(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/16 20060101AFI20220616BHJP
F16B 7/14 20060101ALI20220616BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B62D1/16
F16B7/14 C
B62D25/08 J
(21)【出願番号】P 2018088410
(22)【出願日】2018-05-01
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】田野 淳
(72)【発明者】
【氏名】原 崇
(72)【発明者】
【氏名】白髭 拓人
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-074275(JP,U)
【文献】実開平02-060075(JP,U)
【文献】実開昭55-139963(JP,U)
【文献】実開昭64-016969(JP,U)
【文献】特表2005-523406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/16 - 1/20
F16D 1/00 - 9/10
F16B 7/00 - 7/22
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に配置される操舵部材の操作により車両の操舵を行うステアリング装置であって、
筒状の外軸体と、前記外軸体にスライド自在に挿入されている内軸体とを備え、前記操舵部材の操作により発生するトルクを伝達する伸縮自在な軸体と、
前記車室と前方区画とを隔てる区画壁に固定的に取り付けられる筒体と、前記筒体に対し挿通状態の前記内軸体を回転可能に保持する軸受とを備える取付部材と、
前記筒体の端部に取り付けられ、前記筒体に挿通状態で配置される前記外軸体と前記筒体の隙間を覆い、前記外軸体より大径の内径を有する環状部と、前記外軸体の外周面部に接触して前記軸体が伸びることを規制する規制部とを備える保持部材と
を備えるステアリング装置。
【請求項2】
前記保持部材は、
前記外軸体と前記筒体との隙間において前記環状部から前記軸体の軸方向に沿って突出する突出部を備え、
前記規制部は、前記突出部の先端部に配置される
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記突出部は、前記軸体が縮んだ状態において前記規制部と前記外軸体とが接触し、前記内軸体に対して前記外軸体が相対移動することで前記軸体が伸びた状態において前記外軸体の端縁が前記規制部と前記環状部の間に位置する長さを有する
請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記規制部は、
前記規制部の前記外軸体側には、前記外軸体に設けられた規制穴に係合する規制突起を備える
請求項2または3に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記保持部材は、
前記筒体に挿通状態で配置される挿入部を備え、
前記挿入部の前記筒体側には、前記筒体に設けられた係合穴に係合する係合突起を備える
請求項1から4のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵部材に加えられる操舵力を伝達するステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリング装置は、自在継手によって接続される複数本の軸体を備えている。複数本の軸体は、車室内に配置されるステアリングホイールと前方区画に配置されるラックとの間で操舵部材のトルクを伝達し、ステアリングホイールに対するラックの相対的な位置の変化は自在継手により吸収している。一般的に車室とエンジンなどを収容する前方区画との間には、区画壁が設けられており、ステアリング装置の軸体は、区画壁に設けられた孔に挿通された状態で配置されている。
【0003】
特許文献1には、ステアリング装置の軸体が挿通される孔から騒音や異物が車室内へ入り込むことを抑制するため、軸体の回転や揺動などを許容しつつ孔の隙間を塞ぐゴム製のカバー部材が記載されている。
【0004】
また、ステアリング装置は、常時摺動タイプの軸体を備える場合がある。常時摺動タイプの軸体を備えるステアリング装置は、車両での組み付け性の向上や搬送中の安定性のため、組み付け直前まで縮んだ状態を保持することが求められる。従来は常時摺動タイプの軸体にワイヤーバンドを巻きつけて保持し、組み付け直前にワイヤーバンドを外して廃棄するという作業を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、摺動タイプの軸体を保持するワイヤーバンドは、煩雑な手作業が必要でありサイクルタイムも長くなる傾向にある。また、ワイヤーバンドは再利用もできないため、資源の無駄となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、常時摺動タイプの軸体を備えるステアリング装置を車体に組み付けるまで、軸体を縮んだ状態で保持し、組み付けた後も廃棄する部品が発生しないステアリング装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリング装置は、車室内に配置される操舵部材の操作により車両の操舵を行うステアリング装置であって、筒状の外軸体と、前記外軸体にスライド自在に挿入されている内軸体とを備え、前記操舵部材の操作により発生するトルクを伝達する伸縮自在な軸体と、前記車室と前方区画とを隔てる区画壁に固定的に取り付けられる筒体と、前記筒体に対し挿通状態の前記内軸体を回転可能に保持する軸受とを備える取付部材と、前記筒体の端部に取り付けられ、前記筒体に挿通状態で配置される前記外軸体と前記筒体の隙間を覆い、前記外軸体より大径の内径を有する環状部と、前記外軸体の外周面部に接触して前記軸体が伸びることを規制する規制部とを備える保持部材とを備える。
【0009】
これによれば、ステアリング装置を車両に組み付ける前は、保持部材が内軸体に対し外軸体を保持することで、軸体を縮んだ状態で維持することができる。また、ステアリング装置を車両に組み付けた後は、環状部が軸体と筒体との隙間を覆うため、異物の侵入を抑制することができる。従って、ステアリング装置を車両に取り付けた後も、保持部材を廃棄することなく、使用し続けることができる。
【0010】
また、前記保持部材は、前記外軸体と前記筒体との隙間において前記環状部から前記軸体の軸方向に沿って突出する突出部を備え、前記規制部は、前記突出部の先端部に配置されてもよい。
【0011】
これによれば、環状部と規制部とを軸体の軸方向に離すことができ、ステアリング装置取り付け前の軸体の保持と、取り付け後の軸体の回転とを簡単な構造で実現することが可能となる。
【0012】
また、前記突出部は、前記軸体が縮んだ状態において前記規制部と前記外軸体とが接触し、前記内軸体に対して前記外軸体が相対移動することで前記軸体が伸びた状態において前記外軸体の端縁が前記規制部と前記環状部の間に位置する長さを有してもよい。
【0013】
これによれば、ステアリング装置の取り付け後においても、環状部に外軸体が挿通状態となり、異物の侵入を効果的に抑制できる。
【0014】
また、前記規制部は、前記規制部の前記外軸体側には、前記外軸体に設けられた規制穴に係合する規制突起を備えてもよい。
【0015】
これによれば、ステアリング装置を組み付ける前は、確実に軸体を縮んだ状態で維持することができる。
【0016】
前記保持部材は、前記筒体に挿通状態で配置される挿入部を備え、前記挿入部の前記筒体側には、前記筒体に設けられた係合穴に係合する係合突起を備えてもよい。
【0017】
これにより、ステアリング装置の組み付け後において、外軸体と保持部材の規制部との規制関係を容易に解除することができる。また、筒体に保持部材を安定して固定し続けることができ、常に異物の侵入を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明よれば、ステアリング装置の組み付け前においては、常時摺動タイプの軸体を縮んだ状態で維持することができ、組み付け後においては、部品を廃棄することなく、異物の侵入阻止に利用し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ステアリング装置が取り付けられた車両の前方部分を簡略的に示す図である。
【
図2】区画壁近傍のステアリング装置を前方区画から示す斜視図である。
【
図3】区画壁近傍のステアリング装置を車室から示す斜視図である。
【
図4】ステアリング装置を側方から示す側面図である。
【
図5】ステアリング装置の断面を側方から示す断面図である。
【
図8】軸体が伸びた状態の保持部材近傍を示す断面図である。
【
図9】軸体が縮んだ状態の保持部材近傍を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係るステアリング装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0021】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0022】
図1は、ステアリング装置が取り付けられた車両の前方部分を簡略的に示す図である。同図に示すように、ステアリング装置100は、車室201に配置されるステアリングホイール等の操舵部材203の操作により車両200の操舵を行う装置であって、インターミディエイトシャフトなどと称される軸体110と、筒体120と、軸受130(
図5参照)と、変形部材140(
図5参照)と、保持部材160(
図5参照)を備えている。またステアリング装置100は、軸体110と操舵部材203とを自在継手を介して接続するコラムシャフト151と、軸体110とラック153とを自在継手を介して接続するロアシャフト152とを備えている。
【0023】
車両200は、自動車など陸上をタイヤ204によって走行する移動体であって、運転者が乗車する車室201と、いわゆるエンジンルーム等と称される前方区画202とを備えている。また、車室201と前方区画202とは、いわゆるダッシュパネルなどと称される区画壁210によって隔てられており、前方区画202からの騒音の侵入や、塵埃の侵入を防止している。
【0024】
図2は、区画壁近傍のステアリング装置を前方区画から示す斜視図である。
図3は、区画壁近傍のステアリング装置を車室から示す斜視図である。
図4は、ステアリング装置を側方から示す側面図である。
図5は、ステアリング装置の断面を側方から示す断面図である。
【0025】
これらの図に示すように、軸体110は、車室201から前方区画202に渡って配置され、操舵部材203の操作により発生するトルクを伝達する部材である。本実施の形態の場合、軸体110は、
図5に示すように、筒状の外軸体111と、外軸体111にスライド自在に挿入されている内軸体112とを備え、トルクの伝達が可能、かつ伸縮自在な常時摺動タイプのインターミディエイトシャフトとなっている。具体的には、外軸体111の内周面、および内軸体112の外周面にスプラインが設けられており、外軸体111と内軸体112の端部同士がスプライン嵌合している。
【0026】
筒体120は、車室201と前方区画202とを隔てる区画壁210に固定的に取り付けられ、軸体110を保持する部材であり、外筒体121と、内筒体122とを備えている。
【0027】
外筒体121は、区画壁210に固定状態で取り付けられる筒状の部材である。本実施の形態の場合、前方区画202から車室201内に向かって上昇するように斜めに配置される軸体110を挿通するため、外筒体121は、軸体110の軸と管軸とがほぼ一致するように区画壁210に固定される。外筒体121を区画壁210に固定する方法は特に限定されるものでは無いが、本実施の形態の場合、外筒体121の基端部には、外方に向かって突出するフランジ123が設けられており、外筒体121は、フランジ123を介して区画壁210に締結により取り付けられる。フランジ123は、外筒体121が所定の角度で取り付けられており、外筒体121の内径に対応した位置に、貫通孔124が設けられており、軸体110が挿通可能となっている。
【0028】
外筒体121の形状は、軸体110が挿通可能な筒状であれば、特に限定されるものでは無いが、本実施の形態の場合、円筒形状が採用されている。外筒体121を構成する材質は特に限定されるものでは無いが、フランジ123と共に軸体110を保持可能な剛性が必要である。例えば外筒体121の材質として、鋼、ステンレス、アルミニウム合金などを挙示することができる。
【0029】
内筒体122は、外筒体121の内方に配置され、軸体110が挿通状態で配置される筒状の部材である。内筒体122は、内方に挿通される内軸体112を軸受130を介して回転可能に保持している。
【0030】
内筒体122の形状は、軸体110が挿通可能な筒状であれば、特に限定されるものでは無いが、本実施の形態の場合、外筒体121よりも小径の円筒形状が採用されている。本実施の形態の場合、内筒体122は、外筒体121よりも長さが長く、区画壁を貫通し、一端部は外筒体121よりも車室201側に突出し、他端部は外筒体121よりも区画壁210を越えて前方区画202側に突出した状態で配置されている。
【0031】
内筒体122を構成する材質は特に限定されるものでは無いが、軸体110を保持可能な剛性が必要である。例えば外筒体121の材質として、鋼、ステンレス、アルミニウム合金などを挙示することができる。
【0032】
軸受130は、内筒体122に対し内軸体112を回転可能に保持する。また、ステアリング装置100を車両200に取り付ける際の内軸体112の軸の外筒体121の管軸に対するずれ、車両200の走行中の内軸体112の揺れによる軸のずれ等に応じて軸受130は、内筒体122の管軸を追随させる。本実施の形態の場合、内軸体112の軸の外筒体121に対する揺動的ずれに内筒体122の管軸を強い相関で追随させるために二つの軸受130を所定の間隔で配置し、二つの軸受130により内筒体122に対し内軸体112を保持させている。
【0033】
軸受130の配置位置は、特に限定されるものでは無く、内筒体122のいずれかの端部や中間部に配置してもかまわない。また、複数の軸受130を内筒体122の内部に分散して配置してもかまわない。本実施の形態の場合、軸受130は、内筒体122の一方端部にのみ配置されており、前方区画202側に突出した位置に配置されている。
【0034】
変形部材140は、外筒体121に対し内筒体122を固定的に保持し、ステアリング装置100を車両200に取り付ける際の組付け位置のずれ等により発生する力であって、軸体110から軸受130を介して内筒体122に加えられる力により外筒体121との間で変形し、調芯機能を発揮する部材である。変形部材140の形状や構造、材質などは特に限定されるものでは無い。例えば変形部材140は、材質の脆弱性により塑性変形するものでもよく、多孔質やハニカム構造のような構造的脆弱性により可逆的、または不可逆的に変形するものでもかまわない。
【0035】
図6は、変形部材を示す斜視図である。同図に示すように本実施の形態の場合、変形部材140は、外筒体121と内筒体122との間で発生する力により弾性変形するゴムやエラストマーからなる円環状のゴム部141を備えている。これによりステアリング装置100の組み付け時に発生する軸のずれをゴム部141の変形により吸収するばかりでなく、車両200走行時の振動による軸のずれにも柔軟に対応することが可能となる。また、変形部材140は、外筒体121の内周面に固定され、軸体110を介して内筒体122に加えられる力では変形しない剛体部である外剛体部142と、内筒体122の外周面に固定され、軸体110を介して内筒体122に加えられる力では変形しない剛体部である内剛体部143とを備えている。
【0036】
外剛体部142は、ゴム部141の外周面に配置される円環状の部材である。内剛体部143は、ゴム部141の内周面に配置される円環状の部材である。外剛体部142、および内剛体部143の材質は、所定の剛性を備えていれば特に限定されるものでは無く、筒体120と同様、鋼、ステンレス、アルミニウム合金などを例示することができる。外剛体部142、および内剛体部143とゴム部141との接合方法は特に限定されるものでは無いが、本実施の形態では加硫接着が採用されている。
【0037】
変形部材140が、外剛体部142、内剛体部143を含む剛体部を備えることにより、外筒体121と内筒体122との間に変形部材140を強く固定することができる。外筒体121と内筒体122との間に変形部材140を固定する方法は特に限定されるものでは無く、締結やネジ止めなどを例示することができる。本実施の形態の場合、外筒体121に対し外剛体部142を圧入し、内剛体部143に対し内筒体122を圧入することにより、変形部材140を外筒体121と内筒体122との間で固定されている。
【0038】
変形部材140の配置位置は、特に限定されるものでは無く、外筒体121のいずれかの端部や中間部に配置してもかまわない。また、複数の変形部材140を外筒体121の内部に分散して配置してもかまわない。本実施の形態の場合、変形部材140は、外筒体121の一方端部にのみ配置されており、軸受130と反対側の車室201側に突出した位置に配置されている。以上のように、軸受130と変形部材140との間隔を広くすることにより、外筒体121に対する軸体110の軸のずれを許容する範囲を広げることができる。
【0039】
以上説明した、フランジ123を備える外筒体121、変形部材140、内筒体122、および軸受130は、軸体110を区画壁210に対して回転可能に取り付ける取付部材として機能している。また、前記取付部材、軸体110、および保持部材160は、ステアリングユニットとして組み立てられた状態で車両200の内部に組み付けられる。
【0040】
図7は、保持部材を示す斜視図である。保持部材160は、
図3などに示すように、車両200に組み付けた後のステアリング装置100においては、内筒体122と軸体110との間の隙間に異物が侵入することを防止する保護部材として機能する。また、車両200に組み付ける前のステアリング装置100においては、伸縮自在な軸体110の不本意な伸長を規制するために内軸体112に対して外軸体111を保持する部材として機能する。具体的には、保持部材160は、筒体120の端部に取り付けられる部材であり、
図7に示すように、環状部161と、規制部162とを備えている。本実施の形態の場合、保持部材160はさらに、突出部163と、挿入部164と、係合突起165と、押下突起166とを備えている。
【0041】
環状部161は、筒体120の1つである内筒体122に挿入される外軸体111と内筒体122との隙間を覆う環状の部分である。環状部161の形状は、特に限定されるものでは無く一部が切り欠かれていてもよいが、内筒体122の端部の形状、および外軸体111の外周形状に対応させる必要がある。本実施の形態の場合、環状部161が配置される位置に対応した内筒体122、および外軸体111の形状はともに円筒形状であるため、環状部161は、断面が矩形の円環形状が採用されている。環状部161の外径は、内筒体122の内径よりも大きく、環状部161の内径は、外軸体111の外径よりも大きい。
【0042】
挿入部164は、内筒体122に挿入されることにより環状部161を内筒体122の端面に保持するための部分である。挿入部164の形状は、特に限定されるものでは無いが、内筒体122の内周の径よりも僅かに大径の外周を備えた筒形状、またはその筒形状の一部が採用される。本実施の形態の場合、挿入部164は、内筒体122の内周の径よりも外径が僅かに大径の円筒であって、環状部161の内径と同じ内径の円筒を周方向に6等分し、隣り合う片の間にスリットを設けた6片のうち一つ置きに選んだ3片が該当する。また、挿入部164は、環状部161に一体に接合されており、環状部161から軸体110の軸方向に沿ってそれぞれ突出している。
【0043】
挿入部164の3片の内の少なくとも1片の外周面には、内筒体122に向かって突出する係合突起165が設けられている。挿入部164が内筒体122に挿入された後、内筒体122に設けられた係合穴125(
図5参照)に係合突起165が嵌まり込むことで、保持部材160が内筒体122から不本意に脱落することを防止している。
【0044】
規制部162は、内筒体122に端部が挿入された状態で配置される外軸体111の外周面部に接触して軸体110が不本意に伸びることを規制する部分である。規制部162は、
図9に示すように、軸体110を縮めた状態では、内筒体122に対し外軸体111の軸方向の動きを規制する。規制部162の外軸体111の規制方法は、特に限定されるものでは無く、例えば規制部162が外軸体111の外周面に密着することによる摩擦力により外軸体111の軸方向の動きを規制してもかまわない。
【0045】
本実施の形態の場合、規制部162は、外軸体111と内筒体122との隙間において環状部161から軸体110の軸方向に沿って突出する突出部163の先端部に配置され、規制部162の内周面には、外軸体111に向かって突出する規制突起167が設けられている。規制突起167は、外軸体111に設けられた規制穴113に嵌められた状態で係合する半球状の突起であり、規制突起167が規制穴113に嵌合することにより軸方向における内軸体112に対する外軸体111の動きを規制する。規制突起167は、挿入部164の間に配置される3片の突出部163の先端部分にそれぞれ設けられている。
【0046】
突出部163は、規制部162を環状部161から所定の距離に配置するための部分であり、挿入部164の間において環状部161から軸体110の軸方向に沿ってそれぞれ突出している。突出部163は、環状部161に一体に接合されており、基端部分は挿入部164と同様、内筒体122の内径よりも僅かに大径となっている。突出部163の先端部分は基端部よりも薄肉になっている。
【0047】
押下突起166は、突出部163から内筒体122に向かって径方向に突出する部分であり、突出部163の中間部であって薄肉部分に設けられている。押下突起166の形状は特に限定されるものではなく、本実施の形態の場合は半球形状となっている。また、保持部材160の挿入部164が内筒体122の内周に挿入されていない状態においては、押下突起166の先端は、挿入部164の外周よりも外側に突出している。これにより、保持部材160の挿入部164を内筒体122に挿入した状態においては、押下突起166は、突出部163の薄肉部分を湾曲させ、規制部162を外軸体111に押しつける。
【0048】
突出部163は、
図9に示すように、軸体110が縮んだ状態において規制部162と外軸体111とが接触し、
図8に示すように、内軸体112に対して外軸体111を作業者などが相対移動させて軸体110を伸ばした場合において、外軸体111の端縁が規制部162と環状部161の間に位置する長さを有している。また、軸体110が伸びた状態においては、環状部161の内周、挿入部164の内周、突出部163の内周は、外軸体111の外周面と非接触状態となっており、保持部材160が外軸体111の軸周りの回転を妨げない。本実施の形態の場合、軸方向において、突出部163の長さは、挿入部164の長さとほぼ同じである。
【0049】
なお、外軸体111に設けられる規制穴113は、規制突起167が係合する形状であれば特に限定されるものではなく、例えば外軸体111の先端部外周面に半球状の規制穴113を規制突起167に対応する位置に設けてもよい。本実施の形態の場合、規制穴113は、外軸体111の先端部の外周面の一周にわたって設けられた溝状となっており、保持部材160が軸周りにずれたとしても、確実に規制穴113と規制突起167が係合できる。
【0050】
次に、ステアリング装置100を車両200に組み付ける前後の取り扱いについて説明する。車両200に組み付けられる前においては、外筒体121、変形部材140、内筒体122、軸受130、軸体110、保持部材160を含むステアリングユニットとして搬送され、ハンドリングされる。ステアリングユニットが搬送され、ハンドリングされる際には、軸体110は、
図9に示す縮んだ状態になっている。これは、軸体110が縮んだ状態では、内筒体122、およびこれに固定される軸受130と保持部材160とにより、内軸体112と外軸体111とがそれぞれ軸方向において固定されており、不本意に軸体110が伸長して外軸体111が外れるなどの不具合が発生しないためである。
【0051】
次に、軸体110が縮んだ状態で、ステアリングユニットを区画壁210に固定する。本実施の形態の場合は、外筒体121のフランジ123を区画壁210に締結することによりステアリングユニットが取り付けられる。フランジ123に対し外筒体121は、設計値に基づき所定の角度で取り付けられている。従って、フランジ123を区画壁210に取り付けると、外筒体121を介して内筒体122、および軸体110は、区画壁210に対し外筒体121と同じ方向に向いて配置される。
【0052】
次に作業者は、保持部材160の規制部162により規制状態となっている外軸体111を所定の距離ひき抜くことにより規制を解除する。なお、規制を解除するタイミングはこれに限定されるものではない。これにより、軸体110は、伸縮が自在となり、また、外筒体121、および内筒体122に対して回転自在となる。
【0053】
次に、外軸体111の先端とコラムシャフト151、内軸体112とロアシャフト152とを接続する。ここでコラムシャフトは車両200に固定されており、外軸体111も車両200の区画壁210に固定されているため、取付誤差などにより外軸体111を含む軸体110の軸がずれる場合がある。この場合でも、変形部材140が変形することによりこのずれを吸収するため、軸体110が回転する際に取付誤差などにより発生する軸体110の振れ回りを防止し、軸体110などに発生する負荷を抑制し、円滑な操舵を実現することができる。
【0054】
また、ステアリング装置100を車両200に組み付けた後においては、
図8に示すように保持部材160の規制部162は、その機能を発揮することはないが、環状部161は、外軸体111と内筒体122との隙間に塵埃が侵入することを抑制し、大きな異物が侵入することを防止する。これにより、内筒体122内に侵入した異物が軸体110の回転を阻害するなどの不具合の発生を抑制することができる。
【0055】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0056】
例えば、ステアリングユニットを取り付ける際、区画壁210の車室201側の面にフランジ123を当接させて固定したが、ステアリングユニットの取付態様は特に限定されるものではなく、フランジ123を区画壁210の前方区画202側の面に当接させてもかまわない。また、フランジ123の形状なども任意である。
【0057】
また、保持部材160は、内筒体122の内方に圧入して固定しているが、保持部材160の固定方法は任意であり、例えば、保持部材160が内筒体122の肉厚よりも狭い円環状のスリットを備え、当該スリットに内筒体122の端部を挿入してもかまわない。
【0058】
また、変形部材140として内外剛体部の間にゴム部141を加硫接着した変形部材140を説明したが、変形部材140はこれに限定されるものではない。例えば、変形部材140は、内外剛体を備えることなく、内筒体122と外筒体121との間にゴム部141を直接加硫接着したものでもかまわない。また、外筒体121と内剛体部143との間、または外剛体部142と内筒体122との間にゴム部141を配置してもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、車両のステアリング部分に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
100:ステアリング装置、110:軸体、111:外軸体、112:内軸体、113:規制穴、120:筒体、121:外筒体、122:内筒体、123:フランジ、124:貫通孔、125:係合穴、130:軸受、140:変形部材、141:ゴム部、142:外剛体部、143:内剛体部、151:コラムシャフト、152:ロアシャフト、153:ラック、160:保持部材、161:環状部、162:規制部、163:突出部、164:挿入部、165:係合突起、166:押下突起、167:規制突起、200:車両、201:車室、202:前方区画、203:操舵部材、204:タイヤ、210:区画壁