(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】トリヌクレオチドリピート伸長が関与する遺伝的疾患の予防または治療における一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20220616BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220616BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20220616BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/7088
A61K31/712
A61P27/02
(21)【出願番号】P 2018536344
(86)(22)【出願日】2016-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2016073817
(87)【国際公開番号】W WO2017060317
(87)【国際公開日】2017-04-13
【審査請求日】2019-10-04
(32)【優先日】2015-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2016-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517299054
【氏名又は名称】プロキューアール セラピューティクス ツー ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【氏名又は名称】三橋 規樹
(72)【発明者】
【氏名】アダムソン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン,ジャンヌ ユハ
(72)【発明者】
【氏名】プラテンバーグ,ゲラルドゥス ヨハネス
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-510678(JP,A)
【文献】特表2015-512254(JP,A)
【文献】特表2010-500023(JP,A)
【文献】特表2013-521791(JP,A)
【文献】国際公開第2014/062686(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/062691(WO,A2)
【文献】国際公開第2013/101711(WO,A1)
【文献】J. Biol. Chem., 2015.01.15, Vol.290. No.10, pp.5979-5990
【文献】IOVS, 2015.07, Vol.56, pp.4531-4536
【文献】PNAS, 2009, Vol.106, No.33, pp.13915-13920
【文献】ファルマシア, 2015.01.01, Vol.51, No.1, pp.37-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、フックス角膜内皮ジストロフィー(FECD)の予防および/または治療における使用のための組成物であって、前記オリゴヌクレオチドは
、転写因子-4(TCF4)遺伝子の転写物である標的RNA分子と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的RNA分子内のイントロン配列に存在するトリヌクレオチドリピート(TNR)伸長部と結合することができ、
配列番号3またはAG(CAG)2の配列を含
む、前記組成物。
【請求項2】
前記TNR伸長部が、配列5’-(CUG)n-3’を含み、nが40以上の整数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
nが50以上の整数である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記オリゴヌクレオチドの全てのヌクレオチドが、2’-Oメチルホスホロチオエートリボヌクレオチドであるか、前記オリゴヌクレオチドが架橋型核酸(LNA)の構造を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドが8以上のヌクレオチド長を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
FECDに罹患しているか、またはFECDに罹患するリスクを有するヒト対象に使用される、請求項1から
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
薬学的に許容される賦形剤を更に含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
オリゴヌクレオチド送達増強剤を更に含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記オリゴヌクレオチドを含むか、またはそれからなる核酸配列をコードするウイルス性または非ウイルス性の遺伝子送達ビヒクルを含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
実質内注射によりヒト対象の角膜実質に、または前房内注射によりヒト対象の前房水に、または硝子体内注射によりヒト対象の後眼房に投与される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野に、具体的には、遺伝的障害の予防および治療の分野に関する。より具体的には、本発明は、トリヌクレオチドリピート伸長と関連する遺伝的疾患、例えば、角膜内皮障害の予防および/または治療に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜内皮は、角膜内面上の非新生細胞の単層であり、角膜実質を前房水から分離する(
図1を参照)。角膜内皮は、膠原性の角膜実質への陽イオンおよび水分子の流入による角膜への過剰な水分供給を妨げる、一般に脱膨潤(deturgescence)と呼ばれる継続的プロセスによって角膜透明性の維持に関与する。
【0003】
フックス角膜内皮ジストロフィー(FECD)は、角膜グッテー(guttae)の存在を伴う一般的な遺伝性の角膜内皮細胞性変性障害であり、それは角膜内皮層下における微視的なコラーゲンの沈着である。40歳以降の米国人の成人は、最高5%が角膜グッテーを示す。グッテーの存在はFECDを示すが、一般には全くの無症状性の軽度の疾患を意味する。進行した(重度の)疾患は、ほんの一部のグッテー患者で発症する。進行したFECDは、広範囲なグッテー、内皮細胞損失、角膜浮腫、角膜混濁、ならびに角膜浮腫および混濁による視力喪失を特徴とする。角膜浮腫、混濁およびそれに続く視力喪失は、内皮細胞変性および脱膨潤の喪失による直接的な結果である。FECDによる視力喪失は、全ての層の角膜移植(全層角膜移植術)を必要とし、米国のみでも毎年14,000例を超える処置をもたらす、最も頻繁に生じる徴候である。FECDに利用可能な治療は他にない。角膜移植は、大部分が治療に成功しているが、侵襲的であり、約30%の拒絶反応率と関係し、それは他の固形臓器の同種移植と変わらないという不利点がある。角膜内皮のみを交換する代替的なアプローチ(角膜内皮移植術(endokeratoplasty))を実施することもできるが、それは非常に経験豊富な外科医だけが可能である。いずれの介入も、ドナー角膜に由来する、移植可能な角膜ボタン(corneal button)であれ、角膜由来内皮細胞であれ、ドナー材料の不足という問題がある。FECDはまた、白内障手術などの他の処置のリスクでもあり、屈折矯正手術、例えば、レーシック(LAISK:Laser-Assisted in situ Keratomileusis)の禁忌であり、というのも、これらの技術が更なる角膜内皮細胞の喪失をもたらすからである。
【0004】
FECDは早発性FECDと老人性FECDに分けられ、早発性FECDでは典型的にはグッテーが存在しないため、これらは異なる疾患であると考えられる。早発性FECDは稀であり、内皮基底膜の構成要素である、コラーゲンVIIIのα2-サブユニットをコードするCol82A2などの遺伝子と関連している。老人性FECDでは、特定の稀な常染色体優性変異が、様々な遺伝子、例えばKCNJ13(カリウムチャネル)、SLC4A11(ホウ酸ナトリウム共輸送体)およびZEB1(Zinc-フィンガーE-ボックスホメオドメインタンパク質1)で見出さている。しかしながら重要なことに、大多数の常染色体優性の老人性FECDの遺伝的基礎は、ゲノムワイド関連研究によると、転写因子-4(TCF4)遺伝子に起因している(Baratz KH et al. E2-2 protein and Fuch's corneal dystrophy. N Engl J Med 2010 363:1016-1024)。これらの研究において、TCF4遺伝子のイントロン中で一塩基多型(SNP)が同定されており(染色体18q21.2上のrs613872)、それは具体的には老人性FECD患者に分類される。FECDの進行リスクの増加は、ホモ接合対象では30倍に増加する計算であり、rs613872マーカーは、76%の精度でケースと対照とを識別可能であった。18q21.2~18q21.32に位置する染色体領域に関連するFECDについての先の知見によると、TCF4遺伝子座の少なくとも2つの領域がFECDの進行と関係することがわかった、(Sundin OH et al. A common locus for late onset Fuchs corneal dystrophy maps to 18q21.2-q21.32. Invest Ophthalmol Vis Sci 2006 47:3919-3926)。他の幾つかの研究では、TCF4トリヌクレオチドリピート(TNR)の存在が、rs613872マーカーよりも良好なFECDの予測手段であることが示されている(Wieben ED et al. A common trinucleotide repeat expansion within the transcription 4 (TCF4, E2-2) gene predicts Fuchs corneal dystrophy. PLoS One 2012 7:e49083;Wieben ED et al. Comprehensive assessment of genetic variants within TCF4 in Fuchs' endothelial corneal dystrophy. Invest Ophtalmol Vis Sci 2014 55:6101-6107;Mootha VV et al. Association and familial segregation of CTG18.1 trinucleotide expansion of TCF4 gene in Fuchs' endothelial corneal dystrophy. Invest Ophtalmol Vis Sci 2014 55:32-42;Stamler JF et al. Confirmation of the association between the TCF4 risk allele and Fuchs endothelial corneal dystrophy in patients from the Midwestern United States. Ophthalmic Genet. 2013 34(1-2):32-4;Kuot A et al. Association of TCF4 and CLU polymorphisms with Fuchs' endothelial dystrophy and implication of CLU and TGFBI proteins in the disease process. Eur J Hum Genet. 2012 20(6):632-8; Thalamuthu A et al. Association of TCF4 gene polymorphisms with Fuchs' corneal dystrophy in the Chinese. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2011 52(8):5573-8;Xing C et al. Transethnic replication of association of CTG18.1 repeat expansion of TCF4 gene with Fuchs' corneal dystrophy in Chinese implies common causal variant. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014 55(11):7073-8;Nanda GG et al. Genetic association of TCF4 intronic polymorphisms, CTG18.1 and rs17089887, with Fuchs' endothelial corneal dystrophy in an Indian population. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014 55(11):7674-80)。
【0005】
不安定なリピートは、ハンチントン舞踏病(HD)を引き起こす遺伝子のコード領域内などの、種々の遺伝子領域で見出されておりそれにより、タンパク質機能および/またはタンパク質フォールディングの変化により疾患の表現型がもたらされる。不安定なリピート単位は、非コード領域、例えば、1型筋強直性ジストロフィー(DM1)を引き起こすDMPK遺伝子の3’-UTR、脆弱X症候群を引き起こすFMR1遺伝子の5’-UTR内など、およびイントロン配列、例えば、2型筋強直性ジストロフィー(DM2)を引き起こすZNF9遺伝子の第1のイントロン内などでも見出されている。DM1は成人における最も一般的な筋ジストロフィーであり、主に骨格筋、心臓および脳における遺伝性、進行性、退行性、多臓器性の障害である。DM1は、不安定なトリヌクレオチド(CTG)nリピート(上記のとおり、DMPK遺伝子の3’-UTR中)の伸長によって引き起こされる。DM2は、テトラヌクレオチド(または4ヌクレオチド)(CCTG)nリピート(以下、4ヌクレオチドリピートは「QNR」と称する)伸長(上記のとおり、ZNF9遺伝子のイントロン1中)によって引き起こされる。TNRの不安定性はまた、例えばX-関連球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、幾つかの脊髄小脳失調(SCA遺伝子ファミリー)、C90RF72関連筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症(C90RF72 ALS/FTD)およびFECDなど、他の幾つかの障害における主な原因であることが見出されている。
【0006】
過剰なTNR伸長は「RNA毒性」と称される現象をもたらす場合もあり、それは上記の疾患の主な原因となる。現状では、これらの反復要素が有毒な「機能獲得」RNAに転写される結果、ドミナントネガティブな薬理作用が表れ、ある一つの疾患アレルが、正常なアレルの存在にもかかわらず、疾患を引き起こしうる。DM1の場合、RNA毒性はmRNAのプロセシングレベルで明確に表れ、MuscleBlind様1(MBNL1)タンパク質およびCUG三塩基リピート結合タンパク質1(CUGBP1)などのスプライシング調節因子が、それらの正常な細胞機能から排除される場合、タンパク質が過剰なTNRと結合する。かかるタンパク質-RNA複合体は、核内RNA凝集体(foci)としてDM1細胞で視認できる(Mankodi et al. Ribonuclear inclusions in skeletal muscle in myotonic dystrophy types 1 and 2. Ann Neurol 2003 54(6):760-8)。MBNL1はスプライシング調節因子であるが、また3’-UTRと結合し、したがって、DM1において代替的なポリアデニル化の制御破綻を生じさせる(Batra et al. Loss of MBNL1 leads to disruption of developmentally regulated alternative polyadenylation in RNA-mediated disease. Mol Cell 2014 56(2):311-22)。最近の報告では、リピートRNAが毒性タンパク質種に翻訳されうることを示唆している(Cleary and Ranum. Repeat associated non-ATG (RAN) translation: new starts in microsatellite expansion disorders. Curr Opin Genet Dev 2014 26:6-15)。
【0007】
FECDは、rs613872マーカーが位置するイントロンとは異なる、TCF4遺伝子のイントロン領域における、(CTG)n TNR伸長と関係することが認められている(Mootha et al. 2014;Wieben et al. 2012)。FECD患者の79%(白血球DNAにおいて示された)が50以上のリピート(≧150ヌクレオチド)を有する一方で、症例対照の95%が40未満のリピート長を有することが示されており、それは、50以上のリピート長がFECDを高度に予測する一方で、より短い40~50の間の場合には疾患の発症にも寄与することを示す。当分野では一般に、TCF4遺伝子における40リピート以上のサイズのTNR伸長の出現は、疾患を予測し、FECDに至る潜在的なRNA毒性メカニズムを示すことが知られている(Du et al. RNA toxicity and missplicing in the common eye disease Fuch's endothelial corneal dystrophy. J Biol Chem 2015 290(10):5979-90)。RNA凝集体は、TCF4遺伝子のTNR伸長に関するホモ接合およびヘテロ接合両方のFECD患者由来の線維芽細胞において同定された。RNA凝集体は、非罹患個体に由来する線維芽細胞では見出されなかった。非罹患個体は一般に、約20のTNRを有する野生型TCF4遺伝子を有するようである。ヘテロ接合FECD患者(RNA凝集体が検出された線維芽細胞を有する)は、1つの正常長のアレル(20のTNR)と、40以上のTNRの伸長を有するもう1つのアレルとを有していた。ホモ接合FECD患者では、両方のアレルが40以上のTNRを含んでいた。したがって、TCF4の伸長TNR領域における40未満のリピートは、非病因性の遺伝子型と考えることができる。RNA凝集体はFECD患者サンプルの角膜内皮でも同定されているが、非罹患個体では見出されなかった。かかるRNA凝集体の存在は、他の多くの遺伝子(Du et al. 2015)のRNAスプライシングパターンの変化と関係しているようである。これらのスプライシングパターンの変化は、DM1にみられる同様の変化とも一致している(Wheeler et al. Correction of ClC-1 splicing eliminates chloride channelopathy and myotonia in mouse models of myotonic dystrophy. J Clin Invest 2007 117(12):3952-7;Savkur RS et al. Aberrant regulation of insulin receptor alternative splicing is associated with insulin resistance in myotonic dystrophy. Nat Genet 2001 29(1):40-7;Li YJ et al. Replication of TCF4 through association and linkage studies in late-onset Fuchs endothelial corneal dystrophy. PLoS One. 2011 6:e18044)。一般的な結論は、多くのFECDのケースが、TCF4遺伝子に由来するイントロンRNAにおけるTNR伸長の存在に起因する、角膜内皮細胞におけるRNA毒性によって引き起こされる、ということである。RNA毒性は、延長されたリピートに関してヘテロ接合またはホモ接合の患者で見出されており、それは、TNR伸長を有するRNAと相互作用するタンパク質を排除する結果である可能性が高い。かかるタンパク質は、この排除を通じて、細胞内でもはやその通常の機能を実行することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
FECDを治療するための、全角膜移植または内皮層移植により良好な結果が達成されうるにもかかわらず、そのような処置は、上記で概説したように未だ大きな欠点に直面することが明らかである。ゆえに、FECDに罹患するか、またはそれを発症するリスクを有する患者を、望ましくは移植の代替的で適切な手段により治療するための、未解決の医学的ニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、好ましくは、遺伝的疾患に罹患するか、または前記遺伝的疾患に罹患するリスクを有するヒト対象における、前記遺伝的疾患の予防および/または治療における使用のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)であって、標的RNA分子と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的RNA分子内のイントロン配列に存在するトリヌクレオチドリピート(TNR)伸長部と結合することができる、前記オリゴヌクレオチドに関する。前記遺伝的疾患は、好ましくはRNA毒性によって引き起こされ、イントロン配列から転写されTNR伸長部を含むRNAは、細胞タンパク質を排除することにより、それらが細胞内でその通常の機能を実行することを不能にする。本発明のAONを用いて治療および/または予防される好ましい遺伝的疾患は、ヒトにおける眼ジストロフィー、より好ましくは、TCF4遺伝子のTNR伸長によって引き起こされるフックス角膜内皮ジストロフィー(FECD)と称される疾患である。好ましい態様では、前記TNR伸長部は、配列5’-(CUG)n-3’を含み、nは40以上(好ましくは50以上)の整数である。更に別の好ましい実施形態において、本発明による使用のためのAONは、配列5’-(CAG)m-3’を含み、mは2~66の整数であり、好ましくは、mは2、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16または17の整数である。本発明はまた、本明細書で定義されるAON、および本明細書で開示されるAONのいずれか一つを含む医薬組成物に関する。
【0010】
別の実施形態において、本発明は、ヒト対象におけるFECDの治療もしくは予防方法に関し、前記方法は、本発明によるオリゴヌクレオチド、または本発明による組成物を、実質内注射により前記ヒト対象の角膜実質に、または前房内注射により前記ヒト対象の前房水に、または硝子体内注射により前記ヒト対象の後眼房に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】眼の正面部分の概略図(左の拡大図)であり、(左から右に向かって)眼の外側の角膜上皮層、上皮と実質との間のボ-マン層、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮層および前房水を示す図である。
【
図2】健常な個体の、24のCTGリピート(太字)を有するヒトTCF4イントロン3の配列(配列番号1)を表す図である。下線は側方のエクソン配列を示す。
【
図3】アンチセンスオリゴヌクレオチド配列(AON)およびヒトTCF4遺伝子のイントロン3内でのそれらの相補性部分の例を示す図である。配列番号2は、ヒトTCF4遺伝子のイントロン3のmRNA中で見出された5’-(CUG)n-3’リピート(の一部)を表し、この場合、CUGリピートは7回反復で表される。配列番号3~15は、本発明によるAONを表す。配列番号101、102および103(配列表では10ヌクレオチドより短いオリゴヌクレオチドを表示できず、またこれらの3つのAONは9ヌクレオチド長であるため、このように命名)もまた、本発明によるAONを表す。配列番号16は、対照オリゴヌクレオチドを表し、配列番号2と同様、CUGリピートを含むセンス鎖を表す。
【
図4】ウサギの眼の中へのCy5標識オリゴヌクレオチドの硝子体内注射後の、角膜内皮と関連する蛍光の時間依存的増加、および角膜実質における蛍光の全体的増加を表す写真である。
【
図5】TCF4遺伝子内に40超のCUGリピート伸長部を有するヘテロ接合のFECD患者に由来するヒト角膜内皮細胞内のRNA凝集体(ピンク色のスポット)の低減における、治療的オリゴヌクレオチド(CAG)7の効果を示す図である(上部の3パネル)。対照を下部の3パネルに示す(未だ凝集体が明確に視認できる)。治療的オリゴヌクレオチドを200nMの濃度で用い、Dharmafectをトランスフェクトした。RNA凝集体は、Cy3標識(CAG)7オリゴヌクレオチドプローブを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を用いて同定した。試験した細胞の核内のRNA凝集体の数を自動画像分析により決定し、ヒストグラムとして表示した(図の下部)。顕微鏡写真およびヒストグラムの両方から観察できるように、対照(無関係)オリゴヌクレオチドによるトランスフェクションと比較し、治療的オリゴヌクレオチド(CAG)7はRNA凝集体数の低減に効果的であった。
【
図6】TCF4遺伝子中に40超のCUGリピートのヘテロ接合伸長を有する、5例の異なるFECD患者(P44、P50、P63、P88およびP92)に由来するヒトの角膜内皮細胞内のRNA凝集体を低減させる際の、治療的オリゴヌクレオチド(CAG)7の効果を示す図である。実験は、これらの更に5例の患者から得た細胞を今回使用した以外、
図5の場合と同様に行った。各ヒストグラムは、一人の患者のものを表す。5人目の患者からのみ得た細胞では、AG(CAG)2-LNAは一度試験した追加のAONである。この配列を有し、架橋型核酸(LNA)の構造を有するこのAONは、(CAG)7のAONよりも劣るようであった。右側のグラフは、全5例の患者の結果を一緒にした、核あたりの凝集体の平均を表す。「ctrl AON」は、対照の無関係オリゴヌクレオチドによる処理を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、遺伝的疾患、好ましくはRNA毒性によって引き起こされる疾患、より好ましくはRNA毒性の結果である眼疾患の予防または治療に使用できる方法および分子に関する。より具体的には、本発明は、MBNL1などの、スプライシング制御に関与するタンパク質の排除、特に前駆体mRNAのイントロンに存在する過剰なTNR伸長部へのかかるタンパク質の結合を通じた排除に関連する疾患の治療における使用のための、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)に関する。本発明のAONで治療される好ましい疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィー(FECD)であり、それは、TCF4転写物のイントロン3内の過剰なTNR伸長部の発生と関係し、スプライシング制御タンパク質MBNL1のかかる過剰なTNR伸長部への過剰な結合を引き起こすものである。言い換えると、また好ましい態様では、本発明は、TCF4遺伝子の転写物内の過剰なTNR伸長部と結合するAONを投与することにより、過剰なTNR伸長部へのタンパク質の望ましくない結合を防止する、FECDの予防または治療における使用のためのAONに関する。MBNL1の過剰なTNR伸長部への結合の証となるものは、患者の罹患した細胞核のいわゆるRNA凝集体の形成である。ゆえに、本発明のAONは、特に角膜内皮細胞におけるRNA凝集体の形成を除去または防止することにより、FECDなどの遺伝的(眼)疾患の治療または予防において使用される。
【0013】
図2は健常な個体のヒトTCF4遺伝子のイントロン3(コーディング鎖の5’から3’)の配列、およびその5’および3’末端の一続きのエクソン配列を示す。上記で概説したように、FECDの進行に関連するTCF4遺伝子のイントロン3のCTGリピート伸長の存在は当分野で周知である。国際公開第2011/101711号パンフレットは、オリゴヌクレオチドプライマーおよびPCR増幅を用いてこれらのCTGリピート伸長を(ヒトのサンプルにおいて)検出する方法を開示する。国際公開第2011/101711号パンフレットで開示されるオリゴヌクレオチドおよび方法は、FECDを有するかまたはFECDを発症するリスクを有する患者を診断し、個体が角膜移植またはレーザー矯正を受けることを回避すべきか否かを決定するのに用いられる。国際公開第2011/101711号パンフレットは、FECDの症状の進行を防止または軽減する方法を開示または示唆していないことに留意されたい。
【0014】
上記で概説したように、DM1もまた、RNA毒性から生じる疾患であり、欧州特許第2049664号明細書は、ヒトDMPK遺伝子の転写物内のTNR伸長部を標的とするAONを用いたDM1の治療方法を開示している。欧州特許第2049664号明細書は、ヒトのcis-エレメントリピートの不安定性に関連する、HD、脊髄小脳失調、Haw River症候群、X連鎖脊髄性および延髄筋萎縮ならびに歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮、DM1、8型脊髄小脳失調、ならびに2型ハンチントン舞踏病などの、種々の障害を治療するための、配列5’-(CAG)n-3’を有するAONを開示している。DM1におけるTNRリピート伸長は、DMPK遺伝子の3’-UTRに見出される。その他では、DM1と相関するヒトDMPK遺伝子のエクソン15の転写物を標的とした、(CAG) AONの使用が記載されている(Mulders et al. 2009. Triplet-repeat oligonucleotide-mediated reversal of RNA toxicity in myotonic dystrophy. Proc Natl Acad Sci USA 106(33):13915-20)。その著者らは、mRNAの細胞質内プール、ならびに一次および成熟した伸長(CUG)n転写物の核内プールの両方が標的となると仮定している。
【0015】
DM1はRNA毒性により媒介される疾患であり、毒性を有するDMPKプレmRNAは、FECD患者におけるTCF4転写物と同じ繰り返し単位(CUG)を有するTNR伸長部を含有する。MBNL1は、FECD患者の場合と同様にDM1患者においても排除されていと考えてもよい。したがって、DM1およびFECDが、同じAONで同様に治療できるという仮定は興味深い。しかしながら、生じているRNA毒性プロセスがDM1とFECDとの間で相違する点に留意することが重要である。DM1においては、タンパク質は、一次転写物内のみに存在するのではなく、成熟RNA(イントロンが既にスプライシングアウトされた)内に存在する3’-UTR RNA配列と結合することにより排除され、ゆえにそれらは核または細胞質内に位置しうる。これに対して、FECDにおいては、RNA毒性は、イントロンRNA(一次プレmRNAの一部として、または、大抵の場合は成熟mRNAからスプライシングアウトされたイントロンRNAとして)へのタンパク質の結合による排除によって引き起こされ、いずれの場合も核内に保持される。ゆえに、DM1の治療でオリゴヌクレオチドが作用する部位は、それらがFECDの場合に作用する部位とは異なる細胞区画である。したがって、AONのアプローチが、DM1の場合と同様に、FECDでも作用するとは限らない。何故なら、FECDまたは他のあらゆるイントロンTNR伸長に関連する疾患の治療に用いられるAONは、細胞内の異なる区画(すなわち核内)において、異なるプロセシングおよび転写物輸送の時期において、排他的に機能する筈だからである。この他、MBNL1などの排除されたタンパク質がAON処理の際に放出されたか否か、またはどの程度の効率で放出されるかも自明ではない。DM1と比べたFECDの顕著な相違は、MBNL1が、スプライシングアウトされ、分解されていないイントロンラリアットと結合すると仮定されることであり、それは、エクソン配列(3’-UTRおよび5’-UTRを含むRNA内のエクソン配列も含む)とは異なる動態により処理される。
【0016】
興味深いことに、本発明の発明者らは、MBNL1またはこれらのRNA凝集体に共通する他の因子の排除がFECDの病理に機構的に関与する場合には、DMPKの、角膜内皮での発現が見られる場合には、TNR伸長を含むDMPKがFECDを進行させる同様のリスクをもたらす筈であると理解した。興味深いことに、DMPKはヒトの眼で実際に発現し(Winchester CL et al. Characterization of the expression of DMPK and SIX5 in the human eye and implications of pathogenesis in myotonic dystrophy. Hum Mol Genet. 1999 8:481-492)、またFECDは筋強直性ジストロフィー患者で見出されている。4例のDM患者のコホートにおいて、各患者では両目にFECDを有していた(Gattey D et al. Fuchs endothelial corneal dystrophy in patients with myotonic dystrophy: a case series. Cornea 2014 33:96-98)。また、検死解剖した筋強直性ジストロフィー患者の眼において、進行したFECDの臨床的特徴である角膜内皮細胞のかなりの喪失があることに留意されたい(Winchester et al. 1999)。本発明の発明者らはまた、FECDを発症するDM1患者のFECDが、本明細書で開示されるAONアプローチを用いて治療されうることを理解した。しかしながら、より重要なこととして、本発明の発明者らは、過剰なTNR伸長をイントロン3に有するTCF4転写物をターゲティングすることにより、FECD患者の場合と同様、かかる患者のFECDを効果的に治療できることを理解した。
【0017】
上記のように、DM2もまた、イントロン配列内のNR伸長(QNR)の結果生じる疾患である。DM2患者は、ZNF9遺伝子のイントロン内にQNR伸長を有する。しかしながら、観察されるRNA毒性は、DM2とFECDとの間では異なると考えられる。DM2においては、ZNF9 RNA自体のスプライシングが遮断されるという事実に起因し、QNRsを有する(スプライスされていない)イントロンRNAが蓄積すると考えられるが、それにより転写物(および機能性タンパク質)のレベルの低減がもたらされる。FECDにおいては、機能性TCF4の欠如が見られない(下記参照)。
【0018】
現況技術では、TCF4転写物のケースのように、イントロン内にある(CUG)ベースのTNR伸長部をターゲティングする可能性を教示しておらず、また既に議論したいずれの参考文献も、角膜変性、例えばFECDなどの予防または治療における使用のためのAONを開示も示唆もしない。この点を更に詳細に述べると、DM1におけるリピート伸長は主に核においてRNA凝集体の形成を生じさせるが、遺伝子型および細胞のタイプにより細胞形質でも観察されうる(Pettersson et al. Molecular mechanisms in DM1 - a focus on foci. Nucleic Acids Res 2015 43(4):2433-41.)。またAON処理の後、リピート含有DMPK RNAが急速に分解することが見出されている(Mulders et al. 2009)。これを生じさせる正確なメカニズムは未知であるが、おそらく、一部には、転写物の局在化に依存し、それはRNAプロセシングの程度と細胞のタイプ間で変化する輸送と、の両者の影響を受けると考えられる。スプライシングされていないイントロンまたは不完全なポリアデニル化を有する転写物は通常、核内に保持され、最終的に核内エキソソームにより分解し、ゆえに、RNA分解のメカニズムにおける根本的な違いを説明するものである。具体的には、DM1におけるCUG伸長がDMPK転写物のRNAプロセシングの欠如をもたらすことが知られており、ゆえにそのようなRNAはおそらく核内で保持される。しかしながら、リピート含有RNAの分解における、ナンセンス媒介崩壊メカニズムである、細胞質内プロセスの関与が、核内のDMPK凝集体量の増加ももたらすナンセンス依存的分解因子のノックダウンにより、DM1においても示されている(Garcia et al. Identification of genes in toxicity pathways of trinucleotide-repeat RNA in C. elegans. Nat Struct Mol Biol 2014 21(8):712-20)。これは、転写物のかなりの部分が効率的にプロセシングされることを示しており、幾つかの細胞ではDMPK mRNAが観察される位置が細胞質であることと一致している。したがって、DMPK転写物は、核凝集体から遊離した後に、細胞質のおよび核のプロセシングにより分解すると考えられるが、これらのプロセスの相対的な程度は不明のままである。
【0019】
FECDにおけるTCF4伸長に関しては、おそらく該リピートがイントロンに位置し、細胞質に輸送される成熟転写物内には存在せず、ゆえに凝集体が核内でのみ観察されるため、状況は異なる。ゆえに、TCF4リピートを標的とするAONは核内で排他的に作用する。第1に、おそらくイントロンのプロセシングに関与する特定の核ドメイン内(例えば核スペックル)における局在化は、AONの送達および活性に影響を及ぼす。第2に、(イントロン配列内の)リピートの位置はそれ自体でMBNL1の結合動態に影響を及ぼし得、イントロンRNAとも結合する他のタンパク質によっても影響され得る。核局在化およびTNRがイントロン配列内に存在する事実のいずれの側面も、AONが作用する能力に影響を及ぼす。考慮すべき更なる要因の一つは、イントロンRNA配列の安定性およびかかるイントロンRNAの核内凝集体からの遊離後の分解のメカニズムである。RNAのシークエンシングは、イントロン含有リピート由来のRNAがFECD患者細胞において蓄積することを示す一方で、転写物の他の部分由来のRNAの蓄積が観察されないことを示している(Du et. al. 2015)。更に、TCF4のハプロ不全が、ピット-ホプキンス症候群として知られる別のより重篤な障害の原因となるため、伸長したリピートによりTCF4 mRNAおよびタンパク質の発現レベルは顕著に変化しないと考えられる(Mootha et al. TCF4 triplet repeat expansion and nuclear RNA foci in Fuchs endothelial corneal dystrophy. Invest Ophthalmol Vis Sci 2015 56(3):2003-11;Sepp et al. Pitt-Hopkins syndrome-associated mutations in TCF4 lead to variable impairment of the transcription factor function ranging from hypomorphic to dominant-negative effects. Hum Mol Genet 2012 21(13):2873-88.)。これは、観察された核内凝集体が、MBNL1などのタンパク質を排除するスプライシングアウトされたイントロンRNAから主に構成されることを示唆する。スプライシング反応の間、イントロンの分岐点となるアデノシンが、非典型的な2’-5’ホスホジエステル結合により、スプライシングドナー部位でヌクレオチドと結合し、分枝鎖状ラリアット構造を形成する。これらの構造は核内で比較的安定であり、それらの分解には更なるステップが必要となる。通常の状況では、特異的なタンパク質因子が、ラリアットに結合したままのスプライシング因子を遊離させる。この後、特異的なラリアット枝切り酵素(DBR1)が複合体に動員され、2’-5’ホスホジエステル結合が開放される。枝切り後、遊離した直鎖状イントロンRNAが、核内エキソソームおよび/またはエキソヌクレアーゼXRN1により分解される。本発明の発明者らの仮定では、核内凝集体におけるTCF4 RNAとMBNL1(また、おそらく他のリピート結合タンパク質)との複合体形成は、ラリアットの脱分枝および分解に必要とされるステップの1つまたは複数を妨害する。このように、DMPKによる状況と対照的に、FECDの治療の際の、リピート含有TCF4 RNAおよび関連するタンパク質の核内凝集体からの遊離は、異なる動態を有する。同様のことが、その後のRNA自体の分解においても見られ、該RNAは、効果的に除去されるために更なるプロセシング、および最適化が必要でありうる。
【0020】
本発明者の知る限りでは、TNR伸長部と有効に結合し、患者の細胞の核内においてスプライシング制御タンパク質、例えばMBNL1などを遊離させ、それによりRNA毒性を除去する、TNRと相補的なAONを使用して、過剰なイントロンTNR伸長に関連する疾患を治療できることが開示されるのはこれが初めてである。これは、過剰なTNR伸長がTCF4遺伝子のイントロン3にあるFECDの治療に特に有用であり、特に今回、本発明者らは、AONが効果的に角膜内皮細胞層に送達され、取り込まれ得ることを確信的に示している。しかしながら、効果の指標として、罹患する細胞の核内における核凝集体の低減または消失を用いることにより、イントロンTNR伸長を含む機能性RNAの他の毒性獲得の治療が、それを標的とするAONを用いることで治療が可能になることが、本発明の発明者によって初めて予測されている。
【0021】
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)、好ましくは一本鎖AON、かかるAONを含む組成物、ならびにそのようなAONおよび薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物に関する。本発明はまた、かかるAONまたは組成物の対象、好ましくはヒト対象への投与を含む、RNA毒性によって引き起こされる疾患のin vivoもしくはin vitroでの治療または予防のための、かかるAONまたは組成物の使用に関する。本発明はまた、かかるAONまたは組成物の対象、好ましくはヒト対象への投与を含む、RNA毒性、好ましくは眼ジストロフィー、より好ましくはFECDによって引き起こされる疾患の治療および/または予防方法に関する。
【0022】
本発明のAONは、ヌクレアーゼ耐性が向上する、および/または、標的配列へのAONの親和性が向上するように修飾されている、1つまたは複数の残基を含むことが好ましい。したがって、好ましい実施形態では、該AON配列は、ヌクレオチドの類似体または等価体であって、修飾塩基、および/もしくは修飾された骨格、および/もしくは非天然のヌクレオシド間連結、またはこれらの修飾の組合せを有する残基であると定義される、ヌクレオチドの類似体または等価体の少なくとも1つを含む。好ましい実施形態では、該ヌクレオチドの類似体または等価体は、修飾された骨格を含む。かかる骨格の例としては、モルホリノ骨格、カルバメート骨格、シロキサン骨格、スルフィド、スルホキシドおよびスルホン骨格、ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格、メチレンホルムアセチル骨格、リボアセチル骨格、アルケン含有骨格、スルファメート、スルホネートおよびスルホンアミド骨格、メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格、ならびにアミド骨格が挙げられる。ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマーは、以前にアンチセンス剤として研究された修飾骨格オリゴヌクレオチドである。モルホリノオリゴヌクレオチドは、DNAのデオキシリボース糖が6員環で置換され、ホスホジエステル結合がホスホロジアミデート結合で置換された、非荷電の骨格を有する。モルホリノオリゴヌクレオチドは、酵素分解への耐性を有し、RNase Hの活性化よりもむしろ、翻訳を停止させるか、またはプレmRNAスプライシングに干渉することにより、アンチセンス剤として機能すると考えられる。モルホリノオリゴヌクレオチドは、物理的に細胞膜を破壊する方法により、培養細胞に送達することに成功しており、またこれらの方法を幾つか比較したある研究では、スクレープローディング(scrape loading)法が送達の最も効率的な方法であることが解明されているが、モルホリノ骨格が電荷を有さないため、カチオン性脂質は、細胞へのモルホリノオリゴヌクレオチド取り込みの有効な媒介物ではない。
【0023】
本発明の一実施形態では、骨格内の残基間の結合は、リン原子を含まず、例えば、アルキルまたはシクロアルキル短鎖によるヌクレオシド間結合、ヘテロ原子とアルキルもしくはシクロアルキルとによる混合ヌクレオシド間結合、または1つもしくは複数のヘテロ原子含有もしくは複素環短鎖によるヌクレオシド間結合、で形成される結合が挙げられる。この実施形態に従えば、好ましいヌクレオチドの類似体または等価体は、修飾されたポリアミド骨格を有するペプチド核酸(PNA)を含む(Nielsen et al. 1991 Science 254:1497-1500)。PNAベースの分子は、塩基対認識に関してDNA分子の真の擬態物である。PNA骨格は、ペプチド結合によって連結されたN-(2-アミノエチル)-グリシン単位から構成され、核酸塩基がメチレンカルボニル結合により骨格に連結される。代替的骨格は、1炭素伸長ピロリジンPNAモノマーを含む(Govindaraju and Kumar 2005 Chem Commun 495-497)。PNA分子の骨格が荷電リン酸基を含まないため、PNA-RNAハイブリッドは通常、それぞれRNA-RNAまたはRNA-DNAハイブリッドよりも安定である(Egholm et al. 1993 Nature 365:566-568)。
【0024】
本発明の別の実施形態では、骨格はモルホリノヌクレオチド類似体または等価体を含み、リボースまたはデオキシリボース糖が6員のモルホリノ環で置換されている。最も好ましいヌクレオチド類似体または等価体は、ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)を含み、リボースまたはデオキシリボース糖が6員のモルホリノ環で置換され、隣接するモルホリノ環の間のアニオン性のホスホジエステル結合が、非イオン性のホスホロジアミデート結合で置換されている。
【0025】
なお更なる本発明の実施形態では、本発明のヌクレオチドの類似体または等価体は、ホスホジエステル結合中の非架橋酸素のうちの一つの置換を含む。この修飾はわずかに塩基対形成を不安定にするが、ヌクレアーゼ分解に顕著な耐性を付加する。好ましいヌクレオチド類似体または等価体としては、ホスホロチオエート、キラルなホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、H-ホスホネート、3’-アルキレンホスホネート、5’-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートを含むメチルおよび他のアルキル、ホスフィネート、3’-アミノホスホラミデートとアミノアルキルホスホラミデートを含むホスホラミデート、チオノホスホラミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、セレノホスフェートまたはボラノホスフェートを含む。本発明の更に好ましいヌクレオチドの類似体または等価体は、例えば2’、3’および/または5’の位置で、以下の基により一もしくは二置換された1つまたは複数の糖部分を含む:-OH;-F;置換もしくは非置換の、直鎖状もしくは分岐鎖状の、1つまたは複数のヘテロ原子によって中断されていてもよい低級(C1~C10)アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカニル、アリルまたはアラルキル;O-、S-またはN-アルキル;O-、S-またはN-アルケニル;O-、S-またはN-アルキニル;O-、S-またはN-アリル基;O-アルキル-O-アルキル、-メトキシ、-アミノプロポキシ;メトキシエトキシ;-ジメチルアミノオキシエトキシ;および-ジメチルアミノエトキシエトキシ。該糖部分は、フラノースまたはその誘導体、またはデオキシフラノースもしくはその誘導体、好ましくはリボースまたはその誘導体、またはデオキシリボースもしくはその誘導体であってよい。好ましい糖誘導体部分は、架橋型核酸(LNA)を含み、その2’-炭素原子が糖環の3’または4’炭素原子と結合し、それにより二環式糖部分を形成する。好ましいLNAは、2’-O,4’-C-エチレン架橋核酸を含む(Morita et al. 2001 Nucleic Acid Res Supplement No. 1:241-242)。これらの置換は、ヌクレオチドの類似体または等価体にRNase Hおよびヌクレアーゼ耐性を付与し、標的RNAに対する親和性を増加させる。
【0026】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの全てのヌクレオシド間結合を修飾する必要がないことは、当業者に理解されるとおりである。例えば、幾つかのヌクレオシド間結合は修飾されなくてもよい一方、他のヌクレオシド間結合は修飾される。一形式の(修飾された)ヌクレオシド間結合、複数の形式の(修飾された)ヌクレオシド間結合が、AONの長さに沿って均一もしくは不均一に分布してなる骨格を含むAONは、本発明に包含される。更に、いかなる様式の骨格の修飾(均一、不均一、一形式もしくは多形式、およびそれらのあらゆる順列)を、下記のいかなる形態の糖もしくはヌクレオシドの修飾体もしくは類似体と組み合わせてもよい。本発明によるAONの特に好ましい骨格は、均一な(全てが)ホスホロチオエート(PS)である骨格である。
【0027】
他の実施形態では、本発明のヌクレオチドの類似体または等価体は、1つまたは複数の塩基の修飾または置換を含む。修飾塩基としては、例えばイノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、および-アザ、デアザ、-ヒドロキシ、-ハロ、-チオ、チオール、-アルキル、-アルケニル、-アルキニル、チオアルキル誘導体などの、当分野で公知のもしくは公知となる、合成および天然の塩基、ピリミジンおよびプリン塩基が挙げられる。
【0028】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの全ての位置で均一に修飾されることが必要でないことは、当業者が理解するとおりである。更に、前述の類似体または等価体のうちの2つ以上は、1つのアンチセンスオリゴヌクレオチド内に、またはアンチセンスオリゴヌクレオチド内の1つの位置に組み込まれてもよい。ある特定の実施形態では、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも2つの異なるタイプの類似体または等価体を有する。別の実施形態によると、本発明に記載のAONは、例えば、2’-O-メチル修飾リボース(RNA)、2’-O-メトキシエチル修飾リボース、2’-O-エチル修飾リボース、2’-O-プロピル修飾リボースなどの2’-O(好ましくは低級)アルキルホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチド、および/または、ハロゲン化誘導体など、これらの修飾体の置換誘導体を含む。
【0029】
本発明による有効な、かつ特に好ましいAONフォーマットは、ホスホロチオエート骨格を有する2’-O-メチル修飾リボース部分を含み、その際、好ましくは、実質的に全てのリボース部分が2’-O-メチルであり、実質的に全てのヌクレオシド間結合がホスホロチオエート結合である。
【0030】
本発明によるオリゴヌクレオチドは、イントロン配列内に見出せるTNR伸長部(の一部)と相補的な配列を含有し、該伸長部内の三塩基配列と相補的な複数の配列を含む。TNRは、CUGの三塩基(5’から3’)のリピート配列を指してもよいが、DNA(および対応するRNA)の性質次第では、かかる配列は、何が該三塩基の最初のヌクレオチドであるかに応じて、UGCリピートとして、またはGCUリピートとして記載されることもある。これは、本発明によるアンチセンスオリゴヌクレオチドが、三塩基内のヌクレオチドの1つと相補的な、CAG、GCAまたはAGC(5’から3’)のいずれのヌクレオチドから開始してもよいことを意味する。本発明の教示による、使用可能なアンチセンスオリゴヌクレオチドの例を
図3に示すが、これは相補的配列の3ヌクレオチドのいずれかが最初のヌクレオチドであってもよいことを指し示す。イントロン内の5’-(CUG)n-3’のTNRのターゲティングは、好ましくは標準的なワトソン-クリック塩基対を介して形成する相補的配列、5’-(CAG)m-3’、またはその揺れ塩基対を介して形成する配列、例えば5’-(CAI)m-3’、5’-(CGG)m-3’、5’-(CGI)m-3’、5’-(CIG)m-3’、5’-(CII)m-3’、5’-(UAG)m-3’、5’-(UAI)m-3’、5’-(UGG)m-3’、5’-(UGI)m-3’、5’-(UIG)m-3’および5’-(UII)m-3’を有するAONを用いることにより行われる。第2のヌクレオチドが5’末端の方へ位置が1つ移動し、リピートの最初のヌクレオチドとなる場合には、以下のリピート配列:5’-(AGC)m-3’、5’-(AIC)m-3’、5’-(GGC)m-3’、5’-(GIC)m-3’、5’-(IGC)m-3’、5’-(IIC)m-3’、5’-(AGU)m-3’、5’-(AIU)m-3’、5’-(GGU)m-3’、5’-(GIU)m-3’、5’-(IGU)m-3’および5’-(IIU)m-3’が企図される。第3のヌクレオチドが最初のヌクレオチドに代わる場合には、以下のリピート配列:5’-(GCA)m-3’、5’-(ICA)m-3’、5’-(GCG)m-3’、5’-(ICG)m-3’、5’-(GCI)m-3’、5’-(ICI)m-3’、5’-(GUA)m-3’、5’-(IUA)m-3’、5’-(GUG)m-3’、5’-(IUG)m-3’、5’-(GUI)m-3’および5’-(IUI)m-3’が企図される。明らかに、40回以上繰り返されるCUG配列においては、UGCリピートおよびGCUリピートを認識することもできる。
【0031】
本発明では、配列5’-(CUG)n-3’を含むトリヌクレオチドリピート(TNR)伸長部と結合することができる、好ましくはアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)分子を使用し、nは、かかるTNR伸長部が転写される細胞内においてRNA毒性を生じさせるのに十分な長さである。TCF4遺伝子は、40以上のTNRを含むときには、角膜内皮細胞において、TNR伸長と作用する正常な細胞内タンパク質の排除によりFECDを生じさせる遺伝子である。しかしながら、本発明は、例えばイントロン配列内のTNR伸長の発生によって引き起こされるあらゆる障害における使用のための、AONなどの分子に関する。先行技術は、RNA毒性が、特にCUG TNR伸長によって引き起こされるものではない、イントロン内のTNR伸長によってもたらされる遺伝的障害の治療または予防方法を教示しない。本発明の核酸分子は、TNRと相補的な配列からなる。
【0032】
本発明では、TNR伸長部と結合できる分子として「裸の」またはジムノティックな(gymnotic)AONの使用が例示されているが、当業者であれば、核酸配列と、具体的にはTNR、より具体的には5’-(CUG)n-3’伸長部と結合できる他の分子が本発明に包含されることを理解するであろう。そのような分子の例は、タンパク質、例えばZinc-Fingerタンパク質、抗体または抗体断片、アプタマー、二価リガンド(Haghighat Jahromi A et al. Developing bivalent ligands to target CUG triplet repeats, the causative agent of Myotonic Dystrophy Type 1. J Med Chem 2013. 56:9471-9481)等である。また、ベクターから発現されるAONも本発明に包含され、例えば本発明によるAONを含む、またはそれからなる、核酸分子をコードするDNAベクターまたはウイルスベクター(例えばアデノウイルス、AAVまたはレンチウイルスベクター)が包含される。
【0033】
したがって、本発明は、不安定なcis-エレメントDNAリピートに関連する遺伝的障害、好ましくは眼のジストロフィー、より好ましくはFECDの予防および/または治療方法における使用のための分子を提供する。本発明は、好ましくはイントロン領域のTNRと相補的な、および/またはTNRにハイブリダイズできる核酸分子を提供するステップを含む方法に関する。本発明に記載分子の投与により、排除されることで疾患状態と関連するタンパク質がもはや排除されないか、または少なくとも比較的低いレベルで排除される限り、本発明の核酸分子がハイブリダイズするRNAが分解されることは必須ではない。これは、細胞の核内のRNA凝集体を観察することによって評価できる。一態様では、本発明は、哺乳動物の対象、好ましくはヒトにおける、cis-エレメントリピートの不安定性に関連する遺伝的障害の診断、治療または予防のための医薬の製造のための、ヒト遺伝子転写物内のリピート配列とのみ相補的な配列からなるAONの使用を開示し、教示する。好ましい実施形態では、cis-エレメントリピートの不安定性に関連する遺伝的障害は、1つまたは複数のイントロン配列内にTNRを含むRNA転写物によって引き起こされるRNA毒性の結果である。最も好ましい実施形態では、前記疾患はFECDである。
【0034】
本発明のオリゴヌクレオチドは、好ましくは一本鎖の、化学的に修飾された合成物である。あるいは、それらはウイルスベクター(例えばレンチウイルス、AAV、またはアデノウイルス)または非ウイルスベクターにより送達されるなど、核酸配列から、標的細胞、例えば角膜内皮細胞内で発現されてもよい。本発明によるAONは、8~200ヌクレオチド長、好ましくは10~100、より好ましくは12~50であり得る。本発明によるAONは、3ヌクレオチドからなる2~66の間のリピート単位、好ましくは5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16または17のそのような反復単位を含みうる。TNRは、3ヌクレオチド(=トリヌクレオチド)の同一のリピート単位の少なくとも2つの反復単位を含み、それは、トリヌクレオチドが3回繰り返されるとき、TNRの長さは少なくとも9ヌクレオチドであり、トリヌクレオチドが7回繰り返されるとき、TNRの長さは少なくとも21ヌクレオチドであることを意味する。疾患を引き起こすTNRの長さは、疾患により異なり、FECDの場合では40以上、通常45超、更に通常では50超のリピート単位の繰り返しであるが、これは患者毎に異なることもある。本発明のAONが標的RNA内の多くの(最低2つの)反復単位と相補的であることは当然であるが、これは該AONが複数の3ヌクレオチドからならなければならないことを意味するものではない。例えば、AONは、2つ以上のリピート単位と相補的である中心部に加えて、該AONの一端(5’または3’)または両端(5’と3’)に、1つまたは2つの相補的ヌクレオチドを含んでもよい。言い換えると、本発明のAONは、標的RNA内のTNR伸長内の配列と完全に相補的である一方で、該AONの相補的領域が3の倍数からならなくともよい。例えば、本発明のオリゴヌクレオチドは、9ヌクレオチド長であるが、2つの反復CAG単位のみを含む、例えば配列番号102および配列番号103のようなものであってもよく、すなわち、本発明のオリゴヌクレオチドは、必ずしも3ヌクレオチドの複数の繰り返しである必要がないことを示唆する。
【0035】
本発明の重要な態様は、FECDの場合における、角膜内皮への本発明のAONの送達である。治療有効量のAONを、実質内注射によって角膜実質に投薬できる。例えば、角膜炎の場合に角膜に抗生物質を投与するとき、実質内注射が行われる。あるいは、治療用のオリゴヌクレオチドを、前房内注射により、内皮細胞層の反対側の眼房水に投薬することができる。前眼房と後眼房は繋がっているため、本発明の治療用オリゴヌクレオチドは、硝子体内注射によって後眼房に投与することもできる。
図4にこの図解および例が示されており、蛍光色素(Cy5)にカップリングしたオリゴヌクレオチドが、硝子体内注射の後、時間依存的様式に角膜内皮細胞層に特異的と会合していることが実証される。角膜内皮層との会合は、注射後48時間が最大であると考えられる。角膜内皮細胞による取り込みがなされる限り、いかなる投与経路も採用可能である。にもかかわらず、多くのウイルスおよび非ウイルスベクターでは、in vivoでの角膜内皮への遺伝子送達を研究してきたが、その成功例が限られたものであったため、角膜内皮によって取り込まれるAONの能力は予想外である。(George AJ et al. Am J Respir Crit Care Med. 2000. 162:S194-200)。注射処置を用いることなく、in vivo研究での内皮への遺伝子送達に成功した事例は、文献では報告されていない。前眼房への注射を利用して成功に至った一つのアプローチとして、前眼房へのコネキシン-43アンチセンスsiRNAオリゴヌクレオチドの注射が示されている(Nakano Y et al. Connexin43 knockdown accelerates wound healing but inhibits mesenchymal transition after corneal endothelial injury in vivo. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2008. 49:93-104)。しかしながら、角膜内皮の機能として、角膜実質の水分供給を補助するために、漏出性のバリアが維持されており、またこの機能は、コネキシン-43によって、大部分で維持されるギャップジャンクションの存在に大きく依存するため、この標的に対するノックダウンは、角膜内皮へのオリゴヌクレオチド取り込みのメカニズムに貢献すると考えられる。したがって、これは他のAONに一般的に適用できる教示とは考えられない。送達された治療用オリゴヌクレオチドの有効性は、角膜実質からまたは房水(たとえ最初に硝子体に注射したとしても)細胞に取り込まれる量、および細胞核に対するそれらの最終的な送達に依存する。細胞へのオリゴヌクレオチド取り込みの核局在性および効率は、トランスフェクション試薬またはいわゆるオリゴヌクレオチド送達増強剤を用いることで増加する。in vivoトランスフェクション試薬は、例えば現在ではjetPEI(polyplus transfection(商標))が入手できるが、それは、治療用オリゴヌクレオチドの角膜内皮への取り込みおよび核局在化を増大させるために提案されたものであり、単に「裸の」分子として治療用オリゴヌクレオチドを投与するよりも改善されることを表すものである。標的RNA分子との塩基対形成は、好ましくは細胞内で生じる。in vivoでの適用に関して、本発明によるオリゴヌクレオチドを、リポソーム、ポリソームもしくはナノ粒子または他の適切な粒子、例えばウイルス粒子中に封入し、送達(投与)してもよい。あるいは、または送達ビヒクルとの組合せで、オリゴヌクレオチドをポリエチレンイミン(PEI)および/またはポリエチレングリコール(PEG)との複合体としてもよい。当業者であれば、適用可能である場合には、本発明による2つ以上のオリゴヌクレオチドを組み合わせてもよいことを理解するであろう。当業者であれば、本発明によるオリゴヌクレオチドを指すとき、本発明による組成物または医薬組成物が、好ましくは本発明による方法および用途に互換的に使用できることを理解するであろう。
【0036】
本発明は、遺伝的疾患の予防および/または治療における使用のための(一本鎖)AONであって、標的RNA分子と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的RNA分子内のイントロン配列に存在するトリヌクレオチドリピート(TNR)伸長部と結合することができる、前記オリゴヌクレオチドに関する。好ましい態様では、前記TNR伸長部は、配列5’-(CUG)n-3’を含み、nは40以上の整数であり、より好ましくは、nは50以上の整数である。別の好ましい態様では、本発明のAONの全てのヌクレオチドは、2’-Oメチルホスホロチオエートリボヌクレオチドである。
【0037】
特定の好ましい実施形態では、本発明のAONは、5’-(CAG)m-3’、5’-(CAI)m-3’、5’-(CGG)m-3’、5’-(CGI)m-3’、5’-(CIG)m-3’、5’-(CII)m-3’、5’-(UAG)m-3’、5’-(UAI)m-3’、5’-(UGG)m-3’、5’-(UGI)m-3’、5’-(UIG)m-3’、5’-(UII)m-3’、5’-(AGC)m-3’、5’-(AIC)m-3’、5’-(GGC)m-3’、5’-(GIC)m-3’、5’-(IGC)m-3’、5’-(IIC)m-3’、5’-(AGU)m-3’、5’-(AIU)m-3’、5’-(GGU)m-3’、5’-(GIU)m-3’、5’-(IGU)m-3’、5’-(IIU)m-3’、5’-(GCA)m-3’、5’-(ICA)m-3’、5’-(GCG)m-3’、5’-(ICG)m-3’、5’-(GCI)m-3’、5’-(ICI)m-3’、5’-(GUA)m-3’、5’-(IUA)m-3’、5’-(GUG)m-3’、5’-(IUG)m-3’、5’-(GUI)m-3’または5’-(IUI)m-3’の配列を含み、mは2~66の範囲の整数であり、好ましくは、mは2、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16または17の整数である。本発明の別の好ましい態様では、本発明のオリゴヌクレオチドは、9以上のヌクレオチド長を有する。
【0038】
本発明のAONは、好ましくは遺伝的疾患の治療および/または予防における使用のためのものであり、該疾患を引き起こすTNR伸長は、TCF4遺伝子の転写物内に存在する。TCF4遺伝子内のイントロン配列内のTNR伸長に起因するRNA毒性によって引き起こされる疾患の1つの例は、眼のジストロフィー、好ましくはフックス角膜内皮ジストロフィー(FECD)である。ゆえに、好ましい態様では、本発明のAONは、FECDの予防および/または治療における使用のためのものである。好ましくは、本発明による使用のためのAONは、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、101、102および103を有するAONからなる群から選択される(
図3を参照)。好ましい対象はヒト対象である。本明細書で定義されるように、本発明によるAONは、遺伝的疾患の治療および/または予防における使用のためのものであるが、本発明はまた、医薬組成物中に存在する該オリゴヌクレオチド自体にも関する。本発明による医薬組成物は、好ましくは、本明細書で定義されるオリゴヌクレオチドと、薬学的に許容される賦形剤とを含む。薬学的に許容される賦形剤または担体は、当業者に周知である。好ましい態様では、本明細書に記載のAONは(例えば眼内への)単純な投与では浸透させるのが困難と考えられる組織に送達されるため、本発明の組成物は、好ましくは、オリゴヌクレオチド送達増強剤を含む。特定の態様では、AONは直接に、またはAON送達増強剤の補助を受けて送達されうるが、本発明のAONはまた、例えば、国際公開第2014/011053号パンフレットに詳説される、ウイルス性または非ウイルス性の遺伝子送達ビヒクルまたは遺伝子治療ベクターにより送達されうる。その例は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターである。非ウイルス性の遺伝子送達ビヒクル(または非ウイルス性核酸送達ビヒクル)は、例えばリポソーム、ポリソームおよびナノ粒子である。
【0039】
別の実施形態では、本発明は、ヒト対象においてFECDを治療または予防するための方法であって、本発明によるオリゴヌクレオチドまたは本発明による組成物を、実質内注射により前記ヒト対象の角膜実質に、または前房内注射により前記ヒト対象の前房水に、または硝子体内注射により前記ヒト対象の後眼房に投与することを含む前記方法に関する。
【0040】
更に別の実施形態では、本発明は、遺伝的疾患、好ましくは、RNA毒性によって引き起こされる遺伝的疾患、より好ましくは、ヒトTCF4遺伝子などで見出されるなど、イントロン配列内でのTNR伸長に起因するRNA毒性によって引き起こされる、遺伝的疾患の治療および/または予防のための医薬、最も好ましくはヒトにおけるFECDの治療および/または予防のための医薬の調製における使用のための、本発明によるアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用に関する。
【0041】
本発明で企図される使用のための非ベクター化AONは、疾患、標的器官または組織、および投与経路に応じて、典型的には0.0001~200mg/kg、好ましくは0.001~100mg/kg、より好ましくは0.01~50mg/kgの範囲の投薬量で用いられる。
【0042】
FECDのような眼疾患では、適切な投薬量は、硝子体内投与の場合、片目あたり0.05~5mgの間、好ましくは0.1~1mgの間の範囲であり、例えば、片目あたり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mgである。
【0043】
本発明に従うAONは、患者に対して、全身的、部分的、局所的に、経口、眼内、肺内、鼻腔内、筋肉内、皮下、皮内、直腸内投与を通じて、嚥下、注射、吸入、点滴、噴霧によって、(水)溶液剤、懸濁剤、(水中油)エマルジョン剤、軟膏剤、ロゼンジ剤、丸剤等の形態で、投与してもよい。より好ましい投与経路は、水溶液または眼内投与用に特別に適合された製剤の角膜内注射による投与である。欧州特許出願公開第2425814号明細書は、特にペプチドまたは核酸系薬物の眼内(硝子体内)投与に適する水中油エマルジョン剤を開示する。このエマルジョン剤は硝子体液体より濃厚ではないため、該エマルジョンは硝子体上に浮遊し、それにより注射剤による視力の減弱が回避される。
【0044】
投薬は、投与経路および患者への必要性に応じて、毎日、毎週、毎月、3カ月毎および年に1回であってもよい。
【0045】
好ましい実施形態では、本発明による分子の送達ビヒクルとしてのウイルスベクター、好ましくは本明細書に前述のAAVベクターは、注射1回あたり1×109~1×1017ウイルス粒子、より好ましくは、注射あたり1×1010~1×1014、最も好ましくは1×1010~1×1012ウイルス粒子の範囲の用量で投与される。
【0046】
本発明が関係する分野の当業者であれば、治療の詳細は、オリゴヌクレオチドの配列および化学構造、投与経路、製剤、用量、投薬レジメン、フォーマット(ベクター化または非ベクター化AON)、患者の年齢および体重、疾患の段階等に応じて確立される必要があり、それは更に非臨床的および臨床的な検査が必要となる場合もあることは明らかであろう。
【実施例】
【0047】
実施例1
50超のリピート長を有するTCF4 TNRの存在から生じるFECDを治療するための治療的アプローチ
TCF4中のCUG TNR伸長部に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を用いて特異的配列への結合を行い、それにより、MBNL1などのRNAプロセシング因子を排除する、該配列の能力を低減させる。RNAへの結合により更に、核凝集体からの放出、およびラリアット枝切り酵素および/またはRNaseへの増大した曝露による分解がもたらされ、それにより、RNAプロセシング因子を排除しうるリピート含有RNAの細胞プールを更に減少させることができる。FECDにおいて、MBNL1の排除は、毒性をもたらすRNA凝集体および他の異常なRNAスプライシングパターンをもたらす。TCF4由来のイントロン内の5’-(CUG)n-3’TNRのターゲティングは、AONを用いることで、標準的なワトソン-クリック塩基対:(5’-(CAG)m-3’)、または揺れ塩基対、例えば5’-(CAI)m-3’、5’-(CGG)m-3’、5’-(CGI)m-3’、5’-(CIG)m-3’、5’-(CII)m-3’、5’-(UAG)m-3’、5’-(UAI)m-3’、5’-(UGG)m-3’、5’-(UGI)m-3’、5’-(UIG)m-3’および5’-(UII)m-3’を通じて形成される相補的配列によりなされる。
図3は、50以上のCUG TNR配列を含むTCF4 RNAの存在を抑制するのに使用できるオリゴヌクレオチドの例を表す。
【0048】
様々なAONの治療効果に関するスクリーニングするために、対照(センス)AON(
図3の一番下)と一緒に、それらを、患者由来の線維芽細胞または角膜細胞にトランスフェクトする。核RNA凝集体の消失は、Cy3標識オリゴとの蛍光in situハイブリダイゼーション、ならびに抗MBNL1抗体による蛍光抗体法により検証する。
【0049】
凝集体の消失は、AON処理後のDMPKで観察されるように、RNAのMBNL1を排除する能力の低下により、および/または、RNA分解酵素のアクセスが容易になることによるRNAの量の低減によりなされる。FECDにおいては、該凝集体は、スプライシングされていないプレmRNA、および/もしくは、スプライシングアウトされたイントロンラリアット、またはリピート配列のみが残る部分的に分解されたイントロンRNAのいずれかからも構成されうる点に留意すべきである。これは、RNAの安定性および分解の動態に影響を及ぼす。リピート含有RNAの同一性および安定性の両方を検証するため、ノーザンブロット分析を行う。観察されるバンドがイントロンラリアットであるか否かを確認するため、3つの異なるアプローチを使用する。第1に、AON処理の前に、細胞において、RNAiによりラリアット枝切り酵素(DBR1)を枯渇させ、ラリアットを安定化させる(Armakola et al. 2012. Inhibition of RNA lariat debranching enzyme suppresses TDP-43 toxicity in ALS disease models. Nat Genet 44(12):1302-9.)。第2に、RNA単離の後に、AONまたは対照で処理した細胞由来のRNAサンプルをRNAseRに供し、イントロンラリアットでなく直鎖状RNAを効率的に加水分解する(Suzuki et al. 2006. Characterization of RNase R-digested cellular RNA source that consists of lariat and circular RNAs from pre-mRNA splicing. Nucleic Acids Res 34(8):e63)。第3に、補完的アプローチにおいて、RNAサンプルを、TCF4イントロン内の特定の位置と相補的なDNAオリゴヌクレオチドの存在下で、RNaseHで処理し、RNaseHによる加水分解によりスプライシングされていないイントロンを別々の断片に切断しつつ、イントロンラリアットを直鎖化する(Li-Pook-Than and Bonen. 2006. Multiple physical forms of excised group II intron RNAs in wheat mitochondria. Nucleic Acids Res 34(9):2782-90)。
【0050】
AON処理細胞および対照細胞由来のRNAを、MBNL1により制御されることが知られているRNAプロセシング事象に対する効果に関して分析する。最初に、AONの効果を、スプライシングによりFECDにおける核凝集体へのMBNL1の排除が顕著に影響されることが知られている、選択された転写物のRT-PCRによって検証する(上記のDu et al. 2015)。この後、トランスクリプトーム全体のレベルにおけるスプライシングの復元を、ディープシークエンシングにより分析する。
【0051】
FISHおよび蛍光抗体法
核凝集体の検出のため、Duら(2015)のプロトコールに基本的に従い、FISHを実施する。カバースリップ上の線維芽細胞および角膜組織をPBSで一回洗浄し、室温で30分間、PBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定する。固定後、細胞をPBSで二回洗浄し、4℃にて70%エタノール中に保存する。細胞を、室温で5分間、50%ホルムアミドおよび2×SSCで再度水和する。次に細胞を、37℃で一晩、10%硫酸デキストラン、2mM バナジル-リボヌクレオシド複合体、0.2% BSA、100μgの酵母tRNA、2×SSC、50%ホルムアミドおよび1.2μgのCy3-(CAG)7プローブを含有する混合液100μlでハイブリダイズする。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の後、細胞を室温で30分間、ヘキスト33342(1:200の希釈剤)で染色し、ProLong Gold antifade試薬を使用してスライドグラス上に置く。ZeissLSM 710レーザースキャニング共焦点顕微鏡で、×63の倍率でCy3シグナルを得る。Cy3-(CAG)7プローブによるハイブリダイゼーションの後、角膜内皮層に、10分間、0.5%のトリトンX-100を含む新鮮なPBSを浸透させる。次に角膜細胞を抗MBNL1抗体(PBS中、1:100; sc-47740、Santa Cruz Biotechnology)と室温で1時間インキュベートし、Alexa Fluor 488とコンジュゲートした二次抗体(PBS中、1:500、 A11001、Invitrogen)と30分間室温でインキュベートする。インキュベーション後、角膜内皮細胞をPBSで洗浄し、ヘキスト33342で染色し、上記の同様に顕微鏡のスライド上に置く。
【0052】
ノーザンブロット
患者の線維芽細胞または角膜細胞由来のTCF4 RNA変異体の、AON処理(および/または脱分枝酵素DRB1によるノックダウン)の前後の安定性を、Muldersら(2009、上記)で用いられるノーザンブロット操作により評価する。全RNAを、1.2%のアガロース-ホルムアルデヒド変性ゲル中で電気泳動する。給源および単離手順に応じて、1レーンあたり1~15μgのRNAをロードする。RNAをHybond-XLナイロンメンブレンに移し、[32P]標識した(CAG)7または対照オリゴヌクレオチドでハイブリダイズする。ノーザンブロット分析前に、選択されたサンプルをRNaseRまたはRNaseHで処理する。RNase R処理の場合、RNAを、20mMのトリス-HCl(pH 8.0)中の、100mMのKCl、0.1mMのMgCl2および1U/μl RNaseR(Epibio)で、37℃で30分間、オリゴマーとインキュベートする。RNaseHの場合、RNAを37℃で30分間、イントロン特異的オリゴマーとインキュベートし、次に0.03U/mlのRNaseH(Invitrogen)、1U/mlのRNasin(Promega)、0.27mg/mlのBSA(Promega)および10mMのDTTにて、37℃で30分間処理する。RNase処理サンプルをフェノール抽出およびエタノール沈殿した後、ノーザンブロット分析を行う。
【0053】
実施例2
治療用オリゴヌクレオチドを用いた角膜内皮細胞層のターゲティング
オリゴヌクレオチドが角膜内皮に取り込まれるか否かを調査するため、10匹の雌のダッチベルテッド系(Dutch Belted)ウサギの両眼に、Cy-5標識された、(本発明とは無関係な配列の)2’-O-メチル修飾オリゴヌクレオチドを利用して、30μlのPBS中、0.6mgの単回投与で、20mg/mlの濃度で、硝子体内に1回投与した。2匹のウサギにおいて、各時点(硝子体内注射後6、24、48、72および168時間)にペントバルビタールナトリウムの静脈内注射および全採血を行い、屠殺した。眼を摘出し、修飾デヴィッドソン液中で固定させた。次に組織標本スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、次に蛍光顕微鏡で調べ、特に標識オリゴヌクレオチドの蓄積を反映する蛍光増加に関係する眼内の構造に注目して調べた(
図4)。Cy-5標識したオリゴでは、対照として供されたCy-5単独に対して、6時間目において染色が確認された。6時間目の時点では、Cy-5対照では染色が確認されなかった。ゆえに、取り込みが、Cy-5標識を介してではなくオリゴによりなされたと結論づけた。最大の取り込みは、48時間目の時点で既に観察された。
【0054】
治療用オリゴヌクレオチドの眼細胞構造への取り込みは、通常in vitro研究で用いられるトランスフェクション試薬を用いないことが先行研究において示されている。本発明の発明者らは今回、in vivoでのトランスフェクション賦形剤が、潜在的治療用オリゴヌクレオチドと共に全身投与したとき種々の組織への潜在的治療用オリゴヌクレオチドの取り込みを増加させうることを見出した(データ示さず)。
【0055】
実施例3
TCF-4を標的とする治療用オリゴヌクレオチドによる、FECDのCECにおけるRNA凝集体の低減
CAG配列の7回リピート((CAG)7)を有する予備設計された治療用オリゴヌクレオチドは、40超のCUGリピート伸長のヘテロ接合を有するFECD患者に由来するヒトの角膜内皮細胞においてRNA凝集体を低減させることも示されている。アレル上のCUG TNRリピートは、患者のTCF4遺伝子において12および52であることが見出されている。この患者に由来する角膜内皮細胞を用い、当分野で公知の方法を使用して(Peh et al. 2013 BMC Res Notes 6:176; Peh et al. 2015 Sci Rep 5:9167)、in vitroで維持された細胞に(CAG)7をトランスフェクトするする際に、これらの細胞におけるRNA凝集体を低減させる効果を調査した。治療用オリゴヌクレオチドを200nMの濃度で用い、24時間、Dharmafect(製造業者の指示に従い、ウェルあたり0.5μl)をトランスフェクトした。次に細胞を固定し、Cy3標識された(CAG)7のオリゴヌクレオチドプローブでFISHに供し(実施例1に記載と同様に実施)、共焦点顕微鏡で観察をした。
【0056】
図5は、角膜内皮細胞におけるRNA凝集体(ピンクのスポット)の低減の際の、治療用オリゴヌクレオチド(CAG)7の効果を示す。上部3枚のパネルは処理された細胞であり、下部の3枚のパネルは対照オリゴヌクレオチドを用いて処理された細胞である。治療用オリゴヌクレオチドを200nMの濃度で用い、Dharmafectをトランスフェクトした。核内RNA凝集体数を自動画像解析により測定し、ヒストグラムとして
図5に表示した(図の下部)。具体的には、FISH標識したRNA凝集体を、CellProfiler(商標)ver 2.1.1(Broad Institute)を使用して、セグメントベースのアプローチで定量した。手短には、最大相関値の閾値を使用し、405nmのチャネルにおいて核を定義した。Robust Backgroundアルゴリズムを使用し、個々のマスキング物体(核)あたり2.0のスムージングスケールで、1.45の閾値補正計数、および0.05および1.0の下限値および上限値に設定し、568nmのチャネルにおける2~10ピクセルの内の物体としてRNA凝集体を定義した。Microsoft Excelを使用して、データを更に処理した。
【0057】
顕微鏡写真およびヒストグラムの両方から観察できるように、治療用オリゴヌクレオチド(CAG)7は、対照(無関係)オリゴヌクレオチド(ヒストグラムでは「無処理」と称する)のトランスフェクションと比較し、RNA凝集体数の低減において効果的であった。これは、本発明の方法がFECD患者由来のヒトの角膜内皮細胞で適用できることを示す。
【0058】
次にこの実験を、40超のTNRリピートを含有する少なくとも1つのTCF4アレルを有する、5人の個々のFECD患者サンプルで繰り返した。これらの実験結果を
図6(各ヒストグラムは各患者を表す)に示す。
図5から読み取れることと同様に、対照アンチセンスオリゴヌクレオチド(ctrl AON)と比較し、(CAG)7の治療用オリゴヌクレオチドによる処理の際には、凝集体数は減少し、凝集体のない核または限られた数の凝集体しか有さない核のパーセンテージが増加する。5人目の患者由来の細胞では、更なるオリゴヌクレオチド(架橋型核酸(LNA)の構造におけるAG(CAG)2 AON)を用いた。この特定の化学構造および配列は、(CAG)7リピートよりも劣っていると考えられた。右上のグラフは、これらの5例の患者からのデータまとめた、核あたりの凝集体の平均数を表し、網膜内の凝集体の低減に対する本発明のAONの顕著な効果を示すものである。
また、本発明は以下を提供する。
[1]
遺伝的疾患の予防および/または治療における使用のための一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドであって、標的RNA分子と少なくとも部分的に相補的であり、前記標的RNA分子内のイントロン配列に存在するトリヌクレオチドリピート(TNR)伸長部と結合することができる、前記オリゴヌクレオチド。
[2]
前記TNR伸長部が、配列5’-(CUG)n-3’を含み、nが40以上の整数である、[1]に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[3]
nが50以上の整数である、[2]に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[4]
前記オリゴヌクレオチドの全てのヌクレオチドが、2’-Oメチルホスホロチオエートリボヌクレオチドである、[1]から[3]のいずれか一項に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[5]
前記オリゴヌクレオチドが、5’-(CAG)m-3’、5’-(CAI)m-3’、5’-(CGG)m-3’、5’-(CGI)m-3’、5’-(CIG)m-3’、5’-(CII)m-3’、5’-(UAG)m-3’、5’-(UAI)m-3’、5’-(UGG)m-3’、5’-(UGI)m-3’、5’-(UIG)m-3’および/または5’-(UII)m-3’の配列を含み、mが2から66の範囲の整数である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[6]
mが2、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16または17の整数である、[5]に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[7]
前記オリゴヌクレオチドが9以上のヌクレオチド長を有する、[1]から[6]のいずれか一項に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[8]
前記TNR伸長部が、TCF4遺伝子の転写物内に存在する、[1]から[7]のいずれか一項に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[9]
前記遺伝的疾患が、RNA毒性によって引き起こされる眼ジストロフィーである、[1]から[8]のいずれか一項に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[10]
前記眼ジストロフィーがフックス角膜内皮ジストロフィー(FECD)である、[9]に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[11]
前記オリゴヌクレオチドが、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、101、102および103を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)からなる群から選択される、[1]から[10]のいずれか一項に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[12]
前記使用が、前記遺伝的疾患に罹患しているか、または前記遺伝的疾患に罹患するリスクを有するヒト対象における使用である、[1]から[11]のいずれか一項に記載の使用のためのオリゴヌクレオチド。
[13]
[1]から[12]のいずれか一項に定義されたオリゴヌクレオチド。
[14]
[13]に記載のオリゴヌクレオチドと、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
[15]
オリゴヌクレオチド送達増強剤を更に含む、[14]に記載の組成物。
[16]
[13]に記載のオリゴヌクレオチドを含むか、またはそれからなる核酸配列をコードするウイルス性または非ウイルス性の遺伝子送達ビヒクルを含む医薬組成物。
[17]
ヒト対象においてFECDを治療または予防するための方法であって、[13]に記載のオリゴヌクレオチド、または[14]から[16]のいずれか一項に記載の組成物を、実質内注射により前記ヒト対象の角膜実質に、または前房内注射により前記ヒト対象の前房水に、または硝子体内注射により前記ヒト対象の後眼房に投与することを含む前記方法。
【配列表】