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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/41 20060101AFI20220616BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
G01N27/41 325G
G01N27/409 100
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018110486
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019211436
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】萩野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】蘇 振洲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-255985(JP,A)
【文献】国際公開第91/002245(WO,A1)
【文献】特開2002-340845(JP,A)
【文献】特開2002-174620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺板形状のセンサ素子(2)を備えるガスセンサ(1)において、
前記センサ素子は、
酸素イオンの伝導性を有する固体電解質体(31)と、
前記固体電解質体における、検出対象ガス(G)に晒される第1主面(301)であって前記センサ素子の長尺方向(L)の先端側位置に設けられた検出電極(311)と、
前記固体電解質体における、基準ガス(A)に晒される第2主面(302)であって前記長尺方向の先端側位置に設けられた基準電極(312)と、
前記固体電解質体の前記第1主面に積層された第1絶縁体(33A)と、
前記固体電解質体の前記第2主面に積層された第2絶縁体(33B)と、
前記第1絶縁体内又は前記第2絶縁体内に埋設され、前記検出電極及び前記基準電極に対向する位置に配置された、通電によって発熱する発熱部(341)、及び前記発熱部の、前記長尺方向の後端側に繋がるリード部(342)を有する発熱体(34)と、
前記第1絶縁体における、前記固体電解質体の前記第1主面に隣接する位置であって、前記検出電極が配置された位置に形成されたガス室(35)と、
前記ガス室に連通して前記第1絶縁体に設けられ、前記ガス室へ前記検出対象ガスを所定の拡散速度で導入するための拡散抵抗部(32)と、
前記第2絶縁体における、前記固体電解質体の前記第2主面に隣接する位置であって、前記長尺方向の後端開口部(360)から前記基準電極の配置位置まで形成され、前記後端開口部から前記基準ガスが導入される基準ガスダクト(36)と、を備え、
前記基準電極の前記長尺方向の後端位置(312A)における、前記基準ガスダクトの前記長尺方向に直交する横断面の断面積(S1)は、前記後端開口部における、前記基準ガスダクトの前記横断面の断面積(S2)の0.2倍以上1倍未満であり、
前記センサ素子は、前記長尺方向における前記基準電極の前記後端位置の近傍又は後端側に、前記横断面の断面積が変化する素子境界部(24)を有し、
前記素子境界部よりも前記長尺方向の先端側に位置する先端側素子部(22)の前記横断面の断面積(S3)は、前記固体電解質体と前記第1絶縁体及び前記第2絶縁体との積層方向(D)において、前記先端側素子部における前記第2絶縁体の外側面(330)が、前記素子境界部よりも前記長尺方向の後端側に位置する後端側素子部(23)における前記第2絶縁体の外側面(330)よりも前記固体電解質体に近いことによって、前記後端側素子部の前記横断面の断面積(S4)よりも小さい、ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺板形状のセンサ素子を備えるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、例えば、内燃機関の排気管に配置され、排気管を流れる排ガスを検出対象ガスとして、検出対象ガスにおける酸素濃度等の特定ガス成分の濃度を検出するために用いられる。ガスセンサのセンサ素子は、酸素イオンの伝導性を有する固体電解質体と、固定電解質体の表面に設けられて排ガス等の検出対象ガスに晒される検出電極と、固体電解質体の表面に設けられて大気等の基準ガスに晒される基準電極とを有する。また、基準電極への基準ガスの供給を十分に行うために、センサ素子に、基準ガスが導入される基準ガスダクトを形成することが行われている。
【0003】
また、センサ素子には、固体電解質体、検出電極及び基準電極を活性温度に加熱するための発熱体が埋設されている。発熱体は、検出電極及び基準電極に対向する位置に配置されて通電によって発熱する発熱部と、発熱部の両端に繋がった一対のリード部とを有する。
【0004】
また、例えば、特許文献1のセンサ素子及びセンサにおいては、センサ素子を加熱するための消費電力を低減しつつ、基準電極に対する大気供給量の不足を抑制する工夫がなされている。特許文献1においては、基準電極へ大気を導入するための大気導入部の断面形状及び断面積を適切な範囲内に設定することが行われている。なお、基準電極に対する大気供給量が不足する場合は、特に、ガスセンサによって、内燃機関から排気管に排気される排ガスの組成に基づいて内燃機関の空燃比を求める際に、理論空燃比に比べて燃料が過剰である、空燃比のリッチ状態を検出する場合に生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-34782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基準電極への基準ガスの導入量を多く維持するためには、基準ガスダクトにおける、長尺方向に直交する断面の断面積は大きい方がよい。一方、基準ガスダクトの断面積が大きくなると、センサ素子における断熱部が大きくなり、発熱体によってセンサ素子を加熱する際の伝熱性が悪化する。
【0007】
基準電極へ基準ガスを導入する基準ガスダクトは、センサ素子の長尺方向の広い範囲に亘って形成されている。また、検出電極、基準電極、及び発熱体の発熱部が設けられた、センサ素子のガス検知部は、センサ素子の長尺方向の先端部に形成されている。そして、センサ素子の先端部は後端部に比べて高温になり、センサ素子の先端部においては、基準ガスダクト内の基準ガスも高温になる。
【0008】
発明者の研究により、基準電極への基準ガスの導入量を適切に維持しつつ、センサ素子の伝熱性を高めるためには、基準ガスダクトの長尺方向における断面積に変化を設けることが有効であることが見出された。特許文献1のセンサ素子及びセンサにおいては、基準ガスダクト(大気導入部)の長尺方向における断面積に変化を設けることは行われていない。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、基準電極への基準ガスの導入量を適切に確保するとともに、センサ素子の伝熱性を高めることができるガスセンサを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、長尺板形状のセンサ素子(2)を備えるガスセンサ(1)において、
前記センサ素子は、
酸素イオンの伝導性を有する固体電解質体(31)と、
前記固体電解質体における、検出対象ガス(G)に晒される第1主面(301)であって前記センサ素子の長尺方向(L)の先端側位置に設けられた検出電極(311)と、
前記固体電解質体における、基準ガス(A)に晒される第2主面(302)であって前記長尺方向の先端側位置に設けられた基準電極(312)と、
前記固体電解質体の前記第1主面に積層された第1絶縁体(33A)と、
前記固体電解質体の前記第2主面に積層された第2絶縁体(33B)と、
前記第1絶縁体内又は前記第2絶縁体内に埋設され、前記検出電極及び前記基準電極に対向する位置に配置された、通電によって発熱する発熱部(341)、及び前記発熱部の、前記長尺方向の後端側に繋がるリード部(342)を有する発熱体(34)と、
前記第1絶縁体における、前記固体電解質体の前記第1主面に隣接する位置であって、前記検出電極が配置された位置に形成されたガス室(35)と、
前記ガス室に連通して前記第1絶縁体に設けられ、前記ガス室へ前記検出対象ガスを所定の拡散速度で導入するための拡散抵抗部(32)と、
前記第2絶縁体における、前記固体電解質体の前記第2主面に隣接する位置であって、前記長尺方向の後端開口部(360)から前記基準電極の配置位置まで形成され、前記後端開口部から前記基準ガスが導入される基準ガスダクト(36)と、を備え、
前記基準電極の前記長尺方向の後端位置(312A)における、前記基準ガスダクトの前記長尺方向に直交する横断面の断面積(S1)は、前記後端開口部における、前記基準ガスダクトの前記横断面の断面積(S2)の0.2倍以上1倍未満であり、
前記センサ素子は、前記長尺方向における前記基準電極の前記後端位置の近傍又は後端側に、前記横断面の断面積が変化する素子境界部(24)を有し、
前記素子境界部よりも前記長尺方向の先端側に位置する先端側素子部(22)の前記横断面の断面積(S3)は、前記固体電解質体と前記第1絶縁体及び前記第2絶縁体との積層方向(D)において、前記先端側素子部における前記第2絶縁体の外側面(330)が、前記素子境界部よりも前記長尺方向の後端側に位置する後端側素子部(23)における前記第2絶縁体の外側面(330)よりも前記固体電解質体に近いことによって、前記後端側素子部の前記横断面の断面積(S4)よりも小さい、ガスセンサにある。
【発明の効果】
【0011】
前記一態様のガスセンサにおいては、基準電極の長尺方向の後端位置における、基準ガスダクトの横断面の断面積は、後端開口部における、基準ガスダクトの横断面の断面積の0.2倍以上1倍未満である。この構成により、基準電極への基準ガスの導入量を適切に確保するとともに、センサ素子の伝熱性を高めることができる。
【0012】
具体的には、基準ガスダクトの後端開口部における横断面の断面積は、基準電極へ基準ガスを十分に導入することができる大きさに設定する。そして、基準ガスダクトの、基準電極の後端位置における横断面の断面積は、発熱体の発熱部によって、固体電解質体、検出電極及び基準電極を加熱する際に、基準ガスダクトが断熱部となって発熱部から固体電解質体等への伝熱を妨げることを緩和する断面積に設定することができる。これにより、基準電極への基準ガスの導入量を適切に確保するとともに、センサ素子の伝熱性を高めることができる。
【0013】
また、基準ガスダクトの、基準電極の後端位置よりも先端側に位置するダクト部分は、発熱部に対向する位置にあり、この先端側に位置するダクト部分内の基準ガスは、これよりも後端側に位置するダクト部分内の基準ガスに比べて発熱部によって高温に加熱される。そして、先端側に位置するダクト部分内の基準ガスの拡散係数は、後端側に位置するダクト部分内の基準ガスの拡散係数に比べて大きくなる。拡散係数は、基準電極へ基準ガスが供給される際に、固体電解質体を介して基準電極から検出電極へ移動する酸素イオン量を左右する。つまり、拡散係数が大きいほど、酸素イオンの移動量は多くなる。
【0014】
そのため、先端側に位置するダクト部分の横断面の断面積が小さくなっても、基準電極から検出電極への酸素イオンの移動量を適切に確保することができる。特に、検出対象ガスから求められる内燃機関の空燃比がリッチ状態にあるときに、検出電極における未燃ガス等を化学反応させるための十分な酸素イオンを基準電極から検出電極へ移動させることができる。これにより、先端側に位置するダクト部分の横断面の断面積が小さくても、基準電極から検出電極への酸素イオンの移動があまり制約されず、センサ素子における電気化学反応を良好に維持することができる。
【0015】
それ故、前記一態様のガスセンサによれば、基準電極への基準ガスの導入量を適切に確保するとともに、センサ素子の伝熱性を高めることができる。
【0016】
基準電極の長尺方向の後端位置における、基準ガスダクトの横断面の断面積が、後端開口部における、基準ガスダクトの横断面の断面積の0.2倍未満である場合には、基準電極への基準ガスの導入量を十分に維持することが難しくなる。一方、基準電極の長尺方向の後端位置における、基準ガスダクトの横断面の断面積が、後端開口部における、基準ガスダクトの横断面の断面積の1倍以上である場合には、センサ素子の伝熱性を高めることが難しくなる。
【0017】
なお、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態1にかかる、ガスセンサを示す断面図。
図2】実施形態1にかかる、積層前のセンサ素子を示す斜視図。
図3】実施形態1にかかる、センサ素子を示す断面図。
図4】実施形態1にかかる、センサ素子を示す、図3のIV-IV断面図。
図5】実施形態1にかかる、センサ素子を示す、図3のV-V断面図。
図6】実施形態1にかかる、他のセンサ素子を示す断面図。
図7】実施形態1にかかる、大気の温度の変化に対する拡散係数の変化を示すグラフ。
図8】実施形態2にかかる、センサ素子を示す、図3のIV-IV断面相当図。
図9】実施形態3にかかる、センサ素子を示す断面図。
図10】実施形態4にかかる、センサ素子を示す断面図。
図11】実施形態4にかかる、他のセンサ素子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前述したガスセンサにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態のガスセンサ1は、図1図5に示すように、長尺板形状のセンサ素子2を備える。センサ素子2は、固体電解質体31、検出電極311、基準電極312、絶縁体33A,33B、発熱体34及び基準ガスダクト36を備える。固体電解質体31は、活性化温度において酸素イオンの伝導性を有するものである。検出電極311は、固体電解質体31における、検出対象ガスGに晒される第1主面301であってセンサ素子2の長尺方向Lの先端側L1の位置に設けられている。基準電極312は、固体電解質体31における、基準ガスAに晒される第2主面302であって長尺方向Lの先端側L1の位置に設けられている。
【0020】
絶縁体33A,33Bは、絶縁性を有しており、固体電解質体31の第1主面301に積層された第1絶縁体33Aと、固体電解質体31の第2主面302に積層された第2絶縁体33Bとがある。発熱体34は、第2絶縁体33B内に埋設されており、検出電極311及び基準電極312に対向する位置に配置された、通電によって発熱する発熱部341と、発熱部341の、長尺方向Lの後端側に繋がる発熱体リード部(リード部)342とを有する。基準ガスダクト36は、第2絶縁体33Bにおける、固体電解質体31の第2主面302に隣接して、基準ガスダクト36(センサ素子2及び第2絶縁体33B)の長尺方向Lの後端開口部360から基準電極312の配置位置まで形成されており、後端開口部360から基準電極312まで基準ガスAを導入するためのものである。
【0021】
図3に示すように、基準電極312の長尺方向Lの後端位置312Aにおける、基準ガスダクト36の長尺方向Lに直交する横断面の断面積S1は、後端開口部360における、基準ガスダクト36の横断面の断面積S2の0.2倍以上1倍未満である。
【0022】
以下に、本形態のガスセンサ1について詳説する。
(内燃機関)
ガスセンサ1は、車両の内燃機関(エンジン)の排気管等に配置され、排気管を流れる排ガスを検出対象ガスGとして、検出対象ガスGにおける酸素濃度等を検出するために用いられる。ガスセンサ1は、排ガスにおける酸素濃度、未燃ガス濃度等に基づいて、内燃機関における空燃比を求める空燃比センサとして用いることができる。また、ガスセンサ1は、空燃比センサ以外にも、酸素濃度を求める種々の用途として用いることができる。
【0023】
排気管には、排ガス中の有害物質を浄化するための触媒が配置されており、ガスセンサ1は、排気管における排ガスの流れ方向において、触媒の上流側又は下流側のいずれに配置することもできる。また、ガスセンサ1は、排ガスを利用して内燃機関が吸入する空気の密度を高める過給機の吸入側の配管に配置することもできる。また、ガスセンサ1を配置する配管は、内燃機関から排気管に排気される排ガスの一部を、内燃機関の吸気管に再循環させる排気再循環機構における配管とすることもできる。
【0024】
空燃比センサは、理論空燃比と比べて空気に対する燃料の割合が多い燃料リッチの状態から、理論空燃比と比べて空気に対する燃料の割合が少ない燃料リーンの状態まで定量的に連続して空燃比を検出することができるものである。空燃比センサにおいては、拡散抵抗部(拡散律速部)32によってガス室35へ導かれる検出対象ガスGの拡散速度が絞られる際に、検出電極311と基準電極312との間に、酸素イオンの移動量に応じた電流が出力される限界電流特性を示すための所定の電圧が印加される。
【0025】
図3及び図4に示すように、空燃比センサにおいて、燃料リーン側の空燃比を検出する際には、検出対象ガスGに含まれる酸素が、イオンとなって検出電極311から固体電解質体31を介して基準電極312へ移動する際に生じる電流を検出する。また、空燃比センサにおいて、燃料リッチ側の空燃比を検出する際には、検出対象ガスGに含まれる未燃ガス(炭化水素、一酸化炭素、水素等)を反応させるために、基準電極312から固体電解質体31を介して検出電極311へイオンとなった酸素が移動し、未燃ガスと酸素とが反応する際に生じる電流を検出する。
【0026】
(センサ素子2)
図3及び図4に示すように、センサ素子2は、固体電解質体31に、絶縁体33A,33B及び発熱体34が積層された積層タイプのものである。固体電解質体31は、ジルコニア系酸化物からなり、ジルコニアを主成分とし(50質量%以上含有し)、希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素によってジルコニアの一部を置換させた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアからなる。固体電解質体31を構成するジルコニアの一部は、イットリア、スカンジア又はカルシアによって置換することができる。
【0027】
また、検出電極311及び基準電極312は、酸素に対する触媒活性を示す貴金属としての白金、及び固体電解質体31との共材としてのジルコニア系酸化物を含有している。共材は、固体電解質体31にペースト状の電極材料を印刷(塗布)して両者を焼結する際に、電極材料によって形成される検出電極311及び基準電極312と固体電解質体31との結合強度を維持するためのものである。
【0028】
固体電解質体31の第1主面301には、第1絶縁体33Aと固体電解質体31とに囲まれたガス室35が隣接して形成されている。ガス室35は、第1絶縁体33Aにおける、検出電極311が配置された位置に形成されている。固体電解質体31の第2主面302には、第2絶縁体33Bと固体電解質体31とに囲まれた基準ガスダクト36が隣接して形成されている。基準ガスダクト36は、第2絶縁体33Bにおける、基準電極312が配置された位置からセンサ素子2の後端位置まで形成されている。また、第1絶縁体33Aには、ガス室35へ検出対象ガスGを所定の拡散速度で導入するための拡散抵抗部32が、ガス室35に連通する状態で設けられている。
【0029】
図1及び図3示すように、センサ素子2は、長尺形状に形成されており、検出電極311、基準電極312、ガス室35、拡散抵抗部32及び発熱体34の発熱部341は、長尺方向Lの先端側L1の部位に配置されている。センサ素子2の長尺方向Lの先端側L1の部位には、検出電極311及び基準電極312と、これらの電極311,312の間に挟まれた固体電解質体31の部分とによる検知部21が形成されている。
【0030】
センサ素子2の長尺方向Lとは、センサ素子2が長尺形状に形成された方向のことをいう。また、長尺方向Lに直交し、横断面における、固体電解質体31と絶縁体33A,33Bとが積層された方向、換言すれば、固体電解質体31、絶縁体33A,33B及び発熱体34が積層された方向を、積層方向Dという。また、横断面における、積層方向Dに直交する方向、換言すれば、長尺方向Lと積層方向Dとに直交する方向を、幅方向Wという。また、センサ素子2の長尺方向Lにおいて、検知部21が形成された側を先端側L1といい、先端側L1の反対側を後端側L2という。
【0031】
図2に示すように、検出電極311及び基準電極312には、これらの電極311,312をガスセンサ1の外部と電気接続するための電極リード部313,314が接続されており、この電極リード部313,314は、長尺方向Lの後端側L2の部位まで引き出されている。なお、図2図3図5等においては、分かりやすくするために、センサ素子2の長尺方向Lの長さを短くして示す。
【0032】
また、図2及び図5に示すように、発熱体34は、通電によって発熱する発熱部341と、発熱部341に繋がる一対の発熱体リード部342とを有する。発熱部341の単位長さ当たりの抵抗値は、発熱体リード部342の単位長さ当たりの抵抗値よりも大きい。発熱体リード部342は、長尺方向Lの後端側L2の部位まで引き出されている。発熱体34は、導電性を有する金属材料を含有している。
【0033】
発熱部341は、発熱体34における先端部において長尺方向Lに蛇行する形状に形成されている。なお、発熱部341は、幅方向Wに蛇行して形成されていてもよい。発熱部341は、長尺方向Lに直交する積層方向Dにおいて、検出電極311及び基準電極312に対向する位置に配置されている。発熱体リード部342からの通電によって発熱部341が発熱することにより、検出電極311、基準電極312、及び固体電解質体31における、各電極311,312の間に挟まれた部分が目標とする温度に加熱される。
【0034】
発熱部341の断面積は、発熱体リード部342の断面積よりも小さく、発熱部341の単位長さ当たりの抵抗値は、発熱体リード部342の単位長さ当たりの抵抗値よりも高い。この断面積とは、発熱部341及び発熱体リード部342が延びる方向に直交する面の断面積のことをいう。そして、一対の発熱体リード部342に電圧が印加されると、発熱部341がジュール熱によって発熱し、この発熱によって、検知部21の周辺が加熱される。
【0035】
第1絶縁体33Aは、ガス室35を形成するものであり、第2絶縁体33Bは、基準ガスダクト36を形成するとともに、発熱体34を埋設するものである。第1絶縁体33A及び第2絶縁体33Bは、アルミナ(酸化アルミニウム)によって形成されている。各絶縁体33A,33Bは、検出対象ガスG又は基準ガスAが透過することができない緻密体として形成されており、各絶縁体33A,33Bには、気体が通過することができる気孔がほとんど形成されていない。
【0036】
図2及び図3に示すように、第1絶縁体33Aは、ガス室35を形成するために積層方向Dに貫通された貫通穴332を有する絶縁スペーサ331と、絶縁スペーサ331に積層されて、貫通穴332を閉じるための絶縁プレート334とによって形成されている。本形態の拡散抵抗部32は、ガス室35の長尺方向Lの先端側L1に隣接して形成されている。拡散抵抗部32は、第1絶縁体33Aの絶縁スペーサ331において、ガス室35の長尺方向Lの先端側L1に隣接して開口された導入口333内に配置されている。
【0037】
ガス室35は、第1絶縁体33Aと拡散抵抗部32と固体電解質体31とによって閉じられた空間部として形成されている。排気管内を流れる排ガスである検出対象ガスGは、拡散抵抗部32を通過してガス室35内に導入される。
【0038】
拡散抵抗部32は、ガス室35の幅方向Wの両側に隣接して形成してもよい。この場合には、拡散抵抗部32は、第1絶縁体33Aの絶縁スペーサ331において、ガス室35の幅方向Wの両側に隣接して開口された導入口333内に配置される。
【0039】
拡散抵抗部32は、アルミナ等の多孔質のセラミックスによって形成されている。ガス室35に導入される検出対象ガスGの拡散速度(流量)は、検出対象ガスGが拡散抵抗部32における気孔を透過する速度が制限されることによって決定される。
【0040】
なお、拡散抵抗部32は、多孔質体を用いて形成する以外にも、ガス室35に連通された小さな貫通穴であるピンホールを用いて形成することもできる。
【0041】
図2及び図3に示すように、第2絶縁体33Bは、基準ガスダクト36を構成する切欠き部336が形成された絶縁スペーサ335と、絶縁スペーサ335に積層された第1ヒータプレート337と、第1ヒータプレート337との間に発熱体34を挟み込んで第1ヒータプレート337に積層された第2ヒータプレート338とによって形成されている。
【0042】
第1絶縁体33Aの絶縁スペーサ331及び第2絶縁体33Bの絶縁スペーサ335においては、成形、切削、ペーストの塗布等の種々の方法によって、貫通穴332又は切欠き部336を形成することができる。
【0043】
基準ガスダクト36は、長尺方向Lの後端側L2が開口された、基準ガスAのダクトとして形成されている。基準ガスダクト36は、センサ素子2の長尺方向Lの後端位置から、固体電解質体31を介してガス室35と対向する位置まで形成されている。基準電極312は、基準ガスダクト36内における先端側L1の部位に配置されている。基準ガスダクト36には、基準ガスAとしての大気が、センサ素子2の後端側L2から導入される。
【0044】
図1に示すように、センサ素子2の長尺方向Lの先端側L1の部位の全周には、検出電極311に対する被毒物質、排気管内に生じる凝縮水等を捕獲するための多孔質層37が設けられている。多孔質層37は、アルミナ等の多孔質のセラミックスによって形成されている。多孔質層37の気孔率は、拡散抵抗部32の気孔率よりも大きく、多孔質層37を透過することができる検出対象ガスGの流量は、拡散抵抗部32を透過することができる検出対象ガスGの流量よりも多い。
【0045】
(基準ガスダクト36)
図3及び図5に示すように、基準ガスダクト36は、センサ素子2の長尺方向Lに直交する横断面の断面積が、長尺方向Lにおいて変化して形成されたものである。基準ガスダクト36は、基準電極312の後端位置312Aよりも長尺方向Lの後端側L2の位置に、横断面の断面積が変化するダクト境界部363を有する。本形態において、基準ガスダクト36における、ダクト境界部363よりも長尺方向Lの先端側L1に位置する部分を先端側ダクト部361といい、基準ガスダクト36における、ダクト境界部363よりも長尺方向Lの後端側L2に位置する部分を後端側ダクト部362という。
【0046】
基準ガスダクト36は、発熱体34の発熱部341によって高温に加熱されやすい先端側ダクト部361の横断面の断面積を、後端側ダクト部362よりも縮小させた形状を有する。本形態のダクト境界部363は、先端側ダクト部361の横断面の断面積が後端側ダクト部362の横断面の断面積から急激に縮小する段差部として形成されている。先端側ダクト部361における、固体電解質体31とは反対側に位置する積層方向Dの壁面339は、後端側ダクト部362における、固体電解質体31とは反対側に位置する積層方向Dの壁面339よりも固体電解質体31に近い位置にある。そして、先端側ダクト部361の長尺方向Lの全長における横断面の断面積は、後端側ダクト部362の長尺方向Lの全長における横断面の断面積よりも小さい。
【0047】
先端側ダクト部361の長尺方向Lの全長における積層方向Dの厚みは、後端側ダクト部362の長尺方向Lの全長における積層方向Dの厚みよりも小さい。これに伴い、基準電極312の後端位置312Aにおける、基準ガスダクト36の積層方向Dの厚みは、後端開口部360における、基準ガスダクト36の積層方向Dの厚みよりも小さい。
【0048】
また、図3及び図5に示すように、先端側ダクト部361の長尺方向Lの全長における幅方向Wの幅は、後端側ダクト部362の長尺方向Lの全長における幅方向Wの幅とほぼ同じである。そして、先端側ダクト部361の横断面の断面積は、先端側ダクト部361の積層方向Dの厚みを後端側ダクト部362の積層方向Dの厚みよりも小さくすることによって、後端側ダクト部362の横断面の断面積よりも小さくしている。また、先端側ダクト部361の長尺方向Lの長さは、後端側ダクト部362の長尺方向Lの長さよりも短い。また、先端側ダクト部361の容積は、後端側ダクト部362の容積よりも小さい。
【0049】
本形態の後端側ダクト部362の積層方向Dの厚み及び幅方向Wの幅は、長尺方向Lにおいて一定である。また、後端側ダクト部362の横断面の断面積は、長尺方向Lにおいて一定である。一方、先端側ダクト部361の幅方向Wの幅は、長尺方向Lにおいて一定であり、先端側ダクト部361の積層方向Dの厚みは、長尺方向Lの先端側L1に行くに連れて縮小している。そして、先端側ダクト部361の横断面の断面積は、長尺方向Lの先端側L1に行くに連れて縮小している。
【0050】
図3に示すように、本形態の先端側ダクト部361における、固体電解質体31とは反対側に位置する積層方向Dの壁面339は、固体電解質体31から離れる方向に膨らむ曲面状に形成されている。先端側ダクト部361は、横断面の断面積S1が一定になる形状に形成されていてもよい。また、先端側ダクト部361の先端側L1の端部のみが曲面状に形成され、先端側L1の端部を除く部位は平面状に形成されていてもよい。
【0051】
また、図6に示すように、ダクト境界部363は、先端側ダクト部361における、固体電解質体31とは反対側に位置する積層方向Dの壁面339が、後端側ダクト部362における、固体電解質体31とは反対側に位置する積層方向Dの壁面339に対して屈曲する屈曲部として形成されていてもよい。この場合には、先端側ダクト部361における、固体電解質体31とは反対側に位置する積層方向Dの壁面339は、長尺方向Lの先端側L1に行くに連れて固体電解質体31に近づくテーパ面として形成することができる。
【0052】
また、基準ガスダクト36の容積は、ガス室35の容積よりも大きい。また、基準ガスダクト36の長尺方向Lの長さは、ガス室35の長尺方向Lの長さよりも長く、基準ガスダクト36の積層方向Dの厚みは、ガス室35の積層方向Dの厚みよりも大きい。
【0053】
(ガスセンサ1の他の構成)
図1に示すように、ガスセンサ1は、センサ素子2等の他に、センサ素子2を保持する第1インシュレータ42、第1インシュレータ42を保持するハウジング41、第1インシュレータ42に連結された第2インシュレータ43、第2インシュレータ43に保持されてセンサ素子2に接触する接点端子44を備える。また、ガスセンサ1は、ハウジング41の先端側L1の部分に装着された先端側カバー45、ハウジング41の後端側L2の部分に装着されて第2インシュレータ43、接点端子44等を覆う後端側カバー46、接点端子44に繋がるリード線48を後端側カバー46に保持するためのブッシュ47等を備える。
【0054】
先端側カバー45は、内燃機関の排気管内に配置される。先端側カバー45には、検出対象ガスGとしての排ガスを通過させるためのガス通過孔451が形成されている。先端側カバー45は、二重構造のものとすることができ、一重構造のものとすることもできる。先端側カバー45のガス通過孔451から先端側カバー45内に流入する検出対象ガスGとしての排ガスは、センサ素子2の多孔質層37及び拡散抵抗部32を通過して検出電極311へと導かれる。
【0055】
図1に示すように、後端側カバー46は、内燃機関の排気管の外部に配置される。後端側カバー46には、後端側カバー46内へ基準ガスAとしての大気を導入するための大気導入孔461が形成されている。大気導入孔461には、液体を通過させない一方、気体を通過させるフィルタ462が配置されている。大気導入孔461から後端側カバー46内に導入される基準ガスAは、後端側カバー46内の隙間及び基準ガスダクト36を通過して基準電極312へと導かれる。
【0056】
図1及び図2に示すように、接点端子44は、検出電極311の電極リード部313、基準電極312の電極リード部314、発熱体34の発熱体リード部342のそれぞれに接続されるよう、第2インシュレータ43に複数配置されている。また、リード線48は、接点端子44のそれぞれに接続されている。
【0057】
図1及び図3に示すように、ガスセンサ1におけるリード線48は、ガスセンサ1におけるガス検出の制御を行うセンサ制御装置6に電気接続される。センサ制御装置6は、エンジンにおける燃焼運転を制御するエンジン制御装置と連携してガスセンサ1における電気制御を行うものである。センサ制御装置6には、検出電極311と基準電極312との間に流れる電流を測定する測定回路61、検出電極311と基準電極312との間に電圧を印加する印加回路62、発熱体34に通電を行うための通電回路等が形成されている。なお、センサ制御装置6は、エンジン制御装置内に構築してもよい。
【0058】
(製造方法)
センサ素子2の製造においては、固体電解質体31、各絶縁体33A,33B、拡散抵抗部32、発熱体34等を積層して積層体とし、この積層体を加熱して焼結する。検出電極311及び基準電極312は、白金、固体電解質、溶媒等を含有するペースト材料を固体電解質体31に印刷(塗布)し、センサ素子2の積層体を焼結する際に、白金及び固体電解質が焼結されて形成される。
【0059】
(作用効果)
本形態のガスセンサ1においては、基準電極312の長尺方向Lの後端位置312Aを含む先端側ダクト部361の横断面の断面積は、後端開口部360を含む後端側ダクト部362の横断面の断面積の0.2倍以上1倍未満である。この構成により、基準電極312への基準ガスAの導入量を適切に確保するとともに、センサ素子2の伝熱性を高めることができる。
【0060】
具体的には、後端側ダクト部362の後端開口部360における横断面の断面積S2は、基準電極312へ基準ガスAを十分に導入することができる大きさに設定する。そして、基準電極312の後端位置312Aを含む先端側ダクト部361の横断面の断面積S1は、発熱体34の発熱部341によって、固体電解質体31、検出電極311及び基準電極312を加熱する際に、基準ガスダクト36が断熱部となって発熱部341から固体電解質体31等への伝熱を妨げることを緩和する断面積に設定する。これにより、基準電極312への基準ガスAの導入量を適切に確保するとともに、センサ素子2の伝熱性を高めることができる。
【0061】
本形態のセンサ素子2の先端部においては、先端側ダクト部361の容積が小さい分、第2絶縁体33Bの容積が大きくなり、発熱体34の発熱部341によって、検出電極311、基準電極312、及び各電極311,312の間に位置する固体電解質体31の部分が加熱されやすくなる。これにより、発熱体34によってセンサ素子2を活性化するための時間を短くすることができる。
【0062】
また、先端側ダクト部361は、発熱部341に対向する位置にあり、この先端側ダクト部361内の基準ガスAは、後端側ダクト部362内の基準ガスAに比べて発熱部341によって高温に加熱される。そして、先端側ダクト部361内の基準ガスAの拡散係数は、後端側ダクト部362内の基準ガスAの拡散係数に比べて大きくなる。拡散係数は、基準電極312へ基準ガスAが供給される際に、固体電解質体31を介して基準電極312から検出電極311へ移動する酸素イオン量を左右する。つまり、拡散係数が大きいほど、酸素イオンの移動量は多くなる。
【0063】
そのため、先端側ダクト部361の横断面の断面積が小さくなっても、基準電極312から検出電極311への酸素イオンの移動量を適切に確保することができる。特に、検出対象ガスGから求められる内燃機関の空燃比がリッチ状態にあるときに、検出電極311における未燃ガス等を化学反応させるための十分な酸素イオンを基準電極312から検出電極311へ移動させることができる。これにより、先端側ダクト部361の横断面の断面積が小さくても、基準電極312から検出電極311への酸素イオンの移動があまり制約されず、センサ素子2における電気化学反応を良好に維持することができる。
【0064】
それ故、本形態のガスセンサ1によれば、基準電極312への基準ガスAの導入量を適切に確保するとともに、センサ素子2の伝熱性を高めることができる。
【0065】
(断面積S1,S2)
先端側ダクト部361の基準電極312の後端位置312Aにおける横断面の断面積S1は、後端側ダクト部362の後端開口部360における横断面の断面積S2の0.2倍以上としている。この断面積の比S1/S2が0.2倍未満である場合には、基準電極312への基準ガスAの導入量を十分に維持することが難しくなる。「0.2倍以上」という値は、次の理由に基づいて求められる。
【0066】
「0.2倍以上」という値は、先端側ダクト部361内における基準ガスAとしての大気と、後端開口部360における基準ガスAとしての大気との、温度差による拡散係数の違いに基づいて求めた。気体の拡散係数は、主に温度の関数として求められる。気体の拡散係数をD[m2/s]、ボルツマン定数をk[JK-1]、温度をT[K]、分子半径をa[nm]としたとき、D=2/(3a2)×(kT/π)3/2によって表すことができる。
【0067】
そして、この拡散係数の式を用いて、基準ガスAとしての大気の温度Tを常温(20℃)から700℃まで変化させたときの拡散係数Dを計算した結果を図7に示す。ガスセンサ1においては、常温(約20℃)の大気が後端側ダクト部362の後端開口部360から導入され、先端側ダクト部361内の大気は、発熱体34の発熱部341によって700℃程度まで加熱される。
【0068】
同図においては、横軸に、基準ガスダクト36内に導入される大気の温度をとり、縦軸に、拡散係数比をとって、大気の温度に対して拡散係数がどれだけ変化するかを示す。拡散係数比は、20℃のときの大気の拡散係数を基準拡散係数として、各温度における拡散係数が基準拡散係数に対して何倍となったかを示す。
【0069】
この拡散係数の変化を確認したところ、700℃における大気の拡散係数は、20℃における大気の拡散係数の5.2倍程度になった。この結果より、先端側ダクト部361の基準電極312の後端位置312Aにおける横断面の断面積S1は、後端側ダクト部362の後端開口部360における横断面の断面積S2の1/5まで小さくすることが可能と考え、「0.2倍以上」との値を導き出した。
【0070】
<実施形態2>
本形態は、実施形態1とは異なるセンサ素子2の形態について示す。
図8に示すように、基準電極312の後端位置312Aを含む先端側ダクト部361の幅方向Wの幅は、後端開口部360を含む後端側ダクト部362の幅方向Wの幅よりも小さく形成することができる。先端側ダクト部361の横断面の断面積は、先端側ダクト部361の幅方向Wの幅が後端側ダクト部362の幅方向Wの幅よりも小さいことによって、後端側ダクト部362の横断面の断面積よりも小さくなる。
【0071】
また、ダクト境界部363は、基準ガスダクト36の幅方向Wの壁面339Aが段差状に変化する部位として形成されている。また、ダクト境界部363は、基準ガスダクト36の幅方向Wの壁面339Aが傾斜状に変化する部位の長尺方向Lの先端側L1の端部として形成することもできる。また、先端側ダクト部361は、基準ガスダクト36の積層方向Dの厚み及び幅方向Wの幅の両方が縮小した部位として形成することができる。
【0072】
本形態のガスセンサ1におけるその他の構成、作用効果等については、実施形態1の場合と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の場合と同様である。
【0073】
<実施形態3>
本形態も、実施形態1とは異なるセンサ素子2の形態について示す。
図9に示すように、センサ素子2の先端部の積層方向Dの厚みは、後端部の積層方向Dの厚みに比べて小さくすることができる。具体的には、センサ素子2は、長尺方向Lにおける基準電極312の後端位置312Aの近傍又は後端側L2に、横断面の断面積が変化する素子境界部24を有していてもよい。素子境界部24よりも長尺方向Lの先端側L1に位置する先端側素子部22の横断面の断面積S3は、素子境界部24よりも長尺方向Lの後端側L2に位置する後端側素子部23の横断面の断面積S4よりも小さくすることができる。
【0074】
素子境界部24は、先端側素子部22の横断面の断面積S3が後端側素子部23の横断面の断面積S4から急激に縮小する段差部として形成することができる。先端側ダクト部361における、第2絶縁体33Bの積層方向Dの外側面330は、後端側ダクト部362における、第2絶縁体33Bの積層方向Dの外側面330よりも、固体電解質体31に近い位置に形成されている。換言すれば、先端側素子部22の横断面の断面積S3は、積層方向Dにおいて、先端側素子部22における第2絶縁体33Bの外側面330が、後端側素子部23における第2絶縁体33Bの外側面330よりも固体電解質体31に近いことによって、後端側素子部23の横断面の断面積S4よりも小さくすることができる。
【0075】
また、同図に示すように、先端側素子部22の横断面の断面積S3は、先端側素子部22の積層方向Dの厚みが後端側素子部23の積層方向Dの厚みよりも小さいことによって、後端側素子部23の横断面の断面積S4よりも小さくすることができる。換言すれば、先端側素子部22の積層方向Dの厚みは、第2絶縁体33Bの外側面330に形成された切欠き部221によって、後端側素子部23の積層方向Dの厚みよりも小さく形成することができる。発熱部341は、第2絶縁体33Bにおける、切欠き部221が形成された位置の積層方向Dに隣接する位置に埋設することができる。
【0076】
本形態においては、先端側素子部22における第2絶縁体33Bの体積が小さくなり、センサ素子2の熱容量が小さくなる。そのため、発熱体34によって固体電解質体31等を加熱する際の消費電力を低減させることができる。また、発熱体34の発熱部341を、検出電極311及び基準電極312に近い位置に配置することができ、発熱体34によるセンサ素子2の早期活性化を図ることができる。
【0077】
本形態のガスセンサ1におけるその他の構成、作用効果等については、実施形態1の場合と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の場合と同様である。
【0078】
<実施形態4>
本形態も、実施形態1とは異なるセンサ素子2の形態について示す。
図10に示すように、発熱体34は、第1絶縁体33Aの内部に埋設することもできる。これにより、発熱体34の発熱部341を検出電極311及び基準電極312により近い位置に配置することができる。そのため、発熱体34によって固体電解質体31等を加熱する際の消費電力をさらに低減させることができ、発熱体34によるセンサ素子2のさらなる早期活性化を図ることができる。また、発熱体34を第1絶縁体33Aの内部に埋設する場合においても、センサ素子2の先端部における第2絶縁体33Bに切欠き部221を形成することができ、切欠き部221を形成しないこともできる。
【0079】
また、図11に示すように、基準ガスダクト36の先端側ダクト部361と後端側ダクト部362との間には、先端側ダクト部361の積層方向Dの壁面339と後端側ダクト部362の積層方向Dの壁面339とを繋ぐ、長尺方向Lに対して傾斜するダクト傾斜面364が形成されていてもよい。この場合には、ダクト境界部363は、屈曲部としての、ダクト傾斜面364における長尺方向Lの先端側L1の端部とすることができる。
【0080】
また、同図に示すように、センサ素子2の先端側素子部22と後端側素子部23との間には、先端側素子部22の積層方向Dの外側面330と後端側素子部23の積層方向Dの外側面330とを繋ぐ、長尺方向Lに対して傾斜する素子傾斜面25が形成されていてもよい。この場合には、素子境界部24は、屈曲部としての、素子傾斜面25における長尺方向Lの先端側L1の端部とすることができる。
【0081】
また、図示は省略するが、ダクト傾斜面364の端部及びダクト境界部363は、屈曲部とする以外にも、曲面状の端部としてもよい。また、素子傾斜面25の端部及び素子境界部24も、屈曲部とする以外にも、曲面状の端部としてもよい。曲面状の端部とは、屈曲部となる角部をR形状に丸めることを示す。
【0082】
本形態のガスセンサ1におけるその他の構成、作用効果等については、実施形態1の場合と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の場合と同様である。
【0083】
また、実施形態1~4に示すセンサ素子2の構造は、センサ素子2が取り得る構造の一例を示す。センサ素子2の構造は、実施形態1,2に示す種々の組み合わせによる構造とすることができる。また、ガスセンサ1の用途によっては、ガス室35及び拡散抵抗部32が設けられていないセンサ素子2を用いることもできる。
【0084】
<確認試験>
本確認試験においては、基準ガスダクト36に先端側ダクト部361及び後端側ダクト部362が形成されていない従来のセンサ素子(比較品)と、実施形態1に示したセンサ素子2(実施品1)、及び実施形態3に示した、発熱体34が第2絶縁体33Bの内部に埋設され、第2絶縁体33Bに切欠き部221が形成されたセンサ素子2(実施品2)、及び実施形態4に示した、発熱体34が第1絶縁体33Aの内部に埋設されたセンサ素子2(実施品3)について、発熱体34に必要とされる消費電力の比較を行った。
【0085】
各センサ素子は、ガスセンサ1の使用時の作動温度である700℃になるように発熱体34によって加熱した。発熱体34の消費電力を確認した結果、比較品のセンサ素子の消費電力が9.3Wであったことに対し、実施品1の消費電力は8.5W、実施品2の消費電力は7.2W、及び実施品3の消費電力は5.8Wとなった。実施品1~3においては、基準ガスダクト36の横断面の断面積が変化する状態に形成したことによって、センサ素子2の消費電力が低減される効果が得られることが分かった。また、実施品2,3においては、発熱体34の発熱部341を、検出電極311及び基準電極312に近づけることによって、発熱体34の消費電力がさらに低減することが分かった。
【0086】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。
【符号の説明】
【0087】
1 ガスセンサ
2 センサ素子
31 固体電解質体
311 検出電極
312 基準電極
312A 後端位置
33A,33B 絶縁体
34 発熱体
36 基準ガスダクト
360 後端開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11