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特許7089726魚節由来のジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物並びに前記組成物を含有する医薬組成物及び保健機能食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】魚節由来のジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物並びに前記組成物を含有する医薬組成物及び保健機能食品
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/05 20060101AFI20220616BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20220616BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20220616BHJP
   A61P 19/04 20060101ALN20220616BHJP
   A61P 19/08 20060101ALN20220616BHJP
【FI】
A61K38/05
A23L33/18
A61P3/10
A61P19/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P19/02
A61P19/04
A61P19/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017120636
(22)【出願日】2017-06-20
(65)【公開番号】P2019006683
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000114732
【氏名又は名称】ヤマキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】関 英治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 佳史
(72)【発明者】
【氏名】朝田 仁
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-164136(JP,A)
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,1998年,Vol. 8, No. 12,pp. 1537-1540
【文献】Food Chemistry,2013年,Vol. 141, No. 1,pp. 644-653
【文献】Journal of Molecular Graphics,1996年,Vol. 14, No. 4,pp. 213-216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/05
A23L 33/18
A61P 3/10
A61P 43/00
A61K 38/05
A23L 33/18
A61P 3/10
A61P 19/00
A61P 35/00
A61P 43/00
A61P 19/02
A61P 19/04
A61P 19/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚節由来の組成物であって、有効成分としてトリプトファン-バリン(Trp-Val)又はその塩を、前記組成物の乾燥物に基づき0.001~0.1質量%の量で含有することを特徴とする、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物。
【請求項2】
少なくとも3000μg/mL(IC50)のカテプシン阻害活性を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を含有することを特徴とするジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びLを阻害するための医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の組成物を含有することを特徴とするジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びLを阻害するための保健機能食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚節由来の魚節由来のジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物並びに前記組成物を含有する医薬組成物及び保健機能食品であって、従来から食材として用いられてきた安全性の高い魚節、例えば鰹節由来の前記組成物並びに医薬組成物及び保健機能食品に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、成人病、特に糖尿病を罹患する患者が増加しているが、糖尿病についてはジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)阻害活性を有する物質を患者に投与することによって、それらの症状を和らげる試みが為されている。これは、インスリン分泌を増強するインクレチンを分解してしまうDPPIVの活性を阻害することを原理とする。
DPPIVの阻害活性を有する物質として、以前は化学合成品が主流であったが、近年、安全性の点から、天然物又は食品由来のものが、具体的には天然又は食品由来のジ-、トリ-、又はオリゴ-ペプチドが、そのような物質として推奨されつつある。
例えば、本出願人による特許文献1は、食品である魚節、例えば鰹節由来のペプチドを含有するDPPIV阻害活性組成物に関し、当該組成物を投与することによって、DPPIV活性を阻害して、血糖値を低下させ得ることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5872725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の発明は、生理活性としてDPPIV阻害活性のみを発現するペプチドを含有する組成物に関するものであるが、仮に、複数の生理活性を有する単一のペプチドが見出された場合、有効成分として当該ペプチドを投与することにより、同時に複数の疾病の治療又は予防が可能となると考えられる。
また、異なる生理活性を有する複数の有効成分を併用する必要がなくなるため、有効成分間の拮抗作用の懸念がなく、それぞれの活性効果が有効に発揮されることも期待される。
そのような有効成分が、食品由来のものから見出されれば、安全性も高く、且つ、単一の有効成分で複数の生理活性を発揮し得る効率の良い保健機能食品又は医薬品への用途が期待される。
そこで本発明は、食品、例えば魚節由来のペプチドから、そのような有効成分、及びそれを含有する組成物を見出すことを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究の結果、比較的高いDPPIV阻害活性のみならず、カテプシン阻害活性をも同時に併せ持つ魚節由来のペプチド、及び当該ペプチドを含有する組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
これまで、DPPIV阻害活性とカテプシン阻害活性とを併せ持つ単一のペプチドの存在は知られていなかったため、この事実は非常に驚くべきことであった。
【0006】
即ち本発明は、魚節由来の組成物であって、有効成分としてトリプトファン-バリン(Trp-Val)又はその塩を、前記組成物の乾燥物に基づき0.001~0.1質量%の量で含有することを特徴とするジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物に関する。
本発明の好ましい態様は、少なくとも3000μg/mL(IC50)のカテプシン阻害活性を有することを特徴とする、請求項1に記載のDPPIV阻害組成物に関する。
また本発明の別の態様は、前述のジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物を含有することを特徴とする、医薬組成物又は保健機能食品に関する。
【0007】
カテプシンは、細胞内リソソームに含まれる蛋白分解酵素の一種であり、特にカテプシンS及びカテプシンLと呼ばれるシステインプロテアーゼが結合組織の分解に関与していることが知られている〔エセール他,Arthritis&Rheumatism,37(2),236(1994)〕。
そして、これらカテプシンの過剰な亢進が、変形性関節炎、リウマチ性関節炎、骨粗鬆症などの結合組織の破壊を伴う疾患(結合組織疾患と呼ぶ)又は骨吸収の阻害が指摘されている骨疾患の原因と考えられていることから、カテプシン阻害剤(システインプロテアーゼ阻害剤)はこれら疾患の予防又は治療に有効であると考えられている。
また、カテプシン阻害剤は、腫瘍(特に腫瘍浸潤及び腫瘍転位)、冠動脈疾患、アテローム性動脈硬化(アテローム性プラーク破壊及び不安定化を含む)を含むシステインカテプシン依存疾患及び症状の処置にも使用され得る。
【0008】
他方、DPPIVは、インスリン分泌を増強するインクレチンの分解酵素である。このDPPIVを阻害することによって、インクレチンの分解が抑制され、血中のインクレチン濃度が上昇し、その結果、インスリン分泌が促進され、血糖値を低下させる。
従って、DPPIV阻害剤は、抗糖尿病剤としての利用が期待される。
【0009】
本発明の組成物は、DPPIV阻害活性及びカテプシン阻害活性の両方を併せ持っており、従って、血糖値上昇抑制剤としてだけでなく、結合組織疾患の予防及び治療剤、又は腫瘍抑制剤への用途としてもまた期待される。
この場合、医薬品はもちろんのこと、特定保健用食品などの保健機能食品への応用も可能である。
このような本発明の組成物は、下記のようにして、得ることができる。
【0010】
本発明の組成物は、おおまかにいうと、魚節を酵素分解した後、分離及び精製することにより得ることができるが、経済性の面から、魚節そのものよりも、魚節を熱水抽出した後に残存する魚節粕を利用するのが好ましい。
魚節は古くから食されてきた食材であり、安全性の面で非常に好ましい。本発明において用いられる魚節としては、例えば、鰹節、宗田鰹節、鯖節、鰯節、鯵節又は鮪節等を挙げることができる。これら魚節は、当業者に既知の手法により製造されたものであれば十分であり、もちろん市場に流通しているものでも構わない。
【0011】
魚節粕は、例えば、鰹節を適当に削ったものに水を加え、およそ5分間~60分間の間、およそ50℃以上の温度に、好ましくは80℃~100℃の温度に加熱し、熱水で抽出し他後、遠心分離等によって、上澄を除いた沈澱として得ることが出来る。このとき同時に得られた上澄は、そのまま食すことも、また調味料の成分として利用することもできる。
【0012】
得られた魚節粕はその後、適切なプロテアーゼにより、加水分解に付される。そのようなプロテアーゼは、安全性の観点から、食品工業用途のものが選択される。特に、Aspergillus orizae属より選択される菌株由来のプロテアーゼが好ましく、特に、スミチームLP50D (新日本化学工業社製;Aspergillus oryzae属;至適温度45℃~60℃(50℃);至適pH5~8(pH7))が好ましい。
【0013】
上記プロテアーゼは、本発明の完成のために本発明者らによって選択されたもので、食品工業用途であって安全性が高く、且つ、魚節粕を酵素分解したときに、より高いDPPIV阻害活性及びカテプシン阻害活性をその酵素分解組成物に付与し得る。
【0014】
上記プロテアーゼによる処理条件は、プロテアーゼの特性に合せて適宜選択すればよい。酵素量及び処理時間については、特に限定はないが、酵素量は0.1%~2%対原料タンパク質である。また、反応時間は2時間から20時間が好ましい。また、反応温度は、35℃~60℃が好ましい。
なお、プロテアーゼ処理は、加熱等により酵素を失活させることで終了させることができる。また、酵素反応後のpHは、その後の市販適用のために中和することが望ましい。
【0015】
プロテアーゼ処理で得られたプロテアーゼ分解物は、そのまま公知の手段で濾過又は遠心分離にかけて、未分解物を除去し、清澄液(上澄)を得る。そして、収率よく高活性のDPPIV阻害活性及びカテプシン阻害活性が得られる観点から、得られた清澄液を濃縮等し、さらに凍結乾燥又は噴霧乾燥することが望ましい。さらに各種の精製方法に供することで、DPPIVの阻害活性及びカテプシン阻害活性をより高めた画分を得ることもできる。樹脂精製法で精製することも好ましい。
【0016】
樹脂精製法で使用する樹脂としては、例えば、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、多孔性樹脂、特殊樹脂(キレート樹脂、合成吸着剤、蛋白分離剤)等が挙げられるが、回収した画分の脱塩処理工程が不要であることから、合成吸着剤を用いるのが好ましい。合成吸着剤としては、例えば、芳香族(スチレン-ビニルベンゼン)系、芳香族系修飾型、アクリル(メタクリル)系等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
また、樹脂精製法において、DPPIV阻害成分及びカテプシン阻害成分を含むプロテアーゼ分解物の樹脂への吸着は、公知の手法により行えばよい。
次いで、吸着したプロテアーゼ分解物の溶離には、酸、アルカリ又は種々の有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコールや、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン等のケトン類を用いることできるが、これらに限定されるものではない。又は、酸、アルカリとの混合溶媒としてもよい。なお、経済性と安全性の点からは、濃度50%以下のエタノール水溶液又は水を用いて溶離するのが好ましい。樹脂精製法は、バッチ法又はカラム法にて行うことができる。回収した画分は減圧又は限外濾過により濃縮し、さらに必要に応じて溶媒を完全に除去して乾固するか凍結乾燥を行ってもよい。
【0018】
好ましくは、プロテアーゼ処理後に得られた清澄液を、精製した後、エタノール濃度10%、25%、50%及び99.5%のステップワイズグラジエントによる溶出にかける。これによって、DPPIV阻害性及びカテプシン阻害活性の有効成分である、トリプトファン-バリン(Trp-Val)を含有する画分を効率的に得ることができる。
【0019】
なお本発明においては、メタノール、エタノール等の有機溶媒沈澱法によって、前記有機溶媒中に前記プロテアーゼ分解物を混合し、沈澱画分と上清画分を分離して、上清画分を回収することで、DPPIV阻害活性及びカテプシン阻害活性の高い画分を得ることもできる。この場合、沈澱画分と上清画分とが分離するまでは有機溶媒混合物を静置することが好ましい。
なお、静置温度は低温で行うことが好ましい。また、回収した上清画分は減圧又は限外濾過により濃縮し、さらに必要に応じて溶媒を完全に除去して乾固するか凍結乾燥を行ってもよい。
【0020】
こうして得られた上清画分は、本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物として、そのまま使用することもできるが、好ましくは水分約5質量%以下となるまで乾燥され得る。そして乾燥後の当該組成物中には、当該組成物の質量に基づき、Trp-Valが少なくともおよそ0.001質量%の量で、好ましくは少なくともおよそ0.01質量%の量で、或いは概ね、0.001~0.1質量%の量で、好ましくは0.01~0.1質量%の量で、含有される。
このような本発明に係る組成物は、少なくともおよそ200μg/mLのDPPIV阻害活性値(IC50)を有する(数値として200>)。一方で、少なくともおよそ3000μg/mLのカテプシン阻害活性値(IC50)をも有する(数値として3000>)。
これらの阻害活性値は、本発明に係る組成物を保健機能食品用途として用いるには十分な数値であると考えられる。
【0021】
本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物は、飲料としてそのままでも又は種々の調味料との混合物としても、摂取できる。
また、本発明に係る組成物を含有する保健機能食品は、当該組成物を、1回の摂取量として100mg~400mg、好ましくは、120mg~300mg添加して製造される。
さらにまた、本発明に係る組成物は、乾燥させることによって、取り扱いが容易で安定な固体ないし粉末形態とすることができ、当該形態の水への溶解性もよい。また、胃腸管からの吸収もよい。したがって、食品組成物への添加の時期、及び方法に特別の制限はなく、粉末状、溶液状、懸濁液状等として、食品組成物製造の原料段階、中間工程、最終工程に、食品分野で慣用の方法で添加することが可能である。
【0022】
保健機能食品、例えば特定保健用食品、栄養機能食品又は機能性表示食品の形態としては、固形状、半流動状、流動状、シート状、タブレットやカプセルなどの錠剤、顆粒粉末などを挙げることができる。
半流動状の形態としては、ペースト状、ゼリー状、ゲル状などが挙げられる。
また、流動状の形態としては、ジュース、清涼飲料、茶飲料、ドリンク剤などが挙げられる。
これら種々の形態の保健機能食品を、栄養ドリンクや調味料として、本発明の組成物を継続して摂取することにより、血糖の上昇を抑制し、及び/又は、結合組織疾患又は腫瘍を予防又は治療し得ることも期待できる。
【0023】
本発明のDPPIV阻害物を、医薬組成物として用いる場合には、例えば、患者のDPPIVを阻害し、血糖上昇抑制作用を発揮させるために、高血糖症状の患者に食前に投与するとよく、そして本発明の医薬組成物の有効成分は、天然物である魚節由来であることから、継続して安全に使用することもできる。
医薬組成物としての形態は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ等の経口投与剤が好ましい。液剤は、用時溶解できる乾燥固体であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物は、血糖低下効能を有する他の製薬と比較して、DPPIV阻害活性及びカテプシン阻害活性が適度に抑えられているため、副作用のおそれもより低く、特定保健用食品などの保健機能食品の有効成分としてより適するものといえる。
かような本発明に係る組成物は、哺乳動物の糖尿病、結合組織疾患又は腫瘍の予防又は治療用途として有用である。
また、本発明に係る組成物を、食品である魚節由来のものとすれば、安全性はさらに高まるため、保健機能食品としてより一層適するものであると言える。
また、本発明においては、一回のプロテアーゼ処理工程のみでジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物を得ることができるため、生産効率も高いという利点をも有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物125mgを経口投与したときの血糖値の変化を経時的に示したグラフである。
図2図2は、本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物250mgを経口投与したときの血糖値の変化を経時的に示したグラフである。
図3図3は、本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物500mgを経口投与したときの血糖値の変化を経時的に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
試験例1.DPPIV阻害活性の測定方法
各試料のDPPIV阻害活性は、下記のとおり行った。
試料を凍結乾燥後、それらの16mg、8mg、4mg、2mg、1mgを50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)1mLにそれぞれ溶解し、そして得られた各試料溶液のDPPIV阻害活性を、DPPIV阻害活性測定キット(Bio Vision製;K780-100型)を用いて測定した。
【0027】
DPPIVを直線的な検量線が認められる反応時間の範囲において、所定の濃度に調製後、各Wellに50μLずつ分取し、各試料(凍結乾燥品)を上記の濃度に調製後、25μLをDPPIVが50μL入った各Wellに分注し(各試料の各濃度でn=4回測定)、37℃10分間反応させた。
【0028】
次に、疑似サンプル基質(インクレチンホルモン)(H-Gly-Pro-7-アミノ-4-メチルクマリン)を所定の濃度調整後、25μLを分注し、反応時間0~30分の間、数回測定し、検量線直線が認められる反応時間間の増加率から、コントロール(阻害物質なし)と、各種試料の測定値から、DPPIV測定阻害活性(%)を計算し、そのDPPIVの50%阻害活性が認められる各種試料濃度をIC50値として算出した。また、各試料の各濃度で4回測定し、得られた4回分のIC50値の平均値を算出し、これをDPPIV阻害活性(%)とした。
なお、DPPIV阻害測定は、測定条件励起波長380nm、測定波長460nmの蛍光マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher製)にて測定した。
【0029】
試験例2.カテプシン阻害活性の測定方法
各試料のカテプシン阻害活性は、原則、下記のとおり行った。
カテプシンL又はカテプシンSの含有溶液と試料(1mg)とを混合し、pH5.0にて30分間反応させた。その後、Z-Val-Val-Arg-MCAを基質として加え、37℃にて30分間反応させた。その後、切断されたAMCの蛍光を蛍光分光光度計にて測定した(なお、記号MCAは4-メチルクマリル-7-アミドの略称であり、記号AMCは7-アミノ-4-メチルクマリンの略称である)。
【0030】
実施例.本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物の製造
下記表1に示す通りの条件で、鰹節(鰹荒節)(タンパク質160kg)を熱水抽出した(表1)。
【表1】
【0031】
得られた鰹節粕(タンパク質72質量%)に水10倍量(対基質)及びスミチームLP50Dを加え、当該スミチームLP50Dの至適pH7に調節後、50℃にて16時間反応させた。そしてその後、98℃、15分間で失活させ、遠心分離(15000回転、5分間)した後、清澄液を得た(当該清澄液をC1と呼ぶ)。
【0032】
次に、得られたC1について、エタノール濃度10%、25%、50%及び99.5%のステップワイズグラジエントによるDPPIV阻害活性画分の分離を行った(表2)。
水溶出分画と、10%エタノール溶出分画により、DPPIV阻害活性を9倍の比率で分け得て、酵素分解物(C1)のIC50よりも3~4倍高いIC50=102.93μg/mLの画分を得た(以降、この得られた画分をA-2画分と呼ぶ)。酵素分解物(C1)からの収率は、20%量得られ、阻害活性の回収率は、約100%であった。
【表2】
【0033】
得られたA-2画分を、下記条件にてUPLCクロマトグラフィーにかけて精製を行った。
用いたUPLCクロマトグラフィーの分析条件は、下記のとおりである。
装置:Waters製 UPLC
カラム:Waters製 Acquity UPLC BEH C18(2.1mmID×150mmL,1.7μm)
移動相A:5%アセトニトリル in 0.1%トリフルオロ酢酸
B:25%アセト二トリルin 0.1%トリフルオロ酢酸 のイソクラティ
ック溶出
なお、移動相A,Bの割合は、下表3及び4の通りである。
流速:0.2mL/分
温度:40℃
検出器:フォトダイオードアレイ
検出:UV200nm~300nm
試料濃度:固形分0.1mg~0.5mg/5~10μL
標品(合成ジペプチド)濃度:0.1μg/1~10μL

【表3】

【表4】

【0034】
各画分を、アセトニトリル濃度を変えて、複数回繰り返し分取して精製度を上げた(表5)。
【表5】

【0035】
そして、UPLCリクロマトグラフィー(3回目)により得られた画分の組成物について、N末端アミノ酸配列解析に付した(プロテインシーケンサー:PPSQ-33A;株式会社島津製作所)。その結果、トリプトファン-バリン(Trp-Val)のアミノ酸配列から成るペプチドが同定された。
【0036】
また一方で、A-2画分中のTrp-Valの含有量を測定したところ、当該画分の乾燥質量(水分量5質量%以下)に基づき、15.24mg/100gであった。
【0037】
さらにまた、当該Trp-ValのDPPIV阻害活性を、上記試験例1に記載のとおりに測定したところ、IC50値は36.99μM(11.21μg/mL)であった。
また、A-2画分のDPPIV阻害活性は、上記表2に示すとおり、102.93μg/mL(IC50)であった。
【0038】
測定例.本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物のヒト経口試験
上記実施例において得られた、本発明に係る組成物(A-2画分の乾燥物;水分量5質量%以下)についてヒト経口投与試験を行い、血糖値低下を有する保健機能食品として適した投与量の検討を行った。
被験者A、B及びCの3名(いずれも年齢50~60代の男性)に対して、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物の体内蓄積による影響がないように、まずは、白湯(ペプチドを含まないプラセボ)の摂取試験を一日目に行い、プラセボ効果が消える翌日にジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物を摂取した。夕食を早めに行い、食事の影響が無いように試験時まで絶食した。
【0039】
糖負荷血糖上昇抑制作用のプロトコールは以下の通りである。
1日目 18時間絶食後、プラセボ(白湯150mL)摂取30分後、グルコース摂取時から15分毎に180分まで、血糖値を測定した。
2日目 18時間絶食後、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物(125mg/150mL,250mg/150mL,500mg/150mL)摂取30分後、グルコース摂取時から15分毎に180分まで、血糖値を測定した。
ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物の摂取量は、被験者A、B及びCに対して下記のとおり割り当てた。なお、今回は、2重盲検対照比較試験ではなく、プラセボ、血糖ペプチドをオープン識別して摂取した。
被験者A:一日目プラセボ150mL摂取~二日目ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物125mg/150mL摂取
被験者B:一日目プラセボ150mL摂取~二日目ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物250mg/150mL摂取
被験者C:一日目プラセボ150mL摂取~二日目ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物500mg/150mL摂取
【0040】
試験中、各被験者から採血し、それらの血糖値をプロット、グラフ化した(図1図3)。
縦軸は血糖値を示し、そして横軸は摂取前後の時間を示し、プラセボを白丸、血糖ペプチドは黒丸で示した。
その結果、本発明に係るジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物は、少量で有意な効果及び用量依存性を有することが示された(図1及び2)。安全性は動物実験の結果から最大安全性反復量1g/kgを上限にして設定したが、 図3からも明らかなように、高用量の500mg/ヒトは、血糖値の抑制作用がやや効きすぎである結果が示された。
【0041】
全ての摂取量にて、ヒトにおいて、糖負荷血糖上昇抑制作用が認められたことから、下記のことが考察できる。
ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物125mg場合は、一錠固形250mg直径8mm(125mgジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物、賦形剤125mg)の品質で、1錠の商品設計が可能であることが分かった。
また、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物250mgの場合は、一錠固形250mg直径8mm(125mgジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物、賦形剤125mg)の品質で、2錠の商品設計が可能であることが分かった。
なお、血糖ペプチド500mgの場合は、結果から、やや効きすぎによる作用が懸念された。
よって、保健機能食品としては、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)並びにカテプシンS及びL阻害組成物125mg~250mgの範囲内が好ましいとと判断された。
対照としての従来の血糖値低下作用を示す組成物、例えば、難消化性デキストリンでの同様のヒト試験による結果においては、一度の投与で5gを用いなければ有意の効果が得られなかったことを考慮すると、本発明の組成物の上記効果はそのおよそ40倍の強さであった。
【0042】
全ての摂取量にて、ヒトにおいて、糖負荷血糖上昇抑制作用が認められたことから、下記のことが考察できる。
DPPIV阻害組成物125mg場合は、一錠固形250mg直径8mm(125mgDPPIV阻害組成物、賦形剤125mg)の品質で、1錠の商品設計が可能であることが分かった。
また、DPPIV阻害組成物250mgの場合は、一錠固形250mg直径8mm(125mgDPPIV阻害組成物、賦形剤125mg)の品質で、2錠の商品設計が可能であることが分かった。
なお、血糖ペプチド500mgの場合は、結果から、やや効きすぎによる作用が懸念された。
よって、保健機能食品としては、DPPIV阻害組成物125mg~250mgの範囲内が好ましいとと判断された。
対照としての従来の血糖値低下作用を示す組成物、例えば、難消化性デキストリンでの同様のヒト試験による結果においては、一度の投与で5gを用いなければ有意の効果が得られなかったことを考慮すると、本発明の組成物の上記効果はそのおよそ40倍の強さであった。
図1
図2
図3