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特許7089547二次電池の状態判定方法及び状態判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】二次電池の状態判定方法及び状態判定装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20220615BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220615BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20220615BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
H01M10/48 P
H02J7/02 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020079980
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021175340
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】室田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】須藤 良介
(72)【発明者】
【氏名】石野 直
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 均
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156759(JP,A)
【文献】特開2018-028967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H01M 10/42 - 10/48
G01R 31/36 - 31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単電池を直列接続して構成される電池モジュールの状態を判定する二次電池の状態判定方法であって、
良品と判定された前記電池モジュールの平均充電率と電池電圧との関係を示すグラフにおいて、前記平均充電率に対する前記電池電圧の変化の傾きが前記平均充電率が45%~55%と推定される範囲の前記平均充電率に対する前記電池電圧の傾きよりも大きくなる前記平均充電率、かつ、前記平均充電率が0%とならない前記平均充電率となる条件を満たす判定充電率範囲まで前記電池モジュールを放電させる放電工程と、
前記放電工程が完了した前記電池モジュールについて、前記電池モジュールの電極を開放状態としたときの前記電池電圧の上昇速度である緩和速度を算出する緩和速度算出工程と、
前記緩和速度算出工程で計測された前記緩和速度が予め設定した判定閾値よりも小さい場合に前記複数の単電池のいずれかに不良があると判断する判断工程と、
を有する二次電池の状態判定方法。
【請求項2】
前記緩和速度算出工程では、前記緩和速度に基づき、前記緩和速度の計測時間の平方根分の1を横軸、前記計測時間中の前記電池電圧を縦軸とするグラフにおいて、前記計測時間中において予め決定した第1の時間と第2の時間との間の前記電池電圧の傾きである緩和速度定数を算出し、
前記判断工程では、前記緩和速度定数を用いて前記複数の単電池の良否判定を行う請求項1に記載の二次電池の状態判定方法。
【請求項3】
前記第1の時間と前記第2の時間は、前記電池モジュールに対する放電処理後から前記放電処理後に発生する分極緩和現象が収束するまでの時間の間で設定される請求項2に記載の二次電池の状態判定方法。
【請求項4】
前記放電工程は、良品と判定される前記電池モジュールの平均充電率が1%から3%の間となる状態で行う請求項1乃至3のいずれか1項に記載の二次電池の状態判定方法。
【請求項5】
前記放電工程は、
前記判定充電率範囲よりも高い前記平均充電率まで予め決定された急速放電電流量で前記電池モジュールを放電する第1の放電工程と、
前記第1の放電工程停止後に前記電池モジュールに対する放電を停止して前記電池モジュールの前記電池電圧を緩和させる電圧緩和工程と、
前記電圧緩和工程後に前記急速放電電流量よりも小さな放電電流量で前記電池モジュールを前記判定充電率範囲まで放電する第2の放電工程と、
を有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の二次電池の状態判定方法。
【請求項6】
複数の単電池が直列接続されてなる電池モジュールの状態を判定する二次電池の状態判定方法であって、
前記電池モジュールの平均充電率が、前記複数の単電池の残容量のばらつきが良品範囲内とされる前記電池モジュールにおいて、放電停止後の電池電圧の緩和現象中の予め設定された判定期間内の電池電圧の回復速度である緩和速度が予め設定される緩和速度閾値以上となる判定充電率範囲となるまで前記電池モジュールを放電させる放電工程と、
前記放電工程が完了した前記電池モジュールについて、前記電池モジュールの電極を開放状態として前記緩和速度を計測する緩和速度算出工程と、
前記緩和速度算出工程で計測された前記緩和速度が予め設定した判定閾値よりも小さい場合に前記複数の単電池のいずれかに不良があると判断する判断工程と、
を有する二次電池の状態判定方法。
【請求項7】
前記判定期間は、前記電池モジュールに対する放電処理後から前記放電処理後に発生する分極緩和現象が収束するまでの時間の間で設定される請求項6に記載の二次電池の状態判定方法。
【請求項8】
複数の単電池を直列接続して構成される電池モジュールの状態を判定する二次電池の状態判定装置であって、
良品と判定された前記電池モジュールの平均充電率と電池電圧との関係を示すグラフにおいて、前記平均充電率に対する前記電池電圧の変化の傾きが前記平均充電率が45%~55%と推定される範囲の前記平均充電率に対する前記電池電圧の傾きよりも大きくなる前記平均充電率、かつ、前記平均充電率が0%とならない前記平均充電率となる条件となる判定充電率範囲まで前記電池モジュールを放電させる放電制御部と、
前記放電制御部による放電が完了した前記電池モジュールについて、前記電池モジュールの電極を開放状態としたときの前記電池電圧の上昇速度である緩和速度を算出する緩和速度算出部と、
前記緩和速度算出部で計測された前記緩和速度が予め設定した判定閾値よりも小さい場合に前記複数の単電池のいずれかに不良があると判断する判断部と、
を有する二次電池の状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複数の二次電池を接続した電池モジュールを含む組電池に対する二次電池の状態判定方法及び状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の二次電池セルを直列接続した電池モジュールを、さらに積層直列接続した車両用電池パックでは、温度ばらつきに起因してパック内或いはモジュール内のセル間で正極容量のばらつきが生じる。このようなセル間のばらつきが生じると、走行中に一部のセルか過放電され、モジュールが出力する電池電圧が低下する。このような不具合が生じた電池パックは、市場から回収されるが、このような電池パックは一部セルに不具合があるのみでそのほとんどは再利用が可能である。そこで、セル間ばらつきが生じた電池パックから不具合が生じた電池モジュールを選別する方法が特許文献1に提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の二次電池の劣化判定装置は、複数の単電池が直列接続されてなる電池モジュールの状態を判定する。特許文献1の劣化判定装置は、電池モジュールを所定の容量になるまで放電させる放電回路と、所定の容量になった電池モジュールについて、端子間を開放した後、端子間の電圧が上昇する速度である緩和速度を取得する緩和速度計算部と、取得した緩和速度のうちから拡散抵抗部分に対応する緩和速度を特定し、この特定した緩和速度が予め設定した判定用閾値よりも小さいことに基づいて電池モジュールの劣化した状態として複数の単電池の間で残容量にばらつきが生じていると判定する判定部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-156759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の劣化判定装置では、電池モジュールを所定の電池容量まで放電させ、放電後の電池の緩和速度に基づき複数の単電池間の残量量にばらつきが生じているかを判定する。しかしながら、電池は、放電条件の違いにより緩和速度に違いが生じるという特徴があるところ、特許文献1では、放電条件については、明確にしていない。このような放電条件の違いにより、特許文献1に記載の劣化判定装置では、良品と判定されるセル間の残容量ばらつきの電池モジュールを不良品と判定してしまう誤判定が生じる範囲が大きくなる問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数の二次電池が直列されるように構成される電池モジュールの残容量差判定の判定精度を高めることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の二次電池の状態判定方法の一態様は、複数の単電池を直列接続して構成される電池モジュールの状態を判定する二次電池の状態判定方法であって、良品と判定された前記電池モジュールの平均充電率と電池電圧との関係を示すグラフにおいて、前記平均充電率に対する前記電池電圧の変化の傾きが、平均充電率が45%~55%と推定される範囲の前記平均充電率に対する電池電圧の傾きよりも大きくなる平均充電率、かつ、前記平均充電率が0%とならない平均充電率となる条件を満たす判定充電率範囲まで前記電池モジュールを放電させる放電工程と、前記放電工程が完了した前記電池モジュールについて、前記電池モジュールの電極を開放状態としたときの前記電池電圧の上昇速度である緩和速度を算出する緩和速度算出工程と、前記緩和速度算出工程で計測された前記緩和速度が予め設定した判定閾値よりも小さい場合に前記複数の単電池のいずれかに不良があると判断する判断工程と、を有する。
【0008】
また、本発明の二次電池の状態判定方法の一態様は、複数の単電池が直列接続されてなる電池モジュールの状態を判定する二次電池の状態判定方法であって、前記電池モジュールの平均充電率が、前記複数の単電池の残容量のばらつきが良品範囲内とされる前記電池モジュールにおいて、放電停止後の電池電圧の緩和現象中の予め設定された判定期間内の電池電圧の回復速度である緩和速度が予め設定される緩和速度閾値以上となる判定充電率範囲となるまで前記電池モジュールを放電させる放電工程と、前記放電工程が完了した前記電池モジュールについて、前記電池モジュールの電極を開放状態として前記緩和速度を計測する緩和速度算出工程と、前記緩和速度算出工程で計測された前記緩和速度が予め設定した判定閾値よりも小さい場合に前記複数の単電池のいずれかに不良があると判断する判断工程と、を有する。
【0009】
また、本発明の二次電池の状態判定装置の一態様は、複数の単電池を直列接続して構成される電池モジュールの状態を判定する二次電池の状態判定装置であって、良品と判定された前記電池モジュールの平均充電率と電池電圧との関係を示すグラフにおいて、前記平均充電率に対する前記電池電圧の変化の傾きが、平均充電率が45%~55%と推定される範囲の前記平均充電率に対する電池電圧の傾きよりも大きくなる平均充電率、かつ、前記平均充電率が0%とならない平均充電率となる条件となる判定充電率範囲まで前記電池モジュールを放電させる放電制御部と、前記放電制御部による放電が完了した前記電池モジュールについて、前記電池モジュールの電極を開放状態としたときの前記電池電圧の上昇速度である緩和速度を算出する緩和速度算出部と、前記緩和速度算出部で計測された前記緩和速度が予め設定した判定閾値よりも小さい場合に前記複数の単電池のいずれかに不良があると判断する判断部と、を有する。
【0010】
本発明の二次電池の状態判定方法及び状態判定装置では、放電条件をより厳密に設定することで複数の単電池の単電池間の残容量ばらつきの検出精度を向上させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の二次電池の状態判定方法及び状態判定装置によれば、電池モジュールの不具合判定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1にかかる状態判定システムのブロック図である。
図2】電池モジュールにおける残容量ばらつきを説明する図である。
図3】実施の形態1にかかる状態判定方法の流れを説明するフローチャートである。
図4】電池モジュールの電池容量と電池電圧との関係を説明するグラフである。
図5】電池モジュールにおける電圧緩和現象中の電圧変化を説明するグラフである。
図6】電池モジュールにおける分極緩和時電圧を説明するグラフである。
図7】実施の形態1にかかる状態判定方法における緩和速度定数を説明する図である。
図8】モジュール内充電率差と緩和速度定数との関係を説明するグラフである。
図9】参考例にかかる状態判別方法と実施の形態1にかかる状態判定方法とにおける誤判定範囲の違いを説明する図である。
図10】実施の形態1にかかる状態判別方法における判定充電率範囲を説明する図である。
図11】電池モジュールに対する放電レートの違いによる放電停止時の平均残容量の違いを説明する図である。
図12】実施の形態2にかかる状態判定方法の放電工程の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0014】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0015】
実施の形態1
実施の形態1にかかる状態判定システム1は、市場から回収した車両用電池パックに含まれる電池モジュールの状態を判定し、電池モジュールが良品か否かを判定する。より具体的には、電池モジュールは、複数の単電池が直列接続されたものである。そして、実施の形態1にかかる状態判定システム1では、電池モジュールに含まれる複数の単電池間の残容量のばらつきが一定量以上と判定された電池モジュールを不良品と判定する。
【0016】
図1に実施の形態1にかかる状態判定システムのブロック図を示す。図1に示す例では、検査対象として電池モジュール30を示した。図1に示す例では、電池モジュール30は、単電池30a~30fの6つの単電池を直列接続したものである。電池モジュール30に含まれる単電池は、2つ以上であればよく個数は適宜設定できる。
【0017】
実施の形態1にかかる状態判定システム1では、電池モジュール30に含まれる単電池間の残容量差が一定量以上となる電池モジュール30を不良品として検出する。そこで、状態判定システム1では、状態判定装置10を用いる。また、状態判定装置10は、電池モジュール30の充電状態の制御及びモニタのために、放電回路20、電流計21、電圧計22を用いる。つまり、放電回路20、電流計21、電圧計22は、状態判定装置10の一部としてとらえることが出来る。
【0018】
放電回路20は、電池モジュール30から電流を引き抜く放電を行う。放電回路20が放電において引き抜く放電電流の大きさ及び放電時間は、状態判定装置10内の放電制御部12により制御される。電流計21は、放電回路20が電池モジュール30から引き抜く放電電流の実測値を計測して放電制御部12に与える。電圧計22は、電池モジュール30の電池電圧の電圧値を計測して、状態判定装置10の放電制御部12及び緩和速度算出部13に与える。
【0019】
状態判定装置10は、記憶部11、放電制御部12、緩和速度算出部13、判断部14を有する。状態判定装置10は、例えば、コンピュータのようなプログラムを実行可能な演算処理部を有する装置である。そして、放電制御部12、緩和速度算出部13、判断部14は、プログラムにより実装することも可能である。また、記憶部11は、例えば、ハードディスク等の不揮発性の記憶装置であって、事前に決定される判定閾値Sth及び放電終止電圧DSの値が格納される。
【0020】
放電制御部12は、後述する放電工程における処理を行うものである。放電制御部12は、良品と判定された電池モジュール30の平均充電率と電池電圧との関係を示すグラフ(後述する図4)において、平均充電率に対する電池電圧の変化の傾きが、平均充電率が45%~55%と推定される範囲の平均充電率に対する電池電圧の傾きよりも大きくなる平均充電率、かつ、平均充電率が0%とならない平均充電率となる条件となる判定充電率範囲まで放電回路20を用いて電池モジュールを放電させる。また、別の観点では、放電制御部12は、電池モジュール30の平均充電率が、複数の単電池の残容量のばらつきが良品範囲内とされる電池モジュール30において、放電停止後の電池電圧の緩和現象中の予め設定された判定期間内の電池電圧変化の速度が大きいほど値が大きくなる緩和速度定数が予め設定される緩和速度閾値(例えば、定数閾値)以上となる判定充電率範囲となるまで電池モジュールを放電させる。なお、放電制御部12の動作、緩和速度定数、判定充電率範囲、判定閾値、定数閾値についての詳細は後述する。
【0021】
緩和速度算出部13は、緩和速度算出工程における処理を行う。緩和速度算出部13は、放電工程が完了した電池モジュール30について、電池モジュールの電極を開放状態としたときの電池電圧の上昇速度である緩和速度が大きいほど値が大きくなる緩和速度定数を算出する。詳しくは後述するが、緩和速度定数は、緩和速度に比例する値である。
【0022】
判断部14は、緩和速度算出部13で計測された緩和速度定数が予め設定した判定閾値よりも小さい場合に複数の単電池のいずれかに不良があると判断する。ここで、電池モジュール30の不良とは、本実施の形態では、電池モジュール30に含まれる複数の単電池の間の残容量の差が一定量以上となる状態であり、この複数の単電池の間の残容量差をモジュール内充電率差と以下では称す。
【0023】
ここで、このモジュール内充電率差について詳細に説明する。そこで、図2に電池モジュールにおける残容量ばらつきを説明する図を示す。図2では、良品と判定される電池モジュール30(図2の上図)と不良品と判定される電池モジュール30(図2の下図)とを示した。また、図2では、残容量として残された電力の量をハッチング領域として示した。
【0024】
図2に示すように、良品と判定される電池モジュール30では、単電池30a~30fの残容量に大きな差はなく、放電が進んでもいずれかの単電池に過放電状態が発生することはない。一方、不良品と判定される電池モジュール30では、単電池30eが他の単電池よりも残容量が少ない。このようにモジュール内充電率差が大きくなると、残容量が他の単電池よりも少ない単電池30eが他の単電池よりも先に空になり、過放電状態となる。
【0025】
このような、一部の単電池の過放電が発生すると、電池モジュール30が出力する電池電圧が低下するため、問題となる。実施の形態1にかかる状態判定システム1では、このような、一部の単電池の残容量が他の単電池よりも残容量が少なくなっている電池モジュール30を不良品として判定するものである。
【0026】
モジュール内充電率差が大きな電池モジュール30と、モジュール内充電率差が小さな電池モジュール30とでは、複数の単電池の平均充電率が低い状態において、放電後に発生する電圧緩和現象中の電圧変化に差が生じる。そして、実施の形態1にかかる状態判定システム1では、モジュール内充電率差が大きな電池モジュール30と、モジュール内充電率差が小さな電池モジュール30と、の緩和現象中の違いが大きくなる平均充電率の範囲で緩和現象中の電圧を計測することで、より精度の高い不良電池モジュールの判定を行う。以下では、実施の形態1にかかる状態判定システム1における処理について詳細に説明する。
【0027】
続いて、実施の形態1にかかる状態判定方法の流れについて詳細に説明する。図3に実施の形態1にかかる状態判定方法の流れを説明するフローチャートを示す。図3に示すように、実施の形態1にかかる状態判定方法では、市場から回収された車両用電池パックから電池モジュール30を取り出し、当該電池モジュール30を検査対象とする(ステップS1)。
【0028】
次いで、電池モジュール30に対して放電処理を行う放電工程を行う(ステップS2)。この放電工程では、放電制御部12により放電制御を行うが、この放電制御についての詳細については後述する。次いで、放電工程の終了直後から発生する電圧緩和現象中の電池電圧の変化から緩和速度定数を算出する緩和速度算出工程を行う(ステップS3)。この緩和速度算出工程では、緩和速度算出部13が緩和速度定数の算出を行うが、緩和速度定数をどのように算出するかは後述する。
【0029】
次いで、判断部14が緩和速度算出工程で算出された緩和速度定数と予め設定した判定閾値とを比較して検査対象の電池モジュール30が良品か否かを判定する良品判定工程を行う(ステップS4)。この良品判定工程では、緩和速度定数が判定閾値以上であれば電池モジュール30は良品であると判定し、緩和速度定数が判定閾値よりも小さければ電池モジュール30は不良品であると判定する。そして、良品と判定された電池モジュール30は、再利用可能と判断され(ステップS5)、不良品と判定された電池モジュール30は、再利用不可能と判断される(ステップS6)。
【0030】
ここで、放電工程についてより詳細に説明する。まず、図4に電池モジュールの電池容量と電池電圧との関係を説明するグラフを示す。図4に示すグラフは、横軸を電池モジュール30の平均残容量とし、縦軸を電池モジュール30の電池電圧とした。図4に示すように、電池モジュール30では、平均充電率に対する電池電圧の変化が小さいプラトー領域が存在する。そして、プラトー領域よりも平均充電率が高い側と低い側とのそれぞれに、プラトー領域よりも平均充電率に対する電圧変化が大きくなる非プラトー領域が存在する。実施の形態1にかかる状態判定システム1では、非プラトー領域のうちプラトー領域よりも平均充電率が低い側にある非プラトー領域に着目して放電を行う。
【0031】
なお、本明細書における平均残容量は、良品と判定される電池モジュール30において計測される平均残容量である。不良品と判定される電池モジュール30においてもこの良品から予め取得された平均残容量に基づく放電制御を行うものとする。
【0032】
続いて、電池モジュール30における電圧緩和現象について説明する。図5に電池モジュール30における電圧緩和現象中の電圧変化を説明するグラフを示す。図5に示すように、電池モジュール30では、放電を停止した後に電池電圧が回復する電圧緩和現象が発生する。この電圧緩和現象は、単電池の内部抵抗及び正極の寄生容量に起因して発生する。そして、電池モジュール30では、放電停止時の平均残容量の違いにより、電圧緩和現象により放電停止後に電池電圧が回復する速度と、回復後の電圧(例えば、タイミングt3時点の電圧であって、以下、分極緩和時電圧OCVと称す。)と、に違いが生じる。
【0033】
より具体的には、放電停止時の平均残容量を以下で説明する実施の形態1で対象とする平均残容量(例えば、判定充電率範囲)よりも多くすると分極緩和時電圧OCVは高くなり、少なくすると分極緩和時電圧OCVは低くなる(タイミングt3)。また、タイミングt0を放電停止時とするとタイミングt0から第1の時間が経過したタイミングt1から、タイミングt0から第1の時間よりも長い第2の時間が経過したタイミングt2までの電池電圧の変化の傾きに違いが生じる。より具体的には、放電停止時の平均残容量を判定充電率範囲よりも多くした場合及び少なくした場合は、タイミングt1~t2の期間(以下、判定期間と称す)の電池電圧の変化の傾きは、平均残容量を判定充電率範囲とした場合よりも小さくなる。そして、後述する緩和速度定数は、判定期間中の電池電圧の傾きが大きいほど小さくなるという特徴を有する。
【0034】
また、別の観点から電圧緩和現象を説明する。図6に電池モジュールにおける分極緩和時電圧を説明するグラフを示す。図6に示すグラフは、横軸を放電後の電池モジュール30の平均残容量、縦軸を電池モジュール30の電池電圧としたものである。図6に示すように、放電終了後の電池電圧と分極緩和時電圧OCVとの差電圧は、平均残容量によって異なる。また、図6では図5で示したタイミングt1、t2時の電池電圧についても示した。タイミングt1、t2との差電圧を見ると、やはり平均残容量により違いがあり、図6の中央付近の条件が最もタイミングt1、t2の電圧差が大きくなっている。タイミングt1、t2の最も電圧差が大きくなっているところが、図5で説明した実施の形態1で対象とする判定充電率範囲の範囲内の条件である。
【0035】
続いて、緩和速度定数について説明する。そこで、図7に実施の形態1にかかる状態判定方法における緩和速度定数を説明する図を示す。図7には、放電状態から放電休止後の電池電圧変化グラフ、領域Aの電池電圧変化グラフの拡大図、緩和速度定数のグラフを示した。
【0036】
放電状態から放電休止後の電圧変化グラフを参照すると、放電により電池電圧は低下し、放電を休止した直後から電圧緩和現象が発生して電池電圧が上昇する。そして、図7では、良品と不良品との両方についてグラフを示した。放電状態から放電休止後の電圧変化グラフを参照すると、良品と不良品とでは電圧緩和現象後の文化良く緩和時電圧OCVは、ほぼ同じになる。
【0037】
一方、放電休止時点から電池電圧が上昇する期間を領域Aとし、この領域Aの部分を拡大した図を領域Aの電池電圧変化グラフの拡大図として示す。この領域Aの電池電圧変化グラフを参照すると、良品と不良品では分極緩和時電圧OCVに至るまでの電圧変化に差があることがわかる。具体的には、不良品の電池モジュール30では、良品の電池モジュール30に比べて電圧緩和現象中の電圧上昇速度が早くなる。そして、タイミングt1、t2との間の判定期間における良品と不良品とでは、良品の電池モジュール30の電池電圧の傾きが不良品の電池モジュール30よりも大きくは大きな違いが出る。
【0038】
そして、この領域Aについての緩和速度定数aのグラフを参照する。この緩和速度定数のグラフでは、横軸を放電休止時点からの経過時間の平方根分の1(1/√時間)とし、縦軸を電池電圧としたものである。緩和速度定数aは、時間に対する電池電圧の変化の傾きが急峻になる不良品の方が小さくなる。図7に示す例では、良品の傾きαが不良品の傾きβよりも大きくなっている。そして、この傾きから緩和速度定数は算出される。実施の形態1では、タイミングt1~t2の間の緩和速度に基づき緩和速度定数を算出するそのため、実施の形態1では緩和速度定数は、緩和速度の大きさに比例したものとなる。
【0039】
より具体的に緩和速度定数の算出方法について説明する。緩和速度算出部13では、まず、放電休止後に設定される判定期間内の時間当たりの電池電圧の変化量を緩和速度[V/s]として算出する。そして、緩和速度算出部13は、電池電圧と判定時間の長さの平方根分の1(1/√t)との関係に基づき緩和速度定数aを算出する。緩和速度定数aは、判定期間の長さをt、電圧変化をΔE(t-t)としたときに(1)式から導き出される定数である。
【数1】
【0040】
ここで、Iは放電電流、τは電流印加時間、nは反応に係わる電子数、Vmはモル体積、Fはファラデー定数、Aは反応表面積、dE/dyは判定期間中の電池電圧の傾き、Dは拡散係数である。
【0041】
続いて、緩和速度定数aとモジュール内充電率差について説明する。図8にモジュール内充電率差と緩和速度定数との関係を説明するグラフを示す。図8では、実施の形態1にかかる状態判定方法において算出される緩和速度定数aに加えて比較例にかかる緩和速度定数aのグラフも示した。参考例は、特許文献1に記載のように、平均充電率が0%付近になるまで放電した後に計測される電圧変化から算出したものである。
【0042】
図8に示すように、緩和速度定数aは、モジュール内充電率差が小さいほど大きくなる。そして、実施の形態1にかかる状態判定方法では、モジュール内充電率差に対する緩和速度定数aの傾きが大きくなる。このようにモジュール内充電率差に対する緩和速度定数aの傾きを大きくすることで、誤判定が生じる範囲を小さくすることができる。
【0043】
そこで、図9に参考例にかかる状態判別方法と実施の形態1にかかる状態判定方法とにおける誤判定範囲の違いを説明する図を示す。図9においても図8で説明した参考例を実施の形態1にかかる状態判別方法の比較例として示した。図9に示すように、状態判別を行う場合、測定誤差を考慮して緩和速度定数aの理想曲線である中央値に対して、信頼区間上限値と信頼区間下限値を設ける。そして、もっとも悪い条件である信頼区間上限値に対して不良品の見落としがないように、緩和速度定数aに対する判定閾値Sthを設定する。判断部14は、緩和速度定数aが判定閾値Sthよりも小さければ不良品と判定して、緩和速度定数aが判定閾値Sth以上であれば良品との判定を行う。
【0044】
そして、図9を参照すると、モジュール内充電率差に対する緩和速度定数aの傾きを大きくしたことで、同じ幅の信頼性区間のマージンを確保した場合でも、実施の形態1の方が比較例よりも誤判定範囲が小さくなる。ここで、緩和速度定数aのモジュール内充電率差を大きくするためには、放電を休止する充電率及び放電条件が大きく影響する。そこで、以下で、放電を休止する充電率及び放電条件について詳細に説明する。
【0045】
図10に実施の形態1にかかる状態判別方法における判定充電率範囲を説明する図を示す。図10に示すグラフは、良品と判定される電池モジュール30について、電池モジュール30の平均残容量に対する緩和速度定数aをプロットしたものである。図10に示すように、緩和速度定数aは、平均残容量が1%~3%の範囲で他の平均残容量となる場合よりも高くなる。したがって、緩和速度定数aのモジュール内充電率差に対する傾きを高くする場合、平均残容量が1%~3%程度となる放電終止電圧DSを設定することが好ましい。以下の説明では、図10に示した平均残容量が1%~3%となる範囲を判定充電率範囲と称す。なお、放電を停止させる平均残容量の範囲については、図10に示すグラフに示した緩和速度閾値(例えば、定数閾値)を実際の状態判定処理の前段階で決定し、当該定数閾値に基づき設定する。
【0046】
続いて、放電工程における放電レート及び状態判定処理の対象とする電池モジュール30の温度について説明する。そこで、図11に電池モジュールに対する放電レートの違いによる放電停止時の平均残容量の違いを説明する図を示す。図11に示すように、放電レートを低く設定した場合(放電電流を小さくした場合)、電池電圧が放電終止電圧DSに達したときに電池モジュール30の平均残容量が判定充電率範囲の下限を下回る。放電レートを低く、かつ、放電開始時の電池モジュール30の温度を高温に設定した場合には、この傾向がさらに顕著になる。一方、放電レートを高く設定した場合(放電電流を大きくした場合)、電池電圧が放電終止電圧DSに達したときに電池モジュール30の平均残容量が判定充電率範囲の上限を上回る。放電レートを高く、かつ、放電開始時の電池モジュール30の温度を低温に設定した場合には、この傾向がさらに顕著になる。このようなことから、放電レートと放電開始時の電池モジュール30の温度を適切に設定することが重要になる。
【0047】
ここで、適切な放電条件は、放電レートをC/3~7C、放電開始時の電池モジュール30の温度を10℃~60℃程度であり、より好ましくは、放電レートをC/2~5C、放電開始時の電池モジュール30の温度を20℃~50℃程度である。このような放電条件とすることで良好な傾きを有する緩和速度定数aが得られることがわかる。
【0048】
上記説明より、実施の形態1にかかる状態判別方法では、放電停止時の平均残容量を、良品と判定された電池モジュール30の平均充電率と電池電圧との関係を示すグラフにおいて、平均充電率に対する電池電圧の変化の傾きが、平均充電率が45%~55%と推定される範囲の平均充電率に対する電池電圧の傾きよりも大きくなる判定充電率範囲とする。また、別の観点では、実施の形態1にかかる状態判別方法では、放電停止時の平均残容量を、電池モジュール30の平均充電率が、複数の単電池の残容量のばらつきが良品範囲内とされる電池モジュールにおいて、放電停止後の電池電圧の緩和現象中の予め設定された判定期間内の電池電圧変化の速度が大きいほど値が小さくなる緩和速度定数が予め設定される緩和速度閾値(例えば、定数閾値)以上となる判定充電率範囲とする。これにより、実施の形態1にかかる状態判別方法では、モジュール内充電率差に対する緩和速度定数aの傾きを大きくし、誤判定範囲を小さくすることができる。そして、判定充電率範囲を平均残容量が1%~3%の範囲に設定することでより緩和速度定数aの傾きをより大きくすることができる。
【0049】
また、実施の形態1にかかる状態判別方法では、放電レートと放電開始時の電池モジュール30の温度とを適切に設定することで、放電停止時の平均残容量をより確実に平均残容量にすることができる。つまり、放電レートと放電開始時の電池モジュール30の温度とを適切に設定することで、より緩和速度定数aのモジュール内充電率差に対する傾きの精度を高めることができる。
【0050】
実施の形態2
実施の形態2では、放電工程の別の形態について説明する。そこで、図12に実施の形態2にかかる状態判定方法の放電工程の流れを説明する図を示す。図12に示すように、実施の形態2では、2段階の放電処理を経て、電池モジュール30の平均残容量を判定充電率範囲とする。
【0051】
より具体的には、実施の形態2にかかる放電処理では、第1の放電工程、電圧緩和工程、第2の放電工程の3つの工程により放電を行う。第1の放電工程では、判定充電率範囲よりも高い平均充電率まで予め決定された急速放電電流量で電池モジュール30を放電する。電圧緩和工程では、第1の放電工程停止後に電池モジュールに対する放電を停止して電池モジュール30の電池電圧を緩和させる。第2の放電工程では、電圧緩和工程後に第1の放電工程の急速放電電流よりも小さな放電電流で電池モジュールを判定充電率範囲まで放電する。この第2の放電工程における放電電流は、例えば、図11に示した適正範囲(放電レートがC/2~5C、放電開始温度が20℃~50℃)の条件内であることが好ましい。
【0052】
実施の形態2にかかる放電方法では、第1の放電処理により放電速度を高めることで状態判定処理に要する時間を短縮することができる。
【0053】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施形態では、緩和速度を緩和速度定数に変換し、電池モジュールの不良の判断を行ったが、緩和速度定数に変換しなくてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 状態判定システム
10 状態判定装置
11 記憶部
12 放電制御部
13 緩和速度算出部
14 判断部
20 放電回路
21 電流計
22 電圧計
30 電池モジュール
30a 単電池
Sth 判定閾値
DS 放電終止電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12