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特許7089441鉄道車両用制振装置および鉄道車両用制振装置の診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】鉄道車両用制振装置および鉄道車両用制振装置の診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/08 20060101AFI20220615BHJP
   B61F 5/24 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
G01M17/08
B61F5/24 B
B61F5/24 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018162437
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2019184558
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2018069711
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001304(JP,A)
【文献】特開2018-026038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/08-17/10
B61F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体と前側の台車との間に設置されて前記車体の前側を左右方向へ加振可能な前側アクチュエータと、
前記車体と後側の台車との間に設置されて前記車体の後側を左右方向へ加振可能な後側アクチュエータと、
前記車体の前側に設置されて前記車体の前側の左右方向の前側加速度を検知する前側加速度センサと、
前記車体の後側に設置されて前記車体の後側の左右方向の後側加速度を検知する後側加速度センサと、
前記前側加速度センサと前記後側加速度センサとが検知する前記前側加速度と前記後側加速度とに基づいて、前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータとを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータに前記車体をスエー方向およびヨー方向へ加振する推力を発生させる各指令と、前記前側加速度および前記後側加速度、或いは前記前側加速度と前記後側加速度から求めた前記車体のスエー変位とヨー変位に基づいて、前記前側アクチュエータおよび前記後側アクチュエータの取付位置が正しいか否かを診断する
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記前側アクチュエータに前記車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記前側加速度および前記後側加速度から求めたスエー加速度の積を前側スエー指標とし、
前記後側アクチュエータに前記車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記スエー加速度との積を後側スエー指標とし、
前記前側アクチュエータに前記車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記前側加速度および前記後側加速度から求めたヨー加速度との積を前側ヨー指標とし、
前記後側アクチュエータに前記車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記ヨー加速度との積を後側ヨー指標として、
これら各指標から前記取付位置が正しいか否かを診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記前側スエー指標、前記後側スエー指標、前記前側ヨー指標および前記後側ヨー指標の符号に基づいて、前記取付位置が正しいか否かを診断する
ことを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記前側スエー指標、前記後側スエー指標、前記前側ヨー指標および前記後側ヨー指標が前記取付位置の誤りを示すとエラーとして、エラー回数をカウントし、前記エラー回数が閾値以上となると前記取付位置が誤りであると診断する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータとに前記車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる各指令から求めたスエー指令と、前記スエー変位との積をスエー指標とし、
前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータとに前記車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる各指令から求めたヨー指令と、前記ヨー変位との積をヨー指標とし、
前記スエー指標と前記ヨー指標から前記取付位置および前記前側加速度センサと前記後側加速度センサの取付方向が正しいか否かを診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記スエー指標および前記ヨー指標の符号に基づいて、前記取付位置および前記取付方向が正しいか否かを診断する
ことを特徴とする請求項5に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記スエー指標および前記ヨー指標が前記取付位置或いは前記取付方向の誤りを示すとエラーとして、エラー回数をカウントし、前記エラー回数が閾値以上となると前記取付位置或いは前記取付方向が誤りであると診断する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項8】
鉄道車両の車体と前側の台車との間に設置されて前記車体の前側を左右方向へ加振可能な前側アクチュエータと、前記車体と後側の台車との間に設置されて前記車体の後側を左右方向へ加振可能な後側アクチュエータと、前記車体の前側に設置されて前記車体の前側の左右方向の前側加速度を検知する前側加速度センサと、前記車体の後側に設置されて前記車体の後側の左右方向の後側加速度を検知する後側加速度センサと、前記前側加速度センサと前記後側加速度センサとが検知する前記前側加速度と前記後側加速度とに基づいて前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータとを制御するコントローラとを有する鉄道車両用制振装置における前記前側アクチュエータおよび前記後側アクチュエータの取付位置が正しいか否かを診断する鉄道車両用制振装置の診断方法であって、
前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータを駆動して前記車体にスエー加速度を作用させるスエー加振ステップと、
前記コントローラが前記前側アクチュエータに前記車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令に前記前側加速度および前記後側加速度から求めた前記スエー加速度を乗じて前側スエー指標を求めるとともに前記コントローラが前記後側アクチュエータに前記車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記スエー加速度を乗じて後側スエー指標を求めるスエー指標演算ステップと、
前記前側スエー指標および前記後側スエー指標に基づいて、前記取付位置が正しいか否かを診断するスエー加振時診断ステップと、
前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータを駆動して前記車体にヨー加速度を作用させるヨー加振ステップと、
前記コントローラが前記前側アクチュエータに前記車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記前側加速度および前記後側加速度から求めた前記ヨー加速度を乗じて前側ヨー指標を求めるとともに前記コントローラが前記後側アクチュエータに前記車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記ヨー加速度を乗じて後側ヨー指標を求めるヨー指標演算ステップと、
前記前側ヨー指標と前記後側ヨー指標に基づいて、前記取付位置が正しいか否かを診断するヨー加振時診断ステップとを備えた
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置の診断方法。
【請求項9】
鉄道車両の車体と前側の台車との間に設置されて前記車体の前側を左右方向へ加振可能な前側アクチュエータと、前記車体と後側の台車との間に設置されて前記車体の後側を左右方向へ加振可能な後側アクチュエータと、前記車体の前側に設置されて前記車体の前側の左右方向の前側加速度を検知する前側加速度センサと、前記車体の後側に設置されて前記車体の後側の左右方向の後側加速度を検知する後側加速度センサと、前記前側加速度センサと前記後側加速度センサとが検知する前記前側加速度と前記後側加速度とに基づいて前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータとを制御するコントローラとを有する鉄道車両用制振装置における前記前側アクチュエータおよび前記後側アクチュエータの取付位置と前記前側加速度センサと前記後側加速度センサの取付方向が正しいか否かを診断する鉄道車両用制振装置の診断方法であって、
前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータを駆動して前記車体にスエー加速度を作用させるスエー加振ステップと、
前記コントローラが前記前側アクチュエータに前記車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記コントローラが前記後側アクチュエータに前記車体をスエー方向に加振する推力を発生させる指令から求めたスエー指令と、前記前側加速度と前記後側加速度から求めた前記車体のスエー方向の変位であるスエー変位とを乗じてスエー指標を求める車体スエー指標演算ステップと、
前記スエー指標に基づいて、前記取付位置および前記取付位置が正しいか否かを診断する診断ステップと、
前記前側アクチュエータと前記後側アクチュエータを駆動して前記車体にヨー加速度を作用させるヨー加振ステップと、
前記コントローラが前記前側アクチュエータに前記車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前記コントローラが前記後側アクチュエータに前記車体をヨー方向に加振する推力を発生させる指令から求めたヨー指令と、前記前側加速度と前記後側加速度から求めた前記車体のヨー方向の変位であるヨー変位とを乗じてヨー指標を求める車体ヨー指標演算ステップと、
前記ヨー指標に基づいて、前記取付位置および前記取付位置が正しいか否かを診断する診断ステップと、
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用制振装置および鉄道車両用制振装置の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、車体と前後の台車との間に介装された複動型のアクチュエータと、車体の前後の加速度を検知する前後の加速度センサと、前後のアクチュエータを制御するコントローラを備えて、鉄道車両の進行方向に対して左右方向の振動を抑制する鉄道車両用制振装置が設けられる場合がある。
【0003】
このような鉄道車両用制振装置では、コントローラは、前後の加速度センサで検知した加速度から車体のスエー加速度とヨー加速度とを求め、スエー加速度とヨー加速度とから前後のアクチュエータに与える指令を求める。そして、コントローラは、前後のアクチュエータへ指令を与えて、前後のアクチュエータに車体のスエー振動とヨー振動を抑制する推力を発揮させて車体の振動を抑制する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-1304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような鉄道車両用制振装置では、前後の台車に設置されるアクチュエータの取付位置が正しくないと、車体振動の抑制が困難となる。たとえば、前側のアクチュエータの取付位置が車体の左側で、後側のアクチュエータの取付位置が車体の右側である場合、前後のアクチュエータを同位相で伸縮させると車体を車体中心周りに回転させるヨー方向へ加振できる。逆に、前後のアクチュエータを逆位相で伸縮させると、車体を左右方向であるスエー方向へ加振できる。これに対して、前側のアクチュエータと後側のアクチュエータの取付位置が車体の左側或いは右側である場合には、前後のアクチュエータを同位相で伸縮させると車体がスエー方向に加振され、前後のアクチュエータを逆位相で伸縮させると車体がヨー方向に加振される。
【0006】
このように、前後のアクチュエータの取付位置によって、前後のアクチュエータが伸縮する際の車体の加振モードが異なり、前後のアクチュエータの取付位置が正しくないと、コントローラ側の制御に応じて車体振動を抑制できなくなる。
【0007】
従来では、前後のアクチュエータが正しい取付位置に設置されているかの確認は、設置作業者が目視で行うしかなかった。目視による確認作業では、設置作業者の不注意で、前後のアクチュエータが誤った取付位置に設置されたままとなる危惧がある。
【0008】
そこで、本発明は、目視によらず前後のアクチュエータの取付位置が正しいか否かを診断できる鉄道車両用制振装置および鉄道車両用制振装置の診断方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鉄道車両用制振装置は、鉄道車両の車体と前側の台車との間に設置されて車体の前側を左右方向へ加振可能な前側アクチュエータと、車体と後側の台車との間に設置されて車体の後側を左右方向へ加振可能な後側アクチュエータと、車体の前側に設置されて車体の前側の左右方向の前側加速度を検知する前側加速度センサと、車体の後側に設置されて車体の後側の左右方向の後側加速度を検知する後側加速度センサと、前側加速度センサと後側加速度センサとが検知する前側加速度と後側加速度とに基づいて、前側アクチュエータと後側アクチュエータとを制御するコントローラとを備え、コントローラが前側アクチュエータと後側アクチュエータに車体をスエー方向およびヨー方向へ加振する推力を発生させる各指令と、前側加速度および後側加速度、或いは前側加速度と後側加速度から求めたスエー変位およびヨー変位に基づいて、前側アクチュエータおよび後側アクチュエータの取付位置が正しいか否かを診断する。
【0010】
このように構成された鉄道車両用制振装置では、前側アクチュエータおよび後側アクチュエータの指令と前側加速度と後側加速度とを用いて前記取付位置が正しいか否かを診断するので、前側アクチュエータおよび後側アクチュエータの取付位置を目視によらず前記取付位置が正しいか否かを診断できる。
【0011】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置は、コントローラが前側アクチュエータに車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令と前側加速度および後側加速度から求めたスエー加速度の積を前側スエー指標とし、後側アクチュエータに車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令とスエー加速度との積を後側スエー指標とし、前側アクチュエータに車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前側加速度および後側加速度から求めたヨー加速度との積を前側ヨー指標とし、後側アクチュエータに車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令とヨー加速度との積を後側ヨー指標として、これら各指標から前記取付位置が正しいか否かを診断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置は、各アクチュエータの取付位置の正誤を正確に診断できる。
【0012】
さらに、鉄道車両用制振装置におけるコントローラは、前側スエー指標、後側スエー指標、前側ヨー指標および後側ヨー指標の符号に基づいて、各アクチュエータの取付位置が正しいか否かを診断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置は、前側スエー指標、後側スエー指標、前側ヨー指標および後側ヨー指標の符号で各アクチュエータの取付位置が正しいか否かを診断するから、指標の大小によらず前記取付位置の正誤を正確に診断できる。
【0013】
また、鉄道車両用制振装置におけるコントローラは、前側スエー指標、後側スエー指標、前側ヨー指標および後側ヨー指標が各アクチュエータの取付位置の誤りを示すと、これをエラーとして、エラー回数をカウントし、エラー回数が閾値以上となると各アクチュエータの取付位置が誤りであると診断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、取付位置の正誤の誤診断がなくなり、前記取付位置を正しく診断できる。
【0014】
さらに、鉄道車両用制振装置におけるコントローラは、前側アクチュエータと後側アクチュエータとに車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる各指令から求めたスエー指令と、スエー変位との積をスエー指標とし、前側アクチュエータと後側アクチュエータとに前記車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる各指令から求めたヨー指令と、ヨー変位との積をヨー指標とし、スエー指標とヨー指標から取付位置および前側加速度センサと後側加速度センサの取付方向が正しいか否かを診断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置では、スエー加振の各アクチュエータの駆動に対する車体の反応と、ヨー加振時の各アクチュエータの駆動に対する車体の反応との双方で各アクチュエータの取付位置の正誤と各加速度センサの取付方向の正誤を診断できるから、前記取付位置と前記取付方向の正誤を正確に診断できる。
【0015】
また、鉄道車両用制振装置におけるコントローラは、スエー指標およびヨー指標の符号に基づいて、取付位置および取付方向が正しいか否かを診断してもよく、このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、指標の大小によらず取付位置と取付方向の正誤を正確に診断できる。
【0016】
さらに、鉄道車両用制振装置におけるコントローラは、スエー指標およびヨー指標が取付位置或いは取付方向の誤りを示すとエラーとして、エラー回数をカウントし、エラー回数が閾値以上となると取付位置或いは取付方向が誤りであると診断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置は、取付位置および取付方向の正誤の誤診断がなくなり、取付位置および取付方向を正しく診断できる。
【0017】
さらに、本発明の鉄道車両用制振装置の診断方法は、前側アクチュエータと後側アクチュエータを駆動して車体にスエー加速度を作用させるスエー加振ステップと、コントローラが前側アクチュエータに車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令に前側加速度および後側加速度から求めたスエー加速度を乗じて前側スエー指標を求めるとともに後側アクチュエータに車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令とスエー加速度を乗じて後側スエー指標を求めるスエー指標演算ステップと、前側スエー指標および後側スエー指標に基づいて各アクチュエータの取付位置が正しいか否かを診断するスエー加振時診断ステップと、前側アクチュエータと後側アクチュエータを駆動して車体にヨー加速度を作用させるヨー加振ステップと、コントローラが前側アクチュエータに車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前側加速度および後側加速度から求めたヨー加速度を乗じて前側ヨー指標を求めるとともにコントローラが後側アクチュエータに車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令とヨー加速度を乗じて後側ヨー指標を求めるヨー指標演算ステップと、前側ヨー指標および後側ヨー指標に基づいて前記取付位置が正しいか否かを診断するヨー加振時診断ステップとを備えている。このように構成された鉄道車両用制振装置の診断方法によれば、スエー加振の各アクチュエータの駆動に対する車体の反応と、ヨー加振時の各アクチュエータの駆動に対する車体の反応との双方で各アクチュエータの取付位置の正誤を診断できるから、目視によらず前記取付位置の正誤を正確に診断できる。
【0018】
そしてさらに、本発明の鉄道車両用制振装置の診断方法は、前側アクチュエータと後側アクチュエータを駆動して前記車体にスエー加速度を作用させるスエー加振ステップと、コントローラが前側アクチュエータに車体をスエー方向へ加振する推力を発生させる指令とコントローラが後側アクチュエータに車体をスエー方向に加振する推力を発生させる指令から求めたスエー指令と、前側加速度と後側加速度から求めた車体のスエー方向の変位であるスエー変位とを乗じてスエー指標を求める車体スエー指標演算ステップと、前記スエー指標に基づいて取付位置および取付位置が正しいか否かを診断する診断ステップと、前側アクチュエータと後側アクチュエータを駆動して車体にヨー加速度を作用させるヨー加振ステップと、コントローラが前側アクチュエータに車体をヨー方向へ加振する推力を発生させる指令とコントローラが後側アクチュエータに車体をヨー方向に加振する推力を発生させる指令から求めたヨー指令と、前側加速度と後側加速度から求めた車体のヨー方向の変位であるヨー変位とを乗じてヨー指標を求める車体ヨー指標演算ステップと、ヨー指標に基づいて取付位置および取付位置が正しいか否かを診断する診断ステップとを備えている。
【0019】
このように構成された鉄道車両用制振装置の診断方法によれば、スエー加振の各アクチュエータの駆動に対する車体の反応と、ヨー加振時の各アクチュエータの駆動に対する車体の反応との双方で各アクチュエータの取付位置の正誤を診断できるから、前記取付位置の正誤を正確に診断できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鉄道車両用制振装置および鉄道車両用制振装置の診断方法によれば、目視によらず前後のアクチュエータの取付位置が正しいか否かを診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明における鉄道車両用制振装置を搭載した鉄道車両の平面図である。
図2】第一の実施の形態における鉄道車両用制振装置における前後のアクチュエータの取付位置の正誤を診断する処理を示したフローチャートの一例である。
図3】第一の実施の形態における鉄道車両用制振装置において、車体をスエー方向へ加振した場合の前側スエー指標と後側スエー指標と各アクチュエータの取付位置との関係を示した図である。
図4】第一の実施の形態における鉄道車両用制振装置において、車体をヨー方向へ加振した場合の前側ヨー指標と後側ヨー指標と各アクチュエータの取付位置との関係を示した図である。
図5】第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置における前後のアクチュエータの取付位置と前後の加速度センサの取付方向の正誤を診断する処理を示したフローチャートの一例である。
図6】第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置において、前後のアクチュエータの取付位置と前後の加速センサの取付方向とが正しい場合のスエー指令とスエー変位との関係を示した図である。
図7】第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置において、前後のアクチュエータの取付位置と前後の加速センサの取付方向のうち、一方が正しく他方が誤っている場合のスエー指令とスエー変位との関係を示した図である。
図8】第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置において、前後のアクチュエータの取付位置と前後の加速センサの取付方向とが正しい場合のヨー指令とヨー変位との関係を示した図である。
図9】第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置において、前後のアクチュエータの取付位置と前後の加速センサの取付方向のうち、一方が正しく他方が誤っている場合のヨー指令とヨー変位との関係を示した図である。
図10】第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置において、前後のアクチュエータの取付位置、前後の加速度センサの取付方向、スエー指標およびヨー指標の関係を示した図である。
図11】第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置において、前後のアクチュエータの取付位置と前後の加速度センサの取付方向の正誤を判断する具体的な処理を示したフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。なお、以下に説明する各実施の形態の鉄道車両用制振装置V1,V2において共通する構成については同じ符号を付し、説明の重複を避けるために、第一の実施の形態の鉄道車両用制振装置V1の説明において説明した構成については第二の実施の形態の鉄道車両用制振装置V2における説明では詳細な説明を省略する。
【0023】
<第一の実施の形態>
第一の実施の形態の鉄道車両用制振装置V1は、図1に示すように、車体Bと前側の台車Tfとの間に設置される前側アクチュエータAfと、車体Bと後側の台車Trとの間に設置される後側アクチュエータArと、車体Bの前側における水平横方向の加速度である前側加速度を検知する前側加速度センサSfと、車体Bの後側における水平横方向の加速度である後側加速度を検知する後側加速度センサSrと、各アクチュエータAf,Arを制御するコントローラCとを備えて構成されている。
【0024】
詳しくは図示しないが、アクチュエータAf,Arは、ともに、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入される図外のピストンと、シリンダ内に挿入されて前記ピストンに連結されるロッド2とを備えて、片ロッド型のアクチュエータとして構成されている。なお、アクチュエータAf,Arは、両ロッド型のアクチュエータとされてもよい。また、アクチュエータAf,Arは、シリンダ1内に作動流体を供給してアクチュエータAf,Arを伸縮作動させる流体圧源と流体圧回路とを備えている。そして、このように構成されたアクチュエータAf,Arは、ともに、シリンダ1が鉄道車両の車体Bの下方に垂下されるピンPに連結され、ロッド2が台車Tf,Trに連結されて、車体Bと台車Tf,Trとの間に設置される。なお、図示はしないが流体圧源と流体圧回路は、シリンダ1に取付られており、車体Bに設置されるコントローラCと図外の電源とを配線で接続する必要があるので、車体Bとは左右方向へは相対移動しないシリンダ1を車体B側へ連結してある。
【0025】
より詳細には、前側のアクチュエータAfは、車体Bに対して鉄道車両の進行方向左側、つまり、図1中ではピンPの左側に配置され、後側のアクチュエータArは、車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側、つまり、図1中ではピンPの右側に配置される。よって、前側アクチュエータAfは、伸長時に車体Bを図1中右側へ変位させるように設置されており、後側アクチュエータArは、収縮時に車体Bを図1中右側へ変位させるように設置される。
【0026】
前述の配置(取付位置)では、前側アクチュエータAfが伸長して後側アクチュエータArが前側アクチュエータAfと同速度で収縮すると、車体Bには、図1中で右側へ向くスエー加速度βが作用する。逆に、前側アクチュエータAfが収縮して後側アクチュエータArが前側アクチュエータAfと同速度で伸長すると、車体Bには、図1中で左側へ向くスエー加速度βが作用する。つまり、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとが逆位相で伸縮すると、車体Bには、スエー加速度βのみが作用する。また、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとがともに同位相で伸長すると、車体Bには、図1中で車体中心Gを中心として時計回りに回転させるヨー加速度ωが作用する。逆に、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArがともに同位相で収縮すると、車体Bには、図1中で車体中心Gを中心として反時計回りに回転させるヨー加速度ωが作用する。つまり、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArがともに同位相で伸縮すると、車体Bには、ヨー加速度ωのみが作用する。本例では、コントローラCは、前述したように前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを駆動して車体Bをそれぞれスエー方向およびヨー方向へ加振するため、図1に示す前述の前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置が正しい取付位置となる。
【0027】
前側加速度センサSfは、車体Bの前側に設置されており、車体前部Bfの鉄道車両の進行方向に対して水平横方向の前側加速度を検知する。後側加速度センサSrは、車体Bの後側に設置されており、車体後部Brの鉄道車両の進行方向に対して水平横方向の後側加速度を検知する。なお、前側加速度センサSfと後側加速度センサSrは、検知加速度の方向に極性を備えるが、各センサSf,Srの図示しない筐体の螺子孔の位置や車体Bへの設置に利用される図示しない台座に誤組防止の配慮がなされていて、正しい極性で車体Bに設置される。
【0028】
前側加速度センサSfと後側加速度センサSrは、図1中左側へ向く方向の前側および後側の加速度を正の値として検知し、反対に図1中右側へ向く方向の前側および後側の加速度を負の値として検知する。
【0029】
コントローラCは、本例では、前側および後側の加速度に基づいて、車体Bの車体中心Gの水平横方向の加速度であるスエー加速度βと前後の台車Tf,Trの直上における車体中心G周りの角加速度であるヨー加速度ωとを求める。そして、コントローラCは、スエー加速度βおよびヨー加速度ωに基づいて、各アクチュエータAf,Arで個々に発生すべき制御力を求める。具体的には、コントローラCは、スエー加速度βおよびヨー加速度ωから車体Bのスエー方向の振動を抑制するスエー抑制力と車体Bのヨー方向の振動を抑制するヨー抑制力とを求める。さらに、コントローラCは、スエー抑制力とヨー抑制力とを加算した値を2で割って前側アクチュエータAfの制御力を求め、スエー抑制力からヨー抑制力を差し引いた値を2で割って後側アクチュエータArの制御力を求める。コントローラCは、このようにして求めた制御力を前後の各アクチュエータAf,Arに発揮させるべく、求めた制御力の大きさに応じた指令を生成して、前後の各アクチュエータAf,Arへ出力する。指令を受けた前後の各アクチュエータAf,Arは、指令が指示する制御力通りの推力を発揮して車体Bのスエー方向の振動およびヨー方向の振動を抑制する。このように、コントローラCは、前後の各アクチュエータAf,Arを制御する。この指令は、前後の各アクチュエータAf,Arに伸長方向の推力を発揮させる際に正の値を採り、前後の各アクチュエータAf,Arに収縮方向の推力を発揮させる際に負の値を採るように設定されており、指令の符号を除いた数値は、制御力の絶対値に比例して大きくなる。なお、コントローラCは、図1中車体Bの中央を上下に通る軸を基準として左側へ向く方向のスエー加速度βを正の値として検知し、反対の右側へ向く方向のスエー加速度βを負の値として検知する。また、コントローラCは、車体中心Gを中心として車体Bを反時計回り方向へ回転させる方向のヨー加速度ωを正の値として検知し、これとは反対方向の時計回り方向のヨー加速度ωを負の値として検知する。
【0030】
つづいて、この鉄道車両用制振装置V1における前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置が正しいか否か診断する診断方法について説明する。
【0031】
コントローラCは、図2に示すように、鉄道車両が停車中であって車体Bに外力が作用しない状態において、車体Bにスエー加速度βのみが作用するように車体Bを加振(スエー加振)するべく、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを逆位相で同周波数、同振幅のサイン波で伸縮させる(ステップS1)。鉄道車両用制振装置V1による車体Bのスエー加振は、加振開始から予め決められた所定時間を経過するまで継続して行われる。このコントローラCのステップS1の処理はスエー加振ステップとなる。
【0032】
つづいて、コントローラCは、前側スエー指標SIfおよび後側スエー指標SIrを求める(ステップS2)。このコントローラCのステップS2の処理はスエー指標演算ステップとなる。具体的には、コントローラCは、前述したように、前側加速度センサSfが検知した前側加速度と後側加速度センサSrが検知した後側加速度の和を2で割って車体Bの車体中心Gのスエー加速度βを求める。コントローラCは、図1中左方へ向く方向のスエー加速度βを正の値とし、反対方向の図1中右方へ向くスエー加速度βを負の値として求める。コントローラCは、スエー加速度βと前側アクチュエータAfに与えられる指令との積を求め、この値を前側スエー指標SIfとし、スエー加速度βと後側アクチュエータArに与えられる指令との積を求め、この値を後側スエー指標SIrとする。
【0033】
スエー加振中においてコントローラCが前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとに与える各指令は、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを逆位相のサイン波で伸縮させるものであるので、互いに符号が反転した値の指令となる。前後の各アクチュエータAf,Arを伸長させる場合の指令は、正の値を持つ指令となり、反対に前後の各アクチュエータAf,Arを収縮させる場合の指令は、負の値を持つ指令となる。
【0034】
スエー加振中で前側アクチュエータAfを伸長させて後側アクチュエータArを収縮させる場合、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しく図1に示す配置であると、前側加速度および後側加速度が負の値となり、スエー加速度βが負の値となる。そして、前側アクチュエータAfを伸長させる指令は、正の値であるため、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、図3に示すように、前側スエー指標SIfは、負の値を採る。また、後側アクチュエータArを収縮させる指令は、負の値であるため、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、図3に示すように、後側スエー指標SIrは、正の値を採る。
【0035】
反対に、スエー加振中で前側アクチュエータAfを収縮させて後側アクチュエータArを伸長させる場合、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、前側加速度および後側加速度が正の値となり、スエー加速度βが正の値を持つ。この場合、前側アクチュエータAfを収縮させる指令は、負の値であるため、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、図3に示すように、前側スエー指標SIfは、負の値を採る。また、後側アクチュエータArを伸長させる指令は、正の値であるため、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、図3に示すように、後側スエー指標SIrは、正の値を採る。
【0036】
前後のアクチュエータAf,Arのうち一方の取付位置が誤っていると、前後のアクチュエータAf,Arの双方が車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側あるいは左側に配置される。そのため、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを逆位相で伸縮させると、車体Bは、スエー加振されずにヨー加振されてしまう。したがって、この場合にはスエー加速度βは0となる。すると、理論上、前側スエー指標SIfおよび後側スエー指標SIrは0となる。しかしながら、実際には、ノイズ等の影響や前後のアクチュエータAf,Arの応答の影響もある他、編成列車中の鉄道車両を加振すると加振中以外の鉄道車両も振動して加振中の鉄道車両の振動にも影響が与えられる。よって、スエー加速度βは、図3に示すように、0か非常に小さな値を採る。このように、前後のアクチュエータAf,Arのうち一方の取付位置が誤っていると、前側スエー指標SIfおよび後側スエー指標SIrは、0か非常に小さな値を採る。
【0037】
前後のアクチュエータAf,Arの両方の取付位置が誤っていると、前側アクチュエータAfが車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側に、後側アクチュエータArが車体Bに対して鉄道車両の進行方向左側に配置される。この場合、コントローラCがスエー加振を行って前側アクチュエータAfを伸長させて後側アクチュエータArを収縮させると、前側加速度および後側加速度が正の値となり、スエー加速度βが正の値となる。そして、前側アクチュエータAfを伸長させる指令は、正の値であるため、この場合、前側スエー指標SIfは、図3に示すように、正の値を採る。また、後側アクチュエータArを収縮させる指令は、負の値であるため、この場合、後側スエー指標SIrは、図3に示すように、負の値を採る。また、反対に、スエー加振中で前側アクチュエータAfを収縮させて後側アクチュエータArを伸長させる場合、前側加速度および後側加速度が負の値となり、スエー加速度βが負の値を持つ。この場合、前側アクチュエータAfを収縮させる指令は、負の値であるため、この場合、前側スエー指標SIfは、図3に示すように、正の値を採る。また、後側アクチュエータArを伸長させる指令は、正の値であるため、この場合、後側スエー指標SIrは、図3に示すように、負の値を採る。
【0038】
以上より、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを逆位相で同周波数、同振幅のサイン波で伸縮させて車体Bをスエー加振させる場合は、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤によって、前側スエー指標SIfおよび後側スエー指標SIrは、以下のような値となる。前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しい場合、前側スエー指標SIfは負の値を採り、後側スエー指標SIrは正の値を採る。これに対して、前後のアクチュエータAf,Arのうち一方の取付位置が誤っていると、前側スエー指標SIfおよび後側スエー指標SIrは、0か非常に小さな値を採る。さらに、前後のアクチュエータAf,Arの両方の取付位置が誤っていると、前側スエー指標SIfは正の値を採り、後側スエー指標SIrは負の値を採る。よって、前後のアクチュエータAf,Arで車体Bをスエー加振して、前側スエー指標SIfと後側スエー指標SIrを求めると、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しいか否かを診断できる。
【0039】
具体的には、コントローラCは、前側スエー指標SIfと後側スエー指標SIrを求めた後に、SIf-γ<0かつSIr+γ>0であるか否かを判断する(ステップS3)。そして、所定時間の間、SIf-γ<0かつSIr+γ>0である場合には、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しいと診断してステップS4へ移行し、他方、SIf-γ<0かつSIr+γ>0でない場合には、エラーとして認識して、所定時間内でエラー回数が所定のカウント数に達すると、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が誤りであると診断する(ステップS5)。このように、SIf-γ<0かつSIr+γ>0でない状態が所定時間で所定回数異常検知されると前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が誤りであると診断するので、ノイズ等によって偶発的にSIf-γ<0かつSIr+γ>0でない状態となった場合に取付位置を誤りであると誤診断することが防止される。なお、前記取付位置の正誤を診断するための所定時間と所定回数は任意に設定できるが誤診断を防止できるように、経験的或いは実験的に求めた値に設定されればよい。
【0040】
なお、前述したように、スエー加振中の前側加速度センサSfが検知した前側加速度と後側加速度センサSrが検知した後側加速度にはノイズが重畳される。また、鉄道車両が編成列車中に組み込まれる場合、一車両毎に鉄道車両用制振装置V1のアクチュエータAf,Arの取付位置を診断するので、スエー加振される診断中の鉄道車両から診断対象以外の鉄道車両に振動が伝搬して振動するため、前側加速度と後側加速度は、診断対象以外の鉄道車両の振動の影響を受ける。このように、前側加速度と後側加速度にノイズや前述の振動の影響が含まれていると、求めた前側スエー指標SIfと後側スエー指標SIrの値が0を挟んで振動的に推移する場合もあり得る。よって、本実施の形態におけるスエー加振時診断ステップでは、正の値のオフセット値γを設定して、SIf-γ<0かつSIr+γ>0である場合に前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しいと診断し、そうでない場合には前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が誤っていると診断する。このようにオフセット値γを設定して、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を診断すると、ノイズや編成列車中の他の鉄道車両の振動によって前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を誤診断することを防止できる。
【0041】
また、コントローラCは、スエー加速度βの他にヨー加速度ωを求めて、スエー加速度βの絶対値|β|とヨー加速度ωの絶対値|ω|とを比較して(ステップS4)、|β|<|ω|である場合、アクチュエータAf,Arの取付位置が誤っていると診断する(ステップS6)。具体的には、コントローラCは、前述したように、前側加速度センサSfが検知した前側加速度と後側加速度センサSrが検知した後側加速度の差を演算して、車体Bの車体中心Gのヨー加速度ωを求める。ステップS1では、車体Bにスエー加速度βのみが作用するように車体Bをスエー加振しているので、アクチュエータAf,Arの取付位置が正しければヨー加速度ωの絶対値はスエー加速度βの絶対値よりも小さくなる筈である。それにも関わらず、スエー加速度βの絶対値よりもヨー加速度ωの絶対値が大きい場合、アクチュエータAf,Arの取付位置が誤っているにほかならない。このように、本実施の形態では、ステップS3の判断で取付位置が正しいと診断されても、スエー加速度βの絶対値|β|とヨー加速度ωの絶対値|ω|とを比較して取付位置の正誤を診断するので、正確に取付位置の正誤を診断できる。なお、本実施の形態では、このステップS3からステップS6までの処理がスエー加振時診断ステップとなり、ステップS4の判断で|β|>|ω|であればスエー加振に関しての処理を終了して、ステップS7へ移行する。
【0042】
なお、スエー加振時診断ステップでは、前側スエー指標SIfと後側スエー指標SIrを用いているので、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しくない場合、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置がどのように誤っているのかを前側スエー指標SIfと後側スエー指標SIrの値から診断できる。前側スエー指標SIfと後側スエー指標SIrの値が0か非常に小さい値である場合には、前後のアクチュエータAf,Arの一方の取付位置が誤っており、前側スエー指標SIfが正の値で後側スエー指標SIrの値が負の場合には、前後のアクチュエータAf,Arの両方の取付位置が誤っている。よって、スエー加振時診断ステップでは、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置がどのように誤っているかについても診断してもよい。
【0043】
なお、前述したところでは、前側スエー指標SIfと後側スエー指標SIrとを求めて取付位置の正誤を診断しているが、前側アクチュエータAfへの指令と前側加速度との符号が異なっており、後側アクチュエータArへの指令と後側加速度との符号が一致していれば取付位置が正しく、これ以外では誤りとなるので、このように判断してもよい。ただし、前側スエー指標SIfと後側スエー指標SIrを用いて取付位置の正誤を診断すると、車体Bの全体のスエー振動に着目して取付位置の正誤を正確に診断できる。
【0044】
つづいて、コントローラCは、スエー加振による前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤の診断を行った後、ヨー加振による前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤の診断を行う。
【0045】
コントローラCは、図2に示すように、鉄道車両が停車中であって車体Bに外力が作用しない状態において、車体Bにヨー加速度ωのみが作用するように車体Bを加振(ヨー加振)するべく、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを同位相で同周波数、同振幅のサイン波で伸縮させる(ステップS7)。鉄道車両用制振装置V1による車体Bのヨー加振は、加振開始から予め決められた所定時間を経過するまで継続して行われる。このコントローラCのステップS7の処理はヨー加振ステップとなる。
【0046】
つづいて、コントローラCは、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrを求める(ステップS8)。このコントローラCのステップS8の処理はヨー指標演算ステップとなる。ヨー加速度ωは、前述したように、コントローラCが前側加速度と後側加速度とから車体Bの車体中心Gのヨー加速度ωを求める。コントローラCは、図1中で車体Bが車体中心Gを中心として反時計回りに回転する方向のヨー加速度ωを正の値とし、反対方向の図1中時計回り方向のヨー加速度ωを負の値として求める。コントローラCは、ヨー加速度ωと前側アクチュエータAfに与えられる指令との積を求め、この値を前側ヨー指標YIfとし、ヨー加速度ωと後側アクチュエータArに与える指令との積を求め、この値を後側ヨー指標YIrとする。
【0047】
ヨー加振中においてコントローラCが前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとに与える各指令は、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを同位相のサイン波で伸縮させるものであるので、互いに符号が一致した値の指令となる。前述同様に、前後の各アクチュエータAf,Arを伸長させる場合の指令は、正の値を持つ指令となり、反対に前後の各アクチュエータAf,Arを収縮させる場合の指令は、負の値を持つ指令となる。
【0048】
ヨー加振中で前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを伸長させる場合、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しく図1に示す配置であると、車体前部Bfが図1中で右方へ移動し、車体後部Brが図1中で左方へ移動するので、車体Bは車体中心Gを中心として時計回りに回転する。前述しように、前側加速度センサSfは、車体Bを図1中で左方へ移動させる加速度を正として前側加速度を検知し、後側加速度センサSfは、車体Bを図1中で右方へ移動させる加速度を正として後側加速度を検知する。また、ヨー加速度ωは、車体Bを車体中心Gを中心として反時計周りに回転させる方向の加速度である場合に正の値を採る。よって、この場合、前側加速度が負の値となるとともに後側加速度が正の値となり、ヨー加速度ωが負の値となる。そして、前側アクチュエータAfを伸長させる指令は、正の値であるため、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、図4に示すように、前側ヨー指標YIfは、負の値を採る。また、後側アクチュエータArを伸長させる指令は、正の値であるため、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、図4に示すように、後側ヨー指標YIrは、負の値を採る。
【0049】
反対に、ヨー加振中で前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArを収縮させる場合、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、車体前部Bfが図1中で左方へ移動し、車体後部Brが図1中で右方へ移動するので、車体Bは車体中心Gを中心として反時計回りに回転する。よって、この場合、前側加速度が正の値となるとともに後側加速度が負の値となり、ヨー加速度ωが正の値を持つ。この場合、前側アクチュエータAfを収縮させる指令は、負の値であるため、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、図4に示すように、前側ヨー指標YIfは、負の値を採る。また、後側アクチュエータArを収縮させる指令は、負の値であるため、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しければ、図4に示すように、後側ヨー指標YIrは、負の値を採る。
【0050】
前後のアクチュエータAf,Arのうち一方の取付位置が誤っていると、前後のアクチュエータAf,Arの双方が車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側あるいは左側に配置される。そのため、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを同位相で伸縮させると、車体Bは、ヨー加振されずにスエー加振されてしまう。したがって、この場合にはヨー加速度ωは0となる。すると、理論上、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrは0となる。しかしながら、実際には、ノイズ等の影響や前後のアクチュエータAf,Arの応答の影響もある他、編成列車中の鉄道車両を加振すると加振中以外の鉄道車両も振動して加振中の鉄道車両の振動にも影響が与えられる。よって、ヨー加速度ωは、図4に示すように、0か非常に小さな値を採る。このように、前後のアクチュエータAf,Arのうち一方の取付位置が誤っていると、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrは、0か非常に小さな値を採る。
【0051】
前後のアクチュエータAf,Arの両方の取付位置が誤っていると、前側アクチュエータAfが車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側に、後側アクチュエータArが車体Bに対して鉄道車両の進行方向左側に配置される。この場合、コントローラCがヨー加振を行って前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArを伸長させると、前側加速度が正の値となるとともに後側加速度が負の値となり、ヨー加速度ωが正の値となる。そして、前側アクチュエータAfを伸長させる指令は、正の値であるため、この場合、前側ヨー指標YIfは、図4に示すように、正の値を採る。また、後側アクチュエータArを伸長させる指令は、正の値であるため、この場合、後側ヨー指標YIrは、図4に示すように、正の値を採る。また、反対に、ヨー加振中で前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArを収縮させる場合、前側加速度が負の値となるとともに後側加速度が正の値となり、ヨー加速度ωが負の値を持つ。この場合、前側アクチュエータAfを収縮させる指令は、負の値であるため、この場合、前側ヨー指標YIfは、図4に示すように、正の値を採る。また、後側アクチュエータArを収縮させる指令は、負の値であるため、この場合、後側ヨー指標YIrは、図4に示すように、正の値を採る。
【0052】
以上より、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを同位相で同周波数、同振幅のサイン波で伸縮させて車体Bをヨー加振させる場合は、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤によって、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrは、以下のような値となる。前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しい場合、前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrとはどちらも負の値を採る。これに対して、前後のアクチュエータAf,Arのうち一方の取付位置が誤っていると、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrは、0か非常に小さな値を採る。さらに、前後のアクチュエータAf,Arの両方の取付位置が誤っていると、前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrとはどちらも正の値を採る。よって、前後のアクチュエータAf,Arで車体Bをヨー加振して、前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrとを求めると、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しいか否かを診断できる。
【0053】
具体的には、コントローラCは、前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrとを求めた後に、YIf+Δ<0かつYIr+Δ<0であるか否かを判断する(ステップS9)。そして、所定時間の間、YIf+Δ<0かつYIr+Δ<0である場合には、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しいと診断してステップS10へ移行し、他方、YIf+Δ<0かつYIr+Δ<0でない場合には、エラーとして認識して、所定時間内でエラー回数が所定のカウント数に達すると、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が誤りであると診断する(ステップS11)。このように、YIf+Δ<0かつYIr+Δ<0でない状態が所定時間で所定回数異常検知されると前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が誤りであると診断するので、ノイズ等によって偶発的にYIf+Δ<0かつYIr+Δ<0でない状態となった場合に取付位置を誤りであると誤診断することが防止される。なお、前記取付位置の正誤を診断するための所定時間と所定回数は任意に設定できるが誤診断を防止できるように、経験的或いは実験的に求めた値に設定されればよい。
【0054】
なお、前述したように、ヨー加振中の前側加速度センサSfが検知した前側加速度と後側加速度センサSrが検知した後側加速度にはノイズが重畳される。また、鉄道車両が編成列車中に組み込まれる場合、一車両毎に鉄道車両用制振装置V1のアクチュエータAf,Arの取付位置を診断するので、ヨー加振される診断中の鉄道車両から診断対象以外の鉄道車両に振動が伝搬して振動するため、前側加速度と後側加速度は、診断対象以外の鉄道車両の振動の影響を受ける。このように、前側加速度と後側加速度にノイズや前述の振動の影響が含まれていると、求めた前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrの値が0を挟んで振動的に推移する場合もあり得る。よって、ヨー加振時診断ステップでは、正の値のオフセット値Δを設定して、YIf+Δ<0かつYIr+Δ<0である場合に前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しいと診断し、そうでない場合には前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が誤っていると診断する。このようにオフセット値Δを設定して、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を診断すると、ノイズや編成列車中の他の鉄道車両の振動によって前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を誤診断することを防止できる。なお、オフセット値γとオフセット値Δは同じ値に設定されてもよいし、異なる値に設定されてもよい。
【0055】
また、コントローラCは、スエー加速度βの絶対値|β|とヨー加速度ωの絶対値|ω|とを比較して(ステップS10)、|ω|<|β|である場合、アクチュエータAf,Arの取付位置が誤っていると診断する(ステップS12)。他方、|ω|>|β|である場合、アクチュエータAf,Arの取付位置が正しいと診断して(ステップS13)、アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤診断の処理を終了する。ステップS7では、車体Bにヨー加速度ωのみが作用するように車体Bをヨー加振しているので、アクチュエータAf,Arの取付位置が正しければスエー加速度βの絶対値はヨー加速度ωの絶対値よりも小さくなる筈である。それにも関わらず、ヨー加速度ωの絶対値よりもスエー加速度βの絶対値が大きい場合、アクチュエータAf,Arの取付位置が誤っているにほかならない。このように、本実施の形態では、ステップS9の判断で取付位置が正しいと診断されても、スエー加速度βの絶対値|β|とヨー加速度ωの絶対値|ω|とを比較して取付位置の正誤を診断するので、正確に取付位置の正誤を診断できる。なお、本実施の形態では、このステップS9からステップS12までの処理がヨー加振時診断ステップとなり、ステップS10の判断で|ω|>|β|であればヨー加振に関しても前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しいので、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しいと診断する。
【0056】
なお、ヨー加振時診断ステップでは、前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrとを用いているので、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しくない場合、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置がどのように誤っているのかを前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrの値から判断できる。前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrの値が0か非常に小さい値である場合には、前後のアクチュエータAf,Arの一方の取付位置が誤っており、前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrとの値が正の場合には、前後のアクチュエータAf,Arの両方の取付位置が誤っている。よって、ヨー加振時診断ステップでは、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置がどのように誤っているかについても診断してもよい。
【0057】
なお、前述したところでは、前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrとを求めて取付位置の正誤を診断しているが、前側アクチュエータAfへの指令と前側加速度の符号とが異なっており、後側アクチュエータArへの指令と後側加速度の符号とが異なっていれば取付位置が正しく、これ以外では誤りとなるので、このように判断してもよい。ただし、前側ヨー指標YIfと後側ヨー指標YIrを用いて取付位置の正誤を診断すると、車体Bの全体のヨー振動に着目して取付位置の正誤を正確に診断できる。
【0058】
以上説明したように、鉄道車両用制振装置V1は、鉄道車両の車体Bと前側の台車Tfとの間に設置されて車体Bの前側を左右方向へ加振可能な前側アクチュエータAfと、車体Bと後側の台車Trとの間に設置されて車体Bの後側を左右方向へ加振可能な後側アクチュエータArと、車体Bの前側に設置されて車体Bの前側の左右方向の前側加速度を検知する前側加速度センサSfと、車体Bの後側に設置されて車体Bの後側の左右方向の後側加速度を検知する後側加速度センサSrと、前側加速度センサSfと後側加速度センサSrとが検知する前側加速度と後側加速度とに基づいて、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを制御するコントローラCとを備え、コントローラCが前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArに車体Bをスエー方向およびヨー方向へ加振する推力を発生させる各指令と、前側加速度センサSfと後側加速度センサSrとが検知する前側加速度と後側加速度とに基づいて、前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置が正しいか否かを診断する。
【0059】
このように構成された鉄道車両用制振装置V1では、前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの指令と前側加速度と後側加速度とを用いて前記取付位置が正しいか否かを診断するので、前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置を目視によらず前記取付位置が正しいか否かを診断できる。また、作業者が前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置を目視で確認する必要が無くなるので、作業者の負担が軽減される。
【0060】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置V1は、コントローラCが前側アクチュエータAfにスエー方向へ加振する推力を発生させる指令と前側加速度および後側加速度から求めたスエー加速度βの積をスエー指標SIfとし、後側アクチュエータArにスエー方向へ加振する推力を発生させる指令とスエー加速度βとの積を後側スエー指標SIrとし、前側アクチュエータAfにヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前側加速度および後側加速度から求めたヨー加速度ωとの積をヨー指標YIfとし、後側アクチュエータArにヨー方向へ加振する推力を発生させる指令とヨー加速度ωとの積を後側ヨー指標YIrとして、これら各指標SIf,SIr,YIf,YIrから前記取付位置が正しいか否かを診断する。このように構成された鉄道車両用制振装置V1は、スエー加振時に得られる指標SIf,SIrとヨー加振時に得られる指標YIf,YIrから前記取付位置が正しいか否かを診断する。そのため、スエー加振の各アクチュエータAf,Arの駆動に対する車体Bの反応と、ヨー加振時の各アクチュエータAf,Arの駆動に対する車体Bの反応との双方で各アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を診断できるから、前記取付位置の正誤を正確に診断できる。
【0061】
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置V1は、コントローラCが前側スエー指標SIf、後側スエー指標SIr、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrの符号に基づいて、各アクチュエータAf,Arの取付位置が正しいか否かを診断する。このように構成された鉄道車両用制振装置V1は、前側スエー指標SIf、後側スエー指標SIr、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrの符号で各アクチュエータAf,Arの取付位置が正しいか否かを診断するから、指標の大小によらず前記取付位置の正誤を正確に診断できる。なお、前側スエー指標SIf、後側スエー指標SIr、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrの符号で各アクチュエータAf,Arの取付位置が正しいか否かを診断する場合、オフセット値γ,Δを設定すると、ノイズ等によって各アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を誤診断することが防止される。
【0062】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置V1は、コントローラCが前側スエー指標SIf、後側スエー指標SIr、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrが各アクチュエータAf,Arの取付位置の誤りを示すと、これをエラーとして、エラー回数をカウントし、エラー回数が閾値以上となると各アクチュエータAf,Arの取付位置が誤りであると診断する。このように構成された鉄道車両用制振装置V1は、偶発的に前側スエー指標SIf、後側スエー指標SIr、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrがエラーを示しても直ちに各アクチュエータAf,Arの取付位置を誤りであると診断せず、エラー回数が所定回数となると前記取付位置を誤りと診断する。よって、このように構成された鉄道車両用制振装置V1によれば、取付位置の正誤の誤診断がなくなり、前記取付位置を正しく診断できる。
【0063】
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置V1の診断方法は、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを駆動して車体Bにスエー加速度を作用させるスエー加振ステップと、コントローラCが前側アクチュエータAfにスエー方向へ加振する推力を発生させる指令に前側加速度および後側加速度から求めたスエー加速度βを乗じて前側スエー指標SIrを求めるとともに後側アクチュエータArにスエー方向へ加振する推力を発生させる指令とスエー加速度βを乗じて後側スエー指標SIrを求めるスエー指標演算ステップと、前側スエー指標SIfおよび後側スエー指標SIrに基づいて各アクチュエータAf,Arの取付位置が正しいか否かを診断するスエー加振時診断ステップと、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを駆動して車体Bにヨー加速度を作用させるヨー加振ステップと、コントローラCが前側アクチュエータAfにヨー方向へ加振する推力を発生させる指令と前側加速度および後側加速度から求めたヨー加速度ωを乗じて前側ヨー指標YIfを求めるとともにコントローラCが後側アクチュエータArにヨー方向へ加振する推力を発生させる指令とヨー加速度ωを乗じて後側ヨー指標YIrを求めるヨー指標演算ステップと、前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIrに基づいて前記取付位置が正しいか否かを診断するヨー加振時診断ステップとを備えている。このように構成された鉄道車両用制振装置V1の診断方法によれば、スエー加振の各アクチュエータAf,Arの駆動に対する車体Bの反応と、ヨー加振時の各アクチュエータAf,Arの駆動に対する車体Bの反応との双方で各アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を診断できるから、前記取付位置の正誤を正確に診断できる。
【0064】
なお、各アクチュエータAf,Arの正しい取付位置の設定、各アクチュエータAf,Arへの指令の符号の採り方、各加速度センサSf,Srが検知する加速度の符号の採り方に応じて、各アクチュエータAf,Arが正しい取付位置に設定されている場合に各指標SIf,SIr,YIf,YIrが採る値は前述した実施の形態とは変わり得る。たとえば、指令と加速度の符号の採り方は前述と同じとして、前側アクチュエータAfが前側のアクチュエータAfが図1中でピンPの右側に配置され、後側アクチュエータArが図1中でピンPの左側に配置されるのが正しい取付位置である場合、スエー加振時の前側スエー指標SIfの符号が正で後側スエー指標SIrの符号が負となると各アクチュエータAf,Arの取付位置が正しく、ヨー加振時の前側ヨー指標YIfおよび後側ヨー指標YIfの符号がともに正となると各アクチュエータAf,Arの取付位置が正しいことになる。このように、各アクチュエータAf,Arの正しい取付位置の設定、各アクチュエータAf,Arへの指令の符号の採り方、各加速度センサSf,Srが検知する加速度の符号の採り方が前述の実施の形態とは異なっていても、各アクチュエータAf,Arが正しい取付位置に設定されている場合の各指標SIf,SIr,YIf,YIrの値を予め把握しておけば、各アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を診断できる。
【0065】
<第二の実施の形態>
第二の実施の形態の鉄道車両用制振装置V2は、第一の実施の形態の鉄道車両用制振装置V1と同様に、図1に示すように、車体Bと前側の台車Tfとの間に設置される前側アクチュエータAfと、車体Bと後側の台車Trとの間に設置される後側アクチュエータArと、車体Bの前側における水平横方向の加速度である前側加速度を検知する前側加速度センサSfと、車体Bの後側における水平横方向の加速度である後側加速度を検知する後側加速度センサSrと、各アクチュエータAf,Arを制御するコントローラCとを備えて構成されている。
【0066】
より詳細には、前側のアクチュエータAfは、車体Bに対して鉄道車両の進行方向左側、つまり、図1中ではピンPの左側に配置され、後側のアクチュエータArは、車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側、つまり、図1中ではピンPの右側に配置される。よって、前側アクチュエータAfは、伸長時に車体Bを図1中右側へ変位させるように設置されており、後側アクチュエータArは、収縮時に車体Bを図1中右側へ変位させるように設置される。前側のアクチュエータAfと後側のアクチュエータArの取付位置は、第一の実施の形態の鉄道車両用制振装置V1と同様に、前述の配置(取付位置)が正しい取付位置となっている。
【0067】
よって、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとが逆位相で伸縮すると、車体Bには、スエー加速度βのみが作用する。また、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとがともに同位相で伸縮すると、車体Bには、図1中で車体中心Gを中心として回転させるヨー加速度ωのみが作用する。本例では、コントローラCは、前述の前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArが正しい取付位置に配置されているとして、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを駆動して車体Bをそれぞれスエー方向およびヨー方向へ加振する。
【0068】
前側加速度センサSfは、車体Bの前側に設置されており、車体前部Bfの鉄道車両の進行方向に対して水平横方向の前側加速度を検知する。後側加速度センサSrは、車体Bの後側に設置されており、車体後部Brの鉄道車両の進行方向に対して水平横方向の後側加速度を検知する。なお、前側加速度センサSfと後側加速度センサSrとは、検知加速度の方向に極性を備えていて正しい取付方向で車体Bに設置されると、図1中左側へ向く方向の前側および後側の加速度を正の値として検知し、反対に図1中右側へ向く方向の前側および後側の加速度を負の値として検知する。なお、各センサSf,Srの図示しない筐体の螺子孔の位置や車体Bへの設置に利用される図示しない台座に誤組防止の配慮がなされているが、第二の実施の形態の鉄道車両用制振装置V2では、各アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤に加えて、各センサSf,Srが正しい向き(取付方向)で車体Bに設定されているか否かについても診断する。
【0069】
鉄道車両用制振装置V2におけるコントローラCは、第一の実施の形態の鉄道車両用制振装置V1と同様に、前側加速度センサSfと後側加速度センサSrとが検知した前側加速度と後側加速度とから車体Bのスエー加速度βとヨー加速度ωとを求めて、各アクチュエータAf,Arで個々に発生すべき制御力を求める。具体的には、コントローラCは、スエー加速度βおよびヨー加速度ωから車体Bのスエー方向の振動を抑制するスエー抑制力と車体Bのヨー方向の振動を抑制するヨー抑制力とを求める。さらに、コントローラCは、スエー抑制力とヨー抑制力とを加算した値を2で割って前側アクチュエータAfの制御力を求め、スエー抑制力からヨー抑制力を差し引いた値を2で割って後側アクチュエータArの制御力を求める。コントローラCは、このようにして求めた制御力を前後の各アクチュエータAf,Arに発揮させるべく、求めた制御力の大きさに応じた指令を生成して、前後の各アクチュエータAf,Arへ出力する。指令を受けた前後の各アクチュエータAf,Arは、指令が指示する制御力通りの推力を発揮して車体Bのスエー方向の振動およびヨー方向の振動を抑制する。このように、コントローラCは、前後の各アクチュエータAf,Arを制御する。この指令は、前後の各アクチュエータAf,Arに伸長方向の推力を発揮させる際に正の値を採り、前後の各アクチュエータAf,Arに収縮方向の推力を発揮させる際に負の値を採るように設定されており、指令の符号を除いた数値は、制御力の絶対値に比例して大きくなる。なお、コントローラCは、図1中車体Bの中央を上下に通る軸を基準として左側へ向く方向のスエー加速度βを正の値として検知し、反対の右側へ向く方向のスエー加速度βを負の値として検知する。また、コントローラCは、車体中心Gを中心として車体Bを反時計回り方向へ回転させる方向のヨー加速度ωを正の値として検知し、これとは反対方向の時計回り方向のヨー加速度ωを負の値として検知する。
【0070】
つづいて、この鉄道車両用制振装置V2における前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置と前側加速度センサSfと後側加速度センサSrの取付方向が正しいか否か診断する診断方法について説明する。
【0071】
コントローラCは、図5に示すように、鉄道車両が停車中であって車体Bに外力が作用しない状態において、車体Bにスエー加速度βのみが作用するように車体Bを加振(スエー加振)するべく、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを逆位相で同周波数、同振幅のサイン波で伸縮させる(ステップS21)。鉄道車両用制振装置V2による車体Bのスエー加振は、加振開始から予め決められた所定時間を経過するまで継続して行われる。このコントローラCのステップS21の処理はスエー加振ステップとなる。
【0072】
つづいて、コントローラCは、スエー変位Xを求める(ステップS22)。具体的には、コントローラCは、前述したように、前側加速度センサSfが検知した前側加速度と後側加速度センサSrが検知した後側加速度の和を2で割って車体Bの車体中心Gのスエー加速度βを求める。さらに、コントローラCは、スエー加速度βを二回積分して車体Bの車体中心Gの水平横方向の変位であるスエー変位Xを求める。なお、コントローラCは、図1中左方へ向く方向のスエー変位Xを正の値とし、反対方向の図1中右方へ向くスエー変位Xを負の値として求める。なお、本実施の形態では、コントローラCは、前側加速度と後側加速度からスエー加速度βを求め、スエー加速度βを二回積分してスエー変位Xを求めているが、前側加速度と後側加速度をそれぞれ二回積分して車体Bの前側の変位と後側の変位を求めてからスエー変位Xを求めてもよい。また、コントローラCは、積分処理をローパスフィルタ処理にて行ってもよい。
【0073】
さらに、コントローラCは、スエー指令Scを求める(ステップS23)。コントローラCは、本例では、スエー加振時において前側のアクチュエータAfに与える指令と後側のアクチュエータArに与える指令に基づいて、スエー指令Scを求める。本実施の形態では、前側アクチュエータAfの伸長時に車体Bを右側(負側)へ変位させ、後側アクチュエータArの伸長時に車体Bを左側(正側)へ変位させるので、コントローラCは、後側のアクチュエータArに与える指令から前側のアクチュエータAfに与える指令を差し引いた値を2で割ってスエー指令Scを求める。このように、スエー指令Scを求めると、スエー指令Scにおける符号は、車体Bに各アクチュエータAf,Arが作用させるスエー加速度の方向を示しており、スエー指令Scの数値は、車体Bに各アクチュエータAf,Arが作用させるスエー加速度の大きさを示す。
【0074】
そして、コントローラCは、スエー変位Xとスエー指令Scとに基づいてスエー指標SIを求める(ステップS24)。このコントローラCのステップS22からステップS24までの処理は車体スエー指標演算ステップとなる。具体的には、コントローラCは、スエー変位Xとスエー指令Scとの積を求め、この値をスエー指標SIとする。
【0075】
つづいて、コントローラCは、鉄道車両が停車中であって車体Bに外力が作用しない状態において、車体Bにヨー加速度ωのみが作用するように車体Bを加振(ヨー加振)するべく、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを同位相で同周波数、同振幅のサイン波で伸縮させる(ステップS25)。鉄道車両用制振装置V2による車体Bのヨー加振は、加振開始から予め決められた所定時間を経過するまで継続して行われる。このコントローラCのステップS25の処理はヨー加振ステップとなる。
【0076】
つづいて、コントローラCは、ヨー変位Yを求める(ステップS26)。具体的には、コントローラCは、前述したように、前側加速度センサSfが検知した前側加速度から後側加速度センサSrが検知した後側加速度を差し引いた値を2で割って車体Bの車体中心Gのヨー加速度ωを求める。さらに、コントローラCは、ヨー加速度ωを二回積分して車体Bの車体中心Gとした水平横方向の回転変位であるヨー変位Yを求める。なお、コントローラCは、図1中で車体Bが車体中心Gを中心として反時計回りに回転する方向のヨー加速度ωを正の値とし、反対方向の図1中時計回り方向のヨー加速度ωを負の値として求める。本実施の形態では、コントローラCは、前側加速度と後側加速度からヨー加速度ωを求め、ヨー加速度ωを二回積分してヨー変位Yを求めているが、前側加速度と後側加速度をそれぞれ二回積分して車体Bの前側の変位と後側の変位を求めてからヨー変位Yを求めてもよい。また、コントローラCは、積分処理をローパスフィルタ処理にて行ってもよい。
【0077】
さらに、コントローラCは、ヨー指令Ycを求める(ステップS27)。コントローラCは、本例では、ヨー加振時において前側のアクチュエータAfに与える指令と後側のアクチュエータArに与える指令に基づいて、ヨー指令Ycを求める。具体的には、車体中心G周りに車体Bを反時計回りに回転させるヨー加速度ωを正としているので、コントローラCは、前述したように、前側のアクチュエータAfに与える指令と後側のアクチュエータArに与える指令との和を-2で割ってヨー指令Ycを求める。このように、ヨー指令Ycを求めると、ヨー指令Ycにおける符号は、車体Bに各アクチュエータAf,Arが作用させるヨー加速度の方向を示しており、ヨー指令Ycの数値は、車体Bに各アクチュエータAf,Arが作用させるヨー加速度の大きさを示す。
【0078】
そして、コントローラCは、ヨー変位Yとヨー指令Ycとに基づいてヨー指標YIを求める(ステップS28)。このコントローラCのステップS26からステップS28までの処理は車体ヨー指標演算ステップとなる。具体的には、コントローラCは、ヨー変位Yとヨー指令Ycとの積を求め、この値をヨー指標YIとする。
【0079】
つづいて、コントローラCは、スエー指標SIとヨー指標YIとに基づいて、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と、前後の加速度センサSf,Srの取付方向の正誤を判断する(ステップS29)。
【0080】
スエー加振中においてコントローラCが前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとに与える各指令は、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを逆位相のサイン波で伸縮させるものであるので、互いに符号が反転した値の指令となる。前後の各アクチュエータAf,Arを伸長させる場合の指令は、正の値を持つ指令となり、反対に前後の各アクチュエータAf,Arを収縮させる場合の指令は、負の値を持つ指令となる。
【0081】
よって、スエー加振中で前側アクチュエータAfを伸長させて後側アクチュエータArを収縮させる場合、前側アクチュエータAfを伸長させる指令は正の値となり、後側アクチュエータArを収縮させる指令は負の値となり、スエー指令Scは、負の値を採る。スエー加振中で前側アクチュエータAfを収縮させて後側アクチュエータArを伸長させる場合、前側アクチュエータAfを収縮させる指令は負の値となり、後側アクチュエータArを伸長させる指令は正の値となり、スエー指令Scは、正の値を採る。
【0082】
ここで、車体Bは、台車Tf,Trに対して図外の懸架ばねによって弾性支持されており、車体Bが台車Tf,Trに対して横方向の変位にすると図外の懸架ばねが車体Bを元の位置へ戻す弾発力を発揮する。よって、各アクチュエータAf,Arからスエー加速度βが与えられると車体Bは、懸架ばねが車体Bの横方向の移動量に応じて発揮する弾発力に釣り合う位置まで変位する。よって、スエー変位Xは、懸架ばねのばね定数をKとし、各アクチュエータAf,Arが車体Bに与えるスエー方向の推力をFとすると、外乱等を無視すればF=K×Xが成り立つ。そして、スエー指令Scは、車体Bに与えるスエーの方向と推力の大きさを示す数値であるので、スエー変位Xは、外乱等を無視すればスエー指令Scが正の値を採れば、正の値を採り、スエー指令Scが負の値を採れば、負の値を採る筈である。
【0083】
よって、スエー指令Scを縦軸としてスエー変位Xを横軸にとって、得られたスエー指令Scとこれに対応するスエー変位Xをプロットすると、図6中の破線で示すように、理論的には原点を通り、ばね定数Kに比例した値の傾きを持った直線となる。実際には、スエー指令Scを求めるための各指令からスエー変位Xまで時間遅れがあるので、同じ演算周期で得られたスエー指令Scとスエー変位Xをプロットすると、図6中の実線で示すように、スエー指令Scとスエー変位Xは、ヒステリシスを持った関係性を示すが、概ね、図6中で第一象現と第三象現で推移する関係性を示す。
【0084】
よって、スエー指令Scとスエー変位Xとの積であるスエー指標SIは、各アクチュエータAf,Arの取付位置が正しく、各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、外乱やノイズが無ければ、正の値を採ることになる。
【0085】
他方、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの一方の取付位置は正しく他方の取付位置が誤っており、前後の各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、前後のアクチュエータAf,Arの双方が車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側あるいは左側に配置される。そのため、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを逆位相で伸縮させると、車体Bは、スエー加振されずにヨー加振されてしまう。したがって、この場合には、外乱等の影響がなければ、理論上、スエー加速度βは0となり、スエー変位Xも0となる。すると、理論上、スエー指標SIは0となる。しかしながら、実際には、ノイズ等の影響や前後のアクチュエータAf,Arの応答の影響もある他、編成列車中の鉄道車両を加振すると加振中以外の鉄道車両も振動して加振中の鉄道車両の振動にも影響が与えられる。よって、スエー変位Xは、0か非常に小さな値を採る。このように、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置のうち一方が正しく他方が誤っており、前後の加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、スエー指標SIは、0か非常に小さな値を採る。
【0086】
また、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの双方の取付位置が誤っており、前後の各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを逆位相で伸縮させると、車体Bは、スエー加振されるものの、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの双方の取付位置が正しい時とは逆向きに加振される。つまり、スエー指令Scが車体Bを車両進行方向右側へスエー加振させる指令であっても、逆に車体Bを車両進行方向左側へスエー加振する。よって、スエー指令Scからスエー変位Xまでの応答時間を無視すれば、スエー指令Scが正であるとスエー変位Xが負となり、スエー指令Scが負であるとスエー変位Xが正となる。よって、スエー指令Scを縦軸としてスエー変位Xを横軸にとって、得られたスエー指令Scとこれに対応するスエー変位Xをプロットすると、図7中の破線で示すように、理論的には、原点を通り、ばね定数Kに比例した値の傾きを持った直線となる。実際には、スエー指令Scを求めるための各指令からスエー変位Xまで時間遅れがあるので、同じ演算周期で得られたスエー指令Scとスエー変位Xをプロットすると、図7中の実線で示すように、スエー指令Scとスエー変位Xは、ヒステリシスを持った関係性を示すが、概ね、図7中で第二象現と第四象現で推移する関係性を示す。よって、スエー指令Scとスエー変位Xとの積であるスエー指標SIは、各アクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、外乱やノイズが無ければ、負の値を採ることになる。
【0087】
さらに、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの取付位置は正しいが、前後の各加速度センサSf,Srの一方の取付方向が正しく他方が誤っている場合、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを逆位相で伸縮させると、前後の各加速度センサSf,Srが互いに逆向きの加速度を検知することになる。すると、前後の各加速度センサSf,Srが検知した前側加速度と後側加速度からスエー加速度βを求めると、スエー加速度βは外乱等の影響がなければ理論上0となり、スエー変位Xも0となる。すると、理論上、スエー指標SIは0となる。しかしながら、実際には、ノイズ等の影響や前後のアクチュエータAf,Arの応答の影響もある他、編成列車中の鉄道車両を加振すると加振中以外の鉄道車両も振動して加振中の鉄道車両の振動にも影響が与えられる。よって、スエー変位Xは、0か非常に小さな値を採る。このように、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が正しいが、前後の加速度センサSf,Srの取付方向のうち一方が正しく他方が誤っていると、スエー指標SIは、0か非常に小さな値を採る。
【0088】
また、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの双方の取付位置が正しく、前後の各加速度センサSf,Srの双方の取付方向が誤っている場合、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを逆位相で伸縮させると、車体Bは、スエー加振されるものの、前後の加速度センサSf,Srが検知する加速度の向きは実際の加速度の向きと逆向きとなる。よって、前後の加速度センサSf,Srが検知した加速度からスエー加速度βと求めると、実際の前後のアクチュエータAf,Arが車体Bを加振している方向とは逆向きのスエー加速度βを観測してしまう。つまり、スエー指令Scが車体Bを車両進行方向右側へスエー加振させる指令であっても、コントローラCは、逆に車体Bを車両進行方向左側へスエー加振させるスエー変位Xを観測する。よって、スエー指令Scからスエー変位Xまでの応答時間を無視すれば、スエー指令Scが正であるとスエー変位Xが負となり、スエー指令Scが負であるとスエー変位Xが正となる。よって、スエー指令Scを縦軸としてスエー変位Xを横軸にとって、得られたスエー指令Scとこれに対応するスエー変位Xをプロットすると、図7中の破線で示すように、理論的には、原点を通り、ばね定数Kに比例した値の傾きを持った直線となる。実際には、スエー指令Scを求めるための各指令からスエー変位Xまで時間遅れがあるので、同じ演算周期で得られたスエー指令Scとスエー変位Xをプロットすると、図7中の実線で示すように、スエー指令Scとスエー変位Xは、ヒステリシスを持った関係性を示すが、概ね、図7中で第二象現と第四象現で推移する関係性を示す。よって、スエー指令Scとスエー変位Xとの積であるスエー指標SIは、各アクチュエータAf,Arの双方の取付位置が正しく、各加速度センサSf,Srの取付方向が誤っている場合、外乱やノイズが無ければ、負の値を採ることになる。
【0089】
そして、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も誤っている場合、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを逆位相で伸縮させると、車体Bは、スエー加振されるものの、車体Bが前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの双方の取付位置が正しい時とは逆向きに加振させる。しかしながら、前後の加速度センサSf,Srの取付方向も双方とも誤っているので、前後の加速度センサSf,Srが検知する前側加速度と後側加速度も正負が逆となっているので、前側加速度と後側加速度から求めたスエー加速度βは、車体Bの実際のスエー加速度に対して向きが逆となる。すると、コントローラCからのスエー指令Scが車体Bを車両進行方向右側へスエー加振させるものである場合、実際には車体Bを車両進行方向左側へスエー加振し、前後の加速度センサSf,Srが検知した前後の加速度から求めたスエー加速度βは車体Bを車両進行方向右側へスエー加振していることを示す値となる。反対に、コントローラCからのスエー指令Scが車体Bを車両進行方向左側へスエー加振させるものである場合、実際には車体Bを車両進行方向右側へスエー加振し、前後の加速度センサSf,Srが検知した前後の加速度から求めたスエー加速度βは車体Bを車両進行方向左側へスエー加振していることを示す値となる。よって、スエー指令Scが指示するスエー加振の方向と、スエー変位Xの方向とは、応答時間の遅れが無ければ一致する。したがって、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も誤っている場合、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が正しく、且つ、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も正しい場合と同様に、スエー指標SIは、外乱やノイズが無ければ、正の値を採ることになる。
【0090】
ここで、この場合のコントローラCの車体振動を抑制する制御について考える。前後の加速度センサSf,Srの取付方向が誤っているので、車体Bが車両進行方向右側に変位すると、コントローラCは、前後の加速度センサSf,Srで検知した前後の加速度からスエー加速度βを求めると車体Bが車両進行方向左側に変位していると認識する。これに対してコントローラCは、車体Bの車両進行方向左側への変位を打ち消すように車体Bを車両進行方向右側へ変位させるように前後の各アクチュエータAf,Arへ指令する。この指令を受けて前後のアクチュエータAf,Arが伸縮するが、両者の取付位置が双方とも誤っているので、前後のアクチュエータAf,Arは車体Bを車両進行方向右側へ変位させる指令に対して車体Bを車両進行方向左側へ変位させる推力を発揮する。車体Bは、実際には車両進行方向右側に変位しており、前後のアクチュエータAf,Arが車体Bを車両進行方向左側へ変位させる推力を発揮するために、車体Bの変位を抑制できる。車体Bが逆に車両進行方向左側へ変位しても同様に前後のアクチュエータAf,Arが発揮する推力で車体Bの変位を抑制できる。よって、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も誤っている場合、車体Bの振動抑制制御に何ら影響がない。よって、この場合には、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が正しく、且つ、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も正しい場合と同様に取り扱ってもよいことになる。
【0091】
つづいて、ヨー加振中においてコントローラCが前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとに与える各指令は、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを同位相のサイン波で伸縮させるものであるので、互いに符号が一致した値の指令となる。前後の各アクチュエータAf,Arを伸長させる場合の指令は、正の値を持つ指令となり、反対に前後の各アクチュエータAf,Arを収縮させる場合の指令は、負の値を持つ指令となる。
【0092】
よって、ヨー加振中で前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArと伸長させる場合、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArを伸長させる指令は正の値となり、これらの和を-2で割ってヨー指令Ycを求めるので、ヨー指令Ycは、負の値を採る。ヨー加振中で前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArを収縮させる場合、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArを収縮させる指令は負の値となり、これらの和を-2で割ってヨー指令Ycを求めるので、ヨー指令Ycは、正の値を採る。
【0093】
ここで、車体Bは、台車Tf,Trに対して図外の懸架ばねによって弾性支持されており、車体Bが台車Tf,Trに対して横方向の変位にすると図外の懸架ばねが車体Bを元の位置へ戻す弾発力を発揮する。よって、各アクチュエータAf,Arからヨー加速度が与えられると車体Bは、懸架ばねが車体Bの車体中心Gを回転中心としたヨー変位に応じて発揮する弾発力に釣り合う位置まで変位する。よって、ヨー変位Yは、懸架ばねの車体回転方向のばね定数をKyとし、各アクチュエータAf,Arが車体Bに与えるヨー方向の推力をFyとすると、外乱等を無視すればFy=Ky×Yが成り立つ。そして、ヨー指令Ycは、車体Bに与えるヨー加振の方向と推力の大きさを示す数値であるので、ヨー変位Yは、外乱等を無視すればヨー指令Ycが正の値を採れば、正の値を採り、ヨー指令Ycが負の値を採れば、負の値を採る筈である。
【0094】
よって、ヨー指令Ycを縦軸としてヨー変位Yを横軸にとって、得られたヨー指令Ycとこれに対応するヨー変位Yをプロットすると、図8中の破線で示すように、理論的には原点を通り、ばね定数Kyに比例した値の傾きを持った直線となる。実際には、ヨー指令Ycを求めるための各指令からヨー変位Yまで時間遅れがあるので、同じ演算周期で得られたヨー指令Ycとヨー変位Yをプロットすると、図8中の実線で示すように、ヨー指令Ycとヨー変位Yは、ヒステリシスを持った関係性を示すが、概ね、図8中で第一象現と第三象現で推移する関係性を示す。
【0095】
よって、ヨー指令Ycとヨー変位Yとの積であるヨー指標YIは、各アクチュエータAf,Arの取付位置が正しく、各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、外乱やノイズが無ければ、正の値を採ることになる。
【0096】
他方、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの一方の取付位置は正しく他方の取付位置が誤っており、前後の各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、前後のアクチュエータAf,Arの双方が車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側あるいは左側に配置される。そのため、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを同位相で伸縮させると、車体Bは、ヨー加振されずにスエー加振されてしまう。したがって、この場合には、外乱等の影響がなければ、理論上、ヨー加速度ωは0となり、ヨー変位Yも0となる。すると、理論上、ヨー指標YIは0となる。しかしながら、実際には、ノイズ等の影響や前後のアクチュエータAf,Arの応答の影響もある他、編成列車中の鉄道車両を加振すると加振中以外の鉄道車両も振動して加振中の鉄道車両の振動にも影響が与えられる。よって、ヨー変位Yは、0か非常に小さな値を採る。このように、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置のうち一方が正しく他方が誤っており、前後の加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、ヨー指標YIは、0か非常に小さな値を採る。
【0097】
また、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの双方の取付位置が誤っており、前後の各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを同位相で伸縮させると、車体Bは、ヨー加振されるものの、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの双方の取付位置が正しい時とは逆方向に回転させるように加振される。つまり、ヨー指令Ycが車体中心Gを中心として車体Bを反時計回りに回転させる指令であっても、逆に車体Bは車体中心Gを中心として時計回りに回転する。よって、ヨー指令Ycからヨー変位Yまでの応答時間を無視すれば、ヨー指令Ycが正であるとヨー変位Yが負となり、ヨー指令Ycが負であるとヨー変位Yが正となる。よって、ヨー指令Ycを縦軸としてヨー変位Yを横軸にとって、得られたヨー指令Ycとこれに対応するヨー変位Yをプロットすると、図9中の破線で示すように、理論的には、原点を通り、ばね定数Kyに比例した値の傾きを持った直線となる。実際には、ヨー指令Ycを求めるための各指令からヨー変位Yまで時間遅れがあるので、同じ演算周期で得られたヨー指令Ycとヨー変位Yをプロットすると、図9中の実線で示すように、ヨー指令Ycとヨー変位Yは、ヒステリシスを持った関係性を示すが、概ね、図9中で第二象現と第四象現で推移する関係性を示す。よって、ヨー指令Ycとヨー変位Yとの積であるヨー指標YIは、各アクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、外乱やノイズが無ければ、負の値を採ることになる。
【0098】
さらに、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの取付位置は正しいが、前後の各加速度センサSf,Srの一方の取付方向が正しく他方が誤っている場合、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを同位相で伸縮させると、前後の各加速度センサSf,Srが互いに逆向きの加速度を検知することになる。すると、前後の各加速度センサSf,Srが検知した前側加速度と後側加速度からヨー加速度ωを求めると、ヨー加速度ωは外乱等の影響がなければ理論上0となり、ヨー変位Yも0となる。すると、理論上、ヨー指標YIは0となる。しかしながら、実際には、ノイズ等の影響や前後のアクチュエータAf,Arの応答の影響もある他、編成列車中の鉄道車両を加振すると加振中以外の鉄道車両も振動して加振中の鉄道車両の振動にも影響が与えられる。よって、ヨー変位Yは、0か非常に小さな値を採る。このように、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が正しいが、前後の加速度センサSf,Srの取付方向のうち一方が正しく他方が誤っていると、ヨー指標YIは、0か非常に小さな値を採る。
【0099】
また、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの双方の取付位置が正しく、前後の各加速度センサSf,Srの双方の取付方向が誤っている場合、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを同位相で伸縮させると、車体Bは、ヨー加振されるものの、前後の加速度センサSf,Srが検知する加速度の向きは実際の加速度の向きと逆向きとなる。よって、前後の加速度センサSf,Srが検知した加速度からヨー加速度ωと求めると、実際の前後のアクチュエータAf,Arが車体中心Gを中心に車体Bを回転させている方向とは逆向きのヨー加速度ωを観測してしまう。つまり、ヨー指令Ycが車体中心Gを中心として車体Bを反時計回りに回転させる指令であっても、コントローラCは、逆に車体中心Gを中心として車体Bを時計回りに回転させるヨー変位Yを観測する。よって、ヨー指令Ycからヨー変位Yまでの応答時間を無視すれば、ヨー指令Ycが正であるとヨー変位Yが負となり、ヨー指令Ycが負であるとヨー変位Yが正となる。よって、ヨー指令Ycを縦軸としてヨー変位Yを横軸にとって、得られたヨー指令Ycとこれに対応するヨー変位Yをプロットすると、図9中の破線で示すように、理論的には、原点を通り、ばね定数Kyに比例した値の傾きを持った直線となる。実際には、ヨー指令Ycを求めるための各指令からヨー変位Yまで時間遅れがあるので、同じ演算周期で得られたヨー指令Ycとヨー変位Yをプロットすると、図9中の実線で示すように、ヨー指令Ycとヨー変位Yは、ヒステリシスを持った関係性を示すが、概ね、図9中で第二象現と第四象現で推移する関係性を示す。よって、ヨー指令Ycとヨー変位Yとの積であるヨー指標YIは、各アクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、各加速度センサSf,Srの取付方向が正しい場合、外乱やノイズが無ければ、負の値を採ることになる。
【0100】
そして、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も誤っている場合、コントローラCが前後のアクチュエータAf,Arを同位相で伸縮させると、車体Bは、ヨー加振されるものの、車体Bは、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの双方の取付位置が正しい時とは逆方向に回転する。しかしながら、前後の加速度センサSf,Srの取付方向も双方とも誤っているので、前後の加速度センサSf,Srが検知する前側加速度と後側加速度も正負が逆となっているので、前側加速度と後側加速度から求めたヨー加速度ωは、車体Bの実際のヨー加速度に対して向きが逆となる。すると、コントローラCからのヨー指令Ycが車体Bを車体中心G周りに反時計回りに回転させるものである場合、実際には車体Bは車体中心G周りに時計回りに回転し、前後の加速度センサSf,Srが検知した前後の加速度から求めたヨー加速度ωは車体Bが車体中心G周りに反時計方向へ回転するヨー加振を示す値となる。反対に、コントローラCからのヨー指令Ycが車体Bを車体中心G周りに時計回りに回転させるものである場合、実際には車体Bは車体中心G周りに反時計周りに回転し、前後の加速度センサSf,Srが検知した前後の加速度から求めたヨー加速度ωは車体Bが車体中心G周りに時計回りに回転するヨー加振を示す値となる。よって、ヨー指令Ycが指示するヨー加振の方向と、ヨー変位Yの方向とは、応答時間の遅れが無ければ一致する。したがって、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も誤っている場合、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が正しく、且つ、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も正しい場合と同様に、ヨー指標YIは、外乱やノイズが無ければ、正の値を採ることになる。
【0101】
ここで、この場合のコントローラCの車体振動を抑制する制御について考える。前後の加速度センサSf,Srの取付方向が誤っているので、車体Bが車体中心G周りに反時計回りに回転すると、コントローラCは、前後の加速度センサSf,Srで検知した前後の加速度からヨー加速度ωを求めると車体Bが車体中心G周りに時計方向回りに回転していると認識する。これに対してコントローラCは、車体Bの時計回り方向への回転変位を打ち消すように車体Bを車体中心G周りに反時計回り方向へ回転変位させるように前後の各アクチュエータAf,Arへ指令する。この指令を受けて前後のアクチュエータAf,Arが伸縮するが、両者の取付位置が双方とも誤っているので、前後のアクチュエータAf,Arは車体Bを車体中心G周りに反時計回り方向へ回転変位させる指令に対して車体Bを車体中心G周りに時計回り方向へ回転させる推力を発揮する。車体Bは、実際には車体中心G周りに反時計回り方向へ回転変位しており、前後のアクチュエータAf,Arが車体Bを車体中心G周りに時計方向へ回転変位させる推力を発揮するために、車体Bの変位を抑制できる。車体Bが逆に車体中心G周りに時計回り方向へ回転変位しても同様に前後のアクチュエータAf,Arが発揮する推力で車体Bの変位を抑制できる。よって、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っており、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も誤っている場合、車体Bの振動抑制制御に何ら影響がない。よって、この場合には、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が正しく、且つ、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向も正しい場合と同様に取り扱ってもよいことになる。
【0102】
前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と、前後の加速度センサSf,Srの取付方向の正誤に対するスエー指標SIとヨー指標YIがどのような関係になっているかをマトリックス図で示すと図10のようになる。
【0103】
よって、コントローラCは、スエー指標SIとヨー指標YIの符号とその値から、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と、前後の加速度センサSf,Srの取付方向の正誤を判断できる。
【0104】
ステップS29におけるコントローラCの処理は、具体的には、図11に示すフローチャートに従って処理すればよい。コントローラCは、スエー指標SIがSI+ζ1≧0の条件を満たすか否かを判断する(ステップS31)。そして、所定時間の間、SI+ζ1≧0である場合には、ステップS32へ移行する。なお、値ζ1は、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しく、前後の加速度センサSf,Srの取付方向も正しい場合であっても、スエー指標SIが外乱やノイズ或いは応答時間遅れで負の値を採る場合があり得るので、ステップS31の判断で誤診断を起こさないために設けられるオフセット値である。値ζ1は、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しく、前後の加速度センサSf,Srの取付方向も正しい場合に、スエー指標SIが負の値でとり得る最小値の絶対値よりも少し大きな値に設定されればよい。
【0105】
他方、SI+ζ1≧0でない場合には、エラーとして認識して、所定時間内でエラー回数が所定のカウント数に達すると、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置に誤りがあるか前後の加速度センサSf,Srの取付方向に誤りがあるので、ステップS33へ移行する。
【0106】
ステップS33では、コントローラCは、スエー指標SIの絶対値|SI|<εであるか否かを判断する。εは、ごく小さな値に設定されており、ステップS33の判断で、|SI|<εである場合、スエー指標SIが0近傍の値を採っているので、前後のアクチュエータAf,Arの一方の取付位置が誤っているか、或いは、前後の加速度センサSf,Srの取付方向の一方が誤っているか、のいずれかである。よって、この場合、ステップS34へ移行して、コントローラCは、前後のアクチュエータAf,Arの一方の取付位置が誤っているか、或いは、前後の加速度センサSf,Srの取付方向の一方が誤っているか、のいずれかであると診断する。
【0107】
ステップS33の判断で、|SI|≧εである場合、ステップS35へ移行する。この場合、スエー指標SIが負の値であると考えられるので、ステップS35では、コントローラCは、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っているか、或いは、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向が誤っているかのいずれか一方であると診断する。
【0108】
ステップS32では、コントローラCは、ヨー指標YIがYI+ζ2≧0を満たすか否かを判断する。そして、所定時間の間、YI+ζ2≧0である場合には、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置および前後の加速度センサSf,Srの取付方向が正しいと診断する(ステップS36)。なお、値ζ2は、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しく、前後の加速度センサSf,Srの取付方向も正しい場合であっても、ヨー指標YIが外乱やノイズ或いは応答時間遅れで負の値を採る場合があり得るので、ステップS32の判断で誤診断を起こさないために設けられるオフセット値である。値ζ2は、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置が正しく、前後の加速度センサSf,Srの取付方向も正しい場合に、ヨー指標YIが負の値でとり得る最小値の絶対値よりも少し大きな値に設定されればよい。
【0109】
他方、YI+ζ≧0でない場合には、エラーとして認識して、所定時間内でエラー回数が所定のカウント数に達すると、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置に誤りがあるか前後の加速度センサSf,Srの取付方向に誤りがあるので、ステップS37へ移行する。
【0110】
つづいて、ステップS37では、コントローラCは、ヨー指標YIの絶対値|YI|<εであるか否かを判断する。ステップS37の判断で、|YI|<εである場合、ヨー指標YIが0近傍の値を採っているので、前後のアクチュエータAf,Arの一方の取付位置が誤っているか、或いは、前後の加速度センサSf,Srの取付方向の一方が誤っているか、のいずれかである。よって、この場合、ステップS38へ移行して、コントローラCは、前後のアクチュエータAf,Arの一方の取付位置が誤っているか、或いは、前後の加速度センサSf,Srの取付方向の一方が誤っているか、のいずれかであると診断する。
【0111】
ステップS37の判断で、|YI|≧εである場合、ステップS39へ移行する。この場合、ヨー指標YIが負の値であると考えられるので、ステップS39では、コントローラCは、前後のアクチュエータAf,Arの双方の取付位置が誤っているか、或いは、前後の加速度センサSf,Srの双方の取付方向が誤っているかのいずれか一方であると診断する。
【0112】
このように、コントローラCは、スエー加振による前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と前後の加速度センサSf,Srの取付方向の正誤の診断を行った後、ヨー加振による前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と前後の加速度センサSf,Srの取付方向の正誤の診断を行う。なお、スエー加振を行ってスエー指標を求め、スエー指標に基づいて前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と前後の加速度センサSf,Srの取付方向の正誤の診断を行ってから、ヨー加振を行ってヨー指標を求めて、ヨー指標に基づいて前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と前後の加速度センサSf,Srの取付方向の正誤の診断を行ってもよい。
【0113】
以上説明したように、第二の実施の形態の鉄道車両用制振装置V2は、鉄道車両の車体Bと前側の台車Tfとの間に設置されて車体Bの前側を左右方向へ加振可能な前側アクチュエータAfと、車体Bと後側の台車Trとの間に設置されて車体Bの後側を左右方向へ加振可能な後側アクチュエータArと、車体Bの前側に設置されて車体Bの前側の左右方向の前側加速度を検知する前側加速度センサSfと、車体Bの後側に設置されて車体Bの後側の左右方向の後側加速度を検知する後側加速度センサSrと、前側加速度センサSfと後側加速度センサSrとが検知する前側加速度と後側加速度とに基づいて、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを制御するコントローラCとを備え、コントローラCが前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArに車体Bをスエー方向およびヨー方向へ加振する推力を発生させる各指令と、車体Bのスエー変位Xおよびヨー変位Yに基づいて、前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置が正しいか否かを診断する。
【0114】
このように構成された鉄道車両用制振装置V2では、前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの指令とスエー変位Xとヨー変位Yとを用いて前記取付位置が正しいか否かを診断するので、前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置を目視によらず前記取付位置が正しいか否かを診断できる。また、作業者が前側アクチュエータAfおよび後側アクチュエータArの取付位置を目視で確認する必要が無くなるので、作業者の負担が軽減される。
【0115】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置V2は、コントローラCが前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArに車体Bをスエー方向へ加振する推力を発生させる各指令から求めたスエー指令Scとスエー変位Xとの積をスエー指標SIとし、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとに車体Bをヨー方向へ加振する推力を発生させる各指令から求めたヨー指令Ycとヨー変位Yとの積をヨー指標YIとし、スエー指標SIとヨー指標YIから前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArの取付位置および前側加速度センサSfと後側加速度センサSrの取付方向が正しいか否かを診断する。そのため、スエー加振の各アクチュエータAf,Arの駆動に対する車体Bの反応と、ヨー加振時の各アクチュエータAf,Arの駆動に対する車体Bの反応との双方で各アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と各加速度センサSf,Srの取付方向の正誤を診断できるから、前記取付位置と前記取付方向の正誤を正確に診断できる。
【0116】
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置V2は、コントローラCがスエー指標SIおよびヨー指標YIの符号に基づいて、各アクチュエータAf,Arの取付位置と各加速度センサSf,Srの取付方向が正しいか否かを診断する。このように構成された鉄道車両用制振装置V2は、スエー指標SIおよびヨー指標YIの符号で各アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤と各加速度センサSf,Srの取付方向の正誤を診断するから、指標の大小によらず前記取付位置と前記取付方向の正誤を正確に診断できる。なお、スエー指標SIおよびヨー指標YIの符号で各アクチュエータAf,Arの取付位置と各加速度センサSf,Srの取付方向の正誤を診断する場合、オフセット値ζ1,ζ2を設定すると、ノイズ等によって各アクチュエータAf,Arの取付位置と各加速度センサSf,Srの取付方向の正誤を誤診断することが防止される。
【0117】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置V2は、コントローラCがスエー指標SIおよびヨー指標YIが各アクチュエータAf,Arの取付位置或いは各加速度センサSf,Srの取付方向の誤りを示すと、これをエラーとして、エラー回数をカウントし、エラー回数が閾値以上となると各アクチュエータAf,Arの取付位置或いは各加速度センサSf,Srの取付方向が誤りであると診断する。
【0118】
このように構成された鉄道車両用制振装置V2は、偶発的にスエー指標SIおよびヨー指標YIとがエラーを示しても直ちに各アクチュエータAf,Arの取付位置或いは各加速度センサSf,Srの取付方向を誤りであると診断せず、エラー回数が所定回数となると前記取付位置或いは前記取付方向を誤りと診断する。よって、このように構成された鉄道車両用制振装置V2によれば、前記取付位置および前記取付方向の正誤の誤診断がなくなり、前記取付位置および前記取付方向を正しく診断できる。
【0119】
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置V2の診断方法は、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArとを駆動して車体Bにスエー加速度βを作用させるスエー加振ステップと、コントローラCが前側アクチュエータAfに車体Bをスエー方向へ加振する推力を発生させる指令とコントローラCが後側アクチュエータArに車体Bをスエー方向に加振する推力を発生させる指令から求めたスエー指令SCとスエー変位Xとを乗じてスエー指標SIを求める車体スエー指標演算ステップと、スエー指標SIに基づいて前記取付位置および前記取付位置が正しいか否かを診断する診断ステップと、前側アクチュエータAfと後側アクチュエータArを駆動して車体Bにヨー加速度ωを作用させるヨー加振ステップと、コントローラCが前側アクチュエータAfに車体Bをヨー方向へ加振する推力を発生させる指令とコントローラCが後側アクチュエータArに車体Bをヨー方向に加振する推力を発生させる指令から求めたヨー指令Ycとヨー変位Yとを乗じてヨー指標YIを求める車体ヨー指標演算ステップと、ヨー指標YIに基づいて前記取付位置および前記取付位置が正しいか否かを診断する診断ステップとを備えている。このように構成された鉄道車両用制振装置V2の診断方法によれば、スエー加振の各アクチュエータAf,Arの駆動に対する車体Bの反応と、ヨー加振時の各アクチュエータAf,Arの駆動に対する車体Bの反応との双方で各アクチュエータAf,Arの取付位置の正誤を診断できるから、前記取付位置の正誤を正確に診断できる。
【0120】
なお、各アクチュエータAf,Arの正しい取付位置の設定、各アクチュエータAf,Arへの指令の符号の採り方、各加速度センサSf,Srが検知する加速度の符号の採り方に応じて、スエー指令Scおよびヨー指令Ycの求め方は変わり得る。各アクチュエータAf,Arの正しい取付位置の設定、各アクチュエータAf,Arへの指令の符号の採り方、各加速度センサSf,Srが検知する加速度の符号の採り方が前述の実施の形態とは異なっていても、各アクチュエータAf,Arの取付位置と各加速度センサSf,Srの取付方向の正誤の診断を行えるのは当然である。
【0121】
また、各実施の形態の説明における前後のアクチュエータAf,Arの取付位置の正誤、および、前後のアクチュエータAf,Arの取付位置と前後の加速度センサSf,Srの取付方向の正誤の診断を行う具体的な処理は、一例であって処理手順の順番や分岐については適宜の変更が可能である。
【0122】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0123】
Af・・・前側アクチュエータ、Ar・・・後側アクチュエータ、B・・・車体、C・・・コントローラ、Sf・・・前側加速度センサ、SI・・・スエー指標、SIf・・・前側スエー指標、SIr・・・後側スエー指標、Sr・・・後側加速度センサ、Tf・・・前側の台車、Tr・・・後側の台車、V1,V2・・・鉄道車両用制振装置、Y・・・ヨー変位、YI・・・ヨー指標、YIf・・・前側ヨー指標、YIr・・・後側ヨー指標、X・・・スエー変位
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