(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】発熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 3/10 20060101AFI20220616BHJP
A47K 13/30 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H05B3/10 A
A47K13/30 A
(21)【出願番号】P 2018060856
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】坂 晋二
(72)【発明者】
【氏名】松田 宏
(72)【発明者】
【氏名】太田 尚久
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-039012(JP,A)
【文献】特開2017-112114(JP,A)
【文献】特開2016-058269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02- 3/82
A47K 13/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲部を有する薄膜状の発熱体を備える発熱装置であって、
前記発熱体は、前記屈曲部の幅方向における電流分布の偏りを低減するための電流差低減部を有し
、
前記電流差低減部は、前記屈曲部を幅方向に複数の電流路に分離する分離部を含み、
前記複数の電流路は、互いに幅方向に分離された3つの電流路を含み、
前記3つの電流路は、外側から内側に順に配列されており、それぞれ一定の幅を有する半円弧状の電流路であり、
前記3つの電流路のそれぞれの幅は、外側から内側に向かって順に狭くなることを特徴とする発熱装置。
【請求項2】
前記3つの電流路のそれぞれの厚さは、前記3つの電流路の中で幅が広いものから狭いものの順に薄くなることを特徴とする請求項1に記載の発熱装置。
【請求項3】
前記発熱体は前記屈曲部から延びる延伸部を有し、
前記分離部は前記屈曲部から前記延伸部に延長される延長部を有することを特徴とする請求項
1または2に記載の発熱装置。
【請求項4】
前記
3つの電流路のそれぞれの幅は、前記
3つの電流路のそれぞれの抵抗値の差が小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項
1から3のいずれかに記載の発熱装置。
【請求項5】
前記
3つの電流路のそれぞれの厚さは、前記
3つの電流路のそれぞれの抵抗値の差が小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項
1から4のいずれかに記載の発熱装置。
【請求項6】
前記電流差低減部は、前記屈曲部の内側から外側に向かって前記発熱体の厚さが変化する厚さ変化部を含むことを特徴とする請求項1に記載の発熱装置。
【請求項7】
前記発熱体は、スクリーン印刷またはディスペンサ印刷により形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の発熱装置。
【請求項8】
住宅設備に設けられることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の発熱装置。
【請求項9】
前記住宅設備は、床、便座、ガラスまたは窓であることを特徴とする請求項8に記載の発熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱装置に関し、特に、住宅設備を暖める発熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
暖房便座など住宅設備を暖める発熱装置が知られている。例えば、本出願人は特許文献1において、発熱体の加熱により着座面を暖める暖房便座に関する技術を公開した。特許文献1に記載の暖房便座は、便座面を加熱する発熱体と、この発熱体への給電を行う制御手段等を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
設備を使用するユーザの快適性向上のため、設備を暖める発熱装置が備えられることが増えている。例えば、暖房便座は、折返し形状を有する薄膜発熱体により暖められており、臀部が便座に接したときの不快感を緩和して、ユーザの快適性を向上している。一方で、発熱体を常時通電することは無駄なエネルギー消費につながり望ましいとはいえない。このため、ユーザが使用していないときには無通電にし、使用するときに通電することが考えられる。このような暖房便座で、冷え切った便座が快適温度になるまでの時間(以下、「起動時間」という)が長いと、長時間待ったり、温度上昇前の便座に着座したりしてユーザの使い勝手が良いとはいえない。
【0005】
そこで、発明者らは、発熱体に大電流を流して発熱装置の起動時間を短くする観点で研究を重ね、以下の知見を得た。
まず、樹脂製の被加熱体に設けられた折返しパターンを有する薄膜発熱体に大電流を流し、その温度上昇の分布を検討した。その結果、発熱体の折返しパターンの屈曲部において、屈曲の内側部分が局所的に温度上昇し、その部分で被加熱体の樹脂が溶けたり、印刷配線に亀裂を生じたりする現象が観察された。解析の結果、これは発熱体の屈曲部において屈曲の内側に電流が集中し、温度分布に大きな偏りを生じたことによるものと判明した。
【0006】
つまり、屈曲部では半径の大きな外側の電流路より、半径の小さな内側の電流路が短く抵抗値が小さくなることにより、抵抗値に反比例するジュール熱が外側より内側で大きくなるためである。ゆっくりと加熱する場合は、熱は熱伝導により周囲に分散され、局所的な温度上昇を抑制することが可能である。しかし、短時間で加熱すると、熱伝導による分散が追いつかず、局所的な温度上昇が大きくなる。局所的な温度上昇は、発熱体の電流を増加させるに連れて顕著に大きくなるため、起動時間の短縮と、局所的な温度上昇の抑制とは二律背反の関係にある。このような課題は、暖房便座以外の発熱装置についても生じうる。
【0007】
これらから、本発明者らは、従来の発熱装置には、発熱体の温度分布の偏りを低減して局所的な温度上昇を抑制する観点で改善すべき課題があることを認識した。
【0008】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、発熱体の温度分布の偏りを低減することが可能な発熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の発熱装置は、屈曲部を有する薄膜状の発熱体を備える発熱装置であって、発熱体は、屈曲部の幅方向における電流分布の偏りを低減するための電流差低減部を有する。
【0010】
この態様によると、電流差低減部を有するため、屈曲部の幅方向における温度分布の偏りを低減することができる。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発熱体の温度分布の偏りを低減することが可能な発熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の発熱装置を示す平面図である。
【
図2】
図1の発熱装置の発熱体の一部を拡大して示す平面図である。
【
図6】
図4の発熱体の電流の流れ方を説明する図である。
【
図9】
図2の発熱装置の発熱体の温度分布を示す図である。
【
図10】第2実施形態の発熱装置の発熱体の一部を拡大して示す平面図である。
【
図13】第3実施形態の発熱装置の発熱体の一部を拡大して示す平面図である。
【
図16】
図13の発熱体から外側領域を切除した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0015】
なお、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0016】
[第1実施形態]
図1~
図3を参照して、本発明の第1実施形態に係る発熱装置について説明する。
図1は、第1実施形態の発熱装置100の一例を示す平面図である。発熱装置100は、発熱体により暖められる暖房便座である。発熱装置100は、発熱体10と、被加熱体30と、を含む。本実施形態の被加熱体30は、一例としてポリプロピレンなどの樹脂製の便座である。被加熱体30は、
図1において左右方向に長い略長円形状を有する中空環状部材である。発熱体10は、被加熱体30に沿って設けられた薄膜状の抵抗体を含む。発熱体10は、屈曲した屈曲部12と、屈曲部12から延びる延伸部14と、を複数連ねた折返しパターンを有する。発熱体10は、端子16aから端子16bに電流が供給されることによりジュール熱を発生し、被加熱体30を暖める。
【0017】
(発熱体)
図2は、発熱体10の一部を拡大して示す平面図である。
図3は、発熱体10の屈曲部12のA-A線断面図である。以下、
図2に示すように、屈曲の曲率半径の小さい側を「内側」といい、屈曲の曲率半径の大きい側を「外側」という。また、
図3に示すように、屈曲の法線に沿って内側から外側に向かう方向を「幅方向」という。また、発熱体10の厚さ方向(
図3で左右方向)を「厚さ方向」という。本実施形態の屈曲部12は、円弧状に屈曲している。本実施形態の延伸部14は、屈曲部12の両端から直線状に延びている。したがって、この部分における発熱体10は逆向きのU字形状を呈する。本実施形態の発熱体10は、屈曲部12の幅方向における電流分布(以下、単に「電流分布」という)の偏りを低減するための電流差低減部20を有する。電流差低減部20については後述する。
【0018】
(比較例)
ここで本実施形態の発熱体10を説明する前に、
図4~
図7を参照して比較例の発熱体510について説明する。
図4は、比較例に係る発熱体510を示す平面図である。
図5は、発熱体510のB-B線断面図である。比較例の発熱体510は、電流差低減部20を有しない点で本実施形態の発熱体10と相違し、他の構成は同様である。発熱体510は、屈曲部12と、延伸部14と、を有する。比較例の屈曲部12は、後述する分離部を有さず、幅方向に連続し、一定の厚さを有する。
【0019】
図6を参照して、比較例の発熱体510の電流の流れ方を説明する。
図6は、発熱体510の電流の流れ方を説明する図である。この図は、延伸部14から流れてきた電流Iが屈曲部12において内側に集中して流れる様子を模式的に示している。直線状に延びる電流路では、幅方向の位置によらず経路長が一定であるため、電流は幅方向に均一に拡散して流れる。しかし、屈曲部の内側は曲率半径が小さいため経路長が短く電気抵抗(以下、単に「抵抗」という)が小さく、屈曲部の外側は曲率半径が大きいため経路長が長く抵抗が大きい。電圧降下は内外で一定であるため、電流は、抵抗の大きな外側を避けて抵抗が小さい内側に集中して流れる。この場合、電流密度は曲率半径に反比例するので、曲率半径の内外比が大きいほど、電流密度の外内比が大きくなる。
【0020】
図7は、比較例の発熱体510の温度分布を示す図である。発熱体510に発生した熱は、熱伝導により発熱体510全体に拡がるため、時間の経過と共に発熱体510の各部で温度は均一化されるが、この図は、熱伝導による均一化が生じる前の初期状態を示している。この図において、T1(不図示)は雰囲気温度であり、T2、T3、T4、T5、T6、T7、T8、T9の順で相対的に高温であることを示している。また、T1~T9の各ステップの温度差は4degである。
【0021】
この例では、T5は発熱体510の平均温度であり、T6、T7、T8、T9の順で相対的に高温であり、T4、T3、T2の順で相対的に低温である。この図は、屈曲部12の最も外側では、その温度はT2でT5よりかなり低く、電流が殆ど流れていないことを示している。また、この図は、屈曲部12の最も内側では、その温度はT9でT5よりかなり高く、電流が集中して流れていることを示している。
【0022】
温度分布の高温部分と低温部分の温度差(以下、単に「温度差」という)は、ジュールの法則により電流の二乗に略比例すると考えられる。したがって、発熱装置の起動時間を短くするために、発熱体510に大電流を流すと、屈曲部12の内側の温度は顕著に高くなる。この温度が被加熱体30を構成する樹脂の耐熱温度や融点を超えると、その部分で溶融、変形、亀裂などが発生する。
【0023】
図2、
図3に戻り、本実施形態について説明する。発明者らのシミュレーションにより、発熱体の温度分布は、発熱体の電流分布に略一致することが確認されている。したがって、電流分布の偏りを低減することにより発熱体の温度分布の偏りを低減することができる。そこで、本実施形態の発熱体10は、屈曲部12の幅方向における電流分布の偏りを低減するための電流差低減部20を有する。
【0024】
(電流差低減部)
本実施形態の電流差低減部20は、屈曲部12を幅方向に複数の電流路に分離する分離部を含む。複数の電流路の各幅は、複数の電流路の各抵抗値の差が小さくなるように設定されてもよい。
図2の例では、屈曲部12は、二つの分離部18a、18bにより幅方向に分離された3つの電流路12a、12b、12cを含む。電流路12a、12b、12cは、この順で外側から内側に配列されており、それぞれ一定の幅を有する半円弧状の電流路である。
【0025】
分離部18a、18bは、電流路12a、12b、12cの間を電気的に分離可能なものであればよく、この例では、発熱体10の抵抗体が実質的に形成されていない帯状または筋状のスリットである。この例の分離部18a、18bは、半円弧形状を有する。分離部は、連続的に設けられてもよいし、一部に断続的な部分を含んでもよい。
【0026】
図8は、本実施形態の発熱体10の等価回路を示す図である。屈曲部12が、電流路12a、12b、12cに分離されたことにより、各電流路は独立した抵抗Ra、Rb、Rcを有し、独立して電流が流れる。各電流路の電流は、オームの法則により抵抗Ra、Rb、Rcの抵抗値に反比例する。したがって、抵抗Ra、Rb、Rcの抵抗値を調整することによりそれぞれの電流を制御することができる。なお、
図8では、Ra、Rb、Rcを、直列接続された複数の抵抗のシンボルで示しているが、それぞれは一つの抵抗を意味している。抵抗Ra、Rb、Rcの両端には、延伸部14の抵抗Rdが接続されている。
【0027】
電流路12a、12b、12cの内側の半径ra、rb、rcは、ra>rb>rcの関係を有する。また、電流路12a、12b、12cの幅Wa、Wb、Wcは、電流路12a、12b、12cの抵抗Ra、Rb、Rcの抵抗値の差が小さくなるように設定されてもよい。具体的には、幅Wa、Wb、Wcは、Wa>Wb>Wcの関係に設定されている。電流路12a、12b、12cの厚さDa、Db、Dcは互いに等しい。各電流路の抵抗は、半径に比例し、幅に反比例するため、各電流路の抵抗比は、半径ra、rb、rcの比より小さくなり、外側への電流を増やして内側への電流集中を緩和することができる。
【0028】
図9は、本実施形態の発熱体10の温度分布を示す図である。この図に示すように、屈曲部12の最も外側の温度はT3で比較例より高くなっており、この周辺の電流が増加しており、比較例と比べて、温度分布の偏りが緩和されている。
【0029】
幅Wa、Wb、Wcおよび半径ra、rb、rcは、各電流路の抵抗Ra、Rb、Rcの抵抗値が互いに等しくなるように設定されてもよい。例えば、幅Wa、Wb、Wcおよび半径ra、rb、rcは、ra/Wa、rb/Wbおよびrc/Wcが互いに等しくなるように設定されてもよい。
【0030】
図3の説明では、電流路12a、12b、12cの厚さDa、Db、Dcは、抵抗Ra、Rb、Rcの抵抗値の差が小さくなるように設定されてもよい。具体的には、厚さDa、Db、Dcは、Da>Db>Dcの関係に設定されてもよい。この場合、内側への電流集中を一層緩和することができる。電流路の数、電流路の幅および電流路の厚さは、所望の特性に応じて、シミュレーションにより設定することができる。
【0031】
次に、発熱体10の製造方法について説明する。発熱体10は、公知の様々な薄膜パターン製造方法によって製造することができる。一例として、発熱体10は、エッチング、プレス、めっき、気相成長、印刷またはこれらの併用によって製造されてもよい。本実施形態の発熱体10は、スクリーン印刷またはディスペンサ印刷により形成されている。ディスペンサ印刷は、例えば、ディスペンサの吐出口を印刷箇所に沿ってなぞりながら発熱体となる原料ペーストを塗布することにより発熱体を印刷する。この場合、大がかりな設備を用いることなく、高精度の発熱体を製造することができる。また、発熱体を印刷で製造することにより、発熱体の各部位(例えば各電流路)の厚さを変えて製造することが容易にできる。
【0032】
発熱体10は、被加熱体30に直接形成されてもよいし、例えば樹脂フィルムなどの基材に形成された発熱体10を被加熱体30に貼付けしてもよい。また、治具上に形成された発熱体10を被加熱体30に転写してもよい。
【0033】
図1の例では、発熱装置100の被加熱体30が便座である例について示したが、発熱装置100の適用範囲はこれに限定されない。発熱装置100は、壁、床、ガラス、テーブル、机、椅子、浴槽または窓を含む住宅設備に適用されてもよい。以上が、第1実施形態の発熱装置100の説明である。
【0034】
[第2実施形態]
次に、
図10~
図12を参照して、本発明の第2実施形態に係る発熱装置について説明する。
図10は、第2実施形態の発熱装置200の発熱体210の一部を拡大して示す平面図である。発熱体210の屈曲部12の断面は、第1実施形態と同じである。本実施形態の発熱装置200は、発熱体210の分離部の構成が異なる点で第1実施形態の発熱装置100と相違し、その他の構成は同様である。本実施形態の分離部は屈曲部から延伸部に延長される延長部を有する。延長部を有することにより、延伸部は幅方向に複数の電流路に分離される。
【0035】
図10の例の分離部は、分離部18a、18bの両端からから延伸部14に延長される延長部18c、18dを有する。本実施形態の延伸部14は、2つの延長部18c、18dにより、3つの電流路14a、14b、14cを含む。
図11は、発熱体210の等価回路を示す図である。延伸部14が、電流路14a、14b、14cに分離されたことにより、各電流路はそれぞれ抵抗Re、Rf、Rgを有する。
【0036】
このため、電流路14aと電流路12aとは直列に接続され、式(1)で示す抵抗Raeを有する。
Rae=Ra+2・Re ・・(1)
また、電流路14bと電流路12bとは直列に接続され、式(2)で示す抵抗Rbfを有する。
Rbf=Rb+2・Rf ・・(2)
また、電流路14cと電流路12cとは直列に接続され、式(3)で示す抵抗Rcgを有する。
Rcg=Rc+2・Rg ・・(3)
【0037】
電流路12a、12b、12cに電流路14a、14b、14cが直列に接続されたことにより、各電流路の抵抗Rae、Rbf、Rcgの抵抗値の大きさは接近し、内側に流れる電流と外側に流れる電流の差が小さくなる。
図12は、発熱体210の温度分布を示す図である。この図に示すように、屈曲部12の最も外側の温度T3の領域が第1実施形態より狭くなっており、この周辺の電流が増加している。また、屈曲部12の最も内側の温度はT6であり、第1実施形態より低くなっており、この部分への電流集中が一層緩和されている。第1実施形態と比べて、屈曲部12の内側と外側の温度の差が小さくなり、全体的に温度分布の偏りが緩和されている。
【0038】
延長部18c、18dの延伸長は、所望の特性に応じて、シミュレーションにより設定することができる。以上が、第2実施形態の発熱装置200の説明である。
【0039】
[第3実施形態]
次に、
図13~
図15を参照して、本発明の第3実施形態に係る発熱装置について説明する。
図13は、第3実施形態の発熱装置300の発熱体310の一部を拡大して示す平面図である。
図14は、発熱体310の屈曲部12のC-C線断面図である。本実施形態の発熱装置300は、発熱体310の電流差低減部20の構成が異なる点で第1実施形態の発熱装置100と相違し、その他の構成は同様である。本実施形態の発熱体310の電流差低減部20は、電流路の数が8であり、屈曲部12の内側から外側に向かって発熱体310の厚さが変化する厚さ変化部24を含む。厚さ変化部24を含むことにより、屈曲部12の幅方向における電流分布の偏りを低減することができる。
【0040】
本実施形態の厚さ変化部24は、屈曲部12から延伸部14にわたって形成されている。
図13の厚さ変化部24は、屈曲部12において、外側から順に、8つの電流路12s、12t、12u、12v、12w、12x、12y、12zが設けられている。つまり、電流路12s~12zの各内側半径r1~r8は、r1>r2>r3>r4>r5>r6>r7>r8の関係を有する。電流路12s~12zは、互いに分離されていてもよいし、隣り合う電流路と接していてもよい。
【0041】
図14に示すように、電流路12s~12zのそれぞれの厚さD1~D8は、それぞれの抵抗値の差が小さくなるように設定されている。具体的には、厚さD1~D8は、D1>D2>D3>D4>D5>D6>D7>D8の関係に設定されている。この場合、内側への電流集中を緩和することができる。
【0042】
また、電流路12s~12zの幅W1~W8は、W1>W2=W3=W4=W5=W6=W7=W8の関係を有する。特に、最も外側の電流路12sの幅W1を隣接する電流路12tの幅W2より大きくしたことにより、電流路12sに流れる電流を増やし、内側への電流集中を一層緩和することができる。
【0043】
図13の厚さ変化部24は、延伸部14において、外側から順に、8つの電流路14s、14t、14u、14v、14w、14x、14y、14zが設けられている。電流路14s~14zは、電流路12s~12zの両端から直線状に延びている。電流路14s~14zの幅と厚さは電流路12s~12zと等しく形成されている。延伸部14に厚さ変化部24が設けられることにより、電流路14s~14zの抵抗が電流路12s~12zの抵抗に直列接続され、合成抵抗値の差を小さくすることができる。
【0044】
図15は、発熱体310の温度分布を示す図である。この図に示すように、屈曲部12の最も外側の温度はT3で、第1実施形態より高く、この周辺の電流が増えている。屈曲部12の最も内側の温度はT6で、第1実施形態より低く、この部分への電流集中が一層緩和されている。つまり、第1実施形態と比べ、屈曲部12全体の温度分布の偏りが一層緩和されている。
【0045】
図14の説明では、電流路12s~12zが、隣接する電流路と接している例を示したが、電流路12s~12zの間は絶縁されてもよい。例えば、電流路12s~12zの間には分離部が設けられてもよい。
【0046】
発熱体310について、電流が少ない外側の領域を切除してもよい。
図16は、発熱体310から外側領域310cを切除した状態の発熱体310Bを示す平面図である。発熱体310Bは、発熱体310と同様の温度分布を示すと考えられる。電流が少ない領域を切除することによって、発熱体を構成する材料を節約することができる。
【0047】
電流路12s~12zおよび電流路14s~14zの幅と厚さは、所望の特性に応じて、シミュレーションにより設定することができる。以上が、第3実施形態の発熱装置300の説明である。
【0048】
本発明の一態様の概要は、次の通りである。本発明のある態様の発熱装置100は、屈曲部12を有する薄膜状の発熱体10を備える発熱装置であって、発熱体10は、屈曲部12の幅方向における電流分布の偏りを低減するための電流差低減部20を有する。
【0049】
この態様によると、屈曲部の経路長の違いに応じて幅や厚さを変えて抵抗の差を小さくし、内外の電流差を抑制して局所的な電流集中を緩和することができる。その結果、発熱体の温度分布の偏りを減らして内側の領域の異常発熱を抑制し、被加熱体の溶融や印刷配線の亀裂などの発生の可能性を小さくすることができる。このことにより、発熱装置の起動時の電流を増やして起動時間を短縮することが容易になる。
【0050】
電流差低減部20は、屈曲部12を幅方向に複数の電流路12a、12b、12cに分離する分離部18a、18bを含んでもよい。この場合、分離された複数の電流路ごとにその幅や厚さを変えて抵抗の差を小さくすることができる。抵抗の差を小さくすることにより電流集中を緩和し温度分布の偏りを減らすことができる。
【0051】
発熱体10は屈曲部12から延びる延伸部14を有し、分離部は屈曲部12から延伸部14に延長される延長部18c、18dを有してもよい。この場合、延伸部14の電流路も分離され、それぞれ電流路12a、12b、12cに直列につながるので、抵抗の差を小さくして電流の内外差を減らし、温度分布の偏りを一層減らすことができる。
【0052】
複数の電流路12a、12b、12cのそれぞれの幅は、複数の電流路12a、12b、12cのそれぞれの抵抗値の差が小さくなるように設定されてもよい。この場合、電流の内外差が小さくなり、温度分布の偏りを減らすことができる。
【0053】
複数の電流路12a、12b、12cのそれぞれの厚さは、複数の電流路12a、12b、12cのそれぞれの抵抗値の差が小さくなるように設定されてもよい。この場合、電流の内外差が小さくなり、温度分布の偏りを減らすことができる。
【0054】
電流差低減部20は、屈曲部12の内側から外側に向かって発熱体310の厚さが変化する厚さ変化部24を含んでもよい。この場合、厚さ変化部24により電流分布の偏りを低減して温度分布の偏りを減らすことができる。
【0055】
発熱体10は、スクリーン印刷またはディスペンサ印刷により形成されてもよい。この場合、発熱体10の部位ごとに厚さを変化させた電流路を容易に形成することができる。
【0056】
本発熱装置は住宅設備に設けられてもよい。この場合、住宅設備の暖房の起動時間を短くすることが容易になり、早く暖かくなる住宅設備を提供することができる。
【0057】
前述の住宅設備は、床、便座、ガラスまたは窓であってもよい。この場合、床、便座、ガラスまたは窓の暖房の起動時間を短くすることが容易になる。床、便座、ガラスまたは窓に接するユーザの快適性を向上することができる。
【0058】
以上、本発明の各実施形態をもとに説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0059】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0060】
[変形例]
各実施形態の説明では、屈曲部が曲線的に湾曲する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、屈曲部は、矩形の角のように折れ曲がる形状であってもよい。
【0061】
第1実施形態の説明では、電流路の数(分割数)が3である例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。電流路の数は、複数であればよく、2であってもよいし、4以上であってもよい。
【0062】
第1実施形態の説明では、電流路12a、12b、12cの厚さDa、Db、Dcが互いに等しい例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。厚さDa、Db、Dcは互いに異なっていてもよい。
【0063】
第3実施形態の説明では、各電流路12s~12zの厚さD1~D8が段階的に変化する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、発熱体の厚さは屈曲部の内側から外側に向かって連続して変化してもよい。
【0064】
第3実施形態の説明では、電流路12t~12zの幅W2~W8が互いに等しい例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、発熱体の幅W2~W8は、互いに異なってもよい。
【0065】
第3実施形態の説明では、電流路の数が8である例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。電流路の数は、複数であればよく、7以下であってもよいし、9以上であってもよい。
【0066】
上述の各変形例は各実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0067】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0068】
なお、図面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【符号の説明】
【0069】
10、210、310、310B、510・・発熱体、 12・・屈曲部、 12a~12z・・電流路、 14・・延伸部、 14a~14z・・電流路、 18a、18b・・分離部、 18c、18d・・延長部、 20・・電流差低減部、 24・・厚さ変化部、 30・・被加熱体、 100、200、300・・発熱装置。