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  • 特許-地盤の凍結膨張解析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】地盤の凍結膨張解析方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 1/12 20060101AFI20220616BHJP
   E02D 3/115 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
E21D1/12
E02D3/115
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018027236
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2019143332
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸司
(72)【発明者】
【氏名】矢部 幸男
【審査官】三笠 雄司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186858(JP,A)
【文献】特開2017-025654(JP,A)
【文献】特開2003-020649(JP,A)
【文献】特開2012-255320(JP,A)
【文献】上田 保司, 生頼 孝博, 田村 武,"土の凍結線膨張率を取り込んだ3次元地盤変形解析",土木学会論文集C,日本,2007年09月,63巻,3号 ,p.835-847,https://doi.org/10.2208/jscejc.63.835
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00- 9/14
E02D 1/00- 3/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結膨張率が相対的に小さい砂質土層と相対的に大きい粘性土層が存在する地盤に対して凍結工法を適用した際の地盤の応力状態を求めるための地盤の凍結膨張解析方法であって、
前記砂質土層及び前記粘性土層よりも変形係数及びせん断剛性が低い接触面要素を前記砂質土層と前記粘性土層の境界に設けて解析モデルを作成し、
前記接触面要素は、凍土範囲のみでなく地山側まで延長し、
解析は、初期応力解析ステップ、凍結膨張ステップ、および掘削ステップの各施工工程それぞれに対して順に行うようにし、
各ステップにおいて、最大主応力、最小主応力、安全率を求めるようにしたことを特徴とする地盤の凍結膨張解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結工法の適用時の地盤の膨張(応力状態)を解析する方法に関する。
【0002】
従来、地盤の安定化、防水層の形成などを図る防護工として、耐力壁や止水壁を凍土壁によって形成する凍結工法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、凍結工法においては、凍結膨張による変位により凍土壁外面の土圧が増加することがある。この応力増加は凍結膨張圧と呼ばれ、また、立坑などの構造物への付加応力は凍結土圧と称される。これらを予測する慣用式としては高志(1972年)の円筒理論式があり、他にFEM解析を用いた予測手法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-264717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高志の円筒理論式は凍土壁を円筒近似し凍土壁外面の凍結膨張変位・膨張圧を予測するものであり、円筒形状以外の凍土への適用は困難である。さらに、初期地圧の影響や掘削に伴う地山応力の変化を適切に評価することができない。
【0006】
一方、FEM解析では、複雑な凍土形状に対応し逐次解析が可能であるが、凍結膨張率の小さい砂質土と大きい粘性土が存在する場合、地質の境界に過大な応力が集中する結果となるため、凍結膨張圧の算出や凍土設計には使用されていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、凍結工法の適用時の地盤の膨張(応力状態)を精度よく求めることを可能にする地盤の凍結膨張解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の地盤の凍結膨張解析方法は、凍結膨張率が相対的に小さい砂質土層と相対的に大きい粘性土層が存在する地盤に対して凍結工法を適用した際の地盤の応力状態を求めるための地盤の凍結膨張解析方法であって、前記砂質土層及び前記粘性土層よりも変形係数及びせん断剛性が低い接触面要素を前記砂質土層と前記粘性土層の境界に設けて解析モデルを作成し、前記接触面要素は、凍土範囲のみでなく地山側まで延長し、解析は、初期応力解析ステップ、凍結膨張ステップ、および掘削ステップの各施工工程それぞれに対して順に行うようにし、各ステップにおいて、最大主応力、最小主応力、安全率を求めるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の地盤の凍結膨張解析方法においては、複雑な凍土形状に対しても凍結膨張変位・膨張圧を精度よく予測することが可能になる。
【0011】
また、初期地圧の影響や掘削に伴う地山応力の変化を適切に評価することができる。
【0012】
さらに、凍土や地山の安定性を評価することができ、凍土設計に好適に用いることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る地盤の凍結膨張解析方法の説明に用いた図である。
図2】接触面要素なしと、接触面要素あり(本発明)の両ケースの解析モデルを示す図である。
図3】接触面要素なしと、接触面要素あり(本発明)の両ケースの凍結膨張時における解析結果である。
図4】接触面要素なしと、接触面要素あり(本発明)の両ケースの掘削時における解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1から図4を参照し、本発明の一実施形態に係る地盤の凍結膨張解析方法について説明する。ここで、本実施形態では、凍結工法の適用時の地盤(凍土)の膨張(応力状態)を精度よく求めるための方法に関するものである。
【0015】
具体的に、本実施形態の地盤の凍結膨張解析方法においては、図1に示すように、凍結膨張率が相対的に小さい砂質土(砂質土層)と相対的に大きい粘性土(粘性土層)が存在する場合に、水平方向の変形係数、及びせん断剛性を低減(例えば、1/100)した層厚の薄い要素(「接触面要素」)を地質境界に設けてモデル化してFEM解析(凍結膨張解析)を行うようにした。また、凍土範囲のみでなく地山側まで解析範囲を延長する。
【0016】
本実施形態の地盤の凍結膨張解析方法では、接触面要素の存在によって、鉛直方向で砂質土と粘性土は一体となって挙動するが、水平方向では、ずれが生じて引張応力がほとんど発生しないことになり、実際の挙動に近い予測が可能になる。
【0017】
言い換えれば、本実施形態の地盤の凍結膨張解析方法においては、地質境界に接触面要素を設けてモデル化することにより、実際の凍土造成時の「層境でのなじみ」、「凍土成長時のすべり」を反映することができ、すなわち、挙動が実際と近いものとなり、FEM解析で凍結膨張変位・膨張圧を精度よく予測することが可能になる。
【0018】
[実施例]
ここで、本実施形態の地盤の凍結膨張解析方法を用い、地中拡幅工事の地中立坑での3次元FEM逐次解析(掘削解析+凍結膨張解析)を行った実施例について説明する。
【0019】
図2は解析モデルを示した図(図2(a):全体)であり、本実施例では、接触面要素なし(図2(b))と、接触面要素あり(図2(c):本発明)の両ケースについて解析を行い、比較によって本実施形態の地盤の凍結膨張解析方法の優位性を確認した。
【0020】
また、解析は、初期応力解析ステップ、凍結膨張ステップ、掘削ステップの施工工程それぞれに対して順に行った。
【0021】
図3は凍結膨張時の最大主応力、最小主応力、安全率を求めた結果であり、図3(a)、図3(c)、図3(e)が接触面要素なしの最大主応力、最小主応力、安全率をそれぞれ示し、図3(b)、図3(d)、図3(f)が接触面要素あり(本発明)の最大主応力、最小主応力、安全率をそれぞれ示している。
【0022】
凍結膨張時の最大主応力の図3(a)、図3(b)を比較すると、接触面要素がない場合(図3(a))には層境(砂質土側)に過大な引張応力が発生しているのに対し、接触面要素がある場合(図3(b):本発明)には層境(砂質土側)の過大な引張応力が解消している。
【0023】
凍結膨張時の最小主応力の図3(c)、図3(d)を比較すると、接触面要素がない場合(図3(c))には層境(粘性土側)に過大な圧縮応力が発生しているのに対し、接触面要素がある場合(図3(d):本発明)には層境(粘性土側)の過大な圧縮応力が解消している。
【0024】
凍結膨張時の安全率の図3(e)、図3(f)を比較すると、接触面要素がない場合(図3(e))には層境付近の安全率が極度に低下しているのに対し、接触面要素がある場合(図3(f):本発明)には安全率の極度の低下が解消している。
【0025】
次に、図4は掘削時の最大主応力、最小主応力、安全率を求めた結果であり、図4(a)、図4(c)、図4(e)が接触面要素なしの最大主応力、最小主応力、安全率をそれぞれ示し、図4(b)、図4(d)、図4(f)が接触面要素あり(本発明)の最大主応力、最小主応力、安全率をそれぞれ示している。
【0026】
掘削時の最大主応力の図4(a)、図4(b)を比較すると、凍結膨張時と同様、接触面要素がない場合(図4(a))には層境(砂質土側)に過大な引張応力が発生しているのに対し、接触面要素がある場合(図4(b):本発明)には層境(砂質土側)の過大な引張応力が解消している。
【0027】
凍結膨張時の最小主応力の図4(c)、図4(d)を比較すると、凍結膨張時と同様、接触面要素がない場合(図4(c))には層境(粘性土側)に過大な圧縮応力が発生しているのに対し、接触面要素がある場合(図4(d):本発明)には層境(粘性土側)の過大な圧縮応力が解消している。
【0028】
凍結膨張時の安全率の図4(e)、図4(f)を比較すると、凍結膨張時と同様、接触面要素がない場合(図4(e))には層境付近の安全率が極度に低下しているのに対し、接触面要素がある場合(図4(f):本発明)には安全率の極度の低下が解消している。
【0029】
よって、本実施形態の地盤の凍結膨張解析方法によれば、複雑な凍土形状に対しても凍結膨張変位・膨張圧を精度よく予測することが可能になる。
【0030】
また、初期地圧の影響や掘削に伴う地山応力の変化を適切に評価することができる。
【0031】
さらに、凍土や地山の安定性を評価することができ、凍土設計に好適に用いることが可能になる。
【0032】
以上、本発明による地盤の凍結膨張解析方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図1
図2
図3
図4