(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】加工機及び被加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23C 3/26 20060101AFI20220615BHJP
B23D 5/02 20060101ALI20220615BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
B23C3/26
B23D5/02
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2020199348
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2020-12-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 将彦
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-220514(JP,A)
【文献】特開2004-338010(JP,A)
【文献】特開2008-188700(JP,A)
【文献】特開2002-182716(JP,A)
【文献】特開2013-202750(JP,A)
【文献】特開平02-274411(JP,A)
【文献】特開2008-221440(JP,A)
【文献】特開平02-250706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/24、26
B23C 5/10
B23D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃部を有している回転工具と、
前記回転工具が固定される主軸と、
ワークを保持するワーク保持部と、
前記主軸をその軸回りに回転させる主軸駆動源と、
少なくとも前記主軸の軸方向に直交する2方向において前記主軸と前記ワーク保持部とを相対移動させる駆動部と、
前記主軸駆動源及び前記駆動部を制御する制御装置と、
を有しており、
前記刃部は、
前記回転工具の軸回りの1周に亘って前記回転工具の外部に露出している外周面と、 前記主軸とは反対側に面している底面と、を有しており、
前記外周面は、
前記回転工具の軸方向に長さを有する第1切れ刃と、
第1側面と、
前記第1側面と交差して前記第1切れ刃となる稜線を構成している第2側面と、を有しており、
前記第1側面と前記底面とが互いに交差して第2切れ刃となる稜線を構成しており、
前記第2側面と前記底面とが互いに交差して第3切れ刃となる稜線を構成しており、
前記主軸の軸心に平行に見て、前記第1切れ刃のうちの前記底面の側の端部と前記主軸の軸心との距離が、前記外周面と前記主軸の軸心との最大距離よりも短く、
前記制御装置は、前記2方向を含む平面内の所定の移動軌跡の情報を取得し、取得した前記情報に基づいて、前記第1切れ刃を前記移動軌跡に沿って移動させる、前記主軸の軸心回りの回転位置、及び前記主軸と前記ワーク保持部との前記2方向における相対位置それぞれの所定の周期毎の目標値を算出し、算出した前記目標値が実現されるように前記主軸駆動源及び前記駆動部を制御する、ように構成されており、
前記刃部と前記ワークとの相対的な振動を生じさせている状態で、前記移動軌跡としての角隅部の目標形状に沿って前記第1切れ刃を移動させ、このとき、前記角隅部の谷線に前記第1切れ刃を近づけながら前記第1切れ刃による切削に係るすくい角を正に大きくしていき、その後、前記角隅部の谷線から前記第1切れ刃を離しながら前記第1切れ刃による切削に係るすくい角を正に大きくしていくことによって前記角隅部を切削する
加工機。
【請求項2】
前記駆動部は、前記振動を生じさせる
請求項1に記載の加工機。
【請求項3】
前記主軸、前記ワーク保持部、前記主軸駆動源、前記駆動部及び前記制御装置を含み、前記回転工具及び前記ワークを含まない加工機本体が、前記駆動部とは別に、前記振動を生じさせる振動発生機構を更に有している
請求項1に記載の加工機。
【請求項4】
前記回転工具は、前記振動を生じる振動発生機構を更に有している
請求項1に記載の加工機。
【請求項5】
前記外周面は、前記第1側面の前記第1切れ刃とは反対側の縁部、及び前記第2側面の前記第1切れ刃とは反対側の縁部と交差し、かつ切れ刃を構成していない第3側面を有している
請求項1~4のいずれか1項に記載の加工機。
【請求項6】
前記
回転工具のシャンクの軸心に平行に見て、前記第1切れ刃のうちの底面側の端部と前記シャンクの軸心との距離は、前記外周面と前記シャンクの軸心との最大距離の半分以下である
請求項1~5のいずれか1項に記載の加工機。
【請求項7】
前記シャンクの軸心に平行に見て、前記第1切れ刃のうちの底面側の端部が前記シャンクの軸心に位置している
請求項6に記載の加工機。
【請求項8】
回転工具の刃部によってワークを切削して被加工物を製造する製造方法であって、
前記回転工具を所定の回転軸回りに回転させるとともに、少なくとも前記回転軸に直交する2方向において前記回転工具と前記ワークとを相対的に平行移動させる移動ステップと、
前記移動ステップに並行して、前記刃部を前記ワークに対して振動させる振動ステップと、を有しており、
前記刃部は、
前記回転工具の軸回りの1周に亘って前記回転工具の外部に露出している外周面と、 前記回転工具のシャンクとは反対側に面している底面と、を有しており、
前記外周面は、
前記回転工具の軸方向に長さを有する第1切れ刃と、
第1側面と、
前記第1側面と交差して前記第1切れ刃となる稜線を構成している第2側面と、を有しており、
前記第1側面と前記底面とが互いに交差して第2切れ刃となる稜線を構成しており、
前記第2側面と前記底面とが互いに交差して第3切れ刃となる稜線を構成しており、
前記回転軸に平行に見て、前記第1切れ刃のうちの前記底面の側の端部と前記回転軸との距離が、前記外周面と前記回転軸との最大距離よりも短く、
前記移動ステップでは、前記回転工具の前記回転軸回りの回転位置の制御と、前記2方向における相対位置の制御との同期を取ることによって前記第1切れ刃を前記ワークの目標形状に沿って移動させて、前記第1切れ刃によって前記ワークを切削し、
前記目標形状は、前記回転軸に平行に見て、前記刃部の最大径の半分未満の曲率半径を有する隅形状を含んでおり、
前記移動ステップ及び前記振動ステップでは、前記刃部と前記ワークとの相対的な振動を生じさせている状態で、前記隅形状を含む目標形状に沿って前記第1切れ刃を移動させ、このとき、前記隅形状の谷線に前記第1切れ刃を近づけながら前記第1切れ刃による切削に係るすくい角を正に大きくしていき、その後、前記
隅形状の谷線から前記第1切れ刃を離しながら前記第1切れ刃による切削に係るすくい角を正に大きくしていくことによって前記隅形状を切削する
被加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転工具、加工機及び被加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削による形成が難しい部位(別の観点では形状)の一つとして、角隅部又はピン角の隅部等と呼ばれる部位が挙げられる(以下、角隅部の語を主として用いる。)。角隅部は、隅の語が示すように、矩形状の凹部の隅のような部位、すなわち、面同士が180°未満の角度で交差する部位を指す。また、角隅部は、角(ピン角)の語が示すように、いわゆるR(曲面形状)が実質的に付与されない尖った形状を有している。
【0003】
角隅部の形成が困難な理由として、例えば、以下の理由を挙げることができる。角隅部を形成する切削方法として、エンドミル等の回転工具(転削工具とも呼ばれる。)を利用する方法が挙げられる。具体的には、回転工具は、その軸の回りに回転されるとともに、当該回転工具の軸に直交する平面内でワークに対する相対移動(送り)がなされる。相対移動は、回転工具の軸に平行な側面であって、隅部を構成するように交差する2つの側面の目標形状に沿ってなされる。これにより、回転工具の外周面に位置する切れ刃によってワークが切削されて上記2つの側面が形成され、ひいては、隅部が形成される。この場合、隅部は、回転工具の半径と同一の大きさの曲率半径を有するRが付与されることになる。従って、隅部が実質的にRを有していないといえるためには、回転工具の径を極端に小さくしなければならない。しかし、回転工具の径を極端に小さくすれば、回転工具の剛性を確保することができず、切削が適切に行われない。
【0004】
下記特許文献1及び2は、角隅部の形成に有利な加工方法を提案している。具体的には、以下のとおりである。
【0005】
特許文献1では、角隅部の角度よりも小さい角度の角部を有する多角形状の底面(先端)を有する回転工具を用いて切削が行われる。そして、多角形状の底面の1つの角部の頂点に位置する切れ刃が、角隅部の輪郭(目標形状)に沿って移動するように、回転工具の回転角度に応じて、回転工具をワークに対して回転工具の底面に平行な平面内で相対移動させる。これにより、回転工具の回転半径未満のRを有する(実質的にRを有さない)隅部の形成が可能とされている。
【0006】
特許文献2では、マイクロメーターオーダーの振幅で工具を微小振動させることによって切削を行う方法が開示されている。この方法は、回転工具を回転させるものではないことから、角隅部の形状は、回転工具の半径に基本的に影響を受けない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-9603号公報
【文献】特開2013-202750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
公知の角隅部の形成に有利な加工方法は、それぞれ長所及び短所を有している。一方、角隅部の形成に係るユーザの要求は種々態様であり、必ずしも公知の方法でユーザの要求が満たされるとは限らない。従って、角隅部の切削に有利な回転工具、加工機及び被加工物の製造方法が新たに提案され、技術の提案が図られることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る回転工具は、軸回りに回転されて使用される回転工具であって、シャンクと、前記シャンクの先端側に位置している刃部と、を有しており、前記刃部は、当該回転工具の軸回りの1周に亘って当該回転工具の外部に露出している外周面を有しており、前記外周面は、当該回転工具の軸方向に長さを有する第1切れ刃を有しており、前記シャンクの軸心に平行に見て、前記第1切れ刃と前記シャンクの軸心との距離が、前記外周面と前記シャンクの軸心との最大距離よりも短い。
【0010】
本開示の一態様に係る加工機は、刃部を有している回転工具と、前記回転工具が固定される主軸と、ワークを保持するワーク保持部と、前記主軸を軸回りに回転させる主軸駆動源と、少なくとも前記主軸の軸方向に直交する2方向において前記主軸と前記ワーク保持部とを相対移動させる駆動部と、前記主軸駆動源及び前記駆動部を制御する制御装置と、を有しており、前記刃部は、前記回転工具の軸回りの1周に亘って前記回転工具の外部に露出している外周面を有しており、前記外周面は、前記回転工具の軸方向に長さを有する第1切れ刃を有しており、前記主軸の軸心に平行に見て、前記第1切れ刃と前記主軸の軸心との距離が、前記外周面と前記主軸の軸心との最大距離よりも短い。
【0011】
本開示の一態様に係る被加工物の製造方法は、回転工具の刃部によってワークを切削して被加工物を製造する製造方法であって、前記回転工具を所定の回転軸回りに回転させるとともに、少なくとも前記回転軸に直交する2方向において前記回転工具と前記ワークとを相対的に平行移動させる移動ステップを有しており、前記刃部は、前記回転工具の軸回りの1周に亘って前記回転工具の外部に露出している外周面を有しており、前記外周面は、前記回転工具の軸方向に長さを有する第1切れ刃を有しており、前記回転軸に平行に見て、前記第1切れ刃と前記回転軸との距離が、前記外周面と前記前記回転軸との最大距離よりも短く、前記移動ステップでは、前記第1切れ刃によって前記ワークを切削する。
【発明の効果】
【0012】
上記の構成又は手順によれば、角隅部の形成に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る加工機の構成を示す模式的な斜視図。
【
図2】
図1の加工機の回転工具の構成を示す側面図。
【
図4】
図2の回転工具を用いた角隅部の切削方法の一例を説明する模式的な平面図。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は
図2の回転工具を用いた角隅部の切削方法の一例を説明する模式的な斜視図。
【
図6】
図1の加工機における制御系の構成を示すブロック図。
【
図7】
図7(a)は第2実施形態に係る加工方法を説明する模式図であり、
図7(b)は第2実施形態に係る加工方法に利用される工具の一例の構成を示す側面図である。
【
図8】
図8(a)は
図1の加工機のテーブルを直線移動させる構成の一例を示す斜視図、
図8(b)は
図8(a)のVIIIb-VIIIb線における断面図。
【
図9】ガイドに関して
図8(b)を参照して説明した構成例とは別の構成例を示す図。
【
図10】
図1の加工機の主軸の軸受の構成の一例を示す断面図。
【
図11】変形例に係る回転工具の刃部の構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明では、工具の位置の語は、便宜上、ワークとの相対的な位置を指すことがあり、また、絶対座標系における位置を指すことがある。特に断りが無い限り、また、矛盾等が生じない限り、工具の位置は、相対的な位置及び絶対的な位置のいずれに捉えられてもよい。
【0015】
軸回りの語における軸は、具体的な軸(例えば主軸の軸心)を指す場合と、回転方向等の概要を説明するために便宜的に用いられている場合とがある。後者の場合の軸は、必ずしも軸心とは限らない。特に断りが無い限り、また、矛盾等が生じない限り、軸の語は、上記のいずれと捉えられてもよい。軸回り以外の語における軸も同様である。
【0016】
第2実施形態及び変形例等の説明では、基本的に、第1実施形態との相違点についてのみ述べる。特に言及が無い事項は、第1実施形態と同様とされたり、第1実施形態から類推されたりしてよい。また、複数の実施形態及び変形例間において、互いに対応する構成に対して、便宜上、相違点があっても同一の符号を付すことがある。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る加工機1の構成を示す模式的な斜視図である。
図1には、便宜上、絶対座標系又は機械座標系としての直交座標系XYZが付されている。+Z方向は、例えば、鉛直上方である。
【0018】
加工機1は、ワーク103を切削する機械として構成されている。加工機1は、ワーク103に当接することによって切削を直接的に担う回転工具101(以下、単に「工具101」ということがある。)と、工具101とワーク103とを相対的に運動させる加工機本体2とを有している。加工機本体2は、機械的な動作を行う機械部3と、機械部3を制御する制御装置5とを有している。
【0019】
本実施形態では、工具101として新規な構成のものが示される。機械部3の構造は、公知の構造を含む種々のものとされてよい。制御装置5のハードウェアは、公知のハードウェアを含む種々のものとされてよい。制御装置5の動作(制御)は、工具101とワーク103との具体的な相対運動に係る制御を除いて、公知の動作を含む種々のものとされてよい。
【0020】
以下では、まず、機械部3の全体構成を例示する。次に、工具101の構成及び利用方法(別の観点では制御装置5の制御)の概要について説明する。次に、工具101の構成及び利用方法について詳述する。その後、加工機本体2の制御系の構成について説明する。
【0021】
(機械部の全体構成)
本開示に係る技術は、種々の機械部に適用可能であり、図示されている機械部3は、その一例に過ぎない。ただし、以下の説明では、便宜上、機械部3の構成を前提とした説明をすることがある。
【0022】
機械部3は、例えば、工具101を含む種々の工具(工具101以外の工具については不図示)が選択的に取り付けられる主軸19を有している。機械部3は、主軸19に取り付けられている工具によってワーク103の加工を行う。工具101を含む種々の工具は、例えば、主軸19の軸回り(Z軸に平行な軸回り)に回転される回転工具である。工具101は、既述のように切削に利用されるものであるが、他の工具によって行われる加工の種類(別の観点では工具の種類)は、適宜なものとされてよい。例えば、加工の種類は、切削、研削又は研磨である。
【0023】
特に図示しないが、機械部3は、使用する工具を取り換える自動工具交換装置(ATC:automatic tool changer)を有していてもよい。工具101が、主軸19ではなく、ATCの工具マガジンに配置されている状態においても、加工機1は、工具101と、工具101を保持する加工機本体2とを有していると捉えることができる。
【0024】
なお、本実施形態の説明では、基本的に、主軸19に取り付けられている工具が工具101であることを前提として説明を行う。
【0025】
機械部3は、例えば、上述のように工具101(主軸19)を回転させるとともに、工具101とワーク103とを互いに直交する3つの軸方向(X方向、Y方向及びZ方向)において相対移動させる。このような回転及び相対移動を実現する構成は、例えば、公知の種々の構成と同様とされたり、公知の構成を応用したものとされたりしてよい。図示の例では、以下のとおりである。
【0026】
機械部3は、例えば、以下の構成要素を有している。ベース7。ベース7に支持されている2つのコラム9。2つのコラム9に掛け渡されているクロスレール11。クロスレール11に支持されているサドル13。サドル13に固定されているZ軸ベッド15。Z軸ベッド15に支持されている主軸頭17。
【0027】
主軸19は、主軸頭17によってZ軸に平行な軸回りに回転可能に支持されており、主軸頭17内の主軸駆動源(後述)によって回転駆動される。これにより、工具101が軸回りに回転する。主軸頭17は、Z軸ベッド15(サドル13)に対してZ方向に直線移動可能であり、これにより、工具101がZ方向に駆動される。サドル13は、クロスレール11に対してY方向に直線移動可能であり、これにより、工具101がY方向に駆動される。
【0028】
また、機械部3は、ベース7に支持されているX軸ベッド21と、X軸ベッド21に支持されているテーブル23とを有している。
【0029】
ワーク103は、テーブル23に保持される。テーブル23は、X軸ベッド21に対してX方向に直線移動可能であり、これにより、ワーク103がX方向に駆動される。
【0030】
サドル13の移動、主軸頭17の移動、テーブル23の移動、及び主軸19の回転を実現するための機構の構成は、公知の構成又は公知の構成を応用したものとされてよい。例えば、駆動源は、電動機、油圧機器又は空圧機器とされてよい。また、電動機は、回転式電動機又はリニアモータとされてよい。サドル13、主軸頭17又はテーブル23を案内する(別の観点では駆動方向以外の方向における移動を規制する)リニアガイドは、可動部と固定部とが摺動するすべり案内であってもよいし、可動部と固定部との間で転動体が転がる転がり案内であってもよいし、可動部と固定部との間に空気又は油を介在させる静圧案内であってもよいし、これらの2以上の組み合わせであってもよい。同様に、主軸19の軸受は、すべり軸受、転がり軸受、静圧軸受又はこれらの2以上の組み合わせとされてよい。
【0031】
機械部3(加工機本体2)の加工精度(別の観点では位置決め精度)は適宜に設定されてよい。例えば、機械部3は、サブミクロンメータオーダーの精度(1μm未満の誤差)、又はナノメータオーダーの精度(10nm未満の誤差)で直交座標系XYZ内の位置決めが可能なものであってよい。そのような工作機械は、本願出願人によって既に実用化されている(例えばUVMシリーズ、ULGシリーズ及びULCシリーズ。)。より詳細には、例えば、サドル13のY方向における位置決め精度、主軸頭17のZ方向における位置決め精度、及び/又はテーブル23のX方向における位置決め精度は、1μm以下、0.1μm以下、10nm以下又は1nm以下とされてよい。もちろん、加工機1の加工精度は、上記よりも低くてもよい。
【0032】
(工具の構成の概要)
図2は、工具101の構成を示す側面図である。この図では、便宜上、
図1にも付したZ軸が付されている。また、工具101に固定的な直交座標系xyzも付されている。Z軸及びz軸は互いに平行である。
【0033】
工具101は、回転工具であるから、軸回りに回転されて使用されることが想定されている。しかし、後述の説明から理解されるように、工具101は、軸回りに回転させずに利用することも可能である。この場合、工具101は、例えば、主軸19に取り付け可能な構成であることをもって、回転工具であると特定されてよい。
【0034】
工具101の形状は、例えば、概略、z方向(主軸19の軸方向)に延びる軸状である。なお、以下の説明では、便宜上、工具101の+z側の端部を後端といい、工具101の-z側の端部を先端ということがある。工具101は、その軸方向において、後端側から先端側へ順に、シャンク105、ネック107及び刃部109を有している。
【0035】
シャンク105の形状は、例えば、概略、z方向に延びる軸状である。シャンク105は、主軸19に対して直接的又は間接的に同軸状(同心状も含むものとする。)に固定される部位であり、主軸19の軸心(軸心は軸状の部材の中心線を指す。)回りの回転によってシャンク105の軸心CL1回りに回転される。
【0036】
刃部109は、ワーク103に当接することによって切削を直接的に担う部位である。なお、本開示でいう刃部は、切れ刃、すくい面及び逃げ面のみからなる部分(稜線状部分)ではなく、そのような稜線状部分を含むとともに軸状の工具101のその長さ方向の一部(一般には先端)を占める部分(概略柱状の部分)を指すものとする。従って、例えば、公知の2枚刃のエンドミルを例に取れば、本開示でいう刃部は、2つの刃のそれぞれを指すのではなく、2つの刃を含む先端部分全体を指す。
【0037】
公知の一般的な工具においては、刃部は、シャンクの軸心(厳密には、その延長線。以下、同様に、軸心は、その延長線を指すことがある。)に関して回転対称の形状とされる。すなわち、刃部は、シャンクに対して同軸に位置する。ただし、本実施形態の工具101においては、刃部109は、シャンク105に対して偏心している。
【0038】
ネック107は、シャンク105と刃部109とをつないでいる部分であり、シャンク105よりも小径とされている。なお、ネック107が設けられずに、シャンク105と刃部109とが直接につながっていても構わない。
【0039】
図3は、刃部109及びその周辺を拡大して示す斜視図である。この図では、便宜上、
図2にも付したZ軸及び直交座標系xyzが付されている。
【0040】
刃部109の形状は、例えば、概略、z方向を高さ方向とする柱体とされている。柱体の横断面(z軸に直交する断面)の形状は、例えば、概略、扇形である。
【0041】
別の観点では、刃部109は、例えば、外周面111と、底面113とを有している。外周面111は、刃部109の外周側(径方向外側)に面する面である。外周面111は、軸回りの1周(360°)に亘って工具101の外部に露出している。底面113は、シャンク105とは反対側(先端側)に面して外周面111と交差している。
【0042】
なお、既に、本開示における刃部は、切れ刃を含む稜線状部分ではなく、そのような稜線状部分を含むとともに、工具101のその長さ方向の一部を占める柱状部分であることを述べた。これを別の観点から言えば、刃部は、切れ刃を含むとともに、軸回りの1周に亘って工具の外部に露出している外周面を有する部分である。例えば、公知の2枚刃のエンドミルを例に取れば、エンドミルの先端部のうち一方の刃を含む一部は、他方の刃を含む他部と軸心側でつながっている、又は他部によって軸心側が隠れている。従って、上記一部は、軸回りの1周に亘って工具の外部に露出しているとはいえず、本開示でいう刃部ではない。
【0043】
外周面111は、扇形の2つの半径及び円弧に対応する3つの側面(115A、115B、115C)を有している。第1側面115Aは、1つの半径に対応し、概略、矩形の平面である。同様に、第2側面115Bは、1つの半径に対応し、概略、矩形の平面である。第3側面115Cは、円弧に対応し、概略、展開したときに矩形となる曲面である。底面113は、概略、扇形である。
【0044】
刃部109は、切削を直接に担う切れ刃として、上記の種々の面が互いに交差する稜線によって構成された3つの切れ刃(117A、117B及び117C)を有している。なお、以下において、切れ刃が所定方向に長さを有するという場合、上記切れ刃は、上記所定方向に平行である必要は無い。
【0045】
第1切れ刃117Aは、第1側面115Aと第2側面115Bとが交差する稜線によって構成されている。第1切れ刃117Aは、外周側に臨むとともに、工具101の軸方向に長さを有している。
【0046】
第2切れ刃117Bは、第1側面115Aと底面113とが交差する稜線によって構成されている。第2切れ刃117Bは、外周側かつ先端側(-z側)に臨むとともに、工具101の軸方向に直交する方向に長さを有している。
【0047】
第3切れ刃117Cは、第2側面115Bと底面113とが交差する稜線によって構成されている。第3切れ刃117Cは、外周側かつ先端側(-z側)に臨むとともに、工具101の軸方向に直交する方向に長さを有している。
【0048】
3つの切れ刃(117A、117B及び117C)は、その1つの端部同士が、刃部109の先端側においてつながっている。別の観点では、刃部109は、少なくとも2つの切れ刃(例えば117A及び117B)を有しており、切れ刃同士は、1つの端部同士がつながっている。
【0049】
刃部109において、3つの切れ刃(117A、117B及び117C)を構成する稜線以外の他の稜線は、例えば、切れ刃とはなっていない。他の稜線は、図示の例では、以下の3つの稜線である。第1側面115Aの第1切れ刃117Aとは反対側の部分と第3側面115Cとが交差する稜線。第2側面115Bの第1切れ刃117Aとは反対側の部分と第3側面115Cとが交差する稜線。第3側面115Cと底面113とが交差する稜線。ただし、これら他の稜線も切れ刃とされても構わない。
【0050】
既述のように、刃部109は、シャンク105に対して偏心している。具体的には、刃部109は、第1切れ刃117Aとは反対側へ(第3側面115Cの側)へ偏心している。図示の例では、第1切れ刃117Aは、軸心CL1に概ね一致している。
【0051】
第1切れ刃117Aの位置について、別の観点から説明する。通常、刃部の外周面に位置する切れ刃と、シャンクの軸心との距離は、刃部の外周面と、シャンクの軸心との最大距離となっている。これにより、回転工具をシャンクの軸心回りに回転させたとき、刃部のうち切れ刃以外の部分をワークに接触させずに、切れ刃によってワークを切削することができる。一方、第1切れ刃117Aは、刃部109の外周面(より詳細には第3側面115C)とシャンク105の軸心CL1との最大距離よりも短くなっている。
【0052】
(工具の利用方法の概要)
図4、
図5(a)及び
図5(b)は、工具101の利用方法を説明する模式図である。これらの図では、便宜上、直交座標系X′Y′Z′を付している。Z′軸は、Z軸に平行である。X′軸及びY′軸は、XY平面内において任意の方向に延びる軸である。
図4は、刃部109及びその周辺におけるZ′軸に直交する断面を示している。
図5(a)及び
図5(b)は、刃部109及びその周辺の斜視図である。
図5(b)では、
図5(a)よりも加工が進んでいる。
【0053】
ここでは、工具101によってワーク103に凹部103aを形成する場合を例に取る。凹部103aは、その内面を構成している側面103bと側面103cとが交差することによって構成される角隅部103d(角隅部103dのうちの谷線を点線で囲んで示す。)を有している。なお、便宜上、これらの部位には、加工が進行して寸法及び位置等が変化しても同一の符号を用いる。
【0054】
図4では、第1切れ刃117Aが角隅部103dの谷線に位置しているときの刃部109の輪郭が実線で示されている。また、実線の輪郭に対して時間的に前及び後における刃部109の輪郭が2点鎖線で示されている。
図4、
図5(a)及び
図5(b)において、矢印y1は、主軸19(工具101)の回転方向を示している。矢印y2及びy3は、主軸19(工具101)のテーブル23(ワーク103)に対するXY平面(X′Y′平面)内における平行移動の方向を示している。
【0055】
上記の複数の輪郭及び矢印y1~y3によって示されているように、第1切れ刃117Aは、角隅部103dの目標形状(別の観点では予め定められている移動軌跡)に沿って移動する。図示の例では、第1切れ刃117Aは、X′軸に平行に移動し、その後、直角に曲がってY′軸に平行に移動する。このとき、工具101は、単にXY平面内でワーク103に対して平行移動するだけでなく、シャンク105の軸心CL1回りの回転位置を変化させる。これにより、例えば、第1切れ刃117A以外の部分(第1側面115A及び第2側面115B)のワーク103に対する不要な接触を避けたり、側面103b及び103cのそれぞれに対して、すくい角及び/又は逃げ角を適宜な角度範囲で確保したりできる。
【0056】
上記のような第1切れ刃117Aの移動の結果、ワーク103が目標形状に沿って切削される。すなわち、第1切れ刃117Aによる切削によって角隅部103dの側面103b及び103cが形成される。この角隅部103dの角度は、理論上、最小で、第1切れ刃117Aの刃物角(換言すれば第1側面115A及び第2側面115Bが成す角度)よりも若干大きい角度とすることができる。前者の後者に対する差は、例えば、すくい面及び逃げ面(第1側面115A及び第2側面115B)のワーク103に対する不要な接触を避けるための角度である。
【0057】
図示の例では、上記のような第1切れ刃117Aの移動に伴って、第2切れ刃117Bによる切削も行われる。これにより、凹部103aの底面(符号省略)が形成される。当該底面の縁部の形状は、角隅部103dの形状と同じである。上記のような第1切れ刃117Aの移動と、工具101の-Z′方向への移動とは、交互に繰り返されてよい。又は両移動は同時に行われてよい(工具101は螺旋状に移動してよい。)。これにより、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、角隅部103dを有する凹部103aを深くすることができる。
【0058】
なお、図示の例では、第3切れ刃117Cは、切削に寄与してもよいし、寄与しなくてもよい。図示の例とは逆方向に工具101が回転されるとき、第3切れ刃117Cは、第2切れ刃117Bと同様に切削に寄与してよい。
【0059】
(工具の構成の詳細)
図2及び
図3に戻る。工具101は、例えば、その全体が一体的に形成されている。工具101の材料は、公知の材料を含む種々のものとされてよい。工具101は、直接に主軸19に取り付けられてもよいし、ツーリングを介して間接的に主軸19に取り付けられてもよい。ツーリングとしては、例えば、ホルダ及びアーバを挙げることができる。また、ツーリングは、ホルダに加えて、ホルダと工具101との間に介在するアダプタを含むなど、2以上の部材から構成されてもよい。
【0060】
実施形態の説明では、工具101(ワーク103を直接に切削するもの)を本開示に係る工具の一例として示している。ただし、工具101とツーリングとの組み合わせが本開示に係る工具として捉えられても構わない。この場合において、シャンク105の説明は、ツーリングのシャンクに対して適用されてもよい。
【0061】
(シャンク)
シャンク105の構成は、公知の構成を含む種々のものとされてよい。例えば、シャンク105は、円柱状のストレートシャンクであってもよいし(図示の例)、後端側が縮径する円錐台状のテーパシャンクであってもよい。また、シャンク105は、主軸19(又は不図示のツーリング)に対する固定のために、後端及び/又は側面に凸部又は凹部等を有していてもよい。また、シャンク105は、円柱の外周面の一面が平面で切り取られた形状であってもよい。シャンク105の寸法(長さ及び径等)は適宜に設定されてよい。
【0062】
なお、種々の形状のシャンク105において、軸心CL1の位置は適宜に特定されてよい。横断面が円形のシャンク(ストレートシャンク又はテーパシャンク)において軸心CL1の位置は明らかである。すなわち、軸心CL1は、円形の横断面の中心を長手方向に連ねた線である。横断面の形状が円形の一部を切り取った形状であるシャンク105においても、同様に、円形の中心から軸心CL1が特定されてよい。また、シャンク105は、軸心CL1回りに回転されるものであるから、逆説的であるが、主軸19に取り付けられて回転するときの回転軸(回転中心)から軸心CL1が特定されてもよい。
【0063】
本実施形態では、工具101(ワーク103を直接に切削するもの)は、シャンク105を有するものとされているが、シャンク105は省略されてもよい。例えば、中心に位置する孔にアーバが取り付けられる正面フライスのように、ワーク103を直接に切削する工具は、刃部のみから構成されても構わない。なお、当該工具とアーバとの組み合わせが本開示に係る工具として捉えられてもよいことは既に述べたとおりである。
【0064】
(ネック)
ネック107の構成は、公知の構成を含む種々のものとされてよい。また、既に述べたように、ネック107は省略されてもよく、このことから明らかなように、ネック107の形状及び寸法は任意である。図示の例では、ネック107の形状は、シャンク105から離れるほど縮径する円錐台と、この円錐台につながる円柱との組み合わせとされている。別の観点では、ネック107は、長手方向のいずれの位置においても、横断面の形状が、シャンク105の軸心CL1を中心とする円形である。特に図示しないが、ネック107は、この他、円錐台のみからなる構成とされてもよい。ネック107の長手方向のいずれかの位置の横断面は、円形以外の形状とされてもよい。ネック107の形状は、先端側(刃部109側)の横断面ほど、横断面の幾何中心が軸心CL1に対して第1切れ刃117Aの側へ偏心する形状であってもよい。
【0065】
(刃部)
刃部109(別の観点では、刃部109の各面及び各切れ刃)の具体的な形状及び寸法は適宜に設定されてよい。例えば、刃部109の長さ(z方向)は、刃部109の径(例えばxy平面に平行な最大径。以下、同様。)よりも長くてもよいし、短くてもよい。刃部109の径の範囲の一例を挙げると、0.005mm以上30mm以下である。
【0066】
また、例えば、刃部109の形状は、z軸に平行で第1切れ刃117Aを含む平面に対して、面対称であってもよいし(図示の例)、面対称でなくてもよい。刃部109は、横断面(xy断面)の形状及び寸法が軸方向(z方向)において概略一定となる柱体状であってもよいし、柱体状でなくてもよい。例えば、刃部109は、底面113の側ほど径が小さくなる、又は径が大きくなる錐台状であってもよいし、底面113を有さない錐体状であってもよいし、捩じれた形状であってもよい。刃部109の構成は、軸回りのいずれの向きの回転にも利用可能なものであってもよいし、一方の回転にのみ利用可能なものであってもよい。
【0067】
(刃部の面)
また、例えば、第1側面115A、第2側面115B及び底面113は、平面状であってもよいし(図示の例)、平面状でなくてもよい。後者の例を挙げる。
【0068】
第1側面115Aは、第1切れ刃117A及びその反対側の縁部に対して低くなる凹状に、又は高くなる凸状になるように構成されてよい。及び/又は、第1側面115Aは、第2切れ刃117B及びその反対側の縁部に対して低くなる凹状に、又は高くなる凸状になるように構成されてよい。第1側面115Aについて述べたが、第2側面115Bについても同様である。ただし、上記の説明において、第2切れ刃117Bの語は、第3切れ刃117Cの語に置換する。
【0069】
また、例えば、底面113は、第2切れ刃117B及び第3側面115C側の縁部に対して低くなる凹状に、又は高くなる凸状になるように構成されてよい。及び/又は、底面113は、第3切れ刃117C及び第3側面115C側の縁部に対して低くなる凹状に、又は高くなる凸状になるように構成されてよい。
【0070】
上述した各面(115A、115B又は113)の凹形状又は凸形状は、例えば、各面が曲面であることによって実現されてもよいし、各面が互いに交差する2つ以上の面(例えば平面)を有することによって実現されてもよい。各面の凹形状又は凸形状によって、例えば、すくい角又は逃げ角が調整されたり、切りくずの流れが調整されたりしてよい。
【0071】
各面(115A、115B又は113)は、全体として、平面状、凹状又は凸状とされつつ、各面の面積に対して小さい面積において凸部及び/又は凹部を有していてもよい。このような凸部及び/又は凹部は、例えば、切りくずの流れ、及び/又は切りくずの破断に寄与してよい。
【0072】
第1側面115Aは、その全部(平面状の場合)、第1切れ刃117Aにつながる部分、及び/又は第2切れ刃117Bにつながる部分が、シャンク105の軸心CL1に対して、平行であってもよいし(図示の例)、傾斜していてもよい。後者の場合、第1側面115Aの全部及び/又は上記部分は、第2切れ刃117Bにとっての逃げ角が大きくなる方向に傾斜していてもよいし、小さくなる方向に傾斜していてもよい。第1側面115Aについて述べたが、第2側面115Bについても同様である。ただし、上記の説明において、第2切れ刃117Bの語は、第3切れ刃117Cの語に置換する。このような傾斜によって、例えば、すくい角又は逃げ角が調整されたり、切りくずの流れが調整されたりしてよい。
【0073】
底面113は、その全部(平面状の場合)、第2切れ刃117Bにつながる部分、及び/又は第3切れ刃117Cにつながる部分が、シャンク105の軸心CL1に対して、直交(ここでの「直交」は向きを規定する語であり、交わることは必須ではない。)してもよいし(図示の例)、直交しなくてもよい。例えば、底面113の全部及び/又は第2切れ刃117Bにつながる部分は、第2切れ刃117Bから離れるほどシャンク105の側に位置するように傾斜していてよい。及び/又は、底面113の全部及び/又は第3切れ刃117Cにつながる部分は、第3切れ刃117Cから離れるほどシャンク105の側に位置するように傾斜していてよい。このような傾斜によって、例えば、第2切れ刃117B及び/又は第3切れ刃117Cにとっての逃げ角が調整されてよい。
【0074】
図示の例では、第3側面115Cは、曲面状となっている。当該曲面は、z軸に直交する横断面において円弧である。ただし、図示の例では、第3側面115Cは、直接には切削に寄与していないから、その形状は任意とされて構わない。例えば、図示の例とは異なり、第3側面115Cは、平面状であってもよいし、図示の例とは逆に、凹状の曲面状であってもよい。また、第3側面115Cは、シャンク105の軸心CL1に対して、平行であってもよいし、傾斜していてもよい。
【0075】
刃部109の形状が錐台状であってもよいことなどについて述べた。このことからも明らかなように、第1側面115A及び第2側面115Bの平面形状、並びに第3側面115Cを展開したときの平面形状は矩形でなくてもよい。例えば、これらの形状は、台形又は平行四辺形であってもよいし、外縁に曲線を含む形状であってもよい。また、底面113の平面形状は、扇状でなくてもよく、例えば、三角形若しくは矩形又は他の多角形であってもよい。
【0076】
(刃部の切れ刃)
これまでの説明からも理解されるように、各切れ刃(117A、117B又は117C)の形状及び寸法も適宜に設定されてよい。
【0077】
例えば、第1切れ刃117Aは、第1側面115A及び第2側面115Bが構成する稜線の全長に亘っていてもよいし(図示の例)、全長の一部(例えば底面113につながる一部)にのみ位置していてもよい。第1切れ刃117A(及び/又は上記稜線。本段落において、以下、同様。)は、直線状(図示の例)であってもよいし、曲がっていてもよい。後者の場合、例えば、第1切れ刃117Aは、z方向に垂直かつ第1側面115Aに平行に見たときに凸形状又は凹形状に曲がっていてもよいし、及び/又はz方向に垂直かつ第2側面115Bに平行に見たときに凸形状又は凹形状に曲がっていてもよい。また、凸形状又は凹形状は、例えば、曲線によって実現されてもよいし、2以上の直線が交差することによって構成されてもよい。また、第1切れ刃117Aは、螺旋の一部であるかのように曲がっていてもよい。第1切れ刃117Aは、その全部(直線の場合)又は一部(例えば底面113につながる一部)が、シャンク105の軸心CL1(z方向)に対して平行であってもよいし(図示の例)、傾斜していてもよい。後者の場合、第1切れ刃117Aの全部又は一部は、例えば、軸心CL1に対して、シャンク105の側ほど第3側面115C側に位置するように傾斜してもよいし、その逆側に傾斜してもよい。
【0078】
第2切れ刃117Bは、第1側面115A及び底面113が構成する稜線の全長に亘っていてもよいし(図示の例)、全長の一部(例えば第1切れ刃117Aにつながる一部)にのみ位置していてもよい。第2切れ刃117B(及び/又は上記稜線。本段落において、以下、同様。)は、直線状(図示の例)であってもよいし、曲がっていてもよい。後者の場合、例えば、第2切れ刃117Bは、z方向に垂直かつ第1側面115Aに交差(例えば直交)する方向に見たときに凸形状又は凹形状に曲がっていてもよいし、及び/又はz方向に平行に見たときに凸形状又は凹形状に曲がっていてもよい。凸形状又は凹形状は、例えば、曲線によって実現されてもよいし、2以上の直線が交差することによって構成されてもよい。第2切れ刃117Bは、その全部(直線の場合)又は一部(例えば第1切れ刃117Aにつながる一部)が、シャンク105の軸心CL1(z方向)に対して垂直であってもよいし(図示の例)、z方向に直交する平面(xy平面)に対して傾斜していてもよい。後者の場合、第2切れ刃117Bの全部又は一部は、例えば、第1切れ刃117Aから離れるほどシャンク105の側に位置するように傾斜してよい。
【0079】
上記段落における第2切れ刃117Bの説明は、第3切れ刃117Cに援用されてよい。ただし、第1側面115Aは第2側面115Bに置換する。
【0080】
なお、本実施形態の説明では、ネック107よりも径が小さい部分全体を刃部109として説明している。ただし、上述のように、第1切れ刃117Aが第1側面115Aと第2側面115Bとが成す稜線の一部にのみ位置する態様においては、第1切れ刃117Aがz方向において存在している範囲のみが刃部として定義されてもよい。そして、刃部の最大径、又は下記に述べる最大距離は、上記のように定義した刃部における最大値とされてよい。
【0081】
既述のように、シャンク105の軸心CL1に平行に見て(z方向に見て)、第1切れ刃117Aと軸心CL1との距離(以下、第1の距離と呼称することがある。)は、刃部109の外周面111と軸心CL1との最大距離(図示の例では軸心CL1と第3側面115Cとの距離。以下、第2の距離と呼称することがある。)よりも短い。なお、第1切れ刃117Aが軸心CL1に平行な直線状でない場合においては、第1切れ刃117Aのうち底面113側の端部の位置が第1切れ刃117Aの位置として参照されてよく、また、当該端部の位置に基づいて第1の距離が特定されてよい。
【0082】
第1の距離と第2の距離との大きさの差は、適宜に設定されてよい。例えば、第1の距離は、第2の距離(又は刃部109の最大径)の1/2以下、1/5以下又は1/10以下とされてよい。また、第1の距離は、0であってもよい。すなわち、第1切れ刃117Aは、軸心CL1上(厳密にはその延長上)に位置してよい。ただし、軸心CL1上に位置するといっても、多少のずれが存在してもよいことはもちろんである。例えば、第1切れ刃117Aと軸心CL1とのずれが、刃部109の最大径又は第2の距離の2%以下であれば、第1切れ刃117Aは、軸心CL1上に位置しているといってよい。
【0083】
第1の距離が0でない場合において、第1切れ刃117Aは、軸心CL1に対していずれの方向に位置していてもよい。例えば、第1切れ刃117Aは、軸心CL1に対して第1切れ刃117Aが臨む側(第3側面115Cとは反対側)に位置していてもよいし、第3側面115C側に位置していてもよい。また、軸心CL1に平行に見て、第1切れ刃117Aと軸心CL1とを結ぶ線は、第1側面115Aと第2側面115Bとがなす角度(第1切れ刃117Aの刃物角)を2等分してもよいし、2等分しなくてもよい。
【0084】
第1切れ刃117Aの刃物角は、180°未満の範囲で適宜に設定されてよい。なお、確認的に記載すると、刃物角は、すくい面と逃げ面とが成す角度である。図示の例では、第1切れ刃117Aの刃物角は、第1側面115Aと第2側面115Bとが成す角度であり、また、第2切れ刃117Bと第3切れ刃117Cとが成す角度と同じ大きさである。理論上、第1切れ刃117Aの刃物角が180°未満であれば、第1切れ刃117Aによる切削が可能である。
【0085】
第1切れ刃117Aの刃物角は、例えば、150°以下、120°以下、90°以下(若しくは90°未満)、60°以下又は30°以下とされてよい。このような角度にすることによって、例えば、既に述べたように、当該角度未満の角隅部103dの形成が可能である。第1切れ刃117Aの刃物角がz方向の位置に対して一定でない場合において、刃物角の上限の上記の例は、第1切れ刃117Aの全体に対して適用されてもよいし、一部(例えば底面113につながる一部)に適用されてもよい。なお、第1切れ刃117Aの刃物角の下限は、理論上、特に限定されない。ただし、刃物角が小さすぎると切れ刃の強度が低下する。
【0086】
第2切れ刃117B及び第3切れ刃117Cの刃物角も適宜に設定されてよい。これらの切れ刃についても、理論上は、180°未満の範囲で設定可能である。これらの切れ刃の刃物角は、例えば、120°以下、90°以下又は60°以下とされてよく、また、30°以上、60°以上又は90°以上とされてよい。これらの上限及び下限は、矛盾が生じない限り、任意のもの同士が組み合わされてよい。このような範囲で第2切れ刃117B及び/又は第3切れ刃117Cの刃物角を設定することによって、例えば、これらの切れ刃にとってのすくい角及び逃げ角を適切に設定することができる。これらの切れ刃にとってのすくい角は、正の角度であってもよいし、0であってもよいし、負の角度であってもよい。
【0087】
(工具の利用方法の詳細)
図4を参照して説明したように、工具101は、シャンク105の軸心CL1に平行な方向(Z′方向)に見たときに、第1切れ刃117Aがワーク103の目標形状に沿って移動するようにワーク103に対して運動する。また、そのような運動がなされるように、工具101は、軸心CL1回りの回転位置及びX′Y′平面におけるワーク103に対する相対位置(換言すれば主軸19の回転位置及び主軸19のテーブル23に対するXY平面における相対位置)が制御される。その具体的な態様は適宜なものとされてよい。
【0088】
例えば、回転位置は、刃部109のすくい面及び逃げ面のワーク103(側面103b及び103c)に対する不要な接触を避ける観点のみから設定されてよい。さらに、すくい角及び逃げ角をある程度の大きさで確保する観点から設定されてもよい。すくい角及び逃げ角の具体的な大きさは、適宜に設定されてよい。
【0089】
図4の例では、第1切れ刃117Aが角隅部103dの谷線に近づくにつれて徐々に工具101が回転するとともに、第1切れ刃117Aが角隅部103dの谷線から離れるにつれて徐々に工具101が回転している。このときの工具101の回転速度(角速度)、又は第1切れ刃117Aの移動距離に対する工具101の回転角度の比は、一定であってもよいし、変化してもよい。変化する場合、回転速度又は上記比は、谷線に近づくにつれ(及び/又は離れるにつれ)、大きくなってもよいし、小さくなってもよい。回転速度及び上記比の具体的な値は適宜に設定されてよい。
【0090】
図4の例とは異なり、回転位置を一定としたまま(別の観点では第1切れ刃117Aのすくい角及び逃げ角を一定としたまま)、工具101を一方向(図示の例ではX′方向)に相対移動させてよい。第1切れ刃117Aが角隅部103dの谷線(その目標位置)に到達した後、工具101の回転位置を変え、その変化後の回転位置を維持しつつ、他の方向(図示の例ではY′方向)に工具101を相対移動させてもよい。このとき、一方向における移動と、他方向における移動とで、すくい角(及び逃げ角)が同一とされてもよいし、異なっていてもよい。
【0091】
第1切れ刃117Aのワーク103に対する相対速度は、一定であってもよいし、変化してもよい。変化する場合において、相対移動の速度は、角隅部103dの谷線との距離の変化に応じて変化してもよいし、及び/又は工具101の回転位置(別の観点では第1切れ刃117Aのすくい角及び逃げ角)の変化に応じて変化してもよい。また、相対速度の具体的な値も適宜に設定されてよい。
【0092】
図4は、Z′方向に見て、軸心CL1と、第1切れ刃117Aとが一致している態様を例示している。この態様においては、基本的に(誤差を無視すれば)、主軸19の回転によって第1切れ刃117AのX′Y′平面における位置は変化しない。従って、主軸19のテーブル23に対する相対移動は、ワーク103(側面103b及び103c)の目標形状に沿ったものとされてよい。例えば、図示の例では、主軸19は、テーブル23に対して、X′方向に平行に移動し、次に、Y′方向に平行に移動してよい。
【0093】
図4の例とは異なり、第1切れ刃117Aが軸心CL1から離れている場合においては、主軸19の回転によって第1切れ刃117AがX′Y′平面において移動する。このとき、主軸19の回転に起因する第1切れ刃117Aの移動がキャンセルされるように、主軸19がテーブル23に対して相対移動されてよい。このとき、主軸19の回転に起因する移動の全部がキャンセルされてもよいし、一部のみがキャンセルされてもよい。例えば、第1切れ刃117AをX′方向に平行に移動させるべきときは、主軸19の回転に起因する第1切れ刃117AのY′方向の移動のみがキャンセルされてもよいし、主軸19の回転に起因する第1切れ刃117AのX′方向の移動及びY′方向の移動の双方がキャンセルされてもよい。
【0094】
なお、主軸19の回転に起因する第1切れ刃117AのX′Y′平面(またはXY平面)における移動量の算出方法は自明である。具体的には、当該移動量は、予め特定されている軸心CL1と第1切れ刃117Aとの距離と、当該距離の方向のX′軸及びY′軸に対する角度(別の観点では、主軸19の回転位置)に基づく三角関数の値とに基づいて算出される。この移動量をキャンセルするための主軸19とテーブル23とのX方向及びY方向における相対的な移動量の算出方法(座標変換方法)も当業者であれば容易に導くことができる。従って、これらの算出方法の詳細な説明は省略する。
【0095】
(加工機本体の制御系の構成)
図6は、加工機本体2の制御系の構成の一例を示すブロック図である。
【0096】
加工機本体2は、既述のように、制御装置5を有している。制御装置5は、例えば、各種のセンサ(27X、27Y、27Z及び27R)の検出値に基づいて、各種の駆動源(25X、25Y、25Z及び25R)を制御する。
【0097】
以下では、まず、公知の構成及び動作と同様とされてよい構成及び動作について説明する。具体的には、駆動源の構成、センサの構成、制御装置5のハードウェア及び制御装置5の基本動作について、順に説明する。その後、制御装置5の動作(制御)のうち、
図4等を参照して説明した工具101の相対運動を実現するための動作について説明する。
【0098】
(電動機及びセンサ)
X軸駆動源25Xは、テーブル23をX軸ベッド21に対してX方向に駆動するものである。換言すれば、X軸駆動源25Xは、工具101とワーク103とをX方向において相対移動させる駆動力を生じる。X軸駆動源25Xは、例えば、電動機によって構成されてよい。
【0099】
Y軸駆動源25Yは、サドル13をクロスレール11に対してY方向に駆動するものである。換言すれば、Y軸駆動源25Yは、工具101とワーク103とをY方向において相対移動させる駆動力を生じる。Y軸駆動源25Yは、例えば、電動機によって構成されてよい。
【0100】
Z軸駆動源25Zは、主軸頭17をZ軸ベッド15(サドル13)に対してZ方向に駆動するものである。換言すれば、Z軸駆動源25Zは、工具101とワーク103とをZ方向において相対移動させる駆動力を生じる。Z軸駆動源25Zは、例えば、電動機によって構成されてよい。
【0101】
X軸駆動源25X、Y軸駆動源25Y及び/又はZ軸駆動源25Zを構成する電動機は、リニアモータであってもよいし、回転式のモータであってもよい。後者の場合においては、モータの回転運動は、ボールねじ機構等の適宜な機構によって、直線運動(並進運動)に変換されて、駆動対象(23、13又は17)に伝達される。なお、これらの駆動源は、油圧機器等の他の駆動源とすることも可能である。
【0102】
なお、以下では、機械部3のうち、工具101(主軸19)とワーク103(テーブル23)とを平行移動させるための駆動力を生じる構成要素(換言すれば駆動源)の全体(ここではX軸駆動源25X、Y軸駆動源25Y及びZ軸駆動源25Z)を駆動部24ということがある。
【0103】
主軸駆動源25Rは、主軸頭17に対して主軸19をその軸回りに駆動するものである。換言すれば、主軸駆動源25Rは、工具101をワーク103に対してシャンク105の軸心CL1回りに相対回転させる駆動力を生じる。主軸駆動源25Rは、例えば、回転式の電動機によって構成されてよい。なお、主軸駆動源25Rは、空圧機器等の他の駆動源とすることも可能である。
【0104】
X軸センサ27Xは、テーブル23のベッド21に対するX方向の位置を検出する位置センサである。換言すれば、X軸センサ27Xは、工具101とワーク103とのX方向における相対位置を検出する。
【0105】
Y軸センサ27Yは、サドル13のクロスレール11に対するY方向の位置を検出する位置センサである。換言すれば、Y軸センサ27Yは、工具101とワーク103とのY方向における相対位置を検出する。
【0106】
Z軸センサ27Zは、主軸頭17のZ軸ベッド15に対するZ方向の位置を検出する位置センサである。換言すれば、Z軸センサ27Zは、工具101とワーク103とのZ方向における相対位置を検出する。
【0107】
X軸センサ27X、Y軸センサ27Y及びZ軸センサ27Zの構成は、公知の構成を含む種々のものとされてよい。例えば、これらの位置センサは、リニアエンコーダ又はレーザ測長器によって構成されてよい。距離の微分により速度が算出されるから、位置センサは、速度センサとして捉えられてもよい。
【0108】
これらの位置センサの検出精度は、例えば、上述した機械部3の直交座標系XYZにおける位置決め精度と同等又はそれよりも高くされてよい。例えば、検出精度は、1μm以下、0.1μm以下、10nm以下又は1nm以下とされてよい。
【0109】
上記の説明から理解されるように、また、後述するように、3軸のセンサ(27X、27Y及び27Z)は、最終的な制御対象となる部材(13、17及び23)の位置に基づくフルクローズドループのフィードバック制御に寄与するものである。これにより、位置決め精度が向上する。ただし、位置センサは、いわゆるセミクローズドループのフィードバック制御に寄与するものとされても構わない。
【0110】
回転センサ27Rは、主軸19の主軸頭17に対する軸回り(主軸19の軸心回り)の回転位置を検出するものである。換言すれば、回転センサ27Rは、工具101のワーク103に対するシャンク105の軸心CL1回りの回転位置を検出する。
【0111】
回転センサ27Rは、例えば、エンコーダ又はレゾルバとされてよい。回転センサ27Rは、主軸頭17及び主軸19に取り付けられて主軸19の回転を直接に検出するものであってもよいし、主軸駆動源25Rのステータ及びロータに取り付けられて主軸駆動源25Rの回転を検出するものであってもよい。
【0112】
(制御装置)
制御装置5は、例えば、特に図示しないが、コンピュータ及びドライバ(例えばサーボドライバ)を含んで構成されている。コンピュータは、NC(numerical control)装置を構成してよい。コンピュータは、例えば、特に図示しないが、CPU(central processing unit)、ROM(read only memory)、RAM(random access memory)及び外部記憶装置を含んで構成されている。CPUがROM及び/又は外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、制御等を行う各種の機能部が構築される。制御装置5は、一定の動作のみを行う論理回路を含んでいてもよい。コンピュータは、ハードウェア的に1つに纏められていてもよいし、複数(別の観点では複数個所)に分散されていてもよい。
【0113】
図6では、上記のように構築される機能部として、上述の電動機(25X、25Y、25Z及び25R)の制御を行う制御動作部29が図示されている。制御動作部29は、下位の複数の機能部(31、33、35X、35Y、35Z及び35R)を有している。また、
図6では、ROM、RAM及び/又は外部記憶装置が包括的にメモリ30として概念されて図示されている。メモリ30は、制御動作部29が参照する種々の情報(37、39及び41)を保持している。
【0114】
メモリ30の形状データ37は、ワーク103の目標形状の情報を有している。形状データ37は、例えば、CAD(computer aided design)のデータとされてよい。形状データ37は、例えば、通信(有線若しくは無線)又は記録媒体を介して、外部からメモリ30に入力されてよい。また、形状データ37は、ユーザの不図示の入力装置に対する操作によって入力される簡単な形状のデータであってもよい。
【0115】
制御動作部29のNCプログラム作成部31は、形状データ37に基づいてNCプログラム39を生成し、メモリ30に記録する。すなわち、NCプログラム作成部31は、いわゆるCAM(computer aided manufacturing)として機能する。
【0116】
NCプログラム39は、各種の電動機(25X、25Y、25Z及び25R)の駆動に関する指令の情報を含んでいる。例えば、NCプログラム39は、主軸19のテーブル23に対するX方向、Y方向及び/又はZ方向における相対移動に係る複数の指令の情報を含んでいる。各指令の情報としては、例えば、目標位置(目標座標)、移動距離及び移動速度の情報が挙げられる。また、本実施形態とは異なり、一般的な回転工具を用いる場合であれば、指令の情報として、回転数(回転速度)の情報が挙げられる。
【0117】
制御データ作成部33は、NCプログラム39に基づいて制御データ41を生成する。この際、制御データ作成部33は、NCプログラム39の解釈、及びNCプログラム39で指定されている指令値の補間等を行う。すなわち、制御データ作成部33は、NC装置の一部として機能する。
【0118】
制御データ41は、例えば、所定の制御周期毎の各軸の目標位置の情報を保持している。図示の例では、制御データ41が有する情報が表によって表現されている。表の1行目は、時点t0における3軸の目標位置(X方向の目標位置X0、Y方向の目標位置Y0及びZ方向の目標位置Z0)が対応付けられて記録されていることを表している。2行目は、時点t1における3軸の目標位置(X1、Y1及びZ1)が対応付けられて記録されていることを示している。時点t0と時点t1との時間差は、上記の制御周期となっている。3行目以降も同様に、その後の制御周期毎の3軸の目標位置が対応付けられて記憶されていることを示している。
【0119】
なお、
図6の表は、あくまで制御データ41を説明するための概念的なものであり、実際の情報の記録の態様は、種々変形されてよい。例えば、各行は、時点の情報を含まなくてもよい。そして、制御周期の情報と、行同士の順序の情報とが複数の行とは別個に記録されていてもよい。アドレスが連続する記憶領域に複数の行の情報が順次記憶されることによって、行同士の順序の情報が省略されてもよい。
【0120】
制御データ41は、適宜に作成されてよい。例えば、NCプログラム39から、主軸19のテーブル23に対する相対移動に関して、順次に通過する複数の位置と、複数の位置間の速度の情報が取得される。そして、順次に通過する2つの位置と、その2つの位置の間の速度とに基づいて、制御周期毎に順次に到達すべき複数の目標位置が、2つの位置の間に設定されてよい。そのような算出が軸毎に行われてよい。
【0121】
統合制御部34は、制御データ41を読み出して、読み出した目標位置を3軸の制御部(35X、35Y及び35Z)に入力する。具体的には、制御周期毎に、
図6の行毎の目標位置が、制御データ41で規定されている順番に従って、順次入力される。また、互いに対応付けられている3軸の目標位置(各行内の目標位置)が3軸の制御部に分配される(各軸の制御部には、自己に対応する軸の目標位置が入力される。)。
【0122】
X軸制御部35Xは、X軸センサ27Xからの検出値に基づく主軸19のX方向の位置が、統合制御部34から入力されたX方向の目標位置になるように、フィードバック制御を行う。この制御は、例えば、位置のフィードバックループの中に、速度のフィードバックループ、及び加速度又は電流のフィードバックループがマイナーループとして組み込まれた公知のものとされてよい。X軸制御部35Xについて述べたが、上記の説明は、XをY又はZに置換して、Y軸制御部35Y及びZ軸制御部35Zに援用されてよい。
【0123】
互いに対応付けられている3軸の目標位置が、統合制御部34によって実質的に同時に3軸の制御部(35X、35Y及び35Z)に入力されることによって、3軸の制御部においては、互いに対応付けられている3軸の目標位置が同時に実現されるように制御が行われる。すなわち、3軸の位置制御は、同期が取られる。
【0124】
なお、上記の説明から理解されるように、NCプログラム作成部31まではCAMとして機能するメモリ及び機能部である。NCプログラム39を保持する部分からはNC装置として機能するメモリ及び機能部である。制御装置5は、NC装置のみを有していてもよい。この場合、NCプログラム39は、例えば、ユーザの不図示の入力装置に対する操作によって入力されてもよいし、記録媒体を介して入力されてもよい。また、CAMとNC装置とは、有線又は無線の通信を介してつながっていてもよい。
【0125】
(第1切れ刃を移動軌跡に沿って移動させる制御等)
以下、
図4等を参照して説明した工具101のワーク103に対する相対運動を実現するための制御装置5における構成及び動作の例について述べる。
【0126】
制御データ41は、制御周期毎に、3軸(X、Y及びZ)の目標位置の情報に加え、主軸19の目標回転位置の情報を有してよい。
図6では、表の各行における目標位置θ
0、θ
1、θ
2、θ
3、…によって、3軸の目標位置と目標回転位置とが対応付けられて記憶されていることが表現されている。
【0127】
統合制御部34は、上述のように、制御周期毎に制御データ41で規定されている3軸の目標位置を3軸の制御部(35X、35Y及び35Z)に入力する。このとき、統合制御部34は、その3軸の目標位置に対応づけられている目標回転位置を回転制御部35Rに入力してよい。
【0128】
回転制御部35Rは、回転センサ27Rからの検出値に基づく主軸19の軸回りの回転位置が、統合制御部34から入力された目標回転位置になるように、フィードバック制御を行ってよい。この制御は、例えば、平行移動の位置のフィードバック制御と同様に、位置のフィードバックループの中に、速度のフィードバックループ、及び加速度又は電流のフィードバックループがマイナーループとして組み込まれたものとされてもよい。また、そのような制御を簡略化したもの、又は変形したものであってもよい。
【0129】
このように、互いに対応付けられている3軸の目標位置及び回転目標位置が、統合制御部34によって実質的に同時に3軸の制御部(35X、35Y及び35Z)及び回転制御部35Rに入力されることによって、これらの4つの制御部においては、互いに対応付けられている4つの目標位置が同時に実現されるように制御が行われる。すなわち、3軸の位置制御及び回転の位置制御は、同期が取られる。ひいては、第1切れ刃107Aがワーク103の目標形状(所望の移動軌跡)に沿って移動するように、工具101を軸回りに回転させつつ、工具101を平行移動させることができる。
【0130】
既述のように、目標回転位置は、不要な接触の低減又はすくい角の確保等の適宜な観点から設定されてよい。また、第1切れ刃117Aが主軸19の軸心(シャンク105の軸心CL1)に位置していない態様においては、X方向及びY方向の目標位置は、目標回転位置に応じた第1切れ刃117AのXY平面における移動をキャンセルするように設定されてよい。これらの設定乃至は演算は、統合制御部34に入力される制御データ41が作成されるまでにおいて適宜に行われてよい。
【0131】
例えば、NCプログラム作成部31は、形状データ37から目標形状に沿って第1切れ刃117Aを移動させる部位(
図4等を介して説明した回転工具101の利用方法が適用される部位)を特定してよい。この特定は、NCプログラム作成部31のみによって行われてもよいし、ユーザの不図示の入力装置に対する操作に基づいて行われてもよい。
【0132】
そして、NCプログラム作成部31は、例えば、上記の特定した部位の目標形状(移動軌跡)に沿って第1切れ刃117Aを移動させるための、X方向及びY方向の目標位置と目標回転位置との組み合わせを算出してよい。この組み合わせの算出は、移動軌跡上の複数の位置について行われてよい。この複数の位置は、NCプログラム作成部31によって設定されてもよいし、ユーザの不図示の入力装置に対する操作によって設定されてもよい。前者の場合において、複数の位置の間隔は、NCプログラム作成部31によって設定されてもよいし、ユーザの不図示の入力装置に対する操作によって設定されてもよい。また、複数の位置の設定に併せて、NCプログラム作成部31又はユーザによって移動軌跡上の隣り合う2つの位置間の速度が設定されてよい。NCプログラム作成部31は、その速度が実現されるX方向及びY方向の目標移動速度及び目標回転速度を算出してよい。
【0133】
その後、NCプログラム作成部31は、上記のように算出した情報を含むNCプログラム39を作成してよい。このNCプログラム39は、上述のように、制御データ作成部33によって制御データ41に変換され、各軸の制御部(35X~35R)に利用される。なお、当該NCプログラム39は、NCプログラム作成部31によってではなく、ユーザの不図示の入力装置に対する操作によって作成されてもよい。
【0134】
NCプログラム39は、上記の例とは異なり、直接にX方向及びY方向の目標位置及び目標移動速度、並びに目標回転位置及び目標回転速度の情報を保持するのではなく、第1切れ刃117Aを移動軌跡に沿って移動させることを指示する特定のコードを含んでもよい。NCプログラム39は、この特定のコードと対応付けて、移動軌跡を特定可能な情報(例えば主軸19の軸心を移動軌跡に沿って移動させると仮定したときの指令の情報)を含んでよい。そして、制御データ作成部33は、その特定のコードと、移動軌跡の情報とを読み出したときに、上記のNCプログラム作成部31と同様の算出を行い、その算出した情報に基づいて制御データ41を作成してよい。
【0135】
主軸19の回転位置の位置決め精度(誤差)は、適宜に設定されてよい。例えば、当該位置決め精度は、1°以下、0.1°以下、0.01°以下又は0.001°以下とされてよい。回転センサ27Rの検出精度は、上記の位置決め精度と同等又はそれよりも高くされてよい。
【0136】
主軸駆動源25Rの回転速度(例えば定格回転速度。本段落において以下同様。)は、工具101の利用のみを考えるのであれば、一般的な主軸駆動源の回転速度よりも低くすることが可能である。ただし、工具101以外の通常の回転工具も利用できるように、比較的高速で回転可能であってもよい。例えば、主軸駆動源25Rの回転速度は、1000rpm(revolutions per minute)以上、10000rpm以上又は20000rpm以上とされてよい。
【0137】
工具101が主軸19に取り付けられているときに、工具101が主軸19の軸心に対して傾斜していると、例えば、工具101の回転位置に応じた第1切れ刃117Aの位置に関して、実際の値と想定されている値との間にずれが生じる。従って、加工機本体2は、工具基準角度を検出する機能を有していてもよい。
【0138】
以上のとおり、本実施形態では、軸回りに回転されて使用される回転工具101は、シャンク105と、シャンク105の先端側に位置している刃部109と、を有している。刃部109は、工具101の軸回りの1周に亘って工具101の外部に露出している外周面111を有している。外周面111は、工具101の軸方向に長さを有する第1切れ刃117Aを有している。シャンク105の軸心CL1に平行に見て、第1切れ刃117Aと軸心CL1との距離(第1の距離)が、外周面111と軸心CL1との最大距離(第2の距離)よりも短い。
【0139】
別の観点では、加工機1は、回転工具101と、主軸19と、ワーク保持部(テーブル23)と、主軸駆動源25Rと、駆動部24と、制御装置5とを有している。工具101は、刃部109を有している。主軸19は、工具101が固定される。テーブル23は、ワーク103を保持する。主軸駆動源25Rは、主軸19を軸回りに回転させる。駆動部24は、少なくとも主軸19の軸方向に直交する2方向(X方向及びY方向)において主軸19とテーブル23とを相対移動させる。制御装置5は、主軸駆動源25R及び駆動部24を制御する。刃部109は、工具101の軸回りの1周に亘って工具101の外部に露出している外周面111を有している。外周面111は、工具101の軸方向に長さを有する第1切れ刃117Aを有している。主軸19の軸心(シャンク105の軸心CL1を参照)に平行に見て、第1切れ刃117Aと主軸19の軸心との距離(第1の距離)が、外周面111と主軸19の軸心との最大距離(第2の距離)よりも短い。
【0140】
更に別の観点では、回転工具101の刃部109によってワーク103を切削して被加工物(切削後のワーク103)を製造する製造方法は、移動ステップ(
図4)を有している。移動ステップでは、回転工具101を所定の回転軸(シャンク105の軸心CL1を参照)回りに回転させるとともに、少なくとも上記回転軸に直交する2方向(X方向及びY方向)において工具101とワーク103とを相対的に平行移動させる。刃部109は、工具101の軸回りの1周に亘って工具101の外部に露出している外周面111を有している。外周面111は、工具101の軸方向に長さを有する第1切れ刃117Aを有している。上記回転軸に平行に見て、第1切れ刃117Aと回転軸との距離(第1の距離)が、外周面111と回転軸との最大距離(第2の距離)よりも短い。移動ステップでは、第1切れ刃117Aによってワーク103を切削する。
【0141】
既述のように、公知の回転工具においては、外周面の切れ刃は、外周面の切れ刃以外の部分がワークに干渉しないように、刃部の外周面のうち、シャンクの軸心からの距離が最も長くなる位置に設けられている。この回転工具の外周面の切れ刃をワーク103の目標形状に沿って移動させる場合に比較して、本実施形態では、例えば、工具101の軸心CL1回りの回転に伴う第1切れ刃117AのXY平面における移動量が低減される。その結果、例えば、工具101の主軸19に対する軸回りの取付誤差が第1切れ刃117AのXY平面における位置ずれに及ぼす影響が低減される。ひいては、加工精度が向上する。また、例えば、主軸19の回転位置又は回転速度の誤差が、第1切れ刃117AのXY平面における位置又は速度の誤差に及ぼす影響も低減される。この観点からも加工精度が向上する。また、主軸19の回転速度に応じた第1切れ刃117AのXY平面における移動速度をキャンセルするために駆動部24に要求される移動速度も低くなる。第1切れ刃117Aは、切削抵抗の作用点であり、この作用点と回転軸との距離が短くなることによって、切削抵抗による回転モーメントを小さくすることができる。ひいては、工具101の回転位置を制御するサーボ系(主軸駆動源25R等)への負荷を低減できる。
【0142】
外周面111は、第1側面115Aと、第1側面115Aと交差して第1切れ刃117Aとなる稜線を構成している第2側面115Bと、を有してよい。
【0143】
軸方向に長さを有する第1切れ刃117Aにとって、上記の構成は、通常、必須の要件である。しかし、公知のエンドミルから理解されるように、本開示に係る工具は、切れ刃、すくい面及び逃げ面の向きが特殊な工具とされてもよい。この場合、2つの側面を特定することが困難な場合もある。逆に言えば、第1側面115A及び第2側面115Bを特定できる工具101は、切れ刃等の向きが特殊な工具(そのような工具も本開示に係る技術に含まれてよい。)に比較して、第1切れ刃117Aの長さが軸方向に十分に確保されており、角隅部103dの形成に有利である。
【0144】
刃部109は、シャンク105とは反対側に面している底面113を有してよい。第1側面115Aと底面113とは、互いに交差して第2切れ刃117Bとなる稜線を構成してよい。
【0145】
この場合、例えば、
図5(a)及び
図5(b)を参照して説明したように、第2切れ刃117Bによって凹部103aの底面を切削し、凹部103aを深くしていく加工を行うことができる。このような凹部を深くしていく加工においては、工具101は、XY平面に沿う移動とZ方向への移動とが交互に繰り返されるか、両者が同時に行われる(工具101が螺旋状に移動する)。このとき、第1切れ刃117Aと第2切れ刃117Bとが構成する角(コーナ)の転写痕(コーナの移動経路に沿った線状の痕)が凹部103aの側面103b及び103cに形成されることがある。しかし、第1側面115Aと第2側面115Bとが交差する稜線によって第1切れ刃117Aが構成されている(第1切れ刃117Aの長さが軸方向に確保されている)ことから、転写痕が形成される蓋然性が低減される。
【0146】
第2側面115Bと底面113とは、互いに交差して第3切れ刃117Cとなる稜線を構成してよい。
【0147】
この場合、例えば、第2切れ刃117Bに加えて第3切れ刃117Cによっても凹部103aの底面を切削することができ、加工速度が向上する。及び/又は、工具101の回転方向の自由度が向上する。
【0148】
外周面111は、第1側面115Aの第1切れ刃117Aとは反対側の縁部、及び第2側面115Bの第1切れ刃117Aとは反対側の縁部と交差し、かつ切れ刃を構成していない第3側面115Cを有してよい。
【0149】
この場合、例えば、第3側面115Cは、切れ刃を構成しなくてよいから、形状及び寸法の自由度が高い。その結果、例えば、刃部109の強度を確保したり、切れ刃以外の部分がワーク103に干渉しないようにしたりすることが容易化される。例えば、実施形態では、第3側面115Cは、軸方向に見て外側に膨らむ曲面状であり、当該形状は、刃部109の強度を確保することに寄与している。
【0150】
シャンク105の軸心CL1に平行に見て、第1切れ刃117Aと軸心CL1との距離(第1の距離)は、外周面111と軸心CL1との最大距離(第2の距離)の半分以下とされてよい。
【0151】
この場合、例えば、第1の距離は、第2の距離に対して十分に短いと言える。従って、上述した第1の距離が第2の距離よりも短いことによる効果が向上する。
【0152】
シャンク105の軸心CL1に平行に見て、第1切れ刃117A(既述のように第1切れ刃117Aが軸心CL1に平行でない場合は第1切れ刃117Aの先端を参照してよい。)は、シャンク105の軸心CL1に位置してよい。
【0153】
この場合、例えば、第1の距離が実質的に0であるから、上述した第1の距離が第2の距離よりも短いことによる効果が更に向上する。
【0154】
加工機1において、制御装置5(例えばNCプログラム作成部31)は、2方向(X方向及びY方向)を含む平面内の所定の移動軌跡の情報(例えば形状データ37)を取得してよい。制御装置5(例えばNCプログラム作成部31及び制御データ作成部33)は、取得した情報に基づいて、第1切れ刃117Aを移動軌跡に沿って移動させるための目標値(例えば制御データ41に含まれる目標値)を算出してよい。目標値は、主軸19の軸心回りの回転位置(回転数ではない。)、及び主軸19とワーク保持部(テーブル23)との上記2方向における相対位置それぞれの所定の周期毎の目標値を含んでよい。制御装置5(統合制御部34、X軸制御部35X、Y軸制御部35Y、Z軸制御部35Z及び回転制御部35R)は、算出した目標値が実現されるように主軸駆動源25R及び駆動部24を制御してよい。
【0155】
別の観点では、被加工物の製造方法の移動ステップ(
図4)では、回転工具101の回転位置の制御と、2方向(X方向及びY方向)における相対位置の制御との同期を取ることによって第1切れ刃117Aをワーク103の目標形状に沿って移動させてよい。
【0156】
この場合、例えば、平行移動のみが行われる態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれてよい)に比較して、角隅部103dを形成するときに、側面103b及び103cの双方において、すくい角及び逃げ角を適切な範囲で確保することが容易である。その結果、加工精度の向上、又は側面103b及び103cの表面の性状の向上が容易化される。
【0157】
被加工物の製造方法において、ワーク103の目標形状は、回転軸方向に見て、刃部109の最大径の半分未満の曲率半径を有する隅形状(角隅部103d)を含んでよい。
【0158】
すなわち、工具101は、Rが小さい、又はRが実質的に付与されていない隅形状の形成に利用されてよい。このような形状は、通常、より高い加工精度が要求されるから、工具101の上述の種々の効果(例えば誤差低減)が有効に奏される。
【0159】
<第2実施形態>
図7(a)は、第2実施形態に係る加工方法を説明する模式図であり、
図4に対応している。
【0160】
第2実施形態においても、矢印y1~y3で示されるように、刃部109は、ワーク103に対して、回転及び平行移動がなされてよい。さらに、第2実施形態においては、刃部109は、矢印y5で示すように、ワーク103に対して振動してよい。換言すれば、切れ刃(117A、117B及び/又は117C)を振動させて切削する加工方法が第1実施形態に組み合わされてよい。なお、刃部109が振動による切削に利用される場合、図示の例とは異なり、刃部109が軸回りに回転されない運用がなされてもよい。
【0161】
振動の具体的な態様は適宜なものとされてよい。例えば、振動は、主軸19のテーブル23に対する回転及び平行移動を無視したときに(以下、同様。)、楕円軌道を描くものであってもよいし(図示の例)、円軌道を描くものであってもよいし、直線状に振動するものであってもよい。楕円軌道の長軸の方向又は直線状の振動の方向と、目標形状(第1切れ刃117Aの移動軌跡)との関係も適宜に設定されてよい。例えば、前者は、後者に対して、直交していてもよいし、傾斜していてもよい。傾斜は、X′Y′平面内における傾斜であってもよいし、及び/又はZ′方向への傾斜であってもよい。
【0162】
振幅(最大値。例えば、楕円軌道の場合は長軸の長さ)及び周波数も適宜に設定されてよい。例えば、振幅は、1mm以下、0.1mm以下、0.01mm以下、1μm以下、0.1μm以下、0.01μm以下又は1nm以下とされてよいし、及び/又は刃部109の最大径の1/2以下、1/10以下、1/100以下又は1/1000以下とされてよい。また、例えば、周波数は、10Hz以上、100Hz以上、1kHz以上、10kHz以上又は20kHz以上(超音波の下限周波数以上)とされてよい。
【0163】
刃部109をワーク103に対して振動させる方法は、適宜なものとされてよい。
【0164】
例えば、刃部109とワーク103とを平行移動させる駆動部24によって刃部109に振動が付与されてよい。より詳細には、例えば、3つの駆動源(25X、25Y及び25Z)のうち、いずれか1つが用いられてもよいし、いずれか2つが用いられてもよいし、3つが用いられてもよい。なお、この例から理解されるように、振動は、絶対座標系において刃部109を振動させるものであってもよいし、絶対座標系においてワーク103を振動させるものであってもよいし、両者の組み合わせであってもよい。
【0165】
また、例えば、駆動部24とは別に、振動発生機構が設けられてもよい。振動発生機構は、加工機本体2に設けられてもよいし、工具(例えば工具101)と主軸19との間に介在するツーリングに設けられてもよい。前者の場合、振動発生機構は、刃部109側(例えば主軸頭17若しくは主軸19)に設けられてもよいし、及び/又はワーク103側(例えばテーブル23)に設けられてもよい。振動発生機構の構成は、適宜なものとされてよい。例えば、振動発生機構は、圧電体又は電磁石を含み、これらに対する交流電圧の印加によって振動してよい。
【0166】
(振動発生機構を有するツーリングの例)
上記のように、刃部109のワーク103に対する振動は、適宜に実現されてよい。以下では、振動発生機構がツーリングに設けられた態様の例を示す。
【0167】
図7(b)は、第2実施形態に係る加工方法に利用される工具の一例である工具121の構成を示す側面図である。
【0168】
工具121は、第1実施形態に係る工具101と、工具101と主軸19との間に介在するツーリング123を有している。ツーリング123は、振動発生機構125を有している。なお、このような態様においては、既述のように、工具101が本開示に係る工具の一例として捉えられてもよいし、工具121が本開示に係る工具の一例として捉えられてもよい。
【0169】
ツーリング123の構成は、振動発生機構125に係る構成を除いては、公知の構成を含む種々のものと同様とされてよい。図示の例では、ツーリング123は、-z側(刃部109側)から+z側へ順に、主としてシャンク105の保持に寄与する基部123aと、ATCによって把持される被把持部123bと、主軸19に取り付けられるシャンク123cとを有している。
【0170】
基部123aは、コレットチャック等のシャンク105を保持するための機構を有している。被把持部123bは、外周面に溝を有するフランジ状部位である。シャンク123cについては、既述のように、矛盾等が生じない限り、シャンク105の説明が援用されてよい。シャンク123cが主軸19に取り付けられた工具121(別の観点では工具101)は、主軸19と共に主軸19の軸心回りに回転する。
【0171】
振動発生機構125は、ツーリング123のいずれの位置に設けられてもよい。図示の例では、振動発生機構125は、その全体が基部123aに内蔵されている。ただし、振動発生機構125は、その一部又は全部が被把持部123b又はシャンク123cに内蔵されていてもよい。振動発生機構125は、例えば、既述のように、電源127によって交流電圧が印加される圧電体又は電磁石を有している。
【0172】
電源127は、供給された電力を適宜な周波数及び電圧(及び/又は電流)の交流電力に変換して振動発生機構125に供給してよい。また、電源127は、いわゆるドライバであってよい。電源127は、加工機本体2に設けられていてもよいし、工具121に設けられていてもよい。
【0173】
工具121の内部の振動発生機構125と工具121の外部の電源127との接続、又は、工具121の内部の電源127と工具121の外部の他の電源との接続は、適宜になされてよい。例えば、工具121に設けられた端子と、主軸19に設けられた端子とが接続されてよい。主軸19に設けられた端子は、主軸19と主軸頭17内の固定的な部材との間に介在するスリップリングに接続されていてよい。
【0174】
以上の第2実施形態に係る工具121においても、シャンク123cの軸心に平行に見て、第1切れ刃117Aとシャンク123cの軸心との距離が、外周面111とシャンク123cの軸心との最大距離よりも短い。従って、例えば、工具101と同様の効果が奏される。
【0175】
工具121は、振動を生じる振動発生機構125を更に有してよい。別の観点では、加工機1は、刃部109とワーク103とを相対的に振動させる振動発生機構125を更に有してよい。さらに別の観点では、被加工物の製造方法は、移動ステップ(
図7(a)の矢印y1~y3)に並行して、刃部109をワーク103に対して振動させる振動ステップ(
図7(a)の矢印y5)を更に有してよい。
【0176】
この場合、例えば、すくい角及び逃げ角を十分に確保することができなくても、第1切れ刃117Aの形状を転写するような切削によって角隅部103dを形成することができる。その結果、例えば、更に加工精度が向上する。
【0177】
<機械部の各部の構成例>
既述のように、加工機1の機械部3の構成は、公知の構成を含む種々の構成と同様とされてよい。このことから、これまでの説明では、機械部3の構成要素の説明は適宜に省略された。以下では、機械部3の構成要素の例を示す。
【0178】
(ガイドの例)
図8(a)は、テーブル23をガイドするガイドの構成の一例を示す斜視図である。
図8(b)は、
図8(a)のVIIIb-VIIIb線における断面図である。
【0179】
図示の例では、テーブル23をガイドするガイド45は、V-V転がり案内によって構成されている。例えば、ガイド45は、テーブル23を支持するX軸ベッド21の上面に形成された断面V字状の2本の溝21aと、テーブル23の下面に形成された断面三角形状の2本の突条23aと、溝21aと突条23aとの間に介在している複数のコロ47(転動体)とを有している。溝21a及び突条23aは、X方向に直線状に延びており、突条23aはコロ47を介して溝21aに嵌合している。これにより、テーブル23は、Y方向における移動が規制される。また、コロ47は、溝21aの内面及び突条23aの外面に対して転がり、両者のX方向における相対移動を許容する。これにより、テーブル23は、比較的小さい抵抗でX方向に移動する。テーブル23の+Z側への移動は、例えば、自重によって規制される。テーブル23の-Z側への移動は、例えば、X軸ベッド21からの反力によって規制される。
【0180】
テーブル23をX方向に案内するガイドについて述べた。上記の説明は、サドル13をY方向に案内するガイド、及び/又は主軸頭17をZ方向に案内するガイドに援用されてよい。突条(23a)の溝(21a)からの離反は、係合部材を設けることなどによって適宜に規制されてよい。
【0181】
(平行移動に係る駆動機構の例)
図8(a)及び
図8(b)は、テーブル23を駆動するX軸駆動源25Xの構成の例も示している。なお、以下の説明は、サドル13を駆動するY軸駆動源25Y、及び/又は主軸頭17を駆動するZ軸駆動源25Zに適宜に援用されてよい。
【0182】
図示の例では、X軸駆動源25Xは、リニアモータによって構成されている。例えば、X軸駆動源25Xは、X軸ベッド21の上面にてX方向に配列されている複数の磁石25cからなる磁石列25aと、テーブル23の下面に固定されており、磁石列25aと対向するコイル25bとを有している。そして、コイル25bに交流電力が供給されることによって、磁石列25aとコイル25bとがX方向に駆動力を生じる。ひいては、テーブル23がX方向に移動する。
【0183】
このように、平行移動のための駆動源としてリニアモータを用いると、例えば、回転式の電動機と、その回転を直線運動に変換する機構とを用いた態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。)に比較して、高精度かつ滑らかな同期制御が可能となる。その結果、例えば、工具101を用いることによる上述の効果(例えば誤差低減)が向上する。
【0184】
(センサの一例)
図8(a)は、X軸センサ27Xの一例としてのリニアエンコーダを示す図ともなっている。なお、以下の説明は、Y軸センサ27Y及び/又はZ軸センサ27Zに適宜に援用されてよい。
【0185】
X軸センサ27Xは、例えば、X方向に延びているスケール部27aと、スケール部27aに対向している検出部27bとを有している。スケール部27aにおいては、例えば、光学的又は磁気的に形成された複数のパターンがX方向に一定のピッチで配列されている。検出部27bは、各パターンとの相対位置に応じた信号を生成する。従って、スケール部27a及び検出部27bの相対移動に伴って生成される信号の計数(すなわちパターンの計数)によって、変位(位置)を検出することができる。
【0186】
スケール部27a及び検出部27bの一方(図示の例ではスケール部27a)は、テーブル23に固定されている。スケール部27a及び検出部27bの他方(図示の例では検出部27b)は、X軸ベッド21に対して直接的に又は間接的に固定されている。従って、テーブル23が移動すると、スケール部27a及び検出部27bは相対移動する。これにより、テーブル23の変位(位置)が検出される。
【0187】
スケール部27a及び検出部27bの具体的な取付位置は適宜に設定されてよい。また、X軸センサ27Xは、スケール部27aのパターンに基づいてスケール部27aに対する検出部27bの位置(絶対位置)を特定可能なアブソリュート式のものであってもよいし、そのような特定ができないインクリメンタル式のものであってもよい。公知のように、インクリメンタル式のスケールであっても、検出部27bをスケール部27aに対して所定位置(例えば移動限)に移動させてキャリブレーションを行うことによって絶対位置を特定することができる。
【0188】
(ガイドの他の例)
図9は、テーブル23、サドル13又は主軸頭17を案内するガイドに関して、
図8(b)を参照して説明した構成例とは別の構成例を示す図である。この図は、
図8(b)に相当する断面図となっている。説明の便宜上、ガイドに案内される部材としてテーブル23を例に取る。下記の説明は、サドル13及び/又は主軸頭17の案内に援用されてよい。
【0189】
図9に示すガイド45Aは、いわゆる静圧案内によって構成されている。具体的には、テーブル23の被案内面とベッド21の案内面との間には隙間が構成されている。当該隙間にはポンプ49等によって所定の圧力で流体が供給される。流体は、気体(例えば空気)であってもよいし、液体(例えば油)であってもよい。
【0190】
このようにガイド45Aが静圧案内によって構成されている場合、例えば、テーブル23をその移動方向に移動させるときの摩擦抵抗が小さいから、移動方向の位置決めを高精度に行うことができる。このような構成により、高い加工精度を実現することができる。その結果、例えば、工具101を用いることによる上述の効果(例えば誤差低減)が向上する。
【0191】
(平行移動に係る駆動機構の他の例)
上記の
図9は、X軸駆動源25Xに係る構成としてリニアモータ以外の構成例を示す図ともなっている。なお、以下の説明は、Y軸駆動源25Y及び/又はZ軸駆動源25Zに援用されてよい。
【0192】
図9では、ねじ軸51と、ねじ軸51と螺合しているナット53とが図示されている。すなわち、ねじ機構(例えばボールねじ機構又はすべりねじ機構)が図示されている。ねじ軸51及びナット53の一方(図示の例ではナット53)の回転が規制されている状態で、ねじ軸51及びナット53の他方(図示の例ではねじ軸51)が回転されることによって、両者は軸方向に相対移動する。ねじ軸51及びナット53の一方(図示の例ではねじ軸51)はベッド21に支持されており、ねじ軸51及びナット53の他方(図示の例ではナット53)はテーブル23に支持されている。ねじ軸51(又はナット53)を回転させる駆動力は、例えば、回転式の電動機(不図示)によって生成される。
【0193】
なお、
図8(a)では、転がり軸受とリニアモータとの組み合わせが示され、
図9では、静圧軸受と、回転式の電動機との組み合わせが示された。もちろん、静圧軸受とリニアモータとが組み合わされてもよいし、転がり軸受と回転式の電動機とが組み合わされてもよい。
【0194】
(主軸の軸受の例)
図10は、主軸19の軸受の構成の一例を示す断面図である。
【0195】
実施形態の説明で述べたように、主軸19の軸受は、例えば、転がり軸受、静圧軸受、すべり軸受又はこれらの2以上の組み合わせとされてよい。
図10では、静圧軸受が例示されている。具体的には、主軸19の外周面と、主軸頭17の内周面との間には隙間が構成されている。当該隙間にはポンプ49等によって所定の圧力で流体が供給される。流体は、気体(例えば空気)であってもよいし、液体(例えば油)であってもよい。
【0196】
このように主軸19が静圧軸受によって支持されている場合、例えば、主軸19を軸回りに回転させるときの摩擦抵抗が小さいから、主軸19の回転位置を高精度に制御することができる。その結果、例えば、工具101を用いることによる上述の効果(例えば誤差低減)が向上する。
【0197】
(主軸の駆動機構の例)
図10は、主軸19の駆動機構の例を示す図ともなっている。この例では、主軸駆動源25Rは、いわゆるビルトインモータによって構成されている。換言すれば、主軸19と主軸駆動源25Rとの間には減衰機構等が介在していない。具体的には、例えば、主軸駆動源25Rは、主軸19に固定されているロータ25rと、主軸頭17に固定されているステータ25sとを有している。ロータ25rは、界磁及び電機子の一方を構成している。ステータ25sは、界磁及び電機子の他方を構成している。なお、主軸駆動源25Rは、主軸19に対してその軸方向の適宜な位置に設けられてよい。
【0198】
このように主軸駆動源25Rがビルトインモータによって構成されている場合、例えば、主軸19と主軸駆動源25Rとの間に他の機構が介在しないから、軸回りの位置制御の精度が向上する。その結果、例えば、工具101を用いることによる上述の効果(例えば誤差低減)が向上する。
【0199】
<工具の変形例>
図11は、変形例に係る回転工具101Aの構成を示す斜視図であり、
図3に対応している。
【0200】
工具101は、その全体が一体的に構成された。一方、工具101Aは、基部131と、基部131に着脱されるチップ133(インサート)とを有している。チップ133は、刃部109のうちの切れ刃(117A、117B及び117C)を含む一部を構成している。基部131は、例えば、工具101Aのうちの上記以外の全部(刃部109の他部、ネック107及びシャンク105)を構成している。すなわち、工具101Aは、刃先交換式のものである。
【0201】
刃部109に着目すると、第1切れ刃117A、第2切れ刃117B及び第3切れ刃117Cは、チップ133によって構成されており、基部131によっては構成されていない。第1側面115A、第2側面115B及び底面113は、基部131及びチップ133によって構成されている。第3側面115Cは基部131によって構成されている。チップ133は、例えば、基部131に形成された凹部に配置されており、第1側面115A、第2側面115B及び底面113は、概略、平面状である。ただし、チップ133と基部131との間に段差及び/又は隙間が存在しても構わない。
【0202】
チップ133の基部131に対する固定方法は、公知の方法を含む種々の方法とされてよい。例えば、チップ133に挿通されたねじ(不図示)が基部131に形成された雌ねじ(不図示)に螺合されることによって、チップ133が基部131に固定されてよい。また、チップ133を基部131に押し付けるクランプ機構が設けられてもよい。
【0203】
<加工例>
図4等を参照して説明した切削によって、種々の複雑な形状を実現することができる。以下に、そのいくつかの例を示す。なお、以下では、便宜上、工具101の符号を用いるが、工具121又は工具101Aが用いられてもよい。
【0204】
図12(a)は、工具101を用いた切削によって形成される形状の一例としての凹部141の一部を示す斜視図である。
【0205】
凹部141は、底面141aが曲面状である。また、平面状の側面141b及び141cが交差して、角隅部141dを構成している。このような凹部141の形成においては、例えば、まず、公知のエンドミル(すなわち工具101以外の回転工具)を主軸19に取り付け、エンドミルによる切削によって凹部141を形成してよい。このとき、角隅部141dは、エンドミルの半径を曲率半径とするRが付与される。その後、工具101を主軸19に取り付け、工具101によって角隅部141dの切削(換言すれば凹部141の一部の切削)を行ってよい。これにより、角隅部141dは、Rが小さくされる、又はRが実質的に無くされる。なお、工具101は、底面141aの切削も可能であるから、凹部141の全体を工具101によって切削しても構わない。
【0206】
図12(b)は、工具101を用いた切削によって形成される形状の他の例としての繰り返し形状143の一部を示す斜視図である。
【0207】
繰り返し形状143は、例えば、互いに同一の形状及び大きさの複数の凹部143a(別の観点では凸部)が繰り返される形状である。凹部143aは、角隅部143bを有しており、別の観点では、角隅部143bが繰り返されている。凹部143aの形状は、適宜な形状とされてよく、
図12(b)では、互いに直交する矩形状の3つの平面によって1つの凹部143aが形成されている。このような繰り返し形状143は、例えば、車等に取り付けられるリフレックスリフレクタに見られる形状である。
【0208】
繰り返し形状143は、例えば、
図4、
図5(a)及び
図5(b)を参照して説明した角隅部103dの形成方法を、主軸19の位置を一定のピッチでずらしつつ繰り返すことによって実現される。なお、繰り返し形状143は、工具101による切削のみによって形成されてもよいし、
図12(a)と同様に、公知のエンドミルによる切削の後に工具101による切削が行われることによって形成されてもよい。
【0209】
図13(a)は、工具101を用いた切削によって形成される形状の更に他の例としての凹部145の一部を示す斜視図である。
【0210】
凹部145は、曲面状の側面145a及び145bが互いに交差することによって角隅部145cが構成されている。側面145a及び145bは、主軸19の軸方向に対しては平行で、当該軸方向に見て曲線となる曲面である。このような角隅部145cを有する凹部145は、
図12(a)の凹部141と同様に形成されてよい。
【0211】
図13(b)は、工具101を用いた切削によって形成される形状の更に他の例としての凹部147の一部を示す斜視図である。
【0212】
凹部147は、底側ほど径が小さくなっている。具体的には、図示の例では、凹部147は、錐体状である。さらに詳細には、凹部147は、三角形状の平面からなる4つの傾斜面147aによって構成されている四角錐状である。そして、隣り合う側面が交差することによって角隅部147bが構成されている。このように、角隅部147bは、側面とも底面とも言い難い2つの面(傾斜面147a)によって構成されてもよい。
【0213】
凹部147の形成においては、例えば、矢印で示されているように、第1切れ刃117Aを凹部147の内周面に沿って移動(周回)させることによって切削が行われてよい。なお、他の例と同様に、工具101は、凹部147の全部の形成に利用されてもよいし、角隅部147bの形成のみに利用されてもよい。
【0214】
ここで、工具101の軸方向は、
図13(b)の紙面上下方向(錐体の軸方向)に平行であると仮定する。この場合、
図5(a)及び
図5(b)を参照して説明したように、工具101の凹部147に沿う周回と、工具101の凹部147の深さ方向への移動とを繰り返すことにより、又は両者を同時に行うことにより、凹部147は深くなっていく。このとき、周回する半径を徐々に小さくすることによって、底側ほど径が小さくなる凹部147を形成することができる。刃部109の最大径が小さければ、凹部147の底は、点に近くなる。
【0215】
上記とは異なり、工具101の軸方向を
図13(b)の紙面上下方向に対して傾斜させてもよい。例えば、加工機本体2として、工具101とワーク103との向きをある程度変化させることができるもの(例えば主軸19の絶対座標系における向きを変化させことができるもの)を採用する。そして、工具101の軸を1つの傾斜面147aに対して平行にして当該1つの傾斜面147aの切削を行う動作を4つの傾斜面147aに対して繰り返してもよい。
【0216】
なお、以上の実施形態及び変形例において、工具101、121及び101Aは、回転工具の一例である。シャンク105及び123cは、シャンクの一例である。テーブル23は、ワーク保持部の一例である。形状データ37又はNCプログラム39が含む情報は、移動軌跡の情報の一例である。制御データ41が含む目標値は、所定の周期毎の目標値の一例である。
【0217】
本開示に係る技術は、以上の実施形態及び変形例に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0218】
実施形態の説明でも述べたように、加工機は、
図1に例示した構成のものに限定されない。例えば、加工機は、一般的な工作機械に限定されず、超精密非球面加工機のような特殊なものであってもよい。また、加工機は、工作機械に限定されず、例えば、ロボットであってもよい。別の観点では、目標形状又は移動軌跡の情報を含むデータは、CADデータ又はNCプログラムに限定されず、ティーチングによって生成されたものであってもよい。
【0219】
実施形態でも触れたように、刃部は、第1切れ刃のみを有していてもよい。このような刃部は、例えば、リーマのように穴の径を広げたり、穴の形状を整えたりすることに利用されてよい。また、刃部は、第1切れ刃及び第2切れ刃のみを有してもよい。逆に、刃部は、4つ以上の切れ刃を有していても構わない。
【符号の説明】
【0220】
1…加工機、5…制御装置、19…主軸、23…テーブル(ワーク保持部)、24…駆動部、25R…主軸駆動源、101…回転工具、103…ワーク、105…シャンク、109…刃部、111…外周面、117A…第1切れ刃。