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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】重金属類の不溶化方法、及び、不溶化材
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20220616BHJP
   B09C 1/02 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B09C1/08
B09C1/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018142309
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020018956
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】石神 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭二郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】須藤 達也
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-177575(JP,A)
【文献】特開2000-246229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00-1/10
B09B 1/00-5/00
A62D 1/00-9/00
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類を含有する土壌に対して、三価の鉄化合物(ただし塩化鉄(III)と硫酸鉄(III)を除く。)と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とを添加し混合する、重金属類の不溶化方法であって、
前記三価の鉄化合物及び前記二価の鉄イオンを生じる物質の添加量を、両者を前記土壌と混合したときに前記三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが1.00×10-4~3.00×10-2mol生じる添加量とする、重金属類の不溶化方法。
【請求項2】
前記三価の鉄化合物及び前記二価の鉄イオンを生じる物質の添加量を、両者を前記土壌と混合したときに前記三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが1.30×10-4~2.50×10-2mol生じる添加量とする、請求項1記載の重金属類の不溶化方法。
【請求項3】
前記二価の鉄イオンを生じる物質は、金属鉄であり、
前記金属鉄の添加量を、前記三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して1.00×10-4~1.50×10-0molとする、請求項1又は2記載の重金属類の不溶化方法。
【請求項4】
前記土壌に対して、水と接触してカルシウムイオンを生じる物質を添加し、
前記カルシウムイオンを生じる物質の添加量を、前記土壌と混合したときに前記三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対してカルシウムイオンが1.0×10-2~1.5×10-0mol生じる添加量とする、請求項1~3のいずれか一項記載の重金属類の不溶化方法。
【請求項5】
前記重金属類は、ヒ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀及び六価クロムからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項記載の重金属類の不溶化方法。
【請求項6】
重金属類を含有する土壌から前記重金属類が溶出することを抑制する不溶化材であって、
三価の鉄化合物(ただし塩化鉄(III)と硫酸鉄(III)を除く。)と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とを含み、
前記三価の鉄化合物と前記二価の鉄イオンを生じる物質との含有比は、当該不溶化材を前記土壌と混合したときに前記三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが1.00×10-4~3.00×10-2mol生じる含有比である、重金属類の不溶化材。
【請求項7】
前記三価の鉄化合物と前記二価の鉄イオンを生じる物質との含有比は、両者を前記土壌と混合したときに前記三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが1.30×10-4~2.50×10-2mol生じる含有比である、請求項6記載の重金属類の不溶化材。
【請求項8】
前記二価の鉄イオンを生じる物質は、金属鉄であり、
前記金属鉄の含有比は、前記三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して1.00×10-4~1.50×10-0molである、請求項6又は7記載の重金属類の不溶化材。
【請求項9】
水と接触してカルシウムイオンを生じる物質を更に含み、
前記カルシウムイオンを生じる物質の含有比は、前記土壌と混合したときに前記三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対してカルシウムイオンが1.0×10-2~1.5×10-0mol生じる含有比である、請求項6~8のいずれか一項記載の重金属類の不溶化材。
【請求項10】
前記重金属類は、ヒ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀及び六価クロムからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項6~9のいずれか一項記載の重金属類の不溶化材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類の不溶化方法及び不溶化材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌から重金属類が溶出しないように処理することが求められており、その処理方法の一つとして、鉄酸化物を含有する浄化材を用いることが知られている(例えば特許文献1)。この浄化材は、用いる鉄酸化物の比表面積が広いため重金属類の吸着能力に優れ、且つ、一旦吸着した重金属類を再溶出させないというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-255376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
重金属類の溶出挙動は土壌のpHや酸化還元電位によって異なることが知られているが、従来の処理方法では専ら土壌のpHに応じた吸着能力の向上に目が向けられており、酸化還元電位の変化に対する不溶化耐性の評価はあまり行われてこなかった。また、様々なpH及び酸化還元電位に対応できる汎用性の高い不溶化材として満足できるものは乏しい状況にある。
【0005】
そこで本発明は、重金属類の溶出対策として、土壌の酸化還元電位をも考慮した汎用性の高い不溶化方法、及び、不溶化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、重金属類を含有する土壌に対して、三価の鉄化合物と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とを添加し混合する、重金属類の不溶化方法であって、三価の鉄化合物及び二価の鉄イオンを生じる物質の添加量を、両者を土壌と混合したときに三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが1.00×10-4~3.00×10-2mol生じる添加量とする、重金属類の不溶化方法を提供する。
【0007】
発明者らの考察によれば、三価の鉄化合物と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とを土壌に混合した際に、土壌中の水によって二価の鉄イオンが生じ、これから生じる水酸化鉄が三価の鉄化合物の表面に吸着して不溶物を形成する。その際に、土壌中の重金属類が同時に取り込まれて不溶化する。その結果、土壌から重金属類が溶出しにくくなる。本発明は、三価の鉄化合物と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とを併用することで、任意のpHのみならず任意の酸化還元電位を呈する様々な土壌に適用することができる。
【0008】
ここで、三価の鉄化合物及び二価の鉄イオンを生じる物質の添加量を、両者を土壌と混合したときに三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが1.30×10-4~2.50×10-2mol生じる添加量としてもよい。
【0009】
また、二価の鉄イオンを生じる物質は、金属鉄であってもよく、この場合、金属鉄の添加量を、三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して1.00×10-4~1.50×10-0molとすることが好ましい。二価の鉄イオンを生じる物質は、必ずしも水溶性が高いものである必要はなく、金属鉄のように鉄イオンの放出が緩慢なものであってもよい。この場合、イオン化の程度を考慮した添加量としては、上記の範囲内のものとなる。
【0010】
本発明では、土壌に対して、水と接触してカルシウムイオンを生じる物質を添加してもよく、この場合、カルシウムイオンを生じる物質の添加量を、土壌と混合したときに三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対してカルシウムイオンが1.0×10-2~1.5×10-0mol生じる添加量とすることが好ましい。土壌のpHがアルカリ性であるときに、カルシウムイオンの存在が重金属類の不溶化に特に有効である。
【0011】
重金属類は、ヒ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀及び六価クロムからなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0012】
上記のほか、本発明は、重金属類を含有する土壌から重金属類が溶出することを抑制する不溶化材であって、三価の鉄化合物と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とを含み、三価の鉄化合物と二価の鉄イオンを生じる物質との含有比は、当該不溶化材を土壌と混合したときに三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが1.00×10-4~3.00×10-2mol生じる含有比である、重金属類の不溶化材を提供する。
【0013】
ここで、三価の鉄化合物と二価の鉄イオンを生じる物質との含有比は、両者を土壌と混合したときに三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが1.30×10-4~2.50×10-2mol生じる含有比であってもよい。
【0014】
また、二価の鉄イオンを生じる物質は、金属鉄であってもよく、この場合、金属鉄の含有比は、三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して1.00×10-4~1.50×10-0molであることが好ましい。
【0015】
この不溶化材は、水と接触してカルシウムイオンを生じる物質を更に含んでいてもよく、この場合、カルシウムイオンを生じる物質の含有比は、土壌と混合したときに三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対してカルシウムイオンが1.0×10-2~1.5×10-0mol生じる含有比であることが好ましい。
【0016】
この不溶化材においても、重金属類は、ヒ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀及び六価クロムからなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、重金属の溶出対策として、土壌の酸化還元電位をも考慮した汎用性の高い不溶化方法、及び、不溶化材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、水1Lに対して添加した鉄イオン(II)量に応じた鉄イオン(II)濃度を示すグラフである。(b)は、水1Lに対して添加した鉄イオン(II)量に応じたヒ素濃度を示すグラフである。
図2】鉄イオン(II)の添加量が小さい領域におけるヒ素平衡濃度とヒ素吸着量との関係を示すグラフである。
図3】水1Lに対して添加した鉄粉量と鉄イオン(II)濃度との関係を示すグラフである。
図4】不溶化材Aの効果発現範囲を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態の不溶化材及び不溶化方法は、重金属類を含有する土壌から重金属類が溶出することを抑制するためのものである。本明細書において「重金属類」とは、ヒ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀、六価クロム、シアン、フッ素及びホウ素を指す。
【0020】
<不溶化材>
本実施形態の不溶化材は、三価の鉄化合物と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とを含む組成物である。また、後述するとおり、本実施形態の不溶化材は、水と接触してカルシウムイオンを生じる物質を更に含んでいてもよい。
【0021】
三価の鉄化合物は、酸化数が3となっている鉄を含む化合物である。三価の鉄化合物としては、酸化鉄(III)、水酸化鉄(III)、酸化水酸化鉄(III)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)等が挙げられる。重金属類を捕捉して不溶化する観点から、水溶性の低いものが好ましい。三価の鉄化合物は、土壌との混合性の観点から粉末状であることが好ましい。
【0022】
水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質は、水と接触したときに電離又はイオン化して二価の鉄イオンを生じる物質であればよく、水溶性の程度は問わない。当該物質としては、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、水酸化鉄(II)、硫酸鉄(II)、金属鉄等が挙げられる。中でも塩化鉄(II)及び金属鉄が好ましい。当該物質は、土壌との混合性の観点から粉末状であることが好ましく、特に、金属鉄の場合は比表面積が高く反応性が高い還元鉄粉(海綿鉄粉)であることが好ましい。還元鉄粉に表面処理をした特殊鉄粉であることがより好ましい。
【0023】
水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質は、不溶化処理の対象である土壌に添加して混合したとき、土壌に含まれている水に対して溶解し、鉄イオン(II)を生じる。このとき、添加した物質の全てが鉄イオン(II)になる必要はなく、不溶化材としての効果が生じる程度の鉄イオン(II)が生じるように、溶解度を考慮してあらかじめ添加量を決定しておく。例えば、塩化鉄(II)のように水への溶解度が高い物質はそのほぼ全量が電離しているとみなすことができ、他方、金属鉄のように溶解度の低い物質は、後述する実験例のように、事前にイオン化の程度を調べたうえで用いる。
【0024】
本実施形態の不溶化材における三価の鉄化合物と二価の鉄イオンを生じる物質との含有比は、本実施形態の不溶化材を土壌と混合したときに三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して二価の鉄イオンが
1.00×10-4~3.00×10-2mol生じる含有比であり、
1.30×10-4~2.50×10-2mol生じる含有比であることが好ましく、
3.00×10-4~1.50×10-2mol生じる含有比であることがより好ましく、
7.00×10-4~8.00×10-3mol生じる含有比であることが更に好ましい。
1.00×10-3~3.00×10-3mol生じる含有比であることが特に好ましい。
ここで、「不溶化材を土壌と混合したとき」とは、不溶化材の混合直後から1時間までの間をいう。
【0025】
二価の鉄イオンを生じる物質が金属鉄である場合は、金属鉄の含有比は、三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対して
1.00×10-4~1.50×10-0molであることが好ましく、
5.00×10-4~1.00×10-0molであることがより好ましく、
1.00×10-3~7.00×10-1molであることが更に好ましく、
1.00×10-2~3.00×10-1molであることが特に好ましい。
金属鉄を用いた場合、上記「不溶化材を土壌と混合したとき」とは、不溶化材の混合直後から6時間までの間をいう。
【0026】
二価の鉄イオンを生じる物質が金属鉄である場合は、金属鉄の還元作用によって六価クロムや六価セレンが還元されることで不溶化作用を発現することもできる。このため、土壌に六価クロムや六価セレンが多く含まれていることが事前に分かっている場合は、鉄粉の含有比を高く設定することが好ましい。
【0027】
不溶化材は、水と接触してカルシウムイオンを生じる物質を更に含んでいてもよい。当該物質としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。当該物質は、土壌との混合性の観点から粉末状であることが好ましい。
【0028】
カルシウムイオンを生じる物質の含有比は、土壌と混合したときに三価の鉄化合物中の三価の鉄1molに対してカルシウムイオンが
1.0×10-2~1.5×10-0mol生じる含有比であることが好ましく、
5.0×10-2~1.2×10-0mol生じる含有比であることがより好ましく、
1.0×10-1~1.0×10-0mol生じる含有比であることが更に好ましく、
1.5×10-1~8.0×10-1mol生じる含有比であることが特に好ましい。
また、当該数値範囲は2.0×10-1~7.0×10-1molであってもよい。
【0029】
本実施形態の不溶化材は、少なくとも上記の二成分又は三成分を含む組成物であるので、土壌に添加混合する前に互いに反応しないように、乾燥した状態で保存することが好ましい。
【0030】
<不溶化方法>
土壌は、外的又は内的な要因によってpHや酸化還元電位が変動し、これに伴って重金属類の溶出挙動が変化する。例えば、土壌が空気酸化されたり、酸性雨に晒されたり、セメント改良を施したり、盛土の内部が嫌気性還元されたりすることで、たとえ処理直後には重金属類が溶出しにくい性状であったとしても、時間の経過とともに、重金属類が溶出しやすい性状に変化し得る。本実施形態の不溶化方法は、様々な性状変化にも対応できる汎用性の高いものである。
【0031】
本実施形態の不溶化方法は、三価の鉄化合物と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とを土壌に添加し混合する。また、任意に、水と接触してカルシウムイオンを生じる物質を添加し混合してもよい。土壌に対する添加量としては、土壌の質量を100%としたとき、不溶化材全体としての添加量は0.5~5%であることが好ましく(すなわち、土壌100kgに対して0.5~5kgを添加する)、1~3%であることが好ましい。
【0032】
三価の鉄化合物、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質、及び、水と接触してカルシウムイオンとしては、上記不溶化材として挙げたものを使用することができる。また、その使用量についても、上記不溶化材における含有比を適用することができる。これらの材料は同時に添加してもよく、それぞれ別々に添加してもよい。同時に添加する場合は、上記不溶化材のようにあらかじめ混合された組成物を調製したうえで添加してもよい。
【0033】
土壌との混合方法は、土壌の容積や性状、施工条件に応じて適宜選択すればよく、例えば、バックホウ、ミキシングバケット付バックホウ、土壌改良機、ロードスタビライザー等を用いることができる。
【0034】
三価の鉄化合物と、水と接触して二価の鉄イオンを生じる物質とが土壌と混合されると、土壌中の水によって二価の鉄イオンが生じ、これから生じる水酸化鉄が三価の鉄化合物の表面に吸着して不溶物を形成する。その際に、土壌中の重金属類が同時に取り込まれて不溶化し、その結果、土壌から重金属類が溶出しにくくなると考えられる。本実施形態の不溶化方法によれば、酸化雰囲気で不溶化効果を発現する三価の鉄化合物と、還元雰囲気で不溶化効果を発現する二価の鉄イオンを生じる物質とを併用することで、任意のpHのみならず任意の酸化還元電位を呈する様々な土壌に適用することができる。また、カルシウムイオンはアルカリ性雰囲気で重金属類を不溶化する効果があるので、土壌のpHがアルカリ性であるとき、又は土壌のpHがアルカリ性側に移行した場合に、カルシウムイオンが土壌に存在することで重金属類を一層不溶化することができる。
【0035】
本実施形態の不溶化方法は、不溶化対象である重金属類の中でも、ヒ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀及び六価クロムに対して特に有効である。これらは三価の鉄化合物又は鉄イオンへの吸着度合いが高く、不溶物を形成しやすい傾向がある。
【実施例
【0036】
以下、実験例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実験例に限定されるものではない。
【0037】
<重金属類の不溶化効果の確認>
重金属類の代表例としてヒ素を用い、不溶化効果の確認をした。水1Lに対して、酸化鉄(III)粉末4g(Fe,三価の鉄イオンとして0.05mol)を懸濁させた。これにヒ素標準試薬を100mg/Lとなるように添加した(サンプルA)。他方、対照サンプルとして、酸化鉄(III)粉末を添加しないヒ素標準試薬100mg/Lの溶液も準備した(サンプルB)。両サンプルに対して、塩化鉄(II)粉末を添加し撹拌した。塩化鉄(II)粉末(FeCl)は、鉄イオン(II)として40mg(7.16×10-4mol)ずつ添加していき、添加するごとに速やかに液相をシリンジで少量回収し、濾過し、濾液の鉄イオン(II)濃度及びヒ素濃度を測定した。結果を図1のグラフに示す。
【0038】
図1(a)から分かるとおり、酸化鉄(III)が存在するサンプルAでは、鉄イオン(II)として80mgの添加までは液相に鉄イオン(II)が存在しないことが確認された。図1(b)から分かるとおり、鉄イオン(II)の添加量が40mg及び80mgの場合において、酸化鉄(III)が存在しないサンプルBではヒ素濃度が低下しなかったのに対し、酸化鉄(III)が存在するサンプルAではヒ素濃度が大幅に低下した。
【0039】
これらの結果から、鉄イオン(II)が水中で水酸化鉄に変化し、これが酸化鉄(III)の表面に吸着して沈殿を形成したこと、及び、その際にヒ素が取り込まれて併せて沈殿したと考えられる。なお、サンプルAにおいて鉄イオン(II)の添加量が120mg以上で液相に鉄イオン(II)が現れ始めたのは、酸化鉄(III)の表面が水酸化鉄で飽和されたためと考えられる。
【0040】
<重金属類の不溶化効果の更なる確認>
上記実験よりも鉄イオン(II)の供給が低量である領域において、鉄イオン(II)の添加に伴う不溶化効果を確認した。水1Lに対して、酸化鉄(III)粉末1g(三価の鉄イオンとして0.0125mol)を懸濁させた。これにヒ素標準試薬を100mg/Lとなるように添加した。こうしたサンプルを5本用意し、このうち4本に対して、塩化鉄(II)粉末を鉄イオン(II)として
0.1mg(1.79×10-6mol)、
0.5mg(8.95×10-6mol)、
2.0mg(3.58×10-5mol)、
2.5mg(4.48×10-5mol)
の重量となるように、それぞれ添加した。各サンプルを1時間振とうした。振とう後のサンプルを濾過し、濾液のヒ素濃度を測定した。ヒ素濃度から吸着量を算出し、吸着等温線を描いた(図2)。また、ヒ素の平衡濃度が環境基準値である0.01mg/Lであるときの吸着量について、表1に示した。
【0041】
【表1】
【0042】
図2及び表1から、鉄イオン(II)がわずか0.1mg存在するだけでもヒ素の不溶化効果が発現していることが確認された。そして、当該効果は2.0mgの添加で頭打ちとなり、添加量2.5mgと同等の吸着能力を示した。
【0043】
<鉄イオン(II)の供給源を鉄粉とした場合の検討>
鉄粉を水に懸濁させた場合の、鉄(0)のイオン化による鉄イオン(II)の供給の程度を確認した。水1Lに対して、鉄粉を
0.01g(1.79×10-4mol)、
0.02g(3.58×10-4mol)、
0.04g(7.16×10-4mol)、
0.08g(1.43×10-3mol)、
0.16g(2.86×10-3mol)
添加していった。添加するごとに6時間振とうし、液相の鉄イオン(II)濃度を測定した。結果を図3に示す。
【0044】
この結果から、鉄イオン(II)濃度が2.0mg/Lに達するためには水1L当たり0.08gの鉄粉を添加すればよいことが分かった。なおこの場合、重量比としては酸化鉄(III)1gに対して鉄粉0.08g、酸化鉄(III)に対する添加率としては鉄として8重量%となる。また、三価の鉄(Fe(III))1molに対する鉄(0)の量としては1.14×10-1molとなる。
【0045】
<pH及び酸化還元電位の検討>
様々なpHや酸化還元電位における不溶化材の効果を確認した。初めに、表2に示す配合にて不溶化材Aを調製した。
【0046】
【表2】
【0047】
この不溶化材A0.5gを、10mg/Lのヒ素水溶液50gに添加混合し、24時間振とうしてヒ素を不溶化した。このようなサンプルを全78本準備した。
【0048】
その後、サンプルを酸化条件側と還元条件側に分けた。酸化条件側のサンプルに対しては、希硫酸又は水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを各種調整し、1~24時間振とうし、遠心分離した。上澄み液のpH、酸化還元電位及びヒ素濃度を測定した。他方、還元条件側のサンプルに対しては、酸素を極力排除するために窒素バブリングを行いながら希硫酸又は水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを各種調整し、その後、水素10%濃度のガス流に一定時間養生することで還元処理を行った。その後、1~24時間振とうし、遠心分離した。上澄み液のpH、酸化還元電位及びヒ素濃度を測定した。全78本のサンプルのうち、ヒ素濃度が環境基準値である0.01mg/L以下となったサンプル(44本)についてプロットした様子を図4に示す(領域A)。なお、図4には、一般的な土壌のpH及び酸化還元電位の範囲(領域B)と、市販のマグネシウム系不溶化材で上記と同様に実験した結果(領域C)も併せて示している。
【0049】
図4から分かるとおり、表2に示した配合を有する不溶化材Aによって、様々なpH及び酸化還元電位を有する場合でも遊離ヒ素濃度を環境基準値(0.01mg/L)以下に抑制することができた(領域A)。他方、市販のマグネシウム系不溶化材では、遊離ヒ素濃度を環境基準値以下に抑制することができたのは、酸化還元電位が酸化側かつpHが弱アルカリ性域という一部の条件下でのみであった(領域C)。
【0050】
<カルシウムイオン濃度の検討>
酸化鉄(III)粉末1g、及び、鉄粉0.08gの配合に対して、酸化カルシムを更に混合して種々の不溶化材を調製した。ここで酸化カルシウムの配合量は、三物質の合計重量を基準として0質量%、20質量%、36質量%、50質量%となるように混合した。表3に示したとおり、各配合の不溶化材を用いて、調整すべきpH及び酸化還元電位(酸化側か還元側か)を定めて、上記「<pH及び酸化還元電位の検討>
」と同様の実験を行った。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示した結果からわかるとおり、酸化カルシウムの配合量が0%を超え36%未満の場合にpH及び酸化還元電位にかかわらず遊離ヒ素濃度が環境基準値(0.01mg/L)以下となった。この場合、三価の鉄(Fe(III))1molに対するカルシウムイオンの量としては、0molを超え8.63×10-1mol未満に相当する。
【0053】
<他の重金属類について>
ヒ素のほか、鉛、セレン、カドミウム、水銀、六価クロムを対象として、土壌を用いた不溶化処理の実験を行った。ヒ素、鉛、セレン、カドミウム、水銀、六価クロムを含有する汚染土壌100gに対して上記不溶化材Aを2g添加混合し、1日経過した後の重金属の溶出量を環境庁告示46号に準拠した試験により測定した。結果を表4に示した。
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示した結果から分かるとおり、不溶化処理前ではいずれの重金属も初期の溶出量が環境基準値を超えていたが、不溶化処理後ではいずれも環境基準に適合する溶出量となった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、重金属類の溶出が懸念される土壌に対して利用することができる。
図1
図2
図3
図4