(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】半導体製造装置用部材および半導体製造装置用部材を備えた半導体製造装置並びにディスプレイ製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20220616BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20220616BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20220616BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20220616BHJP
C23C 28/04 20060101ALI20220616BHJP
C23C 24/04 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101C
H01L21/31 C
C23C16/44 J
C23C14/00 B
C23C28/04
C23C24/04
(21)【出願番号】P 2021005554
(22)【出願日】2021-01-18
(62)【分割の表示】P 2019222020の分割
【原出願日】2019-12-09
【審査請求日】2021-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019033545
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】新田 安隆
(72)【発明者】
【氏名】和田 琢真
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150617(JP,A)
【文献】特開2018-046278(JP,A)
【文献】特開2013-247187(JP,A)
【文献】特開2011-011929(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0323124(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/461
H01L 21/469
H01L 21/86
C23C 14/00-16/56
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム元素を含むアルミ部材と、前記アルミ部材の表面に設けられたアルマイト層と、を含む基材と、
前記アルマイト層の上に設けられ、多結晶セラミックスを含み、エアロゾルデポジション法により形成された耐パーティクル層と、を備え、
前記耐パーティクル層は、基準耐プラズマ性試験後において0.060μm以下の算術平均高さSaを示し、
前記基準耐プラズマ性試験は、誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチング装置を用い、誘導結合プラズマの出力が1500W、バイアス出力が750Wの電源出力において、プロセスガスがCHF
3
ガス100ccmとO
2
ガス10ccmの混合ガス、圧力が0.5Paの条件で1時間プラズマ照射を行うよう構成されており、
前記耐パーティクル層は、酸化イットリウムを主成分として含み、
前記アルマイト層のヤング率は90GPaより大きい、半導体製造装置用部材。
【請求項2】
前記アルマイト層のヤング率は100GPa以上である、請求項1記載の半導体製造装置用部材。
【請求項3】
前記アルマイト層のヤング率は150GPa以下である、請求項1または2に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項4】
倍率40万倍~200万倍のTEM画像より算出される、前記多結晶セラミックスの平均結晶子サイズが3nm以上50nm以下である、請求項1~
3のいずれか1つに記載の半導体製造装置用部材。
【請求項5】
前記平均結晶子サイズが30nm以下である、請求項
4に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つに記載の半導体製造装置用部材を備えた半導体製造装置。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1つに記載の半導体製造装置用部材を備えたディスプレイ製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、半導体製造装置用部材および該半導体製造装置用部材を備えた半導体製造装置並びにディスプレイ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、チャンバ内でドライエッチング、スパッタリング及びCVD(Chemical Vapor Deposition)等の処理を行う半導体製造装置が使用される。このチャンバ内では、被加工物やチャンバの内壁等からパーティクルが発生することがある。このようなパーティクルは、製造される半導体デバイスの歩留まりの低下の要因となるため、パーティクルの低減が求められる。
【0003】
パーティクルを低減させるために、チャンバやその周辺に用いられる半導体製造装置用部材には、耐プラズマ性が求められる。そこで、半導体製造装置用部材の表面を耐プラズマ性に優れた被膜(層)でコーティングする方法が用いられている。例えば、基材の表面にイットリア溶射膜が形成された部材が用いられている。しかし、溶射膜には亀裂や剥離が生じることがあり、耐久性が十分とはいえない。被膜の剥離や、被膜からの脱粒は、パーティクル発生の要因となるため、被膜と基材との剥離を抑制することが求められる。これに対して、特許文献1および特許文献2には、エアロゾルデポジション法で形成されたセラミックス膜を用いた半導体または液晶製造装置部材が開示されている(特許文献1、特許文献2)。
昨今では、半導体デバイスの微細化が進んでおり、ナノレベルでのパーティクルのコントロールが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-158933号公報
【文献】韓国特許20100011576A公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パーティクルを低減することができる半導体製造装置用部材および該半導体製造装置用部材を備えた半導体製造装置並びにディスプレイ製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る半導体製造装置用部材は、アルミニウム元素を含むアルミ部材と、前記アルミ部材の表面に設けられたアルマイト層と、を含む基材と、前記アルマイト層の上に設けられ、多結晶セラミックスを含み、エアロゾルデポジション法により形成された耐パーティクル層と、を備える。前記アルマイト層のヤング率は90GPaより大きい。
【0007】
本発明者らは、耐パーティクル層が設けられるアルマイト層のヤング率と、耐パーティクル層の耐パーティクル性との間の相関関係を新たに見出した。具体的には、アルマイト層のヤング率が90GPa以下と小さい場合には、耐パーティクル層にナノレベルのわずかな空隙が生じ、この空隙を起点としてパーティクルが発生する場合があることを見出した。
そこで、この半導体製造装置用部材によれば、アルマイト層のヤング率を90GPaより大きくしている。そのため、本発明にかかる半導体製造装置用部材では、高いレベルでの耐パーティクル性を発現することができる。
【0008】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、前記基材から前記耐パーティクル層に向かう第1方向における前記耐パーティクル層の厚さは、前記アルマイト層の前記第1方向における厚さよりも小さいことも好ましい。
【0009】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、耐パーティクル層におけるナノレベルの微構造を制御している。そのため、耐パーティクル層の有する内部応力が従来よりも大きくなる場合がある。本発明では、耐パーティクル層の第1方向における厚さをアルマイト層の第1方向における厚さと比べて小さくしているため、例えば内部応力等を原因とする耐パーティクル層の破損等の不具合の発生を低減することができる。
【0010】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、耐パーティクル層の前記第1方向における厚さは1μm以上10μm以下であることも好ましい。
【0011】
耐パーティクル層の厚さを10μm以下と十分に小さくすることで、耐パーティクル層の破損等の不具合の発生をより効果的に低減することができる。また、厚さを1μm以上とすることが実用上好ましい。
【0012】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、アルマイト層のヤング率は100GPa以上であることも好ましい。
【0013】
本発明にかかる半導体製造装置用部材では、さらに高いレベルでの耐パーティクル性を発現することができる。
【0014】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、アルマイト層のヤング率は150GPa以下であることも好ましい。
【0015】
アルマイト層のヤング率が高すぎる場合、最低限の厚さを有する耐パーティクル層を設けることが実用上困難となる場合がある。アルマイト層のヤング率を150GPa以下とすることで、高いレベルでの耐パーティクル性を有する半導体製造装置用部材を得ることが実用上可能となる。
【0016】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、耐パーティクル層は、希土類元素の酸化物、希土類元素のフッ化物および希土類元素の酸フッ化物からなる群から選択される少なくとも一種を含むことも好ましい。
【0017】
本発明によれば、耐パーティクル層の耐パーティクル性を高めることができる。
【0018】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、希土類元素が、Y、Sc、Yb、Ce、Pr、Eu、La、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびLuからなる群から選択される少なくとも一種であることも好ましい。
【0019】
本発明によれば、耐パーティクル層の耐パーティクル性をさらに高めることができる。
【0020】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、倍率40万倍~200万倍のTEM画像より算出される、多結晶セラミックスの平均結晶子サイズが3nm以上50nm以下であることも好ましい。
【0021】
本発明によれば、耐パーティクル層の耐パーティクル性を高めることができる。
【0022】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、平均結晶子サイズが30nm以下であることも好ましい。
【0023】
本発明によれば、耐パーティクル層の耐パーティクル性をさらに高めることができる。
【0024】
本発明に係る半導体製造装置用部材では、耐パーティクル層が、基準耐プラズマ性試験後において0.060μm以下の算術平均高さSaを示すことも好ましい。
【0025】
本発明において、耐パーティクル層は基準耐プラズマ性試験後における算術平均高さSaが0.060μm以下と極めて小さい。つまり、耐パーティクル層は極めて高い耐パーティクル性を備えている。そのため、例えば従来以上に高いプラズマ密度環境下で用いられた場合でも、極めて高いレベルでの耐パーティクル性を発現することができる。
【0026】
本発明に係る半導体製造装置は、上記半導体製造装置用部材の少なくともいずれか1つを備えている。
【0027】
本発明の半導体製造装置によれば、高いレベルでの耐パーティクル性を発現することができる。
【0028】
本発明に係るディスプレイ製造装置は、上記半導体製造装置用部材の少なくともいずれか1つを備えている。
【0029】
本発明のディスプレイ製造装置によれば、高いレベルでの耐パーティクル性を発現することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の態様によれば、パーティクルを低減することができる半導体製造装置用部材および該半導体製造装置用部材を備えた半導体製造装置並びにディスプレイ製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施形態に係る半導体製造装置用部材を有する半導体製造装置を例示する断面図である。
【
図2】実施形態に係る半導体製造装用部材を例示する断面図である。
【
図3】実施形態に係る半導体製造装置用部材のアルマイト層の構造を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、実施形態に係る半導体製造装置用部材を有する半導体製造装置を例示する断面図である。
図1に表した半導体製造装置100は、チャンバ110と、半導体製造装置用部材120と、静電チャック160と、を備える。半導体製造装置用部材120は、例えば天板などと呼ばれ、チャンバ110の内部における上部に設けられている。静電チャック160は、チャンバ110の内部における下部に設けられている。つまり、半導体製造装置用部材120は、チャンバ110の内部において静電チャック160の上に設けられている。ウェーハ210等の被吸着物は、静電チャック160の上に載置される。
【0033】
半導体製造装置100では、高周波電力が供給され、
図1に表した矢印A1のように例えばハロゲン系ガスなどの原料ガスがチャンバ110の内部に導入される。すると、チャンバ110の内部に導入された原料ガスは、静電チャック160と半導体製造装置用部材120との間の領域191においてプラズマ化する。
【0034】
ここで、チャンバ110の内部において発生したパーティクル221がウェーハ210に付着すると、製造された半導体デバイスに不具合が発生する場合がある。すると、半導体デバイスの歩留まりおよび生産性が低下する場合がある。そのため、半導体製造装置用部材120には、耐プラズマ性が要求される。
【0035】
なお、実施形態に係る半導体製造装置用部材は、チャンバ内の上部以外の位置や、チャンバ周辺に配置される部材であってもよい。例えば、実施形態に係る半導体製造装置用部材は、チャンバ内の側壁を構成する部材であってもよい。また、半導体製造装置用部材が用いられる半導体製造装置は、
図1の例に限られず、アニール、エッチング、スパッタリング、CVDなどの処理を行う任意の半導体製造装置(半導体処理装置)を含む。
【0036】
図2は、実施形態に係る半導体製造装用部材を例示する断面図である。
図3は、実施形態に係る半導体製造装置用部材のアルマイト層の構造を例示する模式図である。
図2に示すように、半導体製造装置用部材120は、基材10と、耐パーティクル層20と、を有する。
以下の説明において、基材10と耐パーティクル層20との積層方向をZ軸方向(第1方向のひとつの例)とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向及びX軸方向に対して垂直な方向をY軸方向とする。
【0037】
基材10は、アルミ部材11と、アルミ部材11の表面に設けられたアルマイト層12と、を含む。アルミ部材11は、アルミニウム元素を含む。アルミ部材11には、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。アルマイト層12は、酸化アルミニウム(Al2O3)を含む。アルマイト層12は、アルミ部材11にアルマイト処理を施すことにより形成される。すなわち、アルマイト層12は、アルミ部材11の表面を覆う陽極酸化被膜である。アルマイト層12の厚さは、例えば、5マイクロメートル(μm)以上70μm以下程度である。
【0038】
一般的にアルマイト処理の工程は、アルミニウムを含む基材の表面に緻密な酸化アルミニウム層(被膜)を形成する工程、酸化アルミニウム層を成長させる工程、必要に応じた封孔処理の工程、および乾燥の工程で構成されている。これらの工程のうち、酸化アルミニウム層を成長させる工程において、孔を含む多孔質酸化アルミニウムが形成される。
図3に示すように、アルマイト層12は、アルマイト特有のポーラス(多孔質)構造を有し、例えば、柱状構造を成している。ポーラス構造の有無は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた観察により確認することができる。つまり、ポーラス構造の有無によって、アルマイト処理によって形成された酸化アルミニウム層であるか、それ以外の方法(例えば、溶射など)によって形成された酸化アルミニウム層であるか、を判別することができる。
【0039】
半導体製造装置用部材120において、アルマイト層12のヤング率は90GPaより大きい。より好ましくは、アルマイト層12のヤング率は100GPa以上である。また、アルマイト層12のヤング率が150GPa以下であることも好ましい。アルマイト層12のヤング率は、例えば、アルマイト処理の条件などを変更することで、適宜調整することができる。
本発明者らは、耐パーティクル層20が設けられるアルマイト層12のヤング率と、耐パーティクル層20の耐パーティクル性との間の相関関係を新たに見出した。具体的には、アルマイト層12のヤング率が90GPa以下と小さい場合には、耐パーティクル層20にナノレベルのわずかな空隙が生じ、この空隙を起点としてパーティクルが発生する場合があることを見出した。耐パーティクル層20のヤング率を90GPaより大きくする、より好ましくは100GPa以上とすることで、高いレベルでの耐パーティクル性を発現することができる。一方、アルマイト層12のヤング率が高すぎる場合、最低限の厚さを有する耐パーティクル層20を設けることが実用上困難となる場合がある。アルマイト層12のヤング率を150以下とすることが実用上好ましい。
なお、本願明細書において「耐パーティクル性が高い」とは、プラズマ照射により発生するパーティクルの量が少ないことを意味する。
【0040】
次にアルマイト層12のヤング率測定方法について述べる。
半導体製造装置用部材120において、耐パーティクル層20を除去し、アルマイト層12を露出させる。この露出したアルマイト層12についてヤング率を測定する。ヤング率の測定には、例えばナノインデンターを用い、負荷曲線からヤング率を算出することができる。より具体的には、ヤング率は、国際規格ISO14577に準拠する。ヤング率は、例えば、Elionix社製のENT-2100を用いて、21~25℃の大気条件下で測定される。
耐パーティクル層20の除去方法は任意であるが、例えば、酸および/またはアルカリを用いた化学的処理を用いることができる。具体的には、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、硫酸、フルオロスルホン酸、硝酸、塩酸、リン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、クロム酸、ホウ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、フッ化水素酸、炭酸および硫化水素の少なくともいずれかを含む水溶液、あるいは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化銅、水酸化アルミニウムおよび水酸化鉄の少なくともいずれかを含む水溶液が挙げられる。
【0041】
基材10として、アルミ部材11を用いる場合、絶縁性を確保するために、その表面にアルマイト層12を設けることが知られている。しかしながら、アルマイト層12は、前述したように多孔質構造をとっており、処理条件によってはその表面のヤング率が小さい場合がある。本発明者らは、ヤング率が所定値以下に小さい場合には、その上に設けられる耐パーティクル層20のナノレベルの微構造を制御することが極めて困難であるが、一方、ヤング率を所定値より大きくすることで、アルマイト層12上であっても耐パーティクル層20のナノレベルの微構造を制御してより高いレベルでの耐パーティクル性を発現できることを見出し本発明に至った。
【0042】
本発明において、ナノレベルの微構造の制御により到達可能な「高いレベルでの耐パーティクル性」は、以下に述べる「基準耐プラズマ性試験」をひとつの基準法として評価することができる。具体的には、半導体製造装置用部材120において、基準耐プラズマ性試験後の耐パーティクル層20の算術平均高さSaが0.060μm以下であることを、本明細書において「高いレベルでの耐パーティクル性を発現する」ことと定義する。
【0043】
次に基準耐プラズマ性試験の詳細について述べる。
基準耐プラズマ性試験のための、プラズマエッチング装置として、誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチング装置(Muc-21 Rv-Aps-Se/住友精密工業製)を使用する。プラズマエッチングの条件は、電源出力としてICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)の出力を1500W、バイアス出力を750W、プロセスガスとしてCHF3ガス100ccmとO2ガス10ccmの混合ガス、圧力を0.5Pa、プラズマエッチング時間を1時間とする。プラズマ照射後の半導体製造装置用部材120の表面120a(耐パーティクル層20の表面202)の状態をレーザー顕微鏡(例えば、OLS4500/オリンパス製)により撮影する。観察条件等の詳細は後述する。得られた画像から、プラズマ照射後の表面の算術平均高さSaを算出する。ここで、算術平均高さSaとは、2次元の算術平均粗さRaを3次元に拡張したものであり、3次元粗さパラメータ(3次元高さ方向パラメータ)である。具体的には、算術平均高さSaは、表面形状曲面と平均面とで囲まれた部分の体積を測定面積で割ったものである。すなわち、平均面をxy面、縦方向をz軸とし、測定された表面形状曲線をz(x、y)とすると、算術平均高さSaは、次式で定義される。ここで、式(1)の中の「A」は、測定面積である。
【0044】
【0045】
算術平均高さSaは、測定法に基本的には依存しない値であるが、本明細書における「基準耐プラズマ性試験」にあっては、以下の条件下で算出される。算術平均高さSaの算出にはレーザー顕微鏡を用いる。具体的には、レーザー顕微鏡「OLS4500/オリンパス製」を使用する。対物レンズはMPLAPON100xLEXT(開口数0.95、作動距離0.35mm、集光スポット径0.52μm、測定領域128×128μm)を用い、倍率を100倍とする。うねり成分除去のλcフィルターは25μmに設定する。測定は、任意の3箇所で行い、その平均値を算術平均高さSaとする。その他、三次元表面性状国際規格ISO25178を適宜参照する。
【0046】
基材10(アルミ部材11)の形状は特に限定されず、平板でもよいし、凹面、凸面などを有する形状でもよい。また、基材10(アルミ部材11)は、リング状や段差を有する形状でもよい。
【0047】
本発明の一つの態様によれば、耐パーティクル層20と接する基材10の表面(アルマイト層12の表面)は平滑であることが、良好な耐パーティクル層20の形成のために好ましい。本発明の一つの態様によれば、アルマイト層12の表面に、例えば、ブラスト、物理的研磨、ケミカルメカニカルポリッシング、ラッピング、の少なくともいずれかを施し、表面の凹凸を除去する。このような凹凸除去は、その後のアルマイト層12の表面が、例えばその算術平均粗さRaが0.2μm以下より好ましくは0.1μm以下、または最大高さ粗さRzが3μm以下となるよう行われることが好ましい。算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzは、JIS B 0601:2001に準拠し、例えば、表面粗さ測定器「SURFCOM 130A/東京精密製」により測定することができる。
【0048】
図2に示したように、耐パーティクル層20の厚さ(Z軸方向に沿う長さ)は、アルマイト層12の厚さよりも小さいことが好ましい。半導体製造装置用部材120では、耐パーティクル層20におけるナノレベルの微構造を制御している。そのため、耐パーティクル層20の有する内部応力が従来よりも大きくなる場合がある。耐パーティクル層20の第1方向における厚さをアルマイト層12の第1方向における厚さと比べて小さくしているため、例えば内部応力等を原因とする耐パーティクル層20の破損等の不具合の発生を低減することができる。
【0049】
耐パーティクル層20の厚さは、例えば、1μm以上10μm以下である。耐パーティクル層20の厚さを10μm以下と十分に小さくすることで、耐パーティクル層20の破損等の不具合の発生をより効果的に低減することができる。また、厚さを1μm以上とすることが実用上好ましい。
【0050】
本明細書において、耐パーティクル層20およびアルマイト層12の厚さは次のようにして求める。
半導体製造装置用部材120を切断し、その破断面について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、確認することができる。SEMには、例えば、HITACHI製S-5500を用い、SEM観察条件を、倍率5000倍、加速電圧15kVとしてもよい。
なお、破断サンプルは2つ作製し、それぞれ最低5箇所の膜厚を測定し、10点以上の測定値の平均を膜厚とする。
【0051】
耐パーティクル層20は、多結晶セラミックスを含む。耐パーティクル層20は、例えば、希土類元素の酸化物、希土類元素のフッ化物および希土類元素の酸フッ化物からなる群から選択される少なくとも一種を含む。希土類元素として、例えば、Y、Sc、Yb、Ce、Pr、Eu、La、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびLuからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。より具体的には、耐パーティクル層20は、イットリウムの酸化物(Y2O3、YαOβ(非化学両論的組成))、イットリウムオキシフッ化物(YOF、Y5O4F7,Y6O5F8,Y7O6F9およびY17O14F23)、(YO0.826F0.17)F1.174、YF3、Er2O3、Gd2O3、Nd2O3、Y3Al5O12、Y4Al2O9、Er3Al5O12、Gd3Al5O12、Er4Al2O9、ErAlO3、Gd4Al2O9、GdAlO3、Nd3Al5O12、Nd4Al2O9およびNdAlO3からなる群から選択される少なくとも一種を含む。耐パーティクル層20は、Fe、Cr、Zn、およびCuからなる群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
例えば、耐パーティクル層20は、フッ素及び酸素の少なくともいずれかと、イットリウムとを含む。耐パーティクル層20は、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)、フッ化イットリウム(YF3)又はオキシフッ化イットリウム(YOF)を主成分とする。
本明細書において「主成分」とは、当該成分を50%超、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%含むことをいう。ここでいう「%」は、例えば、質量%である。
【0052】
あるいは、耐パーティクル層20は、酸化物、フッ化物、オキシフッ化物以外であってもよい。具体的には、Cl元素やBr元素を含む化合物(塩化物、臭化物)が挙げられる。
【0053】
耐パーティクル層20は、アルマイト層12側の面201と、面201とは反対側の表面202と、を有する。耐パーティクル層20は、面201においてアルマイト層12と接している。表面202は、半導体製造装置用部材120の表面となる。
【0054】
例えば、耐パーティクル層20を、「エアロゾルデポジション法」により形成することができる。「エアロゾルデポジション法」は、脆性材料を含む微粒子をガス中に分散させた「エアロゾル」をノズルから基材に向けて噴射し、金属、ガラス、セラミックス、プラスチックなどの基材に微粒子を衝突させ、この衝突の衝撃により脆性材料微粒子に変形や破砕を起させしめてこれらを接合させ、基材上に微粒子の構成材料からなる層状構造物(膜状構造物ともいう)をダイレクトに形成させる方法である。
【0055】
この例では、例えばイットリア等の耐パーティクル性に優れたセラミック材料の微粒子とガスとの混合物であるエアロゾルを、基材10(アルマイト層12)に向けて噴射し、層状構造物(耐パーティクル層20)を形成する。
【0056】
エアロゾルデポジション法によれば、特に加熱手段や冷却手段などを必要とせず、常温で層状構造物の形成が可能であり、焼成体と同等以上の機械的強度を有する層状構造物を得ることができる。また、微粒子を衝突させる条件や微粒子の形状、組成などを制御することにより、層状構造物の密度や微構造、機械強度、電気特性などを多様に変化させることが可能である。
【0057】
なお、本願明細書において「多結晶」とは、結晶粒子が接合・集積してなる構造体をいう。結晶粒子は、実質的にひとつで結晶を構成する。結晶粒子の径は、通常5ナノメートル(nm)以上である。但し、微粒子が破砕されずに構造物中に取り込まれる場合には、結晶粒子は、多結晶である。
また、半導体製造装置用部材120において、耐パーティクル層20は多結晶セラミックスのみから構成されてもよく、また多結晶セラミックスとアモルファスセラミックスとを含むものであってもよい。
【0058】
耐パーティクル層20において、多結晶セラミックスの平均結晶子サイズは3nm以上50nm以下である。好ましくはその上限は30nmであり、より好ましくは20nm、さらに好ましくは15nmである。またその好ましい下限は5nmである。
【0059】
本発明において、「平均結晶子サイズ」は以下の方法で求めることができる。
まず、倍率40万倍以上で透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)画像を撮影する。この画像において結晶子15個の円形近似による直径の平均値より算出した値を平均結晶子サイズとする。このとき、収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工時のサンプル厚みを30nm程度に十分薄くすれば、より明確に結晶子を判別することができる。撮影倍率は、40万倍以上の範囲で適宜選択することができる。
【0060】
また、本願明細書において「微粒子」とは、一次粒子が緻密質粒子である場合には、粒度分布測定や走査型電子顕微鏡などにより同定される平均粒径が5マイクロメータ(μm)以下のものをいう。一次粒子が衝撃によって破砕されやすい多孔質粒子である場合には、平均粒径が50μm以下のものをいう。
【0061】
また、本願明細書において「エアロゾル」とは、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、乾燥空気、これらを含む混合ガスなどのガス中に前述の微粒子を分散させた固気混合相体を指し、一部「凝集体」を含む場合もあるが、実質的には微粒子が単独で分散している状態をいう。エアロゾルのガス圧力と温度は任意であるが、ガス中の微粒子の濃度は、ガス圧を1気圧、温度を摂氏20度に換算した場合に、吐出口から噴射される時点において0.0003mL/L~5mL/Lの範囲内であることが層状構造物の形成にとって望ましい。
【0062】
エアロゾルデポジションのプロセスは、通常は常温で実施され、微粒子材料の融点より十分に低い温度、すなわち摂氏数100度以下で層状構造物の形成が可能であるところにひとつの特徴がある。
なお、本願明細書において「常温」とは、セラミックスの焼結温度に対して著しく低い温度で、実質的には0~100℃の環境をいい、20℃±10℃前後の室温がより一般的である。
【0063】
層状構造物の原料となる粉体を構成する微粒子は、セラミックスや半導体などの脆性材料を主体とし、同一材質の微粒子を単独であるいは粒径の異なる微粒子を混合させて用いることができるほか、異種の脆性材料微粒子を混合させたり、複合させて用いることが可能である。また、金属材料や有機物材料などの微粒子を脆性材料微粒子に混合したり、脆性材料微粒子の表面にコーティングさせて用いることも可能である。これらの場合でも、層状構造物の形成の主となるものは、脆性材料である。
なお、本願明細書において「粉体」とは、前述した微粒子が自然凝集した状態をいう。
【0064】
この手法によって形成される複合構造物において、結晶性の脆性材料微粒子を原料として用いる場合、複合構造物の層状構造物の部分は、その結晶粒子サイズが原料微粒子のそれに比べて小さい多結晶体であり、その結晶は実質的に結晶配向性がない場合が多い。また、脆性材料結晶同士の界面には、ガラス層からなる粒界層が実質的に存在しない。また多くの場合、複合構造物の層状構造物部分は、基材(この例において基材10/アルマイト層12)の表面に食い込む「アンカー層」を形成する。このアンカー層が形成されている層状構造物は、基材に対して極めて高い強度で強固に付着して形成される。
【0065】
エアロゾルデポジション法により形成される層状構造物は、微粒子同士が圧力によりパッキングされ物理的な付着で形態を保っている状態のいわゆる「圧粉体」とは明らかに異なり、十分な強度を保有している。
【0066】
エアロゾルデポジション法において、飛来してきた脆性材料微粒子が基材の上で破砕・変形を起していることは、原料として用いる脆性材料微粒子と、形成された脆性材料構造物の結晶子(結晶粒子)サイズとをX線回折法などで測定することにより確認できる。すなわち、エアロゾルデポジション法で形成された層状構造物の結晶子サイズは、原料微粒子の結晶子サイズよりも小さい。微粒子が破砕や変形をすることで形成される「ずれ面」や「破面」には、もともとの微粒子の内部に存在し別の原子と結合していた原子が剥き出しの状態となった「新生面」が形成される。表面エネルギーが高く活性なこの新生面が、隣接した脆性材料微粒子の表面や同じく隣接した脆性材料の新生面あるいは基材の表面と接合することにより層状構造物が形成されるものと考えられる。
【0067】
また、エアロゾル中の微粒子の表面に水酸基がほどよく存在する場合は、微粒子の衝突時に微粒子同士や微粒子と構造物との間に生じる局部のずれ応力などにより、メカノケミカルな酸塩基脱水反応が起き、これら同士が接合するということも考えられる。外部からの連続した機械的衝撃力の付加は、これらの現象を継続的に発生させ、微粒子の変形、破砕などの繰り返しにより接合の進展、緻密化が行われ、脆性材料からなる層状構造物が成長するものと考えられる。
【0068】
例えば、耐パーティクル層20がエアロゾルデポジション法により形成された場合、セラミック層である耐パーティクル層20は、セラミック焼成体や溶射膜などと比較すると構成する結晶子サイズが小さく緻密な微構造を有する。これにより、実施形態に係る半導体製造装置用部材120の耐パーティクル性は、焼成体や溶射膜の耐パーティクル性よりも高い。また、実施形態に係る半導体製造装置用部材120がパーティクルの発生源になる確率は、焼成体や溶射膜などがパーティクルの発生源になる確率よりも低い。
【0069】
本発明による半導体製造装置用部材120を、例えばエアロゾルデポジション法で製造する場合、それに用いる装置の一例について説明する。エアロゾルデポジション法に用いる装置は、チャンバと、エアロゾル供給部と、ガス供給部と、排気部と、配管と、により構成される。チャンバの内部には、例えば、基材10を配置するステージと、駆動部と、ノズルと、が配置される。駆動部によりステージに配置された基材10とノズルとの位置を相対的に変えることができる。このとき、ノズルと基材10との間の距離を一定にしてもよいし、可変にしてもよい。この例では、駆動部はステージを駆動させる態様を示しているが、駆動部がノズルを駆動させてもよい。駆動方向は例えば、XYZθ方向である。
【0070】
エアロゾル供給部は、配管によりガス供給部と接続される。エアロゾル供給部では、原料微粒子とガスとが混合されたエアロゾルを、配管を介してノズルに供給する。装置は、原料微粒子を供給する粉体供給部をさらに備える。粉体供給部はエアロゾル供給部内に配置されてもよいし、エアロゾル供給部とは別に配置されてもよい。また、エアロゾル供給部とは別に、原料微粒子とガスとを混合するエアロゾル形成部を備えていてもよい。ノズルから噴射される微粒子の量が一定となるように、エアロゾル供給部からの供給量を制御することで、均質な構造物を得ることができる。
【0071】
ガス供給部は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、空気などを供給する。供給されるガスが空気の場合、例えば、水分や油分などの不純物が少ない圧縮空気を用いるか、空気から不純物を取り除く空気処理部をさらに設けることが好ましい。
【0072】
次に、エアロゾルデポジション法に用いる装置の動作の一例について説明する。チャンバ内のステージに基材10を配置した状態で、真空ポンプなどの排気部により、チャンバ内を大気圧以下、具体的には数百Pa程度に減圧する。一方、エアロゾル供給部の内圧をチャンバの内圧よりも高く設定する。エアロゾル供給部の内圧は、例えば、数百~数万Paである。粉体供給部を大気圧としてもよい。チャンバとエアロゾル供給部との差圧などにより、ノズルからの原料粒子の噴射速度が亜音速~超音速(50~500m/s)の領域となるように、エアロゾル中の微粒子を加速させる。噴射速度は、ガス供給部から供給されるガスの流速、ガス種、ノズルの形状、配管の長さや内径、排気部の排気量などにより制御される。例えば、ノズルとして、ラバルノズルなどの超音速ノズルを用いることもできる。ノズルから高速で噴射されたエアロゾル中の微粒子は、基材10に衝突し、粉砕または変形して基材10上に構造物(耐パーティクル層20)として堆積される。基材10とノズルとの相対的な位置を変えることにより、所定面積を有する構造物(耐パーティクル層20)を基材10上に備えた複合構造物(半導体製造装置用部材120)が形成される。
【0073】
また、ノズルから噴射される前に、微粒子の凝集を解くための解砕部を設けてもよい。解砕部における解砕方法は、任意の方法を選択することができる。例えば、振動、衝突などの機械的解砕、静電気、プラズマ照射、分級、等公知の方法が挙げられる。
【0074】
本発明による半導体製造装置用部材は、半導体製造装置内の各種部材、とりわけ腐食性の高密度プラズマ雰囲気に暴露される環境において用いられる部材として好適に用いることが出来る。具体的には、チャンバ壁、シャワープレート、ライナー、シールド、ウィンドウ、エッジリング、フォーカスリング、等が挙げられる。
【実施例】
【0075】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
1.サンプル作製
平板状の基材10を用い、アルマイト層12のヤング率と耐パーティクル層20のナノレベルの微構造との関係について試験を実施した。
1-1 基材の準備
基材10として、アルミ部材11上に、ヤング率がそれぞれ異なるアルマイト層12が設けられた6つの基材を準備した。アルマイト層12のヤング率および厚さは表1に示すとおりであった。
【0077】
1-2 原料粒子
原料粒子として、酸化イットリウム粉体を用意した。原料粒子の平均粒径は0.4μmであった。
【0078】
1-3 耐パーティクル層の形成
上記6つの基材上に耐パーティクル層20となる酸化イットリウム層を形成し、サンプル1~6の半導体製造装置用部材を得た。サンプル1~6の作製にはエアロゾルデポジション法を用いた。いずれのサンプルも、作製は室温(20℃前後)で行った。いずれのサンプルも、作製時間は20分とした。得られた耐パーティクル層20の厚さは表1に示すとおりであった。
アルマイト層12のヤング率が66GPaと小さいサンプル1では、耐パーティクル層20を得ることができなかった。アルマイト層12のヤング率が79GPa以上であるサンプル2~6では、厚さが1μm以上の耐パーティクル層20を得ることができた。
【0079】
【0080】
2.サンプル評価
2-1 平均結晶子サイズ
【0081】
サンプル2~6について、平均結晶子サイズを算出した。具体的には、倍率40万倍で取得したTEM画像を用い、結晶子15個の円形近似による平均値より平均結晶子サイズを算出した。いずれのサンプルも平均結晶子サイズは30nm以下であった。
【0082】
2-2 基準耐プラズマ性試験
サンプル2~6について、基準耐プラズマ性試験を実施した。
プラズマエッチング装置として、誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチング装置(Muc-21 Rv-Aps-Se/住友精密工業製)を使用した。プラズマエッチングの条件は、電源出力としてICP出力を1500W、バイアス出力を750W、プロセスガスとしてCHF3ガス100ccmとO2ガス10ccmの混合ガス、圧力を0.5Pa、プラズマエッチング時間を1時間とした。
【0083】
次に、プラズマ照射後の耐パーティクル層20の表面202の状態をレーザー顕微鏡により撮影した。具体的には、レーザー顕微鏡「OLS4500/オリンパス製」を使用し、対物レンズはMPLAPON100xLEXT(開口数0.95、作動距離0.35mm、集光スポット径0.52μm、測定領域128×128μm)を用い、倍率を100倍とした。うねり成分除去のλcフィルターは25μmに設定した。測定は、任意の3箇所で行い、その平均値を算術平均高さSaとした。その他、三次元表面性状国際規格ISO25178を適宜参照した。基準耐プラズマ性試験前後の耐パーティクル層20の表面202の算術平均高さSaの値は表1に示されるとおりであった。
【0084】
表1に示すように、基準耐プラズマ性試験前の表面202の算術平均高さSaはいずれのサンプルでも0.021μm以下と小さく、アルマイト層12上であっても耐パーティクル層20の表面は極めて平滑であった。一方、基準耐プラズマ性試験後では、アルマイト層12のヤング率が90GPa以下のサンプル2では、表面202の算術平均高さSaが0.060μmよりも大きくなった。これはサンプル2では耐パーティクル層20のナノレベルでの微構造制御が不十分であり、より高密度の腐食性プラズマ環境下ではパーティクルの発生を十分に抑制できないことを示している。一方、アルマイト層12のヤング率が90GPaよりも大きいサンプル3~6では、基準耐プラズマ性試験後の表面202の算術平均高さSaが0.022μm以下であり、試験後もなお極めて平滑であった。したがって、アルマイト層12のヤング率が90GPaよりも大きい場合、耐パーティクル層20のナノレベルの微構造を制御して、極めて高いレベルでの耐パーティクル性を発現できることが確認された。
【0085】
なお、今回の試験より、アルマイト層12のヤング率が120GPa未満の範囲では、ヤング率が高いほど、得られる耐パーティクル層20の厚さが大きい傾向となった。一方、ヤング率が120GPa以上に大きくなると、同じ時間で得られる耐パーティクル層20の厚さが小さくなった。よって、アルマイト層12のヤング率を150GPa以下とすることが実用上好ましい。
【0086】
3.リング状の半導体製造装置用部材の作製
リング状の基材10を用い、アルマイト層12のヤング率と耐パーティクル層20のナノレベルの微構造との関係について試験を実施した。
3-1 基材の準備
基材10として、アルミ部材11上に、アルマイト層12が設けられたリング状の基材を準備した。基材10の大きさはφ550mmであり、アルマイト層12のヤング率は91~95GPaであった。
【0087】
3-2 原料粒子
原料粒子として、酸化イットリウム粉体を用意した。原料粒子の平均粒径は0.4μmであった。
【0088】
3-3 耐パーティクル層の形成
上記リング状の基材上に耐パーティクル層20となる酸化イットリウム層を形成し、半導体製造装置用部材を得た。このとき、リング状の基材の内周面に酸化イットリウム層を形成した。酸化イットリウム層の作製にはエアロゾルデポジション法を用いた。いずれのサンプルも、作製は室温(20℃前後)で行った。得られた耐パーティクル層20の厚さは8~14μmであった。
リング状の基材上に形成された耐パーティクル層20の厚さは次のようにして測定した。
まず、半導体製造装置用部材をリング状の基材ごと切断した。その破断面をSEM観察して耐パーティクル層の厚さを測定計測した。破断サンプルは2つ作製し、それぞれ5箇所の膜厚を測定し、10点の平均を膜厚とした。
【0089】
4.サンプル評価
4-1 平均結晶子サイズ
【0090】
リング状基材上の耐パーティクル層20について、上記サンプル2~6と同様の方法で平均結晶子サイズを算出した。平均結晶子サイズは9nmであった。
【0091】
4-2 基準耐プラズマ性試験
次に、リング状基材の半導体製造装置用部材について、サンプル2~6と同様に、基準耐プラズマ性試験を実施し、試験前後の算術平均高さSaを測定した。試験前の算術平均高さSaは0.015μmと極めて小さく、試験後においても0.022μmであった。
【0092】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、基材、アルマイト層、耐パーティクル層などの形状、寸法、材質、配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0093】
100 半導体製造装置、110 チャンバ、120 半導体製造装置用部材、160 静電チャック、191 領域、210 ウェーハ、221 パーティクル、10 基材、11 アルミ部材、12 アルマイト層、20 耐パーティクル層、201 面、202 表面(耐パーティクル層20の)