(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】生体音解析装置、プログラム、及び生体音解析方法
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20220616BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A61B7/04 A
A61B5/08
A61B7/04 N
(21)【出願番号】P 2021051868
(22)【出願日】2021-03-25
(62)【分割の表示】P 2018558045の分割
【原出願日】2017-12-20
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2016246553
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317007266
【氏名又は名称】エア・ウォーター・バイオデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131015
【氏名又は名称】三輪 浩誉
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 隆真
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188601(JP,A)
【文献】特開2014-050672(JP,A)
【文献】特開2007-190082(JP,A)
【文献】特開2013-123494(JP,A)
【文献】特開2012-120688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0150054(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08
A61B 7/00 - 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸音を取得する取得部と、
前記呼吸音のフレーム毎に副雑音の特徴量が含まれるか否かを判定する第1判定部と、
前記呼吸音が入力された期間に対する、前記特徴量が含まれるフレームの割合に基づいて、前記副雑音の発生を判定する第2判定部と、
を備えることを特徴とする生体音解析装置。
【請求項2】
呼吸音を取得する取得工程と、
前記呼吸音のフレーム毎に副雑音の特徴量が含まれるか否かを判定する第1判定工程と、
前記呼吸音が入力された期間に対する、前記特徴量が含まれるフレームの割合に基づいて、前記副雑音の発生を判定する第2判定工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項3】
生体音解析装置に、
呼吸音を取得する取得工程と、
前記呼吸音のフレーム毎に副雑音の特徴量が含まれるか否かを判定する第1判定工程と、
前記呼吸音が入力された期間に対する、前記特徴量が含まれるフレームの割合に基づいて、前記副雑音の発生を判定する第2判定工程と、
を
実行させることを特徴とする生体音解析装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば呼吸音等の生体音を解析する生体音解析装置、プログラム、及び生体音解析方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、電子聴診器等によって検出される生体の呼吸音について、そこに含まれる異常音(即ち、正常な呼吸音とは異なる音)を検出しようとするものが知られている。例えば特許文献1には、呼吸音に含まれる複数の異常音(副雑音)を、音種別に分解して検出するという技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体音に含まれている異常音に関する解析を行う場合、異常音が発生している期間の割合を検出することで、例えば異常音の有無等を正確に判断することが可能である。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、呼吸音に含まれる複数の異常音の割合については検出可能とされているものの、異常音が発生している期間の割合については言及されていない。このため、特許文献1に記載の技術だけでは、異常音が発生している期間の割合を検出することができないという技術的問題点が生ずる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題には、上記のようなものが一例として挙げられる。本発明は、生体音に含まれる異常音を好適に解析可能な生体音解析装置、プログラム、及び生体音解析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための生体音解析装置は、呼吸音を取得する取得部と、前記呼吸音のフレーム毎に副雑音の特徴量が含まれるか否かを判定する第1判定部と、前記呼吸音が入力された期間に対する、前記特徴量が含まれるフレームの割合に基づいて、前記副雑音の発生を判定する第2判定部と、を備える。
【0007】
上記課題を解決するためのプログラムは、呼吸音を取得する取得工程と、前記呼吸音のフレーム毎に副雑音の特徴量が含まれるか否かを判定する第1判定工程と、前記呼吸音が入力された期間に対する、前記特徴量が含まれるフレームの割合に基づいて、前記副雑音の発生を判定する第2判定工程と、をコンピュータに実行させる。
【0008】
上記課題を解決するための生体音解析方法は、呼吸音を取得する取得工程と、前記呼吸音のフレーム毎に副雑音の特徴量が含まれるか否かを判定する第1判定工程と、前記呼吸音が入力された期間に対する、前記特徴量が含まれるフレームの割合に基づいて、前記副雑音の発生を判定する第2判定工程と、を含むことを特徴とする生体音解析方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施例に係る生体音解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施例に係る生体音解析装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図3】呼吸音信号のフレーム分割処理を示す概念図である。
【
図4】第1局所特徴量の算出処理を示すフローチャートである。
【
図5】第2局所特徴量の算出処理を示すフローチャートである。
【
図6】波形及びスペクトラムから得られる局所特徴量ベクトルを示す図である。
【
図7】局所特徴量ベクトルを用いたフレーム毎の異常音判定処理を示す概念図である。
【
図8】フレーム毎の異常音判定結果を音種別に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1>
本実施形態に係る生体音解析装置は、第1期間における生体音に関する第1情報を取得する取得部と、前記第1情報に基づいて、前記第1期間に対する、前記生体音に含まれる前記生体の異常を示す音が発生している発生時間の割合を示す第2情報を出力する出力部と、を備える。
【0011】
本実施形態に係る生体音解析装置によれば、その動作時には、第1期間において生体音に関する第1情報が取得される。「生体音」とは、被験体である生体が発する音であり、典型的には呼吸音である。また「第1情報」とは、生体音の経時的な変化を示す情報であり、例えば生体音を示す時間軸波形として取得される。
【0012】
第1情報が取得されると、第1情報を用いた解析処理が行われ、第1期間に対する、生体の異常を示す音が発生している発生時間の割合を示す第2情報が出力される。即ち、生体音を取得した期間に対する、異常を示す音の発生時間(発生期間)の割合を示す情報が出力される。なお「異常を示す音」とは、本来であれば生体音に含まれるべきでない音(例えば、副雑音)である。
【0013】
第2情報を用いれば、例えば第1期間において取得された生体音に異常を示す音が含まれているか否かを正確に判定することができる。具体的には、異常を示す音の発生時間の割合が十分に大きければ、確実に異常を示す音が発生していると判定できる。一方で、異常を示す音の発生時間の割合が極めて小さければ、異常を示す音が発生している発生時間があったとしても、ノイズ等の影響で誤検出されたものであり、実際には異常を示す音が発生していないと判定できる。
【0014】
以上説明したように、本実施形態に係る生体音解析装置によれば、異常を示す音が発生している発生時間の割合を出力することで、生体音を好適に解析することが可能である。
【0015】
<2>
本実施形態に係る生体音解析装置の一態様では、前記第1情報を、第2期間毎の複数のフレーム情報に分割する処理を行う分割処理部と、前記複数のフレーム情報の各々について、前記異常を示す音が発生しているか否かの判定を行う判定部と、を更に備え、前記出力部は、前記判定部が前記判定を行った全てのフレーム情報に対する、前記異常を示す音が発生しているフレーム情報の割合を、前記第2情報として出力する。
【0016】
この態様によれば、取得された第1情報は、まず第2期間毎の複数のフレーム情報として分割される。なお「第2期間」は、フレーム情報の分割単位を示す期間であり、第1期間より短い期間として予め設定されている。
【0017】
第1情報が複数のフレーム情報に分割されると、複数のフレーム情報の各々について、異常を示す音が発生しているか否かの判定が行われる。そして、判定が行われた全てのフレーム情報に対する、異常を示す音が発生しているフレーム情報の割合が第2情報として出力される。
【0018】
このようにすれば、フレーム単位で異常を示す音の有無を判定できるため、好適に第2情報(即ち、異常音が発生している発生期間の割合を示す情報)を出力することができる。
【0019】
<3>
上述した第1情報を複数のフレーム情報に分割する態様では、前記出力部は、前記異常音を示す音が発生しているフレーム情報の時間的位置を示す第3情報を出力してもよい。
【0020】
この場合、異常音を示す音が発生しているフレーム情報の時間的位置から、第1期間における異常を示す音が発生するタイミングを検出することができる。
【0021】
<4>
或いは第1情報を複数のフレーム情報に分割する態様では、前記判定部は、前記第1情報に含まれる前記生体音の波形情報と、前記波形情報を周波数解析して得られるスペクトラム情報とに基づいて、前記異常を示す音が発生しているか否かの判定を行ってもよい。
【0022】
この態様によれば、生体音の波形情報、及び波形情報を周波数解析して(例えば、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理を実行して)得られるスペクトラム情報の双方を利用することで、異常を示す音が発生しているか否かの判定を、より好適に行うことができる。
【0023】
<5>
本実施形態に係る生体音解析装置の他の態様では、前記出力部は、前記第1期間に対する、前記異常を示す音が発生している発生時間の割合が所定値以上の場合に、前記異常を示す音が観測されたことを示す第4情報を出力する。
【0024】
この態様によれば、異常を示す音が発生している発生時間の割合に基づいて、異常音が実際に観測されているのか否かを示す情報を出力できる。なお「所定値」は、異常音が発生しているか否かを判定するために設定される閾値であり、事前のシミュレーション等によって予め決定される。
【0025】
<6>
本実施形態に係る生体音解析装置の他の態様では、前記生体音は呼吸音であり、前記異常を示す音は副雑音であり、前記出力部は、前記副雑音の音種毎に前記第2情報を出力する。
【0026】
この態様によれば、生体の呼吸音に含まれ得る副雑音(例えば、連続性ラ音や断続性ラ音)に関する情報を、副雑音の音種毎に出力することができる。
【0027】
<7>
本実施形態に係る生体音解析方法は、生体音解析装置によって利用される生体音解析方法であって、第1期間における生体音に関する第1情報を取得する取得工程と、前記第1情報に基づいて、前記第1期間に対する、前記生体音に含まれる前記生体の異常を示す音が発生している発生時間の割合を示す第2情報を出力する出力工程と、を含む。
【0028】
本実施形態に係る生体音解析方法によれば、上述した本実施形態に係る生体音解析装置と同様に、異常を示す音が発生している発生時間の割合を出力することで、生体音を好適に解析することが可能である。
【0029】
なお、本実施形態に係る生体音解析方法においても、上述した本実施形態に係る生体音解析装置における各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
【0030】
<8>
本実施形態に係るプログラムは、上述した生体音解析方法を、前記生体音解析装置に実行させる。
【0031】
本実施形態に係るプログラムによれば、上述した本実施形態に係る生体音解析方法を実行させることができるため、異常を示す音が発生している発生時間の割合を出力することで、生体音を好適に解析することが可能である。
【0032】
<9>
本実施形態に係る記憶媒体は、上述したプログラムを記憶する。
【0033】
本実施形態に係る記憶媒体によれば、上述した本実施形態に係るプログラムを実行させることができるため、異常を示す音が発生している発生時間の割合を出力することで、生体音を好適に解析することが可能である。
【0034】
本実施形態に係る生体音解析装置、生体音解析方法、プログラム及び記憶媒体の作用及び他の利得については、以下に示す実施例において、より詳細に説明する。
【実施例】
【0035】
以下では、生体音解析装置、生体音解析方法、プログラム及び記憶媒体の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、呼吸音の解析を行う生体音解析装置を例に挙げて説明する。
【0036】
<装置構成>
先ず、本実施例に係る生体音解析装置の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施例に係る生体音解析装置の構成を示すブロック図である。
【0037】
図1において、本実施例に係る生体音解析装置は、呼吸音入力部110と、処理部200と、判定結果出力部300とを備えて構成されている。
【0038】
呼吸音入力部110は、被験体である生体の呼吸音を呼吸音信号として取得可能に構成されている。呼吸音入力部110は、例えばECM(Electret Condenser Microphone)やピエゾを利用したマイク、振動センサ等を含んで構成されている。また、呼吸音入力部110は、生体の呼吸音を呼吸音信号として取得可能に構成されたセンサだけでなく、センサからの呼吸音信号を取得するものを含んでいてもよい。呼吸音入力部110で取得された呼吸音信号は、処理部200に出力される構成となっている。なお、呼吸音入力部110は、「取得部」の一具体例である。
【0039】
処理部200は、複数の演算回路やメモリ等を含んで構成されている。処理部200は、フレーム分割部210と、第1局所特徴量算出部220と、周波数解析部230と、第2局所特徴量算出部240と、フレーム判定部250と、大局特徴量算出部260と、聴診区間判定部270とを備えて構成されている。
【0040】
フレーム分割部210は、「分割処理部」の一具体例であり、呼吸音入力部110から入力された呼吸音を複数のフレームに分割する分割処理を実行可能に構成されている。フレーム分割部210で分割された呼吸音信号は、第1局所特徴量算出部220及び周波数解析部230に出力される構成となっている。
【0041】
第1局所特徴量算出部220は、呼吸音信号の波形に基づいて、第1局所特徴量を算出可能に構成されている。第1局所特徴量算出部220が実行する処理については、後に詳述する。第1局所特徴量算出部220で算出された第1局所特徴量は、フレーム判定部250に出力される構成となっている。
【0042】
周波数解析部230は、呼吸音入力部110から入力された呼吸音信号に対して時間周波数解析処理(例えば、FFT処理等)を実行可能に構成されている。時間周波数解析部230の解析結果は、第2局所特徴量算出部240に出力される構成となっている。
【0043】
第2局所特徴量算出部240は、周波数解析部230の解析結果に基づいて、第2局所特徴量を算出可能に構成されている。第2局所特徴量算出部240が実行する処理については、後に詳述する。第2局所特徴量算出部240で算出された第2局所特徴量は、フレーム判定部250に出力される構成となっている。
【0044】
フレーム判定部250は、「判定部」の一具体例であり、呼吸音信号の各フレームに生体の異常を示す音(以下、適宜「異常音」と称する)が含まれているか否かを判定可能に構成されている。フレーム判定部250が実行する処理については、後に詳述する。フレーム判定部250の判定結果は、大局特徴量算出部260に出力される構成となっている。
【0045】
大局特徴量算出部260は、フレーム判定部の判定結果に基づいて、呼吸音が入力された期間に対する、異常音が発生している発生時間(発生期間)の割合を算出可能に構成されている。大局特徴量算出部260で算出された異常音の発生時間の割合を示す情報は、聴診区間判定部270に出力される構成となっている。
【0046】
聴診区間判定部270は、異常音の発生時間の割合に基づいて、呼吸音に異常音が含まれているか否かを判定可能に構成されている。聴診区間判定部270の判定結果は、判別結果出力部300に出力される構成となっている。
【0047】
判別結果出力部300は、例えば液晶モニタ等のディスプレイとして構成されており、処理部200から出力される各種情報を画像データとして表示する。
【0048】
<動作説明>
次に、本実施例に係る生体音解析装置の動作について、
図2を参照して説明する。
図2は、本実施例に係る生体音解析装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【0049】
図2に示すように、本実施例に係る生体音解析装置の動作時には、まず呼吸音入力部110によって呼吸音が取得される(ステップS101)。呼吸音入力部110は、取得した呼吸音を呼吸音信号(例えば、呼吸音の経時的変化を示す波形)として処理部200に出力する。呼吸音信号は、「第1情報」の一具体例である。
【0050】
続いて、フレーム分割部210によって、呼吸音が複数のフレームに分割される(ステップS102)。以下では、呼吸音信号のフレーム分割について、
図3を参照して具体的に説明する。
図3は、呼吸音信号のフレーム分割処理を示す概念図である。
【0051】
図3に示すように、呼吸音信号は、所定の間隔で複数のフレームに分割される。このフレームは、後述する呼吸音の解析を好適に実行するための処理単位として設定されるものであり、1フレーム当たりの期間は、例えば12msecとされている。
【0052】
図2に戻り、フレーム分割された呼吸音信号は、第1局所特徴量算出部220に入力され、第1局所特徴量が算出される(ステップS103)。また、フレーム分割された呼吸音信号は、周波数解析部230によって周波数解析され、第2局所特徴量算出部240に入力される。第2局所特徴量算出部240では、周波数解析された呼吸音信号(例えば、周波数特性を示すスペクトラム)に基づいて、第2局所特徴量が算出される。
【0053】
以下では、第1局所特徴量算出部220による第1局所特徴量の算出処理、及び第2局所特徴量算出部240による第2局所特徴量の算出処理について、
図4から
図6を参照して詳細に説明する。
図4は、第1局所特徴量の算出処理を示すフローチャートである。
図5は、第2局所特徴量の算出処理を示すフローチャートである。
図6は、波形及びスペクトラムから得られる局所特徴量ベクトルを示す図である。
【0054】
図4に示すように、第1局所特徴量の算出時には、まず呼吸音信号の波形が取得され(ステップS201)、プリフィルター処理が施される(ステップS202)。プリフィルター処理は、例えばハイパスフィルターを用いた処理であり、呼吸音信号に含まれる余分な成分を除去することが可能である。
【0055】
続いて、プリフィルター処理が施された呼吸音信号を用いて、局所分散値が算出される(ステップS203)。局所分散値は、例えば第1期間w1における呼吸音信号のばらつきを示す第1分散値、及び第1期間w1を含む第2期間w2における呼吸音信号のばらつきを示す第2分散値として算出される。このようにして算出される局所分散値は、異常音の中でも特に断続性ラ音(例えば、水泡音)を判定するための局所特徴量として機能する。
【0056】
局所分散値が算出されると、呼吸音信号の各フレームにおける局所分散値の最大値が算出され(ステップS204)、第1局所特徴量として出力される(ステップS205)。
【0057】
図5に示すように、第2局所特徴量の算出時には、まず周波数解析によって得られたスペクトラムが取得され(ステップS301)、CMN(Cepstral Mean Normalization)処理が実行される(ステップS302)。CMN処理では、呼吸音信号からセンサや環境等の定常的に畳み込まれている特性を除去することができる。
【0058】
CMN処理が施された呼吸音信号には更に、包絡成分を抽出するためのリフタリング処理(ステップS303)及び微細成分を抽出するためのリフタリング処理(ステップS304)が実行される。リフタリング処理は、ケプストラムから所定のケフレンシー成分をカットする処理である。
【0059】
上述したCMN処理及びリフタリング処理によれば、他の生体音に埋もれてしまう連続性ラ音(例えば、類鼾音、笛声音、捻髪音等)を判別し易い状態にすることができる。なお、CMN処理及びリフタリング処理については、既存の技術であるため、ここでのより詳細な説明については省略する。
【0060】
微細成分を抽出するリフタリング処理が行われた呼吸音信号については、KL情報量を用いた強調処理が実行され特徴量が算出される。KL情報量は、観測値Pと基準値Q(例えば、理論値、モデル値、予測値等)とを用いて算出されるパラメータであり、基準値Qに対して特徴のある観測値Pが現れると、KL情報量は大きな値として算出される。KL情報量を用いた処理によれば、呼吸音に含まれているトーン性成分(即ち、連続性ラ音を判別するための成分)が強調され明確になる。
【0061】
他方、周波数解析によって得られたスペクトラムには、HAAR-LIKE特徴の算出も実行される(ステップS306)。HAAR-LIKE特徴は主に画像処理の分野で用いられる技術であるが、ここでは周波数ごとの振幅値を画像処理における画素値に対応付けることによって、同様の手法でスペクトラムから算出される。なお、HAAR-LIKE特徴の算出については、既存の技術であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0062】
以上のように呼吸音信号に対し各種処理を施して複数の特徴量が周波数ごとに算出されると、周波数帯域別に平均値が算出され(ステップS307)、第2局所特徴量として出力される(ステップS307)。
【0063】
図6に示すように、呼吸音信号の波形及びスペクトラムからは、上述した処理によって、複数種類の局所特徴量(即ち、第1局所特徴量及び第2局所特徴量)が得られる。これらは、フレーム毎に局所特徴量ベクトルとして出力される。
【0064】
再び
図2に戻り、フレーム判定部250では、算出された局所特徴量ベクトルを利用して、フレーム単位で異常音の発生が判定される(ステップS106)。フレーム毎の異常音判定(以下、適宜「フレーム判定処理」と称する)は、解析対象となる異常音が複数ある場合には、音種ごとに実行される。このため、フレーム判定処理が終了すると、全音種についてフレーム判定処理が完了したか否かが判定され(ステップS107)、全音種についてフレーム判定処理が完了していない場合には(ステップS107:NO)、未判定の音種について再びフレーム判定処理が実行される。
【0065】
一方、全音種についてフレーム判定処理が完了した場合には(ステップS107:YES)、取得した呼吸音信号の全てのフレームについて判定が完了したか否かが判定される(ステップS108)。そして、全てのフレームについて判定が完了していないと判定された場合には(ステップS108:NO)、ステップS103及びステップS104以降の処理が再び実行される。このように処理を繰り返すことで、全ての音種、全てのフレームについて、フレーム判定処理が実行されることになる。
【0066】
以下では、フレーム判定部250によるフレーム判定処理について、
図7及び
図8を参照して詳細に説明する。
図7は局所特徴量ベクトルを用いたフレーム毎の異常音判定処理を示す概念図である。
図8は、フレーム毎の異常音判定結果を音種別に示す図である。
【0067】
図7に示すように、フレーム判定処理は、複数の特徴量を含むフレームごとの局所特徴量ベクトルに基づいて行われる。フレーム判定処理では、例えば事前の学習等によって得られた異常音に対応する局所特徴量ベクトル(即ち、判定の基準となる局所特徴量ベクトル)と、実際に取得された局所特徴量ベクトルとが比較され、異常音の有無がフレーム単位で判定される。
【0068】
図8に示すように、本実施例に係る生体音解析装置では、呼吸音に含まれる異常音(副雑音)として、類鼾音、笛声音、捻髪音及び水泡音の各々の有無が、フレーム単位で判定される。図に示す例では、類鼾音の発生は殆ど検出されていないが、笛声音、捻髪音及び水泡音については、一部の期間で発生が検出されている。特に、捻髪音については、比較的多くの期間で発生が検出されている。
【0069】
上述したフレーム判定処理によれば、異常音が発生しているフレームの時間的位置(言い換えれば、タイミング)を検出することができる。フレーム判定処理の判定結果は、「第3情報」の一具体例である。
【0070】
再び
図2に戻り、全てのフレームについてフレーム判定処理が完了すると(ステップS108:YES)、大局特徴量算出部260により、呼吸音を取得した期間に対する、異常音が発生している発時間の割合が音種ごとに算出される(ステップS109)。異常音が発生している発生時間の割合は、「第2情報」の一具体例であり、例えば全てのフレーム数に対する、異常音が発生したと判定されたフレーム数の割合として算出される。
【0071】
続いて、聴診区間判定部270では、異常音が発生している発生時間の割合に基づいて、呼吸音が取得された期間(言い換えれば、聴診区間)において、異常音が発生しているか否かが判定される(ステップS110)。具体的には、聴診区間判定部270は、異常音が発生している発生時間の割合が所定値以上である場合に異常音が発生していると判定し、異常音が発生している発生時間の割合が所定値未満の場合に異常音が発生していないと判定する。なお、聴診区間判定部270の判定結果は、「第4情報」の一具体例である。
【0072】
以上で本実施例に係る生体音解析装置による処理は終了するが、これら一連の処理は、呼吸音が所定期間分取得される度に、繰り返し実行される。
【0073】
<実施例の効果>
本実施例に係る生体音解析装置では、複数の局所特徴量ベクトルを利用して、フレームごとに異常音の発生が判定されるため、異常音の発生タイミングを好適に検出することができる。ただし、フレーム単位で異常音の発生を判定しただけでは、例えばノイズ等の影響により、実際には異常音が発生していない場合でも、一部のフレームで異常音が発生していると判定される可能性がある。
【0074】
しかるに本実施例では、呼吸音が取得された期間に対する、異常音が発生している発生時間の割合が算出されるため、より正確に異常音の発生を検出することができる。
【0075】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う生体音解析装置、生体音解析方法、プログラム及び記憶媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
110 呼吸音入力部
200 処理部
210 フレーム分割部
220 第1局所特徴量算出部
230 周波数解析部
240 第2局所特徴量算出部
250 フレーム判定部
260 大局特徴量算出部
270 聴診区間判定部
300 判定結果出力部