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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】燃料電池用電解質膜及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1016 20160101AFI20220615BHJP
   H01M 8/1011 20160101ALI20220615BHJP
   H01M 8/106 20160101ALI20220615BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
H01M8/1016
H01M8/1011
H01M8/106
H01B1/06 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021050730
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2022-02-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】水木 一博
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-220463(JP,A)
【文献】特開2002-198067(JP,A)
【文献】特開2006-278231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
C25B 13/00
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスによって構成されるイオン伝導体と、
樹脂によって構成される支持体と、
前記イオン伝導体と同じ極性の官能基を有し、前記イオン伝導体と前記支持体とを結着する結着剤と、
を備える、
燃料電池用電解質膜。
【請求項2】
前記イオン伝導体は、プロトン伝導性であり、
前記結着剤は、酸性の官能基を有する、
請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項3】
前記イオン伝導体は、水酸化物イオン伝導性であり、
前記結着剤は、塩基性の官能基を有する、
請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項4】
前記結着剤はさらに、炭素鎖を有し、
前記支持体は、親水性又は疎水性であり、
前記炭素鎖は、親水性及び疎水性のうち、前記支持体と同じ特性を有する、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項5】
前記支持体は、疎水性であり、
前記炭素鎖は、疎水性である、
請求項4に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項6】
前記結着剤は、グラフト型のポリマーであり、
前記炭素鎖は、前記ポリマーのグラフト鎖である、
請求項4又は請求項5に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項7】
前記支持体は、絶縁性である、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項8】
前記支持体は、フッ素樹脂である、
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、
メタノールを含む燃料が供給されるアノードと、
酸化剤が供給されるカソードと、
を備える、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電解質膜及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的に、電解質膜と、一対の電極とを有している。電解質膜は、一対の電極間に配置されている。特許文献1には、シリカ微粒子等によって構成されたイオン伝導体と、樹脂によって構成された支持体と、を複合化させた電解質膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-23185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池の一種として、メタノールを燃料とする直接メタノール形燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)が知られている。上記の電解質膜をDMFCに用いた場合、メタノールが電解質膜を透過し、カソード側へ漏れ出す、いわゆるメタノールクロスオーバーが発生するという問題がある。メタノールクロスオーバーが発生すると、燃料電池の出力が大きく低下してしまう。そのため、DMFCのような燃料電池において、その出力を向上させることが要望されている。
【0005】
本発明は、出力向上に有効な燃料電池用電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、メタノールの透過がイオン伝導体と支持体との界面で生じていることを見出した。
【0007】
本発明の燃料電池用電解質膜は、イオン伝導体と、支持体と、結着剤と、を備える。イオン伝導体は、セラミックスによって構成される。支持体は、樹脂によって構成される。結着剤は、イオン伝導体と同じ極性の官能基を有する。結着剤は、イオン伝導体と支持体とを結着する。
【0008】
この構成によれば、結着剤がイオン伝導体と支持体との密着性を高めるため、イオン伝導体と支持体との界面におけるメタノールの透過を抑制することができる。さらに、結着剤がイオン伝導体と同じ極性の官能基を有するため、イオン伝導体と結着剤との密着性が高まる。これにより、イオン伝導体と結着剤との界面におけるメタノール透過を抑制することができる。その結果、メタノールクロスオーバーの発生を抑制し、燃料電池の出力を向上させることができる。
【0009】
好ましくは、イオン伝導体は、プロトン伝導性である。結着剤は、酸性の官能基を有する。
【0010】
好ましくは、イオン伝導体は、水酸化物イオン伝導性である。結着剤は、塩基性の官能基を有する。
【0011】
好ましくは、結着剤はさらに、炭素鎖を有する。支持体は、親水性又は疎水性である。炭素鎖は、親水性及び疎水性のうち、支持体と同じ特性を有する。この場合、支持体に対する結着剤の濡れ性が高まるため、燃料電池用電解質膜の強度が高まる。
【0012】
好ましくは、支持体は、疎水性である。炭素鎖は、疎水性である。
【0013】
好ましくは、結着剤は、グラフト型のポリマーである。炭素鎖は、ポリマーのグラフト鎖である。この場合、イオン伝導体の表面を十分に覆うことができるため、イオン伝導体と結着剤との界面におけるメタノール透過をさらに抑制することができる。
【0014】
好ましくは、支持体は、絶縁性である。
【0015】
好ましくは、支持体は、フッ素樹脂である。
【0016】
本発明の燃料電池は、上記いずれかの燃料電池用電解質膜と、アノードと、カソードと、を備える。アノードは、メタノールを含む燃料が供給される。カソードは、酸化剤が供給される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、燃料電池の出力向上に有効な燃料電池用電解質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る燃料電池用電解質膜を用いた直接メタノール形燃料電池の構成の一例を示す模式図である。
図2】実施形態に係る燃料電池用電解質膜の断面図である。
図3】実施形態に係る燃料電池用電解質膜の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態に係る電解質膜10を含むDMFC100について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
[DMFC100]
図1に示すように、DMFC100は、プロトンをキャリアとする燃料電池の一種である。DMFC100は、上記の電解質膜10、アノード20、及び、カソード30を備える。電解質膜10は、アノード20及びカソード30の間に配置される。DMFC100は、燃料供給部21及び酸化剤供給部22をさらに有する。
【0021】
DMFC100は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、50℃~250℃)で発電することが好ましい。下記の電気化学反応式では、燃料としてメタノールが用いられている。
【0022】
・アノード20:CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-
・カソード30:6H++3/2O2+6e-→3H2
・ 全体 :CH3OH+3/2O2→CO2+2H2
【0023】
燃料供給部21は、DMFC100の作動中、メタノール(CH3OH)を含む燃料を後述するアノード20に供給する。燃料に含まれるメタノールは、気相状態、液相状態、気相及び液相の混合状態のいずれであってもよい。燃料供給部21は、供給管21a、供給空間21b及び排出管21cを有する。供給管21aから導入される燃料は、供給空間21bにおいてアノード20に供給される。アノード20において消費されなかった燃料とアノード20において発生する二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)は、排出管21cから外部に排出される。
【0024】
酸化剤供給部22は、カソード30に酸素(O2)を含む酸化剤を供給する。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。酸化剤供給部22は、供給管22a、供給空間22b及び排出管22cを有する。供給管22aから導入される酸化剤は、供給空間22bにおいてカソード30に供給される。カソード30において消費されなかった酸化剤は、排出管22cから外部に排出される。
【0025】
[アノード20]
アノード20は、一般に燃料極と呼ばれる陰極である。DMFC100の発電中、アノード20には、メタノールを含む燃料が燃料供給部21から供給される。アノード20は、内部にメタノールを拡散可能な多孔質体である。アノード20の気孔率は特に制限されない。アノード20の厚みは特に制限されないが、例えば10~500μmとすることができる。
【0026】
アノード20は、公知のアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。また、アノード触媒の表面には多孔質材料等で構成された拡散層を配置してもよい。アノード20の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、白金ルテニウム担持カーボン(PtRu/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0027】
アノード20の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒及び所望により担体をバインダと混合してペースト状混合物を調製し、このペースト状混合物を電解質膜10のアノード側表面に塗布することにより形成することができる。
【0028】
[カソード30]
カソード30は、一般に空気極と呼ばれる陽極である。DMFC100の発電中、カソード30には、酸素(O2)を含む酸化剤が酸化剤供給部22から供給される。カソード30は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード30の気孔率は特に制限されない。カソード30の厚みは特に制限されないが、例えば10~200μmとすることができる。
【0029】
カソード30は、公知の空気極触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8~10族元素(IUPAC形式での周期表において第8~10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。カソード30における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05~10mg/cm2、より好ましくは、0.05~5mg/cm2である。カソード触媒はカーボンに担持させるのが好ましい。カソード30の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、白金コバルト担持カーボン(PtCo/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0030】
カソード30の作製方法は特に限定されないが、例えば、空気極触媒及び所望により担体をバインダと混合してペースト状混合物を調製し、このペースト状混合物を電解質膜10のカソード側表面に塗布することにより形成することができる。
【0031】
[電解質膜10]
電解質膜10は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。電解質膜10の厚みは特に制限されないが、例えば5~100μmである。
【0032】
図2及び図3に示すように、電解質膜10は、イオン伝導体12と、支持体13と、結着剤14と、を含む。
【0033】
[イオン伝導体12]
イオン伝導体12は、支持体13中に分散されている。イオン伝導体12は、支持体13によって支持される。
【0034】
イオン伝導体12は、プロトン伝導性である。プロトン伝導性を有するイオン伝導体12を、以下、酸性系のイオン伝導体12とも言う。DMFC100の発電中、電解質膜10は、主にイオン伝導体12によって、アノード20からカソード30側にプロトン(H+)を伝導する。
【0035】
イオン伝導体12のプロトン伝導率は特に制限されないが、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、さらに好ましくは1.0mS/cm以上である。イオン伝導体12のプロトン伝導率は、高いほど好ましく、その上限値は特に制限されないが、例えば10mS/cmである。
【0036】
イオン伝導体12は、セラミックスによって構成される。イオン伝導体12としては、プロトン伝導性を有する周知の親水性のセラミック材料を用いることができる。このようなセラミック材料は例えば、プロトン伝導性を有する金属酸化物水和物などを用いることができる。このような金属酸化物水和物としては、酸化ジルコニウム水和物、一水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化タングステン水和物、酸化スズ水和物、ニオブをドープした酸化タングステン、酸化ケイ素水和物、酸化リン酸水和物、ジルコニウムをドープした酸化ケイ素水和物、タングストリン酸、モリブドリン酸などである。
【0037】
イオン伝導体12は、表面が酸性の官能基により修飾されている。官能基は例えば、スルホン酸基、リン酸基などである。
【0038】
電解質膜10におけるイオン伝導体12の含有量は、30~70体積%とすることができる。なお、電解質膜10は、実質的にイオン伝導体12、支持体13及び結着剤14のみによって構成されており、その他の物質は無視できる程度である。
【0039】
イオン伝導体12の含有量は、電解質膜10の断面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察して、SEM画像上において樹脂より輝度が高く表示されるイオン伝導体12の面積率を画像解析にて算出することによって得られる。
【0040】
イオン伝導体12を構成するセラミックス粒子の平均粒径は、円相当径で0.5~5.0μmとすることができる。イオン伝導体12を構成するセラミックス粒子の比表面積は、1~200m2/cm3とすることができる。
【0041】
イオン伝導体12の平均粒径は、電解質膜10の断面をSEM又はTEM(透過型電子顕微鏡)で観察して、観察画像上において無作為に選択した20個のイオン伝導体12の円相当径を算術平均することによって得られる。円相当径は、イオン伝導体12の各々の粒子の面積を求め、求めた面積から計算する。
【0042】
イオン伝導体12の比表面積は、イオン伝導体12の平均粒径から平均表面積及び平均体積を算出して、平均表面積を平均体積で割ることによって算出される。
【0043】
[支持体13]
支持体13は、イオン伝導体12を支持する。詳細には、支持体13が結着剤14を介してイオン伝導体12を支持することによって、電解質膜10の形状を維持している。
【0044】
支持体13は、プロトン伝導性を有しない樹脂によって構成される。つまり、支持体13は、絶縁性である。例えば、支持体13は、絶縁性を有する周知の樹脂によって構成されている。詳細には、支持体13のイオン伝導率は、0.01mS/cm以下である。
【0045】
支持体13は、疎水性の特性を有する樹脂である。ここで、疎水性の特性を有するとは、水に不溶(又は微溶)であることを意味する。疎水性の特性を有する樹脂は例えば、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)などのスーパーエンプラに該当する樹脂である。スーパーエンプラとは、耐熱性・機械的強度が非常に高い高機能樹脂である。
【0046】
支持体13は、疎水性の特性を有するフッ素樹脂であってもよい。支持体13を構成する材料は例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はその誘導体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はその誘導体、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペン(FEP)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、コポリマー、特に、PVDF-HFP(ヘキサフルオロプロピレン)又はPVDF-POEなどである。好ましくは、支持体13は、PVDFである。
【0047】
[結着剤14]
結着剤14は、イオン伝導体12と支持体13とを結着する。具体的には、次のとおりである。結着剤14は、イオン伝導体12を構成する各構成粒子間、及び、イオン伝導体12の構成粒子と支持体13との間に配置されている。本実施形態において、結着剤14がイオン伝導体12と支持体13とを結着して、イオン伝導体12と支持体13との密着性を高める。
【0048】
イオン伝導体12の体積と支持体13の体積と結着剤14の体積との和に対する結着剤14の体積の割合(結着剤14の含有量)は例えば、0.5~20.0体積%である。結着剤14の含有量の上限は、好ましくは17.5%であり、さらに好ましくは15.5%である。
【0049】
結着剤14の分子量は例えば、103~105とすることができる。ここで、結着剤14の分子量は、数平均分子量である。数平均分子量の測定方法は、公知の方法で行うことができる。例えば、ゲルパーエミッションクロマトグラフィーを用い、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とし、示唆屈折率を検出することで測定することができる。数平均分子量は、標準試料であるポリスチレンのGPC測定結果に基づいた検量線を作成し、測定試料の測定結果をポリスチレン換算値として算出する。
【0050】
結着剤14は、グラフト型のポリマーである。ポリマーとは平均分子量が103以上であって、基本骨格が繰り返された構造を有するものを指す。グラフト型のポリマーとは、高分子の主鎖から枝のように生えた炭素鎖14Bの構造を有するポリマーである。そのため、炭素鎖14Bは、グラフト型のポリマーのグラフト鎖である。本実施形態において、グラフト鎖とは、ポリマーの主鎖の根元から、主鎖から枝分かれしている基の末端までを示す。
【0051】
グラフト型のポリマーの主鎖構造は例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂などとすることができる。グラフト型のポリマーの主鎖構造は、好ましくは(メタ)アクリル樹脂である。
【0052】
結着剤14は、官能基14Aと炭素鎖14Bとを有する。
【0053】
[官能基14A]
官能基14Aは、グラフト型のポリマーの主鎖に直接結合している。官能基14Aは、酸性である。イオン伝導体12の表面において、酸性の官能基14Aが酸性系のイオン伝導体12に結合して、イオン伝導体12を被覆する。つまり、結着剤14は、イオン伝導体12と同じ極性の官能基14Aを有する。これにより、イオン伝導体12と結着剤14との界面での密着性が高まり、イオン伝導体12と結着剤14との界面でのメタノールの透過を抑制することができる。
【0054】
官能基14Aは例えば、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基などとすることができる。官能基14Aは、好ましくは、カルボキシル基である。
【0055】
官能基14Aの種類は、公知の方法で特定することができる。官能基14Aの種類の特定方法は例えば、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)を用いて特定する。具体的には、電解質膜10から混合有機物を採取する。採取した混合有機物をガス化する。熱分解GC-MSを用いて、ガス化した混合有機物を、カラムを通して成分分離する。質量分析装置で各成分の質量スペクトルを得る。質量スペクトルに対して検索を行うことで、化合物を同定する。
【0056】
結着剤14は、官能基14Aを有する繰り返し単位を含む。結着剤14は、官能基14Aを有する繰り返し単位と、その他の繰り返し単位を含む共重合体でもよい。
【0057】
官能基14Aを有する繰り返し単位は、官能基14Aを有するモノマーを用いて構成できる。酸性の官能基14Aを有するモノマーとしては、カルボキシル基を有するビニルモノマー、スルホン酸基を有するビニルモノマー、リン酸基を有するビニルモノマーなどが挙げられる。
【0058】
カルボキシル基を有するビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、アクリル酸ダイマーなどが挙げられる。また、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する単量体と無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物のような環状無水物との付加反応物、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートなども利用できる。また、カルボキシル基の前駆体として無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの無水物含有モノマーを用いてもよい。なかでも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する単量体と無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物のような環状無水物との付加反応物が好ましい。
【0059】
スルホン酸基を有するビニルモノマーとしては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0060】
リン酸基を有するビニルモノマーとしては、リン酸モノ(2-アクリロイルオキシエチルエステル)、リン酸モノ(1-メチル-2-アクリロイルオキシエチルエステル)などが挙げられる。
【0061】
[炭素鎖14B]
本実施形態においては、炭素鎖14Bは疎水性であり、支持体13も疎水性である。つまり、炭素鎖14Bは、親水性及び疎水性のうち、支持体13と同じ特性を有する。そのため、支持体13の表面において、疎水性の炭素鎖14Bと、疎水性の支持体13と、が相互作用し、支持体13に対する結着剤14の濡れ性が高まる。これにより、支持体13と結着剤14との界面での密着性が高まり、電解質膜10の強度が高まる。親水性又は疎水性の程度によらず、炭素鎖14Bが親水性及び疎水性のうち支持体13と同じ特性を有すれば、この効果が得られる。
【0062】
炭素鎖14Bは、グラフト型のポリマーのグラフト鎖である。炭素鎖14Bは例えば、置換又は無置換のアルキル基、アルキレン基、アリール基などとすることができる。アルキル基の炭素数は例えば、1~24とすることができる。アルキル基の炭素数は、好ましくは炭素数1~10である。アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキル基は例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i-プロピル基、i-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、t-オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2-ヘキシルデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシルメチル基、オクチルシクロヘキシル基などとすることができる。アリール基は縮環していてもよい。アルキレン基は例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ポリオキシアルキレン基等である。ここにアルキル鎖はまた枝分かれでき、例えばイソプロピレン基である。アリール基の炭素数は例えば、6~24である。アリール基は例えば、フェニル基、4-メチルフェニル基、3-シアノフェニル基、2-クロロフェニル基、2-ナフチル基などとすることができる。
【0063】
アルキル基、アルキレン基、及びアリール基は置換基を有していてもよい。置換基の例としては以下のものが挙げられる。
【0064】
アルキル基の置換基としては、好ましくは炭素数1~24、より好ましくは炭素数1~10のアルキル基であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i-プロピル基、i-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、t-オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2-ヘキシルデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシルメチル基、オクチルシクロヘキシル基等である。
【0065】
アルキレン基の置換基としては、好ましくは炭素数1~20のアルキレン基である。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン、イソプロピレン基である。
【0066】
アリール基の置換基としては、好ましくは炭素数6~24のアリール基であり、縮環していてもよい。例えばフェニル基、4-メチルフェニル基、3-シアノフェニル基、2-クロロフェニル基、2-ナフチル基等である。
【0067】
炭素鎖14Bは、公知の方法で特定することができる。炭素鎖14Bの特定方法は例えば、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)を用いて特定する。具体的には、電解質膜10から混合有機物を採取する。採取した混合有機物をガス化する。熱分解GC-MSを用いて、ガス化した混合有機物を、カラムを通して成分分離する。質量分析装置で各成分の質量スペクトルを得る。質量スペクトルに対して検索を行うことで、化合物を同定する。
【0068】
結着剤14は、モノマーをラジカル重合させることにより得られる。モノマーとしては、上記のような公知のモノマーを用いることができる。
【0069】
[電解質膜10の製造方法]
次に、電解質膜10の製造方法について説明する。
【0070】
熱処理後のイオン伝導体12と、支持体13と、結着剤14との混合物を用いて電解質膜10を成膜する。電解質膜10の成膜方法は特に限られないが、例えば、以下に説明する単純分散法を用いることができる。
【0071】
まず、支持体13とする有機高分子を溶媒に溶解させることによってワニスを調製する。溶媒は、有機高分子を溶解可能で、膜化後に蒸発させられるものであればよい。溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、あるいはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、i-プロピルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコールを用いることができる。
【0072】
次に、調製したワニスにイオン伝導体12及び結着剤14を混合することによって混合物を調製する。ワニス、イオン伝導体12及び結着剤14の混合方法としては、例えば、スターラ法、ボールミル法、ジェットミル法、ナノミル法、超音波などを用いることができる。
【0073】
次に、ワニス、イオン伝導体12及び結着剤14の混合物を基板上に膜化した後、溶媒を蒸発させることによって電解質膜10を作製する。基板は、膜化後に電解質膜10を剥がすことができるものであればよく、例えば、ガラス板、ポリテトラフルオロエチレンシート、ポリイミドシートなどを用いることができる。混合物の膜化方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0074】
[実施形態の変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0075】
(変形例1)
上記実施形態では、DMFC100の一例として、プロトンをキャリアとする燃料電池であるDMFC100の電解質膜10について説明したが、電解質膜10は、これに限られない。
【0076】
電解質膜10は、水酸化物イオンをキャリアとする燃料電池の電解質膜10であってもよい。この場合、水酸化物イオン伝導性のイオン伝導体12と、絶縁性を有する支持体13と、塩基性の官能基14Aを有する結着剤14と、を含む電解質膜10を用いればよい。
【0077】
水酸化物イオン伝導性を有するイオン伝導体12を、以下、水酸化物系イオン伝導体とも言う。直接メタノール形燃料電池100の発電中、電解質膜10は、主にイオン伝導体12によって、アノード20からカソード30側に水酸化物イオン(OH-)を伝導する。
【0078】
イオン伝導体12のイオン伝導率は特に制限されないが、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、さらに好ましくは1.0mS/cm以上である。イオン伝導体12のイオン伝導率は、高いほど好ましく、その上限値は特に制限されないが、例えば10mS/cmである。
【0079】
イオン伝導体12としては、水酸化物イオン伝導性を有する周知のセラミック材料を用いることができる。このようなセラミック材料としては、例えば、以下に説明する層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)が挙げられる。
【0080】
LDHは、M2+ 1-x3+ x(OH)2n-x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4、mは水のモル数を意味する任意の整数である)の一般式で示される基本組成を有する。M2+の例としてはMg2+、Ca2+、Sr2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、及びZn2+が挙げられ、M3+の例としては、Al3+、Fe3+、Ti3+、Y3+、Ce3+、Mo3+、及びCr3+が挙げられ、An-の例としてはCO3 2-及びOH-が挙げられる。M2+及びM3+としては、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0081】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。中間層は、陰イオン及びH2Oで構成される。水酸化物基本層は、例えば金属MがNi、Al、Tiの場合には、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。以下、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含む場合について説明する。
【0082】
LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましいが、他の元素ないしイオンを含んでいてもよいし、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物は、製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。
【0083】
LDHの中間層は、陰イオン及びH2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH-及び/又はCO3 2-を含む。
【0084】
上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合、LDHは、一般式:Ni2+ 1-x-yAl3+ xTi4+ y(OH)2n- (x+2y)/n・mH2O(式中、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0085】
本実施形態においては、結着剤14は、塩基性の官能基14Aを有する。イオン伝導体12の表面において、官能基14Aが水酸化物系のイオン伝導体12に結合して、イオン伝導体12を被覆する。つまり、結着剤14が、イオン伝導体12と同じ極性の官能基14Aを有する。これにより、イオン伝導体12と結着剤14との界面での密着性が高まり、イオン伝導体12と結着剤14との界面でのメタノールの透過を抑制することができる。
【0086】
官能基14Aは例えば、アミン基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、トリアルキルアンモニウム基などとすることができる。
【0087】
結着剤14は、官能基14Aを有する繰り返し単位を含む。結着剤14は、官能基14Aを有する繰り返し単位と、それ以外の繰り返し単位と、を含む共重合体でもよい。
【0088】
官能基14Aを有する繰り返し単位は、官能基14Aを有するモノマーを用いて構成できる。官能基14Aを有するモノマーとしては、4級アンモニウム塩基、窒素に結合した水素が置換基で置換されていてもよい2級又は3級アミノ基を含有する(メタ)アクリレート化合物が好ましく、特に好ましくは、3級アミノ基や4級アンモニウム塩基を含有する(メタ)アクリレート化合物である。
【0089】
(変形例2)
上記実施形態では、支持体13は疎水性であったが、特にこれに限定されない。支持体13は、親水性でもよい。親水性の支持体13を用いる場合、結着剤14は、親水性のグラフト鎖を有する。親水性のグラフト鎖は例えば、トリアルコキシシリル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、及び、イソシアネート基とすることができる。この時に使用される親水性化合物としては、親水性であれば特に限定はないが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びそれらの塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルアセトアミドなどとすることができる。その他、親水性モノマーの重合体、又は、親水性モノマーを含む共重合体を使用することができる。
【0090】
(変形例3)
上記実施形態では、結着剤14は、グラフト型のポリマーであったが、特にこれに限定されない。結着剤14は、例えば、ブロック型のポリマー、及び/又は、ランダム型ポリマーでもよい。
【0091】
(変形例4)
上記実施形態では、結着剤14は、ポリマーであったが、特にこれに限定されない。結着剤14は、低分子のものでもよい。ここでいう低分子とは、分子量で103以下の分子である。低分子は、合成され又は自然界から単離された化合物を含む。低分子は、重合度10以下の、直鎖状、分岐状又は環状の化合物を含んでもよい。
【実施例
【0092】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0093】
[電解質膜10の作製]
以下のようにして、試験番号1~10に係る電解質膜10を作製した。
【0094】
まず、表1に示すイオン伝導体12と結着剤14を準備した。グラフト型ポリマーの結着剤14の分子量は、103~105であった。
【0095】
次に、表1に示す絶縁性の支持体13をN-メチル-2-ピロリドンに溶解させることによってワニスを調製した。
【0096】
次に、調製したワニスにイオン伝導体12と結着剤14とをスターラ法で混合することによって混合物を調製した。
【0097】
次に、イオン伝導体12と支持体13と結着剤14との含有量が表1に示す値になるようにワニス、イオン伝導体12及び結着剤14との混合物を調製した。そして、調製した混合物をドクターブレード法で剥離フィルム上に膜化した後、乾燥処理(80℃、1時間)を施すことによってN-メチル-2-ピロリドンを蒸発させた。これによって、電解質膜10が完成した。
【0098】
[DMFC100の作製]
次に、Pt担持量50wt%(田中貴金属工業(株)社製TEC10E50E)の白金担持カーボン(以下、「Pt/C」という。)とPVDF粉末(以下、「PVDFバインダ」という。)とを準備した。そして、(Pt/C):(PVDFバインダ):(水)の重量比が9wt%:0.9wt%:90wt%となるように、Pt/C、PVDFバインダ及び水を混合してカソード用ペーストを作製した。
【0099】
次に、電解質膜10のカソード側表面にカソード用ペーストを塗布することによってカソード30を形成した。
【0100】
次に、Pt-Ru担持量54wt%(田中貴金属工業(株)社製TEC61E54)の白金ルテニウム担持カーボン(以下、「Pt-Ru/C」という。)と、PVDFバインダとを準備した。そして、(Pt-Ru/C):(PVDFバインダ):(水)の重量比が9wt%:0.9wt%:90wt%の比率となるように、Pt-Ru/C、PVDFバインダ及び水を混合してアノード用ペーストを作製した。
【0101】
次に、電解質膜10のアノード側表面にアノード用ペーストを塗布することによってアノード20を形成した。以上の工程により、DMFC100を得た。
【0102】
[CO2生成速度の測定]
CO2生成速度を、以下のとおり測定した。
【0103】
まず、上記のDMFC100を80℃に加熱した。
【0104】
次に、コンプレッサーを用いて、露点0℃以下の乾燥空気に適宜加湿した空気を酸化剤供給部22に供給し、カソード30における空気利用率が50%となるように調整した。空気の加湿には、カソード空気の出口ガスと熱交換させ、外部にヒーターを設置した加湿器を用いた。また、気化させたメタノールを燃料供給部21に供給し、アノード20における燃料利用率が50%となるように調整した。
【0105】
そして、空気とメタノールを供給しながら、カソード30においてメタノールから生成されるCO2量(μmol)をマルチガス分析計(株式会社堀場製作所社製、型式V-5000)で測定し、測定されたCO2量(μmol)を電解質膜10のカソード側表面の面積(cm2)及び測定時間(sec)で割ることによってCO2生成速度を算出した。CO2生成速度(μmol/scm2)が1.7未満のものをメタノール透過抑制性能に優れる(表1の◎)とした。CO2生成速度(μmol/scm2)が1.7以上2.5未満のものを十分なメタノール透過抑制性能を有する(表1の〇)とした。CO2生成速度(μmol/scm2)が2.5以上のものをメタノール透過抑制性能が低い(表1の×)とした。
【0106】
【表1】
【0107】
[電解質膜10の強度の測定]
電解質膜10の強度を、以下のとおり評価した。JISZ1707の試験方法に準拠して、Φ10mmの穴が空いた板に電解質膜10をはさみ、Φ0.5mmの針で穴の真ん中を突き刺して割れたときの最大破断荷重を測定した。表1では、結着剤14が無添加の電解質膜10における最大破断荷重を1として、結着剤14を添加した電解質膜10の最大荷重が1.3以上であったサンプルを強度に優れる(表1の◎)と評価した。最大荷重が1.3より小さく、1.1以上であってサンプルを十分な強度であると(表1の〇)と評価した。最大荷重が1.1Nより小さかったサンプルを強度不足(表1の×)と評価した。
【0108】
[評価結果]
試験番号1、3、4及び6~10では、いずれの試験番号においても、結着剤14がイオン伝導体12と同じ極性の官能基14Aを有した。そのため、高いメタノール透過抑制性能が得られた。
【0109】
試験番号1、3及び6~10では、結着剤14がさらに炭素鎖14Bを有し、炭素鎖14Bが支持体13と同じ疎水性の特性を有していたため、試験番号4よりも電解質膜10の強度が高かった。
【0110】
試験番号1、3、4、6及び7では、結着剤14がグラフト型ポリマーであった。そのため、試験番号8~10よりもメタノール透過抑制性能が高かった。
【0111】
一方、試験番号2及び5では、結着剤14がイオン伝導体12と同じ極性の官能基14Aを有しなかった。そのため、メタノール透過抑制性能が低かった。
【0112】
試験番号5ではさらに、炭素鎖14Bが疎水性の支持体13と異なる親水性の特性を有していた。そのため、電解質膜10の強度が低かった。
【符号の説明】
【0113】
10 電解質膜
12 イオン伝導体
13 支持体
14 結着剤
14A 官能基
14B 炭素鎖
【要約】
【課題】出力向上に有効な燃料電池用電解質膜を提供する。
【解決手段】燃料電池用電解質膜10は、イオン伝導体12と、支持体13と、結着剤14と、を備える。イオン伝導体12は、セラミックスによって構成される。支持体13は、樹脂によって構成される。結着剤14は、イオン伝導体12と同じ極性の官能基14Aを有する。結着剤14は、イオン伝導体12と支持体13とを結着する。
【選択図】図3
図1
図2
図3