(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】中空成形パネル
(51)【国際特許分類】
B29C 51/10 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
B29C51/10
(21)【出願番号】P 2018105446
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 尊
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-202488(JP,A)
【文献】特開2013-049186(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156299(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/10
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂シートと第2樹脂シートが部分的に
溶着されてなり、
第1樹脂シートと第2樹脂シートの間には
流路が蛇行する形で設けられ、
前記流路には温水または冷水が流通され、
人体や各種物品に沿わせて任意の形状に変形させる可撓性を有する中空成形パネルであって、
前記第1樹脂シートと第2樹脂シートは、スチレン系エラストマーとポリオレフィンとを
含有し、
前記スチレン系エラストマーの含有量が65質量%~70質量%であり、ポリオレフィンの含有量が30質量%~35質量%であることを特徴とする中空成形パネル。
【請求項2】
引張弾性率が17~20MPaであることを特徴とする請求項1記載の中空成形パネル。
【請求項3】
前記流路は、中空成形パネルの側面から突出する突出筒に連通されていることを特徴とする請求項2記載の中空成形パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空成形パネルに関するものであり、特に、可撓性を有する中空成形パネルの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
溝を形成した2枚の樹脂シートを貼り合わせることによって、流路を有する中空成形パネルを製造する技術が各方面で提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1樹脂シートと第2樹脂シートが部分的に溶着されてなる中空成形品であって、第1樹脂シートと第2樹脂シートの間には流路が設けられ、流路は、中空成形品の側面から突出し且つ先端に開口部を有する突出筒に連通されており、突出筒は、第1樹脂シートと第2樹脂シートによって形成されている中空成形品が開示されている。特許文献1に記載される中空成形品の用途としては、例えば集熱器や温水パネル等である。
【0004】
また、特許文献2には、流体が流動可能に封入され、背中から臀部に沿った第1の方向に長く形成されているセルを複数有し、当該セルが前記第1の方向に垂直な第2の方向に沿って複数並列に設けられている寝具用パッドが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、放熱用あるいは受熱用流体の内部流路を有する平板状の樹脂製熱伝達ユニットが開示されており、効率的な熱交換を維持しつつ、効率的な製造を可能とする樹脂製熱伝達ユニットの製造方法が開示されている。特許文献3に開示される樹脂製熱伝達ユニットは、例えば床暖房パネルユニットである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-199241号公報
【文献】特開2013-341号公報
【文献】特開2013-49186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この種の中空成形パネルにおいては、可撓性(柔軟性)を付与することができれば、パネルの配置自由度や取付自由度が増し、新たな用途が創出されることが期待される。例えば、中空成形パネルを湾曲させることができれば、人体の任意の部位に装着することができ、加温パネルや冷却パネルとして使用することが可能になるものと考えられる。また、特許文献2に開示されるような寝具用パッドにおいても、可撓性(柔軟性)を有していれば、姿勢等に応じて中空成形パネルが変形し、使用感が良好なものになるものと期待される。
【0008】
本発明は、前述の従来の実情に鑑みて提案されたものであり、良好な可撓性を有し、しかも撓ませた時にも流路を確実に確保することができ、外観にも優れた中空成形パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するために、本発明の中空成形パネルは、第1樹脂シートと第2樹脂シートが部分的に溶着されてなり、第1樹脂シートと第2樹脂シートの間には流路が蛇行する形で設けられ、前記流路には温水または冷水が流通され、人体や各種物品に沿わせて任意の形状に変形させる可撓性を有する中空成形パネルであって、前記第1樹脂シートと第2樹脂シートは、スチレン系エラストマーとポリオレフィンとを含有し、前記スチレン系エラストマーの含有量が65質量%~70質量%であり、ポリオレフィンの含有量が30質量%~35質量%であることを特徴とする。
【0010】
エラストマーは柔軟性に優れた材料であり、エラストマーを主成分とする樹脂シートで中空成形パネルを成形すれば、良好な柔軟性を実現できるものと考えられる。ただし、例えばパネル全体を湾曲させて使用するような可撓性を有する中空成形パネルにおいては、柔軟なエラストマーのみを主成分としてパネルを形成すると、パネルを湾曲させた時に流路が押し潰されて、十分な流通を実現することが難しいという問題がある。
【0011】
また、成形を考えた場合、エラストマーのみを主成分とする樹脂シートを成形すると、べたつきが生じ、成形された中空成形パネルの表面に、いわゆるシャークスキンが認められる等、製品の外観を損なう傾向にあり、製品価値を損なう要因となる。
【0012】
本発明の中空成形パネルでは、スチレン系エラストマーにポリプロピレンを適正量配合しているので、十分な可撓性が確保され、しかも流路の潰れや外観上の不都合も解消される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な可撓性を有し、しかも撓ませた時にも流路を確実に確保することができ、外観にも優れた中空成形パネルを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】中空成形パネルの一例を示す概略斜視図である。
【
図2】
図1に示す中空成形パネルの概略断面図である。
【
図3】中空成形パネルの成形装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した中空成形パネルの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の一実施形態の中空成形パネル1は、第1樹脂シート2と第2樹脂シート3を重ね合わせ、部分的に溶着することにより構成されている。第1樹脂シート2と第2樹脂シート3の境界は、いわゆるパーティングラインとして中空成形パネル1の厚さ方向の略中央に設けられる。
【0017】
また、第1樹脂シート2と第2樹脂シート3には、断面略半円形に成形された流路部2a,3aが蛇行する形で形成されており、これら流路部2a,3aが互いに対向するように第1樹脂シート2と第2樹脂シート3とを溶着接合することで、断面略円形の流路4が形成される。
【0018】
前記流路4は、中空成形パネル1の側面から突出する突出筒5a,5bに連通されている。突出筒5a,5bの先端には開口部が設けられており、流路4内への液体を供給するための供給チューブ(図示せず)と流路4から液体を排出するための排出チューブ(図示せず)を、これら突出筒5a,5bに連結させることによって、流路4内に液体を流通させることができる。
【0019】
流路4に流通させる流体は任意であり、例えば加温した液体(温水等)を流路4に流通させれば、中空成形パネル1は加温パネルとして機能する。冷却した液体(冷水等)を流路4に流通させれば、中空成形パネル1は冷却パネルとして機能する。
【0020】
次に、このような中空成形パネル1の成形装置について説明する。
図3に示すように、中空成形パネル1の成形装置10は、押出装置12と、押出装置12の下方に配置された型締装置14とを有し、押出装置12から押出された溶融状態の樹脂シートPを型締装置14に送り、型締装置14により溶融状態の樹脂シートPを成形するようにしている。
【0021】
押出装置12は、従来既知のタイプであり、その詳しい説明は省略するが、ホッパー16が付設されたシリンダー18と、シリンダー18内に設けられたスクリュー(図示せず)と、スクリューに連結された油圧モーター20と、シリンダー18と内部が連通したアキュムレータ22と、アキュムレータ22内に設けられたプランジャー24とを有し、ホッパー16から投入された樹脂ペレットが、シリンダー18内で油圧モーター20によるスクリューの回転により溶融、混練され、溶融状態の樹脂がアキュムレータ室22に移送されて一定量貯留され、プランジャー24の駆動によりTダイ28に向けて溶融樹脂を送り、押出スリット34を通じて所定の長さの連続的な樹脂シートPが押し出され、間隔を隔てて配置された一対のローラー30によって挟圧されながら下方へ向かって送り出されて分割金型32の間に垂下される。これにより、樹脂シートPが上下方向(押出方向)に一様な厚みを有する状態で、分割金型32の間に配置される。
【0022】
型締装置14も、押出装置12と同様に、従来既知のタイプであり、その詳しい説明は省略するが、2つの分割形式の金型32A,Bと、金型32A,Bを溶融状態の樹脂シートPの供給方向に対して略直交する方向に、開位置と閉位置との間で移動させる金型駆動装置とを有する。
【0023】
2つの分割形式の金型32A,Bには、樹脂シートP1,P2に流路の一部を構成する蛇行凹溝を形成するように、蛇行凹溝と相補形状の凹部119A,119Bが設けられている。
【0024】
2つの分割形式の金型32A,Bそれぞれにおいて、キャビティのまわりには、ピンチオフ部118が形成され、このピンチオフ部118は、キャビティのまわりに環状に形成され、対向する金型32A,Bに向かって突出する。これにより、2つの分割形式の金型32A,Bを型締する際、それぞれのピンチオフ部118の先端部が当接し、2枚の溶融状態の樹脂シートP1,P2は、その周縁にパーティングラインPLが形成されるように溶着される。
【0025】
金型32Aの外周部には、型枠33Aが密封状態で摺動可能に外嵌し、図示しない型枠移動装置により、型枠33Aが、金型32Aに対して相対的に移動可能としている。型枠33Aは、金型32Aに対して金型32Bに向かって突出することにより、金型32A,B間に配置された樹脂シートP1の側面に当接可能である。図示は省略しているが、同様に、金型32Bの外周部にも、型枠を設け、当該型枠が金型32Aに向かって突出することにより、金型32A,B間に配置された樹脂シートP2の側面に当接可能としている。
【0026】
分割金型32A,32Bの内部には、真空吸引室が設けられ、真空吸引室は吸引穴を介してキャビティに連通し、真空吸引室から吸引穴を介して吸引することにより、キャビティに向かって樹脂シートP1,P2を吸着させて、分割金型32A,32Bのキャビティ形状に賦形するようにしている。
【0027】
成形に際しては、先ず、溶融混練した樹脂をアキュムレータ22内に所定量貯留し、Tダイ28に設けられた所定間隔の押出スリット34から、貯留された熱可塑性樹脂を単位時間当たり所定押出量で間欠的に押し出す。次いで、押出方向に一様な厚みを形成した樹脂シートP1,P2を一対のローラー30の下方に配置された分割金型32A,B間に配置する。
【0028】
次いで、金型32A,32Bに設けられた真空吸引室から吸引穴を介して吸引することにより、樹脂シートP1,P2を各金型32A,32Bのキャビティ押し付けて、キャビティ形状に樹脂シートP1,P2を賦形する。そして、各樹脂シートP1,P2を吸引保持しつつ、それぞれの環状のピンチオフ部118A,B同士が当接するまで両金型32A,Bを互いに近づく向きに移動させ、型締する。
【0029】
成形される中空成形パネル1は、前述の通り、2枚の樹脂シート(第1樹脂シート2及び第2樹脂シート3)を溶着することにより構成されるが、これら第1樹脂シート2及び第2樹脂シート3は、可撓性(柔軟性)を確保するために、スチレン系エラストマーを成分として含んでいる。
【0030】
スチレン系エラストマーとしては、ジエンブロック(ジエン重合体部)からなるソフトセグメントとスチレンブロック(スチレン重合体部)やポリスチレン等からなるハードセグメントとを有するブロック共重合体が挙げられ、具体的には、例えば、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SI)及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)もしくはそれらブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。また、ハイインパクトポリスチレン及びABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)等を使用することができる。
【0031】
前記した水素添加物は、スチレンブロックとジエンブロックの全てが水素添加されたブロック共重合体であっても、ジエンブロックのみ水素添加されたブロック共重合体あるいはスチレンブロックとジエンブロックの一部が水素添加されたブロック共重合体等の部分水素添加物等であってもよい。具体的には、例えば、(水素添加)スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、(水素添加)スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、(水素添加)スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、(水素添加)スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、(水素添加)スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)等が挙げられる。
【0032】
これらの中では、(水素添加)スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が最適である。
【0033】
なお、エラストマーを含む樹脂シートの成形においては、前述の成形において、型枠33Aに当接し、キャビティ形状に賦形、型締までの樹脂シート温度を、90℃以上110℃以下に保つ必要がある。温度が90℃未満であると、樹脂シート同士の溶着強度が低下してしまい、110℃を越えると、キャビティ形状に賦形する際に、肉厚不均一となる原因になる。
【0034】
ただし、中空成形パネル1の第1樹脂シート2及び第2樹脂シート3をスチレン系エラストマーのみにより形成すると、中空成形パネル1を湾曲させた時に流路5が押し潰されて、十分な流通を実現することが難しく、成形の際にべたつきが生じたり、成形された中空成形パネルの表面に、いわゆるシャークスキンが認められる等、製品の外観を損なうおそれがある。
【0035】
そこで、本実施形態においては、スチレン系エラストマーに加えてポリプロピレンを適正量配合し、これら不都合を解消することとする。適正な配合としては、スチレン系エラストマーの含有量が65質量%~80質量%であり、ポリオレフィンの含有量が20質量%~35質量%である。より好ましくは、ポリオレフィンの含有量が30質量%~35質量%である。
【0036】
スチレン系エラストマーの含有量が65質量%未満であり、ポリオレフィンの含有量が35質量%を越えると、十分な可撓性(柔軟性)が得られなくなるおそれがある。逆に、スチレン系エラストマーの含有量が80質量%を越え、ポリオレフィンの含有量が20質量%未満であると、中空成形パネル1を湾曲させた時に流路5が押し潰され、流路を確保することが難しくなるおそれがある。また、成形の際にべたつきが生じたり、成形された中空成形パネルの表面に、いわゆるシャークスキンが認められる等、製品の外観を損なうおそれがある。
【0037】
本発明を適用した中空成形パネル1では、スチレン系エラストマーとポリオレフィンとを適正な割合で配合した樹脂材料により形成された樹脂シートを用いているので、良好な可撓性を有し、しかも撓ませた時にも流路を確実に確保することができ、外観にも優れた中空成形パネルを実現することが可能である。例えば、本発明を適用した中空成形パネル1は、全体的に曲げることが可能であり、且つ、曲げた状態で流路が閉鎖されることもない。ここで、全体的に曲げるとは、例えば折り曲げ線で折畳むのではなく、両端部同士が当接するように円柱状に曲げる、屈曲しない程度に捻る、人体や各種物品等に沿わせて任意の形状に変形させる等、中空成形パネル全体を柔軟に変形させることを言う。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0039】
中空成形パネルの作製
樹脂シートに含まれるスチレン系エラストマーとポリプロピレンの含有量を表1に示すように変え、これを成形して中空成形パネルを作製した(実施例1~3、比較例1~3)。なお、使用したスチレン系エラストマーは、旭化成社製、商品名H1221である。ポリプロピレンは、プライムポリマー社製、商品名B242WCである。
【0040】
評価
作製した中空成形パネルについて、外観、べたつき、溶着強度、接着強度、引張弾性率(常温)を測定し、評価した。結果を表1に示す。
・外観
成形品にシャークスキンが確認されたものを×とした。
・べたつき
試験片2枚を重ね合わせ、一方の試験片を固定する。他方の試験片をプッシュプルゲージにて引っ張り、はがれた時の力を測定した。
10N以上:べたつきあり
10N未満:べたつきなし
・溶着強度
実施例及び比較例において成形品のピンチオフ部を切り出し、万能試験機(島津製作所社製、AGS-10KNJ、ロードセル10kN)を10mm/minで引張り剥がれる際の強度を測定する。
・接着強度
PVCチューブと製品連結部を紫外線硬化型の接着剤を用いて固定したのち、製品部とPVCチューブを常温で万能試験機(島津製作所社製、AGS-10KNJ、ロードセル10kN)を用いて10mm/minで引張り剥がれる際の強度を測定する。
・引張弾性率(常温)JIS K 7127
20MPa以下であれば、柔軟性が高い。
【0041】
【0042】
表1から明らかなように、スチレン系エラストマーとポリプロピレンの含有量を適正なものとした実施例1~3では、各評価項目において、良好な結果となっている。これに対して、スチレン系エラストマーの含有量が多い比較例1,2では、べたつきが生じており、溶着強度や接着強度が不十分である。また、スチレン系エラストマーの含有量が少ない比較例3では、引張弾性率(常温)が高くなり、柔軟性が不十分であることがわかる。
【符号の説明】
【0043】
1 中空成形パネル
2 第1樹脂シート
3 第2樹脂シート
2a,3a 流路部
4 流路
5a,5b 突出筒