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  • 特許-絹本用インクジェット受理層 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】絹本用インクジェット受理層
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20220616BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20220616BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B41M5/52 110
B41M5/50 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018114986
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019209673
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】502041738
【氏名又は名称】株式会社偕拓堂アート
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(72)【発明者】
【氏名】武藤 信嗣
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-014387(JP,A)
【文献】特開2010-201750(JP,A)
【文献】特開昭63-099273(JP,A)
【文献】特開2017-078241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/50-5/52
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掛け軸等に使用する絹本にインクジェット印刷を施す際に下処理として形成する、樹脂を主成分とする定着材に対して胡粉を配合させた絹本用インクジェット受理層を生産する方法であって、
定着材重量部100に対して胡粉を20~40重量部配合し、10分~30分間攪拌して得られた混合攪拌物を、
絹本を構成する絹糸と絹糸の編目間よりも小さい径を有する胡粉粒子を得るために濾す作業を加えてから、
絹本絹地面にシルクスクリーン印刷若しくはその他の機械的な塗布作業によって塗布した後に乾燥させて形成することを特徴とする絹本用インクジェット受理層を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は掛け軸等に使用する絹本に対し、水性顔料系のインクを用いたインクジェット印刷を施す際に下処理として形成する絹本用インクジェット受理層に関する。さらに言えば、胡粉を配合することで発色も良く透明感等のあるインクジェット印刷が可能な絹本用インクジェット受理層に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、絹本に対してインクジェット印刷を行う際に下処理等全くせずに印刷すると、出来上がりにおいてインクが定着せず滲んでしまう、発色が悪くなってしまう等の理由により、商品としての価値が低い製品しかできなかった。そのため、絹本に樹脂を主成分とする定着材を塗布することにより下処理を行っていたが、絹地は元来白色の濃度が低いので前記定着材を用いて受理層を形成しても、それ程発色等の問題点が改善されることは無かった。
【0003】
また、代替品として絹地では無くポリエステル地にインクジェット印刷する方法も知られているが、ポリエステル地は繊維間の目が詰まっており、白色の度合いが高く白色が強過ぎる、繊維の目が詰まり過ぎている等の理由により、仮に樹脂を主成分とする定着材を用いて受理層を形成したとしても、一般的に掛け軸等の絵画に必要な透明感、奥行き感等の絹地独特の絹目の風合いが出せない等という欠点があった。
【0004】
特許文献1には、「インクジェット法で形成され、発色性に優れた印刷部を有する化粧シートを提供すること、また、発色性に優れた印刷部を有する化粧シートを効率よく製造することができる化粧シートの製造方法を提供すること(特許文献1:要約:課題)」を課題として、「下処理が施された繊維性基材と、下処理が施された繊維性基材に対してインクジェット法により形成された印刷層と、繊維性基材の前記印刷層が設けられた面側に配された硬質材料層とを有することを特徴とし、硬質材料層は、メラミン系樹脂を含む材料で構成されたものであることが好ましく、下処理は、繊維性基材を構成する繊維の隙間に含浸された樹脂部の形成であることが好ましい(特許文献1:要約:解決手段より抜粋)」化粧シートおよび化粧シートの製造方法(特許文献1:発明の名称)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-147409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る化粧シートは、発色性に優れた印刷部を有する化粧シートを提供するものであって、下処理が施された繊維性基材と、下処理が施された繊維性基材に対してインクジェット法により形成された印刷層と、繊維性基材の前記印刷層が設けられた面側に配された硬質材料層からなる化粧シートである。特許文献1に係る化粧シートは、発色性において優れているものの、一般的に掛け軸絵画に必要な透明感や奥行き感等の絹地独特の絹目の風合いは得られず。その他絹地独特の絹目の風合いが出せない等の欠点は依然として残るものである。
【0007】
本発明の目的は、絹地であっても白色の濃度が濃い受理層を形成し、発色も良く、掛け軸に必要な透明感、奥行き感等の絹地独特の絹目の風合いを得られる、絹本への印刷に最適な絹本用インクジェット受理層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、掛け軸等に使用する絹本にインクジェット印刷を施す際に下処理として形成する、樹脂を主成分とする定着材に対して胡粉を配合させた絹本用インクジェット受理層を生産する方法であって、定着材重量部100に対して胡粉を20~40重量部配合し、10分~30分間攪拌して得られた混合攪拌物を、絹本を構成する絹糸と絹糸の編目間よりも小さい径を有する胡粉粒子を得るために濾す作業を加えてから、絹本絹地面にシルクスクリーン印刷若しくはその他の機械的な塗布作業によって塗布した後に乾燥させて形成する絹本用インクジェット受理層を生産する方法であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る絹本用インクジェット受理層は、掛け軸等に使用する絹本にインクジェット印刷をする際に行う下処理として形成するものであり、樹脂を主成分とする定着材に対して胡粉を一様に分散させつつ配合させたものである。
【0011】
配合量としては、前記定着材重量部100に対して前記胡粉を20~40重量部配合されており、しかも、胡粉の平均粒径は50~100ミクロンである。このような構成による絹本用インクジェット受理層であれば、絹地であっても白色の濃度が濃い受容層を形成し、発色も良く、掛け軸に必要な透明感、奥行き感等の絹地独特の絹目の風合いを得ることができるようになった。さらに、インクジェット印刷をベースに印刷した後、絹本絵画独特の技術、例えば垂らし込み・雲母を乗せる・箔押し、手書きの追加等をする事ができる様になったので、より芸術性の高い掛け軸を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施例に係るインクジェット受理層を説明するための断面図である。
図2】インクジェット受理層を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<絹本用インクジェット受理層の構造>
以下、本発明に係る絹本用インクジェット受理層の一実施形態について詳細に説明する。図1は、本実施例に係るインクジェット受理層を説明するための断面図である。図2は、本実施例に係るインクジェット受理層を説明するための上面図である。
【0014】
本実施例に係る絹本用インクジェット受理層10は、絹地面に、樹脂を主成分とする定着材対して胡粉を配合し、一様に分散させたものを、一面に塗布することで積層したものである(図1参照)。即ち、胡粉が絹地面に一様に分散されていることが特徴となっている(図2参照)。
【0015】
<絹本用インクジェット受理層の製造方法>
以下に、本発明に係る絹本用インクジェット受理層10の製造方法の一例を記載する。先ず準備として、樹脂を主成分とする定着材重量部100に、胡粉30重量部(配合量は20重量部~40重量部の間で自由に選択することができることは言うまでもない)を配合する。配合後、胡粉20が定着材30に一様に分散されるようにするため、水を加えながら撹拌機等を用いて攪拌する。攪拌時間は配合量(配合比率)や温度湿度等の条件にもよるが、10分から30分程度行うことにより、樹脂30と胡粉20(主成分炭酸カルシウム)の混合攪拌物を得る。その際、更に細かな胡粉粒子を得るために漉す作業を加えても良い。次に、該混合攪拌物を絹地面にシルクスクリーン印刷若しくはその他の機械的な塗布作業、若しくは刷毛等を使用した手作業によって、絹地面に凹凸が無いように(厚さ一定になるように)塗布する。その後乾燥させることにより絹本用インクジェット受理層10を得ることができる。
【0016】
<絹本用インクジェット受理層の効果>
本発明に係る絹本用インクジェット受理層10は、掛け軸等に使用する絹本にインクジェット印刷を施す際に下処理として形成する絹本用インクジェット受理層10である。樹脂を主成分とする定着材30に対して胡粉20(主成分炭酸カルシウム)を配合させたものであり、前記定着剤重量部100に対して胡粉を20~40重量部配合されている。尚、胡粉の平均粒径は50~100ミクロンである。
【0017】
絹糸(縦糸)と絹糸(横糸)の網目間に隙間を備えた絹布は、絹布が150メッシュから200メッシュであるとして考えると、本実施例に係る胡粉の平均粒径は50~100ミクロンであるので、前記定着剤30に対し一定量の胡粉20を配合し一様に分散させてから塗布することにより、絹糸と絹糸の網目間に胡粉が埋まるようになり、インクが浸透しないようになる。要するに、絹本のメッシュ部分が埋められることになる(図2参照)。
【0018】
従って、絹地であっても白色の濃度が濃い受理層を形成し、発色も良く、掛け軸に必要な透明感、奥行き感等の絹地独特の絹目の風合いを得ることができるようになった。
【0019】
尚、胡粉20の平均粒径が100ミクロン以上であると、シルクスクリーンの網目に対して、粒径が大き過ぎるために、絹糸と絹糸の網目間に胡粉20を配置することができず、絹地面の上に配置することになってしまい、結局、現状における絹地の代替品としてのポリエステル地にインクジェット印刷するのと同様に、掛け軸に必要な透明感、奥行き感等の絹地独特の絹目の風合いを得ることができ無い。胡粉20の平均粒径が50ミクロン以下であると、定着剤30に配合する際、一様に分散させ難く、胡粉20の配合時において、定着剤30に対して胡粉20が一様に分散するまでに攪拌時間が余分に掛かることになるので、生産性が著しく低下し好ましくない。
【0020】
さらに、インクジェット印刷をベースに印刷した後、絹本絵画独特の技術、例えば垂らし込み・雲母を乗せる・箔押し、手書きの追加等をする事ができる様になったので、より芸術性の高い掛け軸を提供することができるようになった。
【0021】
<絹本用インクジェット受理層の変更例>
本発明に係る絹本用インクジェット受理層は、上記した各実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、または樹脂を主成分とする定着材に対する胡粉の配合比率の変更、製造上の必要に応じて種々の添加剤等の添加を行うことができる。さらに、胡粉の平均粒径、粒度分布等を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で必要に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係る絹本用インクジェット受理層は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、絹本にインクジェット印刷を行うような掛け軸製造分野において、最適な絹本用インクジェット受理層として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0023】
10・・インクジェット受理層
20・・胡粉
30・・定着剤
図1
図2