(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ストック使用状況検出装置およびそれを用いたストック使用状況分析方法および装置
(51)【国際特許分類】
A45B 3/00 20060101AFI20220616BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20220616BHJP
A45B 7/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A45B3/00 B
A61B5/11 210
A45B7/00 Z
(21)【出願番号】P 2018088434
(22)【出願日】2018-05-01
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】508233906
【氏名又は名称】株式会社テクノソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100151068
【氏名又は名称】塩崎 進
(72)【発明者】
【氏名】坂口 憲一
(72)【発明者】
【氏名】仲山 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】工藤 裕
【審査官】田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/141947(WO,A1)
【文献】特開2017-055809(JP,A)
【文献】実開昭60-152317(JP,U)
【文献】特表2004-520925(JP,A)
【文献】特開2002-301124(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106805392(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45B 3/00,3/08,7/00
A61B 5/11
A61H 3/00,3/02
A63C 11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストックの軸方向圧力を検出する圧力センサ
およびストックの加速度を検出する加速度セン
サを含む、ストックに
固定された検出装置と、前記圧力センサからの圧力検出値の時間変化状態パターンおよび前記加速度センサからの加速度検出値の時間変化パターンから、ストック使用状況の解析を行う解析装置と、を含むストック使用状況検出装置であって、解析対象である使用状況が、上り坂下り坂の違いを含む路面状況の違いを含む、前記ストック使用状況検出装置。
【請求項2】
ストックの軸方向圧力を検出する圧力センサと、ストックの加速度を検出する加速度センサとが、ストックに
対して着脱可能である、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
加速度絶対値および圧力上昇積分値に基づいて、上り歩行、下り歩行、危険回避歩行、ストック不使用、を検出する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記路面状況の違いは、登山道における路面状況である、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
解析対象として、ストック使用者の使用熟練度をさらに含む、請求項1~4
のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
加速度検出値の時間変化および圧力検出値の時間変化
パターンを、被検ストック使用状況について計測・記録し、基準ストック使用状況における前記時間変化
パターンと比較する、請求項5に記載
の装置。
【請求項7】
歩行状況の分析結果を、ストック使用者が認識できるようにする分析結果表示手段をさらに備える、請求項
1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
歩行位置検出手段をさらに含み、
歩行位置検出結果に応じて、分析結果および/または推薦ストック使用方法を表示する、請求項
7に記載
の装置。
【請求項9】
あらかじめ登録された経路を設定され、その経路についてあらかじめ登録された検出出力を用いる、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
ストック使用状況分析方法であって、ストックの軸方向圧力時間変化と、ストックの加速度時間変化を、ストックの標準使用者および被検使用者間について計測記録し、前記時間変化の、標準使用者による時間変化からの違いに基づいて、ストック使用状況を分析する、請求項
1~9のいずれか一項に記載の装置を用いた、ストック使用状況分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストックを用いたストック使用状況検出を行うための検出装置、およびストック使用状況分析方法とストック使用状況分析装置に関するものである。
より詳しくいえば、歩行者が、たとえば登山道のようなストックの補助を利用する歩行路における、ストック使用状況、すなわち、上りであるのか下りであるのか、ストックの補助が登山上級者の使用方法に準じているかどうか、等をストックの検出信号出力から分析することができる、ストック使用状況分析方法および装置、また、そのためのストック使用状況検出ができる検出装置に関する。
なお、本明細書においては、「ストック」の用語は、「杖」の語と等価なものとして扱う。
【背景技術】
【0002】
ストックを用いて歩行を行うことは、特に登山において一般的である。そして、登山におけるストックの使用法は、登山の初心者と熟練者とで、大きく異なると言われている。
しかしながら、従来、ストックを歩行者がどのように使用しているか、を示す指標は存在せず、従って、ストックの使用法の巧拙等を、何らかの数値化やデータ化をおこなって検出・分析する方法は存在していなかった。
【0003】
従来、人間の歩行状況を客観的に評価することに関しては、例えば、歩行機能の低下した者が杖を用いて歩行する際の杖を突く位置を指示して歩行補助をするもの(特許文献1:特開2017-158996号公報)、杖使用者の杖に対する依存度を検出しようとするもの(特許文献2:特開2013-48801号公報)、杖の傾斜を検出して、杖使用者が危険や事故に遭遇したことを検出するもの(特許文献3:特開2011-78445号公報)、歩いているかどうかを検出するもの(非特許文献1)、松葉杖使用者の歩行状態を検出するもの(非特許文献2)、などが存在した。
【0004】
しかしながら、特許文献1のものは、杖を突いて歩行する者の歩行バランスを安定にするために、杖を突く地面位置を光照射で知らせるために、杖の加速度または角速度を測定する(段落番号0029、0030)ものであり、杖には設置を検知するセンサはついているものの、杖を使用する歩行者の、杖使用状態の検出記録をおこなうことはできなかった。
【0005】
特許文献2のものは、歩行動作における杖に対する依存度を客観的に知ることによって、杖についての知識が乏しい者や経験の浅い医師等であっても、歩行動作の適切なアドバイスができるようにする(段落番号0010)ために、杖利用者の杖への負荷をセンサで検出するものであるが、使用者が杖にかける圧力の測定データのみを使用していたので、依存度を評価できるにすぎなかった。
【0006】
特許文献3のものは、高齢者や身障者などが歩行の際に使用する杖に関し、多種類の機能を付加して杖の利便性を高めた(段落番号0001)ものであり、傾斜センサを用いて、歩数計機能、緊急警報機能、消費電力抑制機能などの複数の機能を実行する杖を提供する(段落番号0006)ものであるが、傾斜センサは杖が倒れたかどうかを検知するにすぎず、検知する杖使用状態は、転倒したかどうか(段落番号0008)、動きがあるかどうか(段落番号0023)といった単純なものでしかなかった。
【0007】
非特許文献1のものは、四点杖に超音波センサを取り付け、歩く、階段を上る、階段を下る、の状態を推定する(概要の項)ものであるが、推定できるのは歩行しているかどうか等であって、杖使用状態の精緻な分析はしていない。
【0008】
非特許文献2のものは、松葉杖使用者が適切に松葉杖を使用しているかどうかを検出して、適切な松葉杖の使い方を効率的に習得できるようにするために、松葉杖にジャイロセンサと圧力センサとを設けたものであるが、圧力センサは単に接地しているかどうかを判別するためのものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-158996号公報
【文献】特開2013-48801号公報
【文献】特開2011-78445号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】超音波センサを用いた4点杖の使用者のコンテキスト推定法の提案(情報処理学会研究報告、Vol.2014-UBI-42 No.4)
【文献】松葉杖三転歩行訓練の開発(生体医工学、Vol47(2):209-214, 2009)
【0011】
これら従来の技術は、杖を使用した歩行を行う者の、杖使用状態を精密に検出するものではなく、まして、例えば登山においてストックを使用する際の、ストック使用状況を客観的に検出する、という事項は、全く知られていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
例えば登山において使用するストックは、上りでは推力を得るため、下りではバランスを保つため、また、身体にかかる荷重負荷を分散させることができるので、疲労を軽減させる効果もあるところ、従来においては、ストックの使用方法を客観的に検出する手段がなく、登山におけるストックの使用方法の良し悪しを、例えば登山初心者に客観的に伝える方法は存在していなかった。
この使用法については、例えば登山道の傾斜や地面状況によっても最適なストックの使用方法が変わってくるものであり、そのような、ストック使用状況の検出を客観的に行うことができれば、ストック使用状況が客観的に分析でき、適切なストックを利用した歩行方法の特定も可能となる。本願の発明の課題は、ストックを用いた歩行におけるストック使用状況の客観的計測方法、およびそのための手段を提供することである。
【0013】
また、本発明は、ストック使用状況の検出のために、ストックに設けたセンサからの出力を分析し、ストック使用者の使用状況の解析を行うこと、さらに、解析結果を報知することによって、使用者や歩行方法指導者に使用状況を知らせること、を行う出力処理部を有するシステムを提供することも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、歩行のためのストックに、センサを取り付け、センサの出力を分析することによって、例えば登山におけるストックの適切な使用がなされているかどうかを正確に分析することが可能であることを見出し、登山におけるストック使用状況と、ストックのセンサの出力との関係を研究することによって、本願の発明に至ったものである。
【0015】
具体的には、ストックに固定するセンサとして、ストックの軸方向圧力を計測する圧力計測部と、ストックの運動・衝撃を検知することができる加速度センサを有するストック動作計測部とを備えることにより、ストックの使用状況を検出する。
そして、計測したセンサ出力は、解析手段によって、ストック使用状況を解析して、ストックを用いた歩行におけるストック使用状況が、適切であるかどうか等の解析結果を得ることも可能である。
【0016】
そのようなセンサ出力を得るためにストックに設けた圧力センサと、加速度センサとは、それぞれ、ストックに作りつけられたものでもよく、また、ストックに着脱可能としてもよい。
【0017】
すなわち、本願発明は、次の構成を有している。
[1]ストックの軸方向圧力を検出する圧力センサと、ストックの加速度を検出する加速度センサとを含む、ストックに固定可能なストック使用状況検出装置。
[2]ストックの軸方向圧力を検出する圧力センサと、ストックの加速度を検出する加速度センサとが、ストックに作りつけられている、ストック使用状況検出装置。
[3]ストックにおいて、圧力センサと異なる位置に加速度センサが位置する、[1]または[2]に記載のストック使用状況検出装置。
[4][1]~[3]のいずれか一項に記載のストック使用状況検出装置を含む、ストック使用状況分析装置であって、分析のために圧力検出値および加速度検出値の時間変化状態を検出する、ストック使用状況分析装置。
[5]加速度検出値の時間変化および圧力検出値の時間変化に基づいて、ストック使用者の歩行状況を評価する、[4]に記載の、ストック使用状況分析装置。
[6]加速度検出値の時間変化および圧力検出値の時間変化を、被検ストック使用状況について計測・記録し、基準ストック使用状況における前記時間変化と比較する、[5]に記載の、ストック使用状況分析装置。
[7]ストック使用状況の分析対象が、同じ使用者の登山における上り、下り、平坦路の違い、または、異なる使用者間の登山熟練度の違い、のいずれかである、[4]~[6]のいずれか一項に記載の、ストック使用状況分析装置。
[8]歩行状況の分析結果を、ストック使用者が認識できるようにする分析結果表示手段をさらに備える、[5]~[7]のいずれか一項に記載の、ストック使用状況分析装置。
[9]位置検出手段をさらに含み、位置検出結果に応じて、分析結果および/または推薦ストック使用方法を表示する、[8]に記載の、ストック使用状況分析装置。
[10]ストック使用状況分析方法であって、ストックの軸方向圧力時間変化と、ストックの加速度時間変化を、ストックの標準使用者および被検使用者間について計測記録し、前記時間変化の、標準使用者による時間変化からの違いに基づいて、ストック使用状況を分析する、[5]~[9]のいずれか一項に記載の装置を用いた、ストック使用状況分析方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の、ストック使用状況検出装置は、圧力センサおよび加速度センサがストックに設けられるだけであるので、歩行状態の検出をするためには、使用者が単にストックを普通に使用するだけで足りる。
すなわち、本発明の検出ストックを普通に使用するだけで、ストック使用状況が記録・分析可能となる。
分析結果を、使用者に示せば、使用者は、たとえば適切な使用方法との乖離を知ることができ、最適なストック使用状況となるように工夫することによって、ストックの使用方法を習得することができる。
また、あらかじめ登録された登山道を歩く際は、ストックに最適なストック使用状況である場合のセンサ出力の登録がなされているので、リアルタイムで実際のセンサ出力と登録出力との乖離を知ることによって、訓練効果を増すことができる。 ストック使用状況検出ストックを用いて、ストック使用状況を測定・記録しておき、事後的にストック使用状況を解析して、適切さを判定することも可能となる。
【0019】
本発明のストック使用状況検出装置は、圧力センサと加速度センサを使用するが、これらセンサは着脱式とすることもできるので、使用者が普段使用しているストックに装着して、データを取得してストック使用状況解析に使用することもできる。
【0020】
センサからの検出出力は、ストックに固定した記憶装置に記憶することも、無線通信によって、ストックと離れた機器に送信して解析することも可能であるので、ストックに固定する装置はコンパクトなものとすることができる。ストックにすべての装置要素を装着させて、ストック以外のものは何も必要がないようにすることもできる。
【0021】
たとえば、登山において本発明のストック使用状況検出装置およびストック使用状況分析装置を用いれば、登山におけるストック使用者のストック使用方法の適不適が客観的に判定でき、従来から客観的な評価の方法がなかった、登山におけるストックの使用技術の解析評価が可能となる。
登山においては、余分の装備を運搬することは困難であるので、ストック使用状況検出装置の付いたストックのみを用いれば、複雑なストック使用状況解析が可能となる、という点で、本願発明の効果は大である。
【0022】
また、登山に限らず、このストック使用状況検出ストックとストック使用状況分析装置を用いれば、ストックを用いたストック使用状況というものが、客観的に認識可能となるので、あらかじめ登録したストック使用状況検出データと、実際の使用者が測定したストック使用状況検出データとを比較・解析すれば、ストック使用状況の違いが容易に判明するので、ストックを用いて歩行するだけで、歩行状態が異なることを検出でき、検出データのパターン解析によって、ストック使用状況が異なる原因の解析も、例えば人工知能学習の手法を用いれば可能となる。
【0023】
この解析の際も、登山における実測例で判明した通り、ストックの軸方向圧力の時間変化と、ストックの加速度のピーク分布だけから、ストック使用状況を有意に判別可能できる、ということも、本発明の効果である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明のストック使用状況検出装置の一例を示す見取り図である。
【
図2】
図2は、
図1のストック使用状況検出装置のセンサ部10の詳細を示す断面図である。
【
図3】
図3は、センサ部と出力を処理する部分等とを含むデータを処理する部分の一例のブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明のストック使用状況分析装置の、検出動作の動作フローチャートである。
【
図5】
図5は、登山中の上りにおける圧力センサ出力と加速度センサ出力の、一例のグラフである。
【
図6】
図6は、登山中の下りにおける圧力センサ出力と加速度センサ出力の、一例のグラフである。
【
図7】
図7は、登山中の危険個所における圧力センサ出力と加速度センサ出力の、一例のグラフである。
【
図8】
図8は、ストック使用状況計測装置の一例のブロック図である。
【
図9】
図9は、圧力センサ出力と加速度センサ出力の3方向合成値の、一例のグラフである。
【
図10】
図10は、加速度センサ出力の3方向合成値と、圧力センサ出力の積分値の、上り、下り、危険個所における値の分布の一例を示すグラフである。
【
図11】
図11は、通信部をさらに含む、ストック使用状況分析装置の一例のブロック図である。
【
図12】
図12は、位置検知部をさらに含む、ストック使用状況分析装置の一例のブロック図である。
【
図13】
図13は、推薦ストック使用方法を通知することを含む、本発明のストック使用状況分析装置の一例の動作フローチャートである。
【
図14】
図14は、登山道マップとセグメントの一例を示す図である。
【
図15】
図15は、登山道セグメントとストック使用方法との対を示す表の一例である。
【
図16】
図16は、推薦ストック使用方法を表示するストック使用状況分析装置の一例の動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、圧力センサおよび加速度センサが、既存のストックに着脱可能な、ストック使用状況計測装置の一例を示す。
図1に示すストック使用状況計測装置10は、ストックの使用状況を計測するために用いられるストック先端キャップ型の装置であり、ストックの底端に挿嵌して使用される。
この実施形態では、圧力センサと加速度センサとが、ストックにおいてほぼ同じ位置に存在するが、加速度センサは、圧力センサと異なる位置に設けてもよく、また、複数設けても良い。一般に、ストックを手が握る位置からストック先端位置へ離れるにしたがって、加速度値は大きくなるが、時間変化の傾向は同様のものとなる。
【0026】
図2は、ストック使用状況計測装置10の構造の一例の断面図である。ストック使用状況計測装置10は、圧力センサ11を有し、圧力センサ11には、シリンダ12が接合されている。また、ピストンロッド13と先端ゴムキャップ14が接合されており、先端ゴムキャップ14が接地するとピストンロッド13によって接地圧力が圧力センサ11に伝わる。さらに、圧力センサ11には、ストック挿嵌部15が接合されており、ストック挿嵌部の溝部分にストックを挿嵌することができる。電子回路部16は、加速度センサ、メモリ、マイコン及びバッテリを含む電子回路で、圧力センサ11も電気的に電子回路部16と接合されている。
【0027】
図3は、第1の実施形態に係るストック使用状況計測装置10の機能構成を示すブロック図である。
図3のように、ストック使用状況計測装置10は、圧力計測部101、ストック動作計測部102、記憶部103、データ処理・制御部104、電源部105等を備える。
圧力計測部101は、
図2の圧力センサ11を含み、ストック接地時にストックにかかる圧力を計測するのに用いられる計測部である。
【0028】
圧力計測部101は、
図2に示す圧力センサ11、増幅回路101a、ADコンバータ101bを備える。
圧力センサ11は、ストック使用状況計測装置10内の圧力センサ11にかかる圧力を電気的信号に変換するセンサであり、増幅回路101aは、圧力センサ11から得られるアナログ圧力信号を増幅する。また、ADコンバータ101bは、増幅回路101aによって増幅された圧力信号をデジタル信号に変換する。
ストック動作計測部102は、加速度センサを含み、ストックが接地した衝撃等ストックの動作の計測に用いられる計測部である。
【0029】
ストック動作計測部102は、加速度センサ102a、増幅回路102b、ADコンバータ102cを備える。加速度センサ102aは、ストック使用状況計測装置10に作用する加速度を表す加速度信号を検出し電気信号に変換するセンサであり、たとえば、直交3軸(直行するx軸、y軸及びz軸)の各軸方向の加速度信号を検出可能な3軸加速度センサである。増幅回路102bは、加速度センサ102aから得られるアナログ加速度信号を増幅する。また、ADコンバータ102cは、増幅回路102bによって増幅された加速度信号をデジタル信号に変換する。
記憶部103は、不揮発性メモリであり、たとえば、圧力計測部101、ストック動作部102より得られた信号を記憶する。
【0030】
データ処理・制御部104は、ストック使用状況計測装置10内の各コンポーネントの動作を制御し、得られたデータの処理を行う、たとえばマイコンなどの処理装置である。
電源部105は、小型バッテリであり、ストック使用状況計測装置10内の各コンポーネントに電源を供給する。
【0031】
本発明のストック使用状況計測装置の一例の動作は
図4のフローチャート通りである。
ストック使用状況計測装置10の計測を始めると、圧力計測部101とストック動作計測部102は、それぞれ、圧力信号と加速度信号をデジタル信号に変換する(ステップS1、S2)。データ処理・制御部104は、圧力計測部101とストック動作計測部102から得た圧力信号と加速度信号のデジタル信号値を記憶部103に送り、記憶部にデジタル信号値を記録する(ステップS3)。ステップS1からS3は、終了条件でなければ繰り返される(ステップS4)。ここで、終了条件とは、電源部105より供給される電圧値であってもよいし、データ処理・制御部104が終了信号を送ってもよい。
ステップS1からステップS4までの一連の処理は、所定の時間間隔(たとえば5msec間隔)で実行される。
なお、圧力信号記録の時間分解能は、例えば毎秒5回以上であって、加速度信号の記録時間分解能は圧力信号の記録時間分解能以上の精度(例えば毎秒200回)である。すなわち、S1、S2は同時に実行されるか、S2が実行されているのに対してS1が実行されないことがあっても良い。
上記の構成で、当該ストック使用状況計測装置10は、ストック使用者のストックの動作に関するストックの加速度信号と圧力信号を計測し記録する。
【0032】
ここで、当該ストック使用状況計測装置10で計測、記録されるストック動作について
図5、
図6、
図7を用いて説明する。
図5、
図6、
図7は、第1の実施形態にかかるストック使用状況計測装置で計測された圧力信号と加速度信号の一例であり、
図5は登山中の上り、
図6は登山中の下り、
図7は登山中の危険個所において、ストックを接地してからストックに荷重をかけ、ストックを次のストック接地位置に移動させるまでの一連の動作を記録したものである。
ストック動作計測部102の直交3軸方向計測可能な加速度センサ102aは、ストック使用者がストックのグリップを握った際、ストック使用者の前後方向がX軸、上下方向がY軸、左右方向がZ軸となるように設置されている。
【0033】
まず、ストック使用者がストックを接地させると、加速度信号の値がインパルス状の波形を示し、次に、ストック使用者がストックに荷重をかけると、圧力信号の値が上昇する。さらに、ストックへの荷重が弱まりストックを上方向に移動させる際、加速度Y軸(上下方向)の値が上昇し、そののちに、ストックの前方への移動に伴い、加速度X軸(前後方向)の値が上昇する。
上り(
図5)、下り(
図6)、危険個所(
図7)のストック動作を比較すると、上りでは、ストック接地後、ストックに荷重がかかり、身体にかかる荷重がストックに分散され、推力を得ている様子が、下りでは、ストック接地後、ストックには荷重がかからず、さらに上りより早いペースでストックを接地させ、バランス補助に用いている様子が計測できている。危険個所では、ストック接地後、ストックにかかる荷重が大きく、また、多峰になっており、慎重にストックへの荷重を制御してバランスを保っている様子が計測できている。
【0034】
上記のように、当該ストック使用状況計測装置10で、登山等の傾斜や道の状況によりストック使用方法が変化するストックの使用状況を計測できる。
上記では、ストック使用状況計測装置10は、底端に挿嵌する構造を説明したが、圧力センサ11の代わりに、たとえば、伸縮により導電率の変化する歪センサをストックの伸縮する側面に取り付けて、ストックの伸縮量を圧力として計測する形状であっても良い。
また、ストック使用状況計測装置10は、先端ゴムキャップ14やストック挿嵌部15を持たず、あらかじめストック内部に埋め込まれていても良い。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、前述のストック使用状況分析装置の、検出信号に基づいたストック使用状況の分析、および分析結果の通知の機能について説明する。
図8は、本実施形態に係るストック使用状況計測装置20の機能構成を示すブロック図である。なお、
図8は、前記した
図3と同一部分には同一参照符号を付してその詳しい説明を省略する。
図8に示すように、ストック使用状況計測装置20は、
図3のストック使用状況計測装置10の機能構成に加え、通知部106を含む。
通知部106は、たとえば、ディスプレイやスピーカーなどで、ストック使用者が視覚または聴覚でストックの使用状況を確認できるものであり、ストック使用状況がストック使用者の視覚や聴覚に届きやすいストック上方に設置されてもよく、必ずしも圧力計測部101やストック動作計測部102と同じ場所になくても良い。
【0036】
通知部106には、圧力計測部101より得られた圧力値とストック動作計測部102より得られた加速度値を直接表示してもよいし、例えば、圧力計測部101より得られた圧力値とストック動作計測部102より得られた加速度値より推定されたストック使用状況を表示してもよい。
【0037】
図9と
図10を用いて、ストック使用状況とその推定方法の一例を説明する。
前記のように、ストックの使用状況には「荷重負荷の分担、および推力」「バランス補助(下り)」「バランス補助(危険回避)」「ストックを使用しない」という少なくとも4状態が含まれ、この状態は、ストックの接地の衝撃と、ストック接地後にストックにかかる圧力で表現できる。
図9は、圧力計測部101より計測された圧力値とストック動作計測部102で計測された加速度値の3軸を合成した合成加速度のグラフである。
図9に示す合成加速度は、
【数1】
(accxは、加速度X軸、accyは加速度y軸、acczは加速度z軸の値である)に、カットオフ周波数40Hzのハイパスフィルタをかけ、全波整流を施した値であり、ストックが地面に接触した際に生じる加速度のインパルス状の波を検出しやすいような処理を施している。
図9で、合成加速度のインパルス状の波形の頂点の値は、ストックの「接地の衝撃」を客観的に示し、合成加速度のインパルス状の波形の後に現れる圧力の上昇の積分値は、「荷重負荷の分担および推力」を客観的に示すと考えられる。
【0038】
合成加速度のインパルス状の波形の頂点(接地の衝撃)は、例えば、圧力が所定の閾値以下(例えば50gf以下)でかつ、合成加速度が所定の閾値以上(例えば10以上)の波の頂点を検出する。この時、所定の時間内(たとえば1sec内)に複数の頂点を検出した場合は、最も大きな値を頂点として扱う。合成加速度のインパルス状の波形の頂点が検出された後、圧力が所定の閾値以上(例えば50gf)である部分の加算値を、圧力の積分値として算出する。
図10は、合成加速度のインパルス状の波形の頂点の値と圧力の積分値の関係を示す。
図10のように、合成加速度のインパルス状の波形の頂点と圧力の積分値で「荷重負荷の分担、および推力」「バランス補助(下り)」「バランス補助(危険回避)」の3状態が分類できる。さらに、所定の時間以上合成加速度のインパルス状の波形および圧力上昇がない場合は、「ストックを使用していない」と識別でき、上記4状態を分類できる。例えば、あらかじめ実験データを用いてSVM(Support Vector Machine)などで識別閾値を算出しておき、登山時に各4状態を識別する。
【0039】
通知部106は、識別された各状態を文字、画像、光の点滅、音声、音程、メロディーなどで表現し、ストック使用者に伝える。
なお、上記した推定アルゴリズムは、一例であり、波形そのものを機械学習などの分類機で分類してもよい。また、推定アルゴリズムは、あらかじめ記憶部103に記憶されたアルゴリズムをデータ処理・制御部104がアクセスして実行する。
また、
図11に示す通信部を備えたストック使用状況計測装置の機能ブロック図のように、ストック使用状況計測装置21は、通知部106の代わりに通信部107を有し、データ処理、結果の通知は外部の装置で行ってもよい。ここで、通信部107は、例えば、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi等であり、外部の装置とは、パーソナルコンピュータ、タブレット端末やスマートホン等である。
このように、ストックに備えた通知部、または外部の装置を経由した通知により、ストック使用者は自分のストック使用状況を確認することができる。
【0040】
(第3の実施形態)
(適切な使用状況の訓練・通知)
以上説明したストック使用状況分析装置に、さらに、訓練・通知機能を加えたものについて説明する。
このストック使用状況分析装置は、位置検知部を備え、また、記憶部103に記憶されたプログラムをデータ処理・制御部104により実行することによって、ストック使用者にストック利用状況と推薦ストック使用方法とを比較し、比較結果を提示できる点が、前記したストック使用状況分析装置に付け加わる機能である。
【0041】
図12は、訓練・通知機能を加えたストック使用状況計測装置30の機能構成を示すブロック図である。なお、
図12は、前記した
図3、
図8、
図11と同一部分には同一参照符号を付してその詳しい説明を省略する。
図12に示すように、ストック使用状況計測装置30は、
図8の機能構成に加え、位置検知部108を含む。
位置検知部108は、ストック使用者の現在位置を検知するものであって、例えば、GPS(Global Positioning System)モジュールなどである。
【0042】
記憶部103には、あらかじめ、位置データから成る登山道マップと、位置データに紐付けられた推薦ストック使用方法を格納したテーブルと、ストック使用者のストック使用状況と推薦ストック使用方法を比較し通知するプログラムが記憶されている。
推薦ストック使用方法として用いられるデータは、あらかじめ本発明のストックによってデータ収集して記憶しておくことも可能であり、また、理論的に、適宜のストック圧力データと加速度データを設定し、これを推薦ストック使用方法のデータとして用いることも可能である。
【0043】
図13は、前記したストック使用状況計測装置30の推薦ストック使用方法に対する使用状況通知に関するプログラムのフローチャートである。以下、
図13、
図14、
図15を用いて、推薦ストック使用方法に対する使用状況通知のフローを説明する。
ストック使用状況計測装置30の計測が開始されると、
位置検知部108で得られた信号より、ストック使用者の位置を検知する(ステップS5)。
次に、位置検知部108で得られた信号をもとに、ストック使用者の進行方向を判定し、ストック使用者が上り方向に歩行しているか下り方向に歩行しているかを判定する(ステップS6)。本実施形態において、上りとは、登山口から頂上方向であり、下りとは、頂上から登山口方向を指す。
ストック使用者の進行方向は、位置検知部108の短時間のログをとっておき、過去のログと現在のログより求めた方向ベクトルで表現できる。また、記憶部103には、
図14で示すような位置データから成る登山道マップが記憶されており、ストック使用者の歩行方向ベクトルと現在地を登山道マップと比較することで、上り・下りを判定できる。
【0044】
さらに、ストック使用者の現在のストック使用状況を解析する(ステップS7)。
ストック使用状況とは、例えば、第2の実施形態で述べた方法でストックの使用状況を分類した4状態である。
続いて、ステップS5で検知したストック使用者の現在位置、ステップS6で判定した上り・下り情報より、その地点の推薦ストック使用方法を求め、ステップS7でストック使用者の現在のストック使用状況と比較する。推薦ストック使用方法は、例えば、
図15のように、ストック使用者の歩行位置と上り下りの関係から、推薦ストック使用方法があらかじめ設定されたテーブルである。このテーブルは、あらかじめ熟練者が登山を行い、熟練者のストック使用方法を記録したものであってもよいし、登山に精通した者が作成したものであってもよい。
図14のセグメントとは、
図15に示すように、同じ推薦ストック使用方法が続く登山道を1セグメントとし、複数のセグメントに分けたものであり、同じような状況(傾斜、岩場・砂利などの道の状況など)の道が続いている。
【0045】
比較結果に基づいて、通知部106は、ストック使用者のストック使用状況と推薦ストック使用方法が異なる場合には正しいストック使用方法を通知する(ステップS9)。正しいストックの使用方法の通知は、特定の画像、また、音や音声であってもよいし、ストック使用状況が推薦ストック使用方法と合致している場合にも表示してよい。
上記により、ストック使用者は、自分のストック使用状況が、登山道の状態に即した推薦ストック使用方法であるかどうかを知ることができる。
【0046】
また、ストック使用状況計測装置30の推薦ストック使用方法に対する使用状況通知に関するプログラムは、
図16に示すように、ストック使用者にこれから進む登山道に応じた推薦ストック使用方法を提示しても良い(ステップS10)。これから進む登山道とは、現在位置と上り下り情報より、ストック使用者がこれから進む方向にあるセグメントである。
なお、上記の例は、実際の登山道での使用例を示したが、登山を模擬した閉空間、登山シミュレータ、登山VR(Virtual Reality)などにおいて、実際の登山の前に使用者がストック利用方法を学ぶのにも有効である。
【0047】
以上の説明において、ストック使用状況分析は、標準使用者の使用状況における圧力時間変化と加速度時間変化を、被測定使用状況における、圧力時間変化と加速度時間変化とを、前者の積分値と後者の合成値で行った例で説明したが、たとえばパターン認識、人工知能等によって比較することにより、類似度や一致度を分析すること等によっても、多様な使用状況の分析が可能となる。
【符号の説明】
【0048】
10: センサ部
11: 圧力センサ
12: シリンダ
13: ピストンロッド
14: 先端ゴムキャップ
15: ストック挿嵌部
16: 電子回路部
101: 圧力系側部
102: ストック動作計測部
101a、102b: 増幅回路
101b、102c: ADコンバータ
103: 記憶部
104: データ処理・制御部
105: 電源部
106: 通知部
107: 通信部
108: 位置検知部