(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ファインバブル含有固化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220616BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20220616BHJP
C04B 16/02 20060101ALI20220616BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20220616BHJP
【FI】
C04B28/02 ZAB
C04B22/14 A
C04B16/02 Z
B09B3/00
(21)【出願番号】P 2018244756
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-09-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128599
【氏名又は名称】株式会社オートセット
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】米川 友則
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/066396(WO,A1)
【文献】特開2007-191358(JP,A)
【文献】特開2007-031270(JP,A)
【文献】特開2018-076200(JP,A)
【文献】特開2018-158867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/00 - 40/06
B28B 1/00 - 1/54
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙を水に溶いて得られるスラリーにセメント系固化材を混合させる工程と、
前記スラリーに、直径100μm以下のファインバブルを、当該スラリー中の水分1立方cm当たりに10万個以上、含有させる工程と、
前記セメント系固化材の混合および前記ファインバブルの含有後に前記スラリーが固化するまで当該スラリーを養生する工程とを備え
、
前記混合させる工程は、前記セメント系固化材100重量分に対し、20~30重量分の範囲に含まれる割合分の硫酸アルミニウムを、添加剤として投入する工程を含む、ファインバブル含有固化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、古紙を含む固化体に関する。
【背景技術】
【0002】
古紙を含むセメント系固化体として例えば、特開2008-247650号公報(特許文献1)が知られている。特許文献1記載の技術は、セメントを主成分とし古紙の繊維を含む水硬性スラリーを、シート状のフェルトに塗布し、板材を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の固化体は、板材であるため容積が少なく、産業廃棄物である古紙を大量に取り込むことができない。また建築・土木の分野では、断熱性に優れたセメント系建材が求められている。本発明は、従来よりも多くの古紙を再利用することができ、しかも古紙を含むセメント系固化体において断熱性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のため本発明によるファインバブル含有固化体は、セメント系固化材と水分の水和反応により固化した基材と、この基材中に分散する古紙由来の繊維分を含む固化体において、直径100μm以下のファインバブルを基材1立方cm当たり10万個以上さらに含むことを特徴とする。
【0006】
かかる本発明によれば、ブロック等、縦・横・高さを任意の寸法で成形可能であることから、産業廃棄物である古紙を大量に再利用することができる。さらに固化体が固化する前に気泡が抜け難く、固化体が多数の微細な気泡(ファインバブル)を均一に分散して保持することから、多数の微細な気泡によって従来よりも断熱性が向上する。なお本発明のファインバブルは、固化体に含まれる大小様々な気泡のうち、最も多数を占める群である。本発明は、固化体に直径100μmを超える少数ないし多数の気泡が偶然混入することを排除しない。スラリーの基材が固化するにつれて、あるいは固化後、古紙由来の繊維分に付着する水分が抜け出して空隙を形成する。本発明の基材は、固化するまで多数の微細な気泡を含むことから、従来よりも断熱性が大きく、軽量である。したがってファインバブル含有固化体の空気容積率を、5%~50%にすることができる。
【0007】
基材1立方cm当たりのファインバブル数は多いほど良く、好ましくは直径100μm以下のファインバブルを基材1立方cm当たり100万個以上含有する。直径1μm未満のウルトラファインバブルは基材1立方cm当たり1億個程度含まれることができる。本発明に含まれる気泡の平均は100μm以下であればよく、範囲を特に限定されない。好ましい局面として本発明のファインバブルは、容積換算で、直径1μm以上100μm以下の範囲に含まれるマイクロバブルを主に含む。他の局面として本発明のファインバブルは、容積換算で、直径1μm未満のウルトラファインバブル(ナノレベル)を主に含む。ウルトラファインバブルによれば、マイクロバブルと比較してさらに、固化体製造中にファインバブルがスラリーから抜け出し難くしつつ、断熱性を高めることができる。ウルトラファインバブルは、マイクロバブルよりも多数、基材に含まれ得る。
【0008】
本発明の一局面として、ファインバブル固化体はセメント系固化材100重量分に対し、20~30重量分の範囲に含まれる硫酸アルミニウムをさらに含む。
【0009】
本実施形態になるファインバブル含有固化体の製造方法は、古紙を水に溶いて得られるスラリーにセメント系固化材を混合させる工程と、古紙の繊維を含むスラリーに直径100μm以下のファインバブルを、当該スラリー中の水分1立方cm当たりに10万個以上、含有させる工程と、セメント系固化材の混合およびファインバブルの含有後にスラリーが固化するまでスラリーを養生する工程とを備える。水分にファインバブルを含有させる工程と、スラリーにセメント系固化材を混合する工程の前後は限定されず、同時に混合してもよい。一例として、古紙を含有するスラリーに、ファインバブルを含有する水を添加し、次にセメント系固化材を含むスラリーを混合してもよい。他の例として、古紙およびセメント系固化材を含有するスラリーに、ファインバブルを吹き込んでもよい。
【0010】
本発明の好ましい局面として、混合するファインバブルは直径100μm以下である。本発明の他の局面として直径1μm未満のウルトラファインバブル(ナノバブル)を混合してもよい。この場合には、当該スラリー中の水分1立方cm当たりに1億個以上の前記ファインバブルを混合することができる。
【発明の効果】
【0011】
このように本発明によれば、多数の微細な気泡(ファインバブル)を含むことから、断熱性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態になるファインバブル含有固化体を示す拡大断面図である。
【
図2】同実施形態に使用されるセメント系固化材のpH特性を示すグラフである。
【
図3】同実施形態に使用されるセメント系固化材の固化特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態になる固化体を示す拡大断面図である。本実施形態の固化体10は、古紙を細かく裁断しさらにほぐされた繊維11と、セメント系固化材と水の水和反応によって固化した基材12と、多数の微細な気泡であるファインバブル13を含む。古紙の繊維11を水中に分散して含んだ状態で、水中のセメント系固化材12は水和反応によって固化する。多数のファインバブル13は、その直径が100μm以下の範囲に含まれる。より具体的には、本発明の固化体に含まれる多数のファインバブル13は、直径1μm以上100μm以下の範囲に含まれるマイクロバブルと、直径1μm未満のウルトラファインバブルに分類される。
【0014】
本実施形態の固化体の製造方法につき説明する。
【0015】
まず、古紙を細かく裁断して水に溶き、充分に攪拌して、水中に紙繊維が混濁したスラリーを作成する。古紙は、新聞紙、段ボール紙、雑誌等から容易に得られる。本実施形態では、1.0立方mの古紙に対し、0.5~0.8立方mの範囲に含まれる所定値の水を加える。
【0016】
次の工程で、ファインバブル生成装置を用いて、スラリーに直径100μm以下の気泡を混入させる。直径100μm以下の気泡はファインバブルともいう。ファインバブル生成装置として例えば、IDEC Japan社のバヴィタスがある。本工程では例えば、ファインバブルを吹き込んだ清浄水を、上述した紙繊維を含むスラリーに添加して、静かに攪拌・混合する。あるいは上述した紙繊維を含むスラリーに、ファインバブルを直接吹き込む。本実施形態では、スラリー中の水分1立方cm当たりに10万個以上、好ましくは100万個以上、のファインバブルを混合する。
【0017】
ここで附言すると、ファインバブルは小さいため1個ずつ肉眼で認識することができない。ファインバブルは、直径が1μm以上100μm以下のマイクロバブルと、直径1μm未満(ナノサイズ)のウルトラファインバブルに分類される。直径が小さいほど多数のファインバブルをスラリーに混合することができる。
【0018】
ウルトラファインバブル(ファインバブルのうち直径1μm未満の気泡)は清浄水に含有されても無色透明であり、自身の浮力が水の粘性力よりも小さい。またウルトラファインバブルは、マイナスに帯電し、お互い反発するため、互いに凝集しない。このためウルトラファインバブルは、水中をブラウン運動しながら、数週間から数箇月の範囲で長期残存する。さらにバブル表面に表面張力が作用してバブルが収縮し、バブルの内部圧が著しく増加する。内部圧はヤング・ラプラスの式で決まり、バブル直径が小さいほど内部圧が大きくなる。
【0019】
マイクロバブル(ファインバブルのうち直径1μm以上の気泡)が清浄水に含有されると、清浄水を白濁させ、白濁が長時間持続する。マイクロバブルは水面まで上昇し難い。一部のマイクロバブルは、上昇することなく水中で溶解して消滅する。
【0020】
ファインバブルの内部圧は、大気圧よりも高い気圧(1~30気圧の範囲)である。
【0021】
なお、直径100μmを超え10mm以下の気泡は、ミリバブルと規定される。ミリバブルは、水面まで上昇するため、高密度かつ連続して清浄水に吹き込む場合を除き、清浄水を白濁させない。仮に白濁させてもすぐに水面まで上昇して白濁が解消する。
【0022】
説明を本実施形態に戻すと、紙繊維を含むスラリーは、液相と固相のコロイド溶液のような特性を有する。このためマイクロバブルは、液相100%の液体よりもさらに長時間、このスラリー中に滞留する。またマイクロバブルは、紙繊維に付着して、スラリー中に滞留する。
【0023】
次の工程で、このスラリー中にセメント系固化材を投入して、充分に攪拌、混合する。水を分母として、セメント系固化材の割合は、300~500kg/立方mの範囲に含まれる所定値である。前述した0.5~0.8立方mの水に対しては、150~400kgのセメント系固化材を投入する。この工程では、必要に応じて添加剤も投入する。添加剤は例えば硫酸アルミニウムである。セメント系固化材を100重量分として、硫酸アルミニウムの割合は、20~30重量分の範囲に含まれる所定値である。換言すると150~400kgのセメント系固化材に対しては、30~120kgの硫酸アルミニウムを投入する。硫酸アルミニウムはスラリーを安定させる機能を発揮するので、ファインバブルがスラリー抜け出すことを防止し、セメント系固化材の水和反応を促進させる。
【0024】
古紙を含むスラリーに、セメント系固化材の粉末と、硫酸アルミニウムの粉末と、ファインバブルを、なるべく短時間で混合させる必要がある。そこでスラリーにセメント系固化材を混合する工程と、スラリーにファインバブルを混合する工程を、並行して実行してもよい。一例として、古紙を含むスラリーと、セメント系固化材を含むスラリーと、ファインバブルを含む水を、同時に混合して短時間で攪拌を完了させる。混合する順序は特に限定されない。
【0025】
セメント系固化材は例えば、オートセット社のローペーハー#3100である。ローペーハー#3100は、本固化材投入前のスラリーのpH値を下げ、中性に近づける。参考のため、ローペーハー#3100の特性を
図2および
図3に示す。
【0026】
図2中、横軸は養生日数を表し、縦軸はpH値を表す。
図2より、本実施形態のスラリーのpH値は固化材を投入される前で10~11であるが、本固化材を投入されたスラリーは、pH値が低下して中和されることが理解される。
【0027】
図3中、横軸は添加量を表し、縦軸はコーン指数を表す。
図3より、本固化材を投入されたスラリーは、養生1時間後にゲル化する。このため本実施形態では、ブリージングが生じず、水分およびファインバブルが抜け出さない。さらに、養生7日後に固化する。
【0028】
またローペーハー#3100は、投入後スラリーを固化および中和する際、ブリージング現象を生じないという利点がある。これによりファインバブルは基材に固定される。
【0029】
次の工程で、スラリーを任意の寸法の容器に流し込み、振動を与えない状態で養生する。これまでの説明から理解されるように、本実施形態のスラリーは、多数の気泡であるファインバブル、具体的にはマイクロバブルおよびウルトラファインバブル、を取り込んだまま、固化する。本実施形態の製造方法により作成されたファインバブル含有固化体は、比重0.37、断面形φ50[mm]、高さ100[mm]の円柱体であった。本実施形態の固化体は、軽量かつ断熱性に優れ、建物の壁部や、天井部に好適に使用される。
【0030】
対比のためローペーハー#3100に代えて、市販されている一般的なセメント系固化材を準備し、上述した配合と同じ分量の水と古紙を混合して、固化体を作成した。かかる対比例の固化体は、硫酸アルミニウムを含んでいない。対比例の固化体の比重は0.98であった。対比例の固化体は、重量が大きく、建物の壁部および天井部への使用に難点を有する。また対比例の固化体では、養生中にブリージングが生じた。
【0031】
本実施形態の製造方法によれば、紙繊維を含むスラリーに多数の微細な気泡を保持させたまま、当該スラリーが固化する。したがって、ファインバブル含有固化体全体における空気容積率を5~50%にして、ファインバブル含有固化体の断熱性が向上する。またファインバブル含有固化体の軽量化を図ることができる。
【0032】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。例えば上述した1の実施形態から一部の構成を抜き出し、上述した他の実施形態から他の一部の構成を抜き出し、これら抜き出された構成を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、建築または土木において有利に利用される。
【符号の説明】
【0034】
10 ファインバブル含有固化体、 11 紙繊維、
12 セメント系固化材が固化した基材、 13 ファインバブル。