IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本郵船株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図1
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図2
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図3
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図4
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図5
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図6
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図7
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図8
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図9
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図10
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図11
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図12
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図13
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図14
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図15
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図16
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図17
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図18
  • 特許-プログラム、異常検知方法及びシステム 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-14
(45)【発行日】2022-06-22
(54)【発明の名称】プログラム、異常検知方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G06F 11/22 20060101AFI20220615BHJP
   G06F 17/18 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
G06F11/22 675E
G06F17/18 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022521541
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2021022502
(87)【国際公開番号】W WO2021251503
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/023180
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳田 徹郎
【審査官】漆原 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156231(JP,A)
【文献】特開2017-17791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 11/22
G06F 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析の対象物の性能に関する第1項目の測定値と、当該測定値と同時期に測定された前記対象物の性能に影響を与える第2項目の測定値とを1つのデータセットとした場合に、
コンピュータに、
異なる2以上の期間の各々に関し、当該期間内に測定された前記第1項目及び前記第2項目の測定値を含む複数のデータセットを取得する取得処理と、
前記2以上の期間の各々に関し、前記取得処理において取得した複数のデータセットから、前記第2項目の測定値が所定の規則に従い定まる範囲内であるデータセットを抽出する抽出処理と、
前記2以上の期間の各々に関し、前記取得処理において取得したデータセットの数から前記抽出処理において抽出したデータセットの数を減じた値と、前記取得処理において取得したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値から前記抽出処理において抽出したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値を減じた値との比率を算出する算出処理と、
前記算出処理において前記2以上の期間の各々に関し算出した比率間の比較結果に基づき、前記第1項目又は前記第2項目の測定における持続的異常を検知する検知処理と
を実行させるためのプログラム。
【請求項2】
前記第1項目は複数の項目を含み、
前記コンピュータに、前記2以上の期間の各々に関し、前記抽出処理において抽出したデータセットの前記第1項目に含まれる複数の項目の測定値間の関係式を特定する特定処理を実行させ、
前記コンピュータに、前記算出処理において、前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値として、前記特定処理において特定した関係式と前記第1項目の測定値との差の統計的ばらつきを表す指標値を算出させる
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
解析の対象物の性能に関する第1項目の測定値と、当該測定値と同時期に測定された前記対象物の性能に影響を与える第2項目の測定値とを1つのデータセットとした場合に、
異なる2以上の期間の各々に関し、当該期間内に測定された前記第1項目及び前記第2項目の測定値を含む複数のデータセットを取得する取得ステップと、
前記2以上の期間の各々に関し、前記取得ステップにおいて取得した複数のデータセットから、前記第2項目の測定値が所定の規則に従い定まる範囲内であるデータセットを抽出する抽出ステップと、
前記2以上の期間の各々に関し、前記取得ステップにおいて取得したデータセットの数から前記抽出ステップにおいて抽出したデータセットの数を減じた値と、前記取得ステップにおいて取得したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値から前記抽出ステップにおいて抽出したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値を減じた値との比率を算出する算出ステップと、
前記算出ステップにおいて前記2以上の期間の各々に関し算出した比率間の比較結果に基づき、前記第1項目又は前記第2項目の測定における持続的異常を検知する検知ステップと
を備える異常検知方法。
【請求項4】
解析の対象物の性能に関する第1項目の測定値と、当該測定値と同時期に測定された前記対象物の性能に影響を与える第2項目の測定値とを1つのデータセットとした場合に、
異なる2以上の期間の各々に関し、当該期間内に測定された前記第1項目及び前記第2項目の測定値を含む複数のデータセットを取得する取得手段と、
前記2以上の期間の各々に関し、前記取得手段が取得した複数のデータセットから、前記第2項目の測定値が所定の規則に従い定まる範囲内であるデータセットを抽出する抽出手段と、
前記2以上の期間の各々に関し、前記取得手段が取得したデータセットの数から前記抽出手段が抽出したデータセットの数を減じた値と、前記取得手段が取得したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値から前記抽出手段が抽出したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値を減じた値との比率を算出する算出手段と、
前記算出手段が前記2以上の期間の各々に関し算出した比率間の比較結果に基づき、前記第1項目又は前記第2項目の測定における持続的異常を検知する検知手段と
を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定における持続的異常を検知するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者は、解析の対象物(例えば、船舶等)の性能に関する2以上の項目(以下、「解析項目群」という)の各々の測定値と、当該対象物の性能に影響を与える1以上の項目(以下、「絞込項目群」という)の各々の測定値とを、同時期に測定されたもの同士で組にしたデータセットが複数あり、それらのデータセットからできるだけデータセットの数を減らすことなく、絞込項目群の測定値に異常値を含む可能性の低いデータセットを抽出した後に、それらのデータセットの解析項目群に含まれる2以上の項目間の関係を特定する場合に、データセットの抽出の作業を、作業者の直感や経験等に左右されることなく高い再現性で行うことを可能とする技術を発明した。当該発明は、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/262038号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明に係る方法においては、絞込項目群に含まれる複数の項目のなかから選択された1つの項目の測定値が所定の規則に従い定まる範囲内であるデータセットが、異常値を含まない可能性の高いデータセットの候補として抽出される。そして、それらの複数のデータセットの候補のうち、抽出の前後におけるデータセットの数の減少量に対する、抽出の前後におけるデータセットに含まれる解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値の減少量の比率(以下、この比率を「フィルタリング効率」という)が最も大きくなるデータセットが、抽出後のデータセットとして採用される。
【0005】
本発明の発明者は、特許文献1に記載の発明において用いられるフィルタリング効率を用いて、データセットに含まれる測定値の測定において持続的な異常が発生している場合に、その検知を行うことができることに着想した。
【0006】
本発明は、解析の対象物の性能に関する第1項目の測定値と、当該測定値と同時期に測定された前記対象物の性能に影響を与える第2項目の測定値とを1つのデータセットとした場合に、第1項目又は第2項目の測定における持続的異常を検知する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、解析の対象物の性能に関する第1項目の測定値と、当該測定値と同時期に測定された前記対象物の性能に影響を与える第2項目の測定値とを1つのデータセットとした場合に、コンピュータに、異なる2以上の期間の各々に関し、当該期間内に測定された前記第1項目及び前記第2項目の測定値を含む複数のデータセットを取得する取得処理と、前記2以上の期間の各々に関し、前記取得処理において取得した複数のデータセットから、前記第2項目の測定値が所定の規則に従い定まる範囲内であるデータセットを抽出する抽出処理と、前記2以上の期間の各々に関し、前記取得処理において取得したデータセットの数から前記抽出処理において抽出したデータセットの数を減じた値と、前記取得処理において取得したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値から前記抽出処理において抽出したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値を減じた値との比率を算出する算出処理と、前記算出処理において前記2以上の期間の各々に関し算出した比率間の比較結果に基づき、前記第1項目又は前記第2項目の測定における持続的異常を検知する検知処理とを実行させるためのプログラムを第1の態様として提案する。
【0008】
上記の第1の態様に係るプログラムにおいて、前記第1項目は複数の項目を含み、前記コンピュータに、前記2以上の期間の各々に関し、前記抽出処理において抽出したデータセットの前記第1項目に含まれる複数の項目の測定値間の関係式を特定する特定処理を実行させ、前記コンピュータに、前記算出処理において、前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値として、前記特定処理において特定した関係式と前記第1項目の測定値との差の統計的ばらつきを表す指標値を算出させる、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0009】
また、本発明は、解析の対象物の性能に関する第1項目の測定値と、当該測定値と同時期に測定された前記対象物の性能に影響を与える第2項目の測定値とを1つのデータセットとした場合に、異なる2以上の期間の各々に関し、当該期間内に測定された前記第1項目及び前記第2項目の測定値を含む複数のデータセットを取得する取得ステップと、前記2以上の期間の各々に関し、前記取得ステップにおいて取得した複数のデータセットから、前記第2項目の測定値が所定の規則に従い定まる範囲内であるデータセットを抽出する抽出ステップと、前記2以上の期間の各々に関し、前記取得ステップにおいて取得したデータセットの数から前記抽出ステップにおいて抽出したデータセットの数を減じた値と、前記取得ステップにおいて取得したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値から前記抽出ステップにおいて抽出したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値を減じた値との比率を算出する算出ステップと、前記算出ステップにおいて前記2以上の期間の各々に関し算出した比率間の比較結果に基づき、前記第1項目又は前記第2項目の測定における持続的異常を検知する検知ステップとを備える異常検知方法を第3の態様として提案する。
【0010】
また、本発明は、解析の対象物の性能に関する第1項目の測定値と、当該測定値と同時期に測定された前記対象物の性能に影響を与える第2項目の測定値とを1つのデータセットとした場合に、異なる2以上の期間の各々に関し、当該期間内に測定された前記第1項目及び前記第2項目の測定値を含む複数のデータセットを取得する取得手段と、前記2以上の期間の各々に関し、前記取得手段が取得した複数のデータセットから、前記第2項目の測定値が所定の規則に従い定まる範囲内であるデータセットを抽出する抽出手段と、前記2以上の期間の各々に関し、前記取得手段が取得したデータセットの数から前記抽出手段が抽出したデータセットの数を減じた値と、前記取得手段が取得したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値から前記抽出手段が抽出したデータセットの前記第1項目の測定値の統計的ばらつきの指標値を減じた値との比率を算出する算出手段と、前記算出手段が前記2以上の期間の各々に関し算出した比率間の比較結果に基づき、前記第1項目又は前記第2項目の測定における持続的異常を検知する検知手段とを備えるシステムを第4の態様として提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、解析の対象物の性能に関する第1項目の測定値と、当該測定値と同時期に測定された前記対象物の性能に影響を与える第2項目の測定値とを1つのデータセットとした場合に、第1項目又は第2項目の測定における持続的異常が検知される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】先行技術に係る性能解析装置のハードウェア構成の一例を表す図
図2】先行技術に係る性能解析装置が実現する機能構成を表す図
図3】先行技術に係る性能解析装置に蓄積された測定値の一例を表す図
図4】先行技術に係る性能解析装置が表示する項目選択画面の一例を表す図
図5】先行技術に係る性能解析装置が一時的に記憶するデータセット群の一例を表す図
図6】先行技術に係る性能解析装置により算出された関係式の一例を表す図
図7】先行技術に係る性能解析装置が行う抽出処理における動作手順の一例を表す図
図8】先行技術に係る性能解析装置が繰り返し行う抽出処理に伴う統計的ばらつきとデータセット数の変遷の一例を表す図
図9】先行技術に係る性能解析装置が出力したデータセットの性能解析での活用例を表す図
図10】先行技術に係る性能解析装置が出力したデータセットの性能解析での活用例を表す図
図11】先行技術に係る性能解析装置によらずに抽出したデータセットの性能解析の例(比較用)を表す図
図12】先行技術に係る性能解析装置(変形例)が繰り返し行う抽出処理に伴う統計的ばらつきとデータセット数の変遷の一例を表す図
図13】先行技術に係る性能解析装置(変形例)が繰り返し行う抽出処理に伴う統計的ばらつきとデータセット数の変遷の一例を表す図
図14】本発明の実施例に係る異常検知装置が実現する機能構成を表す図
図15】本発明の実施例に係る異常検知装置が表示する画面を例示した図
図16】本発明の実施例に係る異常検知装置が行うデータセットの抽出の前後におけるデータセットの数と解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値との変化を抽出に用いた絞込項目群の項目毎に示したグラフ
図17】本発明の実施例に係る異常検知装置が算出するフィルタリング効率のリストの例
図18】本発明の実施例に係る異常検知装置が算出するフィルタリング効率の変化を例示したグラフ
図19】本発明の実施例に係る異常検知装置が算出するフィルタリング効率の変化を例示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る異常検知装置の構成及び動作は、特許文献1に記載の発明に係る性能解析装置の構成及び動作と一部、共通する。従って、本発明に係る異常検知装置の説明に先んじて、特許文献1に記載の発明に係る性能解析装置を以下に説明する。
【0014】
[1]先行技術(特許文献1)の実施例
図1は先行技術(特許文献1)の実施例に係る性能解析装置10のハードウェア構成の一例を表す。性能解析装置10は、乗り物又は機械等の性能を解析するための各種の処理を行う装置である。本実施例では、性能解析装置10は、船の性能を解析するための各種の処理を行う。性能解析装置10は、プロセッサ11と、メモリ12と、ストレージ13と、通信装置14と、入力装置15と、出力装置16と、バス17とを備えるコンピュータである。
【0015】
プロセッサ11は、例えば、オペレーティングシステムを動作させてコンピュータ全体を制御する。プロセッサ11は、周辺装置とのインターフェース、制御装置、演算装置、レジスタなどを含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)を備える。プロセッサ11は、プログラム及びデータ等をストレージ13及び通信装置14の少なくとも一方からメモリ12に読み出し、読み出したプログラム等に従って各種の処理を実行する。
【0016】
メモリ12は、例えばROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体である。ストレージ13は、ハードディスクドライブ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体である。通信装置14は、有線ネットワーク及び無線ネットワークの少なくとも一方を介してコンピュータ間の通信を行うためのハードウェア(送受信デバイス)である。
【0017】
入力装置15は、外部からの入力を受け付ける入力デバイス(例えばスイッチ、ボタン、センサなど)である。入力装置15は、写真を撮影する撮像装置(デジタルカメラなど)を含んでいる。出力装置16は、外部への出力を実施する出力デバイス(例えば、ディスプレイ、スピーカ、LEDランプなど)である。
【0018】
性能解析装置10においては、入力装置15及び出力装置16は、一体となった構成(ディスプレイ及びタッチパネルが一体となったタッチスクリーン)を含む。プロセッサ11及びメモリ12等の各装置は、情報を通信するためのバス17によって接続される。バス17は、単一のバスを用いて構成されてもよいし、装置間ごとに異なるバスを用いて構成されてもよい。
【0019】
性能解析装置10における各機能は、プロセッサ11、メモリ12などのハードウェア上に所定のソフトウェア(プログラム)を読み込ませることによって、プロセッサ11が演算を行い、通信装置14による通信を制御したり、メモリ12及びストレージ13におけるデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を制御したりすることによって実現される。
【0020】
図2は性能解析装置10が実現する機能構成を表す。性能解析装置10は、測定値蓄積部101と、項目選択受付部102と、データセット抽出部103と、条件充足判断部104と、関係式算出部105と、終了判断部106とを備える。測定値蓄積部101は、性能の解析対象に関係する複数の項目における測定値を蓄積する。測定値蓄積部101は、本実施例では、解析対象である船の1航海で測定される測定値を蓄積する。ここでいう1航海とは、出港から入港までの1回の航海期間のことである。
【0021】
詳細には、測定値蓄積部101は、船速(対水速力、対地速力)、燃料消費量、回転数(エンジン回転数)、排水量、トリム、船速変化、風速、風向き、波高、潮流、縦揺れ(ピッチ)、横揺れ(ロール)及び舵角等の各項目の測定値を蓄積する。各項目は、船に設けられたセンサ、船の乗務員又は外部システム(天気予報システム等)によって測定され、性能解析装置10に入力される。性能解析装置10への測定値の入力は、通信装置14を介して機械的に行われてもよいし、入力装置15を介して人手で行われてもよい。
【0022】
測定値蓄積部101は、各項目の複数の時期についての測定値を蓄積する。
図3は蓄積された測定値の一例を表す。図3の例では、測定値蓄積部101は、測定が行われた船の名称に対応付けて、測定時期t1、t2、t3、t4、t5、・・・における各測定項目の測定値を蓄積している。図3の例では、測定値の末尾に付された「-t1」等は測定された時期を表している。
【0023】
複数の時期としては、例えば、各項目の中で最も短い時間間隔(以下「最短測定間隔」と言う)で測定される項目の測定時期が用いられる。例えば最短測定間隔が1分毎であれば、測定値蓄積部101は、各項目の1分毎の測定値を蓄積する。測定値蓄積部101は、最短測定間隔で測定されていない項目については、測定がされていない測定時期の測定値を内挿(いわゆる補間。前後に測定値がある場合に利用)又は外挿(前又は後ろにしか測定値がない場合に利用)して蓄積する。
【0024】
測定値蓄積部101は、例えば、測定されていない測定時期の前後の測定値の平均値をその測定時期の測定値として内挿する。また、測定値蓄積部101は、測定値の時系列変化を示す近似式を算出し、算出した近似式が各測定時期について示す測定値を各測定時期の測定値として内挿又は外挿してもよい。また、項目によっては、航行中に変動することがほとんどないため1日に1回しか測定されないもの(例えば排水量等)もある。その場合は、測定値蓄積部101は、測定された値を測定当日の各測定時期の測定値として外挿する。
【0025】
また、例えば最短測定間隔が10分毎であり、或る2つの項目の測定間隔は同じ10分毎だが測定時刻が数分ずれているという場合には、測定値蓄積部101は、数分ずれた測定時刻でも同時期の測定とみなして測定値を蓄積してもよい。つまり、同時期とは、完全に同じ測定時刻である必要はなく、多少のずれを許容してもよい。なお、測定値蓄積部101は、測定時刻のずれを許容せず、例えば前述した内挿又は外挿の手法を用いて同じ測定時刻の測定値を求めて同時期の測定値として蓄積してもよい。
【0026】
項目選択受付部102は、性能の解析対象に関係する複数の項目のうちの解析項目群及び絞込項目群の選択を受け付ける。解析項目群とは、2以上の項目であって、各項目の同時期の測定値同士の関係を求めて性能解析に利用する項目のことである。絞込項目群とは、1以上の項目であって、解析項目群の測定値を、前述した測定値同士の関係を適切に表す測定値に絞り込むために活用する項目のことである。
【0027】
項目選択受付部102は、解析項目群及び絞込項目群を選択する操作を受け付けるための項目選択画面を表示する。
図4は項目選択画面の一例を表す。図4の例では、項目選択受付部102は、性能解析の対象となる船を入力する入力欄C1と、解析項目群に含める項目を入力する入力欄C2と、絞込項目群に含める項目を入力する入力欄C3と、解析に用いる測定値が測定された期間を入力する入力欄C4と、解析開始ボタンB1とを含む項目選択画面A1を表示している。
【0028】
各入力欄への入力は、性能解析装置10のユーザ(例えば性能解析の担当者等)によって行われる。各入力欄への入力は、テキストを打ち込む方法、プルダウンリストから選択する方法又は項目等の一覧からドラッグしてくる方法等のいずれが用いられてもよい。また、対象船及び項目の候補の一覧を表示させておいて、選択するものにチェックする方法が用いられてもよい。項目選択受付部102は、各入力欄に必要事項が入力された状態で解析開始ボタンB1を押す操作を、入力された各事項(船名、解析項目群、絞込項目群及び期間)を選択する操作として受け付ける。
【0029】
項目選択受付部102は、上記選択操作を受け付けると、選択された各事項をデータセット抽出部103に通知する。データセット抽出部103は、選択された解析項目群及び絞込項目群の同時期の測定値群を1つのデータセットとした場合に、複数の時期のデータセットから、絞込項目群の1以上の項目の限定された範囲の測定値を含む時期のデータセットを抽出する。
【0030】
データセット抽出部103は、まず、測定値蓄積部101から、通知された船名に対応付けられた測定値のうち、通知された解析項目群及び絞込項目群の測定値であり且つ通知された期間に測定時期が含まれる測定値を読み出す。データセット抽出部103は、読み出した測定値を、同時期の測定値群を1つのデータセットとして、複数の測定時期におけるデータセットをメモリ12に一時的に記憶させる。
【0031】
図5は記憶されたデータセット群の一例を表す。図5の例では、測定時期t1に測定された解析項目群(対水速力及び燃料消費量)の測定値群(「LOG-t1」及び「FOC-t1」)と、絞込項目群(風速及び風向き等)の測定値群(「Wind-t1」及び「WD-t1」等)とを含むデータセットDS-t1が、測定時期t1のデータセットとしてメモリ12に記憶されている。
【0032】
同様に、測定時期t2、t3、t4及びt5等のデータセットDS-t2、DS-t3、DS-t4及びDS-t5等のデータセット群がメモリ12に記憶されている。図5に表すデータセット群が記憶されている領域を以下では「抽出前領域」と言う。また、抽出前領域に最初に記憶されたデータセット群(データセット抽出部103が最初に抽出したデータセット群)を「初期のデータセット群」と言う。
【0033】
データセット抽出部103は、抽出前領域に記憶させた初期のデータセット群のうち、絞込項目群の測定値が限定された範囲に含まれるデータセット群を抽出し、抽出前領域とは別の領域である「抽出後領域」に記憶させる。また、データセット抽出部103は、本実施例では、抽出の前後でデータセットの数の減少量が所定の量になるように範囲を限定して抽出を行う。
【0034】
以下では、抽出前のデータセット数の90%のデータセット数を所定の量として、風速の範囲を限定する場合を例に挙げて説明する。データセット抽出部103は、まず、風速の測定値を、最大風速の所定の割合未満の範囲に限定する。例えば最大風速の90%未満の範囲に限定した場合、データセット抽出部103は、最大風速の90%以上の風速の測定値を含むデータセットを除外し、最大風速の90%未満の風速の測定値を含むデータセット群を仮に抽出する。
【0035】
データセット抽出部103は、仮に抽出したデータセットの数が所定の量に達しなかった場合(除外したデータセットの数が除外すべき量(上記例では抽出前のデータセット数の10%のデータセット数)に達しなかった場合と言い換えてもよい)、今度は最大風速の80%以上の測定値を含むデータセットを除外したデータセット群を仮に抽出する。データセット抽出部103は、データセットの除外及び仮の抽出を繰り返し、データセット数が所定の量に達した場合(10%以上減少した場合)に、仮に抽出したデータセット群を正式に抽出したデータセット群として、抽出を終了する。
【0036】
なお、絞込項目の測定値の範囲を限定する方法は上記方法に限らない。例えば、データセット抽出部103は、10%刻みでなく1%等の任意の割合で範囲を限定することを繰り返してもよい。また、データセット抽出部103は、例えば80%での除外を行うとデータセット数が10%を大きく超えて減少する場合に、85%での除外をやり直して、データセット数の減少量を10%により近づけるようにしてもよい。
【0037】
また、データセット抽出部103は、割合ではなく数値(例えばN(Nは自然数)個のデータセット数)で表された所定の量を用いてもよい。データセット抽出部103は、風速以外の絞込項目群の測定値の範囲を風速の場合と同様に限定して、それぞれデータセット群を抽出する。データセット抽出部103は、絞込項目群の各項目について抽出後領域を用意して、各項目について抽出したデータセット群を記憶させる。
【0038】
条件充足判断部104は、抽出後のデータセットの数及び抽出後のデータセット群に含まれる解析項目群の測定値の統計的ばらつきが絞込条件を満たすか否かを判断する。絞込条件とは、データセット群を絞り込むために定められた条件である。統計的ばらつきとは、データ群(本実施例では測定値群)のばらつきの尺度であり、ばらつきが小さいほどデータ群が示す傾向が明らかになるため、性能解析に利用しやすくなる。統計的ばらつきの詳細は後程説明する。
【0039】
本実施例では、条件充足判断部104は、抽出の前後におけるデータセットの数の減少量に対する統計的ばらつきの減少量の割合(以下「減少量割合」と言う)が所定の基準よりも大きい場合に、絞込み条件が満たされると判断する。条件充足判断部104は、まず、抽出前領域に記憶されているデータセットの数から抽出後領域に記憶されているデータセットの数を減算した値を、データセットの数の減少量として、絞込項目群の各項目について算出する。
【0040】
また、条件充足判断部104は、絞込項目群の各項目について統計的ばらつきの減少量を算出するため、抽出前及び抽出後のデータセット群に基づく解析項目群の測定値同士の関係式の算出を関係式算出部105に指示する。関係式算出部105は、指示を受け取ると、抽出前領域及び絞込項目群の各項目の抽出後領域を参照し、各領域に記憶されている解析項目群の測定値の組から各項目の測定値同士の関係式を算出する。
【0041】
関係式算出部105は、例えば、曲線あてはめ(カーブフィッティング)の手法を用いて関係式を算出する。曲線あてはめの手法とは、例えば非線形最小二乗法又は非線形最小絶対値法等の回帰分析(通常回帰、主成分回帰又は幾何平均回帰等のいずれでもよい)である。曲線あてはめに用いる曲線としては、例えば、2乗3乗の法則に基づく曲線であるy=ax^3が用いられてもよいし、より汎用的な曲線であるy=ax^bが用いられてもよい。
【0042】
また、曲線あてはめに用いる曲線として、多項式が用いられてもよいし、切片を有する曲線が用いられてもよい。また、曲線あてはめに用いる曲線をユーザが選択できるようにしてもよい。その場合は、図4に表す項目選択画面に曲線あてはめに用いる曲線を選択する入力欄を設ければよい。関係式算出部105は、図5の例であれば、対水速力の測定値と燃料消費量の測定値との関係を表す関係式を算出する。
【0043】
図6は算出された関係式の一例を表す。図6では、横軸が対水速力を示し、縦軸が燃料消費量を示すグラフG1が表されている。グラフG1には、図5に表す各データセットの対水速力の測定値と燃料消費量の測定値に対応する点と、関係式算出部105が算出した関係式を示す曲線D1とが表されている。関係式算出部105は、絞込項目群の各項目について、抽出前のデータセットと抽出後のデータセットについてそれぞれ関係式を算出し、算出した関係式を条件充足判断部104に通知する。
【0044】
条件充足判断部104は、通知された関係式を用いて、抽出の前後における解析項目群の測定値の統計的ばらつきの減少量を算出する。条件充足判断部104は、具体的には、解析項目群の測定値と算出された関係式が示す曲線とのY軸方向の差分(X軸方向の差分又は最短距離の差分等でもよい)の分散(平均値又は標準偏差等でもよい)を統計的ばらつきの指標として抽出の前後について算出し、抽出前の指標から抽出後の指標を減算した値を統計的ばらつきの減少量として算出する。
【0045】
条件充足判断部104は、以上のとおり算出した統計的ばらつきの減少量をデータセットの数の減少量で除した値を、上述した減少量割合として算出する。条件充足判断部104は、絞込項目群の各項目について同様に減少量割合を算出する。そして、条件充足判断部104は、算出した減少量割合が上述した所定の基準よりも大きい場合に、絞込条件が満たされると判断する。
【0046】
条件充足判断部104は、本実施例では、絞込項目群の各項目のうち、算出した減少量割合が最も大きい項目のデータセット群の減少量割合を、上述した所定の基準よりも大きい減少量割合であるものとして、そのデータセット群が絞込条件を満たすと判断する。つまり、本実施例では、自項目を除く絞込項目群の各項目について算出された減少量割合のうち最大の減少量割合が所定の基準として扱われる。
【0047】
以上のとおり、条件充足判断部104は、本実施例では、関係式算出部105により算出される関係式との差分によって表される統計的ばらつきに基づいて絞込条件を満たすか否かを判断する。条件充足判断部104は、絞込条件を満たすデータセット群を判断すると、そのデータセット群が記憶された抽出後領域をデータセット抽出部103に通知する。
【0048】
データセット抽出部103は、通知された抽出後領域に記憶されたデータセット群、すなわち、絞込条件を満たすと判断された抽出後のデータセット群に関して、上述した抽出処理を行う。データセット抽出部103は、例えば、通知された抽出後領域を抽出前領域に変更することで、新たな抽出前のデータセット群として扱う。
【0049】
なお、データセット抽出部103は、元の抽出前領域及び絞込条件を満たさなかったデータセット群が記憶された抽出後領域については、領域を解放してデータセット群を削除してもよいし、新たな抽出処理では参照しない領域であることを示すフラグを記憶させ、誤って参照しないようにしてもよい。データセット抽出部103が新たな抽出前のデータセット群を用いて抽出処理を行うと、条件充足判断部104は、再度抽出されたデータセット群に関して、絞込条件の充足を判断する。
【0050】
以上のとおり抽出処理及び絞込条件の判断処理が繰り返し行われることで、複数のデータセットが少しずつ減少していく。終了判断部106は、繰り返し行われる抽出処理及び絞込条件の判断処理の終了条件が満たされたか否かを判断する。本実施例では、条件充足判断部104が、絞込条件を満たすと判断したデータセットの数を終了判断部106に通知する。
【0051】
そして、終了判断部106は、通知されたデータセット数が閾値未満になった場合に、終了条件が満たされたと判断する。終了判断部106は、終了条件が満たされたと判断すると、その旨を条件充足判断部104に通知する(終了通知)。条件充足判断部104は、終了通知を受け取ると、データセット抽出部103への抽出後領域の通知を中止する。以上のとおり、データセット抽出部103及び条件充足判断部104は、終了条件が満たされるまで抽出処理及び絞込条件の判断処理を繰り返し行う。
【0052】
性能解析装置10は、上記の構成に基づいて、データセット群を抽出する抽出処理を行う。
図7は抽出処理における各装置の動作手順の一例を表す。図7の動作手順は、例えば、性能解析の担当者が図4に表す項目選択画面を表示させることを契機に開始される。まず、性能解析装置10(項目選択受付部102)は、解析項目群及び絞込項目群の選択を受け付ける(ステップS11)。
【0053】
次に、性能解析装置10(データセット抽出部103)は、複数の時期のデータセットから、絞込項目群の1以上の項目の限定された範囲の測定値を含む時期のデータセット群を抽出する(ステップS12)。続いて、性能解析装置10は、絞込項目群の項目に、データセット群の抽出に用いていない(未使用の)項目があるか否かを判断する(ステップS13)。
【0054】
性能解析装置10は、ステップS13において未使用の項目がある(YES)と判断した場合はステップS12に戻って動作を繰り返し、未使用の項目がない(NO)と判断した場合はステップS14に進む。性能解析装置10(条件充足判断部104)は、抽出後のデータセットの数及び抽出後のデータセットに含まれる解析項目群の測定値の統計的ばらつきが絞込条件を満たすデータセットを判断する(ステップS14)。
【0055】
続いて、性能解析装置10(終了判断部106)は、繰り返し行われる抽出処理及び絞込条件の判断処理の終了条件が満たされたか否かを判断する(ステップS15)。性能解析装置10は、ステップS15において満たされていない(NO)と判断した場合はステップS12に戻って動作を繰り返し、満たされた(YES)と判断した場合は本動作手順を終了する。
【0056】
図8は統計的ばらつきとデータセット数の変遷の一例を表す。図8では、縦軸が統計的ばらつきを示し、横軸がデータセット数を示すグラフが表されている。図8には、初期のデータセット群の統計的ばらつき及びデータセット数の関係を示す点E0が表されている。また、1回目の抽出処理で抽出された4つのデータセット群の上記関係を示す点E1、E2、E3、E4が表されている。
【0057】
点E1、E2、E3、E4は、例えば絞込項目群のトリム、波高、潮流、風速を表すものとする。本実施例では、抽出処理が行われる度にデータセット数がΔN個ずつ減少している。1回目の抽出では、統計的ばらつきの減少量がトリム<波高<潮流<風速の順となっている。そのため、風速の範囲を限定して抽出されたデータセット群が絞込条件を満たし、次の抽出前のデータセット群として用いられている。
【0058】
2回目の抽出では、統計的ばらつきの減少量が波高<トリム<風速<潮流の順となっている。そのため、潮流の範囲を限定して抽出されたデータセット群が絞込条件を満たし、次の抽出前のデータセット群として用いられている。3回目の抽出では、統計的ばらつきの減少量が潮流<風速<トリム<波高の順となっている。そのため、波高の範囲を限定して抽出されたデータセット群が絞込条件を満たす。
【0059】
図8には、終了条件として用いられる閾値Th1が表されている。3回目の抽出が行われると、データセット数が閾値Th1未満になるので、データセット群の抽出が終了し、3回目の抽出で波高の範囲を限定して抽出されたデータセット群が、最終的に抽出されたデータセット群として抽出後領域に記憶される。データセット抽出部103は、最終的に抽出したデータセット群を、予め定められた出力先に出力する。
【0060】
予め定められた出力先とは、例えば、性能解析装置10のディスプレイ、ストレージ13、外部装置又は外部の記録媒体等である。出力されたデータセット群は、本実施例では、船の性能解析に用いられる。
図9図10はデータセットの性能解析での活用例を表す。図9図10では、縦軸が対水速力を示し、横軸が月を示すグラフが表されている。
【0061】
図9図10の例では、各月のデータセット群のうち、所定の燃料消費量と同時期に測定された対水速力の測定値から無作為に取り出された値が表されており、対水速力が速いほど燃費性能が高いことを表している。なお、所定の燃料消費量だけに限定すると、同時期に測定された対水速力の測定値が少なくなりすぎる場合には、所定の「範囲」の燃料消費量と同時期に測定された対水速力の測定値をグラフに表してもよい。
【0062】
また、グラフに表す対水速力の測定値を増やすため、同時期に測定された燃料消費量の測定値及び対水速力の測定値の組を、算出された関係式を用いて、所定の燃料消費量とその組となる対水速力の測定値とに補正してもよい。図9では、初期のデータセット群F1における対水速力が表され、図10では、抽出処理が行われた後のデータセット群F2における対水速力が表されている。
【0063】
図9図10の例では、4月目にメンテナンスが行われ、その前後で対水速力が向上している。これは、メンテナンスにより推進時の抵抗が減少して燃費性能が向上したことを表している。図9の例では、対水速力のばらつきが大きいため、メンテナンス後の1年くらいは燃費の低下傾向が判別できず、2年目になって少し燃費の低下傾向が現れてきている。
【0064】
一方、図10の例では、統計的ばらつきが小さくなるデータセット群F2が抽出されたため、データ群(測定値群)が示す傾向がより明らかになり、燃費の低下傾向が1年目から判別可能となっている。このように、本実施例では、統計的ばらつきが小さくなるデータセット群が抽出されるため、統計的ばらつきに関係なく抽出が行われる場合に比べて、絞り込まれたデータ群(解析項目群の測定値群)が示す傾向をより明らかにすることができる。
【0065】
統計的ばらつきは、基本的にはデータセット数を減らすほど小さくなりやすいが、データセット数を減らし過ぎると、別の問題が生じる場合がある。
図11は比較用の性能解析の例を表す。図11では、図9に表す初期のデータセット群F1から図10に表すデータセット群F2よりも少ない数のデータセット群F4が抽出された場合における対水速力を表すグラフが表されている。
【0066】
なお、図11の例では、データセット数を少しずつ減らすのではなく、1回の抽出で図11に表す数まで減らしたものとする。図11の例では、初期のデータセット群F1に偶然含まれていた統計的ばらつきが極めて小さくなるデータセット群F4が存在していたため、それらのデータセット群F4が抽出されている。データセット群F4の対水速力は、期間の経過と共に大きくなる傾向、すなわち、燃費性能が向上するという信頼性に欠ける傾向を示している。
【0067】
このように、データセット数が少なくなるほど、統計的ばらつきが偶然小さくなるデータセット群が抽出される可能性が高まり、データ群の示す傾向が活用しにくくなる。本実施例では、統計的ばらつきの減少量が大きいだけでなく、データセット数の減少量がなるべく小さい項目の範囲を限定した場合のデータセットが抽出される。これにより、データセット数の減少が抑制され、前述したような統計的ばらつきが偶然小さくなるデータセット群が抽出される可能性を小さくすることができる。
【0068】
また、例えば対水速力及び燃料消費量は、他の条件を一定に保つことが可能であれば、互いの測定値が概ね一定の関係を示すことになる。しかし、蓄積される測定値群には、運航中に変化する様々な状況による影響で、異なる関係を示す測定値が混在することになる。性能解析を行う際には、運航中にたまにしか現れなかった特殊な状況における関係を示すデータセット群が抽出されるよりも、運航中に他の状況に比べてより多く現れた状況(以下「頻出の状況」と言う)における関係を示すデータセット群が抽出される方が望ましい。
【0069】
頻出の状況で測定された対水速力及び燃料消費量が示す関係は、蓄積された対水速力及び燃料消費量が示す関係のうち、他の関係に比べてより再現性が高い関係を示していると言える。そして、特殊な状況における関係を示すデータセット群が除外された場合、頻出の状況における関係を示すデータセット群が除外された場合に比べて、データセット数の減少量の割に統計的ばらつきの減少量(すなわち減少量割合)が大きくなる。
【0070】
そこで、本実施例では、減少量割合を用いて上記のとおり絞込条件を判断することで、減少量割合を用いない場合に比べて、特殊な状況における測定値を含むデータセット群が除外されやすいようにして、頻出の状況における測定値を含むデータセット群、すなわち、他の関係に比べてより再現性が高い関係を示す解析項目群の測定値群を含むデータセット群が抽出されやすいようにしている。
【0071】
なお、特殊な状況における測定値を含むデータセット群を除外する際に範囲が限定される絞込項目群の項目は、風速及び潮流等のように対水速力及び燃料消費量の関係に対する影響が明確な項目に限る必要はない。極論を言うと、対水速力及び燃料消費量の関係に影響を与える状況の変化と測定値の変化とが偶然連動した項目だとしても、減少量割合が絞込条件を満たしたのであれば、上記のとおりより再現性が高い関係を示す解析項目群の測定値群を含むデータセット群を抽出することに寄与することになる。
【0072】
また、本実施例では、データセット数を一度に減らすのではなく、図8に表すように段階的に減らしていった。例えば図11に表すデータセット群F4に特殊な状況における測定値が含まれている場合、データセット数を段階的に減らすことで、データセット数を一度に減らす場合に比べて、データセット群F4に含まれる特殊な状況における測定値が除外されやすくなるので、上記同様により再現性が高い関係を示す解析項目群の測定値群を含むデータセット群が抽出されやすいようにすることができる。
【0073】
また、本実施例では、絞込条件の充足の判断及び終了条件の充足を性能解析装置10の機能により行った。これにより、性能解析を行う作業員の能力及び経験等に依存することなく、一定のデータセット群を安定して抽出することができる。また、本実施例では、一度の抽出で減少するデータセット数が制限されていた。これにより、データセット数が少なくなり過ぎることを防止することができる。
【0074】
また、本実施例では、解析項目群の各項目の測定値同士の関係式との差分によって統計的ばらつきが表された。その統計的ばらつきを小さくするデータセット群を抽出することで、測定値同士の関係式に関係ない統計的ばらつきが用いられる場合に比べて、解析項目群の或る項目の測定値から他の項目の測定値を推定する際の精度を向上させることができる。
【0075】
[2]先行技術(特許文献1)の変形例
上述した実施例は以下のように変形させてもよい。また、実施例及び各変形例は、必要に応じて組み合わせて実施してもよい。
【0076】
[2-1]終了条件
終了判断部106は、実施例では、データセットの数が終了条件を満たした場合に終了を判断したが、それとは異なる終了条件を用いてもよい。終了判断部106は、例えば、抽出後のデータセット群における解析項目群の測定値の統計的ばらつきが終了条件を満たした場合に終了を判断してもよい。具体的には、終了判断部106は、上記統計的ばらつきが閾値未満になった場合に終了条件が満たされたと判断する。
【0077】
また、終了判断部106は、抽出の前後における統計的ばらつきの減少量が終了条件を満たした場合に終了を判断してもよい。具体的には、終了判断部106は、統計的ばらつきの減少量が閾値以上になった場合に終了条件が満たされたと判断する。また、終了判断部106は、抽出の前後におけるデータセット数の減少量が終了条件を満たした場合に終了を判断してもよい。具体的には、終了判断部106は、データセット数の減少量が閾値以上になった場合に終了条件が満たされたと判断する。
【0078】
データセット数又はデータセット数の減少量が終了条件として用いられた場合は、データセット数が少なくなり過ぎないうちに抽出処理を終了させることができる。但し、それらの場合は、統計的ばらつきがそれほど小さくならないうちに抽出処理が終了する場合が起こり得る。一方、統計的ばらつき又は統計的ばらつきの減少量が終了条件として用いられた場合は、統計的ばらつきを確実に一定の水準まで小さくすることができる。
【0079】
また、終了判断部106は、抽出後のデータセット群における統計的ばらつき、抽出後のデータセット群におけるデータセット数、抽出の前後における統計的ばらつきの減少量又は抽出の前後におけるデータセット数の減少量という4つの判断材料のうちの2以上を組み合わせて終了条件の充足を判断してもよい。例えば、終了判断部106は、統計的ばらつきが第1閾値未満で且つデータセット数が第2閾値未満である場合に終了条件が満たされたと判断する。
【0080】
また、終了判断部106は、上記の4つの判断材料のうちの2以上を用いた関数を計算し、求められた値が所定の条件を満たす場合に、終了条件が満たされたと判断してもよい。例えば、終了判断部106は、統計的ばらつきの減少量に所定の係数を乗じた値とデータセット数の減少量に所定の係数を乗じた値とを加算した値が閾値以上である場合に終了条件が満たされたと判断する。
【0081】
また、上記の閾値の定め方によっては、例えばデータセット数が減り過ぎてしまい、データセットを抽出すると減少量割合又は統計的ばらつきがかえって増加する状態になることも考えられる。そこで、終了判断部106は、上記の終了条件に加え、抽出後のデータセット群のうち一定数のデータセット群において減少量割合又は統計的ばらつきが増加する場合には第2終了条件が満たされると判断してもよい。その場合、データセット抽出部103は、最後に抽出したデータセット群を正式に抽出したデータセット群としてもよいし、1回前に抽出したデータセット群を正式に抽出したデータセット群としてもよい。
【0082】
本変形例においては、実施例と同様に、作業員に依存することなく、一定のデータセットを安定して抽出することができる。また、4つの判断材料を組み合わせることで、データセット数の過剰な減少の防止と、統計的ばらつきの一定水準までの減少の確実性の向上とのバランスを取りながらデータセット群を抽出させることができる。
【0083】
[2-2]統計的ばらつきの減少量を固定
実施例では、抽出処理におけるデータセット数の減少量が所定の量に固定されていたが、統計的ばらつきの減少量が固定されていてもよい。本変形例では、データセット抽出部103が、抽出の前後で統計的ばらつきの減少量が所定の量になるように範囲を限定して抽出を行う。
【0084】
データセット抽出部103は、実施例と同様にデータセット群を仮に抽出すると、抽出前のデータセット群と仮に抽出したデータセット群に基づく解析項目群の測定値同士の関係式の算出を関係式算出部105に指示する。データセット抽出部103は、算出された関係式に基づき、実施例における条件充足判断部104と同様に統計的ばらつきの減少量を算出し、算出した統計的ばらつきの減少量が所定の量になるまで抽出を繰り返す。
【0085】
図12は本変形例の統計的ばらつきとデータセット数の変遷の一例を表す。図12では、図8の例と同様に、初期のデータセット群の統計的ばらつき及びデータセット数の関係を示す点E0と、1回目の抽出処理で抽出された4つのデータセット群の上記関係を示す点E1、E2、E3、E4(トリム、波高、潮流、風速)が表されている。本変形例では、抽出処理が行われる度に統計的ばらつきがΔσずつ減少している。
【0086】
1回目の抽出では、データセット数の減少量がトリム>波高>潮流>風速の順となっている。この場合、風速のデータセット群の減少量割合(抽出の前後におけるデータセットの数の減少量に対する統計的ばらつきの減少量の割合)が最も大きくなるので絞込条件を満たし、次の抽出前のデータセット群として用いられている。2回目、3回目の抽出でも同様にデータセット数の減少量が最も少ないデータセット群が抽出される。
【0087】
本変形例では、終了判断部106が、統計的ばらつきが閾値未満になった場合に、終了条件が満たされたと判断する。図12には、終了条件として用いられる閾値Th2が表されている。3回目の抽出が行われると、統計的ばらつきが閾値Th2未満になるので、データセット群の抽出が終了し、3回目の抽出で波高の範囲を限定して抽出されたデータセット群が、最終的に抽出されたデータセット群として抽出後領域に記憶される。
【0088】
本変形例のように統計的ばらつきの減少量が固定された場合、例えば統計的ばらつき又は統計的ばらつきの減少量が終了条件として用いられたときに、終了条件が満たされるまでに要する抽出処理の回数を一定にすることができる。また、実施例のようにデータセット数の減少量が固定された場合、例えばデータセット数又はデータセット数の減少量が終了条件として用いられたときに、終了条件が満たされるまでに要する抽出処理の回数を一定にすることができる。
【0089】
なお、上記の各例では、ΔNが一定の場合にデータセット数の閾値を用い、Δσが一定の場合に統計的ばらつきの閾値が用いられたが、これに限らず、ΔNが一定の場合に統計的ばらつきの閾値又は統計的ばらつきの減少量の閾値を用い、Δσが一定の場合にデータセット数又はデータセット数の減少量の閾値が用いられてもよい。いずれの場合も、閾値として定めたデータセット数、統計的ばらつき又はそれらの減少量を一定の水準まで小さくすることができる。
【0090】
[2-3]減少量の変動
上記の各例では、データセット数の減少量及び統計的ばらつきの減少量が一定であったが、これらの減少量を変動させてもよい。本変形例では、データセット抽出部103が、抽出の前後でデータセット数又は統計的ばらつきの減少量が所定の量になるように範囲を限定して抽出を行う場合に、前回までの抽出の回数に応じた量を所定の量とする。
【0091】
図13は本変形例の統計的ばらつきとデータセット数の変遷の一例を表す。図13では、図8の例と同様に、初期のデータセット群の統計的ばらつき及びデータセット数の関係を示す点E0と、3回の抽出処理でそれぞれ抽出された4つのデータセット群の上記関係を示す点が表されている。図13の例では、終了判断部106が、統計的ばらつきが閾値Th3未満になった場合に、終了条件が満たされたと判断するものとする。
【0092】
この場合に、データセット抽出部103は、1回目の抽出では所定の量をΔN1とし、2回目の抽出では所定の量をΔN1より小さいΔN2とし、3回目の抽出では所定の量をΔN2より小さいΔN3というように、所定の量を徐々に小さくしている。これにより、統計的ばらつきが或る程度小さくなるまでは所定の量を大きくして抽出回数が少なくなるようにしつつ、統計的ばらつきが閾値に近づくほど所定の量を小さくして、なるべく多いデータセット数で終了条件が満たされるようにすることができる。
【0093】
なお、データセット数が閾値未満になった場合に終了条件が満たされ、データセット抽出部103が統計的ばらつきの減少量が所定の量になるように範囲を限定して抽出を行う場合も、抽出の回数に応じて所定の量を小さくしてもよい。その場合も、抽出回数が少なくなるようにしつつ、データセット数が閾値に近づくほど所定の量を小さくして、なるべく多いデータセット数で終了条件が満たされるようにすることができる。
【0094】
[2-4]絞込項目群の変更
実施例では、最初に選択された絞込項目群を最後まで用いて抽出処理が行われたが、途中で絞込項目群が変更されてもよい。本変形例では、データセット抽出部103が、データセット群の抽出の前後で絞込項目群を変更する。データセット抽出部103は、例えば、データセット群の抽出の際に範囲を限定した項目を外し、代わりに別の項目を絞込項目群として加える変更を行う。
【0095】
図8の例であれば、データセット抽出部103は、1回目の抽出を行った後、データセット群の抽出の際に範囲を限定した「風速」を外し、代わりに「回転数」等の項目のいずれかを絞込項目群として加える変更を行う。一度範囲を限定した項目の範囲をさらに限定すると、データセット数が大幅に減るようになって絞込条件をほとんど満たすことがなくなる場合がある。
【0096】
その場合には、別の項目を絞込項目群に交換して抽出を行った方が、不要な仮の抽出を減らし、その抽出よりは絞込条件を満たす可能性が高い仮の抽出を増やすことができる。なお、データセット抽出部103は、上記の例では絞込項目群の項目を交換したが、これに限らず、追加してもよいし、削除してもよい。いずれの場合も、適切に絞込項目群を変更することで、絞込項目群が不変の場合に比べて、無駄な仮の抽出を少なくすることができる。
【0097】
[2-5]絞込項目の測定値の範囲の限定
絞込項目の測定値の範囲を限定する方法は、実施例で述べた方法に限られない。データセット抽出部103は、例えば、2以上の項目の測定値を組み合わせて範囲を限定してもよい。
【0098】
例えば風速及び風向きを組み合わせる場合、データセット抽出部103は、風向きが向かい風の場合は風速を第1閾値未満の範囲に限定し、風向きが追い風の場合は風速を第2閾値未満の範囲に限定し、風向きが横風の場合は風速を第3閾値未満の範囲に限定する。また、縦揺れと横揺れとを組み合わせる場合、データセット抽出部103は、縦揺れと横揺れを加算した値が閾値未満になる範囲に限定する。
【0099】
また、絞込項目群の測定値について算出される測定値同士の関係式が範囲の限定に用いられてもよい。その場合、関係式算出部105が、絞込項目群の所定の複数の項目の測定値の組から測定値同士の関係式を算出する。そして、データセット抽出部103が、算出された絞込項目群の測定値同士の関係式との差分によって表される統計的ばらつきが所定の条件を満たす測定値を含む時期のデータセット群を抽出する。
【0100】
例えば回転数と船速変化とを組み合わせる場合、データセット抽出部103は、回転数及び船速変化について算出された関係式を示す曲線との差分(X軸方向の差分、Y軸方向の差分又は最短距離の差分等)の分散(平均値又は標準偏差等でもよい)を統計的ばらつきの指標として算出する。データセット抽出部103は、曲線との差分が大きい測定値の組から順番に除外して、算出する分散が閾値未満となったときに残っている測定値の組を、限定した範囲内の測定値として用いる。
【0101】
絞込項目群の項目同士で互いの測定値の増減に影響し合う関係がある場合、関係式との差分の統計的ばらつきが大きいほど、測定装置の異常動作又は測定者の見間違い等に起因する異常値が含まれている可能性が高い。但し、その異常値は、一方の項目の測定値だけを見ても判断が難しい場合がある。しかし、上記のとおり測定値同士の関係式に基づいて測定値の範囲を限定することで、関係式を用いない場合に比べて、そのような異常値が測定されたときのデータセットを除外しやすくすることができる。
【0102】
[2-6]絞込条件
絞込条件が実施例と異なっていてもよい。条件充足判断部104は、実施例では、算出した減少量割合が最も大きい1つの項目の抽出後のデータセット群が絞込条件を満たすと判断したが、1つだけでなく、例えば減少量割合が大きい方から所定の数の項目の抽出後のデータセット群が絞込条件を満たすと判断してもよい。
【0103】
その場合、抽出された所定の数のデータセット群についてさらに抽出処理が行われる。例えば2つのデータセット群が絞込条件を満たすと判断される場合、3回抽出が行われると、最大で8つのデータセット群が抽出されることになる。その場合、複数のデータセット群をそれぞれ性能解析に用いてもよいし、複数のデータセット群を最後に1つに絞り込んでもよい。
【0104】
最後の絞り込みが行われる場合、例えば、条件充足判断部104が、最終的な統計的ばらつきが最も小さいデータセット群又は最終的なデータセット数が最も多いデータセット群が最後の絞込条件を満たすと判断すればよい。また、条件充足判断部104は、実施例では、各項目について算出した減少量割合同士を比較して絞込条件の充足を判断したが、そのような相対的な条件ではなく、絶対的な条件を絞込条件として用いてもよい。
【0105】
例えば、条件充足判断部104は、算出した減少量割合が所定の閾値(=この場合の所定の基準)よりも大きい場合に、絞込条件が満たされると判断する。この場合も、複数のデータセット群が抽出される場合があるので、その場合、上記と同様に複数のデータセット群を最後に1つに絞り込んでもよい。また、条件充足判断部104は、絶対的な条件と相対的な条件を合わせた絞込条件を用いてもよい。
【0106】
その場合、条件充足判断部104は、例えば、絶対的な条件を満たすデータセット群が複数ある場合に、相対的な条件を満たす1つのデータセット群が絞込条件を満たすと判断する。いずれの絞込条件が用いられる場合でも、実施例と同様に、作業員に依存することなく、一定のデータセットを安定して抽出することができる。
【0107】
[2-7]抽出回数
抽出処理及び絞込条件の判断処理は、実施例では繰り返し行われたが、1回だけ行われてもよい。その場合、上記の各例で述べた1回目の抽出が行われ、絞込条件を満たすデータセット群が判断された時点で、抽出処理及び絞込条件の判断処理が終了する。その場合でも、データセット数が少なくなり過ぎないように抽出を行う点は実施例と変わらないので、データセット数に関係なく抽出が行われる場合に比べて、一般的な状況において活用しやすい傾向を示すデータセット群を抽出することができる。
【0108】
[2-8]データセット群の出力
データセット抽出部103は、実施例では、絞込条件を満たすと判断されたデータセット群を出力したが、絞込条件の充足が判断されていないデータセット群を出力してもよい。その場合は、出力された複数のデータセット群について作業員の判断で絞り込みを行えばよい。その場合でも、作業員が適切な判断を行えば、実施例と同様に他の関係に比べてより再現性が高い関係を示す解析項目群の測定値群を含むデータセット群を抽出することができる。そして、本変形例によれば、解析項目群の測定値群をそのようなデータセット群に含まれる測定値群に絞り込むことを支援することができる。
【0109】
条件充足判断部104が絞込条件を判断する場合は、実施例で述べたように、性能解析を行う作業員の能力及び経験等に依存することなく、一定のデータセット群を安定して抽出することができた。一方で、経験豊富な作業員にとっては、より適切で抽出すべきと考えられるデータセット群があっても、その判断を反映することができなかった。本変形例では、そのように経験豊富な作業員等の判断をデータセット群の抽出に反映することができる。
【0110】
[2-9]複数のデータ群
実施例では、解析対象である船の1航海で測定される測定値からなるデータ群に基づいてデータセットの抽出及び絞込条件の充足の有無の判断等の処理が行われたが、複数の航海において測定される測定値からなる複数のデータ群に基づいてそれらの処理が行われてもよい。
【0111】
本変形例では、測定値蓄積部101が、複数の航海において測定される測定値からなる複数のデータ群を蓄積する。次に、データセット抽出部103が、データセットを抽出する処理を複数のデータ群についてそれぞれ実行する。続いて、条件充足判断部104が、各データ群についての抽出後のデータセットの数及び抽出後のデータセット群に含まれる解析項目群の測定値の統計的ばらつきから所定の指数を算出する。
【0112】
条件充足判断部104は、例えば、抽出後のデータセットの数及び抽出後のデータセット群に含まれる解析項目群の測定値の統計的ばらつきから、上述した減少量割合(抽出の前後におけるデータセットの数の減少量に対する統計的ばらつきの減少量の割合)を各データ群について算出し、算出した複数の減少量割合の平均値を指数として算出する。
【0113】
条件充足判断部104は、算出した指数が本変形例の絞込条件を満たすか否かを判断する。具体的には、条件充足判断部104は、例えば、絞込項目群の各項目のうち、算出した平均値が最も大きい項目のデータセット群が本変形例の絞込条件を満たすと判断する。データセット抽出部103は、絞込条件を満たすと判断されたデータセット群を抽出する。
【0114】
データセット抽出部103及び条件充足判断部104は、実施例と同様に、終了条件が満たされるまで抽出処理及び絞込条件の判断処理を繰り返し行う。なお、指数の算出方法は上記に限らない。条件充足判断部104は、算出した複数の減少量割合の合計値を指数として算出してもよいし、算出した複数の減少量割合を乗算した値を指数として算出してもよい。
【0115】
また、複数のデータ群は、同じ船の複数の航海において測定される測定値からなるものであってもよいし、複数の船の各々の航海において測定される測定値からなるものであってもよい。いずれの場合も、実施例と同様に、指数を用いない場合に比べて、特殊な状況における測定値を含むデータセット群が除外されやすくなり、他の関係に比べてより再現性が高い関係を示す解析項目群の測定値群を含むデータセット群が抽出されやすいようにしている。
【0116】
また、条件充足判断部104は、複数のデータ群をグループ化し、時系列に連続する複数のグループについて、それぞれ上記の指数の平均値を算出して絞込条件を満たすと判断されたデータセット群を抽出してもよい。こうして抽出されたデータセット群について算出される複数の指数は、指数の変化の傾向を示すトレンドグラフの作成に利用することができる。
【0117】
[2-10]統計的ばらつき
実施例では、解析項目群の各項目の測定値同士の関係式との差分によって表される統計的ばらつきが用いられたが、他の統計的ばらつきが用いられてもよい。例えば、測定値同士の関係式とは関係なく、X軸方向又はY軸方向等のばらつきが統計的ばらつきとして用いられてもよい。
【0118】
[2-11]解析項目群
実施例では、解析項目群には2つの項目のみ含まれていたが、3以上の項目が含まれていてもよい。その場合、3以上の項目の測定値同士の関係式との差分によって表される統計的ばらつきに基づいて絞込条件が判断されればよい。
【0119】
[2-12]解析項目群及び絞込項目群
実施例では、測定値が蓄積されている測定項目のうちからユーザの操作により選択された項目が解析項目群及び絞込項目群として用いられたが、例えば解析項目群及び絞込項目群が予め定められていて、定められた解析項目群の測定値群及び絞込項目群の測定値群が別々に蓄積されていてもよい。
【0120】
また、解析項目群及び絞込項目群が予め定められている場合は、各測定値群を蓄積する代わりに、例えば各測定値群を記憶する外部システムをデータセット抽出部103が参照して、解析項目群の測定値群及び絞込項目群の測定値群を読み込んでもよい。このように、解析項目群及び絞込項目群の決定方法と、各測定値群の入力方法は、データセット抽出部103が上記の各例と同様の処理ができるのであれば、どのような方法が用いられてもよい。
【0121】
[2-13]各機能が行う動作
性能解析装置の機能構成は、図2に表すものに限らない。例えば実施例では、データセット抽出部103が最終的に抽出したデータセット群を出力したが、別の機能がこの出力を行ってもよいし、図2に表されていない新たな機能がこの出力を行ってもよい。また、データセット抽出部103によるデータセット群の抽出と条件充足判断部104による絞込条件の判断を1つの機能が行ってもよい。要するに、性能解析装置10全体として図2に表された機能が実現されていれば、各機能が行う動作の範囲は自由に定められてよい。
【0122】
[2-14]各機能を実現する装置
図2に表す各機能を実現する装置は、性能解析装置10に限らない。例えば、性能解析装置10が実現する機能を2以上の装置が分担して実現してもよいし、クラウドサービスで提供されるリソースが実現してもよい。いずれの場合も、図2に表す各機能が何らかのコンピュータ資源によって実現されていればよい。
【0123】
[3]本発明の実施例
続いて、本発明の実施例に係る異常検知装置20を説明する。異常検知装置20は、解析の対象物(以下、「解析対象物」という)の性能に関する項目の測定値、又は、当該対象物の性能に影響を与える項目の測定値から、それらの測定値の特定における持続的異常を検知する装置である。
【0124】
解析対象物は、何らかの作業又は処理を行う装置であり、その種類は問わない。解析対象物の典型例としては、船舶等の移動装置や、コンピュータ等のデータ処理装置が挙げられるが、これらに限られない。
【0125】
解析対象物の性能、すなわち、解析対象物が行う作業や処理等の効率は、解析対象物が動作する環境等により影響を受ける。例えば、解析対象物が船舶である場合、燃料消費量(ton/mile)は船舶の性能に関する項目の一つである。そして、燃料消費量は船舶が航行する際の風速、風向等(船舶の性能とは無関係な項目)により影響を受ける。
【0126】
従って、船舶の性能を解析するために継続的に(すなわち、繰り返し)測定した燃料消費量の測定値を用いる場合には、それらの測定値から、「同時期」に測定された風速、風向等の測定値が「通常の範囲」内であるものを抽出し、抽出した測定値を用いて性能の解析を行う、ということが広く行われている。
【0127】
ここで「通常の範囲」とは、外れ値、すなわち、他のデータからみて極端に大きな値、又は、極端に小さな値を含まない範囲を意味する。「通常の範囲」の上限値及び下限値を決定する方法としては、(1)対象の値群(標本)を大きさ順に並べて、最も小さい方から所定数番目の値を下限値とし、最も大きい方から所定数番目の値を上限値とする方法、(2)対象の値群(標本)の平均値から所定の値を減じた値を下限値とし、対象の値群の平均値に所定の値を加えた値を上限値とする方法、(3)スミルノフ・グラブス検定等の統計理論により導き出される検定統計量を上限値及び下限値とする方法等が広く用いられている。
【0128】
また、「同時期」とは、異なる項目の測定値が測定されたタイミングが全く同時である必要はなく、実質的に同じとみなすことができる時期を意味する。なお、どの程度、タイミングがずれても実質的に同じとみなすことができるかは、測定する項目の変化速度により異なる。
【0129】
また、測定値は、実際に測定された値そのものに限定されず、測定された値から算出される値も含まれる。例えば、異なるタイミングに測定された値を時間軸方向において補間した値や、移動平均値等も本発明における測定値に含まれる。
【0130】
解析対象物の性能に関する項目は1つとは限らない。例えば、船舶は物を輸送するための装置であるが、物の輸送は同じ時間がかかるなら燃料消費量は少ない方が望ましく、同じ燃料消費量がかかるなら時間がかからない方が望ましい。従って、船舶の性能を考える場合、燃料消費量と対水速力(knot)という2つの性能に関する項目を合わせて解析する必要がある。そのため、例えば船舶の場合、船舶の航行性能を表す情報として、燃料消費量と対水速力との関係式が広く利用されている。
【0131】
船舶の場合、上記のように、燃料消費量と対水速力は船舶の性能に関する項目である。一方、風速、風向等は、船舶の属性ではない。従って、風速、風向等は、船舶の性能に影響を与える項目であって、船舶の性能に関する項目ではない。なお、船舶における風速、風向等のように、解析対象物の性能に影響を与える項目も1つとは限らない。
【0132】
以下、特許文献1に倣い、解析対象物の性能に関する1以上の項目(本発明の第1項目)を解析項目群といい、解析対象物の性能に影響を与える1以上の項目(本発明の第2項目)を絞込項目群という。
【0133】
特許文献1に記載の発明において、性能解析装置は、解析項目群の測定値の数をできるだけ減らすことなく解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値(例えば、分散)を減少させるために、解析項目群の測定値と同時期に測定された絞込項目群のいずれか1つの項目に注目し、解析項目群の測定値の中から、注目した項目が所定の規則により定まる範囲内である測定値を抽出する。そして、性能解析装置は、抽出の前後における標本(データセット)の数の減少量(ΔN)に対する、抽出の前後における解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値(例えば、分散σ)の減少量(例えば、Δσ)の比率(例えば、Δσ/ΔN)を算出する。以下、この比率を「フィルタリング効率」という。性能解析装置は、最大のフィルタリング効率をもたらす絞込項目群の項目を、最も効率的に解析項目群の測定値の絞込を行うことができる項目とし、その項目に注目して抽出を行った標本(データセット)を用いて、その後の解析のための処理を行う。
【0134】
なお、統計的ばらつきの指標値は、分散、標準偏差、範囲、四分位範囲、平均差、平均絶対偏差等の様々なものが知られており、それらのいずれが採用されてもよい。
【0135】
本発明の実施例に係る異常検知装置20は、フィルタリング効率を用いる点で、特許文献1に記載の性能解析装置と共通している。ただし、異常検知装置20は、フィルタリング効率を解析対象物の性能の解析に用いるのではなく、解析項目群又は絞込項目群の測定値の測定における「持続的異常」の検知に用いる点で大きく異なっている。
【0136】
「持続的異常」とは、測定装置が測定においてノイズを拾う場合のように、測定装置又はその周辺機器(通信ケーブル等)に不具合(故障等)はなくても測定環境等により偶発的に誤った測定値が出力される場合があるがその頻度が低い状態(通常状態)ではなく、測定装置又はその周辺機器の不具合によって誤った測定値が出力される頻度が通常状態より高くなっている状態を意味する。
【0137】
異常検知装置20のハードウェアとしては、特許文献1の性能解析装置10のハードウェアとして用いられるコンピュータ(図1参照)と同様のコンピュータが用いられる。従って、異常検知装置20のハードウェアの説明は省略する。
【0138】
図14は、異常検知装置20が実現する機能構成を表す。すなわち、異常検知装置20のハードウェアとして用いられるコンピュータが本実施例に係るプログラムに従う処理を実行すると、図14に示す構成を備える異常検知装置20が実現される。
【0139】
以下に異常検知装置20が備える機能構成を説明する。なお、以下の説明において、解析対象物は船舶であるものとする。
【0140】
データセット取得部201は測定値を示すデータセットを取得する。具体的には、データセット取得部201は、外部の装置からデータセットを受信し記憶する。
【0141】
データセット取得部201が取得するデータセットは、特許文献1に記載の測定値蓄積部101が蓄積するデータセット(図3参照)と同様のデータセットである。すなわち、データセット取得部201は、複数の船舶(例えば、船A、船B等)の各々に関し、複数の測定時期(例えば、測定時期t1、測定時期t2等)の各々に測定された複数の測定項目(例えば、対水速力、対地速力等)の各々の測定値を含むデータセットを取得する。図3における各データ行に格納されるデータ群が、1つのデータセットを構成する。
【0142】
データセットに含まれる測定値の測定項目は、解析項目群と絞込項目群のいずれかに区分される。例えば、対水速力、燃料消費量等は、船舶の性能を示し、解析の対象となる測定項目であるため、解析項目群に区分される。一方、風速、風向等は、船舶の性能を示すものではなく、船舶の性能に影響を与える測定項目であるため、絞込項目群に区分される。
【0143】
データセット取得部201は、条件受付部202がユーザから受け付けた条件に従い、記憶しているデータセット群から、異なる2以上の期間の各々に関し、それらの期間内に測定された測定値を含むデータセット群を読み出し、データセット抽出部203に引き渡す。
【0144】
条件受付部202は、ユーザから、データセット取得部201がデータセット抽出部203に引き渡すデータセット群を特定するための条件を受け付ける。
【0145】
図15は、条件受付部202がユーザから条件を受け付けるために表示する画面(以下、「条件受付画面」という)を例示した図である。ユーザは、条件受付画面において、「対象船」欄、「解析項目群」欄、「絞込項目群」欄、「期間」欄、「分割数」欄にデータを入力する。「対象船」欄に対し、ユーザは、測定値の測定における持続的異常の検知を行う対象の船舶の識別情報(船舶名等)を入力する。「解析項目群」欄に対し、ユーザは、測定値の測定における持続的異常の検知を行う対象の解析項目群(1以上の解析項目)の識別情報(項目名等)を入力する。「絞込項目群」欄に対し、ユーザは、測定値の測定における持続的異常の検知を行う対象の絞込項目群(1以上の解析項目)の識別情報(項目名等)を入力する。「期間」欄に対し、ユーザは、測定値の測定における持続的異常の検知を行う対象の期間を示す情報(始期及び終期)を入力する。「分割数」欄に対し、ユーザは、「期間」欄において入力した期間を分割する数を入力する。
【0146】
後述する異常検知部206は、複数の期間の各々に関しフィルタリング効率算出部205により算出された2以上のフィルタリング効率間の比較結果に基づき、測定値の測定における持続的異常を検知する。条件受付画面の「分割数」欄に入力される数(以下、分割数という)は、フィルタリング効率算出部205が算出する複数のフィルタリング効率の各々の期間を特定するために用いられる。すなわち、「期間」欄に入力された期間を、「分割数」欄に入力された数で分割した複数の期間の各々に関し、それらの期間内に測定された測定値を含むデータセット群を用いてフィルタリング効率算出部205がフィルタリング効率を算出する。
【0147】
条件受付画面において、ユーザが「開始」ボタンをクリック等すると、条件受付部202は条件受付画面においてユーザにより入力された情報をデータセット取得部201に引き渡す。
【0148】
データセット取得部201は、条件受付部202から引き渡される情報に従い、記憶しているデータセット群からデータセット抽出部203に引き渡すべきデータセット群を読み出す。データセット取得部201が図15に例示の情報を条件受付部202から引き渡された場合、データセット取得部201は、記憶しているデータセット群(図3参照)のうち船Aに関するデータセット群の中から、以下の3つの期間の各々に関し、それらの期間内に測定された測定値を含むデータセット群を読み出す。
【0149】
(第1期間)2020年1月1日~2020年4月30日
(第2期間)2020年5月1日~2020年8月31日
(第3期間)2020年9月1日~2020年12月31日
【0150】
データセット取得部201は、上記の3つの期間の各々に関し読み出したデータセット群から、ユーザにより指定された解析項目群(対水速力、燃料消費量)及び絞込項目群(トリム、波高、潮速、風速)の測定値のみを含むデータセット群を生成し、データセット抽出部203に引き渡す。
【0151】
データセット抽出部203は、2以上の期間の各々に関し、データセット取得部201により取得された複数のデータセットから、絞込項目群に含まれる項目のうち、注目する1つの項目の測定値が「所定の規則」に従い定まる範囲内であるデータセットを抽出する。
【0152】
データセット抽出部203がデータセットの抽出に用いる「所定の規則」としては、様々なものが採用可能である。以下にそれらの例を示す。
【0153】
(1)スミルノフ・グラブス検定等の統計理論に従う検定により外れ値が出なくなる標本の範囲を特定する。
(2)標本の標準偏差をσとするとき、標本の平均値から(a×σ)を減じた値を下限値、平均値に(a×σ)を加えた値を上限値とする(ただし、aは任意に定められた正数)。
(3)標本の数をNとするとき、標本の値の下位から(b×N+1)番目の値を下限値、標本の値の上位から(b×N+1)番目の値を上限値とする(ただし、bは任意に定められた1未満の正数)。
(4)上記の(2)により定まる範囲内に注目する絞込項目群の項目の測定値が入るデータセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値(後述)が、抽出前のデータセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値から所定値以上、減少するまでaを徐々に増加させてゆき、統計的ばらつきの指標値の減少量が所定値以上となったaを用いて(2)で定まる範囲を採用する。
(5)上記の(2)により定まる範囲内に注目する絞込項目群の項目の測定値が入るデータセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値が、抽出前のデータセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値から所定比率以上、減少するまでaを徐々に増加させてゆき、統計的ばらつきの指標値の減少比率が所定値以上となったaを用いて(2)で定まる範囲を採用する。
(6)上記の(3)により定まる範囲内に注目する絞込項目群の項目の測定値が入るデータセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値が、抽出前のデータセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値から所定値以上、減少するまでbを徐々に増加させてゆき、統計的ばらつきの指標値の減少量が所定値以上となったbを用いて(3)で定まる範囲を採用する。
(7)上記の(3)により定まる範囲内に注目する絞込項目群の項目の測定値が入るデータセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値が、抽出前のデータセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値から所定比率以上、減少するまでbを徐々に増加させてゆき、統計的ばらつきの指標値の減少比率が所定値以上となったbを用いて(3)で定まる範囲を採用する。
【0154】
上記の(4)~(7)のように、データセットの抽出において、データセット群の解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値を用いる場合、データセット抽出部203は、その指標値を算出する。
【0155】
ユーザにより指定されている解析項目群の項目の数が1つであれば、データセット抽出部203は、その項目の測定値の統計的ばらつきの指標値を算出する。統計的ばらつきの指標値としては、分散、標準偏差等のいずれが採用されてもよい。
【0156】
ユーザにより指定されている解析項目群の項目の数が複数であれば、データセット抽出部203は、関係式特定部204にデータセット群を引き渡し、関係式特定部204から、それら複数の項目の測定値間の関係式を受け取り、受け取った関係式とデータセット群に含まれる解析項目群の測定値との差の統計的ばらつきの指標値を、解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値として算出する。
【0157】
関係式と測定値との差としては、例えば以下が採用可能である。
【0158】
(1)複数の項目のうち、1つの項目に注目し、他の項目の測定値を関係式に代入して算出される注目した項目の値と、注目した項目の測定値との差。
【0159】
例えば、解析項目群の項目が「対水速力S」と「燃料消費量F」であり、関係式特定部204により特定された関係式がF=f(S)(燃料消費量Fは対水速力Sの関数)であり、データセット群に含まれる測定値が(S1,F1)、(S2,F2)、・・・、(Sn,Fn)(ただし、nはデータセットの数)である場合、燃料消費量Fに注目し、ΔF1=f(S1)-F1、ΔF2=f(S2)-F2、・・・、ΔFn=f(Sn)-Fnを算出する。
【0160】
または、関係式特定部204により特定された関係式がS=f(F)(対水速力Sは燃料消費量Fの関数)であり、データセット群に含まれる測定値が(S1,F1)、(S2,F2)、・・・、(Sn,Fn)(ただし、nはデータセットの数)である場合、対水速力Sに注目し、ΔS1=f(F1)-S1、ΔS2=f(F2)-S2、・・・、ΔSn=f(Fn)-Snを算出する。
【0161】
(2)関係式と測定値との最短距離。すなわち、複数項目の測定値と、関係式を満たす複数項目の値との、同じ項目の差の二乗の和(又は、その平方根)の最小値。
【0162】
例えば、解析項目群の項目が「対水速力S」と「燃料消費量F」であり、関係式特定部204により特定された関係式がF=f(S)(燃料消費量Fは対水速力Sの関数)であり、データセット群に含まれる測定値が(S1,F1)、(S2,F2)、・・・、(Sn,Fn)(ただし、nはデータセットの数)である場合、ΔS11=min{[(S-S12+(F-F12(1/2)}、ΔS22=min{[(S-S22+(F-F22(1/2)}、・・・、ΔSnn=min{[(S-Sn2+(F-Fn2(1/2)}(ただし、(S,F)はF=f(S)を満たす任意の値)を算出する。
【0163】
関係式特定部204は、データセット抽出部203から引き渡されるデータセット群に含まれる解析項目群の複数の項目の測定値間の関係式を特定する。関係式特定部204が関係式を特定する方法としては、特許文献1の関係式算出部105が関係式を特定する場合と同様に、様々な方法が採用され得る。例えば、非線形最小二乗法又は非線形最小絶対値法等の回帰分析の手法が用いられる。また、特定される関係式は、指数近似式、線形近似式、対数近似式、多項式近似式、累乗近似式等のうち、解析項目群の項目間の関係に応じて適切なものが選択される。
【0164】
解析項目群の項目が「対水速力」と「燃料消費量」である場合、関係式特定部204は、例えば図6にグラフD1として示されるような関係式を特定する。
【0165】
関係式特定部204は、特定した関係式をデータセット抽出部203に引き渡す。
【0166】
データセット抽出部203は、上述した3つの期間(第1期間~第3期間)の各々に関し、データセット取得部201から引き渡されたデータセット群から、絞込項目群に含まれる4つの項目(トリム、波高、潮速、風速)の各々に注目して上述した抽出の処理を行う。
【0167】
データセット抽出部203は、抽出の処理を完了すると、以下をフィルタリング効率算出部205に引き渡す。
【0168】
(1-1)第1期間に関する、トリムに注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
(1-2)第2期間に関する、トリムに注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
(1-3)第3期間に関する、トリムに注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
【0169】
(2-1)第1期間に関する、波高に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
(2-2)第2期間に関する、波高に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
(2-3)第3期間に関する、波高に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
【0170】
(3-1)第1期間に関する、潮速に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
(3-2)第2期間に関する、潮速に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
(3-3)第3期間に関する、潮速に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
【0171】
(4-1)第1期間に関する、風速に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
(4-2)第2期間に関する、風速に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
(4-3)第3期間に関する、風速に注目した抽出前のデータセット群と抽出後のデータセット群
【0172】
フィルタリング効率算出部205は、データセット抽出部203から、2以上の期間の各々に関し、データセット抽出部203による抽出の前後のデータセット群を受け取り、受け取った抽出の前後のデータセット群からフィルタリング効率を算出し、異常検知部206に引き渡す。
【0173】
すなわち、フィルタリング効率算出部205は、上記の(1-1)~(4-3)の計12組のデータセット群をデータセット抽出部203から受け取ると、それらのデータセット群の組の各々に関し、フィルタリング効率を算出する。
【0174】
データセット抽出部203による抽出前後のデータセット群におけるデータセットの数の減少量をΔNとし、データセット抽出部203による抽出前後のデータセット群における解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値の減少量をΔVとすると、フィルタリング効率Pは、P=(ΔV/ΔN)で表される。
【0175】
フィルタリング効率算出部205が算出する解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値は、上述したデータセット抽出部203が算出する解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値と同種のものである。従って、フィルタリング効率算出部205は、データセット抽出部203と同様の方法で、データセット抽出部203から受け取ったデータセット群の各々に関し、解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値を算出する。
【0176】
ただし、データセット抽出部203がデータセットの抽出において解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値を既に算出している場合、フィルタリング効率算出部205がそれらの指標値を算出する代わりに、データセット抽出部203からそれらの指標値を受け取って、フィルタリング効率の算出に用いてもよい。
【0177】
フィルタリング効率算出部205は、上記の(1-1)~(4-3)の計12組のデータセット群の各々に関し算出したフィルタリング効率(以下、フィルタリング効率P1-1、フィルタリング効率P1-2、・・・、フィルタリング効率P4-3とする)を異常検知部206に引き渡す。
【0178】
異常検知部206は、フィルタリング効率算出部205から引き渡される2以上のフィルタリング効率間の比較結果に基づき、解析項目群又は絞込項目群のいずれかの項目の測定における持続的異常を検知する。
【0179】
図16は、第1期間~第3期間の各々に関し、データセットの抽出の前後において、データセットの数と、解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値とが、抽出において注目した絞込項目群の項目の各々に関しどのように変化したかを示したグラフである。
【0180】
例えば、第1期間に関する図16(a)のグラフにおいて、点E0は第1期間に関する抽出前のデータセット群のデータセットの数及び解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値を示している。また、図16(a)のグラフにおいて、点E1は第1期間に関するデータセット群を、トリムの測定値に注目して抽出した場合の抽出後のデータセットの数及び解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値を示している。同様に、点E2は波高に注目した場合、点E3は潮速に注目した場合、点E4は風速に注目した場合の、抽出後のデータセットの数及び解析項目群の測定値の統計的ばらつきの指標値を示している。
【0181】
図17は、フィルタリング効率算出部205が算出するフィルタリング効率のリストの例であり、図18は、フィルタリング効率算出部205が算出するフィルタリング効率の変化を示したグラフの例である。
【0182】
異常検知部206は、図17のリストのデータに基づき、絞込項目群の各項目に関し異なる2以上の期間に関するフィルタリング効率間の比較を行い、その比較の結果に基づき、絞込項目群の項目に関する測定値の測定において持続的異常が発生していることを検知する。
【0183】
例えば、図16図18の例では、風速に関するフィルタリング効率が、第1期間の値(P4-1)及び第2期間の値(P4-2)と比較し、第3期間の値(P4-3)が大きく低下している。この場合、異常検知部206は、第3期間中に風速の測定における持続的異常が発生していることを検知する。
【0184】
なお、異常検知部206がフィルタリング効率間の比較結果に基づき持続的異常が発生しているか否かを判定する方法としては、例えば、時間的に隣合うフィルタリング効率の変化量(この場合、(P4-2-P4-1)、(P4-3-P4-2))、又は、変化率(この場合、(P4-2/P4-1)、(P4-3/P4-2))が閾値を超えているか否かを判定する方法や、複数のフィルタリング効率の中から統計的に外れ値であるものを特定する方法等のいずれが採用されてもよい。
【0185】
図19は、フィルタリング効率算出部205が算出するフィルタリング効率の変化を示したグラフの他の例である。図19のグラフは、絞込項目群の4つの項目の全てに関し、第1期間及び第2期間のフィルタリング効率に対し、第3期間のフィルタリング効率が大きく低下している。この場合、異常検知部206は、第3期間中に解析項目群のいずれかの項目、すなわち、対水速力及び燃料消費量のいずれかの測定における持続的異常が発生していることを検知する。
【0186】
異常通知部207は、異常検知部206がいずれかの項目に関し測定における持続的異常の発生を検知した場合、その異常の発生をユーザに通知する。異常通知部207が異常の発生を通知する方法は、異常検知装置20がメッセージを音声で発して通知する方法、異常検知装置20がメッセージを表示して通知する方法、異常通知部207がユーザの端末装置にメッセージを送信する方法等のいずれが採用されてもよい。
【0187】
異常検知装置20によれば、ユーザは、解析の対象物の性能に関する項目又は性能に影響を与える項目の測定値の測定における持続的異常が発生した場合に、その持続的異常の発生を知ることができる。
【0188】
例えば、第1期間、第2期間においては正常に動作していた風速計が第3期間中に故障し、実際の風速とは異なるランダムな値を出力した場合、風速は常時変化しているので、風速計の測定値のみからは、風速計の故障を検知することは容易でない。しかしながら、異常検知装置20によれば、容易に第3期間中に風速計に故障が発生したことを検知することができる。
【0189】
[4]本発明の実施例の変形例
上述した本発明の実施例は以下のように変形させてもよい。また、実施例及び各変形例は、必要に応じて組み合わせて実施してもよい。
【0190】
[4-1]装置の構成
上述した実施例において、異常検知装置20はコンピュータがプログラムに従う処理を実行することにより実現されるものとしたが、異常検知装置20が、例えば図14に示す構成部を備える専用の装置として実現されてもよい。
【0191】
[4-2]システム
上述した実施例において、本発明は異常検知装置20により実現されるものとしたが、本発明が、互いに連係動作する複数の装置を含むシステムにより実現されてもよい。その場合、上述した実施例における異常検知装置20が備える構成部(図14参照)が、システムを構成する複数の装置のいずれに配置されてもよい。
【0192】
[4-3]抽出前のデータセット群
上述した実施例において、データセット抽出部203が抽出処理を行う前のデータセット群は、データセット取得部201が記憶しているデータセット群から読み出したデータセット群であるものとしたが、それに限られない。
【0193】
例えば、データセット取得部201が記憶しているデータセット群から読み出したデータセット群のうち、測定値に異常値を含むデータセット群を除去したデータセット群が、データセット抽出部203による抽出処理の対象として用いられてもよい。
【0194】
また、データセット抽出部203が先行する抽出処理を行った後のデータセット群が、後続の抽出処理に用いられてもよい。この場合、データセット抽出部203が先行する抽出処理を行った後のデータセット群が、後続の抽出処理における抽出前のデータセット群として取得されることになる。
[4-4]発明のカテゴリ
本発明は、上述した異常検知装置20に例示される装置や変形例[4-2]で述べたシステムに加え、コンピュータに異常検知装置20を実現させるためのプログラム、異常検知装置20が行う異常検知方法を含む。本発明に係るプログラムは、プログラムを記憶させた光ディスク等の記録媒体の形態で提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してコンピュータにダウンロードさせ、ダウンロードしたプログラムをインストールして利用可能にするなどの形態で提供されてもよい。
【符号の説明】
【0195】
20…異常検知装置、201…データセット取得部、202…条件受付部、203…データセット抽出部、204…関係式特定部、205…フィルタリング効率算出部、206…異常検知部、207…異常通知部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19