(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】触媒を担持するための担体及びその製造方法、並びに排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20220616BHJP
B01J 21/16 20060101ALI20220616BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220616BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20220616BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20220616BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220616BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20220616BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20220616BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B01J35/02 G ZAB
B01J21/16 A
B01J37/02 301D
B01J35/04 301E
B01J32/00
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/08 C
F01N3/20 K
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2018080108
(22)【出願日】2018-04-18
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511232282
【氏名又は名称】フォルシア システム デシャップマン
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ポール ブリュネル
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-336534(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0226907(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0075137(US,A1)
【文献】特開2003-164765(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021186(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0014765(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
F01N 3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部を有し、前記第1及び第2端部の間を延びる複数のセルが設けられたセラミックス基材と、
前記セラミックス基材の前記複数のセルにおいて選択され
たセルの個別の内部空間に導入された複数の金属粒子又は金属小片
にして、当該複数の金属粒子又は金属小片は、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、インバー、又はスーパーインバーから成る金属粒子又は金属小片を含み、また前記選択されたセルの個数が、非選択のセルの個数未満である、複数の金属粒子又は金属小片と、
前記セラミックス基材の前記第1端部及び/又は第2端部において前記選択されたセルの開口端を個別に封止して前記選択されたセルへの触媒の流入を阻止する複数の封止部にして、各封止部が少なくともセラミックス材料を含む、複数の封止部を備え、
前記複数の金属粒子又は前記金属小片それぞれは、前記セルの開口幅以下のサイズを有し、磁界の変化に応じて発熱
し、
次の(i)~(iii)の少なくとも一つの条件が満足される:
(i)前記複数の金属粒子又は金属小片は、前記セラミックス基材の前記第1端部と前記第2端部の間に亘って前記選択されたセルの個別の内部空間を充填する;
(ii)前記複数の金属粒子又は金属小片は、前記選択されたセルの個別の内部空間において固着材によりお互いに固着し、また前記セラミックス基材に対して固着する;
(iii)前記複数の金属粒子又は金属小片が分散したコーティング層が、前記選択されたセルを周囲するリブの内壁面上に形成される、触媒
を担持するための担体。
【請求項2】
前記(iii)が満足される請求項1に記載の担体であって、
前記第1端部と前記第2端部の間を延びる前記セラミックス基材の延在方向に直交する断面において前記コーティング層が形成された少なくとも一つのセルに空隙が存在し、
前記断面における前記セルの面積に対する前記空隙の面積の比が20%以上である
、担体。
【請求項3】
前記断面における前記セルの面積に対する前記空隙の面積の比が50%以上である、請求項
2に記載
の担体。
【請求項4】
前記複数の金属粒子又は金属小片は、100μm以下の平均粒子サイズを有する、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載
の担体。
【請求項5】
前記セラミックス基材のセラミックス材料の熱膨張係数は、2×10
-6/K以下である、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載
の担体。
【請求項6】
前記金属粒子又は金属小片の金属材料の初透磁率は、5×10
-5H/m以上である、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載
の担体。
【請求項7】
前記セラミックス基材は、酸化物系セラミックス材料を含む、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載
の担体。
【請求項8】
前記
セルを画定するリブの厚みは、0.2mm以下である、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載
の担体。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか一項に記載
の担体が触媒を担持した排気ガス浄化素子と、
前記排気ガス浄化素子の外周を螺旋状に周囲するコイル配線を備え、
前記排気ガス浄化素子の触媒担体において、前記複数の金属粒子又は金属小片が導入されたセル以外の1以上のセルに触媒が導入される、排気ガス浄化装置。
【請求項10】
第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部を有し、前記第1及び第2端部の間を延びる複数のセルが設けられたセラミックス基材を用意する工程と、
前記セラミックス基材の前記複数のセルにおいて選択され
たセルの個別の内部空間に複数の金属粒子又は金属小片を導入する工程
にして、前記複数の金属粒子又は金属小片は、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、インバー、又はスーパーインバーから成る金属粒子又は金属小片を含み、また前記選択されたセルの個数が、非選択のセルの個数未満である工程と、
前記選択されたセルへの触媒の流入を阻止するべく、各々が少なくともセラミックス材料を含む複数の封止部で前記セラミックス基材の前記第1端部及び/又は第2端部において前記選択されたセルの開口端を個別に封止する工程を含み、
前記複数の金属粒子又は前記金属小片それぞれは、磁界の変化に応じて発熱し、また前記セルの開口幅以下のサイズを有する、触媒
を担持するための担体の製造方法。
【請求項11】
前記
選択されたセルの個別の内部空間に前記複数の金属粒子又は金属小片を導入する工程は、前記
選択されたセルの
個別の内部空間に少なくとも金属粒子群又は金属小片群を含む粉体を充填する工程を含む、請求項
10に記載
の担体の製造方法。
【請求項12】
前記
選択されたセルの個別の内部空間に前記複数の金属粒子又は金属小片を導入する工程は、前記複数の金属粒子又は金属小片が分散媒に分散したスラリーを前記
選択されたセルの
個別の内部空間に導入する工程を含む、請求項
10に記載
の担体の製造方法。
【請求項13】
前記スラリーは、少なくとも、前記複数の金属粒子又は金属小片、固着材の粉体、及び分散媒を含む、請求項
12に記載
の担体の製造方法。
【請求項14】
前記
選択されたセル
それぞれにおいて、その一方の開口端
が前記封止部により封止
され、
前記セルの他方の開口端から前記セルに前記スラリーを導入する時、前記セルに導入された前記スラリーの前記分散媒が少なくとも前記セルを周囲するリブを介して隣接するセルに流出し、前記スラリーの固形分が前記セル内に堆積する、請求項
12又は
13に記載
の担体の製造方法。
【請求項15】
前記セラミックス基材の端面上に配置された被覆材に形成された孔を介して前記セル内に粘土を導入する工程と、前記粘土により一方の開口端が封止された状態の前記セラミックス基材を乾燥する工程
により、前記選択されたセルそれぞれにおいて、その一方の開口端が前記封止部により封止される、請求項
14に記載
の担体の製造方法。
【請求項16】
前記セラミックス基材の第1又は第2端部の端面を被覆材で被覆する工程と、
前記セルへの前記スラリーの流入を許容する孔を前記被覆材に形成する工程を更に含む、請求項
12又は
13に記載
の担体の製造方法。
【請求項17】
前記スラリーの供給は、前記スラリーが前記被覆材の孔を介して前記セルから流出する時に終了する、請求項
16に記載
の担体の製造方法。
【請求項18】
前記セルの内部空間に前記スラリーが導入された状態の前記セラミックス基材を乾燥し、前記セルを周囲するリブに前記スラリーの固形分を固着させる工程を更に含む、請求項
12乃至
17のいずれか一項に記載
の担体の製造方法。
【請求項19】
前記スラリーの乾燥の後、非酸化雰囲気で前記セラミックス基材を熱処理する工程を更に含む、請求項
18に記載
の担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、触媒担体及びその製造方法、並びに排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、担体の選択セルに金属ワイヤーを導入し、誘導加熱に基づいて担体を加熱する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2017/0022868号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
担体における選択セルへ金属ワイヤーを挿入する際、二輪車や四輪車といった移動体に実装される時に受ける振動の影響を低減するために金属ワイヤー径を大きくすることが検討されるが、このような大径化された金属ワイヤーを上手く選択セルに挿入することは容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る触媒担体は、第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部を有し、前記第1及び第2端部の間を延びる複数のセルが設けられたセラミックス基材と、
前記セラミックス基材の前記複数のセルにおいて選択された1以上のセルの個別の内部空間に導入された複数の金属粒子又は金属小片を備え、
前記複数の金属粒子又は前記金属小片それぞれは、前記セルの開口幅以下のサイズを有し、磁界の変化に応じて発熱する。
【0006】
幾つかの場合、前記複数の金属粒子又は金属小片は、前記セルの個別の内部空間を少なくとも部分的に充填する金属粒子群又は金属小片群に含まれる。
【0007】
幾つかの場合、前記複数の金属粒子又は金属小片は、前記セルの個別の内部空間において固着材によりお互いに固着し、また前記セラミックス基材に対して固着する。
【0008】
幾つかの場合、前記複数の金属粒子又は金属小片が導入された前記セルの開口端を封止する封止部が前記第1端部及び/又は前記第2端部に設けられる。
【0009】
幾つかの場合、前記封止部は、前記複数の金属粒子又は金属小片が導入された前記セルへの触媒の流入を阻止する。
【0010】
幾つかの場合、前記封止部は、少なくともセラミックス材料を含む。
【0011】
幾つかの場合、前記複数の金属粒子又は金属小片は、前記セルを周囲するリブの内壁面上に形成されたコーティング層に含まれる。
【0012】
幾つかの場合、前記コーティング層は、前記複数の金属粒子又は金属小片が分散した固着材を含む。
【0013】
幾つかの場合、前記コーティング層が導入された前記セルの開口端を封止する封止部が前記第1端部及び/又は前記第2端部に設けられる。
【0014】
幾つかの場合、前記封止部は、前記複数の金属粒子又は金属小片が導入された前記セルへの触媒の流入を阻止する。
【0015】
幾つかの場合、前記第1端部と前記第2端部の間を延びる前記セラミックス基材の延在方向に直交する断面において前記コーティング層が形成された少なくとも一つのセルに空隙が存在し、
前記断面における前記セルの面積に対する前記空隙の面積の比が20%以上である。
【0016】
幾つかの場合、前記断面における前記セルの面積に対する前記空隙の面積の比が50%以上である。
【0017】
幾つかの場合、前記複数の金属粒子又は金属小片は、フェライト系ステンレス鋼の金属粒子又は金属小片を含む。
【0018】
幾つかの場合、前記複数の金属粒子又は金属小片は、オーステナイト系ステンレス鋼の金属粒子又は金属小片を含む。
【0019】
幾つかの場合、前記複数の金属粒子又は金属小片は、100μm以下の平均粒子サイズを有する。
【0020】
幾つかの場合、前記セラミックス基材のセラミックス材料の熱膨張係数は、2×10-6/K以下である。
【0021】
幾つかの場合、前記金属粒子又は金属小片の金属材料の初透磁率は、5×10-5H/m以上である。
【0022】
幾つかの場合、前記セラミックス基材は、酸化物系セラミックス材料を含む。
【0023】
幾つかの場合、前記リブの厚みは、0.2mm以下である。
【0024】
本開示の一態様に係る排気ガス浄化装置は、上記触媒担体が触媒を担持した排気ガス浄化素子と、
前記排気ガス浄化素子の外周を螺旋状に周囲するコイル配線を備え、
前記排気ガス浄化素子の触媒担体において、前記複数の金属粒子又は金属小片が導入されたセル以外の1以上のセルに触媒が導入される。
【0025】
本開示の一態様に係る触媒担体の製造方法は、第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部を有し、前記第1及び第2端部の間を延びる複数のセルが設けられたセラミックス基材を用意する工程と、
前記セラミックス基材の前記複数のセルにおいて選択された1以上のセルの個別の内部空間に複数の金属粒子又は金属小片を導入する工程を含み、
前記複数の金属粒子又は前記金属小片それぞれは、磁界の変化に応じて発熱し、また前記セルの開口幅以下のサイズを有する。
【0026】
幾つかの場合、前記1以上のセルの個別の内部空間に前記複数の金属粒子又は金属小片を導入する工程は、前記セルの内部空間に少なくとも金属粒子群又は金属小片群を含む粉体を充填する工程を含む。
【0027】
幾つかの場合、前記金属粒子群又は金属小片群が充填されるべき前記セルの開口端を封止材で封止する工程を更に含む。
【0028】
幾つかの場合、前記封止材は、少なくともセラミックス材料を含む。
【0029】
幾つかの場合、前記1以上のセルの個別の内部空間に前記複数の金属粒子又は金属小片を導入する工程は、前記複数の金属粒子又は金属小片が分散媒に分散したスラリーを前記セルの内部空間に導入する工程を含む。
【0030】
幾つかの場合、前記スラリーは、少なくとも、前記複数の金属粒子又は金属小片、固着材の粉体、及び分散媒を含む。
【0031】
幾つかの場合、触媒担体の製造方法は、前記スラリーが導入されるべき前記セルの一方の開口端を封止部により封止する工程を更に含み、
前記セルの他方の開口端から前記セルに前記スラリーを導入する時、前記セルに導入された前記スラリーの前記分散媒が少なくとも前記セルを周囲するリブを介して隣接するセルに流出し、前記スラリーの固形分が前記セル内に堆積する。
【0032】
幾つかの場合、前記スラリーが導入されるべき前記セルの一方の開口端を封止部により封止する工程は、前記セラミックス基材の端面上に配置された被覆材に形成された孔を介して前記セル内に粘土を導入する工程と、前記粘土により一方の開口端が封止された状態の前記セラミックス基材を乾燥する工程を含む。
【0033】
幾つかの場合、触媒担体の製造方法は、前記セラミックス基材の第1又は第2端部の端面を被覆材で被覆する工程と、
前記セルへの前記スラリーの流入を許容する孔を前記被覆材に形成する工程を更に含む。
【0034】
幾つかの場合、前記スラリーの供給は、前記スラリーが前記被覆材の孔を介して前記セルから流出する時に終了する。
【0035】
幾つかの場合、触媒担体の製造方法は、前記セルの内部空間に前記スラリーが導入された状態の前記セラミックス基材を乾燥し、前記セルを周囲するリブに前記スラリーの固形分を固着させる工程を更に含む。
【0036】
幾つかの場合、触媒担体の製造方法は、前記スラリーの乾燥の後、非酸化雰囲気で前記セラミックス基材を熱処理する工程を更に含む。
【発明の効果】
【0037】
本開示の一態様によれば、金属ワイヤーの代替技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本開示の一態様に係る排気ガス浄化装置が組み込まれた排気ガス流路の概略図である。
【
図2】本開示の一態様に係るセラミックス基材の概略的な斜視図であり、セラミックス基材の第1端部で開口したセル群の一部が破線円内に模式的に示される。
【
図3】本開示の一態様に係る触媒担体のセラミックス基材の第1端部の正面模式図であり、選択セルにハッチングが付されている。
【
図4】
図3のIV-IVに沿う概略的な断面図である。
【
図6】
図4に示したセラミックス基材のセルに対して触媒が導入された状態を示す模式図である。
【
図7】別態様に係る触媒担体の概略的な断面図であり、
図3のIV-IVに沿う断面に対応する。
【
図8】
図7のVIII-VIIIに沿う概略的な断面図である。
【
図9】セルに対して触媒が導入された状態を示す模式図である。
【
図10】触媒担体の製造方法を示す概略的なフローチャートである。
【
図11】触媒担体の製造方法を示す概略的なフローチャートである。
【
図12】セラミックス基材の各端面上に被覆材が配置された状態を示す模式図である。
【
図13】セラミックス基材の端面上の被覆材に選択的に孔が形成された状態を示す模式図である。
【
図14】被覆材の孔を介してセラミックス基材の選択セルにスラリーを導入した状態を示す模式図である。
【
図15】セラミックス基材のセルに触媒が導入された状態を示す模式図である。
【
図16】被覆材の孔を介して粘土をセル内に導入して封止部を形成することを示す模式図である。
【
図17】被覆材を除去した状態を示す模式図である。
【
図18】選択セルの開口端から選択セル内にスラリーを導入し、固形分を選択的に選択セル内に堆積させることを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、
図1乃至
図18を参照しつつ、本発明の非限定の実施形態について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができる。当業者は、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている場合がある。本明細書で「幾つかの場合」という表現により明示される個別の特徴は、例えば、図面に開示された触媒担体及び/又は触媒担体の製造方法にのみ有効であるものではなく、他の様々な触媒担体及び/又は触媒担体の製造方法にも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0040】
図1は、排気ガス浄化装置が組み込まれた排気ガス流路の概略図である。排気ガスの流路は、金属管2により定められる。金属管2の拡径部2aに排気ガス浄化装置6が配置される。排気ガス浄化装置6は、触媒担体が触媒を担持した排気ガス浄化素子3、排気ガス浄化素子3の外周を螺旋状に周囲するコイル配線4、及び排気ガス浄化素子3及びコイル配線4を金属管2内に固定するための固定部材5を有する。排気ガス浄化素子3の触媒担体により担持された触媒は、例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒である。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換または鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒等が例示される。
【0041】
本明細書においては、「排気ガス浄化素子に含まれる触媒担体」は、触媒を担持している触媒担体を意味する。しかしながら、本明細書においては、「触媒担体」が触媒を担持していることの明示がある場合を除き、「触媒担体」は、触媒を未だ担持していない触媒担体を意味する。触媒は、後述のように金属粒子又は金属小片82が導入されたセラミックス基材90のセル93以外の1以上のセル93内に導入される。
【0042】
コイル配線4は、排気ガス浄化素子3の外周に螺旋状に巻かれる。2以上のコイル配線4が用いられる形態も想定される。スイッチSWのオン(ON)に応じて交流電源CSから供給される交流電流がコイル配線4に流れ、この結果として、コイル配線4の周囲には周期的に変化する磁界が生じる。なお、スイッチSWのオン・オフが制御部1により制御される。制御部1は、エンジンの始動に同期してスイッチSWをオンさせ、コイル配線4に交流電流を流すことができる。なお、エンジンの始動とは無関係に(例えば、運転手により押される加熱スイッチの作動に応じて)制御部1がスイッチSWをオンする形態も想定される。固定部材5は、耐熱性部材であり、触媒を担持した排気ガス浄化素子3及びコイル配線4を金属管2内に固定するために設けられる。
【0043】
エンジン始動時、排気ガス浄化素子3に到達する排気ガスの温度が十分に高くないことが想定される。この場合、排気ガス浄化素子3の触媒担体が担持する触媒により促進されるべき化学反応が十分に進行せず、排気ガス中の有害成分、端的には、一酸化炭素(CO)、窒化酸化物(NOx)、炭化水素(CH)がそのまま排気ガス浄化素子3を通過してしまうことが懸念される。本開示においては、コイル配線4に流れる交流電流に応じた磁界の変化に応じて排気ガス浄化素子3が昇温する。排気ガス浄化素子3の昇温は、排気ガス浄化素子3に含まれる触媒担体より担持された触媒の温度を高め、触媒反応が促進される。端的には、一酸化炭素(CO)、窒化酸化物(NOx)、炭化水素(CH)が、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、水(H2O)に酸化又は還元される。
【0044】
触媒を担持するべき触媒担体は、セラミックス基材90(
図2及び
図3参照)と、セラミックス基材90の複数のセル93において選択された1以上のセル93の個別の内部空間に導入された複数の金属粒子又は金属小片82(
図4乃至
図9参照)を有する。
【0045】
セラミックス基材90は、第1端部91と第1端部91とは反対側の第2端部92を有する。端的には、セラミックス基材90は、第1端部91と第1端部91とは反対側の第2端部92を有する柱状部材である。セラミックス基材90は、円柱、角柱といった様々な形状を取り得る。セラミックス基材90には第1端部91と第2端部92の間を延びる複数のセル93が設けられる。各セル93は、リブ94により画定され、第1端部91側の第1開口端と第2端部92側の第2開口端を有する。セル93を介して第1端部91と第2端部92の間で流体が移動可能である。セル93は、様々な開口形状を取ることができ、例えば、その開口形状は、三角形、矩形、五角形、六角形、八角形、円形、楕円、又はこれらの任意の組み合わせである。
【0046】
第1端部91及び第2端部92の一方が排気ガスの流路において上流側に設けられ、第1端部91及び第2端部92の他方が排気ガスの流路において下流側に設けられる。従って、これらは上流端部又は下流端部と代替的に呼ぶこともできる。なお、セラミックス基材90は、リブ94よりも厚みが厚い外周壁95を有する。
【0047】
セラミックス基材90は、例えば、非導電性の多孔体である。セラミックス基材90は、酸化物系セラミックス材料を含む。酸化物系セラミックス材料は、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、及びアルミニウムタイタネートから成る群から選択される1以上の材料である。ある場合、セラミックス基材90は、コージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)を含み、又は、コージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)から成る。
【0048】
コージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)から成るセラミックス基材90の製造方法は、本技術分野において良く知られている。まず、坏土が押出成形され、押出成形で得られた軟質の成形体が乾燥及び焼成される。坏土は、少なくとも、焼成によりコージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)になる原料、有機バインダー、及び分散媒を含む。焼成工程において、坏土に含まれるバインダーが除去され、多孔質のセラミックス基材90が得られる。
【0049】
焼成によりコージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)になる原料は、コージェライト化原料と呼ばれる。コージェライト化原料は、シリカが40~60質量%、アルミナが15~45質量%、マグネシアが5~30質量%の範囲に入る化学組成を有する。コージェライト化原料は、タルク、カオリン、仮焼カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカの群から選ばれた複数の無機原料の混合物であり得る。有機バインダーは、寒天、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコールから成る群から選択される少なくとも一つの材料を含み得る。焼成温度は、1380~1450℃に設定され、又は、1400~1440℃に設定される。また、焼成時間は、3~10時間である。
【0050】
必要に応じて、坏土には造孔材が添加される。造孔材は、焼成工程により消失する任意の材料であり、例えば、コークスといった無機物質、発泡樹脂といった高分子化合物、澱粉といった有機物質、又はこれらの任意の組み合わせを含む。分散媒は、水の追加又は代替として、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール、又はこれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0051】
本実施形態においては、セラミックス基材90の複数のセル93において選択された1以上のセル93の個別の内部空間には複数の金属粒子又は金属小片82が導入される。複数の金属粒子又は金属小片82それぞれは、セル93の開口幅W93以下のサイズを有し、磁界の変化に応じて発熱する。金属粒子又は金属小片82の充填率や充填態様が適切に決定され、二輪車や四輪車といった移動体に実装される時に受ける振動の影響が低減され、或いは、触媒担体の製造効率が高められる。セル93の開口幅W93は、第1端部91と第2端部92の間を延びるセラミックス基材90の延在方向に直交する断面におけるセル93の最小幅に一致する。
【0052】
セラミックス基材90の複数のセル93において選択された1以上のセル93の個別の内部空間に導入される複数の金属粒子又は金属小片82は、誘導加熱のために用いられ、触媒反応のために用いられない。以下、このような誘導加熱のための金属粒子又は金属小片82が導入された1以上のセル93が、「加熱セル」と呼ばれる。「加熱セル」以外のセル93は、将来、触媒が導入されるべきセルであり、「触媒セル」と呼ばれる。
【0053】
セラミックス基材90の選択セル93に導入される誘導加熱用の金属粒子又は金属小片82は、ステンレス鋼の金属粒子又は金属小片82、例えば、フェライト系ステンレス鋼の金属粒子又は金属小片82を含む。追加的又は代替的に、誘導加熱用の金属粒子又は金属小片82は、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、インバー、又はスーパーインバーを含む。誘導加熱用の金属粒子又は金属小片82は、磁性を有するものであり得る。幾つかの場合、金属粒子又は金属小片82の金属材料の初透磁率は、5×10-5H/m以上である。
【0054】
セラミックス基材90は、M(Mは、2以上の自然数)個の触媒セル93Cと、N(Nは、2以上の自然数であり、Mよりも小さい)個の加熱セル93Hを有する(
図3参照)。加熱セル93Hの個数は、触媒セル93Cの個数よりも小さい。この場合、加熱セル93Hの導入に伴って排気ガス浄化装置6の排気ガス浄化性能が低下してしまうことが抑制される。
【0055】
加熱セル93Hは、セル93の2次元配列において規則的に配置される(
図3参照)。幾つかの場合、加熱セル93Hは、セル93の2次元配列においてQ(Qは2以上の整数)行及びP(Pは2以上の整数)列の間隔で配置される。
図3に示す場合、2行及び2列間隔で加熱セル93Hが規則的に配置される。このようにある加熱セル93Hの周囲に触媒セル93Cが配置される場合、共通の加熱セル93Hから伝導される熱を複数の触媒セル93Cで受け取ることができ、セラミックス基材90の温度分布に偏りが生じにくい。幾つかの場合、加熱セル93Hが5セル間隔で配置されるが、必ずしもこの限りではない。
【0056】
30Hz以上、100Hz以上、又は200Hz以上の交流電流がコイル配線4に流れる。コイル配線4に交流電流が流れる時、セラミックス基材90のセル93に導入された金属粒子又は金属小片82それぞれに渦(うず)電流が流れ、また、これに応じてジュール熱が発生する。コイル配線4に流される交流電流の周波数の増加に応じて、金属粒子又は金属小片82の表面近傍に電流が流れる傾向が強くなり、金属粒子又は金属小片82の表面近傍での発熱量が増加する。これは、「表皮効果」の帰結である。つまり、金属ワイヤーの場合と比較して、金属粒子又は金属小片82の採用により、より少量の金属(換言すれば、より少ない重量の増加)でより大きい発熱量を得ることができる。金属粒子又は金属小片82は、必ずしもこの限りではないが、100μm以下、80μm以下、60μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、又は20μm以下の平均粒子サイズを有する。
【0057】
図4に示すように、セル93に導入される金属粒子82は、セル93の個別の内部空間を少なくとも部分的に充填する金属粒子群に含まれる。換言すれば、セラミックス基材90は、金属粒子群により少なくとも部分的に充填された複数のセル93(つまり加熱セル93H)を有する。セラミックス基材90のセル93の2次元配列において選択されたセル93に金属粒子群が導入される。なお、金属粒子群に含まれる各金属粒子の径が小さい場合、セル93には金属粒子群を含む粉体が導入されるものと理解される。
【0058】
触媒コート時に触媒の進入を防止するため、セラミックス基材90の第1端部91及び第2端部92の一方又は両方においてセル93の開口端を封止する封止部96が設けられる。加熱セル93Hに触媒が導入されても、金属粒子による加熱に応じて触媒が劣化し、長期間に亘って触媒としての機能が維持されることは期待できない。封止部96の採用により、この触媒ロスが抑制又は回避される。封止部96は、また、加熱セル93H内の金属粒子と排気ガスの接触によって加熱セル93H内の金属粒子が酸化して劣化してしまうことも抑制する。
【0059】
封止部96は、少なくともセラミックス材料を含むことができる。封止部96は、セラミックス材料に加え、ガラスといった他の材料を含むことができる。例えば、セラミックス基材90及び封止部96は、コージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)を含む。コージェライト製のセラミックス基材90とコージェライト製の封止部96の組み合わせにより、さもなければ両者の間に生じる熱膨張差が低減される。すなわち、幾つかの場合、セラミックス基材90と封止部96は、共通のセラミックス材料を含む。なお、封止部96は、セラミックス基材90と同様、多孔体であり得る。
【0060】
必ずしもこの限りではないが、封止部96は、セラミックス基材90の選択セル93の開口端を封止材で封止し、セラミックス基材90を950℃以下で仮焼して得られる。つまり、封止部96は、封止材が仮焼工程を介してセラミックス基材90に対して固着して形成される。封止材は、幾つかの場合、少なくともセラミックス材料を含む。例えば、封止材は、コージェライト粒子と、コロイダルシリカを含む混合材料から成り、仮焼を介してコロイダルシリカによってセラミックス基材90に固着するが、必ずしもこれに限られるべきものではない。
【0061】
セラミックス基材90のセル93の開口端を介してセル93内に金属粒子又は金属片が導入される。追加として、セラミックス基材90のセル93の開口端を介してセル93内に固着材(例えば、ガラス粉体)が導入される形態も想定される。セル93内への金属粒子又は金属片の導入後、セラミックス基材90を加熱処理することにより固着材を溶融させることができる。結果として、セル93内における固着材を介して金属粒子同士の固着が生じ、また、セラミックス基材90に対する金属粒子の固着が生じる。好適な場合、少なくとも金属粒子群と、ガラス粉体を含む混合粉体がセル93に導入される。
【0062】
金属粒子群を含む、又は金属粒子群とガラス粉体を含む混合粉体をセル93に導入する方法としては、セラミックス基材90を数Hz~1kHzで加振し、重力に応じて粉体をセル内へ充填する方法が挙げられる。代替方法としては、セル93の一方の開口端を封止部で封止し、スラリーをセル93の開口端を介してセル93内に押し入れる方法が挙げられる。スラリーは、金属粒子群及びガラス粉体といった固体分が水といった分散媒に分散したものである。スラリーの流動性を確保するため、スラリーにおける固体分濃度が低く調製される。なお、吸引に基づいてスラリーをセル93内に流し込むことも想定される。この方法では、スラリーが導入された側とは反対側のセラミックス円筒体10の端部から溶媒、つまり水が排出される。スラリーの溶媒分は、多孔質のリブ94を通過することができるが、スラリーの固体分は、リブ94を通過することができず、選択セル93内、つまり、選択セル93内を周囲するリブ94上に堆積する。
【0063】
図4及び
図5は、セル93の内部空間が金属粒子により完全に充填された状態を示すが、このような態様に限定されるべきではない。セル93内に固着材が導入されて金属粒子又は金属片同士がガラス材料を介して固着する場合を除き、セル93の内部空間において金属粒子群の流動が生じる場合も想定される。更には、
図4及び
図5は、球状の金属粒子を示すが、金属粒子の形状は球状に限られない。金属粒子の追加又は代替として金属小片が用いられることが想定される。金属小片は、セル93の開口幅W93以下のサイズを有する限りにおいて任意の形状を持つことができる。異サイズ及び異形状の金属粒子又は金属小片が共通の選択セル93に導入される形態も想定される。
【0064】
図6は、
図4に示したセラミックス基材90の触媒セル93Cに対して触媒層97が導入された状態を示す模式図である。セラミックス基材90に触媒を導入する方法として、ウォッシュコート法が知られている。ウォッシュコート法は、触媒を含有するスラリーを触媒担体のセルに供給する。なお、触媒担体のセルにスラリーを供給することは、スラリー溶液中に触媒担体を浸すことによっても達成可能である。スラリーの溶媒分は、多孔質のリブ94により吸い取られ、リブ94に対する触媒層97の定着が促進される。ウォッシュコート処理以外の他の方法、例えば、注射や加圧押し込み法も採用可能であることに留意されたい。
【0065】
触媒セル93Cのリブ94は、触媒を担持するための内壁面を有する。他方、加熱セル93Hのリブ94は、加熱セル93H内に金属粒子又は金属小片82を閉じ込めるための内壁面を有する。
図6は、加熱セル93Hのリブ94の内壁面に対して触媒層97が定着した状態を模式的に示すものであることに留意されたい。セラミックス基材90の第1端部91と第2端部92の間に亘って触媒層97が形成されるように触媒層97がセル93に導入される。触媒層97は、例えば、触媒基材と、触媒基材に対して付着して多数の触媒粒子を含むが、これに限られるべきものではない。
【0066】
必ずしもこの限りではないが、リブ94の厚みは、0.2mm以下である。リブ94の薄厚化によりリブの熱容量が低下する。リブ94の熱容量の低下は、リブ94に担持された触媒の温度上昇、或いは排気ガスの温度上昇を促進し、結果として、排気ガスの有害成分がそのまま排気ガス浄化装置6を通過してしまうことが抑制される。
【0067】
図7及び
図8は、加熱セル93のリブ94の内壁面上に形成されたコーティング層80に金属粒子82が含まれる態様で加熱セル93Hに金属粒子82が導入される場合を示す。セラミックス基材90は、複数の金属粒子82を含むコーティング層80がリブ94の内壁面上に形成された複数の加熱セル93Hを有する。セラミックス基材90のセル93の2次元配列において選択されたセル93にコーティング層80が形成される。幾つかの場合、コーティング層80は、誘導加熱用の複数の金属粒子又は金属小片82が分散した固着材を含む。固着材としては、ガラスが例示できる。ガラスは、好適には、高融点ガラスである。高融点ガラスの融点は、900~1100℃の範囲内である。高融点ガラスを用いることにより、加熱セル93Hの耐熱性が高められる。
【0068】
必ずしもこの限りではないが、セラミックス基材90のセル93にスラリーを導入して乾燥及び熱処理することによりコーティング層80が形成される。ここで用いられるスラリーは、例えば、複数の金属粒子又は金属小片82、固着材(例えば、ガラス)の粉体、及び分散媒(例えば、水)を含む。スラリーの粘度が適切に設定される。スラリーの乾燥のために用いられる乾燥炉の温度は、例えば、120℃である。スラリーの熱処理のために用いられる炉の温度は、例えば、950℃である。幾つかの場合、熱処理温度は、乾燥温度の5倍以上、6倍以上、7倍以上である。熱処理温度は、乾燥温度の8倍以下である。
【0069】
コーティング層80の形成のためのスラリーの熱処理は金属粒子の酸化を防止するため非酸化雰囲気、つまり酸素が存在しない雰囲気で実施することが望ましい。熱処理温度950℃の場合、例えば、窒素雰囲気で熱処理を実施することができる。熱処理温度950℃の場合、ガラス粉体間の結合により金属粒子が固定される。更に高い熱処理温度として、熱処理温度1100℃を採用することもできる。この場合、真空雰囲気で実施することが望ましい。1100℃の熱処理により金属粒子間も、ある程度、結合する。これにより、電気伝導可能な単位、つまり、金属粒子の結合体の大きさを制御することもできる。
【0070】
セル93からのスラリーの流出を阻止するため、上述の封止部96が採用され、及び/又は、後述の被覆材71が採用される。封止部96が採用される場合、封止部96は、セラミックス基材90の第1端部91及び第2端部92の一方又は両方においてセル93の開口端を封止する。封止部96は、セル93からのスラリーの流出を阻止するため、及び/又は、加熱セル93Hへの触媒の流入を阻止するために設けられる。封止部96は、上述と同一の材料を含むことができる。上述の場合と同様、セラミックス基材90の選択セル93の開口端を封止材で封止し、セラミックス基材90を焼成して封止部96が得られる。
【0071】
図7及び
図8は、スラリーの供給及び乾燥に続いて、900℃~1100℃で熱処理することにより、スラリー固形分を担体基材に固定し、これにより、セラミックス基材90のリブ94の内壁面上にコーティング層80が形成されることを示す。コーティング層80においては、ガラスといった固着材81中に金属粒子82が分散している。
図8から分かるように、第1端部91と第2端部92の間を延びるセラミックス基材90の延在方向に直交する断面において、コーティング層80が形成されたセル93に空隙83が存在する。空隙83が生じるようにコーティング層80を形成することによりリブ94が受ける熱応力を低減することが促進される。幾つかの場合、その断面におけるセル93の面積に対する空隙83の面積の比が20%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上である。なお、固着材81の熱膨張係数は、リブ94の熱膨張係数とは異なる。セラミックス基材のセラミックス材料の熱膨張係数は、2×10
-6/K以下である。固着材81の熱膨張係数は、3×10
-6/K~6×10
-6/Kである。好適な場合、固着材81の熱膨張係数は、4×10
-6/K以下であり、セラミックス基材90のセラミックス材料の熱膨張係数により近い値を有する。
【0072】
図7及び
図8に示すように、金属粒子又は金属小片82は、セル93の内壁面上に形成されたコーティング層80において上述の空隙83を周囲する態様で分散する。金属粒子又は金属小片82で生じる熱が固着材81を介してリブ94に伝達する。リブ94の昇温に伴い、触媒セル93Cの内部空間も加熱される。金属粒子又は金属小片82が空隙83を周囲する態様で存在しているため、各金属粒子又は金属小片82で生成された熱が周囲のリブ94に効率的に伝達される。
【0073】
図9は、金属粒子又は金属小片82が導入されたセラミックス基材90の選択セル93以外のセル93に対して触媒層97が導入された状態を示す模式図である。触媒層97は、例えば、白金系金属触媒粒子をベータアルミナの細孔内に担持した三元触媒等である。上述と同様、セラミックス基材90のセル93内に触媒を導入する方法として、ウォッシュコート法や、注射や加圧押し込み法が採用可能である。
【0074】
図10及び
図11を参照して非限定の触媒担体の製造方法について説明する。
図10に示す場合、まず、セラミックス基材90が製造される(S1)。上述のように、坏土が押出成形され、乾燥、続いて焼成され、これにより、セラミックス基材90が得られる。次に、セラミックス基材90の選択されたセル93の第1開口端を封止する(S2)。例えば、セラミックス基材90の原料と同一の原料の封止材でセル93の第1開口端を封止して焼成する。次に、選択されたセル93の未封止の第2開口端を介して選択されたセル93内に金属粒子群を供給する(S3)。次に、金属粒子群が導入されたセル93の第2開口端を封止する(S4)。例えば、セラミックス基材90の原料と同一の原料の封止材でセル93の第2開口端を封止して焼成する。
【0075】
図11に示す場合、まず、セラミックス基材90が製造される(S1)。上述のように、坏土が押出成形され、乾燥、続いて焼成され、これにより、セラミックス基材90が得られる。次に、セラミックス基材90の選択されたセル93にスラリーを導入する(S2)。
【0076】
図12に示すように、セラミックス基材90の各端面上に被覆材71が配置される。セラミックス基材90が被覆材71により挟まれ、セラミックス基材90のセル93の各開口端が被覆材71により閉じられる。次に、
図13に示すように、被覆材71に選択的に孔72が形成される。孔72は、加熱セル93Hになるべき選択セル93に対応する位置に形成され、セル93へのスラリーの流入を許容する。スラリーは、被覆材71の孔72を介して選択セル93に導入される。被覆材71は、例えば、片面に粘着剤を塗布した樹脂シートである。
【0077】
図14に示すように、スラリーは、セラミックス基材90の端面上に配置された被覆材71に形成された孔72を介してセラミックス基材90の選択されたセル93内に流入する。幾つかの場合、セル93に十分な量のスラリーが注入されたことを確認するため、スラリーが注入される側とは反対側の被覆材にも孔が形成される。この反対側の孔からスラリーが流出したことを確認することでセル93内に十分な量のスラリーが注入されたものと推定できる。つまり、スラリーの供給は、スラリーが被覆材の孔を介して選択セル93から流出する時に終了し得る。被覆材71に対する孔開けは、レーザー装置を用いて行うことができるが、これに限られるべきではない。
【0078】
幾つかの場合、選択されたセル93にスラリーが導入された状態のセラミックス基材90では、セラミックス基材90の多孔質体が水分を吸収し、セラミックス基材90のリブ94上には固形分を主体とする層が形成される。このスラリーの流動性は、低く、言わば、ゼロである。このセラミックス基材90を乾燥することにより、スラリー固形分がセラミックス基材90のリブ94に対して固着する(S3)。乾燥工程の途中又は後、セラミックス基材90から被覆材71が取り除かれる。スラリーの固形分はリブ94に固着しており、被覆材71を取り除いても選択されたセル93からスラリー固形分が脱落しない。
【0079】
次に、オプションとして、セラミックス基材90の選択されたセル93の開口端を封止材で封止する(S4)。例えば、セラミックス基材90の原料と同一の原料の封止材でセル93の第1及び/又は第2開口端を封止する。
【0080】
次に、スラリーの流動性が低下した後、セラミックス基材90を熱処理する(S5)。例えば、真空中でセラミックス基材90を熱処理する。これによりスラリー中の固着材(端的には、ガラス)がセラミックス基材90のリブ94に焼き付けられる(
図15参照)。また、オプションの封止材が焼成を経てセラミックス基材90に対して固着する。
【0081】
図16乃至
図18に示すように選択セル93内にスラリーを導入することも想定される。まず、上述と同様にしてセラミックス基材90の端面上の被覆材71に形成された孔72を介して粘土を選択セル93に導入する。被覆材71に対して粘土を押し当て、被覆材71の孔72を介して選択セル93内に粘土がすり込まれる。続いて、選択セル93の一方の開口端が粘土により封止されたセラミックス基材90を乾燥する。これにより選択セル93の一方の開口端の粘土が硬くなり、セラミックス基材90に対して固着する。
【0082】
続いて、
図17に示すように、封止部96が形成された側の被覆材71を除去する。続いて、
図18に示すように、封止部96により封止されていない選択セル93の他方の開口端側から選択セル93内にスラリーを導入する。具体的には、被覆材71の孔72を介して選択セル93内にスラリーを導入する。ここで導入されるスラリーは、少なくとも金属粒子と分散媒を含み、オプションとして、ガラス粒子や分散剤を有する。スラリーに含まれる固形分の濃度を低くすることが望ましい。
【0083】
選択セル93内に導入されたスラリーに含まれる分散媒、例えば、水は、多孔質のリブ94を介して選択セル93内の周囲にあるセル93に流出し、そのセル93を介してセラミックス基材90外に流出する。他方、スラリーに含まれる固形分は、多孔質のリブ94を通過することができず、選択セル93内、つまり、多孔質のリブ94上に堆積する(
図18の模式図を参照)。このようにして得られたセラミックス基材90が加熱処理され、リブ94に対して固形分が焼き付けられる。スラリーが導入された側の選択セル93の開口端を更に封止部により封止する形態も想定される。
【0084】
[実施例1]
直径82mm、長さ85mmの円筒形のコージェライト製の担体本体を製造した。リブの厚みが100μmであり、セルの密度が62個/cm2である。続いて、担体本体の各端面に被覆材を配置して封止した。続いて、レーザー装置を用いて各被覆材に孔を形成した。加熱セル93Hになるべきセル93の開口端に対応する位置に孔を形成した。セラミックス基材90の両端面において横方向及び縦方向に5セルおきに孔を被覆材に形成した。つまり、5×5の25セルにつき1セルの割合で孔を形成した。セラミックス基材の両端面上に配置された各被覆材に対して同一セルに関する反対位置で孔を形成した。次に、フェライト系ステンレス粒子(平均粒子径10μm)と、シリカ系ガラス粒子(平均径2μm)、分散剤、及び水を含むスラリーを被覆材の孔を介してセル内に注入した。スラリーは、フェライト系ステンレス粒子:シリカ系ガラス粒子:分散剤:水=66:33:1:140の重量比を有する。スラリーが注入される側とは反対側の被覆材の孔からスラリーが流出するタイミングでスラリーの注入を停止した。その後、担体本体を120℃で1時間乾燥させた。次に、担体本体を1100℃真空中で1時間熱処理した。厚さ35μmのコーティング層が得られた。セラミックス基材全体でのコーティング層の重さは、6.8gであった。
【0085】
[実施例2]
フェライト系ステンレス粒子:シリカ系ガラス粒子:分散剤:水=66:33:1:35の重量比を有するスラリーを用いた。これ以外は、実施例1と同様である。厚さ100μmのコーティング層が得られた。セラミックス基材全体でのコーティング層の重さは、19.0gであった。
【0086】
[実施例3]
平均粒子径100μmのフェライト系ステンレス粒子を用いた。これ以外は、実施例1と同様である。厚さ33μmのコーティング層が得られた。セラミックス基材全体でのコーティング層の重さは、7.0gであった。
【0087】
[実施例4]
平均粒子径100μmのフェライト系ステンレス粒子を用いた。また、フェライト系ステンレス粒子:シリカ系ガラス粒子:分散剤:水=66:33:1:400の重量比を有するスラリーを用いた。これら以外は、実施例1と同様である。厚さ94μmのコーティング層が得られた。セラミックス基材全体でのコーティング層の重さは、17.5gであった。
【0088】
[実施例5]
外径82mm、長さ85mmの円柱形のコージェライト製の担体本体を製造した。リブの厚みが100μmであり、セルの密度が62個/cm2である。続いて、担体本体の各端面に被覆材を配置して封止した。続いて、レーザー装置を用いて各被覆材に孔を形成した。加熱セル93Hになるべきセル93の開口端に対応する位置に孔を形成した。セラミックス基材90の端面において横方向及び縦方向に5セルおきに孔を形成した。5×5の25セルにつき1セルの割合で孔を形成した。セラミックス基材の両端面上に配置された各被覆材に対して同一セルの反対位置で孔を形成した。次に、片方の端面の孔の空いているセルに封止材を圧入し、乾燥して封止部を形成した。反対側の端面より、フェライト系ステンレス粒子(平均粒子径100m)と、シリカ系ガラス粒子(平均径2μm)、を含む混合粉体を、振動をかけながら被覆材の孔を介してセル内に充填した。その後、粉体を充填した孔に封止材を圧入して乾燥し、粉体がこぼれ出ない状態にした。その後、被覆材を剥がし、窒素雰囲気で950℃、1hr熱処理することにより、ガラスを介してステンレス粒子をセラミックス基材のリブに固着させ、また、セラミックス基材に対して封止材を固着させた。ここでは、平均粒子径100μmのフェライト系ステンレス粒子を用いた。また、オーステナイト系ステンレス粒子:シリカ系ガラス粒子=90:10の重量比を有する混合粉体を用いた。充填された混合粉体の重さは、40.0gであった。
【0089】
[実施例6]
直径82mm、長さ85mmの円筒形のコージェライト製の担体本体を製造した。リブの厚みが100μmであり、セルの密度が62個/cm2である。セル隔壁の気孔率は28%で、平均細孔直径は1μmであった。続いて、セラミックス基材の各端面に被覆材を配置して封止した。続いて、レーザー装置を用いて各被覆材に孔を形成した。加熱セル93Hになるべきセル93の開口端に対応する位置に孔を形成した。セラミックス基材90の両端面において横方向及び縦方向に5セルおきに孔を被覆材に形成した。つまり、5×5の25セルにつき1セルの割合で孔を形成した。セラミックス基材の両端面上に配置された各被覆材に対して同一セルに関する反対位置で孔を形成した。次に、セラミックス基材の一端の被覆材の孔よりコージェライト粒子とコロイダルシリカを含む粘土を深さ3mmまですり込み、200℃で乾燥することにより封止部を形成し、その一端の被覆材を剥がした。次に、孔あき被覆材が残っているセラミックスの端面側からスラリーを被覆材の孔を介してセル内に注入し、反対側の端面から水を排出させる工程を排水の容積が600ccになるまで継続した。スラリー導入速度は、20cc/secであり、スラリー導入時間は、30秒であった。スラリーは、フェライト系ステンレス粒子(平均粒子径10μm)と、シリカ系ガラス粒子(平均径2μm)、分散剤、及び水を含む。フェライト系ステンレス粒子:シリカ系ガラス粒子:分散剤:水=66:33:1:1000の重量比である。その後、担体本体を120℃で1時間乾燥させた。次に、担体本体を1100℃真空中で1時間熱処理した。セラミック基材全体での充填物の重さは、37.0gであった。
【0090】
いずれの実施例においても選択セル93内に金属粒子を導入及び定着させることができた。
【0091】
上述の教示を踏まえ、当業者は、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0092】
90 セラミックス基材
91 第1端部
92 第2端部
93 セル