(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/18 20060101AFI20220616BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20220616BHJP
B23B 25/06 20060101ALI20220616BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/404 K
B23B25/06
B23Q17/22 A
(21)【出願番号】P 2018214113
(22)【出願日】2018-11-14
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000133593
【氏名又は名称】株式会社ツガミ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】風間 浩明
(72)【発明者】
【氏名】南 光良
(72)【発明者】
【氏名】中村 久一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 直也
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-058950(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042831(WO,A1)
【文献】特開2002-066807(JP,A)
【文献】特開昭61-213712(JP,A)
【文献】特開2008-246642(JP,A)
【文献】特開2018-008348(JP,A)
【文献】特開2004-034187(JP,A)
【文献】米国特許第04733049(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/18
G05B 19/404
B23B 25/06
B23Q 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを回転可能に保持するワーク保持部と、
前記ワーク保持部に保持されたワークの径方向に先端が向く複数の工具であって、該ワークに対して突切り加工を行うための突切り工具を含む複数の工具を有する工具保持部と、
前記工具保持部に設けられ、前記径方向に向く所定部を有する検出部であって、前記所定部と前記ワーク保持部に保持されたワークとが前記径方向において接触したこと又は所定の距離だけ接近したことを検出する検出部と、
前記ワーク保持部に保持されたワークと前記工具保持部との相対位置を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記径方向の前記相対位置を制御して前記突切り加工を行うことが可能であり、
前記検出部の検出結果に基づいて前記突切り加工がなされているか否かを判別し、
前記検出部の検出結果に基づいて前記径方向の熱変位を補正
し、
前記ワーク保持部に保持されたワークの回転中心線が延びる軸線方向において、前記ワーク保持部と前記工具保持部との相対位置を制御し、
前記突切り加工の実行後のワークの長さが所定値以上となる場合には、前記突切り加工の実行時における前記軸線方向の前記ワーク保持部の位置で前記突切り加工がなされているか否かを判別し、
前記突切り加工の実行後のワークの長さが前記所定値未満となる場合には、前記突切り加工の実行時における前記軸線方向の前記ワーク保持部の位置を、前記検出部による検出が可能な位置に調整した上で前記突切り加工がなされているか否かを判別する、
工作機械。
【請求項2】
前記所定部と前記突切り工具とは、前記径方向において互いの先端が対向している、
請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記複数の工具は、鉛直方向に互いに間隔を空けて前記工具保持部に設けられ、
前記検出部は、前記鉛直方向において、前記突切り工具よりも上方に設けられている、
請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記検出部が検出したことに基づいて検出時における前記径方向の前記工具保持部の位置を示す位置情報を取得し、各々異なる検出時に取得した複数の位置情報に基づいて前記熱変位を補正するための補正量を算出し、
前記径方向の前記工具保持部の位置を、目標位置に前記補正量を加味した位置に制御する、
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の工作機械として、特許文献1には、ワーク(被加工物)と工具との相対位置を調整するために所定の軸方向に移動可能なスライド部を備え、スライド部の移動方向における熱変位補正をタッチスイッチの出力に基づき行う工作機械が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、検出対象(同文献では工具)の軸線中心に回転可能な接触子(揺振棒)を回転させ、接触子が検出対象に接触したか否かにより検出対象の破損を検出する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5883264号公報
【文献】特開昭63-2648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような工作機械において、正確な加工を実現するためには、熱変位補正と、ワークに対して突切り加工がなされたか否かの検出(以下、突切り検出)とが必要となる。突切り検出は、例えば、特許文献2に開示された手法において検出対象をワークに変更すれば可能となる。しかしながら、従来の工作機械では、熱変位補正を行うための検出部と、突切り検出を行うための検出部とがそれぞれ異なる構成であったため、構成が複雑化してしまう虞がある。また、熱変位補正に関しては、特許文献1に開示された手法では、ワークと該ワークを加工する工具との相対位置における熱変位の補正を、スライド部の位置に基づき間接的に行っていたため、熱変位補正の精度を高める点で改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、突切り検出と熱変位補正とを共通の検出部を用いて行うことができるとともに、熱変位補正の精度が良好な工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る工作機械は、
ワークを回転可能に保持するワーク保持部と、
前記ワーク保持部に保持されたワークの径方向に先端が向く複数の工具であって、該ワークに対して突切り加工を行うための突切り工具を含む複数の工具を有する工具保持部と、
前記工具保持部に設けられ、前記径方向に向く所定部を有する検出部であって、前記所定部と前記ワーク保持部に保持されたワークとが前記径方向において接触したこと又は所定の距離だけ接近したことを検出する検出部と、
前記ワーク保持部に保持されたワークと前記工具保持部との相対位置を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記径方向の前記相対位置を制御して前記突切り加工を行うことが可能であり、
前記検出部の検出結果に基づいて前記突切り加工がなされているか否かを判別し、
前記検出部の検出結果に基づいて前記径方向の熱変位を補正し、
前記ワーク保持部に保持されたワークの回転中心線が延びる軸線方向において、前記ワーク保持部と前記工具保持部との相対位置を制御し、
前記突切り加工の実行後のワークの長さが所定値以上となる場合には、前記突切り加工の実行時における前記軸線方向の前記ワーク保持部の位置で前記突切り加工がなされているか否かを判別し、
前記突切り加工の実行後のワークの長さが前記所定値未満となる場合には、前記突切り加工の実行時における前記軸線方向の前記ワーク保持部の位置を、前記検出部による検出が可能な位置に調整した上で前記突切り加工がなされているか否かを判別する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、突切り検出と熱変位補正とを共通の検出部を用いて行うことができるとともに、熱変位補正の精度が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械をX軸方向から見た概略図である。
【
図5】(a)及び(b)は、突切り検出を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る工作機械1は、主軸(後述のワーク保持部10)で円柱状のワークW(被加工物)を加工する多機能旋盤として構成されている。以下では、図中に矢印で示すように、互いに直交する、X、Y、Z軸を用いて適宜の構成を説明する。また、これら矢印が示す各方向において、矢印の向く方向を「+」側、その反対側の方向を「-」側とする。
【0011】
工作機械1は、
図1~
図4に示すように、工作機械1全体の台であるベッドSと、ワーク保持部10と、Z軸移動機構20と、工具保持部30と、検出部40と、XY軸移動機構50と、制御部60と、を備える。
【0012】
ワーク保持部10は、ワークWを保持するチャックと、チャックで保持したワークWを回転させるワーク回転用モータと、を有する。Z軸移動機構20は、ワーク保持部10をベッドSに対してZ軸方向に移動させる公知の構成であり、Z軸モータMzでボールねじ22を回転させることで、ワーク保持部10が固定されたZ軸スライド部21をZ軸方向に移動させる。
【0013】
工具保持部30は、
図3に示すように、Z軸方向から見て略矩形状をなし、ワーク挿通部31と、工具取付部32と、を備える。ワーク挿通部31は、ワーク保持部10に保持されたワークWをZ軸方向に通すことが可能な中空部として形成されている。工具取付部32は、
図3に示すように、ワーク挿通部31の左側と右側に設けられている。工具取付部32には、X軸方向に先端が向く複数の工具Txと、-Z軸方向に先端が向く複数の工具Tzとが取り付けられている。
【0014】
例えば、複数の工具Txは、
図4に示すように、6本のバイトBと、4本の回転工具Rとから構成されている。バイトBは、ワーク挿通部31の左側上方に2本設けられ、右側下方に4本設けられている。当該右側下方の4本のバイトBのうち最も下に位置するものは、突切り加工用の突切りバイトBdである。回転工具Rは、ワーク挿通部31の左側において2本のバイトBの下方に設けられている。回転工具Rは、例えば、ドリル、タップ、フライスなどから構成され、図示しない回転工具用モータによって回転可能となっている。例えば、複数の工具Tzは、一例として、4本のドリル(図では破線で示した)から構成されている。
【0015】
検出部40は、例えばタッチスイッチから構成され、ワークWを工具Tx,Tzで加工する際におけるX軸方向の熱変位量の検出と、突切り検出との双方を行う。X軸方向の熱変位要因としては、例えば、後述のX軸モータMxによって支持されているボールねじ82が、X軸モータMx等の発熱によりX軸方向に伸びるためである。
【0016】
検出部40は、工具保持部30の空きスペースに設けられている。具体的には、検出部40は、
図4で左側に位置する工具取付部32におけるバイトBと回転工具Rの間に、ボルト等の固定手段により固定されている。検出部40の先端部は、
図4に示すように、ワーク保持部10に保持されたワークWに接触可能な接触部41として構成されている。接触部41は、その高さ方向がX軸方向となる円柱状に形成されている。検出部40は、接触部41がワークWに接触すると、接触したことを示す検出信号(ON信号)を制御部60に供給する。
【0017】
検出部40の接触部41と突切りバイトBdとは、X軸方向において互いの先端が対向してワーク挿通部31に向いている。例えば、接触部41は、
図5(a)に示すように、接触部41が突切りバイトBdの先端を通ってX軸方向に延びる直線L上に位置する。
【0018】
XY軸移動機構50は、工具保持部30をベッドSに対してX及びY軸方向に移動させる公知の構成であり、ベッドSに固定された固定台70と、X軸移動機構80と、Y軸移動機構90と、を備える。固定台70には、
図1及び
図2に示すように、ワークWの保持や移動を補助するガイドブッシュ72が取り付けられている。X軸移動機構80は、X軸モータMxでボールねじ82を回転させることで、X軸スライド部81を固定台70に対してX軸方向に移動させる。Y軸移動機構90は、Y軸モータMyでボールねじ92を回転させることで、工具保持部30をX軸スライド部81に対してY軸方向に移動させる。
【0019】
制御部60は、工作機械1の全体動作を制御するコンピュータから構成され、数値制御(NC(Numerical Control))によって、ワーク保持部10に保持されたワークWと工具Tx,Tzとの相対的な位置を調整する。また、制御部60は、ワーク保持部10に保持されたワークWと、工具保持部30に設けられた検出部40との相対的な位置を調整する。なお、制御部60は、工作機械1の各部にクーラントを供給するための供給装置(図示せず)の動作も制御する。
【0020】
(ワークWの加工について)
次に、上記構成の工作機械1によるワークWの加工について説明する。制御部60は、図示しない操作部から入力される指令内容に応じて、工具保持部30の複数の工具Tx,Tzのうち所望の工具を割り出し(選択し)、ワークWを加工する。例えば、制御部60は、Y軸モータMyを駆動し、所望の工具がワークWと同じ高さに位置するように工具保持部30を移動させる。次に、制御部60は、ワーク回転用モータとZ軸モータMzとを駆動し、ワークWを回転させながらZ軸方向に移動させ、また、これと同時又は時間差でX軸モータMxを駆動し、工具保持部30に保持された所望の工具をワークWに向けて移動させる。このようにして、バイトBや回転工具RをワークWの径方向(X軸方向)から当接させたり、ドリルからなる工具TzをワークWの長手方向(Z軸方向)から当接させたりすることができ、ワークWに対して種々の加工を行うことができる。
【0021】
特に、突切りバイトBdが選択された場合、制御部60は、突切りバイトBdをワークWの径方向(X軸方向)から当接させることにより、ワークWをZ軸方向における所望の位置で切断する。
図5(a)は、ワークWが切断された後の状態を示している。
【0022】
そして、ワークWを加工する工作機械1は、複数の工具Tx,Tzのうち、所望の工具の位置を割り出す際、X軸方向の熱変位に応じた補正量を加味した位置に割り出す。つまり、所望の工具とワークWとの相対位置を、設定された目標位置とする際には、当該目標位置に補正量を加味した位置とする。
【0023】
ここからは、補正量を算出するための処理について説明する。制御部60は、まず、後述の熱変位量を求めるための基準となる基準位置を取得する基準位置取得処理を実行し、その後に熱変位補正処理を実行する。
【0024】
(基準位置取得処理)
図6のフローチャートを参照して、制御部60が実行する基準位置取得処理を説明する。この処理は、例えば、工作機械1の電源投入後であってワークWの加工前の所定契機に開始される。
【0025】
基準位置取得処理を開始すると、制御部60は、工具保持部30を検出待機位置に移動させる(ステップS11)。具体的に、制御部60は、Y軸モータMyを駆動し、検出部40の接触部41の中心が、ワーク保持部10に保持されたワークWの中心と同じ高さに位置するように工具保持部30を移動させる。また、制御部60は、Z軸モータMzを駆動し、ワークWが接触部41の中心のZ座標に含まれる位置にくるまで、ワークWをZ軸方向に移動させる。そして、制御部60は、X軸モータMxを駆動し、工具保持部30を、接触部41がワークWに近接する検出待機位置までX軸方向に移動させる。検出待機位置は、接触部41とワークWとが当接しない程度に両者の間に間隔を空けた位置であり、例えば、接触部41の先端とワークWとの間のX軸方向における距離が、数mmになる位置である。
【0026】
続いて、制御部60は、X軸モータMxを駆動し、工具保持部30を+X方向に移動させることで、検出を開始する(ステップS12)。これにより、検出部40の接触部41は、徐々にワークWに近づいていく。接触部41がワークWに接触すると、検出部40は、接触したことを示す検出信号を制御部60に供給する。
図4は、接触部41がワークWに接触した状態を示している。制御部60は、この検出信号を受信した時点でのX座標を取得し(ステップS13)、記憶する。ここで取得するX座標は、予め定められた任意の原点位置(X=0)に対する座標である。原点位置としては、例えば、工具保持部30及びX軸スライド部81が最も-X軸方向に移動した際の所定位置(例えばボールねじ82の先端位置)などであればよい。制御部60は、例えば、検出信号を受信した時点のX軸モータMxの回転数(回転数=回転角度/360°)にボールねじ82のリードを掛けることにより、検出信号を受信した時点のX座標を取得する。制御部60は、取得したX座標を基準位置として記憶する。ステップS13の処理の実行後、基準位置取得処理は終了する。
【0027】
(熱変位補正処理)
続いて、熱変位補正処理について、
図7のフローチャートを参照して説明する。制御部60は、例えば、ワークWの加工開始の指示を示す信号(以下、加工開始指示と言う。)を受け付けたことを条件に熱変位補正処理を開始する。
【0028】
熱変位補正処理を開始すると、制御部60は、累積加工時間がサチレート時間に達しているか否かを判別する(ステップS20)。ここで、累積加工時間とは、ワークWの実際の加工時間にみなせる時間をいい、例えば、工作機械1の電源を投入してから電源を切るまでの時間から工作機械1のアイドリング状態の時間を減算したものである。このようにアイドリング状態の時間を減算する理由は、アイドリング状態では、機械に帯びた熱が発散するためである。また、同様に機械から熱が発散することを考慮して、一時的に工作機械1の電源を切った時間が予め定めた時間(例えば、30分)未満である場合には、累積加工時間をリセットせずに、工作機械1の電源を投入してから電源を切るまでの時間から、一時的に電源を切った時間を減算したものを累積加工時間としてもよい。また、サチレート時間とは、機械の熱変位がほぼ収束し、平衡状態に達するまでの時間をいう。具体的には、制御部60は、タイマによって上記累積加工時間を算出しており、現在の累積加工時間が、予め設定したサチレート時間(例えば、2時間程度)に達したか否かを判別する。
【0029】
サチレート時間に達していない場合(ステップS20;No)、制御部60は、前述のステップS11と同様に、工具保持部30を検出待機位置に移動させる(ステップS21)。以降、制御部60は、ステップS21~S23の処理を実行するが、これらの処理は、前述のステップS11~S13と同様である。
【0030】
制御部60は、検出部40から検出信号を受信した時点におけるX座標を取得し(ステップS23)、記憶すると、熱変位量αを算出する(ステップS24)。具体的には、制御部60は、ステップS13で取得した基準位置としてのX座標からステップS23で取得したX座標を減算した値を熱変位量αとして算出する。αが正の値であれば-X軸方向にαだけ熱変位が生じている(例えば、ボールねじ82がαだけ伸びている)ことになる。一方、αが負の値であれば、+X軸方向にαだけ熱変位が生じている(例えば、ボールねじ82がαだけ縮んでいる)ことになる。
【0031】
ステップS24の実行後や、ステップS20でサチレート時間に達していると判別した場合(ステップS20;Yes)、制御部60は、工具保持部30を加工待機位置に移動させてから、ワークWの加工を開始する(ステップS25)。加工待機位置は、例えば、検出待機位置と同様の位置などであればよい。
【0032】
ステップS25におけるワークWの加工は、前述の(ワークWの加工について)で説明した手順で行われる。サチレート期間が経過していない場合(ステップS20;No)においては、ステップS24で取得した熱変位量αをそのまま補正量とし、当該補正量を加味した位置に工具保持部30を移動させることで、ワークWを加工する。
【0033】
制御部60は、1つのワークWの加工を終えると、処理をステップS20に戻す。制御部60は、加工終了の指示を示す信号を受信するまで、上記処理を繰り返し実行する。なお、複数の工具Tx,Tzのうち任意の工具を割り出す際にのみ、熱変位補正処理を実行するようにしてもよい。
【0034】
(突切り検出処理)
続いて、突切り検出処理について、
図8のフローチャートを参照して説明する。制御部60は、例えば、ワークWの加工中において突切り加工を実行した直後に突切り検出処理を開始する。
【0035】
突切り検出処理を開始すると、制御部60は、突切り加工後のワークWの加工長さが、予め定めた所定値以上か否かを判別する(ステップS31)。突切り加工後のワークWの加工長さとは、正常に突切り加工がなされ、切断された場合のワークWのZ軸方向における長さである。所定値は、突切り加工の実行時におけるワーク保持部10のZ軸方向の位置のまま、突切り検出が可能であるか否かを判別するための値である。ワークWの加工長さが当該所定値よりも短いと、検出部40の接触部41をワークWに適切に接触させることができなくなる。そのため、ワーク保持部10の位置を、突切り加工の実行時から後述のステップS33のようにZ軸方向に移動させる必要があるかを、ここで判別する。所定値は、接触部41の直径(Z軸方向の径)に若干のマージンを加えた値として予め設定される。例えば、
図5(a)に示す接触部41の直径が5mmである場合には、所定値は6.5mmに設定される。
【0036】
突切り加工後のワークWの加工長さが所定値以上である場合(ステップS31;Yes)、制御部60は、突切り加工の実行時におけるワーク保持部10のZ軸方向の位置のまま、検出を開始する(ステップS32)。
【0037】
一方、突切り加工後のワークWの加工長さが所定値未満である場合(ステップS31;No)、制御部60は、ワーク保持部10を、突切り加工の実行時における位置から+Z軸方向に移動させることで、接触部41とワークWとのZ軸方向における相対位置を、検出の際に接触部41がワークWに当接可能となる検出可能位置に調整する(ステップS33)。当該調整後に制御部60は、検出を開始する(ステップS32)。
【0038】
ステップS32で制御部60は、接触部41の先端が予め定めた設定位置となるまでの範囲で、工具保持部30を+X軸方向に移動させて突切り検出を開始する。設定位置は、ワークWの中心線Cを基準に考えた場合、ワークWの半径よりも中心線Cに数mm(例えば2mm程度)だけ近い位置である。なお、制御部60は、突切り検出を開始する際には、クーラントの供給を停止する。
【0039】
続いて、制御部60は、突切り加工が完了しているか、つまり、突切り加工が正常に行われた否かを判別する(ステップS34)。具体的に、制御部60は、工具保持部30を+X軸方向に徐々に移動させ、検出部40からON信号を受信しないまま、接触部41の先端が設定位置に到達した場合に、突切り加工が正常に行われていると判別する(ステップS34;Yes)。この場合、突切り加工に続く所定のワークWの加工を継続する(ステップS35)。
【0040】
一方、制御部60は、工具保持部30を+X軸方向に徐々に移動させ、接触部41の先端が設定位置に位置するまでに、
図5(b)に示すように接触部41がワークWに当接し、検出部40からON信号を受信した場合に、突切り加工が正常に行われていないと判別する(ステップS34;No)。このようにON信号を受信した場合は、本来切断されて無くなっているはずのワークWの一部が残っていることになる。この場合、制御部60は、ワークWの加工を停止する(ステップS36)。例えば、制御部60は、ワークWの交換を経て、再び加工開始指示を受けるまでワークWの加工を停止する。なお、ワークWの交換は、図示しないワーク交換装置により自動で行われてもよいし、手動で行われてもよい。ステップS35又はS36の実行後、突切り検出処理は終了する。
【0041】
なお、本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。
【0042】
以上の説明では、Z軸移動機構20を用いてワーク保持部10をZ軸方向に移動制御し、XY軸移動機構50を用いて工具保持部30をX軸及びY軸方向に移動制御することで、ワークWと工具Tx,Tzとの相対位置を制御する例を示したが、これに限られない。ワークWと工具Tx,Tzとの相対位置を、X、Y、Z軸の各軸方向に三次元で制御可能であれば、移動機構の構成は任意である。
【0043】
以上の説明では、熱変位量をそのまま熱変位の補正量とした例を説明したが、これに限られない。例えば、熱変位量に係数を掛けたものを熱変位の補正量としてもよい。
【0044】
以上の説明では、検出部40がタッチスイッチ(接触センサの一例)から構成される例を示したが、これに限られない。検出部40は、非接触センサであってもよい。非接触センサは、例えば、渦電流式距離測定器であり、自機の所定部と対象物であるワークWとの距離を測定し、計測値を制御部60に供給するものである。具体的には、制御部60は、渦電流式距離測定器が備えるコイルに高周波電流を流し、電磁誘導作用によってワークWの表面に渦電流を発生させることで、両者の距離に応じて変化するコイルのインピーダンスを取得し、取得したインピーダンスに基づいて前記距離を測定する。この場合、制御部60は、ステップS13及びステップS23において、予め記憶しておいた距離に、測定値が達した時点での座標を取得すればよい。また、非接触センサを用い、ステップS32において突切り検出を行う際は、制御部60は、X軸方向における測定値が予め記憶しておいた距離の範囲内である場合に、本来切断されて無くなっているはずのワークWの一部が残っているとみなし、突切り加工が正常に行われていないと判別すればよい。一方、X軸方向における測定値が予め記憶しておいた距離の範囲外である場合に、突切り加工が正常に行われていると判別すればよい。また、接触センサはタッチスイッチに限られず、非接触センサは渦電流式距離測定器に限られない。接触センサ、非接触センサともに、公知の各種センサの中から任意に選択してもよい。例えば、高精度に対象物(ワークW)までの距離を測定する非接触センサとしては、レーザ変位センサを用いることができる。非接触センサとしてレーザ変位センサを用いた場合、レーザ射出部(所定部の一例)をワークWの径方向(X軸方向)に向くようにすればよい。
【0045】
以上の説明では、制御部60は、ワーク加工を開始し(ステップS25)、1つのワークWを加工するとステップS20に処理を戻すものとしたが、これに限られない。制御部60は、複数のワークWを加工した後や所定の加工期間経過後に、ステップS20の処理に戻すものとしてもよい。また、基準位置取得処理や熱変位補正処理は、加工前のワークWに対してだけでなく、一部の加工を施した後のワークWに対して実行されてもよい。
【0046】
以上の説明では、工作機械1を多機能旋盤として説明したが、これに限られず、フライス盤、ターニングセンタ等であってもよい。
【0047】
以上に説明した工作機械1は、ワークWを回転可能に保持するワーク保持部10と、ワーク保持部10に保持されたワークWのX軸方向(径方向の一例)に先端が向く複数の工具Txであって、該ワークWに対して突切り加工を行うための突切りバイトBd(突切り工具の一例)を含む複数の工具Txを有する工具保持部30と、工具保持部30に設けられ、X軸方向に向く所定部(例えば、接触センサの場合は接触部41)を有する検出部40であって、所定部とワーク保持部10に保持されたワークWとがX軸方向において接触したこと又は所定の距離だけ接近したことを検出する検出部40と、ワーク保持部10に保持されたワークWと工具保持部30との相対位置を制御する制御手段(例えば、制御部60)と、を備える。
【0048】
(1)工作機械1において、制御手段は、X軸方向の相対位置を制御して突切り加工を行うことが可能であり、検出部40の検出結果に基づいて突切り加工がなされているか否かを判別し、検出部40の検出結果に基づいてX軸方向の熱変位を補正する。
【0049】
上記(1)の構成によれば、突切り検出と熱変位補正とを共通の検出部40を用いて行うことができ、部品点数の増加を抑制することができる。また、加工対象のワークW自体が検出部40の検出対象であるため、熱変位補正の精度が良好であり、ワークWの径方向の加工精度を高めることができる。
【0050】
ここで、前記の特許文献が開示した手法の他、突切り検出を差速方式で行う工作機械もある。当該工作機械は、ワーク保持部10と同様な構成の主軸と、当該主軸とZ軸方向において対向し、ワークを保持可能な背面主軸とを備える。当該工作機械では、ワークの一端部を主軸で把持し、当該ワークの他端部を背面主軸で把持した上で、突切り加工を行う。そして、突切り加工後に背面主軸の回転動作を停止することで、差速方式による突切り検出を行う。具体的に、背面主軸の回転が減速し、所定の減速値になった場合は、突切り加工が正常に行われたと判別する。一方、主軸と背面主軸との回転が同じとなり、背面主軸が所定の減速値にならない場合は、突切り加工が正常に行われていないと判別する。
上記(1)の構成によれば、このような差速方式による突切り検出に頼らなくて済むため、工作機械1は背面主軸を備えていなくともよい。したがって、背面主軸を備えていない簡易な構成の工作機械1においても、熱変位補正と突切り検出との双方を行うことができる。なお、工作機械1は背面主軸を備えていてもよい。
【0051】
(2)また、所定部(例えば接触部41)と突切りバイトBdとは、X軸方向において互いの先端が対向している。
【0052】
上記(2)の構成によれば、ステップS31でYesとなる場合として説明したように、突切り加工時におけるワーク保持部10のZ軸方向の位置のまま、突切り検出を行うことができる。このため、ワーク保持部10の余計な移動を減らすことができ、突切り検出にかかる時間を低減することができる。
【0053】
(3)また、複数の工具Txは、Y軸方向(鉛直方向)に互いに間隔を空けて工具保持部30に設けられ、検出部40は、Y軸方向において、突切りバイトBdよりも上方に設けられている。
【0054】
上記(3)の構成によれば、突切り加工において発生する切粉が検出部40に付着することを抑制し、検出精度の低下を防止することができる。
【0055】
(4)また、制御手段は、Z軸方向において、ワーク保持部10と工具保持部30との相対位置を制御し、突切り加工の実行後のワークWの長さが所定値以上となる場合には、突切り加工の実行時におけるZ軸方向のワーク保持部10の位置で突切り加工がなされているか否かを判別し、突切り加工の実行後のワークWの長さが所定値未満となる場合には、突切り加工の実行時におけるZ軸方向のワーク保持部10の位置を、検出部40による検出が可能な位置に調整した上で突切り加工がなされているか否かを判別する。
【0056】
上記(4)の構成によれば、突切り加工時におけるZ軸方向の位置のまま、突切り検出を行うことができるため、ワーク保持部10の余計な移動を減らすことができ、突切り検出にかかる時間を低減することができる。また、突切り加工の実行後のワークWの長さに応じて、適切に突切り検出を行うことができる。なお、上記(4)の記載における「Z軸方向のワーク保持部10の位置」とは、ワーク保持部10がベッドSに対してZ軸方向に移動可能な構成におけるワーク保持部10の位置に限られない。例えば、工具保持部30をベッドSに対してZ軸方向に移動可能とした構成を採用した場合においては、前記の「Z軸方向のワーク保持部10の位置」とは、Z軸方向に移動可能な工具保持部30に対する、Z軸方向におけるワーク保持部10の位置であってもよい。
【0057】
(5)具体的に、熱変位補正処理を実行する制御手段は、検出部40が検出したことに基づいて検出時におけるX軸方向の工具保持部30の位置を示す位置情報を取得し、各々異なる検出時に取得した複数の位置情報に基づいて熱変位を補正するための補正量を算出し、X軸方向の工具保持部30の位置を、目標位置に補正量を加味した位置に制御する。なお、この記載における「X軸方向の工具保持部30の位置」とは、工具保持部30がベッドSに対してX軸方向に移動可能な構成における工具保持部30の位置に限られない。例えば、ワーク保持部10をベッドSに対してX軸方向に移動可能とした構成を採用した場合において、前記の「X軸方向の工具保持部30の位置」とは、X軸方向に移動可能なワーク保持部10に対する、X軸方向における工具保持部30の位置であってもよい。
【0058】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0059】
1…工作機械
S…ベッド
W…ワーク、C…中心線
10…ワーク保持部
20…Z軸移動機構
30…工具保持部、31…ワーク挿通部
32…工具取付部
Tx…複数の工具
B…バイト、Bd…突切りバイト、R…回転工具
40…検出部、41…接触部
50…XY軸移動機構
60…制御部