(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】金属拡張アンカー
(51)【国際特許分類】
E04B 1/41 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
E04B1/41 503G
(21)【出願番号】P 2018098314
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390022389
【氏名又は名称】サンコーテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】八木沢 康衛
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-26571(JP,A)
【文献】特開2005-207563(JP,A)
【文献】実開平02-040116(JP,U)
【文献】特開平11-006248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38 - 1/61
E04G 21/12
E21D 20/00
F16B 13/00 - 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカーボルトと、
前記アンカーボルトの中心軸方向における第一端部に装着され、径方向外側に変形可能な拡張部を有した拡径部材と、
前記アンカーボルトの前記第一端部に設けられ、前記拡張部を拡張させる拡径面を有するテーパー部と、
前記アンカーボルトの前記中心軸方向における第二端部に設けられるとともに、周方向に複数の貫通孔を有するナット部材と、
前記ナット部材に対して前記アンカーボルトの前記第一端部側に設けられ、前記中心軸方向に圧縮された状態で径方向外側に拡径する第一変形部材と、
前記ナット部材の内側に挿入され、前記ナット部材に取付ボルトが予め定めた位置までねじ込まれたときに、複数の前記貫通孔のそれぞれから前記ナット部材の外方に突出するアーム部を複数有する第二変形部材と、を備える、
金属拡張アンカー。
【請求項2】
前記第二変形部材は、前記取付ボルトの先端が突き当たる基部と、
前記基部から複数の前記貫通孔に対して径方向内側から臨む位置に延びる前記アーム部と、を一体に有する、
請求項1に記載の金属拡張アンカー。
【請求項3】
前記アーム部は、
前記基部から延びるアーム部本体と、前記アーム部本体の先端部に設けられ、前記アーム部本体よりも大径の大径部と、を一体に有する、
請求項2に記載の金属拡張アンカー。
【請求項4】
前記取付ボルトと前記ナット部材とが予め定めた嵌め合い長さ以上となった状態で、前記大径部が前記ナット部材から径方向外側に突出する、
請求項3に記載の金属拡張アンカー。
【請求項5】
前記ナット部材と前記第一変形部材との間に、前記第一変形部材よりも大きな外径を有する第一中間部材が設けられ、
前記第一変形部材は、前記中心軸方向に圧縮された状態で前記第一中間部材よりも径方向外側に拡径する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属拡張アンカー。
【請求項6】
前記第一変形部材の前記第一中間部材と反対側に設けられた第二中間部材をさらに備え、
前記第二中間部材は、
前記第一変形部材の径方向内側に設けられ、前記第一変形部材に当接する当接部と、前記第一変形部材に対し、前記アンカーボルトの前記第一端部側に設けられ、前記第一変形部材よりも大きな外径を有する台座部と、を有する、
請求項5に記載の金属拡張アンカー。
【請求項7】
前記第一変形部材は、ゴム系材料からなる、
請求項1乃至6
のいずれか一項に記載の金属拡張アンカー。
【請求項8】
前記拡径部材は、前記中心軸方向に沿って延びる返し部を有し、
前記返し部は、前記中心軸方向における前記第一端部側が前記拡径部材に接続されるとともに、前記中心軸方向における前記第二端部側が径方向に変形可能である、
請求項1乃至7
のいずれか一項に記載の金属拡張アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属拡張アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
建物や構造物を構成するコンクリート躯体に、各種の機器、配管、軽天、ダクト等の物品を取り付ける場合、金属拡張アンカーが用いられる。金属拡張アンカーは、コンクリート躯体に形成された孔に挿入され、定着される。金属拡張アンカーは、軸状(棒状)のアンカーボルトと、アンカーボルトの一端部に設けられた拡張部材と、アンカーボルトの他端部に設けられた高ナットと、を備える。金属拡張アンカーは、アンカーボルトの一端部側を拡張部材とともに孔に挿入した状態で高ナットを締付けると、拡径部材が径方向外側に拡がる。これによって、拡径部材が孔の内周面に食い込み、金属拡張アンカーがコンクリート躯体に定着される。このような金属拡張アンカーの高ナットの他端側に軸状の取付ボルトをねじ込み、この取付ボルトを介して各種の機器、配管、軽天、ダクト等の物品を取り付ける。
【0003】
このような金属拡張アンカーは、コンクリート躯体に形成された孔に対する定着が不十分であると、物品の荷重等によって、ぐらつきや、孔からアンカー自体が脱落するおそれがある。
また、金属拡張アンカーの高ナットに対する取付ボルトのねじ込みが不十分である場合、物品の荷重等によって、取付ボルトのぐらつきや高ナットからの取付ボルト自体の脱落が生じるおそれもある。したがって、金属拡張アンカーの施工に際しては、コンクリート躯体の孔への金属拡張アンカーの定着が確実に行われるとともに、各種物品の取付に際しては、取付ボルトの高ナットへのねじ込みを確実に行う必要がある。
【0004】
しかしながら、金属拡張アンカーの施工品質は、施工者の習熟度等によって差が生じる場合がある。また、取付ボルトの取付には、アンカー施工者とは別の施工者が行うのが一般的であるが、現場の状況によっては、施工されたアンカーが見難い場合があるため、見易くすることが望まれる。そこで、施工中や施工後に、金属拡張アンカーの設置および取付ボルトの設置が確実に行われたかどうかを施工者又は管理者が目視で確認できる事が必要となる。
【0005】
下記特許文献1には、高ナットの外周面に環状の破断溝を形成した構成の金属拡張アンカーが記載される。この構成においては、ソケットレンチ等の工具を高ナットに係合させてナットを回転させたときに、高ナットに所定値以上のトルクが作用すると破断溝で高ナットの一部が破断する。高ナットが破断溝で破断するまでアンカーボルトを締め付けることによって、拡径部材が孔内で十分に拡張して金属拡張アンカーが確実に定着されたことを確認する。
【0006】
また、特許文献1には、高ナットの内周面と外周面とを貫通する貫通孔と、取付ボルトを高ナットにねじ込むと貫通孔から突出する変形材と、を備える構成も開示される。このような構成によれば、コンクリート躯体の孔に定着させた金属拡張アンカーの高ナットに対し、物品を取り付けるための取付ボルトをねじ込むと、変形材が貫通孔を通してナットの外周面から突出する。これにより、取付ボルトが高ナットに十分に締め込まれたか否かを、変形材の突出の有無により確認する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような金属拡張アンカーにおいては、破断溝が形成された高ナットを回転させるには、破断溝に対し、破断溝が破断したときに取り除かれる側(コンクリート躯体から離間した側)にのみ、ソケット等の工具を係合させる必要がある。工具が、破断溝を挟んで、破断溝が破断したときに取り除かれる側と、コンクリート躯体側に残る側との両方に跨がっていると、破断溝で破断を生じさせるトルクが発生しないためである。したがって、上記のような金属拡張アンカーの施工に際しては、ソケットの深さが限定されてしまう。
また、施工後には、破断溝で破断した高ナットの一部が廃棄物となり、その処分に手間が掛かるという問題がある。
【0009】
また、貫通孔は、周方向1個所にのみ設けられており、金属拡張アンカーの高ナットに対する取付ボルトのねじ込みにともなう変形材の突出の有無を確認するには、貫通孔付近が見える方向から確認する必要がある。そのため、例えば、アンカーを天井に施工した場合、施工者又は管理者は離れた場所から確認することになるため、アンカーの視認性が悪く、目視での施工確認がし難かった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて、施工に際して特殊な工具を必要とすることなく、アンカーの設置、及び設置状態の確認を目視で行うことができ、また取付ボルトの設置状況の確認を目視で行うことができる金属拡張アンカーを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の金属拡張アンカーの一つの態様は、アンカーボルトと、前記アンカーボルトの中心軸方向における第一端部に装着され、径方向外側に変形可能な拡張部を有した拡径部材と、前記アンカーボルトの前記第一端部に設けられ、前記拡張部を拡張させる拡径面を有するテーパー部と、前記アンカーボルトの前記中心軸方向における第二端部に設けられるとともに、周方向に複数の貫通孔を有するナット部材と、前記ナット部材に対して前記アンカーボルトの前記第一端部側に設けられ、前記中心軸方向に圧縮された状態で径方向外側に拡径する第一変形部材と、前記ナット部材の内側に挿入され、前記ナット部材に取付ボルトが予め定めた位置までねじ込まれたときに、複数の前記貫通孔のそれぞれから前記ナット部材の外方に突出するアーム部を複数有する第二変形部材と、を備える。
【0012】
上記態様において、前記第二変形部材は、前記取付ボルトの先端が突き当たる基部と、前記基部から複数の前記貫通孔に対して径方向内側から臨む位置に延びる前記アーム部と、を一体に有する、のが好ましい。
【0013】
上記態様において、前記アーム部は、前記基部から延びるアーム部本体と、前記アーム部本体の先端部に設けられ、前記アーム部本体よりも大径の大径部と、を一体に有する、のが好ましい。
【0014】
上記態様において、前記取付ボルトと前記ナット部材とが予め定めた嵌め合い長さ以上となった状態で、前記大径部が前記ナット部材から径方向外側に突出する、のが好ましい。
【0015】
上記態様において、前記ナット部材と前記第一変形部材との間に、前記第一変形部材よりも大きな外径を有する第一中間部材が設けられ、前記第一変形部材は、前記中心軸方向に圧縮された状態で前記第一中間部材よりも径方向外側に拡径する、のが好ましい。
【0016】
上記態様において、前記第一変形部材の前記第一中間部材と反対側に設けられた第二中間部材をさらに備え、前記第二中間部材は、前記第一変形部材の径方向内側に設けられ、前記第一変形部材に当接する当接部と、前記第一変形部材に対し、前記アンカーボルトの前記第一端部側に設けられ、前記第一変形部材よりも大きな外径を有する台座部と、を有する、のが好ましい。
【0017】
上記態様において、前記第一変形部材は、ゴム系材料からなる、のが好ましい。
【0018】
上記態様において、前記拡径部材は、前記中心軸方向に沿って延びる返し部を有し、前記返し部は、前記中心軸方向における前記第一端部側が前記拡径部材に接続されるとともに、前記中心軸方向における前記第二端部側が径方向に変形可能である、のが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一つの態様によれば、施工に際して特殊な工具を必要とすることなく、施工者又は管理者がアンカーの設置及び設置状態並びに取付ボルトの設置状態を目視で確認できる金属拡張アンカーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、一実施形態のアンカーの外観を示す図である。
【
図2】
図2は、一実施形態のアンカーの断面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態のアンカーの施工方法を示す図であり、アンカーをコンクリート躯体に形成した下孔に挿入した状態を示す断面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態のアンカーの施工方法を示す図であり、高ナットを締め付けて拡径部材を拡張させ、アンカーを下孔内で定着させた状態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、一実施形態のアンカーの施工方法を示す図であり、高ナットを締め付けてゴム部材を径方向外側に押し拡げた状態を示す断面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態のアンカーの施工方法を示す図であり、取付ボルトをねじ込み、インジケータ部材を高ナットの貫通孔から径方向外側に突出させた状態を示す断面図である。
【
図7】
図7は、変形例のアンカーの外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、一実施形態のアンカーの外観を示す図である。
図2は、一実施形態のアンカーの断面図である。
図1、
図2に示すように、本実施形態のアンカー1は、アンカーボルト2と、拡径部材3と、テーパー部4と、高ナット(ナット部材)5と、ゴム部材(第一変形部材)6と、インジケータ部材(第二変形部材)7(
図2参照)と、を主に備える。本実施形態のアンカー1は、高ナット5を締め付けることで拡径部材3を拡張させる、所謂、締付け方式のウェッジ式金属拡張アンカーである。
【0022】
アンカーボルト2は、その中心軸C方向に延びる棒状である。アンカーボルト2の基端部(第二端部)2b側の外周面には、雄ネジ部2nが形成される。アンカーボルト2の中心軸C方向一方の側の先端部(第一端部)2aには、アンカーボルト2の中間部2cよりも外径が小さい小径部2dが形成される。
【0023】
拡径部材3は、アンカーボルト2の先端部2aの小径部2dに装着される。拡径部材3は、全体として筒状である。拡径部材3には、中心軸C周りの周方向に間隔をあけた少なくとも2個所に、中心軸C方向に延びるスリット3sが形成される。拡径部材3は、周方向において互いに隣り合うスリット3s同士の間に、拡張部3tを備える。拡径部材3は、拡張部3tを含む全体が、アンカーボルト2の中間部2cと、ほぼ同じ外径を有する。拡張部3tは、後述するテーパー部4により径方向外側に押圧されることで、アンカーボルト2の先端部2a側が径方向外側に変形可能である。また、拡径部材3は、外周面に設けられた凸部3aを有する。凸部3aの外径は、後述するアンカーを施工する下孔の内径よりも僅かに大きい。凸部3aは、後述するアンカーを施工する下孔内における拡径部材3の回転止め、および下孔の深さ方向における位置を規制する。
【0024】
テーパー部4は、アンカーボルト2の中心軸C方向一方の側の先端部2aに設けられる。テーパー部4は、中心軸C方向他方の側の基端部2b側から一方の側の先端部2a側に向かって、径方向外側に広がる拡径面4fを有する。テーパー部4は、拡径部材3の内側に、アンカーボルト2の先端部2a側から基端部2b側に向かって挿入される。テーパー部4は、拡径部材3に対し基端部2b側に向かって押し込まれると、拡径面4fによって拡径部材3の各拡張部3tを径方向外側に拡張させる。本実施形態において、テーパー部4は、アンカーボルト2の先端部2aに一体に形成されている。
【0025】
高ナット5は、アンカーボルト2の雄ネジ部2nに噛み合う雌ネジ部5nを有する。高ナット5は、中心軸C方向一方の側の一端5a側から、アンカーボルト2の雄ネジ部2nが雌ネジ部5nにねじ込まれる。高ナット5は、その外周面に、不図示のソケット等の工具が係合される工具係合部5kを有する。
【0026】
高ナット5において、中心軸C方向の所定の位置には、周方向に間隔を明けて複数の貫通孔5hが形成される。本実施形態において、貫通孔5hは周方向の2個所に形成される。各貫通孔5hは、高ナット5の内周面と外周面とを径方向に連通する。
【0027】
高ナット5には、中心軸C方向他方の側(アンカーボルト2とは反対側)の他端5bから、各種の機器、配管、軽天、ダクト等の物品を取り付けるための取付ボルト20(
図5、
図6参照)がねじ込まれる。
【0028】
高ナット5に対し、中心軸C方向一方の側には、平座金(第一中間部材)10と、凸座金(第二中間部材)11とが配置される。
平座金10は、円板状で、ゴム部材6よりも大きな外径を有する。平座金10は、中央部にアンカーボルト2が挿通される挿通孔10hを有する。
【0029】
図2に示すように、凸座金11は、当接部11bと、ゴム部材6よりも大きな外径を有する台座部11aと、を一体に備える。凸座金11は、当接部11bを中心軸C方向他方の側の高ナット5側に配置し、台座部11aを平座金10から中心軸C方向一方の側に離間させて設けられる。当接部11bの外径はゴム部材6の外径よりも小さいので、当接部11bはゴム部材6に当接可能である。
【0030】
ゴム部材6は高ナット5に対して中心軸C方向一方の側に設けられる。ゴム部材6は、ゴム系材料からなる。ゴム部材6は、円板状からなり、中央部にアンカーボルト2が挿通される挿通孔(図示なし)を有する。ゴム部材6は、台座部11aの当接部11bと平座金10との間に挟み込まれる。
【0031】
ゴム部材6は、高ナット5を締め付けることで平座金10と台座部11aとの中心軸C方向の間隔が狭まると、中心軸C方向に圧縮される。ゴム部材6は、中心軸C方向に圧縮された状態で、高ナット5及び平座金10よりも径方向外側に拡径するように変形する。
【0032】
インジケータ部材7は、高ナット5の内側に配置される。インジケータ部材7は、高ナット5に対し、中心軸C方向他方の側の他端5b側から挿入される。インジケータ部材7は、円板状の基部7aと、基部7aから中心軸C方向一方の側(アンカーボルト2側)に向かって延びる複数のアーム部7bと、を一体に有する。各アーム部7bは、基部7aから延びるアーム部本体7cと、アーム部本体7cの先端部に設けられ大径部7dと、を一体に有する。大径部7dは、アーム部本体7cの外径よりも大径の略球状である。
このようなインジケータ部材7は、例えば樹脂系材料により形成される。インジケータ部材7は、大径部7dが貫通孔5hに径方向内側から臨む位置に配置される。
【0033】
インジケータ部材7は、中心軸C方向他方の側(アンカーボルト2とは反対側)から高ナット5にねじ込まれる取付ボルト20(
図5参照)が基部7aに突き当たらない状態では、大径部7dが高ナット5の貫通孔5hから径方向外側に突出しない。
【0034】
インジケータ部材7は、中心軸C方向他方の側(アンカーボルト2とは反対側)から高ナット5にねじ込まれた取付ボルト20(
図6参照)が基部7aに当接し、中心軸C方向一方の側(アンカーボルト2側)に押圧されると、複数のアーム部7bが径方向外側に広がるように変形し、複数の貫通孔5hのそれぞれから高ナット5の径方向外側に突出する。
【0035】
次に、本実施形態のアンカー1の施工方法について説明する。
図3は、一実施形態のアンカーの施工方法を示す図であり、アンカーをコンクリート躯体に形成した下孔に挿入した状態を示す断面図である。
図4は、一実施形態のアンカーの施工方法を示す図であり、高ナットを締め付けて拡径部材を拡張させ、アンカーを下孔内で定着させた状態を示す断面図である。
図5は、一実施形態のアンカーの施工方法を示す図であり、高ナットに取付ボルトをねじ込んでゴムリングを径方向外側に拡径させた状態を示す断面図である。
図6は、一実施形態のアンカーの施工方法を示す図であり、取付ボルトをねじ込み、インジケータ部材をナットの貫通孔から径方向外側に突出させた状態を示す断面図である。
【0036】
図3に示すように、アンカー1の施工を行うには、まず、アンカー1の設置対象となる建物や構造物のコンクリート躯体100(例えば、天井)に、下孔101を形成する。下孔101は、アンカー1に応じて予め設定された径および深さで形成する。
【0037】
なお、下孔101に設置するに際し、アンカー1は、拡径部材3が設けられたアンカーボルト2の基端部2bを、高ナット5に対し、所定の深さまでねじ込んでおくことで、下孔101内に挿入されるアンカーボルト2の先端部2a側の寸法を一定にできる。
【0038】
次に、アンカー1のアンカーボルト2の先端部2a側を、コンクリート躯体100に形成された下孔101に挿入する。アンカー1は、凸座金11の台座部11aが、コンクリート躯体100に接触するまで、下孔101に挿入される。
本実施形態において、アンカー1は、拡径部材3の外周面に設けられた凸部3aの外径が下孔101の内径よりも僅かに大きい。そのため、例えば、金属ハンマー等の打撃工具を用いることで、アンカー1を下孔101に打ち込む。これにより、アンカー1は、拡径部材3の凸部3aが下孔101の内周面に当接した状態で下孔101内に挿入される。
【0039】
続いて、ソケット等の工具を、高ナット5の他端5b側に係合させる。本実施形態の高ナット5には、破断溝等は形成されていないので、工具のソケットの中心軸C方向の深さ(長さ)に特に制限を受けることがない。
【0040】
次いで、施工者が工具を回転させ、高ナット5を締め付けていく。
図4に示すように、高ナット5を締め付けるにともない、高ナット5に噛み合ったアンカーボルト2が、下孔101から引き上がる方向に変位する。すると、アンカーボルト2の先端部2aに設けられたテーパー部4の拡径面4fが、拡径部材3の拡張部3tを径方向外側に拡張する。このとき、拡径部材3は、凸部3aが下孔101の内周面に当接することで下孔101に対する回転が規制されるとともに、下孔101の深さ方向に対する位置が規制される。よって、拡径部材3の拡張部3tが下孔101に確実に定着される。
【0041】
拡張部3tが下孔101に定着されると、高ナット5を回転させるのに必要なトルクが増大する。これにより、アンカーボルト2が下孔101から引き上がる方向に変位するのに抵抗する力が作用する。これにともない、高ナット5は、コンクリート躯体100に近づく方向に変位する。すると、平座金10が凸座金11の当接部11bに近づくことで、凸座金11の台座部11aと平座金10との中心軸C方向における間隔が狭まる。その結果、当接部11bと平座金10との間に挟み込まれたゴム部材6が中心軸C方向に押し潰され、径方向外側に拡がるように弾性変形する。
【0042】
この状態において、台座部11aと平座金10との間で中心軸C方向に押し潰されたゴム部材6は、平座金10よりも径方向外側に押し拡げられる。これにより、施工者自身、或いは、その管理者等が、ゴム部材6が、アンカー1の平座金10よりも径方向外側に突出(露出)しているか否かを目視することで、拡径部材3の拡張部3tが拡張してアンカー1が下孔101に確実に定着したことを確認できる。
【0043】
このようにしてアンカー1をコンクリート躯体100に設置した後、
図5に示すように、高ナット5に対し、各種の機器、配管、軽天、ダクト等の物品を取り付けるための取付ボルト20をねじ込む。取付ボルト20を、高ナット5にねじ込んでいくとインジケータ部材7の基部7aに突き当たり、インジケータ部材7を中心軸C方向一方の側に押圧する。すると、
図6に示すように、複数のアーム部7bが径方向外側に広がるように変形していく。
【0044】
取付ボルト20が、高ナット5に対し、予め定めた位置までねじ込まれると、インジケータ部材7の各アーム部7bの先端に設けられた大径部7dが、複数の貫通孔5hのそれぞれから径方向外側に突出する。例えば、大径部7dの先端部7tが、貫通孔5hから高ナット5の外周面よりも径方向外側に突出した時点で、取付ボルト20と高ナット5との中心軸C方向における嵌め合い長さが最小限確保される。また、大径部7dの全体が貫通孔5hから突出し、アーム部本体7cを高ナット5の径方向外側に突出させることで、取付ボルト20と高ナット5との中心軸C方向における嵌め合い長さをより十分確保することができる。
したがって、取付ボルト20と高ナット5との中心軸C方向における嵌め合い長さが予め定めた寸法以上となったか否かを、施工者自身及び管理者は目視で確認可能となる。
【0045】
以下、本実施形態のアンカー1によって得られる効果について説明する。
本実施形態のアンカー1によれば、高ナット5に対してアンカーボルト2の先端部2a側に、中心軸C方向に圧縮された状態で高ナット5よりも径方向外側に拡径するゴム部材6を備えている。これにより、ゴム部材6が平座金10よりも径方向外側に押し拡げられた状態を視認することで、コンクリート躯体100に形成した下孔101に、アンカー1が確実に定着されたか否かを施工者又は管理者が目視で確認することができる。
また、本実施形態のアンカー1において、高ナット5には、破断溝等を形成する必要も無いので、高ナット5を回転させるのに用いる工具のサイズに制限を受けることが無く、施工に際して廃棄物が生じることもない。
【0046】
また、本実施形態のアンカー1によれば、高ナット5に取付ボルト20が予め定めた位置までねじ込まれたときに、複数の貫通孔5hのそれぞれからインジケータ部材7のアーム部7bが高ナット5の外方に突出する。したがって、本実施形態のアンカー1によれば、取付ボルト20のねじ込み後に、インジケータ部材7の突出状態、すなわちアーム部7bが突出しているか否かに基づいて、取付ボルト20の嵌め合い状態を施工者又は管理者が目視で確認することができる。
また、本実施形態のアンカー1によれば、貫通孔5h及びアーム部7bを複数備えるので、離れた場所からの視認性が向上し、施工者又は管理者による目視での施工確認をより容易なものとすることができる。
このようにして、本実施形態のアンカー1を用いることで、施工に際して特殊な工具が必要とされることなく、アンカー1の設置、及び設置状態の確認および取付ボルトの取付状態を施工者又は管理者は目視で行うことができる。
【0047】
本実施形態のアンカー1によれば、高ナット5とゴム部材6との間に、ゴム部材6よりも大きな外径を有する平座金10が設けられ、ゴム部材6は、中心軸C方向に圧縮された状態で平座金10よりも径方向外側に拡径する。これにより、アンカー1をコンクリート躯体100の下孔101に設置するに際し、高ナット5を締め付ける前の状態では、ゴム部材6は平座金10の径方向外側に露出しない。高ナット5を締め付けることによって拡径部材3の拡張部3tが拡径して下孔101に定着された状態では、ゴム部材6は圧縮されて平座金10の径方向外側に突出する。これにより、ゴム部材6を目視により確認することができる。このようにして、施工者又は管理者は、アンカー1の下孔101への施工状態を、ゴム部材6を目視で確認できるか否かに基づいて確実に確認することができる。
【0048】
本実施形態のアンカー1によれば、当接部11bと、ゴム部材6よりも大きな外径を有する台座部11aと、を有する凸座金11をさらに備えている。これにより、ゴム部材6を台座部11aと平座金10の当接部11bとで挟み込むことで、ゴム部材6を確実に圧縮して平座金10の径方向外側に突出させることができる。
また、当接部11bと平座金10との間でゴム部材6を挟むため、凸座金11の台座部11aと平座金10との間の隙間が当接部11bの厚み分だけ大きくなる。そのため、台座部11aと平座金10との間の隙間に突出したゴム部材6の視認性が向上する。
【0049】
本実施形態のアンカー1によれば、ゴム部材6はゴム系材料からなる。したがって、高ナット5を締め込んでゴム部材6を中心軸C方向に圧縮すると、周方向全体に亘ってゴム部材6が径方向外側に押し拡げられ、平座金10よりも大きく拡がるので、離れた場所からの視認性が高く、施工者又は管理者による目視での施工確認が容易となる。
【0050】
本実施形態のアンカー1によれば、インジケータ部材7は、取付ボルト20によって基部7aが押圧されていない状態では、アーム部7bは、貫通孔5hに対して径方向内側に配置される。すなわち、この状態では、アーム部7bが貫通孔5hから高ナット5の径方向外側に突出していない。高ナット5に取付ボルト20をねじ込んでいくと、基部7aが取付ボルト20に押圧されて、アーム部7bが径方向外側に変位し、貫通孔5hから高ナット5の径方向外側に突出する。したがって、取付ボルト20の高ナット5に対するねじ込み状態を、アーム部7bの突出状況から施工者又は管理者が目視で確認することができる。また、貫通孔5h及びアーム部7bは、複数が設けられるので、離れた場所からの視認性が向上し、施工者又は管理者による目視での取付ボルト20の高ナット5へのねじ込み状態の確認が容易となる。
【0051】
本実施形態のアンカー1によれば、アーム部7bは、基部7aから延びるアーム部本体7cと、アーム部本体7cの先端部に設けられ、アーム部本体7cよりも大径の大径部7dと、を一体に有する。したがって、施工者又は管理者は、大径部7dが貫通孔5hを通して高ナット5の径方向外側に突出しているかを確認することにより、高ナット5に対する取付ボルト20のねじ込み状態を目視で確認することができる。
【0052】
本実施形態のアンカー1によれば、取付ボルト20と高ナット5とが予め定めた嵌め合い長さ以上となった状態で、大径部7dが高ナット5の外周面から径方向外側に突出する。したがって、施工者又は管理者は、大径部7dが高ナット5の径方向外側に突出しているかを確認することにより、高ナット5に対する取付ボルト20のねじ込み状態を目視で把握することができる。
【0053】
以上に、本発明の一実施形態を説明したが、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【0054】
(変形例)
例えば、上記実施形態のアンカー1では、拡径部材3における回転止め或いは位置拘束として凸部3aを設ける場合を例に挙げたが、拡径部材3における回転止めおよび位置拘束の方法はこれに限定されない。
【0055】
図7は、変形例のアンカーの外観を示す図である。なお、上記実施形態と共通の構成については同じ符号を付し、その詳細については説明を省略する。
図7に示すように、本変形例のアンカー1Aは、アンカーボルト2と、拡径部材30と、テーパー部4と、高ナット5と、ゴム部材6と、インジケータ部材7と、を主に備える。
本変形例の拡径部材30は、
図1に示した拡径部材3の凸部3aに代えて、返し部31を有する。返し部31は、下孔内における拡径部材3の回転止め、および下孔の深さ方向における位置を規制するための部材である。なお、返し部31は拡径部材3の周方向に複数設けられていてもよい。
【0056】
返し部31は、中心軸C方向に沿って延びる帯状部材である。本実施形態において、返し部31は、筒状の拡径部材30の外周面30aの一部を切り欠くことで形成される。返し部31は、中心軸Cにおける一方側(アンカーボルト2の先端部2a側)が拡径部材30に接続されるとともに、中心軸Cにおける他方側(アンカーボルト2の基端部2b側)が径方向外側に変形可能である。すなわち、返し部31は、拡径部材30との接続部分(基部)を起点として先端が径方向に変形可能である。返し部31は、アンカー1を下孔に挿入されない状態において、径方向外側に凸となるように変形している。具体的に、本変形例のアンカー1Aにおいて、拡径部材30の外径は、外周面30aに設けられた返し部31の分だけ下孔101の内径よりも大きい。
【0057】
そのため、本変形例のアンカー1Aにおいて、アンカーボルト2の先端部2a側を、コンクリート躯体100に形成された下孔101に挿入した際、返し部31は下孔101の内周面に接触する。アンカー1Aの下孔101への挿入時、返し部31は凸部3aと異なり、径方向内側に変位可能である。そのため、返し部31はアンカー1Aを下孔101に挿入する際、抵抗力を生じさせにくい。よって、本変形例のアンカー1Aによれば、金属ハンマー等の打撃工具を用いなくても、プラスチックハンマーで比較的容易に下孔101内に挿入することができる。
【0058】
下孔101内に挿入された後、アンカー1Aの返し部31は下孔101の内周面に当接した状態となる。そのため、施工者が高ナット5を締め付けることで拡径部材30の拡張部3tを径方向外側に拡張させた際、拡径部材30は、返し部31が下孔101の内周面に当接することで下孔101に対する回転が規制されるとともに、下孔101の深さ方向に対する位置が規制される。よって、拡径部材30の拡張部3tが下孔101に確実に定着される。
【0059】
以上のように本変形例のアンカー1Aによれば、返し部31を有する拡径部材30を備えるため、金属ハンマーなどの打撃工具を用いることなく、プラスチックハンマーで下孔101への挿入作業を容易に行うことができる。また、返し部31によって拡径部材30の回転規制及び位置規制ができるため、アンカー1Aを下孔101に確実に定着することができる。
【0060】
また、上述した実施形態に示したアンカー1の用途は、特に限定されない。また、上記実施形態において、アンカー1としてウェッジ式アンカーを例に挙げたが、アンカーの方式はこれに限定されない。本発明は、例えば、アンカーボルトに一体化した高ナットを締めこむことで、コーン部を拡径部材内に引き込むことで拡張部を変形させる、所謂、コーンナット式の締付け方式アンカーに対しても適用可能である。なお、コーンナット式の締付け方式アンカーに適用する場合、上述した凸部3aや返し部31は不要となる。
【符号の説明】
【0061】
1…アンカー、2…アンカーボルト、2a…先端部(第一端部)、2b…基端部(第二端部)、2n…雄ネジ部、3…拡径部材、3t…拡張部、4…テーパー部、4f…拡径面、5…高ナット(ナット部材)、5h…貫通孔、5n…雌ネジ部、6…ゴム部材(第一変形部材)、7…インジケータ部材(第二変形部材)、7a…基部、7b…アーム部、7c…アーム部本体、7d…大径部、10…平座金(第一中間部材)、11…凸座金(第二中間部材)、11a…台座部、11b…当接部、20…取付ボルト、31…返し部、100…コンクリート躯体、101…下孔、C…中心軸。