IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士紡ホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧

<>
  • 特許-研磨パッド 図1
  • 特許-研磨パッド 図2
  • 特許-研磨パッド 図3
  • 特許-研磨パッド 図4
  • 特許-研磨パッド 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20220616BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220616BHJP
   C08J 5/14 20060101ALI20220616BHJP
   C08J 9/232 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B24B37/24 A
H01L21/304 622F
C08J5/14 CFF
C08J9/232
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018037682
(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公開番号】P2019150916
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 清
(72)【発明者】
【氏名】土肥 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】塚本 敬一
(72)【発明者】
【氏名】高木 正孝
(72)【発明者】
【氏名】柏田 太志
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-254170(JP,A)
【文献】特表2013-515379(JP,A)
【文献】特開2008-068333(JP,A)
【文献】特開2007-287879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
C08J 5/14
C08J 9/232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨するための研磨面を有する研磨層を備える研磨パッドであって、
前記研磨層への錘の落槌試験によって測定される、前記研磨層の減衰反力と前記錘の相対速度との関係が下記式(1)で表され、下記式(1)における減衰反力指数αが2.0以上である、研磨パッド。
F=CV α (1)
(式中、Fは前記研磨層の減衰反力(単位:N)、Cは比例定数(単位:N・s/cm)、Vは前記錘の前記研磨層に対する相対速度(単位:cm/s)を示す。)
【請求項2】
前記研磨層は複数の発泡樹脂ビーズを含み、前記複数の発泡樹脂ビーズは互いに結合している、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記発泡樹脂ビーズにおける樹脂はポリウレタン樹脂を含む、請求項2に記載に研磨パッド。
【請求項4】
前記発泡樹脂ビーズの前記研磨面における平均気泡径が0.01mm以上0.20mm以下である、請求項2又は3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記発泡樹脂ビーズの発泡倍率が3倍以上20倍以下である、請求項2~4のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記研磨層の見掛け密度が10g/cm3以上60g/cm3以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記研磨層が研磨砥粒を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板及び反射ミラー等の光学材料、並びに、ハードディスク用基板、シリコンウェハ及び液晶ガラス等の、高精度に平坦性が要求される材料に対して、研磨加工が行われている。そのような材料、すなわち被研磨物の平坦性を更に向上させるためには、一度研磨加工を施した後、更に、仕上げ研磨加工を施すことが行われている。
【0003】
一般に、研磨加工に用いられる軟質の研磨パッドには、湿式成膜法により作製され多数のセル(気泡)が内部に形成された樹脂製シートを備えている。例えば、特許文献1では、発泡形状を安定化させ被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドの提供を意図して、湿式成膜法により形成されたウレタン樹脂製の発泡シートを備えた研磨パッドにおいて、前記発泡シートには、被研磨物を研磨加工するための研磨面側にスキン層が形成されているとともに、非晶質炭素の粒子で形成された凝集体が該発泡シートに対し2重量%~10重量%の範囲の割合で含有されており、前記凝集体は、前記発泡シート内で略均一に分散されており、仕上げ研磨加工に使用されるものであることを特徴とする研磨パッドが提案されている。
【0004】
一方、特許文献2には、ポリシャとしての研磨寿命を延ばしたり、ラッピング砥石としての研磨材の保持強度を弱め、目詰まりによる能率の低下を抑え、ドレッシングに伴う時間的な損失を低減したり、従来よりのラップ、ポリシャ、ラッピング砥石にはない機能としてプレーティング及び電解研磨を行う機能を付加したりすることを意図して、粉末状の微細なプラスチック粒子を単独種にて、あるいは二種以上混合して、所定の方法にて焼結することにより、多孔質体を形成し、その気孔を供給される研磨剤の一時的な保持孔としたことを特徴とするプラスチックス焼結体による研磨板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-201547号公報
【文献】特開昭63-212464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のようにして湿式成膜法により作製される研磨パッドは、通常軟質であるため、仕上げ研磨加工用としては適しているものの、研磨レートについては更に改良の余地がある。また、特許文献2では、プラスチック粒子として中実の粒子を記載しているが、その中実粒子を焼結してから研磨板に用いる結果、仕上げ研磨に対応できるような研磨特性、すなわち優れた平坦性(表面粗さ)を付与できるような研磨特性が得られないことを、本発明者らは見出した。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた平坦性を被研磨物に付与するだけでなく、高い研磨レートをも実現する研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、所定の特性を有する研磨パッドが、優れた平坦性を被研磨物に付与でき、しかも高い研磨レートを実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]被研磨物を研磨するための研磨面を有する研磨層を備える研磨パッドであって、
前記研磨層への錘の落槌試験によって測定される、前記研磨層の減衰反力と前記錘の相対速度との関係が下記式(1)で表され、下記式(1)における減衰反力指数αが2.0以上である、研磨パッド。
F=CV α (1)
(式中、Fは前記研磨層の減衰反力(単位:N)、Cは比例定数(単位:N・s/cm)、Vは前記錘の前記研磨層に対する相対速度(単位:cm/s)を示す。)
[2]前記研磨層は複数の発泡樹脂ビーズを含み、前記複数の発泡樹脂ビーズは互いに結合している、上記研磨パッド。
[3]前記発泡樹脂ビーズにおける樹脂はポリウレタン樹脂を含む、上記研磨パッド。
[4]前記発泡樹脂ビーズの前記研磨面における平均気泡径が0.01mm以上0.20mm以下である、上記研磨パッド。
[5]前記発泡樹脂ビーズの発泡倍率が3倍以上20倍以下である、上記研磨パッド。
[6]前記研磨層の見掛け密度が10g/cm3以上60g/cm3以下である、上記研磨パッド。
[7]前記研磨層が研磨砥粒を含有する、上記研磨パッド。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた平坦性を被研磨物に付与するだけでなく、高い研磨レートをも実現する研磨パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】落槌試験を説明するための模式図である。
図2】本発明の研磨パッドの一例を示す模式断面図である。
図3】本発明の研磨パッドの研磨面を部分的に示す光学写真である。
図4】実施例及び比較例の研磨パッドを用いた研磨試験における研磨レートの結果を示すグラフである。
図5】実施例及び比較例の研磨パッドを用いた研磨試験における被研磨物の表面粗さの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
本実施形態の研磨パッドは、被研磨物を研磨するための研磨面を有する研磨層を備える研磨パッドであって、研磨層への錘の落槌試験によって測定される、研磨層の反力と錘の相対速度との関係が下記式(1)で表され、下記式(1)における減衰反力指数αが2.0以上である。減衰反力指数αは好ましくは3.0以上である。
F=CV α (1)
ここで、式(1)中、Fは前記研磨層の反力(単位:N)、Cは比例定数(単位:N・s/cm)、Vは前記錘の前記研磨層に対する相対速度(単位:cm/s)を示す。
【0014】
まず、減衰反力指数αを導出するための研磨層への錘の落槌試験について説明する。図1は、その落槌試験を説明するための模式図である。まず、測定対象である研磨層の試料片10を準備する。試料片10は、直径30mm、厚さ1.0mm以上5.0mm以下の寸法を有する円板状である。試料片の厚みが薄い場合は前記範囲になるように重ね試料片10とする。次に、試料片10を載置し荷重を測定するためのロードセル20、質量705.6gで直径30cm×高さ80mmの寸法を有する円柱状であるステンレス製の錘30、その錘30の上面に固定した0.2gの加速度ピックアップ40、試料片10に衝突する瞬間の錘30の速度を測定するための速度計50、及び錘30が試料片10に衝突した際の試料片10の厚さの変位を測定するための変位計60を準備する。ロードセル20、加速度ピックアップ40、速度計50及び変位計60を、それらから出力された情報を集積・解析するためのデータロガー・アナライザ70に電気的に接続する。ロードセル20としては、例えば、ユニパルス社製の型式名「UNBF-20kN」、加速度ピックアップ40としては、例えば、昭和計測器社製の型式名「MODEL-2351」、速度計50としては、例えば、衝突近傍の2点間を錘が通る時間を測定するための光電スイッチであるオムロン社製の型式名「E3T-CD122M」、変位計60としては、例えば、透過型レーザーであるキーエンス社製の型式名「IG-010」、データロガー・アナライザ70としては、例えば、ユニパルス社製の荷重指示計であるFS2000(型式名)、又は、キーエンス社製のデータロガーである型式名「NR-500」が、それぞれ挙げられる。
【0015】
次いで、試料片10をロードセル20上に載置し固定する。続いて、加速度ピックアップ40を固定した錘30を所定の高さから試料片10に向けて落下させ、試料片10に衝突させる。このときの錘30の加速度、試料片10に衝突する瞬間の錘30の速度、並びに、錘30が試料片10に衝突した時の試料片10の厚さの変位及びロードセルに付与された荷重を測定し、それらから、反力Fを導出する。なお、錘30の速度は、試料片10が固定されているため、相対速度Vと同じ値になるが、100cm/s以上400cm/s以下の範囲になるよう、落下の際の高さを調整する。反力Fはロードセル出力値によって算出される。上記の一連の操作を、錘30を落下させる高さを変更しながら、最低3回繰り返す。そして、相対速度Vと反力Fとの関係を示すプロットから得られる曲線が上記式(1)に従うことから、最も誤差の小さな近似曲線を作成することで、比例定数C及び減衰反力指数αを求める。
【0016】
上記のようにして求めた研磨層の減衰反力指数αが2.0以上であると、優れた平坦性を被研磨物に付与するだけでなく、高い研磨レートをも実現する研磨パッドが得られる要因は定かではないが、本発明者らは以下のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、減衰反力指数αが2.0以上であることは、研磨層に錘を衝突させたときの研磨層と錘との間の相対速度に応じて、研磨層の反発力が指数関数的に急激に上昇することを意味する。そのような研磨層を備える研磨パッドを用いて被加工物を早い加工速度で研磨すると、被研磨面の微細な凸部と研磨層との間の相対速度が大きくなるので、研磨層の反発力も急激に高くなる。研磨層の反発力が高いということは研磨層の見かけのばね定数が高くなることを意味するので、研磨レートも高くなる。一方、被研磨面の微細な凹部は、局部的に加工圧力が低いので研磨レートを低下させることになる。そうすると、凸部を高研磨レートで研磨する一方で凹部の研磨レートは抑制することになり、優れた平坦性を付与するために必要な凸部の研磨を選択的に促進することが可能となる。その結果、優れた平坦性を被研磨物に付与するだけでなく、高い研磨レートを実現することができる。
【0017】
一方、減衰反力指数αの上限は特に限定されないが、10.0以下であると好ましく、5.0以下であるとより好ましい。減衰反力指数αが10.0以下であると、研磨量が加工速度等に敏感に影響を受けることを抑制し、研磨レートの制御及び被研磨物の品質管理が一層容易となる傾向にある。
【0018】
上記のような減衰反力指数αを有する研磨層としては、減衰反力指数αが上記の数値範囲内にある樹脂からなるものであればよい。ただし、減衰反力指数αが上記の数値範囲を多少下回る樹脂であっても、発泡構造のような構造を制御することにより、減衰反力指数αが上記の数位範囲内にある研磨層を得ることが可能である。そのような研磨層としては、より具体的に、複数の発泡樹脂ビーズを含み、それらの複数の発泡樹脂ビーズが互いに結合しているものが挙げられる。そのような研磨層は、結合した複数の発泡樹脂ビーズ以外に、それらの隙間に充填されたポリウレタン樹脂のような樹脂を含んでもよい。ただし、本発明における作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、研磨層における複数の発泡樹脂ビーズの含有量は、研磨層の全体量100質量%に対して、80質量%以上100質量%以下が好ましく、90質量%以上100質量%以下がより好ましく、95質量%以上100質量%が更に好ましく、98質量%以上100質量%以下が特に好ましく、研磨層が複数の発泡樹脂ビーズからなることが好ましい。
【0019】
発泡樹脂ビーズは、樹脂粒子であって多数の気泡が形成されているものである。発泡樹脂ビーズの材質としては、例えば、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリサルホン樹脂及びポリイミド樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。本発明の目的を一層有効且つ確実に達成する観点から、発泡樹脂ビーズが材質としてポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。ポリウレタン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。
【0020】
ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル-エーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、ポリウレタン樹脂は熱可塑性ポリウレタン樹脂であってもよく、熱硬化性ポリウレタン樹脂であってもよく、また、ポリウレタンエラストマーであってもよい。これらの中では、減衰反力指数αを所定の数値範囲内にして、本発明の目的を一層有効且つ確実に達成する観点から、熱可塑性ポリウレタン樹脂が好ましく、ポリウレタンエラストマーが好ましく、熱可塑性ポリウレタンエラストマーがより好ましく、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを発泡ビーズ化したものが特に好ましい。
【0021】
エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリサルホン樹脂及びポリイミド樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。
【0022】
発泡樹脂ビーズの発泡倍率は、3倍以上20倍以下であると好ましく、5倍以上12倍以下であるとより好ましく、6倍以上10倍以下であると更に好ましい。発泡倍率が3倍以上であると減衰反力指数αがより高くなる傾向にあり、その結果、被研磨物の平坦性を更に優れたものとすることができる。一方、発泡倍率が20倍以下であると、研磨レート及び研磨パッドの寿命をより高めることができる。発泡倍率を上記数値範囲内に調整するには、例えば、発泡剤の種類を選択したり、発泡剤の配合量を調整したり、発泡させる際の温度(反応温度)を調整したりすればよい。発泡倍率を高めたい場合は、例えば、発泡剤として、より発泡倍率が高くなりやすいものを採用したり、発泡剤の配合量を高めたりすればよい。発泡樹脂ビーズの発泡倍率は、予備発泡器容量と発泡樹脂ビーズの質量との関係から算出される。
【0023】
研磨層における発泡樹脂ビーズの研磨面における平均気泡径は、0.01mm以上0.4mm以下であると好ましく、0.01mm以上0.3mm以下であるとより好ましく、0.05mm以上0.2mm以下であると更に好ましい。平均気泡径が0.01mm以上であると、減衰反力指数αを2.0以上に調整しやすくなる。一方、平均気泡径が0.20mm以下であると、研磨パッドの耐久性をより高めることができる。発泡樹脂ビーズの研磨面における平均気泡径は以下のようにして求められる。すなわち、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製の型式名「VH-6300」)で研磨面の約1.3mm四方の範囲を175倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(例えば、ニコン社製の商品名「Image Analyzer V20LAB Ver. 1.3」)により二値化処理して気泡個数を確認し、また、各々の気泡の面積から円相当径及びその平均値(平均気泡径)を算出する。なお、気泡径のカットオフ値(下限)を10μmとし、ノイズ成分を除外する。
【0024】
発泡樹脂ビーズの研磨面における平均気泡径を上記数値範囲内に調整するには、例えば、発泡剤の添加量の調整をすればよい。平均気泡径を大きくしたい場合は、例えば、発泡剤の添加量を増加すればよい。
【0025】
発泡樹脂ビーズの平均粒径は、2.0mm以上10.0mm以下であると好ましく、3.0mm以上8.0mm以下であるとより好ましく、3.0mm以上5.0mm以下であると更に好ましい。発泡樹脂ビーズの平均粒径が2.0mm以上であると、研磨層がより柔らかくなりスクラッチを一層抑制することができ、10mm以下であると過度に研磨層が柔らかくなることによる研磨パッドの寿命低下を抑制することができる。この平均粒径を上記数値範囲内に調整するには、例えば、発泡樹脂ビーズの原料となる樹脂粒子の粒径を調整したり、発泡剤の配合量を調整したりすればよい。この平均粒径を大きくしたい場合は、例えば、原料となる樹脂粒子の粒径を大きくしたり、発泡剤の配合量を増大させたりすればよい。発泡樹脂ビーズの平均粒径は、例えばノギスを用いて、無作為に選んだ30個以上の発泡樹脂ビーズの粒径を測定し、円相当径の算術平均として導き出すことができる。
【0026】
発泡樹脂ビーズは、複数の気泡が独立して存在する独立気泡、及び複数の気泡が連通孔でつながっている連続気泡の少なくとも一方を有する。これらのなかでも、減衰反力指数αの数値を高める観点から、発泡樹脂ビーズが独立気泡を有すると好ましく、発泡樹脂ビーズ中の気泡が独立気泡からなるとより好ましい。
【0027】
発泡樹脂ビーズは、市販品を入手しても、公知の方法にて製造してもよい。市販品の発泡樹脂ビーズとしては、例えば、BASF社製の熱可塑性ポリウレタンフォームであるMC-TPU(Micro Cell Processed TPU)の「MC380」(製品名)が挙げられる。発泡樹脂ビーズは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0028】
複数の発泡樹脂ビーズは、熱融着及び水蒸気融着等、発泡樹脂ビーズの表面を溶融すると共に接触させることで結合させることができる。あるいは、複数の発泡樹脂ビーズを、それとは別の樹脂溶液を接着剤として用いることで、互いに結合することも可能である。複数の発泡樹脂ビーズを結合する際の条件は、結合可能な条件であれば特に限定されない。複数の発泡樹脂ビーズを互いに結合したものを研磨層として用いる場合、減衰反力指数αを上記の数値範囲内にするには、例えば、発泡樹脂ビーズの材質を選択したり、発泡樹脂ビーズの発泡倍率を調整したり、発泡樹脂ビーズの研磨面における平均気泡径を調整したりすればよい。減衰反力指数αを高めたい場合、発泡樹脂ビーズの発泡倍率を高くしたり、発泡樹脂ビーズの研磨面における平均気泡径を大きくしたり、発泡樹脂ビーズの径を調整したりすればよい。また、上記の結合の際にモールドに発泡樹脂ビーズを充填してもよい。その際に、研磨砥粒や中空微粒子、その他添加剤等をモールド内に添加してもよい。これにより、研磨層に研磨砥粒や中空微粒子、その他添加剤等を含有させることができる。ここで、研磨層に含有できる研磨砥粒としては、被研磨物に応じて一般的なものが使用でき、例えば、セリア、シリカ、アルミナ、酸化マンガン及びダイヤモンド等が挙げられる。研磨砥粒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
本実施形態に係る研磨層が複数の発泡樹脂ビーズを含む場合、それ以外に、例えば、中空微粒子や複数の発泡樹脂ビーズを互いに結合するための樹脂などの他の材料を、本発明の作用効果を阻害しない程度に含んでもよい。
【0030】
研磨層の見掛け密度は、10g/cm3以上60g/cm3以下であると好ましく、20g/cm3以上50g/cm3以下であるとより好ましく、30g/cm3以上40g/cm3以下であると更に好ましい。この見掛け密度が10g/cm3以上であると、過度に研磨層が柔らかくなることによる研磨パッドの寿命低下を抑制することができ、60g/cm3以下であると、研磨層が柔らかくなりスクラッチを抑制することができる。研磨層の見掛け密度を上記の数値範囲内に調整するには、研磨層の材質を選択したり、樹脂などの固形分と気泡のような空隙の部分との割合を制御したりすればよい。研磨層の見掛け密度は、試料片の質量とサイズとを測定し、そのサイズから求めた体積と質量から算出することができる。
【0031】
研磨層の厚さは、0.1mm以上10.0mm以下であると好ましく、0.5mm以上5.0mm以下であるとより好ましい。この厚さが0.1mm以上であると、研磨層の耐久性を向上することができ、10.0mm以下であると、研磨加工時の押圧による変形が大きくなって被研磨物の平坦性を損なうことを抑制することができる。
【0032】
研磨層の硬度は、ショアA硬度で3以上95以下であると好ましく、5以上90以下であるとより好ましい。この硬度が3以上であると、研磨レートを向上することができ、95以下であるとスクラッチを抑制できる傾向にある。ショアA硬度は、例えば、日本工業規格(JIS K 7311)に従って、ショアA デュロメーターを用いて測定することができる。
【0033】
研磨層は、その研磨面に、格子状、縞状、同心円状及び放射状などの平面形状を有する溝や、ドット状の孔を有していてもよい。
【0034】
本実施形態の研磨パッドは、上述の研磨層のみを備えるものであってもよいが、研磨パッドに通常備えられ得るその他の部材を備えていてもよい。図2は、本実施形態の研磨パッドの一例を示す模式的な断面図である。図2に示す研磨パッド100は、研磨層110と、その研磨層110を支持する支持材120と、両面テープ130と、剥離紙140とを、この順に積層して備える。研磨パッド100は、研磨層110の研磨面P1を被研磨物と接触させて研磨するものである。研磨パッド100に備えられる支持材120、両面テープ130及び剥離紙140の材質や厚さは特に限定されず、従来の研磨パッドに用いられるものと同じであってもよい。本実施形態の研磨パッド100において支持材120等は必須ではないが、支持材120としては、例えばPETフィルムが挙げられ、両面テープ130としては、例えば、PETフィルムなどの可撓性の基材の両面にアクリル系粘着剤などの粘着剤層が形成されたものが挙げられる。また、支持材120は図示しない接着剤などにより研磨層110と接合していてもよい。
【0035】
研磨パッドの製造方法は、研磨層を、例えば以下のようにして作製する他は、特に限定されず、従来と同様であってもよい。研磨層は、複数の発泡樹脂ビーズを例えば上述のように結合した結合体(例えばブロック状を有する。)を、シート状に加工することにより得られる。シート状への加工方法としては特に限定されず、例えば、バルク状の結合体を、所望の厚さを有するようにスライスすることによって得てもよい。
【0036】
本実施形態の研磨パッドを用いた研磨方法は、上述の研磨パッドを用いて被研磨物を研磨する工程を有する。その具体的な一例を説明する。まず、片面研磨機の保持定盤に被研磨物を保持させる。次いで、保持定盤と対向するように配置された研磨定盤に研磨パッドを装着する。研磨パッドが両面テープ及び剥離紙を有する場合、研磨定盤に研磨パッドを装着する際、両面テープから剥離紙を剥離して、両面テープの粘着層を露出させた後、露出した粘着層を研磨定盤に接触させ押圧する。そして、被研磨物と研磨パッドとの間に、必要に応じて砥粒(研磨粒子)を含む研磨スラリを循環供給すると共に、被研磨物を研磨パッドの方に所定の研磨圧力にて押圧しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物を化学機械研磨により研磨する。研磨スラリは、特に限定されず、従来の化学機械研磨に用いられるものであってもよく、砥粒としては、被研磨物に応じて一般的なものが使用でき、例えば、セリア、シリカ、アルミナ、酸化マンガン及びダイヤモンドが挙げられる。
【0037】
本実施形態の研磨方法は、被研磨物の表面の粗さを大まかに取り除くための1次ラッピング(粗ラッピング)、2次ラッピング(仕上げラッピング)であってもよいし、その後、被研磨物の表面の平坦性を更に向上させ、かつ、表面の微細な傷を除去して鏡面化するための1次研磨(粗研磨)、2次研磨(仕上げ研磨)であってもよく、これらのうち複数の研磨を兼ねるものであってもよい。このなかでも、本実施形態の研磨方法は、研磨スラリの存在下、被研磨物を研磨する2次研磨(仕上げ研磨)であることが好ましく、具体的な研磨方法として、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)を採用することがより好ましい。
【0038】
被研磨物としては、特に限定されないが、例えば、半導体デバイス、半導体ウェハ、電子部品等の材料、特に、GaN、ダイヤモンド及びサファイヤのような難削材、Si基板(シリコンウェハ)、SiC(炭化珪素)基板、GaAs(ガリウム砒素)基板、ガラス、ハードディスクやLCD(液晶ディスプレイ)用基板等の薄型基板(被研磨物)が挙げられる。これらの中では、本実施形態の研磨パッドによる作用効果をより有効に活用できる観点から、半導体ウェハ及び難削材が好ましい。
【実施例
【0039】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
発泡樹脂ビーズとして、BASF社製の熱可塑性ポリウレタンフォームである「MC380」(製品名)を準備した。次いで、複数の発泡樹脂ビーズをモールドに充填し、スチームを用いて互いに結合するように熱融着して、ブロック状の発泡樹脂ビーズの結合体を得た。熱融着時の温度は120℃であった。そのブロック状の結合体をスライスして、スライスした面が研磨面となる研磨層のみを備える研磨パッドを得た。研磨層における各種の物性等を、上述のようにして測定した。発泡樹脂ビーズの発泡倍率は8倍、発泡樹脂ビーズの研磨面における平均気泡径は0.1mm、発泡樹脂ビーズの平均粒径は6.0mmであり、気泡は独立気泡であった。また、研磨層の見掛け密度は30g/cm3、厚さは5.0mmであった。その研磨層の研磨面の一部を示す光学写真を図3に示す。
【0041】
さらに、研磨層の減衰反力指数αを図1に示すような装置を用いて下記のようにして測定した。まず、測定対象である研磨層の円板状の試料片を準備した。試料片の寸法はφ3.0cmであった。次に、試料片を載置し荷重を測定するためのロードセル(ユニパルス社製の型式名「UNBF-20kN」)、質量705.6gで直径30cm×高さ80mmの寸法を有する円柱状であるステンレス製の錘、その錘の上面に固定した質量0.2gの加速度ピックアップ(昭和計測器社製、商品名「MODEL-2351」)、試料片に衝突する瞬間の錘の速度を測定するための速度計(オムロン社製光電スイッチ、商品名「E3T-CD122M」)、及び錘が試料片に衝突した際の試料片の厚さの変位を測定するための変位計60(キーエンス社製透過型レーザー、商品名「IG-010」)を準備した。ロードセル、加速度ピックアップ、速度計及び変位計を、それらから出力された情報を集積・解析するためのデータロガー・アナライザ(ユニパルス社製の荷重指示計であるFS2000(型式名))に電気的に接続した。
【0042】
次いで、試料片をロードセル上に載置し固定した。続いて、加速度ピックアップを固定した錘を所定の高さから試料片に向けて落下させ、試料片に衝突させた。このときの錘の加速度、試料片に衝突する瞬間の錘の速度、並びに、錘が試料片に衝突した時の試料片の厚さの変位及びロードセルに付与された荷重を測定し、この荷重を減衰反力Fとした。上記の一連の操作を、錘を落下させる高さを変更しながら、4回繰り返した。そして、相対速度Vと減衰反力Fとの関係を示すプロットから得られる曲線が上記式(1)に従うことから、最も誤差の小さな近似曲線を作成することで、比例定数C及び減衰反力指数αを求めた。その結果、減衰反力指数αは3.29であった。
【0043】
(比較例1)
研磨層としてスエードタイプの研磨布であるフジボウ愛媛(株)社製の商品名「510VL」のみを備える研磨パッドを準備した。研磨層の厚さは0.8mmであった。研磨層の減衰反力指数αを実施例1と同様にして測定したところ、1.88であった。
【0044】
〔研磨試験〕
得られた研磨パッドを、両面テープにて研磨装置の回転定盤に貼り合わせ、研磨試験を行った。研磨条件は下記のとおりであった。
研磨装置:ムサシノ電子社製ポリシング装置(商品名「MA-300D」)
研磨スラリ:(株)フジミインコーポレーテッド社製、商品名「DSC0901」、砥粒…コロイダルシリカ、砥粒濃度…39質量%、
研磨スラリ流量:3mL/分
被研磨物:SiC
定盤回転速度:15、30、60、90、120rpm
研磨圧力:26kPa
【0045】
その結果、実施例の研磨パッドを用いた場合、加工速度120rpm、加工圧力26kPaで被研磨物の表面粗さは0.66、研磨レートは0.11μm/hであった。一方、比較例の研磨パッドを用いた場合、被研磨物の表面粗さは0.58、研磨レートは0.06μm/hであった。また、定盤回転速度を変更して上述の条件で研磨試験を行った研磨レート及び被研磨物の表面粗さの結果を、実施例の研磨パッドを用いた場合を図4、比較例の研磨パッドを用いた場合を図5にそれぞれ示す。これらの結果から、実施例の研磨パッドは、比較例の研磨パッドと対比して、表面粗さを低く抑えつつも研磨レートを向上できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によると、優れた平坦性を被研磨物に付与するだけでなく、高い研磨レートをも実現する研磨パッドを提供することができるので、そのような要求のある研磨加工の分野に産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0047】
10…試料片、20…ロードセル、30…錘、40…加速度ピックアップ、50…速度計、60…変位計、70…データロガー・アナライザ、100…研磨パッド、110…研磨層、120…支持材、130…両面テープ、140…剥離紙。
図1
図2
図3
図4
図5