(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】金属支持固体酸化物燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20220615BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220615BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20220615BHJP
【FI】
H01M4/88 T
H01M4/90 X
H01M8/12 101
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019149074
(22)【出願日】2019-08-15
(62)【分割の表示】P 2016539627の分割
【原出願日】2014-08-20
【審査請求日】2019-08-21
(32)【優先日】2013-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516060716
【氏名又は名称】シーリーズ インテレクチュアル プロパティ カンパニー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】ロバート リア
(72)【発明者】
【氏名】マイク ランキン
(72)【発明者】
【氏名】ロビン ピアース
(72)【発明者】
【氏名】アダム ボーン
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-525967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/
H01M 8/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属支持固体酸化物燃料電池を形成する方法であって、
a)酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアを含む未焼結のアノード層を、金属基材上にインクから形成することであって、前記酸化ニッケル対前記酸化銅の重量比が15:1~6:1であり、前記酸化ニッケル、前記酸化銅、及び前記希土類ドープされたセリアが粉末状であり、
前記酸化ニッケル、前記酸化銅、及び前記希土類ドープされたセリアの前記粉末の粒度分布d90が0.1~4μmであり、前記インク中の金属酸化物成分は、全金属酸化物を基準として8~12質量%の酸化銅を含むことと、
b)前記未焼結のアノード層を、100~300MPaの圧力で圧縮すること、
c)前記未焼結のアノード層を焼結して、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアの酸化物を含む複合材を形成すること、
d)電解質を提供すること、並びに
e)カソードを提供することを含む、方法。
【請求項2】
前記未焼結のアノード層の焼結を、950~1100℃の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インクが、混合金属酸化物のインク中、30~70質量%の固形分を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記未焼結のアノード層は、前記酸化ニッケル、前記酸化銅、及び前記希土類ドープされたセリアからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記未焼結のアノード層の焼結を、980~1050℃の温度で行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記未焼結のアノード層の形成が、前記金属基材上に前記インクを提供し、前記インクを乾燥させて、厚さ5~40μmのプリント層を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プリント層を加熱してインクベースを除去し、前記酸化ニッケル、前記酸化銅、及び前記希土類ドープされたセリアを含む前記未焼結のアノード層を残すことを更に含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記電解質及び前記未焼結のアノード層が同時に焼結されるように、前記電解質を提供する工程を、前記未焼結のアノード層の焼結の工程の前に行う、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記未焼結のアノード層の焼結時間は、15~60分の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属支持固体酸化物燃料電池は、
(i)多孔性領域、及び前記多孔質領域を囲む非多孔質領域を含む、フェライトステンレススチール支持体、
(ii)支持体の前記多孔質領域の一方の表面下に位置し、前記支持体の前記多孔質領域の周りの前記非多孔質領域に密封して取り付けられた、フェライトステンレススチールバイポーラプレート、
(iii)前記支持体の前記多孔質領域の他方の表面上に位置するアノード層を含む、アノード、
(iv)前記アノード層の上に位置する電解質層を含む、電解質、及び
(v)前記電解質層の上に位置するカソード層を含む、カソード、を含
む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記希土類ドープされたセリアが、ガドリニウムドープされた酸化セリウムを含む、請求項
1~10のいずれか一項に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属支持固体酸化物燃料電池(SOFC)、燃料電池の形成方法、及びその使用に関する。本発明は、特に、アノードがニッケル及び銅を含む、金属支持固体酸化物燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
SOFCは、燃料ガス(通常、水素ベース)の電気化学的酸化による電気エネルギーを生成する電気化学装置である。装置は、一般に、その電解質として酸素イオン伝導性金属酸化物由来のセラミックを用いた、セラミックベースである。ほとんどのセラミック酸素イオン導体(たとえば、ドープされた酸化ジルコニウム、又はドープされた酸化セリウム)が、(酸化セリウムベースの電解質について)500℃、又は(酸化ジルコニウムベースのセラミックスについて)600℃を上回る温度における、技術的に重要なイオン伝導率を実証するのみであるように、SOFCは高温で作動する。
【0003】
他の燃料電池と同じように、SOFCは、燃料が酸化されるアノード、及び酸素が還元されるカソードを含む。これらの電極は、電気化学反応を触媒することができなければならず、作動(陽極側での還元、カソード側での酸化)温度における、それらのそれぞれの雰囲気下で安定でなければならず、かつ、電気化学反応によって作り出される電流が電極-電解質界面から引き出されるように、電子を伝導することができなければならない。
【0004】
広範囲な研究にもかかわらず、アノードにとって重要な特性の組合せを有する材料を見つけることは困難であることが分かっている。長年にわたって、技術水準のSOFCアノードは、金属相としてニッケル、及びセラミック相として電解質材料(通常、イットリア又はスカンジア安定化ジルコニア)を有する、多孔質セラミック-金属(サーメット)複合構造から構成され、一般的ではないがドープされたセリアベースの電解質材料、例えばガドリニア又はサマリアドープされたセリアも使われている。この構造では、ニッケルが触媒の役割を担い、ニッケルの体積分率は、隣接する金属ネットワークが形成される程度に十分に高く、したがって必要な電子伝導率を提供する。電解質材料は、機械的構造を提供し、アノードと電解質との間の結合を強化し、アノード-電解質界面領域をアノード内にいくらかの距離延在させる、隣接するセラミック骨格をアノードに形成する。
【0005】
これらのサーメットアノードの周知の限界は、電池作動温度において、アノードの金属ニッケルは還元性雰囲気においてのみ安定である、ということである。これは通常、燃料ガスによって提供されるので、通常、運転下でアノードは安定である。しかしながら、作動温度でSOFCへの燃料ガスの供給を中断すると、アノード内の雰囲気は酸化状態になる。これらの条件下で、金属ニッケルは、酸化ニッケルへと酸化される。焼結した酸化ニッケルの還元によって形成された金属ニッケルは、それが形成された元の酸化ニッケルと同じモルホロジーへと酸化されて戻らないので、この酸化は、約40%を超える体積増加を伴う。その代わり、それは元の酸化ニッケルより大きい体積を占めるメソ多孔質体を生じる。再酸化におけるこの体積変化は、アノード構造内に大きな応力を生じる可能性があり、このことは、アノードのクラック、及びSOFC電池の潜在的な破壊に繋がる可能性がある。
【0006】
SOFCシステムは、一般に、予想外の燃料中断、例えばシステムのどこかに安全性の理由でシステムの緊急停止を必要とする破損が生じた場合に、アノードの上の還元性雰囲気を維持する、錯体及び高価なパージガスシステムの存在を必要とするので、多くのSOFC電池がこのタイプのダメージを受けずに複数の酸化還元(REDOX)サイクルを耐えることができないということは、発電用SOFC技術の広範囲にわたる商業的採用を抑制する主な要因であった。
【0007】
不充分なREDOX安定性の問題は、特に、現在最も一般的な形態のSOFC電池であるアノード支持燃料電池において深刻である。電解質は非構造体であるところ、アノード支持は、用いられる電解質(例えば安定化ジルコニア)の層を非常に薄く(20μm未満)することを可能にするので有益である。これは、電解質支持電池の場合よりも低い温度範囲(800℃~1000℃ではなく、650~850℃)における作動を可能にする。電解質支持燃料電池において、酸素イオン輸送に対する電解質の抵抗は、電解質厚に反比例するので、電解質層の厚みによって生じる抵抗は、温度に伴う抵抗の指数関数的な低下を利用し、作動温度を上昇させることによって克服される。アノード支持電池ではより薄い層を使用することができるので、作動温度を低下させることができ、このことは、SOFCシステムにおいてより低コストの材料の使用を促進し、様々な材料分解機構、例えば金属成分の酸化の速度を低減するので一般的に望ましい。
【0008】
これらの利点にもかかわらず、アノード支持電池ではアノードがSOFC電池の構造的支持体であり、応力誘発性クラッキングは電池の完全な破壊に繋がる可能性があるため、電池は、繰り返される酸化還元サイクル上、破滅的に故障する傾向が高い。
【0009】
開発者による多大な努力にもかかわらず、ニッケルの比較的低コスト性と、水素の電気化学的酸化及び炭化水素燃料供給の水蒸気改質の両方のための高い触媒活性と、高い電子伝導率とを兼ねる、適切な材料が未だ開発されていないので、ニッケルに対する代替は、広範囲にわたって採用されなかった。
【0010】
Gorte等(米国特許出願公開第2005/227133号公報A1、米国特許第7,014,942号明細書B2)は、部分的又は完全にニッケルを置換した、SOFCアノードにおける銅の使用を報告した。銅は、特に炭化水素燃料からの炭素の形成を触媒しないので、アノードの電子伝導相として有利である。しかしながら、銅は水素の電気化学的酸化及び炭化水素燃料の水蒸気改質にとって劣った触媒であるので、Gorteらによって試験された銅アノードでは、十分な電極性能を達成するのに追加の触媒、例えばセリアを必要とした。従来のSOFC用途において銅を用いることの他の問題は、銅金属及び酸化銅の融点が低い(それぞれ1084℃、及び1326℃)ということである。サーメットアノードは、典型的に、金属酸化物粉末及び電解質粉末の混合物を、空気中で1200~1500℃で焼結し、続いてSOFCの最初の運転で水素を使用して金属酸化物を金属へ還元することによって形成される。この焼結温度の範囲は、酸化銅の融点の付近又はそれより高く(これに対し酸化ニッケルは1955℃で融解する)、酸化銅相の過剰な焼結につながる。また、従来のSOFC作動温度は、金属銅の融点付近の700~900℃であり、SOFC作動の間、銅相の焼結につながり、潜在的な性能低下を引き起こす可能性がある。この問題を解決するために、Gorteらは、銅塩の溶液を用いた焼結後浸透工程でアノードに銅を加え、乾燥及び焼結して塩を酸化銅に分解し、それによって酸化銅を高温で焼結する必要性を回避する方法を開発した。しかしながら、浸透工程は、銅サーメットの使用を可能にするものの、工業的製造までスケールアップすることが困難であることがある。銅の他の問題は、ニッケルより反応性が低いにもかかわらず、温度で酸化雰囲気に暴露されると更に酸化するということであり、したがって、銅ベースのアノードもまた酸化還元安定性に欠ける。
【0011】
酸化還元サイクルのダメージ効果を緩和するのに役立つ、SOFCの設計に関する要因があり、要因は:
●アノード支持電池を使用しないこと-したがって、アノードをより薄くすることができる;酸化還元サイクルによる全体的な体積変化及び破滅的クラッキングの危険性を低減する。
●より低温で作動させること-ニッケルの酸化速度は、温度の増加と共に指数的に増加し、300℃超で始まる。作動温度が低ければ低いほど、ニッケルの酸化及び体積膨張の危険性がより少ない。更に、ニッケル粒子は、外表面は急速に酸化するが、粒子のコアは拡散律速でよりゆっくりと酸化する、コアシェル機構をとおして酸化される傾向がある。したがって、より低い温度においては、アノード内のニッケル粒子の全体粒子ではなく外表面だけが再酸化され、体積変化がいくらか低減される傾向がある。
●アノードに隣接するセラミック「骨格」を提供すること-SOFCアノードに使用される電解質ベースのセラミック相は、酸素分圧の変化によってほとんど影響を受けないので、ニッケル相に影響を及ぼす酸化還元サイクルの間、アノードのこの部分は体積が変わらないであろう。したがって、アノード内に焼結された多孔質セラミックネットワークがある場合、アノードの構造的完全性、及び電解質に対する結合が強化されるであろう。
【0012】
これらの基準を満たす可能性があるSOFC電池の設計は、英国特許第2368450号明細書の出願人によって開示された、金属支持SOFC設計である。このSOFC電池は、構造的支持体としてフェライトステンレススチール箔を使用する。箔はその中心領域において多孔質になっており、燃料がアノードにアクセスすること可能にする。活性電池層(アノード、電解質、及びカソード)は、すべてフィルムとしての基材箔上に堆積される。それは電池のための構造的支持体ではないので、アノードは厚みが約15μmであればよいことを意味する。この電池もまた、標準的な作動温度より非常に低い450~650℃の温度範囲での作動を可能にする。これは、ジルコニアベースの材料よりも本質的に高い酸素イオン伝導率を有する、酸化セリウム(セリア)ベースのセラミック材料、例えばCGO10(ガドリニウムドープされた酸化セリウム、CGO10について-Ce0.9Gd0.1O1.95)を、酸素イオン伝導性電解質として大部分に用いることにより達成される。英国特許第2456445号明細書に開示されているように、安定化ジルコニアの薄膜を電解質に堆積して、セリアベース電解質の混合イオン-電子伝導率による電池の内部短絡が防止されるが、しかしながら、ジルコニア層は非常に薄いので、その酸素イオン輸送に対する抵抗は、低温作動が妨げられない程度に十分に低い。英国特許第2368450号明細書のSOFC電池は、5~30μmの厚みを有する厚いフィルムとして製造される、多孔質金属-CGO10複合材サーメットアノードを使用する。アノードは、一般的に、金属酸化物及びCGO10粉末を含むインクをスクリーン印刷することによって堆積され、熱処理によって多孔質セラミック層を形成し、堆積された粉末を共に焼結して、スチール基材に結合した隣接構造を形成する。
【0013】
従来のセラミックの処理方法によってフェライトステンレススチール支持体上にセラミック層を堆積することによって、酸化雰囲気における高温で酸化クロムスケールが形成するので、酸化雰囲気において鋼を暴露してもよい最大温度に制限が課される。この上限は、セラミックス焼結に典型的に使用される1200~1500℃より実質的に低く、そのため、希土類ドープされたセリア電解質を、1100℃未満で、理論密度である96%超まで焼結する、所望の気密な層の形成を促進する方法が開発された(英国特許第2368450号明細書、英国特許第2386126号明細書、及び英国特許第2400486号明細書)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
驚くべきことに、これらの温度で酸化ニッケル-希土類ドープされたセリア複合材アノードを焼結することは、電解質の焼結よりも困難であることが分かった。これは、2つの異なる酸化物材料の複合材は、単一の相材料よりも焼結しにくいことが分かったからである。したがって、酸化ニッケル又はセラミック単独は、これらの温度で適切に焼結するが、しかしながら、複合材の空気中での焼結は劣っている可能性があり、粒子と弱いセラミック構造との間の弱いネックにつながる可能性がある。酸化還元サイクルの間の体積変化の結果、ニッケル粒子間の弱い結合が破壊されるので、これは酸化還元サイクルの結果として電池の故障につながる可能性がある。これは、アノードから電解質が剥離することにより、最終的に電池の破滅的な故障につながる可能性がある。
【0015】
電池の酸化還元安定性を改善するために、スチール基材上のセラミック層を焼成することができる温度範囲で、サーメット構造の充分な焼結をすることができる手段を見つけることが望ましい。したがって、アノードが、酸化還元サイクルに対して安定で、作動温度における還元性雰囲気の低下に対してロバストであり、さらに商業的に実現可能な製造方法を用いて行うことができる、金属支持SOFCの調製方法を提供することは有益である。本発明は、この問題及び上記に開示した問題のいくつかの側面を克服する、又は少なくとも改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の第一の側面において、金属支持SOFCを形成する方法であって、
a)酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアを含む未焼結のアノード層を、金属基材に適用すること;
b)未焼結のアノード層を焼成して、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアの酸化物を含む複合材を形成すること;
c)電解質を提供すること;並びに
d)カソードを提供することを含む、方法が適用される。
【0017】
アノード層内の、一般に酸化銅としての銅の存在は、アノードに、酸化ニッケルと希土類ドープされたセリアとの間の改善された焼結を提供する。これは、アノードのミクロ構造は銅が存在しない場合よりもロバストであり、また、燃料電池の最初の使用において酸化ニッケル及び酸化銅がニッケル及び銅へと還元される間に、又は還元性雰囲気が作動温度で失われた場合、たとえば予期せぬシステム故障及び燃料供給の低下が生じた場合の再酸化におけるあらゆる変化の間に、体積変化がより起こりにくいので、アノード中のセラミック骨格の形成を強化し、酸化還元サイクルに対するアノードの(及び、燃料電池全体としての)安定性を増大する。
【0018】
多くの場合、本発明の方法は、未焼結のアノード層を100~300MPaの圧力で圧縮する工程をさらに含む。この圧縮工程は、未焼結のアノード層の密度を上昇させ、本発明の方法で使用される温度で、酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアの粒子を十分に近接させ効果的に焼結することを保証する。多くの場合、圧縮工程は、プリントした層を加熱する工程と組み合わせて使用し、圧縮の前にインクベースから残留した有機材料を除去し、酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアを含む、圧縮してもよい未焼結のアノード層を残す。
【0019】
記載されている方法の第一の工程は、未焼結のアノード層を金属基材に適用することであり、金属基材は、典型的に、ステンレススチール基材であり、特にフェライトステンレススチールは加熱したとき酸化クロム表面不動態層を形成するので、フェライトステンレススチール基材である。この不動態層は、支持体のバルク金属を保護し、アノードと支持体のバルク金属との間に拡散バリヤを提供する。本明細書で用いる用語「支持体」及び「基材」は、金属支持体/基材を意味するものとして交換可能に使用されることを意図する。他の耐熱鋼で共通して形成される酸化アルミニウム又は酸化シリコンとは対照的に、酸化クロム不動態層を形成することは、酸化クロムは高温において絶縁ではなく電子半導体であり、フェライトステンレススチールを燃料電池用途における使用に適するものにするという利点を有する。フェライトステンレススチールは、アルミニウムを含まないフェライトステンレススチール、例えば、安定剤としてのチタン及び/又はニオブを含むフェライトステンレススチールであってもよい。多くの場合、フェライトステンレススチールは、約17.5~23質量%のCrを含む。具体的には、フェライトステンレススチールは、欧州規格1.4509(17.5~18.5質量%Cr)及び/又は欧州規格1.4760(22~23質量%Cr)から選択してもよいが、当業者であれば理解できるように、類似のフェライトステンレススチールの規格を使用してもよい。
【0020】
基材は、約50~500μm、多くの場合約100~400μm、場合によっては約200~350μmの厚みを有してもよい。基材の厚さは、安定な基材を提供する必要性によって決定され、電池形成又は使用の間にゆがまないが、できるだけ薄くして、燃料とアノードとの間の効果的な接触を可能にする。英国特許第2368450号明細書に記載されているように、この接触は、基材の非多孔質領域に囲まれた多孔性領域であって、アノードがその上に形成される多孔性領域を提供することによって、優れた結果とともに達成することができる。多くの場合、基材の多孔性領域は、基材表面の一方と他方とを流動的に相互接続する複数のつながった開口を含み、多くの場合、これらは均一に間隔を置いて離れ、更に又は代替として約5~500μm、又は約100~300μmの横方向寸法を有する。更に、開口は、基材の多孔質領域の約0.1~5面積%、又は基材の多孔質領域の約0.2~2面積%を占めてもよい。これらの特徴の各々は、燃料が基材を通ってアノードへと効率的に移動することに寄与し、金属基材に燃料電池を支持させつつ、電池内の電気化学的活性層の厚みを大きく低減することを促進する。
【0021】
典型的に、基材は箔であるが、しかしながら焼結基材を使用することもできる。箔の利点は、多孔質領域の構造制御が容易であることである。
【0022】
未焼結のアノード層は、一般に、酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアを含むインクを適用することによって形成されるが、しかしながら、他の方法を用いてもよい。これらの三成分は、一般に、インクベース内に粉末として懸濁しており、インクベースは、一又は複数の揮発性の溶媒、一つ以上の溶解した不揮発性の高分子バインダ、分散剤、湿潤剤、及び他の一般的なインク成分を一般に含む。酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープセリアは、多くの場合、0.1~4μm、又は0.2~2μm、又は0.7~1.2μmの粒度分布d90を有する。酸化銅、酸化ニッケル、及び希土類ドープされたセリアの各々の粒度分布及び径自体は異なってもよいが、しかしながら、それらが同じであるか又は同様である場合、粉末の良好な混合、したがってアノードの強い焼結を促進することに役立つので、有益であることがある。インク内により容易に懸濁し、アノード層内の成分のより高い均一性を提供し、高い表面積対体積比を有し、粒子の反応性及び焼結容易性を増大させるので、一般に小さな粒径が選択される。
【0023】
典型的に、インクは、混合金属酸化物のインク中、30~70質量%の固形分を含む(すなわち、酸化銅、及び酸化ニッケルの組合せ)。多くの場合、これは35~45質量%であり、固体の残りは希土類ドープされたセリアである。すなわち、多くの場合、インクの固体は金属酸化物及び希土類ドープされたセリアのみであり、すなわち、多くの場合、アノードは、酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープセリアから成り、又は本質的にこれらから成る。多くの場合、インク中の金属酸化物成分は、全金属酸化物の5~50質量%、多くの場合8~25質量%の酸化銅を含む。多くの場合、酸化銅は、全金属酸化物の約10質量%、おそらく8又は9~11又は12質量%であり、したがって、酸化ニッケル対酸化銅の比は、約9:1である。比率は、典型的に20:1~4:1、多くの場合15:1~6:1である。これらの酸化銅ドーピングの濃度を選択することによって、金属酸化物の融点を希土類ドープされたセリアを焼結するのに必要な温度未満に低下させず、かつ、燃料が水素であるとき又は燃料電池が水蒸気炭化水素改質であるときのアノードの機能を損なわずに、酸化銅の比較的低い融点が、複合材アノード材料内に強化された焼結を提供することが分かった。
【0024】
酸化銅(II)は酸化銅(I)よりも高い融点を有し、半導体特性を有するので、多くの場合、酸化銅は酸化銅(II)である。しかしながら、酸化銅(I)は、空気中高温で酸化銅(II)を形成することがあるので、酸化銅(I)を用いてもよい。
【0025】
多くの例において、希土類ドープされたセリアは、式Ce1-xRExO2-x/2であり、REは希土類、及び0.3≧x≧0.05である。多くの場合、希土類ドープされたセリアは、ガドリニウムドープされた酸化セリウムであり、多くの場合、式Ce0.9Gd0.1O1.95(CGO10)である。これらは、ジルコニアベースの材料を含む多くの電解質材料よりも高い酸素イオン伝導率を有するので、これらの化合物が一般に使われ;これによって、燃料電池が従来のSOFCよりも低い温度で作動することを可能にし、本発明の燃料電池の作動温度範囲は、典型的に450℃~650℃、多くの場合500℃~620℃である。より低い温度で燃料電池を作動することは、非還元性雰囲気におけるニッケルの酸化速度が低減され、その結果、粒子の外殻のみが酸化され、アノード内の体積変化を低減し、したがって燃料供給の還元性雰囲気が中断される場合におけるクラッキングの危険性を低減することにつながることを含む、多くの利点を有する。更に、金属支持体の使用が可能になり、電極及び電解質材料は構造的役割をあまり果たさない、あるとしてもほとんど果たさないので、これらを薄層にすることが可能である。更に、これらの温度は銅の融点より充分低く、電池の成分として銅を使用する選択肢を提供する。
【0026】
未焼結のアノード層の適用は、一般に、まず金属基材にインクを適用することを含み、これは典型的に印刷によって、例えばスクリーン印刷によって行うことができるが、しかしながら、当業者に知られているように、他の方法、例えばテープキャスティング、減圧スリップキャスティング、電気泳動堆積、及びカレンダー加工を用いてもよい。多孔性領域が存在する場合、基材へのインクの適用は、典型的に、多孔質領域を覆って層が成形され、しかしながら非多孔質領域が実質的に覆われないままになるように行う。これは、燃料がアノードをバイパスすることがなく、しかしながら必要より多く基材を覆わないことによって、材料コスト及び質量を最小にすることを確実にする。
【0027】
この最初の適用の後に、任意にインクを乾燥させてプリント層を提供する工程を行う。乾燥は、空気乾燥でもよく、又は穏やかに加熱してもよい。穏やかな熱は、多くの場合、プリント層の形成の速度を上げるために用いる。50℃~150℃の温度が典型的である。乾燥工程は、溶媒を蒸発させ、使用する任意のインク処方の任意のバインダを固め、インクを凝固させて、本願明細書においてプリント層と称する、もろい最初のアノード層を形成する。この層の厚みは、一般に5~40μm、多くの場合7~20μm、多くの場合9~15μmである。本発明の燃料電池はアノード支持電池ではないので、多くの従来の燃料電池よりもアノード層を非常に薄くすることができ、このことは酸化還元サイクルの間の全体の体積変化がより小さいという利点を有し、したがって経時的なアノードのクラッキングが著しく低減される。
【0028】
乾燥工程が存在する場合、適用された酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリア;又はプリント層を加熱して、インク混合物中の任意の有機成分、たとえば、インク中に典型的に存在する高分子バインダを除去してもよい。この工程の温度は、存在するバインダによるが、多くの場合300~500℃である。この加熱工程は、乾燥工程と組み合わせてもよく、形がよく均一で未焼結のアノード層を提供するために、一般的にまず溶媒、次に別々の工程で混合物の有機成分を除去してもよい。
【0029】
多くの場合、必要に応じて、この工程で未焼結のアノード層が活性成分(すなわち、酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリア)のみを含むよう、インクを乾燥させ、有機成分を除去した後、上記の圧縮工程を典型的に適用する。これは、焼結が改善するよう、圧縮工程が最も効率的にアノードを圧縮し、酸化物及びセリアの密度を上昇させることを可能にする。当業者に知られているように、様々な圧縮方法を使用してもよく、多くの場合、単軸又は冷間等方圧プレスが使用される。
【0030】
未焼結のアノード層を焼成して、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアの酸化物を含む複合材を形成する工程は、希土類ドープされたセリア及び金属酸化物を焼結させ、アノードにセラミック構造を形成させる。したがって、未焼結のアノード層の焼成は、一般に、温度950~1100℃、多くの場合980~1050℃、又は1000~1030℃の炉内で行う。これらの範囲の上限は、基材の安定性に基づいて選択される。約1100℃超では、高い耐酸化性で知られる高クロム含有量の鋼でさえ、空気中であまりに急速に酸化するので、基材が焼成工程に耐えることができない。具体的には、アノードサーメットの形成の間、酸化クロム不動態層が成長し、繰り返し剥がれ落ち、容認できない程度に金属基材を弱める。セリア化合物は1100℃未満の温度で焼結してもよいので、希土類ドープされたセリアの使用は、ロバストなサーメットの形成とともに、金属基材の使用を促進する。下限は、材料の良好な焼結の必要性によって導かれる。
【0031】
焼成工程は、典型的に空気中での焼成であるが、しかしながら、他の非還元性雰囲気を使用してもよい。典型的に、焼成工程は15~60分の時間にわたる。焼成時間は、金属酸化物及び希土類ドープされたセリアを焼結することができ、炉が熱平衡に達することができる程度に十分でなければならないが;しかしながら、長すぎる焼成期間は金属支持体の酸化を増大させ、フェライトステンレススチールを使用する場合、支持体から蒸発するクロムがアノードへ混入する可能性がある。したがって、最適な焼成期間は15~60分の範囲である。焼結の後、アノードは冷却され、セラミック酸素イオン導体としての、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアを含む、ロバストで多孔質なアノード構造体を提供する。
【0032】
上述したが、電解質を提供する前にアノードの焼成を行ってもよく、焼成を行う前に電解質を未焼結のアノード層の上に適用してもよい。したがって、方法は、電解質及び未焼結のアノード層が同時に焼成されるよう、未焼結のアノード層を焼成する工程の前に、電解質を提供する工程を含んでもよい。
【0033】
典型的に、本発明の燃料電池に使用する電解質の厚みは、5~30μm、多くの場合10~20μmである。そのような薄い電解質層を提供することは、カソードからアノードへの酸素イオンの迅速な移動を提供する。多くの場合、電解質は、希土類ドープされたセリアを含み、適切な希土類セリアは、アノードについて上記に定義したものである。いくつかの例において、電解質は、焼結助剤として、低濃度の酸化コバルト及び/又は酸化銅と組み合わせて、希土類ドープされたセリアを含んでもよく、例えば0.5~5質量%の酸化コバルト及び/又は酸化銅で、残りの電解質は希土類ドープされたセリアであってよい。アノード及び電解質のための希土類ドープされたセリアの使用は、化学的及び熱膨張の両方に関して、燃料電池のこれらの成分の間の適合性の強化に役立ち、このことは、酸化還元サイクルの間、層間の機械的応力を低減し、したがって、使用中のクラッキング及び燃料電池故障の可能性を低減することに厳密に適合する。更に、これらのセリアは高い電荷移動速度を有するので、これらを含有することは電解質とアノードとの間の良好な電荷移動速度を確実にする。
【0034】
電解質は、一般に、上述のようにアノードと同時、又はアノードを完全に形成したあと別々の焼成工程のいずれかで焼結される。
【0035】
典型的に、カソードの厚みは30~60μm、多くの場合40~50μmである。カソードは、一般に、酸素の還元が起こる薄い活性層と、スタック内の電池から電流を集ることができるより厚い集電体層との2つの層を含む。集電体層は、一般に、ペロブスカイト、例えばランタンストロンチウムコバルタイトであるが、しかしながら、電子伝導性のあらゆるセラミック材料を用いてもよい。
【0036】
活性層カソードは、ペロブスカイト酸化物混合導体と、希土類ドープされたセリアとの、焼結された粉末状混合物を含んでもよく、希土類ドープされたセリアは上記に定義したものである。ペロブスカイトは、La1―xSrxCoyFe1-yO3-δ含んでもよく、ここで、0.5≧x≧0.2、及び1≧y≧0.2である。具体的には、ペロブスカイト酸化物混合導体は、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ、Gd0.5CoO3-δ、及びRExSr1-xCoO3-d、(ここで、RE=La、Sm、Pr、及び0.5<x<0.8)の一つ又は複数を含んでもよい。これらはほとんどのペロブスカイトより高いイオン性伝導率を有するので、これらの化合物を使用することは有用である可能性がある。場合によっては、混合物は、上記に定義したように、20~50質量%の希土類ドープされたセリア、場合によっては30~45質量%、場合によっては35~45質量%、又は約40質量%の希土類ドープされたセリアを含む。これは、上述した化学的及び熱膨張の両方に関してカソードと電解質との間の適合性を強化することに役立ち、これらのセリアは高い電荷移動速度を有するので、これらを含有することは、電解質とカソードとの間の良好な電荷移動速度を確実にする。
【0037】
カソードは、一般に、使用する前に焼結される。カソードは、典型的に、一つ又は複数の層(たとえば活性及び集電)として、直接又は間接的に、焼結した電解質の上に適用され、アノードについて記載したものと同様の条件で焼結される。これは、繰り返される酸化還元サイクルに対して、及び形成されるアノード構造体の結果として、高温における燃料欠乏に対してロバストな、中間温度の金属支持SOFCを提供する。
【0038】
本発明の第二の側面において、アノード、カソード、及び電解質を含む金属支持SOFCであって、アノードは、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアを含む、金属支持SOFCが提供される。前記のように、ロバストな燃料電池構造を提供するために、一般に、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアを焼結する。使用中、ニッケルは、ニッケルの酸化還元状態によって、金属ニッケル、酸化ニッケル、及びこれらの組み合わせを含む形態であってよい。例えば、ニッケルは、電池形成時には酸化ニッケルの形態であるが、しかしながら、電池の最初の使用時にニッケル金属に還元される。同様に、銅は、金属銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、及びこれらの組み合わせを含む形態であってよい。更に、高温におけるニッケル及び銅の相互溶解性によって、混合金属及び金属酸化物相が形成されてもよい。このように、当業者であれば理解されるように、酸化形態では式NixCu1-xOとして一般に記載され、xは0~1の変数である、ニッケル-銅混合金属酸化物を形成する、ニッケル-銅合金が形成されることがある。ドープされたセリアへの酸化銅の溶解性のため、セリウムを含む混合酸化物が成形されることもある。アノード、カソード、及び電解質、他の点においては、一般に上述の通りである。
【0039】
いくつかの例において、燃料電池は、特許された英国特許2368450号明細書に記載されている種類の燃料電池であり、引用により本明細書に取り入れられる。そのような場合、燃料電池は:
(i)多孔性領域、及び多孔質領域を囲む非多孔質領域を含む、フェライトステンレススチール支持体;
(ii)支持体の多孔質領域の一方の表面下に位置し、支持体の多孔質領域の周りの非多孔質領域に密封して取り付けられた、フェライトステンレススチールバイポーラプレート;
(iii)支持体の多孔質領域の他方の表面上に位置するアノード層を含む、アノード;
(iv)アノード層の上に位置する電解質層を含む、電解質;及び
(v)電解質層の上に位置するカソード層を含む、カソード;を含み、
アノードは、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアを含む、燃料電池である。
【0040】
燃料電池は、2以上の燃料電池を含む燃料電池スタック内に存在してもよく、したがって、本発明の第三の側面において、本発明の第二の側面による燃料電池を含む燃料電池スタックが提供される。それぞれの燃料電池は、前記のように、支持体が溶接され、又はそうでなくとも封止される、バイポーラプレートを含んでもよい。
【0041】
本発明の第四の側面において、本発明の第二の側面による燃料電池の、電気エネルギーの生成のための使用が提供される。
【0042】
本発明の方法は、アノードの劣った焼結の問題、及び使用中の電解質の剥離を回避する、金属支持SOFC電池における使用に適する、高焼結されたニッケル-銅-希土類ドープされたセリアの厚いフィルムアノードを製造する方法を提供することを目的とする。方法は、金属支持固体酸化物燃料電池を形成する方法であってもよく、方法は:
a)(任意に粉末状の)酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアを含む未焼結のアノード層を、金属基材に適用することであって、粉末の粒度分布d90は任意に0.2~3μmであり、酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープセリアは任意にインクとして適用され、インクは、混合金属酸化物の30~70%の総固体含量を任意に有し、全金属酸化物の5~50質量%の酸化銅を任意に有する、適用すること;
b)インクを任意に乾燥させて、厚み5~40μmのプリント層を提供すること;
c)未焼結のアノード層を、任意に100~300MPaの圧力で任意に圧縮すること;
d)任意に、プリント層を加熱してインクベースを除去し、酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアを含む未焼結のアノード層を残すこと;
e)未焼結のアノード層を、任意に950~1100℃の温度に焼成して、複合材を形成すること;
f)電解質を提供すること;並びに
g)カソードを提供すること
を含む。
【0043】
別途記述しない限り、本発明に記載されている整数のそれぞれは、当業者であれば理解されるように、任意の他の整数と組み合わせて使用してもよい。本発明の全ての側面は、その側面に関して記載されている特徴を好ましくは「含む」が、しかしながら、具体的には、それらは請求項に記載されている特徴「から成る」、又は「から本質的になる」ものであってよいことが想定されている。更に、全ての用語は、本明細書において具体的に定義しない限り、本技術分野においてそれらの一般に理解される意味が与えられることを意図する。
【0044】
更に、本発明の議論において、反対のことを述べない限り、パラメータの許容範囲の上限又は下限に係る代替値の開示は、小さい代替値及び大きい代替値の間にある上記パラメータのそれぞれの中間値自体が、そのパラメータに係る可能性ある値として開示された、暗示的記載として解釈される。
【0045】
更に、別途記述しない限り、本出願に記載の全ての数値は、用語「約」によって修飾されたものとして理解される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本発明がより容易に理解されるように、以下の図面を参照しながら、更に具体例に記載する。
【0047】
【
図1】
図1は、英国特許第2368450号明細書に記載されているような、SOFCの模式図である。
【0048】
【
図2】
図2は、
図1のSOFCの断面を示す、走査型電子顕微鏡写真(SEM)である(15.0kV、7.9mm×1.50k)。
【0049】
【
図3】
図3は、酸化ニッケル-酸化銅-GCO複合材から形成されたアノードを含むSOFCの断面を示すSEMである(15.0kV、8.5mm×1.0k)。
【0050】
【
図4】
図4は、酸化ニッケル-GCO複合材から形成された焼結アノードの断面を示すSEMである(15.0kV、7.1mm×13k)。
【0051】
【
図5】
図5は、酸化ニッケル-酸化銅-GCO複合材から形成された焼結アノードの断面を示すSEMである(15.0kV、8.9mm×13k)。
【0052】
【
図6】
図6は、電池作動温度の関数としての、
図3のSOFCについての電流-電圧曲線である(56%水素-44%の窒素燃料、過剰量の空気をカソードに供給)。
【0053】
【0054】
【
図8】
図8は、
図2において示したニッケル-CGOアノードに対する、
図3で説明した酸化ニッケル-酸化銅-GCO複合材の強化された機械的強度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
英国特許第2368450号明細書に記載されているようなSOFC10を、
図1において図式的に、及び
図2においてSEM断面で示す。両図は、基材2の中心領域を通る数千もの孔をレーザードリル加工することによって、部分的に多孔質にされたフェライトステンレススチール基材1を示す。多孔質基材は、基材1の多孔質領域2を覆う、酸化ニッケル及びCGOアノード層3によって覆われている。アノード層3の上には、基材1のドリル加工されていない領域9上へアノード3上に重なるCGO電解質層4が堆積され(10~20μm、CGO)、このようにしてアノード3の端の周辺に封止を形成した。カソード5、6は、酸素の還元が起こる薄い活性層5(CGO複合材)、及びスタックの電池10から電流を集めることができるより厚い集電体層6(ランタンストロンチウムコバルタイト)を有する。
図2は、電子伝導を妨げ(カソード5、6とジルコニア層7との望ましくない化学反応からの短絡を防ぎ)、アノード3と電解質5、6のそれぞれとの間に界面を形成する、非常に薄い安定化ジルコニア層7と、さらにより薄いドープされたセリア層8をさらに示す。
【0056】
酸化ニッケル粉末及びCGO粉末(d90=0.7~1.2μm、インク中の酸化ニッケルとCGOとの質量比1.8:1)の懸濁粒子を含む、スクリーン印刷インクを適用することによって、
図1及び2のSOFC10を調製した。従来の方法を用いて、インクをフェライトステンレススチール基材1上へスクリーン印刷し、及びオーブンで乾燥して溶媒を蒸発させ、バインダを固化し、それによって厚さ9~15μmの、乾燥したプリント層を形成した。300MPaの圧力で冷間等方圧プレスを使用して、乾燥したプリント層を圧縮した。未焼結のアノード層を炉内に置き、空気雰囲気で40分間960℃の温度に加熱して、焼結アノード層3を製造した。CGO電解質層4をアノード層3上に吹き付け、1020℃で40分間、炉内で焼成させた。最後に、英国特許第2456445号明細書に開示されている方法により、焼成した電解質層にジルコニア層7を適用し、ドープされたセリア層8、及び2枚のカソード層5、6もまた英国特許第2456445号明細書の方法によって適用し、825℃の温度で焼成してSOFC1の構造を製造した。
【0057】
図3は、記載したように、酸化ニッケル-酸化銅-CGO複合材を含むSOFCの断面を示す。酸化ニッケル及び酸化銅は9:1の重量比で存在し、使用中のニッケル対銅の比は9:1になった。上記の酸化ニッケル:CGOの比率が1:1.3になるようアノード構造に銅を導入すると、混合金属酸化物(すなわち酸化ニッケル及び酸化銅)対CGOの比が1:1.3になり、燃料電池の構造は、
図1及び2の従来技術の電池によるものであった。乾燥プリント層を圧縮する前にオーブンで350℃の温度に加熱し、インク内の有機バインダを除去して、未焼結のアノード層を提供したこと、及びアノードの焼成が1020℃で45分間であったことを除き、製造は従来技術の電池の調製方法に厳密に従った。
【実施例】
【0058】
アノード構造
図4及び5は、複合構造への酸化銅の添加によって得られるアノード構造体の違いを示す。
図4の複合材は、64質量%酸化ニッケルに対し36質量%CGOの組成を有し、
図5の複合材は、51質量%酸化ニッケル、5.7質量%酸化銅(II)、及び43.3質量%CGOであった。
図5のニッケル-銅アノードの酸化還元安定性を改善するために、
図4に示す元のアノードに比べて、金属酸化物の濃度をいくらか低減した。還元の後燃料電池作動の間、
図4のアノードサーメットは、
図5における45体積%の金属と比較して、53体積%の金属であった。金属含量を低減するだけでは、適切な酸化還元安定性が得られず;銅の添加もまた必要であることが示された。両複合材を、上記のように調製し、電池を製造する前に1020℃で60分間、空気中で焼成し、インサイチュで金属に還元し、示されているサーメットを形成した。
【0059】
セラミックと金属領域の明白な差異によって、及び共に融合したセラミック及び金属相の両方の粒子によって、焼結が良好であることが実証された。セラミック領域は明るい領域として現れた、及び金属領域は暗い斑点である。認められるように、
図5の銅を含む複合材は、良好な焼結を示すより大きくより暗い金属粒子を含んでおり、CGOの良好な焼結構造もまた明白である。この良好な焼結構造は、
図3(アノード3)にも見られる。
【0060】
得られたアノード構造体は、650℃未満の作動温度において、酸化還元安定性が高いことが実証され、電池性能を著しく低下させることなく何百もの高温の燃料中断に耐えることができた。
【0061】
銅の選択
銅、コバルト、鉄、マンガン、及びリチウムを含むカチオンの類は、ドープされたセリアの焼結を強化することが公知である(米国特許第6709628号明細書、J.D.Nicholas、及びL.C.De Jonghe、Solid State Ionics、第178巻(2007年)、1187~1194頁)。したがって、希土類ドープされたセリアを、これらのカチオンの1つでドープすることを検討した。上記のカチオンのうち、銅、コバルト、及びリチウムは、希土類ドープされたセリアの焼結を強化するのに最も有効であると報告されている。酸化リチウムは反応性が高く、更に粒子境界上に絶縁相を形成することによって、希土類ドープされたセリアのイオン伝導率に非常に有害であることが知られているので、SOFCアノードでの使用に適すると出願人が考えたカチオンは、銅及びコバルトだけである。コバルトは、典型的にニッケルほどではないが、希土類ドープされたセリアの焼結を強化することが周知であり、更にアノード触媒として効果的なことが公知である(C.M.Grgicak、R.C.Green、及びJ.B. Giorgi、J.Power Sources、第179巻(1)、2008年、317~328頁)。しかしながら、プッシュロッド膨張計を使用した複合材の焼結挙動の最初の評価では、驚くべきことに、酸化コバルトは酸化ニッケルの焼結を強化するのに効果的ではないことが実証され、したがって、酸化ニッケルを部分的に、又はさらには完全に酸化コバルトで置換することによってアノード複合材の焼結性は著しく強化されなかった。酸化銅は、対照的に、複合材の焼結性を大きく増加させることが実証されたが、酸化ニッケルとの低融点の共晶を形成し、したがっていくらかの液相焼結をもたらすことがあるので、部分的に疑わしい。
【0062】
燃料電池性能
図6は、異なる作動温度における、
図3の燃料電池についての一連の電流電圧分極曲線である。燃料速度を算出したところ、測定したそれぞれの温度で0.75V/セルで燃料利用率は約60%であり、システムは少なくとも495~616℃の広い温度範囲の全体にわたって作動することができ、用途、スタックのセル数、必要な出力等のために運転温度を最適化することができることを示した。
【0063】
図7は、このアノード構造体によって可能な、非常に良好な酸化還元安定性を示す。7層短スタックで、600℃において、電流-電圧曲線を追ってスタック性能を確かめる一連のサイクルを行った。スタックを開回路に戻し、スタックを580~600℃に維持しながら、スタックへの水素供給を断った。この間、空気及び窒素はスタックへと維持した。燃料の中断を20分間維持し、アノードが部分的に再酸化する時間を与えた。次に水素の供給を回復させ、スタックに数分を与え回復させた後、別の電流-電圧曲線を追って、アノードの酸化還元サイクルの結果としてスタック性能が失われたかどうか確かめた。スタック性能が落下し始め、酸化還元サイクルの結果として一つ又は複数の電池への損傷を示すまで、このシーケンスを続けた。
【0064】
図7から、
図3のSOFC電池を用いて、全体で544サイクル運転させた、スタック内の7つの電池は、小さな最初の焼き付きの後、著しく性能が低下することなく、500以上の酸化還元サイクルに耐えることがわかる。
【0065】
銅の添加から生じるアノードの強化された機械的強度
図8は、
図2で説明したようなニッケル-CGOアノード、及び
図3で説明したようなニッケル-銅-CGOアノードの標準的な両者について、最初に製造された後、及び最初の性能特性評価試験で作動させた後の電池の両方のSOFC電池に対して行った、機械的強度試験の結果の表である。
【0066】
製造時の電池では、アノードは酸化状態にあり、機械的試験の前には還元されて作動開始時の電池内のアノード構造体を模倣し、一方「作動後の」電池におけるアノードは、作動中のアノードの最終的なサーメットの状態である。
【0067】
電池の機械的強度測定を行うために、まず電池の金属基材を平坦な板金に接着し、引張力が適用される際に電池が曲がることを防止した。電池のカソードを機械的に除去し、電解質を暴露した。
【0068】
アノード及び/又はアノード-電解質結合の機械的強度を評価するために、円形の金属試験片を、電解質の四隅で電解質表面に、及び電池の中央に接着した。ダイヤモンドスクライバーを用いて、金属試験片の周りで電池のセラミック層を切った。調整した油圧プーラーを試験片に取り付け、試験片を電池基材から引き離すのに必要な応力を測定した。この技術を使用して最大17MPaの引張応力を適用すると、試験中の燃料電池層よりむしろ、試験片を電解質に保持している接着剤が破損する傾向があった。試験片が17MPa未満で引き離された場合、これは、最も弱い電池層(通常アノードの内部構造)の破損を示す。
【0069】
標準的なニッケル-CGOアノードは製造時の状態では強いが、それらは「作動後」電池において、酸化ニッケルが金属ニッケルへ還元された後、非常に低い応力で破損することが分かった。理論に制約されないが、これは、アノード内における隣接するセラミック構造が欠如していることに大部分起因すると考えられ、アノードの機械的強度はニッケル粒子の間の比較的弱いネックによって全体的に提供されていることを意味する。対照的に、ニッケル-銅CGOアノードは、還元後にサーメット構造の強度を保持することが分かり、金属及びセラミック相の両者の非常に優れた焼結を示している。
【0070】
本発明の方法及び燃料電池は、様々な実施形態の形で取り入れることができ、そのほんの少数が上記に説明及び開示されたことを理解されたい。
以下の項目[1]~[19]に、本発明の実施形態の例を列記する。
[1]
金属支持固体酸化物燃料電池を形成する方法であって:
a)酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアを含む未焼結のアノード層を、金属基材に適用すること;
b)前記未焼結のアノード層を焼成して、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアの酸化物を含む複合材を形成すること;
c)電解質を提供すること;並びに
d)カソードを提供することを含む、方法。
[2]
前記未焼結のアノード層を、100~300MPaの圧力で圧縮する工程を更に含む、項目1に記載の方法。
[3]
前記未焼結のアノード層の焼成を、950~1100℃の温度で行う、項目1又は2に記載の方法。
[4]
前記酸化ニッケル、前記酸化銅、及び前記希土類ドープされたセリアが粉末状であり、前記粉末の粒度分布d90が0.1~4μmである、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記酸化ニッケル、前記酸化銅、及び前記希土類ドープされたセリアをインクとして適用する、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
[6]
前記インクが、全金属酸化物の5~50質量%の酸化銅を含む、項目5に記載の方法。
[7]
前記未焼結のアノード層の適用が、まず前記金属基材に前記インクを適用し、前記インクを乾燥させて、厚さ5~40μmのプリント層を提供することを含む、項目6に記載の方法。
[8]
前記プリント層を加熱してインクベースを除去し、前記酸化ニッケル、前記酸化銅、及び前記希土類ドープされたセリアを含む前記未焼結のアノード層を残すことを更に含む、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
[9]
前記電解質及び前記未焼結のアノード層が同時に焼成されるように、前記電解質を提供する工程を、前記未焼結のアノード層の焼成の工程の前に行う、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
[10]
アノード、カソード、及び電解質を含む金属支持固体酸化物燃料電池であって、前記アノードは、酸化ニッケル、酸化銅、及び希土類ドープされたセリアを含む未焼結のアノード層から得られ;前記未焼結のアノード層内の前記酸化ニッケル、前記酸化銅、前記希土類ドープされたセリアの粒度分布d90が0.1~4μmである、金属支持固体酸化物燃料電池。
[11]
ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアが焼結されている、項目10に記載の燃料電池。
[12]
前記酸化ニッケル対前記酸化銅の重量比が20:1~4:1である、項目10又は11に記載の燃料電池。
[13]
前記ニッケルが、金属ニッケル、酸化ニッケル、ニッケル-銅合金、ニッケル-銅酸化物及びこれらの組み合わせから選択される形態である、項目10~12のいずれかに一項に記載の燃料電池。
[14]
前記銅が、金属銅、酸化銅(II)、酸化銅(I)、ニッケル-銅合金、ニッケル-銅酸化物及びこれらの組み合わせから選択される形態である、項目10~13のいずれか一項に記載の燃料電池。
[15]
項目10~14のいずれか一項に記載の燃料電池であって、
(i)多孔性領域、及び前記多孔質領域を囲む非多孔質領域を含む、フェライトステンレススチール支持体;
(ii)支持体の前記多孔質領域の一方の表面下に位置し、前記支持体の前記多孔質領域の周りの前記非多孔質領域に密封して取り付けられた、フェライトステンレススチールバイポーラプレート;
(iii)前記支持体の前記多孔質領域の他方の表面上に位置するアノード層を含む、アノード;
(iv)前記アノード層の上に位置する電解質層を含む、電解質;及び
(v)前記電解質層の上に位置するカソード層を含む、カソード;を含み、
前記アノードは、ニッケル、銅、及び希土類ドープされたセリアを含む、燃料電池。
[16]
前記希土類ドープされたセリアが、ガドリニウムドープされた酸化セリウムを含む、項目10~15のいずれか一項に記載の燃料電池。
[17]
項目10~16のいずれか一項に記載の燃料電池を2以上含む、燃料電池スタック。
[18]
電気エネルギーの生成における、項目10~16のいずれか一項に記載の燃料電池の使用。
[19]
図面を参照しながら本明細書に実質的に記載されている方法、燃料電池、及び使用。