(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-15
(45)【発行日】2022-06-23
(54)【発明の名称】マイクロメカニカル振動子、及びマイクロメカニカル振動子をトリムする方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/24 20060101AFI20220616BHJP
H03H 3/013 20060101ALI20220616BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H03H9/24 Z
H03H3/013
B81B3/00
(21)【出願番号】P 2018568297
(86)(22)【出願日】2017-06-29
(86)【国際出願番号】 FI2017050487
(87)【国際公開番号】W WO2018002440
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-05-29
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】517438158
【氏名又は名称】テクノロジアン テュトキムスケスクス ヴェーテーテー オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤーッコラ、アンッティ
(72)【発明者】
【氏名】ペンサラ、トゥオマス
(72)【発明者】
【氏名】オヤ、アールネ
(72)【発明者】
【氏名】ペッコ、パヌ
(72)【発明者】
【氏名】デッカー、ジェイムズ アール.
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/108125(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/185281(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/088696(WO,A1)
【文献】特表2012-510234(JP,A)
【文献】特開2008-105112(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108124(WO,A1)
【文献】特表2014-519260(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0273061(US,A1)
【文献】国際公開第2014/185280(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B1/00-B81B7/04
B81C1/00-B81C99/00
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ、幅、及び厚みを有する振動子素子を備えたマイクロメカニカル振動子であって、前記長さ及び前記幅は前記振動子素子の平面を定める、マイクロメカニカル振動子において、
前記振動子素子は、
半導体材料で作製された第1の層を備えたベース層構造と、
前記ベース層構造の上部の第2の層であって、前記振動子素子の最上層を形成している前記第2の層と
、
を備えた化合物であり、
前記第1の層及び前記第2の層の周波数の線形温度係数TCFは、反対符号を有し、
前記第2の層は、前記振動子素子の平面内に少なくとも1つの周波数調整領域と少なくとも1つのTCF調整領域とを有し、
前記第2の層の前記少なくとも1つの周波数調整領域の厚さと前記少なくとも1つのTCF調整領域の厚さとはそれぞれ異なり、
前記少なくとも1つの周波数調整領域の厚さと前記少なくとも1つのTCF調整領域の厚さとが、目標値に対する前記振動子の周波数の偏差に応じて、および目標値に対する前記振動子の前記周波数の前記線形温度係数TCFの偏差に応じて調整されるように構成されている、振動子。
【請求項2】
前記第2の層は、モリブデンで作製され、又は前記第2の層は、前記第1の層の上部に堆積されたポリシリコンの形態である、請求項1に記載の振動子。
【請求項3】
長さ、幅、及び厚みを有する振動子素子を備えたマイクロメカニカル振動子であって、 前記長さ及び前記幅は前記振動子素子の平面を定める、マイクロメカニカル振動子において、
前記振動子素子は、
第1の層及び第2の層からなるモノリシック・ケイ素構造
を有する半導体材料で作製されており、前記第1の層及び前記第2の層が、前記モノリシック・ケイ素構造内で異なるドーピングレベルを有する層で形成されて
おり、
前記第2の層は、前記振動子素子の平面内に少なくとも1つの周波数調整領域と少なくとも1つのTCF調整領域とを有し、
前記第2の層の前記少なくとも1つの周波数調整領域の厚さと前記少なくとも1つのTCF調整領域の厚さとはそれぞれ異なり、
前記少なくとも1つの周波数調整領域の厚さと前記少なくとも1つのTCF調整領域の厚さとが、目標値に対する前記振動子の周波数の偏差に応じて、および目標値に対する前記振動子の前記周波数の前記線形温度係数TCFの偏差に応じて調整されるように構成されている、振動子。
【請求項4】
前記
1つの周波数調整領域は、
前記振動子素子の前記平面内の前記振動子素子の周辺領域内に周波数調整領域を備える、請求項1から3までのいずれか一項に記載の振動子。
【請求項5】
前記周波数調整領域の表面積は、前記振動子の前記平面内の前記振動子の断面の全表面積の20%以下である、請求項4に記載の振動子。
【請求項6】
複数のマイクロメカニカル振動子を備えるウェハであって、前記
マイクロメカニカル振動子は、請求項1から5までのいずれか一項に記載の少なくとも1つのマイクロメカニカル振動子を備え、前記振動子の少なくとも1つの振動子素子における領域の少なくとも1つの厚みは
、前記領域の前記厚みがあるように別の振動子における対応する領域の厚みとは異な
り、前記振動子の少なくとも1つの振動子素子における領域の少なくとも1つの厚さが、他の振動子における対応する領域の厚さと異なり、前記領域の厚さが、前記振動子の周波数が互いに所定の範囲内になるように、および/または前記振動子の温度線形係数TCFが互いに所定の範囲内になるようになっているウェハ。
【請求項7】
前記周波数調整領域の調整された厚さは、前記振動子の前記周波数が互いに±100ppmの範囲内になるように、および/または前記振動子の前記温度線形係数TCFが互いに0.1ppm/℃の範囲内になるようになされている、請求項6に記載のウェハ
。
【請求項8】
長さ、幅、及び厚みを有する振動子素子を備えたマイクロメカニカル振動子であって、前記長さ及び前記幅が前記振動子素子の平面を定めるマイクロメカニカル振動子をトリミングする方法において、
前記振動子素子は、化合物であり、当該化合物は、
(a)半導体材料からなる第1の層を備えるベース層構造と、(b)前記振動子素子のベース層構造の上部の第2の層とを備えており、当該第2の層は、前記振動子素子の最上層を形成しており、前記第1の層及び前記第2の層の周波数の線形温度係数TCFは、反対符号を有しており、
前記方法は、
少なくとも1つの周波数調整領域と少なくとも1つのTCF調整領域とを、第2の層の少なくとも1つの部分の厚さを変えることによって、前記振動子素子の平面内で調整するステップであって、前記少なくとも1つの周波数調整領域の厚みと前記少なくとも1つのTCF調整領域の厚みとは、それぞれ異なり、前記少なくとも1つの周波数調整領域の厚みと前記少なくとも1つのTCP調整領域の厚みとは、目標値に対する前記振動子の周波数の偏差に応じて、および目標値に対する前記振動子の前記周波数の線形温度係数TCFの偏差に応じて調整される、ステップを含む、方法。
【請求項9】
前記
少なくとも1つの周波数調整領域の厚みと前記少なくとも1つのTCF調整領域の厚みの差は、所望の値からの前記振動子素子の周波数の前記線形温度係数TCFの偏移に応じて調整される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記
少なくとも1つの周波数調整領域と前記少なくとも1つのTCF調整領域の形状及び位置は、前記振動子周波数に対しての前記
少なくとも1つの周波数調整領域の厚みと前記少なくとも1つのTCF調整領域の厚
みとの差の影響が最小にされるように選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも
1つの周波数調整領域を前記形成するステップは、
前記振動子素子の前記平面内の前記振動子素子の周辺領域に周波数調整領域を形成するステップであって、前記周波数調整領域の表面積は、前記周波数調整領域の厚みを調整することによって設定された偏移範囲内で、前記表面積が前記振動子周波数の任意の偏移に到達するのに十分大きいように選択される、形成するステップと、
前記振動子周波数の前記偏移に応じて前記周波数調整領域の前記厚みを調整するステップとを含む、請求項
8から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記振動子素子の前記
少なくとも1つの周波数調整領域と前記少なくとも1つのTCF調整領域を形成するために、前記第2の層か
ら物質を除去するステップと
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記物質を除去するステップは、レーザ・アブレーション又はイオン・ビーム・トリミングを用いることで実行される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロメカニカル振動子及び発振器に関し、より詳細には、振動子及び発振器の周波数及び周波数温度係数の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
理想的ではない状態(non-idealities)(例えば、材料層の厚みのばらつき、並びにパターニング・プロセス及びエッチング・プロセスの不均一性)の製造により、振動子の周波数及び周波数温度係数(TCF;Temperature Coefficient of Frequency)は、その目標値からから外れる場合がある。高精度のタイミング応用については、これらの特性は、この応用に応じた精度で、何らかのやり方で補正されなければならない可能性がある。しかしながら、これらのゴールに経済的に到達するのは困難であり得る。
【0003】
水晶振動子は、周波数を測定することによって、並びに周波数を監視しつつ金電極の一部をエッチングする及び/又は金電極の一部をレーザでトリムすることによって、正しい周波数へ個別にトリムすることができる。シリコン・ベースのマイクロメカニカル振動子では、振動子の周波数及び温度の挙動は、メモリに記録することができ、ASIC上の周波数シンセサイザは、不正確な振動子周波数はそのままとして、所望の発振周波数を発生させるために使用することができる。しかしながら、この手法の欠点は、消費電力の増加、及び位相ノイズ性能の低下である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記不都合を少なくするように、マイクロメカニカル振動子素子、及び振動子をトリムする方法を提供することである。本発明の目的は、独立請求項に記載したものを特徴とする振動子及び方法によって達成される。本発明の好ましい実施例は、従属請求項に開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
振動子の周波数及びTCFは、パターン付け状態(patterned way)の振動子の上部から材料を除去することによって、すなわち、振動子の上部の異なる場所から材料を除去するようにして、互いから独立して調整することができる。TCFは、振動子の中央における中央の最適なサイズに形成された領域から材料を除去することによって調整することができる。サイジングを最適化することによって、TCFは、振動子周波数に影響を及ぼすことなく変更することができる。一方、振動子周波数は、振動子縁部付近の周辺領域内の材料を除去することによって調整することができ、この場合、TCFは、全く影響を受け得ない。パターン形成された材料の除去は、例えば、レーザ・アブレーション又はマスク式のイオン・ビーム・エッチングに基づくことができる。
【0006】
本開示による振動子素子は、例えば2つの連続したトリミング・ステップを用いて、共振周波数及びTCFを互いから独立して調整することを可能にする。これは、調整プロセスをかなり簡略化することができる。さらに、本開示による振動子素子によって、マイクロメカニカル振動子は、能動的PLLベース周波数合成を必要としない完全に受動的な構成部品として製造されることが可能になる。結果として、マイクロメカニカル振動子は、クオーツ結晶に適合するピンツーピンで形成することができる。
【0007】
以下において、本発明を、下記添付図面を参照して好ましい実施例によってより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】面内伸長モード振動子スタック(in-plane extensional mode resonator stack)の例示的な断面図である。
【
図2a】本開示による長さ伸長板振動子(length-extensional plate resonator)の周波数調整領域の例示的な長手方向断面図である。
【
図2b】
図2aの振動子素子の単純化されたばね質量類推を示す図である。
【
図3a】振動子周波数に関する少なくとも2つの領域の表面積間の比の例示的な影響を示す図である。
【
図3b】振動子周波数に関する少なくとも2つの領域の表面積間の比の例示的な影響を示す図である。
【
図3c】振動子周波数に関する少なくとも2つの領域の表面積間の比の例示的な影響を示す図である。
【
図3d】振動子周波数に関する少なくとも2つの領域の表面積間の比の例示的な影響を示す図である。
【
図4a】振動子素子における様々な厚みを有する領域の形状及び位置を選択する別の手法を示す図である。
【
図4b】振動子素子における様々な厚みを有する領域の形状及び位置を選択する別の手法を示す図である。
【
図4c】振動子素子における様々な厚みを有する領域の形状及び位置を選択する別の手法を示す図である。
【
図4d】振動子素子における様々な厚みを有する領域の形状及び位置を選択する別の手法を示す図である。
【
図4e】振動子素子における様々な厚みを有する領域の形状及び位置を選択する別の手法を示す図である。
【
図5a】本開示による例示的なLEモード・ビーム振動子を示す図である。
【
図5b】本開示による例示的なLEモード・ビーム振動子を示す図である。
【
図6a】本開示による例示的なプレート振動子を示す図である。
【
図6b】本開示による例示的なプレート振動子を示す図である。
【
図6c】本開示による例示的なプレート振動子を示す図である。
【
図7】
図5aに示したパターンを補完するパターンを使用する例示的な振動子構成を示す図である。
【
図8】ベース層のみを備えた振動子素子の例示的な断面図である。
【
図9】本開示による振動子の例示的な実施例の断面図である。
【
図10a】本開示による振動子素子の例示的な断面図である。
【
図10b】本開示による振動子素子の例示的な断面図である。
【
図10c】本開示による振動子素子の例示的な断面図である。
【
図10d】本開示による振動子素子の例示的な断面図である。
【
図11a】本開示による振動子素子の例示的な上面図である。
【
図11b】本開示による振動子素子の例示的な上面図である。
【
図11c】本開示による振動子素子の例示的な上面図である。
【
図11d】本開示による振動子素子の例示的な上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、マイクロメカニカル振動子、及びそのような振動子をトリムする方法を説明する。本開示は、マイクロメカニカル振動子のための振動子素子をさらに説明する。
【0010】
本開示によるマイクロメカニカル振動子は、支持構造と、この支持構造に懸架された振動子素子とを備える。この振動子素子は、長さ、幅、及び厚み(すなわち、高さ)を有する。これらの寸法の各々は、互いに直交するように定めることができる。長さ及び幅は、振動子の平面を定めるとみなすことができる。典型的には、振動子の平面は、振動子デバイスが製造されているウェハと同じ平面にある。厚みは、振動子の平面に直交して延びることができる。長さ及び幅が等しくないとき、長さが、より長い寸法を表し得る。長さ及び幅は、例えば、数百マイクロメートル(μm)の範囲内にあり得る。厚みは、例えば、数(>3)マイクロメートルから数十マイクロメートルの範囲内にあり得る。
【0011】
振動子素子は、例えば、ビーム又はプレートの形態であり得る。用語「ビーム」は、面内のアスペクト比(長さ対幅)が少なくとも5である振動子素子を指すとみなすことができる。典型的には、アスペクト比は、少なくとも10である。用語「アスペクト比」は、振動子の第1の面内寸法(すなわち、振動子の平面内に延びる第1の寸法)と第1の面内寸法に直交する振動子の第2の面内寸法との得ることができる最大の比を意味する。代替として、振動子素子は、振動子の平面内の振動子素子の主軸の方向に延びるプレートであってもよい。本開示の文脈において、素子の「主軸」は、素子の延伸及び/又は対称の軸を意味する。例えば、長方形又は正方形の主軸は、振動子の平面内で向けられているとともに、その対称軸と一致する。ビームの主軸は、ビームの縦長の方向に沿っている。振動子素子の主軸は、振動子デバイスが製造されているウェハの[100]結晶方向と整合することができ、又は[100]結晶方向から25度未満だけ外れることができる。
【0012】
プレートは、振動子の平面内に長方形形状を有してもよい。例えば、これは、正方形のプレートであってもよい。プレートは、多角形、円形、又は楕円形とすることもできる。そのようなプレートのアスペクト比(長さ対幅)は、5未満である。プレートは、振動子の平面に平行に延びる上面(すなわち、「上部」)と下面(すなわち、「下部」)とを有することができる。
【0013】
振動子は、少なくとも1つのアンカーによって支持構造に懸架することができる。本開示の文脈において、振動子を「懸架する」は、その少なくとも一部が所望の共振モードで支持構造に対して移動可能であるように振動子を固定することを意味する。懸架は、振動子の一部を支持構造に直接又は1つ又は複数のアンカー要素を介して連結することによって行うことができ、典型的には、複数のアンカー要素は、支持構造と振動子の間の狭いブリッジである。振動子の懸架は、所望の共振モードが振動子素子に出現することを可能にする任意の適切な位置で実行することができる。
【0014】
振動子素子は、例えば、伸長モード、屈曲モード、又はねじれモードで(優勢に)共振するように構成することができる。プレート振動子素子では、共振モードは、例えば、正方形伸長(SE:square extensional)モード、長さ伸長モード(LE:length extensional)、幅伸長(WE:width extensional)モード、又は屈曲モードであり得る。ビーム振動子素子において、振動子モードは、例えば、伸長モード、屈曲モード、又はねじれモードであり得る。
【0015】
振動子素子は、モノリシック(すなわち、単一材料製)であり得る。例えば、振動子素子は、半導体材料から作製されてもよい。例えば、半導体材料は、ケイ素であってもよい。例えば、振動子は、静電容量型振動子(ケイ素のみで作製される振動子)であってもよい。半導体材料は、ノンドープ、均一なドープであってもよく、又は異なるドーピングを伴う複数層を備えてもよい。
【0016】
代替として、モノリシック構造の代わりに、振動子素子は、化合物構造であってもよい。例えば、振動子素子は、1種類又は複数種類の異なる材料の1つ又は複数の追加の層が(例えば、めっき又は成長によって)上に追加されているベース・ビーム又はプレートを備えてもよい。例えば、振動子は、追加の層がピエゾアクティブ励起手段(piezoactive excitation means)として働く圧電駆動式振動子であってもよい。例えば、振動子素子は、窒化アルミニウム(AlN)層と、ケイ素ベース層の上部に加えられたモリブデン(Mo)層とで構成することができる。窒化アルミニウム(AlN)層は、圧電層として働くことができ、モリブデン(Mo)層は、電極層として働くことができる。
【0017】
理想的ではない状態を製造するので、振動子の周波数及びTCFは、その目標値から外れ得る。周波数の典型的な変動(標準偏差)は、周波数の所望の値から500~1000ppm(parts per million)であり得るとともに、TCFの典型的な変動は、TCFの所望の値から+-0.5ppm/℃であり得る。高精度のタイミング応用については、これらの値は、この応用に応じた精度で、何らかのやり方で補正されなければならない可能性がある。例えば、いくつかの応用では、望ましい周波数偏移は、+/-100、又は好ましくは、+/-20ppm内であり得るとともに、及び望ましいTCF偏移は、少なくとも0.1ppm/℃内であり得る。
【0018】
本開示の文脈において、温度係数は、線形TCF、すなわち、所定の温度(例えば、25C)で定められる周波数対温度の特性曲線の1階微分を指す。二次TCF(すなわち、2階TCF)は、所定の温度(例えば、25C)で定められた周波数対温度の特性曲線の2階微分である。線形で二次のTCF項は、所定の温度、典型的には室温(25℃)で定めることができる。二次の温度係数からの影響は、線形TCFからの影響に比較して無視しても構わないと考えることができ、本開示ではさらには説明しない。理想的には、線形TCFはゼロにされる。本文脈における線形TCFを「ゼロにする」という用語は、予め定められたレベルよりも低い線形TCFの絶対値の減少を意味する。
【0019】
振動子周波数及びそのTCFをトリムする手法の1つは、ノンパターンド・トリミング(non-patterned trimming)(すなわち、振動子の上部からの材料の均一な除去を用いることである。しかしながら、この手法では、周波数の変化は、TCFの変化に結び付いている。
図1は、例示的な面内伸長モード振動子スタックの断面を示す。このスタックは、3つの層、すなわち、ケイ素(Si)ベース層10、窒化アルミニウム(AlN)層11、及びモリブデン(Mo)層12を備える。Si、AlN、及びMo層の厚みは、それぞれ15/0.8/0.3μmである。
図1において、100nmまでの上部モリブデンの除去は、振動子の電気性能を低下させない(初期の厚みの30%)。振動子について並列なばね質量の近似を用いることによって、個々の層特性f
i、TCF
i、及びm
iの関数としての周波数f及びTCFについての以下の質量加重平均を使用することができる。
【0020】
【0021】
例えば、+/-3000ppmの範囲内で振動子周波数の偏移を補正できることが望ましい。TCFについての同様の偏移範囲は、+/-0.5ppm/℃程度であり得る。以下の表1は、
図1のモリブデン(Mo)層から材料を除去することによって引き起こされる例示的な影響を示す。表1において、周波数の変化df、及びTCFの変化dTCFは、除去されたモリブデンの関数として示されている。
【0022】
【0023】
表1において、最大100nmの上部モリブデンの除去に関して、周波数又はTCFの所望のレベルの変化を達成することができる。しかしながら、周波数変化とTCF変化の間の結びつきは、明らかである。例えば、約3000ppmの周波数シフトが所望される場合、約50nmのモリブデンが、除去されなければならない。しかしながら、これによって0.4ppm/℃のTCFの変化がもたらされる。
【0024】
TCF変化から周波数変化を切り離すために、本開示によるパターンド・トリミング方法を使用することができる。本開示によるこの方法は、振動子の平面内で振動子素子に少なくとも2つの領域を形成することによってパターンド・トリミングを実施することができる。少なくとも2つの領域は、異なる厚みを有することができる。これらの厚みは、目標値に対しての振動子周波数の偏移及び/又は目標値に対しての振動子周波数の線形温度係数の偏移に応じて選択することができる。
【0025】
例えば、少なくとも2つの領域は、1つ又は複数の中央領域及び1つ又は複数の周辺領域の形態であり得る。中央領域/複数の中央領域は、周辺領域/複数の周辺領域よりも振動子素子の(長さ方向及び幅方向の対称軸と一致し得る)重心に近いとみなすことができる。中央領域は、振動子素子の重心の中央に置くことができる。振動子の平面において、中央領域は、長方形形状を有してもよい。代替として、中央領域又は複数の中央領域は、異なる対称的な形態を有することができる。
【0026】
対照的に、周辺領域又は複数の周辺領域は、中央領域よりもビーム構造の重心からさらに遠い振動子縁部付近に配置されると考えることができる。本開示による振動子素子は、複数の周辺領域を備えることができる。例えば、2つの周辺領域は、中央領域の2つの対向した側面に配置することができる。代替として、周辺領域は、中央領域の周りに均一なループ形状の領域を形成することができる。周辺領域又は複数の周辺領域は、振動子素子の長さ方向対称軸及び幅方向対称軸に対して対称的であり得る。
【0027】
本開示による振動子及び方法の第1の態様では、振動子は、振動子素子の少なくとも1つの周辺領域内の周波数調整領域を形成することを含むパターンド周波数調整トリム(patterned frequency adjustment trim)でトリムすすることができる。
図2aは、本開示による長さ伸長板振動子の周波数調整領域の例示的な長さ方向断面を示す。
図2aには、
図1の構造に類似する振動子素子が示されている。しかしながら、構造の縁部の近くの材料は、除去されており、それによって、明確な周波数調整領域20を形成する。
【0028】
図2bは、
図2aの振動子素子の単純化されたばね質量類推を示す。
図2bにおいて、2本のばね21が直列に接続されている。2つの質量体(mass)22は、ばね21の自由端で接続されている。類推によれば、プレート振動子素子の中心領域は、伸びるが、あまり移動しないのに対して、プレート振動子の周辺領域は、移動するが、あまり伸びない。振動子の縁部における材料は、大抵、質量要素として働き、ばねへのその寄与は、無視しても構わないと考えることができる。
【0029】
温度依存性は、ばね部分に由来すると考えられ得る。したがって、プレート振動子の厚みが振動子の周辺の近くの領域からにおいてのみ調整される場合、振動子の周波数は、TCFから独立して調整することができる。周波数調整領域の表面積は、上記表面積が、周波数調整領域の厚みを調整することによって設定偏移範囲内で任意の振動子周波数の偏移に到達するのに十分大きいように選択することができ、周波数調整領域の厚みは、振動子周波数の偏移に応じて調整することができる。
【0030】
同時に、表面積は、周波数調整領域が、振動子素子の線形TCFに対して無視しても構わない影響のみを有するように十分小さいように選択することができる。例えば、周波数調整領域の表面積は、振動子の平面内の振動子の断面の全表面積の20%以下(好ましくは、10%以下)であり得る。
図2において、周波数調整領域20の長さl
2の合計は、プレート振動子の全長l
1の10%であり得る。表2は、
図2の振動子周波数の変化dfの例示的な値を除去されたモリブデンの関数として示す。表2は、100nmの材料除去の場合、約3000ppmの変化が、(TCFに対して無視しても構わない影響のみを伴って)実現できることを示す。
【0031】
【0032】
本開示による振動子及び方法の第2の態様では、中央領域/複数の中央領域の厚み及び周辺領域/複数の周辺領域の厚みは、目標値に対する振動子周波数の温度係数の偏差に応じて選択することができる。
【0033】
振動子の振動子素子は、第1の層を備えたベース層構造を備えることができる。振動子素子は、ベース層構造の上部に第2の層をさらに備えることができる。第1の層の材料、及びこの第1の層の上部の第2の層の材料は、第1の層及び第2の層の線形温度係数が反対符号を有するように選択することができる。代替として、反対符号の線形TCF値を有する第1の層及び第2の層が、モノリシック振動子構造の中に形成されてもよい。線形TCF値は、第1の層と第2のものの間で鋭く変化することができ、又はTCF値は、徐々に変化することができる。この文脈において、振動子素子の層(又は領域)の「線形TCF値」(すなわち、「線形温度係数」)という用語は、それが前記層の材料で完全に作製された場合に、振動子素子の線形TCFが有することを指す。言い換えれば、「線形TCF値」は、同様の共振モードで共振する同様の寸法で作製された振動子素子の線形TCFを指すが、前記層の材料のみで作製されている。本開示において、用語「線形TCF値」及び「線形温度係数」は、交換可能に使用することができる。
【0034】
振動子素子が、反対符号の線形TCF値を有する第1の層と第2の層とを有するとき、2つの層のTCF値は、互いを補償する。第1の層は、例えば、ケイ素又は他の半導体材料で作製することができる。その線形TCFは、例えば、+10ppm/℃あたりであり得る。第2の層は、モリブデンなどの金属で作製された電極層であり得る。モリブデン層の線形TCFは、例えば、-30ppm/℃あたりであり得る。しかしながら、第1及び第2の層は、他の材料で作製されてもよい。例えば、第1及び第2の層は、共に同じであり得る、又は可能な異なるドーピングを有する異なる半導体材料であり得る。
【0035】
第2の層は、振動子素子の平面内に少なくとも2つの領域を備えることができる。少なくとも2つの領域は、異なる厚みを有することができる。例えば、少なくとも2つの領域は、少なくとも1つの第2の層の少なくとも1つの部分の厚みを変化させることによって形成することができる。
【0036】
少なくとも2つの領域の厚み間の差は、ゼロなどの所望の値からの線形温度係数の偏移に応じて調整することができる。TCF調整は、振動子周波数に影響を及ぼすことなく、達成することができる。少なくとも2つの領域の形状及び位置は、振動子周波数に対しての少なくとも2つの領域の厚み間の差の影響が最小にされるように選択することができる。
【0037】
図3aから
図3dは、本開示による方法の第2の態様の例示的な実施例を示す。
図3aは、本開示による振動子素子の例示的な断面を示す。振動子素子は、対称軸Aに対して対称的であり、したがって、断面の半分だけが示されている。
図3aは、半導体材料で作製された第1の層と、ベース層構造30の上部の第2の層31とを備えたベース層構造30を示す。
図3aの第1の寸法l
1は、振動子のビーム長さの(半分)を示し、第2の寸法l
2は、除去されている第2の層31の一部、すなわち、穴のサイズを示す。
図3aの振動子は、例えば、厚さ15μmのケイ素ビームをベース層構造30として有するとともに、厚さ0.3μmのモリブデン層を第2の層31として有するLEモード振動子であり得る。代替として、ベース層構造30は、Si+AlNのスタック(又は任意の他のより複合的な化合物振動子)であり得る。
【0038】
図3bは、
図3aの振動子の変更された表面積(又は長さl
2)の関数として振動子周波数変化の仕方を示す。この図は、数的な有限要素シミュレーションに基づいている。最初に、
図3bでは、第2の層31は存在しない。振動子は、初期の第1の周波数f
1で共振する。第2の層31が追加されるとき、振動子は、初期の周波数f
1よりも低い新たな第2の周波数f
2で共振する。これは、
図3bの点aによって視覚化される。材料が、振動子の中央から除去される(すなわち、l
2がゼロから増加し始める)とき、周波数は、そこで第2の層31の残りの部分が質量体としてより働くときにさらに減少する。これは、
図3bの点bによって視覚化される。しかしながら、より多くの材料が第2の層31から除去される(すなわち、l
2がさらに増加する)場合、より小さい質量負荷が存在するので、振動子の周波数は上昇し始める。最終的に、第2の層全体が除去されたときに、周波数は、初期の周波数f
1に後戻りする。これは、
図3bの点cによって視覚化される。したがって、点bと点cの間のある値で、穴のサイズは、振動子が第2の周波数f
2で共振する値を有する。これは、
図3bの点Sによって視覚化される。
図3aの振動子において、最適な穴のサイズl
2=Sは、ビーム長さの75%であった。
【0039】
図3aにおいて、第2の層31の総厚みは、穴範囲l
2から除去されている。しかしながら、対称性の理由のために、第2の層の(総厚み300nmから100nmなどの)部分的な除去は、同様に働く。
図3cは、第2の層31の厚みの一部のみが除去される振動子素子の例示的な断面を示す。
図3cにおいて、厚みh
1の穴が、第2の層31に形成されている。長さ方向の向きに、穴は、
図3a及び
図3bに示されているのと同様に振動子の周波数を維持するサイズl
2を有する。シミュレーションでは、穴のサイズl
2が最適な75%のビーム長さであると仮定すると、0.6ppm/℃の変化は、第2の層31の100nmの除去のために計算された。これは、TCFを調整する十分な能力を与える。この結果は、(穴のサイズl
2がビーム長さl
1の100%である)第2の層の全部が除去される同様の場合と比較された。TCF変化は、5%未満だけ増加した。
【0040】
対称性の理由のために、振動子周波数を一定に維持しつつ、TCFを修正するために、補完的なパターンを形成することも可能である。例えば、
図3a及び
図3cの構成と補完的であるパターンを形成することが可能であり、これは、TCFのみに対して影響を有しつつ、振動子周波数を維持する。この文脈において、2つのTCF修正パターンは、それらがそれらの中央領域と周辺領域の間に同じ境界を有するときに補完的である。しかしながら、中央領域の厚みと周辺領域の厚みとの間の関係は、逆になっている。言い換えれば、パターンが、周辺領域の厚みよりも大きい中央領域の厚みを有する場合、補完的なパターンにおける対応する中央領域の厚みは、補完的なパターンにおける対応する周辺領域の厚みよりも小さい。
図3dは、2つの補完的なパターンを示す。両パターンは、境界Bによって定められる中央領域及び周辺領域を定める。しかしながら、
図4dの上側パターンにおいて、中央領域は、より小さい厚みを有するのに対して、
図4dのより小さいパターンにおいて、周辺領域はより薄い。
【0041】
図4aから
図4eは、少なくとも2つのTCF修正領域の形状及び位置を選択するわずかに異なる手法を示す。形状及び位置は、振動子周波数に関しての少なくとも2つの領域の厚み間の差の影響を最小にするように選択することができる。
図4aは、
図3aと同様である例示的な断面を示す。例えば、基本的な構造及び層の材料は、
図3a及び
図3bにおけるのと同じであり得る。
図4aは、第1のベース層構造40と、このベース層構造40の上部の第2の層41とを示す。
図3aから
図3dと同様に、第2の層31が均一であるとき、振動子は、新しい第2の周波数f
2で共振する。
【0042】
しかしながら、
図3aとは対照的に、第2の層41の部分は、
図4aの振動子素子の中央領域と周辺領域の両方において除去することができる。
図4aの第1の寸法l
1は、振動子のビーム長さの(半分)を示す。第2の寸法l
2は、中央領域から除去される第2の層41の第1の部分を示す。第3の寸法l
3は、周辺領域から除去される第2の層41の第2の部分を示す。
【0043】
第3の寸法l
3がゼロである場合、
図4aの構成は、
図3aの構成に対応する。したがって、
図3bに関して説明したように、初期の周波数f
1よりも低い振動子周波数を生成する第2の寸法l
2について値を見つけることが可能である。一方で、第3の寸法l
3が(l
2を一定に維持しつつ)ゼロから増加し始める場合、振動子の周波数は、第2の層41の残りの部分がどんどん小さくなるときに、いくつかの点で第1の周波数f
1に近づき始める。最終的に、第2の層41全体が除去される場合、結果として得られる振動子周波数は、第1の周波数f
1である。結果として、第2の寸法l
2及び第3の寸法l
3が共にゼロでない一方、結果として得られる振動子周波数が第2の周波数f
2に対応する構成を見つけることが可能である。
【0044】
図3dと同様に、
図4aの構成のための補完的なパターンの使用を見つけることもできる。
図4bは、本開示による振動子素子のそのような補完的なパターンの例示的な断面を示す。第2の層41は、
図4bの2つの部分にある。
図4bの第1の寸法l
1は、振動子のビーム長さの(半分)を示す。第2の寸法l
2は、除去される第2の層31の部分、すなわち、穴のサイズを示す。第3の寸法l
3は、断面の平面内の対称軸Aからの穴の距離、すなわち、穴の距離を示す。
図4cは、
図4bの第2の寸法(すなわち、穴のサイズ)及び第3の寸法l
3(すなわち、穴の距離)を変える効果の数的な有限要素シミュレーションに基づいた簡単化された図を示す。
図4cは、第3の寸法l
3の関数としての5つの異なる穴のサイズ(l
2=10、15、20、25、及び30μm)についての曲線を示す(l
3に対する任意のオフセットは、異なる曲線に加えられていて同じグラフ上にそれらを明確に示すようになっていることに留意されたい)。
図4cは、結果として得られる振動子周波数が第2の周波数f
2である(異なる穴のサイズ及び穴の距離を有する)複数の構成を見つけることが可能であることを示す。
【0045】
さらに、
図4a及び
図4bは、第2の層41をその全厚みについて除去することを示すが、
図3c及び
図3dと同様に第2の層の厚みの一部だけを除去することも可能である。
図4d及び
図4eは、第2の層41の部分的な除去の実例を示す。
図4dは
図4aに対応し、
図4eは
図4bに対応する。
図4dは、第2の層41の総厚みの一部h
1及びh
2だけが除去されていることを示す。一部h
1及びh
2は、同じであってもよく、又はそれらは互いに異なっていてもよい。
図4eは、第2の層41の総厚みの一部h
1だけが除去されていることを示す。
【0046】
上記の原理に基づいて、マイクロメカニカル振動子のTCF及び周波数を互いから独立して制御することが可能である。トリミング・プロセスは、TCFのみ又は周波数のみをトリムすることを含むことができる。代替として、TCFと周波数の両方が、トリムされてもよい。以下の段落において、本開示によるマイクロメカニカル振動子のいくつかの実施例がより詳細に説明される。
【0047】
図5a及び
図5bは、本開示による例示的なLEモード・ビーム振動子を示す。
図5aには、ビーム振動子の断面が示されている。
図5bは、ビーム振動子の上面図を示す。ビームは、(
図5bに示した)長さ軸Lに沿って延び、ビームの両端部上に中央領域52及び周辺領域53を備える。ビームの長さは、
図5aのl
1である。中央領域52は、第2の層51の厚みの一部へ延びる穴を形成する。穴のサイズは、l
2である。上記原理に基づいて、中央領域52と周辺領域53との間の比を見つけることが可能であり、そこで、中央領域52の厚みへの変化(又は、代替として、周辺領域53への変化)は、ビームの線形TCFを変えるが、その周波数に関して無視しても構わない(又は存在しない)影響のみを有する。
【0048】
図5a及び
図5bは、周辺領域が、周波数調整領域54をさらに備えることを示す。周波数調整領域54は、ビームの端部に位置する最外部領域である。周波数調整領域54の表面積は、前記表面積が、周波数調整領域の厚みを調整することによって所望の偏移範囲内で振動子周波数の何らかの偏移に到達するのに十分大きいように選択される。同時に、しかしながら、周波数調整領域54は、(全部において検出可能である場合)周波数調整領域54内の厚みの変化が、無視しても構わないTCFに対する影響だけを有するように十分小さい。
【0049】
図5a及び
図5bは、ある寸法特徴を有すると考えられ得るLEモード・ビーム振動子を示す。しかしながら、上記原理は、2つの寸法特徴を有するマイクロメカニカル振動子に適用可能でもある。例えば、振動子は、LE、SE、又はWEモードで動作するように構成されたプレート振動子であってもよい。
図6aから
図6cは、本開示によるいくつかの例示的なプレート振動子を示す。
【0050】
例えば、
図6aは、例示的なWEモード・プレート振動子を示す。
図62のプレート振動子のその幅軸Wに沿った断面は、
図5aに示した断面に類似し得る。
【0051】
図6bは、例示的なSEモード・プレート振動子を示す。振動子は、長方形の中央領域62bと、中央領域の周りに長方形のループを形成する周辺領域63bとを有する。周辺領域63bは、周波数調整領域64bを備える。例えば、
図6bのプレート振動子のその幅軸W及び/又はその長さ軸に沿った断面は、
図5aに示した断面に類似し得る。
【0052】
図6bは、例示的なSEモード・プレート振動子を示す。この振動子は、卵形の中央領域62cと、この中央領域の周りにループを形成する周辺領域63cとを有する。周辺領域63cは、周波数調整領域64cを備える。例えば、
図6cのプレート振動子のその幅軸W及び/又はその長さ軸に沿った断面は、
図5aに示された断面と同様であり得る。
【0053】
TCFトリムについての補完的なパターンに関しては、補完的なパターンを利用する振動子構成の例示的な実施例は、次に説明される。
図7は、
図5aに示されたパターンに補完的であるパターンを使用する例示的な振動子構成を示す。
図7において、振動子素子は、第1のベース層構造71と、このベース層構造71の上部に形成された第2の層72とを備える。本開示によるパターンは、振動子素子の第2の層72の厚みを局所的に修正することによって形成されたものである。振動子素子は、中央領域72と、周辺領域73とを備える。
図5aとは対照的に、中央領域72は、周辺領域73よりも厚い。
【0054】
一見すると、
図5aの示されたパターンに補完的であるパターンの使用は、有益であると思われ得ない。中央領域72のサイズと周辺領域73のサイズとの間の比の変化は、最大のばねの寄与を伴う領域(中央領域)は、全く影響を受けないので、
図5aの補完的でないパターンを使用するときよりもTCFへのより小さい影響を有する。しかしながら、いくつかの材料の組み合わせ(例えば、トリムされるより固い第2の層の材料)については、最適な穴のサイズが、かなりより小さいものであり得、したがって、補完されたプロファイルは、TCFを修正するより良いやり方であり得る。
【0055】
上記実例は、伸長モード(LE、WE、SE)を大部分説明するが、本開示による振動子は、伸長モード以外の他のモード/複数のモードにおいて共振するように構成することもできる。例えば、屈曲モード及びねじれモードは、同様の最適な上層トリミング・ジオメトリを有し、ここで、TCF調整は、周波数調整から切り離すことができる。それは、より高次の(高調波)モードとも関係がある。さらに、上記実例は、振動子素子内の異なる領域の厚みを制御することによって線形TCF及び周波数を調整することを大部分説明するが、周波数(及びTCFも)は、領域のサイズを制御することによって調整することができる。例えば、振動子素子の共振周波数は、(同時に周波数調整領域の厚みを一定に維持しつつ)周波数調整領域の面積を変更することによって調整することができる。
【0056】
本開示によるマイクロメカニカル振動子素子は、様々なやり方で製造することができる。本開示による方法は、振動子素子のベース層構造の表面の上部に材料の第2の層を加えることと、振動子素子の少なくとも2つの領域を形成するために追加の層から物質を除去することとを含むことができる。例えば、レーザ・アブレーションは、トリミング・プロセスに使用することができる。レーザ・アブレーションにおいて、少量の材料が、パターン付け状態で除去することができる。レーザのスポットが直径約1μmであり得るのに対して、振動子の典型的な横寸法は200×200μmとすることができ、したがって、振動子に対して異なるパターンの「ペインティング」が実現可能である。
【0057】
本開示によるレーザ・アブレーション・ベースのトリミングは、例えば、2つの段階を備えることができる。第1の段階では、まず、振動子の初期の周波数について、第1の温度で測定することができる。第1の温度は、例えば、室温(25℃)であり得る。次いで、振動子の温度は、第2の温度まで上昇することができる。第2の温度は、例えば、工業用の範囲(-40..+85℃)内で最高温度(+85℃)であり得る。振動子の線形TCFをトリムするために、レーザ・パルスが、素子の特定の領域内の振動子素子の厚みの一部を蒸発させるために発射され得る。同時に、振動子の現在の周波数は、監視することができる。初期の周波数と現在の周波数の間の差が、予め定められた許容可能な偏移範囲内にあると、第1の段階は完了し、第2の段階が開始される。
【0058】
第2の段階では、周波数補正トリムが実行される。周波数調整領域は、レーザ・パルスによって振動子素子の周辺領域内で形成することができる。例えば、中空のレーザ・ビームは、周辺領域の厚みを修正するために使用することができる。同時に、振動子の周波数は、監視され得る。周波数が予め定められた許容可能な偏移範囲内にあると、第2の段階が完了する。
【0059】
本開示において前述したように、中央領域及び周辺領域の形状及び位置は、TCFが周波数から本質的に切り離されるように選択することができる。したがって、上記2段階のトリミング方法は、シングルパス・プロシージャとして実行することができる。しかしながら、周波数とTCFの両方をそれらの所望の値に正しくさせるために、互いから切り離されている2つの別個のトリミング・ステップがある必要はない。ノンパターンド・トリムは、(振動子周波数も修正しつつ)TCFをその所望の値に調整するのに使用され得る。次いで、本開示によるパターンド周波数調整トリムは、周波数をその目標値に調整するために、TCFに影響を及ぼすことなく実行することができる。しかしながら、(TCFをトリミングする)最初のステップが、周波数調整から切り離されている場合。第2のステップにおける必要な周波数調整は、ずっと低いものであり得る。また、TCF及び周波数調整が互いから切り離されていない場合、第1の段階及び/又は第2の段階の1つ又は複数の反復を実行することが可能である。
【0060】
レーザ・アブレーションを用いるのと同様の結果に、イオン・ビーム・トリミングを用いて到達することができる。上述したものと同様の2段階の手法が、使用されてもよい。パターンド・トリミングは、トリミング・ステップ後に除去され得るマスクを用いて実現することができる。除去される材料に好都合であるとてもよい選択性の差が存在する場合、(イオン・ビーム・トリマを用いた)パターンド・トリムの結果の実現は、標準的なレジストを用いて先のプロセス・ステップで上部材料のパターンニングに基づき得る。
【0061】
ドライ・レジストは、リリースされたデバイス(released device)のパターンニングに使用することができる。これは、例えば、2つの連続したイオン・ビーム・トリミング・ステップが実現されなければならない場合に有用であり得る。
【0062】
犠牲ハード・マスクを、パターンド・トリミングに使用することができる。マスクは、例えば、酸化物であってもよく、この酸化物は、トリミング・ステップ後にHF(Hydrogen Fluoride)(フッ化水素)の蒸気を用いて除去することができる。TCF及び周波数に対する犠牲マスクの影響は、マスク除去の後に、振動子の特性がそれらの目標値に到達するように、正確にモデル化されなければならない可能性がある。ALD(Atomic Layer Deposition)(原子層堆積)ベースのとても均一なコーティングが、この要求を満たすために使用され得る。
【0063】
イオン・ビーム・トリミング中に異なる選択性を有する複数種類の上部電極材料の組み合わせが、マスクの必要性が減じられたパターンド・トリミングを実現するために使用されてもよい。トリミング選択性に影響を及ぼす周囲ガスは、連続したトリミング・ステップのために変更されてもよく、これによりパターンド・トリミングの実現を助けることができる。
【0064】
反応性イオン・ビーム・トリミング、すなわち、フッ素又は酸素などの反応性ガスを使用するトリミングは、トリミングに使用することができる。そのようなガスは、マスク層にわたってとても高い選択性で金属電極をトリムすることができる。これは、とても薄いマスク層の使用を可能にする。例えば、マスク層は、ALD又はPECVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)(プラズマ化学気相成長法)層であり得る。マスクが十分に薄い(数nm)とき、それは、所定の場所に残りさえもし得る。
【0065】
イオン・ビーム・トリミングの場合、トリミング・プロセスは、レーザ・アブレーションを用いるよりも(成分ごとに)より速くなり得る。ウェハ上の振動子デバイスは、個々にトリム可能でなくてもよく、共振周波数のその場測定は、困難であり得る。しかしながら、デバイスは、空間相関を有すると仮定され得る。言い換えれば、デバイスの特性は、ウェハ上の近くのデバイスの特性と相関関係にあると仮定され得る。したがって、各デバイスを個々にトリミングすることは、必要ではない可能性がある。
【0066】
上記実施例は、本開示による振動子素子を実施するために、レーザ・アブレーション又はイオン・ビーム・トリミングの使用を説明しているが、他の方法を使用することもできる。材料の制御された除去に関する何らかのやり方が、潜在的に利用できる。
【0067】
いくつかの実施例では、TCFトリムは、必要とされない可能性があり(又は可能でない可能性があり)、振動子周波数だけが、最後の製造ステップとして補正される必要がある。例えば、振動子は、静電容量型振動子(ケイ素だけで作製された振動子)であり得る。そのような場合には、振動子素子の周辺領域内の周波数アジャストメント領域は、振動子素子のベース層構造に直接形成することができる。
図8は、ベース層だけを備える振動子素子の例示的な断面を示す。
図8では、周波数アジャストメント領域82は、振動子素子のベース層構造81に形成されている。
【0068】
周波数は、(金などの)重い材料を成長及びパターン付けすることによってトリムすることもでき、それによってそれは、振動子の周辺の近くのみに留まる。
図9は、本開示による振動子の例示的な実施例の断面を示す。
図9では、振動子素子のベース層構造91は、振動子素子の周辺領域で金92を用いてパターン付けされる。材料除去がイオン・ビーム・トリマを用いてなされる場合、振動子周辺における重い材料の選択性は、他の材料のものよりもずっと大きいものであり得、したがって、振動子のTCFは、それほど影響を受けず、周波数変化の所望の効果に到達する。この手法の利益は、トリミング自体の前により早いプロセス・ステップにおいて、トリミング・ステップの「有効なパターンニング」が、上層(金)をパターン付けすることによって達成されることである。これは、標準的なリソグラフィーを用いてなされ得る。この手法によって、リリースされたデバイスのパターンニングに関連し得る複雑さを回避することができる。
【0069】
さらに、材料除去、材料の制御された付加の補完が、本開示によるトリミングを実現するために使用されてもよい。例えば、パターンド不活性化マスク層は、選択的材料付加の可能性をもたらす。例えば周波数調整トリム・マスク層でパターン付けされたモリブデン電極は、金属を構成部品縁部でさらされたままにする。穏和な酸化又は窒化の状態にさらされることによって、これらのさらされたエリアで層を成長させ、質量加重を増大させる。
【0070】
上記実例では、少なくとも2つの領域間の縁部は、鋭く且つ明確である。これは、要求されず、縁部は滑らかであることができ、結果として得られる断面プロファイルは連続的であり得る。
【0071】
さらに、上記実例の大部分において、上層材料は、Si(又はSi/AlN化合物)よりも柔らかいモリブデンであると仮定されている。しかしながら、上部材料は、より柔らかい必要はなく、それは、より固いこともできる。
【0072】
静電結合された(Siのみの)振動子について、TCF同調性を得るために振動子素子のベース層構造の上部に(弱くドープされた)ポリシリコンの第2の層を成長させることは有益であり得(ポリシリコンが、弱くドープされ得る)、したがって、そのTCFは、-30ppm/℃近くであり得る。ベース層構造は、重くドープされたケイ素で作製された第1の層の形態とすることができ、及びそのTCFは、例えば、+5から+20ppm/℃であり得る。本開示による振動子素子の第1の層及び第2の層は、モノリシック構造を形成することもできる。第1の層及び第2の層は、異なるようにドープされた区別でき、反対符号の線形TCF値を有する単結晶層の形態であり得る。
【0073】
本開示による方法は、マイクロメカニカル振動子の周波数及び線形TCFの幅広い調整を可能にする。例えば、例えば、振動子周波数の偏移を+/-3000ppmの範囲内で、及び/又は線形TCFの偏移を+/-0.5ppm程度で補正することが可能である。本開示による方法の場合、例えば、複数のマイクロメカニカル振動子(又はマイクロメカニカル振動子のための振動子素子)を含むウェハを形成することが可能である。マイクロメカニカル振動子は、本開示による少なくとも1つのマイクロメカニカル振動子を備えることができる。マイクロメカニカル振動子の少なくとも1つの振動子素子内の領域の少なくとも1つの厚みは、別のマイクロメカニカル振動子内の対応する領域の厚みとは異なっていてもよく、それによって領域の厚みは、それらが本質的に同じ周波数、及び/又は本質的に同じ線形TCFを生成するようなものである。例えば、マイクロメカニカル振動子の結果として得られる周波数は、+/-100ppmの範囲内であり、及び/又はマイクロメカニカル振動子の線形TCFは、0.1ppm/℃の範囲内であり得る。
【0074】
理想的ではない状態を製造することにより引き起こされる偏移が、本開示による方法の1つ又は複数の態様を用いることで補正されるとき、結果として得られる振動子(又は振動子素子)は、それらのパターン付き領域について様々な寸法を有することができる。
図10aから
図10dは、本開示による振動子素子の複数の例示的な断面を示す。
図10a及び
図10bは、振動子素子の線形TCFと共振周波数の両方が トリムされていることを示す。
図10a及び
図10bの振動子素子は両方とも、異なる厚みを有する中央領域102及び周辺領域103を有する。さらに、周辺領域103は、振動子素子の最外側の周辺でより小さい周波数調整領域104を備える。
図10cは、そのTCFだけがトリムされている振動子素子を示す。周辺領域103は、周波数調整領域を示さない。
図10dは、その周波数だけがトリムされている振動子素子を示す。中央領域102及び周辺領域103は同じ厚みを有し、単に小さい周波数調整領域104は、周辺領域103内に存在する。断面は異なるが、振動子素子は、本開示によるTCF及び/又は周波数のトリミングが使用されているので、同じ特性を全てが有し得る。
【0075】
本開示による方法を用いてトリムされた振動子は、上から見たときにはっきりと見分けられる外観を有し得る。
図11aから
図11dは、本開示による振動子の例示的な簡単化された上面図を示す。
図11aから
図11dに示すように、振動子の振動子素子は、異なるサイズ(例えば、異なる形状/面積/厚み)の周辺領域113を備えることができる。周辺領域113は、周波数調整領域114を有しても、有さなくてもよい。存在する場合、周波数調整領域113のサイズは変更されてもよい。さらに、振動子素子の中央領域14のサイズ(例えば、異なる形状/面積/厚み)が変化することもできる。
【0076】
本発明の概念が様々なやり方で実施できることは当業者に明らかであろう。本発明及びその実施例は、上記の実例に限定されず、特許請求の範囲内で変更可能である。