(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220616BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20220616BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/41 325H
G01N27/419 327H
G01N27/419 327B
(21)【出願番号】P 2018161871
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】村上 美佳
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-187482(JP,A)
【文献】特開2007-139749(JP,A)
【文献】特開2000-028576(JP,A)
【文献】特開2009-236834(JP,A)
【文献】特開2011-038958(JP,A)
【文献】特開2011-158390(JP,A)
【文献】特開昭64-020440(JP,A)
【文献】特開2013-104706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/41
G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに備わるセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質からなり、一方端部にガス導入口を備える長尺板状のセラミックス体と、
前記セラミックス体の内部に備わり、前記ガス導入口と所定の拡散抵抗の下で連通する少なくとも1つの内部空室と、
前記セラミックス体の外面に形成された外側ポンプ電極と、前記少なくとも1つの内部空室に面して設けられた内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極と前
記内側ポンプ電極の間に存在する固体電解質からなり、前記少なくとも1つの内部空室と外部との間で酸素の汲み入れおよび汲み出しを行う、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、
前記セラミックス体の前記一方端部側の所定範囲に埋設されてなるヒータと、
を有する素子基体と、
前記素子基体の前記一方端部側の所定範囲において先端面と4つの側面とを被覆する、多孔質の先端保護層と、
を備え、
前記ガス導入口が
、
基部と、
前記基部よりも前記セラミックス体の先端側に
位置し、前記センサ素子の厚み方向において前記基部よりも拡幅されてなる拡幅部
と、
を有しており、
前記先端保護層が、前記拡幅部に延在する延在部を有し、前記延在部が、前記拡幅部の内壁面と固着してなる、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ素子であって、
前記セラミックス体の先端面から前記ガス導入口の最奥部までの距離をL0とし、前記センサ素子の長手方向における、前記先端面からの前記拡幅部の形成範囲をL1とするとき、
100μm≦L0≦500μm、
かつ、
0.1≦L1/L0≦0.8
である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセンサ素子であって、
前記拡幅部の全体が前記延在部によって埋設されてなる、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記拡幅部の体積が0.01mm
3~0.07mm
3である、
ことを特徴とするセンサ素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記素子基体の前記4つの側面の外側に、前記先端保護層よりも気孔率が大きい多孔質からなる緩衝層、
をさらに備え、
前記緩衝層のさらに外側に前記先端保護層が形成されてなる、
ことを特徴とするセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに関し、特に、ガスセンサに備わるセンサ素子の先端部の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被測定ガス中の所望ガス成分の濃度を知るためのガスセンサとして、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなり、表面や内部にいくつかの電極を備えるセンサ素子を有するものが、広く知られている。係るセンサ素子として、被測定ガスを導入するガス導入口が備わる側の端部に、多孔質体からなる保護層(多孔質保護層)が設けられるものが公知である(例えば、特許文献1ないし特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-64605号公報
【文献】特許第5533767号公報
【文献】特許第4583187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したガスセンサは主として、エンジンなどの内燃機関の排気管に取り付けられ、該内燃機関からの排ガスに含まれる所定ガス成分の検知や、さらには当該ガス成分の濃度測定に用いられる。ガスセンサがこうした用途で使用される場合、センサ素子は、内燃機関使用時の昇温と停止時の冷却の繰り返しによる熱衝撃を頻繁に受けることになる。ガスセンサを長期的に安定して動作させるためには、多孔質保護層を、そのような繰り返しの熱衝撃を受けたとしても剥離さらには脱離が生じないように、設ける必要がある。
【0005】
ガスセンサを長期的に使用する途中で、このような剥離さらには脱離が生じた場合、製品設計時の想定を超えて被測定ガスの導入経路が増大し、被測定ガスに作用する拡散抵抗が小さくなってしまい、結果としてセンサ素子からの出力が所定値よりも増大してしまうことになり、好ましくない。
【0006】
この点に関し、特許文献1には、センサ素子の側面を無機繊維シートで覆い、その上から保護層を設けることで、保護層が熱衝撃等により剥がれることを防止する態様が、開示されている。
【0007】
特許文献2には、被測定ガスに晒される部分に多孔質保護層を設けたガスセンサ素子において、多孔質保護層の上端面とセンサ素体の表面との接触角を80°以下とし、かつ、センサ素体の平面方向において多孔質保護層の上端面を上に向かって凸となる略円弧状または略放物線状に滑らかに湾曲させるようにすることで、ガスセンサ素子が衝撃や振動を受けたときの多孔質保護層の剥離を生じ難くする態様が、開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、表面もしくは内部にセンサ部を備えたセラミックヒータ素子の外側に2層以上の多孔質セラミック層を設けるとともに、最外側のセラミック層の端部に所定の形状条件をみたす傾斜部を設けることで、セラミックヒータ素子と多孔質層とのわずかな熱膨張率の差によって多孔質セラミック層がセラミックヒータ素子より剥離することを防止する態様が、開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1ないし特許文献3のいずれにも、先端面にガス導入口を備えるセンサ素子において、該先端面に対する多孔質保護層の密着性を積極的に確保する構成は開示も示唆もなされてはいない。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、先端面側における、多孔質の先端保護層と素子基体との密着性が好適に確保された、ガスセンサのセンサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサに備わるセンサ素子であって、酸素イオン伝導性の固体電解質からなり、一方端部にガス導入口を備える長尺板状のセラミックス体と、前記セラミックス体の内部に備わり、前記ガス導入口と所定の拡散抵抗の下で連通する少なくとも1つの内部空室と、前記セラミックス体の外面に形成された外側ポンプ電極と、前記少なくとも1つの内部空室に面して設けられた内側ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極と前記内側ポンプ電極の間に存在する固体電解質からなり、前記少なくとも1つの内部空室と外部との間で酸素の汲み入れおよび汲み出しを行う、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、前記セラミックス体の前記一方端部側の所定範囲に埋設されてなるヒータと、を有する素子基体と、前記素子基体の前記一方端部側の所定範囲において先端面と4つの側面とを被覆する、多孔質の先端保護層と、を備え、前記ガス導入口が、基部と、前記基部よりも前記セラミックス体の先端側に位置し、前記センサ素子の厚み方向において前記基部よりも拡幅されてなる拡幅部と、を有しており、前記先端保護層が、前記拡幅部に延在する延在部を有し、前記延在部が、前記拡幅部の内壁面と固着してなる、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るセンサ素子であって、前記セラミックス体の先端面から前記ガス導入口の最奥部までの距離をL0とし、前記センサ素子の長手方向における、前記先端面からの前記拡幅部の形成範囲をL1とするとき、100μm≦L0≦500μm、かつ、0.1≦L1/L0≦0.8である、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るセンサ素子であって、前記拡幅部の全体が前記延在部によって埋設されてなる、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記拡幅部の体積が0.01mm3~0.07mm3である、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1ないし第4の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記素子基体の前記4つの側面の外側に、前記先端保護層よりも気孔率が大きい多孔質からなる緩衝層、をさらに備え、前記緩衝層のさらに外側に前記先端保護層が形成されてなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1ないし第5の態様によれば、熱衝撃の印加に起因した多孔質の先端保護層の素子先端面側における剥離さらには脱離が好適に抑制されてなり、先端保護層と素子基体との密着性が好適に確保されてなるとともに、耐被毒性についても優れたセンサ素子を、実現することができる。
【0017】
特に、本発明の第5の態様によれば、先端保護層と緩衝層との間に、いわゆるアンカー効果が作用することで、センサ素子の使用時に先端保護層と素子基体との熱膨張率の差に起因して先端保護層が素子基体から剥離することが、より好適に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】センサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。
【
図2】センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
【
図3】センサ素子10の一方端部E1側の部分Q近傍の拡大図である(実施例1相当)。
【
図4】センサ素子10の一方端部E1側の部分Q近傍の拡大図である(実施例2相当)。
【
図5】センサ素子10の一方端部E1側の部分Q近傍の拡大図である(実施例3相当)。
【
図6】センサ素子10の一方端部E1側の部分Q近傍の拡大図である(実施例4相当)。
【
図7】センサ素子10の一方端部E1側の部分Q近傍の拡大図である(実施例5相当)。
【
図8】センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
【
図9】プラズマ溶射による先端保護層2の形成について概略的に示す図である。
【
図10】センサ素子10が緩衝層180を有する場合のガスセンサ100の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<センサ素子およびガスセンサの概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るセンサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。また、
図2は、センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。センサ素子10は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知し、その濃度を測定するガスセンサ100の主たる構成要素である。センサ素子10は、いわゆる限界電流型のガスセンサ素子である。
【0020】
ガスセンサ100は、センサ素子10のほか、ポンプセル電源30と、ヒータ電源40と、コントローラ50とを主として備える。
【0021】
図1に示すように、センサ素子10は概略、長尺板状の素子基体1の一方端部側が、多孔質の先端保護層2にて被覆された構成を有する。
【0022】
素子基体1は概略、
図2に示すように、長尺板状のセラミックス体101を主たる構造体とするとともに、該セラミックス体101の2つの主面上には主面保護層170を備え、さらに、センサ素子10においては、一先端部側の端面(セラミックス体101の先端面101e)および4つの側面の外側に先端保護層2が設けられてなる。なお、以降においては、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の長手方向における両端面を除く4つの側面を単に、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の側面と称する。
【0023】
セラミックス体101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)を主成分とするセラミックスからなる。また、係るセラミックス体101の外部および内部には、センサ素子10の種々の構成要素が設けられてなる。係る構成を有するセラミックス体101は、緻密かつ気密なものである。なお、
図2に示すセンサ素子10の構成はあくまで例示であって、センサ素子10の具体的構成はこれに限られるものではない。
【0024】
図2に示すセンサ素子10は、セラミックス体101の内部に第一の内部空室102と第二の内部空室103と第三の内部空室104とを有する、いわゆる直列三室構造型のガスセンサ素子である。すなわち、センサ素子10においては概略、第一の内部空室102が、セラミックス体101の一方端部E1側において外部に対し開口する(厳密には先端保護層2を介して外部と連通する)ガス導入口105と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通しており、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通しており、第三の内部空室104が第四の拡散律速部140を通じて第二の内部空室103と連通している。なお、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部とも称する。本実施の形態に係るセンサ素子10においては、係る流通部がセラミックス体101の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
【0025】
第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140はいずれも、図面視上下2つのスリットとして設けられている。第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140は、通過する被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する。なお、第一の拡散律速部110と第二の拡散律速部120の間には、被測定ガスの脈動を緩衝する効果を有する緩衝空間115が設けられている。
【0026】
また、セラミックス体101の外面には外部ポンプ電極141が備わり、第一の内部空室102には内部ポンプ電極142が備わっている。さらには、第二の内部空室103には補助ポンプ電極143が備わり、第三の内部空室104には測定電極145が備わっている。加えて、セラミックス体101の他方端部E2側には、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わっており、該基準ガス導入口106内には、基準電極147が設けられている。
【0027】
例えば、係るセンサ素子10の測定対象が被測定ガス中のNOxである場合であれば、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0028】
まず、第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外部ポンプ電極141と、内部ポンプ電極142と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101bとによって構成される。
【0029】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0030】
補助ポンプセルによって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第三の内部空室104に導入され、第三の内部空室104に設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第三の内部空室104内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。係る還元ないし分解の際には、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。
【0031】
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)は、コントローラ50による制御のもと、ポンプセル電源(可変電源)30によって各ポンプセルに備わる電極の間にポンピングに必要な電圧が印加されることにより、実現される。測定用ポンプセルP3の場合であれば、測定電極145と基準電極147との間の電位差が所定の値に保たれるように、外部ポンプ電極141と測定電極145との間に電圧が印加される。ポンプセル電源30は通常、各ポンプセル毎に設けられる。
【0032】
コントローラ50は、測定用ポンプセルP3により汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出し、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0033】
なお、好ましくは、ガスセンサ100は、それぞれのポンプ電極と基準電極147との間の電位差を検知する、図示しない複数の電気化学的センサセルを備えており、コントローラ50による各ポンプセルの制御は、それらのセンサセルの検出信号に基づいて行われる。
【0034】
また、センサ素子10においては、セラミックス体101の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の
図2における図面視下方側において、一方端部E1近傍から少なくとも測定電極145および基準電極147の形成位置までの範囲にわたって設けられる。ヒータ150は、センサ素子10の使用時に、セラミックス体101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子10を加熱することを主たる目的として、設けられてなる。より詳細には、ヒータ150はその周囲を絶縁層151に囲繞される態様にて設けられてなる。
【0035】
ヒータ150は、例えば白金などからなる抵抗発熱体である。ヒータ150は、コントローラ50による制御のもと、ヒータ電源40からの給電により発熱する。
【0036】
本実施の形態に係るセンサ素子10はその使用時、ヒータ150によって、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲の温度が500℃以上となるように、加熱される。さらには、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでのガス流通部全体が500℃以上となるように、加熱される場合もある。これらは、各ポンプセルを構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高め、各ポンプセルの能力が好適に発揮されるようにするためである。係る場合、最も高温となる第一の内部空室102付近の温度は、700℃~800℃程度となる。
【0037】
以降においては、セラミックス体101の2つの主面のうち、
図2において図面視上方側に位置する、主に主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をポンプ面と称し、
図2において図面視下方に位置する、ヒータ150が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をヒータ面と称することがある。換言すれば、ポンプ面は、ヒータ150よりもガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルに近接する側の主面であり、ヒータ面はガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルよりもヒータ150に近接する側の主面である。
【0038】
セラミックス体101のそれぞれの主面上の他方端部E2側には、センサ素子10と外部との間の電気的接続を図るための複数の電極端子160が形成されてなる。これらの電極端子160は、セラミックス体101の内部に備わる図示しないリード線を通じて、上述した5つの電極と、ヒータ150の両端と、図示しないヒータ抵抗検出用のリード線と、所定の対応関係にて電気的に接続されている。よって、センサ素子10の各ポンプセルに対するポンプセル電源30から電圧の印加や、ヒータ電源40からの給電によるヒータ150の加熱は、電極端子160を通じてなされる。
【0039】
さらに、センサ素子10においては、セラミックス体101のポンプ面およびヒータ面に、上述した主面保護層170(170a、170b)が備わっている。主面保護層170は、アルミナからなる、厚みが5μm~30μm程度であり、かつ20%~40%程度の気孔率にて気孔が存在する層であり、セラミックス体101の主面(ポンプ面およびヒータ面)や、ポンプ面側に備わる外部ポンプ電極141に対する、異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられてなる。それゆえ、ポンプ面側の主面保護層170aは、外部ポンプ電極141を保護するポンプ電極保護層としても機能するものである。
【0040】
なお、本実施の形態において、気孔率は、評価対象物のSEM(走査電子顕微鏡)像に対し公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで求めるものとする。
【0041】
図2においては、電極端子160の一部を露出させるほかはポンプ面およびヒータ面の略全面にわたって主面保護層170が設けられてなるが、これはあくまで例示であり、
図2に示す場合よりも、主面保護層170は、一方端部E1側の外部ポンプ電極141近傍に偏在させて設けられてもよい。
【0042】
<先端保護層およびガス導入口の詳細>
センサ素子10においては、上述のような構成を有する素子基体1の一方端部E1側から所定範囲の最外周部に、純度99.0%以上のアルミナからなる多孔質層である先端保護層2が設けられてなる。
【0043】
以下においては、先端保護層2のうち、セラミックス体101の先端面101eとの接触部分を端面部201と称し、主面保護層170が設けられた2つの主面(ポンプ面、ヒータ面)を含む4つの側面との接触部分を側面部202と称する。
【0044】
先端保護層2を設けるのは、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に高温となる部分を囲繞することによって、当該部分における耐被水性を得るためである。先端保護層2を設けることで、当該部分が直接に被水することによる局所的な温度低下に起因した熱衝撃により素子基体1にクラック(被水割れ)が生じることが、抑制される。
【0045】
なお、先端保護層2はあくまで多孔質層であるので、その存在に関わらず、ガス導入口105と外部との間における気体の流出入は絶えず起こっている。すなわち、ガス導入口105からの素子基体1(セラミックス体101)の内部への被測定ガスの導入は、問題なく行われる。
【0046】
先端保護層2は、150μm以上600μm以下の厚みに形成されるのが好ましい。先端保護層2の厚みを150μm未満とするのは、先端保護層2自体の強度が低下するために、熱衝撃に対する耐性が小さくなり耐被水性が低下するほか、振動その他の要因で作用する衝撃に対する耐性も低下するために、好ましくない。一方、先端保護層2の厚みを600μm超とするのは、先端保護層2の熱容量が大きくなるためにヒータ150による加熱に際して消費電力が増大するという理由や、ガス拡散時間が大きくなってしまいセンサ素子10の応答性が悪くなるという理由から、好ましくない。
【0047】
また、先端保護層2の気孔率は、15%~40%であることが好ましい。係る場合、素子基体1との密着性、特に、先端保護層2の大部分が接触する主面保護層170との密着性が好適に確保される。先端保護層2の気孔率を15%未満とするのは、拡散抵抗が高くなり、センサ素子10の応答性が悪くなるため、好ましくない。一方、気孔率を40%超とするのは、素子基体1との密着性(具体的には先端面101eおよび主面保護層170との密着性)が低下して、先端保護層2の強度が確保されなくなるため好ましくない。
【0048】
加えて、
図2においては図示を簡略化していたが、本実施の形態に係るセンサ素子10においては、セラミックス体101の先端面101eにおける先端保護層2の密着性を強固なものとするべく、先端面101e近傍においてガス導入口105が拡幅されて拡幅部105bが設けられ、かつ、先端保護層2が係る拡幅部105bにまで入り込んでその内壁面に固着されてなる、という構成を有する。
図3ないし
図7は、当該構成のうちの代表的な5通りの態様について例示する、センサ素子10の一方端部E1側の部分Q近傍の拡大図である。
【0049】
具体的には、
図3ないし
図7において例示するように、本実施の形態に係るセンサ素子10においては、ガス導入口105が、第一の拡散律速部110と隣り合う基部105aと、基部105aに連続し、かつ基部105aよりも拡幅された拡幅部105b(各図斜線部)とからなっている。なお、
図3ないし
図7においては、素子長手方向におけるガス導入口105の形成範囲を与える、セラミックス体101の先端面101eから最奥部(第一の拡散律速部110の開始部)に至るまでの距離を、L0とし、係る距離L0の範囲のうち、先端面101eから距離L1の範囲に、拡幅部105bが形成されているものとしている。
【0050】
加えて、センサ素子10においては、先端保護層2(各図砂地部)が、セラミックス体101の先端面101eに固着してなる端面部201からガス導入口105の拡幅部105b内へと延在する、延在部201aを有する。
【0051】
なお、上述した先端保護層2の厚みとは、延在部201aを除く部分における厚みを意味するものとする。
【0052】
図3に例示する構成では、ガス導入口105の途中に段差105sが設けられることで、拡幅部105bが形成されてなる。そして、先端保護層2の延在部201aは、段差105sと、セラミックス体101において拡幅部105bを四方から区画している内壁面105fとに対し、固着してなる。ただし、延在部201aは拡幅部105bの全体に埋設されてはおらず、延在部201a同士の間には、溝部gが形成されてなる。
【0053】
また、
図4に例示する構成では、基部105aから先端面101eに向けて広がるテーパー面105tを内壁面とする態様にて、拡幅部105bが形成されてなる。延在部201aはテーパー面105tに固着してなるが、拡幅部105bの全体には埋設されてはいない。
【0054】
また、
図5に例示する構成では、基部105aから先端面101eにかけて湾曲する曲面105cを内壁面とする態様にて、拡幅部105bが形成されてなる。延在部201aは曲面105cに固着してなり、かつ、拡幅部105bの全体に埋設されている。
【0055】
また、
図6に例示する構成では、ガス導入口105の途中に2段階に段差105s1、105s2が設けられることで、拡幅部105bが形成されてなる。延在部201aは段差105s1、105s2と、内壁面105f1、105f2とに固着してなり、かつ、拡幅部105bの全体に埋設されている。
【0056】
また、
図7に例示する構成は、段差105sが設けられている点では
図3に例示する構成と同様であるが、距離L1が
図3に例示する構成に比して小さくなっている。また、延在部201aは段差105sと、内壁面105fとに固着してなり、かつ、拡幅部105bの全体に埋設されている。
【0057】
当然ながら、
図3ないし
図7に例示したいずれの構成においても、基部105aの厚み(図面視上下方向である素子厚み方向におけるサイズ)t0に比して、拡幅部105bの厚みt1(
図6の場合はt1、t2)の方が大きく、また、図示は省略するが、基部105aの幅(図面視手前から奥方向におけるサイズ)w0よりも拡幅部105bの幅w1の方が大きい。
【0058】
なお、
図3ないし
図7に例示した拡幅部105bの形成態様と、延在部201aの形成態様との組み合わせは、固定的なものではない。例えば、
図5ないし
図7に例示する拡幅部105bに形成される延在部201aは、必ずしも該拡幅部105bの全体を埋設せずともよく、例えば
図3や
図4に例示したような、部分的な埋設がなされるに留まっていてもよい。逆に、
図3や
図4に例示した拡幅部105bの全体が、延在部201aによって埋設されていてもよい。
【0059】
より詳細には、ガス導入口105は、100μm≦L0≦500μm、かつ、0.1≦L1/L0≦0.8をみたすように設けられる。後者は、拡幅部105bが、ガス導入口105全体の形成範囲に対して10%以上80%以下の割合にて設けられることを示している。
【0060】
L0<100μmとするのは、先端保護層2(特に延在部201a)の形成時に、飛散した先端保護層2の形成粒子が第一の拡散律速部110に入り込んでしまい、目詰まりを生じさせ、拡散抵抗を設計時の想定よりも高くしてしまうことが起こりやすくなるため、好ましくない。
【0061】
一方、L0>500μmとするのは、所定の素子サイズを維持するのであれば拡散律速部を短縮する必要が生じ、所望の拡散抵抗を実現するのが難しくなり、拡散律速部のサイズを確保するのであれば素子サイズが長尺化してしまうために、好ましくない。
【0062】
また、L1/L0<0.1とするのは、延在部201aを拡幅部105b内に入り込ませることによる先端保護層2の密着性確保の効果が十分に得られないため、好ましくない。
【0063】
一方、L1/L0>0.8として拡幅部105bを先端面101eからより深い範囲にまで設けること自体は可能ではあるが、これに対応させて延在部201aを先端面101eからより奥の方まで到達させることは必ずしも容易ではなく、コストを要する場合もある。それゆえ、そこまで過度に深い範囲に拡幅部105bを設ける必要性に乏しい。
【0064】
好ましくは、拡幅部105bの体積Vは、0.01mm
3~0.07mm
3とされる。なお、
図3に示す構成の場合であれば、V=L1・t1・w1である。
【0065】
なお、V<0.01mm3の場合、延在部201aを拡幅部105bの内部に設けることが困難となるほか、ガス導入口105における被毒物質のトラップ性能が低下するため、好ましくない。
【0066】
また、好ましくは、拡幅部105bの体積Vは、ガス導入口105全体の体積の30%~80%とされる。
【0067】
上述した態様にてガス導入口105の先端側に拡幅部105bが設けられ、かつ、係る拡幅部105bに対して先端保護層2の延在部201aが固着されることで、センサ素子10においては、長期的な使用のなかで昇温と冷却との繰り返しによる熱衝撃を頻繁に受けたとしても、先端保護層2が素子基体1の先端面側において剥離し、さらには脱離することが、好適に抑制されてなる。すなわち、センサ素子10は、長期的に使用を継続したとしても、先端保護層の剥離さらには脱離に起因した感度の変化が生じにくい、高い信頼性を有するものであるといえる。
【0068】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサを構成するセンサ素子の素子基体のうち、少なくとも、使用時に高温となる部分の周囲に、多孔質層である先端保護層を設け、しかも、素子基体の一方端部側において先端保護層の一部をガス導入口の内部にまで延在させ、その内面に固着させるようにすることで、熱衝撃の印加に起因した、素子基体の先端面側における先端保護層の剥離さらには脱離が好適に抑制されたセンサ素子を、実現することができる。
【0069】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子10を製造するプロセスの一例について説明する。
図8は、センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
【0070】
素子基体1の作製に際しては、まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含み、かつ、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を、複数枚用意する(ステップS1)。
【0071】
ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、セラミックス体101の対応する部分に内部空間が形成されることになるグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、それぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はなく、最終的に形成される素子基体1におけるそれぞれの対応部分に応じて、厚みが違えられていてもよい。
【0072】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各種電極のパターンや、ヒータ150および絶縁層151のパターンや、電極端子160のパターンや、主面保護層170のパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。また、係るパターン印刷のタイミングで、第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140を形成するための昇華性材料(消失材)の塗布あるいは配置も併せてなされる。さらには、ガス導入口105を所望の形状に形成するための消失材パターンの形成(塗布)も、併せて行われる(ステップS2a)。
【0073】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0074】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、グリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0075】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0076】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断して、それぞれが最終的に個々の素子基体1となる単位体に切り出す(ステップS5)。
【0077】
続いて、得られた単位体を、1300℃~1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS6)。これにより、素子基体1が作製される。すなわち、素子基体1は、固体電解質からなるセラミックス体101と、各電極と、主面保護層170とが、一体焼成されることによって、生成されるものである。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、素子基体1においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0078】
また、係る焼成の過程においては、ガス導入口105の形成対象位置に所定のパターンにて設けた消失材は消失し、得られた素子基体1においては、所望する形状のガス導入口105が形成される。
【0079】
以上の態様にて素子基体1が作製されると、続いて、係る素子基体1に対し、先端保護層2の形成が行われる。先端保護層2の形成は、プラズマ溶射の手法により行われる。
図9は、プラズマ溶射による先端保護層2の形成について概略的に示す図である。
【0080】
先端保護層2の形成は、先端保護層2の形成材料であるアルミナの粉末を含むスラリーを、所定の形成対象位置にプラズマ溶射することによりなされる(ステップS7)。
【0081】
具体的には、
図9に示すように、素子基体1を、先端面101eの側を上方とする態様にて所定の傾斜角αの傾斜姿勢としたうえで、傾斜角αを変動させつつ矢印AR1にて示すように、素子長手方向を軸中心として連続的に回転させる。そして、係る回転の間に溶射ガン1000から矢印AR2にて示すように先端面101eの側に向けてスラリーを溶射する。これにより、素子基体1の側面および端面(セラミックス体101の先端面101e)さらにはガス導入口105の拡幅部105bの内壁面105f等に付着する。
【0082】
アルミナ粉末としては、最大粒径が50μm以下で、D50が23μm以下のものを用いるのが好適である。
【0083】
傾斜角αおよび素子基体1の回転速度を適宜に調整することで、最終的に形成される先端保護層2が所望の形態の延在部201aを有するように、ガス導入口105の内壁面105fにスラリーを付着させることができる。
【0084】
係る溶射膜の形成により、センサ素子10が得られる。
【0085】
このようにして得られたセンサ素子10は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0086】
<変形例>
上述の実施の形態においては、3つの内部空室を備えたセンサ素子を対象としているが、3室構造であることは必須ではない。すなわち、素子基体の一方端部側の端面に備わるガス導入口の先端側に拡幅部を設けるとともに、該素子基体の端面および側面の所定範囲を囲繞する多孔質層である先端保護層に、係る拡幅部にまで延在する延在部を設ける態様は、内部空室が2つあるいは1つのセンサ素子にも適用可能である。
【0087】
また、上述の実施の形態においては、先端保護層2が素子基体1に対し直接に設けられているが、これは必須の態様ではない。
図10は、センサ素子10が素子基体1と先端保護層2との間に緩衝層180を有する場合のガスセンサ100の概略構成図である。
【0088】
図10に示すセンサ素子10においては、素子基体1の一先端部E1側の4つの側面の外側に(先端面101e以外の外周に)、緩衝層180を備える。そして、この緩衝層180のさらに外側に、先端保護層2が設けられてなる。
図10においては、緩衝層180のうち、ポンプ面側の部分180aとヒータ面側の部分180bとを示している。
【0089】
緩衝層180は、アルミナにて構成される多孔質層であり、30%~50%という比較的大きな気孔率にて、20μm~50μmの厚みを有するように設けられる。
【0090】
緩衝層180を設ける場合、先端保護層2の気孔率は、緩衝層180の気孔率よりも小さいことが好ましい。緩衝層180の気孔率の方が大きい場合、先端保護層2と下地層たる緩衝層180との間に、いわゆるアンカー効果が作用する。係るアンカー効果が作用することにより、センサ素子10においては、その使用時に先端保護層2と素子基体1との熱膨張率の差に起因して先端保護層2が素子基体1から剥離することが、より好適に抑制される。
【0091】
緩衝層180は、先端保護層2や主面保護層170ともども、センサ素子10の被毒や被水を防ぐ役割を有する。特に、緩衝層180の気孔率が先端保護層2の気孔率より大きい場合、緩衝層180は、先端保護層2や主面保護層170に比して高い断熱性を有することとなる。このことは、センサ素子10の耐被水性の向上に資するものとなっている。
【0092】
また、緩衝層180は、先端保護層2を素子基体1に対し形成する際の下地層としての役割も有する。係る観点からは、緩衝層180は、素子基体1の各側面の、少なくとも先端保護層2により囲繞される範囲に形成されればよい。
【0093】
なお、
図10に示すような、緩衝層180を含むセンサ素子10の作製は、
図8に示した手順にて得られた個々の素子体に対し、最終的に緩衝層180となるパターンを形成する工程(塗布および乾燥)をさらに行い、その後焼成することにより、実現される。係るパターンの形成は、所望される緩衝層180が最終的に形成されるよう、あらかじめ調製されたペーストを用いて行う。すなわち、
図10に示すセンサ素子10の素子基体1は、固体電解質からなるセラミックス体101と、各電極と、主面保護層170と、
緩衝層180とが、一体焼成されることによって生成されるものである。
【実施例】
【0094】
図3ないし
図7に示した、ガス導入口105の形態および先端保護層2の延在部201aの形態が相異なる5種類のセンサ素子10(順次に実施例1~実施例5とする)を作製した。なお、センサ素子10における、ガス導入口105全体に対する拡幅部105bの形成割合はそれぞれ、60%、70%、80%、30%、10%とした。実施例1および実施例2については、
図3および
図4に例示するように、先端保護層2の延在部201aが拡幅部105bを区画する内壁面(具体的には、内壁面105fおよび段差105s、または、テーパー面105t)に固着しつつも、拡幅部105bの一部は延在部201aによって埋設されないようにし、
図5ないし
図7に例示するように、実施例3ないし実施例5については、拡幅部105bの全体が埋設されるようにした。また、各実施例について共通に、距離L0は300μmとし、拡幅部105bの
体積Vは0.02
mm
3
とした。
【0095】
また、比較例として、拡幅部105bを有さずガス導入口105の厚みが一定であり、かつ、先端保護層2のガス導入口105に対する延在のないセンサ素子(比較例1)と、ガス導入口105全体に対する拡幅部105bの形成割合を5%としたセンサ素子(比較例2)を作製した。いずれの比較例も、拡幅部105bの形成以外の作製条件は実施例1~実施例5と同じとした。また、比較例2においては、
図7と同様の形態にて、拡幅部105bおよび先端保護層2の延在部201aを設けた。
【0096】
得られたそれぞれのセンサ素子について、熱衝撃に対する耐性を評価するべく、昇降温および雰囲気変化が周期的に繰り返される冷熱サイクル試験と、当該試験前後におけるそれぞれのセンサ素子の主ポンプセルP1におけるポンプ電流Ip0の測定とを行った。
【0097】
冷熱サイクル試験においては、(950℃、5分間)→(300℃、5分間)という温度プロファイルを昇降温の1サイクルとして、これを600サイクル繰り返した。試験ガス雰囲気は、950℃の時はλ=1.1の排ガス雰囲気、300℃の時は大気とした。
【0098】
ポンプ電流Ip0の測定は、O2濃度が20.5mol%で残余が窒素であるモデルガス雰囲気下で行った。
【0099】
そして、ポンプ電流Ip0の差分値の、試験前のポンプ電流Ip0の値に対する比(ポンプ電流変化率)を算出し、係る比の大小によって、冷熱サイクル試験の前後における顕著な感度変化の有無を判定した(判定1)。
【0100】
また、それぞれのセンサ素子について、耐被毒性を評価するべく、Mg水滴下試験と、当該試験前後におけるそれぞれのセンサ素子の主ポンプセルP1におけるポンプ電流Ip0の測定とを行った。
【0101】
Mg水滴下試験は、濃度が0.0025mol/LのMg水(組成は、Mg(NO3)2・6H2O:0.61g/L、CaCl2・6H2O:0.19g/L、NaHCO3:0.18g/L、Na2SO4:0.17g/L、KNO3:0.05g/L)を、先端保護層が備わるセンサ素子の一方端部E1側に50μL滴下した後、センサ素子を100℃の雰囲気下に5分間配置することにより行った。
【0102】
ポンプ電流Ip0の測定は、上述した冷熱サイクル試験前後の測定と同じ条件とした。そして、ポンプ電流変化率の大小によって、Mg水滴下試験の前後における顕著な感度変化の有無を判定した(判定2)。
【0103】
それぞれのセンサ素子についての拡幅部105bの割合と、判定1および判定2における判定結果を一覧にして示す。
【0104】
【0105】
判定1および判定2ともに、ポンプ電流変化率が±5%以内であった場合には、センサ素子には冷熱サイクル試験またはMg水滴下試験の前後で顕著な感度変化は生じていないと判定され、±5%を超えた場合には、センサ素子に冷熱サイクル試験またはMg水滴下試験の前後で顕著な感度変化が生じていると判定される。
【0106】
表1に示すように、実施例1ないし実施例5のセンサ素子には判定1と判定2の双方において、ポンプ電流変化率が±5%以内であったのに対し、比較例1および比較例2のセンサ素子については、判定1と判定2の双方において、ポンプ電流変化率が±5%を超えていた。
【0107】
表1に示す結果からは、上述の実施の形態のように、センサ素子のガス導入口の先端側に拡幅部を設け、かつ、係る拡幅部に対し先端保護層を延在させてその内壁面に延在部を固着させることが、熱衝撃に起因した先端保護層の先端面からの剥離さらには脱離を抑制するうえにおいて、効果的であることがわかる。
【0108】
しかも、係る構成を採用したとしても、耐被毒性は十分に確保され、むしろ、拡幅部105bおよび先端保護層2の延在部201aを備えていない構成よりも耐被毒性は優れている、ということもわかる。
【符号の説明】
【0109】
1 素子基体
2 先端保護層
10 センサ素子
100 ガスセンサ
101 セラミックス体
101e (セラミックス体)先端面
102 第一の内部空室
103 第二の内部空室
104 第三の内部空室
105 ガス導入口
105a (ガス導入口の)基部
105b (ガス導入口の)拡幅部
105c 曲面
105f、105f1、105f2 内壁面
105s、105s1、105s2 段差
105t テーパー面
110 第一の拡散律速部
115 緩衝空間
120 第二の拡散律速部
130 第三の拡散律速部
140 第四の拡散律速部
141 外部ポンプ電極
142 内部ポンプ電極
143 補助ポンプ電極
145 測定電極
147 基準電極
150 ヒータ
170(170a、170b) 主面保護層
201 (先端保護層の)端面部
201a (先端保護層の)延在部
202 (先端保護層の)側面部
1000 溶射ガン
P1 主ポンプセル
P2 補助ポンプセル
P3 測定用ポンプセル