24の軸方向の中央位置である。
【0035】
そして、第1の実施形態は、比較例1と比較して、電子ビームの中心位置A1と最外径位置A2との電界強度の差が少なくなった。このことは、出力空胴24の電界が径方向に均一な分布となり、電子ビームを均等に減速することができることを示している。
【0036】
また、
図8はTE11モードの動作周波数でのカットオフ径に対する出力空胴24の前後両側のドリフト管21f,21gの規格化径の比率と動作効率とのシミュレーション結果を示す。出力空胴24の前後両側のドリフト管21f,21gの規格化径の比率は、TE11モードの動作周波数でのカットオフ径を1とした比率である。
【0037】
ドリフト管21f,21gの規格化径の比率は、比較例1では比率0.2程度つまりTE11モードの動作周波数でのカットオフ径の20%程度であったが、第1の実施形態では比率0.15以下つまりTE11モードの動作周波数でのカットオフ径の15%以下に小さくすることで、出力空胴24での径方向の電界分布のばらつきが小さくなり、出力空胴24での電子ビームの減速が径方向でより均等となるため、高周波電力への出力変換効率を向上させることができる。
【0038】
第1の実施形態では、ドリフト管21f,21gの規格化径の比率を0.2(20%)から0.1(10%)とすることで、高周波電力への出力変換効率が約4%向上した。
【0039】
なお、例えば、相互作用部16全域での磁場強度を高くするとともに、相互作用部16全域でのドリフト管21a~21gの径を細くしてもよいが、この場合には、電子ビームの電流密度が大きくなるため、電子ビーム同士の反発の影響が大きく、出力空胴24の手前までの電子ビームの集群を高める点からは望ましくない。さらに、集束磁場装置12が電磁石により電子ビームを集束する場合は、相互作用部16全域での磁場強度を高くすると、消費電力が増大するため、クライストロン10全体の効率の観点からも望ましくない。
【0040】
このように、第1の実施形態のクライストロン10は、ペナルティメイト空胴27と出力空胴24との間のドリフト管21fの径が、入力空胴22からペナルティメイト空胴27までのドリフト管21b~21eの径よりも小さいため、出力空胴24の手前での電子ビームの高い集群を保ち、かつ、出力空胴24の電界分布の径・軸方向のばらつきを抑えることで、高周波電力への出力変換効率を向上させることができる。
【0041】
さらに、出力空胴24とコレクタ17との間のドリフト管21gの径も、入力空胴22からペナルティメイト空胴27までのドリフト管21b~21eの径よりも小さいため、ペナルティメイト空胴27と出力空胴24との間のドリフト管21fとともに、出力空胴24の電界分布の径・軸方向のばらつきを抑えることで、高周波電力への出力変換効率を向上させることができる。
【0042】
また、出力空胴24の前後両側のドリフト管21f,21gの径が共にTE11モードの動作周波数でのカットオフ径の15%の径より小さいため、出力空胴24での径方向の電界分布のばらつきが小さくなり、出力空胴24での電子ビームの減速が径方向でより均等となるため、高周波電力への出力変換効率を向上させることができる。
【0043】
また、ペナルティメイト空胴27と出力空胴24との間のドリフト管21fの径は、ペナルティメイト空胴27の電子銃15側に隣接するドリフト管21eの径の90%以下であるため、出力空胴24での径方向の電界分布のばらつきが小さくなり、出力空胴24での電子ビームの減速が径方向でより均等となるため、高周波電力への出力変換効率を向上させることができる。
【0044】
また、クライストロン本体11の電子銃15とコレクタ17との間を複数の磁性体29a~29gにより複数の区間28a~28fに区切り、集束磁場装置12により区間28a~28f毎に異なる磁場を発生させるとともに出力空胴24の区間28fの磁場強度を出力空胴24より電子銃15側の区間28a~28eの磁場強度よりも高くするため、集群されて大きな電流密度を持つ電子ビームが出力空胴24で径方向に広がるのを抑えることができる。
【0045】
また、集束磁場装置12は、中間空胴23a~23dのうちの出力空胴24より電子銃15側に少なくとも2つ手前の中間空胴23cと出力空胴24との間の区間に、マッチング磁場区間34を設けているため、電子ビームを集束して小径できるとともに平行にすることができる。
【0046】
また、電子ビームのパービアンスは0.8μP以下であり、つまり、第1の実施形態では、電子銃15は複数本の電子ビームを発生し、電子ビーム1本あたりのパービアンスは0.8μP以下であるため、クライストロンの出力変換効率が高くすることができる。このように、パービアンスが低いと、高いエネルギーかつ低い電流密度により電子ビーム自体の空間電荷による反発の影響が電子のエネルギーに対して小さく、電子ビームとこの電子ビームを加減速する空胴22~24からの電界との結合も強くなり、クライストロン10の高効率動作が可能となる。
【0047】
【0048】
図9はクライストロン10の断面図、
図10はクライストロン10の
図9のB部を拡大した断面図を示す。
【0049】
第1の実施形態の構成のうち、相互作用部16を9個の共振空胴20および10個のドリフト管21a~21jによって構成している。共振空胴20には、電子銃15からの電子ビームの進行方向に沿って順に配置される入力空胴22、7つの中間空胴23a~23g、および出力空胴24が含まれる。この構成により、各々の共振空胴20の電圧を高くせずに、出力空胴24で電子ビームの速度の分散が小さく、電子ビームの集群効果を高くできる。なお、第2の実施形態では、中間空胴23gがペナルティメイト空胴27である。
【0050】
出力空胴24を1番目とし、出力空胴24から数えて4番目、6番目および7番目の中間空胴23e,23c,23bは高調波空胴であり、残りの中間空胴23a,23d,23f,23gは基本波空胴である。これら高調波空胴(中間空胴23e,23c,23b)で電子ビームの速度を揃え集群させることで、第1の実施形態よりも電子ビームの高い集群効果が得られる。
【0051】
共振空胴20の電気的なインピーダンスの絶対値は動作周波数に近いほど高くなるが、インピーダンスの位相は動作周波数から下に外れるほど+90°に近づく。電子ビームの高い集群効果を得るには、空胴のインピーダンスと位相が適切な値を持つことが必要であり、高調波空胴のインピーダンスは+90°に近い値を持つことが理想である。しかしながら、電子ビームの高周波電流が成長していない箇所では低い高周波電流のため、インピーダンスが低い場合には空胴電圧が低くなる。これを解決するために、2つの高調波空胴(中間空胴23e,23c)を連続して配置し、電子ビームの変調する電圧を等価的に高くする。
【0052】
図11(a)に第2の実施形態のクライストロン10において集群する電子の位相を示し、
図11(b)に第1の実施形態のクライストロン10において集群する電子の位相を示す。
【0053】
第2の実施形態では、第1の実施形態と比較して、上流側にある2つの高調波空胴(中間空胴23b,23c)により多数の電子が集群の中心付近の速度が揃った状態で集群していることが分かる。さらに、下流側の高調波空胴(中間空胴23e)で電子ビームが基本波空胴で集群可能な位相に集められていることが分かる。
【0054】
そして、
図8に、第2の実施形態のクライストロン10について、TE11モードの動作周波数でのカットオフ径に対する出力空胴24の前後両側のドリフト管21i,21jの規格化径の比率と動作効率とのシミュレーション結果を示す。
【0055】
第2の実施形態では、ドリフト管21i,21jの規格化径の比率を0.2(20%)から0.1(10%)とすることで、高周波電力への出力変換効率が約7%向上した。
【0056】
【0057】
第2の実施形態の構成のうち、相互作用部16を10個の共振空胴20および11個のドリフト管21a~21kによって構成している。共振空胴20には、電子銃15からの電子ビームの進行方向に沿って順に配置される入力空胴22、8つの中間空胴23a~23h、および出力空胴24が含まれる。このような構成により、各々の共振空胴20の電圧を高くせずに、出力空胴24で電子ビームの速度の分散が小さく、電子ビームの集群効果を高くできる。なお、第3の実施形態では、中間空胴23hがペナルティメイト空胴27である。
【0058】
この構成により、例えば中間空胴23aを動作周波数に対して負の離調周波数とし、周波数特性を改善することができる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10 クライストロン
11 クライストロン本体
12 集束磁場装置
15 電子銃
17 コレクタ
20 共振空胴
21a~21k ドリフト管
22 入力空胴
23a~23h 中間空胴
24 出力空胴
28a~28f 区間
29a~29g 磁性体
34 マッチング磁場区間