(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B5/055 370
(21)【出願番号】P 2018128506
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西原 崇
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-536789(JP,A)
【文献】特開2018-057515(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0316635(US,A1)
【文献】特開2012-223646(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0302872(US,A1)
【文献】国際公開第2017/221654(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MPGパルスの強度を異ならせて、核磁気共鳴信号の計測を繰り返し行う撮像部と、
前記撮像部が行う各計測で取得した核磁気共鳴信号を用いて、異なるMPGパルス毎に画像を作成する画像作成部と、を備え、
前記画像作成部は、前記MPGパルスの強度が異なる撮像毎に、計測される前記核磁気共鳴信号のうち画像作成に不要となる核磁気共鳴信号を判定する不要信号判定部を備え、
前記不要信号判定部は、事前計測情報をもとに信号が低下するタイミングを決定し、当該タイミングで計測される信号を不要信号と判定し、
前記画像作成部は、前記不要信号判定部が決定した不要信号を除いた核磁気共鳴信号を用いて画像を作成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であっ
て、
前記画像作成部は、前記不要信号の取得時間に発生する不要信号を除いた核磁気共鳴信号を用いて画像を作成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記不要信号判定部は、前記取得時間を、前記撮像部が検査対象から収集したR波からの遅延時間に基づいて決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記不要信号判定部は、スライス毎にそれぞれ前記取得時間を決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記不要信号判定部は、撮像領域
に設定される注目領域にそれぞれ不要信号の取得時間を決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像部は、前記不要信号判定部が決定した前記取得時間を除いて、前記核磁気共鳴信号の計測を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項2から5のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像部は、連続して前記核磁気共鳴信号の計測を行い、
前記画像作成部は、連続して計測された前記核磁気共鳴信号のうち、前記不要信号判定部が決定した前記取得時間に計測された核磁気共鳴信号を除いて、画像を作成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項2から7のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記不要信号判定部は、前記核磁気共鳴信号の信号値について設定した閾値と前記核磁気共鳴信号の信号値とを比較して、前記不要信号を決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
操作者から前記閾値の設定を受け付ける受付部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記不要信号判定部は、連続して計測された前記核磁気共鳴信号から実空間プロファイルを生成し、前記不要信号により形成された不要領域を決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記不要信号判定部は、前記核磁気共鳴信号を積算して作成した画像の画素ごとに設定した閾値を用いて前記不要信号の有無を決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
請求項11に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
操作者から前記閾値の設定を受け付ける受付部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像作成部は、前記受付部が受け付けた前記閾値の変更内容に基づいて、前記画像を随時作成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に関し、特に、拡散強調画像の測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置で得られる画像の一つに、拡散強調画像(Diffusion Weighted Image: DWI)がある。拡散強調画像は、MPG: Motion Probing Gradientと呼ばれる傾斜磁場パルスを印加して自由に拡散しているプロトンを抑制することにより得られる。そのため拡散強調画像の撮像では、拡散が抑制されている腫瘍などの組織の信号が高信号に取得される。
【0003】
拡散強調撮像では、プロトンの拡散からだけでなく、撮像領域の呼吸動や拍動等の体動による動きからも信号が低下して画像が暗くなるため、体動による信号低下の影響を受けやすい検査対象の診断には向いていなかった。また、拡散強調撮像では、拡散係数(apparent diffusion coefficient: ADC)などの定量解析値も診断に用いられているが、上述した信号低下は定量解析値の精度も低下させる。
【0004】
そこで呼吸動による画質低下を防ぐ撮像方法として、呼吸に同期して撮像する方法(特許文献1)や、検査対象からの信号を積算する回数を増加させて拡散強調画像を得る方法(特許文献2)が用いられるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-029250号公報
【文献】特開2005-253802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1、2の撮像方法では、拍動の影響を受ける腹部(特に肝左葉)などの領域で拡散強調撮像を実施すると、拍動の影響を受けて信号が低下した画像が描出され、精密な診断が行えない。
【0007】
また、呼吸動と拍動との両方に同期して撮像を行う方法もあるが、この方法では、呼吸動に同期した信号取得タイミングと拍動に同期した信号取得タイミングの両方が重なるタイミングで信号を取得するため、撮像時間がかかり、撮像効率が悪い。
【0008】
さらに、リフェーズ型MPGの印加により、拍動している領域の信号を取得するという方法もある。この方法では、エコー時間(TE)が延長するが、TEの延長は、信号低下につながるため、この方法も好ましくない。また、種々のb値(マルチb)で取得した信号をそれぞれ比較する場合、MPGの印加時間などのパラメータを一定にすることが好ましいが、リフェーズ型MPGではそれも難しい。
【0009】
本発明は、撮像条件への制限なく、撮像時間を最小限に留め、かつ定量値の精度を向上させた拡散強調画像を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の磁気共鳴イメージング装置は、MPGパルスの強度を異ならせて、核磁気共鳴信号の計測を繰り返し行う撮像部と、撮像部が行う各計測で取得した核磁気共鳴信号を用いて、異なるMPGパルス毎に画像を作成する画像作成部と、を備え、画像作成部は、MPGパルスの強度が異なる撮像毎に、計測される核磁気共鳴信号のうち画像作成に不要となる核磁気共鳴信号を判定する不要信号判定部を備え、画像作成部は、不要信号判定部が決定した不要信号を除いた核磁気共鳴信号を用いて画像を作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撮像条件への制限なく、撮像時間を最小限に留め、かつ定量値の精度を向上させた拡散強調画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のMRI装置の全体構成を示すブロック図。
【
図2】MRI装置が生成する基本的な拡散強調シーケンス。
【
図3】実施形態1のMRI装置が備える制御部の構成を示すブロック図。
【
図5】実施形態1で生成される事前計測のシーケンス。
【
図6】実施形態1のMRI装置が実施する撮像方法を示すフローチャート。
【
図7】実施形態1の撮像条件を設定するために信号を除外するタイミングを決定するUI例。
【
図8】実施形態2のMRI装置が備える制御部の構成を示すブロック図。
【
図9】実施形態2のMRI装置が実施する撮像方法を示すフローチャート。
【
図10】実施形態3のMRI装置が実施する撮像方法を示すフローチャート。
【
図11】実施形態4のMRI装置が実施する撮像方法を示すフローチャート。
【
図12】実施形態4のMRI装置で閾値を適用した際の結果表示、及び閾値変更のUI例。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施形態のMRI装置100の全体構成を示すブロック図である。
MRI装置100は、MPGパルスの強度を異ならせて、核磁気共鳴信号の計測を繰り返し行う撮像部114と、撮像部114が行う各計測で取得した核磁気共鳴信号を用いて、異なるMPGパルス毎に画像を作成する画像作成部120とを備える。画像作成部120は、MPGパルスの強度が異なる撮像毎に、計測される核磁気共鳴信号のうち画像作成に不要となる核磁気共鳴信号を判定する不要信号判定部111Cを備える。画像作成部120は、不要信号判定部111Cが決定した不要信号を除いた核磁気共鳴信号を用いて画像を作成する。
【0015】
撮像部114は、被検体101の検査対象を撮像する。撮像部114は、被検体101の周囲に静磁場を発生する磁石102と、この領域に傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル103と、被検体101に対して高周波磁場を印加するRFコイル104と、被検体101が発生するMR信号を検出するRFプローブ105と、信号検出部106と、傾斜磁場電源109と、RF送信部110とを備える。
【0016】
画像作成部120は、信号処理部107と、記憶装置115と、操作者とのやり取りを行うためのユーザインタフェース(UI)として表示部108や操作者からの指示を受け付ける入力部113を備えている。表示部108は、入力部113と一体的に構成されたタッチパネル等でもよい。さらに画像作成部120は、これらの動作を制御する制御部111を備える。
【0017】
傾斜磁場コイル103は、X、Y、Zの3方向の傾斜磁場コイルで構成され、傾斜磁場電源109からの信号に応じてそれぞれ傾斜磁場を発生する。RFコイル104はRF送信部110の信号に応じて高周波磁場を発生する。RFプローブ105で受信した信号は、信号検出部106で検出され、信号処理部107で信号処理され、また計算により画像信号に変換され、制御部111で撮像画像に対する演算処理がされ、画像は表示部108で表示される。
【0018】
傾斜磁場電源109、RF送信部110、信号検出部106は制御部111で制御され、制御のタイムチャートは一般にパルスシーケンスと呼ばれている。パルスシーケンスの生成に必要な撮像条件は、入力部113より入力し、表示部108で確認する。
【0019】
さらに制御部111は、操作者がUIを操作することによる注目領域の位置やサイズ等の指示を受け付ける受付部111Aと、受付部111Aが受け付けた変更指示にもとづいて、撮像部114が実行するパルスシーケンスを変更させる変更指示部111Bと、不要信号判定部111Cを備える。
【0020】
本実施形態では、CPUとメモリを備えた計算機が制御部111の機能を実現する。演算や制御のプログラムは、予め記憶装置115に格納しておいてもよいし、外部から取り込みCPUがアップロードして実行することもできる。なお、演算部の機能の一部は、ASIC(Application Speciric Integrated Circuit)やFPGA(Field Programable Gate Array)等のハードウェアで実現することも可能である。
【0021】
MRI装置100は、検査対象の拡散強調画像を取得するものであり、制御部111の内部メモリ或いは記憶装置115には、例えば
図2に示すような拡散強調シーケンスが格納されている。この拡散強調シーケンスを撮像部114が特定の条件で実行する。図中の横軸は時間軸であり、RFの軸はRFパルスの印加、Gsはスライス方向の傾斜磁場、Gpは位相エンコード方向の傾斜磁場、Grは読出し(リードアウト)方向の傾斜磁場、Echoはエコー信号の発生を表す。パルスシーケンスの生成に必要な撮像条件は、操作者が入力部113により入力し、表示部108で確認することができる。
【0022】
この拡散強調シーケンスは、特定領域のプロトンをのみを励起するための励起部分201、発生した信号の読み出し部分202、及びデータ取得前に動いているプロトンの信号を抑制するためのMPGパルス203から構成される。具体的には、まずフリップ角が90°のRFパルス201Aを照射し、同時に印加されるスライス選択傾斜磁場(Gs)で決まる特定の位置のスピンを励起する。その後、第1のMPGパルス203Aを印加する。この図ではMPGパルスを複数軸に印加しているが、単軸に印加してもよい。続いてスピンの位相を反転させる180°RFパルス201Bを照射する。そしてMPGパルス203Aと印加量が等しく、逆の極性を有する第2のMPGパルス203Bを印加する。その後、スライス方向の傾斜磁場パルスと位相エンコード傾斜磁場パルスを印加して、信号を取得する。このようなパルスシーケンスにより、拡散強調画像を取得することができる。
【0023】
以下の実施形態では、拡散強調画像を取得する本計測の一例としてスピンエコー(Spin echo: SE)型のエコープラナーイメージング(DW-SE-EPI)シーケンスを用いて説明するが、励起方法や読み出し方法はこれに限定されない。
【0024】
以下、検査対象にMPGパルスを印加して発生する信号のうち、検査対象の拍動に起因して発生する信号の低下を判定し、画像作成に不要となる低下した信号(不要信号)を除去して、拡散強調画像を作成する制御機能の具体的な実施形態について説明する。
【0025】
<実施形態1>
図3を参照して、実施形態1のMRI装置について説明する。
図3は、実施形態1のMRI装置が備える制御部の構成を示すブロック図である。
【0026】
実施形態1のMRI装置100は、不要信号を判定するために、拡散強調画像を取得する本計測に先立って事前計測を行い、事前計測において拍動(R波)からどれだけの遅延時間(Delay)で不要信号が生じるかを判定し、本計測では、不要信号が生じると判定された遅延時間以外のタイミングで、信号計測を行う。
【0027】
図3に示すように、本例の不要信号判定部111Cは、MPGパルスに起因する信号から不要信号を決定する信号判定部111Dと、不要信号の検出される、R波からのDelayを算出するタイミング算出部111Eと、算出された不要信号の発生するDelay以外のタイミングで本計測を実施するよう撮像部114に指示する信号除去指示部111Fとを備えている。また制御部111は、心電電極、又は脈波センサ等、被検体101の拍動を検出する拍動検出センサ101Bに接続されている。
【0028】
続いて、
図1、3~7を参照して、実施形態1のMRI装置による撮像方法について説明する。
図4は、注目領域設定用の位置決めUI例、
図5は、実施形態1のMRI装置が生成する事前計測のシーケンス、
図6は、実施形態1のMRI装置が実施する撮像方法を示すフローチャート、
図7は、実施形態1の撮像条件設定するために信号を除外するタイミングを決定するUI例である。ここでは、MRI装置100が肝臓を検査対象とし、肝臓とその周辺の拡散強調画像を選択的に描出する場合について説明する。
【0029】
[ステップS601]
操作者が被検体101に拍動検出センサ101Bを装着し、被検体101をMRI装置100のガントリ内に設置する。
【0030】
[ステップS602]
操作者が、入力部113から、繰り返し時間(TR)、TE、位置決めや取得する信号の積算回数など、基本的な撮像条件を入力して設定してSTARTボタンを押下し、事前計測(撮像)を開始させる。
【0031】
[ステップS603]
ステップS603では、撮像部114が事前計測を実施する。不要信号判定部111Cは、検査対象の領域(スライス位置)毎に、信号を取得しない遅延時間(Delay)を事前計測で決定する(詳細は以下のステップS603-1からS603-3で説明する)。
【0032】
[ステップS603-1]
MRI装置100は表示部108にUIとして、あらかじめ設定された撮像条件からステップS602で得られた腹部の2次元画像を例えば
図4のように表示する。表示部108には、腹部画像、注目領域300の境界線301、303などが表示される。
【0033】
操作者は、この画像を見ながら表示部108や入力部113といったUIを用いて、表示された画像のうち注目する2次元領域(注目領域)300の位置、アングル、サイズの設定を、スライス方向の領域毎に変更する。スライス方向の設定は各スライス個別でも良いし、肝上部、中部、下部の3箇所程度の切り分けでも良い。
【0034】
例えば、操作者は、マウスなどの入力部113により、境界線301の位置をドラッグ&ドロップして変更させると、受付部111Aがこの変更指示を受け付けて変更指示部111Bに指示する。変更指示部111Bはこの指示に基づき、UIへ表示する注目領域300のサイズ302を変更させる。また、操作者が境界線303の位置を入力部113によりドラッグ&ドロップして変更させると、境界線301の位置を変更したときと同様に受付部111Aと変更指示部111Bが作動して、UIへ表示する注目領域300のサイズ304が変わる。また、操作者が入力部113によりアングル設定部305をドラッグ&ドロップすることで、注目領域300のアングルが変化する。これにより、注目領域300の位置、サイズ、アングルを変更することができる。そして変更指示部111Bは、変更された注目領域300の条件を撮像部114に指示する。
【0035】
この図では、操作者が表示部108を見ながら入力部113の入力により肝臓を注目領域300内に入れるように設定した状態を示している。なお、ステップS603-1はステップS602で他の撮像条件と共に行っても良い。
【0036】
[ステップS603-2]
次に、MRI装置100は、ステップS603-1で設定された注目領域300内の核磁気共鳴信号を取得する。
【0037】
具体的には、注目領域300の設定が完了したら、操作者が表示部108の位置決めUIに表示されたSTARTアイコン(不図示)を入力部113により押下する。すると撮像部114は、変更指示部111Bから受け付けた撮像条件により
図5に示すようなパルスシーケンスを生成する。撮像部114は、注目領域300を選択的に励起するように、2次元励起型のパルス401を印加する。なお、パルス401は、複数のパルス列によって構成されるRFパルス401Aと、クラッシャー傾斜磁場パルス402と、振幅が振動する傾斜磁場パルス403とから実施される。パルス401を印加された領域は、抑制される。
【0038】
図4に示すUIで設定した注目領域300のスライス方向のサイズから、クラッシャー傾斜磁場パルス402の強度が決まり、境界線301を移動させて設定したアングルとサイズから、ブリップ傾斜磁場403の強度が決まる。このようなパルスシーケンスにより、注目領域300内の肝臓とその周辺の拡散強調画像が描出される。
【0039】
撮像部114は、パルス401の印加後、2つのMPGパルス405A、405Bを印加する。MPGパルス405AとMPGパルス405Bの間に、180°RFパルスと呼ばれるスピンの位相を反転させる高周波磁場パルス406を照射する。これにより、位相エンコードがカットされた1エコー分の信号を取得できる。
【0040】
撮像部114は、このような信号取得を、拍動検出センサ101Bから受信したR波404からの、信号取得タイミングが異なる複数のDelayで実施する。これをステップS602で設定されたスライス数又はステップS603-1で設定された場所毎に同様に、複数のDelayで繰り返して信号を取得する。なお、ここではパルス401を2次元選択励起型のパルスとしたが、パルス401は、
図2と同様の通常のスライス選択励起であってもよく、境界線301ではさまれた領域外をプリサチュレーションパルスで抑制することにより
図4で設定された注目領域300を選択的に励起してもよい。どの領域を励起して抑制するかは、システムが内部的に保持していてもよいし、操作者が設定してもよい。
【0041】
[ステップS603-3]
不要信号判定部111Cは、拍動検出センサ101Bから受信した被検体101のR波を参照し、ステップS603-2で取得した信号中の不要信号と、不要信号が発生したDelayを決定する。不要信号の発生するDelayは、ステップS603-2で取得した信号データを不要信号判定部111Cがフーリエ変換して注目領域300内を抽出し、抽出した注目領域300の平均信号強度をDelay方向にプロットして比較することにより決定される。
【0042】
具体的には
図7に示すように、信号判定部111Dが、拍動検出センサ101Bにより受信したR波から、遅延時間を変えて取得した複数の信号のうち、除外対象とする不要信号を決定する。
【0043】
不要信号の判定基準として、例えば、Delay方向の信号の最大値に対する信号の閾値が設定されている。閾値は、システムが内部的に保持している値としてもよいし、操作者によりステップS602などで事前に入力された値を受付部111Aが受け付けて、記憶部115に保存された値としてもよい。また、比較する平均信号強度とDelayとの関係を
図7のようにプロットして表示部108に表示することにより操作者に明示し、操作者が明示された結果から除外対象を判断しても良い。この図では、Delay方向の信号強度の最大値を基準(100%)として、基準から既定値(80%)以下となった平均信号値を不要信号であると判断する場合について示している。このように表示部108に表示した場合、操作者によりバー307をドラッグ&ドロップして上下に移動させる等、UIで閾値を変更できるようにしてもよい。
【0044】
信号判定部111Dにより不要信号が決定されたら、タイミング算出部111Eが、信号値が閾値以下になった(不要信号の発生する)Delayを算出する。そして信号除去指示部111Fは、不要信号の発生するDelayを除外対象として記憶装置115に記憶させ、そのDelayを除いたタイミングにおいて、画像作成用の信号を取得する本計測を実施するよう撮像部114に指示する。
【0045】
[ステップS604]
MRI装置100は、拡散強調シーケンスによる拡散強調撮像(本計測)を開始する。撮像中、撮像部114は、記憶部115に記憶した不要信号の発生するDelay以外のタイミングで信号を取得する。
【0046】
[ステップS605]
続いて、MRI装置100は、ステップS604で信号の取得が完了した段階で画像を再構成して表示部108に表示する。具体的には、まずRFプローブ105が、発生した信号を受信して、この信号を信号検出部106が検出する。この信号は、信号処理部107で信号処理され、フーリエ変換等の画像再構成演算により画像信号に変換される。さらに、画像処理部113が画像信号を演算等した後、描出画像が表示部108に表示される。
【0047】
このように本例の拡散強調画像の撮像方法では、R波からの不要信号のあるDelayのタイミングでデータ取得を行わないことにより、不要信号を含まない拡散強調画像を取得することができる。これにより、本撮像方法では、拍動による信号低下の影響を受けずに拡散強調画像を描出することができる。また、この方法では、TE、b値など撮像条件への制限なく、撮像時間を最小限に留め、かつ定量値の精度を向上させた拡散強調画像を得ることができる。またこの方法では、R波からのDelayで除外基準を設定しているため、従来の呼吸動と拍動との両方に同期して撮像を行う方法などに比べて撮像効率が良くなる。
【0048】
なお、腹部全体の2次元画像を描出してもよいが、上述のように肝臓とその周辺などに注目領域を絞ることにより、画像中に明るく表示されている箇所が、肝臓の中の腫瘍なのか、正常時に明るく表示される腹部の組織(脾臓など)なのかの判断が不要となるため、診断の精度が向上する。
【0049】
さらに、同じ臓器の中でも部位ごとに拍動の影響の受けやすさが異なるため、注目領域の中をさらに複数スライスに分けて、スライス毎に不要信号の発生するDelayを算出することが好ましい。具体的には、例えば肝臓の中でも、肝右葉と肝左葉では、心臓直下に位置する肝左葉のほうが拍動の影響を受けやすいため、肝右葉と肝左葉とで分けて肝臓の画像を取得するなどにより、不要信号の発生回数を減らして撮像効率をあげることができる。
【0050】
<実施形態2>
以下、
図8~9を参照し、実施形態2のMRI装置の撮像方法について、実施形態1と異なる点を説明する。
図8は実施形態2のMRI装置が備える制御部111の構成例、
図9は実施形態2のMRI装置が実施する撮像方法のフローチャートである。
【0051】
この実施形態では、事前計測から算出された不要信号の発生するDelayにおいても本計測を実施するが、本計測が完了した後に不要信号を除外し、除外した不要信号部分を除外対象外の時間における信号により補填する点が特徴である。
【0052】
図8に示すように、本実施形態のMRI装置100における制御部111は、実施形態1で説明した制御部111を基本とし、信号除去指示部111Fの代わりに、本計測後に不要信号を除外する不要信号除去部111Gを備えている。
【0053】
続いて、実施形態2のMRI装置による撮像方法について説明する。なお本方法では、実施形態1のMRI装置による撮像方法に対し、ステップS603-3において、ステップS603-2で取得したエコーを位相エンコード方向またはリードアウト方向のどちらかにのみフーリエ変換して注目領域300内を抽出する点と、以下のステップが異なっている。その他の方法は実施形態1のMRI装置による撮像方法と同じなので、説明を省略する。
【0054】
[ステップS704]
本方法では、ステップS604の代わりにステップS704を実施する。本方法においても、実施形態1の
図7を参照して説明したのと同様に、事前計測において不要信号が発生したR波からのDelayが決定されている。ステップS704では
図9に示すように、MRI装置100は、拡散強調シーケンスによる本計測を開始し、不要信号も含めた全データを取得する。撮像中、不要信号判定部111Cは、データ取得と共に各信号取得時のDelayも記憶装置115のデータベースに保存させる。
【0055】
[ステップS705]
全データ取得後、不要信号除去部111Gは、取得した全信号から、ステップS603-3で決定したDelayにおける不要信号を除外して、画像を再構成する。除外対象の基準はステップS603で説明した通りである。なお、不要信号を除外するタイミングは全データ取得後に限定されず、データ計測中のある時点で不要信号を除去してもよい。その場合、本計測は一時中断状態として不要信号を除去することが好ましい。
【0056】
[ステップS706]
このステップは任意であるが、表示部108は、再構成した画像を表示し、除外したエコーの信号を再取得して補填するかどうかを操作者に判断させてもよい。除外したエコーの信号を再取得して補填することにより、データが十分に積算された状態となるため、信号雑音比(signal-noise ratio: SNR)の低下による画質の低下を抑制することができる。操作者が、画質が不十分と判断した場合、不要信号除去部111Gは、撮像部114に除外されたデータを除外対象外のタイミングで再度取得させて補填し、全データが除外対象外となるまで撮像を実行させる。
【0057】
不要信号除去部111Gは、全データが取得できた段階で画像を再構成し、表示部108に表示する。そして記憶装置115が、再構成した画像をデータベースに保存する。
【0058】
本実施形態では、本計測時に少なくとも一定以上のデータを取得した後に不要信号を除外するため、信号を取得するか否かについて、R波検出直後に判断しなくてよい。そのため本実施形態では、R波検出直後に信号取得の可否を判断する場合に比べて判断時間に余裕があり、システムの高速な応答が要求されない。反対に、R波検出直後に信号の取得有無を判断するための処理が間に合わず遅延が生じることを抑制できるので、処理速度をより速めることができる。
【0059】
<実施形態3>
以下、
図10を参照し、実施形態3のMRI装置の撮像方法について説明する。実施形態3は、実施形態2のMRI装置の撮像方法を基本として、上述した実施形態2のステップS603で、リードアウト方向の平均信号強度を比較せず、リードアウト方向の位値毎に不要信号の有無を判断する点が特徴である。
【0060】
[ステップS603B]
信号判定部111Dは、取得した信号をリードアウト方向にのみフーリエ変換することにより、実空間プロファイルを生成し、実空間の位置毎に実施形態2と同様にDelay間の信号を比較する。生成された実空間プロファイルのうち、不要信号により形成された領域(不要領域)は、不要信号が発生したDelayとは他のDelayよりも信号値が低くなる。よって、信号判定部111Dは、Delayと領域の2つについて信号を比較し、信号値が低いDelayとそのときのDelayにおける不要領域を抽出することにより、複数Delayの実空間プロファイルから不要領域を抽出することができる。信号判定部111Dにより判断された不要領域及びDelayは、記憶装置115のデータベースに保存される。
【0061】
[ステップS705B]
本計測で全エコーを取得した後、不要信号除去部111Gは、取得した信号を、抽出された不要信号を除外した状態で加算平均する。不要信号を除外しても、不要領域と同じ領域で不要信号以外の信号が加算平均されるため、十分に画像を再構成することができる。
【0062】
このように、この実施形態による撮像方法では、実空間プロファイルから不要領域を抽出し除外することにより、不要信号以外の信号から形成されたピクセルのSNRが担保されるので、SNR低下を不要領域にのみ限定できる。よって、画像全体のSNR低下による画質低下を抑制することができる。
【0063】
<実施形態4>
以下、
図11、12を参照し、実施形態4のMRI装置の撮像方法について説明する。本実施形態は、事前計測することなく不要信号判定部111Cが、核磁気共鳴信号を積算して作成した画像の画素ごとに、画素値に設定した閾値を用いて、不要信号の有無を決定する点が特徴である。
図11は、実施形態4のMRI装置が実施する撮像方法のフローチャート、
図12は、実施形態4のMRI装置で閾値を適用した際の結果表示及び閾値変更のUI例である。
【0064】
実施形態4の制御部111は、
図8に示した信号判定部111D、タイミング算出部111Eを備えておらず、
図11に示すように、不要信号除去部111Gが、信号の複数積算時にピクセル毎に積算方向に信号を比較し、所定の閾値以下となった画素値の信号を除外する。体幹部の拡散強調撮像は一般に、複数積算であることが多く、不要信号が生じる時間は心拍のR-R間隔に比べて短いので、同一位置のピクセルデータを積算方向に比較することで、そのピクセルデータが除外対象であるかどうかを判断できる。
【0065】
[ステップS802]
操作者が入力部113からTR、TE、位置決めや信号の積算回数の設定など基本的な条件を入力して設定した後、撮像をSTARTさせる。積算方向に統計的な処理を行うため、積算回数は2以上に限定する。なお、積算回数は、操作者による入力に限らず、システムが内部的に保持している値であってもよい。また、この段階で操作者は、信号を積算方向に比較して除外する基準となる閾値(例えば信号の最大値に対する割合)を決定してもよい。閾値を高く設定することで、除外対象が増えるのでSNRは低下するが、解析値などの精度を高めることができる。反対に、閾値を低く設定すると解析値などの精度が下がるが、除外対象が減るので、SNRが向上する。また、閾値は腹部、頭部など撮像部位に応じた値を記憶部115が保持していてもよい。
【0066】
[ステップS603-1]
本実施形態において、本ステップの実施は任意である。操作者がステップS802で注目領域を指定した場合、後で説明するステップS805において、積算方向の信号値の比較を行うピクセルを設定された注目領域に限定することで、再構成にかかる処理時間を短縮することができる。本ステップを省略した場合は、全てのピクセルにおいて統計処理を行うため、操作者による注目領域設定の手間を省くことで操作を簡便にできる。
【0067】
[ステップS804]
条件が設定されると、撮像部114は、拡散強調シーケンスによる拡散強調の本計測を開始する。このとき、撮像部114は、操作者がステップS802で指定した条件で全信号を取得し、複数の画像を取得する。本実施形態において、事前計測は実施しないため、事前計測分の処理時間を短縮することができる。記憶部115は、取得した全信号から作成される加算前の複数の画像を保持しておく。
【0068】
[ステップS805]
全エコーの信号を取得した後、不要信号除去部111Gは、複数の画像のピクセル位置毎に積算方向に信号を比較し、閾値以下となるデータを除外して加算平均して画像を提示する。比較対象とするピクセルは、ステップS603-1で注目領域を設定している場合は設定された領域のみ対象とし、注目領域が設定されていない場合は全ピクセルを対象とする。
【0069】
[ステップS806]
操作者が提示された画像が許容できる画質であると判断した場合、OKボタンを押下することで、設定された閾値で計算された画像がデータベースに保存される。操作者が提示された画像が許容できる画質でないと判断した場合、不要信号除去部111Gは、除外されたデータを再度取得して画像を再構成し、表示部108に再度画像を表示して操作者に判断させてもよい。
【0070】
なお、
図12に示すようなUIにより操作者により閾値を変更できるようにし、変更された閾値に応じた画像を表示部108が随時提示してもよい。具体的には、まず閾値の初期設定を信号の中央値とした場合、中央値以下となった信号を除外して加算平均した結果を操作者に表示部108に提示する。操作者がUIに表示された矢印307Bをドラッグ&ドロップして上下に移動させると、受付部111Aが閾値の変更を受け付ける。受付部111Aは、変更された閾値を不要信号除去部111Gに指示し、変更後の閾値で加算平均した画像を表示部108に随時提示させる。閾値の変更時に操作者が許容できる画質であると判断した際には、操作者がOKボタンを押下することで、設定された閾値で計算された画像がデータベースに保存される。操作者が閾値の変更だけでは不十分と判断した場合、操作者がContinueボタンを押下することにより、除外されたデータを再度取得して画像を再構成し、表示部108に再度画像を表示して操作者が判断する。
【0071】
本実施形態によれば、信号の低下を判定して画像作成に不要となる低下した信号(不要信号)を除去するため、心電電極、又は脈波センサなどの拍動検出センサを設置して、この拍動検出センサ心電波形を取得する必要がなく、しかも拍動などの影響を低減した精度のよい拡散強調画像を作成することができる。
【符号の説明】
【0072】
101・・・被検体、102・・・磁石、103・・・傾斜磁場コイル、104・・・RFコイル、105・・・RFプローブ、106・・・信号検出部、107・・・信号処理部、108・・・表示部、109・・・傾斜磁場電源、110・・・RF送信部、111・・・制御部、111C・・・不要信号判定部、114・・・撮像部、120・・・画像作成部