(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 11/32 20060101AFI20220615BHJP
【FI】
G05B11/32 C
(21)【出願番号】P 2018141227
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】本橋 勇人
(72)【発明者】
【氏名】菅原 文仁
(72)【発明者】
【氏名】谷口 直俊
(72)【発明者】
【氏名】高木 亨
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ノ園 亮
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-512257(JP,A)
【文献】特開平2-201603(JP,A)
【文献】特開平3-202173(JP,A)
【文献】特開2003-195904(JP,A)
【文献】特開平10-189464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0060353(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n(nは2以上の整数)個の制御部が縦続接続されたカスケード制御系の制御装置において、
それぞれ目標値と制御量とを入力として操作量を算出するように構成されたn個の前記制御部と、
(i-1)次(iは2~nの整数)制御部とi次制御部との間に設けられ、(i-1)次制御部によって算出された操作量をi次制御部の目標値に変換するように構成された(n-1)個の目標値変換部と、
これら目標値変換部で用いるパラメータと近似式とを設定するように構成された設定部とを備え、
n個の前記制御部のうち、1次から(n-1)次の各制御部は、算出した操作量を直後の前記目標値変換部に出力し、最終段のn次の制御部は、算出した操作量を制御対象の操作端に出力し、
各目標値変換部は、(i-1)次制御部の目標値
をSP
i-1
、(i-1)次制御部の制御量をPV
i-1
、(i-1)次制御部によって算出された操作量をMV
i-1
、i次制御部の目標値をSP
i
、予め設定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値をH
i
、予め設定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値をL
i
、(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
とi次制御部の制御量PV
i
との関係を示す近似式から求まる基準量をf(PV
i-1
)、(i-1)次制御部の目標値SP
i-1
とi次制御部の目標値SP
i
との関係を示す近似式から求まる基準量をf(SP
i-1
)としたとき、SP
i
=(H
i
-L
i
)/100×MV
i-1
+L
i
+f(PV
i-1
)またはSP
i
=(H
i
-L
i
)/100×MV
i-1
+L
i
+f(SP
i-1
)により、(i-1)次制御部によって算出された操作量MV
i-1
をi次制御部の目標値SP
i
に変換し、
前記設定部は、
近似式設定のための測定時に、n次制御部から複数の所定の測定用操作量を制御対象の操作端に順次出力させるように構成された操作量設定部と、
各測定用操作量に対する1次からn次の各制御部の整定時制御量を測定用操作量毎に取得するように構成された制御量取得部と、
この制御量取得部によって取得された整定時制御量に基づいて、(i-1)次制御部の制御量
PV
i-1
とi次制御部の制御量
PV
i
との関係または(i-1)次制御部の目標値
SP
i-1
とi次制御部の目標値
SP
i
との関係を示す近似式を
i次目標値変換部毎に導出するように構成された近似式導出部と、
この近似式導出部によって
i次目標値変換部毎に導出された近似式をそれぞれ対応する
i次目標値変換部に設定するように構成された近似式設定部とを含むことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
n(nは2以上の整数)個の制御部が縦続接続されたカスケード制御系の制御装置において、
それぞれ目標値と制御量とを入力として操作量を算出するように構成されたn個の前記制御部と、
(i-1)次(iは2~nの整数)制御部とi次制御部との間に設けられ、(i-1)次制御部によって算出された操作量をi次制御部の目標値に変換するように構成された(n-1)個の目標値変換部と、
これら目標値変換部で用いるパラメータと近似式とを設定するように構成された設定部とを備え、
n個の前記制御部のうち、1次から(n-1)次の各制御部は、算出した操作量を直後の前記目標値変換部に出力し、最終段のn次の制御部は、算出した操作量を制御対象の操作端に出力し、
各目標値変換部は、(i-1)次制御部の目標値
をSP
i-1
、(i-1)次制御部の制御量をPV
i-1
、(i-1)次制御部によって算出された操作量をMV
i-1
、i次制御部の目標値をSP
i
、予め設定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値をH
i
、予め設定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値をL
i
、(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
とi次制御部の制御量PV
i
との関係を示す近似式から求まる基準量をf(PV
i-1
)、(i-1)次制御部の目標値SP
i-1
とi次制御部の目標値SP
i
との関係を示す近似式から求まる基準量をf(SP
i-1
)としたとき、SP
i
=(H
i
-L
i
)/100×MV
i-1
+L
i
+f(PV
i-1
)またはSP
i
=(H
i
-L
i
)/100×MV
i-1
+L
i
+f(SP
i-1
)により、(i-1)次制御部によって算出された操作量MV
i-1
をi次制御部の目標値SP
i
に変換し、
前記設定部は、
近似式設定のための測定時に、n次制御部から複数の所定の測定用操作量を制御対象の操作端に順次出力させるように構成された操作量設定部と、
各測定用操作量に対する1次からn次の各制御部の整定時制御量を測定用操作量毎に取得するように構成された制御量取得部と、
この制御量取得部によって取得された整定時制御量に基づいて、(i-1)次制御部の制御量
PV
i-1
とi次制御部の制御量
PV
i
との関係または(i-1)次制御部の目標値
SP
i-1
とi次制御部の目標値
SP
i
との関係を示す近似式を
i次目標値変換部毎に導出するように構成された近似式導出部と、
この近似式導出部によって
i次目標値変換部毎に導出された近似式をそれぞれ対応する
i次目標値変換部に設定するように構成された近似式設定部と、
初段の1次制御部の目標値
SP
1
の変更に対して(i-1)次制御部の制御量
PV
i-1
の所望の制御応答が得られることを条件として、
i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅が可能な限り狭くなるように、前記
i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
i
と前記i次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
i
とを
i次目標値変換部毎に決定するように構成された上下限値決定部と、
この上下限値決定部によって
i次目標値変換部毎に決定された
i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
i
とi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
i
とをそれぞれ対応する
i次目標値変換部に設定するように構成された上下限値設定部とを含むことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1
または2記載の制御装置において、
前記近似式導出部は、前記測定用操作量の全範囲における(i-1)次制御部の制御量
PV
i-1
とi次制御部の制御量
PV
i
との関係を示す1つの近似式、または前記測定用操作量の全範囲における(i-1)次制御部の目標値
SP
i-1
とi次制御部の目標値
SP
i
との関係を示す1つの近似式を導出することを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1
または2記載の制御装置において、
前記近似式導出部は、前記測定用操作量の全範囲のうち、隣接する値の測定用操作量の組毎に、(i-1)次制御部の制御量
PV
i-1
とi次制御部の制御量
PV
i
との関係または(i-1)次制御部の目標値
SP
i-1
とi次制御部の目標値
SP
i
との関係を示す近似式を導出し、
近似式設定後の各目標値変換部は、設定された複数の近似式のうち、n次制御部から出力された操作量に対応する近似式を用いて、(i-1)次制御部によって算出された操作量
MV
i-1
をi次制御部の目標値
SP
i
に変換することを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の制御部が縦続接続されたカスケード制御系の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
むだ時間や時定数が大きい制御対象(プロセス)に有効な制御系としてカスケード制御が知られている。カスケード制御系は、プロセスからの複数の測定値(制御量)と、プロセスへの1つの操作量により
図11のように構成される制御系である。1次制御部100
1は、1次プロセス101
1の制御量PV
1が目標値SP
1と一致するように操作量MV
1を算出する。2次制御部100
2は、1次制御部100
1から出力された操作量MV
1を目標値SP
2とし、2次プロセス101
2の制御量PV
2が目標値SP
2と一致するように操作量MV
2を算出して2次プロセス101
2に出力する。この
図11の例では、1次制御部100
1と2次制御部100
2と2次プロセス101
2と1次プロセス101
1とが1次側の制御ループを構成し、2次制御部100
2と2次プロセス101
2とが2次側の制御ループを構成している。
【0003】
ただし、カスケード制御系を構成するためには、
図11のように1次プロセス101
1と2次プロセス101
2の切り分けのための2次プロセス制御量PV
2が必要となる。また、
図11に示したカスケード制御系は2段構成であるが、
図12のように多段構成にもできる。
【0004】
実用のカスケード制御系におけるn(nは2以上の整数)次以降の制御部では、直前の制御部の操作量MVn-1を目標値SPnとして使用するため、この操作量MVn-1と目標値SPnの静的特性を合わせ込むためのスケーリングが必要となる。さらに、カスケード制御はハンチングし易いため、n次以降の制御部の目標値SPnの値域に制限(リミット処理)を設けることが多い。スケーリングとリミット処理には、次の(I)~(III)の3方式が存在する。なお、以下の説明では、直前の(n-1)次の構成を主(プライマリ)と呼び、後段のn次の構成を副(セカンダリ)と呼ぶこととする。
【0005】
(I)副制御部目標値SPnの固定スケーリング・リミット。
SPn=(Hn-Ln)/100×MVn-1+Ln ・・・(1)
式(1)において、MVn-1は主制御部から出力された操作量、Hn(%)は副制御部目標値スケーリング・リミット上限値、Ln(%)は副制御部目標値スケーリング・リミット下限値である。
【0006】
(II)主制御部目標値SPn-1をオフセットとした副制御部目標値SPnの固定スケーリング・リミット。
SPn=(Hn-Ln)/100×MVn-1+Ln+SPn-1 ・・・(2)
【0007】
(III)主制御部制御量PVn-1をオフセットとした副制御部目標値SPnの固定スケーリング・リミット。
SPn=(Hn-Ln)/100×MVn-1+Ln+PVn-1 ・・・(3)
【0008】
上記の(I)の方式では、主制御部目標値SPn-1を変更した場合、変更前後の主制御部操作量MVn-1の平衡点が変化することで、副制御部目標値SPnの変化域が広がる。したがって、副制御部目標値スケーリング・リミット上下限値Hn,Ln(%)を、主制御部目標値SPn-1の変更による副制御部目標値SPnの変化域全域を包含するように広めに設定しなければならない。その結果として、制御がハンチングし易くなり、カスケード制御系の安定性が損なわれる可能性があった。
【0009】
上記の(II)の方式では、主制御部目標値SPn-1が副制御部目標値SPnのオフセットとして反映されるため、主制御部目標値SPn-1を変更した場合、副制御部目標値SPnの変動幅を維持したまま、主制御部目標値SPn-1の変更前後で同程度のスケール比率を維持できるため、制御を安定化させ易いという利点がある。しかしながら、(II)の方式で対応できるのは、主制御部目標値SPn-1と副制御部目標値SPnとが同種の物理量である場合(例えば主制御部目標値SPn-1と副制御部目標値SPnとが共に温度である場合)に限られる、という問題点があった。
【0010】
上記の(III)の方式では、制御応答として得られる主制御部制御量PVn-1が、ステップ的な振る舞いになる可能性のある主制御部目標値SPn-1の変更よりも緩やかに変化するため、(II)の方式よりも制御の応答性が損なわれるものの、制御をより安定化させ易いという利点がある。しかしながら、(II)の方式と同様に、対応できるのは主制御部目標値SPn-1と副制御部目標値SPnとが同種の物理量である場合に限られる、という問題点があった。
【0011】
一方、特許文献1には、主制御部操作量MVn-1を副制御部目標値SPnに変換する際に減衰器を動作させることで制御を安定化させる技術が開示されている。特許文献1に開示された技術は、制御状況(イベント)に従って減衰器を適切に入れ替える(減衰率を変更する)ようにしたものであり、主制御部目標値SPn-1の変更などのイベントを検出して、HnやLnを切り替える技術に相当する。しかしながら、この特許文献1に開示された技術においても、(II)、(III)の方式と同様に、対応できるのは主制御部目標値SPn-1と副制御部目標値SPnとが同種の物理量である場合に限られる、という問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、主制御部目標値と副制御部目標値とが異なる種類の物理量であっても適用が可能なカスケード制御系の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、n(nは2以上の整数)個の制御部が縦続接続されたカスケード制御系の制御装置において、それぞれ目標値と制御量とを入力として操作量を算出するように構成されたn個の前記制御部と、(i-1)次(iは2~nの整数)制御部とi次制御部との間に設けられ、(i-1)次制御部によって算出された操作量をi次制御部の目標値に変換するように構成された(n-1)個の目標値変換部と、これら目標値変換部で用いるパラメータと近似式とを設定するように構成された設定部とを備え、n個の前記制御部のうち、1次から(n-1)次の各制御部は、算出した操作量を直後の前記目標値変換部に出力し、最終段のn次の制御部は、算出した操作量を制御対象の操作端に出力し、各目標値変換部は、(i-1)次制御部の目標値をSP
i-1
、(i-1)次制御部の制御量をPV
i-1
、(i-1)次制御部によって算出された操作量をMV
i-1
、i次制御部の目標値をSP
i
、予め設定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値をH
i
、予め設定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値をL
i
、(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
とi次制御部の制御量PV
i
との関係を示す近似式から求まる基準量をf(PV
i-1
)、(i-1)次制御部の目標値SP
i-1
とi次制御部の目標値SP
i
との関係を示す近似式から求まる基準量をf(SP
i-1
)としたとき、SP
i
=(H
i
-L
i
)/100×MV
i-1
+L
i
+f(PV
i-1
)またはSP
i
=(H
i
-L
i
)/100×MV
i-1
+L
i
+f(SP
i-1
)により、(i-1)次制御部によって算出された操作量MV
i-1
をi次制御部の目標値SP
i
に変換し、前記設定部は、近似式設定のための測定時に、n次制御部から複数の所定の測定用操作量を制御対象の操作端に順次出力させるように構成された操作量設定部と、各測定用操作量に対する1次からn次の各制御部の整定時制御量を測定用操作量毎に取得するように構成された制御量取得部と、この制御量取得部によって取得された整定時制御量に基づいて、(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
とi次制御部の制御量PV
i
との関係または(i-1)次制御部の目標値SP
i-1
とi次制御部の目標値SP
i
との関係を示す近似式をi次目標値変換部毎に導出するように構成された近似式導出部と、この近似式導出部によってi次目標値変換部毎に導出された近似式をそれぞれ対応するi次目標値変換部に設定するように構成された近似式設定部とを含むことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明は、n(nは2以上の整数)個の制御部が縦続接続されたカスケード制御系の制御装置において、それぞれ目標値と制御量とを入力として操作量を算出するように構成されたn個の前記制御部と、(i-1)次(iは2~nの整数)制御部とi次制御部との間に設けられ、(i-1)次制御部によって算出された操作量をi次制御部の目標値に変換するように構成された(n-1)個の目標値変換部と、これら目標値変換部で用いるパラメータと近似式とを設定するように構成された設定部とを備え、n個の前記制御部のうち、1次から(n-1)次の各制御部は、算出した操作量を直後の前記目標値変換部に出力し、最終段のn次の制御部は、算出した操作量を制御対象の操作端に出力し、各目標値変換部は、(i-1)次制御部の目標値をSP
i-1
、(i-1)次制御部の制御量をPV
i-1
、(i-1)次制御部によって算出された操作量をMV
i-1
、i次制御部の目標値をSP
i
、予め設定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値をH
i
、予め設定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値をL
i
、(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
とi次制御部の制御量PV
i
との関係を示す近似式から求まる基準量をf(PV
i-1
)、(i-1)次制御部の目標値SP
i-1
とi次制御部の目標値SP
i
との関係を示す近似式から求まる基準量をf(SP
i-1
)としたとき、SP
i
=(H
i
-L
i
)/100×MV
i-1
+L
i
+f(PV
i-1
)またはSP
i
=(H
i
-L
i
)/100×MV
i-1
+L
i
+f(SP
i-1
)により、(i-1)次制御部によって算出された操作量MV
i-1
をi次制御部の目標値SP
i
に変換し、前記設定部は、近似式設定のための測定時に、n次制御部から複数の所定の測定用操作量を制御対象の操作端に順次出力させるように構成された操作量設定部と、各測定用操作量に対する1次からn次の各制御部の整定時制御量を測定用操作量毎に取得するように構成された制御量取得部と、この制御量取得部によって取得された整定時制御量に基づいて、(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
とi次制御部の制御量PV
i
との関係または(i-1)次制御部の目標値SP
i-1
とi次制御部の目標値SP
i
との関係を示す近似式をi次目標値変換部毎に導出するように構成された近似式導出部と、この近似式導出部によってi次目標値変換部毎に導出された近似式をそれぞれ対応するi次目標値変換部に設定するように構成された近似式設定部と、初段の1次制御部の目標値SP
1
の変更に対して(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
の所望の制御応答が得られることを条件として、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅が可能な限り狭くなるように、前記i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
i
と前記i次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
i
とをi次目標値変換部毎に決定するように構成された上下限値決定部と、この上下限値決定部によってi次目標値変換部毎に決定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
i
とi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
i
とをそれぞれ対応するi次目標値変換部に設定するように構成された上下限値設定部とを含むことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記近似式導出部は、前記測定用操作量の全範囲における(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
とi次制御部の制御量PV
i
との関係を示す1つの近似式、または前記測定用操作量の全範囲における(i-1)次制御部の目標値SP
i-1
とi次制御部の目標値SP
i
との関係を示す1つの近似式を導出することを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記近似式導出部は、前記測定用操作量の全範囲のうち、隣接する値の測定用操作量の組毎に、(i-1)次制御部の制御量PV
i-1
とi次制御部の制御量PV
i
との関係または(i-1)次制御部の目標値SP
i-1
とi次制御部の目標値SP
i
との関係を示す近似式を導出し、近似式設定後の各目標値変換部は、設定された複数の近似式のうち、n次制御部から出力された操作量に対応する近似式を用いて、(i-1)次制御部によって算出された操作量MV
i-1
をi次制御部の目標値SP
i
に変換することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、主制御部目標値と副制御部目標値とが異なる種類の物理量であっても適用可能な制御装置を実現することができる。従来技術では、主制御部目標値の変更に対してイベント検出を必要としたが、本発明によれば、主制御部目標値の変更に対してイベントによる係数の変換を必要とせず、より連続的な制御の挙動を実現できるため、円滑かつ安定的な制御応答を得ることができる。また、本発明では、(i-1)次制御部の制御量とi次制御部の制御量との関係または(i-1)次制御部の目標値とi次制御部の目標値との関係を示す近似式を導出して目標値変換部に設定するので、線形な制御対象、非線形な制御対象のいずれにも対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例に係る制御装置の設定部の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に係る制御装置の制御動作を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の実施例に係る制御装置の設定部の動作を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施例における整定時制御量測定時の操作量変更を説明する図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例における(i-1)次制御部制御量とi次制御部制御量との関係の1例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例における(i-1)次制御部目標値とi次制御部目標値との関係の1例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例に係る制御装置の上下限値決定部の動作を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の実施例に係る制御対象の1例を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施例に係る制御装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、従来のカスケード制御系の構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、従来のカスケード制御系の別の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、主制御部から出力される操作量MVi-1を副制御部目標値SPiに変換する際、主制御部操作量MVi-1と副制御部目標値SPiとに依存関係がある場合、つまりは独立変数である主制御部操作量MVi-1が決定されると従属変数である副制御部目標値SPiが決定される関係にある場合に、主制御部目標値SPi-1と副制御部目標値SPiの物理量の違いをパラメータ設定によって吸収することを可能とした制御装置である。
【0020】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例に係る制御装置の構成を示すブロック図である。制御装置は、縦続接続されたn(nは2以上の整数)個の制御部1
1~1
nと、(i-1)次(iは2~nの整数)制御部1
i-1とi次制御部1
iとの間に設けられ、(i-1)次制御部1
i-1によって算出された操作量MV
i-1をi次制御部1
iの目標値SP
iに変換する(n-1)個の目標値変換部2
2~2
nと、目標値変換部2
2~2
nで用いるパラメータと近似式とを設定する設定部3とから構成される。
【0021】
図2は設定部3の構成を示すブロック図である。設定部3は、近似式設定のための測定時に、n次制御部1
nから複数の所定の測定用操作量MV
nを制御対象の操作端に順次出力させる操作量設定部30と、各測定用操作量MV
nに対する各制御部1
1~1
nの整定時制御量PV
1~PV
nを測定用操作量MV
n毎に取得する制御量取得部31と、制御量取得部31によって取得された整定時制御量PV
1~PV
nに基づいて、(i-1)次制御部制御量PV
i-1とi次制御部制御量PV
iとの関係または(i-1)次制御部目標値SP
i-1とi次制御部目標値SP
iとの関係を示す近似式を目標値変換部毎に導出する近似式導出部32と、近似式導出部32によって目標値変換部毎に導出された近似式をそれぞれ対応する目標値変換部2
2~2
nに設定する近似式設定部33と、i次制御部1
iの目標値SP
iの上下限を設定するためのi次制御部目標値スケーリング・リミット上下限値の初期値を設定する上下限初期設定部34と、1次制御部1
1の目標値SP
1の変更に対して(i-1)次制御部1
i-1の制御量PV
i-1の所望の制御応答が得られることを条件として、i次目標値スケーリング・リミット上下限幅が可能な限り狭くなるように、i次目標値スケーリング・リミット上下限値を目標値変換部毎に決定する上下限値決定部35と、上下限値決定部35によって目標値変換部毎に決定されたi次目標値スケーリング・リミット上下限値をそれぞれ対応する目標値変換部2
2~2
nに設定する上下限値設定部36と、各制御部1
1~1
nのPIDパラメータ(比例帯、積分時間、微分時間)を調整するPIDパラメータ調整部37とから構成される。
【0022】
上下限値決定部35は、目標値入力部350と、到達時間計測部351と、振動量計測部352と、上下限調整部353とから構成される。
【0023】
図3は本実施例の制御装置の制御動作を説明するフローチャートである。1次制御部1
1の目標値SP
1は、制御装置のユーザーによって設定され、1次制御部1
1に入力される(
図3ステップS100)。
1次制御部1
1の制御量PV
1は、1次プロセス4
1に設けられたセンサ(不図示)によって計測され、1次制御部1
1に入力される(
図3ステップS101)。
【0024】
1次制御部1
1は、目標値SP
1と制御量PV
1とを入力として、制御量PV
1が目標値SP
1と一致するように周知のPID制御演算により操作量MV
1を算出する(
図3ステップS102)。
【0025】
2次目標値変換部2
2は、1次制御部1
1から出力された操作量MV
1を、式(4)の変換式により2次制御部1
2の目標値SP
2に変換して2次制御部1
2に出力する(
図3ステップS103)。
SP
2=(H
2-L
2)/100×MV
1+L
2+f(SP
1) ・・・(4)
【0026】
式(4)において、H2(%)は2次制御部目標値スケーリング・リミット上限値、L2(%)は2次制御部目標値スケーリング・リミット下限値、f(SP1)は1次制御部目標値SP1と2次制御部目標値SP2との関係を示す近似式から求まる基準量である。
【0027】
なお、2次目標値変換部22は、1次制御部目標値SP1の代わりに、1次制御部制御量PV1を用いる以下の式(5)により2次制御部目標値SP2を算出するようにしてもよい。
SP2=(H2-L2)/100×MV1+L2+f(PV1) ・・・(5)
【0028】
式(5)において、f(PV
1)は1次制御部制御量PV
1と2次制御部制御量PV
2との関係を示す近似式から求まる基準量である。
2次制御部1
2の制御量PV
2は、2次プロセス4
2に設けられたセンサ(不図示)によって計測され、2次制御部1
2に入力される(
図3ステップS104)。
2次制御部1
2は、目標値SP
2と制御量PV
2とを入力として、制御量PV
2が目標値SP
2と一致するように周知のPID制御演算により操作量MV
2を算出する(
図3ステップS105)。
【0029】
3次目標値変換部2
3は、2次制御部1
2から出力された操作量MV
2を、式(6)の変換式により3次制御部1
3の目標値SP
3に変換して3次制御部1
3に出力する(
図3ステップS106)。
SP
3=(H
3-L
3)/100×MV
2+L
3+f(SP
2) ・・・(6)
【0030】
式(6)において、H3(%)は3次制御部目標値スケーリング・リミット上限値、L3(%)は3次制御部目標値スケーリング・リミット下限値、f(SP2)は2次制御部目標値SP2と3次制御部目標値SP3との関係を示す近似式から求まる基準量である。
【0031】
なお、3次目標値変換部23は、2次制御部目標値SP2の代わりに、2次制御部制御量PV2を用いる以下の式(7)により3次制御部目標値SP3を算出するようにしてもよい。
SP3=(H3-L3)/100×MV2+L3+f(PV2) ・・・(7)
【0032】
式(7)において、f(PV
2)は2次制御部制御量PV
2と3次制御部制御量PV
3との関係を示す近似式から求まる基準量である。
こうして、1次、2次、3次・・・・と順番に処理が実施される。次に、n次目標値変換部2
nは、(n-1)次制御部(不図示)から出力された操作量MV
n-1を、式(8)の変換式によりn次制御部1
nの目標値SP
nに変換してn次制御部1
nに出力する(
図3ステップS107)。
SP
n=(H
n-L
n)/100×MV
n-1+L
n+f(SP
n-1) ・・・(8)
【0033】
式(8)において、Hn(%)はn次制御部目標値スケーリング・リミット上限値、Ln(%)はn次制御部目標値スケーリング・リミット下限値、f(SPn-1)は(n-1)次制御部目標値SPn-1とn次制御部目標値SPnとの関係を示す近似式から求まる基準量である。
【0034】
なお、n次目標値変換部2nは、(n-1)次制御部目標値SPn-1の代わりに、(n-1)次制御部制御量PVn-1を用いる以下の式(9)によりn次制御部目標値SPnを算出するようにしてもよい。
SPn=(Hn-Ln)/100×MVn-1+Ln+f(PVn-1) ・・・(9)
【0035】
式(9)において、f(PVn-1)は(n-1)次制御部制御量PVn-1とn次制御部制御量PVnとの関係を示す近似式から求まる基準量である。
i(iは2~nの整数)次制御部1iの目標値SPiについて式(4)~式(9)を一般化すると、以下のようになる。
SPi=(Hi-Li)/100×MVi-1+Li+f(SPi-1) ・・・(10)
SPi=(Hi-Li)/100×MVi-1+Li+f(PVi-1) ・・・(11)
【0036】
次に、n次制御部1
nの制御量PV
nは、n次プロセス4
nに設けられたセンサ(不図示)によって計測され、n次制御部1
nに入力される(
図3ステップS108)。
n次制御部1
nは、目標値SP
nと制御量PV
nとを入力として、制御量PV
nが目標値SP
nと一致するように周知のPID制御演算により操作量MV
nを算出してn次プロセス4
nに出力する(
図3ステップS109)。操作量MV
nの出力先は例えばバルブ等の操作端となる。
以上のようなステップS100~S109の処理を、制御装置の動作が終了するまで(
図3ステップS110においてYES)、制御周期毎に繰り返し実行する。
【0037】
次に、以上のような制御動作の前に行われる、設定部3によるパラメータH
2~H
n,L
2~L
nと近似式f(SP
i-1),f(PV
i-1)の設定動作を
図4を参照して説明する。
ここでは、(i-1)次制御部1
i-1(iは2~nの整数)を主制御部、後段のi次制御部1
iを副制御部として代表的に説明する。
【0038】
次に、設定部3は、以下のように操作量MV
n(測定用操作量)の値を変更しながら整定時制御量PV
1,PV
2,・・・・,PV
nを測定する。
まず、設定部3の操作量設定部30は、n次制御部1
nに対して所定の操作量MV
n(例えばMV
n=0%)を出力するように指示する(
図4ステップS200)。一般に、制御部は、外部から設定された値の操作量MVを出力するマニュアルモードを備えているので、このようなマニュアルモードを利用することにより、操作量MV
nの固定出力が可能である。
【0039】
続いて、設定部3の制御量取得部31は、n次プロセス4
nに操作量MV
nが出力されている場合の整定時の制御量PV
1,PV
2,・・・・,PV
nを取得して記憶する(
図4ステップS201)。
【0040】
次に、操作量設定部30は、予め定められた操作量MV
nの出力を終えていない場合(
図4ステップS202においてNO)、n次制御部1
nに対して次に出力すべき操作量MV
nの値に変更するように指示して(
図4ステップS203)、ステップS201に戻る。操作量MV
nの変更の仕方を
図5に示す。
図5に示すように、操作量設定部30は、操作量MV
nをステップ状に上昇させる。
【0041】
このように、操作量設定部30と制御量取得部31とは、操作量MVnの値を変更しながら、ステップS203,S201の処理を繰り返し実施する。こうして、0~100%の各操作量MVnに対する整定時制御量PV1,PV2,・・・・,PVnを取得することができる。
【0042】
操作量MV
n=0~100%の範囲中の、予め定められた各操作量MV
nについて整定時制御量PV
1,PV
2,・・・・,PV
nを取得し終えた時点で測定終了となり(ステップS202においてYES)、操作量設定部30は、n次制御部1
nに対して操作量MV
nの出力を停止するよう指示する(
図4ステップS204)。
【0043】
次に、設定部3の近似式導出部32は、制御量取得部31によって取得された、各操作量MV
nに対する整定時制御量PV
i-1,PV
iに基づいて、(i-1)次制御部制御量PV
i-1とi次制御部制御量PV
iとの関係を示す近似式PV
i=f(PV
i-1)を導出する(
図4ステップS205)。
【0044】
(i-1)次制御部制御量PV
i-1とi次制御部制御量PV
iとの関係の1例を
図6に示す。(i-1)次制御部制御量PV
i-1(目標値SP
i-1)とi次制御部制御量PV
i(目標値SP
i)との静的関係は、制御対象により異なるが、近似式で与えられるものと考えられる。そこで、上記のように操作量MV
nの値を変更しながら、各操作量MV
nに対する整定時制御量PV
i-1,PV
i(定常値)を取得し、取得したデータに基づいて、近似式PV
i=f(PV
i-1)を導出すればよい。近似式の導出方法は周知の技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0045】
なお、整定時制御量PV
1,PV
2,・・・・,PV
nは目標値SP
1,SP
2,・・・・,SP
nとほぼ同一の値となるので、整定時制御量PV
1,PV
2,・・・・,PV
nを目標値SP
1,SP
2,・・・・,SP
nとみなすことができる。このときの(i-1)次制御部目標値SP
i-1とi次制御部目標値SP
iとの関係の1例を
図7に示す。
【0046】
図7から明らかなように、近似式導出部32は、各操作量MV
nに対する目標値SP
i-1,SP
iに基づいて、(i-1)次制御部目標値SP
i-1とi次制御部目標値SP
iとの関係を示す近似式SP
i=f(SP
i-1)を導出してもよい(ステップS205)。
【0047】
近似式導出部32は、操作量MVn=0~100%の全範囲における制御量PVi-1(目標値SPi-1)と制御量PVi(目標値SPi)との関係を示す1つの連続近似式PVi=f(PVi-1)またはSPi=f(SPi-1)を導出すればよい。
【0048】
また、近似式導出部32は、ある操作量MV
n=α%のときの整定時制御量PV
i-1,PV
i(目標値SP
i-1,SP
i)と、この操作量MV
n=α%に隣接する操作量MV
n=β%のときの整定時制御量PV
i-1,PV
i(目標値SP
i-1,SP
i)とに基づいて、操作量MV
n=α%とMV
n=β%間の制御量PV
i-1(目標値SP
i-1)と制御量PV
i(目標値SP
i)との関係を示す近似式PV
i=f(PV
i-1)またはSP
i=f(SP
i-1)を導出してもよい。この場合には、
図6、
図7から明らかなように、上記の整定時制御量PV
1,PV
2,・・・・,PV
nの測定時に出力された操作量MV
n=0~100%のうち、隣接する値の操作量MV
nの組毎に近似式を導出すればよい。
【0049】
近似式導出部32が導出する近似式は、線形の近似式でもよいし、非線形の近似式でもよいことは言うまでもない。
次に、設定部3の近似式設定部33は、i次目標値変換部2
iに対して、近似式導出部32によって導出された近似式f(PV
i-1)またはf(SP
i-1)を設定する(
図4ステップS206)。
近似式導出部32と近似式設定部33とは、i次目標値変換部2
i(iは2~nの整数)毎にステップS205,S206の処理を実施すればよい。
【0050】
なお、上記のように近似式導出部32が、隣接する操作量MVnの組毎に近似式を導出した場合には、複数の近似式f(PVi-1)または複数の近似式f(SPi-1)がi次目標値変換部2iに設定されることになる。この場合、近似式設定後のi次目標値変換部2iは、設定された複数の近似式f(PVi-1)または複数の近似式f(SPi-1)のうち、式(10)または式(11)で用いる近似式を、直前の制御周期で出力された操作量MVnに対応する近似式f(PVi-1)またはf(SPi-1)に切り替えることにより、(i-1)次制御部操作量MVi-1をi次制御部目標値SPiに変換する。
【0051】
次に、設定部3の上下限初期設定部34は、上記のように近似式f(PV
i-1)またはf(SP
i-1)が設定された後に、i次目標値変換部2
iに対して、i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iとi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iのそれぞれの初期値を設定する(
図4ステップS207)。
【0052】
試行時間の短縮、装置の安全操業を考慮して、i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値Hiの初期値を、i次制御部1iの制御量PViの既知の上限値とし、i次制御部目標値スケーリング・リミット下限値Liの初期値を、i次制御部1iの制御量PViの既知の下限値とする。
上下限初期設定部34(iは2~nの整数)は、i次目標値変換部2i毎にステップS207の処理を実施すればよい。
【0053】
次に、設定部3のPIDパラメータ調整部37は、各制御部1
1~1
nのPIDパラメータ(比例帯、積分時間、微分時間)を調整する(
図4ステップS208)。各制御部1
1~1
nのPIDパラメータ調整方法は周知の技術であるので、詳細な説明は省略する。なお、PIDパラメータの調整の際には、n次制御部1
n→(n-1)次制御部1
n-1→・・・・→2次制御部1
2→1次制御部1
1の順に調整を行う必要がある。また、本実施例では、PIDパラメータ調整部37を制御装置の内部に設けているが、外部に設けるようにしてもよい。
【0054】
次に、設定部3の上下限値決定部35は、1次制御部目標値SP
1の変更に対して(i-1)次制御部制御量PV
i-1の所望の制御応答が得られることを条件として、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅(H
iとL
iとの差)が可能な限り狭くなるように、i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iとi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iとを決定する(
図4ステップS209)。
【0055】
i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅を狭めることは、(i-1)次制御部制御量PVi-1を安定化させ易くする一方で、(i-1)次制御部制御量PVi-1の目標値到達時間短縮のポテンシャルを弱める方向に作用する。したがって、(i-1)次制御部制御量PVi-1の所望の制御応答が得られる範囲で、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅をできるだけ狭めるようにする。
【0056】
i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値Hiとi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値Liとは、主制御部である(i-1)次制御部1i-1の制御量PVi-1の安定化と、制御量PVi-1の目標値到達時間などの制御特性や経時変化等の環境変動等の許容特性などとのトレードオフで決めるべき値である。このi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値Hiとi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値Liとは、コントローラゲインがある程度定まっていないと設定することが困難である。
【0057】
例えば、(i-1)次制御部1i-1のコントローラゲインが強めの調整結果となった場合、(i-1)次制御部制御量PVi-1の制御応答は振動的になり易く、この状況でi次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅を広めに選ぶと、制御量PVi-1の制御応答がさらに振動的傾向となる。そのため、i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値Hiとi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値Liとは、制御量PVi-1の制御応答に基づいて決める必要がある。
【0058】
図8は上下限値決定部35の動作を説明するフローチャートである。上下限値決定部35の目標値入力部350は、1次制御部1
1に所定の目標値SP
1を入力し(
図8ステップS300)、一定時間経過後(例えば制御系が整定するのに十分な時間の経過後)に目標値SP
1を所定の目標値変更幅だけ変更する(
図8ステップS301)。
【0059】
上下限値決定部35の到達時間計測部351は、1次制御部目標値SP
1が変更されたときから、(i-1)次制御部制御量PV
i-1が(i-1)次制御部目標値SP
i-1に到達するまでの目標値到達時間T
i-1を計測する(
図8ステップS302)。
【0060】
上下限値決定部35の振動量計測部352は、1次制御部目標値SP
1が変更された後に、(i-1)次制御部制御量PV
i-1が(i-1)次制御部目標値SP
i-1に到達したときから所定の振動量計測時間が経過するまでの間の(i-1)次制御部目標値SP
i-1と(i-1)次制御部制御量PV
i-1との偏差(SP
i-1-PV
i-1)の絶対値の積算値である振動量D
i-1を計測する(
図8ステップS303)。
【0061】
上下限値決定部35の上下限調整部353は、振動量計測部352によって計測された振動量D
i-1が所定の振動量指標値以上の場合(
図8ステップS304においてYES)、i次目標値変換部2
iのi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iを所定の上下限値変更幅だけ下げて、i次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iを所定の上下限値変更幅だけ上げることにより、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅を狭めて(
図8ステップS306)、ステップS300に戻る。振動量指標値は、制御対象装置の目的に合わせて予め設定されている。
【0062】
ただし、上下限調整部353は、振動量D
i-1が振動量指標値以上の場合に、i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iが許容可能な最小値に達するか、i次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iが許容可能な最大値に達するかのうち、少なくとも一方が成立していて、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限値が許容範囲外の場合には(
図8ステップS305においてNO)、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅をさらに狭めることはできない。
【0063】
そこで、上下限調整部353は、(i-1)次制御部1
i-1のコントローラゲインを下げて(
図8ステップS307)、ステップS300に戻る。具体的には、上下限調整部353は、(i-1)次制御部1
i-1に設定されている比例帯に、1より大きい所定の係数を乗じることにより、比例帯を上げて(i-1)次制御部1
i-1のコントローラゲインを下げるようにすればよい。i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iの許容可能な最小値、およびi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iの許容可能な最大値は、経時変化等の環境変動等の許容特性から予め設定されている。
【0064】
また、上下限調整部353は、振動量D
i-1が振動量指標値未満の場合に、到達時間計測部351によって計測された目標値到達時間T
i-1が所定の時間指標値以上の場合(
図8ステップS308においてYES)、i次目標値変換部2
iのi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iを所定の上下限値変更幅だけ上げて、i次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iを所定の上下限値変更幅だけ下げることにより、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅を広げて(
図8ステップS310)、ステップS300に戻る。時間指標値は、制御対象装置の目的に合わせて予め設定されている。
【0065】
ただし、上下限調整部353は、目標値到達時間T
i-1が時間指標値以上の場合に、i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iが許容可能な最大値に達するか、i次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iが許容可能な最小値に達するかのうち、少なくとも一方が成立していて、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限値が許容範囲外の場合には(
図8ステップS309においてNO)、i次制御部目標値スケーリング・リミット上下限幅をさらに広げることはできない。
【0066】
そこで、上下限調整部353は、(i-1)次制御部1
i-1のコントローラゲインを上げて(
図8ステップS311)、ステップS300に戻る。具体的には、上下限調整部353は、(i-1)次制御部1
i-1に設定されている比例帯に、1より小さい所定の係数を乗じて、比例帯を下げて(i-1)次制御部1
i-1のコントローラゲインを上げるようにすればよい。i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iの許容可能な最大値は、上限値H
iの上記の初期値と同じであり、i次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iの許容可能な最小値は、下限値L
iの上記の初期値と同じである。
【0067】
こうして、振動量Di-1が振動量指標値未満、かつ目標値到達時間Ti-1が時間指標値未満となるまでステップS300~S311の処理が繰り返し実行され、振動量Di-1が振動量指標値未満、かつ目標値到達時間Ti-1が時間指標値未満となった時点で、i次制御部目標値スケーリング・リミット上限値Hiとi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値Liの決定が完了し、上下限値決定部35の処理が終了する。
【0068】
次に、設定部3の上下限値設定部36は、i次目標値変換部2
iに対して、上下限値決定部35によって決定されたi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値H
iとi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値L
iとを設定する(
図4ステップS210)。
【0069】
上下限値決定部35と上下限値設定部36とは、以上のステップS209(ステップS300~S311),S210の処理を、i=2,3,・・・,nの順(2次目標値変換部2
2→3次目標値変換部2
3→n次目標値変換部2
nの順)にi次目標値変換部2
i毎に実施する。この順番で実施する理由は、低次側の制御部の振動を抑えないと制御を安定化させることが難しいと考えられるからである。
全てのi次目標値変換部2
iについてステップS209,S210の処理が終わった時点で(
図4ステップS211においてYES)、設定部3の処理が終了する。
【0070】
本実施例では、上記の(II)、(III)の方式および特許文献1に開示された技術の問題点を解消することができ、主制御部目標値SPi-1と副制御部目標値SPiとが異なる種類の物理量であっても適用することができる。特許文献1に開示された技術では、減衰率というレシオ係数で(i-1)次制御部操作量の変換を行っているが、単純なレシオだけでは異なる種類の物理量の変換に対応できないため、(i-1)次制御部の目標値変更等何らかのイベントをトリガとした係数変換が必要となる。
【0071】
これに対して、本実施例では、イベントによる係数の変換を必要とせず、目標値スケーリング・リミット上下限値Hi,Liと近似式f(PVi-1)またはf(SPi-1)とにより、(i-1)次制御部目標値SPi-1をi次制御部目標値SPiの物理量に合わせて変換することが可能となる。また、本実施例は、線形な制御対象、非線形な制御対象のいずれにも対応可能である。
【0072】
なお、本実施例では、上下限値決定部35によってi次制御部目標値スケーリング・リミット上限値Hiとi次制御部目標値スケーリング・リミット下限値Liとを決定しているが、これに限るものではなく、ユーザーによって予め決定された上下限値Hi,Liを用いてもよい。
【0073】
図9は本実施例の制御対象の1例を示す図である。この
図9に示したカスケード制御系では、燃焼炉200内に設けられた温度計201によって計測された温度(1次制御部制御量PV
1)が1次制御部1
1に入力される。1次制御部1
1は、操作量MV
1を算出して出力する。2次目標値変換部2
2は、1次制御部操作量MV
1を2次制御部目標値SP
2に変換する。流量発信器202によって計測された燃料流量(2次制御部制御量PV
2)が2次制御部1
2に入力される。2次制御部1
2は、操作量MV
2を算出してバルブ203に出力する。バルブ203によって流量が調整された燃料は、燃焼炉200のバーナ204に供給される。
【0074】
本実施例で説明した制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図10に示す。コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インターフェース装置(以下、I/Fと略する)302とを備えている。I/F302には、例えば温度計、流量発信器等のセンサや、バルブ等の操作端などが接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明のパラメータ設定方法を実現させるためのプログラムは記憶装置301に格納される。CPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【0075】
なお、カスケード制御機能はマルチループ制御装置(調節計)の周知の機能として搭載されている。すなわち、内部に複数の制御部を備えた調節計を用いることで、本発明のように複数の制御部が縦続接続されたカスケード制御系を実現することが可能である。また、個々の制御部を調節計で実現し、複数の調節計を縦続接続して本発明のカスケード制御系を構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、カスケード制御系に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
11~1n…制御部、22~2n…目標値変換部、3…設定部、41~4n…プロセス、30…操作量設定部、31…制御量取得部、32…近似式導出部、33…近似式設定部、34…上下限初期設定部、35…上下限値決定部、36…上下限値設定部、37…PIDパラメータ調整部、350…目標値入力部、351…到達時間計測部、352…振動量計測部、353…上下限調整部。