IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゴイダー アーゲーの特許一覧

<>
  • 特許-眼科手術セットおよびコンタクトレンズ 図1
  • 特許-眼科手術セットおよびコンタクトレンズ 図2
  • 特許-眼科手術セットおよびコンタクトレンズ 図3
  • 特許-眼科手術セットおよびコンタクトレンズ 図4
  • 特許-眼科手術セットおよびコンタクトレンズ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】眼科手術セットおよびコンタクトレンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/013 20060101AFI20220615BHJP
   A61F 9/01 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
A61F9/013
A61F9/01
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020548636
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 DE2019200021
(87)【国際公開番号】W WO2019174683
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】102018203695.0
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517364433
【氏名又は名称】ゴイダー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エル-アヤリ、 ハマディ
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0208177(US,A1)
【文献】国際公開第2009/090763(WO,A1)
【文献】特表2005-515019(JP,A)
【文献】特表2014-503317(JP,A)
【文献】特開2010-005441(JP,A)
【文献】特表2013-521517(JP,A)
【文献】国際公開第2017/077300(WO,A1)
【文献】特表2013-529980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/013
A61F 9/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズ(1)と角膜(6)用の架橋手段(12)とを備え、前記コンタクトレンズ(1)の前記角膜(6)に面する変形側(8)を実質的に正常な角膜形状の原型として具体化する眼科手術セットであって、
前記コンタクトレンズ(1)が、前記コンタクトレンズ(1)と前記コンタクトレンズ(1)を装着する眼(7)との間に負圧を提供する手段を有することで、前記角膜(6)を前記変形側(8)に接するように吸引可能であり、前記角膜(6)を前記実質的に正常な角膜形状にし、
前記架橋手段(12)が、眼又は眼上への投与に適している薬学組成物の一部であり、
(i)水性担体と、
(ii)前記水性担体に溶解した、2つ以上のカルボキシル基および/もしくは1つ以上の酸無水物基および/もしくは1つ以上のエステル基またはそれらの薬学的に許容される塩を含む、非毒性の水溶性架橋手段と、
を含む架橋手段であって、
前記薬学組成物が、6から9の範囲のpHを有し、
前記非毒性の水溶性架橋手段が、グルタル酸無水物ではない、眼科手術セット。
【請求項2】
前記負圧を提供する手段が、チューブ(4)からなる流体接続要素(3)と結合するための接続部(2)として具体化されていることを特徴とする、請求項1に記載された眼科手術セット。
【請求項3】
前記接続部(2)が、前記チューブ(4)からなる流体接続要素(3)と嵌め合いおよび/または圧入で接続可能であることを特徴とする、請求項2に記載された眼科手術セット。
【請求項4】
前記接続部(2)が、バヨネット接続またはルアーロック接続として具体化されていることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の眼科手術セット。
【請求項5】
前記変形側(8)と前記角膜(6)との間に前記負圧を生成するために、注射器(5)が、前記接続部(2)に対して接続可能である流体接続要素(3)、具体的にはチューブ(4)、と共に設けられていることを特徴とする、請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載された眼科手術セット。
【請求項6】
前記注射器(5)に対して弾性要素(10)を介して事前に力が、定められた負圧を生成可能なようにかけられていることを特徴とする、請求項5に記載の眼科手術セット。
【請求項7】
前記コンタクトレンズ(1)上での位置決め補助としてマーキング(15)が、具体化されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の眼科手術セット。
【請求項8】
前記変形側(8)が、前記角膜(6)上に遠視矯正用の少なくとも1つの領域を生成可能であり、近視矯正用の少なくとも1つの領域を生成可能であるように、具体化されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載された眼科手術セット。
【請求項9】
前記架橋手段(12)が、計量機構内部の架橋流体であることを特徴とする、請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載された眼科手術セット。
【請求項10】
前記計量機構が、注射器またはピペットであることを特徴とする、請求項9に記載された眼科手術セット。
【請求項11】
少なくとも1つの蓋バリアが設けられていることを特徴とする、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載された眼科手術セット。
【請求項12】
少なくとも1つの受容手段が、具体的には綿棒が、過剰な流体および/または過剰な架橋手段を前記眼(7)から除去するために設けられていることを特徴とする、請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載された眼科手術セット。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載された眼科手術セットに用いられるコンタクトレンズ(1)であって、
角膜(6)に面して実質的に正常な角膜形状の原型として形成されている変形側(8)を有し、
前記変形側(8) と前記コンタクトレンズ(1) を装着する眼(7) との間に負圧を提供する手段(2)を有し、
該負圧を提供する手段(2)を有することで、前記角膜(6)を前記変形側(8) に接するように吸引可能であり、
前記角膜(6)を前記実質的に正常な角膜形状にすることが可能になる、コンタクトレンズ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科手術セットに関する。
さらに、本発明は、そのような眼科手術セットで使用するためのコンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
視力障害を矯正するための様々な方法が、本分野で知られている。
眼鏡レンズとコンタクトレンズは、ここでは、最も簡単な選択肢である。
ただし、それらは、非常に刺激および/または不快感があるとしばしば見なされていることに加えて、入手および維持に費用がかる。
【0003】
屈折手術の範囲では、網膜に焦点を合わせて周囲環境を描くよう、眼の光学系の屈折力全体を最適化する。
そうすることで、理想的な場合には、レーザー手術による視力補助をしなくてもよくなる場合がある。
レーザー手術とは、例えば、レーザー角膜切削形成術(LASIK)およびレーザー上皮細胞屈折矯正術(LASEK)であり、屈折手術の多くを代表している。
これらの手術では、角膜の曲率を矯正するために、角膜から組織を切除する。
【0004】
屈折矯正手術の全ての方法は、侵入型の手術であるという欠点がある。
これにより、対応するリスク、具体的には炎症の発生、角膜の衰弱、またはFLAPが融合しなくなること、などが関連して起こる場合がある。
さらに、このような手術は、患者の痛みと関連している。
【0005】
加えて、角膜矯正術によって視力障害を治療することが、本分野で知られている。
この場合、特別に適合された形状安定コンタクトレンズが患者のために製造され、これを用いることで事前に特定の場所で角膜に圧力がかかる。
この圧力によって角膜が変形し、屈折が変化する。
対応するコンタクトレンズは、通常、夜間にのみ装着されるため、ユーザーは、視力補助なしで1日を過ごすことができる。
この方法の欠点は、それが視力障害の矯正に対して時間的な制限があるということであり、すなわち、角膜変形の過程が可逆的であるということである。
視力は、一日を通して時間と共に再び悪化していくので、例えば、夜遅くに視力補助なしで車を運転することは避けるべきである。
さらに、通常、このコンタクトレンズを毎晩装着する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、単純な設計で、かつ、患者に優しい方法で、視力障害の矯正を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、前記目的は、請求項1に記載された特徴によって達成される。
すなわち、眼科手術セットは、コンタクトレンズと、角膜用の架橋手段と、を備え、前記コンタクトレンズの、前記角膜に面する変形側が、実質的に正常な角膜形状の原型として具体化され、前記コンタクトレンズが、前記コンタクトレンズと前記コンタクトレンズを装着する眼との間に負圧を提供する手段を有することで、前記角膜を前記変形側に接するように吸引可能であり、角膜を実質的に正常な角膜形状にすることが可能になる。
【0008】
本発明による方法で、角膜が正常な形状になり、架橋手段によってこの形状に保持されるという単純な方法で、視力障害の矯正が可能であることが、最初に判断された。
この目的のために、実質的に角膜矯正コンタクトレンズのように機能するコンタクトレンズが、本発明によってさらに提供され、コンタクトレンズの変形側と角膜との間に負圧を生成する手段が提供される。
それにより、角膜を変形側に接するように吸引することが可能であり、所望の実質的に正常な角膜形状を、最短時間で達成することが可能である。
この状態で角膜を維持または「固定」するために、架橋手段が、角膜に対して用いられる。
この場合の架橋手段は、純粋な形態である必要はなく、架橋手段に加えて、1つ以上の他の成分も含む薬学組成物であってもよい。
角膜が負圧によって所望の形状に保たれている間、架橋手段によってもたらされる架橋プロセスが進行する。
これは、角膜が架橋されることを意味する。
これにより、角膜の生体力学的抵抗(弾性率と同様)が大幅に増加する。
この手段は、流体接続要素(例えば、チューブ)を介して変形側と角膜との間に負圧を作り出すことが可能なように、流体接続要素の接続部として形成されてもよい。
したがって、本発明の眼科手術セットは、角膜を短時間で目標状態にすることを可能にし、コンタクトレンズを長期間または定期的な間隔で装着する必要なく、角膜を正常な形状に維持および/または固定することを可能にする。
【0009】
この場合の正常な角膜形状とは、患者に個別に適合された角膜形状であり、通常の視力を有する状態か、または、矯正可能な視力障害が実質的に排除されている状態だと理解されたい。
ここで「通常の視力」という用語は、最も広い意味で理解されるべきであり、必ずしも100%の視力と同一視されるべきではない。
さらに、この場合の眼は、特に人間の眼である場合があることに注意されたい。
さらに、「手術」という用語は、最も広い意味で理解される。
この用語は、視力障害を排除または改善することを目的とした、外科医または眼鏡技師による介入である場合がある。
【0010】
簡単な手段で負圧を生成することに関して、眼科手術セットは、流体接続要素、具体的には、チューブ接続を有する注射器を含んでもよく、ここで、流体接続要素へのコンタクトレンズの接続は、流体接続によって実施可能である。
一般的に、負圧を提供する任意の形態の注射器ピストン機構または他の任意の機構を、チューブ接続を介して接続部に接続可能である。
【0011】
注射器、具体的には注射器のピストンに対して、定められた負圧を生成可能なように、弾性要素を介して事前に力がかけられていてもよい。
弾性要素は、例えば、ばね、具体的には圧縮ばねであってもよい。
例えば、注射器ピストンは、注射器シリンダーから押し出されるように事前に力をかけられてもよい。
負圧は、理想気体の熱状態方程式pxV=nxRxTを参照して、注射器シリンダーの容積を用いて事前に決定可能である。
【0012】
接続部と流体接続要素(具体的にはチューブ)との間を結合するために、嵌め合いおよび/または圧入での接続が可能なよう、コンタクトレンズおよび/または流体接続要素の接続が設計されてもよい。
たとえば、接続部は、バヨネット接続またはルアーロック接続の一部として実施されてもよい。
流体接続要素は、それに対応する接続要素を有してもよい。
【0013】
患者の眼におけるコンタクトレンズの正確な位置決めおよび/または位置合わせに関して、少なくとも1つのマーキングが、コンタクトレンズに設けられていてもよい。
マーキングは、例えば、十字線または望遠鏡照準器のレチクルの様に実施されてもよい。
さらに、例えば、手術顕微鏡を用いて目標位置を鏡面投影したり、スリットランプを使用したりするなど、補助をさらに使用することも考えられる。
【0014】
特に、コンタクトレンズの変形側は、遠視矯正用の少なくとも1つの領域および近視矯正用の少なくとも1つの領域を生成可能なように、角膜を変形するよう設計されていてもよい。
【0015】
架橋手段に関しては、眼への投与に適した薬学組成物の一部であると考えられる。
WO2017/077300A1によると、組成物は、
(i)水性担体と
(ii)水性担体に溶解した、2つ以上のカルボキシル基および/もしくは1つ以上の酸無水物基および/もしくは1つ以上のエステル基またはそれらの薬学的に許容される塩を含む、非毒性の水溶性架橋手段と、含み、
この組成物は、非毒性の水溶性架橋手段がグルタル酸無水物ではないという条件のもとで、6から9の範囲のpHを有していてもよい。
【0016】
薬学組成物の非毒性の水溶性架橋手段は、2つから4つのカルボキシル基を含んでもよい。
【0017】
非毒性の水溶性架橋手段は、以下に示す式(I)の化合物、または式(II)の化合物、または、それらの薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒化合物であってもよい。
ここで、Lは、
(i)直鎖もしくは分岐(1―12C)アルキレン基リンカーであって、この直鎖もしくは分岐(1―12C)アルキレンリンカーは、N、OまたはSから選択される1つ以上のヘテロ原子をオプションで含み、さらに、オプションで、カルボキシ基、酸無水物基、オキソ基、ハロゲン、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(1-6C)アルキル基、(1-6C)アルコキシ基、(1-6C)アルキルチオ基、(1-6C)アルキルスルフィニル基、(1-6C)アルキルスルホニル基、(1-6C)アルキルアミノ基、ジ-[(1-6C)アルキル基]-アミノ基、(1-6C)アルコキシカルボニル基、(2-6C)アルカノイル基もしくは(2-6C)アルカノイルオキシ基から選択される1つ以上の基で置換される、直鎖もしくは分岐(1―12C)アルキレン基リンカー、または
(ii)水溶性ポリマー鎖
から選択可能であり、
Z1およびZ2は、独立してOHまたはORから選択されてもよく、ここで、Rは、(1―6C)アルキル基、スクシンイミド、3-スルホン酸スクシンイミド、またはペンタフルオロフェニルから選択してもよい。
【0018】
非毒性の水溶性架橋手段は、式(I)の化合物、または、式(II)の化合物、または、それらの薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒化合物であってもよい。
ここで、Lは、
(i)直鎖もしくは分岐(1―12C)アルキレン基リンカーであって、この直鎖もしくは分岐(1―12C)アルキレンリンカーは、N、OまたはSから選択される1つ以上のヘテロ原子をオプションで含み、さらに、オプションで、カルボキシ基、酸無水物基、オキソ基、ハロゲン、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(1-6C)アルキル基、(1-6C)アルコキシ基、(1-6C)アルキルチオ基、(1-6C)アルキルスルフィニル基、(1-6C)アルキルスルホニル基、(1-6C)アルキルアミノ基、ジ-[(1-6C)アルキル基]-アミノ基、(1-6C)アルコキシカルボニル基、(2-6C)アルカノイル基もしくは(2-6C)アルカノイルオキシ基から選択される1つ以上の基で置換される、直鎖もしくは分岐(1―12C)アルキレン基リンカーであってもよく、または、
(ii)水溶性ポリマー鎖であってもよい。
【0019】
さらに、非毒性の水溶性架橋手段は、式(I)の化合物、または、それらの薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒化合物であってもよく、ここで、Lは、nを0から10までの整数としたときの(CH2)nCO2Hの式の1つ以上の基で選択的に置換される(2―8C)アルキルであってもよいと考えられる。
【0020】
さらに、薬学組成物は、非毒性の水溶性架橋手段が、セバシン酸、アゼライン酸、スベリン酸、ピメリン酸、アジピン酸、グルタル酸、またはコハク酸から選択されるように、実施されてもよい。
【0021】
非毒性の水溶性架橋手段は、式(I)の化合物、または、それらの薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒化合物であってもよく、Lは、ポリエチレングリコール鎖であってもよい。
【0022】
さらに、薬学組成物は、非毒性の水溶性架橋手段であるビス-(スクシンイミジル)-ペンタ-(エチレングリコール)であってもよい。
【0023】
薬学組成物は、組成物のpHを6から9の範囲に維持するために、緩衝剤をさらに含むことが可能である。
具体的には、緩衝剤は、組成物のpHを6.5から7.5の範囲に維持可能である。
【0024】
さらに、薬学組成物は、1つ以上のペプチドカップリング試薬を含み、かつ/または、1つ以上のカルボジイミドペプチドカップリング試薬を含んでもよい。
さらに、薬学組成物が活性化剤を含むと、有利な場合がある。
【0025】
一般的に、本発明の非毒性の水溶性架橋手段を、水性担体に完全にまたは部分的に溶解することが有利である場合がある。
「水性担体」という用語は、水を主に含む(例えば、体積で約50%以上が水である)流体担体として理解されてもよい。
【0026】
さらに、水性担体は、さらなる溶媒、例えば、水と完全にまたは部分的に混和性である有機溶媒を含むことが可能である。
また、水性担体は、イオン性、有機性、または、両親媒性の添加剤(具体的には界面活性剤、粘度調整剤、張性剤、滅菌剤、および溶解度向上剤)を含んでもよい。
【0027】
任意の適切な緩衝剤を、例えば、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、スルホン酸、アスコルビン酸塩、リノレン酸塩、炭酸塩、および重炭酸塩に基づく緩衝剤を含む基から、緩衝剤として選択可能である。
前述の薬学組成物による生物学的材料(例えば、コラーゲン)の架橋は、架橋手段のカルボキシル(または酸無水物)基と生物学的材料上のアミノ官能基とを反応させることによって提供される。
この場合、この生物学的材料が共有結合的に架橋されるよう、2つ以上のアミド結合が形成される。
【0028】
薬学組成物の特定の例示的な実施形態の詳細は、前述のように、WO2017/077300A1で参照可能である。
【0029】
取り扱いを単純化するために、架橋手段および/または薬学組成物は、眼科手術セットの計量機構内部の流体であってもよい。
計量機構は、注射器、ピペット、または架橋流体の滴下を可能にする他の装置であってもよい。
【0030】
薬学組成物を投与するために、計量機構は、薬学組成物を有する第1のチャンバーと、1つ以上のペプチドカップリング試薬とオプションで適切な薬学的に許容される担体に溶解している活性剤とを有する第2のチャンバーと、を有してもよく、この計量機構は、第1のチャンバーと第2のチャンバーとの内容物の少なくとも一部を、眼への適用前又は適用中に混合するよう構成されている。
【0031】
眼科手術セットは、過剰な流体および/または過剰な架橋手段を除去するための蓋バリアおよび/または受容手段(例えば、綿棒)を含んでもよい。
【0032】
基本的な目的が、従属請求項14の特徴によってさらに達成される。
すなわち、コンタクトレンズが、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載された眼科手術セットに用いるために示されている。
コンタクトレンズは、角膜に面して実質的に正常な角膜形状の原型として形成されている変形側を有し、前記変形側と前記コンタクトレンズを装着する眼との間に負圧を提供する手段を有し、この負圧を提供する手段を有することで、前記角膜を前記変形側に接するように吸引可能であり、その結果、前記角膜を実質的に正常な角膜形状にすることが可能になる。
【0033】
コンタクトレンズは、射出成形プロセス、マイクロ射出成形プロセス、機械加工プロセス(例えば旋削やフライス加工)、または3D印刷プロセスによって製造されてもよい。
【0034】
請求項14に記載された本発明のコンタクトレンズが、請求項1から請求項13に記載された眼科手術セットに含まれるコンタクトレンズにおける1つ以上の特徴を有する範囲について、明確な言及がなされている。
さらに、請求項14に記載されたコンタクトレンズは、請求項1から請求項13に関する前述の記載と、以下の治療手順の記載との1つ以上の特徴を有していてもよい。
【0035】
特に、本明細書は、請求項1から請求項13のいずれかに記載された眼科手術セットを使用する、かつ/または請求項14に記載されたコンタクトレンズを使用する、視力障害の治療プロセスをさらに開示し、その治療プロセスは、
― 治療する眼に対して架橋手段を適用するステップと、
― 治療する眼にコンタクトレンズを配置するステップと、角膜がコンタクトレンズの変形側に吸引されるように負圧を生成するステップと、
― 架橋が少なくとも実質的に完了するまで負圧を維持するステップと、
― 治療する眼からコンタクトレンズを取り外すステップと、
を含む。
【0036】
さらに、蓋バリアをまずに患者に使用し、オプションで、適用される架橋手段を希釈しないように、角膜を軽くたたいて乾燥させることが考えられる。
患者が望む場合、または、眼をじっとできない場合は、麻酔下で手術を行うことも可能である。
【0037】
コンタクトレンズを眼から取り外すと、残っている架橋手段および/または試薬を洗い流すことが必要な場合がある。
【0038】
患者が以前にコンタクトレンズを使用して視力障害を矯正したことがある場合、予備検査前の少なくとも1週間はソフトコンタクトレンズを使用せず、予備検査前の少なくとも2週間はハードコンタクトレンズを使用しない場合、検査結果に影響を及ぼさず、有利である場合がある。
予備検査は、眼圧測定を含んでもよく、眼圧測定では、緑内障(ドイツ語で「緑の星」としても知られている)を除外するために、眼の内圧が測定される。
さらに、角膜の弱い部分(具体的には、角膜の端)と角膜の変性とを判断するために、角膜診断を実施可能である。
この目的のために、点眼薬を使用して瞳孔を拡張可能である。
さらに、視力および屈折を判断可能であり、すなわち、治療する眼の屈折力(ジオプター数)の客観的および主観的な判断が可能である。
さらに、厚さ測定を使用可能であり、すなわち、超音波検査による角膜の厚さの測定および/またはレーザー技術(IOLマスター)による眼球の長さを測定するための生体認証が実施される。
予備検査のさらなる追加の設計によれば、トポグラフィー、すなわち、眼の表面および/または角膜の曲率の測定と、個々に異なる高さおよび曲率の値の判断とを実施することができる。
したがって、考えられる角膜疾患または角膜瘢痕を特定することができる。
このような予備検査が、患者に個別に適合する本発明のコンタクトレンズの設計を決定するための基礎となっている。
【0039】
前述の厚さ測定、生体認証、および/または角膜トポグラフィーによって、角膜の目標トポグラフィーを判断することができ、治療後に所望の反応結果を得ることができる。
この場合、角膜の準トポグラフィーベクトル地図が、「実際の」状態と理想的な「目標」状態(正常状態)とにおいて、ミクロン単位の精度で作成される。
この「目標」状態とは、乱視の矯正と主な屈折目標(目の長さなどを考慮して角膜上に鮮明な画像を描くこと)とが達成される状態であると定義できる。
【0040】
この目標トポグラフィーは、具体的には変形側は、患者特有に製造されるコンタクトレンズの基礎となる「原型」(型と同様)として使用できる。
コンタクトレンズは、射出成形プロセス、マイクロ射出成形プロセス、機械加工プロセス(例えば、旋削やフライス加工)、または3D印刷プロセスによって製造されてもよい。
【0041】
いずれの場合も、患者に個別に適合するコンタクトレンズは、変形側の内側の曲率や設計により所望の勾配付与(遠視)または平坦化(近視)を、角膜吸引によって確保することができ、したがって、LASIK治療の簡単な代替手段となる。
乱視の矯正および多焦点架橋(すなわち、遠視のための領域と近視のための領域とを角膜上に生成すること)も考えられる。
【0042】
そして、本発明を設計および向上させるための様々なオプションが存在する。
この目的のために、一方では、請求項1を遡って参照する請求項を参照されたく、他方では、図面による本発明の実施形態の後述の説明を参照されたい。
図面による本発明の実施形態の説明と併せて、本教示の実施形態および向上も、一般的に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明によるコンタクトレンズを含む眼科手術セットの実施形態の概略図。
図2図1の実施形態の概略図。
図3】本発明による眼科手術セットの架橋手段が用いられる、人間または動物の眼の概略断面図。
図4】本発明による眼科手術セットのコンタクトレンズが用いられる、人間または動物の眼のさらなる概略断面図。
図5図4で、角膜と変形側との間に負圧が存在している図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1および図2は、本発明による眼科手術セットにおける、本発明によるコンタクトレンズ1の実施形態を示す。
コンタクトレンズ1は、形状安定性材料から製造され、接続部2として設計されている負圧を提供する手段を有し、接続部2には、流体接続要素3として機能するチューブ4が結合されている。
コンタクトレンズ1は、チューブ4を介して注射器5に接続され、注射器5は、治療される眼7の角膜6(図1および図2には不図示)とコンタクトレンズ1の変形側8との間に負圧を生成するために使用される。
【0045】
変形側8は、治療される眼に個別に適合する。
すなわち、正常な角膜形状の原型に、実質的に対応している。
【0046】
注射器ピストン9には、弾性要素10(すなわち、ばね11)を介して事前に力がかけられている。
図2は、コンタクトレンズ1が十字線やレチクルの形状のマーキング15を有することを示す。
これにより、外科医がコンタクトレンズ1を眼7上に正確に簡単な方法で位置決めすることできる。
【0047】
本発明による眼科手術セットの使用を、図3から図5を用いて説明する。
最初に、架橋手段12が、具体的には液滴として、角膜6に対して用いられる。
次のステップでは、図4に示すように、眼7に個別適合したコンタクトレンズ1を挿入する。
図4は、角膜6と変形側8との間に負圧が少なくとも実質的に存在しない程度まで、注射器ピストン9をばね11で押し付けていることを、明確に示す。
【0048】
注射器ピストン9を解放するか、または、外科医が手放すと、ばね11は、定められた負圧を変形側8と角膜6との間に生成するように、注射器ピストン9を注射器シリンダー13から押し出す。
この状態は、図5で示され、図5は、角膜6が負圧によって変形側8に接するように吸引されていることも示す。
したがって、角膜6は、所望の正常な角膜形状に位置および保持され、その状態で、架橋手段12が効果を発揮可能である。
架橋手段12の作用メカニズムは、眼のコラーゲン線維の架橋を示す組織14を用いて、図5に示されている。
【0049】
架橋手段12が効果を発揮すると、負圧を解放することができ、コンタクトレンズ1を眼から取り外すことができる。
架橋手段12によって、角膜6の生体力学的な抵抗が増加し、正常な角膜形状が、少なくともより長期間保持される。
【0050】
本発明による眼科手術セットの他の実施形態に関して、繰り返しを回避するために、説明の一般的な部分と添付の特許請求の範囲とを参照されたい。
【0051】
最後に、本発明による眼科手術セットの実施形態は、本発明を説明するためにのみ用いられ、本発明の実施形態に限定しない。
【符号の説明】
【0052】
1 ・・・コンタクトレンズ
2 ・・・接続部
3 ・・・流体接続要素
4 ・・・チューブ
5 ・・・注射器
6 ・・・角膜
7 ・・・眼
8 ・・・変形側
9 ・・・注射器ピストン
10 ・・・弾性要素
11 ・・・ばね
12 ・・・架橋手段
13 ・・・注射器シリンダー
14 ・・・組織
15 ・・・マーキング
図1
図2
図3
図4
図5