IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オートリブ ディベロップメント エービーの特許一覧

<>
  • 特許-エアバッグ装置 図1
  • 特許-エアバッグ装置 図2
  • 特許-エアバッグ装置 図3
  • 特許-エアバッグ装置 図4
  • 特許-エアバッグ装置 図5
  • 特許-エアバッグ装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/205 20110101AFI20220615BHJP
【FI】
B60R21/205
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019091881
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020185893
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2020-12-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】特許業務法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】土生 優
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0147171(US,A1)
【文献】特開2017-087767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インストルメントパネルの裏面側に収容されるエアバッグ装置であって、
インフレータと、
展開時、前記インフレータからのガスの供給により乗員とインストルパネルの間に展開するエアバッグと、
前記エアバッグ内のガスを排出可能に、前記エアバッグに形成されるベントホールと、
インストルメントパネルの裏面側に一端が固定され、他端は、前記ベントホールの周囲を経由して、展開状態の前記エアバッグの下端部近傍に結合されるテザーと、
前記テザーを切断するテザーカッターを有し、
前記乗員がシートベルトを装着していない場合は、前記テザーカッターを作動させず、前記ベントホールを全閉状態とし、
前記乗員がシートベルトを装着している場合は、エアバッグの展開により前記テザーが緊張状態となり前記ベントホールを全閉状態とした後に、前記テザーカッターを作動させて、前記テザーの当該緊張を緩和し、前記ベントホールを半開状態とするように構成され
前記テザーを保持する保持手段を有し、
前記テザーの緊張状態の緩和は、前記エアバッグが完全に展開した後、乗員の拘束を開始するタイミングで行い、
前記エアバッグの前記ベントホールの周囲には、前記テザーの保持部が設けられ、
前記保持部は、前記テザーの中間部分を通して前記ベントホールの周囲を1周する貫通孔を備えており、
前記テザーの前記他端の前記エアバッグへの結合位置は、前記エアバッグの展開時に、前記テザーが前記ベントホールから延びて緊張状態に移行する途中で前記エアバッグ以外と接触しない空間に延びる線上にあることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記ベントホールは、前記エアバッグの上縁部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記ベントホールは、前記エアバッグの側部の上半部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の助手席に設置されるエアバッグ装置に関するものである。
【0002】
以下、本願において「上」「上方」とは正規の状態でシートに着座した乗員の頭部方向を、「下」「下方」とは同じく足元方向を意味する。また、「前」「前方」とは正規の状態でシートに着座した乗員の正面側の方向を、「後」「後方」とは同じく背面側の方向を意味する。また「左」「左方向」とは正規の状態でシートに着座した乗員の左手側の方向を、「右」「右方向」とは同じく右手側の方向を意味する。
【背景技術】
【0003】
乗員の安全確保を目的として、自動車には、幾つかの安全装置が設置されている。自動車が衝突した時に、エアバッグを展開させるエアバッグ装置もその1つである。
【0004】
エアバッグ装置は、例えば、基布を縫製して袋状に形成したエアバッグに、インフレータで発生させたガスを供給して展開することで乗員を拘束し、衝突した際の衝撃をエアバッグによって吸収するものである。
【0005】
このエアバッグが衝撃を吸収するための適切な硬さは、展開後のエアバッグの内圧、基布に作用する張力、形状により作り出しているが、前記適切な硬さは、乗員の着座位置や体格等によって相違する。
【0006】
そこで、展開時のエアバッグの硬さを作り出す要因の1つである内圧を制御し、乗員の着座位置等が異なる場合でも適切に拘束できるように、エアバッグに設けたベントホールの開閉をテザーによって制御するものがある(例えば特許文献1,2)。
【0007】
特許文献1で提案されたエアバッグ装置は、エアバッグに、開閉状態を制御できない単なる開口であるベントホールに加えて、前記テザーによって全開状態と全閉状態を変更できるベントホールを設けている。
【0008】
この特許文献1のベントホールの開閉制御は、乗員の着座位置等のエアバッグの容積設定情報に基づき、ガスの吹き込み口が設けられたエアバッグの基端部と該基端部から離れた外表面との距離を規制するテザーの、前記基端部側の端部の開放によって行っている。
【0009】
また、特許文献2で提案されたエアバッグ装置は、全開状態と全閉状態に変更可能としたベントホールを、展開状態におけるエアバッグの左右方向の、例えば両側部に設けている。
【0010】
この特許文献2で提案されたエアバッグ装置では、衝突時には、ベントホールの周囲とエアバッグの乗員側基布の下部を連結した第1ストラップによってベントホールを閉じ、シートベルを着用していない乗員を確保する。
【0011】
一方、乗員がシートベルトを着用している場合には、第2ストラップでベントホールの縁部と共に第1ストラップを引っ張ることで、先に閉じたベントホールを再度開き、乗員に対するエアバッグの反力を低減する。
【0012】
しかしながら、特許文献1,2で提案されたエアバッグ装置の場合、ベントホールの開閉制御は全開状態と全閉状態を変更するだけであり、全開状態と全閉状態の間の半開状態に制御することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2009-298222号公報
【文献】特開2010-58544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする問題点は、エアバッグ装置のエアバッグに設けたベントホールの開閉制御は、全開状態と全閉状態を変更するだけであり、全開状態と全閉状態の間の半開状態に制御することはできなかったという点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものである。
すなわち、本発明は、エアバッグ装置のエアバッグに設けたベントホールの開閉を、全開状態と全閉状態だけでなく、全開状態と全閉状態の間の半開状態にも制御可能にすることで、エアバッグの硬さをより適切に制御できるようにするものである。
【0016】
すなわち、本発明は、
インストルメントパネルの裏面側に収容されるエアバッグ装置であって、
インフレータと、
展開時、前記インフレータからのガスの供給により乗員とインストルパネルの間に展開するエアバッグと、
前記エアバッグ内のガスを排出可能に、前記エアバッグに形成されるベントホールと、
インストルメントパネルの裏面側に一端が固定され、他端は、前記ベントホールの周囲を経由して、展開状態の前記エアバッグの下端部近傍に結合されるテザーと、を有し、
前記テザーは、エアバッグの展開により緊張状態となった後に、当該緊張を緩和可能なように構成されていることを最も主要な特徴としている。
【0017】
本発明は、エアバッグに形成するベントホールを開閉するテザーを、エアバッグの展開により緊張状態となった後に、当該緊張を緩和可能なように構成しているので、ベントホールの開閉制御を、全開状態と全閉状態だけでなく半開状態にも制御できる。
【0018】
本発明において、テザーを切断するテザーカッターを有するようにしておけば、当該テザーカッターでテザーを切断することによってテザーの緊張状態を緩和することができる。その際、テザーカッターは、テザーの一端側に設けることが好ましい。また、テザーの緊張状態の緩和は、エアバッグが完全に展開した後、乗員の拘束を開始するタイミングで行えばよい。
【0019】
また、本発明において、エアバッグのベントホールの周囲に、テザーの保持部である例えば貫通孔を設けておけば、テザーによるベントホールの開閉制御をより確実に行うことができる。
【0020】
また、本発明において、ベントホールは、エアバッグの上縁部又はエアバッグの側部の上半部に設けることが好ましい。ベントホールをエアバッグの前記上縁部に設ける場合、エアバッグの展開時にフロントガラスと接触しない位置に設けることは言うまでもない。
【0021】
また、本発明において、テザーの他端のエアバッグへの結合位置を、エアバッグの展開時に、テザーがベントホールから延びて緊張状態に移行する途中でエアバッグ以外と接触しない空間に延びる線上とすれば、ベントホールの開閉制御を阻害されることがない。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、ベントホールの開閉を、全開状態と全閉状態だけでなく半開状態にも制御できるので、1つのベントホールで複数のベントホールを設置した場合と同様に、エアバッグの硬さをより適切に制御することができる。そして、この作用効果により、構成部品を減少できて、軽量化や組立工数の減少が可能になり、また、ベントホールの開閉制御の簡素化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】助手席に着座した乗員がシートベルトを装着している場合に、第1の本発明のエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を車両の側面方向から見た図である。
図2】本発明のエアバッグ装置の、ベントホールの開閉状態を説明する図で、(a)は全開状態を示した図、(b)は全閉状態を示した図、(c)は半開状態を示した図である。
図3】助手席に着座した乗員がシートベルトを装着していない場合に、図1に示した第1の本発明のエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を車両の側面方向から見た図である。
図4】助手席に着座した乗員がシートベルトを装着している場合に、第2の本発明のエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を車両の側面方向から見た、ベントホール部分を一部断面して示した図である。
図5】運転席用に適用した本発明のエアバッグ装置の図1と同様の図である。
図6】サイドエアバッグ装置に適用した本発明のエアバッグ装置の図1と同様の図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、エアバッグに設けたベントホールの開閉を、全開状態と全閉状態だけでなく、全開状態と全閉状態の間の半開状態にも制御可能にすることを目的とするものである。
【0025】
そして、前記目的を、エアバッグに形成するベントホールを開閉するテザーを、エアバッグの展開により緊張状態となった後に、当該緊張を緩和可能に構成することで実現した。
【実施例
【0026】
以下、図1図3を用いて本発明のエアバッグ装置を説明する。
図1,3は、本発明のエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を車両の側面方向から見た図であり、図1は助手席に着座した乗員がシートベルトを装着している場合、図3は助手席に着座した乗員がシートベルトを装着していない場合である。
【0027】
本発明のエアバッグ装置1は、助手席用に適用した場合、インストルメントパネル11における助手席12の前方に位置する部分の裏面側、すなわち反車室側に取り付ける。図1では、インストルメントパネル11の裏面側にケース2を取り付け、当該ケース2の内部にエアバッグ装置1を収容する例を示している。
【0028】
本発明のエアバッグ装置1は、例えば、インフレータ3と、エアバッグ4と、テザー5と、当該テザー5を切断するテザーカッター6を有している。
【0029】
前記インフレータ3は、例えば車両が衝突した時に、エアバッグ4を展開させるためにガスを発生するものである。このインフレータ3は、図1に示した例では、前記ケース2の例えば底部2aの裏面側に取り付けている。
【0030】
また、前記エアバッグ4は、前記ケース2の内部に収容され、例えば、車両が衝突した時には、インフレータ3で発生したガスを供給されて展開するもので、2枚の基布の外周縁部を縫製することで袋状に形成されている。
【0031】
前記エアバッグ4は、展開状態における側部の上半部に、エアバッグ4内のガスを排出可能な例えば円形のベントホール4aを設けている。図2では、ベントホール4aの内縁側をエアバッグ4の外面側に折り返してその端部を縫製7することで、エアバッグ4の外面側にベントホール4aの周囲に沿って、前記テザー5を通す貫通孔4bを形成している。そして、当該貫通孔4bの近接した位置に、当該貫通孔4bとエアバッグ4の外面側を連通する、前記テザー5の挿入孔4cと取り出し孔4dを設けている。
【0032】
前記テザー5は、例えば、前記ケース2の底部2aの裏面側に一端5aを取り出して固定している。一方、前記テザー5の他端5bは、展開状態のエアバッグ4の下端部近傍に、例えば縫製8により結合している。
【0033】
このテザー5の他端5bとエアバッグ4との結合位置は、エアバッグ4の展開時に、前記他端5b側がベントホール4aから延びて緊張状態に移行する途中で、例えばインストルメントパネル11等の障害物に接触しない空間に延びる線上とする。
【0034】
また、前記テザー5の他端5bをエアバッグ4の前記位置に結合する際、前記一端5aと他端5bの中間部分は、前記挿入孔4cから前記貫通孔4bの中に通してベントホール4aの周囲を1周させた後に前記取り出し孔4dから取り出した状態としておく。
【0035】
前記テザーカッター6は、前記テザー5の前記一端5a側である、例えば前記ケース2の裏面側に設けられ、必要時に前記テザー5の一端5a側を切断するものである。このテザーカッター6は、例えば発生させたガスによってアクチュエータに取り付けたカッターを突出させて前記テザー5の一端5a側を切断し、一端5a側の固定を解除する構成である。
【0036】
前記構成の本発明エアバッグ装置1では、例えば衝突の検知によってインフレータ3がガスを発生した場合、当該ガスの供給によるエアバッグ4の展開は、以下のように行われる。
【0037】
インフレータ3で発生したガスを供給されたエアバッグ4は、先ず、ケース2の内部を上方に向かって展開し、予め設けられているインストルパネル11の破断部を破断する。その後、前記破断部を通って助手席12に着座した乗員13とインストルパネル11の間に展開する(図1参照)。
【0038】
エアバッグ4の展開により、テザー5は緊張状態となって、図2(a)に示す全開状態のベントホール4aを、図2(b)に示したような全閉状態とする。
【0039】
そして、例えば、図1に示したように、助手席12に着座した乗員13がシートベルト14を装着している場合は、自動車からのセンサー情報により、エアバッグ4が完全に展開した後にテザーカッター6を作動させてテザー5の一端5a側を切断する。
【0040】
このテザー5の一端5a側の切断によりテザー5の緊張状態が緩和されるので、展開状態のエアバッグ4への乗員13の衝突により、ベントホール4aが半開状態になって(図2(c)参照)、シートベルト14とで乗員13を最適に拘束する(図1参照)。
【0041】
一方、図3に示したように、助手席12に着座した乗員13がシートベルト14を装着していない場合は、自動車からのセンサー情報により、テザーカッター6を作動させない。
【0042】
この場合、テザー5は緊張状態を維持しているのでベントホール4aは全閉状態を維持し(図2(b)参照)、エアバッグ4だけで乗員13に対して十分な拘束力を確保した状態で乗員13を拘束する(図3参照)。
【0043】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良い。
【0044】
すなわち以上で述べたエアバッグ装置は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0045】
例えば、上記の実施例では、エアバッグ4の側部の上半部にベントホール4aを設けているが、図4に示すように、エアバッグ4の上縁部にベントホール4aを設けてもよい。但し、この場合は、エアバッグ4の展開時にフロントガラス15と接触しない位置にベントホール4aを設けることは言うまでもない。
【0046】
また、上記の実施例では、助手席用のエアバッグ装置に適用したものについて説明したが、本発明は助手席用のエアバッグ装置に限らず、図5に示すような運転席用のエアバッグ装置や、図6に示すようなサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0047】
本発明のエアバッグ装置1を、運転席用のエアバッグ装置に適用する場合は、ステアリングホイール16の内部に収容する。また、サイドエアバッグ装置に適用する場合は、助手席や運転席の背もたれ部SBの内部に収容する。
【0048】
また、本発明では、エアバッグ4に設けるベントホール4aは、必ずしも1個に限らない。また、緊張状態のテザー5を緩和する手段は、テザーカッター6を用いてテザー5の一端5a側を切断するものに限らず、テザー5の一端5a側の保持手段による保持を解除するものでも良い。
【0049】
また、エアバッグ4は、2枚の基布の外周縁部を縫製することで袋状に形成したものに限らず、1枚の基布の中央部分で二つ折りにして重ね合わせ、その外周縁部を縫製して袋状に形成したものでも良い。
【符号の説明】
【0050】
1 エアバッグ装置
3 インフレータ
4 エアバッグ
4a ベントホール
4b 貫通孔
5 テザー
5a 一端
5b 他端
6 テザーカッター
11 インストルメントパネル
13 乗員
15 フロントガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6