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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】車両試験システム
(51)【国際特許分類】
   B61K 13/00 20060101AFI20220616BHJP
   B61F 5/24 20060101ALI20220616BHJP
   G01M 17/08 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B61K13/00 Z
B61F5/24 Z
G01M17/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018068565
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177784
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】大山 寛人
(72)【発明者】
【氏名】河田 直樹
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-218790(JP,A)
【文献】特開2015-188272(JP,A)
【文献】特開2014-126451(JP,A)
【文献】特開2008-044563(JP,A)
【文献】特開2007-132885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 13/00
B61F 5/24
G01M 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両における乗り心地の確認の試験を行う車両試験システムであって、
前記鉄道車両に設けられた加速度センサと、
鉄道の非営業線の軌道に設けられた試験用レールと、
前記試験用レール上の前記鉄道車両に予め設定された周波数の振動を加える加振手段と、
前記加振手段によって振動が加えられた状態での前記加速度センサからの検出信号データに基づいて、前記鉄道車両の乗り心地レベルを判定する判定手段と、を備え
前記加振手段は、一定の周期且つ同位相で左右に湾曲する部分、一定の周期且つ同位相で上下に湾曲する部分、及び、一定の周期且つ互いに反転する位相で上下に湾曲する部分の少なくとも一部分を有している前記試験用レールによって構成されている、車両試験システム。
【請求項2】
前記加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段によって算出された前記特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、
前記マハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段と、を更に備え、
前記判定手段は、前記比較手段における比較結果に応じて前記鉄道車両の乗り心地レベルを判定する、請求項1に記載の車両試験システム。
【請求項3】
前記加振手段は、前記鉄道車両に設けられる正常な空気バネの共振周波数で前記鉄道車両を振動させる、請求項1又は2に記載の車両試験システム。
【請求項4】
鉄道車両における乗り心地の確認の試験を行う車両試験システムであって、
前記鉄道車両に設けられた加速度センサと、
鉄道の非営業線の軌道に設けられた試験用レールと、
前記試験用レール上の前記鉄道車両に予め設定された周波数の振動を加える加振手段と、
前記加振手段によって振動が加えられた状態での前記加速度センサからの検出信号データに基づいて、前記鉄道車両の乗り心地レベルを判定する判定手段と、を備え、
前記加振手段は、前記試験用レールを上下及び左右に振動させる振動装置によって構成されている、車両試験システム。
【請求項5】
前記加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段によって算出された前記特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、
前記マハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段と、を更に備え、
前記判定手段は、前記比較手段における比較結果に応じて前記鉄道車両の乗り心地レベルを判定する、請求項4に記載の車両試験システム。
【請求項6】
前記振動装置は、1Hz~50Hzの範囲の周波数で前記鉄道車両を振動させる、請求項4又は5に記載の車両試験システム。
【請求項7】
スイープ信号を生成する信号生成部を更に備え、
前記振動装置は、前記スイープ信号に基づいて前記試験用レールを上下及び左右に振動させる、請求項4~6のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項8】
前記信号生成部は、0.2Hz~20Hzの範囲で前記スイープ信号を生成する、請求項に記載の車両試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に用いられる車両試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行時の安全性などを確保するため、車体或いは走行装置にセンサを設置し、走行状態の異常の有無や台車部品などの劣化を監視する装置が開発されている(例えば、特許文献1)。例えば特許文献1に記載の装置は、運行している鉄道車両に設置された加速度センサを備えており、加速度センサで検出された加速度の特定周波数帯の信号を所定時間毎に積分することで、得られた積分値と所定時間前の積分値との差に基づいて鉄道車両の状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-211400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両の乗り心地まで考慮した車両の検査は、鉄道車両における部品の劣化スピードと作業効率とを考慮して、一般的には、例えば月に1回程度の頻度で行われている。しかし、様々な原因によって部品の劣化が早まることで、所望の乗り心地を得られない鉄道車両が走行している場合がある。一方、車両の検査の頻度を単に増加させれば、メンテナンスを行う人員の作業負担が増大するおそれがある。
【0005】
特許文献1に記載されている手法では、上述したように、運行している鉄道車両の振動に起因する加速度を検出することで、鉄道車両の状態が判定されている。このような手法では、上記加速度をリアルタイムで検出することが可能となるが、加速度に異常値が検出された場合、運行中の鉄道車両を車庫などに収容してメンテナンスを行う必要があるため、鉄道車両の運行スケジュールに影響を与えるおそれがある。
【0006】
本発明は、鉄道車両の運行スケジュールにも影響を与えることなく、作業負担の少ない乗り心地の確認のための試験を実施できる車両試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る車両試験システムは、鉄道車両における乗り心地の確認の試験を行う車両試験システムであって、鉄道車両に設けられた加速度センサと、鉄道の非営業線の軌道に設けられた試験用レールと、試験用レール上の鉄道車両に予め設定された周波数の振動を加える加振手段と、加振手段によって振動が加えられた状態での加速度センサからの検出信号データに基づいて、鉄道車両の乗り心地レベルを判定する判定手段と、を備える。
【0008】
この車両試験システムは、試験用レール上の鉄道車両に予め設定された周波数の振動を加える加振手段を有しており、加振手段によって加振された鉄道車両に生じる加速度の検出結果に基づいて、任意のタイミングで乗り心地レベルを判定できる。したがって、車両の検査の頻度に依らず、乗り心地を確認するための試験の作業負担を低減することができる。また、この車両試験システムでは、鉄道車両への加振が行うための試験用レールが非営業線の軌道に設けられている。これにより、乗り心地を確認するための試験の実施にあたって運行スケジュールに影響を与えてしまうことも回避できる。
【0009】
車両試験システムは、加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する第1の算出手段と、第1の算出手段によって算出された特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、マハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段と、を更に備えてもよい。判定手段は、比較手段における比較結果に応じて鉄道車両の乗り心地レベルを判定してもよい。鉄道車両の振動には、乗客が心地よいと感じる周波数と不快と感じる周波数とが含まれている。マハラノビスの距離を用いて判定を行うことにより、周波数毎の乗り心地に対する寄与度の違いを考慮した乗り心地レベルの判定を容易かつ適確に実行できる。
【0010】
加振手段は、一定の周期且つ同位相で左右に湾曲する試験用レールによって構成されていてもよい。この場合、試験対象の鉄道車両が試験用レール上を走行するだけで、当該鉄道車両に左右方向成分の振動を発生させることができる。
【0011】
加振手段は、一定の周期且つ同位相で上下に湾曲する試験用レールによって構成されていてもよい。この場合、試験対象の鉄道車両が試験用レール上を走行するだけで、当該鉄道車両に上下方向成分の振動を発生させることができる。
【0012】
加振手段は、一定の周期且つ互いに反転する位相で上下に湾曲する試験用レールによって構成されていてもよい。この場合、試験対象の鉄道車両が試験用レール上を走行するだけで、当該鉄道車両に上下方向成分及び左右方向成分の振動を発生させることができる。
【0013】
加振手段は、鉄道車両に設けられる正常な空気バネの共振周波数で鉄道車両を振動させてもよい。この場合、鉄道車両を効率的に所望の振れ幅で振動させることができる。
【0014】
加振手段は、試験用レールを上下及び左右に振動させる振動装置によって構成されていてもよい。この場合、振動装置によって鉄道車両を停止させた状態で加振することができる。また、振動装置により、加振する周波数の調整が容易なものとなる。
【0015】
振動装置は、1Hz~50Hzの範囲の周波数で鉄道車両を振動させてもよい。この周波数範囲で加振を行うことにより、乗り心地レベルの判定精度を向上できる。
【0016】
スイープ信号を生成する信号生成部を更に備え、振動装置は、当該スイープ信号に基づいて試験用レールを上下及び左右に振動させてもよい。この場合、乗り心地レベルの判定に要する時間を短縮できる。
【0017】
信号生成部は、0.2Hz~20Hzの範囲でスイープ信号を生成してもよい。この場合、鉄道車両を短時間に所望の周波数範囲で振動させることができる。したがって、乗り心地レベルの判定に要する時間を短縮できると共に乗り心地レベルの判定精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鉄道車両の運行スケジュールにも影響を与えることなく、作業負担の少ない乗り心地の確認のための試験を実施できる車両試験システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る車両試験システムの全体構成を説明するための図である。
図2図1に示した車両試験システムの一部のブロック図である。
図3図1に示した車両試験システムの一部のブロック図である。
図4】加速度センサからの検出信号データの一例を示す図である。
図5】加速度センサからの検出信号データの一例を示す図である。
図6】周波数毎の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
図7】周波数毎の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
図8図1に示した加振手段を説明するための図である。
図9図8に示した加振手段の部分拡大図である。
図10図8に示した加振手段の部分拡大図である。
図11図8に示した加振手段の部分拡大図である。
図12】乗り心地レベルの判定の比較例を説明するための図である。
図13】乗り心地レベルの判定の比較例を説明するための図である。
図14】本発明の第2実施形態に係る車両試験システムにおける加振手段の部分拡大図である。
図15】本発明の第2実施形態に係る車両試験システムにおける加振手段の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
[第1実施形態]
【0021】
まず、図1を参照して、車両試験システムの物理的構成について説明する。図1は、車両試験システムの全体構成を説明するための図である。車両試験システム1は、鉄道車両2に配置された各種機器と加振手段10とを有している。鉄道車両2は、図1に示されているように、複数の車両20によって構成されている。車両試験システム1は、加振手段10によって少なくとも1つの車両20に振動を加え、当該振動を解析することで鉄道車両2における乗り心地の確認の試験を行う。
【0022】
鉄道車両2は、各車両20に、台車21と、空気バネ22と、加速度センサ23と、演算ユニット24と、中継ユニット25と、統括ユニット26とを有する。空気バネ22は、車両20の車体と台車21との間に設けられており、車両20の振動を抑制する。
【0023】
加速度センサ23は、各車両20の振動を検出する部分である。演算ユニット24は、主として車両20の乗り心地レベルを判定する部分である。ここで、「乗り心地レベル」とは、乗り心地の良し悪しを示す度合いである。中継ユニット25は、各演算ユニット24の判定結果を中継して、統括ユニット26に向けて送信する部分である。統括ユニット26は、各演算ユニット24から受信した判定結果の報知や記録を行う部分である。
【0024】
加速度センサ23は、図1に示されているように、鉄道車両2の台車21の直上に配置されている。本実施形態では、加速度センサ23は、心皿の直上(車両20の床上、床中、又は床下における台車21の回転中心に対応する位置)に配置されている。加速度センサ23は、車両20の妻部27,28(車両20の長手方向の端部を構成する妻構体によって構成される部分)に配置されていてもよいし、妻近傍の側壁(例えば側構体)又は、妻近傍の天井(例えば屋根構体)に配置されていてもよい。
【0025】
演算ユニット24は、車両20の一方の妻部27に配置されている。演算ユニット24は、運転台などを有する乗務員室を備えた車両20の少なくとも1つ(例えば、先頭車両20及び後尾車両20)のみに設けられていてもよい。中継ユニット25は、例えば車両20の他方の妻部28に配置されている。統括ユニット26は、例えば鉄道車両2の先頭車両20及び後尾車両20にそれぞれ配置されている。統括ユニット26は、運転台などを有する乗務員室を備えた車両20の少なくとも1つのみに設けられていてもよい。演算ユニット24、中継ユニット25、及び統括ユニット26は、車内と車外のいずれに配置されてもよい。
【0026】
次に、図2を参照して、加速度センサ23、演算ユニット24、及び中継ユニット25の機能的構成について説明する。図2は、車両試験システム1の一部である加速度センサ23、演算ユニット24及び中継ユニット25を示している。
【0027】
加速度センサ23は、車両20の振動に応じて生ずる車両20の上下方向、左右方向及び前後方向の加速度をそれぞれ検出する。加速度センサ23で検出された加速度は、逐次、演算ユニット24へ送信される。
【0028】
演算ユニット24は、図2に示されているように、受信部31と、状態演算部32と、単位空間データベース33と、通信部34とを有している。受信部31は、同一車両20に設けられた少なくとも1つの加速度センサ23からの検出信号データを受信する。受信部31は、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0029】
状態演算部32は、受信部31で受信された加速度センサ23からの検出信号データに基づいて、車両20の状態を判定する。本実施形態では、状態演算部32は、MTS(Mahalanobis-Taguchi System)によって、車両20の乗り心地レベルを判定する。具体的には、状態演算部32は、単位空間データベース33を参照してマハラノビスの距離を算出し、算出されたマハラノビスの距離と閾値とを比較することで車両20の乗り心地レベルを判定する。状態演算部32は、乗り心地レベルの判定結果を通信部34へ出力する。
【0030】
単位空間データベース33は、MTSに用いられる予め取得された単位データ(単位空間データ)を格納している。単位データは、正常な鉄道車両2が正常な線路を走行した際の特性データである。単位データは、加速度センサ23から出力されたn個の検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換したものであり、周波数毎の加速度に関するn個のデータである。換言すれば、単位データは、加速度に関する情報を周波数毎に示すデータである。
【0031】
単位データは、例えば、m個の鉄道車両IDと単位データとが路線ID毎及び時刻毎に予め格納されている。ここで、鉄道車両ID及び路線IDは、それぞれ、鉄道車両の車両種別と路線の種別を示す。物理的に同一の鉄道車両2が異なる時間に別の用途で使われる場合があるため、このような場合を考慮して、異なる鉄道車両IDが物理的に同一の鉄道車両2に付されてもよい。例えば、朝は特急快速として利用されていた鉄道車両2が昼は普通列車として利用される場合や乗客を乗せていた鉄道車両2が回送列車として走行する場合がある。鉄道車両IDは、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの鉄道車両2の走行形態を示すものであってもよいし、普通車及びグリーン車などの各車両20の等級を示すものであってもよい。
【0032】
本実施形態では、単位データは、周波数毎の加速度を示すデータ、すなわち、加速度の周波数特性(加速度の周波数スペクトル)を示すデータである。単位データは、加速度に関する情報を示すデータであればこれに限定されない。単位データは、例えば、周波数毎のPSD(Power Spectral Density、パワースペクトル密度関数)を示すデータ、すなわち、PSDの周波数特性(PSDの周波数スペクトル)であってもよい。
【0033】
通信部34は、隣接する中継ユニット25との間で、状態演算部32で判定された車両20の状態(乗り心地レベルの判定結果)などの情報について送受信を行う部分である。通信部34は、隣接する車両20及び同一車両20に配置されている中継ユニット25と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。通信部34は、隣接する中継ユニット25を介して統括ユニット26から鉄道車両ID及び路線IDの少なくとも1つを受信(取得)した場合には、受信した鉄道車両ID及び路線IDの少なくとも1つを状態演算部32に出力する。通信部34で受信される路線IDは、鉄道車両2が走行する予定の路線IDである。
【0034】
中継ユニット25は、機能的な構成要素として、例えば通信部41を有している。通信部41は、隣接する演算ユニット24、又は統括ユニット26との間の送受信を中継する部分である。通信部41は、隣接する車両20及び同一車両20に配置されている演算ユニット24又は統括ユニット26と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0035】
次に、図3を参照して、統括ユニット26の機能的構成について詳細に説明する。図3は、車両試験システム1の一部である統括ユニット26を示している。
【0036】
統括ユニット26は、通信部51と、報知部52と、判定結果格納部53とを有している。通信部51は、外部の車両基地及び隣接する中継ユニット25との間で情報の送受信(通信)を行う部分である。通信部51は、車両20に配置された中継ユニット25に対して、例えばBluetoothなどの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0037】
通信部51は、例えば判定結果受信部54と、ID受信部55とを含んでいる。判定結果受信部54は、隣接する中継ユニット25から受け取った判定結果を報知部52と判定結果格納部53とにそれぞれ出力する。また、ID受信部55は、鉄道車両ID及び路線IDの少なくとも1つを車両基地から受信し、中継ユニット25を介して各演算ユニット24にそれぞれ送信する。鉄道車両ID及び路線IDの少なくとも1つを送信する車両基地は、例えば駅構内や各電車区内に位置している。車両基地から送信される路線IDは、鉄道車両2がこれから走行する予定の路線のIDであってもよい。
【0038】
報知部52は、通信部51から受け取った判定結果を報知する部分である。報知部52は、例えばディスプレイを備え、鉄道車両2の走行時に車両20毎の判定結果を表示する。判定結果格納部53は、判定結果を格納する部分である。判定結果格納部53には、例えば通信部51が判定結果を受け取った時刻と判定結果とが関連付けられて格納される。
【0039】
次に、演算ユニット24における鉄道車両2の状態を判定する手法について詳細に説明する。状態演算部32は、図2に示されているように、第1の算出部36(第1の算出手段)と、第2の算出部37(第2の算出手段)と、比較部38(比較手段)と、判定部39(判定手段)とを有する。
【0040】
第1の算出部36は、受信部31で受信された加速度センサ23からの検出信号データを高速フーリエ変換することで、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する。本実施形態では、第1の算出部36は、加速度センサ23によって異なる時間に(異なる走行区間で)加速度センサ23から出力された複数の検出信号データをそれぞれ高速フーリエ変換した後に平均することで上記特性データを算出する。
【0041】
例えば、第1の算出部36は、8つの異なる走行区間毎に加速度センサ23から8つの検出信号データを取得し、8つの検出信号データをそれぞれ高速フーリエ変換する。第1の算出部36は、高速フーリエ変換された8つのデータを平均することで特性データを算出する。第1の算出部36は、加速度センサから出力された、上下方向、左右方向、及び前後方向の検出信号データから、それぞれ上記特性データを算出する。
【0042】
本実施形態では、第1の算出部36は、周波数毎の加速度を示す特性データ、すなわち、加速度の周波数特性を算出する。第1の算出部36によって算出される特性データは、加速度に関する情報を示すデータであればこれに限定されない。例えば、第1の算出部36は、単位空間データベース33に格納されている単位データが周波数毎のPSDのデータである場合に、周波数毎のPSDを示す特性データ、すなわち、PSDの周波数特性を算出してもよい。
【0043】
図4及び図5は、加速度センサ23からの検出信号データの一例として、上下方向の加速度の時間特性を示している。縦軸は加速度を示しており、横軸は時間を示している。図6及び図7は、第1の算出部36によって算出された特性データの一例として、上下方向の加速度に関する特性データを示している。縦軸は加速度を対数で示しており、横軸は周波数を対数で示している。図4及び図6は、乗り心地が正常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。図5及び図7は、乗り心地が異常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
【0044】
第2の算出部37は、第1の算出部36によって算出された特性データと単位空間データベース33に格納されている単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する。本実施形態では、第1の算出部36が、上下方向、左右方向、及び前後方向の検出信号データからそれぞれ特性データを算出している。このため、第2の算出部37は、上下方向、左右方向、及び前後方向の特性データに基づいて、それぞれマハラノビスの距離を算出する。
【0045】
本実施形態では、第2の算出部37は、演算ユニット24が設けられている鉄道車両2の鉄道車両ID、及び当該鉄道車両2が走行する予定の路線IDの少なくとも1つを取得し、これらに基づいて、単位空間データベース33から、マハラノビスの距離を算出するための単位データを抽出する。第2の算出部37は、通信部34から鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する予定の路線IDの少なくとも1つを取得する。この場合、第2の算出部37は、抽出された単位データと、第1の算出部36によって算出された特性データとを用いてマハラノビスの距離を算出する。すなわち、第2の算出部37は、通信部34で取得された情報に応じた単位データに基づいてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部37によって抽出される単位データは、ユーザによって設定されていてもよい。マハラノビスの距離は、各車両20に設けられた演算ユニット24の第2の算出部37によって車両20毎に算出されてもよいし、1つの第2の算出部37によって、先頭車両20から後尾車両20までの全ての車両20についてまとめて算出されてもよい。
【0046】
第2の算出部37は、例えば、鉄道車両IDから普通車両かグリーン車両かを判定する。第2の算出部37は、普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する単位データを単位空間データベース33から抽出し、普通車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部37は、グリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する単位データを単位空間データベース33から抽出し、グリーン車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部37は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて、異なる単位データを抽出して、走行形態に応じたマハラノビスの距離を算出してもよい。
【0047】
比較部38は、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離を、予め設定された閾値と比較する。具体的には、比較部38は、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であるか否か判定する。本実施形態では、比較部38は、上下方向、左右方向、及び前後方向のマハラノビスの距離について、それぞれ比較を行う。
【0048】
本実施形態では、比較部38が用いる閾値は「4」であり、比較部38は、算出されたマハラノビスの距離が「4」以上であるか否かを判定する。判定部39は、比較部38における比較結果に応じて車両20の乗り心地レベルを判定する。本実施形態では、比較部38は、演算ユニット24が設けられている鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する予定の路線IDの少なくとも1つを取得し、これらに基づいて上記閾値を決定する。比較部38は、通信部34から鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する予定の路線IDの少なくとも1つを取得する。すなわち、比較部38は、通信部34で取得された情報に応じて閾値を決定する。上記閾値は、ユーザによって設定されてもよい。
【0049】
判定部39は、比較部38における比較結果に応じて、鉄道車両の乗り心地レベルを判定する。本実施形態では、判定部39は、上下方向、左右方向、及び前後方向についてそれぞれ乗り心地レベルを判定する。判定部39は、例えば、比較部38においてマハラノビスの距離が「4」以上であると判定された場合に、乗り心地レベルが不良であると判定する。例えば、図6に示した特性データでは、第2の算出部37によって、「4」未満のマハラノビスの距離が導出される。この場合、判定部39は、乗り心地レベルは良好であると判定する。図7に示した特性データでは、第2の算出部37によって、「4」以上のマハラノビスの距離が導出される。この場合、判定部39は、乗り心地レベルが不良であると判定する。鉄道車両2の乗り心地レベルの判定は、各車両20に設けられた演算ユニット24の判定部39によって車両20毎に算出されてもよいし、1つの判定部39によって、先頭車両20から後尾車両20までの全ての車両20についてまとめて判定されてもよい。
【0050】
通信部34は、判定部39で乗り心地レベルが不良と判定された場合(比較部38が第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であると判定した場合)に、その判定結果と第1の算出部36で算出された特性データとを、隣接する中継ユニット25を介して統括ユニット26に送信する。この場合、統括ユニット26の通信部51は、外部の車両基地に判定部39で乗り心地レベルが不良であると判定されたことを示すデータを送信(通知)する。通信部34は、直接、統括ユニット26との間、又は、外部の車両基地との間で情報の送受信を行ってもよい。例えば、通信部34は、判定部39で乗り心地レベルが不良と判定された場合に、その判定結果と第1の算出部36で算出された特性データとを、直接、統括ユニット26又は外部の車両基地に送信してもよい。
【0051】
次に、鉄道車両2に振動を加える加振手段10の構成について詳細に説明する。図8は、加振手段を説明するための図である。図8には、鉄道の線路60、線路60上を走行する鉄道車両2、車庫61、及び加振手段10を上方から見た状態が示されている。
【0052】
線路60は、鉄道車両2が通常時に乗客を乗せた状態で運行する営業線62、及び営業線62以外の線路である非営業線63を含んでいる。図8に示されているように、鉄道車両2を車庫61に収容するための非営業線63は、営業線62から分岐している。営業線62から分岐した非営業線63は更に複数の非営業線64に分岐し、分岐した複数の非営業線64は車庫61内に延在している。
【0053】
加振手段10は、図8に示されているように、非営業線63が営業線62から分岐する位置と、非営業線63が複数の非営業線64に分岐する位置との間に設けられている。換言すれば、加振手段10は、非営業線64が営業線62に合流する直前の位置に設けられている。非営業線63の軌道には、試験用レール65が設けられている。加振手段10は、上下方向(Z方向)及び左右方向(Y方向)に、試験用レール65上の鉄道車両2に予め設定された周波数の振動を加える。上下方向は、鉛直方向であり、左右方向は、一の軌道を構成する一対のレールの幅方向である。第1実施形態では、加振手段10は、試験用レール65によって構成されている。
【0054】
試験用レール65は、鉄道車両2の車輪の幅に対応する一定の軌間で配置された一対のレールであり、長手方向(前後方向,X方向)において一定の周期で湾曲する第1部分65aと、第2部分65bと、及び第3部分65cとを有している。湾曲の周期は、長手方向において10mよりも短い周期である。この構成によって、鉄道車両2が試験用レール65上を走行した際に、第1部分65a、第2部分65b、及び第3部分65cの各々における湾曲の周期に対応して、予め設定された周波数の振動が鉄道車両2に加えられる。鉄道車両2に加えられる振動の周波数は、鉄道車両2に設けられる正常な空気バネ22の共振周波数であることが好ましい。
【0055】
試験用レール65は、第1部分65aにおいて、図9に示されているように一定の周期且つ同位相で左右に湾曲している。換言すれば、第1部分65aでは、一の軌道を構成する一対のレールが、試験用レール65の長手方向(X方向)と上下方向(Z方向)とに直交する方向(Y方向)に一定の周期で湾曲している。すなわち、第1部分65aでは、通り狂いが意図的に形成されている。
【0056】
第1部分65aにおける湾曲によって、第1部分65aを走行する鉄道車両2に左右方向の振動が加わる。第1部分65aは、例えば、正常な鉄道車両に対して左右方向に約2Hz~約3Hzの振動を与える周期で湾曲していることが好ましい。この際、当該鉄道車両は、車両基地構内の制限速度、例えば時速5km程度で第1部分65aを走行することが好ましい。
【0057】
試験用レール65は、第2部分65bにおいて、図10に示されているように一定の周期且つ同位相で上下に湾曲している。換言すれば、第2部分65bでは、一の軌道を構成する一対のレールが、同位相で上下方向に一定の周期で湾曲している。第2部分65bでは、一対のレールが同位相で湾曲しているため、試験用レール65の幅方向(Y方向)から見た場合に一対のレールの各頭頂面が当該幅方向において重なっている。すなわち、第2部分65bでは、一対のレールの各々に高低狂いが意図的に形成されている。
【0058】
第2部分65bにおける湾曲によって、第2部分65bを走行する鉄道車両2に上下方向の振動が加わる。第2部分65bは、例えば、正常な鉄道車両に対して上下方向に約1Hzの振動を与える周期で湾曲していることが好ましい。この際、当該鉄道車両は、車両基地構内の制限速度、例えば時速5km程度で第2部分65bを走行することが好ましい。
【0059】
試験用レール65は、第3部分65cにおいて、図11に示されているように一定の周期且つ互いに反転する位相で上下に湾曲している。換言すれば、第3部分65cでは、一の軌道を構成する一対のレールが、逆位相で上下方向に一定の周期で湾曲している。第3部分65cでは、一対のレールが逆位相で湾曲しているため、試験用レール65の幅方向(Y方向)から見た場合に各頭頂面65dが上下方向に互い違いに位置している。すなわち、第3部分65cでは、一対のレールの各々に高低狂いが意図的に形成されていると共に、一対のレール間で水準狂いも意図的に形成されている。
【0060】
第3部分65cにおける湾曲によって、第3部分65cを走行する鉄道車両2に上下方向及び左右方向の振動が加わる。第3部分65cは、正常な鉄道車両に対して上下方向に約1Hz、左右方向に約2~約3Hzの振動を与える周期で湾曲していることが好ましい。この際、当該鉄道車両は、車両基地構内の制限速度、例えば時速5km程度で第3部分65cを走行することが好ましい。
【0061】
次に、車両試験システム1の作用効果について説明する。鉄道車両2が加振手段10である試験用レール65を所定のスピードで走行すると、第1部分65a、第2部分65b、及び第3部分65cのそれぞれの湾曲にしたがって、鉄道車両2は予め定められた周波数で振動する。加速度センサ23は、加振手段10によって鉄道車両2に生じた振動を、上下方向、左右方向、及び前後方向の加速度として検出する。状態演算部32は、加振手段10によって振動が加えられた状態で、加速度センサ23から出力された検出信号データに基づいて、鉄道車両2の乗り心地レベルを判定する。
【0062】
このように、第1実施形態に係る車両試験システム1は、試験用レール65上の鉄道車両2に予め設定された周波数の振動を加える加振手段10を有しており、加振手段10によって加振された鉄道車両2に生じる加速度の検出結果に基づいて、任意のタイミングで乗り心地レベルを判定できる。したがって、車両の検査の頻度に依らず、乗り心地を確認するための試験の作業負担を低減することができる。また、この車両試験システム1では、鉄道車両2への加振を行うための試験用レール65が非営業線63の軌道に設けられている。これにより、乗り心地を確認するための試験の実施にあたって運行スケジュールに影響を与えてしまうことも回避できる。例えば、運行直前又は直後の鉄道車両2に対して車両試験を行うことができる。
【0063】
鉄道車両の振動には、乗客が心地よいと感じる周波数と不快と感じる周波数とが含まれている。すなわち、周波数によって乗り心地に対する寄与度が異なる。このため、例えば、図12及び図13で示されているように、鉄道車両に生じる振動の周波数成分の違いを考慮した乗り心地の基準線と特性データとを比較して、乗り心地レベルを判定することが考えられる。図12は、乗り心地の基準線(a),(b),(c),(d)と乗り心地が正常な状態の特性データ(e)とを示している。図13は、乗り心地の基準線(a),(b),(c),(d)と乗り心地が異常な状態の特性データ(f)とを示している。基準線(a),(b),(c),(d)は、(a),(b),(c),(d)の順で、より良い乗り心地に対応している。例えば、基準線(a)は普通車両の乗り心地の基準を示す基準線であり、基準線(b)はグリーン車両の乗り心地の基準を示す基準線である。
【0064】
特性データが上述した基準線を上回るほど、当該特性データが得られた車両20の乗り心地が悪いことを示している。例えば、図12において、特性データ(e)は、乗り心地が正常な状態(乗り心地が良好な状態)の特性データであるため、基準線(a),(b),(c),(d)のいずれよりも下に位置している。一方、図13において、特性データ(f)の一部が(b)及び(c)の基準線よりも上に位置している。このため、特性データ(f)が取得された鉄道車両2は、特性データ(e)が取得された鉄道車両2よりも乗り心地が悪いことが分かる。しかしながら、この手法では、特性データがどの位置でどの程度だけ基準線を上回った場合に乗り心地が不良と判定するのが適切かを判断し難い。
【0065】
第1実施形態に係る車両試験システム1では、第1の算出部36によって算出された周波数毎の加速度に関する特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離が算出される。算出されたマハラノビスの距離は、所望の周波数範囲について単位データとの周波数毎の違いを考慮した単一のデータである。車両試験システム1では、このようにして算出されたマハラノビス距離と閾値とが比較されることで鉄道車両の乗り心地レベルが判定されている。このように、車両試験システム1では、マハラノビスの距離を用いて判定が行われることにより、鉄道車両2が走行している状態で、周波数毎の乗り心地に対する寄与度の違いを考慮した乗り心地レベルの判定を容易かつ適確に実行できる。
【0066】
第1の算出部36は、異なる時間に加速度センサ23から出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した後に平均することで、特性データを算出する。このため、加速度センサ23による誤検出の影響を低減することができる。
【0067】
単位データは、正常な鉄道車両2が正常な線路を走行した際の特性データであり、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサ23から出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでいる。このため、鉄道車両2と線路との双方の劣化、及び、時間の違い又は走行区間の違いによる加速度センサ23の検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0068】
加振手段10は、一定の周期且つ同位相で左右に湾曲する試験用レール65によって構成されている。このため、試験対象の鉄道車両2が試験用レール65上を走行するだけで、当該鉄道車両2に左右方向成分の振動を発生させることができる。左右方向において乗り心地が不良であると判定された場合、左右動ダンパ及びヨーダンパの故障を推測することができる。
【0069】
加振手段10は、一定の周期且つ同位相で上下に湾曲する試験用レール65によって構成されている。このため、試験対象の鉄道車両2が試験用レール上を走行するだけで、当該鉄道車両2に上下方向成分の振動を発生させることができる。上下方向において乗り心地が不良であると判定された場合、空気ばねのパンク及び軸ダンパの故障を推測することができる。
【0070】
加振手段10は、一定の周期且つ互いに反転する位相で上下に湾曲する試験用レール65によって構成されている。このため、試験対象の鉄道車両2が試験用レール65上を走行するだけで、当該鉄道車両2に上下方向成分及び左右方向成分の振動を発生させることができる。試験用レール65は、第1部分65a、第2部分65b、及び第3部分65cを全て有していてもよいし、いずれか1つのみを有していてもよい。
【0071】
加振手段10は、鉄道車両2に設けられる正常な空気バネ22の共振周波数で鉄道車両2を振動させることが好ましい。この場合、消費エネルギーを抑制しながら鉄道車両2を所望の振れ幅で振動させることができる。
【0072】
加速度センサ23は、鉄道車両2の心皿の直上に配置されている。このため、加速度センサ23によって、鉄道車両2に生じる振動の正確性を向上することができる。
[第2実施形態]
【0073】
図14及び図15は、本発明の第2実施形態に係る車両試験システムにおける加振手段の部分拡大図である。図14は、加振手段10Aを試験用レール71の幅方向(左右方向)から見た状態を示している。図15は、加振手段10Aを試験用レール71の長手方向(前後方向)から見た状態を示している。第2実施形態に係る車両試験システム1は、試験用レール65の代わりに試験用レール71が非営業線63の軌道に設けられている点、及び加振手段10Aが試験用レール71を上下及び左右に振動させる振動装置72によって構成されている点で第1実施形態に係る車両試験システム1と異なっている。
【0074】
試験用レール71は、鉄道車両2の車輪の幅に対応する一定の軌間で配置された一対のレールである。試験用レール71は、複数の車両20のうち1つのみが配置される長さである。試験用レール71は、長手方向に直線に延在しているが、試験用レール65のように一定の周期で湾曲する部分を有していてもよい。
【0075】
加振手段10である振動装置72は、試験用レール71上の車両20に予め設定された周波数の振動が生じるように、試験用レール71を振動させる。例えば、振動装置72によって1Hz~50Hzの範囲の周波数で鉄道車両2を振動させることが好ましい。振動装置72は、試験用レール71が配置された天板73と、天板73を振動させる加振ロッド74,75と、加振ロッド74,75の振動を制御する信号を生成する信号生成部76とを有する。
【0076】
加振ロッド74は、信号生成部76によって生成された信号に基づいて、油圧によって天板73を左右方向に振動させる。加振ロッド75は、信号生成部76によって生成された信号に基づいて、油圧によって天板73を上下方向に振動させる。天板73に配置された試験用レール71は、加振ロッド74,75による天板73の振動に応じて上下及び左右に振動する。すなわち、振動装置72は、信号生成部76によって生成された信号に基づいて、試験用レール71を上下及び左右に振動させる。
【0077】
第2実施形態では、信号生成部76は、低周波から高周波にスイープするスイープ信号を生成する。このため、第2実施形態に係る車両試験システム1では、試験用レール71上に位置している鉄道車両2が、信号生成部76によって生成されたスイープ信号にしたがって低周波から高周波に推移するように振動する。この際に加速度センサ23で検出された検出信号データに基づいて、状態演算部32が鉄道車両2の乗り心地(状態)を判定する。例えば、信号生成部76は、0.2Hz~20Hzの範囲でスイープするスイープ信号を生成する。
【0078】
次に、第2実施形態に係る車両試験システム1の作用効果について説明する。加振手段10Aである振動装置72が試験用レール71を上下及び左右に振動させると、試験用レール71上に位置する少なくとも1つの車両20が振動する。加速度センサ23は、鉄道車両2に生じた振動を、上下方向、左右方向、及び前後方向の加速度として検出する。状態演算部32は、加速度センサ23によって検出された加速度から、鉄道車両2の乗り心地レベルを判定する。
【0079】
このように、第2実施形態に係る車両試験システム1も、試験用レール71上の鉄道車両2に予め設定された周波数の振動を加える加振手段10Aを有しており、加振手段10Aによって加振された鉄道車両2に生じる加速度の検出結果に基づいて、任意のタイミングで乗り心地レベルを判定できる。したがって、車両の検査の頻度に依らず、乗り心地を確認するための試験の作業負担を低減することができる。また、第2実施形態に係る車両試験システム1でも、鉄道車両2への加振を行うための試験用レール71が非営業線63の軌道に設けられている。これにより、乗り心地を確認するための試験の実施にあたって、運行スケジュールに影響を与えてしまうことも回避できる。
【0080】
第2実施形態においても、第2の算出部37は、第1の算出部36によって算出された周波数毎の加速度に関する特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する。このため、第2実施形態に係る車両試験システム1も、マハラノビスの距離を用いて判定が行われることにより、鉄道車両2が走行している状態で、周波数毎の乗り心地に対する寄与度の違いを考慮した乗り心地レベルを容易かつ適確に判定できる。
【0081】
加振手段10Aは、試験用レール71を上下及び左右に振動させる振動装置72によって構成されている。このため、振動装置72によって鉄道車両2を停止させた状態で加振することができる。また、振動装置72により、加振する周波数の調整が容易なものとなる。
【0082】
振動装置72は、1Hz~50Hzの範囲の周波数で鉄道車両2を振動させる。この周波数範囲で加振を行うことにより、乗り心地レベルの判定精度を向上できる。振動装置72は、スイープ信号を生成する信号生成部76を更に備える。振動装置72は、当該スイープ信号に基づいて試験用レール71を上下及び左右に振動させる。この場合、乗り心地レベルの判定に要する時間を短縮できる。
【0083】
信号生成部76は、0.2Hz~20Hzの範囲でスイープ信号を生成する。この場合、鉄道車両2を短時間に所望の周波数範囲で振動させることができる。したがって、乗り心地レベルの判定に要する時間を短縮できると共に乗り心地レベルの判定精度を向上することができる。
【0084】
以上、第1実施形態及び第2実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0085】
例えば、状態演算部32と、単位空間データベース33とを中継ユニット25にも配置し、車両20の状態に異常があるか否かの判定に関する処理を演算ユニット24と中継ユニット25とで分担させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…車両試験システム、2…鉄道車両、10,10A…加振手段、22…空気バネ、23…加速度センサ、36…第1の算出部、37…第2の算出部、38…比較部、39…判定部、63,64…非営業線、65,71…試験用レール、72…振動装置、76…信号生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15