(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法、理美容技術習得用疑似毛髪、及び理美容技術練習具
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20220616BHJP
A45D 44/14 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A41G3/00 N
A45D44/14 Z
(21)【出願番号】P 2020024402
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2019047046
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598061623
【氏名又は名称】有限会社美容室ゼロ
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】久保 義明
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-119972(JP,A)
【文献】特公昭48-002719(JP,B1)
【文献】特開2000-144577(JP,A)
【文献】特開2014-095049(JP,A)
【文献】実開昭57-137407(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00 - 5/02
A45D 44/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カット及びワインディングの理美容技術の習得に用いられる理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法であって、
獣毛を主成分とする毛糸に対して
、カット時及びワインディング時の伸縮を防止するための伸縮防止処理を行うことを特徴とする
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記伸縮防止処理は、前記毛糸の外表面に伸縮防止処理液を塗布若しくは噴霧し、又は前記毛糸を伸縮防止処理液に浸漬して、前記毛糸の外表面に前記伸縮防止処理液を付着させる処理液付着工程
と、該処理液付着工程により外表面に前記伸縮防止処理液を付着させた前記毛糸を緊張状態で保持し、前記伸縮防止処理液を乾燥させる処理液乾燥工程とを有することを特徴とする
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法。
【請求項3】
請求項
2記載の
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記伸縮防止処理液は、タンニン水溶液
と、植物油又は動物油と、界面活性剤とを含むことを特徴とする
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記伸縮防止処理液は、水400容量部に85~120容量部のカキタンニンを配合した前記タンニン水溶液に対し、2~10容量部の油分と、1~10容量部の前記界面活性剤とを配合したものであることを特徴とする理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記伸縮防止処理液は、水1000容量部にそれぞれ400~600容量部のカキタンニン及びユーカリ葉エキスを配合した前記タンニン水溶液に対し、1~10容量部の油分と、4~12容量部の前記界面活性剤とを配合したものであることを特徴とする理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1記載の
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記獣毛は、羊毛であることを特徴とする
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法。
【請求項7】
カット及びワインディングの理美容技術の習得に用いられる理美容技術習得用疑似毛髪であって、
獣毛を主成分とする毛糸と、該毛糸の外表面をコーティングし
てカット時及びワインディング時の伸縮を防止する伸縮防止処理層とを有することを特徴とする
理美容技術習得用疑似毛髪。
【請求項8】
請求項
7記載の
理美容技術習得用疑似毛髪において、前記伸縮防止処理層は、タンニン
と、植物油又は動物油と、界面活性剤とを含むこと特徴とする
理美容技術習得用疑似毛髪。
【請求項9】
請求項
7又は8記載の
理美容技術習得用疑似毛髪において、前記獣毛は羊毛であることを特徴とする
理美容技術習得用疑似毛髪。
【請求項10】
頭部模型に装着されて理美容技術の習得に用いられる理美容技術練習具において、
前記頭部模型に設けられた被装着部に着脱可能に取付けられる装着部を有し、並列に配置された請求項
7~
9のいずれか1記載の複数の
理美容技術習得用疑似毛髪の長手方向の一側が前記装着部に保持されていることを特徴とする理美容技術練習具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人毛に近い性状を有する理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法、理美容技術習得用疑似毛髪、及び理美容技術習得用疑似毛髪を用いた理美容技術練習具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウィッグ(鬘)や人形用の頭髪材等の素材としては、安価な人毛や獣毛が用いられていたが、最近では、捲縮処理や艶消し処理等の加工性に優れるポリエステル繊維等の化学繊維(合成繊維)からなる人工毛も多用されている。そして、美容師や理容師、特に美容師や理容師の練習生や初心者が整髪技術の基本となる髪のカット技術や、パーマネント用ロッドに髪を巻き付けるワインディング技術を習得する際にも、合成樹脂材等で造形した頭部模型に、頭髪材として人毛又は人工毛を植毛したものが使用されている。人毛の場合、30cm以上の長さを必要とするため、ほとんどは女性の毛髪が使用される。しかし、貧困国の女性の毛髪が用いられることが多く、その取得方法がニュースとなって社会問題を引き起こすこともあった。また、頭部模型に人毛又は人工毛が頭髪材として直接、植毛されている場合、カット練習により頭髪材を使い切ると、頭部模型も廃棄するしかなく、コストが嵩み、特に特定部位のカット練習を繰り返し行うことができないという問題がある。そこで、例えば特許文献1には、頭部模型に着脱可能に固着される固着部と、固着部に一端が接続された1乃至複数枚の帯状部とを備えた理美容技術練習具が開示されている。
特許文献1の理美容技術練習具は、人工毛の代わりとなる帯状部を指の間に挟んで引き出すときの捻れや水平方向の角度ずれの有無がわかり易いため、カットやワインディングのための正しい姿勢等を自分で判定することができる。そして、帯状部の捻れや角度ずれがなくなるような正しい姿勢やスタンス、手や鋏の位置等を容易に習得することができ、自分の癖や自分に欠けている技術を客観的に判定することができるため、正しいカットやワインディングの基本技術を短時間で習得することができる。また、帯状部を切り終えてしまっても、理美容技術練習具のみを新しいものと交換することにより、頭部模型を繰り返し使用することができるため、ランニングコストを抑えることができる。しかし、帯状部は幅広で厚さが薄く、人毛とは取扱いが異なる面もある。また、櫛を使って毛束を取り分ける作業を行うこともできないため、人毛に近い人工毛を用いてカットやワインディングを練習することが必要となる。そこで、帯状部の代りに、複数の化学繊維製の人工毛を並べて帯状に形成した理美容技術練習具を使用することが考えられるが、大量の人工毛が必要となり、しかも人工毛が極めて細いため、等間隔で配置するには手間がかかり、著しく量産性に欠ける。
一方、例えば特許文献2には、性状が異なる少なくとも二種類の絹糸を撚り合わせて構成した人工毛髪用絹繊維が開示されている。この人工毛髪用絹繊維は、従来の化学繊維製の人工毛よりも太く、取扱い及び加工が容易である。また、所望のカール及びクリンプを容易に発現させることができ、自然な光沢が得られ、軽量で、吸湿性及び柔軟性にも優れるものと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2008/023472号
【文献】特開2004-137654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2の人工毛髪用絹繊維は、上記したように主に鬘の毛髪材として使用する際の見た目及び頭部への装着感を改良することを目的としたものである。また、破断強度や破断伸度を人毛と同等以上として耐久性を高め、手触り感も人毛(剛毛)に近付けたものであり、鬘の毛髪材として好適であることが記載されている。つまり、この人工毛髪用絹繊維で製造された人工毛髪をカットやワインディング等の理美容技術を習得するための理美容技術練習具に使用することは想定されていない。従って、このような人工毛髪の毛束を指の間に挟んで引き出したり、パーマネント用ロッドに巻き付けたりする際に感じるしなやかさ及び柔軟性(硬さ)、カットした後やパーマネント用ロッドを取り外した後の伸縮性、復元性、形態安定性等については考慮されておらず、用途が限られていた。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、カットやワインディング等に対して人毛に近い性状を有し、理美容技術における正しいカットやワインディング等の基本技術を短時間で効率的に習得するために有効で、人毛の使用量を削減して、理美容技術を習得しようとする人達の金銭的負担も軽減できる理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法、理美容技術習得用疑似毛髪、及び理美容技術練習具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法は、カット及びワインディングの理美容技術の習得に用いられる理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法であって、獣毛を主成分とする毛糸に対して、カット時及びワインディング時の伸縮を防止するための伸縮防止処理(伸縮防止加工)を行う。
ここで、獣毛としては、羊毛(ウール)、モヘア、アルパカ(ワカイヤ、スリ)、ビキューナ、ラマ、カシミヤ、アンゴラ、及びキャメル(ラクダ毛)等が挙げられるが、入手し易い羊毛が好適に用いられる。また、毛糸に含まれる獣毛の割合は55~100%、より好ましくは60~100%、さらに好ましくは70~100%であり、獣毛と混紡する化学繊維としては、アクリル、ポリアミド、又はポリエステル等が好適に用いられる。一般的な毛糸は伸縮性を有しており、コーム(櫛)等で引き出した際に伸び、鋏でカットした後に縮むが、毛束を引き出す際にそれぞれの毛糸に加わる力は均一ではなく、それぞれの毛糸の伸び及び縮みは不均一であるため、切り口が不揃いになる。よって、疑似毛髪の性状を人毛に近付け、伸縮を防止するために、毛糸に伸縮防止処理(伸縮防止加工)を施す必要がある。なお、毛糸の太さは細い方が好ましく、例えば、1kg当たりの長さが20~30km程度、より好ましくは20~25km程度のものが好適に用いられる。
【0007】
第1の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記伸縮防止処理は、前記毛糸の外表面に伸縮防止処理液を塗布若しくは噴霧し、又は前記毛糸を伸縮防止処理液に浸漬して、前記毛糸の外表面に前記伸縮防止処理液を付着させる処理液付着工程と、該処理液付着工程により外表面に前記伸縮防止処理液を付着させた前記毛糸を緊張状態で保持し、前記伸縮防止処理液を乾燥させる処理液乾燥工程とを有することが好ましい。
ここで、伸縮防止処理液には、伸縮防止剤としてタンニン等の植物由来成分、又はポリウレタン等の合成樹脂等を含むことができ、これらの水溶液が好適に用いられる。
【0008】
【0009】
第1の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記伸縮防止処理液は、タンニン水溶液と、植物油又は動物油と、界面活性剤とを含むことが好ましい。
【0010】
ここで、植物油又は動物油により、疑似毛髪表面の手触りを良くし、櫛通りを滑らかにすることができる。また、界面活性剤は、毛糸の内部(芯)までタンニン成分を運び込み、毛糸内部のタンパク質と結合(タンニン結合)させることができる(以上、第2の発明において同じ。)。
【0011】
第1の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記タンニン水溶液は、縮合型タンニン及び/又は加水分解型タンニンを含むことが好ましい。
ここで、縮合型タンニンとしては、例えば渋柿に含まれるカキタンニン(エピカテキン、カテキンガレート、エピガロカテキン、ガロカテキンガレート等のカテキン類(タンニンの一種)を含む)等の高分子タンニンが好適に用いられる。また、加水分解型タンニンとしては、例えばテリマグランジン等のカテキン類(低分子タンニン)を含むユーカリ葉エキス(カテキン類の他に精油等を含む)が好適に用いられるが、ユーカリ葉エキスに含まれるタンニン成分(分子量500程度の低分子タンニン)のみを抽出したものが効果的である。縮合型タンニン(高分子タンニン)は、主に毛糸の表面を樹脂化(コーティング)する役目を果たす(以上、第2の発明において同じ。)。
【0012】
第1の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法において、前記獣毛は、羊毛であることが好ましい。
【0013】
前記目的に沿う第2の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪は、カット及びワインディングの理美容技術の習得に用いられる理美容技術習得用疑似毛髪であって、獣毛を主成分とする毛糸と、該毛糸の外表面をコーティングしてカット時及びワインディング時の伸縮を防止する伸縮防止処理層とを有する。
【0014】
第2の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪において、前記伸縮防止処理層は、タンニンと、植物油又は動物油と、界面活性剤とを含むことが好ましい。
【0015】
【0016】
第2の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪において、前記タンニンは縮合型タンニン及び/又は加水分解型タンニンであることが好ましい。
【0017】
第2の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪において、前記獣毛は羊毛であることが好ましい。
【0018】
前記目的に沿う第3の発明に係る理美容技術練習具は、頭部模型に装着されて理美容技術の習得に用いられる理美容技術練習具において、前記頭部模型に設けられた被装着部に着脱可能に取付けられる装着部を有し、並列に配置された第2の発明に係る複数の理美容技術習得用疑似毛髪の長手方向の一側が前記装着部に保持されている。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法は、カットやワインディング等に対して人毛に近い性状を有する疑似毛髪を安価に製造することができる。第2の発明に係る理美容技術習得用疑似毛髪は、カットやワインディング等の前後における伸縮を防止し、カット後の切り口を正確に揃えることができるので、あたかも人毛のように取り扱うことができ、カットやワインディング等の理美容技術の習得に好適に用いることができる。第3の発明に係る理美容技術練習具は、頭部模型に容易に取付けて、様々なヘアースタイルに対応することができるので、使用者は、これを使用することによりカットやワインディング等の正確な技術を短時間で効率的に習得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法における処理液乾燥工程を示す平面図及び側面図である。
【
図2】(A)、(B)はそれぞれ同
理美容技術習得用疑似毛髪の製造方法で製造された
理美容技術習得用疑似毛髪を用いた理美容技術練習具の平面図及び側面図である。
【
図3】同理美容技術練習具の使用状態を示す斜視図である。
【
図4】同理美容技術練習具を頭部模型に取付けた状態を示す拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
続いて、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
以下、
図1~
図4を参照して、本発明の一実施の形態に係る
理美容技術習得用疑似毛髪
(「以下、単に疑似毛髪と記載」)の製造方法、
理美容技術習得用疑似毛髪10
(「以下、単に疑似毛髪10と記載」)、及び疑似毛髪10を用いた理美容技術練習具11について説明する。
本発明の一実施の形態に係る疑似毛髪の製造方法は、カットやワインディング等に対して人毛に近い性状を有する疑似毛髪10を安価に製造するためのものである。そして、この製造方法で製造された疑似毛髪10は、カットやワインディング等の理美容技術の習得に好適に用いることができる。また、この疑似毛髪10を用いた理美容技術練習具11は、頭部模型12に着脱可能に取付けて使用することにより、カットやワインディング等の正確な技術を短時間で効率的に習得できるものである。
【0022】
疑似毛髪10は、獣毛を主成分とする毛糸13(例えば羊毛70%に化学繊維30%を混紡したもの)に対して伸縮防止処理(伸縮防止加工)を行うことにより製造される。伸縮防止処理では、まず、毛糸13を伸縮防止処理液に浸漬して、毛糸13の外表面に伸縮防止処理液を付着させる(処理液付着工程)。
ここで、毛糸13に含まれる獣毛の割合は55~100%、より好ましくは60~100%、さらに好ましくは70~100%であり、必ずしも化学繊維を含んでいる必要はなく、獣毛を100%としてもよい。また、化学繊維としては、アクリル、ポリアミド、又はポリエステル等を1又は2以上組合せて用いることができ、その組合せ及び配合比は適宜、選択することができる。
【0023】
伸縮防止処理液としては、タンニン水溶液に、植物油又は動物油と界面活性剤を添加して乳化させたものが好適に用いられる。このとき、タンニン水溶液の水に対するタンニン(伸縮防止剤)の配合量は、タンニンの種類に応じて、適宜、選択することができる。タンニンの配合量が増えるにつれ、疑似毛髪10の硬度が増して鋏の寿命が低下し易くなり、タンニンの配合量が増え過ぎると、疑似毛髪10を毛束として指の間に挟んで引き出した際に、その形状が維持され、疑似毛髪10が垂れることなく、元の状態に戻らず、性状が人毛から遠ざかって好ましくない。
また、タンニン水溶液に対する植物油又は動物油の配合量もタンニンの種類及びタンニン水溶液の濃度に応じて、適宜、選択することができる。伸縮防止処理液に適度の油分を含むことにより、疑似毛髪10にしなやかさと保湿性を与え、櫛通りを滑らかにして、カットやワインディング等を行う際に、疑似毛髪10を人毛のように取り扱うことができる。植物油としては、例えばオリーブ油、大豆油、胡麻油、又は菜種油等が好適であるが、これらに限定されるものではなく、適宜、選択することができる。動物油としては、馬の油が好適であるが、牛、豚、若しくは鶏等の油又は魚の油を用いてもよい。
界面活性剤は植物油等の油分を乳化させるために添加するので、伸縮防止処理液に含まれる植物油等の油分の種類及び配合量に応じて、その種類及び配合量を適宜、選択することができる。
【0024】
例えば、タンニン水溶液が、伸縮防止剤として縮合型タンニンのみを含む場合、縮合型タンニンとしてカキタンニンを用いるのであれば、水400容量部に対するカキタンニンの配合量は85~120容量部、より好ましくは90~110容量部、さらに好ましくは95~105容量部程度である。このタンニン水溶液に対し、油分(例えば植物油)の配合量は2~10容量部、より好ましくは3~8容量部、さらに好ましくは4~6容量部程度であり、界面活性剤の配合量は1~10容量部、より好ましくは2~8容量部、さらに好ましくは3~6容量部程度である。
よって、水400容量部に対し、伸縮防止剤として縮合型タンニンの一種であるカキタンニン100容量部を加えたタンニン水溶液に、植物油4容量部と界面活性剤4容量部を添加して乳化させることにより、疑似毛髪10の製造に好適な伸縮防止処理液を得ることができる。
また、例えば、タンニン水溶液が、伸縮防止剤として縮合型タンニン及び加水分解型タンニンを含む場合、縮合型タンニンとしてカキタンニンを用い、加水分解型タンニンとしてユーカリ葉エキスを用いるのであれば、水1000容量部に対するカキタンニン及びユーカリ葉エキスの配合量はそれぞれ400~600容量部程度である。このタンニン水溶液に対し、油分(例えば植物油)の配合量は1~10容量部、より好ましくは2~5容量部程度であり、界面活性剤の配合量は4~12容量部、より好ましくは8~10容量部程度である。
【0025】
伸縮防止剤としては、安価で入手が容易なカキタンニンやユーカリ葉エキスが好適に用いられるが、これらに限定されることなく、その他のタンニン(縮合型タンニン及び/又は加水分解型タンニン)を用いることができる。
また、伸縮防止剤としてタンニン以外の植物由来成分(植物系水溶性樹脂)又はポリウレタン等の水溶性樹脂(水性塗料)を用いてもよいし、これらの代りに、塩化第一錫、ホルマリン、又はグルタルアルデヒド等を用いてもよい。例えば、伸縮防止剤としてポリウレタンを用いる場合、濃度4%のポリウレタン水溶液400容量部に対し、植物油2容量部と界面活性剤5容量部を添加することが好ましいが、これらの配合量は、上記の値に限定されることなく、適宜、選択することができる。
【0026】
毛糸13を伸縮防止処理液に浸漬する時間は、毛糸13及び伸縮防止処理液の量によっても異なるが、例えば2~30秒、より好ましくは3~20秒、さらに好ましくは5~10秒程度である。
なお、毛糸13は束の状態で、伸縮防止処理液に浸漬してもよいし、リール等に巻き付けた毛糸13の一端を引き出しながら、伸縮防止処理液の中を通過させてもよい。また、処理液付着工程では、毛糸13の外表面全体に伸縮防止処理液を付着させることができればよく、毛糸13を伸縮防止処理液に浸漬する代りに、毛糸13の外表面に伸縮防止処理液を塗布若しくは噴霧してもよい。具体的には、例えば、刷毛を用いて塗布することや、スプレーを用いて噴霧することができる。
【0027】
次に、処理液付着工程により外表面に伸縮防止処理液を付着させた毛糸13を緊張状態で保持し、伸縮防止処理液を乾燥させる(処理液乾燥工程)。毛糸13を緊張状態で保持するためには、
図1(A)、(B)に示すように、二本の棒状の支持体14、15の間に、毛糸13を緊張状態で巻回せばよい。支持体14、15の長手方向の両端部には、それぞれ支持体14、15の直径よりも大径の鍔部16を設け、毛糸13の抜け落ちを防止することが好ましい。このとき、支持体14、15間の距離は、例えば300~600mm、より好ましくは400~500mm程度であるが、これに限定されることなく、適宜、選択することができる。なお、例えば二本の支持体14、15の間に、補助支持体を配置して、毛糸13の弛みを防止すれば、支持体14、15間の距離をさらに拡げることもできる。なお、毛糸13を支持体14、15間に巻回す作業は手動で行ってもよいし、電動で行ってもよい。
【0028】
伸縮防止処理液の乾燥は、例えばストーブ、ヒーター、又はエアコン等の暖房(加熱)機器を用いて作業室内全体を所定の温度(例えば40~45℃程度)に加熱することにより行ってもよいし、温風若しくは熱風発生器で発生させた温風乃至熱風(例えば40~60℃程度)を直接、毛糸13に吹き付けることにより行ってもよい。
自然乾燥の場合、毛糸13を緊張状態で4~7日間放置しなければならないが、上記のように加熱することにより、1日程度で完全乾燥することができる。伸縮防止処理液が乾燥し、毛糸13の外表面が伸縮防止処理層でコーティングされることにより、人毛と同様に伸び縮みしない疑似毛髪10が得られる。疑似毛髪10の直径は、取扱いの面から0.8mm~1.5mm程度が好ましいが、これに限定されるものではなく、毛糸の材質等により、さらに細くすることもできる。
【0029】
以上のようにして製造された疑似毛髪10は、毛糸13の外表面が伸縮防止剤(タンニン)、植物油(又は動物油)及び界面活性剤を含む伸縮防止処理層でコーティングされたものである。この伸縮防止処理層は、人毛のキューティクルのような役目を果たし、防伸性、防縮性及び保湿性に加え、しなやかさ、適度なコシとハリ、及び滑らかさを疑似毛髪10に与え、疑似毛髪10を人毛のように取り扱うことができる。一般的な毛糸では、繊維と繊維の間に櫛が引っ掛かり易く、櫛通りが悪いため、櫛を用いて毛束を取り分ける作業が困難である。また、一般的な毛糸は、伸縮性を有するため、指の間に挟んで引っ張ると伸び、鋏でカットした後に手を離すと縮んでしまい、切り口がバラバラ(不均一)になる。よって、使い捨ての高価なウイッグの代りに、一般的な毛糸を用いて理美容技術の練習を行っても、正確な技術を身に付けることはできない。これに対し、疑似毛髪10の場合は、表面が滑らかで櫛通りがよく、しかも人毛と同様に伸縮がほとんどなく、切り口が揃うため、カットやワインディング等の正確な技術を身に付けることができる。
【0030】
理美容技術練習具11は、
図2~
図4に示すように、頭部模型12に着脱可能に取付けられる装着部18を有し、並列に配置された複数の疑似毛髪10の長手方向の一側が装着部18に保持されたものである。この装着部18は、
図2(A)、(B)、
図4に示すように、疑似毛髪10の長手方向の一側が接着や縫着等により一端部に固定される基板部20と、疑似毛髪10の長手方向と直交して基板部20の他端部に形成された凸条の摺動部21を有している。また、装着部18は、摺動部21が摺動可能かつ着脱可能に嵌合されるガイド部23と、ガイド部23と一体に形成されたキャップ状(略半球状)の嵌合部25を有している。この嵌合部25の内側には略球状の嵌合凹部26が形成され、外周の四面にはそれぞれ略半円状の切欠き部27が形成されている。1つの理美容技術練習具11に使用する疑似毛髪10の本数は、基板部20の寸法(長さ)によっても異なり、適宜、選択することができるが、例えば長さ40mm程度の基板部20に対して15~30本程度の疑似毛髪10を等間隔で配置したものが好適に用いられる。
これに対し、
図3に示すように、頭部模型12の表面には、装着部18の嵌合部25が着脱可能に取付けられる複数の突起状の被装着部28が設けられている。この被装着部28は、
図4に示すように、頭部模型12の表面に当接して固定される座部29と、座部29の上面に突出して形成された円柱状の軸部30と、軸部30の先端に形成された球状の被嵌合部31を有している。なお、被装着部は、予め頭部模型の所定の位置に固定されたものに限らず、頭部模型の所望の位置に針を突き刺すようにして、適宜、取付け位置を変更(選択)できるようにしたものでもよい。ここで、基板部の材質は、合成樹脂でもよいし、紙又は布でもよい。紙又は布を基板部として使用する場合、基板部を二つ折りにして疑似毛髪の端部を挟んで接着するだけで簡単に固定することができる。さらに、表面に溝又は凹凸を形成した厚紙や、表面に波型の凹凸面を有する手芸用のクラフトバンド(パルプ(再生紙)で製造した断面円形のこより(紐体)を並べて接着し帯状に形成したもの)等を用いた場合、対向する表面の凹部に疑似毛髪を挟み込むことにより、疑似毛髪が基板部から外れ難く、取り扱い性及び耐久性にも優れる。特に、二つ折りにした基板部の内側表面に予め粘着層が形成されたものは、生産性に優れるが、別途、両面テープ又は接着剤等を使用して疑似毛髪を固定してもよい。また、基板部を紙製とした場合は、環境保護性にも優れる。
【0031】
ここで、嵌合凹部26の直径と被嵌合部31の直径は、ほぼ同等であり、嵌合凹部26に被嵌合部31を嵌合させることにより、理美容技術練習具11は、装着部18を介して頭部模型12に着脱可能かつ回動可能に取付けられる。また、切欠き部27の幅は、軸部30の直径と同等か、軸部30の直径よりやや大きめに形成されており、軸部30を切欠き部27に係合させるようにして、理美容技術練習具11を大きく回動(傾動)させることもでき、様々な髪型に対応できる。
なお、装着部の形状及び構造は、本実施の形態に限られるものではなく、適宜、選択することができる。例えば、摺動部やガイド部等を省略して、基板部と嵌合部を一体に形成することもできる。また、理美容技術練習具は、頭部模型に着脱(装着)することができればよく、装着部と被装着部との組合せは、適宜、選択することができる。例えば、装着部側に球状の嵌合部を設け、被装着部側に球状の嵌合凹部を有する被嵌合部を設けてもよい。
理美容技術練習具11を用いてカットの練習を行った後は、疑似毛髪10が短くなって使えなくなった理美容技術練習具11のみを新しい理美容技術練習具11に交換することにより、頭部模型12を使い続けることができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【符号の説明】
【0033】
10:理美容技術習得用疑似毛髪、11:理美容技術練習具、12:頭部模型、13:毛糸、14、15:支持体、16:鍔部、18:装着部、20:基板部、21:摺動部、23:ガイド部、25:嵌合部、26:嵌合凹部、27:切欠き部、28:被装着部、29:座部、30:軸部、31:被嵌合部