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特許7089370タップ切換器、およびそれを有する静止誘導機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】タップ切換器、およびそれを有する静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 29/02 20060101AFI20220615BHJP
【FI】
H01F29/02 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018005595
(22)【出願日】2018-01-17
(65)【公開番号】P2019125706
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】塩田 広
(72)【発明者】
【氏名】池田 翔大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇史
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0211890(US,A1)
【文献】米国特許第05744764(US,A)
【文献】実開昭56-058839(JP,U)
【文献】特開2005-311017(JP,A)
【文献】特開2009-269471(JP,A)
【文献】特開2003-276611(JP,A)
【文献】特開2005-170155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線から引き出された複数のタップ線がそれぞれ接続される複数の固定接触子と、前記固定接触子に対して相対的に移動可能であっていずれか2つの前記固定接触子間を電気的に接続する可動接触子と、前記可動接触子が配置されているとともに一部に歯切りが施されているスライド板および前記スライド板の歯に噛み合って回転する歯車で構成される回転機構と、
タンクの外部に設けられ、正転および逆転の回転動作が可能な操作子と、
前記タンクの外部に設けられ、前記操作子を回転させることによって切り替え可能な複数のタップ位置を認識可能に示す識別子と、
前記タンクの内部に設けられ、前記操作子の回転軸と一体且つ同軸に回転する操作側回転体と、
前記操作側回転体に対して互いに逆方向且つ軸方向に異なる位置で巻回され、前記操作子側と前記回転機構側との間を連結し、前記操作子の回転動作を伝達して前記歯車を回転させる2本の操作ケーブルと、
テンションをかけた状態で前記操作ケーブルを収容するアウターチューブと、を備え、
前記識別子は、それぞれのタップ位置を、前記操作子の回転方向に沿った周方向に順番に示しており、
現在のタップ位置から次のタップ位置に切り替える際、前記識別子によって示されている次のタップ位置への回転方向とは逆向きに前記操作子を回転させることにより、次のタップ位置への切り替えを可能にしたことを特徴とするタップ切換器。
【請求項2】
前記歯車の回転軸には、当該回転軸と一体に回転し、2本の前記操作ケーブルの端部がそれぞれ固定されるとともに2本の前記操作ケーブルが互いに逆方向に巻き付けられる駆動側回転体が前記回転機構として設けられており、
前記駆動側回転体に前記操作ケーブルが巻き付けられる際の巻き付け径を、前記歯車のギア径よりも大きくしたことを特徴とする請求項1記載のタップ切換器。
【請求項3】
記操作側回転体に前記操作ケーブルが巻き付けられる際の巻き付け径を、前記回転機構に前記操作ケーブルが巻き付けられる際の巻き付け径よりも小さくしたことを特徴とする請求項1または2記載のタップ切換器。
【請求項4】
前記操作子は、前記タンクを設置した状態における側面に配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のタップ切換器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載のタップ切換器を備えることを特徴とする静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、タップ切換器、およびそれを有する静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばタップ切換器を有する変圧器等の静止誘導機器には、タップ位置を切り替えるためのハンドル等の操作子がタンク外に設けられており、この操作子は、従来では例えば特許文献1のように駆動軸を介してタップ切換器に連結されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-311017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の構造の場合、タップ切換器と操作子との相対位置、より厳密にはタンクの左右方向および前後方向への相対位置が固定されることから、操作子の配置を自由に選択することができず、配置の自由度が低かった。また、従来の構造の場合、操作子がタンクの上部に配置されることから、大型の変圧器等において地上から操作子を操作することが困難であるとともに、タップ位置を地上から確認することも困難であった。
【0005】
そこで、操作子の配置の自由度を高めることができ、操作子の操作やタップ位置の確認を容易に行うことができるタップ切換器、およびそれを有する静止誘導機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のタップ切換器は、巻線から引き出された複数のタップ線がそれぞれ接続される複数の固定接触子と、固定接触子に対して相対的に移動可能であっていずれか2つの固定接触子間を電気的に接続する可動接触子と、可動接触子が配置されているとともに一部に歯切りが施されているスライド板およびスライド板の歯に噛み合って回転する歯車で構成される回転機構と、タンクの外部に設けられ、正転および逆転の回転動作が可能な操作子と、タンクの外部に設けられ、操作子を回転させることによって切り替え可能な複数のタップ位置を認識可能に示す識別子と、タンクの内部に設けられ、操作子の回転軸と一体且つ同軸に回転する操作側回転体と、操作側回転体に対して互いに逆方向且つ軸方向に異なる位置で巻回され、操作子側と回転機構側との間を連結し、操作子の回転動作を伝達して歯車を回転させる2本の操作ケーブルと、テンションをかけた状態で操作ケーブルを収容するアウターチューブと、を備え、識別子は、それぞれのタップ位置を、操作子の回転方向に沿った周方向に順番に示しており、現在のタップ位置から次のタップ位置に切り替える際、識別子によって示されている次のタップ位置への回転方向とは逆向きに操作子を回転させることにより、次のタップ位置への切り替えを可能にしたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の変圧器の構成を模式的に示す図
図2】タップ切換器を模式的に示す図
図3】駆動側回転体を模式的に示す図
図4】操作ケーブルを模式的に示す図
図5】ハンドルおよび操作側回転体を模式的に示す図
図6】アウターチューブを模式的に示す図
図7】駆動側回転体の巻き上げ状態と巻き戻し状態とを模式的に示す図
図8】ハンドルの操作態様を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態における静止誘導機器としての変圧器1は、タンク2、タンク2内に収容されている鉄心3、および巻線としての変圧器巻線4を有する変圧器本体5、タップ切換器6、タンク2の外部に設けられている操作子としてのハンドル7等を備えている。変圧器1のタンク2内は絶縁油(図示省略)が充填されており、変圧器本体5は絶縁油中に浸された状態で収容されている。
【0009】
変圧器本体5を構成する鉄心3は、周知のように例えば薄板状の電磁鋼板を積層することにより構成されている。本実施形態では、鉄心3として3本の脚部を有する三脚鉄心を採用している。この鉄心3の各脚部には、それぞれ変圧器巻線4がそれぞれ設けられている。これら3つの変圧器巻線4は、それぞれU相、V相およびW相の三相に対応したものである。
【0010】
各相の変圧器巻線4は、タンク2の例えば上部に設けられ、タンク2内に連通している3つのブッシング8にそれぞれ接続されている。また、各相の変圧器巻線4は、タップ線9が引き出されており、タップ切換器6のタップ端子10にそれぞれ接続されている。このタップ端子10は、固定接触子に相当する。なお、タップ線9は、周知であるので詳細な説明は省略するが、変圧器1の巻き数比を可変にするために設けられている。
【0011】
より具体的には、タップ切換器6は、図2に示すように、6個ずつのタップ端子10が各相に対応してそれぞれ設けられている端子板11、各相のいずれか2つのタップ端子10間を電気的に接続する3つの可動接触子12が設けられているとともにその一部に歯切りが施されているスライド板13、および、スライド板13の歯切り部13aと噛み合って回転することによりスライド板13を直線状にスライドさせる歯車14とを備えている。これらスライド板13と歯車14とは、後述する駆動側回転体15とともに、いわゆるラックアンドピニオン式の回転機構を構成している。
【0012】
端子板11に設けられている各相の6個のタップ端子10を左方側つまりは歯車14とは逆側から順に1番~6番とすると、端子板11には、各相の1番から6番までのタップ端子10が互いに距離(T)の等間隔で配置されているとともに、他相の同じ番号のタップ端子10までの距離が等しくなるように配置されている。また、スライド板13に設けられている3つの可動接触子12は、互いの間隔が等しく配置されている。
【0013】
そのため、U相に対応する可動接触子12が1番目と2番目のタップ端子10間を電気的に接続する位置にある場合、V相に対応する可動接触子12も1番目と2番目のタップ端子10間を電気的に接続する位置にあり、W相に対応する可動接触子12も1番目と2番目のタップ端子10間を電気的に接続する位置にあることになる。
【0014】
なお、図示は省略するが、タップ端子10は端子板11を貫通しており、端子板11の背面側つまりはスライド板13側に突出している部位において可動接触子12によって電気的に接続される構造となっている。以下、各相の可動接触子12が1番目と2番目のタップ端子10間を電気的に接続するタップ位置を第1位置(P1)と称し、2番目と3番目のタップ端子10間を電気的に接続するタップ位置を第2位置(P2)と称し、3番目と4番目のタップ端子10間を電気的に接続するタップ位置を第3位置(P3)と称し、4番目と5番目のタップ端子10間を電気的に接続するタップ位置を第4位置(P4)と称し、5番目と6番目のタップ端子10間を電気的に接続するタップ位置を第5位置(P5)と称する。
【0015】
また、可動接触子12を例えば第1位置(P1)から第2位置(P2)等の隣り合う位置まで移動させることを、便宜的に1タップ分の移動とも称する。なお、図2は、可動接触子12が第1位置(P1)にある状態を模式的に示している。ただし、本実施形態で示すタップ端子10の数やタップ位置の数は一例であり、これに限定されるものではない。
【0016】
タップ切換器6のタップ位置の切り替えは、タンク2に設けられているハンドル7を操作することによって行われる。このハンドル7は、作業者が操作するものであり、正転および逆転の回転動作が可能となっている。ここでは、正転は作業者から見て時計回りの回転動作、逆転はその逆の作業者から見て反時計回りの回転動作であるものとする。
【0017】
また、ハンドル7は、本実施形態では図1に示すタンク2の正面視において右側面に設けているが、左側面や正面あるいは背面に設けることもできる。すなわち、ハンドル7は、タンク2の側面すなわち地面から垂直に立ち上がっているいずれかの側面に、地上から操作および視認が可能な位置設けることができる。なお、タンク2の上面に取り付けることも勿論可能である。
【0018】
ハンドル7側とタップ切換器6側とは、ハンドル7の正転および逆転の回転動作をタップ切換器6側まで伝達する2本の操作ケーブル16(図7参照)によって接続されている。より具体的には、タップ切換器6の歯車14の回転軸となる駆動側軸部材14aには、歯車14を回転させる回転機構として、駆動側軸部材14aと一体且つ同軸に回転する駆動側回転体15が設けられている。この駆動側回転体15は、図3に模式的に示すように、中心に駆動側軸部材14aを通すための貫通孔15aが形成された薄い円板状であって、側面視における角部が曲面状に面取りされた形状に形成されている。
【0019】
また、駆動側回転体15は、その外周面に厚み方向の異なる位置に2つのケーブル溝15bが形成されているとともに、それぞれのケーブル溝15bに対応して図4に示す操作ケーブル16の端部の接続端子16aを収容する収容部15cが設けられている。この収容部15cは、平面視において駆動側回転体15の周方向に120°ずれた位置に形成されている。つまり、2本の操作ケーブル16は、それぞれの一端側が歯車14側つまりは駆動側回転体15に固定されている。そして、詳細は後述するが、2本の操作ケーブル16は、互いに逆方向に巻き付けられることにより、ハンドル7の正転および逆転の回転動作に伴って駆動側回転体15を引っ張ることで歯車14を回転させる。
【0020】
この駆動側回転体15は、ケーブル溝15bが形成されている部分の直径つまりは操作ケーブル16が巻き付けられる際の巻き付け径が、D1に設定されている。この巻き付け径(D1)は、回転機構における操作ケーブル16の巻き付け径にも相当する。また、巻き付け径(D1)は、同軸で回転することになる歯車14のギア径(D2)よりも大きく設定されている。なお、巻き付け径(D1)とギア径(D2)との関係の詳細については後述する。
【0021】
この操作ケーブル16の他端側は、ハンドル7側に接続されている。より具体的には、図5に模式的に示すように、操作ケーブル16の他端側は、ハンドル7側に設けられている操作側回転体18に固定されている。なお、図5には簡略化した図を示しているが、ハンドル7および操作側開単体18は、タンク2の内外に水密且つ気密に設けられている。
【0022】
この操作側回転体18は、概ね円柱状に形成されており、その外周面には、操作ケーブル16を整列して巻き付けるための螺旋溝18aが形成されている。なお、操作ケーブル16の端部は、駆動側回転体15と同様に接続端子16aを設ける構成とすることもできるが、適切な長さにするためにカシメ等により端部を固定する構成とすることができる。
【0023】
この操作側回転体18は、ハンドル7の回転軸である操作側軸部材7aに取り付けられ、操作側軸部材7aと一体且つ同軸に回転するとともに、2本の操作ケーブル16が互いに逆方向に巻き付けられる。このとき、螺旋溝18aの直径つまりは各操作ケーブル16が巻き付けられる巻き付け径(D3)は、駆動側回転体15の巻き付け径(D1)よりも小さく設定されている。なお、巻き付け径(D3)と巻き付け径(D1)との関係の詳細については後述する。
【0024】
また、駆動側回転体15と操作側回転体18との間には、図6に示すアウターチューブ19が設けられている。このアウターチューブ19は、それぞれの操作ケーブル16を摺動可能且つテンションをかけた状態で収容する。ここで、テンションをかけた状態とは、駆動側回転体15から操作側回転体18まで操作ケーブル16がピンと張った緊張状態が保たれている状態を意味している。このアウターチューブ19は、チューブ本体19aと、チューブ本体19aの少なくとも一方側に設けられているアジャスタ19bとにより構成されている。
【0025】
このアジャスタ19bは、駆動側回転体15から操作側回転体18までの経路の途中に固定的に例えば弧を描くように配置されており、アジャスタ19bを例えば回転させることによってチューブ本体19aの長手方向にアジャスタ19bを相対的に移動させて弧の半径を変更することで、操作ケーブル16のテンションを調整可能な構成となっている。なお、操作ケーブル16の経路には、アジャスタ19bの代わりに、あるいはアジャスタ19bに加えてテンションを調整するための調整機構を設ける構成とすることもできるし、操作ケーブル16の向きを概ね直角に変更する位置には可動ローラを設ける構成とすることもできる。また、操作ケーブル16の経路に複数のアウターチューブ19を設けた構成とすることもできる。
【0026】
次に、上記した構成の作用について説明する。
前述のように、従来構造の場合には操作子の位置が固定されることから、操作子の配置を自由に選択することができず、操作子をタンク2の上部に配置する必要があることから、特に大型の変圧器において地上から操作子を操作したり、タップ位置を地上から確認したりすることが困難であった。また、タップ切換器6が大型化すると、操作子の回転トルクも増加することから、操作に大きな力が必要になるという問題がある。
【0027】
そこで、本実施形態では、以下のようにして操作子ここではハンドル7の配置の自由度を高めることができ、ハンドル7の操作やタップ位置の確認を地上から容易に行うことができるようにしている。
【0028】
まず、本実施形態の変圧器1は、上記したように作業者が操作するハンドル7側とタップを切り替えるタップ切換器6側とを2本の操作ケーブル16により接続している。これにより、操作ケーブル16の経路を様々にとることが可能となり、タップ切換器6に対するハンドル7の相対的な位置を自由に選択することができる。したがって、例えばハンドル7を地上から操作したりタップ位置を確認できる位置に配置したりする等、ハンドル7の配置の自由度を高めることができる。
【0029】
また、実施形態では、駆動側回転体15の巻き付け径(D1)を歯車14のギア径(D2)よりも大きく設定するとともに、操作側回転体18の巻き付け径(D3)を駆動側回転体15の巻き付け径(D1)よりも小さく設定している。これにより、以下に説明するように、タップを切り替える際にハンドル7に加える力を小さくすることができる。
【0030】
図7は、駆動側回転体15を上方から視た平面視で、第1位置(P1)~第5位置(P5)の位置とともに示している。この駆動側回転体15には、周方向に6等分した位置のうち5つの位置に第1位置(P1)~第5位置(P5)が割り当てられている。つまり、本実施形態では、駆動側回転体15の回転が1回転未満となる状態で、可動接触子12を第1位置(P1)~第5位置(P5)まで移動させることが可能になる。
【0031】
この場合、操作ケーブル16を駆動側回転体15に複数回巻き付ける必要等が無いため、駆動側回転体15の形状や実際の製造を簡略化することができる。以下、可動接触子12が第1位置(P1)に位置している状態を巻き戻し状態と称し、可動接触子12が第5位置(P5)に位置している状態を巻き上げ状態と称して説明する。また、説明の簡略化のために、巻戻す際に駆動側回転体15を引っ張って矢印CWで示す向きに駆動側回転体15を回転させる操作ケーブル16を巻き戻し側の操作ケーブル16Aと称し、巻き上げる際に駆動側回転体15を引っ張って矢印CCWで示す向きに駆動側回転体15を回転させる操作ケーブル16を巻き上げ側の操作ケーブル16Bと称する。
【0032】
このとき、駆動側回転体15は歯車14と一体に回転することから、図7に示す巻き戻し状態と巻き上げ状態とにおける操作ケーブル16の見かけ上の差分の距離(L1)は、可動接触子12を第1位置(P1)から第5位置(P5)まで移動させる際に必要となる長さに相当することになる。
【0033】
ここで、見かけ上と称しているのは、実際には操作ケーブル16の端部の位置が移動する訳ではなく、操作側回転体18に巻き付けられている操作ケーブル16の長さが変化するためである。なお、図7に示す巻き戻し状態の場合、操作側回転体18側では図5に示したように巻き戻し側の操作ケーブル16Aが多く巻き付けられ、巻き戻し側の操作ケーブル16Bがほぼ送り出された状態となっている。
【0034】
この場合、歯車14のギア径(D2)よりも駆動側回転体15の巻き付け径(D1)を大きくすれば、より小さい力で歯車14を回転させることが可能になる。そのため、歯車14のギア径(D2)と駆動側回転体15の巻き付け径(D1)とは、以下の(1)式の関係を満たすように設定されている。
D1>D2 ・・・(1)
【0035】
また、駆動側回転体15の回転量と歯車14の回転量とは1対1の関係にあることから、巻き付け径(D1)の1周分の長さのうち1/6周分が1タップ分の移動距離つまりはタップ端子10間の距離(T)に相当する。そのため、歯車14のギア径(D2)と駆動側回転体15の巻き付け径(D1)とは、以下の(2)式の関係を満たすように設定されている。
(1/6)・D1・π=T ・・・(2)
【0036】
なお、駆動側回転体15および歯車14は機械加工により製造されることから、例えばT=40mmの場合にはD1=150mmとする等、所定の許容差を設けて概ね(2)式を満たす範囲に設定することで製造性が過度に悪化してしまうことを抑制できる。
【0037】
さて、タップ切換器6側においては上記したように必要な距離だけ移動できるように巻き付け径(D1)とギア径(D2)とを設定すればよいが、ハンドル7側においては、操作する際に要する力を小さくすること以外にも検討すべき事項が存在する。具体的には、ハンドル7は作業者が操作するものであることから、作業者が現在のタップ位置と切り替えるべきタップ位置とを把握できること、各タップ位置を明確に区分けして認識できること、および、誤った操作をしないこと等が求められる。
【0038】
このうち、作業者が現在のタップ位置と切り替えるべきタップ位置とを把握できることについては、図8に示すように、例えば銘板や刻印等により「P1」、「P2」、「P3」、「P4」、「P5」等の文字による識別子(M1)をハンドル7の回転方向を例えば周方向に6等分したうちの5つの位置に配置することにより、現在のタップ位置、切り替えるべきタップ位置および操作すべき方向を把握できるとともに、各タップ位置を明確に区分けして認識できると考えられる。
【0039】
また、「巻き戻し」、「巻き上げ」といった文字および矢印等による識別子(M2)を配置することにより、誤った操作をしないようにすることができると考えられる。なお、巻き戻しの場合には、反時計回りに300°回転させることにより、次のタップ位置に切り替えることができる。
【0040】
ところで、ハンドル7を回転させる際に要する力を小さくする場合には、単純に言えば操作側回転体18の巻き付け径(D3)を駆動側回転体15の巻き付け径(D1)よりも大きくすれば、より小さい力で操作することができると考えられる。しかし、そのような関係にしてしまうと、上記した6等分の配置ができずに切り替え位置間の距離を小さくしなければならなくなるとともに、切り替え位置間の距離が小さくなることで厳密なハンドル7の位置調整が必要になり、作業性が低下するおそれがある。
【0041】
そこで、本実施形態では、第1位置(P1)~第5位置(P5)のタップ位置をハンドル7の回転方向に均等且つ順番に隣り合うように反時計回りに配置した場合には、矢印マークにて示すように、ハンドル7の操作方向を各タップ位置の配置順とは逆向きに設定している。つまり、例えば第1位置(P1)から第2位置(P2)までタップ位置を切り替える場合には、ハンドル7を1周の5/6つまりは300°回転させる構成となっている。これにより、ハンドル7の回転が1回転未満でタップ位置を切り替えることができ、ハンドル7を数回転させる場合に比べて操作ミスが発生するおそれを低減することができる。
【0042】
このとき、操作側回転体18の巻き付け径(D3)と駆動側回転体15の巻き付け径(D1)とは、以下の(3)式の関係を満たすように設定されることになる。
(5/6)・D3・π=(1/6)・D1・π
つまり、D3=(1/5)・D1 ・・・(3)
【0043】
このため、上記したように例えばT=40mmでD1=150mmとした場合には、D3=30mmとなる。これにより、操作側回転体18の小型化を図ることができる。なお、操作側回転体18も機械加工により製造されることから、所定の許容差を設けて概ね(3)式を満たす範囲に設定することで製造性が過度に悪化してしまうことを抑制できる。勿論、(2)式および(3)式を厳密に満たすように駆動側回転体15および操作側回転体18を設計することもできる。
【0044】
この場合、タップ位置を切り替える際の歯車14側の最大トルクがX[Nm]であったとすると、駆動側回転体15を回転させるのに要する力(F1)は、F1=X/9.8・(2/D1)[kgf]となる。なお、単位換算は適宜されているものとする。そして、駆動側回転体15を力(F1)で回転させるために要する駆動側回転体15のトルク(Y)は、Y=F1・9.8・(D3/2)[Nm]であるため、多少の余裕を持たせたとしても、概ねX/5程度になる。
【0045】
そのため、ハンドル7の長さつまりは作業者がハンドル7を操作する際に手を触れると予想される位置も考慮すれば、ハンドル7を操作する際に要する力をより小さくすることができ、容易にハンドル7を回転させることができる。また、駆動側回転体15の回転量と操作側回転体18の回転量との比は1:5であるため、操作側回転体18を操作する際に手がぶれたとしても、そのぶれがタップ位置に与える影響は1/5に抑制されるため、ハンドル7を操作する際の作業性も改善することができる。
【0046】
以上説明した変圧器1によれば、次のような効果を得ることができる。
実施形態のタップ切換器6は、変圧器巻線4から引き出された複数のタップ線9がそれぞれ接続される複数の固定接触子と、固定接触子に対して相対的に移動可能であっていずれか2つの固定接触子間を電気的に接続する可動接触子12と、可動接触子12が配置されているとともに一部に歯切りが施されているスライド板13と、スライド板13の歯に噛み合って回転する歯車14と、歯車14を回転させる回転機構と、変圧器1のタンク2の外部に設けられ、正転および逆転の回転動作が可能な操作子としてのハンドル7と、ハンドル7側と回転機構側との間を連結し、ハンドル7の回転動作を伝達して歯車14を回転させる2本の操作ケーブル16と、テンションをかけた状態で操作ケーブル16を収容するアウターチューブ19と、を備える。
【0047】
これにより、操作ケーブル16の経路を様々にとることでタップ切換器6に対するハンドル7の相対的な位置を自由に選択することが可能となり、ハンドル7を地上から操作したりタップ位置を確認できる位置に配置したりすることができる等、ハンドル7の配置の自由度を高めることができる。したがって、ハンドル7の配置の自由度を高めることができ、ハンドル7の操作やタップ位置の確認を容易に行うことができる。この場合、変圧器1の周辺設備等を考慮した位置にハンドル7を配置することにより、例えば変電所等に設置する際の変圧器1の設置の自由度をも向上させることができる。
【0048】
また、タップ切換器6は、歯車14の回転軸には、当該回転軸と一体に回転し、2本の操作ケーブル16の端部がそれぞれ固定されるとともに2本の操作ケーブル16が互いに逆方向に巻き付けられる駆動側回転体15が回転機構として設けられており、駆動側回転体15に操作ケーブル16が巻き付けられる際の巻き付け径(D1)を、歯車14のギア径(D2)よりも大きくした。これにより、歯車14を回転させるのに要する力が小さくなることから、大型のものであっても容易にハンドル7を回転させることができる。
【0049】
また、タップ切換器6は、ハンドル7の回転軸には、当該回転軸と一体に回転し、2本の操作ケーブル16の端部がそれぞれ固定されるとともに2本の操作ケーブル16が互いに逆方向に巻き付けられる操作側回転体18が設けられており、操作側回転体18に操作ケーブル16が巻き付けられる際の巻き付け径(D3)を、回転機構に操作ケーブル16が巻き付けられる際の巻き付け径(D1)よりも小さくした。
【0050】
これにより、操作側回転体18の小型化を図ることができるとともに、回転機構つまりは実施形態でいう駆動側回転体15の回転量と駆動側回転体15の回転量とに差が生じ、操作側回転体18を操作する際に手がぶれたとしても、そのぶれがタップ位置に与える影響が抑制されるため、ハンドル7を操作する際の作業性を改善することができる。
【0051】
また、実施形態のように操作側回転体18の巻き付け径(D3)を駆動側回転体15の巻き付け径(D1)の1/5とすることにより、駆動側回転体15を回転させるのに要する力を大きくすることなく、操作ミスの発生を抑制することができる。また、変圧器1は、ハンドル7をタンク2の側面に配置している。これにより、ハンドル7の操作やタップ位置の確認を地上から容易に行うことができる。
【0052】
実施形態では静止誘導機器として変圧器1を例にして説明したが、静止誘導機器としては、変圧器1以外にも、例えばリアクトルなどを採用することができる。すなわち、タップ切換器6は、変圧器1に限らす、リアクトル等の他の機器にも適用することができる。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
図面中、1は変圧器(静止誘導機器)、2はタンク、3は鉄心、4は変圧器巻線(巻線)、5は変圧器本体、6はタップ切換器、7はハンドル(操作子)、7aは操作側軸部材(操作子の回転軸)、9はタップ線、10はタップ端子(固定接触子)、12は可動接触子、13はスライド板、14は歯車、14aは駆動側軸部材(歯車の回転軸)、15は駆動側回転体、16は操作ケーブル、18は操作側回転体、19はアウターチューブを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8