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特許7089938耐熱塗料組成物、耐熱塗膜、耐熱塗膜付き基材およびその製造方法
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  • 特許-耐熱塗料組成物、耐熱塗膜、耐熱塗膜付き基材およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】耐熱塗料組成物、耐熱塗膜、耐熱塗膜付き基材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20220616BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20220616BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220616BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20220616BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20220616BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/48
C09D7/61
C09D5/08
C09D7/43
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018097040
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019006982
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2017123534
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】引地 康人
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101935498(CN,A)
【文献】国際公開第2014/014063(WO,A1)
【文献】特開2012-136588(JP,A)
【文献】国際公開第2011/074620(WO,A1)
【文献】特開平07-228801(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024963(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147758(WO,A1)
【文献】特開2008-168913(JP,A)
【文献】特開2017-031399(JP,A)
【文献】特開平06-001952(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106700844(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103627318(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン系バインダー(A)、マイカ(B)雲母状酸化鉄(C)およびアマイド系揺変剤(D)を含む耐熱塗料組成物。
【請求項2】
前記マイカ(B)と前記雲母状酸化鉄(C)との質量比が90:10~30:70の範囲にある、請求項1に記載の耐熱塗料組成物。
【請求項3】
前記耐熱塗料組成物の顔料容積濃度(PVC)が30~50%である、請求項1または2に記載の耐熱塗料組成物。
【請求項4】
前記シロキサン系バインダー(A)が、重量平均分子量(Mw)が15,000以上300,000以下のシリコーンレジン(A1)および重量平均分子量が15,000未満のシリコーンオリゴマー(A2)からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3の何れか1項に記載の耐熱塗料組成物。
【請求項5】
前記シロキサンバインダー(A)がエチルシリケート(A3)を含む、請求項4に記載の耐熱塗料組成物。
【請求項6】
さらに、防錆顔料(E)を含む、請求項1~の何れか1項に記載の耐熱塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の耐熱塗料組成物から形成された耐熱塗膜。
【請求項8】
基材と請求項に記載の耐熱塗膜とを含む耐熱塗膜付き基材。
【請求項9】
前記基材がプラント構造物である、請求項に記載の耐熱塗膜付き基材。
【請求項10】
下記工程[1]および[2]を含む、耐熱塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、請求項1~の何れか1項に記載の耐熱塗料組成物を塗装する工程
[2]基材上に塗装された耐熱塗料組成物を乾燥させて耐熱塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱塗料組成物、耐熱塗膜、耐熱塗膜付き基材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント構造物等の配管には、外気への放熱や外気からの吸熱を防ぎ、エネルギーロスを抑制するため、配管(鋼管)の周りに保温材を設置することが多い。しかし、前記保温材と鋼(例:炭素鋼、低合金鋼)管との隙間に侵入した雨水や、当該箇所で凝集した水分が、鋼管表面に水膜を形成し、保温材下腐食(CUI:Corrosion Under Insulation)を生じることがある。該CUIは、前記水膜に起因して鋼管表面に腐食電池を形成することで、局所的な腐食浸食が発生することをいう。その腐食速度は、屋外大気中で発生する全面腐食より速いため、プラント構造物の保守管理において大きな問題となっている。
【0003】
さらに、前記CUIは、腐食浸食箇所が保温材下である(保温材で囲まれている)ため、一度侵入した水分が留まり易く、湿潤状態が長期にわたって維持されること、プラントの運転条件によっては、配管が高温に曝されることがあるため、酸化反応である腐食の進行が促進されること、また、プラント構造物は腐食因子となりうる海塩粒子が豊富な海浜地域に設けられることが多いため、該海塩粒子が腐食の進行を促進すること等に起因して、前記腐食浸食が深刻化し易い。
【0004】
そこで、前記腐食等を防ぐことを目的として、プラント構造物等に用いられる配管には、その外面に防食塗膜(耐熱塗膜)が設けられている。
プラント構造物等に用いられる配管は、そのプラントの運転条件によって、様々な温度環境に曝されるため、該配管に用いられる防食塗膜(耐熱塗膜)に求められる耐熱温度や耐加熱冷却サイクル条件も広範囲わたっており、例えば、600℃以上の超高温に対する耐性が要求されることもある。このため、従来では、前記プラントの運転条件(温度条件)を精査し、その条件に適合する防食塗膜(耐熱塗膜)をその条件に応じて選択し、適用する必要があった。
【0005】
通常、150℃以上の高温に曝されることが想定される部位には、シリコーンレジン系耐熱塗料から得られる耐熱塗膜が適用されている。
このようなシリコーンレジン系耐熱塗料に関して、特許文献1には、500℃の高温下に曝された後であっても、防食性を有する塗膜を形成可能な組成物が開示されており、特許文献2には、2回以上の重ね塗りで乾燥膜厚が100~400μmの塗膜を形成可能な組成物が開示されており、また、特許文献3には、5~30℃もしくは40℃の範囲で硬化可能であり、耐腐食性、耐熱性を有する塗膜を形成可能な組成物がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-213210号公報
【文献】特開平11―279488号公報
【文献】特表2009-522388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、乾燥膜厚が100~400μmの塗膜を形成可能な耐熱塗料組成物、常温下で塗膜を形成した場合であっても防食性、耐熱性を有する塗膜を形成可能な塗料組成物、および500℃の高温に曝された後であっても防食性を有する塗膜を形成可能な耐熱塗料組成物は知られていたが、特許文献1~3のいずれにも、乾燥膜厚が100μm以上の厚膜の塗膜を形成することができ、かつ、通常の環境温度(常温)下で塗膜を形成した場合であっても、優れた防食性を有する塗膜を形成できるとともに、600℃以上の耐熱性を有する塗膜を形成可能な耐熱塗料組成物は開示されていない。
【0008】
600℃以上の超高温に曝されるプラント構造物等の配管の外面に形成される、耐熱塗膜が厚膜である場合、該耐熱塗膜は、高温の温度環境、温度変化の繰り返しによって、膨れやクラックが発生しやすい。より具体的には、耐熱塗膜が高温に曝されることで、該塗膜中の残留溶剤の揮発、および、該塗膜を構成するシリコーンレジン成分の反応・分解等で生じるガスによる膨れ、また、該シリコーンレジン成分の反応・分解等による塗膜の内部応力が増大することに起因したクラックを生じることがある。これらの塗膜欠陥は、特に、厚膜に塗装された場合に生じやすいため、従来のシリコーンレジン系耐熱塗料から得られる耐熱塗膜の膜厚は、80μm未満であることが通常であり、100μm以上の厚膜の塗装仕様とすることは困難であった。
しかしながら、プラント構造物等の配管において、CUIが保守管理上の大きな問題となっており、その厳しい腐食環境に対して、前述のような80μm未満の薄膜では、長期の防食性を維持することはできないことが分かった。
【0009】
また、従来のシリコーンレジン系耐熱塗料を用いる場合、一定の条件で加熱乾燥(焼付)しないと、本来期待される十分な防食性等の塗膜性能を有する塗膜を得ることができないことが分かった。しかしながら、プラント構造物は大型の構造物であるため、既設の構造物に対して補修塗装する場合、加熱乾燥(焼付)すること自体が困難であることが多い。また、プラント構造物の建造時に、鋼管等の各部材に対して耐熱塗膜を形成する場合、加熱乾燥(焼付)することは可能であるが、工程数の増加、および、加熱のためのエネルギー等により製造コストが増加する。したがって、常温(5~40℃)乾燥により塗膜を形成しても、プラント構造物に求められる十分な防食性等の塗膜性能を有する耐熱塗膜を形成可能な塗料が求められていた。
さらに、プラント構造物は、運転条件によって様々な温度環境となるため、その環境に耐えうる防食塗膜(耐熱塗膜)および塗装仕様を選択する必要があるが、施工管理や設備の補修において、その管理が煩雑となっている。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、塗膜を形成する際に加熱乾燥を行わなくても、「保温材下」などの厳しい腐食環境において、優れた防食性を示す塗膜を形成可能な耐熱塗料組成物を提供する。
また、様々な温度下に曝されても、十分な耐熱性、防食性および基材への付着性を維持できる塗膜を形成可能な耐熱塗料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者が、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、以下の構成によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0012】
<1> シロキサン系バインダー(A)、マイカ(B)および雲母状酸化鉄(C)を含む耐熱塗料組成物。
【0013】
<2> 前記マイカ(B)と前記雲母状酸化鉄(C)との質量比が90:10~30:70の範囲にある、<1>に記載の耐熱塗料組成物。
<3> 前記耐熱塗料組成物の顔料容積濃度(PVC)が30~50%である、<1>または<2>に記載の耐熱塗料組成物。
【0014】
<4> 前記シロキサン系バインダー(A)が、重量平均分子量(Mw)が15,000以上300,000以下のシリコーンレジン(A1)および重量平均分子量が15,000未満のシリコーンオリゴマー(A2)からなる群より選択される少なくとも1つを含む、<1>~<3>の何れかに記載の耐熱塗料組成物。
<5> 前記シロキサンバインダー(A)がエチルシリケート(A3)を含む、<4>に記載の耐熱塗料組成物。
【0015】
<6> さらに、アマイド系揺変剤(D)を含む、<1>~<5>の何れかに記載の耐熱塗料組成物。
<7> さらに、防錆顔料(E)を含む、<1>~<6>の何れかに記載の耐熱塗料組成物。
【0016】
<8> <1>~<7>の何れかに記載の耐熱塗料組成物から形成された耐熱塗膜。
<9> 基材と<8>に記載の耐熱塗膜とを含む耐熱塗膜付き基材。
<10> 前記基材がプラント構造物である、<9>に記載の耐熱塗膜付き基材。
【0017】
<11> 下記工程[1]および[2]を含む、耐熱塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、<1>~<7>の何れかに記載の耐熱塗料組成物を塗装する工程
[2]基材上に塗装された耐熱塗料組成物を乾燥させて耐熱塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塗膜を形成する際に加熱乾燥を行わなくても、「保温材下」などの厳しい腐食環境において、長期にわたって優れた防食性を示すとともに、ステンレス鋼等の基材との付着性に優れ、また、600℃を超えるような超高温を含む幅広い温度下においても、十分な耐熱性、防食性および基材への付着性を維持できる塗膜を形成可能な耐熱塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例における防食性評価に用いた、スクライブを入れた試験片の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪耐熱塗料組成物≫
本発明の一実施形態に係る耐熱塗料組成物(以下単に「本組成物」ともいう。)は、シロキサン系バインダー(A)、マイカ(B)および雲母状酸化鉄(C)を含有する。
本組成物は、これら成分(A)~(C)を含有するため、該本組成物によれば、乾燥膜厚が100μm以上の厚膜であり、かつ、600℃を超える高温環境に晒された後でも、防食性および基材に対する付着性を維持することができ、また、常温乾燥により形成しても十分な防食性を有する耐熱塗膜を得ることができる。
また、本組成物によれば、特に、炭素鋼と比較して線膨張係数の大きい、400℃以上の高温環境に曝されることが想定される場合に適用されるステンレス鋼(例:SUS304、SUS316L等)等との付着性が良好な耐熱塗膜を形成することができる。
このため、本組成物は、種々の温度条件での運転が想定される、また保温材の設置がなされる、プラント構造物用の配管外面に好適に用いられ、CUIの抑制に適した耐熱/防食塗膜を形成可能な塗料として好適に用いられる。
【0021】
本組成物は、成分(A)~(C)を含有すれば特に制限されず、所望により、本発明の効果を損なわない範囲で、アマイド系揺変剤(D)、防錆顔料(E)、その他の成分として、成分(B)、(C)および(E)以外の顔料、顔料分散剤、消泡剤、成分(D)以外のタレ止め・沈降防止剤、脱水剤等の添加剤、有機溶剤および硬化触媒等を含んでいてもよい。
【0022】
<シロキサン系バインダー(A)>
前記シロキサン系バインダー(A)としては、シロキサン結合を有する化合物であれば特に制限されない。該シロキサン系バインダー(A)は、シロキサン系結合剤でもある。
本組成物では、バインダーとしてシロキサン系バインダー(A)を用いるため、特に耐熱性に優れる耐熱塗膜を得ることができる。
本組成物中に含まれるシロキサン系バインダー(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0023】
前記シロキサン系バインダー(A)としては、例えば、分子中にシロキサン結合を介して反応性基を有し、該反応性基が互いに反応することで、高分子量化または三次元架橋構造を形成し、硬化する化合物が挙げられる。
なお、前記反応としては、例えば、縮合反応および付加反応が挙げられ、縮合反応としては、脱水反応、脱アルコール反応等が挙げられる。
【0024】
前記シロキサン系バインダー(A)は、例えば、下記式(I)で示される化合物であることが好ましく、下記シリコーンレジン(A1)および/またはシリコーンオリゴマー(A2)を含有することが好ましく、さらにエチルシリケート(A3)を含有することができる。
特に、本組成物は、耐熱性および防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、シロキサンバインダー(A)として、シリコーンレジン(A1)を含有することが好ましく、塗料性状や塗膜性能の調整を目的として、より重量平均分子量が低いシリコーンオリゴマー(A2)と組み合わせて用いることがより好ましく、さらにエチルシリケート(A3)を組み合わせて用いることができる。
前記シロキサン系バインダー(A)は、直鎖状または分岐状であってよい。
【0025】
【化1】
(式(I)中、R1はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~8のアリール基または炭素数1~8のアルコキシ基を示し、R2はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~8のアリール基または水素原子を示す。また、nは繰り返し数を示し、シロキサン系バインダーの重量平均分子量が200~300,000の範囲となるように選択される。)
【0026】
前記R1およびR2における炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられる。
前記R1およびR2における炭素数6~8のアリール基は、芳香環上にアルキル基等の置換基を有する基であってもよく、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基が挙げられる。
前記R1における炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基が挙げられる。
【0027】
前記シロキサン系バインダー(A)の、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(以下単に「Mw」ともいう。)は、好ましくは200~300,000であり、より好ましくは400~200,000である。
該Mwは、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0028】
前記シロキサン系バインダー(A)の含有量は、防食性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは20~45質量%、より好ましくは25~43質量%、特に好ましくは28~38質量%である。
【0029】
〈シリコーンレジン(A1)〉
前記シリコーンレジン(A1)は、後述するエチルシリケート(A3)以外の化合物であれば特に制限されないが、前記式(I)で表される化合物であることが好ましく、式(I)におけるR1がメチル基、エチル基、プロピル基またはフェニル基である化合物がより好ましく、また、式(I)におけるR2がメチル基、エチル基、フェニル基または水素原子である化合物がより好ましい。
本組成物中に含まれるシリコーンレジン(A1)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0030】
前記シリコーンレジン(A1)は、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等の耐熱性を有する樹脂であることが好ましく、下記、ジメチルシロキサン単位(a1)、ジフェニルシロキサン単位(a2)、モノメチルシロキサン単位(a3)、モノプロピルシロキサン単位(a4)およびモノフェニルシロキサン単位(a5)からなる群より選択される1種以上の構成単位を含有することがより好ましい。
【0031】
【化2】
(式(a1)~(a5)中、Si-O-における、Oに結合し、Siに結合していない「-」は、結合手を示し、Si-O-は、必ずしもSi-O-CH3を示すわけではない。)
【0032】
前記シリコーンレジン(A1)のMwは、耐熱性および防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、15,000以上300,000以下であり、好ましくは18,000以上200,000以下である。
Mwが前記範囲より大きいシリコーンレジン(A1)は、粘度が高いため、取り扱い性を考慮した場合、このようなシリコーンレジン(A1)を含む本組成物の粘度を下げるために、有機溶剤等による希釈が必要となる場合が多い。この結果、本組成物中の溶剤分が増加することとなり、本組成物中のVOC(Volatile Organic Compounds/揮発性有機化合物)を低減できない場合がある。
【0033】
前記シリコーンレジン(A1)は、従来公知の合成方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、「SILRES REN60」、「SILRES REN80」(いずれも旭化成ワッカーシリコーン(株)製)、「SILIKOPHEN P80/X」(Evonik社製)が挙げられる。
【0034】
前記シリコーンレジン(A1)の含有量は、防食性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは10~40質量%、より好ましくは12~35質量%、特に好ましくは12~33質量%である。
【0035】
<シリコーンオリゴマー(A2)>
前記シリコーンオリゴマー(A2)は、後述するエチルシリケート(A3)以外の化合物であれば特に制限されないが、前記シリコーンレジン(A1)の欄で挙げた構造と同様の構造を有する化合物であることが好ましい。
前記シリコーンオリゴマー(A2)のMwは、15,000未満であり、好ましくは400~12,000である。
本組成物中に含まれるシリコーンオリゴマー(A2)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0036】
前記シリコーンオリゴマー(A2)は、従来公知の合成方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、「SILRES MSE100」(旭化成ワッカーシリコーン(株)製)、「KR-401N」(信越化学工業(株)製)が挙げられる。
【0037】
前記シリコーンオリゴマー(A2)の含有量は、防食性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0~40質量%、より好ましくは2~25質量%、特に好ましくは3~10質量%の量である。
【0038】
<エチルシリケート(A3)>
前記エチルシリケート(A3)は、エトキシ基を有するシロキサンで構成される化合物であって、下記式(II)で表される。
本組成物中に含まれるエチルシリケート(A3)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0039】
【化3】
(式(II)中、nは1~10である。)
【0040】
前記エチルシリケート(A3)は、従来公知の合成方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、五量体を中心とする分子量分布を持つオリゴマーである「エチルシリケート 40」(コルコート(株)製)、「Wacker Silicate TES 40WN」(旭化成ワッカーシリコーン(株)製)が挙げられる。
【0041】
前記エチルシリケート(A3)の含有量は、塗装作業性、低価格化および貯蔵中の脱水効果に優れる塗料組成物を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~10質量%である。
【0042】
本組成物における、シリコーンレジン(A1)およびシリコーンオリゴマー(A2)の合計含有量と、エチルシリケート(A3)の含有量との割合(A1+A2:A3)は、耐熱性および防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは100:0~90:10である。
【0043】
また、本組成物における、シリコーンレジン(A1)の含有量と、シリコーンオリゴマー(A2)およびエチルシリケート(A3)の合計含有量との割合(A1:A2+A3)は、耐熱性および防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは90:10~30:70であり、より好ましくは90:10~40:60である。
【0044】
<マイカ(B)>
前記マイカ(B)は、鱗片状(扁平状)のマイカであれば特に制限されない。
本組成物は、シロキサン系バインダー(A)を用いる系において、マイカ(B)と雲母状酸化鉄(C)とを併用することで、はじめて、塗膜を形成する際に加熱乾燥を行わなくても、形成された塗膜が100μm以上の厚膜であっても、600℃以上の高温下を含む様々な温度下に曝されても、「保温材下」などの厳しい腐食環境でも、長期にわたって耐熱性、防食性および基材への付着性に優れる耐熱塗膜を得ることができる。
本組成物中に含まれるマイカ(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0045】
前記マイカ(B)は、その組成によって白マイカ(Muscovite)、金マイカ(Phologopite)等に分類される。
前記マイカ(B)としては特に限定されないが、基材、特にステンレス鋼に対する付着性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、白マイカが好ましい。
【0046】
前記マイカ(B)の、レーザ回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製、SALD-2200)を用いて測定される平均粒子径(メディアン径)は、基材、特に鋼管に対する付着性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは25~80μm、より好ましくは35~60μmである。
【0047】
前記マイカ(B)のアスペクト比(平均粒子径/粒子の平均厚さ)は、基材への付着性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは10~150、より好ましくは20~100である。
なお、前記粒子の平均厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL-30」(フィリップス社製)を用い、マイカ(B)の主面に対して水平方向から観察し、数十~数百個の顔料粒子の厚さの平均値として算出できる。
【0048】
前記マイカ(B)は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、「マイカパウダー100メッシュ」((株)福岡タルク工業所製、平均粒子径:41μm)が挙げられる。
【0049】
前記マイカ(B)の含有量は、付着性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは15~60質量%、より好ましくは20~40質量%である。
【0050】
<雲母状酸化鉄(C)>
前記雲母状酸化鉄(Micacious Iron Oxide(MIO))は、鱗片状(扁平状)・六角板状の酸化鉄からなる顔料であって、天然鉱物を破砕・分級処理した顔料であってもよく、水熱処理等の従来公知の方法で合成した顔料であってもよい。
本組成物中に含まれる雲母状酸化鉄(C)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0051】
前記雲母状酸化鉄(C)は、前記マイカ(B)の欄で挙げた方法と同様の方法で平均粒子径(メディアン径)および粒子の平均厚さを測定することができ、その平均粒子径は、防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは15~45μm、より好ましくは20~35μmである。
また、雲母状酸化鉄(C)のアスペクト比(平均粒子径/粒子の平均厚さ)は、基材に対する付着性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは5~100、より好ましくは10~50である。
【0052】
前記雲母状酸化鉄(C)は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、「MIOX 325mesh」(Anhui Tongling Micaceous Iron Oxide Factory社製、平均粒子径:26μm)が挙げられる。
【0053】
前記雲母状酸化鉄(C)の含有量は、防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~38質量%、特に好ましくは27~35質量%である。
【0054】
本組成物において、高温耐熱試験後の塗膜物性および常温硬化時の防食性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、前記マイカ(B)と前記雲母状酸化鉄(C)との質量比が、好ましくは90:10~30:70、より好ましくは60:40~40:60である。
【0055】
<アマイド系揺変剤(D)>
本組成物は、アマイド系揺変剤(D)を含有することで、揺変性に優れ、該組成物によれば、1回の塗装で乾燥膜厚100μm以上の厚膜を形成できるとともに、塗装対象の基材がSUS304、SUS316L等のようなステンレス鋼であっても、基材に対する付着性に優れ、かつ、400℃以上の高温環境に曝された後であっても、優れた付着性を維持する耐熱塗膜を得ることができる。
本組成物中に含まれるアマイド系揺変剤(D)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0056】
前記アマイド系揺変剤(D)としては特に制限されないが、例えば、植物油脂肪酸およびアミンから合成される揺変剤が挙げられる。
【0057】
前記アマイド系揺変剤(D)としては、従来公知の方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、例えば、「ディスパロンA630-20X」、「ディスパロン6650」(いずれも楠本化成(株)製)、「A-S-A T-250F」(伊藤製油(株)製)、「フローノン RCM-300TL」(共栄社化学(株)製)が挙げられる。
【0058】
前記アマイド系揺変剤(D)の含有量は、前述のアマイド系揺変剤(D)による効果がより発揮される等の点から、本組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.3~5質量%、より好ましくは1~2.5質量%である。
【0059】
<防錆顔料(E)>
本組成物は、防錆顔料(E)を含有することで、常温で硬化乾燥した場合であっても、防食性に優れる耐熱塗膜を得ることができる。
本組成物中に含まれる防錆顔料(E)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0060】
前記防錆顔料(E)としては特に制限されず、従来公知の防錆顔料が挙げられる。好ましくは鉛・クロムフリーの防錆顔料であり、より好ましくはリン酸塩系防錆顔料であり、特に好ましくはリン酸亜鉛系防錆顔料、リン酸アルミニウム系防錆顔料である。
【0061】
前記防錆顔料(E)は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、「LFボウセイ ZP-N」、「LFボウセイ PM-303W」(いずれもキクチカラー(株)製)が挙げられる。
【0062】
前記防錆顔料(E)の含有量は、前述の防錆顔料(E)による効果がより発揮される等の点から、本組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは1~10質量%、より好ましくは3~8質量%である。
【0063】
<その他の成分>
本組成物は、必要により、本発明の効果を損なわない限り、マイカ(B)、雲母状酸化鉄(C)および防錆顔料(E)以外の顔料(着色顔料および体質顔料)、顔料分散剤、消泡剤、アマイド系揺変剤(D)以外のタレ止め・沈降防止剤、脱水剤等の添加剤、有機溶剤、硬化触媒等を含んでいてもよい。
これらその他の成分は、それぞれ、1種でもよく、または2種以上でもよい。
【0064】
(着色顔料)
前記着色顔料としては特に制限されないが、耐熱性を有する着色顔料であることが好ましく、例えば、Pigment Black 28(Copper chromite black spinel)、アルミニウムフレーク、ステンレスフレーク、チタン白、カーボンブラック、弁柄が挙げられる。
前記着色顔料の市販品としては、例えば、クロムフリーの黒色無機顔料である「CFP-4010BK」(MnO2-Fe23-CuO-Co34、奥野製薬工業(株)製)、アルミニウムペーストである「Al-Paste 0100M-C70」(東洋アルミニウム(株)製)が挙げられる。
【0065】
〈体質顔料〉
前記体質顔料としては特に制限されないが、耐熱性を有する体質顔料であることが好ましく、例えば、タルク、シリカ、カリ長石、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カオリン、酸化アルミニウムが挙げられる。
【0066】
〈顔料分散剤〉
前記顔料分散剤としては特に制限されないが、本組成物中の顔料を均一に分散させ、安定な分散体を調製することができる分散剤であることが好ましい。
前記顔料分散剤は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、「Disperbyk-180」、「Disperbyk-2022」(いずれもビックケミー・ジャパン(株)製)が挙げられる。
【0067】
〈消泡剤〉
前記消泡剤としては特に制限されないが、本組成物の製造時や塗装時に泡の発生を抑えることができる材料、または、本組成物中に発生した泡を破泡することができる材料であることが好ましい。
前記消泡剤は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、「BYK-320」、「BYK-066N」、「BYK-1790」(いずれもビックケミー・ジャパン(株)製)が挙げられる。
【0068】
〈タレ止め・沈降防止剤〉
前記タレ止め・沈降防止剤は特に制限されないが、本組成物の顔料沈降を抑制し、その貯蔵安定性を向上させることができる材料、または、塗装時や塗装後の塗料組成物のタレ止め性を向上させることができる材料であることが好ましい。
【0069】
タレ止め・沈降防止剤としては、例えば、水添ヒマシ油系揺変剤、酸化ポリエチレン系揺変剤等の有機系揺変剤、ベントナイト等の粘土鉱物、合成微粉シリカ等の無機系揺変剤が挙げられ、これらの中でも、酸化ポリエチレン系揺変剤、合成微粉シリカおよびベントナイト等の粘土鉱物が好ましい。
【0070】
前記タレ止め・沈降防止剤は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、有機変性ベントナイト系粘性調整剤(ヘクトライト/第4級アミン)である「Bentone38」(Elementis Specialties Inc.社製)、二酸化ケイ素系揺変剤である「Aerosil R972」(日本アエロジル(株)製)、酸化ポリエチレン系揺変剤である「A-S-A D-120」(伊藤製油(株)製)が挙げられる。
【0071】
前記タレ止め・沈降防止剤の含有量は、本組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1~10質量%である。
【0072】
〈脱水剤〉
前記脱水剤は、脱水効果を有すれば特に制限されないが、過剰な水分による本組成物の貯蔵安定性の低下を抑制できる材料であることが好ましい。
このような脱水剤としては、例えば、無水石膏、ビニルトリメトキシシランが挙げられる。
【0073】
〈有機溶剤〉
本組成物をプラント運転中の高温状態にあるプラント構造物、特に配管外面等の基材などに施工する場合、基材表面の熱で有機溶剤分が揮発しやすく、良好な塗膜の形成が困難となりやすい。このため、前記有機溶剤としては、比較的高沸点の有機溶剤を含むことが好ましい。このような高沸点有機溶剤としては、例えば、ミネラルスピリット、イソプロピルアルコールが挙げられる。その他に通常塗料に使用される溶剤類も適用できる。このような有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、n-ブチルアルコールが挙げられる。
【0074】
〈硬化触媒〉
前記硬化触媒は特に制限されないが、前記シロキサンバインダー(A)の架橋反応を促進する効果を有する材料であることが好ましく、例えば、アミノシラン、チタンアルコキシド、チタンキレート、アルミニウム・亜鉛等の金属石鹸、リン酸、リン酸エステルが挙げられる。これらの中でも、本組成物を1液型の形態とし易い傾向にある等の点から、アルミニウム・亜鉛等の金属石鹸が好ましい。
【0075】
前記硬化触媒は、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、リン酸系硬化触媒である「D-220」、「X-40-2309A」、チタン系硬化触媒である「D-25」、「D-20」、「DX-175」、アルミニウム系硬化触媒である「DX-9740」、「CAT-AC」、アミン系硬化触媒である「KP-390」(アミノ基含有アルコキシシランのn-ブタノール溶液)、亜鉛系硬化触媒である「D-15」、「D-31」(いずれも信越化学工業(株)製)が挙げられる。
【0076】
<耐熱塗料組成物>
本組成物の顔料容量濃度(PVC:Pigment Volume Concentration)は、防食性により優れ、加熱乾燥後の塗膜の基材に対する付着性により優れる耐熱塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは30~50%、より好ましくは35~45%である。
PVCが前記範囲を下回ると、形成される耐熱塗膜の防食性が低下する傾向にあり、加熱乾燥後の塗膜の基材に対する付着性も低下する傾向にある。また、PVCが前記範囲を上回ると、形成される耐熱塗膜の防食性が低下する傾向にある。
【0077】
前記PVCとは、本組成物中の固形分(不揮発分)の容積に対する、顔料の合計の容積濃度のことをいう。PVCは、具体的には下記式より求めることができる。
PVC[%]=本組成物中の全ての顔料の容積合計×100/本組成物中の固形分の容積
【0078】
なお、本明細書において、本組成物の固形分は、JIS K 5601-1-2(加熱温度:125℃、加熱時間:60分)に従って得られる加熱残分を意味する。また、本組成物の固形分は、用いる原料における溶媒および前記有機溶剤を除いた量として算出することもできる。
【0079】
前記本組成物中の固形分の容積は、本組成物の固形分の質量および真密度から算出することができる。前記固形分の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
前記顔料の容積は、用いた顔料の質量および真密度から算出することができる。前記顔料の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。例えば、本組成物の固形分より顔料と他の成分とを分離し、分離された顔料の質量および真密度を測定することで算出することができる。
【0080】
本組成物は、塗装作業性に優れる組成物となる等の点から、1成分型の塗料組成物であることが好ましいが、前記硬化触媒を塗装作業開始の直前に混合撹拌する、2成分型の塗料組成物とすることもできる。
【0081】
≪耐熱塗膜および耐熱塗膜付き基材≫
本発明の一実施形態に係る耐熱塗膜(以下「本耐熱塗膜」ともいう。)は、前述した本組成物より形成され、本発明の一実施形態に係る耐熱塗膜付き基材は、本耐熱塗膜と基材とを含む積層体である。
【0082】
前記基材としては特に制限されず、例えば、鉄鋼(鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、合金鋼等)、非鉄金属(ステンレス、アルミニウム等)からなる金属基材、および表面がショッププライマー等で被覆された金属基材が挙げられる。また、前記基材としては、プラント構造物、陸上構造物、海洋構造物、船舶等が挙げられるが、本発明の効果がより発揮される等の点から、好ましくはプラント構造物であり、プラント構造物の中でもプラント配管がより好ましい。前記基材としては、特に、プラント配管や船舶、海洋構造物に使用される炭素鋼、または、耐冷・耐熱性を要する部位に好適に用いられるSUS304、SUS316L等のステンレス鋼がより好ましい。
【0083】
本耐熱塗膜の膜厚は、基材を防食できる程度の厚みがあれば、特に制限されないが、好ましくは100~400μm、より好ましくは150~280μmである。
本組成物を用いるため、このような膜厚の塗膜を基材上に形成しても、該塗膜に膨れやクラックが発生し難く、特に、400℃以上の高温や急激な温度変化に曝された場合でも、膨れやクラックが発生し難いため、長期にわたって基材を防食することができる。
なお、防食性を考慮すれば、より厚膜の状態が望ましいが、過剰な厚膜の場合、加熱により該塗膜に含まれる残留溶剤等が揮発することで塗膜に膨れが発生したり、シロキサン系バインダー(A)や該バインダー由来の成分の反応や分解による構造変化で生じる塗膜内部応力の増大と、それに伴うクラックや剥離が発生しやすくなる傾向にある。
【0084】
本耐熱塗膜は、前述した本組成物より形成され、具体的には、下記工程[1]および[2]を含む工程を経ることで、製造することができる。
[1]基材に、本組成物を塗装する工程
[2]基材上に塗装された耐熱塗料組成物を乾燥させて耐熱塗膜を形成する工程
【0085】
さらに、本方法は、下記工程[3]を含むことで、防食性および耐熱性により優れる耐熱塗膜を形成することができる。
[3]前記工程[2]で得られた塗膜を150~250℃で加熱する工程
【0086】
<工程[1]>
本組成物を基材上に塗装する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用可能であり、通常用いられるエアレススプレー塗装、エアースプレー塗装、刷毛塗り、ローラー塗装等が好ましい。作業性や生産性等に優れ、大面積の基材に対して容易に塗装でき、本発明の効果をより発揮できる等の点から、スプレー塗装が好ましい。
なお、本組成物が2成分型の組成物である場合、塗装直前に主剤成分と硬化促進成分(前記硬化触媒を含む成分)を混合し、スプレー塗装などを行ってもよい。
【0087】
前記スプレー塗装の条件は、形成したい耐熱塗膜の厚さに応じて適宜調整すればよいが、例えばエアレススプレーの場合、1次(空気)圧:0.4~0.8MPa程度、2次(塗料)圧:10~26MPa程度、ガン移動速度:50~120cm/秒程度に塗装条件を設定すればよい。
その際使用される本組成物の粘度はシンナーで調整されるが、当該粘度はB型粘度計(「TVB-10M、東機産業(株)製)で測定した場合、23℃で1.8~2.5Pa・s程度が好ましい。前記シンナーとしては、本組成物中の成分を溶解または分散可能な有機溶剤であることが好ましく、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、n-ブタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤が挙げられる。用いられるシンナーは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0088】
本組成物をプラント配管等に塗装する場合、プラントの運転を停止しない状態で、比較的高温の配管等に塗装することも可能であるが、この場合、スプレー塗装した塗料が基材表面で均一で平滑な塗膜になる前に固化し、ダスト状に塗装されやすくなる。これを抑制すること等を目的として、前記シンナーとして、高沸点溶剤を使用することができる。
【0089】
本組成物を基材上に塗装するに際し、基材上の錆、油脂、水分、塵埃、塩分等を除去するため、また、得られる耐熱塗膜の基材との付着性を向上させるために、必要により前記基材表面を処理(例えば、ブラスト処理(ISO8501-1 Sa2 1/2)、脱脂による油分、粉塵を除去する処理)等を行うことが好ましい。また、前記基材には、1次防錆を目的として、ショッププライマー等を塗装してもよい。
【0090】
<工程[2]>
本組成物は、常温で乾燥・硬化可能であり、このように、常温で乾燥・硬化させても、耐熱性および防食性に優れる耐熱塗膜を得ることができる。また、所望により、乾燥時間の短縮のため、加熱下で乾燥させてもよい。
前記乾燥条件としては特に制限されず、本組成物、基材、塗装場所等に応じて、適宜設定すればよいが、乾燥温度が、好ましくは5~40℃、より好ましくは10~30℃であり、乾燥時間が、好ましくは18時間~14日、より好ましくは24時間~7日である。
【0091】
<工程[3]>
前記工程[3]を行うことで、物理的、化学的により耐性のある耐熱塗膜を形成することができる。即ち、より塗膜硬度の高い、または、より防食性に優れる耐熱塗膜の形成が可能となる。
前記工程[3]おける加熱条件としては特に制限されないが、加熱温度が、好ましくは150~250℃であり、加熱時間が、好ましくは10分~3時間、より好ましくは30分~1時間である。
【0092】
前記膜厚の耐熱塗膜を形成する方法としては、1回の塗装で所望膜厚の塗膜を形成してもよいし、2回以上の塗装(2回以上塗り)で所望の膜厚の塗膜を形成してもよい。膜厚管理の観点、および、塗膜中の残留溶剤を考慮すると、2回以上の塗装で所望膜厚の塗膜を形成することが好ましい。
なお、2回の塗装(2回塗り)とは、工程[1]および[2]、必要により工程[3]を行った後、得られた塗膜上に、工程[1]および[2]、必要により工程[3]を行う方法のことをいい、3回以上の塗装は、さらに、一連の工程を繰り返す方法のことをいう。
【0093】
2回以上の塗装による塗膜形成を行う場合、例えば1回目に塗装を行う塗料・塗膜の色相と、次に塗装を行う塗料・塗膜の色相は異なることが好ましい。これは、塗装作業において、塗り忘れや膜厚不足などの判断を容易にするための措置である。また最終的な外面の色相を指定の色相に仕上げるために上塗り塗装を行ってもよい。
【実施例
【0094】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって制限されない。
【0095】
<シロキサン系バインダー(A)の重量平均分子量>
シロキサン系バインダー(A)の重量平均分子量(Mw)を下記条件でGPC法により測定した。
・GPC条件
・装置:「Alliance 2695」(Waters社製)
・カラム:「TSKgel SuperH4000」1本と「TSKgel SuperH2000」2本を連結(いずれも東ソー(株)製、内径6mm×長さ15cm)
・溶離液:テトラヒドロフラン99%(Stabilized whith BHT)
・流速:0.6ml/min
・検出器:「RI-104」(Shodex社製)
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:標準ポリスチレン
・サンプル調製法:試料をサンプル管に量り取り、テトラヒドロフランを加えて約100倍に希釈
【0096】
[実施例1]
容器にニューソルベントA 9.7質量部、n-ブタノール 2質量部、キシレン 6.05質量部、Disperbyk-180 0.2質量部およびBYK-320 0.05質量部を入れ、さらにSILRES REN80 30.3質量部、ディスパロン 6650 1質量部およびLFボウセイ ZP-N 4質量部を加えてハイスピードディスパーにて撹拌し、均一に分散した。
得られた混合物に、マイカパウダー100メッシュ 36.9質量部を加えて撹拌し、その撹拌により生じる熱で混合物の温度を58℃まで上げた。
さらに、MIOX 325mesh 8.3質量部を加え、撹拌、均一に分散した後、30℃以下まで冷却し、D-15 1.5質量部を加えて撹拌、均一に分散し、60メッシュのナイロン網で濾過し、塗料組成物を調製した。
【0097】
[実施例2~14および比較例1~3]
表2~5に記載の原料を、該表に記載の量で用いた以外は実施例1と同様にして、塗料
組成物を調製した。なお、表2~5の原料の欄に記載の数値は、質量部を示す。
また、表2~5に記載の各原料の詳細は、表1に示すとおりである。
なお、表1中の各成分の固形分(質量%)は、メーカーカタログ値である。
【0098】
<塗膜物性評価>
(1)未加熱試験
実施例および比較例で得られた塗料組成物の粘度を、前記B型粘度計を用いて測定した23℃下での粘度が2.0Pa・sとなるように、キシレンを用いて調整した。
粘度調整後の塗料組成物を、SS400 サンドブラスト(ISO8501-1 Sa2 1/2相当)鋼板上に、隙間700μmのフィルムアプリケーターを用いて乾燥膜厚が250μmとなるように塗装した。
その後、鋼板上に塗装した塗料組成物を23℃で7日間乾燥させることで、試験片(塗膜付き基材)を作成した。
【0099】
得られた試験片を下記評価基準に従って評価した。
5:割れ、剥離等がなく塗膜外観良好。硬化・乾燥性良好。
4:割れ、剥離等がなく塗膜外観良好であるが、塗膜表面に粘着が残る。
3:拡大鏡を使用すると、割れ等が塗膜表面に認められる。
2:拡大鏡を使用しなくても、塗膜の一部に割れ等の発生が認められる。
1:塗膜の全体にわたって割れや剥離の発生が認められる。
【0100】
(2)HRT(Heat Resistant Test)
前記(1)未加熱試験と同様にして得られた試験片をマッフル炉に入れ、650℃で4時間加熱した後、放冷することで得られた試験片を、前記(1)未加熱試験と同じ評価基準に従って評価した。
【0101】
(3)ヒートショック試験
前記(1)未加熱試験と同様にして得られた試験片をオーブンに入れ、400℃で8時間加熱した後、オーブンから取り出し、直ちに氷水に10秒間浸漬し、急冷した。その後、試験片を氷水から取り出し、紙ウエスで試験片に付着した水滴を除去した後、室温で1晩放置した。この加熱および急冷をさらに2回(加熱および急冷を合計3回)行った後、得られた試験片を前記(1)未加熱試験と同じ評価基準に従って評価した。
【0102】
(4)HRT(SUS基材)
鋼板の代わりに、SUS304 サンドスイープ(ISO8501-1 Sa1相当)板を用いた以外は、前記(1)未加熱試験と同様に試験片を作成した。
得られた試験片を用いた以外は、前記(2)HRTと同様に加熱、放冷することで得られた試験片を、下記評価基準に従って評価した。
5:割れ、剥離等がなく塗膜外観良好。
4:塗膜のごく一部(面積で5%未満)に剥離が認められる。
3:塗膜の一部(面積で5%以上20%未満)に剥離が認められる。
2:塗膜全面のうち、20%以上50%以下の面積に相当する塗膜に剥離が認められる。
1:塗膜の全面が剥離した、または、塗膜の全面に割れが認められる。
【0103】
<防食性評価>
防食性の評価は、前記塗膜物性評価(1)~(3)を行った後のそれぞれの試験片の、図1に示す箇所に、一部鋼板が露出する程度の深さの傷(スクライブ)を入れ、さらに、塗料組成物を塗装していない部分の影響をなくすため、試験片の裏面およびエッジ部をエポキシ系防食塗料で塗装した試験片を用い、JIS Z 2371に従って、各試験片に対し、ソルトスプレー試験(35℃)を3週間行い、下記評価基準に従って評価した。
5:評価対象部に発錆が認められない。
4:評価対象部に僅か(面積で1%未満)に発錆が認められる。
3:評価対象部の一部(面積で1%以上5%未満)に発錆が認められる。
2:評価対象部の一部(面積で5%以上)に発錆が認められる。
1:塗膜の剥離や塗膜の浮きに伴う発錆が認められる。
【0104】
ここで「評価対象部」とは、エポキシ系防食塗料の影響を考慮して、試験片の端部から1cmの範囲を除いた部分を示す。
なお、下記表3、4および5における、「未加熱試験(一般部)」とは、前記塗膜物性評価の(1)未加熱試験を行った後の試験片を用いて前記防食試験を行った試験であり、評価対象部のうち、図1に示す一般部(試験片の端部から1cmの範囲を除いた部分であって、かつ、スクライブから1cmの範囲を除いた部分)を評価した試験である。
下記表2、3、4および5における、「未加熱試験(スクライブ部)」とは、前記塗膜物性評価の(1)未加熱試験を行った後の試験片を用いて前記防食試験を行った試験であり、評価対象部のうち、図1に示すスクライブ部(試験片の端部から1cmの範囲を除いた部分であって、かつ、スクライブから1cmの範囲の部分)を評価した試験である。
下記表5における、「HRT(一般部)」および「HRT(スクライブ部)」とは、前記塗膜物性評価の(2)HRT(Heat Resistant Test)を行った後の試験片を用いて前記防食試験を行った試験である。「HRT(一般部)」は、評価対象部のうち、図1に示す一般部を評価した試験であり、HRT(スクライブ部)」は、評価対象部のうち、図1に示すスクライブ部を評価した試験である。
なお、表3~5の防食性の欄において、「(一般部)」や「(スクライブ部)」を記載していない評価は、図1に示す一般部およびスクライブ部の両方を評価対象部として評価した結果である。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
図1