(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ECCSストレイナ圧力ヘッド損失を軽減するために制御されたデブリを用いる原子炉
(51)【国際特許分類】
G21C 19/307 20060101AFI20220616BHJP
G21C 15/18 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
G21C19/307 400
G21C15/18 A
G21C15/18 G
(21)【出願番号】P 2019515368
(86)(22)【出願日】2017-11-20
(86)【国際出願番号】 US2017062471
(87)【国際公開番号】W WO2018058152
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-11-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:Proceedings of the ASME 2017 Pressure Vessels & Piping Conference タイトル:RECAPTURING NET POSITIVE SUCTION HEAD MARGINS IN BOILING WATER REACTOR EMERGENCY CORE COOLING SYSTEMS 公開者:アラン ジェイ. ビラニン アンドリュー イー. カウフマン ウォレン ジェイ. ビラニン 発行日:平成29年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】506379220
【氏名又は名称】コンティニューム ダイナミクス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CONTINUUM DYNAMICS, INC.
【住所又は居所原語表記】34 Lexington Avenue, Ewing, NJ 08618-2302, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100199277
【氏名又は名称】西守 有人
(72)【発明者】
【氏名】ビラニン, アラン, ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】カウフマン, アンドリュー, イー.
(72)【発明者】
【氏名】ティバーグ, レイモンド
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-084692(JP,A)
【文献】特表2007-537444(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0329114(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/00-15/28
19/307
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電所の冷却剤喪失事故(LOCA)
の発現の近くで始まる期間中、冷却水を循環させるための、原子力発電所における緊急炉心冷却システムであって、前記冷却システムは、
前記
LOCAの間前記冷却水
のリザーバ内に浸される
位置に設けられたストレイナであって、
前記ストレイナは、前記LOCA中に循環する前記
冷却水中のデブリを留めるための面と、
前記LOCA中に循環する前記
冷却水が前記ストレイナを通過することを許すための前記面を貫通する多孔と、を含む
、ストレイナと、
前記多孔を通じて前記冷却水を引くためのポンプであって、前記ストレイナ面の吸引側に前記ポンプを設けることで前記吸引側の反対にある前記ストレイナ面の圧力側に対して圧力降下を提供する、ポンプと、
前記緊急炉心冷却システムに設けられた複数の制御されたデブリ要素であって、
前記LOCA中に前記面の前記圧力側で前記
循環する冷却水内に巻き込まれるものである、複数の制御されたデブリ要素と、を備え、
前記ストレイナに向けた前記リザーバ内の
冷却水
の流
れに前記要素を巻き込み、複数の前記要素と前記デブリとを含むデブリ/要素レイヤを前記ストレイナ面上に堆積させるために、前記LOCA
の発現の後の時間の少なくとも一部の間前記循環する
冷却水の比重と、各要素の比重と、は実質的に同じであり、
前記要素は、前記デブリ/要素レイヤにおいて隣接する要素間に開空間を形成する
ことによって、前記ストレイナの多孔を通過することが可能な、デブリの前記デブリ/要素レイヤの通過を可能とするよう構成される緊急炉心冷却システム。
【請求項2】
各要素は、前記冷却水内の繊維状物質を捕らえる当該要素の能力を強化するための少なくともひとつ
のエッジを有する請求項
1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項3】
前記ストレイナは複数のストレイナ要素を含み、各ストレイナ要素は前記緊急炉心冷却システム内に設けられた圧力側と吸引側とを有し、その圧力側は所定の空間と対向する関係にあ
り、
各要素の最大の寸法は前記所定の空間よりも小さい請求項
1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項4】
前記複数の要素のうちの少なくともいくつかは、LOCA発現の後、少なくともひとつの温度における前記冷却水の前記比重にマッチする比重を有する請求項
1に記載の
緊急炉心冷却システム。
【請求項5】
前記複数の要素のうちの少なくともいくつかは、LOCA発現の後、二つの温度における前記冷却水の前記比重にマッチする比重を有する請求項
4に記載の
緊急炉心冷却システム。
【請求項6】
各要素はプラスチックで形成され、単一の統合ピースを備え、各要素は、LOCA発現の後、少なくともひとつの温度における前記冷却水の前記比重にマッチする比重を有する請求項
1に記載の
緊急炉心冷却システム。
【請求項7】
前記複数の要素は、それぞれが異なる比重対温度プロファイルを有する少なくとも二種類の要素を含み、要素の各種類は、LOCA発現の後、少なくともひとつの温度における前記冷却水の前記比重にマッチする比重を有する請求項
6に記載の
緊急炉心冷却システム。
【請求項8】
互いに永続的に係合されている複数の別個のピースを備える請求項1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項9】
前記複数の別個のピースは異なる比重を有する請求項8に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項10】
冷却水へ
繊維状物質および微粒子状物質を含むデブリを放出する発電所の冷却剤喪失事故(LOCA)
の発現の近くで始まる期間中、冷却水を循環させるための緊急炉心冷却システムを有する原子力発電所であって、前記冷却システムは、
前記LOCA中に冷却水リザーバ内に浸されるように設けられたストレイナであって、前記ストレイナは、当該プレートの第1の側から第2の側へと貫通する多孔と、前記第1の側から前記第2の側へと前記多孔を通じて前記循環
する冷却水を引くためのECCSポンプに接続された吸引開口と、を有する少なくともひとつのプレートを含む、ストレイナと、
前記冷却水が前記ECCSポンプによって前記プレートの前記第1の側に向けて引かれる際に、前記ストレイナ面上に、空いたスペースを伴うデブリ/要素レイヤを形成するための制御されたデブリ手段と、を備え、
前記制御されたデブリ手段は、前記プレートの前記第1の側に向けて引かれ
る水の中に、前記繊維状物質および微粒子状物質と共に巻き込まれるよう構成され、かつ、前記デブリ/要素レイヤに空いたスペースを形成することによって、前記
ストレイナの多孔を通過することが可能な
、デブリの
前記デブリ/要素レイヤの通過を可能とするよう構成される原子力発電所。
【請求項11】
前記制御されたデブリ手段は複数の制御されたデブリ要素を含む請求項
10に記載の原子力発電所。
【請求項12】
各制御されたデブリ要素は、ポリマから押し出され所望の長さに切断された単一ピースを含む請求項
11に記載の原子力発電所。
【請求項13】
前記制御されたデブリ手段は、
ポリマから押し出され所望の長さに切断されたZ型単一ピース、
シート状金属からなるZ型単一ピース、
内部のハニカム状構造を伴う一体中空ポリマシリンダ、
アコーディオン型に形成され打ち出し部を有する金属シート、
金属またはポリマコイルばね、
ランドにより隔てられた面凹部を伴うポリマ球、
一方の要素の面が他方の要素の面に恒久的に取り付けられている第1および第2L型要素、
Zの二つの脚に設けられた凸部を有するZ型要素単一ピースであってポリマから押し出され所望の長さに切断されたZ型要素単一ピース、
ポリマから押し出され所望の長さに切断された二つの曲がった脚を伴うZ型単一ピース、
のうちの少なくともひとつから実質的になるグループから選択された複数の制御されたデブリ要素を含む請求項
10に記載の原子力発電所。
【請求項14】
前記制御されたデブリ手段は、LOCA発現の後、少なくともひとつの温度における前記冷却水
の比重にマッチする比重を有する請求項
10に記載の原子力発電所。
【請求項15】
前記制御されたデブリ手段の少なくとも一部は、LOCA発現の後、二つの温度における前記冷却水の前記比重にマッチする比重を有する請求項
14に記載の
原子力発電所。
【請求項16】
前記制御されたデブリ手段は、異なる温度において異なる比重を有する二つのコホートを含み、各コホートは、LOCA発現の後、異なる温度における前記冷却水の前記比重にマッチする比重を有する請求項
10に記載の原子力発電所。
【請求項17】
前記冷却水を周囲温度に保持し且つ前記LOCA中の冷却水の前記リザーバを備える前記原子力発電所の抑制プール内で前記冷却水の表面上に前記要素を浮遊させるために、発電所の通常運転中に、前記要素の少なくともいくつかは、その周囲温度における前記冷却水の比重よりも小さい比重を有する、請求項1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項18】
複数のレセプタクルをさらに備え、各レセプタクルは、前記原子力発電所の通常運転中に前記冷却水を周囲温度に保持し且つ前記LOCA中の冷却水の前記リザーバを備える前記原子力発電所の抑制プール内に前記LOCAの発現時に放出するための所定の複数の前記要素を保持する、請求項1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項19】
前記LOCA中に循環される冷却水の前記リザーバを作るために前記LOCAの発現時に水で満たされる乾燥サンプをさらに備え、前記要素は、前記原子力発電所の通常運転中、前記乾燥サンプ内に設けられる、請求項1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項20】
発電所の通常運転中に前記冷却水を保持し且つ前記LOCA中の冷却水の前記リザーバを備える前記原子力発電所の抑制プール内で前記冷却水の底部に前記要素を静止させるために、発電所の通常運転中に、前記要素の少なくともいくつかは、その周囲温度における前記冷却水の比重よりも大きい比重を有する、請求項1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項21】
前記複数の要素は、2つの積み重ねられた要素のレイヤを伴う前記ストレイナの全ての有孔表面を覆うのに必要とされる数の要素を含む、請求項1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項22】
前記要素は、前記ストレイナの面上に開放構造を形成することで、繊維状物質を前記面から離れて分布させ且つ前記デブリ/要素レイヤ内の前記要素間に空洞を維持するように構成されている、請求項1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項23】
前記要素は、前記冷却水内にデブリが無い場合に、前記ストレイナの多孔を通る実質的に妨げられない流れを可能にするように構成される、請求項1に記載の緊急炉心冷却システム。
【請求項24】
発電所の冷却剤喪失事故(LOCA)中に循環する冷却水に巻き込まれる繊維状物質およびデブリ粒子を含むデブリを生成する、前記LOCAの発現の近くで始まる期間中、冷却水を循環させるための緊急炉心冷却システムを有する原子力発電所であって、前記冷却システムは、
前記原子力発電所の通常運転中に前記冷却水を周囲温度に保持し且つ前記LOCA中の冷却水のリザーバを備える抑制プールと、
前記抑制プール内に浸されたストレイナであって、デブリを前記循環する冷却水内に留めるための面と前記循環する冷却水が前記ストレイナを通過することを可能にするための前記面を貫通する多孔とを有する、ストレイナと、
前記ストレイナの面の吸引側に設けられており、前記リザーバ内の前記冷却水を前記ストレイナの面の圧力側に向かって流すために前記吸引側の反対にある前記ストレイナの面の圧力側に対して圧力降下を提供する、ポンプであって、前記多孔は、前記多孔よりも大きい巻き込まれた繊維状物質の通過を抑制し、且つ前記多孔よりも小さい巻き込まれたデブリ粒子の通過を可能にする大きさである、ポンプと、
前記緊急炉心冷却システムに設けられた複数の制御されたデブリ要素であって、前記LOCA中に前記面の前記圧力側で前記循環する冷却水内に巻き込まれるものである、複数の制御されたデブリ要素と、を備え、
前記複数の要素を前記リザーバ内の冷却水の前記ストレイナに向かう流れに巻き込み、複数の前記要素と前記デブリとを含むデブリ/要素レイヤを前記ストレイナの面上に堆積させるために、各要素は、周囲温度における前記冷却水の比重よりも大きい比重を有し、且つ前記抑制プール内に配備され、
前記要素は、前記デブリ/要素レイヤにおいて隣接する要素間に開空間を形成することによって、前記ストレイナの多孔を通過することが可能な、デブリ粒子の前記デブリ/要素レイヤの通過を可能とするように構成される、緊急炉心冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
本願は、2016年9月20日に出願された米国特許仮出願第62/495,636号の優先権の利益を享受する。その出願の全体は、参照により本明細書に、あたかもそれが全て記載されているかのように、組み入れられる。
【0002】
技術分野
【0003】
本発明は液体から巻き込まれた固体を除去するために使用されるストレイナにわたる圧力ヘッド損失を軽減することに関し、より詳細には、冷却剤喪失事故中に緊急炉心冷却システムのポンプによって循環される冷却水から物質を除去する、原子力発電所の吸引ストレイナにわたるヘッド損失を軽減するための制御されたデブリ要素に関する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明
【0005】
原子力発電所は、いわゆる冷却剤喪失事故(loss of cooling accident:LOCA)において、臨界原子炉領域に冷却水を循環させる緊急炉心冷却システム(ECCS)を有することが法律によって要求されている。LOCA事象では、発電所のECCSポンプは、冷却水をリザーバから原子炉炉心を通って連続的に循環させることでその温度を低下させ、リザーバに戻す。規則は、「ギロチン破壊(guillotine break)」として知られる最悪のLOCAの場合に炉心の過熱を防止するように発電所を設計することを規定している
【0006】
LOCA事象の間、沸騰水型原子炉(BWR)は一般に、原子炉格納容器領域内の抑制プールとして知られる1つ以上のリザーバから冷却水を引き込む。LOCAによって引き起こされる高圧水または蒸気の激しい噴き出しは、典型的には、様々な原子炉構成要素を破壊し、これは、断熱材の繊維状破片、コンクリートの断片、小さな塗料チップ、錆粒子、および格納領域内の様々なソースからの他の繊維状および粒子状物質などの大量のデブリを生成する。LOCAから生じる原子炉容器のブローダウンまたは減圧は、このデブリをBWR抑制プールに運ぶ。ECCSポンプによって抑制プールから汲み上げられた冷却水は、ポンプを損傷する可能性があるデブリを除去するように設計された吸引ストレイナに向かってこのデブリを運ぶ。典型的な加圧水型原子炉(PWR)は、LOCAから生じるデブリを受け入れる通常乾燥した閉じ込め領域を有する。同時に、冷却水は、原子炉水貯蔵タンク(RWST)から通常乾燥した格納領域に引き込まれ、次いで原子炉を通って再循環される。ECCSポンプはBWRと同様に、格納領域サンプ内に形成されたリザーバから冷却水を引き込む。したがって、PWR冷却水は、BWR事故で遭遇するのと同じ種類の巻き込まれた固体デブリを含むことになる。すなわち、両タイプの原子炉において、冷却水はECCSポンプによってリザーバから連続的に引き込まれ、原子炉圧力容器を通過し、格納領域の底部のリザーバに戻される。
【0007】
ストレイナは、水がECCSポンプを通過する前に、冷却水から巻き込まれたデブリを除去するために使用され、デブリがポンプを損傷し、ECCSが炉心を冷却する能力を損なうことを防止する。ストレイナは各ECCSポンプの上流のリザーバ内に配置され、ポンプがリザーバから水を引き込むときに、ストレイナに向かって運ばれる冷却水からデブリを除去する。これらのストレイナは、ポンプへの、したがって炉心への冷却水の流れを過度に遅らせることなく、ポンプまたは核燃料を汚したり損傷したりするのに十分な大きさの固体デブリを除去することができなければならない。
【0008】
LOCAによって放出された大量のデブリがストレイナ表面に蓄積するときに生じる、ストレイナに亘る圧力ヘッド損失を低減するために、ストレイナの設計にかなりの努力が費やされてきた。一般的なストレイナ設計は、冷却水から濾し取られた物質が分布する全表面積を増大させる目的で、互いに対して様々な構成で配置された複数の有孔ストレイナ要素を有する。これらのストレイナは、典型的には、ECCSポンプの吸引側が取り付けられる中央コアを含み、多孔ストレイナ要素を通して冷却水を引き込み、多孔よりも大きな破片がポンプに到達するのを防止する。従来技術は、互いに及び中央コアに対して様々な構成で配置された複数のストレイナ要素を有する無数の構成の吸引ストレイナを記載しており、例えば、米国特許第5,759,399号(本発明の譲受人に譲渡されている)、第7,211,190号、第7,848,475号(本発明の譲受人に譲渡されている)、及び第8,663,469号、及び米国特許出願公開第2013/0208847号明細書である(これらの全ては、あたかも本明細書に完全に記載されているかのように、参照により組み入れられる)。
【0009】
冷却水によって吸引ストレイナに輸送される場合、少量の繊維自体は通常問題ではないが、巻き込まれた粒子と組み合わされる場合には問題となる。繊維がストレイナ上に蓄積するにつれて、粒子は個々の繊維間の通路内に溜まり始め、粒子状物質がストレイナの多孔を通過する代わりに、ストレイナは流れから粒子状物質を濾過し始める。ストレイナ表面上に生成されるフィルタベッドは、ストレイナを通る微粒子の流れをすぐに妨げることとなりうる。このフィルタ効果に対抗する1つの方法はストレイナをより大きくし、それによって、より広い面積にわたってデブリを分散させることにより、各ストレイナ表面上のフィルタベッドの厚さを減少させることである。しかしながら、これは、原子炉格納容器領域内では吸引ストレイナのために利用可能な空間が制限されるため、および、より大きなストレイナがより高価であるため、不完全な解決策である。したがって、LOCA後に予想されるデブリ負荷は、利用可能な空間には大きすぎるストレイナを必要とする可能性がある。さらに、ストレイナを単に大きくするか、またはより多くのストレイナを使用するだけでは、ストレイナ自体のコストが増大し、また、ストレイナを設置するコストが増大する。
【0010】
米国特許第7,848,475号は、ストレイナ要素の表面が、ストレイナ要素上の繊維物質のベッドの形成を妨害するように輪郭付けられ、その結果、それほど多くの粒子状物質が捕捉されないストレイナを開示している。このストレイナ構成、特に、ワイヤメッシュクロスが輪郭付けされた表面を提供する実施の形態は、いくつかの原子力発電所に既に設置されている。それにもかかわらず、それは、ストレイナを製造するためのコストを増大させ、それを組み込むように設計されていないストレイナにワイヤメッシュクロスを改装するのにコストがかかる。
【0011】
米国特許出願公開第2013/0208847号は、ストレイナ表面上への、ECCSポンプへの冷却水の流れを低減または防止するデブリベッドの形成を軽減することを意図したストレイナ構造を開示している。ある実施の形態は、一次ストレイナ表面の上流のストレイナ上のエンクロージャ内に捕捉された複数のメッシュキューブを使用する。キューブは、それらの上に形成されるデブリベッドの密度を減少させると言われているが、ベッドがいずれにしても密度が高くなりすぎる場合、キューブは、流れが一次ストレイナ表面に進むことを可能にする破裂部をベッド床に生じさせるように曲がったり変形したりするように意図されている。本質的に、キューブは単に、ストレイナ表面に取り付けられた’475特許のワイヤメッシュクロスの変形例であり、繊維状/微粒子状ベッド形成を妨げる。メッシュキューブはまた、ストレイナのコストを著しく増大させ、’847号公報は、キューブ上に形成された繊維状/微粒子状ベッドの予定された破裂部がストレイナを通る十分な流れを可能にするという実験的証拠を提供しない。
【0012】
基本的に、これらの従来技術のアプローチの両方は、ECCSシステムのストレイナに亘る圧力ヘッド損失を過度に増加させる流れ阻止繊維状/微粒子状ベッドの形成を緩和するためにストレイナ構造を変更することを含む。出願人の’475特許に提示された実験データは、有孔ストレイナ表面の輪郭付けを含む設計変更の有効性を支持するが、本開示は既存のストレイナ構造に対する修正に依存しないアプローチを使用する。
【0013】
いくつかの原子力施設で採用されている別のアプローチは、既存の繊維状断熱材を非繊維状反射金属断熱材で置き換える。しかしながら、原子力発電所内のすべての繊維状断熱材を手作業で交換することは、費用がかかり、労力を要し、作業者の放射線被曝の厳格な制御を必要とする。さらに、既存の発電所内には、繊維状断熱材が設置されているが接近不可能な場所が非常に多く存在するので、すべての繊維状断熱材を除去することは事実上不可能である。また、発電所から全ての繊維状断熱材を除去することが可能であったとしても、ある未知の量の「潜在的」繊維が、ロープ、衣類、タープ、及び他の材料の破片などの雑多な供給源から、通常の発電所保守中にそれらを使用した後に不注意に残される可能性がある。
【発明の概要】
【0014】
このサマリは、以下に詳述される選ばれたコンセプトを、単純化された形態で、導入するためだけに提供される。本明細書で請求される主題の主要なまたは不可欠な特徴を特定することを意図するわけでは必ずしもなく、また、請求される主題の範囲を決める際の助けとして用いられることを意図するわけでも必ずしもない。
【0015】
本発明の目的は、特別なストレイナ構造を必要としない方法で、LOCA事象の間、多孔プレートECCSストレイナに亘る圧力ヘッド損失を軽減することである。
【0016】
本発明の第1の態様によれば、冷却剤喪失事故(LOCA)に応じて原子炉への循環のために水がそこから引き込まれるところの水リザーバ内に配置されたECCSストレイナを有する原子力発電所内に、複数の制御されたデブリ要素が配置されるようになっている。ストレイナは、ストレイナに向かって流れるリザーバ内の水に巻き込まれたデブリを保持するための少なくとも1つの表面を含み、LOCA中に水がストレイナを通過することを可能にするために、表面を貫通する多孔を有する。前記ストレイナに向けた前記リザーバ内の前記水流に前記要素を巻き込むために、前記LOCA発現の後の時間の少なくとも一部の間前記循環する水の比重と、各要素の比重と、は実質的に同じであり、デブリと混じり合った要素のレイヤが堆積する。前記要素は、前記デブリ/要素レイヤにおいて隣接する要素間に開空間を形成するよう構成され、そのテストは、ストレイナに亘る圧力ヘッド損失が軽減されることを示す。
【0017】
本発明の他の態様によると、冷却水へ繊維状デブリおよび粒子状デブリを放出する発電所の冷却剤喪失事故(LOCA)の発現の近くで始まる期間中、冷却水を循環させるための緊急炉心冷却システムである。システムは、前記冷却水が前記ECCSポンプによって前記ストレイナの前記圧力側に向けて引かれる際に、前記ECCSストレイナ面上に、空いたスペースを伴うデブリ/要素レイヤを形成するための制御されたデブリ手段を含む。前記制御されたデブリ手段は、前記ストレイナに向けて引かれる前記水の中に、前記繊維状物質および微粒子状物質と共に巻き込まれるよう構成され、かつ、デブリ/要素レイヤに空いたスペースを形成することによって、前記多孔および前記デブリのレイヤを水が通過することを許すよう構成される。そのような制御されたデブリ手段により、循環冷却水内に巻き込まれた繊維状物質および微粒子状物質の大きなヘッド損失デブリベッドの形成が抑止されることがテストにより確認された。
【0018】
制御されたデブリ手段は、本明細書に具体的に開示されたもの、および米国特許仮出願第62/495,636号に開示された他のもの、ならびに本明細書に記載された要素の機能を実行する同等の構造を含む、本発明の範囲内の無数の形状の要素を含むことができる。
【0019】
また、LOCA事象において、冷却水中に配備するために制御されたデブリを貯蔵する様々な方法も開示される。これらの要素は、LOCA発現時に分離するレセプタクル内に保管することができ、または通常の発電所運転中にBWR発電所の抑制プールまたはPWR発電所の乾燥サンプ内に配置することができる。
【0020】
本明細書でカバーされる主題の目的を促進するための、制御されたデブリ要素および原子力発電所設計の他の一般的および特定の態様、詳細、実施の形態、および適応は、特許請求される主題の特定の実施の形態の文脈で以下で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
添付の図面と併せて以下の好適な実施の形態の詳細な説明から本発明の目的を良く理解することができるであろう。該図面において、一貫して、同様の符号は同様の特徴を指し示す。以下は、添付の詳細な説明で用いられる図面の簡単な説明である。
【0022】
【
図1】本開示に記載される圧力損失軽減アプローチに関連する構成要素を示すBWR格納領域の概略断面図である。
【0023】
【
図2】
図1に示した原子炉格納容器領域内の一般的な多孔プレートECCSストレイナの一部の模式図である。
【0024】
【
図3】
図2に示したECCSストレイナの有孔プレート上に形成され、LOCA事象中に冷却水流中で輸送される粒子状物質を捕捉しうる繊維ベッドの概念図である。
【0025】
【
図4】
図4及び
図5は合わせて、本明細書に記載された制御されたデブリ要素が、原子力発電所の多孔プレートストレイナに亘るヘッド損失を低減する機構の1つの理論を示している。
【
図5】
図4及び
図5は合わせて、本明細書に記載された制御されたデブリ要素が、原子力発電所の多孔プレートストレイナに亘るヘッド損失を低減する機構の1つの理論を示している。
【0026】
【
図6】
図5に概略的に示された制御されたデブリ要素の好ましい実施の形態を示す。
【0027】
【
図7a】
図7a~7gを含む
図7は、本発明による制御されたデブリ要素の複数の構成を示す。
【
図7b】
図7a~7gを含む
図7は、本発明による制御されたデブリ要素の複数の構成を示す。
【
図7c】
図7a~7gを含む
図7は、本発明による制御されたデブリ要素の複数の構成を示す。
【
図7d】
図7a~7gを含む
図7は、本発明による制御されたデブリ要素の複数の構成を示す。
【
図7e】
図7a~7gを含む
図7は、本発明による制御されたデブリ要素の複数の構成を示す。
【
図7f】
図7a~7gを含む
図7は、本発明による制御されたデブリ要素の複数の構成を示す。
【
図7g】
図7a~7gを含む
図7は、本発明による制御されたデブリ要素の複数の構成を示す。
【0028】
【
図8】本発明の1つの特定の実施の形態による、水および制御されたデブリ要素の比重対温度のグラフである。
【0029】
【
図9】本発明の別の実施の形態による、水および複数の制御されたデブリ要素の比重対温度のグラフである。
【0030】
【
図10】LOCA事象に応答して冷却水中に迅速に展開することを可能にするために、本明細書に記載されるような制御されたデブリ要素を原子力発電所に貯蔵する様々な方法の概略図である。
【0031】
【
図11】本明細書に開示されるような制御されたデブリ要素を使用することの効果を研究するために、原子力発電所における吸引ストレイナの有孔プレートを通る流れをシミュレートする試験を実施するために使用される試験装置を示す。
【0032】
【
図12】本明細書に記載されるような、制御されたデブリ要素の使用が有る場合と無い場合とで、有孔プレートに亘る圧力ヘッド損失を比較する試験の結果をプロットする。
【0033】
当業者であれば、図面は厳密にサイズ通りに描かれているわけではないと容易に理解するであろうが、それでも、以下の好適な実施の形態の詳細な説明と合わせて理解された場合、本発明を実施するのに十分であることを見出すであろう。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の詳細な説明は、請求される主題を実装する様々な方法を説明する特定の実施の形態の具体的な例を提供することが意図されている。請求される主題に関する技術分野における当業者の知識レベルを考慮するように記載されている。したがって、本明細書に記載される実施の形態をそのような者が実現することができるためには不要なものとして、ある詳細は省略されうる。
【0035】
一般に、全体を通して使用される用語は、当業者によってそれらに帰せられるのであろう通常のおよび常用的な意味を有する。しかしながら、本明細書の説明で使用される用語のいくつかは明示的に定義され、その定義は全体を通して適用されることが意図される。例えば、「実質的に」という用語は、ある特性またはパラメータの別の特性またはパラメータに対する類似度を示すために使用されることがある。この手段は、特性またはパラメータの値が、その用語の使用に伴う記載の文脈において、特性またはパラメータに起因する用を達成するのに十分に類似していることである。本明細書で議論される多くの特性またはパラメータの正確な同等性は、工学的公差および動作条件における通常の変動などの要因のために可能ではないが、正確な同一性からのこのような逸脱は、本明細書では「実質的に」同じであるという意味に依然として含まれる。同様に、用語「実質的に」の省略は、2つのそのような特性またはパラメータを等しくする場合、文脈がそうでないとしない限り、それらが同一であることを意味しない。同様の考察が用語「約」に適用され、この用語は、本明細書ではパラメータの公称値が意図される効果または結果を生じる限り、ある量を変化させることができることを示すために使用されることがある。さらに、要素が「接続されている」と呼ばれる場合、要素は直接接続されるか、または一緒に結合されることができ、または1つ以上の介在要素が存在してもよい。
本発明に係る発電所構造
【0036】
図1は、蒸気パイプST(そのうちの1つだけが、説明を簡単にするために示されている)によって発電機タービンに導入される蒸気を生成する強い熱を発生させるための炉心を囲む圧力容器PVを有するBWR格納領域CAの非常に概略的な表現である。格納領域の下部は、LOCA事象中に炉心を冷却するための(1,000,000ガロンのオーダーの)水リザーバを保持する抑制プールSPを含む。PWRも、LOCA中に利用可能な冷却水のリザーバを有するが、PWR格納領域サンプは通常の原子炉運転中は乾燥しており、LOCAが検出されると水で満たされることが理解されるのであろう。両方のタイプの発電所において、
ギロチン破壊GR(上記参照)などのLOCA
事象は格納領域内への高圧水または蒸気の激しい放出を引き起こし、既に説明したように、大量の繊維状および粒子状のデブリを生成する。水または蒸気の急激な放出は、冷却材が交換されない場合の炉心の温度の急激な上昇を伴い、その温度は、冷却材が交換されない場合には、原子炉圧力容器を溶融し、放射性物質を環境中に放出する(メルトダウンとして知られる)レベルに達する可能性がある。
【0037】
そのため、原子力発電所では、臨界温度に達しないように、大量の冷却水を冷却水リザーバから炉心に循環させることができるECCSシステムが求められている。ECCSシステムは、冷却水CWをポンプEP内に引き込み、それを排出ラインEDを介して炉心に供給するために、リザーバ内に浸された多孔プレートストレイナSSの吸引コアに接続された吸引ラインESを伴う複数のECCSポンプEP(そのうちの1つのみが図示の簡略化のために示されている)を含む。
図1に示すBWR原子炉は、その中の水位WLより下のBWR抑制プールSPの中に開口する降水管DCを含む。冷却水は降水管を通って抑制プールSPに戻り、ポンプEPによって炉心に再導入される。一方、ますます多くのデブリDBがストレイナ表面に蓄積していく。
【0038】
図2は、
図1に示すECCSストレイナSSの一部を概略的に示す。
図2に示すストレイナは、基本的な積み重ねディスク設計であり、中央吸引コアSCは一連の離間したディスクによって囲まれ、各ディスクは中央コアに開口するプレナムを囲む一対の有孔プレートPPによって形成される。ポンプEPの吸引ラインESは吸引コアSCに動作可能に接続され、炉心への送達のために、多孔PHを通して冷却水CWを吸引する。
【0039】
図3は、多孔プレートPPの表面上に形成される繊維状/微粒子状ベッドの概念図である。多孔プレートPPの表面上に吸引されたデブリの繊維相FPは、プレート表面上に堆積する層であってLOCA事象によって引き起こされる格納領域内の繊維状断熱材の放出のために厚くなる層、を形成する。その結果、繊維間の隙間空間を粒子よりも小さくするのに十分な繊維が表面に蓄積されると、粒子は繊維状物質によって濾過される。微粒子が繊維間の空間に捕捉され始めると、繊維ベッドに亘る圧力降下が増大し、ベッドをさらに圧縮し、これにより繊維間の空間がさらに小さくなり、したがってより多くの微粒子が捕捉される。この濾過現象は、デブリ中の繊維対微粒子比の広範囲にわたるECCSストレイナの非常に高いヘッド損失をもたらしうる。
【0040】
現時点では、産業界は、これらの問題に対処するために、二方向のアプローチをとっている。1つは、LOCAからの損傷を受けやすいすべての発電所領域を非常に厳格に検査し、蒸気または水の高圧放出に曝されたときに粒子状物質の発生をもたらす可能性がある繊維状物質および材料の両方を除去することである。この見かけ上簡単なアプローチは、実際にはかなりの費用と、作業者の放射線への高い曝露とを伴う。第2のアプローチは、確率的リスク評価(PRA)を使用して、発電所を設計しなければならない最も厳しいLOCA(「設計基準事故」)が現在のレベルの繊維状及び粒子状デブリで炉心損傷の確率を著しく増大させないことを実証する。しかしながら、発電所の所有者は、ECCSがLOCA事象中に炉心を冷却することができるというライセンス要件を依然として満たさなければならない。既存の炉心はいずれも、現在、承認されたPRAの下で動作していないと考えられる。
【0041】
したがって、よく使用される多孔プレートストレイナで遭遇する濾過問題に対するより単純なアプローチが依然として必要とされており、それは、特別なストレイナ構造に依存せず、既存の発電所に対するコストのかかる修正に依存せず、また設計基準事故中に機能するECCSシステムの必要性を依然として排除しない厳密で費用のかかるPRAに依存しない。さらに、本明細書に提示される解決策は、他のアプローチと組み合わせて使用することができる。例えば、本明細書に記載の制御されたデブリ要素を使用することは、繊維状断熱材を除去しなければならない度合いに関する要件を緩和し、または所与の発電所に対するPRAの承認を容易にすることができる。
繊維濾過を防止するための制御されたデブリ
【0042】
本発明は、ストレイナの設計を変更することによってではなく、制御されたデブリ要素を冷却水に加えることによって、濾過の問題を解決する。このアイデアは、冷却水流に巻き込まれ、冷却水と共にストレイナに輸送される特別に設計されたデブリを加えることである。このアプローチの有効性は、以下にさらに詳細に記載される実験によって支持される。本発明者らは、本明細書に記載される制御されたデブリ要素が、従来技術のストレイナで使用されるような有孔プレートに亘るヘッド損失をなぜまたはどのように減少させるかに関して、いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、
図4および5は、本明細書に記載される有利な結果を提供すると考えられる機構を例示する。
【0043】
図4は、ストレイナの多孔プレートに向かう水流の概念図である。原理は、格納領域リザーバ内の本発明の制御されたデブリ要素100がストレイナに向かって流れる冷却水と実質的に同じ比重を有することである。このようにして、制御されたデブリ要素100は、繊維状デブリと共に冷却水中に巻き込まれ、したがって、それと密に混ぜ合わされるのであって、その結果、繊維FPおよび制御されたデブリ要素100が時間とともにプレート表面上に一緒に堆積される。その結果、繊維及び制御されたデブリは、
図5に示すように、繊維状/微粒子状/制御されたデブリ要素ベッド102が経時的に形成されるにつれて、繊維状/微粒子状/制御されたデブリ要素ベッド102全体にわたって混ぜ合わされる。(説明を明確にするために、粒子は
図5から省略されている。)流水中で混合された繊維状デブリ及び要素100を維持することは、かなりの数の繊維がプレートPPの表面上に直接堆積することを防止すると考えられる。
【0044】
制御されたデブリ要素100の第2の顕著な特徴は、それらがストレイナ表面上に開放構造を形成するように構成されることで、繊維FPが表面から離れて分布し、互いの間の空洞を維持することである。要素が有孔プレートと表面同士が接触して静止し、したがって、流れ自体を阻止することを実質的に防止する特定の形状を設計することができる。
図5はこの方向性の要素100を示し、それが繊維を表面から離れてどのように分布させ、ベッド102内の繊維間の空間を維持するのを助けるかを示す。
図5に示されるように、多孔プレート上に形成される繊維状/微粒子状/制御されたデブリベッド102の構造と、微粒子を捕捉する
図3に示される高密度繊維ベッドとの間のこの基本的な相違に留意することが重要である。
【0045】
本発明のこの態様は、ベッドが形成される表面の形状を変更することによって
図3に示されるベッドに亘る圧力ヘッド損失を軽減しようとする従来技術のアプローチ、とは根本的に異なることが理解されるのであろう。対照的に、本明細書に記載されるアプローチは、LOCAから生じる繊維と制御されたデブリ要素とが混ぜ合わされる冷却水流中に、該制御されたデブリ要素を巻き込ませる比重と、繊維が制御されたデブリ要素と共に表面上に蓄積するときに繊維を表面から離れたところに維持するストレイナ表面上に開放構造を形成する構成と、を組み合わせて含む制御されたデブリ要素を冷却水流中に導入することによって、ベッド自体の構造を変更する。
【0046】
(第1の制御されたデブリの実施の形態)
図6は、原子力発電所のLOCA中にストレイナが遭遇するであろうものをシミュレートする流れ条件下で、有孔表面上の繊維濾過ベッドの形成を軽減するその能力を決定するために試験された、制御されたデブリ要素110の第1の好ましい実施の形態を示す。要素110は、LOCA事象中に原子炉格納領域で遭遇する温度において、適切な機械的および化学的耐性を保持するプラスチック材料で作られる。要素110の1つの好ましい材料は高密度ポリエチレン(HDPE)ポリマであり、これは、冷却水と同様の比重を有し、温度および放射環境に耐える。米国特許仮出願番号62/495,636は、繊維濾過ベッド軽減のための
図6に示される制御されたデブリ要素構成の有効性を確認するために使用された試験装置および試験プロトコルを記載する。試験装置およびそれを用いて様々な種類のデブリに対して実施された試験の結果に関するさらなる詳細は、以下に記載される実施の形態に関連して議論される。
【0047】
図面に示されるように、要素110は、第1の脚112、第2の脚114、および第1および第2の脚を一体的に接続して一体要素を形成する接続脚116を有する文字「Z」の一般的な形状である。第1および第2の脚112および114は互いにほぼ平行であり、接続脚116は、両方に対して互いに垂直である。要素102の正確な寸法は、ストレイナの寸法及び生成されることが予想されるデブリの特性などの、要素102が使用される特定の発電所の環境に関連する多くの要因に依存する。任意の所与のアプリケーションにおける制御されたデブリ要素のサイズおよび形状は、本明細書に記載されるような試験によって経験的に決定することができる。本実施の形態では、第1の脚112の長さl
1は約15mmであり、第2の脚114の長さl
2は約15mmであり、接続脚の高さhは約20mmである。要素は、約3mmの均一な厚さtを有する
図6に示される一体型Z形状に押し出され、次いで、約25mmの幅wを生じるピースに切断される。
【0048】
図6から、要素110の構成を伴う複数の要素は、要素が原子炉冷却流でストレイナ上に移送されるときに、要素が互いに対して本質的にランダムに配向されるので、ストレイナ表面上に開放構造を自動的に生成することが分かる。任意の1つの要素に対する流体力学的力は、その要素が、2つの優勢な位置のうちの1つの位置でストレイナプレートの表面上に載るよう強制する傾向がある。一方の位置では、第1の脚112の縁部120と、第2の脚114が接続脚116と出会うコーナ122と、がプレート表面に接触し、他方の位置では、第2の脚114の縁部124と、第1の脚112が接続脚116と出会うコーナ126と、がプレート表面に接触する。したがって、制御されたデブリ要素110は、ストレイナ表面上にランダムに積み重なる傾向があり、それにより水の流れを可能にする開放通路を形成し、無数の表面および鋭い縁部を形成して、冷却水流中の繊維および他のデブリを捕捉する。
【0049】
代替的な制御されたデブリの実施の形態。
図6は制御されたデブリ要素の1つの好ましい実施の形態を表すが、要素は、繊維の一部を表面から離れて分布させることで、粒子状物質の通過を可能とするスペースをレイヤ内に提供する開放構造レイヤをプレート表面上に形成する態様で、要素をプレート上に載置させる実質的に任意の形状をとることができる。様々な代替構成が、米国特許仮出願番号62/495,636の
図9に示されている。これらの構成は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
実施するために使用することができる、制御されたデブリ要素構成のいくつかの例が、
図7に示されている。
図7aは、ハニカム状の内部を有する中空円筒の形状の制御されたデブリ要素150を示す。内部ハニカム状構造を形成する隔壁152および要素の外面上の隆起縁部154は、流れ中の繊維を捕捉するのを助ける鋭い縁部を提供する。
【0051】
図7bは、アコーディオン形状に折り畳まれ、打ち抜き(punch-out)部分162を有する、ステンレス鋼のシートから製造された制御されたデブリ要素160を示す。その制御されたデブリ要素は、多数の向きで吸引ストレイナの有孔プレート上に載ることができるが、図面から、これらはすべて開放構成を含むことが理解されるのであろう。
図7cは、コイルバネ170の形状の制御されたデブリ要素を示し、これは、冷却流中の繊維の一部をストレイナ表面から離れるように分布させて、ストレイナプレート中の多孔の過度の閉塞を防止する。
図7dは、ランド184によって隔てられた凹部182を有する表面を有する球状の制御されたデブリ要素180を示す。要素180は、複数の球体がストレイナ表面上に一緒にしっかりと凝集した場合でも、解放構成で積み重なることが理解されるのであろう。
図7eは、第1のL字形部品192のL字の一方の脚の面が第2のL字形部品194の脚の面に接着された、第1のL字形部品192から構成された制御されたデブリ要素の実施の形態190を示す。この構成における制御されたデブリは、本明細書に記載される制御されたデブリ要素の顕著な特徴である開放構造を提供する方法でのみ、ストレイナ表面上に載ることができることが理解されるのであろう。
【0052】
図7fは、
図6に関連して上述した要素110の変形例を表すZ字形要素210を示している。
図7fの「200シリーズ」の参照番号は、
図6の「100シリーズ」の参照番号に対応する要素を示す。制御されたデブリ要素200は、それぞれの脚212および214の外面上に突起242および244を含む。突起は脚212および214の平坦な外面がストレイナプレートと表面対表面接触して静止することを防止し、その結果、要素自体がストレイナの多孔を塞がない。
図7gは、
図6に示すZ字形要素の別の変形例を示す。
図7gの参照番号は、同じ基礎参照番号を伴う
図6の特徴に対してプライム(’)を使用する。Z字形要素110’は、直線接続脚116’によって接続された2つの曲がった脚112’および114’を含む。脚112’および114’に与えられる湾曲はまた、それらがストレイナプレートと表面対表面接触して静止することを防止する。別の変形例では、接続脚を曲げることができる。本明細書で使用される用語「Z字形」は、
図6、7f、および7gに示される特定の形状に限定されないことが理解されるのであろう。例えば、第1及び第2の脚は接続脚に対して垂直以外の向きにすることができ、互いに平行である必要はない。それらはまた、それらが接続脚と交差する縁部を越えて延びることができ、
図7fに示されるものに加えて突出部を含むことができる。
【0053】
当業者であれば、本発明のある態様が、冷却水がECCSポンプによってプレートの第1の側に向けて引かれる際に、ストレイナ面上に、空いたスペースを伴うデブリ/要素レイヤを形成するための制御されたデブリ手段を提供することを含み、制御されたデブリ手段は、プレートの第1の側に向けて引かれる水の中に、繊維状物質および微粒子状物質と共に巻き込まれるよう構成され、かつ、デブリ/要素レイヤに空いたスペースを形成することによって、多孔を通過することが可能な、デブリのレイヤの通過を可能とするよう構成されることを認識するであろう。制御されたデブリ手段は、任意の特定の構成または構造に限定されるものではなく、本明細書に開示される全ての特定の構成ならびにそれらの全ての機能的等価物を含む。
【0054】
本発明の別の重要な特徴は、制御されたデブリ要素が、それらが広範な種類のストレイナ構成で使用されることを可能にするサイズおよび形状をとることができることである。例えば、出願人の米国特許第5,759,399号に記載されたタイプのストレイナと共に使用される場合、要素は、対向するディスク表面112と116との間の空間にフィットするようなサイズおよび形状で設計される。本明細書に記載の制御されたデブリはまた、本出願人の米国特許第7,848,475号において、個々の要素のサイズを、隣接するディスクの輪郭付けされた面内にフィットするようなものにすることができる。同様に、要素は、米国特許第8,663,469号に示されているストレイナの折り畳まれた有孔プレート、または米国特許第7,211,190号および米国特許出願公開第2013/0208847号公報に記載されているストレイナの有効区画内にフィットするようなサイズにすることができる。
【0055】
それらの顕著な特性の1つである輸送特性を伴う制御されたデブリ要素を提供する目的のために、要素の比重は
図8および9にグラフで示されるように、冷却水の比重に対して制御される。
図8の曲線は、水の比重を温度(摂氏)に対してプロットしたものである。直線は、ある比重対温度プロファイルを有するように構成された制御されたデブリ要素の
特定の比重の変化をプロットし、このプロファイルは、
図4に関連して上述した方法で繊維状デブリと共に制御されたデブリ要素がストレイナに向かって輸送されるようにする。ポリマから作られた要素は、合成されるときにポリマ中に添加剤を使用することによって、所望の比重プロファイルで製造可能である。比重は温度が上昇するにつれて予測可能な方法で変化し、物質特性は、その比重がLOCA発現後の1回以上で冷却水の比重と同じになり、LOCA中の他の関連時刻で実質的に同じになるように選択される。
図8の例では、水
温が約40度
(或いは図8におけるプロットに示されるように、わずかにより低い)に達すると、制御されたデブリ要素の比重プロファイルが水の比重プロファイルと実質的に一致するように、制御されたデブリ要素が合成されるのであるが、水温40度はLOCA発現直後であり、水が約170度に達するまでである。
図8に示される制御されたデブリ要素の線形比重プロファイルは、LOCAの持続時間の間、冷却水の非線形プロファイルと正確に一致することができないことが理解されるのであろう。しかしながら、そのプロファイルは本明細書で使用される用語の意味の範囲内で、冷却水と「実質的に同じ」であり、冷却水でのそれの輸送を容易にする比重を有する任意の制御されたデブリ要素に適用されることが意図される。
【0056】
図9は、制御されたデブリ要素がLOCA冷却サイクル中にその温度が上昇するにつれて、冷却水の比重により密接にマッチする実施の形態を示す。この実施の形態では、それぞれが異なる比重プロファイルを有する3つの異なる合成の要素が使用される。これらの要素は3つのコホートで使用され、要素の総数の1/3の第1のコホートCD1は
図9に実線で示される比重プロファイルを有し、
これにより、要素の比重は、約30℃から約80℃まで冷却水の比重と実質的に同じとなる。要素の1/3の第2のコホートCD2は
図9に破線で示される比重プロファイルを有
することができ、これにより、要素の比重は、約110℃まで冷却水の比重と実質的に同じとなる。この実施形態では、第3のコホートCD3は
図9に一点鎖線で示される比重プロファイルを
有する。このようにして、冷却サイクル中の任意の所与の時間において、冷却水の比重により密接に整合する要素が流れ中に存在する。各コホート内の制御されたデブリ要素はまた、LOCAに続く冷却サイクル中に、各コホートの輸送特性を冷却水の特定の温度範囲に合わせるために、異なる比重対温度プロファイルを有する異なる材料から作製することができる。
【0057】
サマリ
図6及び
図7に示された制御されたデブリ要素の具体的な実施の形態は、水がECCSポンプによってECCSストレイナの第1の圧力側に向かって、有孔プレートを通って引き込まれ、プレートの第1の側によってストレイナの第2の吸引側に至る際に、原子力発電所内の循環冷却水に巻き込まれた繊維状及び微粒子状物質から主になるデブリベッドの形成を阻止するための制御されたデブリ手段の例としてのみ意図されていることが理解されるのであろう。このような手段は上述の機能を果たし、プレートの第1の側に向かって引き込まれた水の中の繊維状及び微粒子状物質と共に巻き込まれるように構成された任意の要素構成を含むことが意図されている。これは、本明細書及び米国特許仮出願番号第62/495,636号に開示された全てのそのような構成、及びそれらの構成の全ての等価物を含む。
制御されたデブリ要素の動作上の展開
【0058】
ポンプがストレイナを通って冷却水を引き始めるとすぐに、制御されたデブリ要素をECCSストレイナに輸送するために、制御されたデブリ要素を適切に利用することが重要である。様々な配置構成がBilanin、A.J.ら、「Recapturing Net Positive Suction Head Margins in Boiling Water Reactor Emergency Core Cooling Systems」、Proceedings of ASME 2017 Pressure Vessels & Piping Conference、2017年7月16~20日、Waikoloa,HI(「ビラニンASME文献」)に記載されており、その内容の全体は、あたかもそれが本明細書に完全に記載されているかのように、参照により組み入れられる。
【0059】
図10は必要なときにBWR内の冷却流内に迅速に展開するために、制御されたデブリ要素100を保管する様々な方法を示す。1つの方法は、降水管DCに対する上部入口に配置されたバスケット状レセプタクル302に要素を格納することである。別の方法は、抑制プールの水位WLのすぐ上の棚305に取り付けられた同様のバスケット304を使用する。別のものは、それらを、抑制プール内の降水管DCの出口にある同様のバスケット306内に搭載する。これらの配備構成では、断熱材を剥がすのには不十分な、蒸気パイプの小さな破損などの軽微な事故では要素は展開されないであろう。しかしながら、大きな破断LOCAの場合、要素を分散させるのに十分な流れが生じる。これは、プールの膨張によって、または十分な応力下でマウントからバスケットを離脱させ、その内容物を抑制プール内にはき出すようにバスケットを設計することによって、達成することができる。分散されると、ECCSポンプは、冷却水と共にそれらを吸引ストレイナに輸送する。これらの配置構成は別々にまたは組み合わせて使用され、有意なLOCAが存在しない限り、制御されたデブリ要素はプールまたは格納領域内に決して遊離しないので、プールは、プール清掃などの定期的なメンテナンスの間、制御されたデブリが無い状態のままであることができるので、有利である。
【0060】
代替の展開戦略は、参照番号308によって示されるように、通常のプール動作温度(典型的には、約26度(季節に依存する))で、プール内で浮遊することを可能にする比重を有する物質で作られた制御されたデブリ要素を使用することである。大きな破断LOCAでは、プール温度は急速に上昇し、要素は沈み始め、繊維状断熱断片と共に吸引ストレイナに輸送される。たとえ要素が常に要素プール内に存在していても、それらは通常の発電所の運転を妨害しない。例えば、多くの発電所は、高外気温運転中に冷却水を所望の温度に維持するために、残留熱除去システムを組み込んでいる。熱除去サイクルにおいてECCSポンプによってストレイナを通って水が引き込まれる場合、デブリ要素308は、吸引ストレイナに対して引き寄せられ、熱除去サイクルが完了すると、再び表面に浮遊する。以下に報告される試験結果は、本発明による制御されたデブリ要素の存在が、ストレイナを通る流れにほとんど影響を及ぼさないことを示している。
【0061】
さらに別の展開構成は、水よりもわずかに高い比重を有する要素310を使用し、そのため、それらは、通常の発電所の運転中に抑制プールの底部に存在する。LOCAが起こると、それはプール膨張および凝縮事象を誘発し、そこでは格納領域内の大気および蒸気が抑制プール内に押し込まれ、蒸気凝縮は数秒間または数分間、チャギングおよび凝縮振動を引き起こす。抑制プール内の水のこの乱れは、要素をプール底部から素早く運び、ストレイナに向かう繊維含有冷却水の流れの中に運ぶ。
【0062】
必要とされる制御されたデブリの量は、2つの積み重ねられた要素の厚さ(約30mm)に対応するレイヤを伴う特定の発電所内の全ての吸引ストレイナ上の全ての有孔プレート表面を覆うのに必要とされる量を推定することによって決定される。BWRは典型的には約93平方メートルのストレイナ面積を有し、したがって、要素によって占有される全容積は、およそ2.8立方メートルである。要素の充填密度が10%であり、比重が1.0であると仮定すると、制御される要素の全質量は272kgの範囲にある。これは、抑制プール内の冷却水の360万kgを超える全質量のごく一部である。
【0063】
格納領域がLOCAの発生まで乾燥しているPWRでは、典型的に他の展開構成が使用されることは当業者には理解されるのであろう。例えば、PWRでは、制御されたデブリを、ストレイナのすぐ近くの乾燥した格納領域サンプ内に分布させることができ、サンプが水で溢れ、ECCSポンプがストレイナを通して冷却水を引き始めると、制御されたデブリはストレイナ表面上に迅速に引き寄せられる。
動作例
【0064】
本発明者らは、米国特許仮出願番号62/495,636およびビラニンASME文献に記載された試験装置を使用して、本明細書の説明に従って制御されたデブリ要素を使用して達成された有利な結果を検証した。米国特許仮出願番号62/495,636およびビラニンASME文献における試験装置の説明、それを用いて実施された試験、および試験結果はあたかも本明細書に完全に記載されているかのように、参照により組み入れられる。以下の動作例は、これらの試験からの重要な知見および結論のいくつかを要約する。
【0065】
図11は、以下に示され、
図12にグラフで示される試験結果を生成するために使用される試験装置の概略図である。装置500は、直径約15cmの透明な管502であり、その上部504と下部506とはボルト締めされたフランジ接続508によって一緒に封止されている。フランジを解放することにより、上部と下部とを分離して、管の内側から管502の底部にある有孔プレート510へのアクセスを提供することができる。管は、有孔プレートから測定して約4.5メートルの高さにある。シールプレート512は、プレートが閉位置(図示せず)にあるときに管の底部をシールし、シールプレート512が
図11に示される開位置にあるときに管の内容物が有孔プレート510を通ってレセプタクル514内にはき出されることを可能にするように、有孔プレート510にヒンジ結合される。ブラケット516は、管を支持構造体に取り付ける。パイプ518は管の頂部に水を供給し、測定スケール520は、有孔プレートの上方の圧力ヘッドをメートルで示す。多孔プレートの真上の管内に配置された圧力変換器(図示せず)は、電気リード線によってコンバータPに接続され、コンバータPはデータ収集システムDASに信号を供給する。データ収集システムは、トランスデューサによって測定された圧力pを時間tの関数として記録する。
【0066】
試験は、管が水で満たされた後、試験混合物を管の頂部にまず導入することによって、リグの底部のストレイナ有孔プレート表面に輸送されたデブリ混合物に対して実施される。シールプレート512は開かれ、デブリ混合物は、水が多孔プレート510を通って流れるときに水の中に巻き込まれる。水が放出されると、発電所のECCSの吸引ストレイナ表面に形成されたデブリベッドをシミュレートするデブリベッドが、有孔プレート上に形成される。次に、シールプレート512を閉じ、ベッドを乱さないように注意深く管に水を再充填する。管が再充填されると、シールプレートが再び開かれ、有孔プレートのすぐ上の圧力トランスデューサが有孔プレートの上の圧力を検知し、データ収集システムは、水が管502から排出されるにつれて、圧力pを時間tの関数として記録する。
【0067】
したがって、プレート上のデブリベッドを通る速度は、測定された圧力を時間の関数として使用して導出することができる。以下の関係で始める。
p(t)=ρ×g×h(t) (1)
時間に関して式(1)を微分すると、圧力の時間変化は、水流速の関数として以下のように表される:
dp/dt=ρ×g×dh/dt (2)
ここで、ρ=水の密度、g=重力加速度、h=ベッド上の水の高さ、dh/dtはデブリベッドに接近する水の速度である。p(t)対dh/dtのプロットは、ベッドに接近する水の流速の関数として、デブリベッドを通じた圧力降下を与える。これは、次の形の速度の二次関数にフィットさせることができる:
h(t)=a×dh/dt+b×(dh/dt)2 (3)
【0068】
ECCS流量、したがって接近速度は、任意の特定の発電所について知られている。式(3)の速度を用いて、デブリベッドに亘るヘッド損失を推定することができる。ヘッド損失がその発電所のECCSポンプを作動させるのに必要な正味の正の吸引ヘッド損失よりも小さい場合、そのECCSシステムは、試験されたデブリ負荷に対して、仕様通りに動作するであろう。
【0069】
ビラニンASME文献は、
図2に関連して上述した繊維状/微粒子状ベッドによって引き起こされる吸引ストレイナ流に対する影響を実証する試験を記載している。それらの試験の結果は文献の表1に示されており、1m/秒の速度において、Performance Contracting、Inc.、Nukon(登録商標)の断熱材から採取された繊維状物質だけを含むデブリベッドを通るヘッド損失よりも約40倍高い、繊維状/微粒子状ベッドに亘るヘッド損失を生じた。これは、原子力発電所のLOCAにおける繊維状物質および粒子の放出によって引き起こされる流れ制限を緩和する効果的な方法の必要性の明確な実験的証拠である。以下の動作例は、本明細書に記載の制御されたデブリ要素がECCS吸引ストレイナに対する繊維状/微粒子状ベッドの流れ阻害効果をどのように軽減するかを示す。
【0070】
図11に示す試験装置500を用いた第1の試験セットを、上述の試験プロトコルに従って実行して、装置500の多孔プレート510上の様々なデブリベッドの流れ特性を決定した。第1の試験は、典型的な繊維状物質と粒子状物質との混合物を用いて行った。管502内の流速(メートル/秒)対圧力ヘッド(メートル)のプロットを
図12に実線で示す。これは、混合繊維状/微粒子状濾過ベッドによって引き起こされる厳しい流れ制限を示している。
【0071】
別の試験では、デブリベッドが制御されたデブリ要素のみを含んでいた。これらの要素は厚さ0.25mmのステンレス鋼シートであり、
図6に示される要素110と同様のZ字形に形成された。管内の3メートルまでの水の範囲にわたり、有孔プレートに亘る圧力ヘッド損失は実質的になかった。これは、本開示による制御されたデブリ要素が流れ抵抗をほとんどまたは全く提供しないことを確立した。流速対圧力ヘッドのプロットは、それがx軸と実質的に区別できなかったので、
図12から省略されている。
【0072】
別の一連の試験は、繊維状物質、粒子状物質、および所定体積量の制御されたデブリ要素を導入することによって行った。これを「100%量」と呼び、プレート上の繊維状/微粒子状/制御された要素ベッドを通る流速を、
図12に二点鎖線でプロットした。このプロットは、100%量の制御されたデブリ要素を用いた場合の流速に対する有利な効果を示している。例えば、1.0メートルの圧力ヘッドでは、100%量の制御されたデブリ要素を有するベッドを通る流速は、制御されたデブリ要素を有さないデブリベッドについての約0.0015m/秒(
図12の実線)と比較して、約0.066m/秒である。換言すれば、流量は、デブリベッドが形成されるにつれて、流れの中に100%の量の制御されたデブリ要素が巻き込まれることにより、40倍を超えて増加された。
【0073】
第2の試験は同じ金属の制御されたデブリ要素の半量で行われたが、それ以外は100%量試験と同一の条件下で行われた。この試験は、
図12に一点鎖線50%線でプロットされている。これは、繊維状/微粒子状ベッド上の流れ制限が100%ベッドよりも少ない程度に軽減されていることを示している。これらの試験は、制御されたデブリの量に対する圧力ヘッド損失の感度が小さいこと、及び冷却水中に放出された制御されたデブリ要素の半分がストレイナ表面上に堆積されなくても、ヘッド損失の有意な減少が依然として達成されることを実証する。これらの試験結果を合わせると、
図4および
図5に関連して上述したように、本明細書の開示に従って制御されたデブリ要素を巻き込ませることによって達成される効果の根底にあるメカニズムに関する本発明者らの信念が実証されたように思われる。
【0074】
第3組の試験は、
図6に示すプラスチックの制御されたデブリ要素を用いて、同じ条件下で行った。要素の体積は、100%量試験における金属要素の体積と同様であった。結果は、
図12に二点鎖線でプロットされている。この試験は、プラスチックデブリが金属のZ形状要素と同様のヘッド損失性能を有することを示している。プラスチック要素は水と実質的に同じ比重を有することができ、したがって、巻き込まれた繊維および微粒子と共により容易に輸送される。金属要素は典型的にははるかに大きい比重を有し、これは、冷却水中でそれらが輸送される能力を幾分損なおう。しかしながら、金属要素は、制御されたデブリ要素が乾燥サンプ内のストレイナの上方に配置され得るPWRに適用され得る。
【0075】
ここに提示した試験は、LOCA事象によって原子炉冷却水中に放出された繊維状物質に加えて、粒子状物質を含むデブリベッドの蓄積によって引き起こされる、ECCSストレイナを通る流量の厳しい制限を示す。また、それらは、本明細書に記載される特性を有する制御されたデブリ要素を冷却流に巻き込むことにより、その上に形成される繊維状/微粒子状デブリベッドによるストレイナに亘る正味正の吸引ヘッド(NPSH)の減少が実質的に軽減されることを示している。また、これらは、流れに導入される制御されたデブリ要素の数は、一般に、動作上重要な量だけNPSHの減少を軽減する度合いに影響を及ぼさないことを示している。また、それらは、通常の発電所運転中のBWR抑制プール内の要素の存在が、高外気温運転中に冷却水を所望の温度に維持する残留熱除去システムに影響を及ぼさないことを実証している。また、それらは、要素の有効性がそれらの原材料とはほとんど無関係であることを示している。
サマリ
【0076】
出願人は、本開示がLOCA中の原子力発電所におけるECCS吸引ストレイナ上の濾過ベッドの形成の問題に対する解決策を提示すると考える。本明細書に提示される試験結果は、ECCS吸引ストレイナの動作を向上させるために、本明細書に開示される制御されたデブリ要素またはその同等物などの設計されたデブリを発電所格納システムに追加することが可能であり、達成可能であることを示した。本発明はその様々な用途および実施の形態において、ストレイナが実際に微粒子フィルタになる蓋然性を低減するために、ストレイナ上の密な繊維状/微粒子状ベッドの形成を阻止する。本出願人は本明細書に記載の技術が現在の規制手順を介して既存の原子力発電所及び将来の原子力発電所で実施可能であり、繊維状断熱材を非繊維代替物に置き換えること及びPRA分析を使用することなど、同じ目的に向けられた他の産業活動を単純化することができると考える。
【0077】
本発明の特定の顕著な特徴は、原子力発電所におけるECCSストレイナに関連して特に有用であると説明されてきたが、本発明自体はそのように限定されない。例えば、本明細書に記載される制御されたデブリ要素は、ECCSストレイナに典型的に使用される有孔プレートから構成されるもの以外のストレイナ構造と共に使用することができる。加えて、本明細書に記載される制御されたデブリ要素は、ストレイナを通って吸引される液体に繊維状物質が巻き込まれる任意の環境に適用可能である。他のそのような環境の例は、発電所からの熱排除を提供する河川およびベイからの取水、または繊維状および微粒子状のデブリで汚染された供給源から引き出される冷却水を使用する任意の工業プロセスである。
【0078】
当業者であれば容易に、本発明の選択された好適な実施の形態のみが図示され説明されたことを認識するであろう。以下の請求の範囲によってのみ規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、上で特に言及されたもの以外の種々の変形や変更をなし得ることは理解されるであろう。