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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220616BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018146837
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020020751
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】関谷 高幸
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 翔太
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209128(JP,A)
【文献】特開2009-236835(JP,A)
【文献】特開2004-132960(JP,A)
【文献】特開2017-203696(JP,A)
【文献】特開2011-225434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質で構成されたセンサ素子を備える、被測定ガス中のNOxの濃度を特定可能な限界電流型のガスセンサであって、
前記センサ素子が、
外部空間から被測定ガスが導入されるガス導入口と、
前記ガス導入口と所定の拡散抵抗のもとで連通してなる第1の内部空所と、
前記第1の内部空所と所定の拡散抵抗のもとで連通してなる第2の内部空所と、
前記第1の内部空所に面して設けられた1つまたは2つの単位電極部からなる内側ポンプ電極と、前記センサ素子の表面に設けられた外側ポンプ電極と、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的ポンプセルである、主ポンプセルと、
前記第2の内部空所に面して設けられてなるとともに、所定の拡散抵抗を与える多孔質保護膜にて被覆されてなり、NOxに対する還元触媒として機能する測定電極と、
前記センサ素子の外部から基準ガスとして大気が導入される大気導入層と、
前記大気導入層に被覆されてなる基準電極と、
前記測定電極と、前記外側ポンプ電極と、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的ポンプセルである、測定ポンプセルと、
を有してなり、
前記内側ポンプ電極が前記2つの単位電極部からなる場合、前記2つの単位電極部は互いに対向して配置され、
前記主ポンプセルは、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に所定の主ポンプ電圧が印加されることによって、前記第1の内部空所に導入された前記被測定ガス中の酸素を汲み出し、これによって前記第1の内部空所における前記被測定ガスの酸素分圧が低められ、
前記測定ポンプセルは、前記測定電極の近傍に到達した前記被測定ガス中のNOxが、前記測定電極において還元されることで生じた酸素を、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に所定のポンプ電圧が印加されることによって汲み出し、
前記測定ポンプセルにおいて前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に流れるNOx電流の大きさに基づいて前記NOxの濃度を特定する濃度特定手段、
をさらに備え、
前記ガス導入口から前記第1の内部空所に至るまでの拡散抵抗が200cm-1以上1000cm-1以下であり、
前記第1の内部空所について、前記センサ素子の長手方向におけるサイズである空所長さをL1、前記センサ素子の厚み方向におけるサイズである空所厚みをt1、前記長手方向と前記厚み方向の双方に直交する幅方向におけるサイズである空所幅をw1とし、前記単位電極部について、前記長手方向におけるサイズである電極長さをL2、前記幅方向におけるサイズである電極幅をw2とするとき、
前記空所長さL1が2.5mm以上10mm以下であり、
前記空所厚みt1が50μm以上300μm以下であり、
前記空所長さに対する前記電極長さの比が0.5以上1.0以下であり、
前記空所幅に対する前記電極幅の比が0.5以上1.0以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記空所長さL1が3.0mm以上3.5mm以下であり、
前記空所厚みt1が100μm以上200μm以下であり、
前記空所長さに対する前記電極長さの比が0.8以上1.0以下であり、
前記空所幅に対する前記電極幅の比が0.9以上1.0以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、
前記1つまたは2つの単位電極部において、
前記厚み方向におけるサイズである電極厚みが5μm以上30μm以下であり、
面積が20mm以下であり、
前記内側ポンプ電極の総面積が10mm以上であり、
かつ、
前記空所厚みに対する前記電極厚みの総和の比が0.06以上0.60以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記センサ素子が、
前記内側ポンプ電極と、前記基準電極と、前記内側ポンプ電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的センサセルである、主ポンプ制御用センサセルと、
前記第2の内部空所に面して設けられた補助ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極と、前記補助ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルと、
前記補助ポンプ電極と、前記基準電極と、前記補助ポンプ電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的センサセルである、補助ポンプ制御用センサセルと、
前記測定電極と、前記基準電極と、前記測定電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的センサセルである、測定ポンプ制御用センサセルと、
をさらに有してなり、
前記主ポンプセルは、前記主ポンプ制御用センサセルにおいて前記内側ポンプ電極と前記基準電極との間に生じる起電力に応じた前記主ポンプ電圧を前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に印加することによって、前記第1の内部空所に存在する前記被測定ガス中の酸素を汲み出し、
前記補助ポンプセルは、前記補助ポンプ制御用センサセルにおいて前記補助ポンプ電極と前記基準電極との間に生じる起電力に応じたポンプ電圧を前記補助ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に印加することによって、前記第2の内部空所に導入された前記被測定ガス中の酸素を汲み出し、これによって酸素分圧が前記第1の内部空所よりもさらに低められた前記被測定ガスが、前記測定電極に到達し、
前記測定ポンプセルは、前記測定ポンプ制御用センサセルにおいて前記測定電極と前記基準電極との間に生じる起電力に応じたポンプ電圧を前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に印加することによって、前記測定電極において生じた酸素を汲み出す、
ことを特徴とするガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物(NOx)の濃度を求めるガスセンサに関するものであり、特に、高NOx濃度範囲における精度の確保に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン伝導性の固体電解質を主たる構成成分とするセンサ素子を用いた、限界電流型のガスセンサ(NOxセンサ)がすでに公知である(例えば、特許文献1参照)。このようなガスセンサにおいて、NOx濃度を求めるにあたってはまず、被測定ガスがセンサ素子の内部に設けた空所(内部空所)に所定の拡散抵抗の下で導入され、係る被測定ガス中の酸素が、例えば主ポンプセルおよび補助ポンプセルなどと称される(特許文献1においては第一および第二の電気化学的ポンプセル)二段階に設けられた電気化学的ポンプセルにて汲み出されて、被測定ガス中の酸素濃度があらかじめ十分に低下させられる。その後、被測定ガス中のNOxが、還元触媒として機能する測定電極(特許文献1においては第三内側ポンプ電極)において還元または分解され、これによって生じる酸素が、測定電極を含む、例えば測定ポンプセルなどと称される(特許文献1においては第三の電気化学的ポンプセル)上記とは別の電気化学的ポンプセルにて汲み出される。そして、係る測定ポンプセルを流れる電流(NOx電流)がNOxの濃度との間に一定の関数関係を有することを利用して、NOxの濃度が求められるようになっている。
【0003】
係るガスセンサ(NOxセンサ)において、主ポンプセルが内部空所から酸素を汲み出す際にNOxが分解されてしまうことを抑制し、NOxの検出精度を高めることを目的として、内部空所に設けられてなり主ポンプセルを構成する内側ポンプ電極の金属成分に、Auが添加されたPt(Au-Pt合金)を用いる態様も、すでに公知である(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3050781号公報
【文献】特開2014-190940号公報
【文献】特開2014-209128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなガスセンサにおいては、測定電極に到達した被測定ガス中のNOxが測定電極の触媒作用により還元されることで生じる酸素の量に基づき、NOxの濃度が求められる。その際、被測定ガス中の酸素は、被測定ガスが測定電極に到達するまでの間に電気化学的ポンプセルによって汲み出されるが、係る酸素の汲み出しは、NOxの分解が生じない範囲で被測定ガスの酸素分圧(酸素濃度)が十分に低められる態様にて行われる。測定電極に到達する前にNOxが分解してしまうと、測定電極に到達するNOxの量が減少し、濃度を精度よく求めることができなくなるためである。
【0006】
しかしながら、内部空所に導入される被測定ガスの酸素濃度が高い場合、酸素の汲み出しの際にNOxの分解が生じてしまう場合がある。この点について、本発明の発明者が鋭意検討したところ、内部空所においては上流側(センサ素子のガス導入口に近い側)ほど被測定ガスにおける酸素濃度が高くなる傾向があることに起因して、内側ポンプ電極の上流側に近い部分ほど、酸素濃度が高い被測定ガスから酸素を汲み出そうとするべく、局所的に高いポンプ電圧が印加されてしまう傾向があり、そのような部分においてNOxの分解が生じているとの知見が得られた。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、被測定ガス中の酸素濃度が高い場合においても精度よくNOxの測定を行うことができるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、酸素イオン伝導性の固体電解質で構成されたセンサ素子を備える、被測定ガス中のNOxの濃度を特定可能な限界電流型のガスセンサであって、前記センサ素子が、外部空間から被測定ガスが導入されるガス導入口と、前記ガス導入口と所定の拡散抵抗のもとで連通してなる第1の内部空所と、前記第1の内部空所と所定の拡散抵抗のもとで連通してなる第2の内部空所と、前記第1の内部空所に面して設けられた1つまたは2つの単位電極部からなる内側ポンプ電極と、前記センサ素子の表面に設けられた外側ポンプ電極と、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的ポンプセルである、主ポンプセルと、前記第2の内部空所に面して設けられてなるとともに、所定の拡散抵抗を与える多孔質保護膜にて被覆されてなり、NOxに対する還元触媒として機能する測定電極と、前記センサ素子の外部から基準ガスとして大気が導入される大気導入層と、前記大気導入層に被覆されてなる基準電極と、前記測定電極と、前記外側ポンプ電極と、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的ポンプセルである、測定ポンプセルと、を有してなり、前記内側ポンプ電極が前記2つの単位電極部からなる場合、前記2つの単位電極部は互いに対向して配置され、前記主ポンプセルは、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に所定の主ポンプ電圧が印加されることによって、前記第1の内部空所に導入された前記被測定ガス中の酸素を汲み出し、これによって前記第1の内部空所における前記被測定ガスの酸素分圧が低められ、前記測定ポンプセルは、前記測定電極の近傍に到達した前記被測定ガス中のNOxが、前記測定電極において還元されることで生じた酸素を、前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に所定のポンプ電圧が印加されることによって汲み出し、前記測定ポンプセルにおいて前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に流れるNOx電流の大きさに基づいて前記NOxの濃度を特定する濃度特定手段、をさらに備え、前記ガス導入口から前記第1の内部空所に至るまでの拡散抵抗が200cm-1以上1000cm-1以下であり、前記第1の内部空所について、前記センサ素子の長手方向におけるサイズである空所長さをL1、前記センサ素子の厚み方向におけるサイズである空所厚みをt1、前記長手方向と前記厚み方向の双方に直交する幅方向におけるサイズである空所幅をw1とし、前記単位電極部について、前記長手方向におけるサイズである電極長さをL2、前記幅方向におけるサイズである電極幅をw2とするとき、前記空所長さL1が2.5mm以上10mm以下であり、前記空所厚みt1が50μm以上300μm以下であり、前記空所長さに対する前記電極長さの比が0.5以上1.0以下であり、前記空所幅に対する前記電極幅の比が0.5以上1.0以下である、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサであって、前記空所長さL1が3.0mm以上3.5mm以下であり、前記空所厚みt1が100μm以上200μm以下であり、前記空所長さに対する前記電極長さの比が0.8以上1.0以下であり、前記空所幅に対する前記電極幅の比が0.9以上1.0以下である、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るガスセンサであって、前記1つまたは2つの単位電極部において、前記厚み方向におけるサイズである電極厚みが5μm以上30μm以下であり、面積が20mm以下であり、前記内側ポンプ電極の総面積が10mm以上であり、かつ、前記空所厚みに対する前記電極厚みの総和の比が0.06以上0.60以下である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記センサ素子が、前記内側ポンプ電極と、前記基準電極と、前記内側ポンプ電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的センサセルである、主ポンプ制御用センサセルと、前記第2の内部空所に面して設けられた補助ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極と、前記補助ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルと、前記補助ポンプ電極と、前記基準電極と、前記補助ポンプ電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的センサセルである、補助ポンプ制御用センサセルと、前記測定電極と、前記基準電極と、前記測定電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成される電気化学的センサセルである、測定ポンプ制御用センサセルと、をさらに有してなり、前記主ポンプセルは、前記主ポンプ制御用センサセルにおいて前記内側ポンプ電極と前記基準電極との間に生じる起電力に応じた前記主ポンプ電圧を前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に印加することによって、前記第1の内部空所に存在する前記被測定ガス中の酸素を汲み出し、前記補助ポンプセルは、前記補助ポンプ制御用センサセルにおいて前記補助ポンプ電極と前記基準電極との間に生じる起電力に応じたポンプ電圧を前記補助ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との間に印加することによって、前記第2の内部空所に導入された前記被測定ガス中の酸素を汲み出し、これによって酸素分圧が前記第1の内部空所よりもさらに低められた前記被測定ガスが、前記測定電極に到達し、前記測定ポンプセルは、前記測定ポンプ制御用センサセルにおいて前記測定電極と前記基準電極との間に生じる起電力に応じたポンプ電圧を前記測定電極と前記外側ポンプ電極との間に印加することによって、前記測定電極において生じた酸素を汲み出す、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1ないし第4の態様によれば、酸素濃度が高い被測定ガスが第1の内部空所に導入されたとしても、NOxの測定精度の確保が可能な範囲で、第1の内部空所からの酸素の汲み出しが行われるとともに第1内部空所におけるNOxの分解が抑制されてなり、それゆえ、係る導入がNOxの測定精度に及ぼす影響が小さいガスセンサが、実現される。
【0013】
特に、第2の態様によれば、たとえ酸素濃度が高い被測定ガスが第1の内部空所に導入されたとしても、第1の内部空所の酸素分圧は設定された値にほぼ保たれ、かつ、第1内部空所においてNOxの分解は生じず、それゆえにNOxの測定精度の劣化がほとんど生じないガスセンサが、実現される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】センサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】第1内部空所20およびその上下面に設けられてなる内側ポンプ電極22のサイズについて説明するための図である。
図3】センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ガスセンサの概略構成>
初めに、本実施の形態に係るセンサ素子101を含む、ガスセンサ100の概略構成について説明する。本実施の形態において、ガスセンサ100は、センサ素子101によってNOxを検知し、その濃度を測定する、限界電流型のNOxセンサである。
【0016】
図1は、センサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含む、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。
【0017】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(ZrO)からなる(例えばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)などからなる)、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの固体電解質層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する、平板状の(長尺板状の)素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。なお、以降においては、図1におけるこれら6つの層のそれぞれの上側の面を単に上面、下側の面を単に下面と称することがある。また、センサ素子101のうち固体電解質からなる部分全体を基体部と総称する。
【0018】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0019】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0020】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0021】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
【0022】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0023】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0024】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0025】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0026】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0027】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0028】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0029】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0030】
なお、本実施の形態に係るガスセンサ100のセンサ素子101においては、ガス導入口10から第1内部空所20に至るまでの間における拡散抵抗(以下、空所前拡散抵抗)が200cm-1~1000cm-1なる範囲内の値となるように構成されてなる。これは、第1拡散律速部11の拡散抵抗と第2拡散律速部13の拡散抵抗と適宜に組み合わせることで実現されてなる。なお、第1内部空所20におけるセンサ素子101の長手方向(以下、素子長手方向)に垂直な断面の面積は、第2拡散律速部13の断面の面積よりも大きいため、第2拡散律速部13を通過して第1内部空所20に流入する被測定ガスに対して第1内部空所20が拡散律速部として作用することはないので、空所前拡散抵抗は、ガス導入口10から内側ポンプ電極22に至るまでの拡散抵抗と実質的に等価である。
【0031】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0032】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面および当該面に対向する第1固体電解質層4の上面に設けられた内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面(センサ素子101の一方主面)の内側ポンプ電極22と対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0033】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)に形成された2つの単位電極部からなる。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成されてなる。これら天井電極部22aと底部電極部22bとは、それぞれから延在し、かつ、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に沿って設けられる幅細の導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0034】
天井電極部22aおよび底部電極部22bは、平面視矩形状に設けられてなる。ただし、天井電極部22aのみ、あるいは、底部電極部22bのみが設けられる態様であってもよい。
【0035】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極として形成される。特に、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。例えば、5%~40%の気孔率を有し、Auを0.6wt~1.4wt%程度含むAu-Pt合金とZrOとのサーメット電極として、5μm~20μmの厚みに形成される。Au-Pt合金とZrOとの重量比率は、Pt:ZrO=7.0:3.0~5.0:5.0程度であればよい。
【0036】
一方、外側ポンプ電極23は、例えばPtあるいはその合金とZrOとのサーメット電極として、平面視矩形状に形成される。
【0037】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。なお、主ポンプセル21において内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に印加されるポンプ電圧Vp0を、主ポンプ電圧Vp0とも称する。
【0038】
なお、センサ素子101においては、酸素濃度が高い被測定ガスが内部に導入される状況においても、NOx濃度の測定精度が確保されるように、第1内部空所20および内側ポンプ電極22のサイズが定められてなる。その詳細については後述する。
【0039】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0040】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0041】
さらに、起電力V0が一定となるように主ポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0042】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0043】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定ポンプセル41が動作することによりなされる。
【0044】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0045】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0046】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様の形態にて、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成されてなり、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成されてなる。これら天井電極部51aと底部電極部51bは、平面視矩形状をなしているとともに、第2内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0047】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0048】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0049】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0050】
この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0051】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0052】
測定ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0053】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。例えばPtあるいはその合金とZrOとのサーメット電極として形成される。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0054】
第4拡散律速部45は、アルミナ(Al)を主成分とする多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。
【0055】
測定ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0056】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0057】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中のNOxは還元されて(2NO→N+O)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中のNOxの濃度に比例するものであるから、測定ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中のNOx濃度が算出されることとなる。以降、係るポンプ電流Ip2のことを、NOx電流Ip2とも称する。
【0058】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0059】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0060】
センサ素子101は、さらに、基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。
【0061】
ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72aと、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74とを主として備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71を除いて、センサ素子101の基体部に埋設されてなる。
【0062】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(センサ素子101の他方主面)に接する態様にて形成されてなる電極である。
【0063】
ヒータエレメント72は、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、センサ素子101の外部から通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されることより発熱する。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、センサ素子101のガス流通部が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向においてガス流通部と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、10μm~20μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0064】
センサ素子101においては、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、センサ素子101の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、センサ素子101は、ガス流通部付近の固体電解質および電極の温度が700℃~900℃程度になるように加熱される。係る加熱によって、センサ素子101において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサ100が使用される際の(センサ素子101が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、センサ素子駆動温度と称する。
【0065】
また、ガスセンサ100は、各部の動作を制御するとともに、NOx電流Ip2に基づいてNOx濃度を特定するコントローラ110をさらに備える。
【0066】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21さらには補助ポンプセル50を作動させることによって被測定ガスに含まれる酸素を汲み出し、酸素分圧がNOxの測定に実質的に影響がない程度(例えば0.0001ppm~1ppm)にまで十分に低められた被測定ガスが、測定電極44に到達する。測定電極44においては、到達した被測定ガス中のNOxが還元されることによって、酸素が発生する。係る酸素は、測定ポンプセル41より汲み出されるが、係る汲み出しの際に流れるNOx電流Ip2は、被測定ガス中のNOxの濃度と一定の関数関係(以下、感度特性と称する)を有する。
【0067】
係る感度特性は、ガスセンサ100を実使用するに先立ってあらかじめ、NOx濃度が既知の複数種類のモデルガスを用いて特定され、そのデータがコントローラ110に記憶される。そして、ガスセンサ100の実使用時には、被測定ガスにおけるNOx濃度に応じて流れるNOx電流Ip2の値を表す信号がコントローラ110に時々刻々と与えられ、コントローラ110においては、その値と特定した感度特性とに基づいて、NOx濃度が次々と演算され出力される。これにより、ガスセンサ100によれば、被測定ガス中のNOx濃度をほぼリアルタイムで知ることができるようになっている。
【0068】
なお、感度特性は、原理的にはNOx濃度とNOx電流Ip2との間に完全な比例関係を有するはずのものであるが、実際にガスセンサ100を使用する際には、測定ポンプセル41に到達する被測定ガスには微量ながら主ポンプセル21および補助ポンプセル50において汲み出されなかった酸素が存在しうる。それゆえ、被測定ガス中にNOxが含まれていない場合であっても、NOx電流Ip2は完全には0にはならない。この場合のNOx電流Ip2をオフセット電流と称する。通常、ガスセンサ100においては、係るオフセット電流の存在を考慮して感度特性を特定するが、測定精度の確保という観点からは、オフセット電流は小さい方が好ましく、変動することは好ましくない。
【0069】
<高酸素濃度の被測定ガスの導入が及ぼす影響の低減>
本実施の形態に係るガスセンサ100のセンサ素子101は、概略、上述のような構成を有するが、より詳細には、酸素濃度が高い被測定ガスが継続的に内部に導入される場合においても第1内部空所20におけるNOxの分解を抑制し、測定精度を確保する、という観点から、いくつかの構成上の要件をみたして構成されてなる。なお、特に断らない限り、以下の説明においては、内側ポンプ電極22は天井電極部22aと底部電極部22bの双方を同じ形状にて平面視同一の位置に備わるものとする。また、NOxの分解に関して導通部の寄与は無視できることから、以下の説明において、内側ポンプ電極22とは導通部を除く部分を指し示すものとする。
【0070】
まず前提として、センサ素子101は、外部から第1内部空所20に導入される被測定ガスの流量を適宜なものとするべく、上述のように、空所前拡散抵抗が200cm-1~1000cm-1なる範囲をみたすように、構成されてなる。
【0071】
係る空所前拡散抵抗が200cm-1より小さい場合、酸素を含んだ被測定ガスが第1内部空所20に導入される際の流量が大きいために、第1内部空所20において酸素の絶対量が多くなる。それゆえ、係る酸素を汲み出す必要から、主ポンプ電圧Vp0およびポンプ電流Ip0が必然的に大きくなる。係る場合、被測定ガスに含まれてなり、本来であれば第2内部空所40内の測定電極44近傍に到達すべきNOxが、主ポンプセル21によるポンピングによって第1内部空所20内で分解しやすくなる。加えて、被測定ガスの流量が過度に大きい場合、酸素の汲み出しが十分になされないままに被測定ガスが第2内部空所40へと流出してしまう可能性もある。これは、オフセット電流の増大につながる可能性がある。これらはいずれも、ガスセンサ100におけるNOxの検出精度が低下してしまうことにつながるため、好ましくない。
【0072】
一方、空所前拡散抵抗が1000cm-1より大きい場合、第1内部空所20に導入される被測定ガスの流量が小さいために、測定電極44近傍に到達するNOxの絶対量が小さくなる。係る場合、NOxを精度良く検出できなくなったり、応答性が低下したりするため、好ましくない。
【0073】
第1内部空所20に導入される被測定ガスの流量が適切である場合、第1内部空所20からの酸素の汲み出しの良否は、第1内部空所20のサイズと主ポンプセル21の能力とのバランスに左右される。ここで、主ポンプセル21の能力は、第1内部空所20に面して設けられる内側ポンプ電極22のサイズによるところが大きいので、第1内部空所20からの酸素の汲み出しの良否は主として、第1内部空所20のサイズと、当該サイズと内側ポンプ電極22のサイズとの比率に左右される。
【0074】
図2は、第1内部空所20およびその上下面に設けられてなる内側ポンプ電極22のサイズについて説明するための図である。図2においては、図面視左右方向が素子長手方向であり、厚み方向に垂直な面における寸法図を上側に示し、幅方向に垂直な面における寸法図を下側に示している。
【0075】
本実施の形態に係るガスセンサ100においては、これらのサイズの関係が好適なものとなるように、センサ素子101が構成されてなる。具体的にはまず、図2に示すように第1内部空所20の素子長手方向におけるサイズである空所長さをL1、センサ素子100の厚み方向(固体電解質層の積層方向)におけるサイズである空所厚みをt1、素子長手方向と厚み方向の双方に直交する幅方向についてのサイズである空所幅をw1とするときに、第1内部空所20が、下記の要件(a)~(b)を充足するように、構成されてなる。
【0076】
(a)空所長さL1:2.5mm以上(10mm以下)
(b)空所厚みt1:50μm以上300μm以下
要件(a)および(b)は、上流側(具体的には第2拡散律速部13)から下流側(具体的には第3拡散律速部30)へと向かう被測定ガスの流れに影響する、第1内部空所20のサイズに関する要件である。
【0077】
空所長さL1が2.5mm未満の場合、第1内部空所20の上流側と下流側との間隔が小さいために、たとえ内側ポンプ電極22を最大限に設けたとしても主ポンプセル21のポンピング能力は十分なものとはならないことから、上流側から酸素濃度の高い被測定ガスが継続的に流入すると主ポンプ電圧Vp0の印加による第1内部空所20からの酸素の汲み出しが十分になされないままの被測定ガスが第1内部空所20内に滞留していくことになる。より詳細には、第1内部空所20においては被測定ガスが流入する上流側ほど酸素濃度が高くなるため、内側ポンプ電極22において上流側近傍ほど主ポンプ電圧Vp0が増大しやすくなって、当該個所において局所的なNOxの分解が引き起こされる、という可能性が高い。
【0078】
また、係る滞留が進むとともに、第3拡散律速部30を通じて下流側への流出も生じることになる。換言すれば、設定されている酸素分圧にまで酸素が汲み出されることなく、被測定ガスが下流側へと流出していくことになる。これは、オフセット電流の増大につながるため、好ましくない。
【0079】
当然ながら、これらの傾向は、内側ポンプ電極22のサイズが小さいほど顕著となる。
【0080】
一方、空所長さL1が過度に大きいことは、被測定ガスの酸素濃度が高いことへの対処という点に関し特段の不具合をもたらすものではないが、10mmを超えることは、センサ素子101が長尺化することになるためコスト面で不利であるという点や、応答時間を増大させるという点から、好ましくない。
【0081】
また、空所厚みt1が50μm未満の場合、天井電極部22aと底部電極部22bとが近接し、被測定ガスが流通する部分の間隙が小さくなることから、酸素のポンピングは内側ポンプ電極22のうち上流側近傍において優先的になされる。上流側から被測定ガスが流入し始める時点では顕著な不具合は生じ難いが、被測定ガスの導入が継続し、かつ、その酸素濃度が高い場合、第1内部空所20内の酸素濃度は上流側から次第に増大するので、上流側近傍ほど、局所的に主ポンプ電圧Vp0が増大し、NOxの分解が引き起こされることが、起こりやすくなる。また、係る分解が顕著となることで酸素の汲み出しが十分になされないままに被測定ガスが第1内部空所20に滞留し、やがては下流側から流出していくことで、オフセット電流が増大する可能性もある。これらはいずれも好ましくない。なお、空所厚みt1を小さくするほど、被測定ガスの流れる間隙を確保するために内側ポンプ電極22を薄くする必要があるが、これにも限界があることから、空所厚みt1を過度に小さくすることは、この点からも好ましくない。
【0082】
一方、空所厚みt1が300μmを超える場合、天井電極部22aと底部電極部22bとが離隔することになるため、第1内部空所20内に導入される被測定ガスのうち内側ポンプ電極22と接触するものは相対的に少ない。従って、主ポンプセル21による酸素の汲み出しは進みにくく、被測定ガスのほとんどは、内側ポンプ電極22と接触して酸素ポンピングの対象とされることなく滞留し、その後下流側から流出していく。その結果、オフセット電流が増大することになるため、好ましくない。
【0083】
なお、空所幅w1については、直接的には上流側(具体的には第2拡散律速部13)から下流側(具体的には第3拡散律速部30)に至る向きと直交する方向についてのサイズである。しかも、第1内部空所20において被測定ガスの酸素濃度の増大を抑制するという観点からは、後述するように、当該空所幅w1の値に見合う態様にて電極が設けられることの方が重要と思料される。センサ素子101の作製の事情や、他の部分とのサイズとの兼ね合いや、コスト面などを鑑みて設定されればよい。例えば、1.5mm以上3.5mm以下なる範囲が例示される。
【0084】
以上の要件(a)および(b)に加え、センサ素子101は、図2に示すように内側ポンプ電極22の天井電極部22aおよび底部電極部22bのそれぞれの素子長手方向におけるサイズである電極長さをL2、厚み方向におけるサイズである電極厚みをt2、幅方向におけるサイズである電極幅をw2としたとき、第1内部空所20のサイズと、内側ポンプ電極22を構成する天井電極部22aおよび底部電極部22bのサイズとが、下記の要件(c)~(d)を充足するように、構成されてなる。
【0085】
(c)空所長さL1に対する電極長さL2の比(長さ比)L2/L1:0.5以上(1.0以下)
(d)空所幅w1に対する電極幅w2の比(幅比)w2/w1:0.5以上(1.0以下)
要件(c)および(d)は、主ポンプセル21のポンピング能力に関わる要件である。なお、以降においては、天井電極部22aおよび底部電極部22bのそれぞれの長さL2、幅w2、および厚みt2について、単に、内側ポンプ電極22の単位電極部の長さL2、幅w2、厚みt2と称することがある。
【0086】
長さ比L2/L1の値が0.5未満の場合、および、幅比w2/w1の値が0.5未満の場合はともに、第1内部空所20のサイズに比して、主ポンプセル21のポンピング能力が十分ではないため、流入する被測定ガスの酸素濃度が高い場合、第1内部空所20内の酸素濃度は上流側から次第に増大し、上流側近傍ほど、局所的に主ポンプ電圧Vp0が増大し、NOxの分解が引き起こされることが、起こりやすくなる。さらには、酸素の汲み出しが十分になされないままの被測定ガスが下流側から流出していくことで、オフセット電流が増大することも起こりやすい。これらはいずれも好ましくない。
【0087】
なお、長さ比L2/L1および幅比w2/w1の上限がともに1.0であることは、それぞれの定義から自明である。換言すれば、長さ比L2/L1の値が1.0となるのは、空所長さL1の全体にわたって内側ポンプ電極22が形成される場合であり、幅比w2/w1の値が1.0となるのは、空所幅w1の全体にわたって内側ポンプ電極22が形成される場合である。
【0088】
また、内側ポンプ電極22の天井電極部22aおよび底部電極部22bについては、要件(c)および(d)をみたしつつ、厚みt2が5μm以上30μm以下に、好ましくは10μm以上20μm以下であるように、かつ、平面視した際の面積(平面面積)S2=L2w2が、5mm以上20mm以下であるように設けられる。
【0089】
厚みt2の下限値が5μmであるのは、内側ポンプ電極22の形成に際して、厚みを5μm未満の所定値に制御することが難しいためである。
【0090】
また、厚みt2が30μmより大きい場合、および、面積S2が20mmより大きい場合、内側ポンプ電極22におけるNOxの反応性が高まり、NOxの分解が生じやすくなるため好ましくない。
【0091】
また、面積S2が5mm未満である場合、主ポンプセル21におけるインピーダンスが増大し、ポンプ電流Ip0の値が小さくなりすぎることや、ポンピング能力が十分でないために主ポンプ電圧Vp0が容易に増大してNOxの分解が生じやすくなることにより、好ましくない。
【0092】
なお、内側ポンプ電極22の単位電極部の厚みt2は、第1内部空所20の厚みt1に応じて定められればよい。具体的には、上述した要件(b)のもと、第1内部空所の厚みt1に対する内側ポンプ電極22の厚みt2の総和(天井電極部22aと底部電極部22bの厚みの和)t2allの比t2all/t1が、0.06以上0.60以下であればよい。
【0093】
本実施の形態に係るガスセンサ100においては、センサ素子101が上述した要件(a)~(d)を充足することで、被測定ガス中の酸素濃度が高い場合においても第1内部空所20からの酸素の汲み出しが好適に行われるとともに第1内部空所20におけるNOxの分解が抑制され、測定精度が確保されるようになっている。
【0094】
なお、電極長さL2および電極幅w2がそれぞれに空所長さL1および空所幅w1より小さい場合の天井電極部22aおよび底部電極部22bの第1内部空所20内における配置位置については、特に限定はない。例えば、平面視した際の第1内部空所20の重心位置と天井電極部22aおよび底部電極部22bの重心位置とが一致する態様であってもよいし、そうではない態様であってもよい。後者の場合、素子長手方向において上流側に偏在させて配置される態様や、下流側に偏在させて配置される態様などが考えられる。素子幅方向に関しては、天井電極部22aおよび底部電極部22bの配置は対称であることが好ましいが、必須ではない。
【0095】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子101を製造するプロセスについて説明する。本実施の形態においては、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによってセンサ素子101を作製する。
【0096】
以下においては、図1に示した6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合を例として説明する。係る場合、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6とに対応する6枚のグリーンシートが用意されることになる。図3は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。
【0097】
センサ素子101を作製する場合、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を用意する(ステップS1)。6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合であれば、各層に対応させて6枚のブランクシートが用意される。特に、スペーサ層5となるグリーンシートについては、最終的に要件(b)が充足される厚みのものが用いられる。
【0098】
ブランクシートは、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。係る貫通部の形成は、最終的に得られるセンサ素子101において要件(a)が充足される態様にてなされる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
【0099】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各種電極のパターンや、第4拡散律速部45のパターンや、ヒータエレメント72やヒータ絶縁層74などのパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。また、係るパターン印刷のタイミングで、第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、および第3拡散律速部30を形成するための昇華性材料の塗布あるいは配置も併せてなされる。係る塗布あるい配置は、最終的に得られるセンサ素子101において、上述したように空所前拡散抵抗が200cm-1~1000cm-1なる範囲をみたす態様にてなされる。
【0100】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0101】
特に、内側ポンプ電極22を形成するためのペーストは、最終的に得られる内側ポンプ電極22が少なくとも要件(c)~(d)を充足するように、調製され塗布される。
【0102】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0103】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0104】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。
【0105】
切り出された素子体を、1300℃~1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS6)。これにより、センサ素子101が作製される。すなわち、センサ素子101は、固体電解質層と電極との一体焼成によって生成されるものである。その際の焼成温度は、1200℃以上1500℃以下(例えば1400℃)が好適である。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、センサ素子101においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0106】
このようにして得られたセンサ素子101は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0107】
<変形例>
上述したように、内側ポンプ電極22として天井電極部22aまたは底部電極部22bの一方のみが設けられる態様であってもよいが、係る場合、その厚みt2については、両方が設けられる場合と同じく5μm以上30μm以下であればよい。ただし、厚み比t2all/t1については、片方の単位電極部のみで両方が設けられる場合と同様に0.06以上0.60以下なる範囲をみたす必要がある。これを敷衍すれば、天井電極部22aと底部電極部22bが両方設けられる場合も含め、空所厚みに対する内側ポンプ電極22の厚みの総和の比t2all/t1が0.06以上0.60以下なる範囲をみたせばよいことになる。
【0108】
一方、面積S2の取り得る範囲に関していえば、両方が設けられる場合の要件を鑑みると、上限値は、両方が設けられる場合と同様20mmであればよいが、下限値については、主ポンプセル21におけるインピーダンスの関係から、両方が設けられる場合の下限値の総和である10mmとなる。
【0109】
また、天井電極部22aと底部電極部22bの両者の厚みt2および面積S2は同一である必要はない。
【実施例
【0110】
(ガスセンサの作製)
空所前拡散抵抗と、第1内部空所20の空所長さL1および空所厚みt1と、第1内部空所20と内側ポンプ電極22とについての長さ比L2/L1および幅比w2/w1との組み合わせが異なる全16種類のガスセンサ100(No.1~No.16)を作製した。
【0111】
具体的には、空所前拡散抵抗、空所長さL1、空所厚みt1、長さ比L2/L1、および、幅比w2/w1について、以下のように違えた。
【0112】
空所前拡散抵抗:150cm-1、200cm-1、300cm-1、400cm-1、500cm-1、600cm-1、700cm-1、800cm-1、および1000cm-1の9水準;
空所長さL1:2.0mm、2.5mm、3.0mm、3.5mm、7.0mm、および8.0mmの6水準;
空所厚みt1:40μm、50μm、80μm、100μm、120μm、150μm、200μm、300μm、および350μmの9水準;
長さ比L2/L1:0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、および1.0の7水準;
幅比W2/w1:0.40、0.50、0.60、0.75、0.80、0.85、0.90、および0.95の8水準。
【0113】
そして、No.1~No.10のガスセンサは、要件(a)~(d)を全て充足するものであり、No.11~No.16のガスセンサは、要件(a)~(d)の少なくとも1を充足しないものである。
【0114】
なお、空所幅w1は1.5mm~3.5mmなる範囲に収まるようにした。また、電極の厚みの総和t2allを10μm~60μmなる範囲内で違えることで、比t2all/t1は0.06~0.60なる範囲に収まるようにした。
【0115】
上記以外の構成要素の形成態様は、全てのガスセンサ100において同じとした。
【0116】
(判定1)
上述のように作製したそれぞれのガスセンサ100により、酸素濃度が18%であり残余がNである試験用ガスを被測定ガスとする測定を行い、オフセット電流の値を算出し、その値の大小から、主ポンプセル21による第1内部空所20からの汲み出しの良否を判定した。センサ素子駆動温度は830℃とした。
【0117】
オフセット電流は、被測定ガス中にNOxが含まれない場合において測定ポンプセル41を流れるポンプ電流(NOx電流)Ip2であり、理想値であるゼロに近いほど好ましい。しかしながら、第1内部空所20において主ポンプセル21による酸素ポンピングが良好に行われない場合、酸素が十分に汲み出されることなく(設定されている分圧が達成されることなく)被測定ガスが第1内部空所20から下流側へと流出し、結果的にオフセット電流の値が大きくなることから、オフセット電流の値は、第1内部空所20からの酸素の流出の程度を示す指標として、換言すれば、主ポンプセル21による第1内部空所20からの酸素の汲み出しの良否の指標として、捉えることが出来る。
【0118】
しかも、試験用ガスにおける18%という酸素濃度は、ガスセンサ100について主に想定される使用局面である、エンジンの排気管内における酸素濃度に鑑みて比較的大きな値である。それゆえ、判定1は、被測定ガスにおける酸素濃度が高い状況における第1内部空所20からの酸素の汲み出しを、対象とするものとなっている。
【0119】
本実施例では、測定により得られたオフセット電流の値を、0.1μA以下、0.1μA超0.3μA以下、0.3μA超、という3つの水準からなる判定指標に当てはめることで、第1内部空所20からの酸素の汲み出しに関する良否を判定した。
【0120】
具体的には、オフセット電流が0.1μA以下のガスセンサ100については、第1内部空所20における酸素分圧があらかじめ設定されている値となるように、主ポンプセル21による第1内部空所20からの酸素の汲み出しが行われているものと判定した。
【0121】
また、オフセット電流が0.1μA超0.3μA以下のガスセンサ100については、上記の場合に比して第1内部空所20からの酸素の流出は多少多くなるものの、NOxの測定精度に与える影響はわずかであり、測定は可能と判定した。
【0122】
一方で、オフセット電流が0.3μA超のガスセンサ100については、測定精度に影響を及ぼす程度に第1内部空所20から下流側に対し酸素が流出しているため、好ましくないと判定した。
【0123】
(判定2)
上述のように作製したそれぞれのガスセンサ100により、NOx濃度が500ppmであり残余はNである試験用ガスを被測定ガスとする測定(第1の測定)と、酸素濃度が18%であり、NOx濃度が500ppmであり、残余はNである試験用ガスを被測定ガスとする測定(第2の測定)とを行った。センサ素子駆動温度は830℃とした。そして、第1の測定におけるNOx電流Ip2の値に対する、第2の測定におけるNOx電流Ip2の値の減少率(以下、Ip2減少率)に基づき、第1内部空所20におけるNOxの分解の有無の程度を判定した。
【0124】
Ip2減少率が小さいということは、酸素濃度が高い被測定ガスが第1内部空所20に導入されたとしても、NOxの測定精度に与える影響が小さいということを意味している。それゆえ、Ip2減少率は、第1内部空所20に酸素濃度が高い被測定ガスが導入されることによる主ポンプ電圧Vp0の増大に起因して生じる、第1内部空所20におけるNOxの分解と相関を有する指標として、捉えることが出来る。
【0125】
本実施例では、算出されたIp2減少率の値を、15%以下、15%超20%以下、20%超、という3つの水準からなる判定指標に当てはめることで、第1内部空所20におけるNOxの分解に関する良否を判定した。
【0126】
具体的には、Ip2減少率が15%以下のガスセンサ100については、第1内部空所20におけるNOxの分解は好適に抑制されているものと判定した。
【0127】
また、Ip2減少率が15%超20%以下のガスセンサ100については、第1内部空所20におけるNOxの分解は多少は生じているものの、測定精度に与える影響は小さいものと判定した。
【0128】
一方で、Ip2減少率が20%超のガスセンサ100については、第1内部空所20におけるNOxの分解が測定精度に影響を及ぼすほどであるため、好ましくないと判定した。
【0129】
なお、15%あるいは20%というIp2減少率の閾値は、一見すると高い値のようでもある。しかしながら、上述のように試験用ガスにおいては18%という酸素濃度が比較的大きな値であることを鑑みると、当該閾値の設定は妥当である。
【0130】
(結果)
各々のガスセンサ100についての空所前拡散抵抗、空所長さL1、空所厚みt1、長さ比L2/L1、および、幅比w2/w1の値と、判定1および判定2の結果とを、表1に示す。なお、表1には、空室幅w1と電極の厚みの総和t2allについても併せて示す。また、表1においては、判定1において測定されたオフセット電流の値が、0.1μA以下、0.1μA超0.3μA以下、0.3μA超の場合につきそれぞれ、「◎」(二重丸)印、「〇」(丸)印、「×」(バツ)印を付している。また、判定2において算出されたIp2減少率の値が、15%以下、15%超20%以下、20%超の場合につきそれぞれ、「◎」(二重丸)印、「〇」(丸)印、「×」(バツ)印を付している。
【0131】
【表1】
【0132】
表1においては、要件(a)~(d)を全て充足するNo.1~No.10のガスセンサ100についてのみ、判定1および判定2の双方で「◎」印または「〇」印が付されている。これは、これらのガスセンサ100においてのみ、それぞれにNOx濃度の測定精度に影響を及ぼすような、第1内部空所20から下流側に向けての酸素の流出、および、第1内部空所20におけるNOxの分解のいずれについても、生じなかったことを意味する。これに対し、要件(a)~(d)の少なくとも1つを充足しないNo.11~No.16のガスセンサにおいては、判定1と判定2の少なくとも一方において「×」印が付されている。
【0133】
以上の結果は、要件(a)~(d)を充足することで、酸素濃度が高い被測定ガスが第1内部空所20に導入されたとしても、係る導入がNOxの測定精度に及ぼす影響が小さいガスセンサ100が実現されることを、示している。具体的には、酸素濃度が高い被測定ガスが第1内部空所20に導入されたとしても、少なくともNOxの測定精度の確保が可能な範囲では第1内部空所20からの酸素の汲み出しが行われるとともに第1内部空所20におけるNOxの分解が抑制されてなる、ガスセンサ100が実現されることを、示している。
【0134】
また、特にNo.2~No.4のガスセンサ100については、判定1および判定2の双方で「◎」印が付されている。これは、要件(a)~(d)をみたしさらに以下の要件(a')~(d')をみたすガスセンサ100においては、たとえ酸素濃度が高い被測定ガスが第1内部空所20に導入されたとしても、主ポンプセル21による酸素の汲み出しによって第1内部空所20の酸素分圧は設定された値にほぼ保たれ、かつ、第1内部空所20においてNOxの分解は生じずそれゆえにNOxの測定精度の劣化がほとんど生じないことを、示している。
【0135】
(a')空所長さL1:3.0mm以上3.5mm以下
(b')空所厚みt1:100μm以上200μm以下
(c')長さ比L2/L1:0.8以上(1.0以下)
(d')幅比w2/w1:0.90以上(1.0以下)
【符号の説明】
【0136】
1~3 第1~3基板層
4 第1固体電解質層
5 スペーサ層
6 第2固体電解質層
10 ガス導入口
11 第1拡散律速部
12 緩衝空間
13 第2拡散律速部
20 第1内部空所
21 主ポンプセル
22 内側ポンプ電極
22a 天井電極部
22b 底部電極部
23 外側ポンプ電極
24、46、52 可変電源
30 第3拡散律速部
40 第2内部空所
41 測定ポンプセル
42 基準電極
43 基準ガス導入空間
44 測定電極
45 第4拡散律速部
48 大気導入層
50 補助ポンプセル
51 補助ポンプ電極
51a 天井電極部
51b 底部電極部
70 ヒータ部
80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
82 測定ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
100 ガスセンサ
101 センサ素子
110 コントローラ
図1
図2
図3