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特許7089433制音体付き空気入りタイヤ,及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】制音体付き空気入りタイヤ,及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20220615BHJP
   B60C 19/12 20060101ALI20220615BHJP
   B29D 30/06 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C19/12 A
B29D30/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018145052
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020019390
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(73)【特許権者】
【識別番号】520204744
【氏名又は名称】コベストロ・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・アンド・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】湯川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松波 翔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】木南 冴子
(72)【発明者】
【氏名】佐渡 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】井戸 博章
(72)【発明者】
【氏名】浦野 淳司
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-143020(JP,A)
【文献】特開2006-306302(JP,A)
【文献】国際公開第2008/062673(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/060239(WO,A1)
【文献】特表2018-508401(JP,A)
【文献】特開2013-043643(JP,A)
【文献】特表2015-526535(JP,A)
【文献】特許第5658766(JP,B2)
【文献】国際公開第2011/125952(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 19/12
B29D 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤと、この空気入りタイヤのトレッド内面に配される多孔質樹脂発泡体からなる制音体とを具えた制音体付き空気入りタイヤであって、
前記多孔質樹脂発泡体は、ポリウレタンフォームであり、
前記制音体は、タイヤ周方向に連続してのびる1本の環状体からなり、
かつ前記制音体は、コア密度δ1が35~65kg/m、かつオーバーオール密度δ0が50~105kg/mであり、
前記制音体の前記トレッド内面からの最大高さHは、12~30mmの範囲である制音体付き空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記コア密度δ1とオーバーオール密度δ0との比δ1/δ0は0.4~0.8である請求項1記載の制音体付き空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記制音体の断面積は、前記空気入りタイヤのタイヤ内腔部の断面積の7.4~12.4%である請求項1又は2記載の制音体付き空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記制音体は、パンク防止用のシーラント層を介して前記トレッド内面に接着される請求項1~3の何れかに記載の制音体付き空気入りタイヤ。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の制音体付き空気入りタイヤの製造方法であって、
リイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)との反応混合液を、空気入りタイヤの前記トレッド内面に塗布する塗布工程により、前記制音体が形成される制音体付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程は、起立状態で回転する前記空気入りタイヤの前記トレッド内面に、前記反応混合液を、ノズルを用いて塗布する請求項5記載の制音体付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記塗布工程は、前記起立状態で回転する前記空気入りタイヤの中心から下半分部分において、トレッド内面に対して回転方向後方側に20~70度の角度θで傾斜させて、前記反応混合液を塗布する請求項6記載の制音体付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記塗布工程は、前記ノズルと前記トレッド内面との間の距離が1~30cmである請求項6又は7記載の制音体付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記反応混合液は、クリームタイムが10秒以下、ゲルタイムが20~60秒の範囲、かつライズタイムが90秒以下である請求項6~8の何れかに記載の制音体付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記塗布工程は、前記空気入りタイヤの回転数が10~60rpm である請求項6~9の何れかに記載の制音体付き空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
前記ポリオール含有成分(Y)は、プロピレンオキシドとエチレンオキシドを開環付加重合させた、平均官能基数が2~3、水酸基価が20~70mgKOH/gのポリオキシアルキレンポリオールであるポリオール成分(a)と、ポリオール成分(a)100質量部に対して発泡剤としての水(d)を3~10質量部含有する、請求項5~10の何れかに記載の制音体付き空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロードノイズ低減効果を高めた制音体付き空気入りタイヤ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1、2には、発泡剤を有する液状配合物を、タイヤ内面に塗布することにより、タイヤ周方向に螺旋状に巻回する連続リボン状の制音体を、タイヤ内面上に直接形成した空気入りタイヤ、及びその製造方法が提案されている。
【0003】
この提案の製造方法では、予め発泡成形したリボン状のスポンジ体を、例えば両面粘着テープを用いてタイヤ内面に貼り付ける場合に比して、作業効率を大幅に向上することができる。
【0004】
又タイヤにおいては、螺旋状の制音体の巻回部分間に連続溝が形成されているため、放熱性が高まり高速耐久性が改善される。しかし、本発明者の研究の結果、制音体を、タイヤ周方向に連続してのびる1本の環状体とした場合と比較して、高速耐久性に顕著な差異は発生しないことが判明した。
【0005】
しかも、螺旋状の制音体の場合、制音体自体の巾が狭いため、走行時に受ける応力により制音体自体が変形し、損傷を招く傾向があることが判明した。又連続溝を有するため制音体全体の断面積が小となり、制音性能(ロードノイズ低減効果)を十分に発揮されないことも判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5658766号公報
【文献】特許第5860411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで第1の発明は、制音体の損傷を抑制できかつ制音性能の向上を図りうる制音体付き空気入りタイヤを提供することを課題としている。又第2の発明は、第1の発明の制音体付き空気入りタイヤを、優れた作業効率を有して生産しうる製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、空気入りタイヤと、この空気入りタイヤのトレッド内面に配される多孔質樹脂発泡体からなる制音体とを具えた制音体付き空気入りタイヤであって、
前記制音体は、タイヤ周方向に連続してのびる1本の環状体からなり、
かつ前記制音体は、コア密度δ1が35~65kg/m、かつオーバーオール密度δ0が50~105kg/mであり、
前記制音体の前記トレッド内面からの最大高さHは、12~30mmの範囲である。
【0009】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤでは、前記コア密度δ1とオーバーオール密度δ0との比δ1/δ0は0.4~0.8であるのが好ましい。
【0010】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤでは、前記制音体の断面積は、前記空気入りタイヤのタイヤ内腔部の断面積の7.4~12.4%であるのが好ましい。
【0011】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤでは、前記制音体は、パンク防止用のシーラント層を介して前記トレッド内面に接着されるのが好ましい。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の制音体付き空気入りタイヤの製造方法であって、
前記多孔質樹脂発泡体は、ポリウレタンフォームであり、
ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)との反応混合液を、空気入りタイヤの前記トレッド内面に塗布する塗布工程により、前記制音体が形成される。
【0013】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤの製造方法では、前記塗布工程は、起立状態で回転する前記空気入りタイヤの前記トレッド内面に、前記反応混合液を、ノズルを用いて塗布するのが好ましい。
【0014】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤの製造方法では、前記塗布工程は、前記起立状態で回転する前記空気入りタイヤの中心から下半分部分において、トレッド内面に対して回転方向後方側に20~70度の角度θで傾斜させて、前記反応混合液を塗布するのが好ましい。
【0015】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤの製造方法では、前記塗布工程は、前記ノズルと前記トレッド内面との間の距離が1~30cmであるのが好ましい。
【0016】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤの製造方法では、前記反応混合液は、クリームタイムが10秒以下、ゲルタイムが20~60秒の範囲、かつライズタイムが90秒以下であるのが好ましい。
【0017】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤの製造方法では、前記塗布工程は、前記空気入りタイヤの回転数が10~60rpm であるのが好ましい。
【0018】
本発明に係る制音体付き空気入りタイヤの製造方法では、前記ポリオール含有成分(Y)は、プロピレンオキシドとエチレンオキシドを開環付加重合させた、平均官能基数が2~3、水酸基価が20~70mgKOH/gのポリオキシアルキレンポリオールであるポリオール成分(a)と、ポリオール成分(a)100質量部に対して発泡剤としての水(d)を3~10質量部含有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明では、多孔質樹脂発泡体からなる制音体が、タイヤ周方向に連続してのびる1本の環状体からなる。そのため、制音体自体の巾を広く確保でき、走行時に受ける応力による変形を抑えて損傷の発生を抑制しうる。しかも連続溝を有しないため、制音体の断面積を広く確保でき、高い制音性能を発揮しうる。
【0020】
又制音体では、コア密度δ1がオーバーオール密度δ0よりも小であり、しかも、コア密度δ1は35~65kg/mの範囲、かつオーバーオール密度δ0は50~105kg/mの範囲に規制されている。この制音体では、コア密度δ1を小としながら、オーバーオール密度δ0が大、即ち、表層部側の密度が大となる。そのため、多孔質樹脂発泡体による制音性能を発揮しながら、密度一定の多孔質樹脂発泡体に比して変形が減じ、優れた耐久性が発揮される。
【0021】
しかも、制音体のコア密度δ1が35~65kg/mの範囲、及びオーバーオール密度δ0が50~105kg/mの範囲に規制されることにより、制音性能の向上効果、及び制音体の損傷抑制の効果がより高く発揮されうる。なお、コア密度δ1が35kg/mを下回る場合、及びオーバーオール密度δ0が50kg/mを下回る場合には、制音体の物性、特に弾力性及び強度が過小となってしまい、走行時の変形が大きくなって制音体の損傷抑制効果が低下傾向となる。又、コア密度δ1が65kg/mを越える場合、及びオーバーオール密度δ0が105kg/mを越える場合、制音体の質量が増し、走行時に受ける応力自体が高まる。そのため、この場合にも制音体の損傷抑制効果が低下傾向となる。
【0022】
さらに本制音体では、コア密度δ1が35~65kg/mの範囲、及びオーバーオール密度δ0が50~105kg/mの範囲であり、かつ前記トレッド内面からの最大高さHは、12~30mm の範囲である。最大高さHがこの範囲であることにより、制音性能と制音体の損傷抑制の効果がよりバランスよく発揮されうる。すなわち最大高さHが12mm未満であると制音性能が不足する。最大高さHが30mm超であると制音体の損傷抑制の効果が低下傾向となる。
【0023】
第2の発明では、ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)との反応混合液を、トレッド内面に塗布する塗布工程により、タイヤ周方向に連続してのびる1本の環状体からなるポリウレタンフォーム製の制音体を形成している。
【0024】
従って、第1の発明の制音体付き空気入りタイヤを、優れた作業効率を有して生産しうる。特に制音体は、1本の環状体からなるため、螺旋状に複数回巻回する場合に比して、作業効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の製造方法によって形成された制音体付き空気入りタイヤの一実施例を示す子午断面図である。
図2】制音体付き空気入りタイヤの周方向断面図である。
図3】(A)、(B)は塗布工程を略示する周方向断面図、及び子午断面図である。
図4】制音体付き空気入りタイヤの他の実施例を示す子午断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の制音体付き空気入りタイヤTは、空気入りタイヤ1と、そのトレッド内面2Sに配される多孔質樹脂発泡体からなる制音体20とを具える。
【0027】
空気入りタイヤ1は、チューブレスタイヤであって、周知構造のものが採用できる。本例の空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるベルト層7とを具える。
【0028】
カーカス6は、タイヤ周方向に対して例えば75~90°の角度で配列するカーカスコードを有する1枚以上(本例では1枚)のカーカスプライ6Aから形成される。ビード部4には、ビードコア5からタイヤ半径方向外方にのびるビード補強用のビードエーペックスゴム8が配される。
【0029】
ベルト層7は、タイヤ周方向に対して例えば10~40°の角度で配列するベルトコードを有する複数枚(例えば2枚)のベルトプライ7A、7Bから形成される。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードの傾斜の向きを互いに違えて積層される。要求により、ベルト層7の半径方向外側に、バンドコードを周方向に対して螺旋状に巻回させたバンド層(図示省略)を設けても良い。
【0030】
前記カーカス6の内側には、タイヤ内腔面Tsをなすインナーライナ層9が配される。このインナーライナ層9は、空気非透過性を有するブチルゴム等のゴムからなり、タイヤ内圧を気密に保持する。
【0031】
そして、トレッド内面2Sに多孔質樹脂発泡体からなる制音体20が接着される。トレッド内面2Sとは、トレッド部2の半径方向内面であって、タイヤ内腔面Tsの一部を構成する。
【0032】
図2に示すように、制音体20は、タイヤ周方向に連続してのびる1本の環状体21から形成される。本例では、制音体20の多孔質樹脂発泡体として、ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)とを反応させた2液反応型のポリウレタンフォームが採用される。
【0033】
本発明では、制音体20のコア密度δ1は、オーバーオール密度δ0よりも小であり、しかも、コア密度δ1は35~65kg/mの範囲、かつオーバーオール密度δ0は50~105kg/mの範囲に規制されている。
【0034】
この制音体20では、コア密度δ1を小としながら、オーバーオール密度δ0が大、即ち、表層部側の密度が大となる。そのため、多孔質樹脂発泡体による制音性能を発揮しながら、密度一定の多孔質樹脂発泡体に比して変形が減じ、優れた耐久性が発揮される。
【0035】
しかし比δ1/δ0が小さ過ぎる場合には、多孔質樹脂発泡体の中央部側が中空状に近づき、かつ表層部が厚くなる傾向となる。この傾向により、逆に多孔質樹脂発泡体が割れやすくなり、多孔質樹脂発泡体の耐久性に不利を招く。また多孔質樹脂発泡体の表面で空洞共鳴音を反射してしまい、制音性能の低下も招く。そのために、前記比δ1/δ0は、0.4~0.8の範囲が好ましい。特には、比δ1/δ0の下限は0.5以上が好ましく、上限は0.7以下が好ましい。
【0036】
本発明において、「コア密度δ1」は、制音体20から、表層部分を厚さ2mm以上で切除した残りの部分(コア部分)における密度として定義され、JIS K 7222:2005に準拠(「見掛けコア密度」に相当)して測定される。詳細には、周方向の3箇所以上から制音体20のコア部分のサンプル(50mm(トレッド幅方向)x200mm(長さ方向)x10mm(高さ方向))を取得し、その密度の平均値として「コア密度δ1」が求められる。
【0037】
又オーバーオール密度δ0は、表層部分を含む制音体20全体の密度として定義され、JIS K 7222:2005に準拠(「見掛け全体密度」に相当)して測定される。詳細には、制音体20の実測により、そのトレッド面の垂直方向の断面積と、トレッド面方向の長さ(200mm)から、断面積x長さより体積を求め、体積÷重量より「オーバーオール密度δ0」が求められる。
【0038】
ここで、制音体20のコア密度δ1が35~65kg/mの範囲、及びオーバーオール密度δ0が50~105kg/mの範囲に規制されることにより、制音性能の向上効果、及び制音体の損傷抑制の効果がより高く発揮されうる。コア密度δ1が35kg/mを下回る場合、及びオーバーオール密度δ0が50kg/mを下回る場合、制音体20の物性、特に弾力性及び強度が過小となる。その結果、走行時の変形が大きくなって、制音体20の損傷抑制効果が低下傾向となる。又コア密度δ1が65kg/mを越える場合、及びオーバーオール密度δ0が105kg/mを越える場合、制音体20の質量が大となり、走行時に受ける応力自体が高まる。そのため、この場合にも、制音体20の損傷抑制効果が低下傾向となる。
【0039】
又制音体付き空気入りタイヤTでは、制音体20が1本の環状体21からなるため、制音体20自体の巾を広く確保でき、走行時に受ける応力による変形を抑えることが可能となる。しかも、連続溝を有しないため、制音体20の断面積を広く確保でき、制音性能の向上に貢献しうる。
【0040】
ここで、制音性能と耐久性との観点から、図1に示すように、制音体20のトレッド内面2Sからの最大高さHは、12~30mmの範囲が好ましい。最大高さHが12mmを下回ると、制音性能が低下傾向となる。逆に30mmを越えると、走行時に作用する応力が増すため、耐久性が低下傾向となる。
【0041】
同じ観点から、制音体20の断面積Saは、空気入りタイヤ1のタイヤ内腔部THの断面積Sbの7.4~12.4%の範囲が好ましい。断面積Saが断面積Sbの7.4%を下回ると、制音性能が低下傾向となる。逆に12.4%を越えると、走行時に作用する応力が増すため、耐久性が低下傾向となる。
【0042】
又同じ観点から、制音体20のタイヤ軸方向巾Waは、タイヤ断面巾Wbの30%以上が好ましく、30%を下回ると、制音性能が低下傾向となる。
【0043】
次に、制音体付き空気入りタイヤTの製造方法を説明する。図3(A)、(B)に示すように、製造方法は、ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)との反応混合液を、トレッド内面2Sに塗布する塗布工程Kを具える。この塗布工程Kにより、タイヤ周方向に連続してのびる1本の環状体21からなるポリウレタンフォーム製の制音体20を形成している。
【0044】
塗布工程Kでは、起立状態で回転する空気入りタイヤ1のトレッド内面2Sに、前記反応混合液を、ノズル22を用いて、タイヤ幅に合わせた適度な幅に反応混合液の膜を形成させながら塗布することが好ましい。特に、制音体20の巾Waをタイヤ断面巾Wbの30%以上とするために、ノズル22として、噴射形状がフラット、しかも広い噴射角度を有するフラットノズルが好適に採用しうる。
【0045】
このとき、上記範囲の巾Waを得るために、ノズル22とトレッド内面2Sとの間の距離hは、1~30cmの範囲が好ましい。1cmを下回ると上記範囲の巾Waを得ることが難しい。又30cmを越えると、制音体20の巾Waを精度よくコントロールすることが困難になり、制音性能に不利を招く。
【0046】
塗布工程Kでは、起立状態で回転する前記空気入りタイヤの中心から下半分部分において、トレッド内面2Sに対して回転方向後方側に20~70度の角度θで傾斜させて、反応混合液を塗布するのが好ましい。このように噴射の向きを規定することで、噴出した反応混合液の飛び散りを抑えることができる。
【0047】
又塗布工程Kでは、空気入りタイヤの回転数nが10~60rpm であるのが好ましい。回転数nが60rpm を越えると、反応混合液が発泡して形状が安定するまでの間に変形が生じ、制音体20の形成精度の低下原因となりうる。逆に回転数nが10rpm を下回ると作業効率に不利を招く。
【0048】
図中の符号25はタイヤ保持治具であって、空気入りタイヤ1を跨らせて起立状態で支持するローラ25Aを具える。又符号26は混合機であって、ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)とを混合し、その反応混合液をノズル22に圧送する。
【0049】
次に、制音体20に好適な反応混合液について説明する。
<1.ポリイソシアネート成分(X)>
反応混合液を構成するポリイソシアネート成分(X)としては、特に制限はなく、イソシアネート基を2以上有する芳香族系、脂環族系、脂肪族系等のポリイソシアネート;前記ポリイソシアネートの2種類以上の混合物;これらを変性して得られる変性ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0050】
ポリイソシアネート成分(X)の具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(通称:クルードMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等が挙げられる。また変性ポリイソシアネートの具体例としては、上記各ポリイソシアネートのプレポリマー型変性体、ヌレート変性体、ウレア変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。これらのうちでも、MDI、クルードMDI、またはこれらの変性体が好ましい。MDI、クルードMDIまたはその変性体を用いることは、発泡安定性の向上、耐久性の向上、及び価格等の観点から好ましい。
【0051】
ポリイソシアネート成分(X)の粘度(mPa・s/25℃)は、特に限定されないが、好ましくは50~2000であり、より好ましくは100~1000であり、さらに好ましくは120~500である。
【0052】
ポリイソシアネート成分(X)の比重は、特に限定されないが、例えば、1.1~1.25とすることができる
【0053】
<2.ポリオール含有成分(Y)>
反応混合液を構成するポリオール含有成分(Y)は、ポリオール成分(a)、触媒(b)、整泡剤(c)、及び発泡剤としての水(d)を含む。
【0054】
<2-1.ポリオール成分(a)>
ポリオール成分(a)は、好ましくはポリエーテルポリオールであり、より好ましくはポリオキシアルキレンポリオールである。特に好ましくは、ポリオール成分(a)は、プロピレンオキシドとエチレンオキシドを開環付加重合させた平均官能基数が2~3、水酸基価が20~70mgKOH/gのポリオキシアルキレンポリオールである。
【0055】
本発明において、「平均官能基数」とは、一分子当たりの官能基の数をいい、開始剤の活性水素数の平均値を意味する。ポリオール成分(a)の平均官能基数を上記範囲とすることは、ポリウレタンフォームの乾熱圧縮永久歪等の物性が著しく低下する不具合を回避する上で有利である。また、得られるポリウレタンフォームの伸びが低下して硬度が高くなり引っ張り強度等の物性が低下することを回避する上でも好ましい。
【0056】
ポリオール成分(a)の水酸基価は、20~70mgKOH/gであり、より好ましくは25~65mgKOH/g、さらに好ましくは25~60mgKOH/gである。ポリオール成分(a)の水酸基価を20mgKOH/g以上とすることは、コラップス等を抑制しポリウレタンフォーム成形品を安定して製造する上で有利である。また、ポリオールの水酸基価を70mgKOH/g以下とすることは、ポリウレタンフォームの柔軟性を損なわず、かつ、吸音性能を得る上で好ましい。ここで、本発明における水酸基価とは、試料(固形分)1g中に含まれる水酸基をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数である。そして、無水酢酸を用いて試料中の水酸基をアセチル化し、使われなかった酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定した後、下記の式により求められる。
水酸基価〔mgKOH/g〕=[((A-B)×f×28.05)/S]+酸価
A:空試験に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)
B:滴定に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)
f:ファクター
S:試料採取量(g)
【0057】
ポリオール成分(a)は、開始剤、重合触媒、アルキオキシド等の重合単位を用いて当該技術分野における公知の手法により製造することができる。ポリオールの製造に用いられる重合触媒としては、アルカリ金属触媒、セシウム触媒、ホスフェイト系触媒、複合金属シアン化物錯体触媒(DMC触媒)等が挙げられる。
【0058】
ポリオール成分(a)の製造に用いられる開始剤としては、分子中の活性水素数が2または3である化合物を、単独で用いるか、または併用することが好ましい。活性水素数が2である化合物の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。また活性水素数が3である化合物の具体例としては、グリセリン、トリメチロールプロパンが挙げられる。
【0059】
また、ポリオール成分(a)は、上述の通り、アルキレンオキシドを開環付加重合単位として用いることが好ましい。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン等が挙げられるが、プロピレンオキシド、またはプロピレンオキシドとエチレンオキシドとの併用が好ましい。プロピレンオキシドとエチレンオキシドとを併用する場合、それぞれを別々に順次開環付加重合させてブロック重合鎖を形成してもよく、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの混合物を開環付加重合させてランダム重合鎖を形成しても良い。さらに、ランダム重合鎖の形成とブロック重合鎖の形成を組み合せてもよい。ブロック重合鎖を形成させる場合、アルキレンオキシドを開環付加重合させる順序は、プロピレンオキシド、エチレンオキシドの順で付加するか、または先にエチレンオキシドを付加し、プロピレンオキシド、エチレンオキシドの順に付加することが好ましい。
【0060】
また、別の種類としては、ポリカルボン酸と低分子量の水酸基含有化合物を反応して得られるポリエステルポリオール、カプロラクトンを開環重合して得たポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールの水酸基をアミノ化し、あるいはポリエーテルポリオールのイソシアネートプレポリマーを加水分解して得られるポリエーテルポリアミンであってもよい。ポリオール成分(a)は1種類であってもよいし、2種類以上を混合してもよい。
【0061】
ポリオール含有成分(Y)におけるポリオール成分(a)の含有量は、ポリオール含有成分(Y)100質量部に対して、好ましくは50~100質量部であり、より好ましくは50~90質量部であり、さらに好ましくは70~90質量部である。
【0062】
<2-2.触媒(b)>
触媒(b)の好適な例としては、ウレタン化触媒が挙げられる。ウレタン化触媒は、ポリオール類とポリイソシアネート成分とを反応させる上で有利である。ウレタン化触媒としては、ウレタン化反応を促進する全ての触媒を使用でき、例えば、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン等の3級アミン類;酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム等のカルボン酸金属塩;スタナスオクトエート、ジブチルスズジラウレート等の有機金属化合物が挙げられる。触媒の含有量は、ポリオール成分(a)100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部である。
【0063】
<2-3.整泡剤(c)>
整泡剤(c)は、ポリウレタンフォームにおいて良好なセルを形成する観点から含有される。整泡剤(c)の種類とその組み合わせ、使用量を適宜決定することにより、制音体20に適した吸音性軟質ポリウレタンフォームのセル構造を調整できる。発泡後にフォーム崩壊や収縮が起こらないことはもちろんのこと、優れた吸音特性を発揮するためには、整泡剤(c)を用いて、平均セルサイズと通気量とを適切に調整することが好ましい。
【0064】
整泡剤(c)は、1種であってもよく、2種以上の成分を組み合わせた組成物であってもよい。整泡剤(c)の具体的な例としては、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤等が挙げられるが、シリコーン系整泡剤が好ましい。本発明の好ましい一態様によれば、シリコーン系整泡剤は、ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマーを主成分とするシリコーン整泡剤である。該シリコーン系整泡剤はポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマー単独であっても、これに他の併用成分を含んでいてもよい。他の併用成分としては、ポリアルキルメチルシロキサン、グリコール類およびポリオキシアルキレン化合物等が例示できる。また、本発明の整泡剤の別の好ましい態様によれば、整泡剤(c)は、ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマー、ポリアルキルメチルシロキサンおよびポリオキシアルキレン化合物から選択される2種以上を含む組成物である。かかる組成物は、フォームの安定性の点から特に有利である。整泡剤の市販品の例としては、MOMENTIVE社製の商品名:L-580、L-590、L-620、L-680、L-682、L-690、SC-154、SC-155、SC-240、L-598、L-2100、L-2171、SH-210、L-2114、SE-232、L-533、L-534、L-539、M-6682B、L-626、L-627、L-3001、L-3111、L-3415、L-3002、L-3010、L-3222、L-3416、L-3003、L-3333、L-3417、L-2171、L-3620、L-3630、L-3640、L-3170、L-3360、L-3350、L-3555、L-3167、L-3150、L-3151、L-5309、SH-209、L-3184 などが挙げられる。また、別の市販品の例としては、東レ・ダウ・コーニング社製の商品名:SF-2964、SF-2962、SF-2969、SF-2971、SF-2902L、SF-2904、SF-2908、SF-2909、SRX-274C、SZ-1328、SZ-1329、SZ-1330、SZ-1336、SZ-1346、SZ-3601、SRX-294A、SRX-280A、SRX-294A、SRX-298、SH-190、SH-192、SH-194 などが挙げられる。また、別の市販品の例としては、信越化学工業社製の商品名:F-327、F-345、F-305、F-242T などや、BYK Chemie社製の商品名:Silbyk 9700、Silbyk 9705、Silbyk 9710 などが挙げられる。また、EVONIC社製の商品名:B4113、B4900、B8002、B8110、B8123、B8228、B8232、B8715LF2、B8724LF2、BF2370、BF2470 などが挙げられる。
【0065】
整泡剤(c)の含有量は、適宜選択してよいが、ポリオール成分(a)100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部である。
【0066】
<2-4.水(d)>
水(d)は、ポリイソシアネート成分(X)と反応した後、二酸化炭素を放出し、ポリウレタンフォームの生成に寄与する。水(d)の使用は、ポリウレタンフォームの密度を小さくするためには特に有利である。水(d)の使用量は、好ましくはポリオール成分(a)100質量部に対し、3~10質量部、さらに好ましくは3~6質量部である。水の使用量を10質量部以下とすることは成形時のポリウレタンフォームの安定性を確保するために好ましい
【0067】
<2-5.その他の成分>
制音体20を形成する際、上述した成分以外に所望の成分を反応混合液に配合してもよい。所望の成分としては、炭酸カリウム、硫酸バリウム等の充填剤:乳化剤等の界面活性剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤等の老化防止剤;難燃剤、可塑剤、着色剤、抗カビ剤、破泡剤、分散剤、変色防止剤等が挙げられる。
【0068】
安定性確保の観点から、所望の成分として、反応混合液に難燃剤を含有させてもよい。難燃剤は、好ましくはリン系難燃剤であり、好適な例としては、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリス(β-クロロエチル)ホスフェート(TCEP)、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TCPP)等が挙げられる。難燃剤は1種でもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。他の難燃剤の例として、金属酸化物(例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム)、金属水酸化物(例えば、水酸化アルミニウム)、臭素系化合物(例えば、臭素化ジフェニルエーテル、臭素化ジフェニルアルカン、臭素化フタルイミド)、リン系化合物(例えば、赤リン、リン酸エステル、リン酸エステル塩、リン酸アミド、有機フォスフィンオキサイド)、窒素系化合物(例えば、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、トリアジン、メラミンシアヌレート)が挙げられる。これら難燃剤を単独使用してもよいし、複数の種類を併用してもよい。
【0069】
所望の成分として、ポリイソシアネート反応性の活性水素を有する、比較的分子量の小さい所謂架橋剤を、必要に応じて配合してもよい。架橋剤としては、水酸基を2個以上有する化合物が挙げられる。好適な架橋剤としては、平均官能基数が2.0~8.0、水酸基価が200~2000mgKOH/gである化合物が挙げられる。架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
反応混合液において、ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)の使用量は、原料中のポリオール含有成分(Y)とポリイソシアネート成分(X)の割合がイソシアネートインデックスで80~120となる量で使用することが好ましい。イソシアネートインデックスとは[(ポリイソシアネート成分(X)のイソシアネート基の当量とポリオール含有成分(Y)中の活性水素の当量との比)×100]で表される。
【0071】
塗布工程Kにおいて、反応混合液を塗布する際の反応混合液の温度は、ポリウレタンフォームの形成を妨げない温度であって、例えば、20~60℃、好ましくは30~50℃である。又、反応混合液を塗布する際の反応混合液の粘度は、1000~5000mPa・s/25℃が好ましい。
【0072】
塗布工程Kにおいて、反応混合液の吐出量は、制音体20のサイズ、原料の反応性に応じて適宜設定してよいが、例えば、1~2000g/秒であり、好ましくは10~1000g/秒である。
【0073】
反応混合液では、クリームタイム、ゲルタイム、およびライズタイムは、液垂れを抑制して迅速にポリウレタンフォームを形成する観点から、短時間であることが好ましい。
【0074】
具体的には、反応混合液は、クリームタイムは10秒以下、ゲルタイムが20~60秒の範囲、かつライズタイムが90秒以下であるのが好ましい。クリームタイムが10秒を超える場合、ゲルタイムが60秒を超える場合、ライズタイムが90秒を超える場合、増粘化や発泡化が遅れ、液垂れを招いたりポリウレタンフォームの成形不良を招く。又ゲルタイムが20秒を下回ると、増粘化が早すぎとなり、塗布性を損ねたり、ノズル22の目詰まりなどを招く恐れが生じる。
【0075】
本発明において「クリームタイム」とは、ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)とを混合させた反応混合液を発泡させるとき、混合開始から、反応混合液に色相の変化が起こり始めて発泡が開始するまでの時間を意味する。「ゲルタイム」とは、反応混合液を発泡させるとき、混合開始から、増粘が起こって樹脂化が始まる(例えば、棒状の固体で触った際に、液が糸を引き始める)までの時間を意味する。「ライズタイム」とは、反応混合液を発泡させるとき、混合開始から、発泡が終了する(例えば、発泡によるフォーム表面の上昇が停止する)までの時間を意味する。
【0076】
クリームタイム及びゲルタイムを短くする手法としては、例えば触媒(b)の含有量を増やすことなどが挙げられる。ライズタイムを短くする手法としては、例えば水(d)及び/又は触媒(b)の含有量を増やすことなどが挙げられる。
【0077】
クリームタイム、ゲルタイム、およびライズタイムは、後述する実施例も含め、訓練された複数人(例えば10人)の検査員が目視判定にて測定した時間の平均値によって求める。
【0078】
反応混合液を、トレッド内面2S上で自由発泡させることにより、コア密度δ1がオーバーオール密度δ0よりも小とした多孔質樹脂発泡体を得ることができる。又コア密度δ1及びオーバーオール密度δ0は、ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)との配合割合、及びポリオール含有成分(Y)内における、ポリオール成分(a)、触媒(b)、整泡剤(c)、水(d)の種類及び配合割合を調整することで、調整することができる。
【0079】
又比δ1/δ0は、例えば、ポリオール成分(a)の選択や触媒(b)の選択により反応速度を調整する、整泡剤(c)の選択により整泡力を調整する、発泡剤としての水(d)の量により発泡倍率を調整する、などによって調整しうる。
【0080】
図4に、制音体付き空気入りタイヤTの他の実施例を示す。本例では、制音体20は、パンク防止用のシーラント層10を介してトレッド内面2Sに接着される。この場合、制音性能(ロードノイズ低減効果)を損ねることなく、パンクシール性を発揮することができる。シーラント層10は少なくともトレッド内面2Sを含むタイヤ内腔面Tsに配される。
【0081】
シーラント層10をなすシーラント材として、ゴム成分と、液状ポリマーと、架橋剤等とを含有する。ゴム成分として、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴム等のブチル系ゴムが採用される。なおゴム成分として、前記ブチル系ゴムと、ジエン系ゴムとを混用しうるが、流動性等の観点から、ゴム成分100質量部中のブチル系ゴムの含有量は、90質量部以上とするのが好ましい。
【0082】
液状ポリマーとして、液状ポリブテン、液状ポリイソブテン、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状ポリα-オレフィン、液状イソブチレン、液状エチレンα-オレフィン共重合体、液状エチレンプロピレン共重合体、液状エチレンブチレン共重合体等が挙げられる。なかでも、粘着性付与等の観点から、液状ポリブテンが好ましい。
【0083】
液状ポリマーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上、さらには100質量部以上が好ましい。50質量部未満では、粘着性が低下するおそれがある。該含有量の上限は、400質量部以下、さらには300質量部以下が好ましい。400質量部を超えると、走行時、シーラント材が流動する恐れを招く。
【0084】
架橋剤として、周知の化合物を使用できるが、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物架橋系において、ブチル系ゴムや液状ポリマーを用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性が改善される。
【0085】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド等のアシルパーオキサイド類、1-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシフタレートなどのパーオキシエステル類、メチルエチルケトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,3-ビス(1-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのアルキルパーオキサイド類、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等が挙げられる。なかでも、粘着性、流動性の観点から、アシルパーオキサイド類が好ましく、ジベンゾイルパーオキサイドが特に好ましい。
【0086】
有機過酸化物(架橋剤)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上、さらには1.0質量部以上が好ましい。0.5質量部未満では、架橋密度が低くなり、シーラント材の流動が生じるおそれがある。該含有量の上限は、40質量部以下、さらには20質量部以下が好ましい。40質量部を超えると、架橋密度が高くなり、シール性が低下するおそれがある。
【0087】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【評価】
【0088】
図1に示す基本構造を有し、かつ表1の仕様の制音体が配される制音体付き空気入りタイヤに対して、制音性能(ロードノイズ性能)、タイヤの高速耐久性、制音体の耐久性、制音体の形成効率が、評価される。
【0089】
評価では、制音体として、ポリイソシアネート成分(X)とポリオール含有成分(Y)との反応混合液を塗布して自由発泡させ、コア密度δ1とオーバーオール密度δ0とを変化させたポリウレタンフォーム製の多孔質樹脂発泡体を形成する。そして、制音体付き空気入りタイヤの上記性能が評価される。ポリイソシアネート成分(X)として、住化コベストロウレタン社製のプレポリマー型変性MDIポリイソシアネート(イソシアネート基含有率25%、粘度260mPa・s/25℃)が 使用される。又ポリオール含有成分(Y)のうちのポリオール成分(a)として、開始剤としてグリセリンを用い、プロピレンオキシド(PO)、エチレンオキシド(EO)をこの順で開環付加重合させたポリオキシアルキレンポリオールが使用される。ポリオキシアルキレンポリオールの平均官能基数は3、水酸基価は28mgKOH/g)である。又コア密度δ1及びオーバーオール密度δ0は、触媒(b)、整泡剤(c)の種類、発泡剤(水)量により変化される。
【0090】
比較例1では、制音体として、巾24mmのリボン状の多孔質樹脂発泡体が、螺旋状に4.6周巻回される。従って、比較例1には、各巻回部分間に巾15mmの螺旋状の連続溝が形成される。各タイヤのタイヤ断面巾Wbは178mmである。
【0091】
<制音性能>
制音体付き空気入りタイヤを車両の全輪に装着し、ロードノイズ計測路(アスファルト粗面路)を走行して車内騒音を計測する。結果は、比較例1を基準とした増減値で示し、-(マイナス)表示は、ロードノイズの低減を意味する。
【0092】
<タイヤ高速耐久性>
ECE30に基づいてステップスピード方式の荷重/速度性能テストを行ったときに、タイヤが破壊する速度(km/H )を求める。値が大きいほど優れている。
【0093】
<制音体の耐久性>
制音体付き空気入りタイヤを、ドラム上で、速度100km/hにて距離8000kmを走行させたときの制音体の損傷状況を観察する。結果は、比較例1を100とする指数で評価する。数値が大きいほど耐久性に優れている。
【0094】
<制音体の形成効率>
トレッド内面に制音体が形成されるまでの時間を求め、比較例1を100とする指数で評価する。数値が小さいほど優れている。
【0095】
【表1】
【0096】
上記のようにして得られる試験タイヤを使用した上記の評価を行うことで表1又はそれに近い値が得られるようになる。表に示されるように、実施例では、制音体の耐久性を高めながら、優れた制音性能を発揮しうる。又実施例は、制音体が1本の環状体であり、塗布工程において、タイヤを一回転するだけで制音体が形成されるため、比較例1(螺旋巻き状の制音体)に比して、制音体の形成効率が向上される。
【0097】
なお図4に示すように、パンク防止用のシーラント層を介して制音体を接着させた制音体付き空気入りタイヤを試作すると、シーラント層によるパンク防止効果を損ねることなく、シーラント層がない場合と同様の制音性能、耐久性を発揮しうる。
【符号の説明】
【0098】
1 空気入りタイヤ
2S トレッド内面
10 シーラント層
20 制音体
21 環状体
22 ノズル
K 塗布工程
T 制音体付き空気入りタイヤ
図1
図2
図3
図4